説明

カラーフィルタ及びその製造方法、フォトマスク

【目的】カラーフィルタのマスクプロセスにおける短寸法補正領域を改善する。
【構成】まず、カラーフィルタのプロセス特性に起因する設計値に対する変化量を線幅及び座標で表した変化領域マップを取得する。次に、カラーフィルタ用フォトマスクの初期設計値に対し、変化領域マップに基づいて変化量を補正する。次に、その変化量をフォトマスクに補正する際、前記変化領域マップにおける短寸法補正領域の変化が大きい領域から小さい領域までの変化量を前記マスクの初期設計値に対して補正を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタ(以下、「TFT」という。)型液晶ディスプレイに適用されるカラーフィルタ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
写真技術を応用し、露光、現像及びエッチングという一連の工程によって対象基板に所定のパターン形状を形成する「フォトマスクプロセス」は、プラズマテレビや液晶テレビなど各種のディスプレイデバイスや、LSIなどに代表される半導体集積回路など、様々な製品分野に利用されている。そのリソグラフィによりパターンの描画、現像を行なう場合、パターンの描画装置や現像装置やエッチング装置の固有の特性、レジストと現像液の組み合わせ、現像条件等により、描画・現像後のパターンが設計データと比較して誤差を生じることがある。また、エッチングの過程で生じる寸法誤差は、パターンの疎密差が大きくなるにつれて増大することがわかってきている。これらの要因で、微細パターンやパターンのコーナが露光不足になり、寸法精度の劣化や矩形パターンが丸くなるなどの寸法誤差を修正する方法として、パターンに形状補正する光近接効果補正(本明細書ではこれを「OPC 技術」という)が使われている。
【0003】
ここでいうOPC 技術とは、マスクパターンによって回折された光がレンズを介して集光し、パターンを形成する際に、回折した光のうち,低次成分しかレンズを通過できなくなるため、マスクパターンを忠実に転写できなくなる。この現象をOPE(光近接効果)と呼び、このOPE を事前に予測し,マスクパターンを補正することで,設計に忠実なパターンを得ることをOPC(光近接効果補正)技術という。このOPC 技術はフォトマスクプロセスにおける局所的なパターンの異常を修正する方法として知られている。(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−123000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
OPC 技術は、リソグラフィ工程のプロセス最適化のために設定するものであり、パターンを最適化するためにはリソグラフィ工程、少なくとも露光工程を考慮に入れた露光条件に基づくパターン形状の最適化手段として用いられる。
【0006】
ところが、カラーフィルタの製造工程においては、個々のパターンは矩形パターンを組み合わせたような比較的単純な形状で構成され、しかもその寸法は超微細加工デバイスへのフォトマスクプロセスと比較すると、かなり大きいことから、初期設計値で製造されたマスクを使用して光学的なパターン転写後に実行される各プロセス(例えば、コーティング、現像、エッチングなど)の際に、設計値通りにパターンが転写、形成されないという問題が生じうるとしても、その影響は、個々のパターンとしては最終的な寸法がわずかに設計値からずれる程度にすぎないものである。
【0007】
このような理由から、従来、カラーフィルタの分野では、各プロセスの特性に起因した設計値に対する誤差に起因する線幅のばらつき(本明細書では、これを「短寸法補正領域」または「短寸法」という。)は、殆ど問題視されていなかった。
【0008】
しかし、近年、液晶ディスプレイ等の高画質化と輝度向上が望まれるようになり、それに伴う画素数増大と光透過率向上に対応して、ブラックマトリクスの細線化が図られるようになってきた。
【0009】
このようなブラックマトリクスの細線化に伴い、カラーフィルタのパターン寸法誤差はわずかであっても、転写されたパターンを広範囲で観察すると局所的な寸法誤差がムラとなって表出することがある。これは局所的な寸法誤差が上記のプロセス要因で一定領域に集中して起こるため、ムラとなって見えるのである。
【0010】
本発明は上記の問題点を鑑みてなされたものであり、カラーフィルタのマスクプロセスにおける局所的な寸法誤差を改善するため、光学的にパターン転写後に実行される各プロセスで調整することが困難とされるカラーフィルタの局所的な寸法誤差を改善することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、カラーフィルタの製造方法であって、
カラーフィルタのプロセス特性に起因する設計値に対する変化量を線幅及び座標で表した変化領域マップを取得する第1のステップと、
前記カラーフィルタ用フォトマスクの初期設計値に対し、変化領域マップに基づいて変化量を補正する第2のステップと、
前記変化量をフォトマスクに補正する際、前記変化領域マップにおける短寸法補正領域の変化が大きい領域から小さい領域までの変化量を前記マスクの初期設計値に対して補正を行う第3のステップとを備えている。
【0012】
特に、前記第3のステップでは補正領域と被補正領域との境界部において段階的に補正することが好ましい。この方法として、例えば、補正領域と被補正領域との境界近傍では補正値を連続配置することなくランダムに分散配置することが考えられる。
【0013】
前記補正フォトマスクを使用するカラーフィルタのプロセスでは、補正領域が後方となるように基板のプロセス工程の方向を統一してもよい。
【0014】
前記カラーフィルタの製造方法は、フォトマスクを基板に転写する転写領域が基板1枚に対し、1つまたは2つの領域であることが好ましい。大型基板となり、領域的に複数回に分割露光する場合(例えば転写領域が4乃至8領域或いはそれ以上の場合)、上述のような変化量補正を行っても「基板全体」の変化に対し、分割露光される「1枚のフォトマスク」で補正することによる効果は殆ど期待できないからである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るカラーフィルタの製造方法によると、カラーフィルタの製造プロセスに起因する短寸法補正領域を大局的な視点から広範囲に捉えて補正するため、変化量をフォトマスクに逆補正することで短寸法補正領域の精度を向上したカラーフィルタパターンが形成できる。これにより、既存の製造プロセスを大幅に変えることなく歩留まりを飛躍的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1(a)〜図1(d)は、カラーフィルタの製造プロセスを説明する工程図である。
【図2】図2は、カラーフィルタパターンの平面図を示している。
【図3】図3は、短寸法補正領域をマッピングした一例を示す概念図である。
【図4】図4は、図3においてNG領域であった「領域C」を適正範囲に補正した結果を表している。
【図5】図5(a)はマッピング例である。図5(a)のマッピングに基づいて寸法変更を行った画素をランダムに分散配置し、寸法変化を空間的に段階的に分散させた様子を示している。
【図6】図6は、一般的なTFT液晶ディスプレイの構造の一例を模式的に示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るカラーフィルタの製造方法は、プロセスに起因して生じるカラーフィルタパターンの短寸法補正領域の変動に対し、短寸法補正領域をマッピングし、そのマッピングに応じて補正量を段階的に決定する。以下、実施形態を参照して具体的に説明する。
【0018】
(第1の実施形態)
図6は、一般的なTFT液晶ディスプレイの構造の一例を模式的に示す分解斜視図である。一対のガラス基板101a、101bの外側に偏光板102a、102bが設けられ、内側に薄膜トランジスタアレイ105、ゲート線106、透明電極107等が形成された基板と、カラーフィルタ111a〜111c、透明電極108等が形成された基板とを具備する。
【0019】
カラーフィルタ111はブラックマトリクス層(以下、「BM層」という。)と呼ばれる遮光性基板上に赤(R)、青(B)、緑(G)からなるカラーマトリクスを露出するための窓が設けられ、ゲート線106及び透明電極107、108に電気信号を与えることで各画素の発色を制御し、色鮮やかな動画像を表示する。
【0020】
このカラーフィルタ111は、赤、青、または緑に染色した感光性の顔料をフォトマスクプロセスを用いて所定の形状にパターニングすることによって形成される。
【0021】
図1(a)〜図1(d)は、カラーフィルタの製造プロセスを説明する工程図である。図1(a)は、ガラス基板10上にクロム膜などの遮光性部材を形成した後、パターニングして得られたブラックマトリクス層(BM層)11の様子を示している。次に、図1(b)に示すように、BM層11を覆うように赤色のカラーフィルタ層12Rを形成する。カラーフィルタ層12Rは感光性樹脂からなり、例えば赤色に染色されてなる。
【0022】
次に、図1(c)に示すように、フォトマスク20を用いてカラーフィルタのパターンを露光する。なお、カラーフィルタのパターニングはネガ型レジスト、すなわち、露光光が照射された領域が硬化する紫外線硬化型レジストが用いられることが一般的である。次に、図1(d)に示すように、露光パターンを現像して赤色カラーフィルタパターン13Rが形成される。カラーフィルタ層のパターニングは赤(R)、青(B)、緑(G)の3色についてそれぞれ行う必要があるので、青色、緑色についても同様にパターニングを行う。このようにして、図1(d)に破線で示すように、赤色カラーフィルタパターン13Rに隣接して青色カラーフィルタパターン13B、緑色カラーフィルタパターン13Gを形成する。
【0023】
図2は、カラーフィルタパターンの平面図を示している。この図は、BM層11上に、赤色・青色・緑色のカラーフィルタパターン13R,13B,13Gが設けられていることを示している。着目すべきパラメータの設定方法は、カラーフィルタの形状に応じて種々が考えられるが、説明の便宜上、カラーフィルタパターンの寸法が同図に図示したパラメータx、yにより表されるものとする。
【0024】
図3は、初期設計値で製造されたフォトマスクを使用して感光性樹脂のコーティングが施されたガラス基板上に光学的なパターンを転写し、その後、現像、エッチングの各プロセスを経て得られるカラーフィルタパターンの短寸法補正領域をマッピングした一例を示す概念図である。このマッピング例では、短寸法補正領域に応じた3つの領域に区分している。
【0025】
すなわち、中央の矩形状に表された閉領域(領域A)は、カラーフィルタパターンの寸法実測値の一つを示すパラメータ(例えばx)の値が、6.2μm≦x<6.4μmの範囲であったことを示し、領域Aの周囲を囲うドーナツ状の領域(領域B)では、6.0μm≦x<6.2μm、領域Bの下端側の領域(領域C)では、5.8μm≦x<6.0μmの範囲であったことを示している。
【0026】
この例のように、1枚のカラーフィルタ形成用のフォトマスクから各プロセスを経た後に得られるカラーフィルタパターンの寸法を実測すると、個々の寸法ばらつきのような微視的な問題とは別に、「マスクの下端側のパターン寸法が全体的に設計値よりも小さく形成される」といった短寸法補正領域の広範囲な傾向が見られる。このような傾向は解像度に代表される光学的な問題に起因するものではなく、エッチングなどのプロセスに依存して生じたものと考えられる。
【0027】
そして、マッピングされた各区分に基づいて、これに対応するフォトマスクの設計値を調整する。図3の例で、例えば領域Bが適正範囲、領域Aも適正範囲よりは大きいが許容範囲であったとすると、修正すべき領域Cに対応するフォトマスクの設計値を初期設定値よりも大きく調整し、プロセス後の寸法が適正範囲となるように設定する。
【0028】
このように、プロセス側で発生する短寸法補正領域をマスク側で調整することによって短寸法補正領域を適正な範囲に調整することができるのである。
【0029】
図4は、図3のマッピングに基づいてNG領域であった「領域C」を適正範囲に補正した結果を表している。領域Cが適正範囲である領域Bに区分されるように補正された。
【0030】
なお、上記のマッピング例では、寸法ばらつきを3つの区分に区画して表したが、より精密補正を行うために4つ以上のより多くの区分に区画してもよい。
【0031】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、マッピングによって区分された寸法ばらつきを修正するより具体的な方法について説明する。上述のマッピングに従って一律に修正してしまうと境界部に大きな寸法変化の「段差」が現れるという問題が生じる。これは、各々の寸法ばらつきは目視できない大きさ(例えば、数μmのサイズ)であっても、一律に修正することで、筋状の連続した段差となって目視可能となり、パターンに対し意図しない規則的な「ムラ」となって表出してしまうために起こるものと考えられる。しかし、このような規則的なムラは、表示パネルにおける表示ムラ等の原因となり、性能の低下につながるという問題点があるため、境界部近傍での寸法変化は極力なだらかなものとされることが望まれる。
【0032】
図5(a)は初期設計値で製造されたカラーフィルタの短寸法の補正領域をマッピング化したものである。このマッピング結果を基にして実際のフォトマスクに適応する際は、境界部での修正量は隣接領域の補正値のいずれか一方を連続配置するのではなく、ランダムに分散配置する必要がある。
【0033】
図5(b)は、カラーフィルタを形成したガラス基板10を示しており、図5(a)のマッピングに基づいて寸法変更を行った画素をランダムに分散配置し、寸法変化を空間的に段階的に分散させた様子を示している。このようにすると、カラーフィルタの寸法がある領域を境に急激に変化することがなくなり、平均的な短寸法補正領域となる。
【0034】
なお、補正フォトマスクを使用するカラーフィルタのプロセスでは、補正領域が後方となるように基板のプロセス工程の方向を統一してもよい。これは、工程が通常は全てライン化されているためプロセスの方向は一定であることが一般的であるが、カラーフィルタ基板の赤と青と緑の各々を転写露光し、各々現像をする際に、基板の向きを変えて処理ことも可能だからである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、カラーフィルタ製造のプロセス特性における変化量と変化領域を特定し、変化量をマスクに逆補正することで短寸法精度の向上したパターンを形成することができることにより、カラーフィルタ製造のプロセス工程を大幅に改善することなく、歩留まりを向上させることが可能となる点で、産業上の利用可能性は極めて大きい。
【符号の説明】
【0036】
10 ガラス基板
11 ブラックマトリクス(BM)層
12 カラーフィルタ層
13 カラーフィルタパターン
20 フォトマスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラーフィルタのプロセス特性に起因する設計値に対する変化量を線幅及び座標で表した変化領域マップを取得する第1のステップと、
前記カラーフィルタ用フォトマスクの初期設計値に対し、前記変化領域マップに基づいて変化量を補正する第2のステップと、
前記変化量をフォトマスクに補正する際、前記変化領域マップにおける短寸法補正領域の変化が大きい領域から小さい領域までの変化量を前記マスクの初期設計値に対して補正を行う第3のステップとを備えたカラーフィルタ用フォトマスクの補正方法。
【請求項2】
前記第3のステップでは補正領域と被補正領域との境界部において段階的に補正することを特徴とする請求項1記載のカラーフィルタ用フォトマスクの補正方法。
【請求項3】
前記第3のステップでは補正領域と被補正領域との境界部においてランダムに分散配置することを特徴とする請求項1記載のカラーフィルタ用フォトマスクの補正方法。
【請求項4】
前記補正フォトマスクを使用するカラーフィルタのプロセスでは、補正領域が後方となるように基板のプロセス工程の方向を統一することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のカラーフィルタ用フォトマスクの補正方法。
【請求項5】
カラーフィルタ用フォトマスクであって、
プロセス特性に起因する設計値に対する変化量を線幅及び座標で表した変化領域マップに基づいて、前記カラーフィルタ用フォトマスクの初期設計値に対し、前記変化領域マップに基づいて変化量が補正されていることを特徴とする、カラーフィルタ用フォトマスク。
【請求項6】
請求項5記載のカラーフィルタ用フォトマスクを用いて製造されたことを特徴とするカラーフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−181652(P2010−181652A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25332(P2009−25332)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(302003244)株式会社エスケーエレクトロニクス (31)
【Fターム(参考)】