説明

カルベン親和性金属から誘導される有機金属骨格およびその製造方法

本開示は、増大された安定性を含む有機骨格を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条の規定により2010年2月12日出願の米国特許仮出願第61/304,300号および2010年6月19日出願の国際出願PCT/US10/39284号(それらの開示内容は参照により本明細書に組み入れられるものとする)に基づく優先権を主張する。
【0002】
連邦政府委託研究に関する記述
本発明は、米国陸軍の陸軍研究局により与えられた助成金番号W911NF-06-1-0405のもとで政府の支援を受けて行われた。政府は、本発明に関する一定の権利を有する。
【0003】
技術分野
本開示は、ガスの分離、貯蔵のためのおよび化学的安定性を有するセンサーとしての使用のための有機金属骨格を提供する。
【背景技術】
【0004】
ガスの分離、貯蔵、および精製のための骨格は重要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、およびマグネシウムのイオン(ただし、これらに限定されるものではない)をはじめとする指定の元素を含む化学的に安定な開骨格を提供する。本開示は、単座および/または多座の有機または無機のコアにより架橋された有機リンクから構築されるすべての開骨格材料を包含する。すべてのクラスの開骨格材料、すなわち、共有結合性有機骨格(COF)、ゼオライト型イミダゾレート骨格(ZIF)、金属有機骨格(MOF)、および網状化学構造資源(http:(//)rcsr.anu.edu.au/)内に記載されるかまたはそれに由来するすべての可能な網トポロジーを含む。本開示は、工業に使用可能な化学的に安定な開骨格を提供する。そのような骨格は、ガスの貯蔵および分離、化学的および生物学的なセンシング、分子再組織化、ならびに触媒作用(ただし、これらに限定されるものではない)をはじめとするさまざまな用途で使用可能である。
【0006】
本開示は、一般構造M-L-M〔式中、Mは骨格金属であり、かつLは、修飾金属に結合されたヘテロ環式カルベンを有するリンク部分である〕を含む有機金属骨格を提供する。他のさらなる実施形態では、リンク部分はN-ヘテロ環式カルベンを含む。一実施形態では、骨格は、共有結合性有機骨格(COF)、ゼオライト型イミジゾール(imidizole)骨格(ZIF)、または金属有機骨格(MOF)を含む。さらなる実施形態では、骨格金属は、Li、Na、Rb、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Ti、Zr、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Ru、Os、Co、Ni、Pd、Pt、Cu、Au、Zn、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、およびBi(ただし、これらに限定されるものではない)を含む群から選択される。さらに他の実施形態では、修飾金属は、Li、Be、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge・Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Sn、Te、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Sm、Eu、およびYbよりなる群から選択される。特定の実施形態では、修飾金属は、骨格の細孔内に延在する。いくつかの実施形態では、骨格はゲスト種を含むが、他の実施形態では、骨格はゲスト種が欠如している。
【0007】
本開示は、ヘテロ環式カルベンを含みかつ保護型リンククラスターを含むリンク部分を修飾金属と反応させてメタル化リンク部分を取得することと、リンククラスターを脱保護することと、次いで、脱保護されたメタル化リンク部分を骨格金属と反応させることと、を含む、以上に記載の有機金属骨格の製造方法を提供する。
【0008】
本開示に係る有機金属骨格は、ガス分離および触媒作用に有用である。したがって、本開示は、本開示に係る有機金属骨格を含むガス収着材料およびガス収着デバイスならびに触媒組成物および触媒デバイスを提供する。
【0009】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細を添付の図面および以下の説明で明らかにする。本発明の他の特徴、目的、および利点は、発明の詳細な説明および図面からならびに特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A−B】IRMOF-76および-77の構造を示している。(a) IRMOF-76(Zn4O(C23H15N2O4)3(X)3(X = BF4、PF6、OH))の単結晶構造。(b) ただ1つのpcu網を有することが示されたIRMOF-77(Zn4O(C28H21I2N3O4Pd)3)の単結晶構造。原子の色:四面体:Zn、I、Pd、O、球:N。球は、IRMOF-76の内側van der Waals表面およびIRMOF-77の単一骨格に接触することなく空隙を占有する最大球を表している(それぞれ約19Åおよび15Å)。すべての水素原子、対アニオン(X)、およびゲスト分子は、明確にするために省略した。(c) IRMOF-77の空間充填図。絡み合った2つのpcu網は、それぞれ青色および金色で示されている。
【図1C】IRMOF-76および-77の構造を示している。(a) IRMOF-76(Zn4O(C23H15N2O4)3(X)3(X = BF4、PF6、OH))の単結晶構造。(b) ただ1つのpcu網を有することが示されたIRMOF-77(Zn4O(C28H21I2N3O4Pd)3)の単結晶構造。原子の色:四面体:Zn、I、Pd、O、球:N。球は、IRMOF-76の内側van der Waals表面およびIRMOF-77の単一骨格に接触することなく空隙を占有する最大球を表している(それぞれ約19Åおよび15Å)。すべての水素原子、対アニオン(X)、およびゲスト分子は、明確にするために省略した。(c) IRMOF-77の空間充填図。絡み合った2つのpcu網は、それぞれ青色および金色で示されている。
【図2】77Kで測定されたIRMOF-77のN2等温線測定結果を示している。
【図3】合成されたままのIRMOF-77(中)、キノリン交換型IRMOF-77(下)のPXRDパターン、および単結晶X線構造からシミュレートされたPXRDパターン(上)を示している。
【図4】IRMOF-76の非対称ユニットのORTEP図である。すべての楕円体は、水素原子を除いて10%の確率水準で表示されている。
【図5】Zn4Oユニットの半分と1個のリンクとを有するIRMOF-77のORTEP図である。すべての楕円体は、水素原子を除いて30%の確率水準で表示されている。
【図6】合成されたままのIRMOF-76(黒色)および単結晶X線構造からシミュレートされたIRMOF-15、16(それぞれ青色および赤色)のPXRDパターンを示している。
【図7】合成されたままのIRMOF-76のTGAトレースである。150℃までの非常に大きい重量損失は、ゲスト溶媒(DMF、H2O)の損失に対応する。300〜400℃での有意な重量損失は、材料の分解を示唆する。
【図8】合成されたままのIRMOF-77のTGAトレースである。150℃までの非常に大きい重量損失は、ゲスト溶媒(DEF、ピリジン、およびH2O)の損失に対応する。おそらく、材料は、250℃までに配位分子(ピリジン)を失い、300〜400℃での有意な重量損失は、材料の分解を示唆する。
【図9】活性IRMOF-77のTGAトレースである。約180℃での重量損失は、配位ピリジンの部分損失に起因する(全損失の8.6%と計算される)。
【図10】有機金属リンカーL1のTGAトレースである。250℃までの重量損失(9.7%)は、ピリジンの損失(9.3%と計算される)による二量体S4の形成に基づく。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いられる場合、単数形の「a」、「and」、および「the」は、文脈上明らかに異なる場合を除いて、複数形の参照語を包含する。したがって、たとえば、「a framework(骨格)」の参照対象は、複数のそのような骨格を包含し、「the metal(金属)」の参照対象は、1つ以上の金属および当業者に公知のその等価体の参照対象を包含し、他の場合も同様である。
【0012】
とくに定義されていないかぎり、本明細書で用いられる科学技術用語はすべて、本開示が属する技術分野の当業者により一般に理解されているものと同一の意味を有する。開示された方法および組成物を実用する際に本明細書中に記載のものと類似のもしくは等価な任意の方法および試薬を使用しうるが、代表的な方法および材料を次に記載する。
【0013】
また、とくに明記されていないかぎり、「or(あるいは、または、もしくは)」の使用は、「and/or(ならびに/あるいは、および/または、および/もしくは、かつ/または)」を意味する。同様に、「comprise(〜を含む)」、「comprises(〜を含む)」、「comprising(〜を含む)」、「include(〜を含む)」、「includes(〜を含む)」、および「including(〜を含む)」は、同義であり、限定を意図するものではない。
【0014】
さらに、当然のことではあるが、種々の実施形態の説明で「comprising(〜を含む)」という用語が用いられる場合、いくつかの特定例では、他の選択肢として「consisting essentially of(〜より本質的になる)」または「consisting of(〜よりなる)」という表現を用いて一実施形態を説明しうることは当業者であればわかるであろう。
【0015】
本明細書中に挙げた出版物はすべて、本明細書中の説明に関連して使用しうる出版物中に記載の方法を説明および開示することを目的として全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする。しかしながら、その場合、組み入れられる出版物または参考文献と本出願に明示または定義されるものとの両方に見いだされる任意の類似または同一の用語に関しては、本出願に明示されるそれらの用語の定義または意味があらゆる点で優先するものとする。以上でおよび本文全体を通じて述べた出版物は、本出願の出願日前に開示されたものとして提供されているにすぎない。本明細書中の記載内容は、先行開示が理由でそのような開示に先行する権利が本発明者らに与えられないことを容認するとみなされるべきものではない。
【0016】
金属有機骨格(MOF)は、当技術分野で合成されてきたが、これらの先行MOFは、化学的安定性が欠如しているかまたは低い多孔度および限られたケージ/チャネルの問題を抱えているので、産業上でのそれらの使用は制限される。
【0017】
金属錯体の機能性の精密制御は、分子配位化学で一般に達成される。拡張型結晶構造内で類似の化学を開発するには、化学反応に付された時に秩序および結合性が失われる傾向があるので、依然として課題が残っている。金属有機骨格(MOF)は、高秩序性がありかつ有機リンクの修飾を可能にする可撓性があるので、拡張型構造で配位化学を実施するのに理想的な候補である。このことは、拡張型多孔性構造の機能性および距離をその基本トポロジーを変化させることなく変更しうる等網方式をうまく適用することにより例示される。
【0018】
本開示は、有機金属骨格と、一連の化学反応を用いてMOF、ZIF、またはCOFを含む安定な有機金属骨格を形成する方法と、を提供する。本開示に係る骨格の利点の1つは、多孔度、機能性、およびチャネル環境を目標の機能および用途に合わせて容易に調整し適合化しうるように所望の金属中心および有機リンクを容易に組み込みうることである。
【0019】
本開示は、有機金属骨格の形成方法を提供する。この実施形態では、MOFの細孔内で共有結合された有機金属錯体が形成される。この方法では、リンク配位子上の反応性カルベンをメタル化し、続いて、リンククラスターを脱保護してメタル化リンク配位子を金属と反応させる。たとえば、カルベン(NHC) 5 前駆体をメタル化し(L1、スキーム1)、次いで、所望のメタル化MOF構造(たとえば、IRMOF-77、スキーム1)の形態に構築する。このメタル化MOFをさらに修飾して骨格の細孔の機能性(サイズ、電荷など)を増大させることが可能であることもまた、本開示により実証される。
【0020】
スキーム1:新しいジカルボン酸リンク(L0、L1)の収束的合成およびIRMOF-76、77の調製:
【化1】

【0021】
一実施形態では、本開示に係る方法は、有機金属MOFを製造するためにスキーム2に示されるプロセスを利用する。
【化2】

【0022】
「クラスター」という用語は、2個以上の原子の識別可能な会合体を意味する。そのような会合体は、典型的には、なんらかの結合(イオン結合、共有結合、Van der Waal結合など)により確立される。
【0023】
「リンククラスター」とは、リンク部分の部分構造と金属基との結合またはリンク部分と他のリンク部分との結合を形成可能な原子を含む縮合可能な1種以上の反応性種を意味する。そのような反応性種の例は、ホウ素原子、硫黄原子、酸素原子、炭素原子、窒素原子、およびリン原子を含むが、これらに限定されるものではない。たとえば、リンククラスターは、CO2H、CS2H、NO2、SO3H、Si(OH)3、Ge(OH)3、Sn(OH)3、Si(SH)4、Ge(SH)4、Sn(SH)4、PO3H、AsO3H、AsO4H、P(SH)3、As(SH)3、CH(RSH)2、C(RSH)3、CH(RNH2)2、C(RNH2)3、CH(ROH)2、C(ROH)3、CH(RCN)2、C(RCN)3、CH(SH)2、C(SH)3、CH(NH2)2、C(NH2)3、CH(OH)2、C(OH)3、CH(CN)2、およびC(CN)3〔式中、Rは、1〜5個の炭素原子を有するアルキル基または1〜2個のフェニル環を含むアリール基である〕、ならびにCH(SH)2、C(SH)3、CH(NH2)2、C(NH2)3、CH(OH)2、C(OH)3、CH(CN)2、およびC(CN)3を含みうる。典型的には、MOF用の配位子は、カルボン酸官能基を含有する。本開示は、すべて炭素よりなるかまたは炭素と、環を構成する窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ホウ素原子、リン原子、ケイ素原子、および/またはアルミニウム原子と、の混合物よりなる1〜5個の環を含むシクロアルキル部分構造またはアリール部分構造を包含する。
【0024】
「リンク部分」とは、結合クラスターを介して1個の金属または複数の金属にそれぞれ結合する単座または多座の化合物を意味する。一般的には、リンク部分は、1〜20個の炭素原子を含むアルキル基もしくはシクロアルキル基、1〜5個のフェニル環を含むアリール基、あるいは1〜20個の炭素原子を有するアルキル基もしくはシクロアルキル基または1〜5個のフェニル環を含むアリール基を含むアルキルアミンまたはアリールアミン、を含む部分構造を含み、かつこの部分構造にリンククラスター(たとえば多座官能基)が共有結合される。この部分構造は、カルベン親和性金属(carbeneophilic metal)で官能基化可能なヘテロ環式カルベン(hetrocyclic carbene)を含む。シクロアルキル部分構造またはアリール部分構造は、すべて炭素を含むかまたは炭素と、環を構成する窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ホウ素原子、リン原子、ケイ素原子、および/またはアルミニウム原子と、の混合物を含む1〜5個の環を含みうる。典型的には、リンク部分は、共有結合された1個以上のカルボン酸リンククラスターを有する部分構造を含むであろう。
【0025】
本明細書で用いられる場合、一端に原子を有しかつ他端には有していない化学式中の線は、式が、結合された原子を有していない端で他の要素に結合される化学フラグメントを表すことを意味する。強調するために、この線に波線が交差することもある。
【0026】
「カルベン親和性」とは、長寿命カルベンに結合することが確認されている金属を意味する。さらに、本出願の本明細書で用いられる場合、「カルベン親和性」および「修飾金属」は、等価であり、同義的に用いられる。
【0027】
ヘテロ環式カルベンを用いて官能基化可能な任意の数のリンク部分を使用することが可能である。たとえば、本開示に係る方法および組成物に有用なリンク部分は、以下の一般式IまたはIIを含むであろう。
【化3】

【0028】
〔式中、Y1およびY2は、独立して、窒素、硫黄、酸素、リン、またはケイ素であり、Mは、骨格金属であり、Mcは、修飾金属であり、R1およびR4は、リンククラスター、またはアルキル、アリール、アルコキシ、アルケン、アルキン、フェニル、および以上の置換体、硫黄含有基(たとえば、スルフィドおよびチオアルコキシ)、ケイ素含有基、窒素含有基(たとえば、アミド、シアノ、ニトロ、アジド、およびアミノ)、酸素含有基(たとえば、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、カルボン酸、およびアシルハリド)、ホウ素含有基、リン含有基、スズ含有基、ヒ素含有基、ゲルマニウム含有基、もしくはハロゲンに結合されたMと縮合を起こしうるリンククラスターであり、R5およびR6は、それぞれ独立して、1〜6個の炭素を含有するアルキルおよびHよりなる群から選択され、R2およびR3は、H、アルキル、アリール、アルコキシ、アルケン、アルキン、フェニル、および以上の置換体、硫黄含有基(たとえば、チオアルコキシ)、ケイ素含有基、窒素含有基(たとえば、アミド、アミノ、ニトロ、アジド、およびシアノ)、酸素含有基(たとえば、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、カルボン酸、およびアシルハリド)、ハロゲン、ホウ素含有基、リン含有基、カルボン酸、NH2、CN、OH、=O、=S、Cl、I、F、
【化4】

【0029】
{ここで、X = 1、2、または3}
よりなる群から選択される〕
【化5】

【0030】
〔式中、Y1およびY2は、独立して、窒素、硫黄、酸素、リン、またはケイ素であり、Xは、CO2H(ただし、これに限定されるものではない)をはじめとするリンククラスターであり、R1〜R12は、それぞれ独立して、H、アルキル、アリール、OH、アルコキシ、アルケン、アルキン、フェニル、および以上の置換体、硫黄含有基(たとえば、チオアルコキシ)、ケイ素含有基、窒素含有基(たとえば、アミド、アミノ、ニトロ、アジド、およびシアノ)、酸素含有基(たとえば、ケトン、アルデヒド、エーテル、エステル、カルボン酸、およびアシルハリド)、ハロゲン、ホウ素含有基、リン含有基、スズ含有基、ヒ素含有基、ゲルマニウム含有基、カルボン酸、NH2、CN、OH、=O、=S、Cl、I、F、
【化6】

【0031】
{ここで、X = 1、2、または3}
であり、かつMcは、機能化部分をさらに含んでいてもよい修飾金属を表す〕
さらに他の実施形態では、MOFは、一般構造M-L-M〔式中、Mは、遷移金属を含み、かつLは、一般構造:
【化7】

【0032】
を有するリンク部分を含む〕を含む。
【0033】
本開示は、ヘテロ環式カルベン(HC)前駆体化合物またはあらかじめ形成された遷移金属HC錯体から誘導される金属有機骨格(MOF)を提供する。一実施形態では、HC前駆体は、一般構造:
【化8】

【0034】
を含む。
【0035】
他の実施形態では、MOFは、一般構造M-L-M〔式中、Mは遷移金属であり、かつLは、一般式:
【化9】

【0036】
で示されるHC前駆体を有するリンク部分である〕を含む。
【0037】
適切な反応性官能基を有する以上に挙げた有機リンクはすべて、細孔をさらに機能化するのに好適な反応的ポスト骨格合成により化学変換可能である。骨格内の有機リンクをポスト合成で修飾することにより、以前には利用不可能であったかまたは利用可能であったとしても大きな困難および/またはコストを伴った官能基の利用が可能かつ容易である。ポスト骨格反応剤は、すべて公知の有機変換体およびそれらの各反応剤、N、S、Oなどの原子を含む官能基を有する1〜20個の炭素の環を含む。
【0038】
ポスト骨格反応剤の例としては、ヘテロ環式化合物が挙げられるが、これに限定されるものではない。一実施形態では、ポスト骨格反応剤は、飽和または不飽和のヘテロ環でありうる。単独でまたは接尾辞もしくは接頭辞として用いられる「ヘテロ環」という用語は、1個以上の多価ヘテロ原子を環構造の一部として有ししかも環(複数可)中に少なくとも3個かつ約20個までの原子を含む環含有構造または環含有分子を意味する。
【0039】
ヘテロ環は、飽和であってもよいし1個以上の二重結合を含有して不飽和であってもよく、かつヘテロ環は、1個超の環を含有していてもよい。ヘテロ環が1個超の環を含有する場合、環は、縮合型または非縮合型でありうる。縮合環とは、一般的には、2個の原子を環間で共有する少なくとも2個の環を意味する。ヘテロ環は、芳香族特性を有していてもよいし芳香族特性を有していなくてもよい。単独でまたは接尾辞もしくは接頭辞として用いられる「ヘテロ環式基」、「ヘテロ環式部分」、「ヘテロ環式」、または「ヘテロシクロ」という用語は、ヘテロ環から1個以上の水素を除去することによりヘテロ環から誘導される基を意味する。単独でまたは接尾辞もしくは接頭辞として用いられる「ヘテロシクリル」という用語は、ヘテロ環から1個の水素を除去することによりヘテロ環から誘導される一価基を意味する。単独でまたは接尾辞もしくは接頭辞として用いられる「ヘテロアリール」という用語は、芳香族特性を有するヘテロシクリルを意味する。ヘテロ環としては、たとえば、アジリジン、オキシラン、チイラン、アゼチジン、オキセタン、チエタン、ピロリジン、ピロリン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、ピラゾリン、ジオキソラン、スルホラン、2,3-ジヒドロフラン、2,5-ジヒドロフラン、テトラヒドロフラン、チオファン、ピペリジン、1,2,3,6-テトラヒドロ-ピリジン、ピペラジン、モルホリン、チオモルホリン、ピラン、チオピラン、2,3-ジヒドロピラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジヒドロピリジン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、ジオキサン、ホモピペリジン、2,3,4,7-テトラヒドロ-1H-アゼピン、ホモピペラジン、1,3-ジオキセパン、4,7-ジヒドロ-1,3-ジオキセピン、ヘキサメチレンオキシドなどの単環式ヘテロ環が挙げられる。それに加えて、ヘテロ環としては、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、チオフェン、フラン、フラザン、ピロール、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、ピラゾール、イソチアゾール、イソオキサゾール、1,2,3-トリアゾール、テトラゾール、1,2,3-チアジアゾール、1,2,3-オキサジアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,4-チアジアゾール、1,2,4-オキサジアゾール、1,3,4-トリアゾール、1,3,4-チアジアゾール、1,3,4-オキサジアゾールなどの芳香族ヘテロ環(ヘテロアリール基)が挙げられる。
【0040】
そのほかに、ヘテロ環は、インドール、インドリン、イソインドリン、キノリン、テトラヒドロキノリン、イソキノリン、テトラヒドロイソキノリン、1,4-ベンゾジオキサン、クマリン、ジヒドロクマリン、ベンゾフラン、2,3-ジヒドロベンゾフラン、イソベンゾフラン、クロメン、クロマン、イソクロマン、キサンテン、フェノキサチイン、チアントレン、インドリジン、イソインドール、インダゾール、プリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、フェナントリジン、ペリミジン、フェナントロリン、フェナジン、フェノチアジン、フェノキサジン、1,2-ベンゾイソオキサゾール、ベンゾチオフェン、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール、チオキサンチン、カルバゾール、カルボリン、アクリジン、ピロリジジン、キノリジジンなどの多環式ヘテロ環を包含する。
【0041】
以上に記載の多環式ヘテロ環に加えて、ヘテロ環としては、2個以上の環間の環縮合が両方の環に共有された1個超の結合と両方の環に共有された2個超の原子とを含む多環式ヘテロ環が挙げられる。そのような架橋ヘテロ環の例としては、キヌクリジン、ジアザビシクロ[2.2.1]ヘプタン、および7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプタンが挙げられる。
【0042】
ヘテロシクリルとしては、たとえば、アジリジニル、オキシラニル、チイラニル、アゼチジニル、オキセタニル、チエタニル、ピロリジニル、ピロリニル、イミダゾリジニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、ジオキソラニル、スルホラニル、2,3-ジヒドロフラニル、2,5-ジヒドロフラニル、テトラヒドロフラニル、チオファニル、ピペリジニル、1,2,3,6-テトラヒドロ-ピリジニル、ピペラジニル、モルホリニル、チオモルホリニル、ピラニル、チオピラニル、2,3-ジヒドロピラニル、テトラヒドロピラニル、1,4-ジヒドロピリジニル、1,4-ジオキサニル、1,3-ジオキサニル、ジオキサニル、ホモピペリジニル、2,3,4,7-テトラヒドロ-1H-アゼピニル、ホモピペラジニル、1,3-ジオキセパニル、4,7-ジヒドロ-1,3-ジオキセピニル、ヘキサメチレンオキシジルなどの単環式ヘテロシクリルが挙げられる。
【0043】
それに加えて、ヘテロシクリルとしては、ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、チエニル、フリル、フラザニル、ピロリル、イミダゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、ピラゾリル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、1,2,3-トリアゾリル、テトラゾリル、1,2,3-チアジアゾリル、1,2,3-オキサジアゾリル、1,2,4-トリアゾリル、1,2,4-チアジアゾリル、1,2,4-オキサジアゾリル、1,3,4-トリアゾリル、1,3,4-チアジアゾリル、1,3,4 オキサジアゾリルなどの芳香族ヘテロシクリルまたはヘテロアリールが挙げられる。
【0044】
そのほかに、ヘテロシクリルは、インドリル、インドリニル、イソインドリニル、キノリニル、テトラヒドロキノリニル、イソキノリニル、テトラヒドロイソキノリニル、1,4-ベンゾジオキサニル、クマリニル、ジヒドロクマリニル、ベンゾフラニル、2,3-ジヒドロベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、クロメニル、クロマニル、イソクロマニル、キサンテニル、フェノキサチイニル、チアントレニル、インドリジニル、イソインドリル、インダゾリル、プリニル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキサリニル、キナゾリニル、シンノリニル、プテリジニル、フェナントリジニル、ペリミジニル、フェナントロリニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキサジニル、1,2-ベンゾイソオキサゾリル、ベンゾチオフェニル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾトリアゾリル、チオキサンチニル、カルバゾリル、カルボリニル、アクリジニル、ピロリジジニル、キノリジジニルなどの多環式ヘテロシクリル(芳香族または非芳香族の両方を含む)を包含する。
【0045】
以上に記載の多環式ヘテロシクリルに加えて、ヘテロシクリルとしては、2個以上の環間の環縮合が両方の環に共有された1個超の結合と両方の環に共有された2個超の原子とを含む多環式ヘテロシクリルが挙げられる。そのような架橋ヘテロ環の例としては、キヌクリジニル、ジアザビシクロ[2.2.1]ヘプチル、および7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプチルが挙げられる。
【0046】
特定の実施形態では、ポスト骨格反応剤は、金属付加用のキレート化基を形成するために使用される。本開示は、官能基またはすでに存在している官能基と新たに付加される官能基との組合せにキレート化してそれを付加しうるすべての金属のキレート化を包含する。不均一系触媒などとして使用するための骨格への有機金属錯体の固定をもたらすすべての反応も包含する。
【0047】
それに加えて、官能基またはすでに存在している官能基と新たに付加される官能基との組合せにキレート化してそれを付加しうる金属および金属含有化合物もまた、有用である。不均一系触媒などとして使用するための骨格への有機金属錯体の固定をもたらす反応を使用することが可能である。
【0048】
本開示に係る骨格の合成で使用可能な金属イオンとしては、Li+、Na+、Rb+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Sc3+、Ti4+、Zr4+、Ta3+、Cr3+、Mo3+、W3+、Mn3+、Fe3+、Fe2+、Ru3+、Ru2+、Os3+、Os2+、Co3+、Co2+、Ni2+、Ni+、Pd2+、Pd+、Pt2+、Pt+、Cu2+、Cu+、Au+、Zn2+、Al3+、Ga3+、In3+、Si4+、Si2+、Ge4+、Ge2+、Sn4+、Sn2+、Bi5+、Bi3+、およびそれらの組合せが挙げられる(対応する金属塩対アニオンを伴う)。
【0049】
金属イオンは、骨格主鎖中の官能基化有機リンカー(たとえば、N-ヘテロ環式カルベン)との錯体化を介してまたは単純なイオン交換により開骨格(MOF、ZIF、およびCOF)中に導入可能である。したがって、周期表の任意の金属イオンを導入することが可能である。
【0050】
本開示に係る骨格の調製は、水性系または非水性系のいずれかで実施可能である。溶媒は、場合に応じて極性または非極性でありうる。溶媒は、鋳型剤、または単座官能基を含有する任意選択の配位子を含みうる。非水性溶媒の例としては、n-アルカン(たとえば、ペンタン、ヘキサンなど)、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、シアノベンゼン、アニリン、ナフタレン、ナフサ、n-アルコール(たとえば、メタノール、エタノール、n-プロパノールなど)、イソプロパノール、アセトン、1,3,-ジクロロエタン、ジクロロメタン、メチレンクロリド、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジエチルホルムアミド、チオフェン、ピリジン、エタノールアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、エチルエーテル、アセトニトリル、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。当業者であれば、出発反応剤に基づいて適切な溶媒を容易に決定できるであろう。また、溶媒の選択は、本開示に係る材料を取得するうえでそれほど重要でないと考えられる。
【0051】
鋳型剤は、本開示に係る方法で使用可能である。本開示で利用される鋳型剤は、得られる結晶基本骨格中の細孔を占有する目的で反応混合物に添加される。本開示のいくつかの変形形態では、空間充填剤、吸着化学種、およびゲスト種は、金属有機骨格の表面積を増大させる。好適な空間充填剤としては、たとえば、(i) 1〜20個の炭素原子を有する直鎖状、分枝状、もしくは環状の脂肪族基を含有するアルキルアミンおよびその対応するアルキルアンモニウム塩、(ii) 1〜5個のフェニル環を有するアリールアミンおよびその対応するアリールアンモニウム塩、(iii) 1〜20個の炭素原子を有する直鎖状、分枝状、もしくは環状の脂肪族基を含有するアルキルホスホニウム塩、(iv) 1〜5個のフェニル環を有するアリールホスホニウム塩、(v) 1〜20個の炭素原子を有する直鎖状、分枝状、もしくは環状の脂肪族基を含有するアルキル有機酸およびその対応する塩、(vi) 1〜5個のフェニル環を有するアリール有機酸およびその対応する塩、(vii) 1〜20個の炭素原子を有する直鎖状、分枝状、もしくは環状の脂肪族基を含有する脂肪族アルコール、または(viii) 1〜5個のフェニル環を有するアリールアルコールを含む群から選択される成分が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
結晶化は、室温でもしくは300℃までの恒温オーブン中で溶液を放置すること、溶液に希塩基を添加して結晶化を開始させること、溶液中に希塩基を拡散させて結晶化を開始させること、および/または溶液を密閉槽に移して所定の温度に加熱することにより実施可能である。
【0053】
また、化学種の収着取込み用デバイスも提供される。このデバイスは、本明細書中に提供されるまたは本開示に係る方法により取得される骨格を含む収着剤を含む。取込みは、可逆的または非可逆的でありうる。いくつかの態様では、収着剤は、離散した収着性粒子中に組み込まれる。収着性粒子は、液体透過性および/または気体透過性の固体三次元担体中に包埋可能であるかまたはそれに固定可能である。いくつかの態様では、収着性粒子は、液体または気体の可逆的な取込みまたは貯蔵のための細孔を有し、その中に、収着性粒子は、液体または気体を可逆的に吸着または吸収することが可能である。
【0054】
いくつかの実施形態では、本明細書中に提供されるデバイスは、アンモニア、二酸化炭素、一酸化炭素、水素、アミン、メタン、酸素、アルゴン、窒素、アルゴン、有機染料、多環式有機分子、それらの組合せなどの化学種を貯蔵するための貯蔵ユニットを含む。
【0055】
また、化学種の収着取込み方法も提供される。この方法は、本明細書中に提供される骨格を含む収着剤に化学種を接触させることを含む。化学種の取込みは、化学種の貯蔵を含みうる。いくつかの態様では、化学種は、エネルギー源として使用するのに好適な条件下で貯蔵される。
【0056】
また、本明細書に記載提供されるデバイスに化学種を接触させることを含む化学種の収着取込み方法も提供される。
【0057】
天然ガスは、重要な燃料ガスであり、石油化学プロセス工業および他の化学プロセス工業で基礎原料として広範囲に使用されている。天然ガスの組成は、産地によって大きく異なる。多くの天然ガス貯蔵槽は、比較的低パーセントの炭化水素(たとえば40%未満)および高パーセントの酸性ガス(主に二酸化炭素、それ以外に硫化水素、硫化カルボニル、二硫化炭素、および種々のメルカプタン)を含有する。パイプラインへの送給、天然ガス液の回収、ヘリウムの回収、液化天然ガス(LNG)への変換、またはそれに続く窒素除去のいずれかに供される調整済みのまたはスイートな乾性天然ガスを提供するために、遠隔地で産出された天然ガスから酸性ガスを除去することが望ましい。CO2は、水の存在下で腐食性であり、かつドライアイス、水和物を形成可能であり、しかもパイプライン中でおよび天然ガスの処理に使用されることの多い極低温装置中で凍結問題を引き起こすおそれがある。また、発熱量に寄与しないので、CO2は、単にガス輸送のコストを増大させるだけである。
【0058】
いずれの天然ガス処理プロセスでもその重要な側面は経済性である。天然ガスは、典型的には大量に処理されるので、処理ユニットの資本コストや運転コストのごくわずかな差がプロセス技術の選択の重要な因子となる。いくつかの天然ガス資源は、プロセスコストが理由で現在では製造上非経済的である。高い信頼性を有しかつ操作の単純性を示す改良された天然ガス処理プロセスが引き続き必要とされている。
【0059】
それに加えて、現在では人為的二酸化炭素の主要な発生源である発電プラントの煙道排気ガスからの二酸化炭素の除去は、排気ガスを冷却および加圧することによりまたは水性アミン溶液の流動床に煙霧を通すことにより一般に達成されるが、両方とも高コストかつ非効率的である。酸化物表面上への二酸化炭素の化学吸着または多孔性ケイ酸塩、炭素、および膜の中での吸着に基づく他の方法は、二酸化炭素取込み手段として探究されてきた。しかしながら、効果的な吸着媒体に二酸化炭素除去の長期利用可能性をもたせるには、2つの特性、すなわち、(i) 二酸化炭素の取込みおよび放出が十分に可逆的である周期構造と、(ii) 最適化取込み容量が得られるように化学的官能化および分子レベルでの微調整を達成可能にする可撓性と、を兼備していなければならない。
【0060】
ガススチームから二酸化炭素を回収または除去するいくつかのプロセスは、商業規模で提案され実施されてきた。プロセスは、千差万別であるが、一般的には、なんらかの形態の溶媒吸収、多孔性吸着剤上への吸着、蒸留、または半透膜を介した拡散を含む。
【0061】
以下の実施例は、本開示を限定するものではなく例示することを意図したものである。それらは使用可能なものの典型であるが、他の選択肢として当業者に公知の他の手順を使用することも可能である。
【実施例】
【0062】
リンカー(L0〜L2)およびIRMOF-76、77の合成および分析データ。化学物質は、とくに断りのないかぎり、供給業者から購入して入手したままの状態で使用した。無水溶媒は、EMD Chemicals DrySolv(登録商標)系列から入手した。蛍光指示薬(Whatman LK6F)を含むシリカゲル60でプレコートされたガラスプレートを用いて薄層クロマトグラフィー(TLC)を行った。UV光(254nm)およびヨウ素/シリカゲルによりプレートを観察した。シリカゲル60F(230〜400メッシュ)を用いてカラムクロマトグラフィーを行った。Bruker ARX400(400MHz)分光計またはBruker AV600(600MHz)分光計を用いて1H、13C、および19Fの溶液NMRスペクトルを記録した。1H NMRおよび13C NMRの内部標準として残留溶媒を使用した。19F NMRの外部標準としてトリフルオロ酢酸(δ= -76.5ppm)を使用した。ppm単位でδスケール上に化学シフトを列挙し、ヘルツ(Hz)単位で結合定数を記録した。多重度を表すために次の略号を使用した。s、一重線;d、二重線;t、三重線;q、四重線;b、広幅ピーク;m、多重線またはオーバーラップピーク。
【0063】
4mm(外径)ジルコニアローターを備えた標準的なBrukerマジック角回転(MAS)プローブを用いてBruker DSX-300分光計により13C CP/MAS固体NMRスペクトルを収集した。MAS併用の交差分極(CP/MAS)を用いて75.47MHz(13C)で取得した。1Hおよび13C 90度パルス幅は両方とも4μsであった。CP接触時間は1.5msであった。データ取得時、ハイパワー二パルス位相変調(TPPM)1Hデカップリングを適用した。デカップリング周波数は72kHzに対応した。MASサンプル回転速度は10kHzであった。1回の走査から次の走査までのシグナル強度の明瞭な低下が観測されないことにより決定されるように、走査間のリサイクル遅延を化合物に応じて10〜30秒間で変化させた。29.46ppmに帰属されるアダマンタンのメチン炭素シグナルを二次基準として用いて校正されるゼロppmとしてのテトラメチルシランを基準にして13C化学シフトを与える。
【0064】
FT-IRスペクトルはShimazu FT-IR分光計を用いて収集した。エレクトロスプレーイオン化質量スペクトル(ESI-MS)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量スペクトル(MALDI-MS)、およびガスクロマトグラフィー併用の化学イオン化質量スペクトル(CI/GC-MS)は、Molecular Instrumentation Center in of the University of California, Los Angelesで取り扱った。
【0065】
元素微量分析はThermo Flash EA1112燃焼CHNS分析計を用いて行った。IRMOF-76および77の誘導結合プラズマ(ICP)分析はIntertek QTIが行った。
【化10】

【0066】
S1: 報告の手順1に従って出発材料(1)を調製した。後処理プロセスにわずかな変更を加えて発表の手順1、2に従って1の還元を行った。2000mLフラスコに、1(20.5g、70mmol)、CoCl2(91mg、0.7mmol)、THF(200mL)、およびEtOH(450mL)を添加した。混合物を加熱して還流させた。NaBH4(1回あたり2.65g、70mmol)を1時間おきに3回(全量8.0g)添加した。TLC分析により1の消費を確認した後、混合物を室温に冷却した。水(300mL)を添加して激しく10分間攪拌した後、Celiteを用いてガム状沈殿物を濾別した。有機溶媒を蒸発させ、生成物をジクロロメタンで3回抽出した。合わせた有機層を水および飽和食塩水で洗浄し、Na2SO4で脱水した。抽出液を濾別し、エバポレートし、ショートパッドシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/アセトン=5/1)を用いて粗混合物を精製した。合わせた溶液をエバポレートして橙色固体としてジアミンを得た。
【0067】
得られたジアミンをただちに次の工程に使用した。MeOH(350mL)に溶解されたジアミンにHC(OEt)3(13.9mL、84mmol)およびスルファミン酸(340mg、3.5mmol)を添加した。混合物を一晩攪拌し、粉末沈殿物を生成した。溶媒を蒸発させ、残渣をエーテルで濯いだ。空気下で乾燥させることにより黄色粉末としてS1を得た(2工程で10.1g、収率52%)。
【0068】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ = 7.35 (s, 2H), 8.36 (s, 1 H), 13.2 (brs, 1H); 13C NMR (100 MHz, DMSO-d6): δ = 113.75, 126.21, 132.75, 144.05; IR (KBr, cm-1) ν = 630, 792, 912, 956, 1163, 1217, 1259, 1284, 1340, 1381, 1433, 1489, 1616, 2823, 3062; CI/GC-MS [M]+ C7H4Br2N2+ m/z = 276; 元素分析: C7H4Br2N2 計算値 C, 30.47; H, 1.46; N, 10.15%, 観測値: C, 30.21; H, 1.64; N, 10.94%。
【化11】

【0069】
2: 1000mLフラスコに、S1(19.7g、71.4mmol)、K2CO3(29.6g、214mmol)、およびEtOH(500mL)を添加した。混合物を還流状態で加熱した。熱混合物にMeI(8.8mL、142.8mmol)を滴下し、混合物を還流状態に1時間保持した。TLC分析によりS2の消費を確認した後、混合物を室温に冷却した。水(200mL)を添加してEtOHを蒸発させた後、粉末状沈殿物を捕集し、水およびヘキサン/Et2O(1/1)で洗浄し、乾燥させて褐色粉末として2を得た(21.0g、収率100%)。
【0070】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ = 4.05 (s, 3H), 7.34 (s, 2H), 8.32 (s, 1H); 13C NMR (100 MHz, DMSO-d6): δ = 34.51, 102.75, 112.82, 126.14, 128.05, 132.44, 143.80, 147.96; IR (KBr, cm-1) ν = 524, 623, 719, 781, 918, 1058, 1105, 1186, 1219, 1273, 1301, 1332, 1390, 1465, 1500, 1604, 1816, 2940, 3086; CI/GC-MS [M]+ C8H6Br2N2+ m/z = 290; 元素分析: C8H6Br2N2 計算値 C, 33.14; H, 2.09; N, 9.66%, 観測値 C, 31.92; H, 2.13; N, 9.50%。
【化12】

【0071】
S2: 1000mLフラスコに、4-メトキシフェニルボロン酸(20.5g、113mmol)、ピナコール(14.0g、118mmol)、およびTHF(500mL)を添加した。混合物を加熱して還流し、2時間撹拌し、次に室温に冷却した。溶液をショートパッド塩基性酸化アルミニウムで濾過し、溶媒を蒸発させて白色粉末としてS2を得た(26.0g、収率85%)。
【0072】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 1.34 (s, 12H), 3.83 (s, 3H), 7.86 (d, J = 6.7 Hz, 2H), 8.01 (d, J = 6.7 Hz, 2H). 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ = 24.88, 52.13, 84.16, 128.59, 132.32, 134.66, 167.12; IR (KBr, cm-1) ν = 486, 520, 576, 651, 709, 771, 806, 856, 1018, 1109, 1140, 1278, 1373, 1508, 1562, 1614, 1724 (s), 1950, 2985(s); CI/GC-MS [M]+ C14H19BO4+ m/z = 262; 元素分析: C14H19BO4 計算値 C, 64.15; H, 7.31%, 観測値 C, 64.81; H, 7.30%。
【化13】

【0073】
3: 発表の手順3に従ってエステル交換を行った。500mLの無水ジエチルエーテル中のS2(13.2g、50mmol)の撹拌溶液に、窒素雰囲気下で30分間かけてt-BuOK(28.0g、250mmol)を少しずつ添加した。撹拌を2時間継続した。懸濁液を水(1000mL)中に注いだ。有機層を分離した後、化合物を酢酸エチルで3回抽出した。合わせた有機層をNa2SO4で脱水し、濾別し、エバポレートして白色粉末として3を得た(12.2g、収率80%)。さらなる精製を行うことなく3をその次の工程に使用した。
【0074】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 1.35 (s, 12H), 1.63 (s, 9H), 7.85 (d, J = 6.7 Hz, 2H), 7.96 (d, J = 6.7 Hz, 2H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ = 24.87, 28.19, 81.08, 84.09, 128.42, 134.25, 134.52, 165.80; IR (KBr, cm-1) ν = 522, 578, 651, 709, 777, 815, 854, 960, 1016, 1116, 1141, 1170, 1296, 1359, 1508, 1560, 1612, 1705 (s), 1957, 1981 (s); CI/GC-MS [M-CH2=C(CH3)2)]+ C13H18BO4+ m/z = 249. 元素分析: C17H25BO4 計算値 C, 67.12; H, 8.28%, 観測値 C, 67.60; H, 8.23%。
【化14】

【0075】
4: 50mLの1,4-ジオキサンおよび12mLの水中の2(1.93g、6.67mmol)、3(4.67g、15.35mmol)、Pd(PPh3)4(385mg、0.33mmol)、およびK2CO3(2.76g、20mmol)の撹拌溶液を窒素雰囲気下で100℃に加熱した。撹拌を一晩継続し、次に混合物を室温に冷却した。水を添加し、有機化合物を酢酸エチルで3回抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、Na2SO4で脱水した。抽出液をショートパッド塩基性酸化アルミニウムに通して濾過し、エバポレートした。得られた残渣をヘキサン/Et2O(2/1)で濯いで褐色粉末として4を得た(2.0g、収率62%)。
【0076】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 1.62 (s, 9H), 1.64 (s, 9H), 3.42 (s, 3H), 7.23 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 7.49 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 7.52 (d, J = 8.1 Hz, 2H), 7.87 (s, 1H), 8.05-8.16 (m, 6H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ = 28.26, 34.50, 80.79, 81.38, 121.52, 125.04, 125.99, 129.10, 129.59, 129.80, 130.79, 131.51, 131.68, 132.38, 142.32, 142.40, 145.54, 165.45, 165.87; IR (KBr, cm-1) ν = 509, 592, 630, 661, 704, 731, 769, 825, 848, 867, 1018, 1118, 1168, 1294, 1369, 1471, 1500, 1608, 1708 (s), 2978 (s); CI/GC-MS [M-CH2=C(CH3)2]+ C26H25N2O4+ m/z = 429.; 元素分析: C30H32N2O4 計算値 C, 74.36; H, 6.66; N, 5.78%, 観測値: C, 73.05; H, 6.50; N, 6.06%。
【化15】

【0077】
5: 12mLのアセトニトリル中の4(570mg、1.17mmol)およびMeI(0.73mL、11.7mmol)の溶液を加熱して還流し、一晩攪拌した。混合物を室温に冷却した後、揮発性物質を蒸発させた。得られた残渣をヘキサン/酢酸エチル(2/1)で濯ぎ、褐色粉末として5を得た(689mg、収率94%)。
【0078】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 1.61 (s, 18H), 3.87 (s, 6H), 7.41 (s, 2H), 7.53 (d, J = 6.6 Hz, 4H), 8.10 (d, J = 6.6 Hz, 4H), 10.64 (s, 1H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ = 28.17, 37.56, 81.79, 128.44, 128.88, 129.59, 129.77, 129.88, 132.87, 139.20. 145.38, 164.91; IR (KBr, cm-1) ν = 621, 709, 773, 846, 1012, 1118, 1165, 1296, 1369, 1456, 1608, 1710 (s), 2976, 3435 (br); ESI-TOF-MS [M-I]+ C31H35N2O4+ m/z = 499. 元素分析: C31H35IN2O4 計算値 C, 59.43; H, 5.63; N, 4.47%, 観測値: C, 56.83; H, 5.70; N, 4.72%。
【化16】

【0079】
L0: ジクロロメタン(35mL)中の5(2.1g、3.35mmol)の溶液にHBF4・OEt2(2.26mL、16.5mmol)を添加した。混合物を室温で2時間攪拌した。ジエチルエーテルで希釈した後、沈殿物を濾過し、ジクロロメタンおよびジエチルエーテルで十分に洗浄した。トルエンを粉末に添加し、エバポレートした。これを2回繰り返して残留水を共沸混合物として除去する。50℃減圧下で乾燥後、灰色粉末としてL0を得た(1.7g、収率100%)。
【0080】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ = 3.50 (s, 6 H), 7.54 (s, 2H), 7.72 (d, J = 9.2Hz, 4H), 8.03 (d, J = 9.2 Hz, 4H), 9.63 (s, 1H), 13.2 (brs, 2H); 13C NMR (100 MHz, DMSO-d6): δ = 37.94, 128.58, 128.72, 129.72, 130.07, 130.70, 131.10, 140.12, 145.82, 163.18; 19F NMR (376.5 MHz, DMSO-d6): δ = -148.9 (s, BF4-); MALDI- MS: [M-BF4]+ C23H19N2O4+ m/z = 387。
【化17】

【0081】
S3: 30mLのピリジン中の5(1.87g、3mmol)、Pd(CH3CN)2Cl2(900mg、3.3mmol)、NaI(750mg、6mmol)、およびK2CO3(2.07g、15mmol)の溶液を加熱して還流し、一晩攪拌した。混合物を室温に冷却した後、すべての揮発性物質を蒸発させた。得られた残渣をクロロホルム(200mL)および水(100mL)に溶解させた。分離された有機層を5% CuSO4 aq.(30mL、2回)および飽和食塩水(30mL)で洗浄し、次にNa2SO4で脱水した。抽出液をショートパッドシリカゲルで濾過し、ヘキサン/アセトン(2/1)で十分に洗浄した。合わせた有機溶液をエバポレートして橙色粉末としてS3を得た(2.5g、収率88%)。
【0082】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 1.64 (s, 18 H), 3.79 (s, 6 H), 7.09 (s, 2H), 7.25-7.34 (m, 2H), 7.51 (d, J = 8.2 Hz, 4H), 7.70-7.77 (m, 1H), 8.11 (d, J = 8.2 Hz, 4H), 8.97-9.01 (m, 2H) 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ = 28.24, 40.04, 81.53, 124.60, 125.01, 125.80, 129.27, 129.93, 132.06, 132.87, 141.45, 153.85 (NHC 炭素), 165.29; IR (KBr, cm-1) ν = 675, 692, 769, 848, 1012, 1116, 1165, 1294, 1388, 1446, 1604, 1710 (s), 2974, 3445; 元素分析: C36H39I2N3O4Pd 計算値 C, 46.10; H, 4.19; N, 4.48%, 観測値: C, 43.64; H, 4.02; N, 4.79%。
【化18】

【0083】
L1: ジクロロメタン(15mL)中のS3(2.5g、2.64mmol)の溶液にMe3SiOTf(1.67mL、9.24mmol)を添加した。混合物を室温で2時間攪拌した。水を添加した後、褐色沈殿物を濾過し、水およびジクロロメタンで十分に洗浄した。CHCl3/MeOH(1/1、25mL)中の褐色粉末(S4)にピリジン(1mL、13.2mmol)を添加した。混合物を室温で30分間攪拌した。揮発性物質を蒸発させ、残渣をジクロロメタン中に懸濁させた。懸濁液に5% CuSO4 aq.を添加した。混合物を10分間攪拌し、橙色粉末を濾過し、水で洗浄した。トルエンを橙色粉末に添加してエバポレートした。これを2回繰り返して残留水を共沸混合物として除去する。減圧下で乾燥後、橙色粉末としてL1を得た(1.62g、収率74%)。
【0084】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): = 3.68 (s, 6 H), 7.21 (s, 2 H), 7.48-7.52 (m, 2H), 7.63 (d, J = 7.6 Hz, 4H), 7.87-7.93 (m, 1H), 8.03 (d, J = 7.6 Hz, 4H), 8.83-8.86 (m, 2H), 13.1 (brs, 2H) ; 13C NMR (150 MHz, 80℃, DMSO-d6): δ = 125.54, 125.72, 126.05, 130.00, 130.61, 132.67, 138.50, 141.55, 153.13 (NHC 炭素), 166.57, 窒素上に置換されたメチル炭素のピーク(約40ppm)はDMSOの残留ピークと重なった; 13C CP/MAS固体NMR (75 M Hz): δ = 42.15, 125.00, 129.27, 142.18, 153.28 (NHC 炭素), 172.74; IR (KBr, cm-1) ν = 549, 594, 673, 692, 769, 825, 862, 920, 1012, 1078, 1109, 1176, 1290, 1386, 1444, 1606, 1685(s), 2546, 2663, 3448; ESI-TOF-MS (アニオンモード) [M-ピリジン-H]- C23H17I2N2O4Pd- m/z = 744 また同位体パターンはシミュレートされたものによく一致した; 元素分析: C28H23I2N3O4Pd 計算値 C, 40.73; H, 2.81; N, 5.09%, 観測値: C, 40.22; H, 2.91; N, 5.20%。
【化19】

【0085】
L2: 5mLのクロロホルム中のL1(約80mg)の懸濁液にキノリン(0.2mL)を添加した。混合物を室温で1時間攪拌した。揮発性物質を蒸発させ、残渣をクロロホルム中に懸濁させ、濾別して橙色粉末としてL2を捕集し、これを分解試験用の基準化合物として使用した。
【化20】

【0086】
IRMOF-76: L0(47mg、0.1mmol)、Zn(BF4)2水和物(72mg、0.3mmol)、KPF6(186mg、1mmol)の固体混合物を蓋付きバイアル内でN,N-ジメチルホルムアミド(DMF、15mL)に溶解させた。反応系を100℃に24〜48時間加熱してバイアル壁上に塊状結晶を生成させた。次に、バイアルをオーブンから取り出して室温に自然冷却させた。蓋を開けて混合物から母液を除去した後、無色結晶を捕集し、DMF(3×4mL)で濯いだ。この材料の粉末および単結晶のX線回折をただちに測定した。クロロホルムと溶媒交換した後に減圧下で乾燥させたサンプルをCP/MAS NMRおよびIRの測定に使用した。
【0087】
IRMOF-76の分析データ: DCl/DMSO-d6(1/20)中で分解させたIRMOF-76の19F NMR。BF4-(-149.2 ppm, s)およびPF6-(-71.1 ppm, d, JPF = 707 Hz)の存在が確認された。
【0088】
IR (KBr, cm-1) ν = 557, 715, 783, 843, 1012, 1406, 1544, 1608 (s), 3421
13C CP/MAS固体NMR (75 MHz) 36.10 (メチル), 129.06*, 138.69*, 143.60 (ベンゾイミダゾールのC2), 174.11 (CO2Zn)。* 芳香族領域の広幅重なりピーク。
【0089】
ICP分析。測定元素比:C69H54.5B0.53P1.89F10.9N6.1Zn4.3。推定式:Zn4O(C23H17N2O5)3(BF4)0.5(PF6)1.6(OH)0.9 = C69H51.9B0.5P1.6F11.6N6O17.9Zn4
カリウム(K)もヨウ素(I)も、痕跡量を超えて検出されることはなかった。
【0090】
IRMOF-76からのNHCのポスト合成的形成を以下のように調べたが、うまく行かなかった。
【0091】
・ Bronsted塩基(カリウム/ナトリウム/リチウムのtert-ブトキシド、DBU、Et3N)による処理
・ Ag2OまたはAg2CO3による処理
・ 熱α脱離用のCN/CCl3/アルコキシド付加物の生成
【化21】

【0092】
IRMOF-77: L1(16.6mg、0.02mmol)とZn(NO3)2・6H2O(18mg、0.06mmol)との固体混合物を蓋付きバイアル内でN,N-ジエチルホルムアミド(DEF、1.5mL)およびピリジン(0.02mL)に溶解させた。反応系を100℃に24〜36時間加熱してバイアル底面上に塊状結晶を生成させた。次に、バイアルをオーブンから取り出して室温に自然冷却させた。蓋を開けて混合物から母液を除去した後、薄橙色結晶を捕集し、DEF(3×4mL)で濯いだ。この材料の粉末および単結晶のX線回折をただちに測定した。
【0093】
いずれの不純物も結晶密度の差を利用して分離した。母液をデカントした後、DMFおよびCHBr3(1:2の比)を結晶に添加した。浮遊する橙色結晶を捕集して使用した。
【0094】
IRMOF-77の活性化: Tousimis Samdri PVT-3D臨界点乾燥機を用いてIRMOF-77を活性化した。乾燥前、溶媒和したMOFサンプルを無水アセトン中に浸漬し、浸漬溶液を3日間交換し、その間、3回にわたり活性化溶媒をデカントして新たに補充した。アセトン交換されたサンプルをチャンバー内に入れ、2.5時間かけてアセトンを液体CO2と完全に交換した。この間、30分ごとに液体CO2を新しくした。最終の交換の後、チャンバーを約40℃に加熱した。これによりチャンバーの圧力は約1300psi(CO2の臨界点超)になった。チャンバーを超臨界条件下に2.5時間保持してから1〜2時間かけてCO2をチャンバーから徐々にベントした。乾燥サンプルを石英製吸着管に入れて多孔度を試験した。固体CP/MAS NMR、IR、および元素分析をも記録した。
【0095】
IRMOF-77の分析データ:
元素分析
Zn4O(C28H21I2N3O4Pd)3(H2O)4
計算値: C, 35.77; H, 2.54; I, 26.99; N, 4.47; Pd, 11.32; Zn, 9.28
観測値: C, 35.04; H, 2.62; I, 26.92; N, 4.71; Pd, 9.67; Zn, 9.32
IR (KBr, cm-1)
ν = 597, 673, 694, 719, 756, 783, 846, 1012, 1070, 1176, 12215, 1386 (s), 1446, 1541, 1604 (s), 3396
13C CP/MAS固体NMR (75 MHz)
IRMOF-77: 40.36(メチル), 125.97*, 130.47*, 140.86 (ピリジン), 154.10 (NHC 炭素), 175.37 (CO2Zn)
リンクL1: 42.15(メチル), 125.03*, 129.31*, 142.20 (ピリジン), 153.29 (NHC 炭素), 173.00 (CO2H)
* 芳香族領域の広幅重なりピーク。
【0096】
IRMOF-77のポスト合成的配位子交換: IRMOF-77の結晶を20mLバイアル(蓋付き)内で4% v/vキノリン/DMF溶液中に浸漬して1日間放置した。キノリン溶液をデカントし、結晶をDMF(3×4L)で濯ぎ、その後ただちにPXRDパターンを測定した。クロロホルムと1日間交換した後、溶媒を室温で一晩減圧除去した。乾燥化合物を用いて固体CP/MAS NMRスペクトルを記録した。
【0097】
キノリン交換型IRMOF-77の13C CP/MAS固体NMR(75MHz):
MOF: 39.63 (メチル), 128.81*, 140.19*, 146.19 (キノリン), 152.86 (NHC 炭素), 174.38 (CO2Zn)
リンクL2: 40.14および43.43 (非等価メチル), 128.16*, 143.14*, 146.32 (キノリン), 153.59 (NHC 炭素), 173.42 (CO2H)
* 芳香族領域の広幅重なりピーク。
【0098】
IRMOF-76およびIRMOF-77の単結晶X線回折データ収集、構造解析、および精密化手順。各試料の初期走査を行って予備単位胞パラメーターを取得し、結晶のモザイク性(フレーム間のスポット幅)を評価してデータ収集に必要なフレーム幅を選択した。いずれの場合も、0.5°のフレーム幅が適切であると判断された。また、2つの異なる検出器(2θ)設定値(2θ=28°、60°)でφ走査とω走査とをオーバーラップして行うBruker APEX24ソフトウェア一式を用いて全半球のデータを収集した。データ収集後、Ewald球のすべての領域から反射をサンプリングしてデータ統合に対して単位胞パラメーターを再決定しかつCELL_NOWを用いて回転双晶形成の検査を行った。収集したフレームを徹底的に精査した後、データセットの分解能を判定した。ナローフレームアルゴリズムおよび平均強度分割下限0.400を用いてBruker APEX2 V 2.1ソフトウェアによりデータを統合した。続いて、プログラムSADABSにより吸収データを補正した。空間群の決定および欠面双晶形成の検査をXPREPにより行った。
【0099】
すべての構造を直接法により解析し、SHELXTL 97ソフトウェア一式を用いて精密化した。前の段階のモデルの最小二乗精密化に続く差Fマップの試験を繰り返すことにより原子の位置決定を行った。十分な収束が達成されるまで最終モデルを異方的に精密化した(許容されるデータ数および安定な精密化が到達可能である場合)。水素原子を計算された位置に配置し、結合された炭素原子のUeqの1.2〜1.5倍の等方性変位パラメーターを有する騎乗原子(riding atom)として組み込んだ。
【0100】
IRMOF-76: データ収集時に脱溶媒和を防止するために少量の母液を含有する直径1.0mmのボロシリケートキャピラリー中にIRMOF-76の無色塊状結晶(0.60×0.60×0.40mm)を入れた。キャピラリーを熔封し、窒素の液体N2冷却ストリーム中で258(2)Kに冷却しながら、CCD面検出器を備え1200Wパワー(40kV、30mA)で動作してCu Kα線(λ=1.5418Å)を発生するSMART APEXII三軸回折計に取り付け、この温度でデータを収集した。
【0101】
2つの異なる検出器(2θ)設定値(2θ=28°、60°)でφ走査とω走査とをオーバーラップして行うBruker APEX2ソフトウェア一式を用いて全半球のデータを収集した。全数96360の反射を収集した。そのうち1260は一意的であり、このうち913は2σ(I)超であった。θの範囲は1.78°〜40.06°であった。データの解析から収集時の減衰は無視しうることが示された。対称性の関連する反射間または反復測定される反射間の差を最小限に抑えるようにプログラムスケールを設定した。
【0102】
構造は、Z=8を有する立方晶Fm-3m空間群であると解析された。C8、C9、N1を除くすべての非水素原子は、異方的に精密化される。他のものは結晶の質が理由で可能でなく、安定な等方的精密化が達成された。ジメチルイミダゾリウム環(C8、C9、およびN1)中の原子は無秩序であることが判明し、それらは各要素中に半分占有されるものとして精密化される。水素原子を計算された位置に配置し、結合されたC原子のUeqの1.2〜1.5倍の等方性変位パラメーターを有する騎乗原子として組み込んだ。PLATON10のAdsymサブルーチンを用いて構造を調べ、そのほかの対称性はモデルに適用できないことを確認した。
【0103】
骨格の空隙内の電子密度のモデリングでは、骨格中の大細孔の内容物が無秩序であるため、この構造中にゲスト物質は同定されなかった。結晶内の空隙空間中の高無秩序化溶媒からのおよび結晶の取付けが行えるように使用されるキャピラリーからの散漫散乱は、バックグラウンドノイズおよび高角データの「ウォッシュアウト」の原因となる。溶媒は結晶構造中にモデリングしなかった。ジメチルイミダゾリウム環に対して拘束条件を用いた(C7-N1、C8-N1、およびC9-N1の結合長を固定した)。不十分なデータであるとはいえ、構造は高い信頼度因子を有することが期待された。いくつかの原子は、回折データの品質が低いため、高いUisoを示した。不十分な長さおよび角度は、不十分な拘束条件に起因し、またesdも高い。
【0104】
結晶形態で単離されたままのIRMOF-76の骨格を表すために構造を報告した。構造は単純立方骨格である。骨格中の原子の位置の正確さを明らかにするために、A. SpekのSQUEEZE5ルーチンの適用を行った。しかしながら、「非SQUEEZE」構造の原子座標も提示する。吸収補正は行わなかった。F2に関する最終完全行列最小二乗精密化により、GOF=0.912でR1=0.0549(F>2σ(F))およびwR2=0.2166(全データ)に収束した。SQUEEZEプログラムを利用しなかった構造では、F2に関する最終完全行列最小二乗精密化により、GOF=1.941でR1=0.1465(F>2σ(F))およびwR2=0.4378(全データ)に収束した。この構造では、我々および他の研究グループにより以上に示された理由で、高いR値がMOF結晶解析でよく見受けられる。
【0105】
IRMOF-77: データ収集時に脱溶媒和を防止するために少量の母液を含有する直径0.4mmのボロシリケートキャピラリー中にIRMOF-77の薄橙色塊状結晶(0.30×0.30×0.20mm)を入れた。キャピラリーを熔封し、窒素の液体N2冷却ストリーム中で258(2)Kに冷却しながら、CCD面検出器を備え1200Wパワー(40kV、30mA)で動作してCu Kα線(λ=1.5418Å)を発生するSMART APEXII三軸回折計に取り付け、この温度でデータを収集した。
【0106】
2つの異なる検出器(2θ)設定値(2θ=28°、60°)でφ走査とω走査とをオーバーラップして行うBruker APEX2ソフトウェア一式を用いて全半球のデータを収集した。全数51319の反射を収集した。そのうち3946は一意的であり、このうち2238は2σ(I)超であった。θの範囲は2.06°〜39.74°であった。データの解析から収集時の減衰は無視しうることが示された。対称性の関連する反射間または反復測定される反射間の差を最小限に抑えるようにプログラムスケールを設定した。
【0107】
構造を直接法により解析し、SHELXTL 97ソフトウェア一式を用いて精密化した。前の段階のモデルの最小二乗精密化に続く差Fマップの試験を繰り返すことにより原子の位置決定を行った。構造は、Z=12を有する三方晶R-3c空間群であると解析された。骨格の主鎖上のすべての亜鉛原子(Zn1、Zn2)、パラジウム原子(Pd1)、ヨウ素原子(I1、I2)、および他の非水素原子(C6、C12、C17を除く)は、それらの親原子の座標に騎乗する球として生成された水素原子を有して異方的に精密化される。他のものは結晶の質が理由で可能でなく、安定な等方的精密化が達成された。水素原子を計算された位置に配置し、結合されたC原子のUeqの1.2〜1.5倍の等方性変位パラメーターを有する騎乗原子として組み込んだ。PLATONのAdsymサブルーチンを用いて構造を調べ、そのほかの対称性はモデルに適用できないことを確認した。
【0108】
骨格の空隙内の電子密度のモデリングでは、骨格中の大細孔の内容物が無秩序であるため、この構造中にゲスト物質は同定されなかった。esdが大きいため、溶媒分子の正確な位置を決定することは不可能である。したがって、最初に、いずれの明確な物質にも帰属できない空隙空間内のいくつかの未確認ピークを孤立酸素原子としてモデリングした。
【0109】
結晶形態で単離されたままのIRMOF-77の骨格を表すために構造を報告した。構造は二重相互侵入立方骨格である。骨格中の原子の位置の正確さを明らかにするために、A. SpekのSQUEEZEルーチンの適用を行った。しかしながら、「非SQUEEZE」構造の原子座標も提示する。したがって、SQUEEZE後に報告された構造は、まったく溶媒を含んでいない。吸収補正は行わなかった。F2に関する最終完全行列最小二乗精密化により、GOF=0.950でR1=0.0560(F>2σ(F))およびwR2=0.1389(全データ)に収束した。SQUEEZEプログラムを利用しなかった構造では、F2に関する最終完全行列最小二乗精密化により、GOF=1.141でR1=0.1039(F>2σ(F))およびwR2=0.3399(全データ)に収束した。反射数とパラメーター数との最終比12.0が達成された。この構造では、我々および他の研究グループにより以上に示された理由で、高いR値がMOF結晶解析でよく見受けられる。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【0110】
本明細書中で実証される満足すべき等網状共有結合的変換およびそれに続くメタル化は、広範にわたる骨格中に金属イオンを組み込むための手段を提供する。基本的には、それによりMOF内に確保しうる反応空間が拡張される。
【0111】
Zr-アミノテレフタレート(Zr-aminoterephalate)MOFの合成手順: 2-アミノテレフタル酸(2-aminoterephalic acid)100mgと共に40mgの(ZrCl4)を40mLのDMFの入ったガラスバイアルに入れた。反応系を85℃で3日間加熱した。粉末を濾過してクロロホルム3×40mLで交換した。
【0112】
実験およびシミュレーションの粉末X線回折パターン。反射Bragg-BrentanoジオメトリーのBruker D8-Discover θ-2θ回折計を用いて粉末X線回折(PXRD)データを収集した。Kαライン上にある平面Gobelミラーを用いてCu Kα1線(λ=1.5406Å、1600W、40kV、40mA)を集束させた。0.6mm発散スリットをすべての測定に使用した。Niモノクロメーターを備えたVantecラインディテクター(Bruker AXS、6°の2θサンプリング幅)を用いて回折線を検出した。結晶を落下させ、次に広幅ブレードスパチュラでサンプル表面を平らにならすことにより、サンプルホルダー上に固定されたガラススライド上にすべてのサンプルを載せた。1ステップあたり0.4秒の照射時間で2〜50°にわたり0.02°の2θステップの走査を用いることにより、最良計数統計量が達成された。
【0113】
IRMOF-76、77の熱重量分析(TGA)データ。連続流窒素雰囲気中でサンプルを白金皿中に保持してTA Instruments Q-500シリーズ熱重量分析計によりすべてのサンプルを試験した。すべてのTGA実験時、5℃/分の一定速度でサンプルを加熱した。
【0114】
IRMOF-77の多孔度測定。Autosorb-1アナライザー(Quantachrome Instruments)を用いて低圧ガス吸着等温線を容積測定で測定した。液体N2浴(77K)をN2等温線測定に使用した。使用したN2ガスおよびHeガスは、UHPグレード(99.999%)であった。表面積を計算するために、16.2Å2/分子のN2断面積を仮定してN2等温線の吸着枝を用いてLangmuir法およびBET法を適用した。Langmuir表面積およびBET表面積は、それぞれ1610および1590m2 g-1であると推定される。吸着質が液体状態でありかつ吸着が細孔充填過程に関与すると仮定して、Dubinin-Raduskavich(DR)法を用いて細孔容積を決定した。IRMOF-77の嵩密度(0.922g cm-3)を仮定すれば、計算細孔容積(0.57cm3 g-1)は0.53cm3・cm-3に対応する。
【0115】
この実施例は、周知の単純立方MOF-5をベースにしたかつNHC-金属錯体またはその前駆体を収容可能な直鎖状ジトピックカルボキシレートリンクを利用した構造を対象とする。この開示では、イミダゾリウムコアとカルボキシレートモジュールとを組み合わせる主要な工程としてクロスカップリング反応を利用する新しいリンク用の収束的合成経路を実証する(スキーム2、上述)。
【0116】
4,7-ビス(4-カルボキシルフェニル)-1,3-ジメチルベンゾイミダゾリウムテトラフルオロボレート(L0)の合成は、公知の4,7-ジブロモベンゾチアジアゾール(1)から開始される。ホウ水素化ナトリウムを用いたコバルト触媒還元およびそれに続くトリエチルオルトホルメートを用いた酸触媒縮合により、チアジアゾールをベンゾイミダゾールに変換した。逐次的なN-メチル化によりジブロモベンゾイミダゾールコア(2)を生成した。2と4-(tert-ブトキシカルボニル)フェニルピナコールボラン(3)とのPd(0)触媒Suzuki-Miyauraクロスカップリングにより、ジエステル末端直鎖状テルフェニル支柱(4)を得た。
【0117】
特定的には、L0の合成では、溶解性が改良されかつ後段でのカルボン酸のアンマスキングが可能であることから、マスク化カルボン酸としてtert-ブチルエステルを有するモジュールを選択した。過剰のメチルヨージドで処理することにより、N,N'-ジメチルベンゾイミダゾリウム部分を有する5を生成した。次に、I-からBF4-に対アニオン置換すると同時にHBF4を用いて2つのtert-ブチルエステルを脱保護することによりL0を得た。すべての変換はグラムスケールで実施可能であった。
【0118】
N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中の3当量のZn(BF4)2・xH2O、10当量のKPF6、およびL0の混合物を用いて、IRMOF-76の合成を行った。混合物を100℃で36時間加熱し、その後、IRMOF-76(Zn4O(C23H15N2O4)(X)3(X=BF4、PF6、OH))の無色結晶を得た。
【0119】
単結晶X線回折分析から、IRMOF-76はMOF-5と同様に等網状であることが判明した。この場合、Zn4Oユニットは、6個のL0リンクに結合されてpcuトポロジーの立方骨格を形成する(図1a)。IRMOF-76は、各リンク上にイミダゾリウム部分(NHC前駆体)を有する非相互侵入カチオン性MOFである。分解されたIRMOF-76のICP分析および19F NMRスペクトルから、BF4-およびPF6-は両方ともイミダゾリウム部分の対アニオンとして含まれることが明らかである。
【0120】
金属-NHC錯体を有するリンクを用いる戦略を開発した。金属-NHC結合は、一般的には、弱酸性条件下でさえも安定であり、化学選択性NHC配位は、酸素-金属配位に基づくことが多い二次ビルディングユニット(SBU)の構築時、金属源との望ましくない反応を回避する。本明細書中に記載の特定の実施例では、[4,7-ビス(4-カルボキシルフェニル)-1,3-ジメチルベンゾイミダゾール-2-イリデン](ピリジル)パラジウム(II)ヨージド(L1、スキーム2)を使用した。これは、公知の均一触媒系と類似の触媒として潜在的に魅力がある。
【0121】
中間体5からL1を調製した(スキーム2)。5のベンゾイミダゾリウム部分は、Pd(II)源、塩基(K2CO3)、およびヨージド源(NaI)と共にピリジン中で還流した時、NHC-PdI2(py)錯体に変換された。tert-ブチルエステルの脱保護は、トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホネート(TMSOTf)を用いて達成された。共有結合的に生成されたPd(II)-NHC結合は、驚くべきことに、脱保護のための強いルイス酸性の条件下でさえも安定であった。しかしながら、ピリジン共配位子は除去されて二量体錯体を形成する。配位子としてのピリジンの添加は、単量体NHC-PdI2(ピリジン)部分を有するL1を生成するのに必要であった。
【0122】
N,N-ジエチルホルムアミド(DEF)とピリジンとの溶媒混合物(75/1)中でL1に対して3当量のZn(NO3)2・6H2Oを用いてIRMOF-77の合成を行った。混合物を100℃で30時間加熱し、その後、IRMOF-77(Zn4O(C28H21I2N3O4Pd)3)の橙色結晶を得た。
【0123】
X線単結晶構造分析から、IRMOF-77もまたMOF-5と同様に等網状であることが明らかである。X線結晶構造では、NHC-PdI2(py)部分の存在が検証される(図1b)。骨格の構築に使用されるZnイオンは、金属-NHC部分との結合に関与しない。測定された元素組成が期待された値と一致することから、NHC上での望ましくない金属交換は不在であることが確認される。観測されたPd-C距離(1.925Å)および配位ジオメトリーは、NHC-PdX2(py)(X=ハリド)錯体に対してCambridge Structural Database中に見いだされるものとよく一致する。Pd(II)-NHC結合の存在は、固体13C交差分極マジック角回転(CP/MAS)NMRスペクトル(N-C:-Nのδ= 154.1ppm)によりさらに確認された。NHC-Pd(II)部分は、骨格内の立方ケージのすべての面上に位置付けられる。2つの織り合わされた骨格が約7Åのオフセット距離で形成され(図1c)(おそらく金属-NHC部分の相互の干渉を和らげるように)、2つの骨格の2つのメチル炭素間の最短距離は4.06Åであった。結果として、カテネーションは、リンク長さがL1と同一であるIRMOF-15のものとは異なる。構造の織り合わされた性質に起因して、細孔の開口は約5Å×10Åである。不動化されたPd(II)中心はすべて、互いに妨害せずに細孔中に突出する。
【0124】
空隙空間の存在およびIRMOF-77の構造安定性を確認するために、ゲストフリーサンプルのN2吸着等温線により永久多孔性を実証した。等温線が低圧領域で急激なN2取込みを示すことから、材料はマイクロ多孔性であることが示唆される(図2)。活性IRMOF-77のLangmuir表面積およびBET表面積は、それぞれ1,610および1,590 m2 g-1であると計算される。細孔内へのN2取込みの量(P/P0=0.9)は、式単位あたり46個のN2分子または単位胞あたり552個に対応する。
【0125】
IRMOF-77の不動化Pd(II)中心の反応性を調べるために、合成されたままのIRMOF-77の結晶を4v/v%キノリン/DMF溶液中に室温で1日間浸漬することにより配位子交換実験を行った。交換前および交換後の粉末X線回折(PXRD)パターンの比較から、骨格は交換過程時にインタクトな状態で残存することが明らかである(図3)。ピリジンプロトンからのシグナルは、配位子交換後に分解されたMOFの1H NMRスペクトルには観測されない。キノリンからのシグナルだけが予想されたモル化学量論比(カルボキシレートリンク:キノリン= 1:1)で観測されるにすぎない。NHC-Pd結合の保持性は、13C CP/MAS固体NMRスペクトル(前:154.1ppm、後:152.9ppm)により確認される。これらの結果から、配位子交換後のNHC-PdI2(キノリン)錯体の存在が示唆される。
【0126】
IRMOF-76および77の構造から、MOFの多孔度およびその構造秩序を失うことなくMOF中にPd(II)-NHC有機金属錯体を不動化する本開示に係る方法の満足すべき適用が実証される。
【0127】
本発明のいくつかの実施形態について説明してきた。しかしながら、当然のことであろうが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく種々の変更を加えることが可能である。したがって、他の実施形態が以下の特許請求の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般構造M-L-M〔式中、Mは骨格金属であり、かつLは、ヘテロ環式カルベンを含むリンク部分である〕を含む有機金属骨格。
【請求項2】
前記リンク部分が前記骨格金属との反応前にメタル化される、請求項1に記載の有機金属骨格。
【請求項3】
前記リンク部分がN-ヘテロ環式カルベンを含む、請求項1または2に記載の有機金属骨格。
【請求項4】
前記骨格が、共有結合性有機骨格(COF)、ゼオライト型イミジゾール骨格(ZIF)、または金属有機骨格(MOF)を含む、請求項1に記載の有機金属骨格。
【請求項5】
前記骨格金属が、Li、Na、Rb、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Ti、Zr、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Ru、Os、Co、Ni、Pd、Pt、Cu、Au、Zn、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、およびBiよりなる群から選択される、請求項1に記載の有機金属骨格。
【請求項6】
前記ヘテロ環式カルベンを含むリンク部分が修飾金属で修飾される、請求項1に記載の有機金属骨格。
【請求項7】
前記修飾金属が、Li、Be、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Sn、Te、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Sm、Eu、およびYbよりなる群から選択される、請求項6に記載の有機金属骨格。
【請求項8】
前記修飾金属が前記骨格の細孔内に延在する、請求項6または7に記載の有機金属骨格。
【請求項9】
前記骨格がゲスト種を欠如している、請求項1に記載の有機金属骨格。
【請求項10】
ヘテロ環式カルベンを含みかつ保護型リンククラスターを含むリンク部分を修飾金属と反応させてメタル化リンク部分を取得することと、該リンククラスターを脱保護することと、該脱保護されたメタル化リンク部分を骨格金属と反応させることと、を含む、請求項1に記載の有機金属骨格の製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載の有機金属骨格を含む、ガス収着組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の有機金属骨格を含む、触媒組成物。

【図1A−B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2013−519687(P2013−519687A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553065(P2012−553065)
【出願日】平成23年2月12日(2011.2.12)
【国際出願番号】PCT/US2011/024671
【国際公開番号】WO2011/146155
【国際公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(500445295)ザ レジェンツ オブ ザ ユニヴァースティ オブ カリフォルニア (28)
【出願人】(308029231)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (1)
【Fターム(参考)】