説明

オイル供給装置

【課題】エンジンの油圧制御部と潤滑部とにオイルを供給するオイル供給装置を構成する。
【解決手段】オイルポンプPのオイルを油圧制御部Eaと潤滑部Ebとに供給する主油路2から分岐する分岐油路3に圧力制御弁20を備えた。圧力制御弁20は、弁本体21にスライド移動自在に弁体22を備え、弁体22が作動始点から作動終端まで付勢力を作用させる第1スプリング25と、弁体22が開放する変更領域の中間から作動終端まで付勢力を作用させる第2スプリング26とを備えて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイル供給装置に関し、詳しくは、エンジンによって駆動されるオイルポンプからのオイルを、エンジンを制御する油圧制御部と、エンジンの潤滑部とに供給する油路系を有し、油圧制御部と潤滑部とに供給されるオイル圧を制御弁によって制御するオイル供給装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成されたオイル供給装置として特許文献1には、オイルポンプの吐出油路からオイルが供給される優先弁(可変昇圧弁)を備え、この優先弁の2つの出力ポートの一方に弁開閉時期制御装置を接続し、他方にエンジン潤滑装置が接続した構成が示されている。この特許文献1の構成では、優先弁はバネで付勢された弁体を備え、オイルポンプから供給されるオイルの圧力の上昇に伴い、弁体の作動により、先ず弁開閉時期制御弁にオイルの供給を開始し、この後に、このオイルの圧力が上昇した場合(所定値に達した場合)にエンジン潤滑装置にオイルの供給を開始する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009‐299573公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンで駆動されるオイルポンプからのオイルを、弁開閉時期制御装置(エンジンの油圧制御部の具体例)に供給し、ピストンジェット(エンジンの潤滑系の具体例)に供給する油路系を考えると、弁開閉時期制御装置に供給すべき作動油はエンジンが比較的低速で回転する場合にも所定のオイル圧を必要とする。このような理由からエンジンが低速回転にあっても必要とするオイル圧のオイルの供給が可能なオイルポンプが用いられる。
【0005】
ピストンジェットは、エンジンの回転速度がある程度高まった状態で必要とするオイル圧のオイルの供給が求められる。従って、エンジンが低速で回転する際に弁開閉時期制御装置に対して必要とするオイル圧のオイルを供給するようにオイル供給装置の基本的な設計を行った場合には、ピストンジェットを作動させるために望まれるエンジンの回転速度に達した際に、オイル圧が上昇し過ぎる不都合を招きオイルポンプを駆動するエネルギーを無駄に消費することもあった。
【0006】
これに対して特許文献1では、優先弁(可変昇圧弁)が低いオイル圧を必要とする弁開閉時期制御装置と、これより高いオイル圧を必要とするエンジン潤滑装置とにオイルを供給するよう夫々の装置に対して必要とするオイル圧に達するまではオイルが供給されない構成となっている。従って、前述した課題と同様に、エンジン潤滑装置を作動させるために必要とするエンジンの回転速度に達した際には、オイル圧が上昇し過ぎる不都合を招くこともあり、オイルポンプを駆動するエネルギーを無駄に消費する観点から改善の余地があった。
【0007】
本発明の目的は、エンジンで駆動されるオイルポンプを備えたものにおいて、エンジンの低速回転時にはエンジンの油圧制御部が必要とするオイル圧のオイルを供給し、且つ、エンジンの回転速度が上昇した場合には、オイル圧を過剰に上昇させることなくエンジンの潤滑油部が必要とするオイル圧のオイルを供給するオイル供給装置を合理的に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の特徴は、エンジンによって駆動されるオイルポンプを備え、このオイルポンプからのオイルを、前記エンジンを制御する油圧制御部とエンジンの潤滑部とに供給する主油路を備え、この主油路から分岐する分岐油路を備え、前記主油路に作用するオイル圧を制御する圧力制御弁を前記分岐油路に備えると共に、前記圧力制御弁が、前記分岐油路のオイルが流れる流路空間を有する弁本体と、当該弁本体の内部でスライド移動により前記流路空間の流路断面積を変更して前記流路空間に流れるオイル量を調節する弁体と、前記流路断面積を小さくする方向への付勢力を前記弁体に作用させる付勢機構と、前記分岐油路に作用するオイル圧を前記弁体に対し前記付勢機構の付勢力の作用方向と反対方向から作用させるオイル圧作用部とを備えて構成され、前記弁体が、スライド移動領域の弁体閉塞側において前記流路断面積を設定値に維持する制限領域と、前記スライド移動領域の弁体開放側においてスライド移動量に対応して前記流路断面積の変更する変更領域とに作動自在に構成され、前記付勢機構が、前記スライド移動領域の前記弁体閉塞側の作動始端から前記弁体開放側の作動終端まで前記弁体に付勢力を作用させる第1スプリングと、前記変更領域の中間から前記作動終端まで付勢力を作用させる第2スプリングとの少なくとも2つのスプリングを備えている点にある。
【0009】
この構成によると、オイルポンプから供給されるオイル圧が低く(エンジンが低速回転)、弁体がスライド移動領域の制限領域にある場合には、主油路に作用するオイル圧はエンジンの回転速度に対し設定比率で上昇する。次に、オイル圧の上昇(エンジンの回転速度が上昇)し、弁体がスライドして変更領域に達した場合には、流路断面積が増大するため、主油路に作用するオイル圧はエンジンの回転速度に対し、前述した設定比率より低い比率で上昇(緩やかに上昇)する。この後に、エンジンの回転速度が更に増大して第1スプリングと第2スプリングとの付勢力が弁体に作用する状態では、主油路に作用するオイル圧はエンジンの回転速度に対し設定比率(前述した設定比率と一致しなくても良い)で上昇する。つまり、エンジンの回転速度が設定された特性の直線に従って上昇する場合でも、主油路に作用するオイル圧を、初期には必要とする特性で上昇させて低いオイル圧を得ることが可能となり、次に、緩やかに上昇させた後に、必要とする特性で上昇させることで高いオイル圧を得ることが可能となり、この高いオイル圧を得る際のエンジンの回転速度の抑制を実現する。
【0010】
本発明の具体構成の一例を図1に示し、エンジンEの回転速度の上昇に伴う弁体22の移動形態を図3に示し、主油路に供給されるオイル圧の変化を図4に示している。この具体構成では、エンジンEが低速回転(R0〜R1)で弁体22が制限領域にある状態(図3(a))では、原点「0」を基点とする第1昇圧直線L1に沿ってオイル圧を上昇させる。エンジンEの回転速度の上昇に伴いオイル圧が更に上昇して弁体22が流路空間21aを開放する変更領域に達し、この変更領域のうち第1スプリングの付勢力だけが作用する第1変更領域(図3(c)・R1〜R2)では、第1昇圧直線L1より緩傾斜となる第2昇圧直線L2に沿ってオイル圧を上昇させる。更に、エンジンEの回転速度が上昇し、変更領域のうち第1スプリング25と第2スプリング26との付勢力が作用する第2変更領域(図3(d)・R3〜R4)では第2昇圧直線L2より急傾斜となる第4昇圧直線L4に沿ってオイル圧を上昇させる。これにより、エンジンEの回転速度がR1〜R4の領域では回転速度に対するオイル圧が第1昇圧直線L1を延長した直線より低い領域に存在し、オイルポンプPに作用するオイル圧が低減することが可能となり、図4に示す仕事削減領域WでオイルポンプPを無駄に駆動しない。
従って、エンジンの低速回転時にエンジンの油圧制御部が必要とするオイル圧のオイルを供給し、且つ、エンジンの回転速度が上昇した場合には、オイル圧を過剰に上昇させることなくエンジンの潤滑油部が必要とするオイル圧のオイルを供給するオイル供給装置が構成された。
【0011】
本発明は、前記弁体が前記変更領域で前記弁体開放側に変位した場合に、この弁体に当接して付勢力を作用させる位置に前記第2スプリングが、拘束部材により初期張力を与えた状態で備えられても良い。
【0012】
これによると、第2スプリングが拘束部材により初期張力を与えた状態で備えられているため、弁体が第2スプリングに当接した状態の初期には、弁体に作用するオイル圧が上昇しても弁体の移動を抑制することが可能となり、仕事削減領域を拡大してオイルポンプの無駄に駆動を一層抑制する。
【0013】
本発明は、前記拘束部材が、前記第2スプリングが当接する当接部を一方の端部に形成し、前記第2スプリングの付勢力に抗して前記スライド移動方向への移動を阻止するために弁本体側に係合する係合部を他方の端部に形成した構成を有し、前記弁体がオイル圧の上昇により前記変更領域の中間までスライド移動した場合に、前記弁体に前記当接部が当接した後に、この弁体が当接する状態で弁体と一体的に移動できるように前記弁本体に対してスライド移動自在に支持されても良い。
【0014】
これによると、拘束部材の当接部と弁本体側との間に第2スプリングを配置し、この拘束部材の係合部を弁本体側に当接させることで第2スプリングに初期張力を与えた状態で備えることが可能となる。この後に、オイル圧の上昇により弁体が拘束部材に当接した後には、弁体と拘束部材とを一体的にスライド移動させることで、弁体に対して第2スプリングの付勢力を作用させることも可能となる。
【0015】
本発明は、前記圧力制御弁が、前記弁本体に形成されたシリンダ状の内部空間に対して前記弁体をスライド移動自在に収容すると共に、前記制限領域では、前記弁体が前記流路空間を閉じる位置にある状態で、この弁体の外周に形成した補助流路にオイルを流す構成を有しても良い。
【0016】
これによると、弁体が制限領域にある状態で、この弁体の外周に環状に形成した補助流路にオイルが流れることが可能となり、例えば、弁体に溝や貫通孔を形成して補助流路を形成する構成と比較して簡単な構成で済む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】オイル供給装置の油圧回路図である。
【図2】圧力制御弁の断面図である。
【図3】圧力制御弁の弁体の変位を連続的に示す図である。
【図4】エンジンの回転速度と制御弁で制御されるオイル圧との関係を示すグラフである。
【図5】圧力制御弁の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1に示すように、エンジンEで駆動されるオイルポンプPからのオイルを、オイルフィルタ1を介してエンジンEの油圧制御部Eaと、エンジンEの潤滑部Ebとに供給する主油路2を備えると共に、この主油路2から分岐する分岐油路3とを備え、主油路2にリリーフ弁4を備え、分岐油路3に圧力制御弁20を備えてオイル供給装置が構成されている。
【0019】
このオイル供給装置は、オイルポンプPがエンジンEのオイルパンのオイル(潤滑油)を吸引して送り出すように構成され、油圧制御部Eaが、弁開閉時期制御装置5と、これに供給するオイルを制御する電磁型の制御弁6とを備えて構成されている。また、潤滑部EbがエンジンEのピストンの潤滑のためのピストンジェット7で構成され、このピストンジェットにオイルを供給する油路系と並列する状態でターボチャージャの軸受部にオイルを供給するT/C軸受部8を備えている。更に、分岐油路3の圧力制御弁20より下流側にはメインギャラリ9が接続しており、このメインギャラリ9は、エンジンEのクランク軸等にオイルを供給する。
【0020】
尚、制御弁6、ピストンジェット7、T/C軸受部8、メインギャラリ9に供給されたオイルはドレンに回収され最終的にエンジンEのオイルパンに回収される。
【0021】
弁開閉時期制御装置5の構成は図面に示していないが、エンジンEの吸気バルブと、排気バルブとの少なくとも一方の開閉タイミングを制御するため、バルブ軸(図示せず)の端部に備えられ、制御弁6でのオイルの給排により開閉時期の変更を実現する。また、制御弁はエンジンEを制御するECU10からの制御信号により作動する。
【0022】
〔圧力制御弁〕
図2及び図5に示すように、圧力制御弁20は、分岐油路3からのオイルが流れる流路空間21aを有する弁本体21と、この弁本体21に対してスライド移動することにより流路空間21aの流路断面積を変更して流路空間に流れるオイル量を調節する弁体22と、弁本体21の開口端を閉塞するキャップ体23とを備えている。弁本体21には流路断面積を小さくする方向への付勢力を弁体22に作用させる付勢機構Sを備えている。
【0023】
また、ハウジング19に対して断面形状が円形となる分岐油路3が形成され、この分岐油路3の中間に挿入するようにハウジング19に嵌め込む状態で対して弁本体21が備えられ、分岐油路3には図2において左側から右側にオイルが流れる。
【0024】
付勢機構Sは、弁体閉塞側(分岐油路3を閉塞する側・図2では上側)の作動始端から弁体開放側の作動終端までのスライド移動領域で弁体22に付勢力を作用させる第1スプリング25と、弁体22が変更領域の中間から作動終端まで付勢力を作用させる第2スプリング26とで構成されている。この第1スプリング25と第2スプリング26とは、圧縮コイル型のものを同軸芯上に配置しており、第2スプリング26は拘束部材27により圧縮する状態で初期張力を作用させた状態で備えられている。拘束部材27は一方の端部に第2スプリング26に当接する当接部27aと、第1スプリングが貫通状態で配置される孔状部27bとが形成され、他方の端部に外側に張り出す係合部27cが形成されている。
【0025】
この拘束部材27は弁体22の内部に収容できるサイズに形成され、係合部27cを弁本体21の端部に当接させることで、第2スプリング26の付勢力による移動を阻止し、オイル圧の上昇に伴い弁体22が移動して当接した後には、第2スプリング26を圧縮しつつ、弁体22と一体的にスライド移動方向に移動できるように備えられる。
【0026】
付勢機構Sとして第1スプリング25と第2スプリング26と2つのスプリングの組み合わせ以外に、3つ以上のスプリングを組み合わせて構成しても良い。このように3つ以上のスプリングを組み合わせて付勢機構Sを構成することにより、異なるオイル圧を必要とする3つ以上の機器に対しエンジンEを無駄に駆動することなく効率的にオイルの供給を行うことが可能となる。また、付勢機構として複数のスプリングを用いる場合に、バネ定数が異なるものを用いても良い。
【0027】
また、拘束部材27として、第2スプリング26を圧縮状態に保持する柔軟な糸状材を用いる等、この拘束部材27として、第2スプリング26を拘束する機能を有する部材を用いて構成しても良い。特に、この拘束部材27として第2スプリング26に接当する接当部材をネジ式に位置調節できるように構成しても良く、このように構成することでスプリングの初期張力の調整が可能となる。
【0028】
弁本体21は、弁体22をスライド移動自在に収容するシリンダ状の内部空間が形成されると共に、弁体22のスライド方向と直交する姿勢で断面形状が円形となる一対の貫通孔21bが形成され、この一対の貫通孔21bが分岐油路3と流路空間21aとを接続する位置に配置される。弁本体21の内部には貫通孔21bから作用するオイル圧を前記弁体22の受圧面22aに作用させ、弁体22を開放方向にスライド移動させオイル圧作用油路21c(オイル圧作用部の一例)が形成されている。
【0029】
キャップ体23は、弁本体21に対してネジ部により連結する構成を有すると共に、底壁にはドレン孔23aが形成されている。
【0030】
弁体22は、突出端に受圧面22aが形成された筒状の部材が用いられ、受圧面22aの中央位置には突出部22bが形成され、外周には環状となる補助流路22cが形成されている。また、弁体22の内部には付勢機構Sの収容空間が形成され、受圧面22aの下面側には第1スプリング25の付勢力が作用する第1当接面22dが形成され、弁体22の内部には第2スプリングの付勢力が作用する第2当接面22eが形成されている。
【0031】
特に、補助流路22cの流路断面積は、弁本体21の貫通孔21bの流路断面積と比較して極めて小さい値に設定され、分岐油路3に流れるオイル量を制限して主油路2のオイル圧の上昇が図られる。また、この補助流路22cを弁体22に貫通孔を形成して構成して良い。更に、分岐油路3のうち圧力制御弁20の上流側と下流側とを連通させるようにハウジング19にバイパス状に前記補助流路22cを形成しても良い。
【0032】
第1スプリング25は、弁体22の第1当接面22dとキャップ体23の底壁とに挟み込まれる位置に配置されている。拘束部材27の係合部27cを弁本体21の端面21dに当接させる位置に配置し、第2スプリング26を圧縮した状態で拘束部材27の当接部27aの下面とキャップ体23の底壁とに挟み込まれる位置に配置することで、第2スプリング26に初期張力を与えている。
【0033】
〔圧力制御弁の作動形態〕
エンジンEの回転速度(単位時間あたりの回転数)の変化に伴う圧力制御弁20の弁体22の作動位置を図3に示し、エンジンEの回転速度に対する主油路2のオイル圧の変化を図4にグラフで示している。圧力制御弁20は、エンジンEが停止している状態で第1スプリング25の付勢力により弁体22の突出部22bが弁体22の内面に当接し、この接当位置が弁体22の作動始端となる(図2・図3(a))。この作動始端では弁体22の受圧面22aと弁本体21の内壁(図2で弁本体21の上部位置の内壁)との間に隙間が形成され、主油路2に接続する分岐油路3のオイル圧がオイル圧作用油路21cから受圧面22aに作用可能な状態にある。
【0034】
エンジンEの始動の後にエンジンEの回転速度が増大した場合には、オイル圧作用油路21cから弁体22の受圧面22aに作用するオイル圧が上昇し、第1スプリング25の付勢力に抗して弁体22が弁体開放側(図2、図3で下側)に作動する(図3(a),(b))。
【0035】
弁体22が、図3(a)に示す作動始端から、その受圧面22aが弁本体21の貫通孔21bの開口縁に達する位置(図3(b))までの領域を制限領域と称しており、この制限領域では弁体22が流路空間21aを閉塞するため、弁体22の外周に形成された補助流路22cにオイルが流れ、主油路2のオイル圧はエンジンEの回転速度に比例する形態で、原点「0」を起点とする第1昇圧直線L1に従って上昇する(図4の0〜R1)。
【0036】
次に、エンジンEの回転速度が更に増大した場合には、第1スプリング25の付勢力に抗して弁体22の受圧面22aが弁本体21の貫通孔21bを開放する位置に変位する(図4(c))。
【0037】
このようにオイル圧の上昇に伴い弁体22が流路空間21aを開放する状態で作動する領域が変更領域である。特に、この変更領域のうち第1スプリング25の付勢力のみが作用する領域を第1変更領域と称し、第1スプリング25と第2スプリング26との付勢力が作用する領域を第2変更領域と称している。
【0038】
そして、第1変更領域で弁体22が作動する場合には、弁本体21の流路空間21aの一部を開放するため主油路2のオイル圧を分岐油路3に逃がす状態となり主油路2のオイル圧は、第1昇圧直線L1より緩傾斜となる第2昇圧直線L2に沿って緩やか上昇する(図4のR1〜R2)。また、エンジンEの回転速度がR1に達した時点で弁開閉時期制御装置5に必要なオイル圧のオイルの供給が可能となる。
【0039】
次に、第2昇圧直線L2に沿ってオイル圧が上昇し、流路断面積が昇圧を抑制する抑制点Tに達すると、オイル圧はエンジンEの回転速度と比例して原点「0」を起点とする仮想直線Xの一部となる第3昇圧直線L3に沿って増大する(図4R2〜R3)。
【0040】
変更領域ではオイル圧の上昇に比例する関係で弁体22が開放方向に作動し、流路断面積を増大させることになるが、弁体22の作動位置により決まる流路断面積と、弁体22の受圧面22aの面積との関係が所定の比率に達した場合に、弁体22が変位するに拘わらずオイル圧が抑制される抑制点Tに達する。この抑制点Tに達した後に、弁体22が更に作動して第2スプリング26の付勢力の作用が開始する作用点U(図4の(d))に達する。
【0041】
この抑制点Tと作用点Uとの間に直線的に第3昇圧直線L3が形成され、この第3昇圧直線L3は前述したように原点「0」を起点とする仮想直線Xの一部であり、エンジンEの回転速度の増大に伴いこの第3昇圧直線L3に沿ってオイル圧が上昇する。また、弁体22が作用点Uに達した後には、第2変更領域で弁体22が作動することになる。この第2変更領域では、第2スプリング26に初期張力が与えられているため、オイル圧が上昇した場合にも弁体22は変位しない状態が維持される(図4(d)。これにより、オイル圧は第3昇圧直線より急傾斜となる第4昇圧直線L4に従って上昇する(図4のR3〜R4)。
【0042】
エンジンEの回転速度が更に増大した場合には第1スプリング25と第2スプリング26との付勢力に抗して弁体22が作動する。このため、主油路2のオイル圧を分岐油路3に逃がす状態となり主油路2のオイル圧は、第4昇圧直線L4より緩傾斜となる第5昇圧直線L5に沿って緩やか上昇する(図4のR4〜R5)。また、エンジンEの回転速度がR4に達した時点でピストンジェット7とT/C軸受部8とに必要なオイル圧のオイルの供給が可能となる。
【0043】
エンジンEの回転速度が更に増大して弁体22が作動終端に達した場合には弁体22の作動が阻止される(e)。これにより、オイル圧はエンジンEの回転速度と比例し原点「0」を起点とする仮想直線Xの一部となる第6昇圧直線L6に沿って増大する(図4のR5〜R6)。
【0044】
この後にエンジンEの回転速度が更に上昇した場合には前述したリリーフ弁4が開放することでリリーフ領域L7に達し、主油路2のオイル圧の上昇が制限され、オイルポンプPと油圧機器が保護される(図4のR6〜)。
【0045】
〔実施形態の作用・効果〕
このような構成から、エンジンEが低速で回転する場合にも主油路2にはオイル圧を高めたオイルを供給することが可能であり、エンジンEの回転速度が増大してR1に達すると油圧制御部Eaに対して必要とするオイル圧のオイルの供給が可能となる。更にエンジンEの回転速度がR4に達すると、潤滑部Ebに対して必要とするオイル圧のオイルの供給が可能となる。
【0046】
特に、例えば、分岐油路3に圧力制御弁20を備えずに、補助流路22cと等しい流路断面積のオリフィスを備えた場合には、前述した第1昇圧直線L1に沿ってオイル圧が上昇する。これに対して分岐油路3に対して本発明の圧力制御弁20を備えることにより、エンジンEの回転速度がR1〜R4の領域では回転速度に対するオイル圧が第1昇圧直線L1を延長した直線より低い領域に存在し、オイルポンプPに作用するオイル圧が低減する。つまり、油圧制御部Eaが必要とするオイル圧を得るためのエンジンEの回転速度(R1)を比較的低い値に設定した場合にも、潤滑部Ebが必要とするオイル圧を得るエンジンEの回転速度(R4)が低速側に変位する不都合を招くことなく、エンジンEのピストンの潤滑を最も必要とする比較的高いエンジンEの回転速度に設定することが可能となる。
【0047】
従って、第2昇圧曲線L2〜第4昇圧曲線L4より高圧側で、第1昇圧直線L1の下側に形成される仕事削減領域Wにおけるオイル圧でオイルポンプPを駆動する必要がなく、この仕事削減領域Wに相当するエネルギー消費を抑制できる。ちなみに、オイルポンプPから供給されるオイル量は、オイル圧に正比例するため圧力制御弁20でオイルの一部を逃がすことでオイル圧の低減を図り、オイルポンプPに作用するオイル圧を引き下げることでオイルポンプPから送り出されるオイル量を低減し、結果としてエネルギー消費を抑制しているのである。
【0048】
特に、本発明の圧力制御弁20では、圧力制御弁20の設計段階で抑制点Tと作用点Uとを任意に設定することも可能であり、この抑制点Tと作用点Uとの設定により、潤滑部Ebが必要とするオイル圧を得るエンジンEの回転速度(R4)を必要とする値まで低減し、オイルポンプPの無段な駆動を良好に抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、エンジンによって駆動されるオイルポンプのオイルを油圧制御部と潤滑部とに供給するオイル供給装置全般に利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
2 主油路
3 分岐油路
20 圧力制御弁
21 弁本体
21a 流路空間
21c オイル圧作用部(オイル圧作用油路)
22 弁体
22c 補助流路
25 第1スプリング
26 第2スプリング
27 拘束部材
E エンジン
Ea 油圧制御部
Eb 潤滑部
P オイルポンプ
S 付勢機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンによって駆動されるオイルポンプを備え、このオイルポンプからのオイルを、前記エンジンを制御する油圧制御部とエンジンの潤滑部とに供給する主油路を備え、この主油路から分岐する分岐油路を備え、前記主油路に作用するオイル圧を制御する圧力制御弁を前記分岐油路に備えると共に、
前記圧力制御弁が、前記分岐油路のオイルが流れる流路空間を有する弁本体と、当該弁本体の内部でスライド移動により前記流路空間の流路断面積を変更して前記流路空間に流れるオイル量を調節する弁体と、前記流路断面積を小さくする方向への付勢力を前記弁体に作用させる付勢機構と、前記分岐油路に作用するオイル圧を前記弁体に対し前記付勢機構の付勢力の作用方向と反対方向から作用させるオイル圧作用部とを備えて構成され、
前記弁体が、スライド移動領域の弁体閉塞側において前記流路断面積を設定値に維持する制限領域と、前記スライド移動領域の弁体開放側においてスライド移動量に対応して前記流路断面積の変更する変更領域とに作動自在に構成され、
前記付勢機構が、前記スライド移動領域の前記弁体閉塞側の作動始端から前記弁体開放側の作動終端まで前記弁体に付勢力を作用させる第1スプリングと、前記変更領域の中間から前記作動終端まで付勢力を作用させる第2スプリングとの少なくとも2つのスプリングを備えているオイル供給装置。
【請求項2】
前記弁体が前記変更領域で前記弁体開放側に変位した場合に、この弁体に当接して付勢力を作用させる位置に前記第2スプリングが、拘束部材により初期張力を与えた状態で備えられている請求項1記載のオイル供給装置。
【請求項3】
前記拘束部材が、前記第2スプリングが当接する当接部を一方の端部に形成し、前記第2スプリングの付勢力に抗して前記スライド移動方向への移動を阻止するために弁本体側に係合する係合部を他方の端部に形成した構成を有し、前記弁体がオイル圧の上昇により前記変更領域の中間までスライド移動した場合に、前記弁体に前記当接部が当接した後に、この弁体が当接する状態で弁体と一体的に移動できるように前記弁本体に対してスライド移動自在に支持されている請求項2記載のオイル供給装置。
【請求項4】
前記圧力制御弁が、前記弁本体に形成されたシリンダ状の内部空間に対して前記弁体をスライド移動自在に収容すると共に、前記制限領域では、前記弁体が前記流路空間を閉じる位置にある状態で、この弁体の外周に形成した補助流路にオイルを流す構成を有している請求項1〜3のいずれか一項に記載のオイル供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−96295(P2013−96295A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239297(P2011−239297)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】