説明

エンジン及びエンジン作業機

【課題】
始動時のエンジン回転数の上昇を抑制しつつ、点火プラグのかぶりによるエンジンの停止を防止できるエンジン作業機を提供する。
【解決手段】
エンジンの始動時にスロットル開度が始動ポジションに設定されたと検出されている状態において、エンジンがクラッチ接続回転数よりもやや低い所定回転数を超えたと検出された場合に、制御手段は、点火時期を通常の角度(例えばBTDC25度)から第1の角度(−25度)へと遅角させ、さらに所定間隔毎(例えば10サイクル毎)に一定期間(例えば1サイクル分)だけ第2の角度(+10度)へ進角させることによりエンジン回転数を遠心クラッチ接続回転数以下に抑制しつつ、点火プラグのかぶりによるエンジンの停止を防止するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カッタ、チェンソーや刈払機等のエンジンを動力源に用いて刃物を駆動させるエンジン及びエンジン作業機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カッタ、チェンソーや刈払機等の小型の作業機には、動力源として小型のエンジン、特に2サイクルエンジンが広く用いられている。2サイクルエンジンは、小型軽量で大きな出力を得ることができ、燃料を供給することにより長時間の作業が可能となる。このエンジンの始動性を向上させる方法の1つとして、気化器のスロットル弁をほぼ全閉位置(以下、アイドル位置)より所定量だけ開くことによって、始動時の吸入空気量を増加させる方法が知られている。
【0003】
ところで、この方法を採用した場合、例えばスロットル弁を全開にして始動させる場合、エンジンの始動性は向上するが始動直後にエンジン回転数が急激に上昇する。このため、遠心クラッチが接合状態となり回転刃等の先端工具が回転してしまう恐れがある。この現象を防ぐためにスロットル弁を僅かに開いて始動させる場合は、スロットル開度が低いため始動性が低下してしまう。このため、刃物の回転を防止する方法の1つとして、例えばチェンソーには、エンジン始動時における刃物の回転を強制的に停止させるブレーキ機構が設けられ、始動時にエンジン回転数が上昇してもブレーキの作用により刃物が回転しないように構成される。しかし、ブレーキ作動中は遠心クラッチとクラッチハウジングが摺動状態になるため、この状態が長く続くと遠心クラッチが発熱し、クラッチハウジングが磨耗する原因となる。
【0004】
エンジン回転数を所定値以下に制御する技術として、特許文献1に記載の技術では、エンジン回転数が所定回転数以上になると、点火時期を遅角させて所定値(例えば下死点に設定)に保持することで、エンジン回転数の制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−50077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記した特許文献1に記載の技術では、始動時において、点火時期制御の解除を、スロットルトリガの操作やブレーキの解除により行うようにした場合、作業者が点火時期制御の解除に相当する操作を行わない限り、点火時期の遅角状態は継続される。点火時期の極端な遅角が継続された場合、未燃焼ガスにより点火プラグにかぶりが発生し、エンジンが停止する可能性がある。
【0007】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、始動性を向上させる一方で、始動時のエンジン回転数の上昇を抑制することができるエンジン及びエンジン作業機を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、始動時にスロットルをある程度開きつつも、回転数上昇を抑制することができ、さらに点火プラグのかぶりによるエンジンの停止を防止することができるエンジン及びエンジン作業機を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、始動時のエンジン回転数増速によるブレーキ機構や遠心クラッチへの負担をかけることを防止できるエンジン及びエンジン作業機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0011】
本発明の一つの特徴によれば、シリンダと、燃料と空気の混合気をシリンダ内に供給するものであってスロットル弁を有する気化器と、シリンダ内の混合気を点火させる点火装置を有するエンジン又はエンジン作業機において、エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、スロットル開度を検出するスロットル開度検出手段と、点火装置の点火時期を制御する制御手段を設け、エンジンの始動時にスロットル開度検出手段によりスロットル開度が所定位置にあってエンジンが所定回転数を超えたと検出された場合に、制御手段は点火時期を通常角度から第1の角度に遅角させ、さらに第1の角度に遅角させた点火時期を間欠的に第2の角度に進角させるように制御する。ここで間欠的とは、連続的でないという意味であって、例えば、所定時間間隔毎、所定サイクル毎、可変時間間隔毎に第2の角度に進角させ他の地に、第1の角度に戻すことである。
【0012】
本発明の他の特徴によれば、第2の角度は、第1の角度よりも通常角度に対する遅角量が少ないように設定する。所定回転数は、遠心クラッチの接続回転数より低い回転数とするのが望ましい。スロットル開度の所定位置への維持が解除された場合に、制御手段は第1及び第2の角度を用いた点火時期制御を解除する。また、制御手段による点火時期制御中に、エンジン回転数検出手段により所定回転数より低い回転数が検出された場合に、第1及び第2の角度を用いた点火時期制御を解除する。
【0013】
本発明のさらに他の特徴によれば、第1の角度に遅角させた点火時期を第2の角度に進角させる期間(一定期間、一定時間又は可変期間、可変時間)とは、点火時期が第1の角度への遅角によりエンジン回転数の上昇が低下する期間である。エンジンには、スロットル開度を所定位置に維持可能なように、スロットルトリガを固定するストッパを設けた。このストッパが作動されたことを検出するスイッチ(スロットル開度検出手段)によって検出される。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、エンジンの始動時にスロットル開度検出手段によりスロットル開度が所定位置にあってエンジンが所定回転数を超えたと検出された場合に、制御手段は点火時期を通常角度から第1の角度に遅角させ、さらに第1の角度に遅角させた点火時期を完結的に第2の角度に進角させるので、始動性を向上させる一方で、始動時のエンジン回転数の上昇を抑制しつつ、点火プラグのかぶりによるエンジンの停止を防止することができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、第2の角度は、第1の角度よりも点火時期の遅角量が少ないので、遅延させている点火時期を所定間隔毎に良好な状態に戻すので、所定間隔毎に正常な燃焼が行われエンジン内部を良好な状態に保つことができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、所定回転数は、遠心クラッチの接続回転数より低い回転数なので、始動後の暖機運転中に遠心クラッチが接合状態なることを確実に回避することができる。
【0017】
請求項4の発明によれば、スロットル開度の所定位置への維持が解除された場合に、制御手段は第1及び第2の角度を用いた点火時期制御を解除するので、暖機運転が終了後には自動的に通常の点火時期制御に戻すことが可能となる。
【0018】
請求項5の発明によれば、制御手段による点火時期制御中に、エンジン回転数検出手段により所定回転数より低い回転数が検出された場合に、第1及び第2の角度を用いた点火時期制御を解除するので、必要のない回転領域において点火時期の遅角制御を行うことを避けることができ、エンジンの燃焼状態を良好に保つことができる。
【0019】
請求項6の発明によれば、第1の角度に遅角させた点火時期を第2の角度に進角させる期間は、第1の角度への遅角によりエンジン回転数の上昇が低下する期間であるので、第1の角度の点火時期による必要以上のエンジン回転数低下を防止することができ、効率的な暖機運転を行うことが可能なる。
【0020】
請求項7の発明によれば、スロットル開度を所定位置に維持可能なように、スロットルトリガを固定するストッパを設けたので、始動時に最適なスロットル開度を維持することができ、始動性の良いエンジンを実現することができる。
【0021】
請求項8の発明によれば、スロットル開度検出手段は、ストッパが作動されたことを検出するスイッチであるので、始動及び暖機運転状態を確実に検出することができる。
【0022】
請求項9の発明によれば、始動性を向上させる一方で、始動時のエンジン回転数の上昇を抑制しつつ、点火プラグのかぶりによるエンジンの停止を防止することができるエンジン作業機を実現できる。
【0023】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例に係るエンジン作業機(カッタ1)の斜視図である。
【図2】本発明の実施例に係るカッタ1の右側からみた斜視図である。
【図3】本発明の実施例に係るカッタ1のエンジン10の搭載状態を示す部分断面図である。
【図4】図3のスロットルトリガ8がアイドル位置にある状態を示したスロットル部分の部分拡大図である。
【図5】図3のA−A断面図であり、アイドル位置にある状態を示したスロットルトリガ8とストッパ21の部分断面図である。
【図6】図3のスロットルトリガ8が始動位置にある状態を示したスロットル機構部分の部分拡大図である。
【図7】図3のA−A断面図であり、始動位置にある状態を示したスロットルトリガ8とストッパ21の部分断面図である。
【図8】本発明の実施例に係るイグニッションコイル16の制御回路図である。
【図9】本発明の実施例に係る点火時期制御の作動タイミングを示す図である。
【図10】本発明の実施例に係る点火時期制御の作動である。
【図11】本発明の第2の実施例に係る点火時期制御の作動タイミングを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0025】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、前後、上下の方向は図中に示す方向であるとして説明する。
【0026】
図1は本発明の実施例に係るエンジン作業機の斜視図である。カッタ1は、2サイクルエンジン(後述)を有し、エンジンの動力によって先端工具たる回転刃6を回転させるエンジン作業機である。作業者は、例えばフロントハンドル2を左手で、リアハンドル5を右手で握り、リアハンドル5に配置されたロックレバー7を握りながらスロットルトリガ8を操作することによりエンジンの回転数を調整する。リアハンドル5の先端の付け根付近には、チョークノブ36と、エンジンの停止スイッチ18が設けられる。
【0027】
図2は本発明の実施例に係るカッタの右側からみた斜視図である。図示しないエンジンの出力軸には遠心クラッチ3が連結され、エンジンの回転数が所定以上、例えば4300rpm以上になったときに遠心クラッチ3が接合状態になり、アーム4内に設けられたベルト37にエンジンの動力が伝達され、アーム4の先端側に設けられた回転刃6が回転する。
【0028】
図3は本発明の実施例に係るカッタ1のエンジン10の搭載状態を示す部分断面図である。エンジン10はハウジング12によって保持され、シリンダ11内に混合気を供給する気化器30と、エンジン10から排出される燃焼ガスを外部に排出するマフラー27と、クランク軸13に固定されたマグネトロータ14と、マグネトロータ14の外周に沿って配置されたイグニッションコイル16と、イグニッションコイル16に接続された点火プラグ15を含んで構成される。イグニッションコイル16には停止スイッチ18に接続され点火プラグ15への高圧電流供給を遮断させるための第1の端子19と、スロットル開度検出手段であるスロットル位置検出スイッチ26と接続される第2の端子20が設けられる。停止スイッチ18の近傍には、エンジン10を始動するために、スロットルトリガ8を半分程度引いた状態に維持するためのストッパ21が設けられる。
【0029】
図4は図3のスロットルトリガ8がアイドル位置にある状態を示したスロットル機構部分の部分拡大図である。気化器30は、図示しない吸気通路内に図示しないスロットル弁を有し、スロットル弁を開閉するためのスロットルレバー31と、チョークレバー34が設けられる。スロットルレバー31にはスロットル操作ロッド32を介して作業者が操作可能なスロットルトリガ8に連携される。スロットルトリガ8は回動軸8bを中心に所定角度だけ回動可能であり、作業者がスロットルトリガ8を握ることによってスロットルトリガ8が矢印51の方向に移動し、スロットルトリガ8に接続された可動アーム8aによってスロットル操作ロッド32が矢印52に方向に移動し、その結果、スロットルレバー31が矢印53の方向に揺動する。作業者がスロットルトリガ8を開放すると、スロットルレバー31がねじりばね33によって矢印53と反対方向に動くため、スロットルトリガ8も矢印51と反対方向に戻されて、エンジン10の回転数はアイドリング回転まで低下する。このように、作業者がスロットルトリガ8を操作してスロットル弁を開閉させることでエンジン10の出力を調整することができる。図4の状態では、スロットルトリガ8のストッパ8dがリアハンドル5の開口部5aの縁部分に当接しており、これ以上スロットルトリガ8を戻せない状態である。
【0030】
一方、気化器30にはチョークレバー34が設けられる。チョークレバー34は、吸入空気量を制限する図示しない絞り手段を作動させるためのものである。チョークレバー34には、チョーク操作ロッド35が接続され、チョーク操作ロッド35の先端にはチョークノブ36が設けられる。作業者はエンジンの始動にチョークノブ36を矢印54の方向に引く。すると、チョークレバー34が矢印55の方向に移動し、気化器において吸入空気量を絞るとともに負圧を発生させ、強制的に燃料を吸い出すような状態にすることにより混合気を濃くする。
【0031】
図5は図3のA−A断面図であり、アイドル位置にある状態を示したスロットルトリガ8とストッパ21の部分断面図である。リアハンドル5の内部であってストッパ21の近傍には、ストッパ21が押されている時、即ちスロットルトリガ8が始動位置に保持されている状態(後述する図7の状態)でONとなり、始動位置に保持されていない状態(図5の状態)でOFFとなる、スロットル位置検出スイッチ(スロットル操作検出手段)26が設けられている。スロットル位置検出スイッチ26の一部には押されることによってスイッチがON又はOFFになるプランジャ26aが設けられる。プランジャ26aは、ストッパ21の先端部分21aと対向する位置に設けられる。
【0032】
図6は、図3のスロットルトリガ8が始動位置にある状態を示したスロットル機構部分の部分拡大図である。ここで、始動位置とは、スロットル弁の開度がアイドル位置より開いている状態であって、ハーフスロットルから全開位置の間の位置をいう。このスロットル弁の固定位置は、あくまでエンジン10を暖機するために最適となるように設定され、アイドリングよりも十分高い回転数となるように設定される。リアハンドル5は、スロットルトリガ8を始動位置に保持する、つまりスロットル弁を始動位置に保持するためにストッパ21が設けられ、可動アーム8aには、ストッパ21のプランジャ23を係止するためのロックプレート8cが設けられる。ロックプレート8cには、一部が半円形の切り欠き部が形成され、ロックプレート8cの広がり方向と垂直方向に移動するプランジャ23と係合することによりスロットルトリガ8がアイドリング位置に戻ることを防止する。
【0033】
図7は図3のA−A断面図であり、始動位置にある状態を示したスロットルトリガ8とストッパ21の部分断面図である。スロットルトリガ8を操作し、バネ22で付勢されたストッパ21を押し込むことで、プランジャ23がロックプレート8cと係合状態となり、スロットルトリガ8が図6の位置(始動位置)に保持される。この際、ストッパ21の先端部分21aは、スロットル位置検出スイッチ26のプランジャ26aを押し込むので、スロットル位置検出スイッチ26が接続状態になり、イグニッションコイル16にON信号が入力される。ストッパ21によるロック状態を解除するには、その状態からスロットルトリガ8をさらに握るだけで良く、これによりバネ22の付勢によりストッパ21は図5に示す元の位置に戻り、プランジャ26aとロックプレート8cと係合状態が解除されるのでスロットルトリガ8はアイドリング位置に戻る。
【0034】
ここで、従来例におけるエンジン10の始動手順について説明する。図10は本発明の第1の実施例に係るエンジン10の始動時から通常使用時に至るまでの回転数を示す図であり、比較のために従来例におけるエンジン10の回転数を点線で示している。エンジン10を始動するに当たっては、作業者はまず、スロットルトリガ8を握ることによりスロットルトリガ8を図4の矢印51の方向に移動させ、スロットルトリガ8が移動した状態で側方からストッパ21を押し込む。これによってロックプレート8cにプランジャ23が係合され、スロットルトリガ8が始動位置(ハーフスロットル状態)に固定される。次に、チョークノブ36を図4の矢印54のように引いてから、スターターのノブ9を引いて初爆を行う。この初爆の時にはエンジン10が継続運転しないのが普通である。1回目のノブ9を引いたときにエンジン10の爆発音を確認できたら、作業者はチョークノブ36を元の位置に戻して、再度ノブ9を引く。このチョークノブ36を戻した後の1〜数回のノブ9を引く動作によりエンジン10は始動する。
【0035】
図10の点線で示すエンジン回転数80が、従来例の制御におけるエンジン10の始動時の回転数である。初爆を確認してチョークノブ36を戻し、その後の時間tにおいて再度ノブ9を引くことによりエンジン10が始動する。この際、スロットルトリガ8は、始動位置(ハーフスロットル状態)にあるため矢印81で示すクラッチ接続回転数(これ以上の回転数で遠心クラッチが接続状態になる)を超えて、矢印82のように中速回転数にまで増速して安定する。通常この状態では、遠心クラッチ3が接続状態となるため、回転刃6が回転してしまうことになる。作業者がエンジン10の暖機が完了したと判断したら、時間tにおいてスロットルトリガ8を再度引くことによりストッパ21を解除すると、矢印83から84のようにエンジン回転数が低下し、アイドリング回転数に低下する。従来技術においては、ブレーキ機構等の何らかの対策を施さないとストッパ21を作動させる始動及び暖気運転時に回転刃6が回転してしまう恐れがある。しかしながら回転刃6が回転するのは好ましくない。そこで、本実施例では始動及び暖気運転時にエンジン10の回転数をクラッチ接続回転数を超えないように制御することにより始動及び暖気運転時に回転刃6が回転しないようにした。
【0036】
次に図8を用いて本実施例に係るイグニッションコイル16の制御回路構成を説明する。図8の制御回路図において、点火プラグ15による点火を制御するイグニッションコイル16には、エンジン10の点火時期を制御するための制御手段が組み込まれる。制御手段はCPU(エンジン回転数制御手段)44により構成されるもので、このようなイグニッションコイル16は「デジタルイグニッション」とも呼ばれている。イグニッションコイル16は、マグネトロータ14(図3参照)の回転によりエキサイタコイル45に高電圧を発生させ、発生された電荷はダイオード46を介してコンデンサ47に蓄電される。一方、パルサコイル48で発生するエンジン回転数に対応した点火信号を抵抗42を介してCPU44に入力し、CPU44はSCR(Silicon Controlled Rectifier:シリコン制御整流子)49のゲート端子50に点火信号を供給することで、蓄電されたコンデンサ47の放電を行う。なお、イグニッションコイル16はパルサコイル48で発生する点火信号をエンジン回転数として検出するエンジン回転数検出手段としても機能する。コンデンサ47の放電により、1次コイル40に電流が流れることで、2次コイル41に高電圧を発生させ、点火プラグ15に火花を発生させる。
【0037】
イグニッションコイル16には、第1の端子19と第2の端子20が設けられる。第1の端子19は停止スイッチ18が接続され、停止スイッチ18がオンになると、第1の端子19が接地される。第2の端子20はスロットル開度検出手段たるスロットル位置検出スイッチ26に接続され、スロットル位置検出スイッチ26がオンになると第2の端子20が接地される。
【0038】
次に図9を用いて、本実施例における点火時期制御の作動タイミングを説明する。図9において、縦軸は点火時期タイミングを上死点前(以下、BTDC)何度であるかを示している。例えばBTDC25度とは、エンジン10のピストンが上死点に到達するクランク角度25度前に点火プラグ25に高圧電流が流されることを示す。横軸は時間の経過(単位:秒)を示す。CPU44は、スロットル位置検出スイッチ26がOFFである場合、つまり、スロットルトリガ8が始動位置に保持されていない場合には、図9のt〜tで示すように、通常の点火時期、例えばBTDC25度の点火角度となるよう、SCR49のゲート端子50に点火信号が送られる。したがって、エンジン回転数の上昇に対して、一定の点火時期で点火が行われる。これはエンジン10のアイドリング回転時だけでなく、作業者がスロットルトリガ8を引いて、回転刃6による切断作業を行うときのエンジン10の点火においても同じくBTDC25度で制御される。
【0039】
一方、スロットル位置検出スイッチ26がONである場合、つまり、スロットルトリガ8が始動位置に保持されている場合には、エンジン回転数が時間tにおいて遠心クラッチ3(図2参照)の接続回転数、例えば4300rpmより僅かに低い所定の回転数、例えば時間3800rpmに到達したら、時間t時に示すように点火時期を、通常点火角度(例えばBTDC25度)から第1の角度(例えば−25度)に大きく遅角させ、この状態を所定サイクル分(例えば10サイクル分)だけ保つように制御する。さらに時間tにおいてCPU44は所定サイクル分(例えば1サイクル分)だけ点火時期をBTDC−25度から第2の角度(例えばBTDC10度)に進角させるよう、SCR49のゲート端子50に点火信号が送られる。そして、再び時間tにおいて点火時期が−25度に大きく遅角され、この状態が10サイクル分続く。同様にして、時間t、tにおいて1サイクル分だけ点火時期が10度に進角され、スロットル位置検出スイッチ26がONであるうちは同様の制御が行われる。
【0040】
このように、スロットル位置検出スイッチ26がONである場合であって、エンジン回転数が3800rpm以上になった場合は、所定間隔毎(例えば10サイクル毎)に一定期間(例えば1サイクル分の期間)だけ点火時期を第1の角度(BTDC−25度)から第2の角度(10度)に進角させるように制御する。以降は、スロットル位置検出スイッチ26がOFFになるか、エンジン回転数が3800rpm以下になるまでt〜tと同様の制御を繰り返す。尚、各点火時期の関係は、通常点火角度よりも第1の角度が十分遅く、第2の角度は第1の角度よりも進むような関係とする。第2の角度は通常点火角度よりもやや遅くなる程度に設定すると良いが、第2の角度を通常点火角度と同じしても良いし、通常点火角度よりも早くなるように設定しても良い。
【0041】
また、本実施例では点火時期が第1の角度で運転中の所定間隔毎に一定期間だけ第2の角度に早めるようにしたが、この所定間隔、一定期間を10サイクル、1サイクルというサイクル数で決定するのではなく、時間間隔で決定しても良い。さらに、所定間隔と一定期間の関係を固定でなく、エンジン10の状態によってそれらの間隔や期間を可変にして、例えば8〜12サイクル間に1回だけ点火時期を第2から第1の角度に変更するように構成しても良い。
【0042】
以上のように、スロットル位置検出スイッチ26がONである場合であって、エンジン回転数が3800rpm以上になった場合に、所定間隔毎(所定サイクル毎)に、点火時期を第1の角度(BTDC−25度)から第2の角度(10度)に進角させるように制御する。この状態を図10を用いて説明すると、本実施例の制御では、時間tにおいてエンジンを始動し、エンジン回転数70に示すようにエンジン回転数が増加し、矢印71の点で所定の回転数、例えば3800rpmに到達したら、点火時期を通常の角度(例えばBTDC25度)から第1の角度に遅らすように制御し、そのうち所定間隔毎に第2の角度にする制御を行う。この制御を行うことにより、矢印72に示すようにエンジン回転数がクラッチ接続回転数(例えば4300rpm)を超えることなく、一定に保たれる。このように、本実施例ではエンジン回転数がクラッチ接続回転数を超えないように保たれるので、エンジン始動後の暖機運転の際に遠心クラッチ3が接続状態になってしまうことを効果的に防止することができる。
【0043】
作業者が暖機運転が完了したと判断して、時間tにおいて(矢印73で示す点)スロットルトリガ8を再度握って離すことによりストッパ21を解除すると、スロットルトリガ8は全閉位置に戻るとともに、エンジン10は通常点火角度にて制御される。時間t以降は、エンジン回転数が矢印74に示すようにアイドリング回転数(約3800rpm)にまで低下し、作業者によって時間tにて作業が開始されるまでアイドリング回転数が保たれる。尚、時間tにおいて作業者がスロットルトリガ8を引くとエンジン回転数が矢印75から矢印76に示すように一気に上昇し、クラッチ接続回転数を大きく超えるので回転刃6が回転することにより切断作業が可能となる。
【0044】
本実施例によれば、エンジン10の始動を容易にするために、スロットルトリガ8を操作して始動位置に保持し、吸入空気量を増加させて始動を行う場合であっても、エンジン回転数が遠心クラッチ3の接続回転数より低い所定回転数を超えると、CPU44により点火時期を遅角させるよう点火時期制御が行われるので、エンジン10のシリンダ11内での燃焼を実質的に阻止することで出力が低下して回転数の上昇を抑制させることができる。また、所定のサイクル毎に点火時期の遅角量をBTDC−25度から10度に抑えることで、点火時期の極端な遅角が継続することによる点火プラグ15のかぶりを防止することができる。したがって、スロットルトリガ8を操作して始動位置に保持した場合に、始動性を向上させる一方で、始動時のエンジン回転数上昇を抑制しつつ、点火プラグ15のかぶりによるエンジン10の停止を防止することができる。また、エンジン回転数が遠心クラッチ3の接続回転数を超えることを抑制できるので、始動時にカッタ1の回転刃6が回転することも抑制することができる。
【実施例2】
【0045】
次に図11を用いて本発明の第2の実施例に係る点火時期制御の作動タイミングを説明する。第2の実施例では、CPU44では、スロットル位置検出スイッチ26がOFFである場合、つまり、スロットルトリガ8が始動位置に保持されていない場合には、第1の実施例に係る点火時期制御と同様に、例えば上死点前(以下、BTDC)25度の点火時期となるよう、SCR49のゲート端子50に点火信号が送られ、一定の点火時期で点火が行われる。一方、スロットル位置検出スイッチ26がONである場合、つまり、スロットルトリガ8が始動位置に保持されている場合には、図11に示すようにエンジン回転数が遠心クラッチ3(図2参照)の接続回転数、例えば4300rpmより僅かに低い回転数を超える回転数、例えば3800rpmを超える回転数では、点火時期を例えばBTDC25度から−25度に遅角させる制御を行う。この際には、エンジン回転数がr1を超えたらBTDC25度から−25度に遅角させ、エンジン回転数がr2を超えたらBTDC−25度から−10度に進角させる。
【0046】
図11の例で説明すると、時間t11にて3800rpmを超えるので、点火時期100に示すようにBTDC25度から−25度に遅角させる。このように点火時期を遅角させると、エンジン回転数90の上昇が矢印91のように低下するが、なおも回転数の上昇が続く。そこで、回転数が第2の回転数rを超えたら点火時期をBTDC−25度から10度に進角させるよう、SCR49のゲート端子50に点火信号が送られる。するとエンジン回転数90が矢印92のように低下する。時間t12からt13までの区間において、点火時期をBTDC−25度から10度に進角させているのにエンジン回転数90が低下するのは、時間t11からt12までの区間において遅角させた影響がタイムラグをもってエンジン回転数90に反映されるからである。同様にして、時間t13においてエンジン回転数が第1の回転数r1を下回ったらBTDC10度から−25度に遅角させる。このまま点火時期をBTDC10度に進角させたままだと、その影響が時間t13以降に現れて、矢印93で示す傾きよりも大きい傾きでエンジン回転数90が上昇してしまうからである。このように、本実施例では、エンジン回転数90の上昇及び低下具合に応じて点火時期100を変えるように制御する。
【0047】
この点火時期の遅角制御は、エンジン回転数が所定回転数、例えば3800rpmを下回るか、作業者がスロットルトリガ8を操作し、ストッパ21が解除されるまで継続される。ストッパ21が解除されるのと連動してスロットル位置検出スイッチ26がOFFとなるので、CPU44(図8参照)はその状態を検出して点火時期を通常の角度に戻す。
【0048】
本発明によれば、始動時にシリンダ内に供給される吸入空気量を増加させるために行うスロットル開度の操作を検出するスロットル開度検出手段と、スロットル開度検出手段によりスロットルの操作が検出された場合に、点火時期を第1の角度へ遅角させ、さらに所定間隔毎に第2の角度へ遅角させることによりエンジン回転数を所定の回転数以下に抑制するエンジン回転制御手段とを備えるので、始動性を向上させる一方で、始動時のエンジン回転数の上昇を抑制しつつ、点火プラグのかぶりによるエンジンの停止を防止することができる。
【0049】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施例では本発明をカッタ1に適用した例で説明したが、本発明は刈払機やチェンソーなどの他のエンジン作業機に対しても同様に適用可能である。
【0050】
また、上述の実施例のスロットル位置検出スイッチ26はストッパ21と連動するものであるが、スロットルトリガ8や、チョーク弁とスロットル弁との間に機械的な連携機構を有しているファーストアイドル式気化器のスロットルレバーと連動させてもよい。また、上述の実施例のイグニッションコイル16は2つの端子を設けているが、必要に応じて端子の数を増やしてもよい。さらに、イグニッションコイル16はパルサコイル48で発生する点火信号をエンジン回転数として検出するものであるが、パルサコイル48に代えて、エキサイタコイル45からのノイズをエンジン回転数として検出してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 カッタ 2 フロントハンドル 3 遠心クラッチ
4 アーム 5 リアハンドル 5a 開口部
6 回転刃 7 ロックレバー 8 スロットルトリガ
8a 可動アーム 8b 回動軸 8c ロックプレート
8d ストッパ 9 ノブ 10 エンジン
11 シリンダ 12 ハウジング 13 クランク軸
14 マグネトロータ 15 点火プラグ
16 イグニッションコイル 18 停止スイッチ
19 第1の端子 20 第2の端子 21 ストッパ
21a 先端部分 22 バネ 23 プランジャ
25 点火プラグ 26 スロットル位置検出スイッチ
26a プランジャ 27 マフラー 30 気化器
31 スロットルレバー 32 スロットル操作ロッド
33 ねじりばね 34 チョークレバー
35 チョーク操作ロッド 36 チョークノブ
37 ベルト 40 1次コイル
41 2次コイル 42 抵抗
44 CPU 45 エキサイタコイル
46 ダイオード 47 コンデンサ
48 パルサコイル 49 SCR
50 ゲート端子 60 点火時期
70〜90 エンジン回転数 100 点火時期

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、燃料と空気の混合気を前記シリンダ内に供給するものであってスロットル弁を有する気化器と、前記シリンダ内の混合気を点火させる点火装置を有するエンジンにおいて、
前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
前記気化器のスロットル開度を検出するスロットル開度検出手段と、
前記点火装置の点火時期を制御する制御手段と、を設け、
前記エンジンの始動時に前記スロットル開度検出手段により前記スロットル開度が所定位置にあって前記エンジンが所定回転数を超えたと検出された場合に、前記制御手段は前記点火時期を通常角度から第1の角度に遅角させ、さらに第1の角度に遅角させた点火時期を間欠的に第2の角度に進角させるように制御することを特徴とするエンジン。
【請求項2】
前記第2の角度は、前記第1の角度よりも前記通常角度に対する遅角量が少ないことを特徴とする請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記エンジンには遠心クラッチが設けられ、
前記所定回転数は前記遠心クラッチの接続回転数より低い回転数であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジン。
【請求項4】
前記スロットル開度の前記所定位置への維持が解除された場合に、前記制御手段は前記第1及び第2の角度を用いた点火時期制御を解除することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項5】
前記制御手段による点火時期制御中に、前記エンジン回転数検出手段により前記所定回転数より低い回転数が検出された場合に、前記第1及び第2の角度を用いた点火時期制御を解除することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項6】
前記第2の角度に進角させる期間は、前記第1の角度への遅角により前記エンジン回転数の上昇が低下する期間であることを特徴とする請求項1に記載のエンジン。
【請求項7】
前記スロットル開度を所定位置に維持可能なように、スロットルトリガを固定するストッパを設けたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項8】
前記スロットル開度検出手段は、前記ストッパが作動されたことを検出するスイッチであることを特徴とする請求項7に記載のエンジン。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のエンジンを備えたことを特徴とするエンジン作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−40599(P2013−40599A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179903(P2011−179903)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】