説明

イムノバインダーの溶解性の最適化

本発明は、イムノバインダー、特に、単鎖抗体(scFv)の溶解性を改善するための、配列ベースの分析および合理的な戦略を使用する方法を提供する。本発明は、選択された安定なscFv配列のデータベースの分析により同定した親水性残基による1つまたは複数の置換を実施することによって、イムノバインダー、特に、scFvを遺伝子工学的に操作する方法を提供する。また、本発明は、本発明の遺伝子工学的操作方法に従って調製した、最適化された溶解性を示すイムノバインダーも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
この出願は、2008年6月25日に出願されたUS61/075,692、名称「Solubility Optimization of Immunobinders」の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
抗体は、がん、自己免疫疾患およびその他の障害の処置において非常に有効かつ良好な治療剤であることが証明されている。典型的には完全長の抗体が臨床的に使用されているが、抗体断片の使用によってもたらすことができる多数の利点があり、それらは、組織浸透の増加、Fcエフェクター機能を欠くためその他のエフェクター機能を付加することが可能であること、および全身性のより短いインビボ半減期の結果として全身性副作用が低減する可能性などである。抗体断片の薬物動態特性から、それらが局所治療的アプローチに特によく適している場合があることが示されている。さらに、抗体断片は、特定の発現系においては完全長の抗体よりも容易に産生することができる。
【0003】
1つの型の抗体断片が、単鎖抗体(scFv)であり、これは、リンカー配列を介して軽鎖可変ドメイン(V)に結合体化させられた重鎖可変ドメイン(V)から構成される。したがって、scFvは、抗体の定常領域ドメインすべてを欠き、元々の可変ドメイン/定常ドメインの界面のアミノ酸残基(界面残基)が溶媒に対して露出された状態となる。scFvを、完全長の抗体(例えば、IgG分子)から、確立された組換え工学の技法によって調製することができる。しかし、完全長の抗体の、scFvへの変換によって、しばしば、このタンパク質の安定性および溶解性が損なわれ、産生収率が低下し、凝集の傾向が高まる。凝集によって、免疫原性のリスクが生じる。
【0004】
したがって、scFvの溶解性等の特性を改善するための試みがなされている。例えば、Nieba, Lら(非特許文献1)は、界面残基であることが公知である3つのアミノ酸残基を選択し、それらを変異させた。彼らは、変異scFvの細菌ペリプラズムにおける発現が増加し、熱誘導性凝集の割合が減少することを観察したが、熱力学的安定性および溶解性は顕著には変化しなかった。さらに、彼らの文献中では、PEG沈殿法により決定した場合、遺伝子工学的に操作したscFvの未変性タンパク質状態の溶解性の改善を何ら観察しなかったことが明示的に記載されている。また、部位特異的変異誘発を、scFv内部の特定のアミノ酸残基に対して実施したその他の研究も報告されている(例えば、非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4を参照されたい)。これらの種々の研究においては、変異誘発のために選択されるアミノ酸残基は、(例えば、分子モデリング研究からの)scFv構造内部のそれらの公知の位置に基づいて選ばれた。
【0005】
別のアプローチにおいては、非常に不十分にしか発現しないscFv由来の相補性決定領域(CDR)が、有利な特性を有することが実証されているscFvのフレームワーク領域内に融合させられた(非特許文献5)。得られたscFvは、可溶性発現および熱力学的安定性の改善を示した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nieba, Lら、Prot. Eng.(1997年)10巻:435〜444頁
【非特許文献2】Tan, P.H.ら、Biophys. J.(1988年)75巻:1473〜1482頁
【非特許文献3】Worn, A.およびPluckthun, A.、Biochem.(1998年)37巻:13120〜13127頁
【非特許文献4】Worn, A.およびPluckthun, A.、Biochem.(1999年)38巻:8739〜8750頁
【非特許文献5】Jung, S.およびPluckthun, A.、Prot. Eng.(1997年)10巻:959〜966頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
溶解性およびその他の機能特性を改善するための、scFvの遺伝子工学的操作における進展が、例えば、Worn, A.およびPluckthun, A.(2001年)J. Mol. Biol.305巻:989〜1010頁に総説されている。しかし、イムノバインダー(immunobinder)、特に、優れた溶解性を示すscFvの合理的な設計を可能にする新しいアプローチが依然として求められている。さらに、scFvおよびその他の型の抗体を遺伝子工学的に操作し、それによって、溶解性、特に、未変性タンパク質の溶解性の改善をもたらす方法が依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の概要)
本発明は、可変重鎖領域VH中に溶解性増強モチーフを含むイムノバインダー、およびscFv抗体等のイムノバインダーを遺伝子工学的に操作して、溶解性の改善をもたらす方法を提供する。特定の実施形態では、本発明の方法は、イムノバインダーの可変重鎖領域および/または可変軽鎖領域の配列内部の、溶解性について潜在的に問題のあるアミノ酸を、溶解性の改善をもたらす好ましいアミノ酸残基で置換することを含む。例えば、特定の好ましい実施形態では、疎水性残基を、親水性残基で置換する。
【0009】
好ましくは、提供するイムノバインダー、すなわち、本発明において使用するイムノバインダーまたは本発明の遺伝子工学的に操作する方法によって産生するイムノバインダーは、scFvであるが、その他のイムノバインダー、例として、完全長の免疫グロブリン、Fab断片、単一ドメイン抗体(例えば、Dab)およびナノボディも、この方法に従って遺伝子工学的に操作することができる。また、本発明は、この遺伝子工学的に操作する方法に従って調製したイムノバインダー、ならびにこれらのイムノバインダーおよび薬学的に許容できる担体を含む組成物も包含する。
【0010】
1つの態様では、本発明は、重鎖アミノ酸位置12、103および144(AHoナンバリング)における以下の溶解性増強モチーフのうちの1つを含むイムノバインダーを提供する:
(a)重鎖アミノ酸位置12におけるセリン(S);
(b)重鎖アミノ酸位置103におけるセリン(S);および
(c)重鎖アミノ酸位置144におけるスレオニン(T);または
(a1)重鎖アミノ酸位置12におけるセリン(S);
(b1)重鎖アミノ酸位置103におけるスレオニン(T);および
(c1)重鎖アミノ酸位置144におけるセリン(S);または
(a2)重鎖アミノ酸位置12におけるセリン(S);
(b2)重鎖アミノ酸位置103におけるスレオニン(T);および
(c2)重鎖アミノ酸位置144におけるスレオニン(T);または
(a3)重鎖アミノ酸位置12におけるセリン(S);
(b3)重鎖アミノ酸位置103におけるセリン(S);および
(c3)重鎖アミノ酸位置144におけるセリン(S)。
【0011】
別の態様では、本発明は、イムノバインダーを遺伝子工学的に操作する方法を提供し、このイムノバインダーは、(i)Vフレームワーク残基を含む重鎖可変領域、もしくはその断片、および/または(ii)Vフレームワーク残基を含む軽鎖可変領域、もしくはその断片を含み、この方法は、
A)変異のために、Vフレームワーク残基、Vフレームワーク残基、またはVおよびVのフレームワーク残基の内部の少なくとも2つのアミノ酸位置を選択する工程と、
B)変異のために選択された少なくとも2つのアミノ酸位置を変異させる工程と
を含み、
変異のために選択された少なくとも2つのアミノ酸位置が、Vフレームワーク残基の内部にある場合には、置換は、12、103および144(AHoナンバリング法による)からなる群より選択される1つまたは複数の重鎖アミノ酸位置においてであり、および/または、
変異のために選択された1つまたは複数のアミノ酸位置が、Vフレームワーク残基の内部にある場合には、置換は、15、52および147(AHoナンバリング法による;Kabatナンバリングを使用すると、アミノ酸位置15、44および106)からなる群より選択される軽鎖アミノ酸位置においてである。
【0012】
変異のために選択された少なくとも2つのアミノ酸位置、および(1つまたは複数の)選択された場所において挿入された(1つまたは複数の)アミノ酸残基については、以下にさらに詳細に記載する。以下に記載するアミノ酸位置のナンバリングは、AHoナンバリングシステムを使用し、Kabatナンバリングシステムを使用する場合の対応する位置を本明細書においてさらに記載し、AHoナンバリングシステムおよびKabatナンバリングシステムについての変換表を、以下の詳細な説明において記載する。アミノ酸残基は、標準的な一文字略語コードを使用して記載する。
【0013】
驚くべきことに、表示する位置における、表示する変異の存在によって、イムノバインダーの全般的な溶解性は増加するが、このタンパク質のその他の機能特性に対する負の影響はないことを見出すに至った。例えば、scFvのVHにおいて、3つの溶解性増強変異V12S、L144SおよびV103Tを組み合わせた場合には、前記置換がscFvの溶解性全体の約60%に関与することを見出した。このことは、イムノバインダーの発現収率を増加させるための先行技術に記載されている試みとは異なる。例えば、US6,815,540は、イムノバインダーの、鎖内ドメイン間の界面領域における疎水性を減少させることによる改変を記載している。前記目的では、10個のアミノ酸の群から選択された1つまたは複数のアミノ酸で個々に置換され得る、可変重鎖フレームワーク中の16個の位置が同定された。生じた変異体の発現収率が増加することが見出された。さらに、同じ研究グループによって、1999年、すなわち、言及した米国特許の優先日の3年後には、疎水性の表面残基を、より親水性の残基で置き換えることが、産生収率を改善するためのいくつかの研究において報告されていることを記載する論文(Jung, S.、Honegger, A. およびPluckthun, A.(1997年)Prot. Eng.10巻:959〜966頁を参照されたい)が公開された。これらの著者によれば、産生収率の増加は、正確なフォールディングとミスフォールディングされた物質の凝集との間の動態学的な配分の改善に起因し、一方、未変性タンパク質の溶解性は全く影響を受けず、その熱力学的安定性は顕著な様式では影響を受けない。したがって、Plueckthunらが言及する溶解性パラメータは、可溶性発現のみに関係し、未変性タンパク質の全般的な溶解性には関係しないことが当業者には明らかである。
【0014】
以下の詳細な説明を考慮することによって、本発明がより良好に理解され、上記以外の対象が明らかになる。そのような説明に際しては、付属の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、野生型ESBA105(E105)およびその溶解性改変体についての、PEG沈殿法による溶解度曲線を示すグラフである。
【図2】図2は、広い範囲の温度(25〜96℃)の熱チャレンジ(thermochallenge)後に測定した野生型ESBA105(E105)およびその溶解性改変体の熱変性プロファイルを示すグラフである。
【図3】図3は、熱ストレス条件下における2週間のインキュベーション後の種々のESBA105溶解性変異体の分解挙動を示すSDS−PAGEゲルである。
【図4】図4は、FTIR分析によって決定したEP43maxおよびその最適化改変体の熱変性曲線を示すグラフである。
【図5】図5は、FT−IRによって測定した578min−maxおよび578min−max_DHPの熱安定性を示すグラフである。
【図6a】図6aおよび6bは、硫酸アンモニウム沈殿法により決定した578min−maxおよび578min−max_DHPの溶解性を示すグラフである。
【図6b】図6aおよび6bは、硫酸アンモニウム沈殿法により決定した578min−maxおよび578min−max_DHPの溶解性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(発明の詳細な記述)
本発明は、イムノバインダーの溶解性を増強するための方法に関する。より具体的には、本発明は、イムノバインダーの溶解性を改善するアミノ酸の置換をイムノバインダー内部に導入することによって、イムノバインダーを最適化するための方法を開示する。また、本発明は、本発明の方法に従って遺伝子工学的に操作したイムノバインダー、例えば、scFvにも関する。
【0017】
本発明をより容易に理解することができるように、特定の用語を最初に定義する。別段の定義がない限り、本明細書で使用するすべての科学技術用語は、本発明が属する分野の一般的な業者が通常理解する意味と同じ意味を有する。本明細書に記載するものに類似のまたはそれらと同等な方法および材料を、本発明を実施または試験する際に使用することができるが、適切な方法および材料を以下に記載する。本明細書において言及する刊行物、特許出願、特許およびその他の参考文献はすべて、それらの全体が参照により援用される。対立が生じた場合には、定義を含めた、本明細書が優先する。さらに、材料、方法および実施例は、例証のために限られ、本発明を限定するものではない。
【0018】
本明細書で使用する場合、「抗体」という用語は、「免疫グロブリン」の同義語である。本発明による抗体は、免疫グロブリン全体であってもよく、または免疫グロブリンの少なくとも1つの可変ドメインを含むそれらの断片、例として、単一の可変ドメイン、Fv(Skerra A.およびPluckthun, A.(1988年)Science 240巻:1038〜41頁)、scFv(Bird, R.E. ら(1988年)Science 242巻:423〜26頁;Huston, J.S.ら(1988年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85巻:5879〜83頁)、Fab、(Fab’)2、もしくは当業者に周知のその他の断片であってもよい。
【0019】
本明細書で使用する場合、「抗体のフレームワーク」または「フレームワーク」という用語は、可変ドメインVLまたはVHのいずれかの一部を指し、これは、この可変ドメインの抗原結合ループのための骨格として働く(Kabat, E.A.ら(1991年)Sequences of proteins of immunological interest、NIH Publication 91〜3242頁)。
【0020】
本明細書で使用する場合、「抗体のCDR」または「CDR」という用語は、Kabat, E.A.ら(1991年)Sequences of proteins of immunological interest、NIH Publication 91〜3242頁によって定義される抗原結合ループからなる抗体の相補性決定領域を指す。抗体のFv断片の2つの可変ドメインのそれぞれが、例えば、3つのCDRを含有する。
【0021】
「単鎖抗体」または「scFv」という用語は、リンカーによって接続されている抗体の重鎖可変領域(V)および抗体の軽鎖可変領域(V)を含む分子を指す。そのようなscFv分子は、一般的な構造:NH−V−リンカー−V−COOHまたはNH−V−リンカー−V−COOHを有し得る。
【0022】
本明細書で使用する場合、「同一性」は、2つのポリペプチドもしくは2つの分子の間、または2つの核酸間の配列の一致を指す。これら2つの比較される配列の両方のある位置が、同じ塩基またはアミノ酸の単量体サブユニットで占められている場合(例えば、これら2つのDNA分子のそれぞれのある位置がアデニンで占められている場合、または2つのポリペプチドのそれぞれのある位置がリジンで占められている場合)には、それぞれの分子は、その位置において同一である。2つの配列間の「パーセント同一性」は、これら2つの配列が共有する一致位置(matching position)の数を、比較した位置の数で割り、100を乗じた関数である。例えば、2つの配列の位置10個のうち6つが一致する場合には、これら2つの配列は、60%の同一性を有する。例として、DNA配列CTGACTとCAGGTTとは、50%の同一性を共有する(6つの全位置のうち3つが一致する)。一般に、最大の同一性が得られるように2つの配列を整列させて比較を行う。例えば、Alignプログラム(DNAstar,Inc.)等のコンピュータプログラムによって好都合に実行される、Needlemanら(1970年)J. Mol. Biol.48巻:443〜453頁の方法を使用して、そのような整列を得ることができる。
【0023】
「類似」配列は、整列させた場合、同一および類似のアミノ酸残基を共有する配列であり、類似の残基は、整列させた参照配列中の対応するアミノ酸残基についての保存的置換である。この点に関して、参照配列中の残基の「保存的置換」は、対応する参照残基に物理的または機能的に類似する残基、例えば、サイズ、形状、電荷、共有結合または水素結合を形成する能力を含めた化学特性等が類似する残基による置換である。したがって、「保存的置換により改変された」配列は、参照配列または野生型配列と、1つまたは複数の保存的置換が存在する点で異なる配列である。2つの配列間の「パーセント類似性」は、これら2つの配列が共有する一致残基または保存的置換を含有する位置の数を、比較した位置の数で割り、因数100を乗じた関数である。例えば、2つの配列の位置10個のうち6つが一致し、10個の位置のうち2つが保存的置換を含有する場合には、これら2つの配列は、80%の類似性を示す。
【0024】
本明細書で使用する場合、「アミノ酸のコンセンサス配列」は、少なくとも2つ、好ましくは3つ以上の整列させたアミノ酸配列のマトリックスを使用し、各位置において最も頻出するアミノ酸残基を決定することができるようにこのアラインメントにおけるギャップを可能にして、生成することができるアミノ酸配列を指す。このコンセンサス配列は、各位置において最も頻繁に表れるアミノ酸を含む配列である。単一の位置において、2つ以上のアミノ酸が等しく表れる場合には、このコンセンサス配列は、それらのアミノ酸の両方またはすべてを含む。
【0025】
タンパク質のアミノ酸配列を、種々のレベルで分析することができる。例えば、保存または変動を、単一残基のレベル、複数残基のレベル、ギャップを有する複数残基のレベル等で示すことができる。残基は、同一の残基の保存を示す場合もあり、またはクラスレベルで保存されている場合もある。アミノ酸のクラスの例として、極性無電荷の側鎖またはR群を有するアミノ酸のクラス(セリン、スレオニン、アスパラギンおよびグルタミン);正電荷R群を有するアミノ酸のクラス(リジン、アルギニンおよびヒスチジン);負電荷R群を有するアミノ酸のクラス(グルタミン酸およびアスパラギン酸);疎水性R群を有するアミノ酸のクラス(アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、バリンおよびチロシン);ならびに特殊なアミノ酸のクラス(システイン、グリシンおよびプロリン)が挙げられる。その他のクラスが当業者には公知であり、それらは、構造決定、または置換可能性を評価するためのその他のデータを使用して定義することができる。その意味では、置換可能なアミノ酸は、その位置において置換し、機能の保存を維持することができる任意のアミノ酸を指すことができる。
【0026】
しかし、同じクラスのアミノ酸が、それらの生物物理学的特性によってある程度異なる場合があることが認識される。例えば、特定の疎水性R群(例えば、アラニン、セリンまたはスレオニン)は、その他の疎水性R群(例えば、バリンまたはロイシン)よりも親水性である(すなわち、親水性が高いかまたは疎水性が低い)であることが認識される。相対的な親水性または疎水性は、当該分野で認識されている方法を使用して決定することができる(例えば、Roseら、Science, 229巻:834〜838頁(1985年)、およびCornetteら、J. Mol. Biol.、195巻:659〜685頁(1987年)を参照されたい)。
【0027】
本明細書で使用する場合、1つのアミノ酸配列(例えば、第1のV配列またはV配列)を、1つまたは複数の追加のアミノ酸配列(例えば、データベース中の1つまたは複数のVH配列またはVL配列)と整列させた場合、1つの配列(例えば、第1のV配列またはV配列)中のあるアミノ酸位置を、1つまたは複数の追加のアミノ酸配列中の「対応する位置」と比較することができる。本明細書で使用する場合、この「対応する位置」は、配列を最適に整列させた場合、すなわち、配列を、最も高いパーセント同一性またはパーセント類似性を達成するように整列させた場合に、(1つまたは複数の)比較される配列中の同等な位置を示す。
【0028】
本明細書で使用する場合、「抗体データベース」という用語は、2つ以上の抗体のアミノ酸配列(「複数の」配列)のコレクションを指し、典型的には、数十、数百または数千個もの抗体のアミノ酸配列のコレクションを指す。抗体のデータベースは、例えば、抗体のV領域、抗体のV領域もしくは両方のコレクションのアミノ酸配列を保存してもよく、またはV領域およびV領域から構成されるscFv配列のコレクションを保存してもよい。好ましくは、このデータベースは、検索可能な固定媒体、例として、コンピュータ上で、検索可能なコンピュータプログラム内に保存する。1つの実施形態では、この抗体データベースは、生殖系列の抗体の配列を含むかまたはそれらからなるデータベースである。別の実施形態では、この抗体データベースは、成熟した(すなわち、発現した)抗体の配列(例えば、成熟した抗体の配列のKabatのデータベース、例えば、KBDデータベース)を含むかまたはそれらからなるデータベースである。さらに別の実施形態では、この抗体データベースは、機能により選択された配列(例えば、QCアッセイから選択された配列)を含むかまたはそれらからなる。
【0029】
「イムノバインダー」という用語は、抗体の抗原結合部位の全部または一部、例えば、重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変ドメインの全部または一部を含有する分子を指し、したがって、イムノバインダーは、標的抗原を特異的に認識する。イムノバインダーの非限定的な例として、完全長の免疫グロブリン分子およびscFv、さらに、これらに限定されないが、(i)Fab断片、すなわち、Vドメイン、Vドメイン、CドメインおよびC1ドメインからなる一価の断片;(ii)F(ab’)断片、すなわち、ヒンジ領域においてジスルフィド架橋によって連結されている2つのFab断片を含む二価の断片;(iii)本質的には、ヒンジ領域の一部を有するFabであるFab’断片(FUNDAMENTAL IMMUNOLOGY(Paul編、第3版、1993年)を参照されたい);(iv)VドメインおよびC1ドメインからなるFd断片;(v)抗体の単腕(single arm)のVドメインおよびVドメインを含むFv断片;(vi)VドメインまたはVドメインからなるDab断片(Wardら、(1989年)Nature 341巻:544〜546頁)、ラクダ抗体(Hamers−Castermanら、Nature 363巻:446〜448頁(1993年)、およびDumoulinら、Protein Science 11巻:500〜515頁(2002年)を参照されたい)、またはサメ抗体(例えば、サメIg−NAR Nanobody(登録商標))等の単一ドメイン抗体;ならびに(vii)単一の可変ドメインを含有する重鎖可変領域および2つの定常ドメインであるナノボディを含めた、抗体断片が挙げられる。
【0030】
本明細書で使用する場合、「機能特性」という用語は、例えば、ポリペプチドの製造上の特性または治療有効性を改善するために、当業者にとって、(例えば、従来のポリペプチドと比べた)改善が望ましくかつ/または好都合であるポリペプチド(例えば、イムノバインダー)の特性である。1つの実施形態では、この機能特性は、安定性(例えば、熱安定性)である。別の実施形態では、この機能特性は、(例えば、細胞性条件下における)溶解性である。さらに別の実施形態では、この機能特性は、凝集挙動である。さらに別の実施形態では、この機能特性は、(例えば、原核生物細胞中における)タンパク質発現である。さらに別の実施形態では、この機能特性は、対応する精製プロセスにおける封入体の可溶化後のリフォールディングの効率である。特定の実施形態では、抗原結合親和性は、改善が望まれる機能特性ではない。さらに別の実施形態では、機能特性の改善には、抗原結合親和性の実質的な変化は関与しない。
【0031】
本明細書で使用する場合、「溶解性」という用語は、未変性タンパク質、すなわち、単量体であり、非凝集状態かつ機能性であるイムノバインダーの溶解性を指す。「溶解性の増強」は、この未変性タンパク質の溶解性の改善を意味し、これは、好ましくは、以下の方法のうちの少なくとも1つによって決定する:PEG沈殿法、硫酸アンモニウム沈殿法、リフォールディングの収率、または当業者に公知である溶解性を決定するための任意のその他の方法。PEG沈殿による方法は、Athaら、「Mechanism of Precipitation of Proteins by Polyethylene Glycols」、JBC、256巻:12108〜12117頁(1981年)の記載に倣う方法である。硫酸アンモニウム沈殿法は、例えば、以下に従って実施することができる:10μlのアリコートの20mg/mlタンパク質溶液を調製し、それらのそれぞれに、異なる飽和度(例えば、35%、33%、31%、29%、25%、20%および15%)の(NHSO溶液10μlを添加し、それに続いて、5秒間ボルテックスし、室温で、30分間インキュベーションする。6000rpm、4℃で30分間遠心分離した後、上清中のタンパク質濃度を決定する。この方法では、異なるタンパク質の比較対象は、V50値であり、これは、50%パーセントのタンパク質が沈殿する(NHSOの飽和パーセントである。V50は、適用した(NHSO飽和パーセントに対する、決定した上清中の可溶性タンパク質のプロットから決定する。リフォールディングの収率は、対応する製造/精製の過程において可溶化した封入体から得た正しく折り畳まれたタンパク質のパーセントに対応する。本明細書で使用する場合、溶解性という用語は、可溶性発現は指さない。
【0032】
(溶解性の改善を示すイムノバインダー)
第1の態様では、重鎖アミノ酸位置12、103および144(AHoナンバリング)において以下の溶解性増強モチーフのうちの1つを含むイムノバインダーを提供する:
(a)重鎖アミノ酸位置12におけるセリン(S);
(b)重鎖アミノ酸位置103におけるセリン(S);および
(c)重鎖アミノ酸位置144におけるスレオニン(T);または
(a1)重鎖アミノ酸位置12におけるセリン(S);
(b1)重鎖アミノ酸位置103におけるスレオニン(T);および
(c1)重鎖アミノ酸位置144におけるセリン(S);または
(a2)重鎖アミノ酸位置12におけるセリン(S);
(b2)重鎖アミノ酸位置103におけるスレオニン(T);および
(c2)重鎖アミノ酸位置144におけるスレオニン(T);または
(a3)重鎖アミノ酸位置12におけるセリン(S);
(b3)重鎖アミノ酸位置103におけるセリン(S);および
(c3)重鎖アミノ酸位置144におけるセリン(S)。
【0033】
驚くべきことに、表示する位置における表示するアミノ酸の存在によって、イムノバインダー全体の全般的な溶解性が増加することを見出すに至った。例えば、scFvのVHにおいて、3つの溶解性増強変異V12S、L144SおよびV103Tを組み合わせた場合には、前記置換がscFvの溶解性全体の約60%に関与することを見出した。疎水性パッチが、すべてのイムノバインダーの可変ドメイン中で保存されているので、表示する位置における1つまたは複数の置換を使用して、任意のイムノバインダーの溶解性を改善することができる。
【0034】
このイムノバインダーは、好ましくは、scFv抗体、完全長の免疫グロブリン、Fab断片、Dabまたはナノボディである。
【0035】
好ましい実施形態では、このイムノバインダーは、(a)軽鎖アミノ酸位置31におけるアスパラギン酸(D)、(b)軽鎖アミノ酸位置83におけるグルタミン酸(E)、(c)重鎖アミノ酸位置43におけるアルギニン(R)、(d)重鎖アミノ酸位置67におけるロイシン(L)、および(e)重鎖アミノ酸位置78におけるアラニン(A)からなる群のうちの1つまたは複数のアミノ酸をさらに含む。対応する位置における表示するアミノ酸のうちの1つまたは複数の存在によって、イムノバインダーの安定性の増強がもたらされる。
【0036】
本明細書に表示するアミノ酸は、天然に存在するイムノバインダーもしくはその誘導体中に存在してもよく、またはイムノバインダーを、遺伝子工学的に操作して、上記のアミノ酸のうちの1つまたは複数を組み込んでもよい。
【0037】
好ましい実施形態では、本明細書に開示するイムノバインダーは、ヒトTNFαまたはヒトVEGFに特異的に結合する。
【0038】
(溶解性の改善を示すイムノバインダーの遺伝子工学的操作)
実施例において詳細に記載するように、本明細書に記載する配列に基づくアプローチを使用して、溶解性の改善をもたらす特定のアミノ酸残基の置換を首尾よく同定するに至った。これらの実施例は、イムノバインダー(例えば、scFv)のVH領域内部および場合によりVL領域中の定義したアミノ酸位置における例示的かつ好ましいアミノ酸の置換を列挙する。例示的な置換(より親水性であり、データベース(例えば、成熟した抗体(KDB)のデータベース)において高い頻度で現れる置換)は、アミノ酸位置における問題のあるアミノ酸残基(例えば、溶媒に露出した疎水性残基)の置換を含む。特に好ましい置換は、問題のある残基よりも親水性であって、最も頻繁に存在する残基である。その他の実施形態では、より親水性のアミノ酸を、アラニン(A)、セリン(S)およびスレオニン(T)からなる群より選択する。
【0039】
したがって、本発明は、1つまたは複数の特定したアミノ酸の置換を、scFv抗体等のイムノバインダー内に導入する遺伝子工学的操作方法を提供する。そのような置換は、標準的な分子生物学的方法、例として、部位特異的変異誘発、PCR媒介型変異誘発等を使用して実施することができる。
【0040】
実施例に記載するように、以下のアミノ酸位置を、表示するV配列またはV配列において、改変するための問題があるアミノ酸(すなわち、いわゆる「疎水性パッチ」)として同定するに至った:
:アミノ酸位置2、4、5、12、103および144;ならびに
:アミノ酸位置、15、52および147。
【0041】
使用したナンバリングは、AHoナンバリングシステムであり、AHoナンバリングをKabatシステムのナンバリングに変換するための変換表を、表1および2に記載する。
【0042】
驚くべきことに、VHの位置12、103、144(AHoナンバリングシステムによる)のうちの2つ以上における置換によって、イムノバインダー全体の全般的な溶解性が影響を受けることを見出すに至った。疎水性パッチは、すべてのイムノバインダーの可変ドメイン中で保存されているので、表示する位置における少なくとも2つの置換を使用して、任意のイムノバインダーの溶解性を改善することができる。
【0043】
1つの実施形態では、本発明は、scFv抗体等のイムノバインダーを遺伝子工学的に操作する方法を提供し、ここでは、少なくとも2つのアミノ酸の置換を、上記で同定した1つまたは複数のアミノ酸位置において行い、それによって、イムノバインダーの改変(すなわち、変異)形態を産生する。
【0044】
したがって、別の態様では、本発明は、イムノバインダーを遺伝子工学的に操作する方法を提供し、この方法は、
A)変異のために、V領域、V領域、またはV領域およびV領域の内部の少なくとも2つのアミノ酸位置を選択する工程と、
B)変異のために選択された少なくとも2つのアミノ酸位置を変異させる工程と
を含み、変異のために選択された少なくとも2つのアミノ酸位置が、V領域の内部にある場合には、置換は、12、103および144(AHoナンバリング法による;Kabatナンバリングを使用すると、アミノ酸位置11、89および108)からなる群より選択される少なくとも2つの重鎖アミノ酸位置においてであり、および/または
変異のために選択された1つまたは複数のアミノ酸位置が、V領域の内部にある場合には、置換は、15、52および147(AHoナンバリング法による;Kabatナンバリングを使用すると、アミノ酸位置15、44および106)からなる群より選択される軽鎖アミノ酸位置においてである。
【0045】
特定の実施形態では、このアミノ酸位置は、疎水性アミノ酸(例えば、ロイシン(L)またはバリン(V))で占められている。1つの実施形態では、重鎖アミノ酸位置12におけるアミノ酸は、バリン(V)である。別の実施形態では、重鎖アミノ酸位置103におけるアミノ酸は、バリン(V)である。別の実施形態では、重鎖アミノ酸位置144におけるアミノ酸は、ロイシン(L)である。別の実施形態では、軽鎖アミノ酸位置15におけるアミノ酸は、バリン(V)である。別の実施形態では、軽鎖アミノ酸位置52におけるアミノ酸は、フェニルアラニン(F)である。別の実施形態では、軽鎖アミノ酸位置147におけるアミノ酸は、バリン(V)である。
【0046】
好ましくは、この変異工程は、選択されたアミノ酸位置におけるアミノ酸の、より親水性のアミノ酸による置換である。その他の実施形態では、より親水性のアミノ酸を、セリン(S)またはスレオニン(T)から選択する。
【0047】
特定の実施形態では、この方法は、a)変異のために、イムノバインダーの内部の少なくとも2つのアミノ酸位置を選択する工程と、b)変異のために選択された少なくとも2つのアミノ酸位置を変異させる工程とを含み、変異が、
(i)重鎖アミノ酸のAHoナンバリングの使用による位置12(Kabatナンバリングの使用による位置11)におけるセリン(S);
(ii)重鎖アミノ酸のAHoナンバリングの使用による位置103(Kabatナンバリングの使用による位置89)におけるセリン(S)またはスレオニン(T);および
(iii)重鎖アミノ酸のAHoナンバリングの使用による位置144(Kabatナンバリングの使用による位置108)におけるセリン(S)またはスレオニン(T)
からなる群より選択される少なくとも2つの置換を含む。
【0048】
非常に好ましい実施形態では、重鎖アミノ酸位置12、103および144のうちの少なくとも1つは、スレオニン(T)である。
【0049】
さらなるその他の実施形態では、この変異工程は、軽鎖アミノ酸のAHoナンバリングもしくはKabatナンバリングの使用による位置15におけるスレオニン(T)による置換、および/または軽鎖アミノ酸のAHoナンバリングの使用による位置147(Kabatナンバリング法の使用による位置106)におけるアラニン(A)による置換を含む。
【0050】
その他の実施形態では、この変異工程の結果、溶解性が、少なくとも2倍増加する(例えば、溶解性が2倍、2.5倍、3倍、3.5倍または4倍以上増加する)。
【0051】
別の実施形態では、このイムノバインダーの熱安定性、リフォールディング、発現収率、凝集および/または結合活性は、この変異工程によって不利な影響を受けない。
【0052】
特定の実施形態では、この変異工程は、(a)軽鎖アミノ酸位置31におけるアスパラギン酸(D);(b)軽鎖アミノ酸位置83におけるグルタミン酸(E);(c)重鎖アミノ酸位置43におけるアルギニン(R);(d)重鎖アミノ酸位置67におけるロイシン(L);および(e)重鎖アミノ酸位置78におけるアラニン(A)からなる群より選択されるアミノ酸位置(AHoナンバリング法)において、1つまたは複数の安定化変異をさらに含む。これらの変異は、イムノバインダーの安定性に対する効果があることが証明されている。
【0053】
別の態様では、本発明は、本発明の方法に従って調製したイムノバインダーを提供する。
【0054】
特定の例示的な実施形態では、本発明の方法に従って遺伝子工学的に操作したイムノバインダーは、治療上重要な標的抗原に結合する当該分野で認識されているイムノバインダー、あるいは治療上重要なイムノバインダーに由来する可変領域(VL領域および/もしくはVH領域)または1つもしくは複数のCDR(例えば、CDRL1、CDRL2、CDRL3、CDRH1、CDRH2および/もしくはCDRH3)を含むイムノバインダーである。例えば、FDAまたはその他の規制当局によって現在承認されているイムノバインダーを、本発明の方法に従って遺伝子工学的に操作することができる。より具体的には、それらの例示的なイムノバインダーとして、これらに限定されないが、抗CD3抗体、例として、ムロモナブ(Orthoclone(登録商標)OKT3;Johnson&Johnson、Brunswick、NJ;Arakawaら J. Biochem、(1996年)120巻:657〜662頁;KungおよびGoldsteinら、Science(1979年)、206巻:347〜349頁を参照されたい)、抗CD11抗体、例として、エファリズマブ(Raptiva(登録商標)、Genentech、South San Francisco、CA)、抗CD20抗体、例として、リツキシマブ(Rituxan(登録商標)/Mabthera(登録商標)、Genentech、South San Francisco、CA)、トシツモマブ(Bexxar(登録商標)、GlaxoSmithKline、London)またはイブリツモマブ(Zevalin(登録商標)、Biogen Idec、Cambridge MA)(米国特許第5,736,137号;同第6,455,043号;および同第6,682,734号を参照されたい)、抗CD25(IL2Rα)抗体、例として、ダクリズマブ(Zenapax(登録商標)、Roche、Basel、Switzerland)またはバシリキシマブ(Simulect(登録商標)、Novartis、Basel、Switzerland)、抗CD33抗体、例として、ゲムツズマブ(Mylotarg(登録商標)、Wyeth、Madison、NJ、米国特許第5,714,350号および同第6,350,861号を参照されたい)、抗CD52抗体、例として、アレムツズマブ(Campath(登録商標)、Millennium Pharmaceuticals、Cambridge、MA)、抗GpIIb/gIIa抗体、例として、アブシキシマブ(ReoPro(登録商標)、Centocor、Horsham、PA)、抗TNFα抗体、例として、インフリキシマブ(Remicade(登録商標)、Centocor、Horsham、PA)またはアダリムマブ(Humira(登録商標)、Abbott、Abbott Park、IL、米国特許第6,258,562号を参照されたい)、抗IgE抗体、例として、オマリズマブ(Xolair(登録商標)、Genentech、South San Francisco、CA)、抗RSV抗体、例として、パリビズマブ(Synagis(登録商標)、Medimmune、Gaithersburg、MD、米国特許第5,824,307号を参照されたい)、抗EpCAM抗体、例として、エドレコロマブ(Panorex(登録商標)、Centocor)、抗EGFR抗体、例として、セツキシマブ(Erbitux(登録商標)、Imclone Systems、New York、NY)またはパニツムマブ(Vectibix(登録商標)、Amgen、Thousand Oak、CA)、抗HER2/neu抗体、例として、トラスツズマブ(Herceptin(登録商標)、Genentech)、抗α4インテグリン抗体、例として、ナタリズマブ(Tysabri(登録商標)、BiogenIdec)、抗C5抗体、例として、エクリズマブ(Soliris(登録商標)、Alexion Pharmaceuticals、Chesire、CT)、および抗VEGF抗体、例として、ベバシズマブ(Avastin(登録商標)、Genentech、米国特許第6,884,879号を参照されたい)またはラニビズマブ(Lucentis(登録商標)、Genentech)が挙げられる。
【0055】
特定の例示的な実施形態では、本発明の方法に従って遺伝子工学的に操作したイムノバインダーは、当該分野で認識されている上記のイムノバインダーである。好ましい実施形態では、このイムノバインダーは、scFv抗体である。その他の実施形態では、このイムノバインダーは、例えば、完全長の免疫グロブリン、Dab、ナノボディまたはFab断片である。
【0056】
前述の記載にもかかわらず、種々の実施形態では、特定のイムノバインダーを、本発明の遺伝子工学的操作方法における使用から除外し、かつ/またはこれらの遺伝子工学的操作方法により生成するイムノバインダーの組成物をなすことから除外する。例えば、種々の実施形態では、このイムノバインダーは、PCT公開第WO2006/131013号および第WO2008/006235号に開示されているscFv抗体またはそれらの改変体、例として、それぞれの内容が参照により本明細書に明示的に援用されるPCT公開第WO2006/131013号および第WO2008/006235号に開示されているESBA105またはその改変体のうちのいずれでもないという条件がある。
【0057】
好ましくは、本明細書に開示するイムノバインダー、本明細書に開示する方法のために使用するイムノバインダーまたは本明細書に開示する方法によって生成したイムノバインダーはそれぞれ、scFv抗体であるが、その他のイムノバインダー、例として、完全長の免疫グロブリン、Fab断片、または本明細書に記載する任意のその他の型のイムノバインダー(例えば、Dabもしくはナノボディ)も包含する。
【0058】
好ましい実施形態では、本明細書に開示するイムノバインダー、本明細書に開示する方法のために使用するイムノバインダーまたは本明細書に開示する方法によって生成したイムノバインダーはそれぞれ、ヒトTNFαまたはヒトVEGFに特異的に結合する。
【0059】
本発明は、本明細書に開示するイムノバインダーおよび薬学的に許容できる担体を含む組成物をさらに包含する。
【0060】
(ScFvの組成物および処方物)
本発明の別の態様は、本発明の方法に従って調製したscFv組成物に関する。したがって、本発明は、元々の目的のscFvと比較して1つまたは複数の溶解性増強変異がそのアミノ酸配列中に導入されている遺伝子工学的に操作したscFvの組成物を提供し、これら(1つまたは複数の)変異は、疎水性アミノ酸残基の位置に導入されている。1つの実施形態では、このscFvは、1つの変異したアミノ酸位置(例えば、1つのフレームワークの位置)を含有するように遺伝子工学的に操作されている。その他の実施形態では、このscFvは、2、3、4、5、6、7、8、9または10個以上の変異したアミノ酸位置(例えば、フレームワークの位置)を含有するように遺伝子工学的に操作されている。
【0061】
特定の実施形態では、この変異工程は、2008年6月25日出願のPCT出願第PCT/CH2008/000285号、名称「Methods of Modifying Antibodies,and Modified Antiboies with Improved Functional Properties」、または2008年3月12日出願の米国仮特許出願第61/069,056号、名称「Methods of Modifying Antibodies,and Modified Antiboies with Improved Functional Properties」に記載されている1つまたは複数の安定化変異をさらに含む。これらの出願の両方が、参照により本明細書に援用される。例えば、このイムノバインダーは、(a)軽鎖アミノ酸位置31におけるアスパラギン酸(D);(b)軽鎖アミノ酸位置83におけるグルタミン酸(E);(c)重鎖アミノ酸位置43におけるアルギニン(R);(d)重鎖アミノ酸位置67におけるロイシン(L);および(e)重鎖アミノ酸位置78におけるアラニン(A)からなる群より選択されるアミノ酸位置(AHoナンバリング法)において、置換をさらに含むことができる。表示する位置における1つまたは複数の変異は、イムノバインダー全体の全般的な安定性に対する効果がある。その他の実施形態では、この変異工程は、以下の安定化変異(AHoナンバリング法)をさらに含む:(a)軽鎖アミノ酸位置31におけるアスパラギン酸(D);(b)軽鎖アミノ酸位置83におけるグルタミン酸(E);(c)重鎖アミノ酸位置43におけるアルギニン(R);(d)重鎖アミノ酸位置67におけるロイシン(L);および(e)重鎖アミノ酸位置78におけるアラニン(A)。
【0062】
本発明の別の態様は、本発明のscFv組成物の薬学的処方物に関する。そのような処方物は典型的には、このscFv組成物および薬学的に許容できる担体を含む。本明細書で使用する場合、「薬学的に許容できる担体」は、生理学的に適合性である、任意かつ全ての溶媒、分散媒、コーティング剤、抗細菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤等を含む。好ましくは、担体は、例えば、(例えば、注射または注入による)静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、非経口投与、脊髄投与、上皮投与、または(例えば、眼もしくは皮膚に対する)局所投与に適している。投与経路に応じて、scFvを、材料中でコーティングして、化合物を不活性化する恐れがある酸の作用およびその他の天然の条件から、化合物を保護することができる。
【0063】
本発明の薬学的化合物は、1つまたは複数の薬学的に許容できる塩を含むことができる。「薬学的に許容できる塩」は、親化合物の所望の生物学的な活性を保持し、任意の望ましくない毒物学的作用をもたらさない塩を指す(例えば、Berge, S. M.ら(1977年)J. Pharm. Sci. 66巻:1〜19頁を参照されたい)。そのような塩の例として、酸付加塩および塩基付加塩が挙げられる。酸付加塩には、無毒性の無機酸、例として、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸等、ならびに無毒性の有機酸、例として、脂肪族のモノカルボン酸およびジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪族および芳香族のスルホン酸等に由来する塩が挙げられる。塩基付加塩には、アルカリ土類金属、例として、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等、および無毒性の有機アミン、例として、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、N−メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカイン等に由来する塩が挙げられる。
【0064】
また、本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容できる抗酸化剤も含むことができる。薬学的に許容できる抗酸化剤の例として、(1)水溶性抗酸化剤、例として、アスコルビン酸、塩酸システイン、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等;(2)油溶性抗酸化剤、例として、アスコルビン酸パルミテート、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、プロピルガレート、アルファ−トコフェロール等;および(3)金属キレート剤、例として、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸等が挙げられる。
【0065】
本発明の薬学的組成物中で利用することができる適切な水性および非水性の担体の例として、水、エタノール、ポリオール(例として、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)およびそれらの適切な混合物、オリーブ油等の植物油、ならびにオレイン酸エチル等の注射可能有機エステルが挙げられる。例えば、レシチン等のコーティング材料を使用することによって、分散物の場合には必要な粒子サイズを維持することによって、および界面活性剤を使用することによって、適切な流動性を維持することができる。
【0066】
また、これらの組成物は、保存剤、加湿薬、乳化剤および分散化剤等のアジュバントも含有することができる。微生物の存在の阻止を、上記の滅菌手順、ならびに種々の抗細菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸等を含めることの両方によって確実にすることができる。また、等張化剤、例として、糖、塩化ナトリウム等を、この組成物中に含めることも望ましい場合がある。さらに、注射可能薬学的形態の長期的吸収を、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン等の吸収を遅延させる薬剤を含めることによってもたらすこともできる。
【0067】
薬学的に許容できる担体は、無菌の水溶液または分散物、および無菌の注射可能の溶液または分散物を用時調製するための無菌の粉末を含む。薬学的に活性な物質のための、そのような媒体および薬剤の使用は、当該分野では公知である。この活性化合物に適合する限り、任意の従来の媒体または薬剤の、本発明の薬学的組成物における使用を企図する。また、追加の活性化合物を、この組成物中に組み込むこともできる。
【0068】
治療用組成物は典型的には、製造および保管の条件下で無菌かつ安定でなければならない。この組成物を、溶液、マイクロエマルジョン、リポソーム、または高い薬物濃度に適したその他の秩序構造として処方することができる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコール等)ならびにそれらの適切な混合物を含有する溶媒または分散媒であってよい。例えば、レシチン等のコーティング材料を使用することによって、分散物の場合には必要な粒子サイズを維持することによって、および界面活性剤を使用することによって、適切な流動性を維持することができる。多くの場合、この組成物中に、等張化剤、例えば、糖、マンニトール、ソルビトール等のポリアルコール、または塩化ナトリウムを含めることが好ましい。注射可能組成物の長期的吸収を、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸塩およびゼラチンを組成物中に含めることによってもたらすことができる。
【0069】
適切な溶媒中に、必要量の活性化合物を、必要に応じて上記に列挙した成分のうちの1つまたはそれらの組み合わせと共に組み込み、続いて、精密ろ過により滅菌することによって、無菌の注射可能溶液を調製することができる。一般に、この活性化合物を、基礎分散媒および上記に列挙したものからの必要なその他の成分を含有する無菌のビヒクル中に組み込むことによって、分散物を調製する。無菌の注射可能溶液を調製するための無菌の粉末の場合、調製の好ましい方法は、この活性成分に任意の追加の所望の成分を加えた溶液を先に無菌ろ過し、それから粉末を得る真空乾燥および凍結乾燥(freeze−drying)(凍結乾燥(lyophilization))である。
【0070】
単回投薬形態を生成するための、担体材料と組み合わせることができる活性成分の量は、処置される被験体および特定の投与様式に応じて変化させる。単回投薬形態を生成するための、担体材料と組み合わせることができる活性成分の量は一般に、治療効果をもたらす組成物の量である。一般に、100パーセント中、この量は、約0.01パーセント〜約99パーセントの活性成分、好ましくは、約0.1パーセント〜約70パーセント、最も好ましくは、約1パーセント〜約30パーセントの、薬学的に許容できる担体と組み合わせた活性成分の範囲である。
【0071】
投薬レジメンを調節して、最適な所望の応答(例えば、治療に対する応答)をもたらす。例えば、単回のボーラスを投与してもよく、用量をいくつかに分けて長時間にわたり投与してもよく、または治療状況の緊急性の指標に従って、用量を比例的に低下もしくは増加させてもよい。投与を容易にし、投与量を一様にするために、非経口用組成物を投薬単位形態として処方することは特に好都合である。本明細書で使用する場合、投薬単位形態とは、処置される被験体のための統一された投与量として適している物理的に個別の単位を指し、各単位は、必要な薬学的担体を伴って所望の治療効果をもたらすように計算された、所定の分量の活性化合物を含有する。本発明の投薬単位形態についての仕様は、(a)活性化合物の独特の特徴および達成すべき特定の治療効果、ならびに(b)個体において感受性を処置するためのそのような活性化合物を作り上げる技術に内在する制限によって定まり、それらに直接依存する。
【0072】
(抗体の位置のナンバリングシステム)
抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域におけるアミノ酸残基の位置を同定するために使用した2つの異なるナンバリングシステムについての変換表を提供する。
【0073】
【表1−1】

【0074】
【表1−2】

【0075】
【表2−1】

【0076】
【表2−2】

【0077】
【表2−3】

Kabatナンバリングシステムは、Kabatら(Kabat, E. A.ら(1991年)Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、U.S. Department of Health and Human Services、NIH Publication No. 91−3242)にさらに記載されている。AHoナンバリングシステムは、Honegger, A.およびPluckthun, A.(2001年)J. Mol. Biol.309巻:657〜670頁にさらに記載されている。
【0078】
(その他の実施形態)
また、米国仮特許出願第60/905,365号(WO08/110348の出願に優先権を与える)の付属文書(A〜C)、および米国仮特許出願第60/937,112号(WO09/000098の出願に優先権を与える)の付属文書(A〜I)に記載する、これらに制限されないが、同定したデータベース、バイオインフォマティクス、インシリコ(in silico)においてデータを操作および解釈する方法、機能アッセイ、好ましい配列、好ましい(1つまたは複数の)残基の位置/変化、フレームワークの同定および選択、フレームワークの変化、CDRのアラインメントおよび組込み、ならびに好ましい変化/変異を含めた、方法論、参考文献および/または組成物はいずれも、本発明に含まれることを理解すべきである。
【0079】
これらの方法論および組成物に関する追加の情報を、U.S.S.N.第60/819,378号;および同第60/899,907号、ならびにPCT公開第WO2008/006235号、名称「scFv Antibodies Which Pass Epithelial And/Or Endothelial Layers」、それぞれ、2006年7月および2007年2月6日に出願;WO06131013A2、名称「Stable And Soluble Antibodies Inhibiting TNFα」、2006年6月6日出願;EP1506236A2、名称「Immunoglobulin Frameworks Which Demonstrate Enhanced Stability In The Intracellular Environment And Methods Of Identifying Same」、2003年5月21日出願;EP1479694A2、名称「Intrabodies ScFv with defined framework that is stable in a reducing environment」、2000年12月18日出願;EP1242457B1、名称「Intrabodies With Defined Framework That Is Stable In A Reducing Environment And Applications Thereof」、2000年12月18日出願;WO03097697A2、名称「Immunoglobulin Frameworks Which Demonstrate Enhanced Stability In The Intracellular Environment And Methods Of Identifying Same」、2003年5月21日出願;およびWO0148017A1、名称「Intrabodies With Defined Framework That Is Stable In A Reducing Environment And Applications Thereof」、2000年12月18日出願;ならびにHoneggerら、J. Mol. Biol.309巻:657〜670頁(2001年)に見出すことができる。
【0080】
さらにまた、本発明は、その他の抗体のフォーマット、例えば、完全長の抗体、またはそれらの断片、例えば、Fab、Dab等を発見および/または改善するのに適した方法論および組成物も含むことを理解すべきである。したがって、本明細書において、所望の生物物理学的妥当性および/または治療における妥当性を達成するために選択するかまたは変化させるのに適切であるとして同定した原理および残基は、広い範囲のイムノバインダーに適用することができる。1つの実施形態では、臨床上意味のある抗体、例えば、FDAにより承認されている抗体が、本明細書に開示する1つまたは複数の残基の位置を改変することによって改善される。
【0081】
しかし、本発明はイムノバインダーの遺伝子工学的操作に限定されない。例えば、これらに限定されないが、Adnectin(WO01/64942、ならびに米国特許第6,673,901号、同第6,703,199号、同第7,078,490号および同第7,119,171号を参照されたい)等のフィブロネクチン結合性分子、Affibody(例えば、米国特許第6,740,734号および同第6,602,977号、ならびにWO00/63243を参照されたい)、Anticalin(リポカリンとしても公知である)(WO99/16873およびWO05/019254を参照されたい)、Aドメインタンパク質(A domain protein)(WO02/088171およびWO04/044011を参照されたい)、さらに、Darpinまたはロイシン反復タンパク質等のアンキリン反復タンパク質(WO02/20565およびWO06/083275を参照されたい)を含めた、その他の非免疫グロブリン型の結合性分子の遺伝子工学的操作に、本発明の方法を適用することができることを当業者は認識する。
【0082】
本開示を、以下の実施例によってさらに例証するが、これらの実施例によって、本発明がさらに限定されると解釈してはならない。この出願全体を通して引用するすべての図ならびにすべての参考文献、特許、公開および未公開の特許出願の内容は、それらの全体が参照により本明細書に明示的に援用される。
【実施例】
【0083】
(実施例1:溶解性の改善を示すscFvの生成)
この実施例では、構造モデリングおよび配列分析に基づいたアプローチを使用して、溶解性の改善をもたらす、scFvフレームワーク領域における変異を同定した。
【0084】
a)構造分析
ESBA105のscFvの3D構造を、ExPASyウェブサーバを介してアクセスできる自動化タンパク質構造相同性モデリングのサーバを使用してモデル化した。この構造を、溶媒に対する相対的表面到達性(relative surface accessible to the solvent(rSAS))により分析し、残基を以下に従って分類した:(1)rSAS≧50%を示す露出残基;および(2)50%≦rSAS≧25%を有する部分的露出残基。rSAS≧25%を有する疎水性残基を、疎水性パッチとみなした。見出された各疎水性パッチの溶媒に到達可能な領域を確認するために、27個のPDBファイルから、ESBA105に対する高い相同性および2.7Å超の分解能を用いて計算を行った。平均rSASおよび標準偏差を、これらの疎水性パッチについて計算し、それらのそれぞれについて詳細に調べた(表3
【0085】
【表3】

を参照されたい)。
【0086】
ESBA105中で同定された疎水性パッチの大部分が、可変ドメイン−定常ドメイン(VH/CH)の界面に相当する。このことは、scFvフォーマットにおける溶媒露出疎水性残基の以前の知見と相関した(Niebaら、1997年)。また、疎水性パッチのうちの2つ(VH2およびVH5)は、VL−VHの相互作用にも寄与しており、したがって、それらを、それに続く分析から除外した。
【0087】
b)溶解性変異の設計
総数122個のVL配列および137個のVH配列を、Annemarie Honeggerの抗体のウェブページ(www.bioc.uzh.ch/antibody)から得た。これらの配列は本来、Protein Data Bank(PDB)(www.rcsb.org/pdb/home/home.do)から抽出したFvフォーマットまたはFabフォーマットにおける393個の抗体構造に対応する。天然の残基よりも高い親水性を示す代替のアミノ酸を見出す確率を増加させるために、配列を使用して、種またはサブグループにかかわらず分析した。バイアスを低下させるために、データベース内の任意のその他の配列に対して95%超の同一性を示す配列を除外した。これらの配列を整列させ、残基の頻度について分析した。配列分析のツールおよびアルゴリズムを適用して、ESBA105中の疎水性パッチを破壊するための親水性の変異を同定および選択した。これらの配列を、免疫グロブリン可変ドメインについてAHoのナンバリングシステムに従って整列させた(Honeggerおよび Pluckthun 2001年)。この分析は、フレームワーク領域に限定した。
【0088】
カスタマイズしたデータベースにおいて、各位置iについての残基の頻度f(r)を、その特定の残基がデータセット内で観察される回数を配列の総数で割ることよって計算した。第1の工程では、異なるアミノ酸の出現頻度を、各疎水性パッチについて計算した。ESBA105中で同定された各疎水性パッチについての残基の頻度を、上記のカスタマイズしたデータベースから分析した。表4
【0089】
【表4】

に、このデータベース中に存在する残基の総数で割った、疎水性パッチにおける残基の頻度を報告する。
【0090】
第2の工程では、この疎水性パッチにおける親水性残基の頻度を使用して、各疎水性パッチにおいて最も多い親水性残基を選択することによって溶解性変異を設計した。表5
【0091】
【表5】

に、このアプローチを使用して同定した溶解性変異体を報告する。親および変異体の残基の疎水性を、いくつかの論文に公開されている値の平均疎水性として計算し、側鎖の溶媒に対する露出レベルの関数として表した。
【0092】
c)溶解性ESBA105改変体の試験
溶解性変異を、単独でかまたは複数の組合せとして導入し、リフォールディングの収率、発現、活性および安定性、ならびに凝集パターンについて試験した。表6
【0093】
【表6】

に、溶解性に対する潜在的な寄与、および変異が抗原結合を変化させるリスクレベルに基づいて最適化したESBA105改変体それぞれの中に導入した溶解性変異の種々の組合せを示す。
【0094】
d)溶解性の測定
ESBA105および改変体の最大溶解性を、Athaら(JBC、256巻:12108〜12117頁(1981年))によって最初に記載されたPEG沈殿の方法によって決定した。この方法では、遠心分離したPEG−タンパク質の混合物の上清中のタンパク質濃度を測定し、PEG濃度に対して対数プロットする。20mg/mlのタンパク質溶液を、30〜50%の範囲における飽和PEG溶液と1:1で混合した。これらの条件は、Log S対Peg濃度(%w/v)の線形の依存性を実験的に決定した後に、野生型ESBA105について観察した溶解性プロファイルに基づいて選ばれた。改変体ESBA105のうち、優れた溶解性を示したいくつかの例の溶解度曲線を、図1に示す。また、溶解度の値の完全なリストも、表7
【0095】
【表7】

に提供する。
【0096】
e)熱安定性の測定
親のESBA105および溶解性追加物(solubility follow up)に対する熱安定性の測定を、FT−IR ATR分光法を使用して実施した。これらの分子を、広い範囲の温度(25〜95℃)で熱チャレンジした。インターフェログラムのシグナルに対してフーリエ変換を適用することによって、変性プロファイルを得た(図2を参照されたい)。これらの変性プロファイルを使用して、ボルツマンシグモイドモデルに適用する、それぞれのESBA105改変体についての熱によるアンフォールディング転移の中間点(TM)を近似した
【0097】
【表8】

(表8)。
【0098】
(iii.凝集の測定)
また、ESBA105およびその溶解性改変体を、分解および凝集の挙動を評価するために、時間依存試験において分析した。このために、可溶性タンパク質(20mg/ml)を、pH6.5のリン酸緩衝液中、高い温度(40℃)でインキュベートした。対照試料は、−80℃に保った。これらの試料を、2週間のインキュベーション期間後に、分解(SDS−PAGE)および凝集(SEC)について分析した。これによって、分解を起こしやすい改変体(図3を参照されたい)、または可溶性もしくは不溶性の凝集物を形成する傾向を示す改変体(表9を参照されたい)
【0099】
【表9】

を廃棄することが可能となった。
【0100】
(iv.溶解性改変体の発現およびリフォールディング)
また、溶解性変異体を、親のESBA105分子と比べた発現およびリフォールディングの収率についても試験した。これらの研究の結果を、表10
【0101】
【表10−1】

【0102】
【表10−2】

に示す。
【0103】
すべての親水性溶解性変異体が、親のESBA105分子と比較して溶解性の改善を示したが、これらの分子の一部のみが、適切なその他の生物物理学的特性を示したに過ぎない。例えば、多くの改変体は、親のESBA105分子と比べて熱安定性および/またはリフォールディングの収率の低下を示した。特に、位置VL147における親水性の置換によって、安定性が極度に減少した。したがって、熱安定性に顕著な影響を及ぼさなかった溶解性変異を組み合わせて、さらなる熱ストレスを与え、それらの特性を確認した。
【0104】
4つの異なる溶解性変異の組合せを含有する3つの変異体(Opt1.0、Opt0.2およびVH:V103T)は、再現性、活性および熱安定性に影響を及ぼすことなく、ESBA105の溶解性を顕著に改善した。しかし、ESBA105中にOpt1.0とOpt0.2との変異の組合せを有する変異体(Opt1_2)は、40℃における2週間のインキュベーション後に不溶性の凝集物の量の増加を示した(表9を参照されたい)。このことは、ベータシートターン中の位置VL15におけるValの役割によって説明することができるであろう。これは、Valが、すべてのアミノ酸のうち、最も高いベータシートの傾向を示すからである。この結果は、位置VL15における単一の溶解性変異は許容されるが、その他の疎水性パッチを破壊する溶解性変異体との組合せは許容されないことを実証した。したがって、Opt0_2およびVH:V103T中に含有される変異を、scFv分子の溶解性特性を改善するための最良の変異(best performer)として選択した。
【0105】
(実施例2:溶解性および安定性の増強を示すscFvの生成)
溶解性の設計によって同定したESBA105改変体を、品質管理(QC)アッセイにより同定した安定化変異で置換することによってさらに最適化した。上記の実施例1で同定した1〜3つの溶解性変異と、QC7.1および15.2において見出されたすべての安定化変異(すなわち、VLドメイン中のD31NおよびV83E、ならびにVHドメイン中のV78A、K43およびF67L)とを組み合わせて含有する総数4つの構築物を創出した。すべての最適化構築物が、野生型scFvよりも可溶性に優れたタンパク質をもたらした(表11を参照されたい)。
【0106】
【表11】

最良の構築物は一貫して、野生型と比べて2倍超の溶解性の増加を示した。scFv分子は、活性についても、安定性についても、安定化変異と溶解性増強変異との組合せによって顕著な影響は受けなかった。
【0107】
すべての4つの改変体の溶解度の値を使用して、scFvの溶解性に対する各変異の寄与を解析した。これらの残基のうちのいくつかは、一次配列中および3D構造内部の両方において相互に比較的接近していたにもかかわらず、すべての変異が、scFvの溶解性に相加的に寄与するようであった。この分析によって、VHドメイン中の3つの溶解性増強変異(V12S、L144S、V103T(またはV103S))の組合せが、scFvの溶解性の約60%に関与することを示した。疎水性パッチは、すべてのイムノバインダーの可変ドメイン中で保存されているので、この最適な変異の組合せを使用して、事実上任意のscFvまたはその他のイムノバインダー分子の溶解性を改善することができる。
【0108】
(実施例3:強力なTNFαバインダーであるEpi43maxの溶解性最適化改変体)
表12は、強力なTNFバインダーであるEpi43maxの3つの最適化改変体についての特徴付けのデータを示す。
【0109】
【表12−1】

EP43_maxDHPは、EP43maxの溶解性増強改変体であり、上記の溶解性増強変異3つを含む(AHo位置12におけるV→S、AHo位置103におけるV→T、およびAHo位置144におけるL→T)。EP43_maxmin改変体およびEP43_minmax改変体を、「min」融合片と「max」融合片との間におけるドメインシャッフリングによって生成した。具体的には、「minmax」改変体は、軽鎖の最小融合片(CDR融合のみ)バージョンと、重鎖の最大融合片バージョン(すなわち、ラビットCDRと抗原結合に関与するラビットフレームワーク残基とが融合されている)とを含む。逆に、「maxmin」改変体は、軽鎖の最大融合片バージョンと重鎖の最小融合片バージョンとを含む。EP43maxおよびその最適化改変体の熱変性曲線を、FTIR分析により比較した(図4を参照されたい)。Epi43minmaxは、Epi43maxよりもより低いアンフォールディングの中間点を示すことを見出した。さらに、mimax改変体は、一段階のアンフォールディング転移を示し、このことは、両方のドメインが、非常に類似する温度においてアンフォールディングすることを示した。
【0110】
(実施例4:VEGFイムノバインダーの溶解性増強誘導体)
上記のTNFイムノバインダー(ESBA105およびEpi43max)に加えて、VEGFイムノバインダーのいくつかの溶解性誘導体を、本発明の方法に従って遺伝子工学的に操作した。特に、これらのVEGFイムノバインダー改変体を、以下の残基について選択することによって、破壊された疎水性パッチ(「DHP」)を有するように遺伝子工学的に操作した:(a)重鎖アミノ酸位置12におけるセリン(S);(b)重鎖アミノ酸位置103におけるセリン(S)またはスレオニン(T);および(c)重鎖アミノ酸位置144におけるセリン(S)またはスレオニン(T)。これらのDHP改変体の生物物理学的な特徴を、それらの野生型対応物と比較した。これらの特徴は、(Bio−ATRにより決定した)融解温度またはT、(AquaSpecにより決定した)60℃におけるβ−シート喪失パーセント、60℃における沈殿後のタンパク質喪失パーセント、硫酸アンモニウム沈殿法による溶解性、産物中のリフォールディングの収率、およびE.coli中における発現レベルを含んだ。
【0111】
以下の表14に示すように、VEGFイムノバインダーのうちの1つ(ESBA578minmax FW 1.4 DHP)の溶解性が、このDHPモチーフの導入によって顕著に増強した。さらに、その他の生物物理学的特性(例えば、熱安定性)は、このモチーフの導入によって、不利な影響を受けることも、改善されることもなかった。
【0112】
【表12−2】

【0113】
【表14】

578min−maxおよびその溶解性最適化改変体(578min−max_DHP)についての融解温度を決定するために使用した熱安定性曲線を、図5および表13に示し、溶解度の値を決定するために使用した硫酸アンモニウム沈殿法の曲線を図6に示す。
【0114】
(等価物)
当業者であれば、本明細書に記載する本発明の特定の実施形態に対する多くの等価物を認識し、または日常的な実験のみを使用して、それらを究明することも可能である。そのような等価物は、以下の特許請求の範囲によって包含されることを意図する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖アミノ酸位置12、103および144(AHoナンバリング)において以下の溶解性増強モチーフ:
(a)重鎖アミノ酸位置12におけるセリン(S);
(b)重鎖アミノ酸位置103におけるセリン(S);および
(c)重鎖アミノ酸位置144におけるスレオニン(T);または
(a1)重鎖アミノ酸位置12におけるセリン(S);
(b1)重鎖アミノ酸位置103におけるスレオニン(T);および
(c1)重鎖アミノ酸位置144におけるセリン(S);または
(a2)重鎖アミノ酸位置12におけるセリン(S);
(b2)重鎖アミノ酸位置103におけるスレオニン(T);および
(c2)重鎖アミノ酸位置144におけるスレオニン(T);または
(a3)重鎖アミノ酸位置12におけるセリン(S);
(b3)重鎖アミノ酸位置103におけるセリン(S);および
(c3)重鎖アミノ酸位置144におけるセリン(S)
のうちの1つを含む、イムノバインダー。
【請求項2】
(a)軽鎖アミノ酸位置31におけるアスパラギン酸(D);
(b)軽鎖アミノ酸位置83におけるグルタミン酸(E);
(c)重鎖アミノ酸位置43におけるアルギニン(R);
(d)重鎖アミノ酸位置67におけるロイシン(L);および/または
(e)重鎖アミノ酸位置78におけるアラニン(A)
をさらに含む、請求項1に記載のイムノバインダー。
【請求項3】
イムノバインダーの溶解性を増強する方法であって、前記イムノバインダーが、重鎖可変(V)領域またはその断片を含み、前記方法が、
A)変異のために、前記V領域内部の少なくとも2つのアミノ酸位置を選択する工程と、
B)変異のために選択された前記少なくとも2つのアミノ酸位置を変異させる工程と
を含み、前記少なくとも2つのアミノ酸位置が、12、103および144(AHoナンバリング法による)からなる重鎖アミノ酸位置の群より選択され、前記変異工程が前記選択されたアミノ酸位置におけるアミノ酸の、親水性アミノ酸による置換を含む、方法。
【請求項4】
前記親水性アミノ酸が、
(a)重鎖アミノ酸位置12におけるセリン(S);
(b)重鎖アミノ酸位置103におけるセリン(S)もしくはスレオニン(T);および/または
(c)重鎖アミノ酸位置144におけるセリン(S)もしくはスレオニン(T)
である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
変異のために選択された前記アミノ酸位置におけるアミノ酸が、疎水性アミノ酸である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記疎水性アミノ酸が、ロイシン(L)またはバリン(V)である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
(a)重鎖アミノ酸位置12におけるアミノ酸の変異のために選択されたアミノ酸がバリン(V)であり、
(b)重鎖アミノ酸位置103におけるアミノ酸の変異のために選択されたアミノ酸がバリン(V)であり、
(c)重鎖アミノ酸位置144におけるアミノ酸の変異のために選択されたアミノ酸がロイシン(L)である、
請求項3から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記イムノバインダーの熱安定性、リフォールディング、発現収率、凝集および/または結合活性が、前記変異工程によって不利な影響を受けない、請求項3から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記変異工程の結果、溶解性が少なくとも2倍増加する、請求項3から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記変異工程が、
(a)軽鎖アミノ酸位置31におけるアスパラギン酸(D);
(b)軽鎖アミノ酸位置83におけるグルタミン酸(E);
(c)重鎖アミノ酸位置43におけるアルギニン(R);
(d)重鎖アミノ酸位置67におけるロイシン(L);および
(e)重鎖アミノ酸位置78におけるアラニン(A)
からなる群より選択されるアミノ酸位置(AHoナンバリング法)に1つまたは複数の変異を導入する工程をさらに含む、請求項3から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項3から10のいずれか一項に記載の方法によって調製されたイムノバインダー。
【請求項12】
scFv抗体、完全長の免疫グロブリン、Fab断片、Dabまたはナノボディである、請求項1、2または11のいずれか一項に記載のイムノバインダー。
【請求項13】
ヒトTNFαまたはヒトVEGFに特異的に結合する、請求項1、2、11または12のいずれか一項に記載のイムノバインダー。
【請求項14】
請求項1、2、11、12または14のいずれか一項に記載のイムノバインダーおよび薬学的に許容できる担体を含む組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【公表番号】特表2011−525496(P2011−525496A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515050(P2011−515050)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際出願番号】PCT/CH2009/000221
【国際公開番号】WO2009/155725
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(502233344)エスバテック、アン アルコン バイオメディカル リサーチ ユニット、エルエルシー (19)
【氏名又は名称原語表記】ESBATech, an Alcon Biomedical Research Unit, LLC
【Fターム(参考)】