説明

カップ型回転工具およびカップ型回転工具の製造方法

【課題】使用時の強度を確保しつつより軽量化し易く、また、在庫の種類を減らすことが可能なカップ型回転工具を提供する。
【解決手段】カップ型回転工具20は、回転駆動機構に設けた防塵カバーの内側に設置した駆動軸に取付手段により取り付けられて使用されると共に、炭素鋼により形成された円板状の基板の中央部が突出成型された凹部を備えるカップ型回転工具であって、前記基板の周縁に固定された切削用のチップ23と、前記基板の突出成形した凹部の平面に前記取付穴に連通穴を連通させて一体に固定した環状ボス部材25と、を備えた構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円板状の基板の中央部を突出させたカップ型回転工具およびカップ型回転工具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、切削刃や研削刃等のチップが円形の基板の周縁側に固定され、回転駆動機構の駆動軸に取り付けて回転駆動させて使用されるカッターやサンダー等の回転工具が多数知られている。回転工具には、平板円板形状の基板の周縁にチップが固定されたフラット型回転工具の他、中央部を突出させた基板の周縁にチップが固定されたカップ型回転工具がある(例えば、下記特許文献1、2参照)。カップ型回転工具は、回転駆動機構の駆動軸に固定するナット等を中央部の突出部分の内側に収納して装着できるため、回転工具の底面全体を加工面やその周囲の面に近接させることが可能で、隅部分の加工性や、また、広い加工面に対して効率的に作業を行うことができる。
【0003】
このようなカップ型回転工具を製造するには、図6(a)〜(d)に示すように、軟鉄の板材70を円板形状の基板71に形成し、機械加工により基板71の中央に取付孔72を形成すると共に周縁に溝73などを形成し、つぎに、冷間プレスによりチップ74となる粉体を基板の周縁の所定位置に仮固定する。そして、焼結作業により基板71にチップ74を一体に固定している。ここでは、基板とチップの結合は一体焼結で形成されているが、ロー付けやレーザ溶接の場合もある。そして、基板71は、冷間プレスによりオフセットされている。
【0004】
【特許文献1】特許第3634794号公報
【特許文献2】特許第4009278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなカップ型回転工具は、以下に示すような問題点が存在した。
カップ型回転工具では、基板の中央部をオフセットさせなければならない。その場合、冷間プレスを行うことが一般的であり、曲げ加工性に優れる軟鉄を用いて製造していた。そのため、使用時の強度を確保するには、フラット型回転工具に比べて基板を厚肉に形成する必要があり、フラット型回転工具より重くなり易く、使用時に使用者や回転駆動機構への負荷が大きくなり易かった。
【0006】
また、フラット型回転工具及びカップ型回転工具の何れも、メーカーで在庫する際、チップを固定しない基板の状態でストックされているが、フラット型回転工具とカップ型回転工具とで、それぞれ異なる材料、異なる形状、異なる板厚の基板をストックしなければならず、在庫の種類が多くなるため、少ない種類で対応できるような構成が望まれていた。
【0007】
そこで、本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、使用時の強度を確保しつつより軽量化し易く、また、在庫の種類を減らすことが可能なカップ型回転工具およびカップ型回転工具の製造方法とを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、カップ型回転工具は、回転駆動機構に設けた安全カバーの内側に設置した駆動軸に取付手段により取り付けられて使用されると共に、炭素鋼により形成された円板状の基板の中央部が突出成型された凹部を供えるカップ型回転工具であって、前記基板の周縁に固定されたチップと、前記基板の突出成型した凹部の平面に前記取付穴に連通穴を連通させて一体に固定した環状ボス部材とを備え、前記凹部は前記駆動軸に取り付けられた前記取付手段の端側まで収納する穴深さに突出成形された構成とした。
【0009】
このような構成によれば、カップ型回転工具は、円形の基板の中央部が突出したカップ型回転工具が炭素鋼により形成されているので、強度を確保しつつカップ型回転工具の軽量化を図り易い。しかも、カップ型回転工具は、基板の突出した中央部に環状ボス部材を一体に固定しているので、基板の取付穴の基板の突出高さをスペーサの厚み分、少なくすることが可能である。そのため、変形し難い炭素鋼からなる基板を突出させる量を少なく抑えることができて製造し易い。さらに、カップ型回転工具は、カッターの構成あるいは砥石の構成としても、基板を被加工部材に対して平坦な状態で作業を行っても取付部材が凹部内に収納された状態となるため作業性にも優れている。
【0010】
さらに、前記したカップ型回転工具において、前記環状ボス部材は、前記取付穴に連通穴を連通させた位置に、焼結材を介して前記基板と一体に固定された構成としてもよい。
【0011】
このような構成によれば、カップ型回転工具は、環状ボス部材の固定とチップの固定と基板の加工とを熱間プレスにより同時に行うことができ、熱間プレスによる基板の取付穴の精度が低下しても環状ボス部材の連通穴により精度を担保できるため、製造容易であり、使用時にはカップ型回転工具の良好な動作が可能である。
【0012】
また、前記したカップ型回転工具において、前記環状ボス部材は、前記基板を熱間プレスにより中央部を突出させて形成した後に、その連通穴を基板の取付穴に連通させた状態で前記基板に固定された構成としたものである。
【0013】
このような構成によれば、カップ型回転工具は、基板を熱間プレス後にスペーサを固定されているので、スペーサの連通穴に熱間プレスの熱や応力が負荷されることがなく、精度を良好に製造でき、使用時にはカップ型回転工具の良好な動作が可能である。
【0014】
さらに、前記したカップ型回転工具において、前記環状ボス部材は、焼結材により形成された構成としてもよい。
このように構成したことにより、カップ型回転工具は、例えば、基板を熱間プレスにより突出成形するオフセット加工を行う際に、基板の周縁に配置される切削用のチップと合わせて一つの工程で製造することができる。
【0015】
また、前記課題を解決するため、カップ型回転工具の製造方法は、回転駆動機構の駆動軸に取り付けて使用されると共に、炭素鋼により形成され、円板状の基板の中央部が突出した凹部を備えるカップ型回転工具の製造方法において、前記基板の中央に前記回転駆動機構の駆動軸に取り付ける取付穴を機械加工により形成する第1工程と、前記基板の周縁に冷間プレスにより切削用チップを仮固定する第2工程と、前記基板の取付穴に連通する連通穴を有する環状の環状ボス部材を、前記取付穴周囲の平面に焼結材を介して対面させて配置した状態で、熱間プレスにて加熱して前記基板の中央部に凹部を突出成型すると共に、当該熱間プレス中に前記チップを前記基板の周縁に一体に固定し、かつ、前記環状ボス部材を基板の中央部に一体に固定する第3工程と、を行う手順としている。
【0016】
このような手順によれば、基板の中央部を熱間プレスにて突出させて成形するので、変形させ難い炭素鋼からなる基板であっても破損することなく突出させることが可能である。その際、熱間プレスにて基板を突出させるときに環状ボス部材を介しているので、環状ボス部材の高さ分の突出量を小さくできる。また、チップの焼結と基板の突出を同時に行うことで、製造工程の工程数を少なくできて製造が容易である。しかも、連通穴を有する環状のスペーサを熱間プレスにて基板を突出させて固定するため、基板に直接設けられている取付穴に比べて連通穴の精度が低下し難い。その結果、カップ型回転工具の基板をフラット型回転工具と同様に炭素鋼により薄肉に形成することが可能となり、使用時の強度を確保しつつカップ型回転工具の軽量化を図り易く、また、フラット型回転工具の基板と共通化することが可能で、在庫の種類を減らすことが可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るカップ型回転工具は、基板を炭素鋼により形成するので、使用時の強度を確保しつつより軽量化し易く、また、在庫の種類を減らすことが可能である。
本発明に係るカップ型回転工具の製造方法によれば、切削チップの固定と、環状リングの固定と、基板の突出成形とを一つの工程で行うことができ、工程数を少なくすることができると共に、環状リングを介して基板の突出成形を行うので、基板の突出量を小さくでき、基板の加工による劣化を最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[第1の実施の形態]
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、カップ型回転工具を装着した加工装置の要部を示す図であり、(a)は加工装置の平面図、(b)は加工装置の取付軸位置を模式的に示す断面図、図2は、カップ型回転工具を示し、(a)は環状ボス部材の部分を外したときの分解図斜視図、(b)は環状ボス部材を固定した状態の斜視図である。
【0019】
<加工装置>
図1に示すように、加工装置10は、回転駆動機構11と、回転駆動機構11の駆動軸15に取付ボルト(取付手段)17により取り付けられたカップ型回転工具20と、回転駆動機構11に設けられた安全カバー13とを備える。
【0020】
回転駆動機構11の駆動軸15は、 安全カバー13の内側に設置されており、カップ型回転工具20の位置決め部15aと、雌ねじ15bとを備える。この駆動軸15には、位置決め部15aにカップ型回転工具20の端面20aを当接させた状態で、取付ボルト17をカップ型回転工具20の他方の端面20b側から挿通させ、雌ねじ15bに螺合することで、カップ型回転工具20を取り付けられている。さらに、図1(b)に示すように、安全カバー13の上壁13aから駆動軸15の下端である位置基め部15aまでの距離Lは、安全カバーの側壁13bの下端より所定距離hだけ上方となるように設定されている。
【0021】
<安全カバー>
安全カバー13は ここでは カップ型回転工具20の略半周を覆うように回転駆動機構11に固定して設けられており、カップ型回転工具20の半分の面を離間して覆う上壁13aと、カップ型回転工具20の外周囲を離間して覆う側壁13bとを備えている。そして、この安全カバー13は、図1(b)に示すように、安全カバー13の上壁13aの下面から側壁13bの下端までの距離Hが、駆動軸15の下端より距離h長くなるように設定されている。
【0022】
<カップ型回転工具>
カップ型回転工具20は、図2に示すように、円板形状の基板21と、基板21の周縁に固定された切削用のチップ23と、基板21の中央部に固定した環状ボス部材25とを備える。
【0023】
基板21は、炭素鋼により形成されており、中央部には一方側に突出した突出部(凹部)27が形成されている。突出部27には、取付ボルト17を挿通可能な取付穴29と、取付穴29の周囲に形成された平面31とを備える。突出部27の裏側には、取付ボルト17の突出部位であるボルト頭(取付手段の端側)17bが内部に収納される凹部33が形成されており、取付穴29の周囲がカップ型回転工具20の他方の端面20bを構成している。基板21の周縁には、放射方向に複数の溝35が形成され、隣接する溝35間で基板の周縁に切削用のチップ23が等間隔に配置されるように構成されている。なお、基板21の素材は、炭素鋼であり、例えば、SKS材、S25C材あるいはS45C材等の機械構造用炭素鋼、SK材等が使用される。そして、基板21の厚みは、工具サイズ(直径)にもよるが、0.8〜3.0mmの範囲で構成される。
【0024】
基板21の中央部の突出部27は、後記する環状ボス部材25の外径とほぼ同等の寸法にその平面31の部分が形成されている。また、図1(b)に示すように、突出部27の基板平面部分からの突出量(オフセット量)h2は、後記する環状ボス部材25の厚みh1と合わせた全体高さh3が10割であるときに、ここではその内の2割から8割の高さの範囲となるように設定されている。なお、全体高さh3は、基板21がカッター用である場合には、安全カバー13の側壁13bの下端より内側となる高さに構成され、また、基板21が砥石用である場合には、安全カバー13の側壁13bの下端より外側となる高さに構成されることになる。突出部27の突出量の割合が全体高さh3のうち2割を下回る(突出量が小さくなる)と、その内側にボルト頭17bを収納して平面部分より下方に出っ張らないように固定できなくなる場合がある。また、突出部27の突出量の割合が全体高さh3のうち8割を超えると、基板21を加工するときに曲げ量が大きくなり基板にかかる負荷が大きくなり基板21の厚みが小さくできなくなる。
【0025】
環状ボス部材25は、中央に厚さ方向に貫通する連通穴37を有し、基板21の突出部27の平面31に例えば、焼結リング39により一体に強固に固定されている。焼結リング39の中央にも厚さ方向に貫通する貫通穴41が設けられており、環状ボス部材25の連通穴37は、焼結リング39の貫通穴41を介して、基板21の取付穴29と連通している。なお、環状ボス部材25は、後記するように、基板21の突出成形する際の工程で固定されることや、あるいは、基板21を突出成形した後に、基板21に固定される構成としても構わない。
【0026】
また、環状ボス部材25は、基板21からの厚みh1が、突出部27の突出高さh2と併せた高さh3を10割としたときに、前記した突出量h2に対応して、8割から2割の範囲となるように構成されている。この環状ボス部材25の厚みh1は、その厚みの割合が8割より大きくなると、基板21の突出部27の突出高さh2が小さくなり、ボルト頭17bを収納できる高さを確保することができなくなる。また、環状ボス部材25の厚みh1は、その厚みの割合が2割より小さくなると、基板21の突出高さh2が大きくなり、基板21を加工するときにと突出量(曲げ量)が大きくなってしまう。つまり、ここでは、突出量h2あるいは環状ボス部材25の厚みh1の一方が決まれば他方も決まることになる。
【0027】
さらに、環状ボス部材25は、予め環状に形成された金属材料を焼結リング39を介して固定する構成であることや、あるいは、焼結金属のような粉状のものをコールドプレスにより環状に仮形成した状態から熱間プレスにより焼結することで環状に基板と一体に固定して形成する構成であっても構わない。この環状ボス部材25は、基板21の突出成形を行うときに合わせて基板21に一体に固定されることで製造工程数を少なくするメリットがある。なお、環状ボス部材25は、基板21を突出成形して突出部27を形成した後に、レーザ溶接あるいはスポット溶接等により基板21に一体に固定する構成としてもよい。
【0028】
このカップ型回転工具20では、切削用としてカッターとなるチップ23を一体に固定している状態をここでは示しているので、図1(b)に示すように、回転駆動機構11の駆動軸15に取り付けた状態では、安全カバー13の高さHに対して、チップ23の位置が低くなり、高さHの内側に入るように設置される。なお、図示していないが、切削用としての砥石となるチップを一体に固定する状態のカップ型回転工具では、安全カバー13の側壁13bの下端より、チップが下方となる位置に配置される構成となる。そのため、安全カバー13は、その覆う領域も半周から全周に亘るように形成されることになる(図示せず)。
【0029】
そのため、このカップ型回転工具20では、基板21の突出部27の突出高さh2と環状ボス部材25の厚みh1とを併せた高さh3が、回転駆動機構11の駆動軸15に取付ボルト17により固定されたときに、安全カバー13の側壁13bの下端の位置決め部15aからの高さhと同等より小さく(短く:低く)形成されるか、あるいは、同一より大きく(長く:高く)形成されることになる。
【0030】
また、カップ型回転工具20は、カッターの構成とした場合、安全カバー13の下端の近くにカッターの刃を設置するように構成できる。そして、カップ型回転工具20の基板21の突出部27が、ボルト頭(取付手段の端側)17bが収納できる深さに形成されているので、角切り、際切りの際、切込みを深くしても、被削物に接触し傷つかない形状となり、かつ、床面に近づけた状態で水平な切込みができるようになる。
【0031】
<カップ型回転工具の製造方法>
つぎにカップ型回転工具20の製造方法の一例を図3ないし図5を参照して説明する。図3(a)〜(f)は、カップ型回転工具の製造工程の一例について全体を模式的に示す模式図、図4(a)〜(c)は、図3(c)を表すチップの仮固定の方法を模式的に示す模式図、図5(a)〜(c)は、図3(d)、(e)に表す熱間プレスの構成を拡大して模式的に示す模式である。
カップ型回転工具20を製造するには、図3(a)、(b)に示すように、はじめに、円板状の平坦な基板21を形成する第1工程と、図3(c)に示すように形成した基板21にチップ23を仮固定する第2工程と、図3(d)〜(f)に示すように、基板21に突出部27を突出成形すると共にチップ23及び環状ボス部材25を基板21に一体に固定する第3工程とを備える。以下、各構成について説明する。
【0032】
第1工程は、炭素鋼からなる材料を打ち抜き加工することで、中央に取付穴29を有する円板状の板を形成し、その後、機械加工あるいは、取付穴29と同時に、板の周縁に放射方向の溝35を形成することで、平坦な基板21を形成する工程である。この第1工程により形成した平坦な基板21は、フラット型回転工具にも使用可能なものである。そのため、第1工程終了後の状態でストックしておいてもよく、需要に応じて、平坦な基板21を第2工程以後の工程に供し、カップ型回転工具20を製造してもよく、第1工程以後に、フラット型回転工具の製造工程に供してもよい。
【0033】
第2工程は、図4(a)〜(c)に示すように、チップ成形用金型50を用いて、平坦な基板21の周縁で、金属粉末とダイヤ粒子との混合粉末を冷間プレスすることでチップ23を成形すると共に仮固定する工程である。
【0034】
この第2工程では、図4(a)に示すように、チップ成形用金型50に平坦な基板21を配置すると共に、位置決め治具51を用いて平坦な基板21を位置決め固定する。基板21の周縁の溝35間がチップ成形空間53内に配置される。チップ成形空間53内に金属粉末にダイヤ粒子を混合した混合粉末を充填する。その後、図4(b)に示すように、チップ成形空間53を型締めして冷間プレスすることで、図3(c)および図4(c)に示すように、平坦な基板21の周縁部にチップ23を成形し、成形と同時に基板21に仮固定する。
【0035】
第3工程は、図5(a)〜(c)および図3(d)、(e)に示すように、プレス成形型60を用い、チップ23が仮固定された基板21を熱間プレスして突出部27を突出成形すると共に突出部27に環状ボス部材25を一体に固定し、同時に基板21にチップ23を一体に固定する工程である。
【0036】
この第3工程では、図5(a)に示すように、まず、プレス成形型60の下型60aの突起部形成凹部61aに、予め作製した連通穴37を有する環状ボス部材25と、貫通穴41を有する焼結リング39とを配置し、プレス成形型60の下型60aと上型60bとの間に、チップ23が仮固定された基板21を配置する。このとき、基板21の取付穴29に位置決め治具63を貫通させると共に、環状ボス部材25の連通穴37と焼結リング39の貫通穴41に位置決め治具63を貫通させてそれぞれを位置決めすることで、基板21の所定位置に焼結リング39を介して環状ボス部材25を対面させて配置する。また、上下型60a、60bのチップ加圧部65a、65bに対応する位置にチップ23を配置する
【0037】
その後、図5(b)に示すように、下型60aと上型60bとの間で、高温で、例えば800℃〜900℃の温度で熱間プレスする。そうすると、下型60aの突起部形成凹部61aと上型60bの突起部形成凸部61bとにより基板21の中央部に突出部27が成形され、同時に、突出部27の取付穴29周囲の平面に焼結リング39を介して環状ボス部材25が一体に固定される。また、上下型60a、60bのチップ加圧部65a、65bによりチップ23が焼結されて基板21の周縁に一体に固定される。
【0038】
そして、図5(c)および図3(f)に示すように、プレス成形型60から取り出すことで、カップ型回転工具20が製造される。
【0039】
以上のようなカップ型回転工具20の製造方法によれば、基板21の突出部27を熱間プレスにより突出させて成形するので、硬質で軟鉄に比べて変形させ難い炭素鋼からなる基板21であっても、破損することなく成形させることが可能である。
【0040】
その際、熱間プレスにて基板21を突出させるときに、チップ23及び環状ボス部材25を基板21に一体に固定するので、工程数を少なくできて製造が容易である。同時に、チップ23及び環状ボス部材25を所定位置に配置して熱間プレスするため、これらの位置ズレが生じ難く、チップ23及び環状ボス部材25を基板21に精度よく固定することが可能である。
【0041】
しかも、連通穴37が予め精度よく形成されている環状ボス部材25を、熱間プレスにて基板21を変形させて固定するため、基板21に直接設けられている取付穴29に比べて、連通穴37の精度が低下し難い。
【0042】
その結果、カップ型回転工具20の基板21をフラット型回転工具と同様に炭素鋼により薄肉に形成することが可能であり、使用時の強度を確保しつつカップ型回転工具20の軽量化を図り易く、使用時に使用者や回転駆動機構11への負荷を少なくできる。
また、熱間プレスにより突出部27を突出成形する前の基板21を、フラット型回転工具の基板と共通化することが可能であるため、在庫の種類を減らすことが可能である。
【0043】
また、このカップ型回転工具20が安全カバー13の内側に取り付けられるものであり、基板21の突出高さh2と環状ボス部材25の厚みh1とを併せた高さh3が、基板21の周縁に固定されたチップ23を安全カバー13の側壁13bに対して所定位置に配置させる高さとなっているので、基板21の突出部27の突出高さh2を環状ボス部材25の厚みh1の分、低くすることが可能である。そのため、変形し難い炭素鋼からなる基板21を突出させて変形させる量を少なく抑えることができ、製造し易い。
【0044】
なお、上記実施の形態は、本発明の範囲内において適宜変更可能である。
例えば、上記では、平坦な基板21を熱間プレスして突出部27を成形する際に、環状ボス部材25を基板21の突出部27に一体に固定した例について説明したが、環状ボス部材25は基板21を熱間プレスにより突出部27を形成した後で、連通穴37を基板21の取付穴29に連通させた状態で基板21にレーザ溶接あるいはスポット溶接等の適宜な手段で固定しても、本発明のカップ型回転工具を製造することは可能である。
【0045】
また、前記した説明では、基板21に環状ボス部材25を焼結リング39を介在させて熱間プレスすることで基板21と環状ボス部材25とを固着したが、焼結リング39を用いず、焼結用の金属粉末を基板21と環状ボス部材25との間に介在させて熱間プレスすることで固着させてもよい。更に、前記した説明では、基板21に予め作製した環状ボス部材25を固着したが、環状ボス部材25を熱間プレス時に金属粉末から成形あらかじめ仮成形しておき、その仮成形した環状ボス部材25を焼結して基板21に一体に固定することも可能である。
【0046】
また、上記では、平坦な基板21を熱間プレスして突出部27を成形する際に、焼結用の金属粉末とダイヤ粒子との混合粉末を成形してチップ23を成形すると共に、基板21の周縁に固定した例について説明したが、予め作製されたチップ23を用いてもよく、突出部27の成形とは別にチップ23を基板21の周縁に固定してもよい。
【0047】
更に、上記では、カップ型回転工具20を回転駆動機構11に取り付けるための取付部材として取付ボルト17を用いた例について説明したが、特に限定されるものではなく、回転駆動機構11の駆動軸15に雄ねじが設けられていれば、ナット等であってもよく、その他の取付手段であってもよい。
【0048】
また、上記では、安全カバー13として、カップ型回転工具20の略半周を覆う例について説明したが、カップ型回転工具20の全周を覆うものであってもよく、被覆する領域は特に限定されない。
なお、この回転駆動機構11の駆動軸15には、カップ型回転工具20を離脱させた状態で、図示しないフラット型回転工具を交換装着することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係るカップ型回転工具を装着した加工装置の要部を示す図であり、(a)は平面図、(b)はカップ型回転工具の装着部位を示す断面図である。
【図2】本発明に係るカップ型回転工具を示し、(a)は分解斜視図、(b)は斜視図である。
【図3】(a)〜(f)は本発明に係るカップ型回転工具の製造工程の一例について全体を模式的に説明する模式図である。
【図4】(a)〜(d)は、図3(c)に表すチップの仮固定の方法を模式的に示す模式図である。
【図5】(a)〜(d)は、図3(d)、(e)に表す熱間プレスの構成を拡大して模式的に示す模式図である。
【図6】従来のカップ型回転工具の製造工程を説明する図である。
【符号の説明】
【0050】
11 回転駆動機構
13 安全カバー
13a 上壁
13b 側壁
15 駆動軸
17 取付ボルト(取付手段)
20 カップ型回転工具
21 基板
23 チップ
25 環状ボス部材
27 突出部(凹部)
29 取付穴
31 平面
37 連通穴
39 焼結リング(焼結材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動機構に設けた安全カバーの内側に設置した駆動軸に取付手段により取り付けられて使用されると共に、炭素鋼により形成された円板状の基板の中央部が突出成型された凹部を備えるカップ型回転工具であって、
前記基板の周縁に固定された切削用のチップと、
前記基板の突出成型した凹部の平面に、前記取付穴に連通穴を連通させて一体に固定した環状ボス部材と、を備え、
前記凹部は前記駆動軸に取り付けられた前記取付手段の端側まで収納する穴深さに突出成形されたことを特徴とするカップ型回転工具。
【請求項2】
前記環状ボス部材は、前記取付穴に連通穴を連通させた位置に、焼結材を介して前記基板と一体に固定されたことを特徴とする請求項1に記載のカップ型回転工具。
【請求項3】
前記環状ボス部材は、前記基板を熱間プレスにより中央部を突出成型により形成された後に、その連通穴を基板の取付穴に連通させた状態で前記基板に固定されたことを特徴とする請求項1に記載のカップ型回転工具。
【請求項4】
前記環状ボス部材は、焼結材により形成されたことを特徴とする請求項1に記載のカップ型回転工具。
【請求項5】
回転駆動機構の駆動軸に取り付けて使用されると共に、炭素鋼により形成され、円板状の基板の中央部が突出した凹部を備えるカップ型回転工具の製造方法において、
前記基板の中央に前記回転駆動機構の駆動軸に取り付ける取付穴を機械加工により形成する第1工程と、
前記基板の周縁に冷間プレスにより切削用チップを仮固定する第2工程と、
前記基板の取付穴に連通する連通穴を有する環状の環状ボス部材を、前記取付穴周囲の平面に焼結材を介して対面させて配置した状態で、熱間プレスにて加熱して前記基板の中央部に凹部を突出成型すると共に、当該熱間プレス中に前記チップを前記基板の周縁に一体に固定し、かつ、前記環状ボス部材を基板の中央部に一体に固定する第3工程と、を行うことを特徴とするカップ型回転工具の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−42475(P2010−42475A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208090(P2008−208090)
【出願日】平成20年8月12日(2008.8.12)
【出願人】(000142919)株式会社呉英製作所 (21)
【Fターム(参考)】