説明

エンドミル刃付きスパイラルタップ

【課題】寿命を長くすることにより、孔の形成作業の効率を高くすることができるエンドミル刃付きスパイラルタップを提供する。
【解決手段】エンドミル刃付きスパイラルタップ1の工具本体7の先端面2に底刃11が設けられている。工具本体7の外周面18には、底刃11と協働して被加工部材に下孔を形成するための外周刃が設けられている。先端面2には、ギャッシュ13が形成されている。工具本体7の外周面18には、ギャッシュ13に連なる溝19が形成されている。先端面2における工具本体7の直径をDとしたとき、ギャッシュ13の深さLが0.16D以上に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドミル刃付きスパイラルタップに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミ製の板等の材料にねじ孔を形成するためのタップ等の工具が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。通例、前記材料にドリルで下孔を形成し、その後、下孔に対してタップをねじ込むことで、ねじ孔が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−254777号公報
【特許文献2】特開平11−333630号公報
【特許文献3】特開2006−255862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、先端にエンドミル部が形成され、エンドミル部に対して工具の基端側にタップ部が形成されたエンドミル刃付きスパイラルタップを用いることにより、1つの工具(エンドミル刃付きスパイラルタップ)で下孔を形成し、さらにねじ孔を形成することが考えられる。しかしながら、この場合、エンドミル部による材料の切削により、材料から大量の切り屑が生じる。材料がアルミニウム合金材等の場合、切り屑が多いと、工具の外周に形成された切り屑排出溝から切り屑を排出し切れずに、切り屑が溶着することがある。切り屑の溶着が生じると、工具に過大な回転抵抗が生じ、その結果、工具が折損するおそれがある。工具が折損すると、工具の取り替え作業が必要であり、下孔やねじ孔の形成作業の効率が低下する。
【0005】
本発明は、かかる背景のもとでなされたもので、寿命が長くされていることにより、孔の形成作業の効率を高くすることができるエンドミル刃付きスパイラルタップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明は、軸状をなし、潤滑剤を供給するための供給路(24)が外面(2,18)に開放されるように形成された工具本体(7)と、前記工具本体の先端面(2)に形成された底刃(11)と、前記工具本体の外周面(18)に形成され、前記底刃と協働して被加工部材(4)に下孔(5)を形成するための外周刃(12)と、前記先端面に形成されたギャッシュ(13)と、前記工具本体の外周面に形成されて前記ギャッシュに連なり、前記先端面から前記工具本体の基端(23)側に向けて延びる溝(19)と、を備え、前記先端面における前記工具本体の直径をDとしたとき、前記ギャッシュの深さ(L)が0.16D以上に設定されていることを特徴とするエンドミル刃付きスパイラルタップ(1)を提供する(請求項1)。
【0007】
本発明によれば、エンドミル刃付きスパイラルタップを被加工部材に対して回転させることにより、底刃と外周刃とが協働して被加工部材に下孔を形成する。このとき、ギャッシュおよび溝を設けていることにより、被加工部材からの切り屑を、ギャッシュおよび溝を介してエンドミル刃付きスパイラルタップの基端側に排出することができる。しかも、ギャッシュの深さを0.16D以上にしていることにより、ギャッシュには、切り屑を排出する空間が十分に形成されている。したがって、切り屑が被加工部材とエンドミル刃付きスパイラルタップとの間で詰まることを確実に抑制できる。これにより、切り屑の溶着の発生を確実に抑制することができるので、エンドミル刃付きスパイラルタップの回転抵抗が急激に大きくなることを抑制できる。その結果、エンドミル刃付きスパイラルタップの折損を抑制できるので、エンドミル刃付きスパイラルタップの折損によるエンドミル刃付きスパイラルタップの交換作業をより少なくできる。したがって、エンドミル刃付きスパイラルタップの寿命を長くすることができ、その結果、下孔の形成作業の効率を高くすることができる。
【0008】
ギャッシュの深さは、好ましくは、0.17D以上である。この場合、ギャッシュにおける切り屑の排出性を極めてよくすることができる。これにより、切り屑が被加工部材とエンドミル刃付きスパイラルタップとの間で溶着することをより確実に抑制することができる。その結果、エンドミル刃付きスパイラルタップの折損を格段に抑制することができる。
【0009】
また、本発明において、前記ギャッシュの深さが0.22D以下に設定されている場合がある(請求項2)。
この場合、ギャッシュの深さを0.22D以下にしていることにより、底刃の強度を十分に確保することができるので、工具本体の折損を抑制することができる。また、被加工部材から生じた切り屑を、ギャッシュから溝にスムーズに案内することができるので、切り屑の溶着の発生を確実に抑制することができる。
【0010】
ギャッシュの深さは、好ましくは、0.21D以下である。この場合、被加工部材に生じた切り屑を、ギャッシュから溝によりスムーズに案内することができるので、切り屑の発生を確実に抑制することができる。
また、本発明において、前記外周刃に対して前記工具本体の基端側に配置され、前記下孔にめねじ部(6)を形成するためのおねじ部(20)を備え、前記溝は、前記おねじ部を前記工具本体の周方向(C1)に分断するように設けられている場合がある(請求項3)。
【0011】
この場合、底刃と外周刃とが協働して被加工部材に下孔を形成した後、おねじ部によって、下孔にめねじ部を形成することができる。このように、1つのエンドミル刃付きスパイラルタップが、被加工部材への下孔の形成作業と、めねじ部の形成作業とを一括して行うことができる。その結果、ドリルで被加工部材に下孔を形成し、その後タップで下孔にめねじ部を形成するという2工程でめねじ部を形成する場合と比べて、被加工部材へのめねじ部の形成作業の効率を格段に高くすることができる。
【0012】
また、本発明において、前記供給路は、前記工具本体の外周面に形成された供給口(26a,27a,28a)を含む場合がある(請求項4)。この場合、潤滑剤を被加工部材の孔の内周面と工具本体との間に確実に供給することができる。したがって、エンドミル刃付きスパイラルタップの回転抵抗が低い状態をより確実に維持できる。
また、本発明において、前記供給口は、前記工具本体の軸方向(S1)に離隔して複数配置されている場合がある(請求項5)。この場合、工具本体の軸方向に関して、潤滑剤をより広い範囲に供給することができる。したがって、工具本体が被加工部材から受ける回転抵抗をより確実に低くできる。
【0013】
また、本発明において、前記供給口は、前記工具本体の周方向に離隔して複数配置されている場合がある(請求項6)。この場合、工具本体の周方向に関して、潤滑剤をより均等に供給することができる。したがって、工具本体が被加工部材から受ける回転抵抗をより確実に低くできる。
なお、前記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態にかかるエンドミル刃付きスパイラルタップの一部を断面で示す図解的な側面図である。
【図2】エンドミル刃付きスパイラルタップの先端面を示す平面図である。
【図3】エンドミル刃付きスパイラルタップの先端部周辺の拡大図である。
【図4】副供給路について説明するための要部の側面図である。
【図5】副供給路について説明するためのおねじ部の断面図である。
【図6】比較例1,2および実施例1,2の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の好ましい実施形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかるエンドミル刃付きスパイラルタップ1の一部を断面で示す図解的な側面図である。図2は、エンドミル刃付きスパイラルタップ1の先端面2を示す平面図である。
図1を参照して、エンドミル刃付きスパイラルタップ1は、アルミニウム合金等の金属製の被加工部材4に下孔5を形成し、次いでめねじ部6を形成するためのものである。なお、エンドミル刃付きスパイラルタップ1によって切削される前の被加工部材4には、予め鋳ぬき孔などの孔が形成されている。エンドミル刃付きスパイラルタップ1は、高速度工具鋼などの金属材料を用いて形成された軸状の工具本体7を備えている。
【0016】
工具本体7は、工具本体7の基端側に形成されたシャンク8と、シャンク8に対して工具本体7の先端側に配置されたタップ部9と、タップ部9に対して工具本体7の先端側に配置されたエンドミル部10とを含む。工具本体7の少なくともエンドミル部10の外周面とタップ部9の外周面には、DLC(Diamond Like Carbon)コーティングが施されている。DLCコート層の厚みは、1μm以下(例えば0.2μm)程度である。工具本体7の外周面18の全体にDLCコーティングが施されていてもよい。
【0017】
図1および図2を参照して、エンドミル部10は、被加工部材4に下孔5を形成するためのものである。エンドミル部10は、工具本体7の先端面2に形成された底刃11と、工具本体7の外周面18に形成され底刃11と協働して被加工部材4に下孔5を形成するための外周刃12とを含む。下孔5は、平滑な内周面によって形成される孔である。
底刃11は、工具本体7の周方向C1に略等間隔に複数(本実施形態において、3つ)設けられている。各底刃11は、工具本体7の中心軸線B1から工具本体7の径方向R1に沿って延びており、互いに略同じ形状に形成されている。
【0018】
また、先端面2には、ギャッシュ13、第1傾斜面14および第2傾斜面15が形成されている。底刃11、ギャッシュ13、第1傾斜面14および第2傾斜面15は、工具本体7の回転方向A1に関してこの順番で並んでいる。
ギャッシュ13は、周方向C1に関して、各底刃11の刃先11aに隣接して配置されており、対応する底刃11のすくい面を形成して刃先11aの切れ味を確保するとともに、後述する溝19に連続することによって切り屑の排出を良好にしている。各ギャッシュ13の開口部(先端部)は、周方向C1に関する幅が、例えば、底刃11の周方向C1に関する幅E1と略同じとされている。また、各ギャッシュ13の開口部は、工具本体7の径方向R1に関する長さが、底刃11の刃先11aの径方向R1に関する長さと略同じとされている。各ギャッシュ13の深さについては後述する。
【0019】
各第1傾斜面14は、工具本体7の軸方向S1と直交する面に対して傾斜しており、隣接するギャッシュ13に近づくほど、工具本体7の先端からの深さが深くなっている。各第1傾斜面14の傾斜角度は、各第2傾斜面15の傾斜角度よりも大きい。
先端面2の外周縁部には、チップポケット16が形成されている。図2に示すように、工具本体7の軸方向S1に見たとき、チップポケット16は、各ギャッシュ13および第1傾斜面14に隣接して形成されている。
【0020】
図1および図2を参照して、工具本体7の外周面18には、各チップポケット16からシャンク8側に延びる溝19が形成されている。溝19は、被加工部材4から削り取られギャッシュ13に入った切り屑を排出するためのものである。溝19は、底刃11の数と同じ数(本実施形態において、3条)設けられている。各溝19は、例えば右ねじれの溝とされており、エンドミル部10およびタップ部9に設けられている。各溝19は、対応するギャッシュ13に連なっている。
【0021】
外周刃12は、各溝19の一縁部にそれぞれ形成されている。各外周刃12は、対応する底刃11に連なっている。
タップ部9は、工具本体7の外周面18に形成されたおねじ部20を有している。おねじ部20は、被加工部材4の下孔5にめねじ部6を形成するためのものである。おねじ部20は、例えば右ねじれに形成されている。おねじ部20は、各溝19によって、周方向C1に分断されている。
【0022】
おねじ部20のうち、エンドミル部10に隣接する一端部は、エンドミル部10側に進むに従い外径が小さくなる食付き部21とされている。おねじ部20のうち、食付き部21以外の部分は、外径が略一定の完全ねじ山部22とされている。
図3は、1つのギャッシュ13周辺の要部の側面図であり、先端部3を右向きに示している。各ギャッシュ13の構成は同様であるので、以下では主に1つのギャッシュ13について説明する。図2および図3を参照して、ギャッシュ13は、工具本体7の先端面2から基端23側に進むに従いすぼまっている。工具本体7の先端面2における工具本体7の直径をDとする。直径Dは、径方向R1に関して、工具本体7の中心軸線B1から1つの底刃11の刃先11aの外端(径方向R1の外側の端部)までの長さの2倍の長さである。
【0023】
軸方向S1に関して、先端面2からのギャッシュ13の深さLは、0.16D〜0.22Dの範囲に設定されている。すなわち、0.16D≦L≦0.22Dである。
ギャッシュ13の深さLが0.16D未満であると、ギャッシュ13内における、切り屑が通過するための空間が小さいものとなってしまう。したがって、切り屑が被加工部材4と工具本体7との間で詰まり易くなり、被加工部材4と工具本体7との間で切り屑が溶着し易くなってしまう。切り屑が被加工部材4および工具本体7に溶着すると、工具本体7の回転抵抗が急峻に大きくなるので、工具本体7が折損し易くなってしまう。
【0024】
一方、ギャッシュ13の深さLが0.22Dを超えると、工具本体7の先端部3で応力集中が生じやすくなる結果、底刃11の強度を十分に確保し難いので、工具本体7が折損し易くなってしまう。また、被加工部材4から生じた切り屑を、ギャッシュ13から溝19にスムーズに案内し難くなってしまう。
前述のように、ギャッシュ13の深さLの下限は、0.16Dであるけれども、より好ましくは、0.17Dである。また、ギャッシュ13の深さLの上限は0.22Dであるけれども、より好ましくは、0.21Dである。したがって、0.17D≦L≦0.21Dであることがより好ましい。
【0025】
工具本体7の直径Dが6.85mmであり、且つ、0.17D≦L≦0.21Dであるとき、ギャッシュ13の深さLは、概ね1.2mm≦L≦1.5mmの範囲に設定される。
図1および図2を参照して、工具本体7には、潤滑油等の潤滑剤を供給するための供給路24が形成されている。供給路24は、工具本体7において軸方向S1の全域に亘って形成される主供給路25を含んでいる。
【0026】
主供給路25の中心軸線は、工具本体7の中心軸線B1と一致している。主供給路25の先端は、工具本体7の先端面2に開放されており、この先端面2に供給口25aが形成されている。潤滑油は、供給口25aを介して先端面2から被加工部材4に向けて供給されるようになっている。
図4は、副供給路26,27,28について説明するための要部の側面図であり、図5は、副供給路26,27,28について説明するためのおねじ部20の断面図である。図4および図5に示すように、供給路24は、主供給路25から分岐する副供給路26,27,28をさらに含んでいる。副供給路26,27,28は、それぞれ、主供給路25から径方向R1の外側に延びている。副供給路26,27,28の先端には、それぞれ、供給口26a,27a,28aが形成されている。各供給口26a,27a,28aは、周方向C1に関して等間隔に配置されている。これにより、各供給口26a,27a,28aは、対応する溝19(溝19a,19b,19c)に配置されている。各副供給路26,27,28を通った潤滑油は、対応する溝19a,19b,19cから工具本体7の外側に向けて供給される。
【0027】
また、各供給口26a,27a,28aは、軸方向S1に離隔して配置されている。供給口26aは、軸方向S1においてエンドミル部10とタップ部9との境界に配置されている。供給口27aおよび供給口28aは、タップ部9に配置されている。
以上説明したように、本実施形態によれば、エンドミル刃付きスパイラルタップ1を被加工部材4に対して回転させることにより、底刃11と外周刃12とが協働して被加工部材4に下孔5を形成する。このとき、ギャッシュ13および溝19を設けていることにより、被加工部材4からの切り屑を、ギャッシュ13および溝19を介してエンドミル刃付きスパイラルタップ1の基端23側に排出することができる。しかも、ギャッシュ13の深さLを0.16D以上にしていることにより、ギャッシュ13には、切り屑を排出する空間が十分に形成されている。したがって、切り屑が被加工部材4とエンドミル刃付きスパイラルタップ1との間で詰まることを確実に抑制できる。これにより、切り屑の溶着の発生を確実に抑制することができるので、エンドミル刃付きスパイラルタップ1の回転抵抗が急激に大きくなることを抑制できる。その結果、エンドミル刃付きスパイラルタップ1の折損を抑制できるので、エンドミル刃付きスパイラルタップ1の折損によるエンドミル刃付きスパイラルタップ1の交換作業をより少なくできる。したがって、エンドミル刃付きスパイラルタップ1の寿命を長くすることができ、その結果、下孔5の形成作業の効率を高くすることができる。
【0028】
また、ギャッシュ13の深さLを0.17D以上にした場合には、ギャッシュ13における切り屑の排出性を極めてよくすることができる。これにより、切り屑が被加工部材4とエンドミル刃付きスパイラルタップ1との間で溶着することをより確実に抑制することができる。その結果、エンドミル刃付きスパイラルタップ1の折損を格段に抑制することができる。
【0029】
また、ギャッシュ13の深さLを0.22D以下にしていることにより、底刃11の強度を十分に確保することができるので、工具本体7の折損を抑制することができる。また、被加工部材4から生じた切り屑を、ギャッシュ13から溝19にスムーズに案内することができるので、切り屑の溶着の発生を確実に抑制することができる。
ギャッシュ13の深さLが0.21D以下である場合には、被加工部材4から生じた切り屑を、ギャッシュ13の溝19によりスムーズに案内することができるので、切り屑の溶着の発生を確実に抑制することができる。
【0030】
さらに、エンドミル刃付きスパイラルタップ1にタップ部9が設けられている。これにより、底刃11と外周刃12とが協働して被加工部材4に下孔5を形成した後、おねじ部20によって、下孔5にめねじ部6を形成することができる。このように、1つのエンドミル刃付きスパイラルタップ1が、被加工部材4への下孔5の形成作業と、めねじ部6の形成作業とを一括して行うことができる。その結果、ドリルで被加工部材に下孔を形成し、その後タップで下孔にめねじ部を形成するという2工程でめねじ部を形成する場合と比べて、被加工部材4へのめねじ部6の形成作業の効率を格段に(例えば40%以上)高くすることができる。
【0031】
また、工具本体7の外周面18の溝19に供給口26a,27a,28aを設けていることにより、潤滑油を被加工部材4の内周面と工具本体7との間に確実に供給することができる。したがって、エンドミル刃付きスパイラルタップ1の回転抵抗が低い状態をより確実に維持できる。
さらに、供給口26a,27a,28aは、工具本体7の軸方向S1に離隔して複数配置されているので、軸方向S1に関して、潤滑油をより広い範囲に供給することができる。したがって、工具本体7が被加工部材4から受ける回転抵抗をより確実に低くできる。
【0032】
また、各供給口26a,27a,28aの位置を工具本体7の軸方向S1に離隔していることにより、供給口26a,27a,28aを設けたことによる工具本体7のねじり剛性の低下を可及的に小さくできる。
例えば、工具本体の軸方向に関して、複数の供給口の位置を揃えたエンドミル刃付きスパイラルタップの場合、各供給口が形成されている部分における工具本体の肉の断面積(軸方向と直交する断面での肉の面積)が他の部分と比べて極めて少なくなり、この部分のねじり剛性の低下が大きくなってしまう。しかしながら、本実施形態では、複数の供給口26a,27a,28aの位置を軸方向S1にずらしていることにより、各供給口26a,27a,28aが形成されている部分における工具本体7の肉の断面積を、他の部分と略同じにすることができる。したがって、前記したように、工具本体7のねじり剛性の低下を可及的に小さくできる。
【0033】
また供給口26a,27a,28aを、工具本体7の周方向C1に離隔して複数配置している。これにより、工具本体7の周方向C1に関して、潤滑油をより均等に供給することができる。したがって、工具本体7が被加工部材4から受ける回転抵抗をより確実に低くできる。
本発明は、以上の実施の形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
【0034】
例えば、工具本体7の先端面2に形成された供給口25aを廃止してもよい。この場合も、各供給口26a,27a,28aから潤滑油が供給される。また、各供給口26a,27a,28aの何れかを廃止してもよい。
【実施例】
【0035】
実施例および比較例
図1〜図5に示すエンドミル刃付きスパイラルタップ1と同様の形状の比較例1,2および実施例1,2を用意した。比較例1,2および実施例1,2は、それぞれ、工具本体の直径Dが6.85mmである。この直径Dに対するギャッシュの深さLは、下記の通りである。
【0036】
比較例1:L=0.11D≒0.8mm
比較例2:L=0.15D≒1.0mm
実施例1:L=0.17D≒1.2mm
実施例2:L=0.21D≒1.5mm
なお、比較例1と比較例2のLの差=0.04Dは、エンドミル刃付きスパイラルタップの製作時の公差に相当する。同様に、実施例1と実施例2のLの差=0.04Dは、エンドミル刃付きスパイラルタップの製作時の公差に相当する。
【0037】
鋳ぬき孔が形成されたアルミニウム合金材の鋳ぬき孔に下孔を形成し、ついでこの下孔に雌ねじを形成するという加工を、比較例1,2および実施例1,2のそれぞれで行った。
折損が生じるまでに形成した雌ねじ孔の数(孔数)を測定した。結果を図6に示す。
図6に示すように、比較例1,2は、切り屑に対するギャッシュの深さが不十分であり、ギャッシュで切り屑の詰まり、溶着が生じ易い。その結果、比較例1,2は、それぞれ、孔数が30,200の時点で折損が生じた。一方、実施例1,2は、切り屑に対するギャッシュの深さが十分であるので、ギャッシュで切り屑の詰まり、溶着が生じ難い。さらに、ギャッシュが深過ぎないことにより底刃の強度が十分に維持されている。その結果、実施例1,2は、それぞれ、孔数が2700,3000になるまで折損が生じなかった。すなわち、実施例1,2は、比較例1,2に対して13倍以上の耐久性を有していることが実証された。特に、比較例1と比べて、実施例2では、3000/30=100倍の寿命を有していることが実証された。
【符号の説明】
【0038】
1…エンドミル刃付きスパイラルタップ、2…先端面(外面)、4…被加工部材、5…下孔、6…めねじ部、7…工具本体、11…底刃、12…外周刃、13…ギャッシュ、18…外周面(外面)、19…溝、20…おねじ部、23…工具本体の基端、24…供給路、26a,27a,28a…供給口、C1…周方向、D…工具本体の直径、L…ギャッシュの深さ、S1…軸方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状をなし、潤滑剤を供給するための供給路が外面に開放されるように形成された工具本体と、
前記工具本体の先端面に形成された底刃と、
前記工具本体の外周面に形成され、前記底刃と協働して被加工部材に下孔を形成するための外周刃と、
前記先端面に形成されたギャッシュと、
前記工具本体の外周面に形成されて前記ギャッシュに連なり、前記先端面から前記工具本体の基端側に向けて延びる溝と、を備え、
前記先端面における前記工具本体の直径をDとしたとき、前記ギャッシュの深さが0.16D以上に設定されていることを特徴とするエンドミル刃付きスパイラルタップ。
【請求項2】
請求項1において、前記ギャッシュの深さが0.22D以下に設定されていることを特徴とするエンドミル刃付きスパイラルタップ。
【請求項3】
請求項1または2において、前記外周刃に対して前記工具本体の基端側に配置され、前記下孔にめねじ部を形成するためのおねじ部を備え、
前記溝は、前記おねじ部を前記工具本体の周方向に分断するように設けられていることを特徴とするエンドミル刃付きスパイラルタップ。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項において、前記供給路は、前記工具本体の外周面に形成された供給口を含むことを特徴とするエンドミル刃付きスパイラルタップ。
【請求項5】
請求項4において、前記供給口は、前記工具本体の軸方向に離隔して複数配置されていることを特徴とするエンドミル刃付きスパイラルタップ。
【請求項6】
請求項4または5において、前記供給口は、前記工具本体の周方向に離隔して複数配置されていることを特徴とするエンドミル刃付きスパイラルタップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−167781(P2011−167781A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32249(P2010−32249)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)