説明

エアバッグ装置

【課題】エアバッグが乗員に向かって勢いよく突き出すのを防止し、エアバッグを安定して膨張展開させる。
【解決手段】エアバッグ10は、インナーバッグ30Aと、アウターバッグ20と、規制部材40Aとを有する。インナーバッグ30Aは、インフレータ3から供給されるガスで膨張する。アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aの流通口から供給されるガスで膨張する。規制部材40Aは、アウターバッグ20の前面の乗員方向への移動を規制する。規制部材40Aの開口部41は、膨張したインナーバッグ30Aの外周に引っ掛かり、かつ、アウターバッグ20の膨張に伴いインナーバッグ30Aの外周に沿って乗員方向へ移動する。規制部材40Aは、開口部41の移動に応じて、アウターバッグ20の前面を移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載されて、乗員を保護するエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の緊急時や衝突時に乗員を保護するため、エアバッグ装置が使用されている。エアバッグ装置は、例えば、ステアリングホイールに取り付けられて、運転席の前方で、エアバッグを膨張展開させる。運転席の乗員は、前方のエアバッグにより受け止められて拘束される。このエアバッグ装置として、従来、エアバッグ内を複数室に区画して、エアバッグを側方に早期に広がらせるエアバッグ装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この従来のエアバッグ装置は、インナーパネルによりエアバッグの中央に第1室を区画し、セパレートパネルにより第1室の周囲に第2室と第3室を区画する。ところが、このエアバッグ装置では、インフレータが発生する高圧のガスにより、第1室が乗員に向かって膨張した後に、第2室と第3室が順に膨張する。そのため、エアバッグの展開初期に、第1室が勢いよく突き出して乗員に接触して、乗員が受ける衝撃が大きくなる虞がある。特に、乗員がステアリングホイールに接近しているときには、乗員の衝撃がより大きくなる。
【0004】
また、この従来のエアバッグ装置では、エアバッグは、インナーパネルが完全に伸びたときに突き出しが急激に止められて、インナーバッグの長さに応じた厚さに膨張する。そのため、インナーパネルが長すぎると、エアバッグが突き出す距離も長くなり、乗員の危険も大きくなる虞がある。これに対し、インナーパネルが短すぎると、エアバッグが薄くなるため、乗員を受け止められずに、乗員がステアリングホイールに当たる虞がある。また、インナーパネルが急停止するときの反動で、エアバッグが乗員方向に伸び縮みしてバウンドすることがある。
【0005】
図17は、バウンドする従来のエアバッグを示す側面図である。図17A、17Bでは、ステアリングホイールとエアバッグに接触する乗員も示している。
従来のエアバッグ100は、図示のように、膨張展開した後に、ステアリングホイール90上でバウンド(図17Aの矢印W)することがある。これに伴い、エアバッグ100は、形状が安定せず、最も厚い形状V1と最も薄い形状V2の間で変動することで、性能も不安定になる。また、例えば、乗員91(図17B参照)が、最も薄い形状V2のエアバッグ100に接触すると、エアバッグ100が乗員91の衝撃やエネルギーを吸収するストローク(吸収ストローク)が不足する虞もある。従って、従来のエアバッグ100は、より安定して膨張展開して、乗員91を安全に拘束する観点から、改良が求められている。
【0006】
また、従来のエアバッグ100では、インナーパネル(図示せず)の結合部に大きな負荷がかかるため、結合部の強度を増加させる必要がある。例えば、縫製による結合では、補強布の追加や、糸の太さ又は形状の変更により縫製の強度を強くする必要がある。そのため、従来のエアバッグ100は、製造の手間やコストが増加するという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−284026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来の問題に鑑みなされたもので、その目的は、エアバッグが乗員に向かって勢いよく突き出すのを防止して、エアバッグを安定して膨張展開させ、エアバッグにより乗員を安全に拘束することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ガスにより膨張展開して車両の乗員を保護するエアバッグと、エアバッグにガスを供給するインフレータとを備えたエアバッグ装置であって、エアバッグが、インフレータから供給されるガスにより膨張するとともに、ガスの流通口が設けられたインナーバッグと、インナーバッグを収容してインナーバッグの流通口から供給されるガスにより膨張するアウターバッグと、アウターバッグ内でアウターバッグの前面に連結されて前面の乗員方向への移動を規制する規制部材とを有し、規制部材が、膨張したインナーバッグの外周に引っ掛かり、かつ、アウターバッグの膨張に伴いインナーバッグの外周に沿って乗員方向へ移動する開口部を有し、開口部の移動に応じてアウターバッグの前面を乗員方向へ移動させるエアバッグ装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エアバッグが乗員に向かって勢いよく突き出すのを防止して、エアバッグを安定して膨張展開させることができ、エアバッグにより乗員を安全に拘束することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】エアバッグ装置を設けたステアリングホイールを示す正面図である。
【図2】第1の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図3】図2のエアバッグ装置を分解して示す斜視図である。
【図4】第1の実施形態のインナーバッグの斜視図である。
【図5】膨張展開するエアバッグを順に示す断面図である。
【図6】乗員を保護するエアバッグ装置を示す側面図である。
【図7】第2の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図8】図7のエアバッグ装置を分解して示す斜視図である。
【図9】第2の実施形態の規制部材を示す斜視図である。
【図10】膨張展開するエアバッグを順に示す断面図である。
【図11】第3の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図12】第4の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図13】図12のエアバッグ装置を分解して示す斜視図である。
【図14】第4の実施形態のインナーバッグの斜視図である。
【図15】膨張展開するエアバッグを順に示す断面図である。
【図16】膨張展開するエアバッグを順に示す断面図である。
【図17】バウンドする従来のエアバッグを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のエアバッグ装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
このエアバッグ装置は、車両内に配置されて、膨張展開するエアバッグにより乗員を受け止めて保護する。また、エアバッグ装置は、例えば、車両内で、運転席や助手席等のシートの周囲に設けられて、シートに座った乗員を保護する。以下では、運転席前方のステアリングホイールに配置されたエアバッグ装置を例に採り説明する。
【0013】
図1は、エアバッグ装置を設けたステアリングホイールを示す正面図である。図1では、ステアリングホイールを乗員側から見て示している。
エアバッグ装置1は、図示のように、ステアリングホイール90の中央部に搭載されて、乗員の前方に配置される。また、エアバッグ装置1は、表面を覆うエアバッグカバー2を備え、エアバッグカバー2内に所定状態に折り畳まれたエアバッグ(図示せず)が収容されている。エアバッグは、膨張によりエアバッグカバー2を押し開いて車室内で展開し、ステアリングホイール90と乗員の間で膨張展開する。その際、エアバッグは、乗員の位置する方向(乗員方向という)と側方に向けて膨張して、ステアリングホイール90を覆うように展開する。
【0014】
(第1の実施形態)
図2は、第1の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Aと表す)を示す図であり、図1の矢印X方向から見たエアバッグ装置1Aを模式的に示している。また、図2では、展開(膨張)初期のエアバッグ10を断面図で示している。図3は、図2のエアバッグ装置1Aを分解して示す斜視図であり、エアバッグ装置1Aの各構成を上下方向に離して示している。図3では、矢印により、組み合わされる構成の関係や構成同士の組み合わせ位置も示している。
【0015】
エアバッグ装置1Aは、図示のように、膨張展開可能なエアバッグ10と、インフレータ3と、エアバッグ10内に配置されたクッションリング4と、リアクションプレート5(図2では省略する)とを備えている。エアバッグ10は、インフレータ3から供給されるガスにより、乗員に向かって膨張展開して車両の乗員を保護する。
【0016】
インフレータ3は、ディスクタイプのガス発生装置であり、厚さ方向の一端部の外周に、複数のガス噴出口(図示せず)を有する。インフレータ3は、一端部がエアバッグ10に形成された取付口11からエアバッグ10内に挿入された状態で、取付口11に取り付けられる。インフレータ3は、車両緊急時や衝撃検知時に、エアバッグ10内でガスを発生して、エアバッグ10にガスを供給する。その際、インフレータ3は、複数のガス噴出口から放射状にガスを噴き出して、エアバッグ10を、所定の折り畳み形状から膨張展開させる。
【0017】
クッションリング4は、矩形板状をなし、中央部に、インフレータ3が挿入される孔4A(図3参照)を有する。また、クッションリング4には、4つのボルト4Bが、孔4Aの周りに固定されている。クッションリング4は、エアバッグ10の取付口11の周囲を、リアクションプレート5との間に挟み込んで、エアバッグ10をリアクションプレート5に固定する。その際、まず、ボルト4Bを、エアバッグ10の各部材に設けられた挿入孔12に挿入して、エアバッグ10の各部材をボルト4Bにより仮止めする。続いて、ボルト4Bを、リアクションプレート5の取付孔(図示せず)に挿入した後、インフレータ3をリアクションプレート5に取り付ける。インフレータ3は、挿入孔3Aにボルト4Bが挿入される。次に、ロックナット6により、ボルト4Bをリアクションプレート5に固定することで、クッションリング4、エアバッグ10、及び、インフレータ3をリアクションプレート5に固定する。
【0018】
リアクションプレート5は、矩形状の枠体からなり、一方の面にクッションリング4とエアバッグ10が、他方の面にインフレータ3が取り付けられる。また、リアクションプレート5の内部には、折り畳まれたエアバッグ10が配置される。リアクションプレート5は、エアバッグ10を覆うエアバッグカバー2が取り付けられた後、ステアリングホイール90に固定される。
【0019】
エアバッグ10は、補強布13、14と、保護布15と、アウターバッグ20とを有する。また、エアバッグ10は、アウターバッグ20内に配置されたインナーバッグ30及び規制部材40(以下、この形態のインナーバッグと規制部材には、それぞれ30Aと40Aを付す)を有する。エアバッグ10の各構成は、例えば織布やシートを裁断して形成した基布からなる。補強布13、14と保護布15は、中央に取付口11が形成された円形状をなし、クッションリング4とリアクションプレート5の間の所定位置に配置される。
【0020】
アウターバッグ20とインナーバッグ30Aは、正面視円形状の袋体であり、それぞれエアバッグ10の外側膨張部と内側膨張部を構成する。クッションリング4は、アウターバッグ20とインナーバッグ30Aの取付口11から、インナーバッグ30A内に挿入される。アウターバッグ20とインナーバッグ30Aは、クッションリング4によりリアクションプレート5に固定されて、取付口11の周囲が、クッションリング4とリアクションプレート5の間に保持される。
【0021】
以下、エアバッグ10の各構成について順に詳しく説明する。なお、本発明では、アウターバッグ20、インナーバッグ30、及び、エアバッグ10に関して、それぞれ車両内で、乗員側(図2、図3では上側)になる部分を前面、車体側(図2、図3では下側)になる部分を後面という。また、アウターバッグ20とインナーバッグ30に関して、それぞれエアバッグ10として組み立てられた状態で、外側になる面を外面、内側になる面を内面という。
【0022】
インナーバッグ30Aは、インフレータ3の一端部が内部に配置され、インフレータ3から供給されるガスにより膨張する。インナーバッグ30Aの前面には、ガスを流通させる流通口31が少なくとも1つ(ここでは、2つ)設けられている。インナーバッグ30Aは、インフレータ3からのガスにより最初に膨張を開始し、流通口31を通してアウターバッグ20内にガスを供給する。
【0023】
インナーバッグ30Aは、前面を構成する前基布(前面パネル)32と、後面を構成する後基布(後面パネル)33とを有する。両基布32、33は、同じ直径の円形状に形成され、外周に沿って、縫製や接着(ここでは、縫製)により接合される。インナーバッグ30Aは、両基布32、33により内外が区画されて、内部に気室34が形成される。流通口31は、前基布32の2箇所に形成されて、インナーバッグ30A内のガスを乗員方向に流出させる。後基布33の内面には、保護布15が取り付けられる。保護布15は、後基布33とクッションリング4の間に配置されて、クッションリング4から後基布33を保護する。
【0024】
図4は、インナーバッグ30Aの斜視図である。図4Aに、膨張前のインナーバッグ30Aを示し、図4Bに、膨張後のインナーバッグ30Aを示す。
膨張前のインナーバッグ30Aは、図4Aに示すように、前基布32と後基布33が重ねて配置されて、円形状をなす。膨張後のインナーバッグ30Aは、図4Bに示すように、基布32、33内の気室34にガスが充填されて、球形状に膨張する。このように、インナーバッグ30Aは、アウターバッグ20内で、平面形状から立体形状に膨張する。
【0025】
アウターバッグ20(図2、図3参照)は、インナーバッグ30Aを内部に収容するメインバッグであり、インナーバッグ30Aの流通口31から供給されるガスにより膨張する。アウターバッグ20の後面には、内部のガスを外部に排出するベントホール21が少なくとも1つ(ここでは、2つ)設けられている。アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aに続いて膨張を開始して、インナーバッグ30Aの周りで、それよりも大きく膨張する。
【0026】
アウターバッグ20は、前面を構成する前基布(前面パネル)22と、後面を構成する後基布(後面パネル)23とを有する。両基布22、23は、同じ直径の円形状に形成され、外周に沿って接合される。アウターバッグ20は、両基布22、23により内外が区画されて、内部に気室24が形成される。ベントホール21は、後基布23の2箇所に形成されて、アウターバッグ20内のガスを車体に向かって排出する。後基布23の内外面には、補強布13、14が取り付けられる。補強布13、14は、取付口11の周囲を補強して、インフレータ3が発生するガスや熱から後基布23を保護する。
【0027】
インナーバッグ30Aとアウターバッグ20は、インフレータ3が位置する後面で連結された状態で膨張する。また、インナーバッグ30Aとアウターバッグ20は、乗員の前方において、インフレータ3から乗員方向と側方に向かって展開する。その際、まず、アウターバッグ20内で、インフレータ3を収容するインナーバッグ30Aが膨張して、その全体が膨張展開する。アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aの外部で次第に膨張して、インナーバッグ30Aの膨張完了後の所定のタイミングで、全体が膨張展開する。また、アウターバッグ20は、規制部材40Aにより膨張と展開が規制されて、側方に広がってから乗員方向に次第に膨張する。
【0028】
規制部材40Aは、アウターバッグ20内で、アウターバッグ20の前面(前基布22)に連結されて、アウターバッグ20の膨張時に、前面の乗員方向への移動を規制する。ここでは、規制部材40Aは、中央に開口部41を有する帯状部材42からなる。帯状部材42は、矩形状の基布(帯状布)であり、エアバッグ10の膨張前に、インナーバッグ30Aの後面(後基布33)とアウターバッグ20の後面(後基布23)の間に配置される。また、帯状部材42は、インナーバッグ30Aの縁部を越えた位置で、アウターバッグ20の前基布22に縫製される。これにより、帯状部材42の両端が、アウターバッグ20の前面に接合される。インナーバッグ30Aは、規制部材40Aとアウターバッグ20の前面の間に配置される。
【0029】
規制部材40Aの開口部41は、円形孔からなり、インフレータ3の外径よりも大きく、かつ、膨張展開したインナーバッグ30Aよりも小さい所定径に形成される。開口部41は、インナーバッグ30Aが通過可能な通過口であり、エアバッグ10の膨張前に、インフレータ3の周りで、インナーバッグ30Aと同芯状に配置される。即ち、開口部41は、インナーバッグ30Aの後面とアウターバッグ20の後面の間に、インナーバッグ30Aが通過可能に配置される。エアバッグ10の膨張時には、規制部材40Aの開口部41は、膨張したインナーバッグ30Aに引っ掛かり、インナーバッグ30Aにより保持される。また、開口部41は、アウターバッグ20の膨張に伴い、アウターバッグ20の前面に引っ張られて、インナーバッグ30Aの外周に沿って乗員方向へ次第に移動する。規制部材40Aは、開口部41の移動に応じて、アウターバッグ20の前面を乗員方向へ移動させる。
【0030】
次に、エアバッグ装置1A(図3参照)の製造手順について説明する。
アウターバッグ20に関しては、まず、2つの補強布13、14を後基布23の内外面に縫製(図3では、各縫製部を点線で示す)する。また、規制部材40Aの両端を前基布22の内面に縫製する。次に、両基布22、23の外面を重ね合わせて、両基布22、23を外周に沿って縫製する。その後、両基布22、23を、取付口11を通して反転させて、規制部材40Aをアウターバッグ20内に配置する。なお、図3では、アウターバッグ20及びインナーバッグ30Aを反転させた後における各構成の配置状態を示している。
【0031】
インナーバッグ30Aに関しては、まず、保護布15を後基布33の内面に縫製する。次に、両基布32、33の外面を重ね合わせて、両基布32、33を外周に沿って縫製する。その後、両基布32、33を、取付口11を通して反転させて、インナーバッグ30Aを形成する。続いて、インナーバッグ30Aを、アウターバッグ20の取付口11からアウターバッグ20内に挿入して、アウターバッグ20の前基布22と規制部材40Aの間に組み付ける。インナーバッグ30Aとアウターバッグ20は、同芯状に配置する。
【0032】
次に、クッションリング4を、取付口11からインナーバッグ30A内に挿入する。また、ボルト4Bにより、インナーバッグ30Aとアウターバッグ20を仮止めする。このインナーバッグ30Aとアウターバッグ20からなるエアバッグ10を、クッションリング4により、リアクションプレート5に取り付ける。続いて、インフレータ3をリアクションプレート5に取り付けて、ロックナット6をボルト4Bにはめ込む。これにより、クッションリング4、エアバッグ10、及び、インフレータ3をリアクションプレート5に固定する。次に、エアバッグ10を折り畳んでリアクションプレート5内へ配置する。ただし、エアバッグ10は、リアクションプレート5への固定前に、予め折り畳んでおいてもよい。
【0033】
最後に、エアバッグカバー2(図3では図示せず)をリアクションプレート5に取り付けて、エアバッグ装置1Aの製造が完了する。エアバッグ装置1Aは、ステアリングホイール90(図1参照)に取り付けられた後、車両の緊急時等にインフレータ3を作動させてガスを発生させる。このガスにより、エアバッグ10を、折り畳み形状を解消させつつ膨張させて、ステアリングホイール90を覆うように膨張展開させる。
【0034】
図5は、膨張展開するエアバッグ10を順に示す断面図である。図5では、各段階のエアバッグ10を、図2に対応させて示している。
エアバッグ10の展開初期では、まず、インナーバッグ30Aが、インフレータ3から供給されるガスにより膨張する(図5A参照)。インナーバッグ30Aは、規制部材40Aとアウターバッグ20の前面の間で膨張展開する。その際、規制部材40Aの開口部41は、膨張展開したインナーバッグ30Aよりも小さく形成されているため、内部のインナーバッグ30Aに引っ掛かる(図5B参照)。規制部材40Aは、開口部41がインナーバッグ30Aに止められて、開口部41の周囲と開口部41の両外側部分が、インナーバッグ30Aの後面に押し付けられる。その状態で、規制部材40Aは、インナーバッグ30Aの後面に保持されて、乗員方向への移動や変形が抑制される。また、規制部材40Aは、アウターバッグ20の前面に張力を作用させて、前面を乗員方向の逆方向(車体方向)に引っ張る。
【0035】
アウターバッグ20の前面は、規制部材40Aにより乗員方向への移動が妨げられる。その結果、インナーバッグ30Aは、乗員方向への膨張や突き出しが抑制されて、乗員方向に対して側方に大きく膨張する。エアバッグ10の中央部は、インナーバッグ30Aの膨張に合わせて、乗員方向に勢いよく突き出すことなく所定厚さに膨張する。
【0036】
アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aの流通口31から供給されるガスにより膨張を開始する。その際、アウターバッグ20は、規制部材40Aにより乗員方向の膨張が規制されるため、側方に優先的に膨張して、外方に広がるように広範囲に展開する。また、アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aを中心に、側方全体に均等に膨張する。次に、アウターバッグ20は、内圧の上昇に伴い、乗員方向に膨張して厚さが増加する。
【0037】
インナーバッグ30Aは、膨張が完了した後、流通口31からガスを流出させて、ガスをアウターバッグ20の全体に供給する。その結果、アウターバッグ20の内圧が徐々に高くなり、インナーバッグ30Aの内外の圧力差が小さくなる。これに伴い、インナーバッグ30Aの剛性及び膨張形状を保持する力が低下する(図5C参照)。また、インナーバッグ30Aは、ガスの流出により、規制部材40Aの開口部41内で徐々に収縮して、容積の減少と外径の縮小が進行する。
【0038】
インナーバッグ30Aは、収縮により、規制部材40Aの開口部41に近い大きさになり、最後には開口部41よりも小さくなる。その間に、規制部材40Aが、膨張するアウターバッグ20により乗員方向に引っ張られて、開口部41が、収縮するインナーバッグ30Aから抵抗を受けつつ乗員方向に移動する。即ち、開口部41は、アウターバッグ20の膨張やインナーバッグ30Aの収縮に伴い、収縮中のインナーバッグ30Aの外周に沿って乗員方向に次第に移動する。また、規制部材40Aは、開口部41により、内部のインナーバッグ30Aをしごくようにして移動することで、インナーバッグ30Aから抵抗を受ける。
【0039】
その後、インナーバッグ30Aが開口部41をすり抜けて、開口部41がインナーバッグ30Aから外れたときに、規制部材40Aがインナーバッグ30Aから解放される(図5D参照)。アウターバッグ20は、規制部材40Aによる規制が解除されて、乗員方向に膨張し、乗員の前方で完全に膨張展開する。このように、規制部材40Aは、開口部41の移動に応じて、アウターバッグ20の前面を乗員方向に移動させて、前面の乗員方向への移動を規制する。
【0040】
エアバッグ装置1Aは、膨張展開したアウターバッグ20(エアバッグ10)により、乗員を受け止めて保護する。ここでは、エアバッグ10により、乗員の上体を主に受け止めて拘束するとともに、衝撃エネルギーを吸収して乗員の衝撃を緩和する。また、エアバッグ10は、乗員を受け止めたときに、アウターバッグ20のベントホール21からガスを排出して、乗員の衝撃を緩和する。
【0041】
以上説明したように、このエアバッグ装置1Aでは、規制部材40Aによりアウターバッグ20の前面の移動を規制して、前面を乗員方向に徐々に移動させることができる。また、エアバッグ10が、展開初期に、乗員に向かって勢いよく突き出すのも防止できる。更に、アウターバッグ20の展開初期から後期まで、規制部材40Aとインナーバッグ30Aにより、アウターバッグ20の前面に安定した抵抗を付加できる。そのため、エアバッグ10を、部分的な突き出しや速度の速い突き出しを起こさずに、徐々に厚く膨張させることができる。従って、エアバッグ10が乗員に勢いよく接触するのを防止できるとともに、エアバッグ10が乗員に接触するときの衝撃を低減できる。乗員がステアリングホイール90に接近しているときでも、乗員の受ける衝撃を大幅に低減できる。
【0042】
エアバッグ10の部分的な突き出しを抑制できるため、エアバッグ10の前面を比較的平らに移動させることができる。これにより、乗員を広い面積で受け止めて安全に拘束できる。エアバッグ10が乗員方向に徐々に膨張するため、膨張完了後に、エアバッグ10が乗員方向に伸び縮みするのを抑制できる。その結果、エアバッグ10のバウンドが軽減して、エアバッグ10を安定して膨張展開させることができる。これに伴い、エアバッグ10の膨張形状及び前面の位置が早期に安定して、エアバッグ10の性能も安定するため、膨張展開直後においても、乗員を安全に拘束できる。乗員が接触する際に、常に、有効な吸収ストロークをエアバッグ10に確保できるため、乗員の衝撃やエネルギーを確実に吸収できる。
【0043】
規制部材40Aの開口部41は、収縮するインナーバッグ30Aから抵抗を受けつつ乗員方向へ徐々に移動するため、規制部材40A、アウターバッグ20、及び、インナーバッグ30Aに急激に大きな負荷がかかることがない。各接合部の負荷も小さくなるため、接合部の強度は比較的低くてよい。そのため、各部材や接合部の仕様又は条件の制約が大幅に緩和されて、様々な設計が可能にある。縫製部、リアクションプレート5、又は、クッションリング4を簡略化することもできる。従って、エアバッグ10を製造する手間を削減して、生産性を向上できるとともに、エアバッグ10の製造コストを低減できる。
【0044】
規制部材40Aの開口部41をインナーバッグ30Aの後面とアウターバッグ20の後面の間に配置することで、開口部41が、膨張したインナーバッグ30Aに確実に引っ掛かる。特に、インナーバッグ30Aの膨張開始直後であっても、開口部41が、インナーバッグ30Aから抜けることなく、インナーバッグ30Aの後面に保持される。そのため、規制部材40Aにより、アウターバッグ20の前面の移動を確実に規制できる。帯状部材42からなる規制部材40Aの両端を、アウターバッグ20の前面に接合するときには、接合部にかかる張力を分散させることができる。また、インナーバッグ30Aが、規制部材40Aとアウターバッグ20の前面の間で膨張するため、インナーバッグ30Aの膨張形状を、規制部材40Aとアウターバッグ20により調整することもできる。
【0045】
以上のように、エアバッグ装置1Aによれば、エアバッグ10が乗員に向かって勢いよく突き出すのを防止して、エアバッグ10を安定して膨張展開させることができる。また、エアバッグ10により乗員を安全に拘束して保護することができる。更に、エアバッグ装置1Aは、運転席に座る乗員の状態の違いにも対応して、各状態の乗員を保護できる。
【0046】
図6は、乗員を保護するエアバッグ装置1Aを示す側面図であり、体格に差がある2人の乗員91(91A、91B)を示している。
大柄な乗員91A(図6A参照)が運転席92に座ると、乗員91Aの位置が車両内の後方になり、乗員91Aとエアバッグ装置1Aの距離L1が長くなる。小柄な乗員91B(図6B参照)が運転席92に座ると、乗員91Bの位置が車両内の前方になり、乗員91Bとエアバッグ装置1Aの距離L2が短くなる。そのため、小柄な乗員91Bは、大柄な乗員91Aよりも早いタイミングでエアバッグ10に接触する。
【0047】
エアバッグ10は、上記したように、危険な突き出し(図6C、6Dでは点線で示す)が生じることなく、前面が平面状を維持するようにして、乗員方向に徐々に膨張する。そのため、エアバッグ10は、突き出しにより各乗員91A、91Bを害することなく、乗員91A、91Bを適切に受け止めて保護できる。その際、大柄な乗員91A(図6C参照)は、正常に膨張展開したエアバッグ10に接触して保護される。
【0048】
小柄な乗員91B(図6D参照)は、膨張展開途中のエアバッグ10に接触して保護される。この乗員91Bは、エアバッグ10が充分に膨張したときに、平面状のエアバッグ10に接触するため、エアバッグ10により安全に保護される。このように、エアバッグ装置1Aは、乗員91の状態に関係なく、必要な吸収ストロークをエアバッグ10に確保して、乗員91を害することなく保護できる。また、エアバッグ10は、乗員91を拘束する性能が高く、特に、高い初期拘束性能が得られるため、各状態の乗員91を安全に拘束できる。
【0049】
ここで、アウターバッグ20は、規制部材40Aにより乗員方向の膨張が規制されて、側方に優先して膨張する。そのため、乗員91が運転席92から離れてエアバッグ10に近接しているときでも、エアバッグ10の突き出しにより乗員91が害されるのを抑制できる。乗員91がステアリングホイール90に密着しているときでも、インナーバッグ30Aの膨張により生じる乗員91とステアリングホイール90の間の僅かな空間から、アウターバッグ20が側方に膨張する。これにより、エアバッグ10が、乗員91とステアリングホイール90の間で展開して、乗員91を保護する。
【0050】
また、アウターバッグ20は、側方に素早く膨張して、短時間で広範囲に展開する。そのため、乗員91が高速でエアバッグ10に進入するときでも、エアバッグ10により乗員91を確実に受け止めることができる。乗員91が展開途中のエアバッグ10に進入したときには、乗員91は、高い内圧を保持するインナーバッグ30Aでも受け止められる。その際、インナーバッグ30Aは、乗員91の衝撃やエネルギーを吸収し、かつ、乗員91がステアリングホイール90に接触するのを防止する。
【0051】
エアバッグ10の展開初期の厚さは、膨張時のインナーバッグ30Aの高さにより設定できる。例えば、乗員91とエアバッグ装置1Aとの距離に応じて、エアバッグ10の展開初期の厚さを薄くすることで、乗員91が受ける危険を低減できる。その後、規制部材40Aの開口部41がインナーバッグ30Aから外れることで、アウターバッグ20が完全に膨張して厚くなる。これにより、エアバッグ10は、最大の吸収ストロークを得て、乗員91を安全に受け止める。エアバッグ10は、インナーバッグ30Aの膨張、アウターバッグ20の側方への膨張、アウターバッグ20の完全膨張という段階を経て次第に膨張展開する。その間、エアバッグ10は、充分な内圧を維持しながら容量が増加するため、常に、高い乗員91の拘束性能を発揮する。
【0052】
エアバッグ10の展開性能は、膨張したインナーバッグ30Aの大きさ、規制部材40Aの開口部41の大きさ、規制部材40Aの長さ、規制部材40Aの連結位置を変更することで細かく調整できる。これら各変更は比較的簡単に行えるため、エアバッグ10の展開性能や展開の仕方は容易に調整できる。なお、規制部材40Aは、円形状や三角形状等、矩形状以外の形状に形成してもよい。また、規制部材40Aは、輪状に形成してもよい。インナーバッグ30Aは、種々の形状、例えば球形状、楕円体形状、又は、角錐形状に形成してもよい。以下、規制部材40又はインナーバッグ30の形状が異なる各実施形態について説明する。
【0053】
(第2の実施形態)
図7は、第2の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Bと表す)を示す図であり、図1の矢印X方向から見たエアバッグ装置1Bを模式的に示している。また、図7では、展開初期のエアバッグ10を断面図で示している。図8は、図7のエアバッグ装置1Bを分解して示す斜視図であり、エアバッグ装置1Bの各構成を上下方向に離して示している。図8では、矢印により、組み合わされる構成の関係や、構成同士の組み合わせ位置も示している。図7と図8は、それぞれ第1の実施形態で説明した図2と図3に対応する。
【0054】
このエアバッグ装置1Bでは、規制部材40(以下、この形態の規制部材には40Bを付す)が、第1の実施形態のエアバッグ装置1Aと相違する。ここでは、既に説明したエアバッグ装置1Aと同じ構成は、同じ名前と符号を付して、その説明は省略し、規制部材40Bについて詳しく説明する。
【0055】
規制部材40Bは、図示のように、車体側に配置される第1布43と、乗員側に配置される第2布44とを有する。第1布43と第2布44は、矩形状の基布(帯状布)であり、同じ形状に形成されている。第1布43は、上記した規制部材40Aの帯状部材42と同一に構成され、中央に開口部41を有する。ただし、第1布43の両端は、アウターバッグ20の前面(前基布22)ではなく、それぞれ第2布44の両端に縫製により接合される。第1布43と第2布44は、両端で接合されて輪状に形成される。第2布44は、アウターバッグ20の前面に縫製されて、第1布43をアウターバッグ20の前面に連結する。第2布44とアウターバッグ20の前面は、互いの中央で円形状に縫製される。
【0056】
図9は、第2の実施形態の規制部材40Bを示す斜視図である。
規制部材40Bは、図示のように、2つの基布により形成された輪状部材45(ここでは、輪状布)からなる。輪状部材45(図7、図8参照)は、エアバッグ10の膨張前に、インナーバッグ30Aの前後面(基布32、33)に沿って配置されて、インナーバッグ30Aを囲む。即ち、エアバッグ10内で、第1布43は、インナーバッグ30Aの後面とアウターバッグ20の後面の間に配置され、第2布44は、インナーバッグ30Aの前面とアウターバッグ20の前面の間に配置される。
【0057】
インナーバッグ30Aは、規制部材40Bに挟まれた状態で、アウターバッグ20内に配置される。また、輪状部材45は、インナーバッグ30Aの前面に沿う部分で、アウターバッグ20の前面に接合される。これにより、規制部材40Bは、アウターバッグ20の前面に連結されて、アウターバッグ20の膨張時に、前面の乗員方向への移動を規制する。
【0058】
規制部材40Bの開口部41は、上記した規制部材40Aの開口部41と同一に構成されている。開口部41は、インナーバッグ30Aの後面とアウターバッグ20の後面の間に配置されて、エアバッグ10の膨張時に、膨張したインナーバッグ30Aに引っ掛かる。規制部材40Bの第1布43は、アウターバッグ20の膨張に伴い、第2布44を介して、アウターバッグ20の前面に引っ張られる。この張力により、開口部41は、インナーバッグ30Aの外周に沿って乗員方向へ次第に移動する。規制部材40Bは、開口部41の移動に応じて、アウターバッグ20の前面を乗員方向へ移動させる。
【0059】
次に、エアバッグ装置1B(図8参照)の製造手順について説明する。
規制部材40Bは、第1布43と第2布44を縫製(図8では、各縫製部を点線で示す)して輪状に形成する。アウターバッグ20に関しては、まず、2つの補強布13、14を後基布23の内外面に縫製する。また、規制部材40Bの第2布44を前基布22の内面に縫製する。次に、両基布22、23の外面を重ね合わせて、両基布22、23を外周に沿って縫製する。その後、両基布22、23を、取付口11を通して反転させて、規制部材40Bをアウターバッグ20内に配置する。なお、図8では、アウターバッグ20及びインナーバッグ30Aを反転させた後における各構成の配置状態を示している。
【0060】
インナーバッグ30Aは、第1の実施形態と同じ工程で形成した後、アウターバッグ20の取付口11からアウターバッグ20内に挿入する。その際、インナーバッグ30Aは、規制部材40B内に組み付けて、アウターバッグ20と同芯状に配置する。続いて、上記と同様に、クッションリング4とロックナット6により、エアバッグ10とインフレータ3をリアクションプレート5に取り付ける。エアバッグカバー2(図8では図示せず)をリアクションプレート5に取り付けて、エアバッグ装置1Bの製造が完了する。エアバッグ装置1Bは、インフレータ3が発生するガスにより、エアバッグ10を膨張展開させる。
【0061】
図10は、膨張展開するエアバッグ10を順に示す断面図である。図10では、各段階のエアバッグ10を、図7に対応させて示している。
なお、エアバッグ10は、基本的には、第1の実施形態と同様の過程を経て膨張展開する。従って、ここでは、エアバッグ10の膨張展開について簡単に説明する。
【0062】
エアバッグ10の展開初期では、まず、規制部材40B内で、インナーバッグ30Aが膨張する(図10A参照)。規制部材40Bの開口部41は、膨張したインナーバッグ30Aに引っ掛かる(図10B参照)。規制部材40Bの第1布43は、インナーバッグ30Aの後面に押し付けられる。その状態、規制部材40Bは、インナーバッグ30Aの後面に保持される。また、規制部材40Bは、第2布44により、アウターバッグ20の前面に張力を作用させて、前面を乗員方向の逆方向(車体方向)に引っ張る。アウターバッグ20の前面は、規制部材40Bにより乗員方向への移動が妨げられる。その結果、インナーバッグ30Aは、乗員方向への膨張や突き出しが抑制されて、乗員方向に対して側方に大きく膨張する。また、インナーバッグ30Aは、輪状の規制部材40B内で膨張するため、膨張の大きさや形状が規制部材40Bにより制限される。
【0063】
アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aの流通口31から供給されるガスにより膨張を開始する。その際、アウターバッグ20は、規制部材40Bにより乗員方向の膨張が規制されるため、側方に優先的に膨張する。次に、アウターバッグ20は、内圧の上昇に伴い、乗員方向に膨張して厚さが増加する。インナーバッグ30Aは、膨張が完了した後、流通口31からガスが流出して、徐々に収縮する(図10C参照)。その間に、規制部材40Bは、アウターバッグ20により引っ張られて、開口部41が、収縮するインナーバッグ30Aから抵抗を受けつつ乗員方向に移動する。開口部41は、アウターバッグ20の膨張に伴い、インナーバッグ30Aの外周に沿って乗員方向に次第に移動する。
【0064】
その後、開口部41がインナーバッグ30Aから外れて、インナーバッグ30Aが規制部材40B外に抜け出す(図10D参照)。これにより、アウターバッグ20は、規制部材40Bによる規制が解除されて、乗員方向に膨張し、乗員91の前方で完全に膨張展開する。このように、規制部材40Bは、開口部41の移動に応じて、アウターバッグ20の前面を乗員方向に移動させて、前面の乗員方向への移動を規制する。エアバッグ装置1Bは、膨張展開したエアバッグ10により、乗員91を受け止める。
【0065】
このエアバッグ装置1Bでも、第1の実施形態のエアバッグ装置1Aと同様の効果が得られる。また、規制部材40Bが、インナーバッグ30Aを囲む輪状部材45からなるため、規制部材40B(第2布44)により、インナーバッグ30Aの前面の移動とインナーバッグ30Aの膨張を規制できる。なお、規制部材40Bは、2つの布43、44を接合して輪状にしたが、例えば、1つの帯状布の端部同士を接合して輪状に形成してもよい。規制部材40Bは、アウターバッグ20の前面に対して、1箇所で接合してもよく、複数箇所で接合してもよい。ここでは、開口部41は、予め規制部材40Bに形成したが、次に説明するように、エアバッグ10の膨張展開時に規制部材40Bに形成するようにしてもよい。
【0066】
(第3の実施形態)
図11は、第3の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Cと表す)を示す図である。図11では、図8に対応させて、分解したエアバッグ装置1Cを斜視図で示している。
エアバッグ装置1Cでは、規制部材40(以下、この形態の規制部材には40Cを付す)の一部が、第2の実施形態の規制部材40Bと相違する。
【0067】
規制部材40Cは、図示のように、第1布43の中央に、開口部41の替わりに、インフレータ3の取付口11と挿入孔12とを有する。また、規制部材40Cは、取付口11を囲む破断部46を有する。破断部46は、例えばミシン目や弱化線からなり、開口部41と同じ大きさの円形状に形成される。規制部材40Cの破断部46内の部分は、補強布14やインナーバッグ30Aの後基布33と同様に、クッションリング4とリアクションプレート5に挟まれて固定される。破断部46は、膨張するアウターバッグ20が規制部材40Cを引っ張る力により破断する。これにより、破断部46内の部分が規制部材40Cから分離して、規制部材40Cに開口部41が形成される。
【0068】
次に、エアバッグ装置1Cの製造手順について説明する。
アウターバッグ20に関しては、まず、一方の補強布13を後基布23の外面に重ね、他方の補強布14と規制部材40Cの第1布43を後基布23の内面に重ねる。その状態で、4つの布13、23、14、43を縫製(図11では、各縫製部を点線で示す)する。規制部材40Cの第2布44は、前基布22の内面に縫製する。次に、両基布22、23の外面を重ね合わせて、両基布22、23を外周に沿って縫製する。規制部材40Cは、両基布22、23を挟んだ状態で、第1布43と第2布44を縫製して輪状に形成する。その後、両基布22、23と規制部材40Cを、取付口11を通して反転させて、規制部材40Cをアウターバッグ20内に配置する。なお、図11では、アウターバッグ20及びインナーバッグ30Aを反転させた後における各構成の配置状態を示している。
【0069】
インナーバッグ30Aは、形成後、アウターバッグ20内に挿入して、規制部材40C内に組み付ける。続いて、上記と同様に、クッションリング4とロックナット6により、エアバッグ10とインフレータ3をリアクションプレート5に取り付ける。エアバッグカバー2(図11では図示せず)をリアクションプレート5に取り付けて、エアバッグ装置1Cの製造が完了する。
【0070】
この規制部材40Cは、予めアウターバッグ20の後基布23に接合されるとともに、クッションリング4により仮止めされて、リアクションプレート5に固定される。そのため、規制部材40Cを、エアバッグ10に容易に組み付けることができ、エアバッグ10の生産性を向上させることができる。また、規制部材40Cをエアバッグ10内に精度よく配置することもできる。破断部46は、第1の実施形態における規制部材40Aに設けることもできる。
【0071】
(第4の実施形態)
図12は、第4の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Dと表す)を示す図であり、図1の矢印X方向から見たエアバッグ装置1Dを模式的に示している。また、図12では、展開初期のエアバッグ10を断面図で示している。図13は、図12のエアバッグ装置1Dを分解して示す斜視図であり、エアバッグ装置1Dの各構成を上下方向に離して示している。図13では、矢印により、組み合わされる構成の関係や構成同士の組み合わせ位置も示している。
【0072】
このエアバッグ装置1Dでは、インナーバッグ30(以下、この形態のインナーバッグには30Bを付す)が、第3の実施形態のエアバッグ装置1C(図11参照)と相違する。ここでは、既に説明したエアバッグ装置1Cと同じ構成は、同じ名前と符号を付して、その説明は省略し、インナーバッグ30Bの相違点について詳しく説明する。また、インナーバッグ30Bの変更に伴い、アウターバッグ20も部分的に変更されている。
【0073】
インナーバッグ30Bは、図示のように、ガスの流通口31が設けられた前基布35と、インフレータ3の取付口11が設けられた後基布36とを有する。両基布35、36は、同じ形状に形成されており、円形部35A、36Aと、少なくとも1つ(ここでは、2つ)の矩形部35B、36Bとからなる。2つの矩形部35B、36Bは、円形部35A、36Aから逆方向に向かって延びるように、円形部35A、36Aの外周に一体に形成されている。
【0074】
両基布35、36は、両側縁に沿って縫製されて、円形部35A、36A及び2つの矩形部35B、36Bが、それぞれ接合される。インナーバッグ30Bは、両基布35、36により内部に気室34が形成される。また、インナーバッグ30Bには、円形部35A、36Aにより球状膨張部(本体膨張部)37が形成され、矩形部35B、36Bにより筒状膨張部38が形成される。球状膨張部37と筒状膨張部38の内部は、互いに連通して気室34を構成する。
【0075】
図14は、インナーバッグ30Bの斜視図である。図14Aに、膨張前のインナーバッグ30Bを示し、図14Bに、膨張後のインナーバッグ30Bを示す。
膨張前のインナーバッグ30Bは、図14Aに示すように、前基布35と後基布36が重ねて配置されて、平面形状をなす。膨張後のインナーバッグ30Bは、図14Bに示すように、基布35、36内の気室34にガスが充填されて、立体形状に膨張する。その際、球状膨張部37は、インフレータ3から供給されるガスにより、インナーバッグ30Bの中心で球形状に膨張する。筒状膨張部38は、球状膨張部37から供給されるガスにより、球状膨張部37から外方に向かって筒状に膨張する。
【0076】
このように、インナーバッグ30Bは、膨張状態から収縮可能及び変形可能な球状膨張部37と筒状膨張部38を有する。筒状膨張部38は、インナーバッグ30Bに少なくとも1つ設けられ、膨張時にインナーバッグ30Bの外方に突出する。ここでは、2つの筒状膨張部38が、インナーバッグ30Bの側方に向かって、かつ、互いに逆方向に突出する。また、インナーバッグ30Bは、各筒状膨張部38の端部38Aに、内部のガスを外部に排出する排出口39を有する。排出口39は、筒状膨張部38の先端に設けられた非接合部であり、矩形部35B、36Bの先端を縫製しないことで形成される。排出口39は、ガスをインナーバッグ30Bから側方に向かって排出する。インナーバッグ30Bは、インフレータ3が発生するガスを、筒状膨張部38を通して排出口39から排出する。
【0077】
筒状膨張部38の端部38A(図12、図13参照)は、エアバッグ10の膨張前に、アウターバッグ20に設けられた通過口25を通って、アウターバッグ20外に配置される。通過口25は、アウターバッグ20の後基布23に形成されたスリットからなり、ベントホール21に近接して位置する。また、通過口25は、後基布23内で、2つのベントホール21の外側に形成される。筒状膨張部38の端部38Aは、アウターバッグ20内から通過口25を通してアウターバッグ20外に配置される。これに伴い、筒状膨張部38の排出口39が、アウターバッグ20外に配置される。インナーバッグ30Bは、内部のガスを、排出口39からアウターバッグ20外に排出する。
【0078】
筒状膨張部38は、アウターバッグ20外に端部38Aが配置された状態で、アウターバッグ20内でベントホール21に重ねて配置される。これにより、筒状膨張部38は、ベントホール21の全体を覆って、ベントホール21を閉鎖する。ベントホール21は、筒状膨張部38によりガスの排出が防止される。インナーバッグ30B(図13参照)は、規制部材40Cと交差して配置されて、球状膨張部37が規制部材40Cに囲まれる。その状態で、筒状膨張部38は、規制部材40Cの側方開口から規制部材40Cの外方に向かって配置される。
【0079】
筒状膨張部38は、後述するように、規制部材40Cの開口部41が乗員方向に移動するときに、規制部材40Cにより引き寄せられて開口部41を通過する。その際、筒状膨張部38の端部38Aが、規制部材40Cにより、通過口25を通過してアウターバッグ20内に引き込まれる。筒状膨張部38は、アウターバッグ20内に端部38Aが引き込まれるときに、ベントホール21を開放する。
【0080】
アウターバッグ20は、内部に、ガスを通過させる貫通孔26Aが設けられ、かつ、ベントホール21に重なるベントホール部カバー(以下、カバーという)26を有する。カバー26は、矩形状の基布からなり、各ベントホール21の周囲に配置される。カバー26は、ベントホール21と通過口25を覆うように配置されて、外縁が後基布23の内面に接合される。また、カバー26には、インナーバッグ30B側の部分が接合されずに、非接合部26Bが設けられる。
【0081】
筒状膨張部38の端部38Aは、非接合部26Bから、カバー26と後基布23の間に挿入されて、通過口25を通ってアウターバッグ20外に配置される。その状態で、ベントホール21が、筒状膨張部38により閉鎖される。また、筒状膨張部38は、非接合部26Bを通って、アウターバッグ20内に引き込まれて、ベントホール21を開放する。貫通孔26Aは、ベントホール21が開放されたときに、ベントホール21に重なり、ベントホール21からガスを排出させる。通過口25は、筒状膨張部38が通過してカバー26と後基布23が重なり合うことで、カバー26により塞がれる。
【0082】
次に、エアバッグ装置1D(図13参照)の製造手順について説明する。
アウターバッグ20と規制部材40Cは、第3の実施形態と同じ工程で形成する。ただし、アウターバッグ20の両基布22、23を縫製(図13では、各縫製部を点線で示す)するまえに、2つのカバー26を、後基布23に縫製しておく。インナーバッグ30Bに関しては、まず、保護布15を後基布36の内面に縫製する。次に、両基布35、36の外面を重ね合わせて、基布35、36を両側縁に沿って縫製する。その後、両基布35、36を、取付口11を通して反転させて、筒状膨張部38を外方に突出するように配置する。なお、図13では、インナーバッグ30Bを反転させた後における各構成の配置状態を示している。
【0083】
続いて、インナーバッグ30Bを、アウターバッグ20内に挿入して、規制部材40C内に組み付ける。また、2つの筒状膨張部38の端部38Aを、それぞれカバー26の非接合部26Bに挿入し、通過口25を通してアウターバッグ20外に配置する。続いて、上記と同様に、クッションリング4とロックナット6により、エアバッグ10とインフレータ3をリアクションプレート5に取り付ける。エアバッグカバー2(図13では図示せず)をリアクションプレート5に取り付けて、エアバッグ装置1Dの製造が完了する。エアバッグ装置1Dは、インフレータ3が発生するガスにより、エアバッグ10を膨張展開させる。
【0084】
図15、図16は、膨張展開するエアバッグ10を順に示す断面図である。図15、図16では、各段階のエアバッグ10を、図12に対応させて示している。
なお、エアバッグ10は、基本的には、第2及び第3の実施形態と同様の過程を経て膨張展開する。従って、ここでは、エアバッグ10の膨張展開について、既に説明した過程と異なる過程を中心に説明する。
【0085】
エアバッグ10の展開初期では、まず、インナーバッグ30Bがアウターバッグ20内で膨張する(図15A参照)。その際、球状膨張部37は、規制部材40C内で膨張する。筒状膨張部38は、アウターバッグ20内の部分からアウターバッグ20外の端部38Aまで膨張する。これにより、筒状膨張部38は、アウターバッグ20の通過口25等を拡げて、排出口39を開放する。規制部材40Cは、膨張したインナーバッグ30Bの球状膨張部37と筒状膨張部38に引っ掛かる(図15B参照)。また、規制部材40Cは、球状膨張部37の後面に押し付けられる。同時に、規制部材40Cは、筒状膨張部38により押さえられて、インナーバッグ30Bの後面に保持される。
【0086】
アウターバッグ20の前面は、規制部材40Cにより乗員方向への移動が妨げられる。その状態で、インナーバッグ30Bは、インフレータ3が発生するガスを、筒状膨張部38の排出口39から直接排出して、内部のガスをアウターバッグ20外に排出する。アウターバッグ20のベントホール21は、筒状部材38により閉鎖された状態に維持される。
【0087】
アウターバッグ20は、インナーバッグ30Bの流通口31から供給されるガスにより膨張を開始し、内圧の上昇に伴い乗員方向に膨張する。インナーバッグ30Bは、流通口31からガスが流出して、徐々に収縮する(図15C参照)。その間に、規制部材40Cがアウターバッグ20に引っ張られて、破断部46が破断する。これにより、規制部材40Cに開口部41が形成される。開口部41は、アウターバッグ20の膨張に伴い、インナーバッグ30Bから抵抗を受けつつ、インナーバッグ30Bの外周に沿って乗員方向に次第に移動する。
【0088】
開口部41の移動に伴い、筒状膨張部38は、球状膨張部37側において、規制部材40Cにより引っ張られる。筒状膨張部38は、規制部材40Cに次第に引き寄せられて、アウターバッグ20内に向かって移動する(図15D参照)。また、筒状膨張部38は、規制部材40Cにより絞られて収縮し、排出口39から排出されるガスの量が次第に減少する。規制部材40Cは、筒状膨張部38からも抵抗を受けつつ乗員方向に移動する。続いて、筒状膨張部38の端部38Aと排出口39が、規制部材40Cによりアウターバッグ20内に引き込まれる(図16A参照)。これに伴い、排出口39がアウターバッグ20内でガスを排出するようになる。排出口39から供給されるガスにより、アウターバッグ20の膨張がより速く進行する。
【0089】
アウターバッグ20は、筒状膨張部38によるベントホール21の閉鎖が解除されて、ベントホール21が開放する。アウターバッグ20は、カバー26の貫通孔26Aとベントホール21からガスを排出することで、設定された衝撃吸収特性を発揮する。その後、筒状膨張部38が開口部41を潜り抜けて、開口部41がインナーバッグ30Bから外れる(図16B参照)。これにより、アウターバッグ20は、規制部材40Cによる規制が解除されて、乗員方向に膨張し、乗員91の前方で完全に膨張展開する。エアバッグ装置1Dは、膨張展開したエアバッグ10により、乗員91を受け止める。
【0090】
このエアバッグ装置1Dでは、上記した各実施形態のエアバッグ装置1A〜1Cと同様の効果が得られる。また、筒状膨張部38により、規制部材40Cがインナーバッグ30Bから受ける力を大きくできるため、規制部材40Cにより、アウターバッグ20の前面の移動をより確実に規制できる。規制部材40Cは、筒状膨張部38の端部38Aをアウターバッグ20内に引き込むための力により、乗員方向への移動が抑制される。その結果、規制部材40Cにより、アウターバッグ20の前面の移動を強固に規制できる。
【0091】
筒状膨張部38の端部38Aに排出口39を設けたため、様々な状態の乗員91を安全に保護することができる。例えば、乗員91C(図15B参照)が非正常な乗車姿勢でOOP(Out Of Position)状態にあり、エアバッグ装置1Dに接近又は接触しているときには、乗員91Cが早期にエアバッグ10に接触する。その際、インフレータ3が発生するガスは、排出口39からアウターバッグ20外に直接排出されるため、エアバッグ10は、乗員側への膨張が抑制される。これにより、エアバッグ10に供給されるエネルギーが減少するため、エアバッグ10の有する乗員91Cへの加害性が大幅に低下する。特に、インフレータ3が発生するガスは、ベントホール21から排出されるガスと比べて初速度が速いため、排出口39から効率よく排出される。そのため、エアバッグ10は、ガスを排出口39から短時間で大量に排出できるとともに、排出口39を小さくしても、充分なガスの排出量を確保できる。
【0092】
従って、このエアバッグ装置1Dでは、OOP状態の乗員91Cに傷害を与えるのを抑制できる。また、乗員91B(図15D参照)が小柄なときには、乗員91Bは、ある程度膨張したエアバッグ10により受け止められる。エアバッグ10は、排出口39からガスを必要に応じて排出して、乗員91Bの衝撃を緩和する。乗員91(図16A、16B参照)がOOP状態でないときには、エアバッグ10は、排出口39からアウターバッグ20内にガスを排出して、アウターバッグ20を迅速に膨張させる。乗員91は、大きく膨張展開したエアバッグ10により保護される。このように、エアバッグ装置1Dは、乗員91の状態を検知するセンサやエアバッグ10の展開を制御する特殊なインフレータを使用することなく、乗員91の状態の違いに対処できる。
【0093】
アウターバッグ20のベントホール21は、筒状膨張部38の端部38Aがアウターバッグ20内に引き込まれるときに開放される。その結果、展開初期に、アウターバッグ20内に供給されるガスの漏れ及び損失を防止して、ガスを有効に利用できる。これにより、インフレータ3の小型化や低出力化を実現できるため、エアバッグ装置1Dのコストを削減できる。
【0094】
ガスを有効利用するために、例えば、アウターバッグ20の容量を減少させ、或いは、ベントホール21を小さくするときには、エアバッグ10の衝撃吸収特性に影響が生じることがある。これに対し、エアバッグ装置1Dは、アウターバッグ20の容量とベントホール21の大きさを充分に確保できる。エアバッグ10は、容量とベントホール21からのガスの排出量に応じて、適切な衝撃吸収特性を発揮できる。カバー26には、ベントホール21に重なる貫通孔26Aを設けたため、ベントホール21から確実にガスを排出して、エアバッグ10に必要な衝撃吸収特性を確保できる。
【0095】
なお、エアバッグ10には、規制部材40Cに替えて、第1の実施形態における規制部材40Aや第2の実施形態における規制部材40Bを設けてもよい。また、筒状膨張部38の端部38Aは、ベントホール21を通して、アウターバッグ20外に配置してもよい。ベントホール21を端部38Aの通過口として使用することで、通過口25を別途設ける必要がなくなり、通過口25の形成のための作業と工数を削減できる。OOP状態の乗員91Cへの対応が不要であるときには、端部38Aを接合して、排出口39を筒状膨張部38に設けないようにしてもよい。この場合には、ガスがアウターバッグ20外へ排出されないため、インフレータ3が発生するガスを有効に利用して、エアバッグ10を素早く膨張展開させることができる。
【0096】
筒状膨張部38は、端部38Aを含む全体をアウターバッグ20内に配置してもよい。このようにしても、筒状膨張部38により、規制部材40を引っ掛けるようにして保持できる。また、移動を開始した規制部材40Cは、筒状膨張部38から大きな抵抗を受ける。そのため、規制部材40Cを介して、アウターバッグ20の前面の移動を確実かつ強固に規制できる。筒状膨張部38は、インナーバッグ30Bから所定方向(例えば、下方や上方)に突出させて、インナーバッグ30Bに1つ設けてもよい。或いは、筒状膨張部38は、インナーバッグ30Bから放射状に突出させて、インナーバッグ30Bに3つ以上設けてもよい。即ち、筒状膨張部38は、インナーバッグ30Bに1つ又は3つ以上設けてもよい。
【符号の説明】
【0097】
1・・・エアバッグ装置、2・・・エアバッグカバー、3・・・インフレータ、4・・・クッションリング、5・・・リアクションプレート、6・・・ロックナット、10・・・エアバッグ、11・・・取付口、12・・・挿入孔、13・・・補強布、14・・・補強布、15・・・保護布、20・・・アウターバッグ、21・・・ベントホール、22・・・前基布、23・・・後基布、24・・・気室、25・・・通過口、26・・・カバー、30・・・インナーバッグ、31・・・流通口、32・・・前基布、33・・・後基布、34・・・気室、35・・・前基布、36・・・後基布、37・・・球状膨張部、38・・・筒状膨張部、39・・・排出口、40・・・規制部材、41・・・開口部、42・・・帯状部材、43・・・第1布、44・・・第2布、45・・・輪状部材、46・・・破断部、90・・・ステアリングホイール、91・・・乗員、92・・・運転席。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスにより膨張展開して車両の乗員を保護するエアバッグと、エアバッグにガスを供給するインフレータとを備えたエアバッグ装置であって、
エアバッグが、インフレータから供給されるガスにより膨張するとともに、ガスの流通口が設けられたインナーバッグと、インナーバッグを収容してインナーバッグの流通口から供給されるガスにより膨張するアウターバッグと、アウターバッグ内でアウターバッグの前面に連結されて前面の乗員方向への移動を規制する規制部材とを有し、
規制部材が、膨張したインナーバッグの外周に引っ掛かり、かつ、アウターバッグの膨張に伴いインナーバッグの外周に沿って乗員方向へ移動する開口部を有し、開口部の移動に応じてアウターバッグの前面を乗員方向へ移動させるエアバッグ装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたエアバッグ装置において、
規制部材の開口部が、膨張展開したインナーバッグよりも小さく形成され、収縮するインナーバッグから抵抗を受けつつ乗員方向へ移動するエアバッグ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたエアバッグ装置において、
規制部材の開口部が、エアバッグの膨張前に、インナーバッグの後面とアウターバッグの後面の間にインナーバッグが通過可能に配置されるエアバッグ装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載されたエアバッグ装置において、
規制部材が、エアバッグの膨張前に、インナーバッグの後面とアウターバッグの後面の間に配置される帯状部材からなり、
帯状部材の両端が、アウターバッグの前面に接合されたエアバッグ装置。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載されたエアバッグ装置において、
規制部材が、エアバッグの膨張前に、インナーバッグの前後面に沿って配置されてインナーバッグを囲む輪状部材からなり、
輪状部材のインナーバッグの前面に沿う部分が、アウターバッグの前面に接合されたエアバッグ装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載されたエアバッグ装置において、
インナーバッグが、外方に突出する筒状膨張部を有し、
筒状膨張部が、規制部材の開口部が移動するときに、規制部材により引き寄せられて開口部を通過するエアバッグ装置。
【請求項7】
請求項6に記載されたエアバッグ装置において、
筒状膨張部の端部が、エアバッグの膨張前に、アウターバッグに設けられた通過口を通ってアウターバッグ外に配置され、規制部材の開口部が移動するときに、規制部材によりアウターバッグ内に引き込まれるエアバッグ装置。
【請求項8】
請求項7に記載されたエアバッグ装置において、
インナーバッグが、筒状膨張部の端部に、内部のガスをアウターバッグ外に排出する排出口を有するエアバッグ装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載されたエアバッグ装置において、
アウターバッグが、内部のガスを外部に排出するベントホールを有し、
筒状膨張部が、アウターバッグ外に端部が配置された状態でベントホールを閉鎖して、アウターバッグ内に端部が引き込まれるときにベントホールを開放するエアバッグ装置。
【請求項10】
請求項9に記載されたエアバッグ装置において、
アウターバッグが、ベントホールが開放されたときにベントホールに重なる貫通孔が設けられたベントホール部カバーを有するエアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−153170(P2012−153170A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11386(P2011−11386)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】