説明

エア圧利用装置

【課題】小型化が容易で起動時、停止時の慣性が小さく、ワーク取扱い作動を高速に、かつ、正確に行え、作動が俊敏なエア圧利用装置の提供。
【解決手段】機体23に設定した1本の主軸線26に沿ってスライド軸24と円筒溝カム25を配置する。スライド軸24は上下方向で移動可能であり下端部に吸着ノズル27(ワーク取扱い部)を備える。円筒溝カム25とスライド軸24を作動的に連結するカムフォロア36は円筒溝カム25の周面に設けたカム溝32に一端が案内されると共に、他端が前記機体23に主軸線方向へ設けた直線ガイド孔40に案内されている。吸着ノズル27には、機体23側のポート28からエアチャネル30、スライド軸24のエア通路29を通じてエア圧(吸着)が供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動組立てラインのローディングユニットなどにおいて使用されるエア圧利用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動組立てラインのローディング(部品の搬送組み付けなど)では、PPU(ピックアンドプレースユニット)やロボットのアーム先端に吸着ノズルやエアチャックのようなエア圧利用装置を取付けて利用することがある。
例えば、吸着ノズル装置には先端に吸着パッドなどワーク吸着部を備え、これでワークを吸着し、持ち上げ、所定位置に移動させ、次いで下降させ、設定した所定の位置で吸着を解く作動を行って、ワークを目的の位置に配置する。このような作業には、高速かつ繰り返し精度の高いことが要求されるので、エア圧利用装置を移動させるときの慣性も考慮する必要がある。
【0003】
また、エア圧利用装置には、本体部と先端にワーク取扱い部を備えた移動部を備え、ワーク取扱い部の駆動をエア圧で行うばかりでなく、本体部に対する移動部の駆動をエア圧で行うものが多い。しかし、エアの場合は移動部の上下移動開始時と停止時に圧縮エアの弾性によるエア圧機構独特の揺れがあり、動作が高速になると作動の俊敏さと確実性に不満がある。また、ワーク取扱い部の駆動はエア圧で行うものが多いが、ワーク取扱い部を先端に備えた移動部からエア圧の供給を受ける構造は、移動部を軸方向に貫通させてエア通路を設ける程度のものであり、軸方向からではなく、移動体を案内する機体側から供給されるものが見あたらない。
【0004】
特許文献1は、その図4にこの出願当時の従来例として、水平ハンドラーの一部であって、本願でいうエア圧利用装置に相当する部分(吸着ノズル装置)を開示している。この部分は、シリンダーA1にリニアガイドA3を介してガイドA4を上下(シリンダーの上下軸方向)に移動可能とし、シリンダーA1のピストンロッド下端と前記リニアガイドA3とを結合してエア圧によりガイドA4を上下に駆動する。ガイドA4の下面部に吸引エアによる吸着部が設けられている。
【0005】
このエア圧利用装置は、シリンダーA1やリニアガイドA3を介したガイドA4及びピストンロッドなどを備え、シリンダーA1の軸線(すなわち、ピストンロッドの軸線)とガイドA4の軸線および吸着部が上下移動するときの軸線(軌跡)の3本が平行に並置されている。このため、このエア圧利用装置は軸線が並置されている方向に幅が大きくなり、小型化が困難である。また、シリンダーやピストンなどのストローク付与手段が大きくなるのでワーク取扱い部(吸着部)を移動させる起動、停止の際の慣性が大きく、高速かつ正確なピックアップ作業を得にくい。また、シリンダーのピストンロッドはエア圧で駆動されるので、作動の俊敏さに欠けるところがある。
【0006】
本願に添付の図3は、エア圧を利用する吸着ノズル装置の典型的な構造を示したものである。吸着ノズル装置1は、概略、シリンダー2とピストン3及びピストン3の先端に取付けた吸着ノズル4とからなる。ピストン3はシリンダー2の内部をポート5から供給されるエア圧によって上方の初期位置から下方へ押し下げられ、圧縮ばね6によって初期位置に戻される。ノズル4にはピストンのロッド7の先端部に設けたポート8からエア通路9を経由してエア圧(吸着)が供給される。ポート5とポート8は制御装置10のコントロール下にある弁装置11に接続され、一定のアルゴリズムのもとにエア圧が供給・排出される。
ピストン3のロッド7は、ロッド7の軸と平行に配置されたガイド12によって直線案内される。吸着ノズル装置1は、これを操作するP&P(ピックアップアンドプレース)側のヘッド13に取付けられている。
【0007】
この構造は、ピストン3の駆動がエア圧と圧縮ばねとの協働で行われるため、吸着ノズル4の上端部、下端部での起動・停止時に作動が不安定になりやすい。また、吸着ノズル4用のポート8が高速で上下に移動するロッド7の先端部に形成されているので、ポート8につながるエア圧用のチューブも激しく揺られ、吸着位置を定めるときに位置決めの精度を高めにくい。
【0008】
特許文献2のワーク搬送装置(1)のスライド部材(6)は、ロッド(8)が軸受(9)により固定ブロック(10)に昇降可能に組まれ、ロッド(8)の下端に吸着ノズル(7)が取り付けられると共に、ロッド(8)の上端面に駆動カム11が配置されている。吸着ノズル(7)はさらにホルダ(15)とノズル(16)とからなり、ホルダ(15)とノズル(16)の間にばねなどによってクッション性が付与されている。
ノズル(16)に供給される吸着用のエア圧は、ロッド(8)を貫通し、一旦、ホルダ(15)の外筒(17)とホルダ本体(18)間の吸引通路に導入されたのち、ノズル(16)の吸引通路(30)に連通されている。
ワーク搬送装置(1)のこのような構造は、ホルダ(15)に対するノズル(16)のクッション性を維持するためのものであり、ロッド(8)が昇降する場合に関連する構造ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−212786号公報
【特許文献2】特開2002−205293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
小型化が容易で作動の起動時、停止時の慣性が小さく、かつ、ワークの取扱いにエア圧を用い、また、その作動を高速に、かつ、正確に行え、作動が俊敏なエア圧利用装置の提供。
【発明の効果】
【0011】
自動組立てラインのローディング作業を高速に行える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例を一部断面で示した正面図。
【図2】実施例が採用するカムのカム曲線。
【図3】他の実施例の一部を示した(イ)はスライド軸の横断面図、(ロ)は一部を縦断面で示す図。
【図4】従来例を概略で示した正面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1において、符号21は、この出願の発明によるエア圧利用装置(以下、吸着ノズル装置という)である。
吸着ノズル装置21はP&P(図示していない)あるいは産業用ロボットのヘッド22の先端に、この実施例において作動方向を上下として取付けられている。
吸着ノズル装置21は、機体23(本体部)とスライド軸24(移動部)及び円筒溝カム25を、スライド軸24を下方、円筒溝カム25を上方とした配置で備えている。これらは、機体23に設定した1本の主軸線26に沿ってスライド軸24のスライド方向中心軸線と円筒溝カム25の回転中心軸線を前記主軸線26に一致させている。
【0014】
スライド軸24は機体23に対して前記主軸線26に沿って上下方向で移動可能に案内されると共に下端部に吸着ノズル27を備える。吸着ノズル27にはスライド軸24の下部に設けたポート28からスライド軸24内部のエア通路29を通じてエア圧(吸着用)が供給される。ポート28は機体23の内部に貫通していてその箇所と対応したスライド軸24の周面に上下方向に幅広のエアチャネル30がスライド軸24を一周して形成されている。エアチャネル30の上下方向幅wは、スライド軸24の移動にかかわらず、定位置のポート28側とエア通路29とが常時連通している大きさである。符号31はシール材であり、機体23によるガイド部内面とスライド軸表面との間に配置されている。
【0015】
円筒溝カム25は、周面に螺旋状のカム溝32が形成されたものであって、機体23の上端部にベアリングを介して軸支され、主軸線26に沿った回転軸を中心に機体23の定位置において回転可能に軸支されると共に、破線で示したステッピングモータ33によって、回転駆動される。符号34は円筒溝カム25の受動軸であって、ステッピングモータ33と連結される。
【0016】
円筒溝カム25とスライド軸24は、ジョイント部35とカムフォロア36を介して作動的に結合されている。すなわち、この実施例において、スライド軸24の上端は円筒溝カム25の方向へ延びた連結部37を備え、その上端部にカムフォロア36が主軸線26と直行する方向に貫通して配置されている。そして、カムフォロア36の一端は、円筒溝カム25のカム溝32にローラー38を介して案内され、他端は、ローラー39を介して、機体23の周面に設けた直線ガイド孔40(U字溝)に案内されている。
直線ガイド孔40は前記の主軸線26の方向に形成され、円筒溝カム25によって定まるスライド軸24のストロークより十分に長い上下方向寸法を有している。
円筒溝カム25のカム曲線は図2のようにほぼサインカーブとする。
【0017】
この吸着ノズル装置21は次のように作動する。なお、図示していないが、ステッピングモータ33の駆動・停止やポート28に対するエア圧の供給などは、従来と同様に制御装置のコントロール下にある。制御装置は吸着ノズル装置21を取付けたP&Pやロボットの作動と関連を持って吸着ノズル装置21のコントロールを行うこともある。
【0018】
吸着ノズル27がワークの直上に位置するようにP&P(ヘッド22)により位置決めされる(吸着ノズル27の先端は上鎖線41の位置にある)。
ステッピングモータ33が駆動され、円筒溝カム25を180°回転駆動する。
カムフォロア36は一端のローラー38がカム溝32に案内され、他端のローラー39が直線ガイド孔40に案内されて下方へ直線移動する。カムフォロア36はジョイント部35を貫通しているので、ジョイント部35を介してスライド軸24が下端まで移動し、吸着ノズル27をワーク上面に接する(下鎖線42の位置)。このとき、カムフォロア36は、ローラー38とカム溝32の溝壁との摩擦によって円筒溝カム25からジョイント部35を回転させるようなモーメントを受けるが、他端部が直線ガイド孔40に案内されるので、このモーメントが抑えられる。これにより、スライド軸24が回転負荷を受ける不都合を解消できる。
【0019】
吸着ノズル27にエア圧が供給されてワークが吸着されるとステッピングモータ33は円筒溝カム25を更に180°回転させ、ワークを上方に持ち上げる。エア圧の供給は、機体23に設けたポート28からエアチャネル30、スライド軸24内部のエア通路29を通じて行われる。
ついで、P&Pが作動してワークを設定した位置に搬送し、その位置で円筒溝カム25が再び180°回転され、ワークが目的の位置に配置される。エア圧を解放してワークを解放すると、円筒溝カム25が更に回転されて吸着ノズル27の先端が上鎖線41の位置とされる。エア圧の解放は、供給時と同様にスライド軸24内部のエア通路29、エアチャネル30及び機体23に設けたポート28を通じて行われる。すなわち、ポート28と吸着ノズル27のノズル口とはエアチャネル30を介して常時連通している。エア圧の断続は別途外部に配置した弁機構により行われる。
これで、1サイクルのピックアップ作動が終わる。この作動が繰り返される。
【0020】
この実施例では次の作用効果が発揮される。
機体23に設定した1本の主軸線26に沿ってスライド軸24と円筒溝カム25が、スライド軸24のスライド方向中心軸線と円筒溝カム25の回転中心軸線を前記主軸線26に一致させて配置されているので、作動時の動力伝達経路にこじれやモーメントが生じにくく、作動を高速化しやすい。また、スライド軸24の先端が振れるなどの支障が少ないので正確な位置決めができる。
さらに、作動に関連する主たる部材が1本の主軸線26に沿っているので、横に張り出す部材がなく、機体23を細く軽量に構成しやすい。このため、起動・停止時の慣性が小さな吸着ノズル装置とすることができる。
さらに、シール材31を組み込むことで、スライド軸24と機体23との間のわずかな隙間によるガタを無くし、繰返し動作の安定性を確保することができる。また、スライド軸24にエア通路29を軸方向へ貫通させて設ける必要がないので、前記のカムフォロア36と共に円筒溝カム25の配置が容易であり、吸着ノズル装置の構造を簡素に、また、小型化することができる。
【0021】
円筒溝カム25のカム曲線は図2のようにほぼサインカーブに近いものとすることができるので、スライド軸24がストロークの上端位置或いは下端位置にあるときの起動・停止時にショックレスとすることができ、ワークの破損や取り落としなどを防止することができる。また、カムによる上下機構であるため、エア圧による場合のように起動・停止時に不都合なクッション性がなく高速、かつ、正確な繰り返し精度を得られる。
カムフォロア36は、円筒溝カム25のカム溝32に案内される一端部と直線ガイド孔40に案内される他端部とが一体であるため円筒溝カム25が回転する際の回転負荷が直線ガイド孔40との係合で打ち消され、スライド軸24に回転負荷がかからない。このため、吸着ノズル27の正確な位置決めを容易に行える。
【0022】
前記の直線ガイド孔40に替えて、前記図4の従来例のように、ロッド(7)の回転を止めるために、ロッド(7)と平行にガイド(12)を配置することもできるが、ガイド(12)の取付け位置はロッドの先端部となるので、ロッドに作用する回転負荷はロッドの先端すなわち、吸着ノズルにまで及びやすい。また、このような場合にガイド(12)はロッド(7)の軸心と近く、ガイド(12)がロッドの回転を抑制する能力は低い。一方、本願の前記実施例では、カムフォロア36はスライド軸24の基部に配置することができるので、円筒溝カム25の回転による影響はスライド軸24の基部で抑止できる。このため、スライド軸24に作用する回転負荷があったとしても先端吸着ノズル27まで影響を与えることが少ない。また、カムフォロア36の一端(ローラー38)と他端(ローラー39)間の距離を大きくとることができるので、スライド軸24の回転負荷を抑制する能力が高い。
【0023】
さらに、吸着ノズル27にエア圧を供給するのに、機体23側に設けたポート28とスライド軸24の内部に位置するエア通路29とをエアチャネル30を介して常時連通させる構造としているので、従来のように、吸着ノズル27の箇所にエアチューブを接続してエアチューブが激しく振動することによる不都合を解消することができる。
【0024】
図3(イ)(ロ)は他の実施例であって、エア圧利用装置がエアチャック利用の場合である。スライド軸24の先端には、2ポート式のエアチャック43が取り付けられ、これにスライド軸24の2本のエア通路29a,29bの先端が接続される。エア通路29a,29bの基端は、エアチャネル30a,30bを通じてそれぞれのポート28a,28bに連通している。エア通路29a,29bは同図(ロ)に示すように分離して形成されている。この構造によれば、エアチャック43に供給されるエア圧を通路29a,29bで異ならせたり、通路29a,29bで供給のタイミングを異ならせてフィンガー44を開閉させたりすることができ、エアチャック43を多種なワークに対応させることができる。この場合もエアチャック43へのエア圧供給用の通路がスライド軸24を貫通しないので、カムフォロア36と共に円筒溝カム25の配置が容易である。なお、この構造ではシール材31は、エアチャネル30a,30bの周囲をそれぞれ取り囲む態様で配置される。
【0025】
以上、実施例について説明した。
実施例ではエア圧利用装置21を縦方向に配置したので、部材の配置や作動の方向を上下としたが、説明の都合であって、左右あるいは、その他の方向のときもある。
ジョイント部35は、説明した実施例のように、スライド軸24の上端に一体に形成するのではなく、スライド軸24に取付ける部分と円筒溝カム25の方向に延びる部分とを有する別部材とすることもできる。
円筒溝カム25におけるカム溝32のカム曲線は180°でスライド軸24の1ストロークを行わせるものであってもよく、或いは、円筒溝カム25の往復回転に対応したものであってもよい。
エアチャネル空間30は、スライド軸24の移動方向寸法がスライド軸24のストロークよりも大きな空間であって、スライド軸24と機体23間に設ければよく、スライド軸24側に設けてもよい。また、エアチャネル空間はスライド軸24の周面の一部に形成されていても良い。特に、円筒溝カム25とスライド軸24とが前記のような回り止め機能を有するカムフォロア36を介して連動される場合には、上下移動するスライド軸24が機体3に対して周面方向で回転するということがないから、エアチャネル空間30が狭くても、エアチャネル空間30に対してスライド軸24側のエア通路29の位置がずれてエア圧を供給できなくなるような事態を避けることができる。実施例のように、スライド軸24の周面に上下方向に幅広のエアチャネル30がスライド軸24を一周して形成されている場合に比べ、スライド軸24、あるいは機体の強度を維持しやすい。
【符号の説明】
【0026】
21 エア圧利用装置
22 ヘッド(P&P或いはロボットの)
23 機体
24 スライド軸
25 円筒溝カム
26 主軸線
27 吸着ノズル
28,28a,28b ポート
29,29a,29b エア通路
30,30a,30b エアチャネル
31 シール材
32 カム溝
33 ステッピングモータ
34 受動軸
35 ジョイント部
36 カムフォロア
37 連結部
38 ローラー
39 ローラー
40 直線ガイド孔
41 上鎖線
42 下鎖線
43 エアチャック
44 フィンガー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体に設定した1本の主軸線に沿ってスライド軸と円筒溝カムが、スライド軸のスライド方向中心軸線と円筒溝カムの回転中心軸線を前記主軸線に一致させ、スライド軸を下方、円筒溝カムを上方として配置され、スライド軸は下端部に吸着ノズルを備え、円筒溝カムが駆動回転されることにより、スライド軸が機体に対して上下に移動する構造であって、スライド軸と機体間にスライド軸の移動方向寸法がスライド軸のストロークよりも大きなエアチャネル空間を設け、機体に設けた外部からのエア圧を受けるポートを前記エアチャネルに連通させるとともに、スライド軸に設けたエア通路の一端を前記のチャネル空間に連通させるとともに他端をノズル開口に連通してあることを特徴としたエア圧利用装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−94941(P2013−94941A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242811(P2011−242811)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000137351)株式会社マシンエンジニアリング (14)
【Fターム(参考)】