説明

カメラモジュール

【課題】カメラモジュールにおいて、落下耐性を確保する技術を提供すること。
【解決手段】カメラモジュール50は、サスペンションワイヤー16とAFバネとを備え、移動範囲内で可動部が移動したときの、サスペンションワイヤー16の長手方向における変形量によって規定される応力の最大値が、サスペンションワイヤー16の座屈応力及び降伏応力を超えないように、サスペンションワイヤー16及びAFバネのバネ定数が設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話等の電子機器に搭載されるカメラモジュールに関し、特に、手ぶれ補正機能を備えたカメラモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯電話においては、携帯電話内にカメラモジュールを組み込んだ機種が大半を占めるようになってきている。これらのカメラモジュールは、携帯電話内に収納しなければならないため、デジタルカメラと比べて小型及び軽量化に対する要求が大きい。
【0003】
また、レンズ駆動装置によってオートフォーカス(AF)機能を発揮するタイプのカメラモジュールが携帯電話等の電子機器に搭載される例も増加してきている。レンズ駆動装置には、ステッピングモータを利用するタイプ、圧電素子を利用するタイプ、VCM(Voice Coil Motor:ボイスコイルモータ)を利用するタイプ等の様々なタイプが存在しており、すでに市場に流通している。
【0004】
一方、このようにオートフォーカス機能を有するカメラモジュールが当たり前になってきた状況においては、次の特徴ある機能として手ぶれ補正機能が注目されてきている。手ぶれ補正機能は、デジタルカメラ及びムービーにおいて世間で広く採用されている一方、携帯電話においては、サイズ面の問題などがあるため、まだ採用例は少ない。しかし、小型化が可能な手ぶれ補正機構の新規な構造も提案されつつあり、今後は手ぶれ補正機能を搭載した携帯電話用カメラモジュールが増加していくと予想されている。
【0005】
手ぶれ補正機構として、特許文献1には、「バレルシフト方式」の手ぶれ補正装置が記載されている。特許文献1に記載の手ぶれ補正装置は、レンズバレルを光軸に沿って移動させるために、フォーカスコイルと、該フォーカスコイルと対向して前記光軸に対して該フォーカスコイルの半径方向外側に配置された永久磁石とを備えるオートフォーカス用レンズ駆動装置全体又はその可動部を、前記光軸に直交し、かつ互いに直交する第1の方向及び第2の方向に移動させることにより、手ぶれを補正するようにした手ぶれ補正装置であって、前記オートフォーカス用レンズ駆動装置の底面部で離間して配置されたベースと、該ベースの外周部で一端が固定された複数本のサスペンションワイヤであって、前記光軸に沿って延在し、前記オートフォーカス用レンズ駆動装置全体又はその可動部を、前記第1の方向及び前記第2の方向に揺動可能に支持する、前記複数本のサスペンションワイヤと、前記永久磁石と対向して配置された手ぶれ補正用コイルと、を有する。
【0006】
また、特許文献1に記載のようなサスペンションワイヤを使用する手ぶれ補正装置の耐衝撃性を向上させるための技術が特許文献2に記載されている。特許文献2に記載のレンズ駆動装置は、レンズを保持し前記レンズの光軸方向へ移動可能な第1保持体と、前記光軸方向へ前記第1保持体が移動可能となるように前記第1保持体を保持する第2保持体と、前記光軸方向に略直交する方向へ前記第2保持体が移動可能となるように前記第2保持体を保持する固定体と、前記光軸方向へ前記第1保持体を駆動するための第1駆動機構と、前記光軸方向に略直交する所定の第1方向へ前記第2保持体を駆動するための第2駆動機構と、前記光軸方向と前記第1方向とに略直交する第2方向へ前記第2保持体を駆動するための第3駆動機構と、前記第2保持体と前記固定体とを繋ぐための複数本のワイヤと、前記ワイヤの座屈を防止するための座屈防止部材を備え、前記ワイヤは、直線状に形成され、前記第2保持体は、複数本の前記ワイヤによって前記光軸方向に略直交する方向へ移動可能に前記固定体に支持され、前記座屈防止部材は、弾性材料で形成され前記ワイヤの座屈荷重よりも小さな力で前記光軸方向に弾性変形するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−65140号公報(2011年3月31日公開)
【特許文献2】特開2011−113009号公報(2011年6月9日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術では、落下耐性について考慮されておらず、落下等による大きな衝撃が加わった場合には、サスペンションワイヤに引っ張りによる永久ひずみ又は圧縮による座屈が生じる恐れがある。これは、細長い金属製のサスペンションワイヤは、その長手に垂直な方向には撓みやすい一方、長手方向における伸び縮みの許容変形量は非常に小さいからである。
【0009】
また、特許文献2の技術では、ワイヤーの座屈荷重よりも小さな力で弾性変形する弾性材料である座屈防止部材を用いたとしても、落下衝撃等によるサスペンションワイヤーの座屈及び永久ひずみを首尾よく防止することが困難な場合がある。なぜなら、弾性材料というものは力を与えれば必ず変形するものであり、弾性変形領域でフックの法則が成り立つため、特許文献2に記載の座屈防止部材を用いたとしても、サスペンションワイヤーは変形し得、その変形量によっては座屈又は永久ひずみが生じ得るからである。つまり、座屈及び永久ひずみを防止するために、サスペンションワイヤーの変形量を抑える条件を設定する必要がある。
【0010】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、弾性体に接続されたサスペンションワイヤーを備えている手ぶれ補正機構を有するカメラモジュールにおいて、サスペンションワイヤーの座屈及び永久ひずみを首尾よく防止し、落下耐性を確保することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するために、本発明に係るカメラモジュールは、
光信号を電気信号に変換する撮像素子と、該撮像素子に光を入射させる撮像レンズを光軸方向及び光軸に垂直な2軸方向に駆動するためのレンズ駆動装置とを備えた、手ぶれ補正機能を有するカメラモジュールであって、
該レンズ駆動装置は、
該撮像レンズを備えている可動部と、
該可動部を囲う固定部と、
該可動部を、該撮像レンズの光軸に垂直な方向に駆動する駆動手段と、
該光軸に対して平行又は斜めに延在し、該可動部が該光軸に垂直な方向に駆動されるよう該可動部を支持するサスペンションワイヤーと、
該サスペンションワイヤーの少なくとも一端に接続され、該サスペンションワイヤーの座屈及び永久ひずみを抑制する弾性体と、
該可動部の光軸方向の移動範囲を規定する係止部材と、
を備え、且つ、
該移動範囲内で前記可動部が移動したときの、前記サスペンションワイヤーの長手方向における変形量によって規定される応力の最大値が、前記サスペンションワイヤーの座屈応力及び降伏応力を超えないように、前記サスペンションワイヤー及び前記弾性体のバネ定数が設定されている、ことを特徴としている。
【0012】
前記の構成によれば、係止部材が可動部の光軸方向の移動範囲を規定するため、この移動範囲による総変形量が、サスペンションワイヤーの長手方向及び弾性体へと、それぞれのバネ定数に対応した比率で分配されるため、サスペンションワイヤーの変形量を抑えることができる。また、サスペンションワイヤーの長手方向の変形量によって規定される応力を算出することができる。つまり、両者のバネ定数の比率を的確な値にすることによって、サスペンションワイヤーの長手方向の変形量によって規定される応力がサスペンションワイヤーの座屈応力及び降伏応力を超えないようにすることができる。
【0013】
前記の構成によれば、サスペンションワイヤーの座屈及び永久ひずみを首尾よく防止することができるため、より好適に落下耐性を確保することができる。
【0014】
本発明に係る手ぶれ補正機能を有するカメラモジュールの一形態は、前記の構成に加えて、前記可動部が、前記撮像レンズを支持する板バネ部材を備えており、
前記弾性体が、該板バネ部材が前記固定部側に延出した延出部分からなることが好ましい。
【0015】
前記の構成によれば、サスペンションワイヤーが、可動部が備える板バネ部材の延出部分に固定され、該延出部分がスペンションワイヤーの座屈及び永久ひずみを抑制する弾性体として機能する。すなわち、前記の構成によれば、弾性体に接続されたサスペンションワイヤーを備えている手ぶれ補正機構を有するカメラモジュールを好適に構成することができる。
【0016】
本発明に係る手ぶれ補正機能を有するカメラモジュールの一形態は、前記の構成に加えて、前記固定部が、可撓性を有する可撓性部分を備えた基板を備えており、
前記弾性体が、該可撓性部分からなることが好ましい。
【0017】
前記の構成によれば、サスペンションワイヤーが、固定部が備える基板の可撓性部分に固定され、該可撓性部分がスペンションワイヤーの座屈及び永久ひずみを抑制する弾性体として機能する。すなわち、前記の構成によれば、弾性体に接続されたサスペンションワイヤーを備えている手ぶれ補正機構を有するカメラモジュールを好適に構成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るカメラモジュールは、光信号を電気信号に変換する撮像素子と、該撮像素子に光を入射させる撮像レンズを光軸方向及び光軸に垂直な2軸方向に駆動するためのレンズ駆動装置とを備えた、手ぶれ補正機能を有するカメラモジュールであって、該レンズ駆動装置は、該撮像レンズを備えている可動部と、該可動部を囲う固定部と、該可動部を、該撮像レンズの光軸に垂直な方向に駆動する駆動手段と、該光軸に対して平行又は斜めに延在し、該可動部が該光軸に垂直な方向に駆動されるよう該可動部を支持するサスペンションワイヤーと、該サスペンションワイヤーの少なくとも一端に接続され、該サスペンションワイヤーの座屈及び永久ひずみを抑制する弾性体と、該可動部の光軸方向の移動範囲を規定する係止部材とを備え、該移動範囲内で前記可動部が移動したときの、前記サスペンションワイヤーの長手方向における変形量によって規定される応力の最大値が、前記サスペンションワイヤーの座屈応力及び降伏応力を超えないように、前記サスペンションワイヤー及び前記弾性体のバネ定数が設定されている。そのため、座屈及び永久ひずみを防止することができ、落下耐性を確保することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るカメラモジュールの概略構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るカメラモジュールの概略構成を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るカメラモジュールの概略構成を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るカメラモジュールにおける手ぶれ補正のためのサーボ駆動を説明するための図である。
【図5】サスペンションワイヤーと弾性体とが接続されている様子を示す図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係るカメラモジュールの概略構成を模式的に示す断面図である。
【図7】本発明の他の実施形態における弾性体及びダンパー材の構成の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の一実施形態(第1実施形態)に係るカメラモジュール50の概略構成を模式的に示す斜視図である。図2は、第1実施形態に係るカメラモジュール50の概略構成を模式的に示す図1のA−Aにおける矢視断面図である。図3は、第1実施形態に係るカメラモジュール50の概略構成を模式的に示す図3のB−Bにおける矢視断面図である。
【0021】
(カメラモジュール)
図1〜図3に示すように、カメラモジュール50は、撮像レンズ1、撮像レンズ1を収納するレンズバレル2、及び、接着剤3を用いてレンズバレル2を内部に固定しているレンズホルダー4を有する。
【0022】
カメラモジュール50は、また、撮像レンズ1を光軸方向及び光軸に垂直な2軸方向に駆動するためのレンズ駆動装置5と、撮像レンズ1を経由した光の光電変換を行う撮像素子6、撮像素子6が載置された基板7、撮像素子6を覆うセンサカバー8、及び、ガラス基板9を備えた撮像部10とを備えている。レンズ駆動装置5及び撮像部10は光軸方向に積層されている。レンズ駆動装置5は、カバー17によって覆われている。
【0023】
なお、以下では、便宜上、撮像レンズ1側を上方、撮像素子6側を下方として説明するが、これは使用時における上下方向を規定するものではなく、例えば、上下が逆であってもよい。
【0024】
(レンズ駆動装置)
レンズ駆動装置5は、AFバネ12a及び12b、中間保持部材13、AFコイル14、永久磁石15、サスペンションワイヤー16、OISコイル18、ならびに、ベース19を備えている。
【0025】
レンズホルダー4は、上下2枚のAFバネ(板バネ部材)12a、12bにより中間保持部材13に対して光軸方向に駆動されるように支持されている。レンズホルダー4の外周部には、AFコイル14が固定されている。中間保持部材13には、AF駆動用の永久磁石と手ぶれ補正用の永久磁石とを共通化した兼用の永久磁石15が固定されているが、二つの永久磁石を別々に取り付けてもよい。また、レンズホルダー4は、光軸方向の可動範囲における無限遠側のメカ端(可動範囲の撮像素子6側の基準位置)において、その突起部4aが中間保持部材13に当接している。そして、AFコイル14を制御することにより、レンズホルダー4(及び撮像レンズ1)を光軸方向に駆動することができる。これにより、オートフォーカス機能を実現することができる。
【0026】
また、中間保持部材13は、ベース19に対して4本のサスペンションワイヤー16により、光軸方向と垂直な2軸方向に駆動されるように支持されている。サスペンションワイヤー16は、例えば、細長い金属ワイヤーであり、光軸に対して平行に延在している。なお、サスペンションワイヤー16の長手方向と光軸方向とは一致していなくともよく、例えば、4本のサスペンションワイヤー16をわずかに傾け、ハの字形に配置してもよい。すなわち、サスペンションワイヤー16は、光軸に対して斜めに延在していてもよい。また、カバー17の内側には、OISコイル(駆動手段)18が固定されている。そして、OISコイル18を制御することにより、中間保持部材13、永久磁石15、AFバネ12a及び12b、レンズホルダー4、AFコイル14、レンズバレル2、ならびに、撮像レンズ1等を、光軸と垂直な方向に一体的に駆動することができる。これにより、手ぶれ補正機能を実現することができる。
【0027】
なお、本明細書において、撮像レンズ1の光軸に垂直な方向に駆動される部分をOIS可動部(可動部)と称し、それ以外の部分をOIS固定部(固定部)と称する。すなわち、OIS可動部には、撮像レンズ1、レンズバレル2、レンズホルダー4、AFバネ12a及び12b、中間保持部材13、ならびに、AFコイル14が含まれており、OIS固定部には、カバー17、OISコイル18、及び、ベース19が含まれている。
【0028】
(撮像レンズ等の配置)
本実施形態では、レンズバレル2が組み込まれた状態で、レンズバレル2の一部が、ベース19の開口19a内にまで入り込んでいる。一般に、撮像レンズ1のフランジバック(レンズバレル2の下端面から撮像素子6面までの距離)を十分に大きく取ることが困難なため、このような構成になる場合が多い。レンズ駆動装置5は、センサカバー8上に搭載される。
【0029】
センサカバー8は、突起8aの先端に形成された基準面が撮像素子6に当接しており、撮像素子6全体をカバーするように載置される。センサカバー8の撮像レンズ1側には開口8bが設けられ、赤外線カット機能を備えたガラス基板9により開口8bは塞がれている。撮像素子6は基板7上に搭載され、公差によって生じるセンサカバー8と基板7との間の隙間は、接着剤20により充填された状態で、センサカバー8と基板7とが接着固定される。
【0030】
レンズバレル2及びレンズホルダー4は、レンズホルダー4が無限遠側のメカ端に位置する状態でレンズバレル2が所定の位置に位置するように、接着剤3によって固定される。また、レンズバレル2とセンサカバー8との間には、例えば、10μm程度の隙間が形成される。このように、10μm程度の隙間を形成した状態でレンズバレル2を位置決めするためには、治具を用いてレンズバレルの位置を保持した状態で接着すればよい。
【0031】
次に、レンズバレル2のレンズホルダー4への取付位置について説明する。撮像レンズ1の位置は、無限遠側メカ端位置において合焦するように、撮像素子6面との距離が設定されるのが望ましい。しかしながら、レンズバレル2に対する撮像レンズ1の取付位置公差、センサカバー8の厚さ公差などの公差、及び、部材ごとのばらつきが存在するため、フォーカス調整を行わずに、メカ当たりで位置決めしようとした場合には誤差が残存するおそれがある。
【0032】
そこで、そのような誤差が残存した状態でも、レンズ駆動装置5のストローク範囲内で合焦位置を見つけるため、合焦位置の設計センター値よりも若干、撮像素子6側に寄った位置に撮像レンズ1を取り付けることが好ましい。このずらし量をオーバーインフと呼ぶ。但し、オーバーインフを大きく設定すれば、レンズ駆動装置5のストロークがその分だけ大きくなるため、オーバーインフは必要最小限に留める必要がある。前記の様々な公差を累計すると、例えば、25μm程度のオーバーインフ量が適当となるが、この値は部品の製造公差や組立公差に影響されるため、実態に合った最小限の値に設定することが望ましい。
【0033】
なお、本実施形態では、撮像素子6に対して直接、センサカバー8の下側の基準面を突き当てるとともに、厚さの精度を高めたセンサカバー8を用い、かつセンサカバー8の上面に対して(言い換えれば、レンズ駆動装置5の下面に対して)高精度にレンズバレル2を位置決めする。それゆえ、本実施形態では、25μm程度のオーバーインフ量で十分であるとも言える。本実施形態では、無限遠の被写体に対する合焦位置よりも25μmだけ撮像素子側に寄った位置にレンズバレル2が取り付けられ、かつその状態でセンサカバー8とレンズバレル2との間に隙間が存在する。
【0034】
(弾性体)
本実施形態における特徴的な構成は、図3に示すように、上側のAFバネ12aの一部が中間保持部材13の外周よりも突出(延出)して、可撓性を有するアーム部(延出部分)12cを形成し、アーム部12cのほぼ先端位置にサスペンションワイヤー16の上端を固定した構造であって、かつ、サスペンションワイヤー16の長手方向の永久ひずみ及び圧縮方向の座屈が生じないように、アーム部12cのバネ定数とサスペンションワイヤー16の長手方向のバネ定数との関係を規定することにある。なお、両者のバネ定数の関係は後述する。また、アーム部12cの一部に、ダンパー材11を設けることによって、共振ピークを抑制することができる。
【0035】
なお、本明細書において座屈とは、ワイヤー状の部材(金属)に圧縮応力が加えた場合に、ワイヤーがそれ以上縮むことができずに、ワイヤーの長手方向とは垂直な径方向にワイヤーが折れ曲がってしまう現象を指している。また、座屈を生じる応力を座屈応力という。
【0036】
さらに、本明細書において永久ひずみとは、ワイヤー状の部材に引っ張り応力を加えた場合に、伸長したワイヤーが応力を除いた後も元の状態に戻らない現象を指している。また、応力と変形量とが比例しなくなり、永久ひずみを生じる応力を降伏応力という。
【0037】
アーム部12cは、サスペンションワイヤー16の座屈及び永久ひずみを抑制するための弾性体として機能する。アーム部12cは、特に限定されないが、例えば、金属、プラスチック等により構成することができる。より好ましくは、アーム部12cとしては、バネ定数を十分に小さくすることが可能であり、150μm程度変形しても塑性変形しない素材を用いる。また、アーム部12cとサスペンションワイヤー16とを半田付けする場合には、アーム部12cを金属によって構成することが好ましい。
【0038】
通常の使用状態では、このアーム部12cの撓みによる変形量は無視できるレベルであるが、落下等により過大な衝撃力が作用した場合、中間保持部材13を含むOIS可動部に対して光軸方向に慣性力を受ける。中間保持部材13の下部には、ベース19が存在しており、ベース19が、中間保持部材13(OIS可動部)の光軸方向の移動範囲を規定するストッパー(係止部材)として働くため、中間保持部材13の光軸方向の変位を規制することができる。しかし、組立誤差等も考慮して、OIS可動部がOIS固定部に接触しないようにするためには、OIS可動部とOIS固定部の隙間として100ミクロンから150ミクロン程度の隙間を設けることが必須である。そのため、OIS可動部とOIS固定部との間隔が、150ミクロン程度変化することがあり得る。サスペンションワイヤー16の伸縮のみでこの変形量を負担しようとすると、そのときにサスペンションワイヤー16にかかる応力は座屈応力又は降伏応力を超えることがあり得る。
【0039】
ここで、本実施形態では、アーム部12cがその変形量の一部を負担するため、サスペンションワイヤー16の長手方向の変形量を抑えることができる。
【0040】
なお、本発明の重要要素部品だけを簡略化して示すと図4のようになる。撮像レンズ1等を保持するレンズホルダー4が上下2枚のAFバネ12a及び12bにより支持され、上側のAFバネ12aの一部は中間保持部材13よりも外側に突出している。この突出したアーム部12cにサスペンションワイヤー16が固定されている。
【0041】
(バネ定数)
次に、本発明の実施形態に係るカメラモジュール50における落下耐性について、より詳細に説明する。サスペンションワイヤー16及びアーム部(弾性体)12cのバネ定数の関係を図5に示す。図5は、アーム部12cとサスペンションワイヤー16の長手方向のバネの構成を簡略的に示す図である。kが上側AFバネ12aのアーム部12cのバネ定数、kがサスペンションワイヤー16の長手方向のバネ定数である。すなわち、kとkという2つのバネが直列に接続された構造となっている。なお、アーム部12cの一部にダンパー材11が塗布されている場合には、kはダンパー材込みのアーム部12cのバネ定数となる。簡単のため、1箇所のみのサスペンションワイヤー16に関して説明を行う。
【0042】
前記構造において、k<<kとなるように設定する。例えば、k=1×10N/m程度、k=1×10N/m程度とする。落下衝撃等によって生じるトータルの変形量をδ(例えば、中間保持部材13とベース19との間隔である150μm程度)とすると、それぞれのバネの変形量はそれぞれのバネ定数に反比例し、下記式(1)及び(2)のように求められる。
【0043】
弾性体(アーム部12c)の変形量δ=δk/(k+k)=148.5μm・・・(1)
サスペンションワイヤー16の変形量δ=δk/(k+k)=1.5μm・・・(2)
また、サスペンションワイヤー16をδだけ変形させるのに必要な力Fは、下記式(3)のように求められる。
【0044】
F=δk/(k+k)=0.15N・・・(3)
従って、サスペンションワイヤー16の長手方向の変形量によって規定される応力は、サスペンションワイヤー16の断面積をAとすると、下記式(4)のように求められる。
【0045】
σ=(δ/A)k/(k+k)=3×10N/m・・・(4)
このσがサスペンションワイヤー16の座屈応力σを超えないことが必須となる。すなわち、座屈応力を問題にしているのは、通常の場合、降伏応力よりも座屈応力の方が小さくなるためである。
【0046】
すなわち、下記式(5)を満たすように、移動範囲を上限とする変形量δ、断面積Aならびにバネ定数k及びkを設定すればよい。
【0047】
σ>(δ/A)k/(k+k)・・・(5)
なお、座屈応力としては、通常Eulerの座屈応力が目安とされる。Eulerの座屈応力は、下記式(6)で表される。Cは定数であり、両端固定梁の場合C=4となる。Eはヤング率、λは細長比をそれぞれ示す。
【0048】
σ=CπE/λ・・・(6)
一つの設計例に基づいて、Eulerの座屈応力を計算すると、1×10N/m程度の値となった。しかしながら、Eulerの座屈応力は理想的な垂直荷重が加えられた場合の式であり、現実には斜めに荷重がかかる場合もあり、ある程度のマージンを見て、座屈応力を設定するのが望ましい。
【0049】
本実施形態においては、ベース19が、ストッパー(係止部材)として働き、中間保持部材13(OIS可動部)の光軸方向の移動範囲が規定される。この移動範囲が、サスペンションワイヤー16の長手方向の変形量とアーム部12cの変形量へと、それぞれのバネ定数に対応した比率で分配される。そして、サスペンションワイヤー16の長手方向が受け持った変形量によって生じる応力が、サスペンションワイヤー16の座屈応力及び降伏応力を超えないことによって、座屈及び永久ひずみを防止することができ、落下耐性をカメラモジュール50に持たせることが可能である。
【0050】
〔第2実施形態〕
第1実施形態では、サスペンションワイヤー16とOIS可動部との接続部であるアーム部12cが、サスペンションワイヤー16の座屈及び永久ひずみを抑制するための弾性体として機能しているが、本発明はこれに限定されない。少なくともサスペンションワイヤー16の一端に弾性体を接続すればよいため、サスペンションワイヤー16とOIS固定部との接続部を、サスペンションワイヤー16の座屈及び永久ひずみを抑制するための弾性体として機能させることも可能である。このような構成を、本発明の第2実施形態として以下に説明する。
【0051】
図6は、第2実施形態に係るカメラモジュール50の概略構成を示す断面図である。図7は、図6に示すカメラモジュール50の、サスペンションワイヤー16とOIS固定部との接続部周辺の構成を拡大して示す図である。なお、第1実施形態と同様の部材には同じ部材番号を付し、説明を省略する。
【0052】
図6及び図7に示すように、第2実施形態では、ベース19が、基板部分19bを樹脂部分19aで支持する2層構造となっている。そして、基板部分19bの一部について、樹脂部分19aの支えをなくすことにより、基板部分19bに可撓性を有する可撓性部分を設けることができる。そして、該可撓性部分に、サスペンションワイヤー16を固定することにより、該可撓性部分をサスペンションワイヤー16の座屈及び永久ひずみを抑制するための弾性体をして機能させることができる。
【0053】
サスペンションワイヤー16の座屈及び永久ひずみを抑制するための弾性体として使用する基板部分19bは、アーム部12cと同様、特に限定されないが、例えば、金属、プラスチック等により構成することができる。より好ましくは、基板部分19bとしては、バネ定数を十分に小さくすることが可能であり、150μm程度変形しても塑性変形しない素材を用いる。また、基板部分19bとサスペンションワイヤー16とを半田付けする場合には、基板部分19bを金属によって構成することが好ましい。また、基板部分19bとして、金属パターンが配列された回路基板(ガラスエポキシ基板等)等を用いてもよい。
【0054】
また、本実施形態においても、第1実施形態と同様に、ベース19がストッパーとして働き、中間保持部材13の光軸方向の移動範囲が規定される。この移動範囲が、サスペンションワイヤー16の長手方向の変形量と基板部分19bの可撓性部分の変形量へと、それぞれのバネ定数に対応した比率で分配される。そして、サスペンションワイヤー16の長手方向が受け持った変形量によって生じる応力が、サスペンションワイヤー16の座屈応力及び降伏応力を超えないことによって、座屈及び永久ひずみを防止することができ、落下耐性をカメラモジュール50に持たせることが可能である。
【0055】
なお、第1実施形態と同様、サスペンションワイヤー16の座屈及び永久ひずみを抑制するための弾性体(本実施形態では、基板部分19bの可撓性部分)に、ダンパー材11を装着することによって、サーボ系の発振リスクを低減できる。
【0056】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、カメラモジュールの製造分野において利用可能であり、特に、携帯用端末等の通信機器を含む各種電気器に搭載されるカメラモジュールの製造分野において好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 撮像レンズ
2 レンズバレル
3、20 接着剤
4 レンズホルダー
5 レンズ駆動装置
6 撮像素子
7 基板
8 センサカバー
9 ガラス基板
10 撮像部
11 ダンパー材
12a、12b AFバネ(板バネ部材)
12c アーム部(延出部分、弾性体)
13 中間保持部材
14 AFコイル
15 永久磁石
16 サスペンションワイヤー
17 カバー
18 OISコイル(駆動手段)
19 ベース(係止部材)
19a 樹脂部分
19b 基板部分(弾性体)
50 カメラモジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光信号を電気信号に変換する撮像素子と、該撮像素子に光を入射させる撮像レンズを光軸方向及び光軸に垂直な2軸方向に駆動するためのレンズ駆動装置とを備えた、手ぶれ補正機能を有するカメラモジュールであって、
該レンズ駆動装置は、
該撮像レンズを備えている可動部と、
該可動部を囲う固定部と、
該可動部を、該撮像レンズの光軸に垂直な方向に駆動する駆動手段と、
該光軸に対して平行又は斜めに延在し、該可動部が該光軸に垂直な方向に駆動されるよう該可動部を支持するサスペンションワイヤーと、
該サスペンションワイヤーの少なくとも一端に接続され、該サスペンションワイヤーの座屈を抑制する弾性体と、
該可動部の光軸方向の移動範囲を規定する係止部材と、
を備え、且つ、
該移動範囲内で前記可動部が移動したときの、前記サスペンションワイヤーの長手方向における変形量によって規定される応力の最大値が、前記サスペンションワイヤーの座屈応力及び降伏応力を超えないように、前記サスペンションワイヤー及び前記弾性体のバネ定数が設定されていることを特徴とするカメラモジュール。
【請求項2】
前記可動部が、前記撮像レンズを支持する板バネ部材を備えており、
前記弾性体が、該板バネ部材が前記固定部側に延出した延出部分からなることを特徴とする請求項1に記載のカメラモジュール。
【請求項3】
前記固定部が、可撓性を有する可撓性部分を備えた基板を備えており、
前記弾性体が、該可撓性部分からなることを特徴とする請求項1に記載のカメラモジュール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−72892(P2013−72892A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209649(P2011−209649)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】