説明

エアバッグ装置

【課題】エアバッグが乗員に向かって勢いよく突き出すのを防止し、エアバッグを安定して膨張展開させる。
【解決手段】エアバッグ10は、インナーバッグ30Aと、アウターバッグ20と、押さえ部材50Aとを有する。インナーバッグ30Aは、インフレータ3から供給されるガスで膨張する。アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aの流通口から供給されるガスで膨張する。押さえ部材50Aは、アウターバッグ20内で、乗員方向へ膨張するインナーバッグ30Aを押さえる。押さえ部材50Aの開口部51は、膨張展開したインナーバッグ30Aよりも小さく形成され、収縮するインナーバッグ30Aを乗員方向へ通過させる。インナーバッグ30Aは、アウターバッグ20の前面に連結され、開口部51の通過に伴い、アウターバッグ20の前面を乗員方向へ移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載されて、乗員を保護するエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の緊急時や衝突時に乗員を保護するため、エアバッグ装置が使用されている。エアバッグ装置は、例えば、ステアリングホイールに取り付けられて、運転席の前方で、エアバッグを膨張展開させる。運転席の乗員は、前方のエアバッグにより受け止められて拘束される。このエアバッグ装置として、従来、エアバッグ内を複数室に区画して、エアバッグを側方に早期に広がらせるエアバッグ装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この従来のエアバッグ装置は、インナーパネルによりエアバッグの中央に第1室を区画し、セパレートパネルにより第1室の周囲に第2室と第3室を区画する。ところが、このエアバッグ装置では、インフレータが発生する高圧のガスにより、第1室が乗員に向かって膨張した後に、第2室と第3室が順に膨張する。そのため、エアバッグの展開初期に、第1室が勢いよく突き出して乗員に接触して、乗員が受ける衝撃が大きくなる虞がある。特に、乗員がステアリングホイールに接近しているときには、乗員の衝撃がより大きくなる。
【0004】
また、この従来のエアバッグ装置では、エアバッグは、インナーパネルが完全に伸びたときに突き出しが急激に止められて、インナーバッグの長さに応じた厚さに膨張する。そのため、インナーパネルが長すぎると、エアバッグが突き出す距離も長くなり、乗員の危険も大きくなる虞がある。これに対し、インナーパネルが短すぎると、エアバッグが薄くなるため、乗員を受け止められずに、乗員がステアリングホイールに当たる虞がある。また、インナーパネルが急停止するときの反動で、エアバッグが乗員方向に伸び縮みしてバウンドすることがある。
【0005】
図20は、バウンドする従来のエアバッグを示す側面図である。図20A、20Bでは、ステアリングホイールとエアバッグに接触する乗員も示している。
従来のエアバッグ100は、図示のように、膨張展開した後に、ステアリングホイール90上でバウンド(図20Aの矢印W)することがある。これに伴い、エアバッグ100は、形状が安定せず、最も厚い形状V1と最も薄い形状V2の間で変動することで、性能も不安定になる。また、例えば、乗員91(図20B参照)が、最も薄い形状V2のエアバッグ100に接触すると、エアバッグ100が乗員91の衝撃やエネルギーを吸収するストローク(吸収ストローク)が不足する虞もある。従って、従来のエアバッグ100は、より安定して膨張展開して、乗員91を安全に拘束する観点から、改良が求められている。
【0006】
また、従来のエアバッグ100では、インナーパネル(図示せず)の結合部に大きな負荷がかかるため、結合部の強度を増加させる必要がある。例えば、縫製による結合では、補強布の追加や、糸の太さ又は形状の変更により縫製の強度を強くする必要がある。そのため、従来のエアバッグ100は、製造の手間やコストが増加するという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−284026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来の問題に鑑みなされたもので、その目的は、エアバッグが乗員に向かって勢いよく突き出すのを防止して、エアバッグを安定して膨張展開させ、エアバッグにより乗員を安全に拘束することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ガスにより膨張展開して車両の乗員を保護するエアバッグと、エアバッグにガスを供給するインフレータとを備えたエアバッグ装置であって、エアバッグが、インフレータから供給されるガスにより膨張するとともに、ガスの流通口が設けられたインナーバッグと、インナーバッグを収容してインナーバッグの流通口から供給されるガスにより膨張するアウターバッグと、アウターバッグ内で乗員方向へ膨張するインナーバッグを押さえる押さえ部材とを有し、押さえ部材が、膨張展開したインナーバッグよりも小さく形成され、収縮するインナーバッグを乗員方向へ通過させる開口部を有し、インナーバッグが、アウターバッグの前面に連結され、押さえ部材の開口部の通過に伴いアウターバッグの前面を乗員方向へ移動させるエアバッグ装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エアバッグが乗員に向かって勢いよく突き出すのを防止して、エアバッグを安定して膨張展開させることができ、エアバッグにより乗員を安全に拘束することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】エアバッグ装置を設けたステアリングホイールを示す正面図である。
【図2】第1の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図3】図2のエアバッグ装置を分解して示す斜視図である。
【図4】第1の実施形態のインナーバッグの斜視図である。
【図5】膨張展開するエアバッグを順に示す断面図である。
【図6】乗員を保護するエアバッグ装置を示す側面図である。
【図7】第2の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図8】膨張展開するエアバッグを順に示す断面図である。
【図9】乗員を保護するエアバッグ装置を示す側面図である。
【図10】第3の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図11】図10のエアバッグ装置を分解して示す斜視図である。
【図12】第3の実施形態のインナーバッグの斜視図である。
【図13】膨張展開するエアバッグを順に示す断面図である。
【図14】第4の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図15】図14のエアバッグ装置を分解して示す斜視図である。
【図16】膨張展開するエアバッグを順に示す断面図である。
【図17】第5の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図18】図17のエアバッグ装置を分解して示す斜視図である。
【図19】膨張展開するエアバッグを順に示す断面図である。
【図20】バウンドする従来のエアバッグを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のエアバッグ装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
このエアバッグ装置は、車両内に配置されて、膨張展開するエアバッグにより乗員を受け止めて保護する。また、エアバッグ装置は、例えば、車両内で、運転席や助手席等のシートの周囲に設けられて、シートに座った乗員を保護する。以下では、運転席前方のステアリングホイールに配置されたエアバッグ装置を例に採り説明する。
【0013】
図1は、エアバッグ装置を設けたステアリングホイールを示す正面図である。図1では、ステアリングホイールを乗員側から見て示している。
エアバッグ装置1は、図示のように、ステアリングホイール90の中央部に搭載されて、乗員の前方に配置される。また、エアバッグ装置1は、表面を覆うエアバッグカバー2を備え、エアバッグカバー2内に所定状態に折り畳まれたエアバッグ(図示せず)が収容されている。エアバッグは、膨張によりエアバッグカバー2を押し開いて車室内で展開し、ステアリングホイール90と乗員の間で膨張展開する。その際、エアバッグは、乗員の位置する方向(乗員方向という)と側方に向けて膨張して、ステアリングホイール90を覆うように展開する。
【0014】
(第1の実施形態)
図2は、第1の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Aと表す)を示す図であり、図1の矢印X方向から見たエアバッグ装置1Aを模式的に示している。また、図2では、展開(膨張)初期のエアバッグ10を断面図で示している。図3は、図2のエアバッグ装置1Aを分解して示す斜視図であり、エアバッグ装置1Aの各構成を上下方向に離して示している。図3では、矢印により、組み合わされる構成の関係や構成同士の組み合わせ位置も示している。
【0015】
エアバッグ装置1Aは、図示のように、膨張展開可能なエアバッグ10と、インフレータ3と、エアバッグ10内に配置されたクッションリング4と、リアクションプレート5(図2では省略する)とを備えている。エアバッグ10は、インフレータ3から供給されるガスにより、乗員に向かって膨張展開して車両の乗員を保護する。
【0016】
インフレータ3は、ディスクタイプのガス発生装置であり、厚さ方向の一端部の外周に、複数のガス噴出口(図示せず)を有する。インフレータ3は、一端部がエアバッグ10に形成された取付口11からエアバッグ10内に挿入された状態で、取付口11に取り付けられる。インフレータ3は、車両緊急時や衝撃検知時に、エアバッグ10内でガスを発生して、エアバッグ10にガスを供給する。その際、インフレータ3は、複数のガス噴出口から放射状にガスを噴き出して、エアバッグ10を、所定の折り畳み形状から膨張展開させる。
【0017】
クッションリング4は、矩形板状をなし、中央部に、インフレータ3が挿入される孔4A(図3参照)を有する。また、クッションリング4には、4つのボルト4Bが、孔4Aの周りに固定されている。クッションリング4は、エアバッグ10の取付口11の周囲を、リアクションプレート5との間に挟み込んで、エアバッグ10をリアクションプレート5に固定する。その際、まず、ボルト4Bを、エアバッグ10の各部材に設けられた挿入孔12に挿入して、エアバッグ10の各部材をボルト4Bにより仮止めする。続いて、ボルト4Bを、リアクションプレート5の取付孔(図示せず)に挿入した後、インフレータ3をリアクションプレート5に取り付ける。インフレータ3は、挿入孔3Aにボルト4Bが挿入される。次に、ロックナット6により、ボルト4Bをリアクションプレート5に固定することで、クッションリング4、エアバッグ10、及び、インフレータ3をリアクションプレート5に固定する。
【0018】
リアクションプレート5は、矩形状の枠体からなり、一方の面にクッションリング4とエアバッグ10が、他方の面にインフレータ3が取り付けられる。また、リアクションプレート5の内部には、折り畳まれたエアバッグ10が配置される。リアクションプレート5は、エアバッグ10を覆うエアバッグカバー2が取り付けられた後、ステアリングホイール90に固定される。
【0019】
エアバッグ10は、補強布13、14と、保護布15と、アウターバッグ20とを有する。また、エアバッグ10は、アウターバッグ20内に配置されたインナーバッグ30及び押さえ部材50(以下、この形態のインナーバッグと押さえ部材には、それぞれ30Aと50Aを付す)を有する。エアバッグ10の各構成は、例えば織布やシートを裁断して形成した基布からなる。補強布13、14と保護布15は、中央に取付口11が形成された円形状をなし、クッションリング4とリアクションプレート5の間の所定位置に配置される。
【0020】
アウターバッグ20とインナーバッグ30Aは、正面視円形状の袋体であり、それぞれエアバッグ10の外側膨張部と内側膨張部を構成する。クッションリング4は、アウターバッグ20とインナーバッグ30Aの取付口11から、インナーバッグ30A内に挿入される。アウターバッグ20とインナーバッグ30Aは、クッションリング4によりリアクションプレート5に固定されて、取付口11の周囲が、クッションリング4とリアクションプレート5の間に保持される。
【0021】
以下、エアバッグ10の各構成について順に詳しく説明する。なお、本発明では、アウターバッグ20、インナーバッグ30、及び、エアバッグ10に関して、それぞれ車両内で、乗員側(図2、図3では上側)になる部分を前面、車体側(図2、図3では下側)になる部分を後面という。また、アウターバッグ20とインナーバッグ30に関して、それぞれエアバッグ10として組み立てられた状態で、外側になる面を外面、内側になる面を内面という。
【0022】
インナーバッグ30Aは、インフレータ3の一端部が内部に配置され、インフレータ3から供給されるガスにより膨張する。インナーバッグ30Aの前面と後面には、ガスを流通させる流通口31が少なくとも1つ(ここでは、2つずつ)設けられている。インナーバッグ30Aは、インフレータ3からのガスにより最初に膨張を開始し、流通口31を通してアウターバッグ20内にガスを供給する。
【0023】
インナーバッグ30Aは、前面を構成する前基布(前面パネル)32と、後面を構成する後基布(後面パネル)33とを有する。両基布32、33は、同じ直径の円形状に形成され、外周に沿って、縫製や接着(ここでは、縫製)により接合される。インナーバッグ30Aは、両基布32、33により内外が区画されて、内部に気室34が形成される。流通口31は、前基布32と後基布33の2箇所に形成されて、インナーバッグ30A内のガスを乗員方向と車体の位置する方向(車体方向という)に流出させる。後基布33の内面には、保護布15が取り付けられる。保護布15は、後基布33とクッションリング4の間に配置されて、クッションリング4から後基布33を保護する。
【0024】
図4は、インナーバッグ30Aの斜視図である。図4Aに、膨張前のインナーバッグ30Aを示し、図4Bに、膨張後のインナーバッグ30Aを示す。
膨張前のインナーバッグ30Aは、図4Aに示すように、前基布32と後基布33が重ねて配置されて、円形状をなす。膨張後のインナーバッグ30Aは、図4Bに示すように、基布32、33内の気室34にガスが充填されて、球形状に膨張する。このように、インナーバッグ30Aは、アウターバッグ20内で、平面形状から立体形状に膨張する。
【0025】
アウターバッグ20(図2、図3参照)は、インナーバッグ30Aを内部に収容するメインバッグであり、インナーバッグ30Aの流通口31から供給されるガスにより膨張する。アウターバッグ20の後面には、内部のガスを外部に排出するベントホール21が少なくとも1つ(ここでは、2つ)設けられている。アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aに続いて膨張を開始して、インナーバッグ30Aの周りで、それよりも大きく膨張する。
【0026】
アウターバッグ20は、前面を構成する前基布(前面パネル)22と、後面を構成する後基布(後面パネル)23とを有する。両基布22、23は、同じ直径の円形状に形成され、外周に沿って接合される。アウターバッグ20は、両基布22、23により内外が区画されて、内部に気室24が形成される。ベントホール21は、後基布23の2箇所に形成されて、アウターバッグ20内のガスを車体に向かって排出する。後基布23の内外面には、補強布13、14が取り付けられる。補強布13、14は、取付口11の周囲を補強して、インフレータ3が発生するガスや熱から後基布23を保護する。
【0027】
インナーバッグ30Aとアウターバッグ20は、インフレータ3が位置する後面で連結された状態で膨張する。また、インナーバッグ30Aとアウターバッグ20は、乗員の前方において、インフレータ3から乗員方向と側方に向かって展開する。その際、まず、アウターバッグ20内で、インフレータ3を収容するインナーバッグ30Aが膨張して、その全体が膨張展開する。アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aの外部で次第に膨張して、インナーバッグ30Aの膨張完了後の所定のタイミングで、全体が膨張展開する。また、インナーバッグ30Aは、押さえ部材50Aにより押さえられて、乗員方向への膨張と展開が規制される。
【0028】
押さえ部材50Aは、インナーバッグ30Aの膨張時に、アウターバッグ20内で、乗員方向へ膨張するインナーバッグ30Aを押さえる。ここでは、押さえ部材50Aは、中央に開口部51を有する帯状部材52からなり、アウターバッグ20の後面(後基布23)に連結されている。帯状部材52は、矩形状の基布(帯状布)であり、エアバッグ10の膨張前に、インナーバッグ30Aの前面(前基布32)とアウターバッグ20の前面(前基布22)の間に配置される。また、帯状部材52は、インナーバッグ30Aの縁部を越えた位置で、アウターバッグ20の後基布23に縫製される。これにより、帯状部材52の両端が、アウターバッグ20の後面に接合される。インナーバッグ30Aは、押さえ部材50Aとアウターバッグ20の後面の間に配置される。
【0029】
押さえ部材50Aの開口部51は、円形孔からなり、膨張展開したインナーバッグ30Aよりも小さい所定径に形成される。開口部51は、インナーバッグ30Aが通過可能な通過口であり、エアバッグ10の膨張前に、インナーバッグ30Aと同芯状に配置される。即ち、開口部51は、インナーバッグ30Aの前面とアウターバッグ20の前面の間に、インナーバッグ30Aが通過可能に配置される。
【0030】
エアバッグ10の膨張時に、押さえ部材50Aは、膨張するインナーバッグ30Aの前面を押さえて、インナーバッグ30Aの乗員方向への膨張を規制する。インナーバッグ30Aは、押さえ部材50Aとアウターバッグ20の後面の間で膨張展開する。その際、インナーバッグ30Aは、開口部51よりも大きく膨張展開するため、開口部51を通過できずに、押さえ部材50Aとアウターバッグ20の間に保持される。開口部51は、膨張展開したインナーバッグ30Aが次第に収縮するときに、収縮するインナーバッグ30Aを乗員方向へ通過させる。インナーバッグ30Aは、開口部51を通過する間に、徐々に乗員方向へ伸びるように変形する。
【0031】
インナーバッグ30Aは、連結部29で、アウターバッグ20の前面に連結されて、前面の乗員方向への移動を規制する。アウターバッグ20の前面とインナーバッグ30Aは、押さえ部材50Aの開口部51内の位置で、縫製により接合される。ここでは、アウターバッグ20の前基布22とインナーバッグ30Aの前基布32が、中央で円形状に縫製される。インナーバッグ30Aは、押さえ部材50Aにより押さえられた状態では、アウターバッグ20の前面を引っ張り、前面の乗員方向への移動を止める。また、インナーバッグ30Aは、押さえ部材50Aの開口部51の通過に伴い、アウターバッグ20の前面を乗員方向へ移動させる。アウターバッグ20の前面は、インナーバッグ30Aにより、中央の連結部29を中心に移動が規制される。アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aにより膨張と展開が規制されて、側方に広がってから乗員方向に次第に膨張する。
【0032】
次に、エアバッグ装置1A(図3参照)の製造手順について説明する。
アウターバッグ20に関しては、まず、2つの補強布13、14を後基布23の内外面に縫製(図3では、各縫製部を点線で示す)する。また、押さえ部材50Aの両端を後基布23の内面に縫製する。次に、両基布22、23の外面を重ね合わせて、両基布22、23を外周に沿って縫製する。その後、両基布22、23を、取付口11を通して反転させて、押さえ部材50Aをアウターバッグ20内に配置する。なお、図3では、アウターバッグ20及びインナーバッグ30Aを反転させた後における各構成の配置状態を示している。
【0033】
インナーバッグ30Aに関しては、まず、保護布15を後基布33の内面に縫製する。次に、両基布32、33の外面を重ね合わせて、両基布32、33を外周に沿って縫製する。その後、両基布32、33を、取付口11を通して反転させて、インナーバッグ30Aを形成する。続いて、インナーバッグ30Aを、アウターバッグ20の取付口11からアウターバッグ20内に挿入して、アウターバッグ20の後基布23と押さえ部材50Aの間に組み付ける。インナーバッグ30Aとアウターバッグ20は、同芯状に配置する。インナーバッグ30Aの前基布32は、連結部29で、アウターバッグ20の前基布22に縫製する。両基布32、22は、各取付口11と押さえ部材50Aの開口部51の位置を合わせて、取付口11と開口部51の内側で縫製する。
【0034】
次に、クッションリング4を、取付口11からインナーバッグ30A内に挿入する。また、ボルト4Bにより、インナーバッグ30Aとアウターバッグ20を仮止めする。このインナーバッグ30Aとアウターバッグ20からなるエアバッグ10を、クッションリング4により、リアクションプレート5に取り付ける。続いて、インフレータ3をリアクションプレート5に取り付けて、ロックナット6をボルト4Bにはめ込む。これにより、クッションリング4、エアバッグ10、及び、インフレータ3をリアクションプレート5に固定する。次に、エアバッグ10を折り畳んでリアクションプレート5内へ配置する。ただし、エアバッグ10は、リアクションプレート5への固定前に、予め折り畳んでおいてもよい。
【0035】
最後に、エアバッグカバー2(図3では図示せず)をリアクションプレート5に取り付けて、エアバッグ装置1Aの製造が完了する。エアバッグ装置1Aは、ステアリングホイール90(図1参照)に取り付けられた後、車両の緊急時等にインフレータ3を作動させてガスを発生させる。このガスにより、エアバッグ10を、折り畳み形状を解消させつつ膨張させて、ステアリングホイール90を覆うように膨張展開させる。
【0036】
図5は、膨張展開するエアバッグ10を順に示す断面図である。図5では、各段階のエアバッグ10を、図2に対応させて示している。
エアバッグ10の展開初期では、まず、インナーバッグ30Aが、インフレータ3から供給されるガスにより膨張する(図5A参照)。インナーバッグ30Aは、押さえ部材50Aにより押さえられて、押さえ部材50Aとアウターバッグ20の後面の間で膨張展開する(図5B参照)。その際、インナーバッグ30Aは、押さえ部材50Aにより保持されて、乗員方向への膨張が規制される。インナーバッグ30Aの前面は、押さえ部材50Aに押し付けられて、乗員方向への移動が妨げられる。
【0037】
その結果、インナーバッグ30Aは、乗員方向への膨張や突き出しが抑制され、乗員方向に対して側方に大きく膨張する。また、インナーバッグ30Aは、アウターバッグ20の前面に張力を作用させて、前面を乗員方向の逆方向(車体方向)に引っ張る。アウターバッグ20の前面は、インナーバッグ30Aにより乗員方向への移動が妨げられる。エアバッグ10の中央部は、インナーバッグ30Aの膨張に合わせて、乗員方向に勢いよく突き出すことなく所定厚さに膨張する。インナーバッグ30Aは、押さえ部材50Aに押さえられて膨張展開したときに、アウターバッグ20のベントホール21に押し付けられて、ベントホール21の全体を覆う。ベントホール21は、インナーバッグ30Aにより閉鎖されて、アウターバッグ20からのガスの排出を停止する。
【0038】
アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aの流通口31から供給されるガスにより膨張を開始する。その際、アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aにより乗員方向の膨張が規制されるため、側方に優先的に膨張して、外方に広がるように広範囲に展開する。また、アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aを中心に、側方全体に均等に膨張する。次に、アウターバッグ20は、内圧の上昇に伴い、乗員方向に膨張して厚さが増加する。
【0039】
インナーバッグ30Aは、膨張が完了した後、流通口31からガスを流出させて、ガスをアウターバッグ20の全体に供給する。その結果、アウターバッグ20の内圧が徐々に高くなり、インナーバッグ30Aの内外の圧力差が小さくなる。これに伴い、インナーバッグ30Aの剛性及び膨張形状を保持する力が低下する(図5C参照)。また、インナーバッグ30Aは、押さえ部材50Aの開口部51に押し付けられた状態で、ガスの流出により徐々に収縮して、容積の減少と外径の縮小が進行する。
【0040】
インナーバッグ30Aは、収縮により、押さえ部材50Aの開口部51に近い大きさになり、最後には開口部51よりも小さくなる。その間に、インナーバッグ30Aは、膨張するアウターバッグ20により乗員方向に引っ張られて、開口部51から抵抗を受けつつ開口部51を乗員方向に通過する。即ち、インナーバッグ30Aは、アウターバッグ20の膨張に伴い、収縮しながら開口部51を通過して、乗員方向に次第に変形する。開口部51は、収縮するインナーバッグ30Aの外周に沿って相対移動する。また、開口部51は、内部を通過するインナーバッグ30Aをしごくようにして、インナーバッグ30Aに抵抗を加える。アウターバッグ20の前面は、インナーバッグ30Aにより乗員方向への移動が規制され、インナーバッグ30Aの開口部51の通過に応じて、乗員方向へ移動する。これに伴い、アウターバッグ20は、乗員方向へ次第に膨張する。
【0041】
その後、インナーバッグ30Aが開口部51をすり抜けて、開口部51がインナーバッグ30Aから外れる(図5D参照)。これにより、インナーバッグ30Aが押さえ部材50Aから解放されて、アウターバッグ20が、乗員の前方で完全に膨張展開する。その際、インナーバッグ30Aが、アウターバッグ20の前面と後面の間でテザーベルトとして機能して、アウターバッグ20の前面を停止させる。アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aにより膨張が制限されて、所定厚さに膨張するとともに、前面が乗員前方の所定位置に配置される(図5E参照)。インナーバッグ30Aは、押さえ部材50Aの開口部51を通過する間に、ベントホール21から離れて、ベントホール21を開放する。押さえ部材50Aは、ベントホール21から離れた位置に設けられており、ベントホール21に影響することはない。そのため、ベントホール21は、押さえ部材50Aにより塞がれることなく、ガスを排出する。
【0042】
エアバッグ装置1Aは、膨張展開したアウターバッグ20(エアバッグ10)により、乗員を受け止めて保護する。ここでは、エアバッグ10により、乗員の上体を主に受け止めて拘束するとともに、衝撃エネルギーを吸収して乗員の衝撃を緩和する。また、エアバッグ10は、乗員を受け止めたときに、アウターバッグ20のベントホール21からガスを排出して、乗員の衝撃を緩和する。
【0043】
以上説明したように、このエアバッグ装置1Aでは、押さえ部材50Aとインナーバッグ30Aにより、アウターバッグ20の前面の移動を規制して、前面を乗員方向に徐々に移動させることができる。また、エアバッグ10が、展開初期に、乗員に向かって勢いよく突き出すのも防止できる。更に、アウターバッグ20の展開初期から後期まで、押さえ部材50Aにより、開口部51を通過中のインナーバッグ30Aに安定した抵抗を付加できる。その結果、アウターバッグ20の前面も安定して移動するため、エアバッグ10を、部分的な突き出しや速度の速い突き出しを起こさずに、徐々に厚く膨張させることができる。従って、エアバッグ10が乗員に勢いよく接触するのを防止できるとともに、エアバッグ10が乗員に接触するときの衝撃を低減できる。乗員がステアリングホイール90に接近しているときでも、乗員の受ける衝撃を大幅に低減できる。
【0044】
エアバッグ10の部分的な突き出しを抑制できるため、エアバッグ10の前面を比較的平らに移動させることができる。これにより、乗員を広い面積で受け止めて安全に拘束できる。エアバッグ10が乗員方向に徐々に膨張するため、膨張完了後に、エアバッグ10が乗員方向に伸び縮みするのを抑制できる。その結果、エアバッグ10のバウンドが軽減して、エアバッグ10を安定して膨張展開させることができる。これに伴い、エアバッグ10の膨張形状及び前面の位置が早期に安定して、エアバッグ10の性能も安定するため、膨張展開直後においても、乗員を安全に拘束できる。乗員が接触する際に、常に、有効な吸収ストロークをエアバッグ10に確保できるため、乗員の衝撃やエネルギーを確実に吸収できる。
【0045】
インナーバッグ30Aがテザーベルトとして機能するため、エアバッグ10を設定された厚さと形状に膨張展開させることができる。エアバッグ10の膨張展開後の変動も抑制できる。また、エアバッグ10の乗員方向の膨張を規制して、乗員に対する安全性を向上できる。
【0046】
収縮するインナーバッグ30Aが、押さえ部材50Aの開口部51から抵抗を受けつつ乗員方向へ徐々に移動するため、押さえ部材50A、アウターバッグ20、及び、インナーバッグ30Aに急激に大きな負荷がかかることがない。各接合部の負荷も小さくなるため、接合部の強度は比較的低くてよい。そのため、各部材や接合部の仕様又は条件の制約が大幅に緩和されて、様々な設計が可能にある。縫製部、リアクションプレート5、又は、クッションリング4を簡略化することもできる。従って、エアバッグ10を製造する手間を削減して、生産性を向上できるとともに、エアバッグ10の製造コストを低減できる。
【0047】
インナーバッグ30Aが、押さえ部材50Aとアウターバッグ20の後面の間で膨張展開するため、膨張後のインナーバッグ30Aの形状を、押さえ部材50Aとアウターバッグ20により調整することができる。帯状部材52からなる押さえ部材50Aの両端を、アウターバッグ20の後面に接合するときには、接合部にかかる張力を分散させることができる。また、帯状部材52をインナーバッグ30Aの前面とアウターバッグ20の前面の間に配置することで、膨張するインナーバッグ30Aが帯状部材52により確実に押さえられる。特に、インナーバッグ30Aの膨張開始直後であっても、インナーバッグ30Aが、帯状部材52により押さえられて保持される。そのため、押さえ部材50Aにより、インナーバッグ30Aの膨張とアウターバッグ20の前面の移動を確実に規制できる。
【0048】
ベントホール21は、インナーバッグ30Aが押さえ部材50Aに押さえられて膨張展開したときに、インナーバッグ30Aにより閉鎖される。そのため、展開初期に、アウターバッグ20内に供給されるガスの漏れ及び損失を防止して、ガスを有効に利用できる。これにより、インフレータ3の小型化や低出力化を実現できるため、エアバッグ装置1Aのコストを削減できる。また、ベントホール21は、インナーバッグ30Aが開口部51を通過する間に開放されて、ガスの排出が可能になる。エアバッグ10は、ベントホール21からガスを排出することで、乗員の衝撃を緩和できる。
【0049】
ガスを有効利用するために、例えば、アウターバッグ20の容量を減少させ、或いは、ベントホール21を小さくするときには、エアバッグ10の衝撃吸収特性に影響が生じることがある。これに対し、エアバッグ装置1Aは、アウターバッグ20の容量とベントホール21の大きさを充分に確保できる。エアバッグ10は、容量とベントホール21からのガスの排出量に応じて、適切な衝撃吸収特性を発揮できる。
【0050】
以上のように、エアバッグ装置1Aによれば、エアバッグ10が乗員に向かって勢いよく突き出すのを防止して、エアバッグ10を安定して膨張展開させることができる。また、エアバッグ10により乗員を安全に拘束して保護することができる。更に、エアバッグ装置1Aは、運転席に座る乗員の状態の違いにも対応して、各状態の乗員を保護できる。
【0051】
図6は、乗員を保護するエアバッグ装置1Aを示す側面図であり、体格に差がある2人の乗員91(91A、91B)を示している。
大柄な乗員91A(図6A参照)が運転席92に座ると、乗員91Aの位置が車両内の後方になり、乗員91Aとエアバッグ装置1Aの距離L1が長くなる。小柄な乗員91B(図6B参照)が運転席92に座ると、乗員91Bの位置が車両内の前方になり、乗員91Bとエアバッグ装置1Aの距離L2が短くなる。そのため、小柄な乗員91Bは、大柄な乗員91Aよりも早いタイミングでエアバッグ10に接触する。
【0052】
エアバッグ10は、上記したように、危険な突き出し(図6C、6Dでは点線で示す)が生じることなく、前面が平面状を維持するようにして、乗員方向に徐々に膨張する。そのため、エアバッグ10は、突き出しにより各乗員91A、91Bを害することなく、乗員91A、91Bを適切に受け止めて保護できる。その際、大柄な乗員91A(図6C参照)は、正常に膨張展開したエアバッグ10に接触して保護される。
【0053】
小柄な乗員91B(図6D参照)は、膨張展開途中のエアバッグ10に接触して保護される。この乗員91Bは、エアバッグ10が充分に膨張したときに、平面状のエアバッグ10に接触するため、エアバッグ10により安全に保護される。このように、エアバッグ装置1Aは、乗員91の状態に関係なく、必要な吸収ストロークをエアバッグ10に確保して、乗員91を害することなく保護できる。また、エアバッグ10は、乗員91を拘束する性能が高く、特に、高い初期拘束性能が得られるため、各状態の乗員91を安全に拘束できる。
【0054】
ここで、アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aにより乗員方向の膨張が規制されて、側方に優先して膨張する。そのため、乗員91が運転席92から離れてエアバッグ10に近接しているときでも、エアバッグ10の突き出しにより乗員91が害されるのを抑制できる。乗員91がステアリングホイール90に密着しているときでも、インナーバッグ30Aの膨張により生じる乗員91とステアリングホイール90の間の僅かな空間から、アウターバッグ20が側方に膨張する。これにより、エアバッグ10が、乗員91とステアリングホイール90の間で展開して、乗員91を保護する。
【0055】
また、アウターバッグ20は、側方に素早く膨張して、短時間で広範囲に展開する。そのため、乗員91が高速でエアバッグ10に進入するときでも、エアバッグ10により乗員91を確実に受け止めることができる。乗員91が展開途中のエアバッグ10に進入したときには、乗員91は、高い内圧を保持するインナーバッグ30Aでも受け止められる。その際、インナーバッグ30Aは、乗員91の衝撃やエネルギーを吸収し、かつ、乗員91がステアリングホイール90に接触するのを防止する。
【0056】
エアバッグ10の展開初期の厚さは、膨張時のインナーバッグ30Aの高さにより設定できる。例えば、乗員91とエアバッグ装置1Aとの距離に応じて、エアバッグ10の展開初期の厚さを薄くすることで、乗員91が受ける危険を低減できる。その後、インナーバッグ30Aが、押さえ部材50Aの開口部51を通過することで、アウターバッグ20が完全に膨張して厚くなる。これにより、エアバッグ10は、最大の吸収ストロークを得て、乗員91を安全に受け止める。エアバッグ10は、インナーバッグ30Aの膨張、アウターバッグ20の側方への膨張、アウターバッグ20の完全膨張という段階を経て次第に膨張展開する。その間、エアバッグ10は、充分な内圧を維持しながら容量が増加するため、常に、高い乗員91の拘束性能を発揮する。
【0057】
エアバッグ10の展開性能は、膨張したインナーバッグ30Aの大きさ、押さえ部材50Aの開口部51の大きさ、押さえ部材50Aの長さ、押さえ部材50Aの連結位置を変更することで細かく調整できる。これら各変更は比較的簡単に行えるため、エアバッグ10の展開性能や展開の仕方は容易に調整できる。なお、アウターバッグ20の前面とインナーバッグ30Aは、直接連結する以外に、他の部材を介して連結してもよい。押さえ部材50Aは、円形状や三角形状等、矩形状以外の形状に形成してもよい。インナーバッグ30Aは、種々の形状、例えば球形状、楕円体形状、又は、角錐形状に形成してもよい。以下、押さえ部材50又はインナーバッグ30の形態が異なる各実施形態について説明する。
【0058】
(第2の実施形態)
図7は、第2の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Bと表す)を示す図である。図7では、図3に対応させて、分解したエアバッグ装置1Bを斜視図で示している。
エアバッグ装置1Bでは、押さえ部材50(以下、この形態の押さえ部材には50Bを付す)の一部が、第1の実施形態の押さえ部材50Aと相違する。ここでは、既に説明したエアバッグ装置1Aと同じ構成は、同じ名前と符号を付して、その説明は省略し、押さえ部材50Bについて詳しく説明する。ただし、インナーバッグ30Aは、前基布32のみに、流通口31を有する。
【0059】
押さえ部材50Bは、図示のように、開口部51の両側に、それぞれガスを通過させる貫通孔53を有する。貫通孔53は、円形孔からなり、アウターバッグ20のベントホール21と同じ面積(第1面積M1という)に形成されている。また、2つの貫通孔53は、2つのベントホール21の間隔に近い間隔に配置されている。押さえ部材50Bは、貫通孔53をベントホール21にオーバーラップさせて、アウターバッグ20の後基布23に縫製される。
【0060】
図8は、膨張展開するエアバッグ10を順に示す断面図である。
なお、エアバッグ10は、基本的には、第1の実施形態と同様の過程を経て膨張展開する。従って、ここでは、第1の実施形態と異なる過程を中心に説明する。
【0061】
エアバッグ10の展開初期では、インナーバッグ30Aが、押さえ部材50Bにより押さえられて、押さえ部材50Bとアウターバッグ20の後面の間で膨張展開する(図8A参照)。アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aの流通口31から供給されるガスにより膨張を開始する(図8B参照)。このエアバッグ装置1Bでは、インナーバッグ30Aは、押さえ部材50Bとアウターバッグ20の後面の間の空間よりも小さく膨張する。その際、インナーバッグ30Aは、内圧により膨張した形状を維持して、押さえ部材50Bとベントホール21の間に、ガスを流通させる空間60を形成する。この空間60は、押さえ部材50Bの側方開口と貫通孔53を通して、アウターバッグ20内の他の空間とガスが流通するため、押さえ部材50Bの両側に圧力差は生じない。アウターバッグ20は、第1面積M1のベントホール21からガスを排出する。
【0062】
インナーバッグ30Aは、膨張が完了した後、流通口31からガスが流出して、徐々に収縮する(図8C参照)。その間に、インナーバッグ30Aは、アウターバッグ20により引っ張られて、押さえ部材50Bの開口部51を乗員方向に通過する。アウターバッグ20の前面は、インナーバッグ30Aの開口部51の通過に伴い、乗員方向へ移動する。その後、インナーバッグ30Aが開口部51をすり抜けて、アウターバッグ20が乗員の前方で膨張展開する。
【0063】
押さえ部材50Bは、開口部51をインナーバッグ30Aが通過したときに、インナーバッグ30Aから外れる。押さえ部材50Bには、アウターバッグ20の膨張に伴う張力とアウターバッグ20の内圧により、アウターバッグ20の後面に近づく力が働く。その結果、押さえ部材50Bは、アウターバッグ20の後面に密着する(図8D参照)。同時に、押さえ部材50Bの貫通孔53がベントホール21に重なる。貫通孔53は、ベントホール21とずれた状態に配置されており、ベントホール21に対して位置をずらして重なる。押さえ部材50Bは、貫通孔53の周辺部分で、ベントホール21を部分的に塞いで、ベントホール21における開口部分の面積(開口面積)を変更する。これにより、ベントホール21は、開口面積が第1面積M1よりも小さい面積(第2面積M2という)に変更されて、ガスの排出量が減少する。エアバッグ装置1Bは、膨張の各段階におけるエアバッグ10により、乗員91を受け止める。
【0064】
このエアバッグ装置1Bでも、第1の実施形態のエアバッグ装置1Aと同様の効果が得られる。また、押さえ部材50Bの貫通孔53により、ベントホール21の開口面積を変更して、ベントホール21から排出されるガスの量を変更することができる。貫通孔53とベントホール21のずれ量を変更することで、ベントホール21の開口面積とガスの排出量を調整することができる。エアバッグ10外へのガスの排出量を、エアバッグ10に乗員91が接触するまでの時間、及び、エアバッグ10への乗員91の進入量に応じて変更することもできる。更に、エアバッグ装置1Bは、乗員91の体格差にも対応して、各体格の乗員91を保護できる。
【0065】
図9は、乗員91を保護するエアバッグ装置1Bを示す側面図であり、大柄で重い乗員91Aと小柄で軽い乗員91Bを示している。
大柄な乗員91A(図9A参照)は、エアバッグ装置1Bから離れて運転席92に座るため、エアバッグ10との接触のタイミングが遅くなる。また、乗員91Aがエアバッグ10に接触するときには、エアバッグ10により吸収するエネルギーが大きいため、ベントホール21は小さい方がよい。これに対し、エアバッグ10は、乗員91Aが接触する展開後期に、ベントホール21の開口面積を小さい第2面積M2にして、乗員91Aを受け止める。
【0066】
小柄な乗員91B(図9B参照)は、エアバッグ装置1Bに接近して運転席92に座るため、エアバッグ10との接触のタイミングが早くなる。また、乗員91Bがエアバッグ10に接触するときには、エアバッグ10により吸収するエネルギーが小さいため、ベントホール21は大きい方がよい。これに対し、エアバッグ10は、乗員91Bが接触する展開初期に、ベントホール21の開口面積を大きい第1面積M1にして、乗員91Bを受け止める。
【0067】
このように、乗員91の体格差により、エアバッグ10に乗員91が接触するタイミングに差が生じる。エアバッグ10は、各乗員91が接触するタイミングに合わせて、ベントホール21の開口面積を変更し、適切な衝撃吸収特性を発揮する。これにより、エアバッグ10は、乗員91の体格差に応じた最適な条件で乗員91を受け止めて、乗員91の衝撃を吸収する。従って、エアバッグ装置1Bは、乗員91の体格を検知するセンサやエアバッグ10の展開を制御する特殊なインフレータを使用することなく、体格差に対処して、エアバッグ10の有する乗員91への加害性を低減できる。なお、押さえ部材50Bの貫通孔53を、ベントホール21よりも小さい面積に形成して、ベントホール21に重ねることで、ベントホール21の開口面積を変更するようにしてもよい。
【0068】
(第3の実施形態)
図10は、第3の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Cと表す)を示す図であり、図1の矢印X方向から見たエアバッグ装置1Cを模式的に示している。また、図10では、展開初期のエアバッグ10を断面図で示している。図11は、図10のエアバッグ装置1Cを分解して示す斜視図であり、エアバッグ装置1Cの各構成を上下方向に離して示している。図11では、矢印により、組み合わされる構成の関係や構成同士の組み合わせ位置も示している。
【0069】
このエアバッグ装置1Cでは、インナーバッグ30(以下、この形態のインナーバッグには30Bを付す)が、第2の実施形態のエアバッグ装置1B(図7参照)と相違する。ここでは、既に説明したエアバッグ装置1Bと同じ構成は、同じ名前と符号を付して、その説明は省略し、インナーバッグ30Bの相違点について詳しく説明する。
【0070】
インナーバッグ30Bは、図示のように、ガスの流通口31が設けられた前基布35と、インフレータ3の取付口11が設けられた後基布36とを有する。両基布35、36は、同じ形状に形成されており、円形部35A、36Aと、少なくとも1つ(ここでは、2つ)の矩形部35B、36Bとからなる。2つの矩形部35B、36Bは、円形部35A、36Aから逆方向に向かって延びるように、円形部35A、36Aの外周に一体に形成されている。
【0071】
両基布35、36は、外縁に沿って縫製されて、円形部35A、36A及び2つの矩形部35B、36Bが、それぞれ接合される。インナーバッグ30Bは、両基布35、36により内部に気室34が形成される。また、インナーバッグ30Bには、円形部35A、36Aにより球状膨張部(本体膨張部)37が形成され、矩形部35B、36Bにより筒状膨張部38が形成される。球状膨張部37と筒状膨張部38の内部は、互いに連通して気室34を構成する。球状膨張部37は、連結部29で、アウターバッグ20の前面に連結されて、前面の乗員方向への移動を規制する。アウターバッグ20の前面と球状膨張部37は、押さえ部材50Bの開口部51内の位置で接合される。
【0072】
図12は、インナーバッグ30Bの斜視図である。図12Aに、膨張前のインナーバッグ30Bを示し、図12Bに、膨張後のインナーバッグ30Bを示す。
膨張前のインナーバッグ30Bは、図12Aに示すように、前基布35と後基布36が重ねて配置されて、平面形状をなす。膨張後のインナーバッグ30Bは、図12Bに示すように、基布35、36内の気室34にガスが充填されて、立体形状に膨張する。その際、球状膨張部37は、インフレータ3から供給されるガスにより、インナーバッグ30Bの中心で球形状に膨張する。筒状膨張部38は、球状膨張部37から供給されるガスにより、球状膨張部37から外方に向かって筒状に膨張する。
【0073】
このように、インナーバッグ30Bは、膨張状態から収縮可能及び変形可能な球状膨張部37と筒状膨張部38を有する。筒状膨張部38は、インナーバッグ30Bに少なくとも1つ設けられ、膨張時にインナーバッグ30Bの外方に突出する。ここでは、2つの筒状膨張部38が、インナーバッグ30Bの側方に向かって、かつ、互いに逆方向に突出する。
【0074】
筒状膨張部38の端部38A(図10、図11参照)は、エアバッグ10の膨張前に、アウターバッグ20のベントホール21上に、又は、ベントホール21に近接して配置される。押さえ部材50Bは、筒状膨張部38に沿って配置されて、インナーバッグ30Bの全体を覆う。2つの筒状膨張部38の全体は、押さえ部材50Bとアウターバッグ20の後面の間に配置される。押さえ部材50Bは、貫通孔53と筒状膨張部38の端部38Aを囲むように設けられた接合部で、ベントホール21の周囲に接合される。筒状膨張部38の端部38Aは、押さえ部材50Bの接合部内に配置される。筒状膨張部38は、後述するように、押さえ部材50Bとアウターバッグ20の後面の間で膨張及び収縮する。また、筒状膨張部38は、球状膨張部37が押さえ部材50Bの開口部51を通過するときに、球状膨張部37に引き寄せられて、ベントホール21から離れる。
【0075】
次に、エアバッグ装置1C(図11参照)の製造手順について説明する。
アウターバッグ20は、第1及び第2の実施形態と同じ工程で形成する。インナーバッグ30Bに関しては、まず、保護布15を後基布36の内面に縫製(図11では、各縫製部を点線で示す)する。次に、両基布35、36の外面を重ね合わせて、両基布35、36を外縁に沿って縫製する。その後、両基布35、36を、取付口11を通して反転させて、筒状膨張部38を外方に突出するように配置する。なお、図11では、インナーバッグ30Bを反転させた後における各構成の配置状態を示している。
【0076】
続いて、インナーバッグ30Bを、アウターバッグ20内に挿入して、アウターバッグ20の後基布23と押さえ部材50Bの間に組み付ける。また、2つの筒状膨張部38の端部38Aを、それぞれベントホール21上に配置する。インナーバッグ30Bの前基布35は、連結部29で、アウターバッグ20の前基布22に縫製する。続いて、上記と同様に、クッションリング4とロックナット6により、エアバッグ10とインフレータ3をリアクションプレート5に取り付ける。エアバッグカバー2(図11では図示せず)をリアクションプレート5に取り付けて、エアバッグ装置1Cの製造が完了する。エアバッグ装置1Cは、インフレータ3が発生するガスにより、エアバッグ10を膨張展開させる。
【0077】
図13は、膨張展開するエアバッグ10を順に示す断面図である。図13では、ベントホール21の周囲を拡大して示している。
なお、エアバッグ10は、基本的には、第1及び第2の実施形態と同様の過程を経て膨張展開する。従って、ここでは、エアバッグ10の膨張展開について、既に説明した過程と異なる過程を中心に説明する。
【0078】
エアバッグ10の展開初期では、まず、インナーバッグ30Bが、押さえ部材50Bとアウターバッグ20の後面の間で膨張する(図13A参照)。球状膨張部37は、押さえ部材50Bにより押さえられて、乗員方向への膨張が規制される。筒状膨張部38は、球状膨張部37側から端部38Aまで膨張する(図13B参照)。また、筒状膨張部38は、内圧により膨張した形状を維持して、押さえ部材50Bとベントホール21の間に、ガスを流通させる空間60を形成する。アウターバッグ20は、内部のガスを第1面積M1のベントホール21から外部へ排出する。アウターバッグ20の前面は、インナーバッグ30Bにより乗員方向への移動が妨げられる。
【0079】
続いて、アウターバッグ20は、インナーバッグ30Bの流通口31から供給されるガスにより膨張を開始し、内圧の上昇に伴い乗員方向に膨張する。インナーバッグ30Bは、流通口31からガスが流出して、徐々に収縮する(図13C参照)。球状膨張部37は、アウターバッグ20の膨張に伴い、押さえ部材50Bの開口部51を乗員方向に次第に通過する。筒状膨張部38の一部も、開口部51に引き寄せられて開口部51を通過する。その間に、筒状膨張部38の端部38Aが、次第に収縮しながらベントホール21から離れて、空間60を狭くする。押さえ部材50Bには、アウターバッグ20の膨張に伴う張力とアウターバッグ20の内圧により、アウターバッグ20の後面に近づく力が働く。その結果、押さえ部材50Bは、ベントホール21に徐々に接近する(図13D参照)。
【0080】
ベントホール21は、押さえ部材50Bの貫通孔53が接近するのに伴い、ガスの流通が阻害されて、ガスが徐々に排出され難くなる。即ち、ベントホール21の開口面積が、擬似的に徐々に小さくなる。その結果、ベントホール21からのガスの排出量が、アウターバッグ20の膨張に応じて連続して減少する。アウターバッグ20は、球状膨張部37が開口部51を通過すると、乗員91の前方で完全に膨張展開する(図13E参照)。押さえ部材50Bは、筒状膨張部38の収縮により、アウターバッグ20の後面に密着する。同時に、押さえ部材50Bの貫通孔53が、ベントホール21に重なって、ベントホール21の開口面積を変更する。これにより、ベントホール21の開口面積が、第1面積M1よりも小さい第2面積M2に変更される。エアバッグ装置1Cは、膨張の各段階におけるエアバッグ10により、乗員91を受け止める。
【0081】
このエアバッグ装置1Cでは、第1及び第2の実施形態のエアバッグ装置1A、1Bと同様の効果が得られる。また、筒状膨張部38が、開口部51に引っ掛かるようにして押さえ部材50Bにより保持されるため、開口部51を通過するインナーバッグ30Bに抵抗を付加できる。そのため、インナーバッグ30Bにより、アウターバッグ20の前面の移動をより確実に規制できる。筒状膨張部38により、上記したように、ベントホール21からのガスの排出量を徐々に変化させることもできる。これにより、エアバッグ10は、膨張の各段階に応じたガスの排出量を確保して、適切な衝撃吸収特性を発揮する。
【0082】
なお、筒状膨張部38は、インナーバッグ30Bから所定方向(例えば、下方や上方)に突出させて、インナーバッグ30Bに1つ設けてもよい。或いは、筒状膨張部38は、インナーバッグ30Bから放射状に突出させて、インナーバッグ30Bに3つ以上設けてもよい。即ち、筒状膨張部38は、インナーバッグ30Bに1つ又は3つ以上設けてもよい。
【0083】
(第4の実施形態)
図14は、第4の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Dと表す)を示す図であり、図1の矢印X方向から見たエアバッグ装置1Dを模式的に示している。また、図14では、展開初期のエアバッグ10を断面図で示している。図15は、図14のエアバッグ装置1Dを分解して示す斜視図であり、エアバッグ装置1Dの各構成を上下方向に離して示している。図15では、矢印により、組み合わされる構成の関係や構成同士の組み合わせ位置も示している。図14と図15は、それぞれ第3の実施形態で説明した図10と図11に対応する。
【0084】
このエアバッグ装置1Dでは、インナーバッグ30Bの配置の仕方が、第3の実施形態のエアバッグ装置1Cと相違する。また、エアバッグ10の構成も部分的に変更されている。ここでは、既に説明したエアバッグ装置1Cと同じ構成は、同じ名前と符号を付して、その説明は省略し、インナーバッグ30Bとエアバッグ10の相違点について詳しく説明する。
【0085】
エアバッグ10は、図示のように、筒状膨張部38が設けられたインナーバッグ30Bと、貫通孔53がない押さえ部材50Aとを有する。アウターバッグ20は、内部に、ガスを通過させる貫通孔26Aが設けられ、かつ、ベントホール21に重なるベントホール部カバー(以下、カバーという)26を有する。カバー26は、矩形状の基布からなり、各ベントホール21の周囲に配置される。カバー26は、ベントホール21を覆うように配置されて、外縁が後基布23の内面に接合される。また、カバー26には、インナーバッグ30B側の部分が接合されずに、非接合部26Bが設けられる。
【0086】
カバー26の貫通孔26Aは、上記した押さえ部材50Bの貫通孔53と同様に構成されている。即ち、貫通孔26Aは、円形孔からなり、アウターバッグ20のベントホール21と同じ第1面積M1に形成されている。カバー26は、貫通孔26Aをベントホール21にオーバーラップさせて、アウターバッグ20の後基布23に縫製される。その際、貫通孔26Aは、ベントホール21とずれた状態に配置される。カバー26がアウターバッグ20の後面に密着したときに、貫通孔26Aは、ベントホール21に対して位置をずらして重なる。カバー26は、貫通孔26Aの周辺部分で、ベントホール21を部分的に塞いで、ベントホール21の開口面積を変更する。これにより、ベントホール21の開口面積が、第1面積M1よりも小さい第2面積M2に変更される。
【0087】
筒状膨張部38は、エアバッグ10の膨張前に、それぞれアウターバッグ20内でカバー26とアウターバッグ20の後面の間に配置される。筒状膨張部38の端部38Aは、非接合部26Bを通って、カバー26内(カバー26とアウターバッグ20の間)に挿入され、ベントホール21上に、又は、ベントホール21に近接して配置される。筒状膨張部38は、カバー26内で膨張してカバー26の貫通孔26Aとベントホール21との間に空間を形成する。また、筒状膨張部38は、収縮又はカバー26外に移動して、カバー26をアウターバッグ20の後面に密着させ、貫通孔26Aをベントホール21に重ねる。
【0088】
押さえ部材50Aは、インナーバッグ30Bと交差して配置され、ベントホール21の位置を外して、アウターバッグ20の後基布23に縫製される。インナーバッグ30Bの球状膨張部37は、押さえ部材50Aにより覆われる。筒状膨張部38は、押さえ部材50Aの側方開口を通して、押さえ部材50Aの外部に位置するカバー26内に配置される。筒状膨張部38は、インナーバッグ30Bの膨張及び収縮により、カバー26内で膨張及び収縮する。また、筒状膨張部38は、球状膨張部37が押さえ部材50Aの開口部51を通過するときに、球状膨張部37に引き寄せられて、ベントホール21から離れる。
【0089】
次に、エアバッグ装置1D(図15参照)の製造手順について説明する。
アウターバッグ20とインナーバッグ30Bは、第3の実施形態と同じ工程で形成する。ただし、アウターバッグ20の両基布22、23を縫製(図15では、各縫製部を点線で示す)するまえに、2つのカバー26を、後基布23に縫製しておく。次に、インナーバッグ30Bを、アウターバッグ20内に挿入して、アウターバッグ20の後基布23と押さえ部材50Aの間に組み付ける。また、2つの筒状膨張部38の端部38Aを、それぞれカバー26内に配置する。続いて、第3の実施形態と同様にしてエアバッグ装置1Dを製造する。エアバッグ装置1Dは、インフレータ3が発生するガスにより、エアバッグ10を膨張展開させる。
【0090】
図16は、膨張展開するエアバッグ10を順に示す断面図である。図16では、ベントホール21の周囲を拡大して示している。
なお、エアバッグ10は、基本的には、第3の実施形態と同様の過程を経て膨張展開する。従って、ここでは、エアバッグ10の膨張展開について、既に説明した過程と異なる過程を中心に説明する。
【0091】
エアバッグ10の展開初期では、まず、インナーバッグ30Bが、押さえ部材50Aとアウターバッグ20の後面の間で膨張する(図16A参照)。筒状膨張部38の端部38Aは、カバー26内で膨張して、カバー26の貫通孔26Aとベントホール21の間に、ガスを流通させる空間61を形成する。(図16B参照)。アウターバッグ20内のガスは、第1面積M1の貫通孔26A及びベントホール21から外部へ排出される。
【0092】
続いて、アウターバッグ20が、膨張を開始して、内圧の上昇に伴い乗員方向に膨張する。インナーバッグ30Bは、流通口31からガスが流出して、徐々に収縮する(図16C参照)。球状膨張部37は、アウターバッグ20の膨張に伴い、押さえ部材50Aの開口部51を乗員方向に次第に通過する。その間に、筒状膨張部38は、開口部51に引き寄せられて、カバー26外へ向かって移動する。筒状膨張部38の端部38Aは、次第に収縮しながらベントホール21から離れて、空間61を狭くする。カバー26には、アウターバッグ20の膨張に伴う張力とアウターバッグ20の内圧により、アウターバッグ20の後面に近づく力が働く。その結果、カバー26は、ベントホール21に徐々に接近する(図16D参照)。
【0093】
ベントホール21は、カバー26の貫通孔26Aが接近するのに伴い、ガスが徐々に排出され難くなり、開口面積が擬似的に小さくなる。これにより、ベントホール21からのガスの排出量が連続して減少する。アウターバッグ20は、球状膨張部37が開口部51を通過すると、完全に膨張展開する(図16E参照)。筒状膨張部38は、カバー26外に移動して、カバー26をアウターバッグ20の後面に密着させる。カバー26は、アウターバッグ20の膨張に伴う張力とアウターバッグ20の内圧により、アウターバッグ20の後面に密着する。同時に、カバー26の貫通孔26Aが、ベントホール21に重なって、ベントホール21の開口面積を変更する。ベントホール21の開口面積は、第1面積M1よりも小さい第2面積M2に変更される。エアバッグ装置1Dは、膨張の各段階におけるエアバッグ10により、乗員91を受け止める。
【0094】
このエアバッグ装置1Dでは、第3の実施形態のエアバッグ装置1Cと同様の効果が得られる。また、筒状膨張部38により、開口部51を通過するインナーバッグ30Bに抵抗を付加できるため、アウターバッグ20の前面の移動を確実に規制できる。インナーバッグ30Bは、筒状膨張部38をカバー26内から引き抜くための力により、乗員方向への移動が抑制される。その結果、インナーバッグ30Bにより、アウターバッグ20の前面の移動を強固に規制できる。筒状膨張部38とカバー26により、ベントホール21からのガスの排出量を徐々に変化させることもできる。
【0095】
なお、筒状膨張部38は、カバー26外まで移動させずに、カバー26内で収縮させてもよい。このようにしても、ベントホール21と貫通孔26Aを重ねることができる。また、ベントホール部カバーは、アウターバッグ20の内部でベントホール21に重ねる他に、次に説明するように、アウターバッグ20の外部においてベントホール21に重ねるようにしてもよい。
【0096】
(第5の実施形態)
図17は、第5の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Eと表す)を示す図であり、図1の矢印X方向から見たエアバッグ装置1Eを模式的に示している。また、図17では、展開初期のエアバッグ10を断面図で示している。図18は、図17のエアバッグ装置1Eを分解して示す斜視図であり、エアバッグ装置1Eの各構成を上下方向に離して示している。図18では、矢印により、組み合わされる構成の関係や構成同士の組み合わせ位置も示している。図17と図18は、それぞれ第4の実施形態で説明した図14と図15に対応する。
【0097】
このエアバッグ装置1Eでは、筒状膨張部38の配置の仕方が、第4の実施形態のエアバッグ装置1Dと相違する。また、アウターバッグ20の構成も部分的に変更されている。ここでは、既に説明したエアバッグ装置1Dと同じ構成は、同じ名前と符号を付して、その説明は省略し、筒状膨張部38とアウターバッグ20の相違点について詳しく説明する。
【0098】
アウターバッグ20は、図示のように、内部に設けられるカバー26(内部カバー)に替えて、補強カバー27を有する。補強カバー27は、アウターバッグ20の後基布23の補強布であり、インフレータ3が発生するガスや熱から後基布23を保護する。後基布23は、上記した補強布13、14が設けられずに、補強カバー27により補強される。また、補強カバー27は、アウターバッグ20の外部に設けられたベントホール部カバー(外部カバー)でもあり、ベントホール21に重ねて配置される。補強カバー27は、ベントホール21を覆うようにアウターバッグ20外に配置されて、外縁が後基布23の外面に接合される。
【0099】
補強カバー27は、矩形状の基布からなり、インナーバッグ30Bの基布35、36よりも長く形成される。また、補強カバー27は、中心に形成された取付口11と、ガスを通過させる2つの貫通孔27Aとを有する。貫通孔27Aは、円形孔からなり、ベントホール21と同じ第1面積M1に形成されている。2つの貫通孔27Aは、取付口11の両側に設けられて、2つのベントホール21の間隔に近い間隔に配置されている。補強カバー27は、貫通孔27Aをベントホール21にオーバーラップさせて、アウターバッグ20の後基布23に縫製される。その際、貫通孔27Aは、ベントホール21とずれた状態に配置される。
【0100】
補強カバー27がアウターバッグ20の後面に密着したときに、貫通孔27Aは、ベントホール21に対して位置をずらして重なる。補強カバー27は、貫通孔27Aの周辺部分で、ベントホール21を部分的に塞いで、ベントホール21の開口面積を変更する。これにより、ベントホール21の開口面積が、第1面積M1よりも小さい第2面積M2に変更される。
【0101】
筒状膨張部38は、エアバッグ10の膨張前に、アウターバッグ20に設けられた通過口25を通って、アウターバッグ20外に配置される。通過口25は、アウターバッグ20の後基布23に形成されたスリットからなる。通過口25は、後基布23の補強カバー27に覆われる位置において、ベントホール21に近接して形成される。また、通過口25は、後基布23内で、2つのベントホール21の内側に形成される。筒状膨張部38は、アウターバッグ20内から通過口25を通して、アウターバッグ20外で、補強カバー27とアウターバッグ20の外面の間に配置される。筒状膨張部38の端部38Aは、補強カバー27内(補強カバー27とアウターバッグ20の間)に挿入されて、ベントホール21と貫通孔27A上に、又は、ベントホール21と貫通孔27Aに近接して配置される。
【0102】
筒状膨張部38は、補強カバー27内で膨張して貫通孔27Aとベントホール21との間に空間を形成する。また、筒状膨張部38は、補強カバー27内で収縮して、補強カバー27をアウターバッグ20の後面に密着させる。又は、筒状膨張部38は、インナーバッグ30Bが開口部51を通過するときに、アウターバッグ20内に向かって移動して、通過口25を通って、アウターバッグ20内に引き込まれる。これにより、筒状膨張部38は、補強カバー27外に移動して、補強カバー27をアウターバッグ20の後面に密着させる。貫通孔27Aは、補強カバー27とアウターバッグ20が密着したときに、ベントホール21に重なる。通過口25は、筒状膨張部38又は補強カバー27により塞がれる。
【0103】
次に、エアバッグ装置1E(図18参照)の製造手順について説明する。
アウターバッグ20とインナーバッグ30Bは、第3の実施形態と同じ工程で形成する。ただし、アウターバッグ20の両基布22、23を縫製(図18では、各縫製部を点線で示す)するまえに、補強カバー27を、後基布23に縫製しておく。次に、インナーバッグ30Bを、アウターバッグ20内に挿入して、アウターバッグ20の後基布23と押さえ部材50Aの間に組み付ける。また、2つの筒状膨張部38の端部38Aを、それぞれ通過口25を通して、補強カバー27内に配置する。続いて、第3の実施形態と同様にしてエアバッグ装置1Eを製造する。エアバッグ装置1Eは、インフレータ3が発生するガスにより、エアバッグ10を膨張展開させる。
【0104】
図19は、膨張展開するエアバッグ10を順に示す断面図である。図19では、ベントホール21の周囲を拡大して示している。
なお、エアバッグ10は、基本的には、第4の実施形態と同様の過程を経て膨張展開する。従って、ここでは、エアバッグ10の膨張展開について、既に説明した過程と異なる過程を中心に説明する。
【0105】
エアバッグ10の展開初期では、まず、インナーバッグ30Bが、押さえ部材50Aとアウターバッグ20の後面の間で膨張する(図19A参照)。筒状膨張部38の端部38Aは、補強カバー27内で膨張して、ベントホール21と補強カバー27の貫通孔27Aとの間に、ガスを流通させる空間62を形成する。(図19B参照)。アウターバッグ20内のガスは、第1面積M1のベントホール21及び貫通孔27Aから外部へ排出される。
【0106】
続いて、アウターバッグ20が、膨張を開始して、乗員方向に膨張する。インナーバッグ30Bは、ガスが流出して、徐々に収縮する(図19C参照)。球状膨張部37は、アウターバッグ20の膨張に伴い、押さえ部材50Aの開口部51を乗員方向に次第に通過する。その間に、筒状膨張部38は、通過口25へ向かって移動する。筒状膨張部38の端部38Aは、次第に収縮しながらベントホール21から離れて、空間62を狭くする。補強カバー27は、ベントホール21に徐々に接近する(図19D参照)。
【0107】
ベントホール21は、補強カバー27の貫通孔27Aが接近するのに伴い、ガスが徐々に排出され難くなり、ガスの排出量が連続して減少する。アウターバッグ20は、球状膨張部37が開口部51を通過すると、完全に膨張展開する(図19E参照)。ここでは、筒状膨張部38が、補強カバー27外に移動して、補強カバー27をアウターバッグ20の後面に密着させる。同時に、補強カバー27の貫通孔27Aが、ベントホール21に重なって、ベントホール21の開口面積を変更する。ベントホール21の開口面積は、第1面積M1よりも小さい第2面積M2に変更される。エアバッグ装置1Eは、膨張の各段階におけるエアバッグ10により、乗員91を受け止める。
【0108】
このエアバッグ装置1Eでは、第4の実施形態のエアバッグ装置1Dと同様の効果が得られる。また、インナーバッグ30Bは、筒状膨張部38を補強カバー27内から引き抜くための力により、乗員方向への移動が抑制される。その結果、インナーバッグ30Bにより、アウターバッグ20の前面の移動を強固に規制できる。筒状膨張部38と補強カバー27により、ベントホール21からのガスの排出量を徐々に変化させることもできる。
【符号の説明】
【0109】
1・・・エアバッグ装置、2・・・エアバッグカバー、3・・・インフレータ、4・・・クッションリング、5・・・リアクションプレート、6・・・ロックナット、10・・・エアバッグ、11・・・取付口、12・・・挿入孔、13・・・補強布、14・・・補強布、15・・・保護布、20・・・アウターバッグ、21・・・ベントホール、22・・・前基布、23・・・後基布、24・・・気室、25・・・通過口、26・・・カバー、27・・・補強カバー、29・・・連結部、30・・・インナーバッグ、31・・・流通口、32・・・前基布、33・・・後基布、34・・・気室、35・・・前基布、36・・・後基布、37・・・球状膨張部、38・・・筒状膨張部、50・・・押さえ部材、51・・・開口部、52・・・帯状部材、53・・・貫通孔、60〜62・・・空間、90・・・ステアリングホイール、91・・・乗員、92・・・運転席。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスにより膨張展開して車両の乗員を保護するエアバッグと、エアバッグにガスを供給するインフレータとを備えたエアバッグ装置であって、
エアバッグが、インフレータから供給されるガスにより膨張するとともに、ガスの流通口が設けられたインナーバッグと、インナーバッグを収容してインナーバッグの流通口から供給されるガスにより膨張するアウターバッグと、アウターバッグ内で乗員方向へ膨張するインナーバッグを押さえる押さえ部材とを有し、
押さえ部材が、膨張展開したインナーバッグよりも小さく形成され、収縮するインナーバッグを乗員方向へ通過させる開口部を有し、
インナーバッグが、アウターバッグの前面に連結され、押さえ部材の開口部の通過に伴いアウターバッグの前面を乗員方向へ移動させるエアバッグ装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたエアバッグ装置において、
押さえ部材が、アウターバッグの後面に連結され、
インナーバッグが、押さえ部材とアウターバッグの後面の間で膨張展開するエアバッグ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたエアバッグ装置において、
アウターバッグの前面とインナーバッグが、押さえ部材の開口部内の位置で接合されたエアバッグ装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載されたエアバッグ装置において、
押さえ部材が、エアバッグの膨張前に、インナーバッグの前面とアウターバッグの前面の間に配置される帯状部材からなり、
帯状部材の両端が、アウターバッグの後面に接合されたエアバッグ装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載されたエアバッグ装置において、
インナーバッグが、外方に突出する筒状膨張部を有するエアバッグ装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載されたエアバッグ装置において、
アウターバッグが、内部のガスを外部に排出するベントホールを有し、
インナーバッグが、押さえ部材に押さえられて膨張展開したときにベントホールを閉鎖し、押さえ部材の開口部を通過する間にベントホールを開放するエアバッグ装置。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかに記載されたエアバッグ装置において、
アウターバッグが、内部のガスを外部に排出するベントホールを有し、
押さえ部材が、開口部をインナーバッグが通過したときに、ベントホールに重なってベントホールの開口面積を変更する貫通孔を有するエアバッグ装置。
【請求項8】
請求項5に記載されたエアバッグ装置において、
アウターバッグが、内部のガスを外部に排出するベントホールと、ベントホールに重なってベントホールの開口面積を変更する貫通孔が設けられたベントホール部カバーとを有し、
筒状膨張部が、ベントホール部カバー内で膨張してベントホール部カバーの貫通孔とベントホールとの間に空間を形成し、収縮又はベントホール部カバー外に移動してベントホール部カバーの貫通孔をベントホールに重ねるエアバッグ装置。
【請求項9】
請求項8に記載されたエアバッグ装置において、
ベントホール部カバーが、アウターバッグ内に配置され、
筒状膨張部が、エアバッグの膨張前に、アウターバッグ内でベントホール部カバーとアウターバッグとの間に配置されるエアバッグ装置。
【請求項10】
請求項8に記載されたエアバッグ装置において、
ベントホール部カバーが、アウターバッグ外に配置され、
筒状膨張部が、エアバッグの膨張前に、アウターバッグに設けられた通過口を通って、アウターバッグ外でベントホール部カバーとアウターバッグとの間に配置されるエアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−153171(P2012−153171A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11387(P2011−11387)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】