エアバッグ装置
【課題】エアバッグが乗員に向かって勢いよく突き出すのを防止し、エアバッグを安定して膨張展開させる。
【解決手段】エアバッグ10は、インナーバッグ30Aと、アウターバッグ20と、連結部材7とを有する。インナーバッグ30Aは、インフレータ3から供給されるガスで膨張する。アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aの流通口31から供給されるガスで膨張する。連結部材7は、インナーバッグ30A内に配置されて、インナーバッグ30Aの内面をアウターバッグ20の前面に連結する。連結部材7は、アウターバッグ20の膨張に伴い、膨張したインナーバッグ30A内から引き出されて、アウターバッグ20の前面を乗員方向へ移動させる。
【解決手段】エアバッグ10は、インナーバッグ30Aと、アウターバッグ20と、連結部材7とを有する。インナーバッグ30Aは、インフレータ3から供給されるガスで膨張する。アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aの流通口31から供給されるガスで膨張する。連結部材7は、インナーバッグ30A内に配置されて、インナーバッグ30Aの内面をアウターバッグ20の前面に連結する。連結部材7は、アウターバッグ20の膨張に伴い、膨張したインナーバッグ30A内から引き出されて、アウターバッグ20の前面を乗員方向へ移動させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載されて、乗員を保護するエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の緊急時や衝突時に乗員を保護するため、エアバッグ装置が使用されている。エアバッグ装置は、例えば、ステアリングホイールに取り付けられて、運転席の前方で、エアバッグを膨張展開させる。運転席の乗員は、前方のエアバッグにより受け止められて拘束される。このエアバッグ装置として、従来、エアバッグ内を複数室に区画して、エアバッグを側方に早期に広がらせるエアバッグ装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この従来のエアバッグ装置は、インナーパネルによりエアバッグの中央に第1室を区画し、セパレートパネルにより第1室の周囲に第2室と第3室を区画する。ところが、このエアバッグ装置では、インフレータが発生する高圧のガスにより、第1室が乗員に向かって膨張した後に、第2室と第3室が順に膨張する。そのため、エアバッグの展開初期に、第1室が勢いよく突き出して乗員に接触して、乗員が受ける衝撃が大きくなる虞がある。特に、乗員がステアリングホイールに接近しているときには、乗員の衝撃がより大きくなる。
【0004】
また、この従来のエアバッグ装置では、エアバッグは、インナーパネルが完全に伸びたときに突き出しが急激に止められて、インナーバッグの長さに応じた厚さに膨張する。そのため、インナーパネルが長すぎると、エアバッグが突き出す距離も長くなり、乗員の危険も大きくなる虞がある。これに対し、インナーパネルが短すぎると、エアバッグが薄くなるため、乗員を受け止められずに、乗員がステアリングホイールに当たる虞がある。また、インナーパネルが急停止するときの反動で、エアバッグが乗員方向に伸び縮みしてバウンドすることがある。
【0005】
図28は、バウンドする従来のエアバッグを示す側面図である。図28A、28Bでは、ステアリングホイールとエアバッグに接触する乗員も示している。
従来のエアバッグ100は、図示のように、膨張展開した後に、ステアリングホイール90上でバウンド(図28Aの矢印W)することがある。これに伴い、エアバッグ100は、形状が安定せず、最も厚い形状V1と最も薄い形状V2の間で変動することで、性能も不安定になる。また、例えば、乗員91(図28B参照)が、最も薄い形状V2のエアバッグ100に接触すると、エアバッグ100が乗員91の衝撃やエネルギーを吸収するストローク(吸収ストローク)が不足する虞もある。従って、従来のエアバッグ100は、より安定して膨張展開して、乗員91を安全に拘束する観点から、改良が求められている。
【0006】
また、従来のエアバッグ100では、インナーパネル(図示せず)の結合部に大きな負荷がかかるため、結合部の強度を増加させる必要がある。例えば、縫製による結合では、補強布の追加や、糸の太さ又は形状の変更により縫製の強度を強くする必要がある。そのため、従来のエアバッグ100は、製造の手間やコストが増加するという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−284026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来の問題に鑑みなされたもので、その目的は、エアバッグが乗員に向かって勢いよく突き出すのを防止して、エアバッグを安定して膨張展開させ、エアバッグにより乗員を安全に拘束することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ガスにより膨張展開して車両の乗員を保護するエアバッグと、エアバッグにガスを供給するインフレータとを備えたエアバッグ装置であって、エアバッグが、インフレータから供給されるガスにより膨張するとともに、ガスの流通口が設けられたインナーバッグと、インナーバッグを収容してインナーバッグの流通口から供給されるガスにより膨張するアウターバッグと、インナーバッグ内に配置されてインナーバッグの内面をアウターバッグの前面に連結する連結部材とを有し、連結部材が、アウターバッグの膨張に伴い、膨張したインナーバッグ内から引き出されてアウターバッグの前面を乗員方向へ移動させるエアバッグ装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エアバッグが乗員に向かって勢いよく突き出すのを防止して、エアバッグを安定して膨張展開させることができ、エアバッグにより乗員を安全に拘束することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】エアバッグ装置を設けたステアリングホイールを示す正面図である。
【図2】第1の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図3】図2のエアバッグ装置を分解して示す斜視図である。
【図4】第1の実施形態のインナーバッグの斜視図である。
【図5】膨張展開するエアバッグを順に示す断面図である。
【図6】乗員を保護するエアバッグ装置を示す側面図である。
【図7】第2の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図8】図7のエアバッグ装置を分解して示す斜視図である。
【図9】膨張展開するエアバッグを順に示す断面図である。
【図10】第3の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図11】第3の実施形態のインナーバッグの斜視図である。
【図12】膨張展開するエアバッグを順に示す断面図である。
【図13】乗員を保護するエアバッグ装置を示す側面図である。
【図14】第4の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図15】図14のエアバッグ装置を分解して示す斜視図である。
【図16】膨張展開するエアバッグを順に示す断面図である。
【図17】第5の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図18】第6の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図19】第7の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図20】図19のエアバッグ装置を分解して示す斜視図である。
【図21】膨張展開するエアバッグを順に示す断面図である。
【図22】第8の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図23】第9の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図24】第10の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図25】第11の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図26】第12の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図27】第13の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図28】バウンドする従来のエアバッグを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のエアバッグ装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
このエアバッグ装置は、車両内に配置されて、膨張展開するエアバッグにより乗員を受け止めて保護する。また、エアバッグ装置は、例えば、車両内で、運転席や助手席等のシートの周囲に設けられて、シートに座った乗員を保護する。以下では、運転席前方のステアリングホイールに配置されたエアバッグ装置を例に採り説明する。
【0013】
図1は、エアバッグ装置を設けたステアリングホイールを示す正面図である。図1では、ステアリングホイールを乗員側から見て示している。
エアバッグ装置1は、図示のように、ステアリングホイール90の中央部に搭載されて、乗員の前方に配置される。また、エアバッグ装置1は、表面を覆うエアバッグカバー2を備え、エアバッグカバー2内に所定状態に折り畳まれたエアバッグ(図示せず)が収容されている。エアバッグは、膨張によりエアバッグカバー2を押し開いて車室内で展開し、ステアリングホイール90と乗員の間で膨張展開する。その際、エアバッグは、乗員の位置する方向(乗員方向という)と側方に向けて膨張して、ステアリングホイール90を覆うように展開する。
【0014】
(第1の実施形態)
図2は、第1の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Aと表す)を示す図であり、図1の矢印X方向から見たエアバッグ装置1Aを模式的に示している。また、図2では、展開(膨張)初期のエアバッグ10を断面図で示している。図3は、図2のエアバッグ装置1Aを分解して示す斜視図であり、エアバッグ装置1Aの各構成を上下方向に離して示している。図3では、矢印により、組み合わされる構成の関係や構成同士の組み合わせ位置も示している。
【0015】
エアバッグ装置1Aは、図示のように、膨張展開可能なエアバッグ10と、インフレータ3と、エアバッグ10内に配置されたクッションリング4と、リアクションプレート5(図2では省略する)とを備えている。エアバッグ10は、インフレータ3から供給されるガスにより、乗員に向かって膨張展開して車両の乗員を保護する。
【0016】
インフレータ3は、ディスクタイプのガス発生装置であり、厚さ方向の一端部の外周に、複数のガス噴出口(図示せず)を有する。インフレータ3は、一端部がエアバッグ10に形成された取付口11からエアバッグ10内に挿入された状態で、取付口11に取り付けられる。インフレータ3は、車両緊急時や衝撃検知時に、エアバッグ10内でガスを発生して、エアバッグ10にガスを供給する。その際、インフレータ3は、複数のガス噴出口から放射状にガスを噴き出して、エアバッグ10を、所定の折り畳み形状から膨張展開させる。
【0017】
クッションリング4は、矩形板状をなし、中央部に、インフレータ3が挿入される孔4A(図3参照)を有する。また、クッションリング4には、4つのボルト4Bが、孔4Aの周りに固定されている。クッションリング4は、エアバッグ10の取付口11の周囲を、リアクションプレート5との間に挟み込んで、エアバッグ10をリアクションプレート5に固定する。その際、まず、ボルト4Bを、エアバッグ10の各部材に設けられた挿入孔12に挿入して、エアバッグ10の各部材をボルト4Bにより仮止めする。続いて、ボルト4Bを、リアクションプレート5の取付孔(図示せず)に挿入した後、インフレータ3をリアクションプレート5に取り付ける。インフレータ3は、挿入孔3Aにボルト4Bが挿入される。次に、ロックナット6により、ボルト4Bをリアクションプレート5に固定することで、クッションリング4、エアバッグ10、及び、インフレータ3をリアクションプレート5に固定する。
【0018】
リアクションプレート5は、矩形状の枠体からなり、一方の面にクッションリング4とエアバッグ10が、他方の面にインフレータ3が取り付けられる。また、リアクションプレート5の内部には、折り畳まれたエアバッグ10が配置される。リアクションプレート5は、エアバッグ10を覆うエアバッグカバー2が取り付けられた後、ステアリングホイール90に固定される。
【0019】
エアバッグ10は、補強布13、14と、保護布15と、アウターバッグ20とを有する。また、エアバッグ10は、アウターバッグ20内に配置されたインナーバッグ30(以下、この形態のインナーバッグには30Aを付す)と、インナーバッグ30A内に配置された連結部材7とを有する。エアバッグ10の各構成は、例えば織布やシートを裁断して形成した基布からなる。補強布13、14と保護布15は、中央に取付口11が形成された円形状をなし、クッションリング4とリアクションプレート5の間の所定位置に配置される。
【0020】
アウターバッグ20とインナーバッグ30Aは、それぞれエアバッグ10の外側膨張部と内側膨張部を構成する。クッションリング4は、アウターバッグ20とインナーバッグ30Aの取付口11から、インナーバッグ30A内に挿入される。アウターバッグ20とインナーバッグ30Aは、クッションリング4によりリアクションプレート5に固定されて、取付口11の周囲が、クッションリング4とリアクションプレート5の間に保持される。
【0021】
以下、エアバッグ10の各構成について順に詳しく説明する。なお、本発明では、アウターバッグ20、インナーバッグ30、及び、エアバッグ10に関して、それぞれ車両内で、乗員側(図2、図3では上側)になる部分を前面、車体側(図2、図3では下側)になる部分を後面という。また、アウターバッグ20とインナーバッグ30に関して、それぞれエアバッグ10として組み立てられた状態で、外側になる面を外面、内側になる面を内面という。
【0022】
インナーバッグ30Aは、インフレータ3の一端部が内部に配置され、インフレータ3から供給されるガスにより膨張する。インナーバッグ30Aの前面には、ガスを流通させる流通口31が少なくとも1つ(ここでは、1つ)設けられている。インナーバッグ30Aは、インフレータ3からのガスにより最初に膨張を開始し、流通口31を通してアウターバッグ20内にガスを供給する。
【0023】
インナーバッグ30Aは、前面を構成する前基布(前面パネル)35と、後面を構成する後基布(後面パネル)36とを有する。両基布35、36は、同じ形状に形成されており、円形部35A、36Aと、少なくとも1つ(ここでは、2つ)の矩形部35B、36Bとからなる。2つの矩形部35B、36Bは、円形部35A、36Aから逆方向に向かって延びるように、円形部35A、36Aの外周に一体に形成されている。両基布35、36は、外縁に沿って、縫製や接着(ここでは、縫製)により接合される。これにより、円形部35A、36A及び2つの矩形部35B、36Bが、それぞれ接合される。
【0024】
インナーバッグ30Aは、両基布35、36により内外が区画されて、内部に気室34が形成される。また、インナーバッグ30Aには、円形部35A、36Aにより球状膨張部(本体膨張部)37が形成され、矩形部35B、36Bにより筒状膨張部38が形成される。球状膨張部37と筒状膨張部38の内部は、互いに連通して気室34を構成する。流通口31は、前基布35(円形部35A)の中央に設けられて、インナーバッグ30A内のガスを乗員方向に流出させる。後基布36の内面には、保護布15が取り付けられる。保護布15は、後基布36とクッションリング4の間に配置されて、クッションリング4から後基布36を保護する。後基布36は、中央に設けられた取付口11に、インフレータ3が取り付けられる。
【0025】
図4は、インナーバッグ30Aの斜視図である。図4Aに、膨張前のインナーバッグ30Aを示し、図4Bに、膨張後のインナーバッグ30Aを示す。
膨張前のインナーバッグ30Aは、図4Aに示すように、前基布35と後基布36が重ねて配置されて、平面形状をなす。膨張後のインナーバッグ30Aは、図4Bに示すように、基布35、36内の気室34にガスが充填されて、立体形状に膨張する。その際、球状膨張部37は、インフレータ3から供給されるガスにより、インナーバッグ30Aの中心で球形状に膨張する。筒状膨張部38は、球状膨張部37から供給されるガスにより、球状膨張部37から外方に向かって筒状に膨張する。
【0026】
このように、インナーバッグ30Aは、膨張状態から収縮可能及び変形可能な球状膨張部37と筒状膨張部38を有する。筒状膨張部38は、インナーバッグ30Aに少なくとも1つ設けられ、膨張時にインナーバッグ30Aの外方に突出する。ここでは、2つの筒状膨張部38が、インナーバッグ30Aの側方に向かって、かつ、互いに逆方向に突出する。
【0027】
アウターバッグ20(図2、図3参照)は、正面視円形状の袋体である。また、アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aを内部に収容するメインバッグであり、インナーバッグ30Aの流通口31から供給されるガスにより膨張する。アウターバッグ20の後面には、内部のガスを外部に排出するベントホール21が少なくとも1つ(ここでは、2つ)設けられている。アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aに続いて膨張を開始して、インナーバッグ30Aの周りで、それよりも大きく膨張する。
【0028】
アウターバッグ20は、前面を構成する前基布(前面パネル)22と、後面を構成する後基布(後面パネル)23とを有する。両基布22、23は、同じ直径の円形状に形成され、外周に沿って接合される。アウターバッグ20は、両基布22、23により内外が区画されて、内部に気室24が形成される。ベントホール21は、後基布23の2箇所に形成されて、アウターバッグ20内のガスを車体の位置する方向(車体方向という)に排出する。後基布23の内外面には、補強布13、14が取り付けられる。補強布13、14は、取付口11の周囲を補強して、インフレータ3が発生するガスや熱から後基布23を保護する。
【0029】
インナーバッグ30Aとアウターバッグ20は、インフレータ3が位置する後面で連結された状態で膨張する。また、インナーバッグ30Aとアウターバッグ20は、乗員の前方において、インフレータ3から乗員方向と側方に向かって展開する。その際、まず、アウターバッグ20内で、インフレータ3を収容するインナーバッグ30Aが膨張して、その全体が膨張展開する。アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aの外部で次第に膨張して、インナーバッグ30Aの膨張完了後の所定のタイミングで、全体が膨張展開する。また、アウターバッグ20は、連結部材7により膨張と展開が規制されて、側方に広がってから乗員方向に次第に膨張する。
【0030】
連結部材7は、テザーベルトであり、インナーバッグ30A内に配置されて、インナーバッグ30Aの内面の所定位置に接合されている。また、連結部材7は、流通口31内の位置で、アウターバッグ20の前面に接合されている。これにより、連結部材7は、インナーバッグ30Aの内面をアウターバッグ20の前面に連結する。連結部材7は、エアバッグ10の膨張前に、インナーバッグ30A内で、前基布35と後基布36の間に配置される。
【0031】
ここでは、連結部材7は、帯状部材(帯状布)からなり、インナーバッグ30Aの基布35、36と同じ長さに形成されている。連結部材7は、筒状膨張部38内まで配置されて、両端部7Aが、それぞれ筒状膨張部38の端部38Aに接合されている。また、連結部材7は、インナーバッグ30Aの流通口31を通して、アウターバッグ20の前面(前基布22)に連結される。連結部材7とアウターバッグ20の前基布22は、中央の連結部7Bで円形状に縫製されて、互いに接合される。
【0032】
エアバッグ10の膨張時に、連結部材7は、膨張したインナーバッグ30Aにより両端部7Aが引っ張られて、インナーバッグ30A内に保持される。連結部材7は、アウターバッグ20の膨張中に、アウターバッグ20の連結部7Bに張力を作用させて、アウターバッグ20の前面を引っ張る。これにより、連結部材7は、アウターバッグ20の前面の乗員方向への移動を止めて、前面の移動を規制する。また、連結部材7は、アウターバッグ20の膨張に伴い、アウターバッグ20の前面に引っ張られて、膨張したインナーバッグ30A内から乗員方向へ次第に引き出される。連結部材7は、インナーバッグ30A外へ引き出される間に、アウターバッグ20の前面を乗員方向へ徐々に移動させる。
【0033】
このように、アウターバッグ20の前面は、連結部材7とインナーバッグ30Aにより、中央の連結部7Bを中心に乗員方向への移動が規制される。アウターバッグ20は、連結部材7から受ける張力により膨張と展開が規制されて、側方に広がってから乗員方向に次第に膨張する。アウターバッグ20の膨張時に、連結部材7は、インナーバッグ30Aの内面を引っ張ることで、インナーバッグ30Aを収縮させる。連結部材7は、筒状膨張部38内に連結されており、インナーバッグ30A内から引き出されるときに、膨張した筒状膨張部38を引っ張る。これにより、連結部材7は、筒状膨張部38をインナーバッグ30A内に引き込んで、筒状膨張部38を反転させる。
【0034】
次に、エアバッグ装置1A(図3参照)の製造手順について説明する。
アウターバッグ20に関しては、まず、2つの補強布13、14を後基布23の内外面に縫製(図3では、各縫製部を点線で示す)する。次に、両基布22、23の外面を重ね合わせて、両基布22、23を外周に沿って縫製する。その後、両基布22、23を、取付口11を通して反転させる。なお、図3では、アウターバッグ20及びインナーバッグ30Aを反転させた後における各構成の配置状態を示している。
【0035】
インナーバッグ30Aに関しては、まず、保護布15を後基布36の内面に縫製する。次に、両基布35、36の外面を重ね合わせて、前基布35の内面に連結部材7を置き、両基布35、36を外縁に沿って縫製する。同時に、連結部材7の両端部7Aを、基布35、36に縫製する。その後、両基布35、36を、取付口11を通して反転させて、連結部材7をインナーバッグ30A内に配置する。筒状膨張部38は、インナーバッグ30Aから外方に突出するように配置する。続いて、インナーバッグ30Aを、アウターバッグ20の取付口11からアウターバッグ20内に挿入する。球状膨張部37とアウターバッグ20は、同芯状に配置する。連結部材7は、連結部7Bで、アウターバッグ20の前基布22に縫製する。連結部材7と前基布22は、各取付口11とインナーバッグ30Aの流通口31の位置を合わせて、取付口11と流通口31の内側で縫製する。
【0036】
次に、クッションリング4を、取付口11からインナーバッグ30A内に挿入する。また、ボルト4Bにより、インナーバッグ30Aとアウターバッグ20を仮止めする。このインナーバッグ30Aとアウターバッグ20からなるエアバッグ10を、クッションリング4により、リアクションプレート5に取り付ける。続いて、インフレータ3をリアクションプレート5に取り付けて、ロックナット6をボルト4Bにはめ込む。これにより、クッションリング4、エアバッグ10、及び、インフレータ3をリアクションプレート5に固定する。次に、エアバッグ10を折り畳んでリアクションプレート5内へ配置する。ただし、エアバッグ10は、リアクションプレート5への固定前に、予め折り畳んでおいてもよい。
【0037】
最後に、エアバッグカバー2(図3では図示せず)をリアクションプレート5に取り付けて、エアバッグ装置1Aの製造が完了する。エアバッグ装置1Aは、ステアリングホイール90(図1参照)に取り付けられた後、車両の緊急時等にインフレータ3を作動させてガスを発生させる。このガスにより、エアバッグ10を、折り畳み形状を解消させつつ膨張させて、ステアリングホイール90を覆うように膨張展開させる。
【0038】
図5は、膨張展開するエアバッグ10を順に示す断面図である。図5では、各段階のエアバッグ10を、図2に対応させて示している。
エアバッグ10の展開初期では、まず、インナーバッグ30Aが、インフレータ3から供給されるガスにより膨張する(図5A参照)。インナーバッグ30Aは、球状膨張部37から筒状膨張部38の端部38Aまで膨張する(図5B参照)。連結部材7は、端部38Aに引っ張られて、インナーバッグ30A内に保持される。また、連結部材7は、アウターバッグ20の前面に張力を作用させて、前面を乗員方向の逆方向(車体方向)に引っ張る。アウターバッグ20の前面は、連結部材7により乗員方向への移動が妨げられる。その結果、アウターバッグ20は、乗員方向への膨張や突き出しが抑制され、乗員方向に対して側方に大きく膨張する。エアバッグ10の中央部は、アウターバッグ20の膨張により、乗員方向に勢いよく突き出すことなく所定厚さに膨張する。
【0039】
アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aの流通口31から供給されるガスにより膨張を開始する。その際、アウターバッグ20は、連結部材7により乗員方向の膨張が規制されるため、側方に優先的に膨張して、外方に広がるように広範囲に展開する。また、アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aを中心に、側方全体に均等に膨張する。次に、アウターバッグ20は、内圧の上昇に伴い、乗員方向に膨張して厚さが増加する。
【0040】
インナーバッグ30Aは、膨張が完了した後、流通口31からガスを流出させて、ガスをアウターバッグ20の全体に供給する。その結果、アウターバッグ20の内圧が徐々に高くなり、インナーバッグ30Aの内外の圧力差が小さくなる。これに伴い、インナーバッグ30Aの剛性及び膨張形状を保持する力が低下する(図5C参照)。また、インナーバッグ30Aは、ガスの流出により徐々に収縮して、容積の減少と外径の縮小が進行する。その間に、連結部材7は、膨張するアウターバッグ20により乗員方向に引っ張られて、流通口31を通って、インナーバッグ30A内から引き出される。
【0041】
アウターバッグ20の前面は、連結部材7により乗員方向への移動が規制され、連結部材7の引き出し量に応じて乗員方向へ移動する(図5D参照)。これに伴い、アウターバッグ20は、乗員方向へ次第に膨張する。連結部材7は、筒状膨張部38の端部38Aを引っ張り、筒状膨張部38をインナーバッグ30A内に引き込む。筒状膨張部38は、インナーバッグ30A内に向かって変形して、次第に反転する(図5E参照)。連結部材7は、筒状膨張部38とインナーバッグ30Aを収縮させて、インナーバッグ30A外に引き出される。連結部材7とインナーバッグ30Aは、アウターバッグ20の前後面間で伸ばされる。これにより、アウターバッグ20が、乗員の前方で完全に膨張展開する。
【0042】
インナーバッグ30Aと筒状膨張部38は、膨張の張力により変形が抑制される。そのため、連結部材7には、インナーバッグ30Aを収縮させるための力や筒状膨張部38を引き込むための力により、引き出しに対する抵抗が付加される。連結部材7は、インナーバッグ30Aから受ける抵抗により、インナーバッグ30Aからの引き出しが抑制されて、徐々に引き出される。その結果、連結部材7は、アウターバッグ20の前面に張力を付加した状態で、アウターバッグ20の前面を徐々に移動させる。また、連結部材7とインナーバッグ30Aは、アウターバッグ20の前面と後面の間でテザーベルトとして機能して、アウターバッグ20の前面を停止させる。アウターバッグ20は、連結部材7とインナーバッグ30Aにより膨張が制限されて、所定厚さに膨張するとともに、前面が乗員前方の所定位置に配置される。
【0043】
エアバッグ装置1Aは、膨張展開したアウターバッグ20(エアバッグ10)により、乗員を受け止めて保護する。ここでは、エアバッグ10により、乗員の上体を主に受け止めて拘束するとともに、衝撃エネルギーを吸収して乗員の衝撃を緩和する。また、エアバッグ10は、乗員を受け止めたときに、アウターバッグ20のベントホール21からガスを排出して、乗員の衝撃を緩和する。
【0044】
以上説明したように、このエアバッグ装置1Aでは、連結部材7とインナーバッグ30Aにより、アウターバッグ20の前面の移動を規制して、前面を乗員方向に徐々に移動させることができる。また、エアバッグ10が、展開初期に、乗員に向かって勢いよく突き出すのも防止できる。更に、アウターバッグ20の展開初期から後期まで、連結部材7とインナーバッグ30Aにより、アウターバッグ20の前面に安定した抵抗を付加できる。その結果、アウターバッグ20の前面も安定して移動するため、エアバッグ10を、部分的な突き出しや速度の速い突き出しを起こさずに、徐々に厚く膨張させることができる。従って、エアバッグ10が乗員に勢いよく接触するのを防止できるとともに、エアバッグ10が乗員に接触するときの衝撃を低減できる。乗員がステアリングホイール90に接近しているときでも、乗員の受ける衝撃を大幅に低減できる。
【0045】
エアバッグ10の部分的な突き出しを抑制できるため、エアバッグ10の前面を比較的平らに移動させることができる。これにより、乗員を広い面積で受け止めて安全に拘束できる。エアバッグ10が乗員方向に徐々に膨張するため、膨張完了後に、エアバッグ10が乗員方向に伸び縮みするのを抑制できる。その結果、エアバッグ10のバウンドが軽減して、エアバッグ10を安定して膨張展開させることができる。これに伴い、エアバッグ10の膨張形状及び前面の位置が早期に安定して、エアバッグ10の性能も安定するため、膨張展開直後においても、乗員を安全に拘束できる。乗員が接触する際に、常に、有効な吸収ストロークをエアバッグ10に確保できるため、乗員の衝撃やエネルギーを確実に吸収できる。
【0046】
連結部材7とインナーバッグ30Aがテザーベルトとして機能するため、エアバッグ10を設定された厚さと形状に膨張展開させることができる。エアバッグ10の膨張展開後の変動も抑制できる。また、エアバッグ10の乗員方向の膨張を規制して、乗員に対する安全性を向上できる。連結部材7を設けずに、インナーバッグ30Aのみをテザーベルトとして利用するときには、エアバッグ10の厚さを確保するために、インナーバッグ30Aを大きくする必要がある。これに対し、連結部材7を設けることで、小さなインナーバッグ30Aでも、エアバッグ10を必要な厚さに膨張させることができる。
【0047】
連結部材7が、インナーバッグ30Aから抵抗を受けつつ徐々に引き出されるため、連結部材7、アウターバッグ20、及び、インナーバッグ30Aに急激に大きな負荷がかかることがない。各接合部の負荷も小さくなるため、接合部の強度は比較的低くてよい。そのため、各部材や接合部の仕様又は条件の制約が大幅に緩和されて、様々な設計が可能にある。縫製部、リアクションプレート5、又は、クッションリング4を簡略化することもできる。従って、エアバッグ10を製造する手間を削減して、生産性を向上できるとともに、エアバッグ10の製造コストを低減できる。連結部材7には、筒状膨張部38をインナーバッグ30A内に引き込むときに、筒状膨張部38から抵抗が付加される。そのため、連結部材7により、アウターバッグ20の前面の移動を確実かつ強固に規制できる。
【0048】
以上のように、エアバッグ装置1Aによれば、エアバッグ10が乗員に向かって勢いよく突き出すのを防止して、エアバッグ10を安定して膨張展開させることができる。また、エアバッグ10により乗員を安全に拘束して保護することができる。更に、エアバッグ装置1Aは、運転席に座る乗員の状態の違いにも対応して、各状態の乗員を保護できる。
【0049】
図6は、乗員を保護するエアバッグ装置1Aを示す側面図であり、体格に差がある2人の乗員91(91A、91B)を示している。
大柄な乗員91A(図6A参照)が運転席92に座ると、乗員91Aの位置が車両内の後方になり、乗員91Aとエアバッグ装置1Aの距離L1が長くなる。小柄な乗員91B(図6B参照)が運転席92に座ると、乗員91Bの位置が車両内の前方になり、乗員91Bとエアバッグ装置1Aの距離L2が短くなる。そのため、小柄な乗員91Bは、大柄な乗員91Aよりも早いタイミングでエアバッグ10に接触する。
【0050】
エアバッグ10は、上記したように、危険な突き出し(図6C、6Dでは点線で示す)が生じることなく、前面が平面状を維持するようにして、乗員方向に徐々に膨張する。そのため、エアバッグ10は、突き出しにより各乗員91A、91Bを害することなく、乗員91A、91Bを適切に受け止めて保護できる。その際、大柄な乗員91A(図6C参照)は、正常に膨張展開したエアバッグ10に接触して保護される。
【0051】
小柄な乗員91B(図6D参照)は、膨張展開途中のエアバッグ10に接触して保護される。この乗員91Bは、エアバッグ10が充分に膨張したときに、平面状のエアバッグ10に接触するため、エアバッグ10により安全に保護される。このように、エアバッグ装置1Aは、乗員91の状態に関係なく、必要な吸収ストロークをエアバッグ10に確保して、乗員91を害することなく保護できる。また、エアバッグ10は、乗員91を拘束する性能が高く、特に、高い初期拘束性能が得られるため、各状態の乗員91を安全に拘束できる。
【0052】
ここで、アウターバッグ20は、連結部材7により乗員方向の膨張が規制されて、側方に優先して膨張する。そのため、乗員91が運転席92から離れてエアバッグ10に近接しているときでも、エアバッグ10の突き出しにより乗員91が害されるのを抑制できる。乗員91がステアリングホイール90に密着しているときでも、インナーバッグ30Aの膨張により生じる乗員91とステアリングホイール90の間の僅かな空間から、アウターバッグ20が側方に膨張する。これにより、エアバッグ10が、乗員91とステアリングホイール90の間で展開して、乗員91を保護する。
【0053】
また、アウターバッグ20は、側方に素早く膨張して、短時間で広範囲に展開する。そのため、乗員91が高速でエアバッグ10に進入するときでも、エアバッグ10により乗員91を確実に受け止めることができる。乗員91が展開途中のエアバッグ10に進入したときには、乗員91は、高い内圧を保持するインナーバッグ30Aでも受け止められる。その際、インナーバッグ30Aは、乗員91の衝撃やエネルギーを吸収し、かつ、乗員91がステアリングホイール90に接触するのを防止する。
【0054】
エアバッグ10の展開初期の厚さは、膨張時のインナーバッグ30Aの高さにより設定できる。例えば、乗員91とエアバッグ装置1Aとの距離に応じて、エアバッグ10の展開初期の厚さを薄くすることで、乗員91が受ける危険を低減できる。その後、連結部材7がインナーバッグ30A内から引き出されることで、アウターバッグ20が完全に膨張して厚くなる。これにより、エアバッグ10は、最大の吸収ストロークを得て、乗員91を安全に受け止める。エアバッグ10は、インナーバッグ30Aの膨張、アウターバッグ20の側方への膨張、アウターバッグ20の完全膨張という段階を経て次第に膨張展開する。その間、エアバッグ10は、充分な内圧を維持しながら容量が増加するため、常に、高い乗員91の拘束性能を発揮する。
【0055】
エアバッグ10の展開性能は、膨張したインナーバッグ30Aの大きさ、連結部材7の長さ、連結部材7の連結位置を変更することで細かく調整できる。これら各変更は比較的簡単に行えるため、エアバッグ10の展開性能や展開の仕方は容易に調整できる。
【0056】
なお、筒状膨張部38は、インナーバッグ30Aから所定方向(例えば、下方や上方)に突出させて、インナーバッグ30Aに1つ設けてもよい。或いは、筒状膨張部38は、インナーバッグ30Aから放射状に突出させて、インナーバッグ30Aに3つ以上設けてもよい。即ち、筒状膨張部38は、インナーバッグ30Aに1つ又は3つ以上設けてもよい。また、インナーバッグ30Aは、種々の形状、例えば球形状、楕円体形状、又は、角錐形状に形成してもよい。
【0057】
連結部材7は、紐状やリボン状等、帯状以外の形状に形成してもよい。連結部材7は、筒状膨張部38内で端部38A以外の位置に連結してもよく、インナーバッグ30A内で筒状膨張部38以外の位置に連結してもよい。連結部材7は、インナーバッグ30A内の1箇所又は3箇所以上に連結してもよい。連結部材7は、インナーバッグ30Aに設けた流通口31以外の開口を通してアウターバッグ20に連結してもよい。ただし、連結部材7を、流通口31を通してアウターバッグ20に連結すると、他の開口を形成するための作業と工数を削減できる。
【0058】
(第2の実施形態)
図7は、第2の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Bと表す)を示す図であり、図1の矢印X方向から見たエアバッグ装置1Bを模式的に示している。また、図7では、展開初期のエアバッグ10を断面図で示している。図8は、図7のエアバッグ装置1Bを分解して示す斜視図であり、エアバッグ装置1Bの各構成を上下方向に離して示している。図8では、矢印により、組み合わされる構成の関係や構成同士の組み合わせ位置も示している。図7と図8は、それぞれ第1の実施形態で説明した図2と図3に対応する。
【0059】
このエアバッグ装置1Bでは、図示のように、エアバッグ10が、押さえ部材50(以下、この形態の押さえ部材には50Aを付す)を有する。エアバッグ装置1Bは、押さえ部材50Aを除いて、第1の実施形態のエアバッグ装置1Aと同様に構成されている。ここでは、既に説明したエアバッグ装置1Aと同じ構成は、同じ名前と符号を付して、その説明は省略し、押さえ部材50Aについて詳しく説明する。
【0060】
押さえ部材50Aは、インナーバッグ30Aの膨張時に、アウターバッグ20内で、乗員方向へ膨張するインナーバッグ30Aを押さえる。ここでは、押さえ部材50Aは、中央に開口部51を有する帯状部材52からなり、アウターバッグ20の後面(後基布23)に連結されている。帯状部材52は、矩形状の基布(帯状布)であり、エアバッグ10の膨張前に、インナーバッグ30Aの前面(前基布35)とアウターバッグ20の前面(前基布22)の間に配置される。また、帯状部材52は、インナーバッグ30Aの縁部を越えた位置で、アウターバッグ20の後基布23に縫製される。これにより、帯状部材52の両端が、アウターバッグ20の後面に接合される。インナーバッグ30Aは、押さえ部材50Aとアウターバッグ20の後面の間に配置される。
【0061】
押さえ部材50Aの開口部51は、円形孔からなり、膨張展開したインナーバッグ30Aよりも小さい所定径に形成される。開口部51は、インナーバッグ30Aが通過可能な通過口であり、エアバッグ10の膨張前に、インナーバッグ30Aの球状膨張部37と同芯状に配置される。即ち、開口部51は、インナーバッグ30Aの前面とアウターバッグ20の前面の間に、インナーバッグ30Aが通過可能に配置される。
【0062】
エアバッグ10の膨張前に、インナーバッグ30Aは、押さえ部材50Aと交差して配置される。インナーバッグ30Aの球状膨張部37は、押さえ部材50Aにより覆われる。筒状膨張部38は、押さえ部材50Aの側方開口を通して、押さえ部材50Aの外方に向かって配置される。インナーバッグ30Aの流通口31は、押さえ部材50Aの開口部51内の位置に配置される。連結部材7は、開口部51を通して、アウターバッグ20の前面に連結される。
【0063】
エアバッグ10の膨張時に、押さえ部材50Aは、膨張するインナーバッグ30A(球状膨張部37)の前面を押さえて、インナーバッグ30Aの乗員方向への膨張を規制する。球状膨張部37は、押さえ部材50Aとアウターバッグ20の後面の間で膨張展開する。その際、球状膨張部37は、開口部51よりも大きく膨張展開するため、開口部51を通過できずに、押さえ部材50Aとアウターバッグ20の間に保持される。
【0064】
開口部51は、膨張展開したインナーバッグ30Aが次第に収縮するときに、収縮するインナーバッグ30Aを乗員方向へ通過させる。インナーバッグ30Aは、開口部51を通過する間に、徐々に乗員方向へ伸びるように変形する。開口部51は、インナーバッグ30A内から引き出される連結部材7も乗員方向へ通過させる。筒状膨張部38は、インナーバッグ30A内に引き込まれた後に、開口部51を通過する。このように、インナーバッグ30Aは、押さえ部材50Aにより押さえられて、乗員方向への膨張と展開が規制される。アウターバッグ20の前面は、連結部材7とインナーバッグ30Aが開口部51を通過するのに伴い、乗員方向へ移動する。
【0065】
次に、エアバッグ装置1B(図8参照)の製造手順について説明する。
アウターバッグ20とインナーバッグ30Aは、第1の実施形態と同じ工程で形成する。ただし、アウターバッグ20の両基布22、23を縫製(図8では、各縫製部を点線で示す)するまえに、押さえ部材50Aの両端を、後基布23に縫製(接合部S1、S2)しておく。次に、インナーバッグ30Aを、アウターバッグ20内に挿入して、アウターバッグ20の後基布23と押さえ部材50Aの間に組み付ける。また、2つの筒状膨張部38を、押さえ部材50Aの外部に配置する。連結部材7は、取付口11、流通口31、及び、開口部51の内側で、アウターバッグ20の前基布22に縫製する。続いて、第1の実施形態と同様にしてエアバッグ装置1Bを製造する。エアバッグ装置1Bは、インフレータ3が発生するガスにより、エアバッグ10を膨張展開させる。
【0066】
図9は、膨張展開するエアバッグ10を順に示す断面図である。
なお、エアバッグ10は、基本的には、第1の実施形態と同様の過程を経て膨張展開する。従って、ここでは、エアバッグ10の膨張展開について、既に説明した過程と異なる過程を中心に説明する。
【0067】
エアバッグ10の展開初期では、まず、インナーバッグ30Aが、押さえ部材50Aとアウターバッグ20の後面の間で膨張する(図9A参照)。球状膨張部37は、押さえ部材50Aにより押さえられて、乗員方向への膨張が規制される。インナーバッグ30Aの前面は、押さえ部材50Aに押し付けられて、乗員方向への移動が妨げられる。筒状膨張部38は、球状膨張部37側から端部38Aまで膨張する。アウターバッグ20の前面は、連結部材7に引っ張られて、乗員方向への移動が妨げられる。
【0068】
アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aの流通口31から供給されるガスにより膨張を開始し、内圧の上昇に伴い乗員方向に膨張する(図9B参照)。連結部材7は、膨張するアウターバッグ20により引っ張られて、流通口31と開口部51を通って、押さえ部材50Aに保持されたインナーバッグ30A内から引き出される(図9C参照)。アウターバッグ20の前面は、連結部材7の引き出し量に応じて乗員方向へ移動する(図9D参照)。球状膨張部37は、流通口31からガスが流出して、押さえ部材50Aの開口部51に押し付けられた状態で徐々に収縮する。筒状膨張部38は、連結部材7により、インナーバッグ30A内に引き込まれて反転する。
【0069】
連結部材7は、筒状膨張部38とインナーバッグ30Aを収縮させて、インナーバッグ30A外に引き出される。インナーバッグ30Aは、収縮により、押さえ部材50Aの開口部51に近い大きさになり、最後には開口部51よりも小さくなる(図9E参照)。その間に、インナーバッグ30Aは、連結部材7に引っ張られて、開口部51から抵抗を受けつつ開口部51を乗員方向に通過する。即ち、インナーバッグ30Aは、連結部材7の引き出しにより、収縮しながら開口部51を通過して乗員方向に次第に変形する。開口部51は、収縮するインナーバッグ30Aの外周に沿って相対移動する。また、開口部51は、内部を通過するインナーバッグ30Aをしごくようにして、インナーバッグ30Aに抵抗を加える。
【0070】
続いて、インナーバッグ30Aが開口部51をすり抜けて、インナーバッグ30Aが、押さえ部材50Aから解放される。アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aが開口部51を通過した後、上記と同様に、乗員の前方で完全に膨張展開する。エアバッグ装置1Bは、膨張展開したエアバッグ10により、乗員91を受け止める。
【0071】
このエアバッグ装置1Bでは、第1の実施形態のエアバッグ装置1Aと同様の効果が得られる。また、押さえ部材50Aにより、インナーバッグ30Aの乗員方向の膨張を押さえることで、アウターバッグ20の前面の移動をより確実に規制できる。インナーバッグ30Aが、押さえ部材50Aとアウターバッグ20の後面の間で膨張展開するため、膨張後のインナーバッグ30Aの形状を、押さえ部材50Aとアウターバッグ20により調整することができる。なお、押さえ部材50Aは、円形状や三角形状等、矩形状以外の形状に形成してもよい。
【0072】
(第3の実施形態)
図10は、第3の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Cと表す)を示す図である。図10では、図8に対応させて、エアバッグ装置1Cの一部を斜視図で示している。
【0073】
このエアバッグ装置1Cでは、押さえ部材50とインナーバッグ30(以下、この形態の押さえ部材とインナーバッグには、それぞれ50Bと30Bを付す)の一部が、第2の実施形態の押さえ部材50Aとインナーバッグ30Aと相違する。また、連結部材7とアウターバッグ20の後基布23も部分的に相違する。これらの相違を除いて、エアバッグ装置1Cは、第2の実施形態のエアバッグ装置1Bと同様に構成されている。ここでは、既に説明したエアバッグ装置1Bと同じ構成は、同じ名前と符号を付して、その説明は省略し、押さえ部材50Bとインナーバッグ30Bについて詳しく説明する。なお、図10では、図8と相違する構成のみ示し、図8と共通する構成は省略している。
【0074】
押さえ部材50Bは、図示のように、開口部51の両側に、それぞれガスを通過させる貫通孔53を有する。貫通孔53は、円形孔からなり、アウターバッグ20のベントホール21と同じ面積(第1面積M1という)に形成されている。また、2つの貫通孔53は、2つのベントホール21の間隔に近い間隔に配置されている。押さえ部材50Bは、貫通孔53をベントホール21にオーバーラップさせて、アウターバッグ20の後基布23に縫製される。
【0075】
押さえ部材50Bは、インナーバッグ30Bの筒状膨張部38に沿って配置されて、インナーバッグ30Bの全体を覆う。2つの筒状膨張部38の全体は、押さえ部材50Bとアウターバッグ20の後面(後基布23)の間に配置される。押さえ部材50Bは、貫通孔53と筒状膨張部38の端部38Aを囲むように設けられた接合部S3で、ベントホール21の周囲に接合される。筒状膨張部38の端部38Aは、押さえ部材50Bの接合部S3内に配置される。
【0076】
図11は、膨張後のインナーバッグ30Bの斜視図である。
インナーバッグ30Bは、図示のように、各筒状膨張部38の端部38Aに、内部のガスを外部に排出する排出口39を有する。排出口39は、筒状膨張部38の先端に設けられた非接合部であり、矩形部35B、36Bの先端を縫製しないことで形成される。排出口39は、ガスをインナーバッグ30Bから側方に向かって排出する。インナーバッグ30Bは、インフレータ3が発生するガスを、筒状膨張部38を通して排出口39から排出する。
【0077】
筒状膨張部38の端部38A(図10参照)は、エアバッグ10の膨張前に、アウターバッグ20のベントホール21上に、又は、ベントホール21に近接して配置される。排出口39は、ベントホール21に向けて配置される。筒状膨張部38は、後述するように、押さえ部材50Bとアウターバッグ20の後面の間で膨張及び収縮する。筒状膨張部38は、連結部材7によりインナーバッグ30B内に引き込まれるときに、ベントホール21から離れる。筒状膨張部38が反転すると、反転した範囲の基布35、36が密着する。これにより、排出口39は、インナーバッグ30B内で閉鎖されて、ガスの排出を停止する。
【0078】
次に、エアバッグ装置1Cの製造手順について説明する。
アウターバッグ20は、第1の実施形態と同じ工程で形成する。ただし、アウターバッグ20の両基布22、23を縫製(図10では、各縫製部を点線で示す)するまえに、押さえ部材50Bを、後基布23に縫製(接合部S3)しておく。インナーバッグ30Bに関しては、前基布35の内面に連結部材7を重ねて、連結部材7の両端部7Aを前基布35に縫製する。次に、両基布35、36の外面を重ね合わせて、基布35、36を両側縁に沿って縫製する。その後、両基布35、36を、取付口11を通して反転させて、インナーバッグ30Bを形成する。なお、図10では、インナーバッグ30Bを反転させた後における各構成の配置状態を示している。
【0079】
次に、インナーバッグ30Bを、アウターバッグ20内に挿入して、アウターバッグ20の後基布23と押さえ部材50Bの間に組み付ける。2つの筒状膨張部38の端部38Aは、それぞれ押さえ部材50Bの接合部S3内で、ベントホール21上に配置する。続いて、第1の実施形態と同様にしてエアバッグ装置1Cを製造する。エアバッグ装置1Cは、インフレータ3が発生するガスにより、エアバッグ10を膨張展開させる。
【0080】
図12は、膨張展開するエアバッグ10を順に示す断面図である。
なお、エアバッグ10は、基本的には、第2の実施形態と同様の過程を経て膨張展開する。従って、ここでは、第2の実施形態と異なる過程を中心に説明する。
【0081】
エアバッグ10の展開初期では、まず、インナーバッグ30Bが、押さえ部材50Bとアウターバッグ20の後面の間で膨張する(図12A参照)。筒状膨張部38は、端部38Aまで膨張して、排出口39が開放する(図12B参照)。インナーバッグ30Bは、インフレータ3が発生するガスを、排出口39から直接排出する。排出後のガスは、ベントホール21からアウターバッグ20外に排出される。
【0082】
アウターバッグ20は、インナーバッグ30Bの流通口31から供給されるガスにより膨張を開始し、内圧の上昇に伴い乗員方向に膨張する。連結部材7は、インナーバッグ30B内から引き出される(図12C参照)。これに伴い、アウターバッグ20の前面が乗員方向へ移動する。筒状膨張部38は、連結部材7により、インナーバッグ30B内に引き込まれて反転する。排出口39は、閉鎖されて、ガスの排出を停止する。その際、膨張した筒状膨張部38が、押さえ部材50Bとベントホール21の間に、ガスを流通させる空間60を形成する。この空間60は、押さえ部材50Bの貫通孔53を通して、アウターバッグ20内の他の空間とガスが流通するため、押さえ部材50Bの両側に圧力差は生じない。アウターバッグ20内のガスは、第1面積M1の貫通孔53及びベントホール21から外部へ排出される。
【0083】
連結部材7は、筒状膨張部38とインナーバッグ30Bを収縮させて、インナーバッグ30B外に引き出される。その間に、筒状膨張部38の端部38Aが、ベントホール21から離れて、空間60を狭くする(図12D参照)。押さえ部材50Bには、アウターバッグ20の膨張に伴う張力とアウターバッグ20の内圧により、アウターバッグ20の後面に近づく力が働く。その結果、押さえ部材50Bは、ベントホール21に徐々に接近する。ベントホール21は、押さえ部材50Bの貫通孔53が接近するのに伴い、ガスの流通が阻害されて、ガスが徐々に排出され難くなる。即ち、ベントホール21の開口面積が、擬似的に徐々に小さくなる。その結果、ベントホール21からのガスの排出量が、アウターバッグ20の膨張に応じて連続して減少する。
【0084】
続いて、インナーバッグ30Bが、連結部材7に引っ張られて、開口部51を乗員方向に通過する(図12E参照)。アウターバッグ20は、乗員91の前方で完全に膨張展開する。押さえ部材50Bは、開口部51をインナーバッグ30Bが通過したときに、アウターバッグ20の後面に密着する。同時に、押さえ部材50Bの貫通孔53が、ベントホール21に重なる。貫通孔53は、ベントホール21とずれた状態に配置されており、ベントホール21に対して位置をずらして重なる。押さえ部材50Bは、貫通孔53の周辺部分で、ベントホール21を部分的に塞いで、ベントホール21における開口部分の面積(開口面積)を変更する。これにより、ベントホール21は、開口面積が第1面積M1よりも小さい面積(第2面積M2という)に変更されて、ガスの排出量が減少する。エアバッグ装置1Cは、膨張の各段階におけるエアバッグ10により、乗員91を受け止める。
【0085】
このエアバッグ装置1Cでは、第1及び第2の実施形態のエアバッグ装置1A、1Bと同様の効果が得られる。また、筒状膨張部38の端部38Aに排出口39を設けたため、様々な状態の乗員91を安全に保護することができる。例えば、乗員91が非正常な乗車姿勢でOOP(Out Of Position)状態にあり、エアバッグ装置1Cに接近又は接触しているときには、乗員91が早期にエアバッグ10に接触する(図12B参照)。その際、インフレータ3が発生するガスは、排出口39とベントホール21からアウターバッグ20外に直接排出されるため、エアバッグ10は、乗員側への膨張が抑制される。これにより、エアバッグ10に供給されるエネルギーが減少するため、エアバッグ10の有する乗員91への加害性が大幅に低下する。
【0086】
特に、インフレータ3が発生するガスは、ベントホール21から排出されるガスと比べて初速度が速いため、排出口39から効率よく排出される。そのため、エアバッグ10は、ガスを排出口39から短時間で大量に排出できるとともに、排出口39を小さくしても、充分なガスの排出量を確保できる。従って、このエアバッグ装置1Cでは、OOP状態の乗員91に傷害を与えるのを抑制できる。また、乗員91が小柄なときには、乗員91は、ある程度膨張したエアバッグ10により受け止められる。エアバッグ10は、排出口39からガスを必要に応じて排出して、乗員91の衝撃を緩和する。
【0087】
筒状膨張部38がインナーバッグ30B内に引き込まれている間に、エアバッグ10に乗員91が進入すると(図12C参照)、連結部材7がインナーバッグ30B内に戻される。その結果、筒状膨張部38は、ガスの圧力によりインナーバッグ30B外に戻されて、閉鎖された排出口39が開放される。エアバッグ10は、再び開放された排出口39からガスを排出して、乗員91の衝撃やエネルギーを吸収する。乗員91がOOP状態でないときには(図12D、12E参照)、乗員91は、大きく膨張展開したエアバッグ10により保護される。このように、エアバッグ装置1Cは、乗員91の状態を検知するセンサやエアバッグ10の展開を制御する特殊なインフレータを使用することなく、乗員91の状態の違いに対処できる。
【0088】
押さえ部材50Bの貫通孔53により、ベントホール21の開口面積を変更して、ベントホール21から排出されるガスの量を変更することができる。ベントホール21からのガスの排出量を徐々に変化させることもできる。これにより、エアバッグ10は、膨張の各段階に応じたガスの排出量を確保して、適切な衝撃吸収特性を発揮する。貫通孔53とベントホール21のずれ量を変更することで、ベントホール21の開口面積とガスの排出量を調整することができる。エアバッグ10外へのガスの排出量を、エアバッグ10に乗員91が接触するまでの時間、及び、エアバッグ10への乗員91の進入量に応じて変更することもできる。更に、エアバッグ装置1Cは、乗員91の体格差にも対応して、各体格の乗員91を保護できる。
【0089】
図13は、乗員91を保護するエアバッグ装置1Cを示す側面図であり、大柄で重い乗員91Aと小柄で軽い乗員91Bを示している。
大柄な乗員91A(図13A参照)は、エアバッグ装置1Cから離れて運転席92に座るため、エアバッグ10との接触のタイミングが遅くなる。また、乗員91Aがエアバッグ10に接触するときには、エアバッグ10により吸収するエネルギーが大きいため、ベントホール21は小さい方がよい。これに対し、エアバッグ10は、乗員91Aが接触する展開後期に、ベントホール21の開口面積を小さい第2面積M2にして、乗員91Aを受け止める。
【0090】
小柄な乗員91B(図13B参照)は、エアバッグ装置1Cに接近して運転席92に座るため、エアバッグ10との接触のタイミングが早くなる。また、乗員91Bがエアバッグ10に接触するときには、エアバッグ10により吸収するエネルギーが小さいため、ベントホール21は大きい方がよい。これに対し、エアバッグ10は、乗員91Bが接触する展開初期に、ベントホール21の開口面積を大きい第1面積M1にして、乗員91Bを受け止める。
【0091】
このように、乗員91の体格差により、エアバッグ10に乗員91が接触するタイミングに差が生じる。エアバッグ10は、各乗員91が接触するタイミングに合わせて、ベントホール21の開口面積を変更し、適切な衝撃吸収特性を発揮する。これにより、エアバッグ10は、乗員91の体格差に応じた最適な条件で乗員91を受け止めて、乗員91の衝撃を吸収する。従って、エアバッグ装置1Cは、センサや特殊なインフレータを使用することなく体格差に対処して、エアバッグ10の有する乗員91への加害性を低減できる。なお、押さえ部材50Bの貫通孔53を、ベントホール21よりも小さい面積に形成して、ベントホール21に重ねることで、ベントホール21の開口面積を変更するようにしてもよい。
【0092】
(第4の実施形態)
図14は、第4の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Dと表す)を示す図であり、図1の矢印X方向から見たエアバッグ装置1Dを模式的に示している。また、図14では、展開初期のエアバッグ10を断面図で示している。図15は、図14のエアバッグ装置1Dを分解して示す斜視図であり、エアバッグ装置1Dの各構成を上下方向に離して示している。図15では、矢印により、組み合わされる構成の関係や構成同士の組み合わせ位置も示している。図14と図15は、それぞれ第1の実施形態で説明した図2と図3に対応する。
【0093】
このエアバッグ装置1Dでは、インナーバッグ30Bの配置の仕方が、第1の実施形態のエアバッグ装置1Aと相違する。また、エアバッグ10の構成も部分的に変更されている。ここでは、既に説明したエアバッグ装置1Aと同じ構成は、同じ名前と符号を付して、その説明は省略し、インナーバッグ30Bとエアバッグ10の相違点について詳しく説明する。
【0094】
エアバッグ10は、図示のように、排出口39が設けられたインナーバッグ30Bを有する。アウターバッグ20は、内部に押さえ部材50が設けられずに、外部に補強カバー27を有する。補強カバー27は、アウターバッグ20の後基布23の補強布であり、インフレータ3が発生するガスや熱から後基布23を保護する。後基布23は、上記した補強布13、14が設けられずに、補強カバー27により補強される。また、補強カバー27は、アウターバッグ20の外部に設けられたベントホール部カバー(外部カバー)でもあり、ベントホール21に重ねて配置される。補強カバー27は、ベントホール21を覆うようにアウターバッグ20外に配置されて、両側縁が後基布23の外面に接合される。
【0095】
補強カバー27は、矩形状の基布からなり、インナーバッグ30Bの基布35、36よりも短く形成される。また、補強カバー27は、中心に形成された取付口11と、ガスを通過させる2つの貫通孔27Aとを有する。貫通孔27Aは、上記した押さえ部材50Bの貫通孔53と同様に構成されている。即ち、貫通孔27Aは、円形孔からなり、ベントホール21と同じ第1面積M1に形成されている。2つの貫通孔27Aは、取付口11の両側に設けられて、2つのベントホール21の間隔と同じ間隔に配置されている。補強カバー27は、貫通孔27Aをベントホール21にオーバーラップさせて、アウターバッグ20の後基布23に縫製される。その際、貫通孔27Aは、ベントホール21と一致する位置に配置される。補強カバー27がアウターバッグ20の後面に密着したときに、貫通孔27Aがベントホール21に重なる。
【0096】
筒状膨張部38の端部38Aは、エアバッグ10の膨張前に、アウターバッグ20に設けられた通過口25を通って、アウターバッグ20外に配置される。通過口25は、アウターバッグ20の後基布23に形成されたスリットからなる。通過口25は、後基布23の補強カバー27に覆われる位置において、ベントホール21に近接して形成される。また、通過口25は、後基布23内で、2つのベントホール21の内側に形成される。
【0097】
筒状膨張部38は、アウターバッグ20内から通過口25を通して、アウターバッグ20外で、補強カバー27とアウターバッグ20の外面との間に配置される。筒状膨張部38の端部38Aは、補強カバー27内(補強カバー27とアウターバッグ20の間)に挿入され、補強カバー27の端部を通して、補強カバー27外に配置される。なお、筒状膨張部38の端部38Aは、アウターバッグ20外で、補強カバー27とアウターバッグ20との間に配置してもよい。この場合には、端部38Aの排出口39を、ベントホール21と貫通孔27A上に、又は、ベントホール21と貫通孔27Aに近接して配置する。
【0098】
筒状膨張部38は、エアバッグ10の膨張前に補強カバー27内に配置され、インナーバッグ30Bの膨張及び収縮により、補強カバー27内で膨張及び収縮する。筒状膨張部38は、補強カバー27内で膨張して貫通孔27Aとベントホール21との間に空間を形成する。筒状膨張部38は、連結部材7によりインナーバッグ30B内に引き込まれるときに、連結部材7に引っ張られて、アウターバッグ20内に向かって移動する。また、筒状膨張部38は、通過口25を通って、アウターバッグ20内まで引き込まれる。筒状膨張部38の端部38Aも、インナーバッグ30B内から引き出される連結部材7により、アウターバッグ20内に引き込まれる。これにより、筒状膨張部38は、補強カバー27外に移動して、補強カバー27をアウターバッグ20の後面に密着させるとともに、補強カバー27をベントホール21に重ねる。貫通孔27Aはベントホール21に重なり、通過口25は補強カバー27により塞がれる。
【0099】
次に、エアバッグ装置1D(図15参照)の製造手順について説明する。
アウターバッグ20は、第1の実施形態と同じ工程で形成する。ただし、アウターバッグ20の両基布22、23を縫製(図15では、各縫製部を点線で示す)するまえに、補強カバー27を、後基布23に縫製しておく。インナーバッグ30Bは、第3の実施形態と同じ工程で形成する。次に、インナーバッグ30Bを、アウターバッグ20内に挿入して、連結部材7を、アウターバッグ20の前基布22に縫製する。2つの筒状膨張部38の端部38Aを、それぞれ通過口25を通して、補強カバー27内に挿入する。続いて、第1の実施形態と同様にしてエアバッグ装置1Dを製造する。エアバッグ装置1Dは、インフレータ3が発生するガスにより、エアバッグ10を膨張展開させる。
【0100】
図16は、膨張展開するエアバッグ10を順に示す断面図である。
なお、エアバッグ10は、基本的には、第1の実施形態と同様の過程を経て膨張展開する。従って、ここでは、エアバッグ10の膨張展開について、既に説明した過程と異なる過程を中心に説明する。
【0101】
エアバッグ10の展開初期では、まず、インナーバッグ30Bがアウターバッグ20内で膨張する(図16A参照)。筒状膨張部38は、アウターバッグ20内の部分からアウターバッグ20外の端部38Aまで膨張する。これにより、筒状膨張部38は、アウターバッグ20の通過口25等を拡げて、排出口39を開放する(図16B参照)。インナーバッグ30Bは、インフレータ3が発生するガスを、筒状膨張部38の排出口39から直接排出して、内部のガスをアウターバッグ20外に排出する。
【0102】
アウターバッグ20は、インナーバッグ30Bの流通口31から供給されるガスにより膨張を開始する。連結部材7が、インナーバッグ30B内から引き出されて、アウターバッグ20の前面が乗員方向へ移動する。筒状膨張部38は、連結部材7によりインナーバッグ30B内に引き込まれて反転する(図16C参照)。排出口39は、閉鎖されてガスの排出を停止する。アウターバッグ20内のガスは、ベントホール21及び貫通孔27Aからアウターバッグ20外に排出される。
【0103】
筒状膨張部38は、連結部材7に引っ張られて、補強カバー27外(アウターバッグ20内)へ向かって移動する。続いて、筒状膨張部38は、連結部材7によりアウターバッグ20内に引き込まれて、補強カバー27外に移動する(図16D参照)。これに伴い、補強カバー27が、アウターバッグ20の後面に密着する。補強カバー27は、貫通孔27Aをベントホール21に重ねて、ベントホール21からガスを排出させる。アウターバッグ20は、乗員91の前方で完全に膨張展開する(図16E参照)。エアバッグ装置1Dは、膨張の各段階におけるエアバッグ10により、乗員91を受け止める。アウターバッグ20内のガスは、ベントホール21及び貫通孔27Aから外部へ排出される。
【0104】
このエアバッグ装置1Dでは、第1の実施形態のエアバッグ装置1Aと同様の効果が得られる。また、筒状膨張部38の端部38Aに設けた排出口39により、第3の実施形態のエアバッグ装置1Cと同様の効果が得られ、様々な状態の乗員91を安全に保護できる。排出口39からガスを排出することで、OOP状態の乗員91も保護できる。連結部材7は、筒状膨張部38をアウターバッグ20内まで引き込むための力により、引き出しが抑制される。その結果、連結部材7により、アウターバッグ20の前面の移動を確実に規制できる。
【0105】
なお、筒状膨張部38の端部38Aは、ベントホール21を通して、アウターバッグ20外に配置してもよい。ベントホール21を端部38Aの通過口として使用することで、通過口25を別途設ける必要がなくなり、通過口25の形成のための作業と工数を削減できる。
【0106】
(第5の実施形態)
図17は、第5の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Eと表す)を示す図である。図17では、膨張展開するエアバッグ10を順に断面図で示している。
このエアバッグ装置1Eでは、補強カバー27が第4の実施形態と部分的に相違する。エアバッグ装置1Eは、補強カバー27以外は、第4の実施形態のエアバッグ装置1Dと共通する。エアバッグ10も、第4の実施形態と同様の過程を経て膨張展開する。ここでは、エアバッグ装置1Dとの相違点について説明する。
【0107】
補強カバー27は、両側縁と両端がアウターバッグ20の後基布23に縫製されて、外縁の全体がアウターバッグ20に接合される。補強カバー27内の空間は、貫通孔27Aによりエアバッグ10外に繋がる。貫通孔27Aは、ベントホール21と完全に一致しない位置に配置される。筒状膨張部38の端部38Aは、エアバッグ10の膨張前に、アウターバッグ20外で、補強カバー27とアウターバッグ20との間に配置される(図17A参照)。また、端部38A及び排出口39は、貫通孔27A上に、又は、貫通孔27Aに近接して配置される。排出口39は、貫通孔27Aに向けて配置される。
【0108】
インナーバッグ30Bが膨張すると、筒状膨張部38は、端部38Aまで膨張して排出口39を開放する(図17B参照)。インナーバッグ30Bは、インフレータ3が発生するガスを、排出口39から直接排出する。排出後のガスは、補強カバー27の貫通孔27Aからアウターバッグ20外に排出される。排出口39は、連結部材7によりインナーバッグ30B内に引き込まれて閉鎖され、ガスの排出を停止する(図17C参照)。アウターバッグ20内のガスは、ベントホール21及び貫通孔27Aからアウターバッグ20外に排出される。
【0109】
筒状膨張部38は、インナーバッグ30B内に引き込まれるときに、補強カバー27外(アウターバッグ20内)に移動して、補強カバー27をベントホール21に重ねる(図17D参照)。補強カバー27は、アウターバッグ20の後面に密着する。また、補強カバー27は、貫通孔27Aをベントホール21からずらしてベントホール21に重なり、ベントホール21を閉鎖する。貫通孔27Aは、アウターバッグ20の後面に密着して閉鎖される。続いて、アウターバッグ20が、乗員91の前方で完全に膨張展開する(図17E参照)。エアバッグ装置1Eは、膨張の各段階におけるエアバッグ10により、乗員91を受け止める。
【0110】
このエアバッグ装置1Eでは、第4の実施形態のエアバッグ装置1Dと同様の効果が得られる。膨張展開後に、エアバッグ10からのガスの排出を停止させることもできる。なお、アウターバッグ20の補強カバー27に覆われない位置に、ベントホールを別途設けて、エアバッグ10からのガスの排出量を調整するようにしてもよい。
【0111】
(第6の実施形態)
図18は、第6の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Fと表す)を示す図である。図18では、膨張展開するエアバッグ10を順に断面図で示している。
このエアバッグ装置1Fでは、補強カバー27が第5の実施形態と部分的に相違する。ここでは、エアバッグ装置1Eとの相違点について説明する。
【0112】
補強カバー27の2つの貫通孔27Aは、2つのベントホール21の間隔に近い間隔に配置されている。補強カバー27は、貫通孔27Aをベントホール21にオーバーラップさせて、アウターバッグ20の後基布23に縫製される。その際、貫通孔27Aは、ベントホール21とずれた状態に配置される。補強カバー27がアウターバッグ20の後面に密着したときに、貫通孔27Aは、ベントホール21に対して位置をずらして重なる。補強カバー27は、貫通孔27Aの周辺部分で、ベントホール21を部分的に塞いで、ベントホール21の開口面積を変更する。これにより、ベントホール21の開口面積が、第1面積M1よりも小さい第2面積M2に変更される。
【0113】
インナーバッグ30Bが膨張すると(図18A参照)、筒状膨張部38は、排出口39を開放して、ガスを排出口39から排出する(図18B参照)。排出後のガスは、補強カバー27の貫通孔27Aからアウターバッグ20外に排出される。排出口39は、連結部材7によりインナーバッグ30B内に引き込まれて閉鎖され、ガスの排出を停止する(図18C参照)。その際、膨張した筒状膨張部38は、補強カバー27とベントホール21の間に、ガスを流通させる空間61を形成する。アウターバッグ20内のガスは、第1面積M1のベントホール21及び貫通孔27Aから外部へ排出される。
【0114】
筒状膨張部38の端部38Aは、ベントホール21から次第に離れて、空間61を狭くする。補強カバー27は、ベントホール21に徐々に接近する。ベントホール21は、補強カバー27の貫通孔27Aが接近するのに伴い、ガスが徐々に排出され難くなり、ガスの排出量が連続して減少する。筒状膨張部38は、インナーバッグ30B内に引き込まれるときに、補強カバー27外に移動して、補強カバー27をベントホール21に重ねる(図18D参照)。補強カバー27は、アウターバッグ20の後面に密着するとともに、貫通孔27Aをベントホール21に重ねる。補強カバー27は、ベントホール21に重なる貫通孔27Aにより、ベントホール21の開口面積を変更する。ベントホール21の開口面積は、第1面積M1よりも小さい第2面積M2に変更される。続いて、アウターバッグ20が、乗員91の前方で完全に膨張展開する(図18E参照)。エアバッグ装置1Fは、膨張の各段階におけるエアバッグ10により、乗員91を受け止める。
【0115】
このエアバッグ装置1Fでは、第4の実施形態のエアバッグ装置1Dと同様の効果が得られる。また、第3の実施形態のエアバッグ装置1Cと同様に、補強カバー27の貫通孔27Aにより、ベントホール21の開口面積を変更して、ベントホール21から排出されるガスの量を変更することができる。ベントホール21からのガスの排出量を徐々に変化させることもできる。これにより、エアバッグ10は、膨張の各段階に応じたガスの排出量を確保して、適切な衝撃吸収特性を発揮する。
【0116】
(第7の実施形態)
図19は、第7の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Gと表す)を示す図であり、図1の矢印X方向から見たエアバッグ装置1Gを模式的に示している。また、図19では、展開初期のエアバッグ10を断面図で示している。図20は、図19のエアバッグ装置1Gを分解して示す斜視図であり、エアバッグ装置1Gの各構成を上下方向に離して示している。図20では、矢印により、組み合わされる構成の関係や構成同士の組み合わせ位置も示している。図19と図20は、それぞれ第4の実施形態で説明した図14と図15に対応する。
【0117】
このエアバッグ装置1Gでは、筒状膨張部38の配置の仕方が、第4の実施形態のエアバッグ装置1Dと相違する。また、アウターバッグ20の構成も部分的に変更されている。ここでは、既に説明したエアバッグ装置1Dと同じ構成は、同じ名前と符号を付して、その説明は省略し、筒状膨張部38とアウターバッグ20の相違点について詳しく説明する。
【0118】
エアバッグ10は、図示のように、排出口39が設けられたインナーバッグ30Bと、貫通孔53がない押さえ部材50Aとを有する。アウターバッグ20は、外部に設けられる補強カバー27に替えて、内部にベントホール部カバー(以下、カバーという)26を有する。カバー26は、アウターバッグ20内に配置される内部カバーであり、ガスを通過させる貫通孔26Aが設けられ、かつ、ベントホール21に重なる。カバー26は、矩形状の基布からなり、各ベントホール21の周囲に配置される。カバー26は、ベントホール21と通過口25を覆うように配置されて、外縁が後基布23の内面に接合される。また、カバー26には、インナーバッグ30B側の部分が接合されずに、非接合部26Bが設けられる。
【0119】
カバー26の貫通孔26Aは、補強カバー27の貫通孔27Aと同様に構成されている。即ち、貫通孔26Aは、円形孔からなり、アウターバッグ20のベントホール21と同じ第1面積M1に形成されている。カバー26は、貫通孔26Aをベントホール21にオーバーラップさせて、アウターバッグ20の後基布23に縫製される。その際、貫通孔26Aは、ベントホール21と一致する位置に配置される。カバー26がアウターバッグ20の後面に密着したときに、貫通孔26Aがベントホール21に重なる。
【0120】
通過口25は、後基布23のカバー26に覆われる位置に配置され、後基布23内で、2つのベントホール21の外側に形成される。押さえ部材50Aは、インナーバッグ30Bと交差して配置され、ベントホール21の位置を外して、アウターバッグ20の後基布23に縫製される。インナーバッグ30Bの球状膨張部37は、押さえ部材50Aにより覆われる。筒状膨張部38は、押さえ部材50Aの側方開口を通して、押さえ部材50Aの外部に位置するカバー26内に配置される。
【0121】
筒状膨張部38の端部38Aは、エアバッグ10の膨張前に、非接合部26Bから、カバー26内(カバー26とアウターバッグ20の間)に挿入されて、通過口25を通ってアウターバッグ20外に配置される。これに伴い、筒状膨張部38の排出口39が、アウターバッグ20外に配置される。インナーバッグ30Bは、内部のガスを、排出口39からアウターバッグ20外に排出する。
【0122】
筒状膨張部38は、エアバッグ10の膨張前にカバー26内に配置され、カバー26内で膨張及び収縮する。また、筒状膨張部38は、連結部材7によりインナーバッグ30B内に引き込まれるときに、連結部材7に引っ張られて、通過口25と非接合部26Bを通って、アウターバッグ20内まで引き込まれる。筒状膨張部38の端部38Aも、インナーバッグ30B内から引き出される連結部材7により、アウターバッグ20内に引き込まれる。これにより、筒状膨張部38は、カバー26外に移動して、カバー26をアウターバッグ20の後面に密着させるとともに、カバー26をベントホール21に重ねる。貫通孔26Aは、ベントホール21に重なり、ベントホール21からガスを排出させる。通過口25は、カバー26により塞がれる。
【0123】
次に、エアバッグ装置1G(図20参照)の製造手順について説明する。
アウターバッグ20は、第1の実施形態と同じ工程で形成する。ただし、アウターバッグ20の両基布22、23を縫製(図20では、各縫製部を点線で示す)するまえに、押さえ部材50Aの両端を後基布23に縫製(接合部S1、S2)しておく。また、2つのカバー26も、後基布23に縫製しておく。インナーバッグ30Bは、第3の実施形態と同じ工程で形成する。次に、インナーバッグ30Bを、アウターバッグ20内に挿入して、アウターバッグ20の後基布23と押さえ部材50Aの間に組み付ける。連結部材7を、アウターバッグ20の前基布22に縫製する。2つの筒状膨張部38の端部38Aを、それぞれカバー26の非接合部26Bに挿入し、通過口25を通してアウターバッグ20外に配置する。続いて、第1の実施形態と同様にしてエアバッグ装置1Gを製造する。エアバッグ装置1Gは、インフレータ3が発生するガスにより、エアバッグ10を膨張展開させる。
【0124】
図21は、膨張展開するエアバッグ10を順に示す断面図である。
なお、エアバッグ10は、基本的には、第4の実施形態と同様の過程を経て膨張展開する。従って、ここでは、エアバッグ10の膨張展開について、既に説明した過程と異なる過程を中心に説明する。
【0125】
インナーバッグ30Bは、押さえ部材50Aとアウターバッグ20の後面の間で膨張する(図21A参照)。インナーバッグ30Bが膨張すると、筒状膨張部38は、排出口39を開放して、ガスを排出口39からアウターバッグ20外に排出する(図21B参照)。排出口39は、連結部材7によりインナーバッグ30B内に引き込まれて閉鎖され、ガスの排出を停止する(図21C参照)。アウターバッグ20内のガスは、貫通孔26A及びベントホール21からアウターバッグ20外に排出される。
【0126】
筒状膨張部38は、インナーバッグ30B内に引き込まれるときに、カバー26外に移動して、カバー26をベントホール21に重ねる(図21D参照)。カバー26は、アウターバッグ20の膨張に伴う張力とアウターバッグ20の内圧により、アウターバッグ20の後面に密着するとともに、貫通孔26Aをベントホール21に重ねる。押さえ部材50Aは、ベントホール21から離れた位置に設けられており、ベントホール21に影響することはない。そのため、ベントホール21は、押さえ部材50Aにより塞がれることなく、ガスを排出する。インナーバッグ30Bは、連結部材7に引っ張られて、開口部51を乗員方向に通過する。その後、アウターバッグ20が、乗員91の前方で完全に膨張展開する(図21E参照)。エアバッグ装置1Gは、膨張の各段階におけるエアバッグ10により、乗員91を受け止める。
【0127】
このエアバッグ装置1Gでは、第1の実施形態のエアバッグ装置1Aと同様の効果が得られる。また、押さえ部材50Aにより、インナーバッグ30Bの膨張を押さえて、アウターバッグ20の前面の移動をより確実に規制できる。筒状膨張部38の端部38Aに設けた排出口39により、第3の実施形態のエアバッグ装置1Cと同様の効果が得られ、様々な状態の乗員91を安全に保護できる。排出口39からガスを排出することで、OOP状態の乗員91も保護できる。連結部材7は、筒状膨張部38をアウターバッグ20内まで引き込むための力により、引き出しが抑制される。その結果、連結部材7により、アウターバッグ20の前面の移動を確実に規制できる。
【0128】
なお、カバー26の貫通孔26Aは、ベントホール21と完全に一致しない位置に配置してもよい。このカバー26は、貫通孔26Aをベントホール21からずらしてベントホール21に重なり、ベントホール21を閉鎖する。貫通孔26Aは、アウターバッグ20の後面に密着して閉鎖される。また、貫通孔26Aは、ベントホール21とずれた状態に配置してもよい。このカバー26は、ベントホール21に重なる貫通孔26Aにより、ベントホール21の開口面積を変更する。ベントホール21の開口面積は、第1面積M1よりも小さい第2面積M2に変更される。筒状膨張部38の端部38Aは、アウターバッグ20に通過口25を設けずに、ベントホール21を通して、アウターバッグ20外に配置してもよい。
【0129】
(第8の実施形態)
図22は、第8の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Hと表す)を示す図である。図22では、膨張展開するエアバッグ10を順に断面図で示している。
このエアバッグ装置1Hでは、インナーバッグ30Bの配置の仕方が、第7の実施形態のエアバッグ装置1Gと相違する。また、アウターバッグ20も部分的に変更されている。ここでは、既に説明したエアバッグ装置1Gと同じ構成は、同じ名前と符号を付して、その説明は省略し、インナーバッグ30Bとアウターバッグ20の相違点について詳しく説明する。
【0130】
アウターバッグ20は、通過口25を有さず、後基布23のカバー26に覆われる位置にベントホール21のみが設けられている。カバー26は、貫通孔26Aをベントホール21にオーバーラップさせて、後基布23に縫製される。その際、貫通孔26Aは、ベントホール21とずれた状態に配置される。カバー26がアウターバッグ20の後面に密着したときに、貫通孔26Aは、ベントホール21に対して位置をずらして重なる。カバー26は、貫通孔26Aの周辺部分で、ベントホール21を部分的に塞いで、ベントホール21の開口面積を変更する。これにより、ベントホール21の開口面積が、第1面積M1よりも小さい第2面積M2に変更される。
【0131】
筒状膨張部38の端部38Aは、エアバッグ10の膨張前に、アウターバッグ20内で、カバー26とアウターバッグ20との間に配置される(図22A参照)。また、端部38A及び排出口39は、ベントホール21上に、又は、ベントホール21に近接して配置される。排出口39は、ベントホール21に向けて配置される。
【0132】
インナーバッグ30Bが膨張すると、筒状膨張部38は、端部38Aまで膨張して排出口39を開放する(図22B参照)。インナーバッグ30Bは、インフレータ3が発生するガスを、排出口39から直接排出する。排出後のガスは、ベントホール21からアウターバッグ20外に排出される。排出口39は、連結部材7によりインナーバッグ30B内に引き込まれて閉鎖され、ガスの排出を停止する(図22C参照)。その際、膨張した筒状膨張部38は、カバー26とベントホール21の間に、ガスを流通させる空間62を形成する。アウターバッグ20内のガスは、第1面積M1の貫通孔26A及びベントホール21から外部へ排出される。
【0133】
筒状膨張部38の端部38Aは、ベントホール21から次第に離れて、空間62を狭くする。カバー26は、ベントホール21に徐々に接近する。ベントホール21は、カバー26の貫通孔26Aが接近するのに伴い、ガスが徐々に排出され難くなり、ガスの排出量が連続して減少する。筒状膨張部38は、インナーバッグ30B内に引き込まれるときに、カバー26外に移動して、カバー26をベントホール21に重ねる(図22D参照)。カバー26は、アウターバッグ20の後面に密着するとともに、貫通孔26Aをベントホール21に重ねる。カバー26は、ベントホール21に重なる貫通孔26Aにより、ベントホール21の開口面積を変更する。ベントホール21の開口面積は、第1面積M1よりも小さい第2面積M2に変更される。続いて、アウターバッグ20が、乗員91の前方で完全に膨張展開する(図22E参照)。エアバッグ装置1Hは、膨張の各段階におけるエアバッグ10により、乗員91を受け止める。
【0134】
このエアバッグ装置1Hでは、第7の実施形態のエアバッグ装置1Gと同様の効果が得られる。また、第3の実施形態のエアバッグ装置1Cと同様に、カバー26の貫通孔26Aにより、ベントホール21の開口面積を変更して、ベントホール21から排出されるガスの量を変更することができる。ベントホール21からのガスの排出量を徐々に変化させることもできる。これにより、エアバッグ10は、膨張の各段階に応じたガスの排出量を確保して、適切な衝撃吸収特性を発揮する。
【0135】
(第9の実施形態)
図23は、第9の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Iと表す)を示す図である。図23では、膨張展開するエアバッグ10を順に断面図で示している。
このエアバッグ装置1Iでは、インナーバッグ30Aの配置の仕方が、第8の実施形態のエアバッグ装置1Hと相違する。また、アウターバッグ20も部分的に変更されている。ここでは、エアバッグ装置1Hとの相違点について説明する。
【0136】
エアバッグ10は、図示のように、排出口39のないインナーバッグ30Aを有する。アウターバッグ20のカバー26は、貫通孔26Aをベントホール21にオーバーラップさせて、アウターバッグ20の後基布23に縫製される。貫通孔26Aは、ベントホール21と一致する位置に配置される。筒状膨張部38の端部38Aは、エアバッグ10の膨張前に、アウターバッグ20内で、カバー26とアウターバッグ20との間に配置される(図23A参照)。筒状膨張部38は、カバー26内に配置された状態で、ベントホール21に重ねて配置される。これにより、筒状膨張部38は、ベントホール21の全体を覆って、ベントホール21を閉鎖する。
【0137】
インナーバッグ30Aが膨張すると、筒状膨張部38は、端部38Aまで膨張して、カバー26内でベントホール21を閉鎖する(図23B参照)。ベントホール21は、筒状膨張部38によりガスの排出が防止される。筒状膨張部38は、カバー26外に移動するときに、ベントホール21を開放する(図23C参照)。ベントホール21は、筒状膨張部38の移動により、徐々に開口面積が大きくなる。アウターバッグ20内のガスは、貫通孔26A及びベントホール21からアウターバッグ20外に排出される。
【0138】
筒状膨張部38は、インナーバッグ30A内に引き込まれるときに、カバー26をベントホール21に重ねる(図23D参照)。カバー26は、アウターバッグ20の後面に密着するとともに、貫通孔26Aをベントホール21に重ねて、完全に開放されたベントホール21からガスを排出させる。アウターバッグ20は、乗員91の前方で完全に膨張展開する(図23E参照)。エアバッグ装置1Iは、膨張の各段階におけるエアバッグ10により、乗員91を受け止める。
【0139】
このエアバッグ装置1Iでは、第7の実施形態のエアバッグ装置1Gと同様の効果が得られる。また、展開初期に、ベントホール21が筒状膨張部38により閉鎖されるため、アウターバッグ20内に供給されるガスの漏れ及び損失を防止して、ガスを有効に利用できる。これにより、インフレータ3の小型化や低出力化を実現できるため、エアバッグ装置1Iのコストを削減できる。また、ベントホール21は、筒状膨張部38がカバー26外に移動するときに開放されて、ガスの排出が可能になる。エアバッグ10は、最適なベントホール21の開口面積を確保して、乗員の衝撃を緩和する。
【0140】
ガスを有効利用するために、例えば、アウターバッグ20の容量を減少させ、或いは、ベントホール21を小さくするときには、エアバッグ10の衝撃吸収特性に影響が生じることがある。これに対し、エアバッグ装置1Iは、アウターバッグ20の容量とベントホール21の大きさを充分に確保できる。エアバッグ10は、容量とベントホール21からのガスの排出量に応じて、適切な衝撃吸収特性を発揮できる。
【0141】
(第10の実施形態)
図24は、第10の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Jと表す)を示す図である。図24では、膨張展開するエアバッグ10を順に断面図で示している。
このエアバッグ装置1Jでは、連結部材7の連結の仕方が、第9の実施形態のエアバッグ装置1Iと相違する。ここでは、エアバッグ装置1Iとの相違点について説明する。
【0142】
連結部材7の連結位置を、図示のように、アウターバッグ20の中心から所定方向(図では左方)にずらす。連結部材7は、流通口31を通して、アウターバッグ20の前面に対し、中心からずれた位置に連結される。インナーバッグ30Aが膨張すると(図24A参照)、筒状膨張部38は、端部38Aまで膨張する(図24B参照)。アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aの流通口31から供給されるガスにより膨張を開始する。その際、アウターバッグ20は、連結部材7が連結する側に比べて、その逆側(図24Bでは右側)が連結部材7による規制を受け難くなり、相対的に大きく膨張する。アウターバッグ20の大きく膨張する優先膨張部Yは、ガスが多く供給されて、優先して膨張する。
【0143】
アウターバッグ20は、連結部材7の連結位置に応じて、所定方向に向かって展開する(図24C参照)。連結部材7は、アウターバッグ20により引っ張られて、インナーバッグ30A内から、アウターバッグ20の展開方向に引き出される。インナーバッグ30Aの流通口31は、連結部材7に追従して、連結部材7が引き出される方向に向く。インナーバッグ30Aは、流通口31から、アウターバッグ20の展開方向にガスを流出する。これにより、アウターバッグ20は、優先膨張部Yの膨張が進行して、非対称に展開する。その後、アウターバッグ20は、乗員91の前方で完全に膨張展開する(図24D参照)。
【0144】
このエアバッグ装置1Jでは、第9の実施形態のエアバッグ装置1Iと同様の効果が得られる。また、連結部材7により、アウターバッグ20を非対称に展開させ、或いは、特定の方向に展開させることができる。連結部材7をアウターバッグ20へ連結する位置を変更することで、アウターバッグ20の展開挙動を調整することもできる。その結果、車両内におけるエアバッグ装置1Jの位置、又は、乗員91の位置に応じて、エアバッグ10を膨張展開させることができる。例えば、エアバッグ装置1Jを助手席の前方に配置するときに、アウターバッグ20内で、優先膨張部Yを乗員91側の部分に設ける。これにより、エアバッグ10を、乗員91へ向かって膨張展開させる。
【0145】
(第11の実施形態)
図25は、第11の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Kと表す)を示す図である。図25では、膨張展開するエアバッグ10を順に断面図で示している。
このエアバッグ装置1Kでは、インフレータ3の配置の仕方が、第9の実施形態のエアバッグ装置1Iと相違する。ここでは、エアバッグ装置1Iとの相違点について説明する。
【0146】
インナーバッグ30Aの流通口31は、図示のように、インフレータ3よりも大きく形成される。インフレータ3は、上記したように、一端部にガス噴出口を有する。インフレータ3の一端部は、流通口31を通して、インナーバッグ30A外(アウターバッグ20内)に配置される。インフレータ3は、アウターバッグ20内でガスを発生して、アウターバッグ20を膨張させる(図25A参照)。インナーバッグ30Aは、ガスが供給されずに、膨張前の形状に維持される。アウターバッグ20は、膨張に伴い、連結部材7を引っ張り、インナーバッグ30A内から連結部材7を引き出す(図25B参照)。その際、連結部材7が、インナーバッグ30Aの流通口31を引っ張り、インフレータ3の全体をインナーバッグ30A内に配置する(図25C参照)。インナーバッグ30Aは、インフレータ3から供給されるガスにより膨張する。その後、エアバッグ10は、第9の実施形態と同様に膨張展開する。
【0147】
このエアバッグ装置1Kでは、第9の実施形態のエアバッグ装置1Iと同様の効果が得られる。また、アウターバッグ20を最初に膨張させて、連結部材7によりインフレータ3をインナーバッグ30A内に配置する。これにより、インフレータ3が発生するガスを、インナーバッグ30A内に確実に供給できる。エアバッグ10を、円滑に展開させることもできる。
【0148】
(第12の実施形態)
図26は、第12の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Lと表す)を示す図である。図26では、膨張展開するエアバッグ10を順に断面図で示している。
このエアバッグ装置1Lでは、アウターバッグ20の構成が、第7の実施形態のエアバッグ装置1Gと相違する。ここでは、エアバッグ装置1Gとの相違点について説明する。
【0149】
アウターバッグ20は、図示のように、カバー26に覆われる位置に、ベントホール21が設けられずに、通過口25のみを有する。また、アウターバッグ20は、内部に押さえ部材50Aが設けられずに、外部に閉鎖部材70を有する。アウターバッグ20は、閉鎖部材70に覆われる位置(ここでは、後面)に、内部のガスを外部に排出するベントホール21を有する。カバー26は、貫通孔26Aが設けられず、内部に筒状膨張部38が配置される。筒状膨張部38の端部38Aは、通過口25を通ってアウターバッグ20外に配置される。
【0150】
閉鎖部材70は、帯状の基布からなり、ベントホール21上に配置されて、アウターバッグ20の外面に密着する。また、閉鎖部材70の一端は、ベントホール21の近傍で、アウターバッグ20に接合される。閉鎖部材70の他端は、通過口25を通ってカバー26内に挿入され、カバー26と筒状膨張部38との間に配置される。閉鎖部材70は、膨張した筒状膨張部38により一端が保持される。その状態で、閉鎖部材70は、ベントホール21に被さり、ベントホール21を閉鎖して、ベントホール21からのガスの排出を停止させる。
【0151】
インナーバッグ30Bが膨張すると、筒状膨張部38がカバー26内で膨張する(図26A参照)。筒状膨張部38の端部38Aは、アウターバッグ20外で排出口39を開放する。閉鎖部材70は、膨張した筒状膨張部38とカバー26に挟まれて保持され、ベントホール21を閉鎖した状態に維持する。また、閉鎖部材70は、カバー26内に引き込まれた筒状膨張部38により保持される(図26B、図26C参照)。端部38Aの排出口39は、インナーバッグ30B内から引き出される連結部材7により、アウターバッグ20内に引き込まれて閉鎖する。
【0152】
筒状膨張部38がインナーバッグ30B内に引き込まれるときに、閉鎖部材70は、筒状膨張部38による保持が解除される(図26D参照)。ここでは、筒状膨張部38がカバー26外へ移動したときに、閉鎖部材70は、筒状膨張部38とカバー26の間から出て、通過口25から抵抗なく抜け出す。これにより、閉鎖部材70は、ベントホール21を開放するとともに、ベントホール21から排出されるガスの流れにより、ベントホール21から離れる。続いて、アウターバッグ20が乗員91の前方で完全に膨張展開する(図26E参照)。アウターバッグ20内のガスは、ベントホール21から排出される。
【0153】
このエアバッグ装置1Lでは、第7の実施形態のエアバッグ装置1Gと同様の効果が得られる。展開初期に、ベントホール21が閉鎖部材70により閉鎖されるため、アウターバッグ20内に供給されるガスの漏れ及び損失を防止して、ガスを有効に利用することもできる。ベントホール21は、筒状膨張部38がインナーバッグ30B内に引き込まれるときに開放されて、ガスの排出が可能になる。エアバッグ10は、最適なベントホール21の開口面積を確保して、乗員の衝撃を緩和する。
【0154】
ここでは、閉鎖部材70を、アウターバッグ20の一部を構成するカバー26と筒状膨張部38により挟んで保持している。これに対し、閉鎖部材70は、アウターバッグ20の後面とカバー26に挟んで保持するようにしてもよい。インナーバッグ30Bは、排出口39がないインナーバッグ30Aに変更してもよい。この場合には、エアバッグ10の膨張前に、筒状膨張部38の端部38Aを、カバー26内に配置してもよい。
【0155】
(第13の実施形態)
図27は、第13の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Mと表す)を示す図である。図27では、膨張展開するエアバッグ10を順に断面図で示している。
このエアバッグ装置1Mでは、インナーバッグ30Aの配置の仕方が、第1の実施形態のエアバッグ装置1Aと相違する。また、アウターバッグ20の構成も部分的に相違する。ここでは、エアバッグ装置1Aとの相違点について説明する。
【0156】
アウターバッグ20は、図示のように、アウターバッグ20の内方に突出する筒状のガス通路71を有する。ガス通路71は、筒状に形成した基布からなり、アウターバッグ20の後面の2箇所に設けられている。ガス通路71の両端は、それぞれアウターバッグ20の外部と内部に向かって開口する。ガス通路71は、ガスの排出路であり、アウターバッグ20内のガスを外部に排出する。インナーバッグ30の筒状膨張部38は、内方に突出するガス通路71内に配置され、ガス通路71内で膨張してガス通路71に密着する。これにより、筒状膨張部38は、ガス通路71を塞ぎつつ、ガス通路71をアウターバッグ20内に保持する。
【0157】
インナーバッグ30Aが膨張すると(図27A参照)、筒状膨張部38がガス通路71内で膨張する(図27B参照)。筒状膨張部38は、ガス通路71を保持して、ガス通路71の反転を抑制する。ガス通路71は、膨張した筒状膨張部38により閉鎖される(図27C参照)。筒状膨張部38は、連結部材7によりインナーバッグ30A内に引き込まれて、アウターバッグ20内に移動する(図27D参照)。ガス通路71は、筒状膨張部38による抵抗がなくなり、アウターバッグ20内のガスの圧力により反転を開始する。
【0158】
このように、筒状膨張部38は、インナーバッグ30A内に引き込まれるときに、ガス通路71外に移動してガス通路71を反転させる(図27E参照)。ガス通路71は、ガスの圧力により反転して、アウターバッグ20の外方に向かって突出して、アウターバッグ20の外部に向かって開放される。続いて、アウターバッグ20が乗員91の前方で完全に膨張展開する。アウターバッグ20内のガスは、ガス通路71から排出される。
【0159】
このエアバッグ装置1Mでは、第1の実施形態のエアバッグ装置1Aと同様の効果が得られる。連結部材7は、筒状膨張部38をアウターバッグ20内まで引き込むための力により、引き出しが抑制される。その結果、連結部材7により、アウターバッグ20の前面の移動を確実に規制できる。展開初期に、ガス通路71が膨張した筒状膨張部38により閉鎖されるため、アウターバッグ20内に供給されるガスの漏れ及び損失を防止して、ガスを有効に利用できる。ガス通路71は、筒状膨張部38がインナーバッグ30A内に引き込まれるときに開放されて、ガスの排出が可能になる。エアバッグ10は、ガス通路71からガスを排出して、乗員の衝撃を緩和する。なお、インナーバッグ30Aは、排出口39が設けられたインナーバッグ30Bに変更してもよい。
【0160】
以上説明した複数の実施形態のエアバッグ装置1において、インナーバッグ30を押さえる押さえ部材50を有さないエアバッグ10に、押さえ部材50Aを設けるようにしてもよい。これに対し、押さえ部材50Aを有するエアバッグ10に、押さえ部材50Aを設けないようにしてもよい。排出口39が設けられたインナーバッグ30Bを有するエアバッグ10で、OOP状態の乗員91への対応が不要であるときには、インナーバッグ30Bを、排出口39がないインナーバッグ30Aに変更してもよい。この場合には、ガスがアウターバッグ20外へ排出されないため、インフレータ3が発生するガスを有効に利用して、エアバッグ10を素早く膨張展開させることができる。
【符号の説明】
【0161】
1・・・エアバッグ装置、2・・・エアバッグカバー、3・・・インフレータ、4・・・クッションリング、5・・・リアクションプレート、6・・・ロックナット、7・・・連結部材、10・・・エアバッグ、11・・・取付口、12・・・挿入孔、13・・・補強布、14・・・補強布、15・・・保護布、20・・・アウターバッグ、21・・・ベントホール、22・・・前基布、23・・・後基布、24・・・気室、25・・・通過口、26・・・カバー、27・・・補強カバー、30・・・インナーバッグ、31・・・流通口、34・・・気室、35・・・前基布、36・・・後基布、37・・・球状膨張部、38・・・筒状膨張部、39・・・排出口、50・・・押さえ部材、51・・・開口部、52・・・帯状部材、53・・・貫通孔、60〜62・・・空間、70・・・閉鎖部材、71・・・ガス通路、90・・・ステアリングホイール、91・・・乗員、92・・・運転席。
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載されて、乗員を保護するエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の緊急時や衝突時に乗員を保護するため、エアバッグ装置が使用されている。エアバッグ装置は、例えば、ステアリングホイールに取り付けられて、運転席の前方で、エアバッグを膨張展開させる。運転席の乗員は、前方のエアバッグにより受け止められて拘束される。このエアバッグ装置として、従来、エアバッグ内を複数室に区画して、エアバッグを側方に早期に広がらせるエアバッグ装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この従来のエアバッグ装置は、インナーパネルによりエアバッグの中央に第1室を区画し、セパレートパネルにより第1室の周囲に第2室と第3室を区画する。ところが、このエアバッグ装置では、インフレータが発生する高圧のガスにより、第1室が乗員に向かって膨張した後に、第2室と第3室が順に膨張する。そのため、エアバッグの展開初期に、第1室が勢いよく突き出して乗員に接触して、乗員が受ける衝撃が大きくなる虞がある。特に、乗員がステアリングホイールに接近しているときには、乗員の衝撃がより大きくなる。
【0004】
また、この従来のエアバッグ装置では、エアバッグは、インナーパネルが完全に伸びたときに突き出しが急激に止められて、インナーバッグの長さに応じた厚さに膨張する。そのため、インナーパネルが長すぎると、エアバッグが突き出す距離も長くなり、乗員の危険も大きくなる虞がある。これに対し、インナーパネルが短すぎると、エアバッグが薄くなるため、乗員を受け止められずに、乗員がステアリングホイールに当たる虞がある。また、インナーパネルが急停止するときの反動で、エアバッグが乗員方向に伸び縮みしてバウンドすることがある。
【0005】
図28は、バウンドする従来のエアバッグを示す側面図である。図28A、28Bでは、ステアリングホイールとエアバッグに接触する乗員も示している。
従来のエアバッグ100は、図示のように、膨張展開した後に、ステアリングホイール90上でバウンド(図28Aの矢印W)することがある。これに伴い、エアバッグ100は、形状が安定せず、最も厚い形状V1と最も薄い形状V2の間で変動することで、性能も不安定になる。また、例えば、乗員91(図28B参照)が、最も薄い形状V2のエアバッグ100に接触すると、エアバッグ100が乗員91の衝撃やエネルギーを吸収するストローク(吸収ストローク)が不足する虞もある。従って、従来のエアバッグ100は、より安定して膨張展開して、乗員91を安全に拘束する観点から、改良が求められている。
【0006】
また、従来のエアバッグ100では、インナーパネル(図示せず)の結合部に大きな負荷がかかるため、結合部の強度を増加させる必要がある。例えば、縫製による結合では、補強布の追加や、糸の太さ又は形状の変更により縫製の強度を強くする必要がある。そのため、従来のエアバッグ100は、製造の手間やコストが増加するという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−284026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来の問題に鑑みなされたもので、その目的は、エアバッグが乗員に向かって勢いよく突き出すのを防止して、エアバッグを安定して膨張展開させ、エアバッグにより乗員を安全に拘束することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ガスにより膨張展開して車両の乗員を保護するエアバッグと、エアバッグにガスを供給するインフレータとを備えたエアバッグ装置であって、エアバッグが、インフレータから供給されるガスにより膨張するとともに、ガスの流通口が設けられたインナーバッグと、インナーバッグを収容してインナーバッグの流通口から供給されるガスにより膨張するアウターバッグと、インナーバッグ内に配置されてインナーバッグの内面をアウターバッグの前面に連結する連結部材とを有し、連結部材が、アウターバッグの膨張に伴い、膨張したインナーバッグ内から引き出されてアウターバッグの前面を乗員方向へ移動させるエアバッグ装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エアバッグが乗員に向かって勢いよく突き出すのを防止して、エアバッグを安定して膨張展開させることができ、エアバッグにより乗員を安全に拘束することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】エアバッグ装置を設けたステアリングホイールを示す正面図である。
【図2】第1の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図3】図2のエアバッグ装置を分解して示す斜視図である。
【図4】第1の実施形態のインナーバッグの斜視図である。
【図5】膨張展開するエアバッグを順に示す断面図である。
【図6】乗員を保護するエアバッグ装置を示す側面図である。
【図7】第2の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図8】図7のエアバッグ装置を分解して示す斜視図である。
【図9】膨張展開するエアバッグを順に示す断面図である。
【図10】第3の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図11】第3の実施形態のインナーバッグの斜視図である。
【図12】膨張展開するエアバッグを順に示す断面図である。
【図13】乗員を保護するエアバッグ装置を示す側面図である。
【図14】第4の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図15】図14のエアバッグ装置を分解して示す斜視図である。
【図16】膨張展開するエアバッグを順に示す断面図である。
【図17】第5の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図18】第6の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図19】第7の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図20】図19のエアバッグ装置を分解して示す斜視図である。
【図21】膨張展開するエアバッグを順に示す断面図である。
【図22】第8の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図23】第9の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図24】第10の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図25】第11の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図26】第12の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図27】第13の実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
【図28】バウンドする従来のエアバッグを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のエアバッグ装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
このエアバッグ装置は、車両内に配置されて、膨張展開するエアバッグにより乗員を受け止めて保護する。また、エアバッグ装置は、例えば、車両内で、運転席や助手席等のシートの周囲に設けられて、シートに座った乗員を保護する。以下では、運転席前方のステアリングホイールに配置されたエアバッグ装置を例に採り説明する。
【0013】
図1は、エアバッグ装置を設けたステアリングホイールを示す正面図である。図1では、ステアリングホイールを乗員側から見て示している。
エアバッグ装置1は、図示のように、ステアリングホイール90の中央部に搭載されて、乗員の前方に配置される。また、エアバッグ装置1は、表面を覆うエアバッグカバー2を備え、エアバッグカバー2内に所定状態に折り畳まれたエアバッグ(図示せず)が収容されている。エアバッグは、膨張によりエアバッグカバー2を押し開いて車室内で展開し、ステアリングホイール90と乗員の間で膨張展開する。その際、エアバッグは、乗員の位置する方向(乗員方向という)と側方に向けて膨張して、ステアリングホイール90を覆うように展開する。
【0014】
(第1の実施形態)
図2は、第1の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Aと表す)を示す図であり、図1の矢印X方向から見たエアバッグ装置1Aを模式的に示している。また、図2では、展開(膨張)初期のエアバッグ10を断面図で示している。図3は、図2のエアバッグ装置1Aを分解して示す斜視図であり、エアバッグ装置1Aの各構成を上下方向に離して示している。図3では、矢印により、組み合わされる構成の関係や構成同士の組み合わせ位置も示している。
【0015】
エアバッグ装置1Aは、図示のように、膨張展開可能なエアバッグ10と、インフレータ3と、エアバッグ10内に配置されたクッションリング4と、リアクションプレート5(図2では省略する)とを備えている。エアバッグ10は、インフレータ3から供給されるガスにより、乗員に向かって膨張展開して車両の乗員を保護する。
【0016】
インフレータ3は、ディスクタイプのガス発生装置であり、厚さ方向の一端部の外周に、複数のガス噴出口(図示せず)を有する。インフレータ3は、一端部がエアバッグ10に形成された取付口11からエアバッグ10内に挿入された状態で、取付口11に取り付けられる。インフレータ3は、車両緊急時や衝撃検知時に、エアバッグ10内でガスを発生して、エアバッグ10にガスを供給する。その際、インフレータ3は、複数のガス噴出口から放射状にガスを噴き出して、エアバッグ10を、所定の折り畳み形状から膨張展開させる。
【0017】
クッションリング4は、矩形板状をなし、中央部に、インフレータ3が挿入される孔4A(図3参照)を有する。また、クッションリング4には、4つのボルト4Bが、孔4Aの周りに固定されている。クッションリング4は、エアバッグ10の取付口11の周囲を、リアクションプレート5との間に挟み込んで、エアバッグ10をリアクションプレート5に固定する。その際、まず、ボルト4Bを、エアバッグ10の各部材に設けられた挿入孔12に挿入して、エアバッグ10の各部材をボルト4Bにより仮止めする。続いて、ボルト4Bを、リアクションプレート5の取付孔(図示せず)に挿入した後、インフレータ3をリアクションプレート5に取り付ける。インフレータ3は、挿入孔3Aにボルト4Bが挿入される。次に、ロックナット6により、ボルト4Bをリアクションプレート5に固定することで、クッションリング4、エアバッグ10、及び、インフレータ3をリアクションプレート5に固定する。
【0018】
リアクションプレート5は、矩形状の枠体からなり、一方の面にクッションリング4とエアバッグ10が、他方の面にインフレータ3が取り付けられる。また、リアクションプレート5の内部には、折り畳まれたエアバッグ10が配置される。リアクションプレート5は、エアバッグ10を覆うエアバッグカバー2が取り付けられた後、ステアリングホイール90に固定される。
【0019】
エアバッグ10は、補強布13、14と、保護布15と、アウターバッグ20とを有する。また、エアバッグ10は、アウターバッグ20内に配置されたインナーバッグ30(以下、この形態のインナーバッグには30Aを付す)と、インナーバッグ30A内に配置された連結部材7とを有する。エアバッグ10の各構成は、例えば織布やシートを裁断して形成した基布からなる。補強布13、14と保護布15は、中央に取付口11が形成された円形状をなし、クッションリング4とリアクションプレート5の間の所定位置に配置される。
【0020】
アウターバッグ20とインナーバッグ30Aは、それぞれエアバッグ10の外側膨張部と内側膨張部を構成する。クッションリング4は、アウターバッグ20とインナーバッグ30Aの取付口11から、インナーバッグ30A内に挿入される。アウターバッグ20とインナーバッグ30Aは、クッションリング4によりリアクションプレート5に固定されて、取付口11の周囲が、クッションリング4とリアクションプレート5の間に保持される。
【0021】
以下、エアバッグ10の各構成について順に詳しく説明する。なお、本発明では、アウターバッグ20、インナーバッグ30、及び、エアバッグ10に関して、それぞれ車両内で、乗員側(図2、図3では上側)になる部分を前面、車体側(図2、図3では下側)になる部分を後面という。また、アウターバッグ20とインナーバッグ30に関して、それぞれエアバッグ10として組み立てられた状態で、外側になる面を外面、内側になる面を内面という。
【0022】
インナーバッグ30Aは、インフレータ3の一端部が内部に配置され、インフレータ3から供給されるガスにより膨張する。インナーバッグ30Aの前面には、ガスを流通させる流通口31が少なくとも1つ(ここでは、1つ)設けられている。インナーバッグ30Aは、インフレータ3からのガスにより最初に膨張を開始し、流通口31を通してアウターバッグ20内にガスを供給する。
【0023】
インナーバッグ30Aは、前面を構成する前基布(前面パネル)35と、後面を構成する後基布(後面パネル)36とを有する。両基布35、36は、同じ形状に形成されており、円形部35A、36Aと、少なくとも1つ(ここでは、2つ)の矩形部35B、36Bとからなる。2つの矩形部35B、36Bは、円形部35A、36Aから逆方向に向かって延びるように、円形部35A、36Aの外周に一体に形成されている。両基布35、36は、外縁に沿って、縫製や接着(ここでは、縫製)により接合される。これにより、円形部35A、36A及び2つの矩形部35B、36Bが、それぞれ接合される。
【0024】
インナーバッグ30Aは、両基布35、36により内外が区画されて、内部に気室34が形成される。また、インナーバッグ30Aには、円形部35A、36Aにより球状膨張部(本体膨張部)37が形成され、矩形部35B、36Bにより筒状膨張部38が形成される。球状膨張部37と筒状膨張部38の内部は、互いに連通して気室34を構成する。流通口31は、前基布35(円形部35A)の中央に設けられて、インナーバッグ30A内のガスを乗員方向に流出させる。後基布36の内面には、保護布15が取り付けられる。保護布15は、後基布36とクッションリング4の間に配置されて、クッションリング4から後基布36を保護する。後基布36は、中央に設けられた取付口11に、インフレータ3が取り付けられる。
【0025】
図4は、インナーバッグ30Aの斜視図である。図4Aに、膨張前のインナーバッグ30Aを示し、図4Bに、膨張後のインナーバッグ30Aを示す。
膨張前のインナーバッグ30Aは、図4Aに示すように、前基布35と後基布36が重ねて配置されて、平面形状をなす。膨張後のインナーバッグ30Aは、図4Bに示すように、基布35、36内の気室34にガスが充填されて、立体形状に膨張する。その際、球状膨張部37は、インフレータ3から供給されるガスにより、インナーバッグ30Aの中心で球形状に膨張する。筒状膨張部38は、球状膨張部37から供給されるガスにより、球状膨張部37から外方に向かって筒状に膨張する。
【0026】
このように、インナーバッグ30Aは、膨張状態から収縮可能及び変形可能な球状膨張部37と筒状膨張部38を有する。筒状膨張部38は、インナーバッグ30Aに少なくとも1つ設けられ、膨張時にインナーバッグ30Aの外方に突出する。ここでは、2つの筒状膨張部38が、インナーバッグ30Aの側方に向かって、かつ、互いに逆方向に突出する。
【0027】
アウターバッグ20(図2、図3参照)は、正面視円形状の袋体である。また、アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aを内部に収容するメインバッグであり、インナーバッグ30Aの流通口31から供給されるガスにより膨張する。アウターバッグ20の後面には、内部のガスを外部に排出するベントホール21が少なくとも1つ(ここでは、2つ)設けられている。アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aに続いて膨張を開始して、インナーバッグ30Aの周りで、それよりも大きく膨張する。
【0028】
アウターバッグ20は、前面を構成する前基布(前面パネル)22と、後面を構成する後基布(後面パネル)23とを有する。両基布22、23は、同じ直径の円形状に形成され、外周に沿って接合される。アウターバッグ20は、両基布22、23により内外が区画されて、内部に気室24が形成される。ベントホール21は、後基布23の2箇所に形成されて、アウターバッグ20内のガスを車体の位置する方向(車体方向という)に排出する。後基布23の内外面には、補強布13、14が取り付けられる。補強布13、14は、取付口11の周囲を補強して、インフレータ3が発生するガスや熱から後基布23を保護する。
【0029】
インナーバッグ30Aとアウターバッグ20は、インフレータ3が位置する後面で連結された状態で膨張する。また、インナーバッグ30Aとアウターバッグ20は、乗員の前方において、インフレータ3から乗員方向と側方に向かって展開する。その際、まず、アウターバッグ20内で、インフレータ3を収容するインナーバッグ30Aが膨張して、その全体が膨張展開する。アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aの外部で次第に膨張して、インナーバッグ30Aの膨張完了後の所定のタイミングで、全体が膨張展開する。また、アウターバッグ20は、連結部材7により膨張と展開が規制されて、側方に広がってから乗員方向に次第に膨張する。
【0030】
連結部材7は、テザーベルトであり、インナーバッグ30A内に配置されて、インナーバッグ30Aの内面の所定位置に接合されている。また、連結部材7は、流通口31内の位置で、アウターバッグ20の前面に接合されている。これにより、連結部材7は、インナーバッグ30Aの内面をアウターバッグ20の前面に連結する。連結部材7は、エアバッグ10の膨張前に、インナーバッグ30A内で、前基布35と後基布36の間に配置される。
【0031】
ここでは、連結部材7は、帯状部材(帯状布)からなり、インナーバッグ30Aの基布35、36と同じ長さに形成されている。連結部材7は、筒状膨張部38内まで配置されて、両端部7Aが、それぞれ筒状膨張部38の端部38Aに接合されている。また、連結部材7は、インナーバッグ30Aの流通口31を通して、アウターバッグ20の前面(前基布22)に連結される。連結部材7とアウターバッグ20の前基布22は、中央の連結部7Bで円形状に縫製されて、互いに接合される。
【0032】
エアバッグ10の膨張時に、連結部材7は、膨張したインナーバッグ30Aにより両端部7Aが引っ張られて、インナーバッグ30A内に保持される。連結部材7は、アウターバッグ20の膨張中に、アウターバッグ20の連結部7Bに張力を作用させて、アウターバッグ20の前面を引っ張る。これにより、連結部材7は、アウターバッグ20の前面の乗員方向への移動を止めて、前面の移動を規制する。また、連結部材7は、アウターバッグ20の膨張に伴い、アウターバッグ20の前面に引っ張られて、膨張したインナーバッグ30A内から乗員方向へ次第に引き出される。連結部材7は、インナーバッグ30A外へ引き出される間に、アウターバッグ20の前面を乗員方向へ徐々に移動させる。
【0033】
このように、アウターバッグ20の前面は、連結部材7とインナーバッグ30Aにより、中央の連結部7Bを中心に乗員方向への移動が規制される。アウターバッグ20は、連結部材7から受ける張力により膨張と展開が規制されて、側方に広がってから乗員方向に次第に膨張する。アウターバッグ20の膨張時に、連結部材7は、インナーバッグ30Aの内面を引っ張ることで、インナーバッグ30Aを収縮させる。連結部材7は、筒状膨張部38内に連結されており、インナーバッグ30A内から引き出されるときに、膨張した筒状膨張部38を引っ張る。これにより、連結部材7は、筒状膨張部38をインナーバッグ30A内に引き込んで、筒状膨張部38を反転させる。
【0034】
次に、エアバッグ装置1A(図3参照)の製造手順について説明する。
アウターバッグ20に関しては、まず、2つの補強布13、14を後基布23の内外面に縫製(図3では、各縫製部を点線で示す)する。次に、両基布22、23の外面を重ね合わせて、両基布22、23を外周に沿って縫製する。その後、両基布22、23を、取付口11を通して反転させる。なお、図3では、アウターバッグ20及びインナーバッグ30Aを反転させた後における各構成の配置状態を示している。
【0035】
インナーバッグ30Aに関しては、まず、保護布15を後基布36の内面に縫製する。次に、両基布35、36の外面を重ね合わせて、前基布35の内面に連結部材7を置き、両基布35、36を外縁に沿って縫製する。同時に、連結部材7の両端部7Aを、基布35、36に縫製する。その後、両基布35、36を、取付口11を通して反転させて、連結部材7をインナーバッグ30A内に配置する。筒状膨張部38は、インナーバッグ30Aから外方に突出するように配置する。続いて、インナーバッグ30Aを、アウターバッグ20の取付口11からアウターバッグ20内に挿入する。球状膨張部37とアウターバッグ20は、同芯状に配置する。連結部材7は、連結部7Bで、アウターバッグ20の前基布22に縫製する。連結部材7と前基布22は、各取付口11とインナーバッグ30Aの流通口31の位置を合わせて、取付口11と流通口31の内側で縫製する。
【0036】
次に、クッションリング4を、取付口11からインナーバッグ30A内に挿入する。また、ボルト4Bにより、インナーバッグ30Aとアウターバッグ20を仮止めする。このインナーバッグ30Aとアウターバッグ20からなるエアバッグ10を、クッションリング4により、リアクションプレート5に取り付ける。続いて、インフレータ3をリアクションプレート5に取り付けて、ロックナット6をボルト4Bにはめ込む。これにより、クッションリング4、エアバッグ10、及び、インフレータ3をリアクションプレート5に固定する。次に、エアバッグ10を折り畳んでリアクションプレート5内へ配置する。ただし、エアバッグ10は、リアクションプレート5への固定前に、予め折り畳んでおいてもよい。
【0037】
最後に、エアバッグカバー2(図3では図示せず)をリアクションプレート5に取り付けて、エアバッグ装置1Aの製造が完了する。エアバッグ装置1Aは、ステアリングホイール90(図1参照)に取り付けられた後、車両の緊急時等にインフレータ3を作動させてガスを発生させる。このガスにより、エアバッグ10を、折り畳み形状を解消させつつ膨張させて、ステアリングホイール90を覆うように膨張展開させる。
【0038】
図5は、膨張展開するエアバッグ10を順に示す断面図である。図5では、各段階のエアバッグ10を、図2に対応させて示している。
エアバッグ10の展開初期では、まず、インナーバッグ30Aが、インフレータ3から供給されるガスにより膨張する(図5A参照)。インナーバッグ30Aは、球状膨張部37から筒状膨張部38の端部38Aまで膨張する(図5B参照)。連結部材7は、端部38Aに引っ張られて、インナーバッグ30A内に保持される。また、連結部材7は、アウターバッグ20の前面に張力を作用させて、前面を乗員方向の逆方向(車体方向)に引っ張る。アウターバッグ20の前面は、連結部材7により乗員方向への移動が妨げられる。その結果、アウターバッグ20は、乗員方向への膨張や突き出しが抑制され、乗員方向に対して側方に大きく膨張する。エアバッグ10の中央部は、アウターバッグ20の膨張により、乗員方向に勢いよく突き出すことなく所定厚さに膨張する。
【0039】
アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aの流通口31から供給されるガスにより膨張を開始する。その際、アウターバッグ20は、連結部材7により乗員方向の膨張が規制されるため、側方に優先的に膨張して、外方に広がるように広範囲に展開する。また、アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aを中心に、側方全体に均等に膨張する。次に、アウターバッグ20は、内圧の上昇に伴い、乗員方向に膨張して厚さが増加する。
【0040】
インナーバッグ30Aは、膨張が完了した後、流通口31からガスを流出させて、ガスをアウターバッグ20の全体に供給する。その結果、アウターバッグ20の内圧が徐々に高くなり、インナーバッグ30Aの内外の圧力差が小さくなる。これに伴い、インナーバッグ30Aの剛性及び膨張形状を保持する力が低下する(図5C参照)。また、インナーバッグ30Aは、ガスの流出により徐々に収縮して、容積の減少と外径の縮小が進行する。その間に、連結部材7は、膨張するアウターバッグ20により乗員方向に引っ張られて、流通口31を通って、インナーバッグ30A内から引き出される。
【0041】
アウターバッグ20の前面は、連結部材7により乗員方向への移動が規制され、連結部材7の引き出し量に応じて乗員方向へ移動する(図5D参照)。これに伴い、アウターバッグ20は、乗員方向へ次第に膨張する。連結部材7は、筒状膨張部38の端部38Aを引っ張り、筒状膨張部38をインナーバッグ30A内に引き込む。筒状膨張部38は、インナーバッグ30A内に向かって変形して、次第に反転する(図5E参照)。連結部材7は、筒状膨張部38とインナーバッグ30Aを収縮させて、インナーバッグ30A外に引き出される。連結部材7とインナーバッグ30Aは、アウターバッグ20の前後面間で伸ばされる。これにより、アウターバッグ20が、乗員の前方で完全に膨張展開する。
【0042】
インナーバッグ30Aと筒状膨張部38は、膨張の張力により変形が抑制される。そのため、連結部材7には、インナーバッグ30Aを収縮させるための力や筒状膨張部38を引き込むための力により、引き出しに対する抵抗が付加される。連結部材7は、インナーバッグ30Aから受ける抵抗により、インナーバッグ30Aからの引き出しが抑制されて、徐々に引き出される。その結果、連結部材7は、アウターバッグ20の前面に張力を付加した状態で、アウターバッグ20の前面を徐々に移動させる。また、連結部材7とインナーバッグ30Aは、アウターバッグ20の前面と後面の間でテザーベルトとして機能して、アウターバッグ20の前面を停止させる。アウターバッグ20は、連結部材7とインナーバッグ30Aにより膨張が制限されて、所定厚さに膨張するとともに、前面が乗員前方の所定位置に配置される。
【0043】
エアバッグ装置1Aは、膨張展開したアウターバッグ20(エアバッグ10)により、乗員を受け止めて保護する。ここでは、エアバッグ10により、乗員の上体を主に受け止めて拘束するとともに、衝撃エネルギーを吸収して乗員の衝撃を緩和する。また、エアバッグ10は、乗員を受け止めたときに、アウターバッグ20のベントホール21からガスを排出して、乗員の衝撃を緩和する。
【0044】
以上説明したように、このエアバッグ装置1Aでは、連結部材7とインナーバッグ30Aにより、アウターバッグ20の前面の移動を規制して、前面を乗員方向に徐々に移動させることができる。また、エアバッグ10が、展開初期に、乗員に向かって勢いよく突き出すのも防止できる。更に、アウターバッグ20の展開初期から後期まで、連結部材7とインナーバッグ30Aにより、アウターバッグ20の前面に安定した抵抗を付加できる。その結果、アウターバッグ20の前面も安定して移動するため、エアバッグ10を、部分的な突き出しや速度の速い突き出しを起こさずに、徐々に厚く膨張させることができる。従って、エアバッグ10が乗員に勢いよく接触するのを防止できるとともに、エアバッグ10が乗員に接触するときの衝撃を低減できる。乗員がステアリングホイール90に接近しているときでも、乗員の受ける衝撃を大幅に低減できる。
【0045】
エアバッグ10の部分的な突き出しを抑制できるため、エアバッグ10の前面を比較的平らに移動させることができる。これにより、乗員を広い面積で受け止めて安全に拘束できる。エアバッグ10が乗員方向に徐々に膨張するため、膨張完了後に、エアバッグ10が乗員方向に伸び縮みするのを抑制できる。その結果、エアバッグ10のバウンドが軽減して、エアバッグ10を安定して膨張展開させることができる。これに伴い、エアバッグ10の膨張形状及び前面の位置が早期に安定して、エアバッグ10の性能も安定するため、膨張展開直後においても、乗員を安全に拘束できる。乗員が接触する際に、常に、有効な吸収ストロークをエアバッグ10に確保できるため、乗員の衝撃やエネルギーを確実に吸収できる。
【0046】
連結部材7とインナーバッグ30Aがテザーベルトとして機能するため、エアバッグ10を設定された厚さと形状に膨張展開させることができる。エアバッグ10の膨張展開後の変動も抑制できる。また、エアバッグ10の乗員方向の膨張を規制して、乗員に対する安全性を向上できる。連結部材7を設けずに、インナーバッグ30Aのみをテザーベルトとして利用するときには、エアバッグ10の厚さを確保するために、インナーバッグ30Aを大きくする必要がある。これに対し、連結部材7を設けることで、小さなインナーバッグ30Aでも、エアバッグ10を必要な厚さに膨張させることができる。
【0047】
連結部材7が、インナーバッグ30Aから抵抗を受けつつ徐々に引き出されるため、連結部材7、アウターバッグ20、及び、インナーバッグ30Aに急激に大きな負荷がかかることがない。各接合部の負荷も小さくなるため、接合部の強度は比較的低くてよい。そのため、各部材や接合部の仕様又は条件の制約が大幅に緩和されて、様々な設計が可能にある。縫製部、リアクションプレート5、又は、クッションリング4を簡略化することもできる。従って、エアバッグ10を製造する手間を削減して、生産性を向上できるとともに、エアバッグ10の製造コストを低減できる。連結部材7には、筒状膨張部38をインナーバッグ30A内に引き込むときに、筒状膨張部38から抵抗が付加される。そのため、連結部材7により、アウターバッグ20の前面の移動を確実かつ強固に規制できる。
【0048】
以上のように、エアバッグ装置1Aによれば、エアバッグ10が乗員に向かって勢いよく突き出すのを防止して、エアバッグ10を安定して膨張展開させることができる。また、エアバッグ10により乗員を安全に拘束して保護することができる。更に、エアバッグ装置1Aは、運転席に座る乗員の状態の違いにも対応して、各状態の乗員を保護できる。
【0049】
図6は、乗員を保護するエアバッグ装置1Aを示す側面図であり、体格に差がある2人の乗員91(91A、91B)を示している。
大柄な乗員91A(図6A参照)が運転席92に座ると、乗員91Aの位置が車両内の後方になり、乗員91Aとエアバッグ装置1Aの距離L1が長くなる。小柄な乗員91B(図6B参照)が運転席92に座ると、乗員91Bの位置が車両内の前方になり、乗員91Bとエアバッグ装置1Aの距離L2が短くなる。そのため、小柄な乗員91Bは、大柄な乗員91Aよりも早いタイミングでエアバッグ10に接触する。
【0050】
エアバッグ10は、上記したように、危険な突き出し(図6C、6Dでは点線で示す)が生じることなく、前面が平面状を維持するようにして、乗員方向に徐々に膨張する。そのため、エアバッグ10は、突き出しにより各乗員91A、91Bを害することなく、乗員91A、91Bを適切に受け止めて保護できる。その際、大柄な乗員91A(図6C参照)は、正常に膨張展開したエアバッグ10に接触して保護される。
【0051】
小柄な乗員91B(図6D参照)は、膨張展開途中のエアバッグ10に接触して保護される。この乗員91Bは、エアバッグ10が充分に膨張したときに、平面状のエアバッグ10に接触するため、エアバッグ10により安全に保護される。このように、エアバッグ装置1Aは、乗員91の状態に関係なく、必要な吸収ストロークをエアバッグ10に確保して、乗員91を害することなく保護できる。また、エアバッグ10は、乗員91を拘束する性能が高く、特に、高い初期拘束性能が得られるため、各状態の乗員91を安全に拘束できる。
【0052】
ここで、アウターバッグ20は、連結部材7により乗員方向の膨張が規制されて、側方に優先して膨張する。そのため、乗員91が運転席92から離れてエアバッグ10に近接しているときでも、エアバッグ10の突き出しにより乗員91が害されるのを抑制できる。乗員91がステアリングホイール90に密着しているときでも、インナーバッグ30Aの膨張により生じる乗員91とステアリングホイール90の間の僅かな空間から、アウターバッグ20が側方に膨張する。これにより、エアバッグ10が、乗員91とステアリングホイール90の間で展開して、乗員91を保護する。
【0053】
また、アウターバッグ20は、側方に素早く膨張して、短時間で広範囲に展開する。そのため、乗員91が高速でエアバッグ10に進入するときでも、エアバッグ10により乗員91を確実に受け止めることができる。乗員91が展開途中のエアバッグ10に進入したときには、乗員91は、高い内圧を保持するインナーバッグ30Aでも受け止められる。その際、インナーバッグ30Aは、乗員91の衝撃やエネルギーを吸収し、かつ、乗員91がステアリングホイール90に接触するのを防止する。
【0054】
エアバッグ10の展開初期の厚さは、膨張時のインナーバッグ30Aの高さにより設定できる。例えば、乗員91とエアバッグ装置1Aとの距離に応じて、エアバッグ10の展開初期の厚さを薄くすることで、乗員91が受ける危険を低減できる。その後、連結部材7がインナーバッグ30A内から引き出されることで、アウターバッグ20が完全に膨張して厚くなる。これにより、エアバッグ10は、最大の吸収ストロークを得て、乗員91を安全に受け止める。エアバッグ10は、インナーバッグ30Aの膨張、アウターバッグ20の側方への膨張、アウターバッグ20の完全膨張という段階を経て次第に膨張展開する。その間、エアバッグ10は、充分な内圧を維持しながら容量が増加するため、常に、高い乗員91の拘束性能を発揮する。
【0055】
エアバッグ10の展開性能は、膨張したインナーバッグ30Aの大きさ、連結部材7の長さ、連結部材7の連結位置を変更することで細かく調整できる。これら各変更は比較的簡単に行えるため、エアバッグ10の展開性能や展開の仕方は容易に調整できる。
【0056】
なお、筒状膨張部38は、インナーバッグ30Aから所定方向(例えば、下方や上方)に突出させて、インナーバッグ30Aに1つ設けてもよい。或いは、筒状膨張部38は、インナーバッグ30Aから放射状に突出させて、インナーバッグ30Aに3つ以上設けてもよい。即ち、筒状膨張部38は、インナーバッグ30Aに1つ又は3つ以上設けてもよい。また、インナーバッグ30Aは、種々の形状、例えば球形状、楕円体形状、又は、角錐形状に形成してもよい。
【0057】
連結部材7は、紐状やリボン状等、帯状以外の形状に形成してもよい。連結部材7は、筒状膨張部38内で端部38A以外の位置に連結してもよく、インナーバッグ30A内で筒状膨張部38以外の位置に連結してもよい。連結部材7は、インナーバッグ30A内の1箇所又は3箇所以上に連結してもよい。連結部材7は、インナーバッグ30Aに設けた流通口31以外の開口を通してアウターバッグ20に連結してもよい。ただし、連結部材7を、流通口31を通してアウターバッグ20に連結すると、他の開口を形成するための作業と工数を削減できる。
【0058】
(第2の実施形態)
図7は、第2の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Bと表す)を示す図であり、図1の矢印X方向から見たエアバッグ装置1Bを模式的に示している。また、図7では、展開初期のエアバッグ10を断面図で示している。図8は、図7のエアバッグ装置1Bを分解して示す斜視図であり、エアバッグ装置1Bの各構成を上下方向に離して示している。図8では、矢印により、組み合わされる構成の関係や構成同士の組み合わせ位置も示している。図7と図8は、それぞれ第1の実施形態で説明した図2と図3に対応する。
【0059】
このエアバッグ装置1Bでは、図示のように、エアバッグ10が、押さえ部材50(以下、この形態の押さえ部材には50Aを付す)を有する。エアバッグ装置1Bは、押さえ部材50Aを除いて、第1の実施形態のエアバッグ装置1Aと同様に構成されている。ここでは、既に説明したエアバッグ装置1Aと同じ構成は、同じ名前と符号を付して、その説明は省略し、押さえ部材50Aについて詳しく説明する。
【0060】
押さえ部材50Aは、インナーバッグ30Aの膨張時に、アウターバッグ20内で、乗員方向へ膨張するインナーバッグ30Aを押さえる。ここでは、押さえ部材50Aは、中央に開口部51を有する帯状部材52からなり、アウターバッグ20の後面(後基布23)に連結されている。帯状部材52は、矩形状の基布(帯状布)であり、エアバッグ10の膨張前に、インナーバッグ30Aの前面(前基布35)とアウターバッグ20の前面(前基布22)の間に配置される。また、帯状部材52は、インナーバッグ30Aの縁部を越えた位置で、アウターバッグ20の後基布23に縫製される。これにより、帯状部材52の両端が、アウターバッグ20の後面に接合される。インナーバッグ30Aは、押さえ部材50Aとアウターバッグ20の後面の間に配置される。
【0061】
押さえ部材50Aの開口部51は、円形孔からなり、膨張展開したインナーバッグ30Aよりも小さい所定径に形成される。開口部51は、インナーバッグ30Aが通過可能な通過口であり、エアバッグ10の膨張前に、インナーバッグ30Aの球状膨張部37と同芯状に配置される。即ち、開口部51は、インナーバッグ30Aの前面とアウターバッグ20の前面の間に、インナーバッグ30Aが通過可能に配置される。
【0062】
エアバッグ10の膨張前に、インナーバッグ30Aは、押さえ部材50Aと交差して配置される。インナーバッグ30Aの球状膨張部37は、押さえ部材50Aにより覆われる。筒状膨張部38は、押さえ部材50Aの側方開口を通して、押さえ部材50Aの外方に向かって配置される。インナーバッグ30Aの流通口31は、押さえ部材50Aの開口部51内の位置に配置される。連結部材7は、開口部51を通して、アウターバッグ20の前面に連結される。
【0063】
エアバッグ10の膨張時に、押さえ部材50Aは、膨張するインナーバッグ30A(球状膨張部37)の前面を押さえて、インナーバッグ30Aの乗員方向への膨張を規制する。球状膨張部37は、押さえ部材50Aとアウターバッグ20の後面の間で膨張展開する。その際、球状膨張部37は、開口部51よりも大きく膨張展開するため、開口部51を通過できずに、押さえ部材50Aとアウターバッグ20の間に保持される。
【0064】
開口部51は、膨張展開したインナーバッグ30Aが次第に収縮するときに、収縮するインナーバッグ30Aを乗員方向へ通過させる。インナーバッグ30Aは、開口部51を通過する間に、徐々に乗員方向へ伸びるように変形する。開口部51は、インナーバッグ30A内から引き出される連結部材7も乗員方向へ通過させる。筒状膨張部38は、インナーバッグ30A内に引き込まれた後に、開口部51を通過する。このように、インナーバッグ30Aは、押さえ部材50Aにより押さえられて、乗員方向への膨張と展開が規制される。アウターバッグ20の前面は、連結部材7とインナーバッグ30Aが開口部51を通過するのに伴い、乗員方向へ移動する。
【0065】
次に、エアバッグ装置1B(図8参照)の製造手順について説明する。
アウターバッグ20とインナーバッグ30Aは、第1の実施形態と同じ工程で形成する。ただし、アウターバッグ20の両基布22、23を縫製(図8では、各縫製部を点線で示す)するまえに、押さえ部材50Aの両端を、後基布23に縫製(接合部S1、S2)しておく。次に、インナーバッグ30Aを、アウターバッグ20内に挿入して、アウターバッグ20の後基布23と押さえ部材50Aの間に組み付ける。また、2つの筒状膨張部38を、押さえ部材50Aの外部に配置する。連結部材7は、取付口11、流通口31、及び、開口部51の内側で、アウターバッグ20の前基布22に縫製する。続いて、第1の実施形態と同様にしてエアバッグ装置1Bを製造する。エアバッグ装置1Bは、インフレータ3が発生するガスにより、エアバッグ10を膨張展開させる。
【0066】
図9は、膨張展開するエアバッグ10を順に示す断面図である。
なお、エアバッグ10は、基本的には、第1の実施形態と同様の過程を経て膨張展開する。従って、ここでは、エアバッグ10の膨張展開について、既に説明した過程と異なる過程を中心に説明する。
【0067】
エアバッグ10の展開初期では、まず、インナーバッグ30Aが、押さえ部材50Aとアウターバッグ20の後面の間で膨張する(図9A参照)。球状膨張部37は、押さえ部材50Aにより押さえられて、乗員方向への膨張が規制される。インナーバッグ30Aの前面は、押さえ部材50Aに押し付けられて、乗員方向への移動が妨げられる。筒状膨張部38は、球状膨張部37側から端部38Aまで膨張する。アウターバッグ20の前面は、連結部材7に引っ張られて、乗員方向への移動が妨げられる。
【0068】
アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aの流通口31から供給されるガスにより膨張を開始し、内圧の上昇に伴い乗員方向に膨張する(図9B参照)。連結部材7は、膨張するアウターバッグ20により引っ張られて、流通口31と開口部51を通って、押さえ部材50Aに保持されたインナーバッグ30A内から引き出される(図9C参照)。アウターバッグ20の前面は、連結部材7の引き出し量に応じて乗員方向へ移動する(図9D参照)。球状膨張部37は、流通口31からガスが流出して、押さえ部材50Aの開口部51に押し付けられた状態で徐々に収縮する。筒状膨張部38は、連結部材7により、インナーバッグ30A内に引き込まれて反転する。
【0069】
連結部材7は、筒状膨張部38とインナーバッグ30Aを収縮させて、インナーバッグ30A外に引き出される。インナーバッグ30Aは、収縮により、押さえ部材50Aの開口部51に近い大きさになり、最後には開口部51よりも小さくなる(図9E参照)。その間に、インナーバッグ30Aは、連結部材7に引っ張られて、開口部51から抵抗を受けつつ開口部51を乗員方向に通過する。即ち、インナーバッグ30Aは、連結部材7の引き出しにより、収縮しながら開口部51を通過して乗員方向に次第に変形する。開口部51は、収縮するインナーバッグ30Aの外周に沿って相対移動する。また、開口部51は、内部を通過するインナーバッグ30Aをしごくようにして、インナーバッグ30Aに抵抗を加える。
【0070】
続いて、インナーバッグ30Aが開口部51をすり抜けて、インナーバッグ30Aが、押さえ部材50Aから解放される。アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aが開口部51を通過した後、上記と同様に、乗員の前方で完全に膨張展開する。エアバッグ装置1Bは、膨張展開したエアバッグ10により、乗員91を受け止める。
【0071】
このエアバッグ装置1Bでは、第1の実施形態のエアバッグ装置1Aと同様の効果が得られる。また、押さえ部材50Aにより、インナーバッグ30Aの乗員方向の膨張を押さえることで、アウターバッグ20の前面の移動をより確実に規制できる。インナーバッグ30Aが、押さえ部材50Aとアウターバッグ20の後面の間で膨張展開するため、膨張後のインナーバッグ30Aの形状を、押さえ部材50Aとアウターバッグ20により調整することができる。なお、押さえ部材50Aは、円形状や三角形状等、矩形状以外の形状に形成してもよい。
【0072】
(第3の実施形態)
図10は、第3の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Cと表す)を示す図である。図10では、図8に対応させて、エアバッグ装置1Cの一部を斜視図で示している。
【0073】
このエアバッグ装置1Cでは、押さえ部材50とインナーバッグ30(以下、この形態の押さえ部材とインナーバッグには、それぞれ50Bと30Bを付す)の一部が、第2の実施形態の押さえ部材50Aとインナーバッグ30Aと相違する。また、連結部材7とアウターバッグ20の後基布23も部分的に相違する。これらの相違を除いて、エアバッグ装置1Cは、第2の実施形態のエアバッグ装置1Bと同様に構成されている。ここでは、既に説明したエアバッグ装置1Bと同じ構成は、同じ名前と符号を付して、その説明は省略し、押さえ部材50Bとインナーバッグ30Bについて詳しく説明する。なお、図10では、図8と相違する構成のみ示し、図8と共通する構成は省略している。
【0074】
押さえ部材50Bは、図示のように、開口部51の両側に、それぞれガスを通過させる貫通孔53を有する。貫通孔53は、円形孔からなり、アウターバッグ20のベントホール21と同じ面積(第1面積M1という)に形成されている。また、2つの貫通孔53は、2つのベントホール21の間隔に近い間隔に配置されている。押さえ部材50Bは、貫通孔53をベントホール21にオーバーラップさせて、アウターバッグ20の後基布23に縫製される。
【0075】
押さえ部材50Bは、インナーバッグ30Bの筒状膨張部38に沿って配置されて、インナーバッグ30Bの全体を覆う。2つの筒状膨張部38の全体は、押さえ部材50Bとアウターバッグ20の後面(後基布23)の間に配置される。押さえ部材50Bは、貫通孔53と筒状膨張部38の端部38Aを囲むように設けられた接合部S3で、ベントホール21の周囲に接合される。筒状膨張部38の端部38Aは、押さえ部材50Bの接合部S3内に配置される。
【0076】
図11は、膨張後のインナーバッグ30Bの斜視図である。
インナーバッグ30Bは、図示のように、各筒状膨張部38の端部38Aに、内部のガスを外部に排出する排出口39を有する。排出口39は、筒状膨張部38の先端に設けられた非接合部であり、矩形部35B、36Bの先端を縫製しないことで形成される。排出口39は、ガスをインナーバッグ30Bから側方に向かって排出する。インナーバッグ30Bは、インフレータ3が発生するガスを、筒状膨張部38を通して排出口39から排出する。
【0077】
筒状膨張部38の端部38A(図10参照)は、エアバッグ10の膨張前に、アウターバッグ20のベントホール21上に、又は、ベントホール21に近接して配置される。排出口39は、ベントホール21に向けて配置される。筒状膨張部38は、後述するように、押さえ部材50Bとアウターバッグ20の後面の間で膨張及び収縮する。筒状膨張部38は、連結部材7によりインナーバッグ30B内に引き込まれるときに、ベントホール21から離れる。筒状膨張部38が反転すると、反転した範囲の基布35、36が密着する。これにより、排出口39は、インナーバッグ30B内で閉鎖されて、ガスの排出を停止する。
【0078】
次に、エアバッグ装置1Cの製造手順について説明する。
アウターバッグ20は、第1の実施形態と同じ工程で形成する。ただし、アウターバッグ20の両基布22、23を縫製(図10では、各縫製部を点線で示す)するまえに、押さえ部材50Bを、後基布23に縫製(接合部S3)しておく。インナーバッグ30Bに関しては、前基布35の内面に連結部材7を重ねて、連結部材7の両端部7Aを前基布35に縫製する。次に、両基布35、36の外面を重ね合わせて、基布35、36を両側縁に沿って縫製する。その後、両基布35、36を、取付口11を通して反転させて、インナーバッグ30Bを形成する。なお、図10では、インナーバッグ30Bを反転させた後における各構成の配置状態を示している。
【0079】
次に、インナーバッグ30Bを、アウターバッグ20内に挿入して、アウターバッグ20の後基布23と押さえ部材50Bの間に組み付ける。2つの筒状膨張部38の端部38Aは、それぞれ押さえ部材50Bの接合部S3内で、ベントホール21上に配置する。続いて、第1の実施形態と同様にしてエアバッグ装置1Cを製造する。エアバッグ装置1Cは、インフレータ3が発生するガスにより、エアバッグ10を膨張展開させる。
【0080】
図12は、膨張展開するエアバッグ10を順に示す断面図である。
なお、エアバッグ10は、基本的には、第2の実施形態と同様の過程を経て膨張展開する。従って、ここでは、第2の実施形態と異なる過程を中心に説明する。
【0081】
エアバッグ10の展開初期では、まず、インナーバッグ30Bが、押さえ部材50Bとアウターバッグ20の後面の間で膨張する(図12A参照)。筒状膨張部38は、端部38Aまで膨張して、排出口39が開放する(図12B参照)。インナーバッグ30Bは、インフレータ3が発生するガスを、排出口39から直接排出する。排出後のガスは、ベントホール21からアウターバッグ20外に排出される。
【0082】
アウターバッグ20は、インナーバッグ30Bの流通口31から供給されるガスにより膨張を開始し、内圧の上昇に伴い乗員方向に膨張する。連結部材7は、インナーバッグ30B内から引き出される(図12C参照)。これに伴い、アウターバッグ20の前面が乗員方向へ移動する。筒状膨張部38は、連結部材7により、インナーバッグ30B内に引き込まれて反転する。排出口39は、閉鎖されて、ガスの排出を停止する。その際、膨張した筒状膨張部38が、押さえ部材50Bとベントホール21の間に、ガスを流通させる空間60を形成する。この空間60は、押さえ部材50Bの貫通孔53を通して、アウターバッグ20内の他の空間とガスが流通するため、押さえ部材50Bの両側に圧力差は生じない。アウターバッグ20内のガスは、第1面積M1の貫通孔53及びベントホール21から外部へ排出される。
【0083】
連結部材7は、筒状膨張部38とインナーバッグ30Bを収縮させて、インナーバッグ30B外に引き出される。その間に、筒状膨張部38の端部38Aが、ベントホール21から離れて、空間60を狭くする(図12D参照)。押さえ部材50Bには、アウターバッグ20の膨張に伴う張力とアウターバッグ20の内圧により、アウターバッグ20の後面に近づく力が働く。その結果、押さえ部材50Bは、ベントホール21に徐々に接近する。ベントホール21は、押さえ部材50Bの貫通孔53が接近するのに伴い、ガスの流通が阻害されて、ガスが徐々に排出され難くなる。即ち、ベントホール21の開口面積が、擬似的に徐々に小さくなる。その結果、ベントホール21からのガスの排出量が、アウターバッグ20の膨張に応じて連続して減少する。
【0084】
続いて、インナーバッグ30Bが、連結部材7に引っ張られて、開口部51を乗員方向に通過する(図12E参照)。アウターバッグ20は、乗員91の前方で完全に膨張展開する。押さえ部材50Bは、開口部51をインナーバッグ30Bが通過したときに、アウターバッグ20の後面に密着する。同時に、押さえ部材50Bの貫通孔53が、ベントホール21に重なる。貫通孔53は、ベントホール21とずれた状態に配置されており、ベントホール21に対して位置をずらして重なる。押さえ部材50Bは、貫通孔53の周辺部分で、ベントホール21を部分的に塞いで、ベントホール21における開口部分の面積(開口面積)を変更する。これにより、ベントホール21は、開口面積が第1面積M1よりも小さい面積(第2面積M2という)に変更されて、ガスの排出量が減少する。エアバッグ装置1Cは、膨張の各段階におけるエアバッグ10により、乗員91を受け止める。
【0085】
このエアバッグ装置1Cでは、第1及び第2の実施形態のエアバッグ装置1A、1Bと同様の効果が得られる。また、筒状膨張部38の端部38Aに排出口39を設けたため、様々な状態の乗員91を安全に保護することができる。例えば、乗員91が非正常な乗車姿勢でOOP(Out Of Position)状態にあり、エアバッグ装置1Cに接近又は接触しているときには、乗員91が早期にエアバッグ10に接触する(図12B参照)。その際、インフレータ3が発生するガスは、排出口39とベントホール21からアウターバッグ20外に直接排出されるため、エアバッグ10は、乗員側への膨張が抑制される。これにより、エアバッグ10に供給されるエネルギーが減少するため、エアバッグ10の有する乗員91への加害性が大幅に低下する。
【0086】
特に、インフレータ3が発生するガスは、ベントホール21から排出されるガスと比べて初速度が速いため、排出口39から効率よく排出される。そのため、エアバッグ10は、ガスを排出口39から短時間で大量に排出できるとともに、排出口39を小さくしても、充分なガスの排出量を確保できる。従って、このエアバッグ装置1Cでは、OOP状態の乗員91に傷害を与えるのを抑制できる。また、乗員91が小柄なときには、乗員91は、ある程度膨張したエアバッグ10により受け止められる。エアバッグ10は、排出口39からガスを必要に応じて排出して、乗員91の衝撃を緩和する。
【0087】
筒状膨張部38がインナーバッグ30B内に引き込まれている間に、エアバッグ10に乗員91が進入すると(図12C参照)、連結部材7がインナーバッグ30B内に戻される。その結果、筒状膨張部38は、ガスの圧力によりインナーバッグ30B外に戻されて、閉鎖された排出口39が開放される。エアバッグ10は、再び開放された排出口39からガスを排出して、乗員91の衝撃やエネルギーを吸収する。乗員91がOOP状態でないときには(図12D、12E参照)、乗員91は、大きく膨張展開したエアバッグ10により保護される。このように、エアバッグ装置1Cは、乗員91の状態を検知するセンサやエアバッグ10の展開を制御する特殊なインフレータを使用することなく、乗員91の状態の違いに対処できる。
【0088】
押さえ部材50Bの貫通孔53により、ベントホール21の開口面積を変更して、ベントホール21から排出されるガスの量を変更することができる。ベントホール21からのガスの排出量を徐々に変化させることもできる。これにより、エアバッグ10は、膨張の各段階に応じたガスの排出量を確保して、適切な衝撃吸収特性を発揮する。貫通孔53とベントホール21のずれ量を変更することで、ベントホール21の開口面積とガスの排出量を調整することができる。エアバッグ10外へのガスの排出量を、エアバッグ10に乗員91が接触するまでの時間、及び、エアバッグ10への乗員91の進入量に応じて変更することもできる。更に、エアバッグ装置1Cは、乗員91の体格差にも対応して、各体格の乗員91を保護できる。
【0089】
図13は、乗員91を保護するエアバッグ装置1Cを示す側面図であり、大柄で重い乗員91Aと小柄で軽い乗員91Bを示している。
大柄な乗員91A(図13A参照)は、エアバッグ装置1Cから離れて運転席92に座るため、エアバッグ10との接触のタイミングが遅くなる。また、乗員91Aがエアバッグ10に接触するときには、エアバッグ10により吸収するエネルギーが大きいため、ベントホール21は小さい方がよい。これに対し、エアバッグ10は、乗員91Aが接触する展開後期に、ベントホール21の開口面積を小さい第2面積M2にして、乗員91Aを受け止める。
【0090】
小柄な乗員91B(図13B参照)は、エアバッグ装置1Cに接近して運転席92に座るため、エアバッグ10との接触のタイミングが早くなる。また、乗員91Bがエアバッグ10に接触するときには、エアバッグ10により吸収するエネルギーが小さいため、ベントホール21は大きい方がよい。これに対し、エアバッグ10は、乗員91Bが接触する展開初期に、ベントホール21の開口面積を大きい第1面積M1にして、乗員91Bを受け止める。
【0091】
このように、乗員91の体格差により、エアバッグ10に乗員91が接触するタイミングに差が生じる。エアバッグ10は、各乗員91が接触するタイミングに合わせて、ベントホール21の開口面積を変更し、適切な衝撃吸収特性を発揮する。これにより、エアバッグ10は、乗員91の体格差に応じた最適な条件で乗員91を受け止めて、乗員91の衝撃を吸収する。従って、エアバッグ装置1Cは、センサや特殊なインフレータを使用することなく体格差に対処して、エアバッグ10の有する乗員91への加害性を低減できる。なお、押さえ部材50Bの貫通孔53を、ベントホール21よりも小さい面積に形成して、ベントホール21に重ねることで、ベントホール21の開口面積を変更するようにしてもよい。
【0092】
(第4の実施形態)
図14は、第4の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Dと表す)を示す図であり、図1の矢印X方向から見たエアバッグ装置1Dを模式的に示している。また、図14では、展開初期のエアバッグ10を断面図で示している。図15は、図14のエアバッグ装置1Dを分解して示す斜視図であり、エアバッグ装置1Dの各構成を上下方向に離して示している。図15では、矢印により、組み合わされる構成の関係や構成同士の組み合わせ位置も示している。図14と図15は、それぞれ第1の実施形態で説明した図2と図3に対応する。
【0093】
このエアバッグ装置1Dでは、インナーバッグ30Bの配置の仕方が、第1の実施形態のエアバッグ装置1Aと相違する。また、エアバッグ10の構成も部分的に変更されている。ここでは、既に説明したエアバッグ装置1Aと同じ構成は、同じ名前と符号を付して、その説明は省略し、インナーバッグ30Bとエアバッグ10の相違点について詳しく説明する。
【0094】
エアバッグ10は、図示のように、排出口39が設けられたインナーバッグ30Bを有する。アウターバッグ20は、内部に押さえ部材50が設けられずに、外部に補強カバー27を有する。補強カバー27は、アウターバッグ20の後基布23の補強布であり、インフレータ3が発生するガスや熱から後基布23を保護する。後基布23は、上記した補強布13、14が設けられずに、補強カバー27により補強される。また、補強カバー27は、アウターバッグ20の外部に設けられたベントホール部カバー(外部カバー)でもあり、ベントホール21に重ねて配置される。補強カバー27は、ベントホール21を覆うようにアウターバッグ20外に配置されて、両側縁が後基布23の外面に接合される。
【0095】
補強カバー27は、矩形状の基布からなり、インナーバッグ30Bの基布35、36よりも短く形成される。また、補強カバー27は、中心に形成された取付口11と、ガスを通過させる2つの貫通孔27Aとを有する。貫通孔27Aは、上記した押さえ部材50Bの貫通孔53と同様に構成されている。即ち、貫通孔27Aは、円形孔からなり、ベントホール21と同じ第1面積M1に形成されている。2つの貫通孔27Aは、取付口11の両側に設けられて、2つのベントホール21の間隔と同じ間隔に配置されている。補強カバー27は、貫通孔27Aをベントホール21にオーバーラップさせて、アウターバッグ20の後基布23に縫製される。その際、貫通孔27Aは、ベントホール21と一致する位置に配置される。補強カバー27がアウターバッグ20の後面に密着したときに、貫通孔27Aがベントホール21に重なる。
【0096】
筒状膨張部38の端部38Aは、エアバッグ10の膨張前に、アウターバッグ20に設けられた通過口25を通って、アウターバッグ20外に配置される。通過口25は、アウターバッグ20の後基布23に形成されたスリットからなる。通過口25は、後基布23の補強カバー27に覆われる位置において、ベントホール21に近接して形成される。また、通過口25は、後基布23内で、2つのベントホール21の内側に形成される。
【0097】
筒状膨張部38は、アウターバッグ20内から通過口25を通して、アウターバッグ20外で、補強カバー27とアウターバッグ20の外面との間に配置される。筒状膨張部38の端部38Aは、補強カバー27内(補強カバー27とアウターバッグ20の間)に挿入され、補強カバー27の端部を通して、補強カバー27外に配置される。なお、筒状膨張部38の端部38Aは、アウターバッグ20外で、補強カバー27とアウターバッグ20との間に配置してもよい。この場合には、端部38Aの排出口39を、ベントホール21と貫通孔27A上に、又は、ベントホール21と貫通孔27Aに近接して配置する。
【0098】
筒状膨張部38は、エアバッグ10の膨張前に補強カバー27内に配置され、インナーバッグ30Bの膨張及び収縮により、補強カバー27内で膨張及び収縮する。筒状膨張部38は、補強カバー27内で膨張して貫通孔27Aとベントホール21との間に空間を形成する。筒状膨張部38は、連結部材7によりインナーバッグ30B内に引き込まれるときに、連結部材7に引っ張られて、アウターバッグ20内に向かって移動する。また、筒状膨張部38は、通過口25を通って、アウターバッグ20内まで引き込まれる。筒状膨張部38の端部38Aも、インナーバッグ30B内から引き出される連結部材7により、アウターバッグ20内に引き込まれる。これにより、筒状膨張部38は、補強カバー27外に移動して、補強カバー27をアウターバッグ20の後面に密着させるとともに、補強カバー27をベントホール21に重ねる。貫通孔27Aはベントホール21に重なり、通過口25は補強カバー27により塞がれる。
【0099】
次に、エアバッグ装置1D(図15参照)の製造手順について説明する。
アウターバッグ20は、第1の実施形態と同じ工程で形成する。ただし、アウターバッグ20の両基布22、23を縫製(図15では、各縫製部を点線で示す)するまえに、補強カバー27を、後基布23に縫製しておく。インナーバッグ30Bは、第3の実施形態と同じ工程で形成する。次に、インナーバッグ30Bを、アウターバッグ20内に挿入して、連結部材7を、アウターバッグ20の前基布22に縫製する。2つの筒状膨張部38の端部38Aを、それぞれ通過口25を通して、補強カバー27内に挿入する。続いて、第1の実施形態と同様にしてエアバッグ装置1Dを製造する。エアバッグ装置1Dは、インフレータ3が発生するガスにより、エアバッグ10を膨張展開させる。
【0100】
図16は、膨張展開するエアバッグ10を順に示す断面図である。
なお、エアバッグ10は、基本的には、第1の実施形態と同様の過程を経て膨張展開する。従って、ここでは、エアバッグ10の膨張展開について、既に説明した過程と異なる過程を中心に説明する。
【0101】
エアバッグ10の展開初期では、まず、インナーバッグ30Bがアウターバッグ20内で膨張する(図16A参照)。筒状膨張部38は、アウターバッグ20内の部分からアウターバッグ20外の端部38Aまで膨張する。これにより、筒状膨張部38は、アウターバッグ20の通過口25等を拡げて、排出口39を開放する(図16B参照)。インナーバッグ30Bは、インフレータ3が発生するガスを、筒状膨張部38の排出口39から直接排出して、内部のガスをアウターバッグ20外に排出する。
【0102】
アウターバッグ20は、インナーバッグ30Bの流通口31から供給されるガスにより膨張を開始する。連結部材7が、インナーバッグ30B内から引き出されて、アウターバッグ20の前面が乗員方向へ移動する。筒状膨張部38は、連結部材7によりインナーバッグ30B内に引き込まれて反転する(図16C参照)。排出口39は、閉鎖されてガスの排出を停止する。アウターバッグ20内のガスは、ベントホール21及び貫通孔27Aからアウターバッグ20外に排出される。
【0103】
筒状膨張部38は、連結部材7に引っ張られて、補強カバー27外(アウターバッグ20内)へ向かって移動する。続いて、筒状膨張部38は、連結部材7によりアウターバッグ20内に引き込まれて、補強カバー27外に移動する(図16D参照)。これに伴い、補強カバー27が、アウターバッグ20の後面に密着する。補強カバー27は、貫通孔27Aをベントホール21に重ねて、ベントホール21からガスを排出させる。アウターバッグ20は、乗員91の前方で完全に膨張展開する(図16E参照)。エアバッグ装置1Dは、膨張の各段階におけるエアバッグ10により、乗員91を受け止める。アウターバッグ20内のガスは、ベントホール21及び貫通孔27Aから外部へ排出される。
【0104】
このエアバッグ装置1Dでは、第1の実施形態のエアバッグ装置1Aと同様の効果が得られる。また、筒状膨張部38の端部38Aに設けた排出口39により、第3の実施形態のエアバッグ装置1Cと同様の効果が得られ、様々な状態の乗員91を安全に保護できる。排出口39からガスを排出することで、OOP状態の乗員91も保護できる。連結部材7は、筒状膨張部38をアウターバッグ20内まで引き込むための力により、引き出しが抑制される。その結果、連結部材7により、アウターバッグ20の前面の移動を確実に規制できる。
【0105】
なお、筒状膨張部38の端部38Aは、ベントホール21を通して、アウターバッグ20外に配置してもよい。ベントホール21を端部38Aの通過口として使用することで、通過口25を別途設ける必要がなくなり、通過口25の形成のための作業と工数を削減できる。
【0106】
(第5の実施形態)
図17は、第5の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Eと表す)を示す図である。図17では、膨張展開するエアバッグ10を順に断面図で示している。
このエアバッグ装置1Eでは、補強カバー27が第4の実施形態と部分的に相違する。エアバッグ装置1Eは、補強カバー27以外は、第4の実施形態のエアバッグ装置1Dと共通する。エアバッグ10も、第4の実施形態と同様の過程を経て膨張展開する。ここでは、エアバッグ装置1Dとの相違点について説明する。
【0107】
補強カバー27は、両側縁と両端がアウターバッグ20の後基布23に縫製されて、外縁の全体がアウターバッグ20に接合される。補強カバー27内の空間は、貫通孔27Aによりエアバッグ10外に繋がる。貫通孔27Aは、ベントホール21と完全に一致しない位置に配置される。筒状膨張部38の端部38Aは、エアバッグ10の膨張前に、アウターバッグ20外で、補強カバー27とアウターバッグ20との間に配置される(図17A参照)。また、端部38A及び排出口39は、貫通孔27A上に、又は、貫通孔27Aに近接して配置される。排出口39は、貫通孔27Aに向けて配置される。
【0108】
インナーバッグ30Bが膨張すると、筒状膨張部38は、端部38Aまで膨張して排出口39を開放する(図17B参照)。インナーバッグ30Bは、インフレータ3が発生するガスを、排出口39から直接排出する。排出後のガスは、補強カバー27の貫通孔27Aからアウターバッグ20外に排出される。排出口39は、連結部材7によりインナーバッグ30B内に引き込まれて閉鎖され、ガスの排出を停止する(図17C参照)。アウターバッグ20内のガスは、ベントホール21及び貫通孔27Aからアウターバッグ20外に排出される。
【0109】
筒状膨張部38は、インナーバッグ30B内に引き込まれるときに、補強カバー27外(アウターバッグ20内)に移動して、補強カバー27をベントホール21に重ねる(図17D参照)。補強カバー27は、アウターバッグ20の後面に密着する。また、補強カバー27は、貫通孔27Aをベントホール21からずらしてベントホール21に重なり、ベントホール21を閉鎖する。貫通孔27Aは、アウターバッグ20の後面に密着して閉鎖される。続いて、アウターバッグ20が、乗員91の前方で完全に膨張展開する(図17E参照)。エアバッグ装置1Eは、膨張の各段階におけるエアバッグ10により、乗員91を受け止める。
【0110】
このエアバッグ装置1Eでは、第4の実施形態のエアバッグ装置1Dと同様の効果が得られる。膨張展開後に、エアバッグ10からのガスの排出を停止させることもできる。なお、アウターバッグ20の補強カバー27に覆われない位置に、ベントホールを別途設けて、エアバッグ10からのガスの排出量を調整するようにしてもよい。
【0111】
(第6の実施形態)
図18は、第6の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Fと表す)を示す図である。図18では、膨張展開するエアバッグ10を順に断面図で示している。
このエアバッグ装置1Fでは、補強カバー27が第5の実施形態と部分的に相違する。ここでは、エアバッグ装置1Eとの相違点について説明する。
【0112】
補強カバー27の2つの貫通孔27Aは、2つのベントホール21の間隔に近い間隔に配置されている。補強カバー27は、貫通孔27Aをベントホール21にオーバーラップさせて、アウターバッグ20の後基布23に縫製される。その際、貫通孔27Aは、ベントホール21とずれた状態に配置される。補強カバー27がアウターバッグ20の後面に密着したときに、貫通孔27Aは、ベントホール21に対して位置をずらして重なる。補強カバー27は、貫通孔27Aの周辺部分で、ベントホール21を部分的に塞いで、ベントホール21の開口面積を変更する。これにより、ベントホール21の開口面積が、第1面積M1よりも小さい第2面積M2に変更される。
【0113】
インナーバッグ30Bが膨張すると(図18A参照)、筒状膨張部38は、排出口39を開放して、ガスを排出口39から排出する(図18B参照)。排出後のガスは、補強カバー27の貫通孔27Aからアウターバッグ20外に排出される。排出口39は、連結部材7によりインナーバッグ30B内に引き込まれて閉鎖され、ガスの排出を停止する(図18C参照)。その際、膨張した筒状膨張部38は、補強カバー27とベントホール21の間に、ガスを流通させる空間61を形成する。アウターバッグ20内のガスは、第1面積M1のベントホール21及び貫通孔27Aから外部へ排出される。
【0114】
筒状膨張部38の端部38Aは、ベントホール21から次第に離れて、空間61を狭くする。補強カバー27は、ベントホール21に徐々に接近する。ベントホール21は、補強カバー27の貫通孔27Aが接近するのに伴い、ガスが徐々に排出され難くなり、ガスの排出量が連続して減少する。筒状膨張部38は、インナーバッグ30B内に引き込まれるときに、補強カバー27外に移動して、補強カバー27をベントホール21に重ねる(図18D参照)。補強カバー27は、アウターバッグ20の後面に密着するとともに、貫通孔27Aをベントホール21に重ねる。補強カバー27は、ベントホール21に重なる貫通孔27Aにより、ベントホール21の開口面積を変更する。ベントホール21の開口面積は、第1面積M1よりも小さい第2面積M2に変更される。続いて、アウターバッグ20が、乗員91の前方で完全に膨張展開する(図18E参照)。エアバッグ装置1Fは、膨張の各段階におけるエアバッグ10により、乗員91を受け止める。
【0115】
このエアバッグ装置1Fでは、第4の実施形態のエアバッグ装置1Dと同様の効果が得られる。また、第3の実施形態のエアバッグ装置1Cと同様に、補強カバー27の貫通孔27Aにより、ベントホール21の開口面積を変更して、ベントホール21から排出されるガスの量を変更することができる。ベントホール21からのガスの排出量を徐々に変化させることもできる。これにより、エアバッグ10は、膨張の各段階に応じたガスの排出量を確保して、適切な衝撃吸収特性を発揮する。
【0116】
(第7の実施形態)
図19は、第7の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Gと表す)を示す図であり、図1の矢印X方向から見たエアバッグ装置1Gを模式的に示している。また、図19では、展開初期のエアバッグ10を断面図で示している。図20は、図19のエアバッグ装置1Gを分解して示す斜視図であり、エアバッグ装置1Gの各構成を上下方向に離して示している。図20では、矢印により、組み合わされる構成の関係や構成同士の組み合わせ位置も示している。図19と図20は、それぞれ第4の実施形態で説明した図14と図15に対応する。
【0117】
このエアバッグ装置1Gでは、筒状膨張部38の配置の仕方が、第4の実施形態のエアバッグ装置1Dと相違する。また、アウターバッグ20の構成も部分的に変更されている。ここでは、既に説明したエアバッグ装置1Dと同じ構成は、同じ名前と符号を付して、その説明は省略し、筒状膨張部38とアウターバッグ20の相違点について詳しく説明する。
【0118】
エアバッグ10は、図示のように、排出口39が設けられたインナーバッグ30Bと、貫通孔53がない押さえ部材50Aとを有する。アウターバッグ20は、外部に設けられる補強カバー27に替えて、内部にベントホール部カバー(以下、カバーという)26を有する。カバー26は、アウターバッグ20内に配置される内部カバーであり、ガスを通過させる貫通孔26Aが設けられ、かつ、ベントホール21に重なる。カバー26は、矩形状の基布からなり、各ベントホール21の周囲に配置される。カバー26は、ベントホール21と通過口25を覆うように配置されて、外縁が後基布23の内面に接合される。また、カバー26には、インナーバッグ30B側の部分が接合されずに、非接合部26Bが設けられる。
【0119】
カバー26の貫通孔26Aは、補強カバー27の貫通孔27Aと同様に構成されている。即ち、貫通孔26Aは、円形孔からなり、アウターバッグ20のベントホール21と同じ第1面積M1に形成されている。カバー26は、貫通孔26Aをベントホール21にオーバーラップさせて、アウターバッグ20の後基布23に縫製される。その際、貫通孔26Aは、ベントホール21と一致する位置に配置される。カバー26がアウターバッグ20の後面に密着したときに、貫通孔26Aがベントホール21に重なる。
【0120】
通過口25は、後基布23のカバー26に覆われる位置に配置され、後基布23内で、2つのベントホール21の外側に形成される。押さえ部材50Aは、インナーバッグ30Bと交差して配置され、ベントホール21の位置を外して、アウターバッグ20の後基布23に縫製される。インナーバッグ30Bの球状膨張部37は、押さえ部材50Aにより覆われる。筒状膨張部38は、押さえ部材50Aの側方開口を通して、押さえ部材50Aの外部に位置するカバー26内に配置される。
【0121】
筒状膨張部38の端部38Aは、エアバッグ10の膨張前に、非接合部26Bから、カバー26内(カバー26とアウターバッグ20の間)に挿入されて、通過口25を通ってアウターバッグ20外に配置される。これに伴い、筒状膨張部38の排出口39が、アウターバッグ20外に配置される。インナーバッグ30Bは、内部のガスを、排出口39からアウターバッグ20外に排出する。
【0122】
筒状膨張部38は、エアバッグ10の膨張前にカバー26内に配置され、カバー26内で膨張及び収縮する。また、筒状膨張部38は、連結部材7によりインナーバッグ30B内に引き込まれるときに、連結部材7に引っ張られて、通過口25と非接合部26Bを通って、アウターバッグ20内まで引き込まれる。筒状膨張部38の端部38Aも、インナーバッグ30B内から引き出される連結部材7により、アウターバッグ20内に引き込まれる。これにより、筒状膨張部38は、カバー26外に移動して、カバー26をアウターバッグ20の後面に密着させるとともに、カバー26をベントホール21に重ねる。貫通孔26Aは、ベントホール21に重なり、ベントホール21からガスを排出させる。通過口25は、カバー26により塞がれる。
【0123】
次に、エアバッグ装置1G(図20参照)の製造手順について説明する。
アウターバッグ20は、第1の実施形態と同じ工程で形成する。ただし、アウターバッグ20の両基布22、23を縫製(図20では、各縫製部を点線で示す)するまえに、押さえ部材50Aの両端を後基布23に縫製(接合部S1、S2)しておく。また、2つのカバー26も、後基布23に縫製しておく。インナーバッグ30Bは、第3の実施形態と同じ工程で形成する。次に、インナーバッグ30Bを、アウターバッグ20内に挿入して、アウターバッグ20の後基布23と押さえ部材50Aの間に組み付ける。連結部材7を、アウターバッグ20の前基布22に縫製する。2つの筒状膨張部38の端部38Aを、それぞれカバー26の非接合部26Bに挿入し、通過口25を通してアウターバッグ20外に配置する。続いて、第1の実施形態と同様にしてエアバッグ装置1Gを製造する。エアバッグ装置1Gは、インフレータ3が発生するガスにより、エアバッグ10を膨張展開させる。
【0124】
図21は、膨張展開するエアバッグ10を順に示す断面図である。
なお、エアバッグ10は、基本的には、第4の実施形態と同様の過程を経て膨張展開する。従って、ここでは、エアバッグ10の膨張展開について、既に説明した過程と異なる過程を中心に説明する。
【0125】
インナーバッグ30Bは、押さえ部材50Aとアウターバッグ20の後面の間で膨張する(図21A参照)。インナーバッグ30Bが膨張すると、筒状膨張部38は、排出口39を開放して、ガスを排出口39からアウターバッグ20外に排出する(図21B参照)。排出口39は、連結部材7によりインナーバッグ30B内に引き込まれて閉鎖され、ガスの排出を停止する(図21C参照)。アウターバッグ20内のガスは、貫通孔26A及びベントホール21からアウターバッグ20外に排出される。
【0126】
筒状膨張部38は、インナーバッグ30B内に引き込まれるときに、カバー26外に移動して、カバー26をベントホール21に重ねる(図21D参照)。カバー26は、アウターバッグ20の膨張に伴う張力とアウターバッグ20の内圧により、アウターバッグ20の後面に密着するとともに、貫通孔26Aをベントホール21に重ねる。押さえ部材50Aは、ベントホール21から離れた位置に設けられており、ベントホール21に影響することはない。そのため、ベントホール21は、押さえ部材50Aにより塞がれることなく、ガスを排出する。インナーバッグ30Bは、連結部材7に引っ張られて、開口部51を乗員方向に通過する。その後、アウターバッグ20が、乗員91の前方で完全に膨張展開する(図21E参照)。エアバッグ装置1Gは、膨張の各段階におけるエアバッグ10により、乗員91を受け止める。
【0127】
このエアバッグ装置1Gでは、第1の実施形態のエアバッグ装置1Aと同様の効果が得られる。また、押さえ部材50Aにより、インナーバッグ30Bの膨張を押さえて、アウターバッグ20の前面の移動をより確実に規制できる。筒状膨張部38の端部38Aに設けた排出口39により、第3の実施形態のエアバッグ装置1Cと同様の効果が得られ、様々な状態の乗員91を安全に保護できる。排出口39からガスを排出することで、OOP状態の乗員91も保護できる。連結部材7は、筒状膨張部38をアウターバッグ20内まで引き込むための力により、引き出しが抑制される。その結果、連結部材7により、アウターバッグ20の前面の移動を確実に規制できる。
【0128】
なお、カバー26の貫通孔26Aは、ベントホール21と完全に一致しない位置に配置してもよい。このカバー26は、貫通孔26Aをベントホール21からずらしてベントホール21に重なり、ベントホール21を閉鎖する。貫通孔26Aは、アウターバッグ20の後面に密着して閉鎖される。また、貫通孔26Aは、ベントホール21とずれた状態に配置してもよい。このカバー26は、ベントホール21に重なる貫通孔26Aにより、ベントホール21の開口面積を変更する。ベントホール21の開口面積は、第1面積M1よりも小さい第2面積M2に変更される。筒状膨張部38の端部38Aは、アウターバッグ20に通過口25を設けずに、ベントホール21を通して、アウターバッグ20外に配置してもよい。
【0129】
(第8の実施形態)
図22は、第8の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Hと表す)を示す図である。図22では、膨張展開するエアバッグ10を順に断面図で示している。
このエアバッグ装置1Hでは、インナーバッグ30Bの配置の仕方が、第7の実施形態のエアバッグ装置1Gと相違する。また、アウターバッグ20も部分的に変更されている。ここでは、既に説明したエアバッグ装置1Gと同じ構成は、同じ名前と符号を付して、その説明は省略し、インナーバッグ30Bとアウターバッグ20の相違点について詳しく説明する。
【0130】
アウターバッグ20は、通過口25を有さず、後基布23のカバー26に覆われる位置にベントホール21のみが設けられている。カバー26は、貫通孔26Aをベントホール21にオーバーラップさせて、後基布23に縫製される。その際、貫通孔26Aは、ベントホール21とずれた状態に配置される。カバー26がアウターバッグ20の後面に密着したときに、貫通孔26Aは、ベントホール21に対して位置をずらして重なる。カバー26は、貫通孔26Aの周辺部分で、ベントホール21を部分的に塞いで、ベントホール21の開口面積を変更する。これにより、ベントホール21の開口面積が、第1面積M1よりも小さい第2面積M2に変更される。
【0131】
筒状膨張部38の端部38Aは、エアバッグ10の膨張前に、アウターバッグ20内で、カバー26とアウターバッグ20との間に配置される(図22A参照)。また、端部38A及び排出口39は、ベントホール21上に、又は、ベントホール21に近接して配置される。排出口39は、ベントホール21に向けて配置される。
【0132】
インナーバッグ30Bが膨張すると、筒状膨張部38は、端部38Aまで膨張して排出口39を開放する(図22B参照)。インナーバッグ30Bは、インフレータ3が発生するガスを、排出口39から直接排出する。排出後のガスは、ベントホール21からアウターバッグ20外に排出される。排出口39は、連結部材7によりインナーバッグ30B内に引き込まれて閉鎖され、ガスの排出を停止する(図22C参照)。その際、膨張した筒状膨張部38は、カバー26とベントホール21の間に、ガスを流通させる空間62を形成する。アウターバッグ20内のガスは、第1面積M1の貫通孔26A及びベントホール21から外部へ排出される。
【0133】
筒状膨張部38の端部38Aは、ベントホール21から次第に離れて、空間62を狭くする。カバー26は、ベントホール21に徐々に接近する。ベントホール21は、カバー26の貫通孔26Aが接近するのに伴い、ガスが徐々に排出され難くなり、ガスの排出量が連続して減少する。筒状膨張部38は、インナーバッグ30B内に引き込まれるときに、カバー26外に移動して、カバー26をベントホール21に重ねる(図22D参照)。カバー26は、アウターバッグ20の後面に密着するとともに、貫通孔26Aをベントホール21に重ねる。カバー26は、ベントホール21に重なる貫通孔26Aにより、ベントホール21の開口面積を変更する。ベントホール21の開口面積は、第1面積M1よりも小さい第2面積M2に変更される。続いて、アウターバッグ20が、乗員91の前方で完全に膨張展開する(図22E参照)。エアバッグ装置1Hは、膨張の各段階におけるエアバッグ10により、乗員91を受け止める。
【0134】
このエアバッグ装置1Hでは、第7の実施形態のエアバッグ装置1Gと同様の効果が得られる。また、第3の実施形態のエアバッグ装置1Cと同様に、カバー26の貫通孔26Aにより、ベントホール21の開口面積を変更して、ベントホール21から排出されるガスの量を変更することができる。ベントホール21からのガスの排出量を徐々に変化させることもできる。これにより、エアバッグ10は、膨張の各段階に応じたガスの排出量を確保して、適切な衝撃吸収特性を発揮する。
【0135】
(第9の実施形態)
図23は、第9の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Iと表す)を示す図である。図23では、膨張展開するエアバッグ10を順に断面図で示している。
このエアバッグ装置1Iでは、インナーバッグ30Aの配置の仕方が、第8の実施形態のエアバッグ装置1Hと相違する。また、アウターバッグ20も部分的に変更されている。ここでは、エアバッグ装置1Hとの相違点について説明する。
【0136】
エアバッグ10は、図示のように、排出口39のないインナーバッグ30Aを有する。アウターバッグ20のカバー26は、貫通孔26Aをベントホール21にオーバーラップさせて、アウターバッグ20の後基布23に縫製される。貫通孔26Aは、ベントホール21と一致する位置に配置される。筒状膨張部38の端部38Aは、エアバッグ10の膨張前に、アウターバッグ20内で、カバー26とアウターバッグ20との間に配置される(図23A参照)。筒状膨張部38は、カバー26内に配置された状態で、ベントホール21に重ねて配置される。これにより、筒状膨張部38は、ベントホール21の全体を覆って、ベントホール21を閉鎖する。
【0137】
インナーバッグ30Aが膨張すると、筒状膨張部38は、端部38Aまで膨張して、カバー26内でベントホール21を閉鎖する(図23B参照)。ベントホール21は、筒状膨張部38によりガスの排出が防止される。筒状膨張部38は、カバー26外に移動するときに、ベントホール21を開放する(図23C参照)。ベントホール21は、筒状膨張部38の移動により、徐々に開口面積が大きくなる。アウターバッグ20内のガスは、貫通孔26A及びベントホール21からアウターバッグ20外に排出される。
【0138】
筒状膨張部38は、インナーバッグ30A内に引き込まれるときに、カバー26をベントホール21に重ねる(図23D参照)。カバー26は、アウターバッグ20の後面に密着するとともに、貫通孔26Aをベントホール21に重ねて、完全に開放されたベントホール21からガスを排出させる。アウターバッグ20は、乗員91の前方で完全に膨張展開する(図23E参照)。エアバッグ装置1Iは、膨張の各段階におけるエアバッグ10により、乗員91を受け止める。
【0139】
このエアバッグ装置1Iでは、第7の実施形態のエアバッグ装置1Gと同様の効果が得られる。また、展開初期に、ベントホール21が筒状膨張部38により閉鎖されるため、アウターバッグ20内に供給されるガスの漏れ及び損失を防止して、ガスを有効に利用できる。これにより、インフレータ3の小型化や低出力化を実現できるため、エアバッグ装置1Iのコストを削減できる。また、ベントホール21は、筒状膨張部38がカバー26外に移動するときに開放されて、ガスの排出が可能になる。エアバッグ10は、最適なベントホール21の開口面積を確保して、乗員の衝撃を緩和する。
【0140】
ガスを有効利用するために、例えば、アウターバッグ20の容量を減少させ、或いは、ベントホール21を小さくするときには、エアバッグ10の衝撃吸収特性に影響が生じることがある。これに対し、エアバッグ装置1Iは、アウターバッグ20の容量とベントホール21の大きさを充分に確保できる。エアバッグ10は、容量とベントホール21からのガスの排出量に応じて、適切な衝撃吸収特性を発揮できる。
【0141】
(第10の実施形態)
図24は、第10の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Jと表す)を示す図である。図24では、膨張展開するエアバッグ10を順に断面図で示している。
このエアバッグ装置1Jでは、連結部材7の連結の仕方が、第9の実施形態のエアバッグ装置1Iと相違する。ここでは、エアバッグ装置1Iとの相違点について説明する。
【0142】
連結部材7の連結位置を、図示のように、アウターバッグ20の中心から所定方向(図では左方)にずらす。連結部材7は、流通口31を通して、アウターバッグ20の前面に対し、中心からずれた位置に連結される。インナーバッグ30Aが膨張すると(図24A参照)、筒状膨張部38は、端部38Aまで膨張する(図24B参照)。アウターバッグ20は、インナーバッグ30Aの流通口31から供給されるガスにより膨張を開始する。その際、アウターバッグ20は、連結部材7が連結する側に比べて、その逆側(図24Bでは右側)が連結部材7による規制を受け難くなり、相対的に大きく膨張する。アウターバッグ20の大きく膨張する優先膨張部Yは、ガスが多く供給されて、優先して膨張する。
【0143】
アウターバッグ20は、連結部材7の連結位置に応じて、所定方向に向かって展開する(図24C参照)。連結部材7は、アウターバッグ20により引っ張られて、インナーバッグ30A内から、アウターバッグ20の展開方向に引き出される。インナーバッグ30Aの流通口31は、連結部材7に追従して、連結部材7が引き出される方向に向く。インナーバッグ30Aは、流通口31から、アウターバッグ20の展開方向にガスを流出する。これにより、アウターバッグ20は、優先膨張部Yの膨張が進行して、非対称に展開する。その後、アウターバッグ20は、乗員91の前方で完全に膨張展開する(図24D参照)。
【0144】
このエアバッグ装置1Jでは、第9の実施形態のエアバッグ装置1Iと同様の効果が得られる。また、連結部材7により、アウターバッグ20を非対称に展開させ、或いは、特定の方向に展開させることができる。連結部材7をアウターバッグ20へ連結する位置を変更することで、アウターバッグ20の展開挙動を調整することもできる。その結果、車両内におけるエアバッグ装置1Jの位置、又は、乗員91の位置に応じて、エアバッグ10を膨張展開させることができる。例えば、エアバッグ装置1Jを助手席の前方に配置するときに、アウターバッグ20内で、優先膨張部Yを乗員91側の部分に設ける。これにより、エアバッグ10を、乗員91へ向かって膨張展開させる。
【0145】
(第11の実施形態)
図25は、第11の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Kと表す)を示す図である。図25では、膨張展開するエアバッグ10を順に断面図で示している。
このエアバッグ装置1Kでは、インフレータ3の配置の仕方が、第9の実施形態のエアバッグ装置1Iと相違する。ここでは、エアバッグ装置1Iとの相違点について説明する。
【0146】
インナーバッグ30Aの流通口31は、図示のように、インフレータ3よりも大きく形成される。インフレータ3は、上記したように、一端部にガス噴出口を有する。インフレータ3の一端部は、流通口31を通して、インナーバッグ30A外(アウターバッグ20内)に配置される。インフレータ3は、アウターバッグ20内でガスを発生して、アウターバッグ20を膨張させる(図25A参照)。インナーバッグ30Aは、ガスが供給されずに、膨張前の形状に維持される。アウターバッグ20は、膨張に伴い、連結部材7を引っ張り、インナーバッグ30A内から連結部材7を引き出す(図25B参照)。その際、連結部材7が、インナーバッグ30Aの流通口31を引っ張り、インフレータ3の全体をインナーバッグ30A内に配置する(図25C参照)。インナーバッグ30Aは、インフレータ3から供給されるガスにより膨張する。その後、エアバッグ10は、第9の実施形態と同様に膨張展開する。
【0147】
このエアバッグ装置1Kでは、第9の実施形態のエアバッグ装置1Iと同様の効果が得られる。また、アウターバッグ20を最初に膨張させて、連結部材7によりインフレータ3をインナーバッグ30A内に配置する。これにより、インフレータ3が発生するガスを、インナーバッグ30A内に確実に供給できる。エアバッグ10を、円滑に展開させることもできる。
【0148】
(第12の実施形態)
図26は、第12の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Lと表す)を示す図である。図26では、膨張展開するエアバッグ10を順に断面図で示している。
このエアバッグ装置1Lでは、アウターバッグ20の構成が、第7の実施形態のエアバッグ装置1Gと相違する。ここでは、エアバッグ装置1Gとの相違点について説明する。
【0149】
アウターバッグ20は、図示のように、カバー26に覆われる位置に、ベントホール21が設けられずに、通過口25のみを有する。また、アウターバッグ20は、内部に押さえ部材50Aが設けられずに、外部に閉鎖部材70を有する。アウターバッグ20は、閉鎖部材70に覆われる位置(ここでは、後面)に、内部のガスを外部に排出するベントホール21を有する。カバー26は、貫通孔26Aが設けられず、内部に筒状膨張部38が配置される。筒状膨張部38の端部38Aは、通過口25を通ってアウターバッグ20外に配置される。
【0150】
閉鎖部材70は、帯状の基布からなり、ベントホール21上に配置されて、アウターバッグ20の外面に密着する。また、閉鎖部材70の一端は、ベントホール21の近傍で、アウターバッグ20に接合される。閉鎖部材70の他端は、通過口25を通ってカバー26内に挿入され、カバー26と筒状膨張部38との間に配置される。閉鎖部材70は、膨張した筒状膨張部38により一端が保持される。その状態で、閉鎖部材70は、ベントホール21に被さり、ベントホール21を閉鎖して、ベントホール21からのガスの排出を停止させる。
【0151】
インナーバッグ30Bが膨張すると、筒状膨張部38がカバー26内で膨張する(図26A参照)。筒状膨張部38の端部38Aは、アウターバッグ20外で排出口39を開放する。閉鎖部材70は、膨張した筒状膨張部38とカバー26に挟まれて保持され、ベントホール21を閉鎖した状態に維持する。また、閉鎖部材70は、カバー26内に引き込まれた筒状膨張部38により保持される(図26B、図26C参照)。端部38Aの排出口39は、インナーバッグ30B内から引き出される連結部材7により、アウターバッグ20内に引き込まれて閉鎖する。
【0152】
筒状膨張部38がインナーバッグ30B内に引き込まれるときに、閉鎖部材70は、筒状膨張部38による保持が解除される(図26D参照)。ここでは、筒状膨張部38がカバー26外へ移動したときに、閉鎖部材70は、筒状膨張部38とカバー26の間から出て、通過口25から抵抗なく抜け出す。これにより、閉鎖部材70は、ベントホール21を開放するとともに、ベントホール21から排出されるガスの流れにより、ベントホール21から離れる。続いて、アウターバッグ20が乗員91の前方で完全に膨張展開する(図26E参照)。アウターバッグ20内のガスは、ベントホール21から排出される。
【0153】
このエアバッグ装置1Lでは、第7の実施形態のエアバッグ装置1Gと同様の効果が得られる。展開初期に、ベントホール21が閉鎖部材70により閉鎖されるため、アウターバッグ20内に供給されるガスの漏れ及び損失を防止して、ガスを有効に利用することもできる。ベントホール21は、筒状膨張部38がインナーバッグ30B内に引き込まれるときに開放されて、ガスの排出が可能になる。エアバッグ10は、最適なベントホール21の開口面積を確保して、乗員の衝撃を緩和する。
【0154】
ここでは、閉鎖部材70を、アウターバッグ20の一部を構成するカバー26と筒状膨張部38により挟んで保持している。これに対し、閉鎖部材70は、アウターバッグ20の後面とカバー26に挟んで保持するようにしてもよい。インナーバッグ30Bは、排出口39がないインナーバッグ30Aに変更してもよい。この場合には、エアバッグ10の膨張前に、筒状膨張部38の端部38Aを、カバー26内に配置してもよい。
【0155】
(第13の実施形態)
図27は、第13の実施形態のエアバッグ装置1(以下、エアバッグ装置1Mと表す)を示す図である。図27では、膨張展開するエアバッグ10を順に断面図で示している。
このエアバッグ装置1Mでは、インナーバッグ30Aの配置の仕方が、第1の実施形態のエアバッグ装置1Aと相違する。また、アウターバッグ20の構成も部分的に相違する。ここでは、エアバッグ装置1Aとの相違点について説明する。
【0156】
アウターバッグ20は、図示のように、アウターバッグ20の内方に突出する筒状のガス通路71を有する。ガス通路71は、筒状に形成した基布からなり、アウターバッグ20の後面の2箇所に設けられている。ガス通路71の両端は、それぞれアウターバッグ20の外部と内部に向かって開口する。ガス通路71は、ガスの排出路であり、アウターバッグ20内のガスを外部に排出する。インナーバッグ30の筒状膨張部38は、内方に突出するガス通路71内に配置され、ガス通路71内で膨張してガス通路71に密着する。これにより、筒状膨張部38は、ガス通路71を塞ぎつつ、ガス通路71をアウターバッグ20内に保持する。
【0157】
インナーバッグ30Aが膨張すると(図27A参照)、筒状膨張部38がガス通路71内で膨張する(図27B参照)。筒状膨張部38は、ガス通路71を保持して、ガス通路71の反転を抑制する。ガス通路71は、膨張した筒状膨張部38により閉鎖される(図27C参照)。筒状膨張部38は、連結部材7によりインナーバッグ30A内に引き込まれて、アウターバッグ20内に移動する(図27D参照)。ガス通路71は、筒状膨張部38による抵抗がなくなり、アウターバッグ20内のガスの圧力により反転を開始する。
【0158】
このように、筒状膨張部38は、インナーバッグ30A内に引き込まれるときに、ガス通路71外に移動してガス通路71を反転させる(図27E参照)。ガス通路71は、ガスの圧力により反転して、アウターバッグ20の外方に向かって突出して、アウターバッグ20の外部に向かって開放される。続いて、アウターバッグ20が乗員91の前方で完全に膨張展開する。アウターバッグ20内のガスは、ガス通路71から排出される。
【0159】
このエアバッグ装置1Mでは、第1の実施形態のエアバッグ装置1Aと同様の効果が得られる。連結部材7は、筒状膨張部38をアウターバッグ20内まで引き込むための力により、引き出しが抑制される。その結果、連結部材7により、アウターバッグ20の前面の移動を確実に規制できる。展開初期に、ガス通路71が膨張した筒状膨張部38により閉鎖されるため、アウターバッグ20内に供給されるガスの漏れ及び損失を防止して、ガスを有効に利用できる。ガス通路71は、筒状膨張部38がインナーバッグ30A内に引き込まれるときに開放されて、ガスの排出が可能になる。エアバッグ10は、ガス通路71からガスを排出して、乗員の衝撃を緩和する。なお、インナーバッグ30Aは、排出口39が設けられたインナーバッグ30Bに変更してもよい。
【0160】
以上説明した複数の実施形態のエアバッグ装置1において、インナーバッグ30を押さえる押さえ部材50を有さないエアバッグ10に、押さえ部材50Aを設けるようにしてもよい。これに対し、押さえ部材50Aを有するエアバッグ10に、押さえ部材50Aを設けないようにしてもよい。排出口39が設けられたインナーバッグ30Bを有するエアバッグ10で、OOP状態の乗員91への対応が不要であるときには、インナーバッグ30Bを、排出口39がないインナーバッグ30Aに変更してもよい。この場合には、ガスがアウターバッグ20外へ排出されないため、インフレータ3が発生するガスを有効に利用して、エアバッグ10を素早く膨張展開させることができる。
【符号の説明】
【0161】
1・・・エアバッグ装置、2・・・エアバッグカバー、3・・・インフレータ、4・・・クッションリング、5・・・リアクションプレート、6・・・ロックナット、7・・・連結部材、10・・・エアバッグ、11・・・取付口、12・・・挿入孔、13・・・補強布、14・・・補強布、15・・・保護布、20・・・アウターバッグ、21・・・ベントホール、22・・・前基布、23・・・後基布、24・・・気室、25・・・通過口、26・・・カバー、27・・・補強カバー、30・・・インナーバッグ、31・・・流通口、34・・・気室、35・・・前基布、36・・・後基布、37・・・球状膨張部、38・・・筒状膨張部、39・・・排出口、50・・・押さえ部材、51・・・開口部、52・・・帯状部材、53・・・貫通孔、60〜62・・・空間、70・・・閉鎖部材、71・・・ガス通路、90・・・ステアリングホイール、91・・・乗員、92・・・運転席。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスにより膨張展開して車両の乗員を保護するエアバッグと、エアバッグにガスを供給するインフレータとを備えたエアバッグ装置であって、
エアバッグが、インフレータから供給されるガスにより膨張するとともに、ガスの流通口が設けられたインナーバッグと、インナーバッグを収容してインナーバッグの流通口から供給されるガスにより膨張するアウターバッグと、インナーバッグ内に配置されてインナーバッグの内面をアウターバッグの前面に連結する連結部材とを有し、
連結部材が、アウターバッグの膨張に伴い、膨張したインナーバッグ内から引き出されてアウターバッグの前面を乗員方向へ移動させるエアバッグ装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたエアバッグ装置において、
連結部材が、インナーバッグの流通口を通してアウターバッグの前面に連結されたエアバッグ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたエアバッグ装置において、
エアバッグが、アウターバッグ内で乗員方向へ膨張するインナーバッグを押さえる押さえ部材を有し、
押さえ部材が、膨張展開したインナーバッグよりも小さく形成され、連結部材及び収縮するインナーバッグを乗員方向へ通過させる開口部を有するエアバッグ装置。
【請求項4】
請求項3に記載されたエアバッグ装置において、
アウターバッグが、内部のガスを外部に排出するベントホールを有し、
押さえ部材が、開口部をインナーバッグが通過したときに、ベントホールに重なってベントホールの開口面積を変更する貫通孔を有するエアバッグ装置。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載されたエアバッグ装置において、
インナーバッグが、外方に突出する筒状膨張部を有し、
連結部材が、筒状膨張部内に連結され、インナーバッグ内から引き出されるときに、筒状膨張部をインナーバッグ内に引き込むエアバッグ装置。
【請求項6】
請求項5に記載されたエアバッグ装置において、
筒状膨張部の端部が、エアバッグの膨張前に、アウターバッグに設けられた通過口を通ってアウターバッグ外に配置され、インナーバッグ内から引き出される連結部材により、アウターバッグ内に引き込まれるエアバッグ装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載されたエアバッグ装置において、
アウターバッグが、内部のガスを外部に排出するベントホールと、ガスを通過させる貫通孔が設けられ、ベントホールに重なるベントホール部カバーとを有し、
筒状膨張部が、エアバッグの膨張前にベントホール部カバー内に配置され、インナーバッグ内に引き込まれるときに、ベントホール部カバー外に移動してベントホール部カバーをベントホールに重ねるエアバッグ装置。
【請求項8】
請求項7に記載されたエアバッグ装置において、
ベントホール部カバーが、貫通孔をベントホールからずらしてベントホールに重なり、ベントホールを閉鎖するエアバッグ装置。
【請求項9】
請求項7に記載されたエアバッグ装置において、
ベントホール部カバーが、貫通孔をベントホールに重ねてベントホールからガスを排出させるエアバッグ装置。
【請求項10】
請求項9に記載されたエアバッグ装置において、
ベントホール部カバーが、ベントホールに重なる貫通孔により、ベントホールの開口面積を変更するエアバッグ装置。
【請求項11】
請求項7ないし10のいずれかに記載されたエアバッグ装置において、
ベントホール部カバーが、アウターバッグ内に配置され、
筒状膨張部の端部が、エアバッグの膨張前に、アウターバッグ内でベントホール部カバーとアウターバッグとの間に配置されるエアバッグ装置。
【請求項12】
請求項7ないし10のいずれかに記載されたエアバッグ装置において、
ベントホール部カバーが、アウターバッグ外に配置され、
筒状膨張部の端部が、エアバッグの膨張前に、アウターバッグに設けられた通過口を通って、アウターバッグ外でベントホール部カバーとアウターバッグとの間に配置されるエアバッグ装置。
【請求項13】
請求項6ないし12のいずれかに記載されたエアバッグ装置において、
インナーバッグが、筒状膨張部の端部に、内部のガスを外部に排出する排出口を有するエアバッグ装置。
【請求項14】
請求項7に記載されたエアバッグ装置において、
筒状膨張部が、ベントホール部カバー内に配置された状態でベントホールを閉鎖し、ベントホール部カバー外に移動するときにベントホールを開放するエアバッグ装置。
【請求項15】
請求項5に記載されたエアバッグ装置において、
アウターバッグが、内部のガスを外部に排出するベントホールと、筒状膨張部により保持されてベントホールを閉鎖する閉鎖部材とを有し、
閉鎖部材が、筒状膨張部とアウターバッグに挟まれて保持され、筒状膨張部がインナーバッグ内に引き込まれるときに保持が解除されて、ベントホールを開放するエアバッグ装置。
【請求項16】
請求項5に記載されたエアバッグ装置において、
アウターバッグが、内方に突出し、かつ、ガスの圧力により反転して外部に向かって開放される筒状のガス通路を有し、
筒状膨張部が、内方に突出するガス通路内で膨張してガス通路を保持し、インナーバッグ内に引き込まれるときに、ガス通路外に移動してガス通路を反転させるエアバッグ装置。
【請求項1】
ガスにより膨張展開して車両の乗員を保護するエアバッグと、エアバッグにガスを供給するインフレータとを備えたエアバッグ装置であって、
エアバッグが、インフレータから供給されるガスにより膨張するとともに、ガスの流通口が設けられたインナーバッグと、インナーバッグを収容してインナーバッグの流通口から供給されるガスにより膨張するアウターバッグと、インナーバッグ内に配置されてインナーバッグの内面をアウターバッグの前面に連結する連結部材とを有し、
連結部材が、アウターバッグの膨張に伴い、膨張したインナーバッグ内から引き出されてアウターバッグの前面を乗員方向へ移動させるエアバッグ装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたエアバッグ装置において、
連結部材が、インナーバッグの流通口を通してアウターバッグの前面に連結されたエアバッグ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたエアバッグ装置において、
エアバッグが、アウターバッグ内で乗員方向へ膨張するインナーバッグを押さえる押さえ部材を有し、
押さえ部材が、膨張展開したインナーバッグよりも小さく形成され、連結部材及び収縮するインナーバッグを乗員方向へ通過させる開口部を有するエアバッグ装置。
【請求項4】
請求項3に記載されたエアバッグ装置において、
アウターバッグが、内部のガスを外部に排出するベントホールを有し、
押さえ部材が、開口部をインナーバッグが通過したときに、ベントホールに重なってベントホールの開口面積を変更する貫通孔を有するエアバッグ装置。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載されたエアバッグ装置において、
インナーバッグが、外方に突出する筒状膨張部を有し、
連結部材が、筒状膨張部内に連結され、インナーバッグ内から引き出されるときに、筒状膨張部をインナーバッグ内に引き込むエアバッグ装置。
【請求項6】
請求項5に記載されたエアバッグ装置において、
筒状膨張部の端部が、エアバッグの膨張前に、アウターバッグに設けられた通過口を通ってアウターバッグ外に配置され、インナーバッグ内から引き出される連結部材により、アウターバッグ内に引き込まれるエアバッグ装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載されたエアバッグ装置において、
アウターバッグが、内部のガスを外部に排出するベントホールと、ガスを通過させる貫通孔が設けられ、ベントホールに重なるベントホール部カバーとを有し、
筒状膨張部が、エアバッグの膨張前にベントホール部カバー内に配置され、インナーバッグ内に引き込まれるときに、ベントホール部カバー外に移動してベントホール部カバーをベントホールに重ねるエアバッグ装置。
【請求項8】
請求項7に記載されたエアバッグ装置において、
ベントホール部カバーが、貫通孔をベントホールからずらしてベントホールに重なり、ベントホールを閉鎖するエアバッグ装置。
【請求項9】
請求項7に記載されたエアバッグ装置において、
ベントホール部カバーが、貫通孔をベントホールに重ねてベントホールからガスを排出させるエアバッグ装置。
【請求項10】
請求項9に記載されたエアバッグ装置において、
ベントホール部カバーが、ベントホールに重なる貫通孔により、ベントホールの開口面積を変更するエアバッグ装置。
【請求項11】
請求項7ないし10のいずれかに記載されたエアバッグ装置において、
ベントホール部カバーが、アウターバッグ内に配置され、
筒状膨張部の端部が、エアバッグの膨張前に、アウターバッグ内でベントホール部カバーとアウターバッグとの間に配置されるエアバッグ装置。
【請求項12】
請求項7ないし10のいずれかに記載されたエアバッグ装置において、
ベントホール部カバーが、アウターバッグ外に配置され、
筒状膨張部の端部が、エアバッグの膨張前に、アウターバッグに設けられた通過口を通って、アウターバッグ外でベントホール部カバーとアウターバッグとの間に配置されるエアバッグ装置。
【請求項13】
請求項6ないし12のいずれかに記載されたエアバッグ装置において、
インナーバッグが、筒状膨張部の端部に、内部のガスを外部に排出する排出口を有するエアバッグ装置。
【請求項14】
請求項7に記載されたエアバッグ装置において、
筒状膨張部が、ベントホール部カバー内に配置された状態でベントホールを閉鎖し、ベントホール部カバー外に移動するときにベントホールを開放するエアバッグ装置。
【請求項15】
請求項5に記載されたエアバッグ装置において、
アウターバッグが、内部のガスを外部に排出するベントホールと、筒状膨張部により保持されてベントホールを閉鎖する閉鎖部材とを有し、
閉鎖部材が、筒状膨張部とアウターバッグに挟まれて保持され、筒状膨張部がインナーバッグ内に引き込まれるときに保持が解除されて、ベントホールを開放するエアバッグ装置。
【請求項16】
請求項5に記載されたエアバッグ装置において、
アウターバッグが、内方に突出し、かつ、ガスの圧力により反転して外部に向かって開放される筒状のガス通路を有し、
筒状膨張部が、内方に突出するガス通路内で膨張してガス通路を保持し、インナーバッグ内に引き込まれるときに、ガス通路外に移動してガス通路を反転させるエアバッグ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2012−153172(P2012−153172A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11388(P2011−11388)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】
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