インク定着方法、インク定着装置及び印刷装置
【課題】エネルギー効率、作業性に優れ、処理工程や装置などが簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れたインク定着方法、及びインク定着装置、及びこのインク定着装置を備え、低コストで高画質画像が得られる印刷装置の提供。
【解決手段】カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物を少なくとも含み、かつ、光重合開始剤を含んでいない印刷インクを、大気圧近傍の電極間放電を用いて基材に定着させるインク定着工程、を少なくとも含むことを特徴とするインク定着方法である。また、該インク定着方法を用いたインク定着装置及びこのインク定着装置を備えた印刷装置である。
【解決手段】カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物を少なくとも含み、かつ、光重合開始剤を含んでいない印刷インクを、大気圧近傍の電極間放電を用いて基材に定着させるインク定着工程、を少なくとも含むことを特徴とするインク定着方法である。また、該インク定着方法を用いたインク定着装置及びこのインク定着装置を備えた印刷装置である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー効率、作業性に優れ、処理工程が簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れたインク定着方法、エネルギー効率、作業性に優れ、装置がコンパクトで簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れたインク定着装置、及びこのインク定着装置を備えてなる印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、孔版印刷装置やインクジェット印刷装置などの印刷装置において、高度なインク定着性要求に対してはUV光硬化型インクを用いた印刷が行われており、該UV光の照射によりインクを硬化させる印刷装置が開示されている。前記UV光硬化型インクを用いた印刷装置では、印刷用紙に印刷された直後のUV光硬化型インクを、UV光照射により比較的短時間で硬化し定着させることができ、例えば、連続印刷時のいわゆる「裏写り」などを防止することができる(特許文献1参照)。
また、前記UV光硬化型インクを用いた印刷装置では、UV光を照射するインク定着装置を印刷部の後段に設置し、UV光硬化型インクで印刷され印刷部から排出された印刷用紙を定着装置に搬送し、印刷用紙の印刷面に対してUV光を照射して、UV光硬化型インクを硬化し定着させるという手法がなされてきた。
しかしながら、このようなインク定着装置では、UVランプから発生される熱を強制冷却するための空冷ファンや熱排気ダクト、必要に応じて定着装置を開閉するためのシャッター機構、UV光の定着装置外部への漏れを防止するための遮断板など、多くの機構部品、構成要素を必要とするため、装置サイズが大きく、非常に広い設置面積が必要となる問題があった。
また、インクの定着性に関して、例えば、黒色など光透過性の低い色のUV光硬化型インクでは、黄色や青色など光透過性の高い色のUV光硬化型インクに比べて、インクを完全に定着させるためには大きな硬化エネルギーを必要とする。
従って、インク定着装置としては、前記黒色などの光透過性の低い(即ち、最も硬化しにくい)色のUV光硬化型インクを硬化し定着させるのに十分で大きな硬化エネルギーを標準として照射する必要があり、これは電源装置のコスト高や維持運営コスト高を引き起こす問題があった。
【0003】
更に、UV光硬化反応は、空気中の酸素により容易に阻害され、硬化特性が簡単に低下してしまうことが知られている。そのため、例えば、特許文献3では、紫外線域を含む帯域の光を透過可能な定着体と、該定着体と対向して配置された搬送体と、前記定着体と搬送体とをニップする加圧手段とを備えたインク定着装置において、光硬化型インクで印刷された記録媒体を、前記加圧手段によりニップされた前記定着体と搬送体との間に搬送し、該定着体と記録媒体の記録面とを密着させ、定着体を介して記録媒体に紫外線を照射して光硬化型インクを硬化し定着させる提案がされている。このように加圧手段によりニップすることにより、紫外線照射による光硬化型インクを硬化及び定着と、酸素遮断による硬化特性の向上とを、同時達成させることができる。
一方、通常使用されるUV光硬化型インクは、未重合状態においては、モノマー、もしくはオリゴマーであり、皮膚刺激性があり、刺激臭を生じるため、人体に影響を及ぼすことがあり、硬化不良を生じないことが望ましい。
しかし、対象物の上に供給されたUV光硬化型インクへの光の照射条件によってはインクの硬化不十分な部分、即ち、未定着インクを生じることがある。この未定着インクが、経時により移動脱落を生じると、印刷された画像の劣化だけでなく、印刷物に触れる人々や環境に影響を与えるおそれがある。特に、食品包装材料にUV光硬化型インクで印刷を行う場合、未定着インクの存在が少しであっても、人体に影響を及ぼすおそれがある。
【0004】
また、上記のようなUV光硬化型インクを用いたインク定着装置とは別個に、被印刷体の一部へのマーキング、線などの部分印刷において、高顔料濃度の印刷インクを使用したり、印刷のインク膜厚を大きくする目的で、EB(電子線)を用いた硬化手段が提案されている。このEB(電子線)の透過性はUV光のように顔料濃度の影響を受けないため、高濃度で視認性の高い印刷物や塗装物を得ることが出来るというメリットがある。
しかしながら、EB(電子線)照射装置は、電子線の加速電圧が150kV以上と高いため、電子線が基材或いは下地面にも直接作用してしまい、基材の物性劣化を生じさせるという問題があった。
更には、マーキング、線などの基材の必ずしも被印刷体全面に一様にパターニングしない部分的印刷に対しては、被印刷部のみに電子線照射を行うのが理想的である。そのためには、従来のEB(電子線)照射装置ではEB(電子線)を集束したり、操作したりする必要があり、その結果大きな装置が必要であるが、実現は困難であるし、比較的小さい被照射物、マーキング、線などへの照射に用いるのには非効率であった。
【0005】
また、対象物の密着性の改善、表面改質などを図る観点から、対象物の表面にプラズマ処理を行う提案がされている(特許文献3〜5参照)。例えば、特許文献3では、大気圧近傍の圧力下で、対向電極の少なくとも一方の対向面に固体誘電体を設置し、電界強度が1〜100kV/cmの電界を印加して、グロー放電プラズマ処理を行う方法が開示されている。
また、特許文献4では、電極間に印加する電圧の波形を休止時間のない交番電圧波形とするとともに、この交番電圧波形の立ち上がり時間を100μsec以下としたプラズマ処理が開示されている。
また、特許文献5では、一方の電極と他方の電極のそれぞれに正負が交互に繰り返すパルス波又は休止区間のない交番電圧を同時に印加するとともに、各電極に印加された電圧の極性を互いに正負逆で位相を重複させることによって放電空間に大気圧近傍の圧力下で放電を生じさせ、この放電により行われるプラズマ処理が開示されている。
しかしながら、これらの場合は、グローな均一のプラズマを得るための調整が複雑で手間がかかり、装置が巨大化するなどの問題があった。また、フィルムの密着性、成膜などの目的での使用は開示されているが、印刷装置でのインク定着のために使用することは何ら開示がない。
このような構成であることから、前記特許文献3〜5の発明では、電圧印加時の調整が困難で、放電の集中によるムダが生じ易く、対象物へのエネルギー線付与が不均一となることがあり、また、これらをインク定着に用いても好ましいインク定着効果が得られない可能性がある。
一方、光開始剤、光潜在性酸、光潜在性塩基などの光潜在性化合物(光重合開始剤)を含んだ印刷用インクを、プラズマ放電室で硬化するという技術開示されている(特許文献6参照)。
しかし、この場合、前記印刷用インクの硬化には、印刷インク成分として前記光潜在性化合物(光重合開始剤)が必須であること、またプラズマ放電室という特殊な減圧容器(より好ましくは、該減圧容器が、更に、吸気口、排気口を装備している態様)も必要で、加えてその減圧容器中を特定のガス(例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオン、クリプトン、キセノン等)で雰囲気制御しなければならず、良好な効果を得るためには限られた条件範囲で行う必要があり、また定着のための装置や工程が複雑で大掛かりとなり、コスト高となるおそれがある。また、印刷用インクに光潜在性化合物という特殊な合成化学薬品を添加する必要があり、印刷用インクがコスト高となる問題がある。更に、光潜在性化合物の中には、皮膚刺激性がある物質が含まれ、前記のように未定着インクが残っていると、印刷物を介して皮膚に接触した場合に、人体に影響を及ぼす問題がある。また、定着性を向上させるために、光潜在性化合物の添加量を増やすと、感度が高くなり過ぎて、定着用の光以外の些細な刺激(例えば、α線などの宇宙性など)でも硬化反応を生じることがあり、保存時の安定性が低下する、印刷装置内での定着インクの固着を生じるなど、機上安定性に劣る問題もある。
また、光潜在性化合物が含まれていない印刷インクであって、しかも大気圧の空気中でかつ圧力制御を必要としない開放空間でプラズマを発生させ印刷インクを硬化(定着)するための電極構造、さらにはその際に必要となる搬送系手段、副産物としてのガス除去手段など、最適な周辺システムも含めた技術開示は何ら開示されていない。
【0006】
したがって、エネルギー効率、作業性に優れ、処理工程が簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れたインク定着方法、エネルギー効率、作業性に優れ、装置がコンパクトで簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れたインク定着装置、及びこのインク定着装置を備え、低コストで高画質画像が得られる印刷装置は得られておらず、その速やかな提供が望まれているのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開2001−171221号公報
【特許文献2】特開2004−136672号公報
【特許文献3】特許第3040358号公報
【特許文献4】特開2002−58995号公報
【特許文献5】特開2004−103423号公報
【特許文献6】特表2005−523803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、従来における前記諸問題を解決し、エネルギー効率、作業性に優れ、処理工程が簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れたインク定着方法、エネルギー効率、作業性に優れ、装置がコンパクトで簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れたインク定着装置、及びこのインク定着装置を備え、低コストで高画質画像が得られる印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物を少なくとも含み、かつ、光重合開始剤を含んでいない印刷インクを、大気圧近傍の電極間放電を用いて基材に定着させるインク定着工程、を少なくとも含むことを特徴とするインク定着方法である。
該<1>に記載のインク定着方法においては、インク定着工程で、カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物を少なくとも含み、かつ、光重合開始剤を含んでいない印刷インクを、大気圧近傍の電極間放電(以下、大気圧プラズマ放電と称することがある)を用いて基材に定着させるので、簡易で作業性に優れ、少ないエネルギーで効率的かつ低コストにインク定着を行える。また、未定着インクの発生を良好に防ぎ、インクの定着性、人体や環境への安全性にも優れる。
<2> 大気圧近傍が、0.07〜2MPaである前記<1>に記載のインク定着方法である。
<3> 電極間放電を生じさせる電極が、電極間空間内に、少なくとも100kV/cmより大きい電界強度を有する放電部と、非放電部とが、複数形成されるよう構成された前記<1>から<2>のいずれかに記載のインク定着方法である。
<4> 接地側電極が、厚み0.1〜10mmで誘電率が10以下の誘電体によって、少なくとも一部が被覆された電極板である前記<1>から<3>のいずれかに記載のインク定着方法である。
<5> 接地側電極が、厚み0.1〜10mmで誘電率が10以下の誘電体によって、全部が被覆された電極板である前記<4>に記載のインク定着方法である。
<6> 非接地側電極が、接地側電極との対向側に複数の突起部を有する電極板であり、かつ、前記接地側電極の電極面に対して垂直な面で形成される所望の断面形状における前記突起部の先端形状が、R0.5〜R10mmの曲部を少なくとも有する前記<1>から<5>のいずれかに記載のインク定着方法である。
<7> 非接地側電極が、直径1〜20mmの円柱状及び円管状のいずれかの導電性材料を少なくとも用いて形成された前記<1>から<6>のいずれかに記載のインク定着方法である。
<8> 非接地側電極が、直線状の複数の導電性部材を相互に電気的に接合させてなる電極、少なくとも1本の長尺な導電性部材を折曲し電気的に接合させてなる電極、及び、直線状の複数の導電性部材を相互に電気的に接合させたものと長尺な導電性部材を折曲させたものを組み合わせて電気的に接合させてなる電極、から選択されるいずれかであり、かつ、接地側電極との対向側に形成される複数の突起部の、接地側電極の電極面に対して垂直な面で形成される所望の断面形状における先端形状が、R0.5〜R10mmの曲部を少なくとも有する前記<1>から<7>のいずれかに記載のインク定着方法である。
<9> 基材を搬送する搬送工程を含み、該搬送工程が、比誘電率10以下で、厚み0.03〜5.0mmであるベルト部材により少なくとも行われる前記<1>から<8>のいずれかに記載のインク定着方法である。
<10> ベルト部材が、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、4フッ化エチレン、ポリアミド、及びポリイミドから選択される少なくとも1種を含む前記<9>に記載のインク定着方法である。
<11> ベルト部材による基材の搬送終了時に、帯電状態の基材を除電するための除電工程を行う前記<9>から<10>のいずれかに記載のインク定着方法である。
<12> 除電工程が、除電ブラシ及び除電用イオナイザーのいずれかにより行われる前記<11>に記載のインク定着方法である。
<13> インクが、W/Oエマルションインク、水性インク、及び油性インクのいずれかである前記<1>から<12>のいずれかに記載のインク定着方法である。
<14> 大気圧近傍の電極間放電により生じた副産物としてのガスを除去するガス除去工程を含む前記<1>から<13>のいずれかに記載のインク定着方法である。
<15> ガス除去工程が、電極に臨ませて配置し、電極付近の雰囲気を通気させるための排気ダクト、排気ファン、及び排気口のいずれかからなる風路により少なくとも行われる前記<14>に記載のインク定着方法である。
<16> ガス除去工程が、電極付近の雰囲気を通気させる風路内に配設された、活性炭繊維、ゼオライト及び光触媒から選択される少なくとも一種からなるフィルターにより行われる前記<15>に記載のインク定着方法である。
<17> 基材へのインク供給工程を含み、該インク供給工程が、孔版、平版、凸版、凹版、及びインクジェット方式の少なくともいずれかにより行われる前記<1>から<16>のいずれかに記載のインク定着方法である。
<18> 基材上の未定着のインクを検知して大気圧近傍の電極間放電を行うための作動制御工程を、更に含む前記<1>から<17>のいずれかに記載のインク定着方法である。
<19> 作動制御工程が、電気的な非接触センサー、磁気的な非接触センサー、及び光学的な非接触センサーの少なくともいずれかを用いて基材上の未定着インクを検知し、大気圧近傍の電極間放電の放電動作タイミングを制御する前記<18>に記載のインク定着方法である。
該<19>に記載のインク定着方法においては、電気的な非接触センサーにより、基材の静電容量が検出され、当該被検出物が基材のみの場合と未定着インク(以下、みなし未定着インクと称することがある)が存在する場合において、前記基材と未定着インクの誘電率の違いにより前記静電容量が変化することによって、基材の面上における未定着インクの存在が検知される。また、磁気的非接触センサーにより、印刷インクに含有されている微量な磁性体の存在によって発生する磁力線が感受され、磁力線の強度変化が電気抵抗変化に変換されることによって、基材の面上における未定着インクの存在が検知される。また、光学的な非接触センサーにより、印刷インクの光に対する反射率(吸収率)と紙の光に対する反射率(吸収率)の差異が検出され、スレッショルドライン(紙だけの場合の光反射率または光吸収率の下限値)を下回る値になった場合に、みなし未定着インクの存在が検知される。このインク定着手段の作動により、基材面上の未定着インクに対してエネルギー線付与部により活性エネルギー線が付与され、未定着インクが定着される。
<20> 作動制御工程が、機械的手段と、電気的接点及び磁気的接点のいずれか、並びに、機械的手段と光学的センサー、の少なくともいずれかを用いて、基材の有無を検知することにより基材上の未定着インクを検知し、大気圧近傍の電極間放電の放電動作タイミングを制御する前記<19>に記載のインク定着方法である。
該<20>に記載のインク定着方法においては、基材の面始点を、例えば基材の搬送経路に設置した基材移動及び送りこみ用駆動部(駆動ローラ部等)と直結又は機械的機構を介して間接的に連結したカム機構からなる機械的手段が、そのカム機構の動作に伴って応答する電気的接点、磁気的接点、又は光学的センサーによって検出する。これによって、動作開始及び動作終了を基材の有無とみなし、さらに基材有を「みなし未定着インクの存在」、基材無を「みなし未定着インクの不在」と検知することによって、大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)を作動する。または、基材の搬送経路中に機械スイッチを設置して基材通過時の基材との接触や重量変化を機械スイッチに連動した電気的接点、磁気的接点、又は光学的センサーにて検知し、これによって基材の有無判定とし、さらに基材有を「みなし未定着インク」の存在、基材無を「みなし未定着インクの不在」と検知することによって、大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)を作動する。これらの検知によって電極間放電(大気圧プラズマ放電)が作動し、未定着インクが定着される。
<21> 前記<1>から<20>のいずれかに記載のインク定着方法を用いたインク定着装置であって、
基材に供給され、カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物を少なくとも含み、かつ、光重合開始剤を含んでいない印刷インクを、大気圧近傍の電極間放電を用いて基材上に定着させるインク定着手段、
を少なくとも有してなることを特徴とするインク定着装置である。
該<21>に記載のインク定着装置においては、カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物を少なくとも含み、かつ、光重合開始剤を含んでいない印刷インクが、大気圧近傍の電極間放電により、基材上に定着される。その結果、エネルギー効率、作業性に優れ、装置がコンパクトで簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れたインク定着装置が得られる。
<22> 大気圧近傍が、0.07〜2MPaである前記<21>に記載のインク定着装置である。
<23> 電極間放電を生じさせる電極が、接地側電極と非接地側電極との間で作られる電極間空間内に、少なくとも100kV/cmより大きい電界強度を有する放電部と、非放電部とが、複数形成されるよう構成された前記<11>から<22>のいずれかに記載のインク定着装置である。
<24> 接地側電極が、厚み0.1〜10mmで誘電率が10以下の誘電体によって、少なくとも一部が被覆された電極板である前記<21>から<23>のいずれかに記載のインク定着装置である。
<25> 接地側電極が、厚み0.1〜10mmで誘電率が10以下の誘電体によって、全部が被覆された電極板である前記<24>に記載のインク定着装置である。
<26> 非接地側電極が、接地側電極との対向側に複数の突起部を有する電極板であり、かつ、該突起部の、前記接地側電極の電極面に対して垂直な面で形成される所望の断面形状における先端形状が、R0.5〜R10mmの曲部を少なくとも有する前記<21>から<25>のいずれかに記載のインク定着装置である。
<27> 非接地側電極が、直径1〜20mmの円柱状及び円管状のいずれかの導電性材料を少なくとも用いて形成された前記<26>に記載のインク定着装置である。
<28> 非接地側電極が、直線状の複数の導電性部材を相互に電気的に接合させてなる電極、少なくとも1本の長尺な導電性部材を折曲し電気的に接合させてなる電極、及び、直線状の複数の導電性部材を相互に電気的に接合させたものと長尺な導電性部材を折曲させたものを組み合わせて電気的に接合させてなる電極、から選択されるいずれかであり、かつ、接地側電極との対向側に形成される複数の突起部の、接地側電極の電極面に対して垂直な面で形成される所望の断面形状における先端形状が、R0.5〜R10mmの曲部を少なくとも有する前記<26>から<27>のいずれかに記載のインク定着装置である。
<29> 基材の搬送手段を有し、該搬送手段が、比誘電率10以下で、厚み0.03〜5.0mmのベルト部材を少なくとも有する前記<28>に記載のインク定着装置である。
<30> ベルト部材が、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、4フッ化エチレン、ポリアミド、及びポリイミドから選択される少なくとも1種を含む前記<29>に記載のインク定着装置である。
<31> ベルト搬送手段の搬送終了点に、帯電状態の基材を除電するための除電手段を設けた前記<30>に記載のインク定着装置である。
<32> 除電手段が、除電ブラシ及び除電用イオナイザーのいずれかである前記<31>に記載のインク定着装置である。
<33> インクが、W/Oエマルションインク、水性インク、及び油性インクのいずれかである前記<21>から<32>のいずれかに記載のインク定着装置である。
<34> 大気圧近傍の電極間放電により生じた副産物としてのガスを除去するガス除去手段を有する前記<21>から<33>のいずれかに記載のインク定着装置である。
<35> ガス除去手段が、電極に臨ませて配置し、電極付近の雰囲気を通気させるための排気ダクト、排気ファン、及び排気口のいずれかからなる風路を少なくとも備えてなる前記<34>に記載のインク定着装置である。
<36> ガス除去手段が、電極付近の雰囲気を通気させる風路内に配設された、活性炭繊維、ゼオライト及び光触媒から選択される少なくとも一種からなるフィルターにより行われる前記<35>に記載のインク定着装置である。
<37> 基材へのインク供給手段を有し、該インク供給手段が、孔版、平版、凸版、凹版、及びインクジェット方式の少なくともいずれかである前記<21>から<36>のいずれかに記載のインク定着装置である。
<38> 基材上の未定着のインクを検知して大気圧近傍の電極間放電を行うための作動制御手段を、更に有する前記<21>から<37>のいずれかに記載のインク定着装置である。
<39> 作動制御手段が、電気的な非接触センサー、磁気的な非接触センサー、及び光学的な非接触センサーの少なくともいずれかを用いて基材上の未定着インクを検知し、大気圧近傍の電極間放電の放電動作タイミングを制御する前記<38>に記載のインク定着装置である。
<40> 作動制御手段が、機械的手段と、電気的接点及び磁気的接点のいずれか、並びに、機械的手段と光学的センサー、の少なくともいずれかを用いて、基材の有無を検知することにより基材上の未定着インクを検知し、大気圧近傍の電極間放電の放電動作タイミングを制御する前記<38>に記載のインク定着装置である。
<41> 前記<21>から<40>のいずれかに記載のインク定着装置を備えてなることを特徴とする印刷装置である。
該<41>に記載の印刷装置においては、エネルギー効率、作業性に優れ、コンパクトで簡易な印刷装置が得られ、インクの定着性に優れた画像形成ができ、人体や環境への安全性にも優れた印刷ができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来における諸問題を解決でき、エネルギー効率、作業性に優れ、処理工程が簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れたインク定着方法、エネルギー効率、作業性に優れ、装置がコンパクトで簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れたインク定着装置、及びこのインク定着装置を備え、低コストで高画質画像が得られる印刷装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(インク定着方法及びインク定着装置)
本発明のインク定着方法は、基材に供給されたインクを基材上に定着させるインク定着工程を少なくとも有してなり、更に必要に応じて、インク供給工程、ガス除去工程などの副産物の排出工程、基材の搬送工程、インク定着工程の作動制御工程、基材の入力工程、基材の出力工程、その他の工程を有してなる。
本発明のインク定着装置は、基材に供給されたインクを基材上に定着させるインク定着手段を少なくとも有してなり、更に必要に応じて、インク供給手段、ガス除去手段などの副産物の排出手段、基材の搬送手段、インク定着手段の作動制御手段、基材の入力手段、基材の出力手段、その他の手段を有してなる。
本発明のインク定着方法は、本発明のインク定着装置を用いて行われる。
また、前記インク定着方法では、面上に予め印刷インク(以下、単にインクと称することがある)が供給された基材に対してインク定着工程を施すものであってもよいし、何らインクの供給されていない基材に対してインク定着方法に入力し、前記インク供給工程などにより、基材の面上にインクを供給し、インク定着工程を施すものであってもよい。
また、前記インク定着装置には、面上に予めインクが供給された基材を導入するものであってもよいし、何らインクの供給されていない基材をインク定着装置に入力し、前記インク供給手段などにより、インク定着装置内で基材の面上にインクを供給する機構としてもよい。
以下、本発明の前記インク定着装置について説明する。本発明の前記インク定着方法については、該インク定着装置の説明を通じて明らかにする。
【0012】
<インク定着手段>
前記インク定着手段は、基材の面上に大気圧近傍の電極間の放電(大気圧プラズマ放電)に伴う活性エネルギー線を付与するエネルギー線付与部を少なくとも有してなる。
【0013】
−エネルギー線付与部−
前記エネルギー線付与部は、基材の面上に大気圧近傍の電極間の放電(大気圧プラズマ放電)に伴う活性エネルギー線を照射、接触などによって付与することにより、基材の面上への印刷インクの定着を確実に行うものである。基材の面上に大気圧近傍の電極間の放電(大気圧プラズマ放電)に伴う活性エネルギー線を照射、接触などによって付与することにより、カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物を少なくとも含み、かつ、光重合開始剤を含んでいない印刷インクが硬化し、密着性、定着性に優れる定着が可能となる。
【0014】
ここで、前記大気圧近傍とは、具体的には、海抜の違いなどによる大気圧を考慮して、インク定着時の雰囲気の圧力が、0.07〜2MPa程度を意味するが、プラズマ放電の際に減圧などを何ら行わないものであればよく、これらに限定されるものではない。
該0.07〜2MPaの範囲外で電極間放電を行うと、プラズマ放電質などの特殊な減圧容器や作業工程を必要とし、煩雑でコスト高となることがある。
なお、上限値を2MPaとしたのは、基材(用紙)を搬送ベルトで200cm/秒の速度で0.5mmの電極間隙を通過させた際に、当該電極間隙で局所的に発生する空気の流れにより生じる圧力が、およそ2MPaであるため、この場合の雰囲気圧力を含める意味で規定したものである。
前記活性エネルギー線とは、前記大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)に伴って生じたもので、電子線もしくは荷電粒子線であると推定している。
本発明で使用する印刷インクの構成成分は、カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物が含まれ、かつ、光重合開始剤を含んでいないものであるが、これは大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)中の電子又は荷電粒子が、強い電界によって加速されたのちに、前記印刷インク含有成分として存在するカルボキシル基を有する不揮発性有機化合物に衝突することで、化学的反応(詳細には、脱水縮合反応によってエステル結合する反応)を生じ、基材上で液体成分が固化した、即ち蝋状の物質に化学変化したと考えられる。
前記印刷インク定着前後の状態を、FTIR測定によって調べたところ、定着前には存在していなかったエステル結合のピークが、定着処理後に強く観測されたことから、上記のようなことが考えられる。
なお、実用上充分なインク定着性を呈する反応を得るには、電極間の電界強度が少なくとも100kV/cmより大きいことが好ましい。該電界強度が、100kV/cm以下であると、インク定着が困難となることがある。
【0015】
印刷インクが供給された基材の面上に大気圧近傍の電極間の放電(大気圧プラズマ放電)に伴う活性エネルギー線を効果的に照射、接触付与するには、該基材上で効率良く沿面放電を発生させる必要がある。
この場合の大気圧中の誘電体を挟んだ電極間放電とは、電極間に印加された高電圧によって、多数の微細なプラズマ柱(ストリーマとも言う)が電極間に生じたことによるものであるが、基材上の印刷インクを広範に定着させるためにはそのプラズマ柱(ストリーマとも言う)が一点集中して発生しないように電極構造を工夫する必要がある。細い針状の電極で放電を一点集中させて発生させ、それを基材面上を高速スキャンさせる方法も可能であるが、定着速度の低下、効率の低下、信頼性の低下を招くため実用的ではないと判断される。
そこで、均一にかつ広範な基材面へ活性エネルギー線を効果的に照射、接触付与するには、接地側電極から見た際に、接地されない電極との間に作られる電極間空間内に、放電の発生し易い電界強度の高い部分(以下、高放電部と称する)と、非放電部とがそれぞれ複数形成されるよう電極を構成するとともに、その電極間空間内に基材を搬送させて、該基材の全面が処理されるように構成するのが理想的である。なお、前記非放電部とは、放電の発生しづらく前記高放電部より電界強度の低い部分であって、放電が殆ど発生しないか又はゼロであることを意味する。
上記の構成において、複数存在する電界強度の高い放電部の中で優劣があると、その中で、更に最も電界強度が高いところに放電が集中することがある。従って、電界強度の高い放電部は、すべて同等の電界強度(即ち、一定値の電界強度)になるように設定されている必要があり、更に、その値としては、少なくとも100kV/cmより大きいことが好ましい。
【0016】
また、前記接地側電極としては、例えば、金属板、金属板以外の導電性の部材など、導電性の電極板から形成され、該電極板の少なくとも一部、好ましくは全部が、厚み0.1〜10mmで、誘電率10以下の誘電体によって被覆されていることが好ましい。このように誘電体によって被覆された電極版を接地側電極とすることは、放電による不具合を解消する上で特に重要である。
前記導電性部材としては、例えば、金属薄膜、酸化物半導体薄膜、導電性窒化物薄膜、導電性ホウ化薄膜、などの導電性薄膜が挙げられる。
前記金属薄膜に用いる金属としては、例えば、金、銀、白金、銅、アルミニウム、クロムなどが挙げられる。
前記酸化物半導体薄膜としては、例えば、酸化インジウム(In2O3)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO2)、及びこれら酸化物の複合系素材(例えば、酸化スズ+酸化亜鉛:Zn2SnO4、酸化インジウム+酸化亜鉛:In2O3−ZnO、酸化インジウム+酸化スズ:In2O3−SnO2など)、などが挙げられる。
前記導電性窒化物薄膜としては、例えば、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(TiZr)、窒化ハフニウム(HfN)、などが挙げられる。
前記導電性ホウ化薄膜としては、例えば、ホウ化ランタン(LaB6)、などが挙げられる。
前記導電性薄膜の形成方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、例えば、スパッタ法にて形成することができる。
【0017】
また、前記電極板を被覆する誘電体として、誘電率が10を超える材料を用いると、放電の集中が生じやすく、ムダなエネルギーを消費するばかりか、放電の集中によって基材に穴が開いたり、場合によっては発煙や燃焼を生じることがある。
前記誘電率10以下の誘電体としては、例えば、雲母(4.5〜7.5)、ガラス(3.7〜10)、パイレックスガラス(登録商標名、4.8)、酸化アルミナ(2.14)、石英ガラス(3.5〜4.0)、硼珪酸ガラス(4.0〜5.0)などの無機材料が好ましく挙げられる。また、塩化ビニル樹脂(5.8〜6.4)、ウレタン(6.5〜7.1)、エポキシ樹脂(2.5〜6)、生ゴム(2.1〜2.7)、加硫ゴム(2.0〜3.5)、天然ゴム(2.7〜4.0)、鉱物油(2〜2.5)、3フッ化エチレン樹脂(2.4〜2.5)、4フッ化エチレン樹脂(2、登録商標名:テフロン)、フッ素樹脂(4.0〜8.0)、シリコーン樹脂(3.5〜5)、シリコーンゴム(3.0〜3.5)、全芳香族ポリイミド(3.2〜3.4)、半脂肪族ポリイミド(2.8〜3.0)、全脂肪族ポリイミド(2.5〜2.6)、ポリエステル樹脂(2.8〜8.1)、ポリカーボネート樹脂(2.9〜3.0)、紙(2.0〜2.5)などの有機材料が挙げられる。ただし、上記材料の例示中、カッコ内は各材料の誘電率を表す。
【0018】
また、前記接地側電極として、厚み0.1〜10mmの誘電体で被覆された電極板を用いることは、印刷インク定着に効果のある沿面放電を安定して維持できることに加えて、不測の事態によってアーク放電を抑制するための安全機構となり得るため、好ましい。
前記誘電体の厚みが、0.1mm未満であると、薄すぎて、実用上、些細な製造作業ミスや取り扱い時のエラーなどで接地電極の金属部分が露出することがある。この場合、アーク放電が起き、金属電極損傷や周辺部材の発火や燃焼など引き起こすおそれがある。一方、前記誘電体の厚みが、10mmを超えると、実用的な印刷インク定着速度を得るためには、電源容量をより大きなものにする必要があり、コンパクト化や低コスト化が図れないことがある。
【0019】
前記非接地側電極については、以下の(1)、(2)、及び(3)の少なくともいずれかの条件を満たすものであれば、本発明のインク定着に有効に用いることができる。
(1)非接地側電極が、対向する接地側電極との該対向側に、複数の突起部を有する金属、前記で述べたような金属薄膜などの導電性の電極板であり、かつ、対向する他方の接地側電極の電極面に対して垂直な面によってできる所望の断面形状における前記突起部の先端形状が、R0.5mm以上、R10mm以下となっている部位を少なくとも有する。前記Rとは、曲率半径を表す。
前記先端形状が、R0.5mm未満であると、放電時に同時に発生するスパッタ現象が強く影響し、使用中にさらに削れて先端が鋭くなってしまい、放電集中が起きることがある。これは印刷インク定着のムラを生じさせるだけでなく、基材の損傷や発火のおそれを生じることがある。また、前記先端形状が、R10mmを超えると、放電の発生する場所が一定せず変動しやすくなり、基材面内を均一に処理するためには、より多くの面積の非接地側電極用の部材が必要となることがある。これは、高速で基材上の印刷インクを定着したい場合、その電極に必要な容積が大きくなることを意味しており、装置内にコンパクトに収納することができなくなる、即ち、装置サイズがムダに大きくなることがある。
(2)非接地側電極が、直径1mm以上、20mm以下の円柱状及び円管状のいずれかの形状で、かつ、金属又は金属以外の導電性材料を少なくとも用いて形成されている。
前記円柱状又は円管状の導電性材料の直径が1mm未満であると、放電時に同時に発生するスパッタ現象が強く影響し、使用中にさらに削れて直径が部分的に細く鋭くなってしまい、放電集中が起きることがある。これは、印刷インク定着のムラを生じさせるだけでなく、基材の損傷や発火のおそれを生じることがある。また、前記直径が20mmを超えると、高速で基材の印刷インクを定着したい場合、その電極に必要な容積が大きくなり、装置内にコンパクトに収納することができなくなる、即ち、装置サイズがムダに大きくなることがある。
(3)非接地側電極が、少なくとも金属あるいは導電性の部材からなる導電性部材を用い、
(3−1)直線状に複数切り出した前記導電性部材を相互に電気的に接合させたもの、
(3−2)1本の長尺な前記導電性部材を折曲、即ち、折り返したり屈曲するなどしたものを1本、又は複数本を組み合わせて電気的に接合させたもの、
(3−3)直線状に複数切り出した導電性部材と、長尺な導電性部材を折曲させたものとを、それぞれ少なくとも1本以上組み合わせて電気的に接合させたもの、
のいずれかによって構成されたものであって、
かつ、接地側電極の電極面に対して垂直な面で形成される所望の断面形状における先端形状が、R0.5mm以上、R10mm以下となっている部位を少なくとも有する。
前記(3−1)、(3−2)、及び(3−3)の非接地側電極において、前記先端形状が、R0.5mm未満では、放電時に同時に発生するスパッタ現象が強く影響し、使用中にさらに削れて先端部分が鋭くなってしまい、放電集中が起きることがある。これは印刷インク定着のムラを生じさせるだけでなく、基材の損傷や発火のおそれを生じることがある。また、先端形状が、R10mmを超えると、放電の発生する場所が一定せず変動し易くなり、基材面内を均一に処理するためには、より多くの非接地側電極用部材が必要となることがある。これは、高速で基材の印刷インクを定着したい場合、その電極に必要な容積が大きくなることを意味しており、装置内にコンパクトに収納することができなくなる、即ち、装置サイズがムダに大きくなることがある。
【0020】
前記電極の具体例を図5〜図10に示すが、上記要件を満たしていれば、必ずしも図に示された例にのみに限定されるものではない。
図5は、金属板9の全部が誘電体10で被覆された接地側電極7の具体例であり、図5の(A)は、該接地側電極7の斜視図を、図5の(B)はその断面図を示す。
図6は、金属板9の表面に突起11を複数を設けて凹凸形状とした非接地側電極8の斜視図(A)及びそのX−X’線断面図(B)である。
図7は、円管状の長尺な金属配管12を、複数回折曲することにより形成した非接地側電極8の斜視図(A)及びそのX−X’線断面図(B)である。該金属配管12は、前述のように、直径1〜20mmが好ましい。
図8は、直線状に切り出した複数の金属板9と、導電線13とを組み合わせて形成した非接地側電極8である。図8の(A)は、該非接地側電極8の斜視図で、図8の(B)は、その製造工程を示す概念図であり、図8の(C)は、図8の(A)のX−X’線断面図である。図8の(C)に示されるように、前記非接地側電極8は、直線状に切り出した金属板9の一側面側を削って、先端の断面形状が凸状となるように形成し、該金属板を複数並列に並べた後、これらが同電位となるよう、導電線13で接続することにより、一体化している。前記金属板9の凸状の先端が、R0.5〜10mmとするのが好ましい。
図9は、円管状の長尺な金属配管12を複数回折曲したものを、複数本組み合わせて形成した非接地側電極8である。その形成工程としては、図9の(A)に示すように、長尺な金属管12を複数回折曲する。次に、図9の(B)に示すように、前記折曲した金属間12を複数本組み合わせ、電気的に同電位となるように、該複数の金属管12どうしを配線14により接続して一体化することにより、非接地側電極8を形成する。図9の(C)は、その断面図である。
図10は、直線状に切り出した金属板9の一側面側を削って、先端の断面形状が凸状となるように形成し、該金属板9を導電線13で複数並列に接続することにより一体化したもの(図10の(A))と、円管状の長尺な金属配管12を複数回折曲したもの(図10の(B))とを、各々複数組み合わせ、電気的に同電位となるように、これらを互いに配線14により接続し、一体化することにより非接地側電極8を形成したものである(図10の(C))。
【0021】
基材(紙)の搬送方向に対して長尺な電極を用いたり、複数の電極を用いることは、電源コストを低下させることに対して極めて効果があることが、これまでの検討の結果わかっている。
基材(紙)上のインクを定着させるのには必要な放電量がある一定量あればよく(ただし、該放電量は、印刷インクの種類などによって差がある)、それを超えて多大な放電量があったとしても電極間に無効な電流を流すためだけに電力が使われたり、基材(紙)を損傷してしまうエネルギーとなってしまうだけで、インク定着に関しては全く意味がない。また、放電は広く浅く均一に、一定量を与える必要があると一般的に考えられている。
これまでの種々の検討から、一定の面積を持った電極からインク定着に寄与する放電量を引き出すことは限度があることがわかっている。限度を超えたものは無効な電流となったり、基材(紙)を損傷(発熱させて分解したり燃やしてしまうなど)したりしてしまう。
非接地電極の非放電部分を除いた金属または導体における単位面積当たり(1cm2当たり)の投入電力は最大約7Wであり、これを超えて電力を加えてもインク定着に寄与する放電は得られない。
投入電力について、更に最適化するにあたっては、印刷インクの組成や基材へのインク供給量、定着速度、誘電体の種類などによって調整する必要がある。
放電電極面積を変えないでインク定着に寄与する放電を増やそうとすると、電源周波数を高くしなければならないが、高圧で100kHz以上を与える電源は、電源自体が非常に大きなものとなってしまい、実用的でない。
低周波であっても(50z〜60kHz)、搬送方向に対して長尺な電極を用いたり、複数の電極を用いることによって、インク定着に有効な放電をより多く引き出すことができる。なお、このような長い距離の(複数の)電極間を高速に基材(紙)を搬送できるのはベルト部材を用いるのが最も適していると考えられる。該ベルト部材を用いた搬送手段(以下、ベルト搬送と称することがある)について、後に詳細に説明する。
【0022】
−印刷インク−
本発明のインク定着方法及びインク定着装置で使用される印刷インクとしては、構成成分としてカルボキシル基を有する不揮発性有機化合物が含まれ、かつ、光重合開始剤を含んでいないインクであれば特に制限はなく、目標とする色相に応じて適宜材料を選択することができる。
前記印刷インクとしては、エマルションインク、水性インク、油性インクが挙げられる。これらに含まれる前記カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物としては、炭化水素、油脂、ロウ類、高級脂肪酸、樹脂、樹脂の前駆体、高級アルコール、エステル類、グリセリン、などが好適に挙げられる。これらの成分は、環境負荷低減及び有害物質の発生抑制などの観点からも好ましい。また、これらの成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
このような印刷インクを使用し、大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)を用いた活性エネルギー線を付与することによって、インクを基材に定着させることにより、有害物質発生の防止効果に優れるとともに、未定着インクが生じた場合でも、人体や環境への影響を良好に回避することができる。
【0023】
前記水性インクとしては、前記成分の他に、水または水溶性有機溶剤、染料、顔料、分散剤を含んでなり、必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、浸透剤、キレート化剤、乾燥防止剤、有機アミンなどを含んでなる。また、前記水性インクの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法の中から適宜選択することができるが、例えば、有機溶剤又は水に、前記成分を分散させ、必要に応じて乳化して、インク化する。
【0024】
前記油性インクとしては、前記成分の他に、有機溶剤又は油、染料、顔料、分散剤を含んでなり、必要に応じて、界面活性剤、粘度調整剤、防菌剤、潤滑剤、高分子分散剤、可塑剤、帯電防止剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを含んでなる。また、前記油性インクの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法の中から適宜選択することができるが、例えば、有機溶剤又は油成分に、前記成分を分散させ、必要に応じて乳化して、インク化する。
【0025】
前記エマルションインクは、油相と水相とからなり、前記油相には、前記樹脂などから選択される成分の他に、有機白顔料、白色以外の着色顔料、体質顔料、無機系白顔料、分散剤、酸化防止剤、乳化剤、ゲル化剤、更その他の成分を含有してなる。また、前記水相には、有機白顔料、水、水溶性高分子化合物、抗菌剤、水の蒸発防止剤又は凍結防止剤、電解質、O/W樹脂エマルジョン、pH調整剤、その他の成分を含有してなる。また、前記エマルションインクの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法の中から適宜選択することができるが、例えば、常法により油相及び水相液を予め別々に調製し、前記油相中に水相を添加して、ディスパーミキサー、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー等の公知の乳化機内で乳化させることにより製造することができる。
【0026】
−−樹脂−−
前記樹脂としては、特に制限はなく、目標とする色相に応じて適宜選択することができ、例えば、アルキド樹脂、ロジン;重合ロジン、水素化ロジン、ロジンエステル、ロジンポリエステル樹脂、水素化ロジンエステル等のロジン系樹脂;ロジン変性アルキド樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂等のロジン変性樹脂;マレイン酸樹脂;フェノール樹脂;石油樹脂;環化ゴム等のゴム誘導体樹脂;テルペン樹脂;重合ひまし油、などが挙げられ、これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アルキド樹脂が特に好ましい。
【0027】
前記樹脂のインクにおける添加量としては、コスト及び印刷適正の観点から、15〜65質量%が好ましく、25〜45質量%がより好ましい。
前記樹脂の重量平均分子量は、定着性及び印刷適性から8,000〜16万が好ましく、3万〜8万がより好ましい。
前記樹脂の重量平均分子量が低い場合及び添加量が少ない場合には、定着性への効果が小さいことがあり、一方、重量平均分子量が高すぎたり、樹脂の添加量が多い場合にはインクの粘度が高くなり、インクが漏れるなどの印刷適性の問題が生じることがある。
【0028】
−−樹脂の前駆体−−
前記樹脂の前駆体とは、モノマー、オリゴマー、分散体ポリマーなどである。前記前駆体としては、特に制限はなく、目標とする色相に応じて適宜選択することができ、例えば、モノマー、オリゴマー、分散体ポリマーなどが挙げられる。
前記モノマーとしては、取り扱いの安全性などを考慮して、単官能イミドアクリレート(HHPI−A)、ニ官能アクリレート(NDDA、TEGDA、TCDDA、NPG・PO・DA、TPGDA、A−BPE4)、多官能アクリレート(TMPTA、PETA、THEIC−TA、DTMPTA、DPHA、TMP・EO・TA)、などが挙げられる。
前記オリゴマーとしては、ポリエステル・アクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、などが挙げられる。
前記分散体ポリマーとしては、スチレンアクリルポリマー(具体的製品としては、ジョンクリル63、ジョンクリル61J、ジョンクリルHPD71、ジョンクリルHPD96:ジョンソンポリマー株式会社製、などが挙げられる)、ポリアクリル酸ナトリウム(具体的製品としては、アクアリックDLシリーズ:株式会社日本触媒製、が挙げられる)、アクリル酸/マレイン酸共重合体塩(具体的製品としては、アクアリックTLシリーズ:株式会社日本触媒製、が挙げられる)、などが挙げられる。
前記樹脂の前駆体のインクにおける添加量としては、15〜65質量%が好ましく、20〜45質量%がより好ましい。
【0029】
−−油脂−−
前記油脂とは、脂肪酸とグリセリンがエステル結合したものである。前記油脂としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、植物油脂、動物油脂、石油精製油脂、などが挙げられる。
前記植物油脂としては、例えば、アポカド油、アルモンド油(アーモンド油)、アルガン油、オリーブ油(オリブ油)、カロット油(キャロット油)、キューカンバー油、ククイナッツ油(キャンドルナッツ油)、グレープシード油(プドウ油)、ゴマ油、小麦胚芽油、コメ胚芽油(オリザオイル)、コメヌカ油(コメ油)、コーン油、サフラワー油、シアバター(シア脂)、シソ油、大豆油、茶油(茶実油、茶種子油)、月見草油、ツパキ油、トウモロコシ胚芽油(マゾラ油)、ナタネ油、パーシック油(杏仁油、桃仁油)、ハトムギ油、パーム油、パーム核油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油(カスターワックス)、ヒマワリ油、サンフラワー油、へーゼルナッツ油、ポピー油、ボラジ油、マカデミアナッツ油、メドウホーム油、綿実油、モクロウ、ヤシ油、落花生油(ピーナツ油)、リンシード油、ローズヒップ油、などが挙げられる。
前記動物油脂としては、例えば、オレンジラフィー油、牛脂、タートル油(アオウミガメ油)、ミンク油、卵黄油、粉末卵黄油(水素添加卵黄油)、馬油、などが挙げられる。
前記石油精製油脂としては、鉱油、合成油などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記油脂のインクにおける添加量としては、15〜65質量%が好ましく、20〜45質量%より好ましい。
【0030】
−−ロウ類−−
前記ロウ類は、高級脂肪酸と高級アルコールのエステルである。前記ロウ類としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カルナウバロウ、鯨ロウ、セラック、ホホバ油、ミツロウ、サラシミツロウ(白ロウ)、モンタンロウ(モンタンワックス)、ラノリン、ラノリン誘導体、還元ラノリン、硬質ラノリン、吸着精製ラノリン、硬化油、などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記ロウ類ののインクにおける添加量としては、15〜65質量%が好ましく、20〜45質量%より好ましい。
【0031】
−−炭化水素−−
前記炭化水素は、炭素と水素のみからなる化合物である。前記炭化水素としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、α−オレフィンオリゴマー、α−メチルナフタレン、β−メチルアンスラセン、n−オクタデシルベンゼン、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジシクロヘキシル、ジフェニルメタン、スクワラン、植物性スクワラン、CDスクワラン、セレシン(地ロウ)、テトライソブチレン、テトラリン、デカリン、トリメチロールプロパンエステル、m−ビス(m−フェノキシフェノキシ)ベンゼン、パラフィン系炭化水素(固形パラフィン)、ヒドロポリイソブチレン、n−ヘキサン、n−ヘキサデシルベンゼン、n−デカン、o−キシレン、1,1−ジフェニルヘキサデカン、ナフタレン、ナフテン系炭化水素、芳香族炭化水素、プリスタン、ポリイソブチレン、ポリエチレン末、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、マイクロクリスタリンワックス、流動パラフイン、ワセリン、などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記炭化水素のインクにおける添加量としては15〜65質量%が好ましく、20〜45質量%がより好ましい。
【0032】
−−高級脂肪酸−−
前記高級脂肪酸とは、天然の油脂およびロウの構成成分であり、一般式RCOOHなどで表される化合物である。前記高級脂肪酸としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アラキドン酸、イソステアリン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘニン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、ラノリン脂肪酸、硬質ラノリン脂肪酸、軟質ラノリン脂肪酸、リノール酸、リノレン酸、などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記炭化水素のインクにおける添加量としては、15〜65質量%が好ましく、20〜45質量%がより好ましい。
【0033】
−−高級アルコール−−
前記高級アルコールとは、炭素原子数6以上の一価アルコールである。前記高級アルコールとしては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、オクチルドデカノール、キミルアルコール(グリセリルモノセチルエーテル)、コレステロール(コレステリン)、シトステロール(シトステリン)、ステアリルアルコール、セタノール(セチルアルコール、パルミチルアルコール)、セトステアリルアルコール、セラキルアルコール(モノオレイルグリセリルエーテル)、デシルテトラデカノール、バチルアルコール(グリセリルモノステアリルエーテル)、フィトステロール(フィトステリン)、ヘキシルデカノール、ベヘニルアルコール、ラウリルアルコール、ラノリンアルコール、水素添加ラノリンアルコール、などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記高級アルコールのインクにおける添加量としては、15〜65質量%が好ましく、20〜45質量%がより好ましい。
【0034】
−−エステル類−−
前記エステルとは、酸とアルコールとから脱水して得られる有機化合物であり、前記酸としては、脂肪酸、多塩基酸、ヒドロキシ酸などが挙げられ、前記アルコールとしては、低級アルコール、高級アルコール、多価アルコールなどが挙げられる。
前記エステル類としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アセチル化ラノリン(酢酸ラノリン)、イソステアリン酸イソセチル(イソステアリン酸ヘキシルデシル)、イソステアリン酸コレステリル、エルカ酸オクチルドデシル(EOD)、オクタン酸セチル(2−エチルヘキサン酸セチル)、オクタン酸セトステアリル(2−エチルヘキサン酸セトステアリル、イソオクタン酸セトステアリル)、オレイン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、ステアリン酸イソセチル(ステアリン酸ヘキシルデシル)、ステアリン酸コレステリル、ステアリン酸ブチル、長鎖−αヒドロキシ脂肪酸コレステリル(GLコレステリル)、トリミリスチン酸グリセリン、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、パルミチン酸イソプロピル(IPP、イソプロピルパルミテート)、ヒドロキシステアリン酸コレステロール、ミリスチン酸イソトリデシル(MITD)、ミリスチン酸イソプロピル(lPM、イソプロピルミリステート)、ミリスチン酸オクチルドデシル(MOD)、ミリスチン酸ミリスチル、ラウリン酸ヘキシル、ラノリン脂肪酸イソプロビル、ラノリン脂肪酸コレステリル、リンゴ酸ジイソステアリル、などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記エステルのインクにおける添加量としては、15〜65質量%が好ましく、20〜45質量%がより好ましい。
【0035】
このように、本発明のインク定着装置では、電極間の放電に伴う活性エネルギー線を用いることにより、従来のようなUVランプから発生される熱を強制冷却するための空冷ファンや熱排気ダクト、定着装置を開閉するためのシャッター機構、UV光の定着装置外部への漏れを防止するための遮断板、などを備える必要がなく、装置サイズを小さくして設置面積を節約できる。
また、光透過性の悪い色のインクであってもその特性に何ら影響されることなく硬化することができ、インクの種類などによらず、一定かつ低い硬化エネルギーを付与すればよいので、エネルギー効率に優れ、電源装置や維持運営の低コスト化が可能となる。
また、空気中の酸素により硬化反応が阻害されるなどの不具合がなく、阻害防止のための装置などが不要で、インク定着装置のコンパクト化、簡易化、及び処理効率の向上が可能となる。
また、油性インクでは、インクに含まれる油成分が大気中の酸素によって酸化されて硬化によって定着し乾燥するため、処理に時間がかかり、インクの滲みや、裏うつりなどを発生しやすく、印刷作業が困難になる不具合があったが、本発明のように、電極間の放電に伴う活性エネルギー線によりインク定着を行うことにより、油性インクに含まれる油成分の固化が促進され、インク定着を迅速かつ良好に行うことができる。
また、前記電極間の放電に伴う活性エネルギー線を用いることによって、紫外線光を用いた場合のように光の屈折、散乱及び反射などによる未照射部分が生じることがなく、未定着インクの発生を抑制して、人体や環境への影響を防止することができる。
【0036】
<インク供給手段>
前記インク供給手段は、基材の面上に印刷インクを供給するものである。
該インク供給手段により、基材の面上に印刷インクを供給した後、前記インク定着手段を用いて、該印刷インクに対してエネルギー線付与部により活性エネルギー線を付与し、印刷インクを定着するものであってもよく、定着性に優れるインクの定着が可能となる。
また、予め印刷がされ、未定着インクが残留する可能性のある基材に対して、前記インク定着手段を用いて、活性エネルギー線を付与して前記未定着インクを定着させた後、当該インク供給手段により、新たな印刷を行うものであってもよく、先の印刷と後の印刷とのインクの混色を防止して、にじみのない鮮明な印刷が可能となる。
前記インク供給手段としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、孔版、平版、凸版、凹版、及びインクジェット方式などが挙げられる。特に、インクジェット方式によるものであれば、オフセット印刷、スクリーン印刷に比べて、インク供給手段をコンパクトに形成することができる。
【0037】
<排出手段>
前記排出手段は、エネルギー線付与部による活性エネルギー線付与で生じる副産物を排出するものである。前記副産物としては、電極間の放電の際に生じるガス、電子線、光、基材からの脱ガス、インク定着時の反応などに伴って発生する種々のガスなどがあり、これらを除去するために、前記排出手段としては、ガス除去手段があり、このガス除去手段としては、ガス吸着手段、ガス解手段、ガス排気手段、などが挙げられる。なお、本発明では、低エネルギーで有害物質の発生の少ないインク定着が可能となるため、前記排出手段を設けていても、従来のインク定着装置で必要とされた空冷ファン、熱排気ダクト、シャッター機構、UV光の漏れ防止遮断板などに比べて、コンパクトで簡易なものとすることができる。
【0038】
−ガス除去手段−
前記電極間の放電の際に生じるガス、基材からの脱ガス、インク定着の際に生じるガスとしては、例えば、オゾンガス、NOxガス、VOCガス(揮発性有機化合物ガス)などが挙げられ、これらは、人体や環境に影響を与えたり、人体に軽重を問わず刺激を与える可能性がある。
前記ガス排気手段としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電極に臨ませて、排気ダクト、排気ファン、排気口などの風路を設けてもよい。この風路により、該電極付近の雰囲気を通気させて、前記ガスを除去することができる。
また、前記ガス吸着手段としては、前記風路内のいずれかの位置に、活性炭繊維、ゼオライト、光触媒などで形成したフィルターを配設し、これらにガスを吸着させてもよく、有害なガスの除去効果を更に高めて、人体への影響を極力防止することができる。前記フィルターは、活性炭繊維、ゼオライト、光触媒などを1種単独で用いて形成してもよいし、2種以上を組み合わせて形成してもよい。
また、前記NOxガスは、光触媒、ゼオライト、活性炭繊維の組み合わせによるガス吸着手段によって効果的に除去でき、NOxガスの優れた除去効果が得られる。また、この吸着されたNOxガスを、光触媒効果により、NO3イオンに分解することができ、NOxガスの除去に効果的である。
また、前記ガス分解手段として、例えば、前記オゾンガスを、前記活性炭繊維と接触させることにより、効果的にCO2に変化させることができる。従って、印刷機(定着機)の排気側の通気フィルタとして活性炭繊維を配置しておくことにより、オゾンガスの効率的な除去が可能となる。
また、前記VOCガスのガス吸着及び分解手段として、活性炭繊維に酸化チタンを添着したフィルターを用い、該フィルターによりVOCガスを効果的に吸着することができる。次に、該フィルターに屋外の太陽光を照射したり、適宜の紫外線ランプ(殺菌灯)の下で紫外線を直接照射することにより、前記活性炭繊維に吸着されていたVOCガスが酸化チタン触媒によってCO2に分解され、VOCガスの効果的な除去が可能となるとともに、活性炭繊維の再生使用が可能となる。また、ゼオライトと酸化チタン光触媒の組み合わせも、前記ガスの吸着及び分解手段として有効である。
これらのガス吸着手段やガス分解手段は、特別な換気装置(強制ダクト排気設備)がないような事務オフィスにおいても、通常換気が可能な場所であれば、容易な実用化が可能となる。
また、前記ガス排気手段として、装置からの排気を簡易的なダクトによって屋外へ排出すことが有効であり、作業者によって上記の手段を用いても副生物に対して過敏に反応する場合などに好適である。
更に、前記オゾンガスやNOxガスなどを発生させない環境を作ることも、人体への安全のために有効である。例えば、通気風路の放電電極の上流側に、シリコーンゴム製、ポリイミド製中空糸膜などで形成された、酸素遮断の中空糸タイプフィルターを設けて酸素を遮断し、放電電極付近の雰囲気を窒素で満たすことにより、酸素と活性エネルギー線との接触が防止され、前記オゾンガスやNOxガスなどの発生を効果的に防止することができる。
【0039】
<入力手段>
前記入力手段は、インク定着装置に基材を導入する手段であり、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、給紙トレイ、給紙バンク(箱)、ロール紙セット機構、ロール紙カット機構、基材供給台、基材供給トレイ、基材供給棚、などが挙げられる。
<出力手段>
前記出力手段は、インク定着装置でインク定着を完了した基材を排出する手段であり、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、収納トレイ、収納バンク(箱)、収納棚、巻き取り機構、折り重ね収納機構、などが挙げられる。
【0040】
<搬送手段>
前記搬送手段は、インク定着装置内において基材を入力手段から出力手段に搬送する手段であり、該搬送手段により、基材がインク定着手段に搬送され、インク定着処理が行われる。
前記搬送手段としては、基材をインク定着手段に搬送可能であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、比誘電率10以下で、厚み0.03〜5.0mmのベルト部材による搬送(ベルト搬送)を少なくとも行うものが好ましい。
前記ベルト部材として、比誘電率10以下の材料を用い、該ベルト材料の厚みを0.03〜5.0mmとすることにより、大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)した際に、インク定着に有効に作用する活性エネルギー線をより多く付与することが可能となる。
前記ベルト部材の材料としては、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、4フッ化エチレン、ポリアミド、及びポリイミドから選択される少なくとも1種を含むものが好ましい。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、これらの誘電率は、前記接地側電極を被覆する誘電体の説明中で述べたとおりである。
このような材料を用いることにより、前記ベルト部材の比誘電率を10以下とすることができる。
なお、搬送時の終了点において基材をベルト表面から引き剥がしやすくするために、基材の帯電状態から除電するための除電手段を設けるのが好ましい。該除電手段としては、除電ブラシ、除電用のイオナイザーなどが好適に挙げられる。
前記搬送手段による基材の搬送速度としては、50〜200cm/秒が好ましく、100〜200cm/秒がより好ましい。前記搬送速度が、50cm/秒未満であると、生産性が低く、生産ラインの低下を招くことがある。前記搬送速度が、200cm/秒を超えると、大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)した際に、インク定着に有効に作用する活性エネルギー線の付与が不充分となり、インクの定着性が低下することがある。
【0041】
毎葉紙にインク印刷されたものを高速でかつ連続的に多数枚処理する必要性と、大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)によるインク定着を同時に実現する観点から、前記ベルト搬送が最も低コストで効果的である。
放電は印刷インクを硬化させる一方で、基材をも帯電させる作用を有しており、基材をベルト部材上に載置してベルト搬送すると、基材はベルト部材上に隙間無く吸い付けられた状態となる。
この状態は、プラズマ放電電極間の狭い間隙を高速で基材(紙)を通過させるのに、極めて好都合である。
即ち、プラズマ放電電極の間隙はその電界強度を高くすることによって、インク定着効果も向上できるとが種々の検討からわかっており、そのためには電極間間隙を狭くする必要があった。
しかしながら極めて狭い間隙に基材を確実に通過させることは、基材(紙)に何も押圧力の働かないフリーな状態では通過が困難で、間隙を構成している電極に基材が衝突する現象が起きる結果、いわゆるジャム現象などの問題を発生させる。
また、基材(紙)の搬送手段として、複数のローラを用いたローラ搬送が一般的に用いられているが、このローラ搬送では、高速搬送の目的で、毎葉紙などの基材を軽く湾曲させて搬送させる方法がしばしば用いられている。しかし、本発明のような放電によるインク定着に、ローラ搬送を用いた場合は、その基材(紙)の湾曲分だけクリアランス(間隙)の余裕を放電電極間に設ける必要が生じる。このように電極間の間隙が広くなることは、一定の高圧電源を用いた場合には、電界強度が低下することになり、充分な活性エネルギー線付与を行うためには、結果として、電極間での基材の搬送速度を低下させざるを得なくなる。
また、高圧電源の出力電圧を高くすることは技術的に不可能ではないが、トランスなどを余裕をみて大きくする必要があり、電源は勿論、装置全体のコンパクト化や低コスト化が図れない。このような問題を解消するためにも、前記ベルト搬送が好適である。
前記ベルト搬送の更なる有利な点としては、基材がベルト面に吸着されて隙間無く一次的に固定されるので、電極を長尺とし、その間隙を狭幅とした場合でも、該長尺で瀬間幅な放電空間内において、基材を安定した状態で高速で移動させることができる。その結果、基材に活性エネルギー線を充分に付与して、優れたインク定着効果を、簡易に得ることができる。
【0042】
このように、ベルト搬送を行うことにより、長尺で狭幅な放電空間内において、ジャム現象などを生じることなく、基材を高速かつ円滑に移送することができるので、極めて優れたインク定着効果を得ることができる。したがって、高速に多量枚数の印刷物についてインク定着処理を行うという要望に対して、解決する策としては最も優れた方法である。
なお、当然のことながら本動作は、基材を連続して印刷しインク定着処理を行う場合において、電極を長尺にすることが可能であることから、高速移送した場合でも活性エネルギー線の付与による定着時間が長くなるということであって、その時間そのものが、インク定着装置や印刷装置での高速処理・タクトタイムに対して与える悪影響は非常に軽微であり、実状からみても全く問題がないレベルである。また、ジャム現象などの問題が防止できる分、より効率的な処理が可能となる。
【0043】
<作動制御手段>
前記作動制御手段は、前記インク定着手段の作動を制御するもので、例えば、基材の面上の未定着インクを検知又は検出し、未定着インクが存在する場合のみ、インク定着手段を作動させることにより、不必要なエネルギーの消費を防止して、エネルギー効率を向上させることが可能となり、維持運営の更なる低コスト化を可能とするものである。また、このような作動制御手段を備えることにより、比較的小さい被照射物、マーキング、線などの未定着インクに対して、効率よく活性エネルギー線を付与することができ、未定着インクを確実かつ効率的に硬化し定着させることができる。
【0044】
前記作動制御手段としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電気的な非接触センサー、磁気的な非接触センサー及び光学的な非接触センサーのいずれかを用いて未定着インクの存在を検知し、インク定着手段の動作タイミングを制御するものであってもよい。
前記電気的な非接触センサーは、静電容量センサーなどを用いて基材の静電容量を検出し、基材及びインク材料の有する誘電率の違いにより生じる前記静電容量の変化により、基材面上の未定着インクを検知する。
前記磁気的な非接触センサーは、インクに含まれる微量な磁性体による磁力線の強度変化を検出することにより、基材面上の未定着インクを検知する。
前記光学的な非接触センサーは、インクの光に対する反射率又は吸収率の差異を検出することにより、基材面上の未定着インクを検知する。
【0045】
また、基材面上の全体に、均一に未定着インクが存在している場合には、前記作動制御手段としては、未定着インクそのものを検知するのではなく、基材の搬送手段の搬送経路に設置した、機械的手段と、電気的接点及び磁気的接点のいずれかとの組み合わせ、及び機械的手段と光学的センサーとの組み合わせから選択されるいずれかにより、基材が前記搬送手段によってインク定着手段を通過する始点及び終点を検知することにより、前記インク定着手段の動作タイミングを制御するものが好適である。基材の一部の未定着インク部分のみを検出する場合には、検出手段が複雑で精密なものとなることがあるが、本形態によっては、基材の始点と終点を検出すればよいので、作動制御手段を簡易なものとすることができる。
前記検知機構としては、前記基材の面始点を、例えば基材の搬送経路に設置した基材移動及び送りこみ用駆動部(駆動ローラ部等)と直結または機械的機構を介して間接的に連結したカム機構からなる機械的手段が、そのカム機構の動作に伴って応答する電気的接点または光学的センサーによって検出する。これによって、動作開始及び動作終了を基材の有無とみなし、さらに基材有を「みなし未定着インクの存在」、基材無を「みなし未定着インクの不在」と検知することによって、インク定着手段を作動する。または、基材の搬送経路中に機械スイッチを設置して基材通過時の基材との接触や重量変化を機械スイッチに連動した電気的接点、もしくは光学的センサーにて検知し、これによって基材の有無判定とし、さらに基材有を「みなし未定着インク」の存在、基材無を「みなし未定着インクの不在」とに検知することによって、インク定着手段を作動する。
このように、基材の始点を検知した時点で活性エネルギー付与部が作動し、基材の終点を検知した時点でエネルギー付与部を停止することにより、基材全体に活性エネルギー線を付与することができ、また、基材以外の部分に活性エネルギー線付与が行われることがなく、不必要なエネルギーの消費を防止して、エネルギー効率に優れるインク定着が可能となる。
【0046】
以上説明したように、本発明のインク定着装置は、エネルギー効率、作業性に優れ、装置がコンパクトで簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れるため、例えば、本発明の印刷装置、プリンター、塗布装置、コーティングマシンなどに好適に用いられる。
【0047】
ここで、本発明のインク定着装置について、図面を参照して更に詳しく説明する。
<第一の実施形態>
図1は、本発明の第一の実施形態におけるインク定着装置の概念図である。この第一の実施形態に係るインク定着装置は、インク供給手段とインク定着手段とを備えた構成であり、印刷機能を有する装置である。図1に示すインク定着装置100は、基材6の入力手段1と出力手段2と、該入力手段1から出力部2に基材を搬送する搬送手段3(ポリイミド製の無端ベルト部材)とを備えている。この搬送手段3の経路に、基材6に印刷インクを供給するインク供給手段5を配置し、その下流側に、該インク供給手段5により基材6の面上に供給されたインクを定着させるためのインク定着手段の一つとして、電極間の放電に伴う活性エネルギー線を付与するエネルギー線付与部4を配置している。該エネルギー線付与部4は、前記搬送手段3の無端ベルト部材を挟んで、接地側電極7と非接地側電極8とを、0.5mmの間隙を介して対向させて配置することにより構成されている。図1中の矢印は、基材6の流れを示している。
前記第一の実施形態では、入力手段1から入力された基材が、搬送手段部3によりインク供給手段5に搬送され、基材の面上にインクが供給された後、該基材面上のインクに対して、エネルギー線付与部4により活性エネルギー線が付与され、定着性に優れるインクの定着が行われた後、出力手段2により出力される。
また、このような構成の第一の実施形態のインク定着装置に、副産物の排出手段、インク定着手段の作動制御手段を設けてもよい。
また、第一の実施形態のインク定着装置は、エマルションインク、水性インク、油性インクの定着や乾燥に好適である。また、第一の実施形態のインク定着装置の用途としては、該インク定着装置を組み合わせることにより、重ね塗りができるカラー(多色)印刷に好適に用いることができる。
【0048】
<第二の実施形態>
図2は、本発明の第二の実施形態におけるインク定着装置の概念図である。この第二の実施形態に係るインク定着装置は、面上に予めインクが付与された基材が入力され、インクの定着のみを行うタイプの装置であり、インク供給部を備えていない構成となっている。図2に示すインク定着装置100は、基材の入力部1と、出力部2と、該入力部1から出力部2に基材を搬送する無端ベルト部材からなる搬送手段3を備え、該搬送手段3の経路に、インク定着手段の一つとして、前記搬送手段3の無端ベルト部材を挟んで、0.5mmの間隙を介して対向させた、接地側電極7と非接地側電極8とからなるエネルギー線付与部4を配置している。図2中の矢印は、基材6の流れを示している。
前記第二の実施形態では、面上に予めインクが供給された基材6が入力部1から入力され、搬送部3によりエネルギー線付与部4に搬送され、該エネルギー線付与部4により、基材6面上のインクに対して活性エネルギー線が付与されることにより、定着性に優れるインクの定着が行われた後、基材6が出力手段2により出力される。
また、第二の実施形態のインク定着装置にも、副産物の排出手段、インク定着手段の作動制御手段を設けてもよい。
また、第二の実施形態のインク定着装置は、エマルションインク、水性インク、油性インクの定着や乾燥に好適である。また、第二の実施形態のインク定着装置の用途としては、印刷物のインクの定着、乾燥以外に、油絵などの美術品の乾燥及び定着に好適に用いることができる。また、活性エネルギー線の殺菌、消毒、乾燥作用により、食品包装材料への印刷に好適に用いることができる。
【0049】
<第三の実施形態>
図3は、本発明の第三の実施形態におけるインク定着装置の概念図である。この第三の実施形態に係るインク定着装置100は、基材6の入力手段1と、出力手段2と、ポリイミド製の無端ベルト部材からなる搬送手段3とを備え、該搬送手段3の経路にインク供給手段5を備え、該インク供給手段5の上流側に、インク定着手段として、接地側電極7と非接地側電極8とからなるエネルギー線付与部4を配置している。図3中の矢印は、基材6の流れを示している。
前記第三の実施形態では、入力部1から入力される基材6はすでに別の印刷装置又は同印刷装置で、それより前の時刻に別の印刷が施されたものであって、その少なくとも一部には未定着のインクが残留しているものとする。この未定着インクが残留した基材6が入力部1から、搬送部3によりエネルギー線付与部4に搬送され、該エネルギー線付与部4により基材6の面上に活性エネルギー線が付与され、前記未定着インクが定着される。この付与後に、基材6がインク供給手段5に搬送され、該基材6の面上へのインクの供給が行われた後、出力手段2により出力される。
また、第三の実施形態のインク定着装置にも、副産物の排出手段、インク定着手段の作動制御手段を設けてもよい。
また、第三の実施形態のインク定着装置は、インク定着機構を装備していない従来印刷装置を使って、既に印刷された基材に2色以上の多色刷りをしたい場合であって、混色を避けたい場合などに用いるのに好適である。
より具体的には、製品販促用のチラシ、サービス宣伝用のチラシなどを、まず、本社の従来の印刷装置で多量枚数を印刷しておく。ただし、この場合、印刷インクは、構成成分としてカルボキシル基を有する不揮発性有機化合物が含まれ、かつ、光重合開始剤を含んでいないものを使用する。次に、全国各地の支社や支店又は販売店などで、本発明の前記第三の実施形態のインク定着装置を使って、本社の印刷時には印刷されていなかった支社や支店・販売店の情報や地域の情報等を付加的に印刷するような場合が想定され、このような用途として好適に用いることができる。
【0050】
<第四の実施形態>
図4は、本発明の第四の実施形態におけるインク定着装置の概念図である。この第四の実施形態に係るインク定着装置100は、基材6の入力手段1と、出力手段2と、無端ベルト部材からなる搬送手段3とを備え、該搬送手段3の経路にインク供給手段5を備え、該インク供給手段5の上流側及び下流側に、インク定着手段として、エネルギー線付与部4a及び4bを各々配置している。図4中の矢印は、基材6の流れを示している。
前記第四の実施形態では、入力手段1から入力される基材6は、既に別の印刷装置で印刷が施されたか、又は同第四の実施形態の印刷装置で、当該印刷時より前の時刻に別の印刷が施されたものであって、その少なくとも一部には未定着のインクが残留しているものとする。この未定着インクが残留した基材6が入力手段1から、搬送部3によりエネルギー線付与部4aに搬送され、該エネルギー線付与部4aにより基材6の面上に活性エネルギー線が付与され、前記未定着インクが定着される。この付与後に、基材6がインク供給手段5に搬送され、該基材6の面上にインクが供給される。このインクが供給された基材6の面上の該インクに対して、更に下流側のエネルギー線付与部4bにより、基材6の面上に活性エネルギー線が付与されることにより、インクの定着が行われ、その後出力手段2により出力される。
また、第四の実施形態のインク定着装置にも、副産物の排出手段、インク定着手段の作動制御手段を設けてもよい。
また、第四の実施形態のインク定着装置は、定着機構を装備していない従来印刷装置を使って、既に印刷された基材に2色以上の多色刷りをしたい場合であって、混色を避けたく、更に手擦れ汚れ等を発生させたくない印刷などに用いるのに好適である。
また、より具体的に、第四の実施形態のインク定着装置の用途としては、前記第三の実施形態のインク定着装置の用途より、更に高速かつ確実な仕上げが必要なチケット、入場券、有価証券、商品券、証明書、保証書などの印刷に用いるのに好適である。
【0051】
(印刷装置)
本発明の印刷装置は、前記発明のインク定着装置を少なくとも有してなり、必要に応じて、インク供給手段、入力手段、出力手段、副産物の排出手段などを有してなる。
本発明の印刷装置の実施の形態としては、前記インク定着装置で説明した、図1、図3、及び図4に示すような形態などが好適に挙げられる。
本発明の印刷装置は、前記本発明のインク定着装置を有していることから、エネルギー効率、作業性に優れ、装置がコンパクトで簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れたインクの定着が可能で、低コストで高画質画像が得られため、孔版印刷装置、インクジェット印刷装置、凸版印刷装置、オフセット印刷装置などに好適に用いられる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0053】
−エマルションインクの調製−
まず、下記表1に記載の処方により着色剤、油成分、分散剤、樹脂、及び乳化剤を混合し、高速ディゾルバーにて攪拌した。その後、ビーズミル(LMZ2、アシザワ・ファインテック株式会社製)を用いて分散処理を行って油相を調製した。
次に、表1に記載の処方により着色剤、水溶性高分子、分散剤、凍結防止剤、及び防腐剤を混合し、この混合液を水に良く溶解させて水相を調製した。
次いで、乳化機(日光ケミカルズ株式会社製、乳化試験機ET−3A型)を使用し、前記油相液を仕込んで液を撹拌しながら、徐々に前記水相液を添加した。以上により、W/Oエマルションインクを作製した。
【0054】
【表1】
上記表1の構成のW/Oエマルションインクに関して、油相成分の中に油成分として植物油の「大豆油」があるが、この油は植物天然油であるため、若干の遊離脂肪酸を含んでいる。該遊離脂肪酸中にカルボキシル基の成分が存在していることから、これが後述のインク定着手段により、大気圧近傍の電極間の放電(大気圧プラズマ放電)が与えられた際に、基材に定着する化学変化(効果)を生じさせると推測する。
【0055】
−水性インクの調製−
以下のようにして、水性インクジェット用インクをそれぞれ調製した。なお、インクはシアン、マゼンタ、イエロー、及びクロの4色で1セットである。
まず、下記表2に記載の組成により、水に顔料、顔料分散剤、適宜添加剤等を投入し、ビーズミル(アシザワ・ファインテック社製、ミニゼーターMZ03)を用いて顔料分散液を作製した。
次に、得られた顔料分散液を平均孔径3μmのフィルターで濾過し、水性インクジェット用インクを調製した。
【0056】
【表2】
上記表2構成の水性インクに関して、添加剤の成分として「クエン酸」を含有している。該クエン酸中に、カルボンキシル基の成分が存在していることから、これが大気圧近傍の電極間の放電(大気圧プラズマ放電)が与えられた際に、基材に定着する化学変化(効果)を生じさせると推測する。
【0057】
−油性インクの調製−
下記表3に記載の材料を、工業用攪拌機(300rpm、60分)にて攪拌し、油性インクを調製した。該油性インクは揮発性溶剤を用いておらず、人体への影響がない成分構成となっている。
【表3】
上記表3の構成の油性インクに関して、油相成分の中に油成分として、「ひまし油」が含有されているが、このひまし油は天然の油であるため、若干の遊離脂肪酸を含んでいる。この場合も、該遊離脂肪酸中にカルボキシル基の成分が存在していることから、これが大気圧近傍の電極間の放電(大気圧プラズマ放電)が与えられた際に、基材に定着する化学変化(効果)を生じさせると推測する。
【0058】
(実施例1〜実施例8)
図1に示すような印刷装置を用いて、前記で調整したW/Oエマルションインクにより、図13(A)に示すように、普通OA用紙に幅75mmのベタ印刷を行い、得られたベタ印刷についてインク定着性の評価を行った。
前記図1の印刷装置は、インク供給部5の下流側に、搬送手段3であるポリイミド製無端ベルト部材を挟んで、0.5mmの間隙を介して接地側電極7と非接地側電極8とを対向させて配置することにより、エネルギー線付与部4を構成している。
また、前記接地側電極7として、図11に示すように、300mm×150mmのアルミ製平板の非接地側電極8と対向する側の一方面に、厚み約0.8mmの硼珪酸ガラス板(9%のB2O3を含有したSiO2、誘電率:4.0〜5.0)を接着固定した電極を使用した。また、前記非接地側電極8は、図12に示すように、長さ1,500mm、直径10mmの円管状の長尺な金属配管12(US配管)を、300mm×150mmの同一平面内に収まるよう、4回折曲することにより形成した電極を使用した。
また、前記搬送手段3として、一対の回転ローラにより回転する、厚み0.06mmのポリイミド製無端ベルト部材を使用した。
【0059】
<印刷及びインク定着処理>
図1に示す印刷装置では、搬送手段3により搬送されるOA用紙(基材)に、表4に示すように、前記で調整された印刷インクがインク供給手段5により供給された後、0.2〜0.6秒後(インク供給直後)に、インク定着手段のエネルギー線付与部4にて、接地側電極7と非接地側電極8との間の大気圧プラズマ放電に伴う活性エネルギー線がOA用紙のインクに対して付与されることにより、該インクの定着が行われる。各実施例で使用する電極の構造、誘電体の種類は前述のとおりで、電界波形は15kHzの矩形波形であり、電界強度100kV/cm、120kV/cm、140kV/cmの変動を有するものを、表4に示す条件で付与した。また、印刷及びインク定着処理は、気温20℃、湿度50%の環境下で行った。また、各実施例でのベタ印刷の色(黒色、青色、赤色)、インクの供給量は表4に示すとおりであり、前記搬送手段3による用紙の搬送速度は、100cm/秒である。
【0060】
<インク定着性の評価1(テープ剥離による評価)>
前記で得られたベタ印刷の表面に、図13に示すように、(B)マスキングテープ(NITTO社製、No720)を張り付け、(C)直径6cmのウレタンローラを使用し、1.2g/cm2の押し圧にてテープを押し付け、テープをOA用紙上に固定する。次に、(D)テープを直角方向に引き剥がし、(E)該テープの粘着面に移動したインクの量に応じて、下記評価基準によりインク定着性を評価した。
−評価基準−
5・・・インクがテープ側にまったく移動せず(テープの粘着面が白い状態)、インク定着性に極めて優れている。
4・・・インクの一部がテープに移動するが(手法の粘着面がわずかに灰色に変色する状態)、インク定着性に優れている。
3・・・インクの半分がテープに移動するが(テープの粘着面が灰色の状態)、実用上問題がない。
2・・・インクの半分以上がテープに移動し(テープの粘着面が黒灰色の状態)、インク定着性に劣る。
1・・・インクが全てテープに移動し(テープを剥がした後にインクが残らない)、インク定着性に極めて劣る。
【0061】
(実施例9〜実施例12)
図2に示すようなインク定着装置を備えた印刷装置を使用して、実施例1と同様の環境下でインク定着処理を行った。実施例9〜12では、OA用紙に予め、表4に示すように、前記で調整したカルボキシル基を有する不揮発性有機化合物が含まれ、かつ、光重合開始剤を含んでいないインクを供給し、8時間放置して、該インクをOA用紙に十分に浸透拡散させた後、該OA用紙を図2に示すインク定着装置に入力し、エネルギー線付与4により、活性エネルギー線を付与し、インク定着を行った。得られたベタ印刷に対して、実施例1と同様の方法でインク定着性を評価した。結果を表4に示す。
また、実施例9、10では、前記で調整したW/Oエマルションインクを用いて黒色のベタ印刷を行い、実施例11、12では、前記で調整した水性インクを用いて黒色のベタ印刷を行った。実施例9〜12で使用する電極の電界強度、予め供給されたインクの供給量、種類などは表4に示すとおりである。
また、実施例9〜12で使用する電極として、図2に示すように、エネルギー線付与部4として、図11に示す接地側電極7と、図12に示す非接地側電極8とを対向させて配置した。
また、前記搬送手段3として、厚み0.06mmのポリイミド製無端ベルト部材を使用し、該搬送手段3による用紙の搬送速度は、100cm/秒とした。
【0062】
(実施例13〜実施例16)
実施例13〜実施例16では、予め直前に普通OA用紙に、表4に示すように、前記で調整したカルボキシル基を有する不揮発性有機化合物が含まれ、かつ、光重合開始剤を含んでいない印刷インクで所定のテストパターンを、本発明の印刷装置とは別の従来の印刷機によって印刷されたものを200枚用意しておく。
そして、図3に示すような印刷装置を使用して、下記のようなインク定着手段としてのエネルギー線付与部4により電圧を印加して、先に印刷されたテストパターンを定着した後、インク供給手段5を用いて、前記テストパターン印刷済みの普通OA用紙と同一面に、重ならないように別のテストパターンを印刷する。得られた後の印刷のテストパターン及び、先に印刷されたテストパターンについて、下記のようにしてインク定着性の評価を行った。
実施例13〜16で使用する電極の電界強度、インクの供給量、種類などは表4に示すとおりである。
また、実施例13〜16で使用する電極として、図3に示すように、インク供給手段5の上流側に、エネルギー線付与部4として、図11と同様の接地側電極7と、図12と同様の非接地側電極8とを、搬送手段3のベルト部材を挟んで対向させて配置した。
また、前記搬送手段3として、厚み0.06mmのポリイミド製無端ベルト部材を使用し、該搬送手段3による用紙の搬送速度は、100cm/秒とした。
【0063】
<インク定着性の評価2(定着率による評価)>
インク定着性は、1枚目、10枚目、100枚目、200枚目について、先の印刷及び後の印刷のそれぞれのテストパターンに対してMONO消しゴム(株式会社トンボ鉛筆製)を10N・cmの荷重で押しつけ、5往復した結果のパターンの残留濃度をマクベス濃度計で測定し、その変化量から定着率を算出した。(先に印刷したパターンと、後に印刷したテストパターンを重ね合わせてインク同士の「にじみ」を評価するという場合、その度合いを検出が困難でかつ数値化し辛いという事情があるため。)
−評価基準―
消しゴムで消す前の濃度平均をaとし、消した後の濃度平均をbとし、b/a×100(%)をインク定着率とした。先に印刷されたテストパターンの定着率と、後に印刷されたテストパターンの定着率、及びこれらの差を表4に示した。
この場合、定着が行われた先に印刷されたテストパターンの定着率が80%以上で、かつ先に印刷されたテストパターン(本発明のインク定着手段により定着がされているもの)の残留濃度と、後に印刷されたテストパターン(本発明のインク定着手段により定着がされていないもの)の残留濃度の差が大きいほど(即ち、インク定着率の差が大きいほど)、先の印刷と後の印刷とでインクを重ねた時のインクの混色が防止でき、「にじみ」の発生の可能性が低いと評価することができ、本発明によるインク定着性が優れていることが判る。
【0064】
(実施例17〜実施例22)
実施例17〜実施例22では、予め直前に普通OA用紙に、表4に示すように、前記で調整したカルボキシル基を有する不揮発性有機化合物が含まれ、かつ、光重合開始剤を含んでいない印刷インクで所定のテストパターンを、本発明の印刷装置とは別の従来の印刷装置によって印刷されたものを200枚用意しておく。ここで、予め前記実施例13のインク定着性の評価2と同様の方法で、1枚目、10枚目、100枚目、200枚目の用紙を抜き取り、テストパターンの定着率を算出した後、当該用紙を元の場所に戻した。
そして、図4に示すような印刷装置を使用して、このテストパターン印刷済みの普通OA用紙の印刷面と同一面に、かつ重ならないように別のテストパターンを印刷した。
そして再び、1枚目、10枚目、100枚目、200枚目について、後に新しく印刷されたテストパターンに対して、インク定着性の評価2と同様の方法で、1枚目、10枚目、100枚目、200枚目について、定着率を算出した。結果を表4に示す。
実施例17〜22で使用する電極の電界強度、インクの供給量、種類などは表4に示すとおりである。
また、実施例17〜22で使用する電極として、図4に示すように、インク供給手段5の上流側に、エネルギー線付与部4aとして、図11と同様の接地側電極7aと、図12と同様の非接地側電極8aとを、搬送手段3のベルト部材を挟んで対向させて配置し、インク供給手段5の下流側に、エネルギー線付与部4bとして、図11と同様の接地側電極7bと、図12と同様の非接地側電極8bとを、ベルト部材を挟んで対向させて配置した。
また、前記搬送手段3として、厚み0.06mmのポリイミド製無端ベルト部材を使用し、該搬送手段3による用紙の搬送速度は、100cm/秒とした。
前記図4に示すような印刷装置では、先に印刷されたテストパターンと、後に印刷されたテストパターンの双方のインクを定着可能である。この場合、定着後の定着率が80%以上であること、及び、定着前の先の印刷のテストパターンの定着率と、定着後の後の印刷のテストパターンの定着率との差が大きいほど、「にじみ」の発生の可能性が低く、本発明によるインク定着性が優れていることが判る。
【0065】
(実施例23〜実施例25)
図1に示すような印刷装置を用いて、前記で調整した油性インクにより、実施例1と同様にして、図13(A)に示すように、普通OA用紙に幅75mmのベタ印刷を行い、得られたベタ印刷について、実施例1のインクの定着性1の評価と同様にして、インク定着性の評価を行った。結果を表4に示す。
実施例23〜25で使用する電極の構造、誘電体の種類は、実施例1と同様であり、電界強度、インクの供給量などは表4に示すとおりである。前記搬送手段3による紙送り速度は、100cm/秒である。
【0066】
(実施例26〜実施例28)
図2に示すようなインク定着装置を備えた印刷装置を使用して、前記で調整した油性インクにより、実施例1と同様の環境下でインク定着処理を行った。実施例9〜12ではOA用紙に予めカルボキシル基を有する不揮発性有機化合物が含まれ、かつ、光重合開始剤を含んでいないインクを供給し、8時間放置して、該インクをOA用紙に十分に浸透拡散させた後、該OA用紙を図2に示すインク定着装置に入力し、エネルギー線付与4により、活性エネルギー線を付与し、インク定着を行った。得られたベタ印刷に対して、実施例1のインクの定着性1の評価と同様にして、インク定着性を評価した。結果を表4に示す。
実施例26〜28で使用する電極の構造、誘電体の種類は、実施例9と同様であり、電界強度、インクの供給量などは表4に示すとおりである。前記搬送手段3による紙送り速度は、100cm/秒である。
【0067】
(実施例29〜実施例30)
実施例29〜30では、OA用紙に予め、表4に示すように、前記で調整したカルボキシル基を有する不揮発性有機化合物が含まれ、かつ、光重合開始剤を含んでいない油性インクで所定のテストパターンを、本発明の印刷装置とは別の従来の印刷装置によって印刷されたものを200枚用意しておく。ここで、予め前記実施例13のインク定着性の評価2と同様の方法で、1枚目、10枚目、100枚目、200枚目の用紙を抜き取り、テストパターンの定着率を算出した後、当該用紙を元の場所に戻した。
そして、図4に示すような印刷装置を使用して、このテストパターン印刷済みの普通OA用紙の印刷面と同一面に、かつ重ならないように別のテストパターンを印刷した。
そして再び、1枚目、10枚目、100枚目、200枚目について、後に新しく印刷されたテストパターンに対して、インク定着性の評価2と同様の方法で、1枚目、10枚目、100枚目、200枚目について、定着率を算出した。また、前記先に印刷したテストパターンにおける定着率と、今回印刷したテストパターンの定着率との差をにじみの評価とした。結果を表4に示す。
実施例29〜30で使用する電極の構造、誘電体の種類は、実施例17と同様であり、電界強度、インクの供給量などは表4に示すとおりである。前記搬送手段3による紙送り速度は、100cm/秒である。
【0068】
【表4】
【0069】
<有害ガス発生の評価>
前記図1〜図4に示す各印刷装置を用いた実施例2、10、14及び18について、有害ガス(オゾンガス及びNOx)の発生状態を、下記方法により評価した。結果を表5に示す。
印刷装置を外気から透明アクリル板で遮断密閉された実験ブース(幅1,200mm×奥行き900mm×高さ2,000mm)内に設置し、最初に十分換気して清浄な雰囲気にしておいてから、OA用紙1,000枚を処理したところで印刷装置を停止させ、実験ブース内の気体を以下の要領でサンプリングし、評価した。
実験ブース内には左右壁面付近と中央天井付近に設置した3台のファン(1台あたり6Wのファンで風量は約2.2m3/分)があり、これにより印刷装置から出たガスを常時ブース内に均一に攪拌できるようになっている。
前記サンプリング用に、実験ブース内中央の天井から30cmの下位置に、内径9mmのシリコンゴムチューブの先端が配置され、エアポンプによってブース外へ、付近のガスを取り出すことができる。
なお、実施例10では、予めOA紙にW/Oインク(黒色)で75mm幅×270mm長さのベタ印刷を施した後に室温20℃、湿度50%で8時間放置したものを用いている。
実験ブースは、同紙を印刷装置にセットする直前まで十分な換気を行っており、前後の影響は出ないよう配慮している。
実施例2、14及び18については、印刷装置にそれぞれのインクとOA紙をセットした状態で十分に換気を行った後、印刷開始直前に外気を遮断している。
(1)印刷装置を停止させた直後にエアポンプを駆動し、実験ブース内の雰囲気をサンプリングした。容量10Lのテドラーバッグ(商品名、ガス導入用の栓口がついた多層構造のガス捕集袋でガスの透過及び吸着がない)に捕集した。
(2)ガスの種類毎に連続して雰囲気をサンプリングした。この場合、NOx測定用、オゾン測定用、VOCガス測定用の計3袋をサンプリングした。
(3)NOx測定については、堀場製作所APNA360(化学発光方式)を用いて測定した。NOx濃度測定器は、化学発光方式(測定装置自身が発生させたオゾンガスとNOxガスの接触により発生する微弱発光をフォトンカウントする方法)で0.0001ppmまでの感度があるものを使用した。
(4)オゾン測定については、理研計器SC−90(定電位電解方式:範囲1ppm、分解能0.02ppm)を用いて測定した。
(5)VOCガスについては、島津製作所GC―14BPF(ガスクロマトグラフ:範囲10ppm、分解能0.01ppm)を用いて測定した。
【0070】
(比較例1)
実施例1と同様のW/Oエマルションインクを使用し、メタルハライド・ランプ(出力:120w/cm、反射板:コールドミラー、照射距離:110mm、積算光量:1,200mJ/cm2)を用いた従来公知のインク定着機構を備えた印刷装置を用いて、実施例1と同様にして、OA用紙に幅75mmのベタ印刷を行い、その際に発生する有害ガスの発生状態を、実施例1と同様の方法と評価基準により評価した。また、実施例1と同様の方法と評価基準により、インク定着性も評価した。結果を表5に示す。
【0071】
(比較例2)
実施例1と同様のW/Oエマルションインクを使用し、EB装置による電子線照射(加速電圧200KV、照射幅450mm、吸収線量27.0kGy)を用いた従来公知のインク定着機構を備えた印刷装置を用いて、実施例1と同様にして、OA用紙に幅75mmのベタ印刷を行い、その際に発生する有害ガスの発生状態を、実施例1と同様の方法と評価基準により評価した。また、実施例1と同様の方法と評価基準により、インク定着性も評価した。結果を表5に示す。
【0072】
【表5】
【0073】
表4〜5の結果から、インク定着手段が、基材の面上に電極間の放電に伴う活性エネルギー線を付与するエネルギー線付与部を、少なくとも有している実施例1〜30では、酸素などにより定着を阻害されることがなくインクの定着性に優れ、短時間での定着が可能となり、未硬化インクの発生がなく、インクの脱落や有害ガスなどの発生による人体や環境への影響を良好に防止して、高画質画像を形成できることが判った。
更に、定着しにくい黒色であっても、少ないエネルギーでインク定着が可能で、大掛かりな装置や複雑な調整を必要とせず、インク定着装置及び印刷装置の簡易化とコンパクト化が可能で、かつ、効率的な処理が可能となることが判った。また、実施例23〜30のようにインク定着性の悪い油性インクを用いた場合でも、優れたインク定着効果が得られることが判った。
特に、電極強度が100kV/cmより大きい値の変動点を有する実施例2〜8、10、12、14、16、18〜20、22及び25〜30では、インクの定着性に特に優れていることが判明した。
また、本発明の実施例においては、従来のインク定着機構を備えた印刷装置を使用した比較例1に比して、圧倒的にインク定着性に優れることが判明した。また、従来のインク定着機構を備えた印刷装置を使用した比較例2に比して、大気中で発生する人体に特に有害なNOxガスとオゾンガスのいずれも少ないことが判り、環境への影響防止効果に優れることが判った。
【0074】
(実施例31)
実施例1において、図1の印刷装置に、下記のようなガス除去手段を設けた以外は、実施例1と同様にして、普通OA用紙に幅75mmのベタ印刷を行い、その際の有害ガスの発生状態を評価した。
−ガス除去手段−
図1の印刷装置の放電電極に臨ませて、電極に臨ませて、該放電電極付近の排気をするための風路(8W、直径10cmの排気ファン)を設置し、該風路の下流側に、フィルタを設置した。該フィルタとして、ユニチカ株式会社のアドール(活性炭繊維)12.0gに、光触媒の酸化チタンを約5g添着させて、10cm角×厚み1cmの形状に形成したものを、#50のステンレスメッシュに支持させたものを用いた。
実施例35について、有害ガスの測定を行ったところ、NOx濃度は約0.05ppm、オゾン濃度は約0.01ppm以下、VOCガス濃度は0.01ppm以下であった。
【0075】
(実施例32)
実施例31において、ガス除去手段のフィルタとして、ユニチカ株式会社のアドール(活性炭繊維)12.0gに、天然ゼオライトを約8.7g添着させて、10cm角×厚み1cmの形状に形成したものを、#50のステンレスメッシュに支持させて形成したフィルタを用いた以外は、実施例31と同様にして、ガス除去手段を形成した。該ガス除去手段を、図1の印刷装置に設け、実施例1と同様にして、普通OA用紙に幅75mmのベタ印刷を行い、その際の有害ガスの発生状態を評価した。
実施例32について、有害ガスの測定を行ったところ、NOx濃度は約0.01ppm以下、オゾン濃度は約0.01ppm以下、VOCガス濃度は0.01ppm以下であった。
【0076】
上記実施例31及び32の結果より、本発明のエネルギー線付与部を設けた印刷装置に、更にガス除去手段を設けることにより、有害ガスの周囲への放出を、著しく低下できることが判った。
【0077】
(実施例33)
実施例33では、図14Aに示すような除電ブラシ21を設けた印刷装置100を作製した。図14Aに示す印刷装置は、給紙側(入力手段1)からOA用紙(基材6)を送り、インク供給手段5によって印刷した後に、エネルギー線付与部4の非接地側電極8と接地側電極7間に放電させた中を、ポリイミドの無端ベルト(搬送手段3)で搬送し、下流側に設けた引き剥がしツメ機構20により、用紙が無端ベルトから分離され、用紙収納側(出力手段2)へ送られるという機構である。
そして、前記引き剥がしツメ機構20により無端ベルトから用紙が分離される前に、除電ブラシ21により、用紙に帯電した電荷の除電が行われる。除電ブラシ21の除電効果は、図14Aに示すように、除電ブラシ21の上流側と下流側に各々設けた表面電位計22A、22Bを用いて、放電した電極間を通過させた直後と、除電ブラシにより除電を行った後の、用紙の表面電位を測定することにより数値化した。
【0078】
図14Aの印刷装置において、無端ベルト部材は絶縁体であるが接地側電極7と接触している。また、引き剥がしツメ機構21と回転ローラは、図示しない支持台、ボールベアリング等を介して電気的に接地されている。
また、前記除電ブラシ21は、導電性のものが用いられ、本実施例33では、日本蚕毛染色株式会社製の導電性繊維素材、サンダーロン(登録商標名)を使用した。このサンダーロンは、アクリル繊維及びナイロン繊維に、硫化銅を化学結合させた有機導電性繊維である。本実施例では、同素材を加工しアルミテープ付きタイプを用いたが、これは、複写機及びファクシミリ機用の除電ブラシに一般的に用いられている。除電ブラシ21は、ブラシ先端部が無端ベルト上の用紙に接触するように取り付けられ、かつ、同除電ブラシ21のアルミテープの部分が、アース接地されている。
前記引き剥がしツメ20は、図16Aに示すように、1mmのステンレス板の先端を、約20°の角度で研磨して先端0.1Rとしたものを用いた。
【0079】
<表面電位の評価>
前記表面電位計22A、22Bとして、トレック株式会社製の高速表面電位計Model341Bを用い、エネルギー線付与部4の放電電極間に印加された約20kVの電圧によって発生したストリーマ放電を通過した紙面(基材6)の表面電位を、除電ブラシ21の前後でそれぞれ測定した。なお、除電ブラシ21の除電効果のみを評価するため、インク供給手段5による印刷を行わず、印刷インクが付着していない用紙に対して、電圧を印加して電位の測定を行った。
測定条件を以下に示す。
温度:24℃
湿度:45%
使用紙(基材):OA紙
通紙枚数:100枚
印刷パターン:なし
ベルト搬送スピード:1,000mm/sec(100cm/秒)
測定位置1(表面電位計22Aの測定子のセット位置):放電電極から35mm下流の位置
測定位置2(表面電位計22Bの測定子のセット位置):放電電極から420mm下流の位置(除電ブラシ21の位置から200mm下流の位置)
なお、前記電圧の測定は、サンプリング周波数1kHzで行い、平均、最小、最大を求めている。
【0080】
−測定結果(除電ブラシがある場合)−
測定位置1(除電前)では、平均値が8.7kV(最小=5.3kV、最大9.9kV)であった。
測定位置2(除電後)では、平均値が0.5kV(最小=0.2kV、最大0.9kV)であった。
【0081】
(実施例34)
図14Aに示す印刷装置を用いて、インク付与手段5により、下記条件で実際にテストパターンを印刷したこと以外は、実施例33と同様にして、電圧を印加してインク定着を行ない、該インク定着後の用紙に対して除電ブラシ21で除電を行い、実施例33と同様にして、測定位置1(放電電極から35mm下流の位置)と、測定位置2(放電電極から420mm下流の位置)で用紙の表面電圧を測定した。
測定条件を以下に示す。
温度:23℃
湿度:52%
使用紙(基材):OA紙
通紙枚数:100枚
印刷パターン:25%濃度印刷(A4サイズ全面、使用インク:前記で調製したW/Oエマルションインク、黒色)
ベルト搬送スピード:1,000mm/sec(100cm/秒)
前記印刷パターンにおける25%濃度印刷について説明する。まず、100%濃度印刷(黒ベタ印刷)とは、図14Bの(1)に黒丸で示したような印刷パターンで、縦横63.5μmピッチで40.0μmのドット径のインクを転写した状態を意味し、該転写直後のインク厚みは、1ドット当たり平均3μmである。
これに対して、本実施例で行った前記25%濃度印刷とは、縦横63.5μmピッチにおいて、40.0μmのドット径で、図14Bの(2)に黒丸で示したようなパターンでインクを転写した状態を意味し(ただし、白丸はインクを転写していない部位を示す)、該転写直後のインク厚みは、前記100%濃度印刷と同様に、1ドット当たり平均3μmである。
【0082】
−測定結果(除電ブラシがある場合)−
測定位置1(除電前)では、平均値が6.5kV(最小=3.4kV、最大9.9kV)であった。
測定位置2(除電後)では、平均値が0.2kV(最小=0.1kV、最大0.9kV)であった。
【0083】
(実施例35)
図14Aに示す印刷装置から除電ブラシ21を外したものを用い、実施例33において、除電ブラシ21による除電を行わなかったこと以外は、実施例33と同様にして、用紙に電圧を印加し、測定位置1(放電電極から35mm下流の位置)と、測定位置2(放電電極から420mm下流の位置)で用紙の表面電圧を測定した。
【0084】
−測定結果(除電ブラシを外した場合)−
測定位置1では、平均値が8.9kV(最小=6.6kV、最大10.3kV)であった。
測定位置2では、平均値が4.7kV(最小=2.0kV、最大5.9kV)であった。
【0085】
(実施例36)
図14Aに示す印刷装置から除電ブラシ21を外したものを用い、実施例34において、除電ブラシ21による除電を行わなかったこと以外は、実施例34と同様にして、用紙に25%濃度印刷を行なった後、電圧を印加し、測定位置1(放電電極から35mm下流の位置)と、測定位置2(放電電極から420mm下流の位置)で用紙の表面電圧を測定した。
【0086】
−測定結果(除電ブラシを外した場合)−
測定位置1では、平均値が7.3kV(最小=6.5kV、最大10.1kV)であった。
測定位置2では、平均値が4.9kV(最小=2.1kV、最大5.5kV)であった。
【0087】
上記の測定結果より、除電を行なわない実施例35及び36に比べ、除電を行なった実施例33及び34では、除電ブラシ21によって効果的に除電ができていることが判明した。したがって、本発明の大気圧近傍の電極間放電を用いて基材に定着させるインク定着手段(インク定着工程)に、更に除電手段(除電工程)を設けることで、インク定着などに優れるだけでなく、より円滑で高速なインク定着及び印刷が可能となる。
また、実施例35及び36のように、除電ブラシ21を用いない用紙搬送では、静電気力に抗してベルト部材から用紙を円滑に引き剥がすには、図16Bに示すように、引き剥がしツメ21を常にベルト部材に接触させる必要があり、ベルト部材の疲労や回転ローラへの負荷が大きい。これに対して、除電ブラシ21を設けた実施例33及び34では、図14Aの印刷装置における用紙搬送の際に、前記優れた除電効果により、図16Aに示すように、前記引き剥がしツメ21と無端ベルト部材とを接触させず、約1.5mmの間隙を設けてセットしたものを用いることができた。このような引き剥がしツメ21を用いることにより、紙詰まりなどを生じることなく、円滑に用紙を搬送することができるとともに、ベルト部材の疲労や回転ローラへの負荷を低減して、搬送手段3の耐久性をも向上させることができる。
【0088】
(実施例37)
実施例37では、図15に示すように、除電手段として除電イオナイザー23及び送風ダクト(ノズル)24を設けた印刷装置100を作製した。該印刷装置100は、前記除電手段を変えた以外は、搬送手段3、エネルギー線付与部4などの機器構成は、図14Aに示す印刷装置と同じ構成としている。
前記図15に示す印刷装置100を用いて、実施例33と同様にして、放電した電極間を通過させた直後と、除電イオナイザー23により除電を行った後の、用紙の表面電位を測定し、除電効果を評価した。
前記除電イオナイザー23として、本実施例37ではヒューグルエレクトロニクス株式会社の70kHz〜80kHz高周波インライン方式エアーガン(MODEL−3000T)を用いた。また、露点−40℃の乾燥エアーを毎分約5リッター供給し、同イオナイザ−で+、−のそれぞれイオンを発生させてバランスさせ、送風ダクト(ノズル)24にて紙面上に均一に供給した。
【0089】
<表面電位の評価>
表面電位計22A、22Bとして、実施例33と同様に、トレック株式会社製の高速表面電位計Model341Bを用い、放電電極間に印加された約20kVによって発生したストリーマ放電を通過した紙面(基材6)の表面電位を、除電イオナイザー23と送風ダクト(ノズル)24の設置場所の前後でそれぞれ測定した。本実施例でも、除電イオナイザー24の除電効果のみを評価するため、インク供給手段5による印刷を行わず、印刷インクが付着していない用紙に対して、電圧を印加して電位の測定を行った。
測定条件を以下に示す。
温度:26℃
湿度:52%
使用紙(基材):OA紙
通紙枚数:100枚
印刷パターン:なし
ベルト搬送スピード:1,000mm/sec(100cm/秒)
測定位置3(表面電位計22Aの測定子のセット位置):放電電極から35mm下流の位置
測定位置4(表面電位計22Bの測定子のセット位置):放電電極から420mm下流の位置(除電用イオナイザー送風ダクト(ノズル)24の位置から約200mm下流の位置)
なお、前記電圧の測定はサンプリング周波数1kHzで行い、平均、最小、最大を求めている。
【0090】
−測定結果(除電イオナイザー23及び送風ダクト(ノズル)24がある場合)−
測定位置3(除電前)では、平均値が8.1kV(最小=6.0kV、最大10.5kV)であった。
測定位置4(除電後)では、平均値が0.03kV(最小=0.0kV、最大0.13kV)であった。
【0091】
(実施例38)
図15に示す印刷装置を用いて、インク付与手段5により、下記条件で実際にテストパターンを印刷したこと以外は、実施例37と同様にして、電圧を印加してインク定着を行ない、該インク定着後の用紙に対して除電ブラシ21で除電を行い、実施例33と同様にして、測定位置3(放電電極から35mm下流の位置)と、測定位置4(放電電極から420mm下流の位置)で用紙の表面電圧を測定した。
測定条件を以下に示す。
温度:24℃
湿度:57%
使用紙(基材):OA紙
通紙枚数:100枚
印刷パターン:25%濃度印刷(A4サイズ全面、使用インク:前記で調製したW/Oエマルションインク、黒色)
ベルト搬送スピード:1,000mm/sec(100cm/秒)
前記印刷パターンにおける25%濃度印刷については、前記実施例34で説明したとおりである。
【0092】
−測定結果(除電イオナイザー23及び送風ダクト(ノズル)24がある場合)−
測定位置3(除電前)では、平均値が6.3kV(最小=3.0kV、最大10.0kV)であった。
測定位置4(除電後)では、平均値が0.01kV(最小=0.0kV、最大0.05kV)であった。
【0093】
(実施例39)
図15に示す印刷装置において、除電イオナイザー23及び送風ダクト(ノズル)24の駆動を停止して、除電を行わなかったこと以外は、実施例37と同様にして、用紙に電圧を印加し、測定位置3(放電電極から35mm下流の位置)と、測定位置4(放電電極から420mm下流の位置)で電圧を測定した。
【0094】
−測定結果(除電イオナイザー+送風ダクト(ノズル)の駆動を停止した場合)−
測定位置3では、平均値が9.9kV(最小=8.3kV、最大12.1kV)であった。
測定位置4では、平均値が6.7kV(最小=5.1kV、最大7.9kV)であった。
【0095】
(実施例40)
図15に示す印刷装置において、除電イオナイザー23及び送風ダクト(ノズル)24の駆動を停止して、除電を行わなかったこと以外は、実施例38と同様にして、用紙に25%濃度印刷を行なった後、電圧を印加してインク定着を行い、測定位置3(放電電極から35mm下流の位置)と、測定位置4(放電電極から420mm下流の位置)で用紙の表面電圧を測定した。
【0096】
−測定結果(除電イオナイザー+送風ダクト(ノズル)の駆動を停止した場合)−
測定位置3では、平均値が6.6kV(最小=4.0kV、最大10.1kV)であった。
測定位置4では、平均値が6.7kV(最小=4.0kV、最大9.9kV)であった。
【0097】
上記測定結果より、除電を行なわない実施例39及び40に比べ、除電を行なった実施例37及び38では、除電イオナイザー23及び送風ダクト(ノズル)24によって、効果的に除電ができていることが判明した。したがって、本発明の大気圧近傍の電極間放電を用いて基材に定着させるインク定着手段(インク定着工程)に、更に除電手段(除電工程)を設けることで、インク定着などに優れるだけでなく、より円滑で高速なインク定着及び印刷が可能となる。
また、実施例39及び40においては、図16Bのように、引き剥がしツメ21を常にベルト部材に接触させる必要があるが、除電効果に優れる実施例37及び38では、図16Aに示すように、前記引き剥がしツメ21と無端ベルト部材とを接触させず、約1.5mmの間隙を設けてセットしたものを用いることができ、紙詰まりなどを生じることなく、円滑に用紙を搬送することができるとともに、ベルト部材の疲労や回転ローラへの負荷を低減して、搬送手段3の耐久性をも向上させることができる。
【0098】
(実施例41)
実施例41では、図17に示すように、作動制御手段を設けた印刷装置100を作製した。この印刷装置は、図14Aに示すような印刷装置100と同様に、除電ブラシ21、本発明のインク定着手段としてのエネルギー線付与部4、インク付与手段5、ポリイミド製無端ベルト部材及び回転ローラからなる搬送手段3、引き剥がしツメ機構20などを備えている。更に、インク供給手段5とエネルギー線付与部4との間に、用紙(基材6)の存在を検出し、エネルギー線4付与部の作動を制御するための作動制御手段として、同種類の非接触センサー25A、25Bを2つ備えている。該非接触センサーとしては、電気的な非接触センサー、磁気的な非接触センサー、光学的な非接触センサーのいずれを用いてもよい。
【0099】
前記非接触センサーは、1つでも充分であるが、2つ設置することにより、両センサーの出力信号の差分を取ることによって、ノイズに強くより感度を高め、信頼性を向上させることができる。また、実際の用紙の搬送スピードも感知できることから、インク定着に必要な放電を微細に制御することが可能となる。
給紙側(入力手段1側)に近いものを非接触センサー25A(以下、センサー25Aと称する)、放電電極に近いものを非接触センサー25B(以下、センサー25Bと称する)とする。
用紙が全く搬送されていないときは、センサー25Aもセンサー25Bも用紙を検出しておらず、そのため両方の出力信号の差分を取ると、ほぼゼロとなる。
しかし、用紙が搬送されてセンサー25Aに到達したときは、もう一方のセンサー25Bは、用紙を検出していないため、それぞれの出力信号の差分をとることにより出力信号が得られる。
更に、用紙が搬送されてセンサー25Bに達した時は、センサー25Aもセンサー25Bも用紙を検出し出力信号が出てくるが、両方の信号の差分は、再びゼロとなる。
用紙の搬送が進行し、用紙の終端に近づくと、今度はセンサー25A直下に用紙が存在しない状態で、センサー25B直下には用紙が存在する状態となって、双方の信号の差分を取ると出力信号が得られる。
搬送が完全に進行し、用紙が搬送され終わると、センサー25A、センサー25Bともに用紙を検出しない状態へ移り、両方の出力信号の差分を取るとゼロとなる。
即ち、差分信号の状態を観察すると、ゼロ状態→信号あり(入)→ゼロ状態→(用紙が放電電極間に入る)→信号あり(出)→ゼロ状態→(紙が用紙収納側即ち出力手段2へ搬送されていく)となり、差分の際にプラスかマイナスを判断するようにしておくと、プラス即ちA−B>0で「入」、マイナス即ちA−B<0で「出」の情報が得られ、これを作動制御のON、OFF(即ち、放電電極のON、OFF)に連携させることができる。なお、センサー位置と紙搬送速度によっては放電電極の作動開始及び停止時間とのずれが生じる可能性があるが、その場合は相当分の時間ずれを考慮して制御することが適当である。
【0100】
実施例41では、電気的非接触センサー25A、25Bとして、株式会社ケーメックスの静電容量センサーを使用した。本センサーにより、ポリイミド製のベルト部材だけの場合の静電容量と、そのベルト部材上に搬送されているOA用紙の静電容量の変化分を検知することが可能である。
【0101】
なお、実施例41では、ポリイミドとOA用紙の静電容量の変化により、用紙の有無を検出して作動制御を行っているが、未定着インクが用紙上に付着している場合と付着していない場合の静電容量の変化分を検出し、未定着インクが存在する場合のみ、放電電極を作動させるように制御することにより、ムダな電気の消費を抑制して、よりエネルギー効率に優れたインク定着が可能となる。
【0102】
また、磁性体を含むインクを用いた場合には、磁気的非接触センサーを用いるのが効果的である。この場合、ニッコーシ株式会社製の磁気センサー、MRS−H−21を用いることができる。該MRS−H−21は、InSbを用いた磁気抵抗素子で、インク中に含まれる磁性体を高感度で検出することができる。本センサーでは、用紙を検出するのではなく、未定着インキの存在を直接検出することができるので、よりムダのない作動制御が可能である。
また、光学的非接触センサーとしては、コーデンシ株式会社製の反射型のフォトインタラプター(SG113)を用いることができる。この素子は、赤外LEDとフォトトランジスタを組み合わせた構成となっており、対象物に対して赤外LEDで赤外光を照射し、その反射光を高感度にフォトトランジスタで受けることができる。そして、主にOA紙とポリイミドの材質による赤外光反射率の違いを検出することによって作動制御を行うことができるが、更には印刷インクの種類によって反射率が異なることを利用して未定着インクなどを検出することにより、更に微細かつ精巧に作動制御することが可能である。
なお、インクの種類によって作動制御を行う場合は、定型印刷でそのインクによって印刷された部分が光学的非接触センサー(フォトインタラプター)の直下を必ず通過できるようにするか、光学的非接触センサー(フォトインタラプター)の数を増やして印刷された全領域をカバーするなどによって対応することができる。
【0103】
(実施例42)
実施例42では、図18に示すように、接触センサー25Cを用いた印刷装置を作製した。この印刷装置100は、エネルギー線4付与部の作動を制御するための作動制御手段として、用紙供給側とインク供給手段5との略中間位置に接触センサー25Cを設けたこと以外は、実施例41の図17に示す印刷装置と同様の構成としている。
前記接触センサー25Cとしては、機械的手段と電気的接点、機械的手段と磁気的接点、機械的手段と光学的センサーの組み合わせのいずれを用いてもよい。
一例として、図19A及び19Bに、機械的手段と電気的接点を用いたものを示す。まず、図19A(1)は、前記機械的手段(以下、機械的検知部、機械的要素と称することがある)の側面図であり、用紙搬送の際の紙重さを検出するために、該用紙の通過経路に設置されて、金属板を加工した作動片26とばね27とから構成されている。また、図19(2)は、前記機械的手段と、電気的接点との模式図を示し、該電気的接点は、前記機械的検知部の裏面側にプラス極28とマイナス極29を基板配線状に形成したものを配置し、軽量の導電性ゴムシート材30を機械的検知部の裏に貼りつけたものを用いて電気スイッチを構成した。用紙(基材6)が存在しない状態では、図19A(1)に示すように、作動片26は、ばね27により上部方向に付勢され、図19A(2)に示すように、導電性ゴムシート材30とプラス極28とマイナス極29とが非通電状態で、電気スイッチはOFFとなっている。
用紙が搬送され作動片26の上面を通過すると、図18B(1)及び(2)に示すように、用紙の自重で作動片(機械的検知部)26が、ばねの付勢力に抗して押し下げられ、図19B(2)に示すように、導電性ゴムシート材30が基板配線のプラス極28とマイナス極29を導通することによって、通電状態(ON)となる。
このON信号を感知することにより、用紙の通過を認識して、エネルギー線付与部4が作動して、インク定着が行われる。
【0104】
前記接触センサーとして、機械的手段と磁気的接点を用いた実施例を図20A及び図20Bに示す。この接触センサーの機械的検知部は、非磁性のステンレス板(作動片26)で形成し、その裏面に磁性体(ゴム磁石)31を貼り付けている。該磁性体31の下方に望ませて、磁気センサー32(ニッコーシ株式会社製磁気センサー、MRS−H−21はInSbを用いた磁気抵抗素子)を設置している。該接触センサーでは、用紙の通過により前記作動片26が押し下げられると、図20Bに示すように、磁性体31と磁気センサー32との距離が近接し、その信号の変化を読み取ることで用紙検出が可能である。
また、前記接触センサーとして、機械的手段と光学的センサーを用いた実施例を図21A及び図21Bに示す。この接触センサーは、機械的検知部(作動片26)の裏面に、光反射用テープ(アルミ蒸着テープ)33を貼りつけ、その下方に望ませて、反射型フォトインタラプター34(コーデンシ株式会社製の反射型のフォトインタラプター、SG113)を設置している。該接触センサーでは、図21Bに示すように、用紙の通過により前記作動片26が押し下げられると、前記フォトインタラプター34の発する赤外光が反射テープ33に反射され、再びフォトインタラプター34に内臓されたフォトダイオードに戻ることから、用紙の検出が可能である。また、用紙が通過していないときは、図21Aに示すように、反射テープ33の貼りつけられた作動片26が、前記赤外光をフォトインタラプター34方向に反射する角度とは異なる角度となっているため、赤外光がフォトダイオードへ戻らず、用紙が存在しないことが認識できる。
【0105】
(実施例43)
上記各実施例では、用紙(基材)の搬送手段3として、ポリイミド製の無端ベルト部材を用いているが、実施例43は、図22に示すように、搬送手段3として、ローラ部材を用いている。このような印刷装置100では、用紙(生地6)が給紙側(入力手段1側)から、ローラ部材によってインク供給手段5に搬送されて印刷が行われ、更にローラ部材によって放電電極(エネルギー線付与部4)に搬送されてインク定着が行われ、次に、ローラ部材によって除電ブラシ21により搬送されて除電が行われた後、用紙収納側(出力手段2)へと搬送される。
なお、このようにローラ部材で用紙を搬送する際は、搬送を容易とするため、用紙を搬送方向の中心部で、湾曲させて、撓みを形成することが、用紙にコシを付けてローラ部材で搬送し易くする観点から好ましい。
一方、本発明のインク定着に用いる放電電極は、電界強度を大きくする観点から、接地側電極と非接地側電極との間隙を狭くするのが好ましい。この場合、前記のように用紙を撓ませた場合、狭い間隙内を通過する際に、紙詰まりを生じる可能性があるため、接地側電極と非接地側電極との間隙を狭くするには限度がある。したがって、ローラ部材による搬送よりも、用紙を撓ませる必要のないベルト部材による搬送が、接地側電極と非接地側電極との間隙をより狭くすることができ、本発明のインク定着により好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明のインク定着方法は、エネルギー効率、作業性に優れ、処理工程が簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れるので、印刷装置、プリンター、塗布装置、コーティングマシン、などに好適に用いられる。
本発明のインク定着装置は、エネルギー効率、作業性に優れ、装置がコンパクトで簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れるので、印刷装置、プリンター、塗布装置、コーティングマシン、などに好適に用いられる。
また、本発明の印刷装置は、前記本発明のインク定着装置を備えることにより、エネルギー効率、作業性に優れ、装置がコンパクトで簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れるので、低コストで高画質画像が得られる。そのため、例えば、輪転孔版印刷機などの孔版印刷装置、インクジェット印刷装置凸版印刷装置、オフセット印刷装置などに好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】図1は、本発明のインク定着装置又は印刷装置の一例を示す模式断面図である。
【図2】図2は、本発明のインク定着装置の一例を示す模式図である。
【図3】図3は、本発明のインク定着装置又は印刷装置の一例を示す模式図である。
【図4】図4は、本発明のインク定着装置又は印刷装置の一例を示す模式図である。
【図5】図5は、本発明のインク定着装置などに用いられる接地側電極の一例を示す模式図であり、(A)は、斜視図であり、(B)は、その断面図である。
【図6】図6は、本発明のインク定着装置などに用いられる非接地側電極の一例を示す模式図であり、(A)は、斜視図であり、(B)は、そのX−X’線断面図である。
【図7】図7は、本発明のインク定着装置などに用いられる非接地側電極の一例を示す模式図であり、(A)は、斜視図であり、(B)は、そのX−X’線断面図である。
【図8】図8は、本発明のインク定着装置などに用いられる非接地側電極の一例を示す模式図であり、(A)は、斜視図であり、(B)は、その製造工程の一例を示す模式図であり、(C)は、(A)のX−X’線断面図である。
【図9】図9は、本発明のインク定着装置などに用いられる非接地側電極の一例を示す模式図であり、(A)は、折曲した金属配管の斜視図であり、(B)は、完成した非接地側電極の斜視図であり、(C)は、(B)のX−X’線断面図である。
【図10】図10は、本発明のインク定着装置などに用いられる非接地側電極の一例を示す模式図であり、(A)は、折曲した金属配管の斜視図であり、(B)は、導電線で接続した金属板の斜視図であり、(C)は、完成した非接地側電極の斜視図である。
【図11】図11は、本発明の各実施例で用いた接地側電極の平面図である。
【図12】図12は、本発明の各実施例で用いた非接地側電極の平面図である。
【図13】図13(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)は、インクの定着性の評価1の評価方法の手順を示す概略図である。
【図14A】図14Aは、除電ブラシを用いた本発明の印刷装置の一例を示す模式図である。
【図14B】図14Bの(1)は、100%濃度印刷の印刷パターン(ドット)を表す模式図であり、(2)は、25%濃度印刷の印刷パターン(ドット)を表す模式図である。
【図15】図15は、除電用イオナイザーを用いた本発明の印刷装置の一例を示す模式図である。
【図16A】図16Aは、引き剥がしツメの配置の一例を示す拡大図である。
【図16B】図16Bは、引き剥がしツメの配置の一例を示す拡大図である。
【図17】図17は、非接触センサーを用いた本発明の印刷装置の一例を示す模式図である。
【図18】図18は、接触センサーを用いた本発明の印刷装置の一例を示す模式図である。
【図19A】図19A(1)及び(2)は、機械的手段と電気的接点を用いた接触センサーのOFF状態を表す側面図である。
【図19B】図19B(1)及び(2)は、機械的手段と電気的接点を用いた接触センサーのON状態を表す側面図である。
【図20A】図20Aは、機械的手段と磁気センサーを用いた接触センサーのOFF状態を表す側面図である。
【図20B】図20Bは、機械的手段と磁気センサーを用いた接触センサーのON状態を表す側面図である。
【図21A】図21Aは、機械的手段と光学的センサーを用いた接触センサーのOFF状態を表す側面図である。
【図21B】図21Bは、機械的手段と光学的センサーを用いた接触センサーのON状態を表す側面図である。
【図22】図22は、ローラ部材を用いた本発明の印刷装置の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0108】
1 入力手段
2 出力手段
3 搬送手段
4 エネルギー線付与部(インク定着手段)
5 インク供給手段
6 基材
7 接地側電極
8 非接地側電極
21 除電ブラシ
23 除電用イオナイザー
26 作動片(機械的手段)
28 プラス極(電気的接点)
29 マイナス極(電気的接点)
30 導電性ゴムシート材(電気的接点)
31 磁性体(磁気的接点)
32 磁気センサー(磁気的接点)
33 光反射用テープ(光学的センサー)
34 フォトインタラプター(光学的センサー)
100 インク定着装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー効率、作業性に優れ、処理工程が簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れたインク定着方法、エネルギー効率、作業性に優れ、装置がコンパクトで簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れたインク定着装置、及びこのインク定着装置を備えてなる印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、孔版印刷装置やインクジェット印刷装置などの印刷装置において、高度なインク定着性要求に対してはUV光硬化型インクを用いた印刷が行われており、該UV光の照射によりインクを硬化させる印刷装置が開示されている。前記UV光硬化型インクを用いた印刷装置では、印刷用紙に印刷された直後のUV光硬化型インクを、UV光照射により比較的短時間で硬化し定着させることができ、例えば、連続印刷時のいわゆる「裏写り」などを防止することができる(特許文献1参照)。
また、前記UV光硬化型インクを用いた印刷装置では、UV光を照射するインク定着装置を印刷部の後段に設置し、UV光硬化型インクで印刷され印刷部から排出された印刷用紙を定着装置に搬送し、印刷用紙の印刷面に対してUV光を照射して、UV光硬化型インクを硬化し定着させるという手法がなされてきた。
しかしながら、このようなインク定着装置では、UVランプから発生される熱を強制冷却するための空冷ファンや熱排気ダクト、必要に応じて定着装置を開閉するためのシャッター機構、UV光の定着装置外部への漏れを防止するための遮断板など、多くの機構部品、構成要素を必要とするため、装置サイズが大きく、非常に広い設置面積が必要となる問題があった。
また、インクの定着性に関して、例えば、黒色など光透過性の低い色のUV光硬化型インクでは、黄色や青色など光透過性の高い色のUV光硬化型インクに比べて、インクを完全に定着させるためには大きな硬化エネルギーを必要とする。
従って、インク定着装置としては、前記黒色などの光透過性の低い(即ち、最も硬化しにくい)色のUV光硬化型インクを硬化し定着させるのに十分で大きな硬化エネルギーを標準として照射する必要があり、これは電源装置のコスト高や維持運営コスト高を引き起こす問題があった。
【0003】
更に、UV光硬化反応は、空気中の酸素により容易に阻害され、硬化特性が簡単に低下してしまうことが知られている。そのため、例えば、特許文献3では、紫外線域を含む帯域の光を透過可能な定着体と、該定着体と対向して配置された搬送体と、前記定着体と搬送体とをニップする加圧手段とを備えたインク定着装置において、光硬化型インクで印刷された記録媒体を、前記加圧手段によりニップされた前記定着体と搬送体との間に搬送し、該定着体と記録媒体の記録面とを密着させ、定着体を介して記録媒体に紫外線を照射して光硬化型インクを硬化し定着させる提案がされている。このように加圧手段によりニップすることにより、紫外線照射による光硬化型インクを硬化及び定着と、酸素遮断による硬化特性の向上とを、同時達成させることができる。
一方、通常使用されるUV光硬化型インクは、未重合状態においては、モノマー、もしくはオリゴマーであり、皮膚刺激性があり、刺激臭を生じるため、人体に影響を及ぼすことがあり、硬化不良を生じないことが望ましい。
しかし、対象物の上に供給されたUV光硬化型インクへの光の照射条件によってはインクの硬化不十分な部分、即ち、未定着インクを生じることがある。この未定着インクが、経時により移動脱落を生じると、印刷された画像の劣化だけでなく、印刷物に触れる人々や環境に影響を与えるおそれがある。特に、食品包装材料にUV光硬化型インクで印刷を行う場合、未定着インクの存在が少しであっても、人体に影響を及ぼすおそれがある。
【0004】
また、上記のようなUV光硬化型インクを用いたインク定着装置とは別個に、被印刷体の一部へのマーキング、線などの部分印刷において、高顔料濃度の印刷インクを使用したり、印刷のインク膜厚を大きくする目的で、EB(電子線)を用いた硬化手段が提案されている。このEB(電子線)の透過性はUV光のように顔料濃度の影響を受けないため、高濃度で視認性の高い印刷物や塗装物を得ることが出来るというメリットがある。
しかしながら、EB(電子線)照射装置は、電子線の加速電圧が150kV以上と高いため、電子線が基材或いは下地面にも直接作用してしまい、基材の物性劣化を生じさせるという問題があった。
更には、マーキング、線などの基材の必ずしも被印刷体全面に一様にパターニングしない部分的印刷に対しては、被印刷部のみに電子線照射を行うのが理想的である。そのためには、従来のEB(電子線)照射装置ではEB(電子線)を集束したり、操作したりする必要があり、その結果大きな装置が必要であるが、実現は困難であるし、比較的小さい被照射物、マーキング、線などへの照射に用いるのには非効率であった。
【0005】
また、対象物の密着性の改善、表面改質などを図る観点から、対象物の表面にプラズマ処理を行う提案がされている(特許文献3〜5参照)。例えば、特許文献3では、大気圧近傍の圧力下で、対向電極の少なくとも一方の対向面に固体誘電体を設置し、電界強度が1〜100kV/cmの電界を印加して、グロー放電プラズマ処理を行う方法が開示されている。
また、特許文献4では、電極間に印加する電圧の波形を休止時間のない交番電圧波形とするとともに、この交番電圧波形の立ち上がり時間を100μsec以下としたプラズマ処理が開示されている。
また、特許文献5では、一方の電極と他方の電極のそれぞれに正負が交互に繰り返すパルス波又は休止区間のない交番電圧を同時に印加するとともに、各電極に印加された電圧の極性を互いに正負逆で位相を重複させることによって放電空間に大気圧近傍の圧力下で放電を生じさせ、この放電により行われるプラズマ処理が開示されている。
しかしながら、これらの場合は、グローな均一のプラズマを得るための調整が複雑で手間がかかり、装置が巨大化するなどの問題があった。また、フィルムの密着性、成膜などの目的での使用は開示されているが、印刷装置でのインク定着のために使用することは何ら開示がない。
このような構成であることから、前記特許文献3〜5の発明では、電圧印加時の調整が困難で、放電の集中によるムダが生じ易く、対象物へのエネルギー線付与が不均一となることがあり、また、これらをインク定着に用いても好ましいインク定着効果が得られない可能性がある。
一方、光開始剤、光潜在性酸、光潜在性塩基などの光潜在性化合物(光重合開始剤)を含んだ印刷用インクを、プラズマ放電室で硬化するという技術開示されている(特許文献6参照)。
しかし、この場合、前記印刷用インクの硬化には、印刷インク成分として前記光潜在性化合物(光重合開始剤)が必須であること、またプラズマ放電室という特殊な減圧容器(より好ましくは、該減圧容器が、更に、吸気口、排気口を装備している態様)も必要で、加えてその減圧容器中を特定のガス(例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオン、クリプトン、キセノン等)で雰囲気制御しなければならず、良好な効果を得るためには限られた条件範囲で行う必要があり、また定着のための装置や工程が複雑で大掛かりとなり、コスト高となるおそれがある。また、印刷用インクに光潜在性化合物という特殊な合成化学薬品を添加する必要があり、印刷用インクがコスト高となる問題がある。更に、光潜在性化合物の中には、皮膚刺激性がある物質が含まれ、前記のように未定着インクが残っていると、印刷物を介して皮膚に接触した場合に、人体に影響を及ぼす問題がある。また、定着性を向上させるために、光潜在性化合物の添加量を増やすと、感度が高くなり過ぎて、定着用の光以外の些細な刺激(例えば、α線などの宇宙性など)でも硬化反応を生じることがあり、保存時の安定性が低下する、印刷装置内での定着インクの固着を生じるなど、機上安定性に劣る問題もある。
また、光潜在性化合物が含まれていない印刷インクであって、しかも大気圧の空気中でかつ圧力制御を必要としない開放空間でプラズマを発生させ印刷インクを硬化(定着)するための電極構造、さらにはその際に必要となる搬送系手段、副産物としてのガス除去手段など、最適な周辺システムも含めた技術開示は何ら開示されていない。
【0006】
したがって、エネルギー効率、作業性に優れ、処理工程が簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れたインク定着方法、エネルギー効率、作業性に優れ、装置がコンパクトで簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れたインク定着装置、及びこのインク定着装置を備え、低コストで高画質画像が得られる印刷装置は得られておらず、その速やかな提供が望まれているのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開2001−171221号公報
【特許文献2】特開2004−136672号公報
【特許文献3】特許第3040358号公報
【特許文献4】特開2002−58995号公報
【特許文献5】特開2004−103423号公報
【特許文献6】特表2005−523803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、従来における前記諸問題を解決し、エネルギー効率、作業性に優れ、処理工程が簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れたインク定着方法、エネルギー効率、作業性に優れ、装置がコンパクトで簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れたインク定着装置、及びこのインク定着装置を備え、低コストで高画質画像が得られる印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物を少なくとも含み、かつ、光重合開始剤を含んでいない印刷インクを、大気圧近傍の電極間放電を用いて基材に定着させるインク定着工程、を少なくとも含むことを特徴とするインク定着方法である。
該<1>に記載のインク定着方法においては、インク定着工程で、カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物を少なくとも含み、かつ、光重合開始剤を含んでいない印刷インクを、大気圧近傍の電極間放電(以下、大気圧プラズマ放電と称することがある)を用いて基材に定着させるので、簡易で作業性に優れ、少ないエネルギーで効率的かつ低コストにインク定着を行える。また、未定着インクの発生を良好に防ぎ、インクの定着性、人体や環境への安全性にも優れる。
<2> 大気圧近傍が、0.07〜2MPaである前記<1>に記載のインク定着方法である。
<3> 電極間放電を生じさせる電極が、電極間空間内に、少なくとも100kV/cmより大きい電界強度を有する放電部と、非放電部とが、複数形成されるよう構成された前記<1>から<2>のいずれかに記載のインク定着方法である。
<4> 接地側電極が、厚み0.1〜10mmで誘電率が10以下の誘電体によって、少なくとも一部が被覆された電極板である前記<1>から<3>のいずれかに記載のインク定着方法である。
<5> 接地側電極が、厚み0.1〜10mmで誘電率が10以下の誘電体によって、全部が被覆された電極板である前記<4>に記載のインク定着方法である。
<6> 非接地側電極が、接地側電極との対向側に複数の突起部を有する電極板であり、かつ、前記接地側電極の電極面に対して垂直な面で形成される所望の断面形状における前記突起部の先端形状が、R0.5〜R10mmの曲部を少なくとも有する前記<1>から<5>のいずれかに記載のインク定着方法である。
<7> 非接地側電極が、直径1〜20mmの円柱状及び円管状のいずれかの導電性材料を少なくとも用いて形成された前記<1>から<6>のいずれかに記載のインク定着方法である。
<8> 非接地側電極が、直線状の複数の導電性部材を相互に電気的に接合させてなる電極、少なくとも1本の長尺な導電性部材を折曲し電気的に接合させてなる電極、及び、直線状の複数の導電性部材を相互に電気的に接合させたものと長尺な導電性部材を折曲させたものを組み合わせて電気的に接合させてなる電極、から選択されるいずれかであり、かつ、接地側電極との対向側に形成される複数の突起部の、接地側電極の電極面に対して垂直な面で形成される所望の断面形状における先端形状が、R0.5〜R10mmの曲部を少なくとも有する前記<1>から<7>のいずれかに記載のインク定着方法である。
<9> 基材を搬送する搬送工程を含み、該搬送工程が、比誘電率10以下で、厚み0.03〜5.0mmであるベルト部材により少なくとも行われる前記<1>から<8>のいずれかに記載のインク定着方法である。
<10> ベルト部材が、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、4フッ化エチレン、ポリアミド、及びポリイミドから選択される少なくとも1種を含む前記<9>に記載のインク定着方法である。
<11> ベルト部材による基材の搬送終了時に、帯電状態の基材を除電するための除電工程を行う前記<9>から<10>のいずれかに記載のインク定着方法である。
<12> 除電工程が、除電ブラシ及び除電用イオナイザーのいずれかにより行われる前記<11>に記載のインク定着方法である。
<13> インクが、W/Oエマルションインク、水性インク、及び油性インクのいずれかである前記<1>から<12>のいずれかに記載のインク定着方法である。
<14> 大気圧近傍の電極間放電により生じた副産物としてのガスを除去するガス除去工程を含む前記<1>から<13>のいずれかに記載のインク定着方法である。
<15> ガス除去工程が、電極に臨ませて配置し、電極付近の雰囲気を通気させるための排気ダクト、排気ファン、及び排気口のいずれかからなる風路により少なくとも行われる前記<14>に記載のインク定着方法である。
<16> ガス除去工程が、電極付近の雰囲気を通気させる風路内に配設された、活性炭繊維、ゼオライト及び光触媒から選択される少なくとも一種からなるフィルターにより行われる前記<15>に記載のインク定着方法である。
<17> 基材へのインク供給工程を含み、該インク供給工程が、孔版、平版、凸版、凹版、及びインクジェット方式の少なくともいずれかにより行われる前記<1>から<16>のいずれかに記載のインク定着方法である。
<18> 基材上の未定着のインクを検知して大気圧近傍の電極間放電を行うための作動制御工程を、更に含む前記<1>から<17>のいずれかに記載のインク定着方法である。
<19> 作動制御工程が、電気的な非接触センサー、磁気的な非接触センサー、及び光学的な非接触センサーの少なくともいずれかを用いて基材上の未定着インクを検知し、大気圧近傍の電極間放電の放電動作タイミングを制御する前記<18>に記載のインク定着方法である。
該<19>に記載のインク定着方法においては、電気的な非接触センサーにより、基材の静電容量が検出され、当該被検出物が基材のみの場合と未定着インク(以下、みなし未定着インクと称することがある)が存在する場合において、前記基材と未定着インクの誘電率の違いにより前記静電容量が変化することによって、基材の面上における未定着インクの存在が検知される。また、磁気的非接触センサーにより、印刷インクに含有されている微量な磁性体の存在によって発生する磁力線が感受され、磁力線の強度変化が電気抵抗変化に変換されることによって、基材の面上における未定着インクの存在が検知される。また、光学的な非接触センサーにより、印刷インクの光に対する反射率(吸収率)と紙の光に対する反射率(吸収率)の差異が検出され、スレッショルドライン(紙だけの場合の光反射率または光吸収率の下限値)を下回る値になった場合に、みなし未定着インクの存在が検知される。このインク定着手段の作動により、基材面上の未定着インクに対してエネルギー線付与部により活性エネルギー線が付与され、未定着インクが定着される。
<20> 作動制御工程が、機械的手段と、電気的接点及び磁気的接点のいずれか、並びに、機械的手段と光学的センサー、の少なくともいずれかを用いて、基材の有無を検知することにより基材上の未定着インクを検知し、大気圧近傍の電極間放電の放電動作タイミングを制御する前記<19>に記載のインク定着方法である。
該<20>に記載のインク定着方法においては、基材の面始点を、例えば基材の搬送経路に設置した基材移動及び送りこみ用駆動部(駆動ローラ部等)と直結又は機械的機構を介して間接的に連結したカム機構からなる機械的手段が、そのカム機構の動作に伴って応答する電気的接点、磁気的接点、又は光学的センサーによって検出する。これによって、動作開始及び動作終了を基材の有無とみなし、さらに基材有を「みなし未定着インクの存在」、基材無を「みなし未定着インクの不在」と検知することによって、大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)を作動する。または、基材の搬送経路中に機械スイッチを設置して基材通過時の基材との接触や重量変化を機械スイッチに連動した電気的接点、磁気的接点、又は光学的センサーにて検知し、これによって基材の有無判定とし、さらに基材有を「みなし未定着インク」の存在、基材無を「みなし未定着インクの不在」と検知することによって、大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)を作動する。これらの検知によって電極間放電(大気圧プラズマ放電)が作動し、未定着インクが定着される。
<21> 前記<1>から<20>のいずれかに記載のインク定着方法を用いたインク定着装置であって、
基材に供給され、カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物を少なくとも含み、かつ、光重合開始剤を含んでいない印刷インクを、大気圧近傍の電極間放電を用いて基材上に定着させるインク定着手段、
を少なくとも有してなることを特徴とするインク定着装置である。
該<21>に記載のインク定着装置においては、カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物を少なくとも含み、かつ、光重合開始剤を含んでいない印刷インクが、大気圧近傍の電極間放電により、基材上に定着される。その結果、エネルギー効率、作業性に優れ、装置がコンパクトで簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れたインク定着装置が得られる。
<22> 大気圧近傍が、0.07〜2MPaである前記<21>に記載のインク定着装置である。
<23> 電極間放電を生じさせる電極が、接地側電極と非接地側電極との間で作られる電極間空間内に、少なくとも100kV/cmより大きい電界強度を有する放電部と、非放電部とが、複数形成されるよう構成された前記<11>から<22>のいずれかに記載のインク定着装置である。
<24> 接地側電極が、厚み0.1〜10mmで誘電率が10以下の誘電体によって、少なくとも一部が被覆された電極板である前記<21>から<23>のいずれかに記載のインク定着装置である。
<25> 接地側電極が、厚み0.1〜10mmで誘電率が10以下の誘電体によって、全部が被覆された電極板である前記<24>に記載のインク定着装置である。
<26> 非接地側電極が、接地側電極との対向側に複数の突起部を有する電極板であり、かつ、該突起部の、前記接地側電極の電極面に対して垂直な面で形成される所望の断面形状における先端形状が、R0.5〜R10mmの曲部を少なくとも有する前記<21>から<25>のいずれかに記載のインク定着装置である。
<27> 非接地側電極が、直径1〜20mmの円柱状及び円管状のいずれかの導電性材料を少なくとも用いて形成された前記<26>に記載のインク定着装置である。
<28> 非接地側電極が、直線状の複数の導電性部材を相互に電気的に接合させてなる電極、少なくとも1本の長尺な導電性部材を折曲し電気的に接合させてなる電極、及び、直線状の複数の導電性部材を相互に電気的に接合させたものと長尺な導電性部材を折曲させたものを組み合わせて電気的に接合させてなる電極、から選択されるいずれかであり、かつ、接地側電極との対向側に形成される複数の突起部の、接地側電極の電極面に対して垂直な面で形成される所望の断面形状における先端形状が、R0.5〜R10mmの曲部を少なくとも有する前記<26>から<27>のいずれかに記載のインク定着装置である。
<29> 基材の搬送手段を有し、該搬送手段が、比誘電率10以下で、厚み0.03〜5.0mmのベルト部材を少なくとも有する前記<28>に記載のインク定着装置である。
<30> ベルト部材が、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、4フッ化エチレン、ポリアミド、及びポリイミドから選択される少なくとも1種を含む前記<29>に記載のインク定着装置である。
<31> ベルト搬送手段の搬送終了点に、帯電状態の基材を除電するための除電手段を設けた前記<30>に記載のインク定着装置である。
<32> 除電手段が、除電ブラシ及び除電用イオナイザーのいずれかである前記<31>に記載のインク定着装置である。
<33> インクが、W/Oエマルションインク、水性インク、及び油性インクのいずれかである前記<21>から<32>のいずれかに記載のインク定着装置である。
<34> 大気圧近傍の電極間放電により生じた副産物としてのガスを除去するガス除去手段を有する前記<21>から<33>のいずれかに記載のインク定着装置である。
<35> ガス除去手段が、電極に臨ませて配置し、電極付近の雰囲気を通気させるための排気ダクト、排気ファン、及び排気口のいずれかからなる風路を少なくとも備えてなる前記<34>に記載のインク定着装置である。
<36> ガス除去手段が、電極付近の雰囲気を通気させる風路内に配設された、活性炭繊維、ゼオライト及び光触媒から選択される少なくとも一種からなるフィルターにより行われる前記<35>に記載のインク定着装置である。
<37> 基材へのインク供給手段を有し、該インク供給手段が、孔版、平版、凸版、凹版、及びインクジェット方式の少なくともいずれかである前記<21>から<36>のいずれかに記載のインク定着装置である。
<38> 基材上の未定着のインクを検知して大気圧近傍の電極間放電を行うための作動制御手段を、更に有する前記<21>から<37>のいずれかに記載のインク定着装置である。
<39> 作動制御手段が、電気的な非接触センサー、磁気的な非接触センサー、及び光学的な非接触センサーの少なくともいずれかを用いて基材上の未定着インクを検知し、大気圧近傍の電極間放電の放電動作タイミングを制御する前記<38>に記載のインク定着装置である。
<40> 作動制御手段が、機械的手段と、電気的接点及び磁気的接点のいずれか、並びに、機械的手段と光学的センサー、の少なくともいずれかを用いて、基材の有無を検知することにより基材上の未定着インクを検知し、大気圧近傍の電極間放電の放電動作タイミングを制御する前記<38>に記載のインク定着装置である。
<41> 前記<21>から<40>のいずれかに記載のインク定着装置を備えてなることを特徴とする印刷装置である。
該<41>に記載の印刷装置においては、エネルギー効率、作業性に優れ、コンパクトで簡易な印刷装置が得られ、インクの定着性に優れた画像形成ができ、人体や環境への安全性にも優れた印刷ができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来における諸問題を解決でき、エネルギー効率、作業性に優れ、処理工程が簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れたインク定着方法、エネルギー効率、作業性に優れ、装置がコンパクトで簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れたインク定着装置、及びこのインク定着装置を備え、低コストで高画質画像が得られる印刷装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(インク定着方法及びインク定着装置)
本発明のインク定着方法は、基材に供給されたインクを基材上に定着させるインク定着工程を少なくとも有してなり、更に必要に応じて、インク供給工程、ガス除去工程などの副産物の排出工程、基材の搬送工程、インク定着工程の作動制御工程、基材の入力工程、基材の出力工程、その他の工程を有してなる。
本発明のインク定着装置は、基材に供給されたインクを基材上に定着させるインク定着手段を少なくとも有してなり、更に必要に応じて、インク供給手段、ガス除去手段などの副産物の排出手段、基材の搬送手段、インク定着手段の作動制御手段、基材の入力手段、基材の出力手段、その他の手段を有してなる。
本発明のインク定着方法は、本発明のインク定着装置を用いて行われる。
また、前記インク定着方法では、面上に予め印刷インク(以下、単にインクと称することがある)が供給された基材に対してインク定着工程を施すものであってもよいし、何らインクの供給されていない基材に対してインク定着方法に入力し、前記インク供給工程などにより、基材の面上にインクを供給し、インク定着工程を施すものであってもよい。
また、前記インク定着装置には、面上に予めインクが供給された基材を導入するものであってもよいし、何らインクの供給されていない基材をインク定着装置に入力し、前記インク供給手段などにより、インク定着装置内で基材の面上にインクを供給する機構としてもよい。
以下、本発明の前記インク定着装置について説明する。本発明の前記インク定着方法については、該インク定着装置の説明を通じて明らかにする。
【0012】
<インク定着手段>
前記インク定着手段は、基材の面上に大気圧近傍の電極間の放電(大気圧プラズマ放電)に伴う活性エネルギー線を付与するエネルギー線付与部を少なくとも有してなる。
【0013】
−エネルギー線付与部−
前記エネルギー線付与部は、基材の面上に大気圧近傍の電極間の放電(大気圧プラズマ放電)に伴う活性エネルギー線を照射、接触などによって付与することにより、基材の面上への印刷インクの定着を確実に行うものである。基材の面上に大気圧近傍の電極間の放電(大気圧プラズマ放電)に伴う活性エネルギー線を照射、接触などによって付与することにより、カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物を少なくとも含み、かつ、光重合開始剤を含んでいない印刷インクが硬化し、密着性、定着性に優れる定着が可能となる。
【0014】
ここで、前記大気圧近傍とは、具体的には、海抜の違いなどによる大気圧を考慮して、インク定着時の雰囲気の圧力が、0.07〜2MPa程度を意味するが、プラズマ放電の際に減圧などを何ら行わないものであればよく、これらに限定されるものではない。
該0.07〜2MPaの範囲外で電極間放電を行うと、プラズマ放電質などの特殊な減圧容器や作業工程を必要とし、煩雑でコスト高となることがある。
なお、上限値を2MPaとしたのは、基材(用紙)を搬送ベルトで200cm/秒の速度で0.5mmの電極間隙を通過させた際に、当該電極間隙で局所的に発生する空気の流れにより生じる圧力が、およそ2MPaであるため、この場合の雰囲気圧力を含める意味で規定したものである。
前記活性エネルギー線とは、前記大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)に伴って生じたもので、電子線もしくは荷電粒子線であると推定している。
本発明で使用する印刷インクの構成成分は、カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物が含まれ、かつ、光重合開始剤を含んでいないものであるが、これは大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)中の電子又は荷電粒子が、強い電界によって加速されたのちに、前記印刷インク含有成分として存在するカルボキシル基を有する不揮発性有機化合物に衝突することで、化学的反応(詳細には、脱水縮合反応によってエステル結合する反応)を生じ、基材上で液体成分が固化した、即ち蝋状の物質に化学変化したと考えられる。
前記印刷インク定着前後の状態を、FTIR測定によって調べたところ、定着前には存在していなかったエステル結合のピークが、定着処理後に強く観測されたことから、上記のようなことが考えられる。
なお、実用上充分なインク定着性を呈する反応を得るには、電極間の電界強度が少なくとも100kV/cmより大きいことが好ましい。該電界強度が、100kV/cm以下であると、インク定着が困難となることがある。
【0015】
印刷インクが供給された基材の面上に大気圧近傍の電極間の放電(大気圧プラズマ放電)に伴う活性エネルギー線を効果的に照射、接触付与するには、該基材上で効率良く沿面放電を発生させる必要がある。
この場合の大気圧中の誘電体を挟んだ電極間放電とは、電極間に印加された高電圧によって、多数の微細なプラズマ柱(ストリーマとも言う)が電極間に生じたことによるものであるが、基材上の印刷インクを広範に定着させるためにはそのプラズマ柱(ストリーマとも言う)が一点集中して発生しないように電極構造を工夫する必要がある。細い針状の電極で放電を一点集中させて発生させ、それを基材面上を高速スキャンさせる方法も可能であるが、定着速度の低下、効率の低下、信頼性の低下を招くため実用的ではないと判断される。
そこで、均一にかつ広範な基材面へ活性エネルギー線を効果的に照射、接触付与するには、接地側電極から見た際に、接地されない電極との間に作られる電極間空間内に、放電の発生し易い電界強度の高い部分(以下、高放電部と称する)と、非放電部とがそれぞれ複数形成されるよう電極を構成するとともに、その電極間空間内に基材を搬送させて、該基材の全面が処理されるように構成するのが理想的である。なお、前記非放電部とは、放電の発生しづらく前記高放電部より電界強度の低い部分であって、放電が殆ど発生しないか又はゼロであることを意味する。
上記の構成において、複数存在する電界強度の高い放電部の中で優劣があると、その中で、更に最も電界強度が高いところに放電が集中することがある。従って、電界強度の高い放電部は、すべて同等の電界強度(即ち、一定値の電界強度)になるように設定されている必要があり、更に、その値としては、少なくとも100kV/cmより大きいことが好ましい。
【0016】
また、前記接地側電極としては、例えば、金属板、金属板以外の導電性の部材など、導電性の電極板から形成され、該電極板の少なくとも一部、好ましくは全部が、厚み0.1〜10mmで、誘電率10以下の誘電体によって被覆されていることが好ましい。このように誘電体によって被覆された電極版を接地側電極とすることは、放電による不具合を解消する上で特に重要である。
前記導電性部材としては、例えば、金属薄膜、酸化物半導体薄膜、導電性窒化物薄膜、導電性ホウ化薄膜、などの導電性薄膜が挙げられる。
前記金属薄膜に用いる金属としては、例えば、金、銀、白金、銅、アルミニウム、クロムなどが挙げられる。
前記酸化物半導体薄膜としては、例えば、酸化インジウム(In2O3)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO2)、及びこれら酸化物の複合系素材(例えば、酸化スズ+酸化亜鉛:Zn2SnO4、酸化インジウム+酸化亜鉛:In2O3−ZnO、酸化インジウム+酸化スズ:In2O3−SnO2など)、などが挙げられる。
前記導電性窒化物薄膜としては、例えば、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(TiZr)、窒化ハフニウム(HfN)、などが挙げられる。
前記導電性ホウ化薄膜としては、例えば、ホウ化ランタン(LaB6)、などが挙げられる。
前記導電性薄膜の形成方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、例えば、スパッタ法にて形成することができる。
【0017】
また、前記電極板を被覆する誘電体として、誘電率が10を超える材料を用いると、放電の集中が生じやすく、ムダなエネルギーを消費するばかりか、放電の集中によって基材に穴が開いたり、場合によっては発煙や燃焼を生じることがある。
前記誘電率10以下の誘電体としては、例えば、雲母(4.5〜7.5)、ガラス(3.7〜10)、パイレックスガラス(登録商標名、4.8)、酸化アルミナ(2.14)、石英ガラス(3.5〜4.0)、硼珪酸ガラス(4.0〜5.0)などの無機材料が好ましく挙げられる。また、塩化ビニル樹脂(5.8〜6.4)、ウレタン(6.5〜7.1)、エポキシ樹脂(2.5〜6)、生ゴム(2.1〜2.7)、加硫ゴム(2.0〜3.5)、天然ゴム(2.7〜4.0)、鉱物油(2〜2.5)、3フッ化エチレン樹脂(2.4〜2.5)、4フッ化エチレン樹脂(2、登録商標名:テフロン)、フッ素樹脂(4.0〜8.0)、シリコーン樹脂(3.5〜5)、シリコーンゴム(3.0〜3.5)、全芳香族ポリイミド(3.2〜3.4)、半脂肪族ポリイミド(2.8〜3.0)、全脂肪族ポリイミド(2.5〜2.6)、ポリエステル樹脂(2.8〜8.1)、ポリカーボネート樹脂(2.9〜3.0)、紙(2.0〜2.5)などの有機材料が挙げられる。ただし、上記材料の例示中、カッコ内は各材料の誘電率を表す。
【0018】
また、前記接地側電極として、厚み0.1〜10mmの誘電体で被覆された電極板を用いることは、印刷インク定着に効果のある沿面放電を安定して維持できることに加えて、不測の事態によってアーク放電を抑制するための安全機構となり得るため、好ましい。
前記誘電体の厚みが、0.1mm未満であると、薄すぎて、実用上、些細な製造作業ミスや取り扱い時のエラーなどで接地電極の金属部分が露出することがある。この場合、アーク放電が起き、金属電極損傷や周辺部材の発火や燃焼など引き起こすおそれがある。一方、前記誘電体の厚みが、10mmを超えると、実用的な印刷インク定着速度を得るためには、電源容量をより大きなものにする必要があり、コンパクト化や低コスト化が図れないことがある。
【0019】
前記非接地側電極については、以下の(1)、(2)、及び(3)の少なくともいずれかの条件を満たすものであれば、本発明のインク定着に有効に用いることができる。
(1)非接地側電極が、対向する接地側電極との該対向側に、複数の突起部を有する金属、前記で述べたような金属薄膜などの導電性の電極板であり、かつ、対向する他方の接地側電極の電極面に対して垂直な面によってできる所望の断面形状における前記突起部の先端形状が、R0.5mm以上、R10mm以下となっている部位を少なくとも有する。前記Rとは、曲率半径を表す。
前記先端形状が、R0.5mm未満であると、放電時に同時に発生するスパッタ現象が強く影響し、使用中にさらに削れて先端が鋭くなってしまい、放電集中が起きることがある。これは印刷インク定着のムラを生じさせるだけでなく、基材の損傷や発火のおそれを生じることがある。また、前記先端形状が、R10mmを超えると、放電の発生する場所が一定せず変動しやすくなり、基材面内を均一に処理するためには、より多くの面積の非接地側電極用の部材が必要となることがある。これは、高速で基材上の印刷インクを定着したい場合、その電極に必要な容積が大きくなることを意味しており、装置内にコンパクトに収納することができなくなる、即ち、装置サイズがムダに大きくなることがある。
(2)非接地側電極が、直径1mm以上、20mm以下の円柱状及び円管状のいずれかの形状で、かつ、金属又は金属以外の導電性材料を少なくとも用いて形成されている。
前記円柱状又は円管状の導電性材料の直径が1mm未満であると、放電時に同時に発生するスパッタ現象が強く影響し、使用中にさらに削れて直径が部分的に細く鋭くなってしまい、放電集中が起きることがある。これは、印刷インク定着のムラを生じさせるだけでなく、基材の損傷や発火のおそれを生じることがある。また、前記直径が20mmを超えると、高速で基材の印刷インクを定着したい場合、その電極に必要な容積が大きくなり、装置内にコンパクトに収納することができなくなる、即ち、装置サイズがムダに大きくなることがある。
(3)非接地側電極が、少なくとも金属あるいは導電性の部材からなる導電性部材を用い、
(3−1)直線状に複数切り出した前記導電性部材を相互に電気的に接合させたもの、
(3−2)1本の長尺な前記導電性部材を折曲、即ち、折り返したり屈曲するなどしたものを1本、又は複数本を組み合わせて電気的に接合させたもの、
(3−3)直線状に複数切り出した導電性部材と、長尺な導電性部材を折曲させたものとを、それぞれ少なくとも1本以上組み合わせて電気的に接合させたもの、
のいずれかによって構成されたものであって、
かつ、接地側電極の電極面に対して垂直な面で形成される所望の断面形状における先端形状が、R0.5mm以上、R10mm以下となっている部位を少なくとも有する。
前記(3−1)、(3−2)、及び(3−3)の非接地側電極において、前記先端形状が、R0.5mm未満では、放電時に同時に発生するスパッタ現象が強く影響し、使用中にさらに削れて先端部分が鋭くなってしまい、放電集中が起きることがある。これは印刷インク定着のムラを生じさせるだけでなく、基材の損傷や発火のおそれを生じることがある。また、先端形状が、R10mmを超えると、放電の発生する場所が一定せず変動し易くなり、基材面内を均一に処理するためには、より多くの非接地側電極用部材が必要となることがある。これは、高速で基材の印刷インクを定着したい場合、その電極に必要な容積が大きくなることを意味しており、装置内にコンパクトに収納することができなくなる、即ち、装置サイズがムダに大きくなることがある。
【0020】
前記電極の具体例を図5〜図10に示すが、上記要件を満たしていれば、必ずしも図に示された例にのみに限定されるものではない。
図5は、金属板9の全部が誘電体10で被覆された接地側電極7の具体例であり、図5の(A)は、該接地側電極7の斜視図を、図5の(B)はその断面図を示す。
図6は、金属板9の表面に突起11を複数を設けて凹凸形状とした非接地側電極8の斜視図(A)及びそのX−X’線断面図(B)である。
図7は、円管状の長尺な金属配管12を、複数回折曲することにより形成した非接地側電極8の斜視図(A)及びそのX−X’線断面図(B)である。該金属配管12は、前述のように、直径1〜20mmが好ましい。
図8は、直線状に切り出した複数の金属板9と、導電線13とを組み合わせて形成した非接地側電極8である。図8の(A)は、該非接地側電極8の斜視図で、図8の(B)は、その製造工程を示す概念図であり、図8の(C)は、図8の(A)のX−X’線断面図である。図8の(C)に示されるように、前記非接地側電極8は、直線状に切り出した金属板9の一側面側を削って、先端の断面形状が凸状となるように形成し、該金属板を複数並列に並べた後、これらが同電位となるよう、導電線13で接続することにより、一体化している。前記金属板9の凸状の先端が、R0.5〜10mmとするのが好ましい。
図9は、円管状の長尺な金属配管12を複数回折曲したものを、複数本組み合わせて形成した非接地側電極8である。その形成工程としては、図9の(A)に示すように、長尺な金属管12を複数回折曲する。次に、図9の(B)に示すように、前記折曲した金属間12を複数本組み合わせ、電気的に同電位となるように、該複数の金属管12どうしを配線14により接続して一体化することにより、非接地側電極8を形成する。図9の(C)は、その断面図である。
図10は、直線状に切り出した金属板9の一側面側を削って、先端の断面形状が凸状となるように形成し、該金属板9を導電線13で複数並列に接続することにより一体化したもの(図10の(A))と、円管状の長尺な金属配管12を複数回折曲したもの(図10の(B))とを、各々複数組み合わせ、電気的に同電位となるように、これらを互いに配線14により接続し、一体化することにより非接地側電極8を形成したものである(図10の(C))。
【0021】
基材(紙)の搬送方向に対して長尺な電極を用いたり、複数の電極を用いることは、電源コストを低下させることに対して極めて効果があることが、これまでの検討の結果わかっている。
基材(紙)上のインクを定着させるのには必要な放電量がある一定量あればよく(ただし、該放電量は、印刷インクの種類などによって差がある)、それを超えて多大な放電量があったとしても電極間に無効な電流を流すためだけに電力が使われたり、基材(紙)を損傷してしまうエネルギーとなってしまうだけで、インク定着に関しては全く意味がない。また、放電は広く浅く均一に、一定量を与える必要があると一般的に考えられている。
これまでの種々の検討から、一定の面積を持った電極からインク定着に寄与する放電量を引き出すことは限度があることがわかっている。限度を超えたものは無効な電流となったり、基材(紙)を損傷(発熱させて分解したり燃やしてしまうなど)したりしてしまう。
非接地電極の非放電部分を除いた金属または導体における単位面積当たり(1cm2当たり)の投入電力は最大約7Wであり、これを超えて電力を加えてもインク定着に寄与する放電は得られない。
投入電力について、更に最適化するにあたっては、印刷インクの組成や基材へのインク供給量、定着速度、誘電体の種類などによって調整する必要がある。
放電電極面積を変えないでインク定着に寄与する放電を増やそうとすると、電源周波数を高くしなければならないが、高圧で100kHz以上を与える電源は、電源自体が非常に大きなものとなってしまい、実用的でない。
低周波であっても(50z〜60kHz)、搬送方向に対して長尺な電極を用いたり、複数の電極を用いることによって、インク定着に有効な放電をより多く引き出すことができる。なお、このような長い距離の(複数の)電極間を高速に基材(紙)を搬送できるのはベルト部材を用いるのが最も適していると考えられる。該ベルト部材を用いた搬送手段(以下、ベルト搬送と称することがある)について、後に詳細に説明する。
【0022】
−印刷インク−
本発明のインク定着方法及びインク定着装置で使用される印刷インクとしては、構成成分としてカルボキシル基を有する不揮発性有機化合物が含まれ、かつ、光重合開始剤を含んでいないインクであれば特に制限はなく、目標とする色相に応じて適宜材料を選択することができる。
前記印刷インクとしては、エマルションインク、水性インク、油性インクが挙げられる。これらに含まれる前記カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物としては、炭化水素、油脂、ロウ類、高級脂肪酸、樹脂、樹脂の前駆体、高級アルコール、エステル類、グリセリン、などが好適に挙げられる。これらの成分は、環境負荷低減及び有害物質の発生抑制などの観点からも好ましい。また、これらの成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
このような印刷インクを使用し、大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)を用いた活性エネルギー線を付与することによって、インクを基材に定着させることにより、有害物質発生の防止効果に優れるとともに、未定着インクが生じた場合でも、人体や環境への影響を良好に回避することができる。
【0023】
前記水性インクとしては、前記成分の他に、水または水溶性有機溶剤、染料、顔料、分散剤を含んでなり、必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、浸透剤、キレート化剤、乾燥防止剤、有機アミンなどを含んでなる。また、前記水性インクの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法の中から適宜選択することができるが、例えば、有機溶剤又は水に、前記成分を分散させ、必要に応じて乳化して、インク化する。
【0024】
前記油性インクとしては、前記成分の他に、有機溶剤又は油、染料、顔料、分散剤を含んでなり、必要に応じて、界面活性剤、粘度調整剤、防菌剤、潤滑剤、高分子分散剤、可塑剤、帯電防止剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを含んでなる。また、前記油性インクの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法の中から適宜選択することができるが、例えば、有機溶剤又は油成分に、前記成分を分散させ、必要に応じて乳化して、インク化する。
【0025】
前記エマルションインクは、油相と水相とからなり、前記油相には、前記樹脂などから選択される成分の他に、有機白顔料、白色以外の着色顔料、体質顔料、無機系白顔料、分散剤、酸化防止剤、乳化剤、ゲル化剤、更その他の成分を含有してなる。また、前記水相には、有機白顔料、水、水溶性高分子化合物、抗菌剤、水の蒸発防止剤又は凍結防止剤、電解質、O/W樹脂エマルジョン、pH調整剤、その他の成分を含有してなる。また、前記エマルションインクの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法の中から適宜選択することができるが、例えば、常法により油相及び水相液を予め別々に調製し、前記油相中に水相を添加して、ディスパーミキサー、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー等の公知の乳化機内で乳化させることにより製造することができる。
【0026】
−−樹脂−−
前記樹脂としては、特に制限はなく、目標とする色相に応じて適宜選択することができ、例えば、アルキド樹脂、ロジン;重合ロジン、水素化ロジン、ロジンエステル、ロジンポリエステル樹脂、水素化ロジンエステル等のロジン系樹脂;ロジン変性アルキド樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂等のロジン変性樹脂;マレイン酸樹脂;フェノール樹脂;石油樹脂;環化ゴム等のゴム誘導体樹脂;テルペン樹脂;重合ひまし油、などが挙げられ、これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アルキド樹脂が特に好ましい。
【0027】
前記樹脂のインクにおける添加量としては、コスト及び印刷適正の観点から、15〜65質量%が好ましく、25〜45質量%がより好ましい。
前記樹脂の重量平均分子量は、定着性及び印刷適性から8,000〜16万が好ましく、3万〜8万がより好ましい。
前記樹脂の重量平均分子量が低い場合及び添加量が少ない場合には、定着性への効果が小さいことがあり、一方、重量平均分子量が高すぎたり、樹脂の添加量が多い場合にはインクの粘度が高くなり、インクが漏れるなどの印刷適性の問題が生じることがある。
【0028】
−−樹脂の前駆体−−
前記樹脂の前駆体とは、モノマー、オリゴマー、分散体ポリマーなどである。前記前駆体としては、特に制限はなく、目標とする色相に応じて適宜選択することができ、例えば、モノマー、オリゴマー、分散体ポリマーなどが挙げられる。
前記モノマーとしては、取り扱いの安全性などを考慮して、単官能イミドアクリレート(HHPI−A)、ニ官能アクリレート(NDDA、TEGDA、TCDDA、NPG・PO・DA、TPGDA、A−BPE4)、多官能アクリレート(TMPTA、PETA、THEIC−TA、DTMPTA、DPHA、TMP・EO・TA)、などが挙げられる。
前記オリゴマーとしては、ポリエステル・アクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、などが挙げられる。
前記分散体ポリマーとしては、スチレンアクリルポリマー(具体的製品としては、ジョンクリル63、ジョンクリル61J、ジョンクリルHPD71、ジョンクリルHPD96:ジョンソンポリマー株式会社製、などが挙げられる)、ポリアクリル酸ナトリウム(具体的製品としては、アクアリックDLシリーズ:株式会社日本触媒製、が挙げられる)、アクリル酸/マレイン酸共重合体塩(具体的製品としては、アクアリックTLシリーズ:株式会社日本触媒製、が挙げられる)、などが挙げられる。
前記樹脂の前駆体のインクにおける添加量としては、15〜65質量%が好ましく、20〜45質量%がより好ましい。
【0029】
−−油脂−−
前記油脂とは、脂肪酸とグリセリンがエステル結合したものである。前記油脂としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、植物油脂、動物油脂、石油精製油脂、などが挙げられる。
前記植物油脂としては、例えば、アポカド油、アルモンド油(アーモンド油)、アルガン油、オリーブ油(オリブ油)、カロット油(キャロット油)、キューカンバー油、ククイナッツ油(キャンドルナッツ油)、グレープシード油(プドウ油)、ゴマ油、小麦胚芽油、コメ胚芽油(オリザオイル)、コメヌカ油(コメ油)、コーン油、サフラワー油、シアバター(シア脂)、シソ油、大豆油、茶油(茶実油、茶種子油)、月見草油、ツパキ油、トウモロコシ胚芽油(マゾラ油)、ナタネ油、パーシック油(杏仁油、桃仁油)、ハトムギ油、パーム油、パーム核油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油(カスターワックス)、ヒマワリ油、サンフラワー油、へーゼルナッツ油、ポピー油、ボラジ油、マカデミアナッツ油、メドウホーム油、綿実油、モクロウ、ヤシ油、落花生油(ピーナツ油)、リンシード油、ローズヒップ油、などが挙げられる。
前記動物油脂としては、例えば、オレンジラフィー油、牛脂、タートル油(アオウミガメ油)、ミンク油、卵黄油、粉末卵黄油(水素添加卵黄油)、馬油、などが挙げられる。
前記石油精製油脂としては、鉱油、合成油などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記油脂のインクにおける添加量としては、15〜65質量%が好ましく、20〜45質量%より好ましい。
【0030】
−−ロウ類−−
前記ロウ類は、高級脂肪酸と高級アルコールのエステルである。前記ロウ類としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カルナウバロウ、鯨ロウ、セラック、ホホバ油、ミツロウ、サラシミツロウ(白ロウ)、モンタンロウ(モンタンワックス)、ラノリン、ラノリン誘導体、還元ラノリン、硬質ラノリン、吸着精製ラノリン、硬化油、などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記ロウ類ののインクにおける添加量としては、15〜65質量%が好ましく、20〜45質量%より好ましい。
【0031】
−−炭化水素−−
前記炭化水素は、炭素と水素のみからなる化合物である。前記炭化水素としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、α−オレフィンオリゴマー、α−メチルナフタレン、β−メチルアンスラセン、n−オクタデシルベンゼン、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジシクロヘキシル、ジフェニルメタン、スクワラン、植物性スクワラン、CDスクワラン、セレシン(地ロウ)、テトライソブチレン、テトラリン、デカリン、トリメチロールプロパンエステル、m−ビス(m−フェノキシフェノキシ)ベンゼン、パラフィン系炭化水素(固形パラフィン)、ヒドロポリイソブチレン、n−ヘキサン、n−ヘキサデシルベンゼン、n−デカン、o−キシレン、1,1−ジフェニルヘキサデカン、ナフタレン、ナフテン系炭化水素、芳香族炭化水素、プリスタン、ポリイソブチレン、ポリエチレン末、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、マイクロクリスタリンワックス、流動パラフイン、ワセリン、などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記炭化水素のインクにおける添加量としては15〜65質量%が好ましく、20〜45質量%がより好ましい。
【0032】
−−高級脂肪酸−−
前記高級脂肪酸とは、天然の油脂およびロウの構成成分であり、一般式RCOOHなどで表される化合物である。前記高級脂肪酸としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アラキドン酸、イソステアリン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘニン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、ラノリン脂肪酸、硬質ラノリン脂肪酸、軟質ラノリン脂肪酸、リノール酸、リノレン酸、などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記炭化水素のインクにおける添加量としては、15〜65質量%が好ましく、20〜45質量%がより好ましい。
【0033】
−−高級アルコール−−
前記高級アルコールとは、炭素原子数6以上の一価アルコールである。前記高級アルコールとしては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、オクチルドデカノール、キミルアルコール(グリセリルモノセチルエーテル)、コレステロール(コレステリン)、シトステロール(シトステリン)、ステアリルアルコール、セタノール(セチルアルコール、パルミチルアルコール)、セトステアリルアルコール、セラキルアルコール(モノオレイルグリセリルエーテル)、デシルテトラデカノール、バチルアルコール(グリセリルモノステアリルエーテル)、フィトステロール(フィトステリン)、ヘキシルデカノール、ベヘニルアルコール、ラウリルアルコール、ラノリンアルコール、水素添加ラノリンアルコール、などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記高級アルコールのインクにおける添加量としては、15〜65質量%が好ましく、20〜45質量%がより好ましい。
【0034】
−−エステル類−−
前記エステルとは、酸とアルコールとから脱水して得られる有機化合物であり、前記酸としては、脂肪酸、多塩基酸、ヒドロキシ酸などが挙げられ、前記アルコールとしては、低級アルコール、高級アルコール、多価アルコールなどが挙げられる。
前記エステル類としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アセチル化ラノリン(酢酸ラノリン)、イソステアリン酸イソセチル(イソステアリン酸ヘキシルデシル)、イソステアリン酸コレステリル、エルカ酸オクチルドデシル(EOD)、オクタン酸セチル(2−エチルヘキサン酸セチル)、オクタン酸セトステアリル(2−エチルヘキサン酸セトステアリル、イソオクタン酸セトステアリル)、オレイン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、ステアリン酸イソセチル(ステアリン酸ヘキシルデシル)、ステアリン酸コレステリル、ステアリン酸ブチル、長鎖−αヒドロキシ脂肪酸コレステリル(GLコレステリル)、トリミリスチン酸グリセリン、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、パルミチン酸イソプロピル(IPP、イソプロピルパルミテート)、ヒドロキシステアリン酸コレステロール、ミリスチン酸イソトリデシル(MITD)、ミリスチン酸イソプロピル(lPM、イソプロピルミリステート)、ミリスチン酸オクチルドデシル(MOD)、ミリスチン酸ミリスチル、ラウリン酸ヘキシル、ラノリン脂肪酸イソプロビル、ラノリン脂肪酸コレステリル、リンゴ酸ジイソステアリル、などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記エステルのインクにおける添加量としては、15〜65質量%が好ましく、20〜45質量%がより好ましい。
【0035】
このように、本発明のインク定着装置では、電極間の放電に伴う活性エネルギー線を用いることにより、従来のようなUVランプから発生される熱を強制冷却するための空冷ファンや熱排気ダクト、定着装置を開閉するためのシャッター機構、UV光の定着装置外部への漏れを防止するための遮断板、などを備える必要がなく、装置サイズを小さくして設置面積を節約できる。
また、光透過性の悪い色のインクであってもその特性に何ら影響されることなく硬化することができ、インクの種類などによらず、一定かつ低い硬化エネルギーを付与すればよいので、エネルギー効率に優れ、電源装置や維持運営の低コスト化が可能となる。
また、空気中の酸素により硬化反応が阻害されるなどの不具合がなく、阻害防止のための装置などが不要で、インク定着装置のコンパクト化、簡易化、及び処理効率の向上が可能となる。
また、油性インクでは、インクに含まれる油成分が大気中の酸素によって酸化されて硬化によって定着し乾燥するため、処理に時間がかかり、インクの滲みや、裏うつりなどを発生しやすく、印刷作業が困難になる不具合があったが、本発明のように、電極間の放電に伴う活性エネルギー線によりインク定着を行うことにより、油性インクに含まれる油成分の固化が促進され、インク定着を迅速かつ良好に行うことができる。
また、前記電極間の放電に伴う活性エネルギー線を用いることによって、紫外線光を用いた場合のように光の屈折、散乱及び反射などによる未照射部分が生じることがなく、未定着インクの発生を抑制して、人体や環境への影響を防止することができる。
【0036】
<インク供給手段>
前記インク供給手段は、基材の面上に印刷インクを供給するものである。
該インク供給手段により、基材の面上に印刷インクを供給した後、前記インク定着手段を用いて、該印刷インクに対してエネルギー線付与部により活性エネルギー線を付与し、印刷インクを定着するものであってもよく、定着性に優れるインクの定着が可能となる。
また、予め印刷がされ、未定着インクが残留する可能性のある基材に対して、前記インク定着手段を用いて、活性エネルギー線を付与して前記未定着インクを定着させた後、当該インク供給手段により、新たな印刷を行うものであってもよく、先の印刷と後の印刷とのインクの混色を防止して、にじみのない鮮明な印刷が可能となる。
前記インク供給手段としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、孔版、平版、凸版、凹版、及びインクジェット方式などが挙げられる。特に、インクジェット方式によるものであれば、オフセット印刷、スクリーン印刷に比べて、インク供給手段をコンパクトに形成することができる。
【0037】
<排出手段>
前記排出手段は、エネルギー線付与部による活性エネルギー線付与で生じる副産物を排出するものである。前記副産物としては、電極間の放電の際に生じるガス、電子線、光、基材からの脱ガス、インク定着時の反応などに伴って発生する種々のガスなどがあり、これらを除去するために、前記排出手段としては、ガス除去手段があり、このガス除去手段としては、ガス吸着手段、ガス解手段、ガス排気手段、などが挙げられる。なお、本発明では、低エネルギーで有害物質の発生の少ないインク定着が可能となるため、前記排出手段を設けていても、従来のインク定着装置で必要とされた空冷ファン、熱排気ダクト、シャッター機構、UV光の漏れ防止遮断板などに比べて、コンパクトで簡易なものとすることができる。
【0038】
−ガス除去手段−
前記電極間の放電の際に生じるガス、基材からの脱ガス、インク定着の際に生じるガスとしては、例えば、オゾンガス、NOxガス、VOCガス(揮発性有機化合物ガス)などが挙げられ、これらは、人体や環境に影響を与えたり、人体に軽重を問わず刺激を与える可能性がある。
前記ガス排気手段としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電極に臨ませて、排気ダクト、排気ファン、排気口などの風路を設けてもよい。この風路により、該電極付近の雰囲気を通気させて、前記ガスを除去することができる。
また、前記ガス吸着手段としては、前記風路内のいずれかの位置に、活性炭繊維、ゼオライト、光触媒などで形成したフィルターを配設し、これらにガスを吸着させてもよく、有害なガスの除去効果を更に高めて、人体への影響を極力防止することができる。前記フィルターは、活性炭繊維、ゼオライト、光触媒などを1種単独で用いて形成してもよいし、2種以上を組み合わせて形成してもよい。
また、前記NOxガスは、光触媒、ゼオライト、活性炭繊維の組み合わせによるガス吸着手段によって効果的に除去でき、NOxガスの優れた除去効果が得られる。また、この吸着されたNOxガスを、光触媒効果により、NO3イオンに分解することができ、NOxガスの除去に効果的である。
また、前記ガス分解手段として、例えば、前記オゾンガスを、前記活性炭繊維と接触させることにより、効果的にCO2に変化させることができる。従って、印刷機(定着機)の排気側の通気フィルタとして活性炭繊維を配置しておくことにより、オゾンガスの効率的な除去が可能となる。
また、前記VOCガスのガス吸着及び分解手段として、活性炭繊維に酸化チタンを添着したフィルターを用い、該フィルターによりVOCガスを効果的に吸着することができる。次に、該フィルターに屋外の太陽光を照射したり、適宜の紫外線ランプ(殺菌灯)の下で紫外線を直接照射することにより、前記活性炭繊維に吸着されていたVOCガスが酸化チタン触媒によってCO2に分解され、VOCガスの効果的な除去が可能となるとともに、活性炭繊維の再生使用が可能となる。また、ゼオライトと酸化チタン光触媒の組み合わせも、前記ガスの吸着及び分解手段として有効である。
これらのガス吸着手段やガス分解手段は、特別な換気装置(強制ダクト排気設備)がないような事務オフィスにおいても、通常換気が可能な場所であれば、容易な実用化が可能となる。
また、前記ガス排気手段として、装置からの排気を簡易的なダクトによって屋外へ排出すことが有効であり、作業者によって上記の手段を用いても副生物に対して過敏に反応する場合などに好適である。
更に、前記オゾンガスやNOxガスなどを発生させない環境を作ることも、人体への安全のために有効である。例えば、通気風路の放電電極の上流側に、シリコーンゴム製、ポリイミド製中空糸膜などで形成された、酸素遮断の中空糸タイプフィルターを設けて酸素を遮断し、放電電極付近の雰囲気を窒素で満たすことにより、酸素と活性エネルギー線との接触が防止され、前記オゾンガスやNOxガスなどの発生を効果的に防止することができる。
【0039】
<入力手段>
前記入力手段は、インク定着装置に基材を導入する手段であり、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、給紙トレイ、給紙バンク(箱)、ロール紙セット機構、ロール紙カット機構、基材供給台、基材供給トレイ、基材供給棚、などが挙げられる。
<出力手段>
前記出力手段は、インク定着装置でインク定着を完了した基材を排出する手段であり、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、収納トレイ、収納バンク(箱)、収納棚、巻き取り機構、折り重ね収納機構、などが挙げられる。
【0040】
<搬送手段>
前記搬送手段は、インク定着装置内において基材を入力手段から出力手段に搬送する手段であり、該搬送手段により、基材がインク定着手段に搬送され、インク定着処理が行われる。
前記搬送手段としては、基材をインク定着手段に搬送可能であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、比誘電率10以下で、厚み0.03〜5.0mmのベルト部材による搬送(ベルト搬送)を少なくとも行うものが好ましい。
前記ベルト部材として、比誘電率10以下の材料を用い、該ベルト材料の厚みを0.03〜5.0mmとすることにより、大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)した際に、インク定着に有効に作用する活性エネルギー線をより多く付与することが可能となる。
前記ベルト部材の材料としては、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、4フッ化エチレン、ポリアミド、及びポリイミドから選択される少なくとも1種を含むものが好ましい。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、これらの誘電率は、前記接地側電極を被覆する誘電体の説明中で述べたとおりである。
このような材料を用いることにより、前記ベルト部材の比誘電率を10以下とすることができる。
なお、搬送時の終了点において基材をベルト表面から引き剥がしやすくするために、基材の帯電状態から除電するための除電手段を設けるのが好ましい。該除電手段としては、除電ブラシ、除電用のイオナイザーなどが好適に挙げられる。
前記搬送手段による基材の搬送速度としては、50〜200cm/秒が好ましく、100〜200cm/秒がより好ましい。前記搬送速度が、50cm/秒未満であると、生産性が低く、生産ラインの低下を招くことがある。前記搬送速度が、200cm/秒を超えると、大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)した際に、インク定着に有効に作用する活性エネルギー線の付与が不充分となり、インクの定着性が低下することがある。
【0041】
毎葉紙にインク印刷されたものを高速でかつ連続的に多数枚処理する必要性と、大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)によるインク定着を同時に実現する観点から、前記ベルト搬送が最も低コストで効果的である。
放電は印刷インクを硬化させる一方で、基材をも帯電させる作用を有しており、基材をベルト部材上に載置してベルト搬送すると、基材はベルト部材上に隙間無く吸い付けられた状態となる。
この状態は、プラズマ放電電極間の狭い間隙を高速で基材(紙)を通過させるのに、極めて好都合である。
即ち、プラズマ放電電極の間隙はその電界強度を高くすることによって、インク定着効果も向上できるとが種々の検討からわかっており、そのためには電極間間隙を狭くする必要があった。
しかしながら極めて狭い間隙に基材を確実に通過させることは、基材(紙)に何も押圧力の働かないフリーな状態では通過が困難で、間隙を構成している電極に基材が衝突する現象が起きる結果、いわゆるジャム現象などの問題を発生させる。
また、基材(紙)の搬送手段として、複数のローラを用いたローラ搬送が一般的に用いられているが、このローラ搬送では、高速搬送の目的で、毎葉紙などの基材を軽く湾曲させて搬送させる方法がしばしば用いられている。しかし、本発明のような放電によるインク定着に、ローラ搬送を用いた場合は、その基材(紙)の湾曲分だけクリアランス(間隙)の余裕を放電電極間に設ける必要が生じる。このように電極間の間隙が広くなることは、一定の高圧電源を用いた場合には、電界強度が低下することになり、充分な活性エネルギー線付与を行うためには、結果として、電極間での基材の搬送速度を低下させざるを得なくなる。
また、高圧電源の出力電圧を高くすることは技術的に不可能ではないが、トランスなどを余裕をみて大きくする必要があり、電源は勿論、装置全体のコンパクト化や低コスト化が図れない。このような問題を解消するためにも、前記ベルト搬送が好適である。
前記ベルト搬送の更なる有利な点としては、基材がベルト面に吸着されて隙間無く一次的に固定されるので、電極を長尺とし、その間隙を狭幅とした場合でも、該長尺で瀬間幅な放電空間内において、基材を安定した状態で高速で移動させることができる。その結果、基材に活性エネルギー線を充分に付与して、優れたインク定着効果を、簡易に得ることができる。
【0042】
このように、ベルト搬送を行うことにより、長尺で狭幅な放電空間内において、ジャム現象などを生じることなく、基材を高速かつ円滑に移送することができるので、極めて優れたインク定着効果を得ることができる。したがって、高速に多量枚数の印刷物についてインク定着処理を行うという要望に対して、解決する策としては最も優れた方法である。
なお、当然のことながら本動作は、基材を連続して印刷しインク定着処理を行う場合において、電極を長尺にすることが可能であることから、高速移送した場合でも活性エネルギー線の付与による定着時間が長くなるということであって、その時間そのものが、インク定着装置や印刷装置での高速処理・タクトタイムに対して与える悪影響は非常に軽微であり、実状からみても全く問題がないレベルである。また、ジャム現象などの問題が防止できる分、より効率的な処理が可能となる。
【0043】
<作動制御手段>
前記作動制御手段は、前記インク定着手段の作動を制御するもので、例えば、基材の面上の未定着インクを検知又は検出し、未定着インクが存在する場合のみ、インク定着手段を作動させることにより、不必要なエネルギーの消費を防止して、エネルギー効率を向上させることが可能となり、維持運営の更なる低コスト化を可能とするものである。また、このような作動制御手段を備えることにより、比較的小さい被照射物、マーキング、線などの未定着インクに対して、効率よく活性エネルギー線を付与することができ、未定着インクを確実かつ効率的に硬化し定着させることができる。
【0044】
前記作動制御手段としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電気的な非接触センサー、磁気的な非接触センサー及び光学的な非接触センサーのいずれかを用いて未定着インクの存在を検知し、インク定着手段の動作タイミングを制御するものであってもよい。
前記電気的な非接触センサーは、静電容量センサーなどを用いて基材の静電容量を検出し、基材及びインク材料の有する誘電率の違いにより生じる前記静電容量の変化により、基材面上の未定着インクを検知する。
前記磁気的な非接触センサーは、インクに含まれる微量な磁性体による磁力線の強度変化を検出することにより、基材面上の未定着インクを検知する。
前記光学的な非接触センサーは、インクの光に対する反射率又は吸収率の差異を検出することにより、基材面上の未定着インクを検知する。
【0045】
また、基材面上の全体に、均一に未定着インクが存在している場合には、前記作動制御手段としては、未定着インクそのものを検知するのではなく、基材の搬送手段の搬送経路に設置した、機械的手段と、電気的接点及び磁気的接点のいずれかとの組み合わせ、及び機械的手段と光学的センサーとの組み合わせから選択されるいずれかにより、基材が前記搬送手段によってインク定着手段を通過する始点及び終点を検知することにより、前記インク定着手段の動作タイミングを制御するものが好適である。基材の一部の未定着インク部分のみを検出する場合には、検出手段が複雑で精密なものとなることがあるが、本形態によっては、基材の始点と終点を検出すればよいので、作動制御手段を簡易なものとすることができる。
前記検知機構としては、前記基材の面始点を、例えば基材の搬送経路に設置した基材移動及び送りこみ用駆動部(駆動ローラ部等)と直結または機械的機構を介して間接的に連結したカム機構からなる機械的手段が、そのカム機構の動作に伴って応答する電気的接点または光学的センサーによって検出する。これによって、動作開始及び動作終了を基材の有無とみなし、さらに基材有を「みなし未定着インクの存在」、基材無を「みなし未定着インクの不在」と検知することによって、インク定着手段を作動する。または、基材の搬送経路中に機械スイッチを設置して基材通過時の基材との接触や重量変化を機械スイッチに連動した電気的接点、もしくは光学的センサーにて検知し、これによって基材の有無判定とし、さらに基材有を「みなし未定着インク」の存在、基材無を「みなし未定着インクの不在」とに検知することによって、インク定着手段を作動する。
このように、基材の始点を検知した時点で活性エネルギー付与部が作動し、基材の終点を検知した時点でエネルギー付与部を停止することにより、基材全体に活性エネルギー線を付与することができ、また、基材以外の部分に活性エネルギー線付与が行われることがなく、不必要なエネルギーの消費を防止して、エネルギー効率に優れるインク定着が可能となる。
【0046】
以上説明したように、本発明のインク定着装置は、エネルギー効率、作業性に優れ、装置がコンパクトで簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れるため、例えば、本発明の印刷装置、プリンター、塗布装置、コーティングマシンなどに好適に用いられる。
【0047】
ここで、本発明のインク定着装置について、図面を参照して更に詳しく説明する。
<第一の実施形態>
図1は、本発明の第一の実施形態におけるインク定着装置の概念図である。この第一の実施形態に係るインク定着装置は、インク供給手段とインク定着手段とを備えた構成であり、印刷機能を有する装置である。図1に示すインク定着装置100は、基材6の入力手段1と出力手段2と、該入力手段1から出力部2に基材を搬送する搬送手段3(ポリイミド製の無端ベルト部材)とを備えている。この搬送手段3の経路に、基材6に印刷インクを供給するインク供給手段5を配置し、その下流側に、該インク供給手段5により基材6の面上に供給されたインクを定着させるためのインク定着手段の一つとして、電極間の放電に伴う活性エネルギー線を付与するエネルギー線付与部4を配置している。該エネルギー線付与部4は、前記搬送手段3の無端ベルト部材を挟んで、接地側電極7と非接地側電極8とを、0.5mmの間隙を介して対向させて配置することにより構成されている。図1中の矢印は、基材6の流れを示している。
前記第一の実施形態では、入力手段1から入力された基材が、搬送手段部3によりインク供給手段5に搬送され、基材の面上にインクが供給された後、該基材面上のインクに対して、エネルギー線付与部4により活性エネルギー線が付与され、定着性に優れるインクの定着が行われた後、出力手段2により出力される。
また、このような構成の第一の実施形態のインク定着装置に、副産物の排出手段、インク定着手段の作動制御手段を設けてもよい。
また、第一の実施形態のインク定着装置は、エマルションインク、水性インク、油性インクの定着や乾燥に好適である。また、第一の実施形態のインク定着装置の用途としては、該インク定着装置を組み合わせることにより、重ね塗りができるカラー(多色)印刷に好適に用いることができる。
【0048】
<第二の実施形態>
図2は、本発明の第二の実施形態におけるインク定着装置の概念図である。この第二の実施形態に係るインク定着装置は、面上に予めインクが付与された基材が入力され、インクの定着のみを行うタイプの装置であり、インク供給部を備えていない構成となっている。図2に示すインク定着装置100は、基材の入力部1と、出力部2と、該入力部1から出力部2に基材を搬送する無端ベルト部材からなる搬送手段3を備え、該搬送手段3の経路に、インク定着手段の一つとして、前記搬送手段3の無端ベルト部材を挟んで、0.5mmの間隙を介して対向させた、接地側電極7と非接地側電極8とからなるエネルギー線付与部4を配置している。図2中の矢印は、基材6の流れを示している。
前記第二の実施形態では、面上に予めインクが供給された基材6が入力部1から入力され、搬送部3によりエネルギー線付与部4に搬送され、該エネルギー線付与部4により、基材6面上のインクに対して活性エネルギー線が付与されることにより、定着性に優れるインクの定着が行われた後、基材6が出力手段2により出力される。
また、第二の実施形態のインク定着装置にも、副産物の排出手段、インク定着手段の作動制御手段を設けてもよい。
また、第二の実施形態のインク定着装置は、エマルションインク、水性インク、油性インクの定着や乾燥に好適である。また、第二の実施形態のインク定着装置の用途としては、印刷物のインクの定着、乾燥以外に、油絵などの美術品の乾燥及び定着に好適に用いることができる。また、活性エネルギー線の殺菌、消毒、乾燥作用により、食品包装材料への印刷に好適に用いることができる。
【0049】
<第三の実施形態>
図3は、本発明の第三の実施形態におけるインク定着装置の概念図である。この第三の実施形態に係るインク定着装置100は、基材6の入力手段1と、出力手段2と、ポリイミド製の無端ベルト部材からなる搬送手段3とを備え、該搬送手段3の経路にインク供給手段5を備え、該インク供給手段5の上流側に、インク定着手段として、接地側電極7と非接地側電極8とからなるエネルギー線付与部4を配置している。図3中の矢印は、基材6の流れを示している。
前記第三の実施形態では、入力部1から入力される基材6はすでに別の印刷装置又は同印刷装置で、それより前の時刻に別の印刷が施されたものであって、その少なくとも一部には未定着のインクが残留しているものとする。この未定着インクが残留した基材6が入力部1から、搬送部3によりエネルギー線付与部4に搬送され、該エネルギー線付与部4により基材6の面上に活性エネルギー線が付与され、前記未定着インクが定着される。この付与後に、基材6がインク供給手段5に搬送され、該基材6の面上へのインクの供給が行われた後、出力手段2により出力される。
また、第三の実施形態のインク定着装置にも、副産物の排出手段、インク定着手段の作動制御手段を設けてもよい。
また、第三の実施形態のインク定着装置は、インク定着機構を装備していない従来印刷装置を使って、既に印刷された基材に2色以上の多色刷りをしたい場合であって、混色を避けたい場合などに用いるのに好適である。
より具体的には、製品販促用のチラシ、サービス宣伝用のチラシなどを、まず、本社の従来の印刷装置で多量枚数を印刷しておく。ただし、この場合、印刷インクは、構成成分としてカルボキシル基を有する不揮発性有機化合物が含まれ、かつ、光重合開始剤を含んでいないものを使用する。次に、全国各地の支社や支店又は販売店などで、本発明の前記第三の実施形態のインク定着装置を使って、本社の印刷時には印刷されていなかった支社や支店・販売店の情報や地域の情報等を付加的に印刷するような場合が想定され、このような用途として好適に用いることができる。
【0050】
<第四の実施形態>
図4は、本発明の第四の実施形態におけるインク定着装置の概念図である。この第四の実施形態に係るインク定着装置100は、基材6の入力手段1と、出力手段2と、無端ベルト部材からなる搬送手段3とを備え、該搬送手段3の経路にインク供給手段5を備え、該インク供給手段5の上流側及び下流側に、インク定着手段として、エネルギー線付与部4a及び4bを各々配置している。図4中の矢印は、基材6の流れを示している。
前記第四の実施形態では、入力手段1から入力される基材6は、既に別の印刷装置で印刷が施されたか、又は同第四の実施形態の印刷装置で、当該印刷時より前の時刻に別の印刷が施されたものであって、その少なくとも一部には未定着のインクが残留しているものとする。この未定着インクが残留した基材6が入力手段1から、搬送部3によりエネルギー線付与部4aに搬送され、該エネルギー線付与部4aにより基材6の面上に活性エネルギー線が付与され、前記未定着インクが定着される。この付与後に、基材6がインク供給手段5に搬送され、該基材6の面上にインクが供給される。このインクが供給された基材6の面上の該インクに対して、更に下流側のエネルギー線付与部4bにより、基材6の面上に活性エネルギー線が付与されることにより、インクの定着が行われ、その後出力手段2により出力される。
また、第四の実施形態のインク定着装置にも、副産物の排出手段、インク定着手段の作動制御手段を設けてもよい。
また、第四の実施形態のインク定着装置は、定着機構を装備していない従来印刷装置を使って、既に印刷された基材に2色以上の多色刷りをしたい場合であって、混色を避けたく、更に手擦れ汚れ等を発生させたくない印刷などに用いるのに好適である。
また、より具体的に、第四の実施形態のインク定着装置の用途としては、前記第三の実施形態のインク定着装置の用途より、更に高速かつ確実な仕上げが必要なチケット、入場券、有価証券、商品券、証明書、保証書などの印刷に用いるのに好適である。
【0051】
(印刷装置)
本発明の印刷装置は、前記発明のインク定着装置を少なくとも有してなり、必要に応じて、インク供給手段、入力手段、出力手段、副産物の排出手段などを有してなる。
本発明の印刷装置の実施の形態としては、前記インク定着装置で説明した、図1、図3、及び図4に示すような形態などが好適に挙げられる。
本発明の印刷装置は、前記本発明のインク定着装置を有していることから、エネルギー効率、作業性に優れ、装置がコンパクトで簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れたインクの定着が可能で、低コストで高画質画像が得られため、孔版印刷装置、インクジェット印刷装置、凸版印刷装置、オフセット印刷装置などに好適に用いられる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0053】
−エマルションインクの調製−
まず、下記表1に記載の処方により着色剤、油成分、分散剤、樹脂、及び乳化剤を混合し、高速ディゾルバーにて攪拌した。その後、ビーズミル(LMZ2、アシザワ・ファインテック株式会社製)を用いて分散処理を行って油相を調製した。
次に、表1に記載の処方により着色剤、水溶性高分子、分散剤、凍結防止剤、及び防腐剤を混合し、この混合液を水に良く溶解させて水相を調製した。
次いで、乳化機(日光ケミカルズ株式会社製、乳化試験機ET−3A型)を使用し、前記油相液を仕込んで液を撹拌しながら、徐々に前記水相液を添加した。以上により、W/Oエマルションインクを作製した。
【0054】
【表1】
上記表1の構成のW/Oエマルションインクに関して、油相成分の中に油成分として植物油の「大豆油」があるが、この油は植物天然油であるため、若干の遊離脂肪酸を含んでいる。該遊離脂肪酸中にカルボキシル基の成分が存在していることから、これが後述のインク定着手段により、大気圧近傍の電極間の放電(大気圧プラズマ放電)が与えられた際に、基材に定着する化学変化(効果)を生じさせると推測する。
【0055】
−水性インクの調製−
以下のようにして、水性インクジェット用インクをそれぞれ調製した。なお、インクはシアン、マゼンタ、イエロー、及びクロの4色で1セットである。
まず、下記表2に記載の組成により、水に顔料、顔料分散剤、適宜添加剤等を投入し、ビーズミル(アシザワ・ファインテック社製、ミニゼーターMZ03)を用いて顔料分散液を作製した。
次に、得られた顔料分散液を平均孔径3μmのフィルターで濾過し、水性インクジェット用インクを調製した。
【0056】
【表2】
上記表2構成の水性インクに関して、添加剤の成分として「クエン酸」を含有している。該クエン酸中に、カルボンキシル基の成分が存在していることから、これが大気圧近傍の電極間の放電(大気圧プラズマ放電)が与えられた際に、基材に定着する化学変化(効果)を生じさせると推測する。
【0057】
−油性インクの調製−
下記表3に記載の材料を、工業用攪拌機(300rpm、60分)にて攪拌し、油性インクを調製した。該油性インクは揮発性溶剤を用いておらず、人体への影響がない成分構成となっている。
【表3】
上記表3の構成の油性インクに関して、油相成分の中に油成分として、「ひまし油」が含有されているが、このひまし油は天然の油であるため、若干の遊離脂肪酸を含んでいる。この場合も、該遊離脂肪酸中にカルボキシル基の成分が存在していることから、これが大気圧近傍の電極間の放電(大気圧プラズマ放電)が与えられた際に、基材に定着する化学変化(効果)を生じさせると推測する。
【0058】
(実施例1〜実施例8)
図1に示すような印刷装置を用いて、前記で調整したW/Oエマルションインクにより、図13(A)に示すように、普通OA用紙に幅75mmのベタ印刷を行い、得られたベタ印刷についてインク定着性の評価を行った。
前記図1の印刷装置は、インク供給部5の下流側に、搬送手段3であるポリイミド製無端ベルト部材を挟んで、0.5mmの間隙を介して接地側電極7と非接地側電極8とを対向させて配置することにより、エネルギー線付与部4を構成している。
また、前記接地側電極7として、図11に示すように、300mm×150mmのアルミ製平板の非接地側電極8と対向する側の一方面に、厚み約0.8mmの硼珪酸ガラス板(9%のB2O3を含有したSiO2、誘電率:4.0〜5.0)を接着固定した電極を使用した。また、前記非接地側電極8は、図12に示すように、長さ1,500mm、直径10mmの円管状の長尺な金属配管12(US配管)を、300mm×150mmの同一平面内に収まるよう、4回折曲することにより形成した電極を使用した。
また、前記搬送手段3として、一対の回転ローラにより回転する、厚み0.06mmのポリイミド製無端ベルト部材を使用した。
【0059】
<印刷及びインク定着処理>
図1に示す印刷装置では、搬送手段3により搬送されるOA用紙(基材)に、表4に示すように、前記で調整された印刷インクがインク供給手段5により供給された後、0.2〜0.6秒後(インク供給直後)に、インク定着手段のエネルギー線付与部4にて、接地側電極7と非接地側電極8との間の大気圧プラズマ放電に伴う活性エネルギー線がOA用紙のインクに対して付与されることにより、該インクの定着が行われる。各実施例で使用する電極の構造、誘電体の種類は前述のとおりで、電界波形は15kHzの矩形波形であり、電界強度100kV/cm、120kV/cm、140kV/cmの変動を有するものを、表4に示す条件で付与した。また、印刷及びインク定着処理は、気温20℃、湿度50%の環境下で行った。また、各実施例でのベタ印刷の色(黒色、青色、赤色)、インクの供給量は表4に示すとおりであり、前記搬送手段3による用紙の搬送速度は、100cm/秒である。
【0060】
<インク定着性の評価1(テープ剥離による評価)>
前記で得られたベタ印刷の表面に、図13に示すように、(B)マスキングテープ(NITTO社製、No720)を張り付け、(C)直径6cmのウレタンローラを使用し、1.2g/cm2の押し圧にてテープを押し付け、テープをOA用紙上に固定する。次に、(D)テープを直角方向に引き剥がし、(E)該テープの粘着面に移動したインクの量に応じて、下記評価基準によりインク定着性を評価した。
−評価基準−
5・・・インクがテープ側にまったく移動せず(テープの粘着面が白い状態)、インク定着性に極めて優れている。
4・・・インクの一部がテープに移動するが(手法の粘着面がわずかに灰色に変色する状態)、インク定着性に優れている。
3・・・インクの半分がテープに移動するが(テープの粘着面が灰色の状態)、実用上問題がない。
2・・・インクの半分以上がテープに移動し(テープの粘着面が黒灰色の状態)、インク定着性に劣る。
1・・・インクが全てテープに移動し(テープを剥がした後にインクが残らない)、インク定着性に極めて劣る。
【0061】
(実施例9〜実施例12)
図2に示すようなインク定着装置を備えた印刷装置を使用して、実施例1と同様の環境下でインク定着処理を行った。実施例9〜12では、OA用紙に予め、表4に示すように、前記で調整したカルボキシル基を有する不揮発性有機化合物が含まれ、かつ、光重合開始剤を含んでいないインクを供給し、8時間放置して、該インクをOA用紙に十分に浸透拡散させた後、該OA用紙を図2に示すインク定着装置に入力し、エネルギー線付与4により、活性エネルギー線を付与し、インク定着を行った。得られたベタ印刷に対して、実施例1と同様の方法でインク定着性を評価した。結果を表4に示す。
また、実施例9、10では、前記で調整したW/Oエマルションインクを用いて黒色のベタ印刷を行い、実施例11、12では、前記で調整した水性インクを用いて黒色のベタ印刷を行った。実施例9〜12で使用する電極の電界強度、予め供給されたインクの供給量、種類などは表4に示すとおりである。
また、実施例9〜12で使用する電極として、図2に示すように、エネルギー線付与部4として、図11に示す接地側電極7と、図12に示す非接地側電極8とを対向させて配置した。
また、前記搬送手段3として、厚み0.06mmのポリイミド製無端ベルト部材を使用し、該搬送手段3による用紙の搬送速度は、100cm/秒とした。
【0062】
(実施例13〜実施例16)
実施例13〜実施例16では、予め直前に普通OA用紙に、表4に示すように、前記で調整したカルボキシル基を有する不揮発性有機化合物が含まれ、かつ、光重合開始剤を含んでいない印刷インクで所定のテストパターンを、本発明の印刷装置とは別の従来の印刷機によって印刷されたものを200枚用意しておく。
そして、図3に示すような印刷装置を使用して、下記のようなインク定着手段としてのエネルギー線付与部4により電圧を印加して、先に印刷されたテストパターンを定着した後、インク供給手段5を用いて、前記テストパターン印刷済みの普通OA用紙と同一面に、重ならないように別のテストパターンを印刷する。得られた後の印刷のテストパターン及び、先に印刷されたテストパターンについて、下記のようにしてインク定着性の評価を行った。
実施例13〜16で使用する電極の電界強度、インクの供給量、種類などは表4に示すとおりである。
また、実施例13〜16で使用する電極として、図3に示すように、インク供給手段5の上流側に、エネルギー線付与部4として、図11と同様の接地側電極7と、図12と同様の非接地側電極8とを、搬送手段3のベルト部材を挟んで対向させて配置した。
また、前記搬送手段3として、厚み0.06mmのポリイミド製無端ベルト部材を使用し、該搬送手段3による用紙の搬送速度は、100cm/秒とした。
【0063】
<インク定着性の評価2(定着率による評価)>
インク定着性は、1枚目、10枚目、100枚目、200枚目について、先の印刷及び後の印刷のそれぞれのテストパターンに対してMONO消しゴム(株式会社トンボ鉛筆製)を10N・cmの荷重で押しつけ、5往復した結果のパターンの残留濃度をマクベス濃度計で測定し、その変化量から定着率を算出した。(先に印刷したパターンと、後に印刷したテストパターンを重ね合わせてインク同士の「にじみ」を評価するという場合、その度合いを検出が困難でかつ数値化し辛いという事情があるため。)
−評価基準―
消しゴムで消す前の濃度平均をaとし、消した後の濃度平均をbとし、b/a×100(%)をインク定着率とした。先に印刷されたテストパターンの定着率と、後に印刷されたテストパターンの定着率、及びこれらの差を表4に示した。
この場合、定着が行われた先に印刷されたテストパターンの定着率が80%以上で、かつ先に印刷されたテストパターン(本発明のインク定着手段により定着がされているもの)の残留濃度と、後に印刷されたテストパターン(本発明のインク定着手段により定着がされていないもの)の残留濃度の差が大きいほど(即ち、インク定着率の差が大きいほど)、先の印刷と後の印刷とでインクを重ねた時のインクの混色が防止でき、「にじみ」の発生の可能性が低いと評価することができ、本発明によるインク定着性が優れていることが判る。
【0064】
(実施例17〜実施例22)
実施例17〜実施例22では、予め直前に普通OA用紙に、表4に示すように、前記で調整したカルボキシル基を有する不揮発性有機化合物が含まれ、かつ、光重合開始剤を含んでいない印刷インクで所定のテストパターンを、本発明の印刷装置とは別の従来の印刷装置によって印刷されたものを200枚用意しておく。ここで、予め前記実施例13のインク定着性の評価2と同様の方法で、1枚目、10枚目、100枚目、200枚目の用紙を抜き取り、テストパターンの定着率を算出した後、当該用紙を元の場所に戻した。
そして、図4に示すような印刷装置を使用して、このテストパターン印刷済みの普通OA用紙の印刷面と同一面に、かつ重ならないように別のテストパターンを印刷した。
そして再び、1枚目、10枚目、100枚目、200枚目について、後に新しく印刷されたテストパターンに対して、インク定着性の評価2と同様の方法で、1枚目、10枚目、100枚目、200枚目について、定着率を算出した。結果を表4に示す。
実施例17〜22で使用する電極の電界強度、インクの供給量、種類などは表4に示すとおりである。
また、実施例17〜22で使用する電極として、図4に示すように、インク供給手段5の上流側に、エネルギー線付与部4aとして、図11と同様の接地側電極7aと、図12と同様の非接地側電極8aとを、搬送手段3のベルト部材を挟んで対向させて配置し、インク供給手段5の下流側に、エネルギー線付与部4bとして、図11と同様の接地側電極7bと、図12と同様の非接地側電極8bとを、ベルト部材を挟んで対向させて配置した。
また、前記搬送手段3として、厚み0.06mmのポリイミド製無端ベルト部材を使用し、該搬送手段3による用紙の搬送速度は、100cm/秒とした。
前記図4に示すような印刷装置では、先に印刷されたテストパターンと、後に印刷されたテストパターンの双方のインクを定着可能である。この場合、定着後の定着率が80%以上であること、及び、定着前の先の印刷のテストパターンの定着率と、定着後の後の印刷のテストパターンの定着率との差が大きいほど、「にじみ」の発生の可能性が低く、本発明によるインク定着性が優れていることが判る。
【0065】
(実施例23〜実施例25)
図1に示すような印刷装置を用いて、前記で調整した油性インクにより、実施例1と同様にして、図13(A)に示すように、普通OA用紙に幅75mmのベタ印刷を行い、得られたベタ印刷について、実施例1のインクの定着性1の評価と同様にして、インク定着性の評価を行った。結果を表4に示す。
実施例23〜25で使用する電極の構造、誘電体の種類は、実施例1と同様であり、電界強度、インクの供給量などは表4に示すとおりである。前記搬送手段3による紙送り速度は、100cm/秒である。
【0066】
(実施例26〜実施例28)
図2に示すようなインク定着装置を備えた印刷装置を使用して、前記で調整した油性インクにより、実施例1と同様の環境下でインク定着処理を行った。実施例9〜12ではOA用紙に予めカルボキシル基を有する不揮発性有機化合物が含まれ、かつ、光重合開始剤を含んでいないインクを供給し、8時間放置して、該インクをOA用紙に十分に浸透拡散させた後、該OA用紙を図2に示すインク定着装置に入力し、エネルギー線付与4により、活性エネルギー線を付与し、インク定着を行った。得られたベタ印刷に対して、実施例1のインクの定着性1の評価と同様にして、インク定着性を評価した。結果を表4に示す。
実施例26〜28で使用する電極の構造、誘電体の種類は、実施例9と同様であり、電界強度、インクの供給量などは表4に示すとおりである。前記搬送手段3による紙送り速度は、100cm/秒である。
【0067】
(実施例29〜実施例30)
実施例29〜30では、OA用紙に予め、表4に示すように、前記で調整したカルボキシル基を有する不揮発性有機化合物が含まれ、かつ、光重合開始剤を含んでいない油性インクで所定のテストパターンを、本発明の印刷装置とは別の従来の印刷装置によって印刷されたものを200枚用意しておく。ここで、予め前記実施例13のインク定着性の評価2と同様の方法で、1枚目、10枚目、100枚目、200枚目の用紙を抜き取り、テストパターンの定着率を算出した後、当該用紙を元の場所に戻した。
そして、図4に示すような印刷装置を使用して、このテストパターン印刷済みの普通OA用紙の印刷面と同一面に、かつ重ならないように別のテストパターンを印刷した。
そして再び、1枚目、10枚目、100枚目、200枚目について、後に新しく印刷されたテストパターンに対して、インク定着性の評価2と同様の方法で、1枚目、10枚目、100枚目、200枚目について、定着率を算出した。また、前記先に印刷したテストパターンにおける定着率と、今回印刷したテストパターンの定着率との差をにじみの評価とした。結果を表4に示す。
実施例29〜30で使用する電極の構造、誘電体の種類は、実施例17と同様であり、電界強度、インクの供給量などは表4に示すとおりである。前記搬送手段3による紙送り速度は、100cm/秒である。
【0068】
【表4】
【0069】
<有害ガス発生の評価>
前記図1〜図4に示す各印刷装置を用いた実施例2、10、14及び18について、有害ガス(オゾンガス及びNOx)の発生状態を、下記方法により評価した。結果を表5に示す。
印刷装置を外気から透明アクリル板で遮断密閉された実験ブース(幅1,200mm×奥行き900mm×高さ2,000mm)内に設置し、最初に十分換気して清浄な雰囲気にしておいてから、OA用紙1,000枚を処理したところで印刷装置を停止させ、実験ブース内の気体を以下の要領でサンプリングし、評価した。
実験ブース内には左右壁面付近と中央天井付近に設置した3台のファン(1台あたり6Wのファンで風量は約2.2m3/分)があり、これにより印刷装置から出たガスを常時ブース内に均一に攪拌できるようになっている。
前記サンプリング用に、実験ブース内中央の天井から30cmの下位置に、内径9mmのシリコンゴムチューブの先端が配置され、エアポンプによってブース外へ、付近のガスを取り出すことができる。
なお、実施例10では、予めOA紙にW/Oインク(黒色)で75mm幅×270mm長さのベタ印刷を施した後に室温20℃、湿度50%で8時間放置したものを用いている。
実験ブースは、同紙を印刷装置にセットする直前まで十分な換気を行っており、前後の影響は出ないよう配慮している。
実施例2、14及び18については、印刷装置にそれぞれのインクとOA紙をセットした状態で十分に換気を行った後、印刷開始直前に外気を遮断している。
(1)印刷装置を停止させた直後にエアポンプを駆動し、実験ブース内の雰囲気をサンプリングした。容量10Lのテドラーバッグ(商品名、ガス導入用の栓口がついた多層構造のガス捕集袋でガスの透過及び吸着がない)に捕集した。
(2)ガスの種類毎に連続して雰囲気をサンプリングした。この場合、NOx測定用、オゾン測定用、VOCガス測定用の計3袋をサンプリングした。
(3)NOx測定については、堀場製作所APNA360(化学発光方式)を用いて測定した。NOx濃度測定器は、化学発光方式(測定装置自身が発生させたオゾンガスとNOxガスの接触により発生する微弱発光をフォトンカウントする方法)で0.0001ppmまでの感度があるものを使用した。
(4)オゾン測定については、理研計器SC−90(定電位電解方式:範囲1ppm、分解能0.02ppm)を用いて測定した。
(5)VOCガスについては、島津製作所GC―14BPF(ガスクロマトグラフ:範囲10ppm、分解能0.01ppm)を用いて測定した。
【0070】
(比較例1)
実施例1と同様のW/Oエマルションインクを使用し、メタルハライド・ランプ(出力:120w/cm、反射板:コールドミラー、照射距離:110mm、積算光量:1,200mJ/cm2)を用いた従来公知のインク定着機構を備えた印刷装置を用いて、実施例1と同様にして、OA用紙に幅75mmのベタ印刷を行い、その際に発生する有害ガスの発生状態を、実施例1と同様の方法と評価基準により評価した。また、実施例1と同様の方法と評価基準により、インク定着性も評価した。結果を表5に示す。
【0071】
(比較例2)
実施例1と同様のW/Oエマルションインクを使用し、EB装置による電子線照射(加速電圧200KV、照射幅450mm、吸収線量27.0kGy)を用いた従来公知のインク定着機構を備えた印刷装置を用いて、実施例1と同様にして、OA用紙に幅75mmのベタ印刷を行い、その際に発生する有害ガスの発生状態を、実施例1と同様の方法と評価基準により評価した。また、実施例1と同様の方法と評価基準により、インク定着性も評価した。結果を表5に示す。
【0072】
【表5】
【0073】
表4〜5の結果から、インク定着手段が、基材の面上に電極間の放電に伴う活性エネルギー線を付与するエネルギー線付与部を、少なくとも有している実施例1〜30では、酸素などにより定着を阻害されることがなくインクの定着性に優れ、短時間での定着が可能となり、未硬化インクの発生がなく、インクの脱落や有害ガスなどの発生による人体や環境への影響を良好に防止して、高画質画像を形成できることが判った。
更に、定着しにくい黒色であっても、少ないエネルギーでインク定着が可能で、大掛かりな装置や複雑な調整を必要とせず、インク定着装置及び印刷装置の簡易化とコンパクト化が可能で、かつ、効率的な処理が可能となることが判った。また、実施例23〜30のようにインク定着性の悪い油性インクを用いた場合でも、優れたインク定着効果が得られることが判った。
特に、電極強度が100kV/cmより大きい値の変動点を有する実施例2〜8、10、12、14、16、18〜20、22及び25〜30では、インクの定着性に特に優れていることが判明した。
また、本発明の実施例においては、従来のインク定着機構を備えた印刷装置を使用した比較例1に比して、圧倒的にインク定着性に優れることが判明した。また、従来のインク定着機構を備えた印刷装置を使用した比較例2に比して、大気中で発生する人体に特に有害なNOxガスとオゾンガスのいずれも少ないことが判り、環境への影響防止効果に優れることが判った。
【0074】
(実施例31)
実施例1において、図1の印刷装置に、下記のようなガス除去手段を設けた以外は、実施例1と同様にして、普通OA用紙に幅75mmのベタ印刷を行い、その際の有害ガスの発生状態を評価した。
−ガス除去手段−
図1の印刷装置の放電電極に臨ませて、電極に臨ませて、該放電電極付近の排気をするための風路(8W、直径10cmの排気ファン)を設置し、該風路の下流側に、フィルタを設置した。該フィルタとして、ユニチカ株式会社のアドール(活性炭繊維)12.0gに、光触媒の酸化チタンを約5g添着させて、10cm角×厚み1cmの形状に形成したものを、#50のステンレスメッシュに支持させたものを用いた。
実施例35について、有害ガスの測定を行ったところ、NOx濃度は約0.05ppm、オゾン濃度は約0.01ppm以下、VOCガス濃度は0.01ppm以下であった。
【0075】
(実施例32)
実施例31において、ガス除去手段のフィルタとして、ユニチカ株式会社のアドール(活性炭繊維)12.0gに、天然ゼオライトを約8.7g添着させて、10cm角×厚み1cmの形状に形成したものを、#50のステンレスメッシュに支持させて形成したフィルタを用いた以外は、実施例31と同様にして、ガス除去手段を形成した。該ガス除去手段を、図1の印刷装置に設け、実施例1と同様にして、普通OA用紙に幅75mmのベタ印刷を行い、その際の有害ガスの発生状態を評価した。
実施例32について、有害ガスの測定を行ったところ、NOx濃度は約0.01ppm以下、オゾン濃度は約0.01ppm以下、VOCガス濃度は0.01ppm以下であった。
【0076】
上記実施例31及び32の結果より、本発明のエネルギー線付与部を設けた印刷装置に、更にガス除去手段を設けることにより、有害ガスの周囲への放出を、著しく低下できることが判った。
【0077】
(実施例33)
実施例33では、図14Aに示すような除電ブラシ21を設けた印刷装置100を作製した。図14Aに示す印刷装置は、給紙側(入力手段1)からOA用紙(基材6)を送り、インク供給手段5によって印刷した後に、エネルギー線付与部4の非接地側電極8と接地側電極7間に放電させた中を、ポリイミドの無端ベルト(搬送手段3)で搬送し、下流側に設けた引き剥がしツメ機構20により、用紙が無端ベルトから分離され、用紙収納側(出力手段2)へ送られるという機構である。
そして、前記引き剥がしツメ機構20により無端ベルトから用紙が分離される前に、除電ブラシ21により、用紙に帯電した電荷の除電が行われる。除電ブラシ21の除電効果は、図14Aに示すように、除電ブラシ21の上流側と下流側に各々設けた表面電位計22A、22Bを用いて、放電した電極間を通過させた直後と、除電ブラシにより除電を行った後の、用紙の表面電位を測定することにより数値化した。
【0078】
図14Aの印刷装置において、無端ベルト部材は絶縁体であるが接地側電極7と接触している。また、引き剥がしツメ機構21と回転ローラは、図示しない支持台、ボールベアリング等を介して電気的に接地されている。
また、前記除電ブラシ21は、導電性のものが用いられ、本実施例33では、日本蚕毛染色株式会社製の導電性繊維素材、サンダーロン(登録商標名)を使用した。このサンダーロンは、アクリル繊維及びナイロン繊維に、硫化銅を化学結合させた有機導電性繊維である。本実施例では、同素材を加工しアルミテープ付きタイプを用いたが、これは、複写機及びファクシミリ機用の除電ブラシに一般的に用いられている。除電ブラシ21は、ブラシ先端部が無端ベルト上の用紙に接触するように取り付けられ、かつ、同除電ブラシ21のアルミテープの部分が、アース接地されている。
前記引き剥がしツメ20は、図16Aに示すように、1mmのステンレス板の先端を、約20°の角度で研磨して先端0.1Rとしたものを用いた。
【0079】
<表面電位の評価>
前記表面電位計22A、22Bとして、トレック株式会社製の高速表面電位計Model341Bを用い、エネルギー線付与部4の放電電極間に印加された約20kVの電圧によって発生したストリーマ放電を通過した紙面(基材6)の表面電位を、除電ブラシ21の前後でそれぞれ測定した。なお、除電ブラシ21の除電効果のみを評価するため、インク供給手段5による印刷を行わず、印刷インクが付着していない用紙に対して、電圧を印加して電位の測定を行った。
測定条件を以下に示す。
温度:24℃
湿度:45%
使用紙(基材):OA紙
通紙枚数:100枚
印刷パターン:なし
ベルト搬送スピード:1,000mm/sec(100cm/秒)
測定位置1(表面電位計22Aの測定子のセット位置):放電電極から35mm下流の位置
測定位置2(表面電位計22Bの測定子のセット位置):放電電極から420mm下流の位置(除電ブラシ21の位置から200mm下流の位置)
なお、前記電圧の測定は、サンプリング周波数1kHzで行い、平均、最小、最大を求めている。
【0080】
−測定結果(除電ブラシがある場合)−
測定位置1(除電前)では、平均値が8.7kV(最小=5.3kV、最大9.9kV)であった。
測定位置2(除電後)では、平均値が0.5kV(最小=0.2kV、最大0.9kV)であった。
【0081】
(実施例34)
図14Aに示す印刷装置を用いて、インク付与手段5により、下記条件で実際にテストパターンを印刷したこと以外は、実施例33と同様にして、電圧を印加してインク定着を行ない、該インク定着後の用紙に対して除電ブラシ21で除電を行い、実施例33と同様にして、測定位置1(放電電極から35mm下流の位置)と、測定位置2(放電電極から420mm下流の位置)で用紙の表面電圧を測定した。
測定条件を以下に示す。
温度:23℃
湿度:52%
使用紙(基材):OA紙
通紙枚数:100枚
印刷パターン:25%濃度印刷(A4サイズ全面、使用インク:前記で調製したW/Oエマルションインク、黒色)
ベルト搬送スピード:1,000mm/sec(100cm/秒)
前記印刷パターンにおける25%濃度印刷について説明する。まず、100%濃度印刷(黒ベタ印刷)とは、図14Bの(1)に黒丸で示したような印刷パターンで、縦横63.5μmピッチで40.0μmのドット径のインクを転写した状態を意味し、該転写直後のインク厚みは、1ドット当たり平均3μmである。
これに対して、本実施例で行った前記25%濃度印刷とは、縦横63.5μmピッチにおいて、40.0μmのドット径で、図14Bの(2)に黒丸で示したようなパターンでインクを転写した状態を意味し(ただし、白丸はインクを転写していない部位を示す)、該転写直後のインク厚みは、前記100%濃度印刷と同様に、1ドット当たり平均3μmである。
【0082】
−測定結果(除電ブラシがある場合)−
測定位置1(除電前)では、平均値が6.5kV(最小=3.4kV、最大9.9kV)であった。
測定位置2(除電後)では、平均値が0.2kV(最小=0.1kV、最大0.9kV)であった。
【0083】
(実施例35)
図14Aに示す印刷装置から除電ブラシ21を外したものを用い、実施例33において、除電ブラシ21による除電を行わなかったこと以外は、実施例33と同様にして、用紙に電圧を印加し、測定位置1(放電電極から35mm下流の位置)と、測定位置2(放電電極から420mm下流の位置)で用紙の表面電圧を測定した。
【0084】
−測定結果(除電ブラシを外した場合)−
測定位置1では、平均値が8.9kV(最小=6.6kV、最大10.3kV)であった。
測定位置2では、平均値が4.7kV(最小=2.0kV、最大5.9kV)であった。
【0085】
(実施例36)
図14Aに示す印刷装置から除電ブラシ21を外したものを用い、実施例34において、除電ブラシ21による除電を行わなかったこと以外は、実施例34と同様にして、用紙に25%濃度印刷を行なった後、電圧を印加し、測定位置1(放電電極から35mm下流の位置)と、測定位置2(放電電極から420mm下流の位置)で用紙の表面電圧を測定した。
【0086】
−測定結果(除電ブラシを外した場合)−
測定位置1では、平均値が7.3kV(最小=6.5kV、最大10.1kV)であった。
測定位置2では、平均値が4.9kV(最小=2.1kV、最大5.5kV)であった。
【0087】
上記の測定結果より、除電を行なわない実施例35及び36に比べ、除電を行なった実施例33及び34では、除電ブラシ21によって効果的に除電ができていることが判明した。したがって、本発明の大気圧近傍の電極間放電を用いて基材に定着させるインク定着手段(インク定着工程)に、更に除電手段(除電工程)を設けることで、インク定着などに優れるだけでなく、より円滑で高速なインク定着及び印刷が可能となる。
また、実施例35及び36のように、除電ブラシ21を用いない用紙搬送では、静電気力に抗してベルト部材から用紙を円滑に引き剥がすには、図16Bに示すように、引き剥がしツメ21を常にベルト部材に接触させる必要があり、ベルト部材の疲労や回転ローラへの負荷が大きい。これに対して、除電ブラシ21を設けた実施例33及び34では、図14Aの印刷装置における用紙搬送の際に、前記優れた除電効果により、図16Aに示すように、前記引き剥がしツメ21と無端ベルト部材とを接触させず、約1.5mmの間隙を設けてセットしたものを用いることができた。このような引き剥がしツメ21を用いることにより、紙詰まりなどを生じることなく、円滑に用紙を搬送することができるとともに、ベルト部材の疲労や回転ローラへの負荷を低減して、搬送手段3の耐久性をも向上させることができる。
【0088】
(実施例37)
実施例37では、図15に示すように、除電手段として除電イオナイザー23及び送風ダクト(ノズル)24を設けた印刷装置100を作製した。該印刷装置100は、前記除電手段を変えた以外は、搬送手段3、エネルギー線付与部4などの機器構成は、図14Aに示す印刷装置と同じ構成としている。
前記図15に示す印刷装置100を用いて、実施例33と同様にして、放電した電極間を通過させた直後と、除電イオナイザー23により除電を行った後の、用紙の表面電位を測定し、除電効果を評価した。
前記除電イオナイザー23として、本実施例37ではヒューグルエレクトロニクス株式会社の70kHz〜80kHz高周波インライン方式エアーガン(MODEL−3000T)を用いた。また、露点−40℃の乾燥エアーを毎分約5リッター供給し、同イオナイザ−で+、−のそれぞれイオンを発生させてバランスさせ、送風ダクト(ノズル)24にて紙面上に均一に供給した。
【0089】
<表面電位の評価>
表面電位計22A、22Bとして、実施例33と同様に、トレック株式会社製の高速表面電位計Model341Bを用い、放電電極間に印加された約20kVによって発生したストリーマ放電を通過した紙面(基材6)の表面電位を、除電イオナイザー23と送風ダクト(ノズル)24の設置場所の前後でそれぞれ測定した。本実施例でも、除電イオナイザー24の除電効果のみを評価するため、インク供給手段5による印刷を行わず、印刷インクが付着していない用紙に対して、電圧を印加して電位の測定を行った。
測定条件を以下に示す。
温度:26℃
湿度:52%
使用紙(基材):OA紙
通紙枚数:100枚
印刷パターン:なし
ベルト搬送スピード:1,000mm/sec(100cm/秒)
測定位置3(表面電位計22Aの測定子のセット位置):放電電極から35mm下流の位置
測定位置4(表面電位計22Bの測定子のセット位置):放電電極から420mm下流の位置(除電用イオナイザー送風ダクト(ノズル)24の位置から約200mm下流の位置)
なお、前記電圧の測定はサンプリング周波数1kHzで行い、平均、最小、最大を求めている。
【0090】
−測定結果(除電イオナイザー23及び送風ダクト(ノズル)24がある場合)−
測定位置3(除電前)では、平均値が8.1kV(最小=6.0kV、最大10.5kV)であった。
測定位置4(除電後)では、平均値が0.03kV(最小=0.0kV、最大0.13kV)であった。
【0091】
(実施例38)
図15に示す印刷装置を用いて、インク付与手段5により、下記条件で実際にテストパターンを印刷したこと以外は、実施例37と同様にして、電圧を印加してインク定着を行ない、該インク定着後の用紙に対して除電ブラシ21で除電を行い、実施例33と同様にして、測定位置3(放電電極から35mm下流の位置)と、測定位置4(放電電極から420mm下流の位置)で用紙の表面電圧を測定した。
測定条件を以下に示す。
温度:24℃
湿度:57%
使用紙(基材):OA紙
通紙枚数:100枚
印刷パターン:25%濃度印刷(A4サイズ全面、使用インク:前記で調製したW/Oエマルションインク、黒色)
ベルト搬送スピード:1,000mm/sec(100cm/秒)
前記印刷パターンにおける25%濃度印刷については、前記実施例34で説明したとおりである。
【0092】
−測定結果(除電イオナイザー23及び送風ダクト(ノズル)24がある場合)−
測定位置3(除電前)では、平均値が6.3kV(最小=3.0kV、最大10.0kV)であった。
測定位置4(除電後)では、平均値が0.01kV(最小=0.0kV、最大0.05kV)であった。
【0093】
(実施例39)
図15に示す印刷装置において、除電イオナイザー23及び送風ダクト(ノズル)24の駆動を停止して、除電を行わなかったこと以外は、実施例37と同様にして、用紙に電圧を印加し、測定位置3(放電電極から35mm下流の位置)と、測定位置4(放電電極から420mm下流の位置)で電圧を測定した。
【0094】
−測定結果(除電イオナイザー+送風ダクト(ノズル)の駆動を停止した場合)−
測定位置3では、平均値が9.9kV(最小=8.3kV、最大12.1kV)であった。
測定位置4では、平均値が6.7kV(最小=5.1kV、最大7.9kV)であった。
【0095】
(実施例40)
図15に示す印刷装置において、除電イオナイザー23及び送風ダクト(ノズル)24の駆動を停止して、除電を行わなかったこと以外は、実施例38と同様にして、用紙に25%濃度印刷を行なった後、電圧を印加してインク定着を行い、測定位置3(放電電極から35mm下流の位置)と、測定位置4(放電電極から420mm下流の位置)で用紙の表面電圧を測定した。
【0096】
−測定結果(除電イオナイザー+送風ダクト(ノズル)の駆動を停止した場合)−
測定位置3では、平均値が6.6kV(最小=4.0kV、最大10.1kV)であった。
測定位置4では、平均値が6.7kV(最小=4.0kV、最大9.9kV)であった。
【0097】
上記測定結果より、除電を行なわない実施例39及び40に比べ、除電を行なった実施例37及び38では、除電イオナイザー23及び送風ダクト(ノズル)24によって、効果的に除電ができていることが判明した。したがって、本発明の大気圧近傍の電極間放電を用いて基材に定着させるインク定着手段(インク定着工程)に、更に除電手段(除電工程)を設けることで、インク定着などに優れるだけでなく、より円滑で高速なインク定着及び印刷が可能となる。
また、実施例39及び40においては、図16Bのように、引き剥がしツメ21を常にベルト部材に接触させる必要があるが、除電効果に優れる実施例37及び38では、図16Aに示すように、前記引き剥がしツメ21と無端ベルト部材とを接触させず、約1.5mmの間隙を設けてセットしたものを用いることができ、紙詰まりなどを生じることなく、円滑に用紙を搬送することができるとともに、ベルト部材の疲労や回転ローラへの負荷を低減して、搬送手段3の耐久性をも向上させることができる。
【0098】
(実施例41)
実施例41では、図17に示すように、作動制御手段を設けた印刷装置100を作製した。この印刷装置は、図14Aに示すような印刷装置100と同様に、除電ブラシ21、本発明のインク定着手段としてのエネルギー線付与部4、インク付与手段5、ポリイミド製無端ベルト部材及び回転ローラからなる搬送手段3、引き剥がしツメ機構20などを備えている。更に、インク供給手段5とエネルギー線付与部4との間に、用紙(基材6)の存在を検出し、エネルギー線4付与部の作動を制御するための作動制御手段として、同種類の非接触センサー25A、25Bを2つ備えている。該非接触センサーとしては、電気的な非接触センサー、磁気的な非接触センサー、光学的な非接触センサーのいずれを用いてもよい。
【0099】
前記非接触センサーは、1つでも充分であるが、2つ設置することにより、両センサーの出力信号の差分を取ることによって、ノイズに強くより感度を高め、信頼性を向上させることができる。また、実際の用紙の搬送スピードも感知できることから、インク定着に必要な放電を微細に制御することが可能となる。
給紙側(入力手段1側)に近いものを非接触センサー25A(以下、センサー25Aと称する)、放電電極に近いものを非接触センサー25B(以下、センサー25Bと称する)とする。
用紙が全く搬送されていないときは、センサー25Aもセンサー25Bも用紙を検出しておらず、そのため両方の出力信号の差分を取ると、ほぼゼロとなる。
しかし、用紙が搬送されてセンサー25Aに到達したときは、もう一方のセンサー25Bは、用紙を検出していないため、それぞれの出力信号の差分をとることにより出力信号が得られる。
更に、用紙が搬送されてセンサー25Bに達した時は、センサー25Aもセンサー25Bも用紙を検出し出力信号が出てくるが、両方の信号の差分は、再びゼロとなる。
用紙の搬送が進行し、用紙の終端に近づくと、今度はセンサー25A直下に用紙が存在しない状態で、センサー25B直下には用紙が存在する状態となって、双方の信号の差分を取ると出力信号が得られる。
搬送が完全に進行し、用紙が搬送され終わると、センサー25A、センサー25Bともに用紙を検出しない状態へ移り、両方の出力信号の差分を取るとゼロとなる。
即ち、差分信号の状態を観察すると、ゼロ状態→信号あり(入)→ゼロ状態→(用紙が放電電極間に入る)→信号あり(出)→ゼロ状態→(紙が用紙収納側即ち出力手段2へ搬送されていく)となり、差分の際にプラスかマイナスを判断するようにしておくと、プラス即ちA−B>0で「入」、マイナス即ちA−B<0で「出」の情報が得られ、これを作動制御のON、OFF(即ち、放電電極のON、OFF)に連携させることができる。なお、センサー位置と紙搬送速度によっては放電電極の作動開始及び停止時間とのずれが生じる可能性があるが、その場合は相当分の時間ずれを考慮して制御することが適当である。
【0100】
実施例41では、電気的非接触センサー25A、25Bとして、株式会社ケーメックスの静電容量センサーを使用した。本センサーにより、ポリイミド製のベルト部材だけの場合の静電容量と、そのベルト部材上に搬送されているOA用紙の静電容量の変化分を検知することが可能である。
【0101】
なお、実施例41では、ポリイミドとOA用紙の静電容量の変化により、用紙の有無を検出して作動制御を行っているが、未定着インクが用紙上に付着している場合と付着していない場合の静電容量の変化分を検出し、未定着インクが存在する場合のみ、放電電極を作動させるように制御することにより、ムダな電気の消費を抑制して、よりエネルギー効率に優れたインク定着が可能となる。
【0102】
また、磁性体を含むインクを用いた場合には、磁気的非接触センサーを用いるのが効果的である。この場合、ニッコーシ株式会社製の磁気センサー、MRS−H−21を用いることができる。該MRS−H−21は、InSbを用いた磁気抵抗素子で、インク中に含まれる磁性体を高感度で検出することができる。本センサーでは、用紙を検出するのではなく、未定着インキの存在を直接検出することができるので、よりムダのない作動制御が可能である。
また、光学的非接触センサーとしては、コーデンシ株式会社製の反射型のフォトインタラプター(SG113)を用いることができる。この素子は、赤外LEDとフォトトランジスタを組み合わせた構成となっており、対象物に対して赤外LEDで赤外光を照射し、その反射光を高感度にフォトトランジスタで受けることができる。そして、主にOA紙とポリイミドの材質による赤外光反射率の違いを検出することによって作動制御を行うことができるが、更には印刷インクの種類によって反射率が異なることを利用して未定着インクなどを検出することにより、更に微細かつ精巧に作動制御することが可能である。
なお、インクの種類によって作動制御を行う場合は、定型印刷でそのインクによって印刷された部分が光学的非接触センサー(フォトインタラプター)の直下を必ず通過できるようにするか、光学的非接触センサー(フォトインタラプター)の数を増やして印刷された全領域をカバーするなどによって対応することができる。
【0103】
(実施例42)
実施例42では、図18に示すように、接触センサー25Cを用いた印刷装置を作製した。この印刷装置100は、エネルギー線4付与部の作動を制御するための作動制御手段として、用紙供給側とインク供給手段5との略中間位置に接触センサー25Cを設けたこと以外は、実施例41の図17に示す印刷装置と同様の構成としている。
前記接触センサー25Cとしては、機械的手段と電気的接点、機械的手段と磁気的接点、機械的手段と光学的センサーの組み合わせのいずれを用いてもよい。
一例として、図19A及び19Bに、機械的手段と電気的接点を用いたものを示す。まず、図19A(1)は、前記機械的手段(以下、機械的検知部、機械的要素と称することがある)の側面図であり、用紙搬送の際の紙重さを検出するために、該用紙の通過経路に設置されて、金属板を加工した作動片26とばね27とから構成されている。また、図19(2)は、前記機械的手段と、電気的接点との模式図を示し、該電気的接点は、前記機械的検知部の裏面側にプラス極28とマイナス極29を基板配線状に形成したものを配置し、軽量の導電性ゴムシート材30を機械的検知部の裏に貼りつけたものを用いて電気スイッチを構成した。用紙(基材6)が存在しない状態では、図19A(1)に示すように、作動片26は、ばね27により上部方向に付勢され、図19A(2)に示すように、導電性ゴムシート材30とプラス極28とマイナス極29とが非通電状態で、電気スイッチはOFFとなっている。
用紙が搬送され作動片26の上面を通過すると、図18B(1)及び(2)に示すように、用紙の自重で作動片(機械的検知部)26が、ばねの付勢力に抗して押し下げられ、図19B(2)に示すように、導電性ゴムシート材30が基板配線のプラス極28とマイナス極29を導通することによって、通電状態(ON)となる。
このON信号を感知することにより、用紙の通過を認識して、エネルギー線付与部4が作動して、インク定着が行われる。
【0104】
前記接触センサーとして、機械的手段と磁気的接点を用いた実施例を図20A及び図20Bに示す。この接触センサーの機械的検知部は、非磁性のステンレス板(作動片26)で形成し、その裏面に磁性体(ゴム磁石)31を貼り付けている。該磁性体31の下方に望ませて、磁気センサー32(ニッコーシ株式会社製磁気センサー、MRS−H−21はInSbを用いた磁気抵抗素子)を設置している。該接触センサーでは、用紙の通過により前記作動片26が押し下げられると、図20Bに示すように、磁性体31と磁気センサー32との距離が近接し、その信号の変化を読み取ることで用紙検出が可能である。
また、前記接触センサーとして、機械的手段と光学的センサーを用いた実施例を図21A及び図21Bに示す。この接触センサーは、機械的検知部(作動片26)の裏面に、光反射用テープ(アルミ蒸着テープ)33を貼りつけ、その下方に望ませて、反射型フォトインタラプター34(コーデンシ株式会社製の反射型のフォトインタラプター、SG113)を設置している。該接触センサーでは、図21Bに示すように、用紙の通過により前記作動片26が押し下げられると、前記フォトインタラプター34の発する赤外光が反射テープ33に反射され、再びフォトインタラプター34に内臓されたフォトダイオードに戻ることから、用紙の検出が可能である。また、用紙が通過していないときは、図21Aに示すように、反射テープ33の貼りつけられた作動片26が、前記赤外光をフォトインタラプター34方向に反射する角度とは異なる角度となっているため、赤外光がフォトダイオードへ戻らず、用紙が存在しないことが認識できる。
【0105】
(実施例43)
上記各実施例では、用紙(基材)の搬送手段3として、ポリイミド製の無端ベルト部材を用いているが、実施例43は、図22に示すように、搬送手段3として、ローラ部材を用いている。このような印刷装置100では、用紙(生地6)が給紙側(入力手段1側)から、ローラ部材によってインク供給手段5に搬送されて印刷が行われ、更にローラ部材によって放電電極(エネルギー線付与部4)に搬送されてインク定着が行われ、次に、ローラ部材によって除電ブラシ21により搬送されて除電が行われた後、用紙収納側(出力手段2)へと搬送される。
なお、このようにローラ部材で用紙を搬送する際は、搬送を容易とするため、用紙を搬送方向の中心部で、湾曲させて、撓みを形成することが、用紙にコシを付けてローラ部材で搬送し易くする観点から好ましい。
一方、本発明のインク定着に用いる放電電極は、電界強度を大きくする観点から、接地側電極と非接地側電極との間隙を狭くするのが好ましい。この場合、前記のように用紙を撓ませた場合、狭い間隙内を通過する際に、紙詰まりを生じる可能性があるため、接地側電極と非接地側電極との間隙を狭くするには限度がある。したがって、ローラ部材による搬送よりも、用紙を撓ませる必要のないベルト部材による搬送が、接地側電極と非接地側電極との間隙をより狭くすることができ、本発明のインク定着により好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明のインク定着方法は、エネルギー効率、作業性に優れ、処理工程が簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れるので、印刷装置、プリンター、塗布装置、コーティングマシン、などに好適に用いられる。
本発明のインク定着装置は、エネルギー効率、作業性に優れ、装置がコンパクトで簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れるので、印刷装置、プリンター、塗布装置、コーティングマシン、などに好適に用いられる。
また、本発明の印刷装置は、前記本発明のインク定着装置を備えることにより、エネルギー効率、作業性に優れ、装置がコンパクトで簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れるので、低コストで高画質画像が得られる。そのため、例えば、輪転孔版印刷機などの孔版印刷装置、インクジェット印刷装置凸版印刷装置、オフセット印刷装置などに好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】図1は、本発明のインク定着装置又は印刷装置の一例を示す模式断面図である。
【図2】図2は、本発明のインク定着装置の一例を示す模式図である。
【図3】図3は、本発明のインク定着装置又は印刷装置の一例を示す模式図である。
【図4】図4は、本発明のインク定着装置又は印刷装置の一例を示す模式図である。
【図5】図5は、本発明のインク定着装置などに用いられる接地側電極の一例を示す模式図であり、(A)は、斜視図であり、(B)は、その断面図である。
【図6】図6は、本発明のインク定着装置などに用いられる非接地側電極の一例を示す模式図であり、(A)は、斜視図であり、(B)は、そのX−X’線断面図である。
【図7】図7は、本発明のインク定着装置などに用いられる非接地側電極の一例を示す模式図であり、(A)は、斜視図であり、(B)は、そのX−X’線断面図である。
【図8】図8は、本発明のインク定着装置などに用いられる非接地側電極の一例を示す模式図であり、(A)は、斜視図であり、(B)は、その製造工程の一例を示す模式図であり、(C)は、(A)のX−X’線断面図である。
【図9】図9は、本発明のインク定着装置などに用いられる非接地側電極の一例を示す模式図であり、(A)は、折曲した金属配管の斜視図であり、(B)は、完成した非接地側電極の斜視図であり、(C)は、(B)のX−X’線断面図である。
【図10】図10は、本発明のインク定着装置などに用いられる非接地側電極の一例を示す模式図であり、(A)は、折曲した金属配管の斜視図であり、(B)は、導電線で接続した金属板の斜視図であり、(C)は、完成した非接地側電極の斜視図である。
【図11】図11は、本発明の各実施例で用いた接地側電極の平面図である。
【図12】図12は、本発明の各実施例で用いた非接地側電極の平面図である。
【図13】図13(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)は、インクの定着性の評価1の評価方法の手順を示す概略図である。
【図14A】図14Aは、除電ブラシを用いた本発明の印刷装置の一例を示す模式図である。
【図14B】図14Bの(1)は、100%濃度印刷の印刷パターン(ドット)を表す模式図であり、(2)は、25%濃度印刷の印刷パターン(ドット)を表す模式図である。
【図15】図15は、除電用イオナイザーを用いた本発明の印刷装置の一例を示す模式図である。
【図16A】図16Aは、引き剥がしツメの配置の一例を示す拡大図である。
【図16B】図16Bは、引き剥がしツメの配置の一例を示す拡大図である。
【図17】図17は、非接触センサーを用いた本発明の印刷装置の一例を示す模式図である。
【図18】図18は、接触センサーを用いた本発明の印刷装置の一例を示す模式図である。
【図19A】図19A(1)及び(2)は、機械的手段と電気的接点を用いた接触センサーのOFF状態を表す側面図である。
【図19B】図19B(1)及び(2)は、機械的手段と電気的接点を用いた接触センサーのON状態を表す側面図である。
【図20A】図20Aは、機械的手段と磁気センサーを用いた接触センサーのOFF状態を表す側面図である。
【図20B】図20Bは、機械的手段と磁気センサーを用いた接触センサーのON状態を表す側面図である。
【図21A】図21Aは、機械的手段と光学的センサーを用いた接触センサーのOFF状態を表す側面図である。
【図21B】図21Bは、機械的手段と光学的センサーを用いた接触センサーのON状態を表す側面図である。
【図22】図22は、ローラ部材を用いた本発明の印刷装置の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0108】
1 入力手段
2 出力手段
3 搬送手段
4 エネルギー線付与部(インク定着手段)
5 インク供給手段
6 基材
7 接地側電極
8 非接地側電極
21 除電ブラシ
23 除電用イオナイザー
26 作動片(機械的手段)
28 プラス極(電気的接点)
29 マイナス極(電気的接点)
30 導電性ゴムシート材(電気的接点)
31 磁性体(磁気的接点)
32 磁気センサー(磁気的接点)
33 光反射用テープ(光学的センサー)
34 フォトインタラプター(光学的センサー)
100 インク定着装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物を少なくとも含み、かつ、光重合開始剤を含んでいない印刷インクを、大気圧近傍の電極間放電を用いて基材に定着させるインク定着工程、を少なくとも含むことを特徴とするインク定着方法。
【請求項2】
大気圧近傍が、0.07〜2MPaである請求項1に記載のインク定着方法。
【請求項3】
電極間放電を生じさせる電極が、電極間空間内に、少なくとも100kV/cmより大きい電界強度を有する放電部と、非放電部とが、複数形成されるよう構成された請求項1から2のいずれかに記載のインク定着方法。
【請求項4】
接地側電極が、厚み0.1〜10mmで誘電率が10以下の誘電体によって、少なくとも一部が被覆された電極板である請求項1から3のいずれかに記載のインク定着方法。
【請求項5】
非接地側電極が、接地側電極との対向側に複数の突起部を有する電極板であり、かつ、前記接地側電極の電極面に対して垂直な面で形成される所望の断面形状における前記突起部の先端形状が、R0.5〜R10mmの曲部を少なくとも有する請求項1から4のいずれかに記載のインク定着方法。
【請求項6】
非接地側電極が、直径1〜20mmの円柱状及び円管状のいずれかの導電性材料を少なくとも用いて形成された請求項1から5のいずれかに記載のインク定着方法。
【請求項7】
非接地側電極が、直線状の複数の導電性部材を相互に電気的に接合させてなる電極、少なくとも1本の長尺な導電性部材を折曲し電気的に接合させてなる電極、及び、直線状の複数の導電性部材を相互に電気的に接合させたものと長尺な導電性部材を折曲させたものを組み合わせて電気的に接合させてなる電極、から選択されるいずれかであり、かつ、接地側電極との対向側に形成される複数の突起部の、接地側電極の電極面に対して垂直な面で形成される所望の断面形状における先端形状が、R0.5〜R10mmの曲部を少なくとも有する請求項1から6のいずれかに記載のインク定着方法。
【請求項8】
基材を搬送する搬送工程を含み、該搬送工程が、比誘電率10以下で、厚み0.03〜5.0mmであるベルト部材により少なくとも行われる請求項1から7のいずれかに記載のインク定着方法。
【請求項9】
ベルト部材が、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、4フッ化エチレン、ポリアミド、及びポリイミドから選択される少なくとも1種を含む請求項8に記載のインク定着方法。
【請求項10】
ベルト部材による基材の搬送終了時に、帯電状態の基材を除電するための除電工程を行う請求項8から9のいずれかに記載のインク定着方法。
【請求項11】
除電工程が、除電ブラシ及び除電用イオナイザーのいずれかにより行われる請求項10に記載のインク定着方法。
【請求項12】
インクが、W/Oエマルションインク、水性インク、及び油性インクのいずれかである請求項1から11のいずれかに記載のインク定着方法。
【請求項13】
大気圧近傍の電極間放電により生じた副産物としてのガスを除去するガス除去工程を含む請求項1から12のいずれかに記載のインク定着方法。
【請求項14】
ガス除去工程が、電極に臨ませて配置し、電極付近の雰囲気を通気させるための排気ダクト、排気ファン、及び排気口のいずれかからなる風路により少なくとも行われる請求項13に記載のインク定着方法。
【請求項15】
ガス除去工程が、電極付近の雰囲気を通気させる風路内に配設された、活性炭繊維、ゼオライト及び光触媒から選択される少なくとも一種からなるフィルタにより行われる請求項14に記載のインク定着方法。
【請求項16】
基材へのインク供給工程を含み、該インク供給工程が、孔版、平版、凸版、凹版、及びインクジェット方式の少なくともいずれかにより行われる請求項1から15のいずれかに記載のインク定着方法。
【請求項17】
基材上の未定着のインクを検知して大気圧近傍の電極間放電を行うための作動制御工程を、更に含む請求項1から16のいずれかに記載のインク定着方法。
【請求項18】
作動制御工程が、電気的な非接触センサー、磁気的な非接触センサー、及び光学的な非接触センサーの少なくともいずれかを用いて基材上の未定着インクを検知し、大気圧近傍の電極間放電の放電動作タイミングを制御する請求項17に記載のインク定着方法。
【請求項19】
作動制御工程が、機械的手段と、電気的接点及び磁気的接点のいずれか、並びに、機械的手段と光学的センサー、の少なくともいずれかを用いて、基材の有無を検知することにより基材上の未定着インクを検知し、大気圧近傍の電極間放電の放電動作タイミングを制御する請求項18に記載のインク定着方法。
【請求項20】
請求項1から19のいずれかに記載のインク定着方法を用いたインク定着装置であって、
基材に供給され、カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物を少なくとも含み、かつ、光重合開始剤を含んでいない印刷インクを、大気圧近傍の電極間放電を用いて基材上に定着させるインク定着手段、
を少なくとも有してなることを特徴とするインク定着装置。
【請求項21】
請求項20に記載のインク定着装置を備えてなることを特徴とする印刷装置。
【請求項1】
カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物を少なくとも含み、かつ、光重合開始剤を含んでいない印刷インクを、大気圧近傍の電極間放電を用いて基材に定着させるインク定着工程、を少なくとも含むことを特徴とするインク定着方法。
【請求項2】
大気圧近傍が、0.07〜2MPaである請求項1に記載のインク定着方法。
【請求項3】
電極間放電を生じさせる電極が、電極間空間内に、少なくとも100kV/cmより大きい電界強度を有する放電部と、非放電部とが、複数形成されるよう構成された請求項1から2のいずれかに記載のインク定着方法。
【請求項4】
接地側電極が、厚み0.1〜10mmで誘電率が10以下の誘電体によって、少なくとも一部が被覆された電極板である請求項1から3のいずれかに記載のインク定着方法。
【請求項5】
非接地側電極が、接地側電極との対向側に複数の突起部を有する電極板であり、かつ、前記接地側電極の電極面に対して垂直な面で形成される所望の断面形状における前記突起部の先端形状が、R0.5〜R10mmの曲部を少なくとも有する請求項1から4のいずれかに記載のインク定着方法。
【請求項6】
非接地側電極が、直径1〜20mmの円柱状及び円管状のいずれかの導電性材料を少なくとも用いて形成された請求項1から5のいずれかに記載のインク定着方法。
【請求項7】
非接地側電極が、直線状の複数の導電性部材を相互に電気的に接合させてなる電極、少なくとも1本の長尺な導電性部材を折曲し電気的に接合させてなる電極、及び、直線状の複数の導電性部材を相互に電気的に接合させたものと長尺な導電性部材を折曲させたものを組み合わせて電気的に接合させてなる電極、から選択されるいずれかであり、かつ、接地側電極との対向側に形成される複数の突起部の、接地側電極の電極面に対して垂直な面で形成される所望の断面形状における先端形状が、R0.5〜R10mmの曲部を少なくとも有する請求項1から6のいずれかに記載のインク定着方法。
【請求項8】
基材を搬送する搬送工程を含み、該搬送工程が、比誘電率10以下で、厚み0.03〜5.0mmであるベルト部材により少なくとも行われる請求項1から7のいずれかに記載のインク定着方法。
【請求項9】
ベルト部材が、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、4フッ化エチレン、ポリアミド、及びポリイミドから選択される少なくとも1種を含む請求項8に記載のインク定着方法。
【請求項10】
ベルト部材による基材の搬送終了時に、帯電状態の基材を除電するための除電工程を行う請求項8から9のいずれかに記載のインク定着方法。
【請求項11】
除電工程が、除電ブラシ及び除電用イオナイザーのいずれかにより行われる請求項10に記載のインク定着方法。
【請求項12】
インクが、W/Oエマルションインク、水性インク、及び油性インクのいずれかである請求項1から11のいずれかに記載のインク定着方法。
【請求項13】
大気圧近傍の電極間放電により生じた副産物としてのガスを除去するガス除去工程を含む請求項1から12のいずれかに記載のインク定着方法。
【請求項14】
ガス除去工程が、電極に臨ませて配置し、電極付近の雰囲気を通気させるための排気ダクト、排気ファン、及び排気口のいずれかからなる風路により少なくとも行われる請求項13に記載のインク定着方法。
【請求項15】
ガス除去工程が、電極付近の雰囲気を通気させる風路内に配設された、活性炭繊維、ゼオライト及び光触媒から選択される少なくとも一種からなるフィルタにより行われる請求項14に記載のインク定着方法。
【請求項16】
基材へのインク供給工程を含み、該インク供給工程が、孔版、平版、凸版、凹版、及びインクジェット方式の少なくともいずれかにより行われる請求項1から15のいずれかに記載のインク定着方法。
【請求項17】
基材上の未定着のインクを検知して大気圧近傍の電極間放電を行うための作動制御工程を、更に含む請求項1から16のいずれかに記載のインク定着方法。
【請求項18】
作動制御工程が、電気的な非接触センサー、磁気的な非接触センサー、及び光学的な非接触センサーの少なくともいずれかを用いて基材上の未定着インクを検知し、大気圧近傍の電極間放電の放電動作タイミングを制御する請求項17に記載のインク定着方法。
【請求項19】
作動制御工程が、機械的手段と、電気的接点及び磁気的接点のいずれか、並びに、機械的手段と光学的センサー、の少なくともいずれかを用いて、基材の有無を検知することにより基材上の未定着インクを検知し、大気圧近傍の電極間放電の放電動作タイミングを制御する請求項18に記載のインク定着方法。
【請求項20】
請求項1から19のいずれかに記載のインク定着方法を用いたインク定着装置であって、
基材に供給され、カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物を少なくとも含み、かつ、光重合開始剤を含んでいない印刷インクを、大気圧近傍の電極間放電を用いて基材上に定着させるインク定着手段、
を少なくとも有してなることを特徴とするインク定着装置。
【請求項21】
請求項20に記載のインク定着装置を備えてなることを特徴とする印刷装置。
【図14B】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図20A】
【図20B】
【図21A】
【図21B】
【図22】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図20A】
【図20B】
【図21A】
【図21B】
【図22】
【公開番号】特開2007−106105(P2007−106105A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164605(P2006−164605)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000221937)東北リコー株式会社 (509)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000221937)東北リコー株式会社 (509)
【Fターム(参考)】
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