説明

エンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物、及び当該組成物から成形させたエンジン冷却水系部品

【課題】従来のナイロン6系組成物と比較して、低吸水性で寸法安定性に優れ、耐薬品性、耐加水分解性及び衝撃強度等に優れ、材料特性の低下、特に応力割れが少なく、そしてジアミン成分として1,9−ノナンジアミン単体を用いたポリアミド樹脂組成物よりも成形可能温度幅が広く溶融成形性に優れ、さらに高分子量化が可能で強靭な成形体を製造することができるエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】ポリアミド樹脂(A)及び無機充填材(B)を含むエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂(A)のジカルボン酸成分が蓚酸から成り、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンから成り、そして1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が1:99〜99:1である、エンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物及び当該組成物から成形させたエンジン冷却水系部品に関する。詳しくは、ポリアミド樹脂(A)及び無機充填材(B)を含むエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物であって、従来のナイロン66系組成物と比較して、低吸水性で寸法安定性に優れ、耐薬品性、耐加水分解性及び衝撃強度等に優れ、材料特性の低下、特に応力割れが少なく、そしてジアミン成分として1,9−ノナンジアミン単体を用いたポリアミド樹脂組成物よりも成形可能温度幅が広く溶融成形性に優れ、さらに高分子量化が可能で強靭な成形体を製造することができるエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物、並びに当該組成物から成形させたエンジン冷却水系部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ナイロン6、ナイロン66に代表されるポリアミド樹脂は、エンジニアリングプラスチックとして優れた特性を有し、自動車、電気・電子など各種の工業分野において、無機充填材を含むポリアミド樹脂組成物として広く使用されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
近年、自動車部品、特にエンジンルーム内で使用される樹脂製部品においては、エンジン性能の高性能化、高出力化に伴うエンジン冷却水の温度上昇やエンジンルーム内の温度上昇と使用環境が過酷になりつつあり、さらに寒冷地域では、融雪剤として大量の道路凍結防止剤が散布され、エンジン部品はこれら薬剤にも晒される環境下に置かれる。
【0004】
しかし、上記ポリアミド樹脂として、汎用のナイロン6、ナイロン66を用いた場合には、特にエンジン冷却水との接触による吸水とエンジンルーム内の温度上昇によって繰り返される乾燥と湿潤とのサイクルに、塩化カルシウム、塩化亜鉛などの金属塩からなる道路凍結防止剤が作用し、応力割れが起こりやすいという問題がある。
従って、このような過酷な使用環境下においても、低吸水性、耐薬品性、耐加水分解性等に優れるポリアミド樹脂に対する要望がある。
【0005】
一方、ジカルボン酸成分として蓚酸を用いるポリアミド樹脂はポリオキサミド樹脂と呼ばれ、同じアミノ基濃度の他のポリアミド樹脂と比較して融点が高いこと、吸水率が低いことが知られ(特許文献2)、吸水による物性変化が問題となっていた従来のポリアミドが使用困難な分野での活用が期待される。
【0006】
これまでに、ジアミン成分として種々の脂肪族直鎖ジアミンを用いたポリオキサミド樹脂が提案されている。しかしながら、例えば、ジアミン成分として1,6−ヘキサンジアミンを用いたポリオキサミド樹脂は融点(約320℃)が熱分解温度(窒素中の1%重量減少温度;約310℃)より高いため(非特許文献1)、溶融重合、溶融成形が困難であり実用に耐えうるものではなかった。
【0007】
ジアミン成分が1,9−ノナンジアミンであるポリオキサミド樹脂(以後、PA92と略称する)については、L. Francoらが蓚酸源として蓚酸ジエチルを用いた場合の製造法とその結晶構造を開示している(非特許文献2)。ここで得られるPA92は固有粘度が0.97dL/g、融点が246℃のポリマーであるが、強靭な成形体が成形出来ない程度の低分子量体しか得られていない。また、特表平5−506466号公報には、ジカルボン酸エステルとして蓚酸ジブチルを用いた場合について、固有粘度が0.99dL/g、融点が248℃のPA92を製造したことが示されている(特許文献3)。この場合も強靭な成形体が成形出来ない程度の低分子量体しか得られていないという問題点がある。
先行文献においてはジアミン成分として1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンの2種のジアミンを特定の比率で用いたポリオキサミド樹脂の具体的な開示はなかった。
【0008】
【非特許文献1】S. W. Shalaby., J. Polym. Sci., 11, 1(1973)
【非特許文献2】L. Franco et al., Macromolecules., 31, 3912(1988)
【特許文献1】特開2004−143279
【特許文献2】特開2006−57033
【特許文献3】特表平5−506466
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に基づいてなされたものであり、本発明は、従来のナイロン66系組成物と比較して、低吸水性で寸法安定性に優れ、耐薬品性、耐加水分解性及び衝撃強度等に優れ、材料特性の低下、特に応力割れが少なく、そしてジアミン成分として1,9−ノナンジアミン単体を用いたポリアミド樹脂組成物よりも成形可能温度幅が広く溶融成形性に優れ、さらに高分子量化が可能で強靭な成形体を製造することができるエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物及び当該組成物から成形させたエンジン冷却水系部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、蓚酸源としての蓚酸ジエステルと、ジアミン成分としての1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンから成るポリアミド樹脂を、エンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物に用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
具体的には、本発明は以下の態様に関する。
[態様1]
ポリアミド樹脂(A)及び無機充填材(B)を含むエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物であって、
ポリアミド樹脂(A)のジカルボン酸成分が蓚酸から成り、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンから成り、そして
1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が1:99〜99:1である、
エンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物。
【0012】
[態様2]
ポリアミド樹脂(A)の、96%硫酸を溶媒とし、濃度が1.0g/dlのポリアミド樹脂溶液を用いて25℃で測定した相対粘度(ηr)が、1.8〜6.0である、態様1記載のエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物。
[態様3]
ポリアミド樹脂(A)の、窒素雰囲気下において10℃/分の昇温速度で測定した熱重量分析における1%重量減少温度と、窒素雰囲気下において10℃/分の昇温速度で測定した示差走査熱量法により測定した融点との温度差が、50℃以上である、態様1又は2に記載のエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物。
【0013】
[態様4]
1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が5:95〜95:5である、態様1〜3のいずれか一つに記載のエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物。
[態様5]
ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、無機充填材(B)5〜150質量部を含む、態様1〜4のいずれか一つに記載のエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物。
【0014】
[態様6]
無機充填材(B)がガラス繊維である、態様1〜5のいずれか一つに記載のエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物。
[態様7]
態様1〜6のいずれか一つに記載のポリアミド樹脂組成物から成形させたエンジン冷却水系部品。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリアミド樹脂(A)と無機充填材(B)とを含むエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物は、従来のナイロン66系組成物と比較して、低吸水性で寸法安定性に優れ、耐薬品性、耐加水分解性及び衝撃強度等に優れ、材料特性の低下、特に応力割れが少なく、そしてジアミン成分として1,9−ノナンジアミン単体を用いたポリアミド樹脂組成物よりも成形可能温度幅が広く溶融成形性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に関して、詳細に説明する。
[ポリアミド樹脂(A)]
ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸成分が蓚酸から成り、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンから成り、そして1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が1:99〜99:1である。
【0017】
本発明に用いられるポリアミド樹脂(A)のジカルボン酸源としての蓚酸源としては、蓚酸ジエステルが用いられ、これらはアミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、蓚酸ジメチル、蓚酸ジエチル、蓚酸ジn−(又はi−)プロピル、蓚酸ジn−(又はi−、又はt−)ブチル等の脂肪族1価アルコールの蓚酸ジエステル、蓚酸ジシクロヘキシル等の脂環式アルコールの蓚酸ジエステル、蓚酸ジフェニル等の芳香族アルコールの蓚酸ジエステル等が挙げられる。
【0018】
上記の蓚酸ジエステルの中でも炭素原子数が3を超える脂肪族1価アルコールの蓚酸ジエステル、脂環式アルコールの蓚酸ジエステル、芳香族アルコールの蓚酸ジエステルが好ましく、その中でも蓚酸ジブチル及び蓚酸ジフェニルが特に好ましい。
【0019】
本発明に用いられるポリアミド樹脂には、ジカルボン酸源として蓚酸を用いるが、本発明の効果を損なわない範囲であれば、他のジカルボン酸成分を配合することができる。蓚酸以外の他のジカルボン酸成分としては、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の脂肪族ジカルボン酸、また、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、さらにテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジ安息香酸、4,4’−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等を単独で、あるいはこれらの任意の混合物を重縮合反応時に添加することもできる。さらに、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸を溶融成形が可能な範囲内で用いることもできる。
【0020】
上記他のジカルボン酸の配合量としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、一般的には、ジカルボン酸の総量に対して、5モル%以下であることが好ましい。
【0021】
ジアミン成分としては1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとの混合物が用いられる。1,9−ノナンジアミン成分と2−メチル−1,8−オクタンジアミン成分とのモル比は、1:99〜99:1であり、好ましくは5:95〜95:5である。1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンを特定量共重合することにより、吸水性が低く、成形可能温度幅が広く溶融成形性に優れ、そして耐薬品性、耐加水分解性等にも優れたポリアミドが得られる。
【0022】
さらに、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比は、例えば、5:95〜40:60又は60:40〜95:5であることが好ましく、そして5:95〜30:70又は70:30〜90:10であることが特に好ましい。
当該モル比が5:95〜40:60、特に5:95〜30:70である場合、結晶性に優れるため、低吸水性及び力学的特性が得に優れるとともに、液体及び/又は蒸気(例えば、アルコール)の透過性も低いという利点があり、さらに1,9−ノナンジアミンのモル含有率が2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル含有率よりも高い場合と比べて、より吸水性が低いという利点がある。一方、モル比が60:40〜95:5、特に70:30〜90:10である場合には、低吸水性及び力学特性がより優れるとともに、優れた透明性が付与されるという利点がある。
【0023】
また、本発明に用いられるポリアミド樹脂には、ジアミン成分として1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンを用いるが、本発明の効果を損なわない範囲で、他のジアミン成分を配合することができる。1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミン以外の他のジアミン成分としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン等の脂肪族ジアミン、さらにシクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン等の脂環式ジアミン、さらにp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミン等を単独で、あるいはこれらの任意の混合物を重縮合反応時に添加することもできる。
【0024】
上記他のジアミン成分の配合量としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、ジアミン成分の総量に対して、5モル%以下であることが好ましい。
【0025】
[ポリアミド樹脂(A)の製造]
本発明に用いられるポリアミド樹脂(A)は、ポリアミドを製造する方法として知られている任意の方法により製造することができる。本発明者らの研究によれば、ジアミン及び蓚酸ジエステルをバッチ式又は連続式で重縮合反応させることにより、上記ポリアミド樹脂を合成することができる。具体的には、以下の操作で示されるような、(i)前重縮合工程、(ii)後重縮合工程の順で行うのが好ましい。
【0026】
(i)前重縮合工程:まず反応器内を窒素置換した後、ジアミン(ジアミン成分)及び蓚酸ジエステル(蓚酸源)を混合する。混合する場合にジアミン及び蓚酸ジエステルが共に可溶な溶媒を用いても良い。ジアミン成分及び蓚酸源が共に可溶な溶媒としては、特に制限されないが、トルエン、キシレン、トリクロロベンゼン、フェノール、トリフルオロエタノール等を用いることができ、特にトルエンを好ましく用いることができる。例えば、ジアミンを溶解したトルエン溶液を50℃に加熱した後、これに対して蓚酸ジエステルを加える。このとき、蓚酸ジエステルと上記ジアミンの仕込み比は、蓚酸ジエステル/上記ジアミンで、0.8〜1.5(モル比)、好ましくは0.91〜1.1(モル比)、更に好ましくは0.99〜1.01(モル比)である。
【0027】
上述の原料を仕込んだ反応器内を攪拌及び/又は窒素バブリングしながら、常圧下で昇温する。反応温度は、最終到達温度が80〜150℃、好ましくは100〜140℃の範囲になるように制御するのが好ましい。最終到達温度での反応時間は3時間〜6時間である。
【0028】
(ii)後重縮合工程:更に高分子量化を図るために、前重縮合工程で生成した重合物を常圧下において反応器内で徐々に昇温する。昇温過程において前重縮合工程の最終到達温度、すなわち80〜150℃から、最終的に220℃以上300℃以下、好ましくは230℃以上280℃以下、更に好ましくは240℃以上270℃以下の温度範囲にまで到達させる。昇温時間を含めて1〜8時間、好ましくは2〜6時間保持して反応を行うことが好ましい。さらに後重合工程において、必要に応じて減圧下での重合を行うこともできる。減圧重合を行う場合の好ましい最終到達圧力は0.1MPa未満〜13.3Paである。
【0029】
次に、本発明に用いられるポリアミド樹脂の製造方法の具体例について説明する。まず原料の蓚酸ジエステルを容器内に仕込む。容器は、後に行う重縮合反応の温度および圧力に耐え得るものであれば、特に制限されない。その後、容器を原料のジアミンと混合する温度まで昇温させ、次いでジアミンを注入し重縮合反応を開始させる。原料を混合する温度は、原料の蓚酸ジエステルおよびジアミンの融点以上、沸点未満の温度であり、かつシュウ酸ジエステルとジアミンの重縮合反応によって生じるポリオキサミドが熱分解しない温度であれば特に制限されない。例えば、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物からなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が1:99〜99:1であるジアミンとシュウ酸ジブチルを原料とするポリオキサミド樹脂の場合、上記混合温度は15℃から240℃が好ましい。また、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比は、5:95〜90:10の場合、常温で液状か又は40℃程度に加温するだけで液化するので取り扱いやすいためより好ましい。混合温度が縮合反応によって生成するアルコールの沸点以上の場合、アルコールを留去、凝縮する装置を備えた容器を用いるのが望ましい。また、縮合反応によって生成するアルコール存在下で加圧重合する場合には、耐圧容器を用いる。シュウ酸ジエステルとジアミンの仕込み比は、シュウ酸ジエステル/上記ジアミンで、0.8〜1.2(モル比)、好ましくは0.91〜1.09(モル比)、更に好ましくは0.98〜1.02(モル比)である。
【0030】
続いて、容器内をポリオキサミド樹脂の融点以上かつ熱分解しない温度以下に昇温する。例えば、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が85:15であるジアミンとシュウ酸ジブチルを原料とするポリオキサミド樹脂の場合、融点は235℃であることから240℃から280℃に昇温するのが好ましい(圧力は、2MPa〜4MPa)。生成したアルコールを留去しながら、必要に応じて常圧窒素気流下もしくは減圧下において継続して重縮合反応を行う。耐圧容器内で原料を混合し、縮合反応によって生成するアルコール存在下で加圧重合する場合は、まず生成したアルコールを留去しながら放圧する。その後、必要に応じて常圧窒素気流下もしくは減圧下において継続して重縮合反応を行う。減圧重合を行う場合の好ましい最終到達圧力は760〜0.1Torrである。温度は、240〜280℃が好ましい。また、アルコールは水冷コンデンサで冷却して液化し、回収する。
【0031】
[ポリアミド樹脂(A)の特性]
本発明に用いられるポリアミド樹脂(A)の分子量に特別の制限はないが、1.0g/dlの96%濃硫酸溶液を用い、25℃で測定した相対粘度ηrが1.8〜6.0、より好ましくは2.0〜5.5、特に好ましくは2.5〜4.5の範囲にあるような分子量である。分子量が低くなると成形物が脆くなり物性が低下する傾向がある。一方、分子量が高くなると溶融粘度が高くなり、溶融成形性が悪くなる傾向がある。
【0032】
本発明に用いられるポリアミド樹脂(A)は、カルボン酸成分として蓚酸を用い、ジアミン成分として1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンを共重合することで、蓚酸と1,9−ノナンジアミンから成るポリアミドと比べて、上記相対粘度を増加させること、すなわち分子量を増加させることが可能である。また、実質的な熱分解の指標である1%重量減少温度(以下、Tdと略す)と融点(以下、Tmと略す)の差(Td−Tm)で表される成形可能温度範囲が、蓚酸と1,9−ノナンジアミンとから成るポリアミドと比べて拡大し、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上であることができ、さらには90℃以上も可能である。本発明に用いられるポリアミド樹脂は、Tdが好ましくは280℃以上、より好ましくは300℃以上、さらに好ましくは320℃以上であり、高い耐熱性を有することを特徴とする。
【0033】
[無機充填材(B)]
無機充填材(B)は、ポリアミド樹脂(A)に添加して、強化材として作用する無機成分である。
本発明で用いられる無機充填材(B)としては、上記特性を向上させる無機成分であれば、特に限定されずに用いることができる。
【0034】
無機充填材(B)の非限定的例としては、繊維状又は非繊維状のものを挙げることができ、その具体例としては、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填材、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、モンモリロナイト、アスベスト、タルク、アルミノシリケート等の珪酸塩、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素及びシリカ等の非繊維状充填材が挙げられ、これらは中空形状であってもよく、さらにはこれらを2種類以上併用することも可能である。
【0035】
また、無機充填材(B)を、イソシアネート系化合物、アクリル系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。無機充填材(B)の中で、ガラス繊維又はタルクが好ましく、ガラス繊維がさらに好ましい。繊維状充填材としては、繊維径が0.01〜20μm、好ましくは0.03〜15μmであり、繊維カット長は0.5〜10mm、好ましくは0.7〜5mmである。
【0036】
[エンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物]
本発明のエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)及び無機充填材(B)を含む。
無機充填材(B)の量は、上記特性等を向上させることができる量であれば、特に制限されないが、例えば、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、5〜150質量部、好ましくは10〜120質量部、より好ましくは、25〜100質量部である。無機充填材(B)の量が少なくなると、ポリアミド樹脂(A)の機械的強度が向上せず、150質量部より多くなると、成形性や表面状態の問題が生ずる傾向がある。
【0037】
本発明のエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物の製造方法は特に制限されるものではなく、例えば、単軸、2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、及びミキシングロールなど通常公知の溶融混練機が用いられる。ポリアミド樹脂組成物の原料であるポリアミド樹脂(A)及び無機充填材(B)の配合順序としては、例えば、(i)2軸押出機を使用して、全ての原材料を配合後、溶融混練する方法、(ii)一部の原材料を配合後、溶融混練し、更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、又は(iii)一部の原材料を配合後、溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法等、いずれの方法を用いてもよい。
【0038】
また、本発明のエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物には、ポリアミド樹脂(A)及び無機充填材(B)以外に、任意成分として、以下の成分をさらに含むことができる。
【0039】
(1)他のポリマー
本発明に用いられるジカルボン酸成分が蓚酸から成り、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンから成り、そして1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が1:99〜99:1であるポリアミド樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、その一部を他のポリマー成分で置換されうる。他のポリマー成分としては、例えば、他のポリアミド類、例えば、ポリオキサミド、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミド、脂環式ポリアミド等、並びにポリアミド以外のポリマー、例えば、熱可塑性ポリマー、エラストマーが挙げられる。
【0040】
上記熱可塑性ポリマーの例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂等の汎用樹脂材料、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、その他高耐熱樹脂が挙げられる。特にポリエチレンやポリプロピレンを併用する場合には無水マレイン酸やグリシジル基含有モノマー等で変性したものを使用することが望ましい。
【0041】
上記他のポリマーによる置換割合としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、好ましくは50質量%未満であり、より好ましくは30質量%以下である。
なお、以下単に、「ポリアミド」、又は「ポリアミド樹脂」と称する場合には、ジカルボン酸成分が蓚酸から成り、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンから成り、そして1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が1:99〜99:1であるポリアミド樹脂のことを指すものとする。
【0042】
(2)添加剤
本発明のポリアミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、他の添加剤を添加することができる。例えば、顔料、染料、着色剤、耐熱剤、酸化防止剤、耐候剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、滑剤、結晶核剤、結晶化促進剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、銅化合物等の安定剤、帯電防止剤、難燃剤、ガラス繊維、潤滑剤、フィラー、補強繊維等を挙げることができる。
【0043】
より具体的には、耐熱剤としては、ヒンダードフェノール類、ホスファイト類、チオエーテル類、ハロケン化銅等が挙げられ、単独またはこれらを組み合わせて使用することができる。
上記耐候剤としては、ヒンダードアミン類やサリシレート類が挙げられ、単独又はこれらを組み合わせて使用することができる。
上記結晶核剤としては、タルク、クレー等の無機フィラー類や脂肪酸金属塩等の有機結晶核剤等が挙げられ、単独又はこれらを組み合わせて使用することができる。
【0044】
上記結晶化促進剤としては、低分子量ポリアミド、高級脂肪酸類、高級脂肪酸エステル類や高級脂肪族アルコール類が挙げられ、単独又はこれらを組み合わせて使用することができる。
上記離型剤としては、脂肪酸金属塩類、脂肪酸アミド類や各種ワックス類が挙げられ、単独又はこれらを組み合わせて使用することができる。
上記帯電防止剤としては、脂肪族アルコール類、脂肪族アルコールエステル類や高級脂肪酸エステル類が挙げられ、単独又はこれらを組み合わせて使用することができる。
【0045】
上記難燃剤としては、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、リン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、メラミンシアヌレート、エチレンジメラミンジシアヌレート、硝酸カリウム、臭素化エポキシ化合物、臭素化ポリカーボネート化合物、臭素化ポリスチレン化合物、テトラブロモベンジルポリアクリレート、トリブロモフェノール重縮合物、ポリブロモビフェニルエーテル類や塩素系難燃剤が挙げられ、単独又はこれらを組み合わせて使用することができる。
【0046】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、エンジン冷却水系部品に用いられる。ここでエンジン冷却水系部品とは、ラジエータコア、ラジエータタンクのトップ及びベース等のラジエータタンク部品、冷却液リザーブタンク、ウォーターパイプ、ウォーターポンプハウジング、ウォーターポンプインペラ、ウォータージャケットスペーサー、バルブ、サーモスタットケースなどのエンジンルーム内で冷却水との接触下で使用される部品である。
【0047】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、エンジン冷却水系部品に好適に用いることができるが、他の同様の機能を要求される部材、例えば、床暖房用温水パイプや道路融雪用散水パイプその他の樹脂部品にも好適に用いることができる。
【0048】
[エンジン冷却水系部品]
本発明のエンジン冷却水系部品は、当業界で通常行われる成形方法により、例えば、上記エンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物のペレット等を押出成形、ブロー成形、圧縮成形、射出成形等の方法により成形することにより製造することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
[物性測定、成形、評価方法]
特性値を、以下の方法により測定した。
(1)相対粘度(ηr)
ηrは、ポリアミドの96%硫酸溶液(濃度:1.0g/dl)を用いて、オストワルド型粘度計により25℃で測定した。
【0051】
(2)融点(Tm)及び結晶化温度(Tc)
Tm及びTcは、PerkinELmer社製PYRIS Diamond DSC用いて窒素雰囲気下で測定した。30℃から270℃まで10℃/分の速度で昇温し(昇温ファーストランと呼ぶ)、270℃で3分保持したのち、−100℃まで10℃/分の速度で降温し(降温ファーストランと呼ぶ)、次に270℃まで10℃/分の速度で昇温した(昇温セカンドランと呼ぶ)。得られたDSCチャートから降温ファーストランの発熱ピーク温度をTc、昇温セカンドランの吸熱ピーク温度をTmとした。
【0052】
(3)1%重量減少温度(Td)
Tdは島津製作所社製THERMOGRAVIMETRIC ANALYZER TGA−50を用い、熱重量分析(TGA)により測定した。20ml/分の窒素気流下室温から500℃まで10℃/分の昇温速度で昇温し、Tdを測定した。
(4)溶融粘度
溶融粘度はティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製溶融粘弾性測定装置ARESに25mmのコーン・プレートを装着して、窒素中、250℃、せん断速度0.1s-1の条件で測定した。
【0053】
(5)フィルム成形
東邦マシナリー社製真空プレス機TMB−10を用いて、ペレットからフィルムを成形した。500〜700Paの減圧雰囲気下において260℃(PA66では樹脂温度290℃)で5分間加熱溶融させた後、5MPaで1分間プレスを行いフィルム成形した。次に減圧雰囲気を常圧まで戻したのち室温5MPaで1分間冷却結晶化させてフィルムを得た。
【0054】
(6)飽和吸水率
上記(5)の条件で成形したフィルム(寸法:20mm×10mm、厚さ0.25mm;質量約0.05g)を23℃のイオン交換水に浸漬し、所定時間ごとにフィルムを取り出し、フィルムの質量を測定した。フィルム質量の増加率が0.2%の範囲内で3回続いた場合にポリアミド樹脂フィルムへの水分の吸収が飽和に達したと判断して、水に浸漬する前のフィルムの質量(Xg)と飽和に達した時のフィルムの質量(Yg)から次の式(1)により飽和吸水率(%)を算出した。
飽和吸水率(%)=100×(Y−X)/X (1)
【0055】
(7)耐薬品性
本発明によって得られるポリアミドの熱プレスフィルムを以下に列挙する薬品中に7日間、23℃で浸漬した後に、フィルムの質量残存率(%)及び外観の変化を観測した。濃塩酸、64%硫酸、氷酢酸について試験を行った。
【0056】
(8)耐加水分解性
本発明のエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物の熱プレスフィルムを、オートクレーブに入れ、水(pH=7)、0.5mol/l硫酸(pH=1)又は1mol/l水酸化ナトリウム水溶液(pH=14)内で、121℃、60分間処理した後の重量残存率(%)及び外観変化を調べた。
【0057】
(9)機械的物性
以下に示す〔1〕〜〔4〕の測定は、下記の試験片を樹脂温度260℃(PA66では樹脂温度290℃)、金型温度80℃の射出成形により成形し、これを用いて行った。成形後に未調湿、23℃で測定したデータをdry、成形後に湿度65%RHで調湿し、23℃で測定したデータをwetとして表中に記載した。
〔1〕引張降伏点強度又は引張強度、及び引張破断伸び:ASTM D638に記載のTypeIの試験片を用いてASTM D638に準拠して測定した。
〔2〕曲げ強度及び曲げ弾性率:試験片寸法3.2mm×12.7mm×127mmの試験片を用いてASTM D790に準拠し測定した。
〔3〕アイゾット衝撃強度:試験片寸法3.2mm×12.7mm×127mmの試験片を用いてASTM D256に準拠し、23℃で測定した。
〔4〕荷重たわみ温度(熱変形温度):試験片寸法3.2mm×12.7mm×127mmの試験片を用いてASTM D648に準拠し、荷重1.82MPaで測定した。
【0058】
(10)吸水率
23℃及び湿度65%RHの条件下に置いた以外は、(6)飽和吸水率の測定方法に従って、吸水率(%)を算出した。
【0059】
(11)耐塩化カルシウム性評価
ASTM1号試験片を用い、前処理として80℃の水中に8時間浸漬した。次に、80℃及び85%RHの恒温恒湿漕中に1時間調湿処理した後、飽和塩化カルシウム水溶液を試験片に塗布し、100℃オーブン中にて1時間熱処理した。調湿処理と熱処理を1サイクルとして30サイクルまで繰り返し、試験片にクラックが入るサイクル数を指標とした。
【0060】
(12)耐塩化亜鉛性評価
ASTM1号試験片を用い、前処理として80℃の水中に8時間浸漬した。次に、80℃及び85%RHの恒温恒湿漕中に1時間調湿処理した後、飽和塩化亜鉛水溶液を試験片に塗布し、100℃オーブン中にて1時間熱処理した。調湿処理と熱処理を1サイクルとして30サイクルまで繰り返し、試験片にクラックが入るサイクル数を指標とした。
【0061】
(13)耐不凍液性評価
10×15×3.2mmの試験片の初期のダインスタット衝撃強度と、自動車不凍液:水の1:1混合物中で120℃/1000時間処理した後のダインスタット衝撃強度とをBS1330規格に順じて測定し、その保持率を算出し、耐不凍液性の指標とした。
【0062】
(14)吸水寸法変化率
30×100×3mmの試験片を用い、50℃の温水に144時間浸漬した後の寸法変化率を測定し、寸法安定性の指標とした。
【0063】
[製造例1:PA92−1の製造]
攪拌機、温度計、トルクメーター、圧力計、ダイアフラムポンプを直結した原料投入口、窒素ガス導入口、放圧口、圧力調節装置及びポリマー抜出し口を備えた内容積が150リットルの圧力容器にシュウ酸ジブチル28.40kg(140.4モル)を仕込み、圧力容器の内部を純度が99.9999%の窒素ガスで0.5MPaに加圧した後、次に常圧まで窒素ガスを放出する操作を5回繰り返し、窒素置換を行った後、封圧下、攪拌しながら系内を昇温した。約30分間かけてシュウ酸ジブチルの温度を100℃にした後、1,9−ノナンジアミン18.89kg(119.3モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン3.34kg(21.1モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が85:15)をダイアフラムフポンプにより流速1.49リットル/分で約17分間かけて反応容器内に供給すると同時に昇温した。供給直後の圧力容器内の内圧は、重縮合反応により生成したブタノールによって0.35MPaまで上昇し、重縮合物の温度は約170℃まで上昇した。その後、1時間かけて温度を235℃まで昇温した。その間、生成したブタノールを放圧口より抜き出しながら、内圧を0.5MPaに調節した。重縮合物の温度が235℃に達した直後から放圧口よりブタノールを約20分間かけて抜き出し、内圧を常圧にした。常圧にしたところから、1.5リットル/分で窒素ガスを流しながら昇温を開始し、約1時間かけて重縮合物の温度を260℃にし、260℃において4.5時間反応させた。その後、攪拌を止めて系内を窒素で1MPaに加圧して約10分間静置した後、内圧0.5MPaまで放圧し、重縮合物を圧力容器下部抜出口より紐状に抜き出した。紐状の重合物は直ちに水冷し、水冷した紐状の樹脂はペレタイザーによってペレット化した。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.20であった。
【0064】
[製造例2:PA92−2の製造]
1,9−ノナンジアミン17.62kg(111.3モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン4.45kg(28.1モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が80:20)を仕込んだほかは、製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.10であった。
【0065】
[製造例3:PA92−3の製造]
1,9−ノナンジアミン11.11kg(70.2モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン11.11kg(70.2モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が50:50)を仕込んだ以外は、製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られた重合物は白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.35であった。
【0066】
[製造例4:PA92−4の製造]
1,9−ノナンジアミン6.67kg(42.1モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン15.56kg(98.3モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が30:70)を仕込んだ以外は製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.55であった。
【0067】
[製造例5:PA92−5の製造]
1,9−ノナンジアミン1.33kg(8.4モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン20.88kg(131.9モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94)を仕込んだほかは、製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られた重合物は白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.53であった。
【0068】
[製造例6:PA92−6の製造]
1,9−ノナンジアミン1.33kg(8.4モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン20.88kg(131.9モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94)を仕込み、ブタノールの抜出による内圧を0.25MPaに保持した以外は、製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られた重合物は白色の強靭なポリマーであり、ηr=4.00であった。
【0069】
[製造例7:PA−92−0の製造]
ジアミン原料として1,9−ノナンジアミン22.25kg(140.4モル)だけを用いて、製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られた重合物は黄白色のポリマーであり、ηr=2.78であった。
製造例1〜7で調製したポリアミド、並びに市販品のPA6(宇部興産製、UBEナイロン1015B)及びPA66(宇部興産製、UBEナイロン2020B)の特性データを表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1から、本発明に用いられるポリアミド樹脂は、ナイロン6及びナイロン66と比較して、低吸水性で寸法安定性に優れ、耐薬品性、耐加水分解性に優れ、wet条件下での機械的物性に優れ、そしてジアミン成分として1,9−ノナンジアミン単体を用いたポリアミド樹脂(PA92−0)よりも成形可能温度幅が広く溶融成形性に優れ、さらに高分子量化が可能で強靭な成形体を製造することができることが分かる。
なお、本発明のエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物には、ポリアミド樹脂(A)と、無機充填材(B)とが含まれるが、当該エンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物は、基本的に、ポリアミド樹脂(A)の特性を保持している。
【0072】
[実施例1]
PA92−1ペレット100質量部をバレル温度285℃に設定した44mmφベント付2軸押出機で混練した。このポリアミド樹脂を混練する際、ポリアミド樹脂100質量部に対し、ガラス繊維(繊維径11μm、繊維カット長3mm)を45質量部となるように押出機の途中から供給し、目的とするポリアミド樹脂組成物のペレットを作成した。次に得られたペレットを110℃、10torrの減圧化で24時間乾燥した後、シリンダー温度285℃、金型温度80℃で射出成形し、各種試験片を製造し、物性を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0073】
[実施例2〜7]
表2に記載の配合とした以外は、実施例1に従って、各種試験片を製造し、物性を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0074】
[比較例1]
ポリアミド樹脂を宇部興産製ナイロン66 2020Bとした以外は実施例1と同様にして、各種試験片を製造し、物性を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
[実施例8]
実施例1〜7で得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを射出成形し、ラジエータタンクを製造した。実施例1〜7で得られたポリアミド樹脂組成物は、PA6及びPA66と同等以上の成形性を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のポリアミド樹脂(A)と無機充填材(B)とを含むエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物は、従来のナイロン6系組成物と比較して、低吸水性で寸法安定性に優れ、耐薬品性、耐加水分解性及び衝撃強度に優れ、材料特性の低下、特に応力割れが少なく、そしてジアミン成分として1,9−ノナンジアミン単体を用いたポリアミド樹脂組成物よりも成形可能温度幅が広く溶融成形性に優れ、さらに高分子量化が可能で強靭な成形体を製造することができ、自動車、電気・電子など各種の工業分野、特に、エンジンルーム内で使用される樹脂製部品、特に冷却水系部品に用いることができるので、産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)及び無機充填材(B)を含むエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物であって、
ポリアミド樹脂(A)のジカルボン酸成分が蓚酸から成り、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンから成り、そして
1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が1:99〜99:1である、
エンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
ポリアミド樹脂(A)の、96%硫酸を溶媒とし、濃度が1.0g/dlのポリアミド樹脂溶液を用いて25℃で測定した相対粘度(ηr)が、1.8〜6.0である、請求項1記載のエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
ポリアミド樹脂(A)の、窒素雰囲気下において10℃/分の昇温速度で測定した熱重量分析における1%重量減少温度と、窒素雰囲気下において10℃/分の昇温速度で測定した示差走査熱量法により測定した融点との温度差が、50℃以上である、請求項1又は2に記載のエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が5:95〜95:5である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、無機充填材(B)5〜150質量部を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
無機充填材(B)がガラス繊維である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物から成形させたエンジン冷却水系部品。

【公開番号】特開2009−298859(P2009−298859A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152313(P2008−152313)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】