説明

ガイドパッド付きドリル工具および穴加工方法

【課題】穴出口面が傾斜面のために穴の抜け際でドリル工具の振れ回り等が生じても加工精度の劣化やドリル工具の刃先欠損を防止することである。
【解決手段】穴加工用の切刃を先端部に有するとともに側面部にガイドパットを有するドリル工具本体と、ガイドパットに設けられ穴加工の際に加工穴の壁面に向かってエアーを吹き出すエアーノズルと、このエアーノズルのエアー圧力の振幅値が所定値を越えた場合にガイドパットと加工穴との間で生じるかじりを防止するかじり防止機構とを備える。また、穴加工の際にガイドパッド付きドリル工具本体の側面部に設けられたガイドパットからエアーを吹き出し、エアー圧力の振幅値が所定値を越えた場合にガイドパットと加工穴との間で生じるかじりを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴出口面が傾斜面の穴加工に用いるガイドパッド付きドリル工具および穴加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
穴加工用のドリル工具はドリル工具本体先端面に切刃を取り付け、ドリル工具側を回転させるか、または被削材側を回転させることによって切削加工を行うものである。ドリル工具には、ドリル工具本体の先端部外周面の周方向複数箇所にガイドパッドを取り付けたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ガイドパッド無しのドリル工具を用いた場合には、穴の抜け際でドリル工具の送り速度を下げたり、また、ガイドパッド無しのドリル工具による下穴加工と、ボーリング工具による仕上加工との2工程に分けて加工するようにしている。一方、ガイドパッド付きドリル工具では、ガイドパッド部分に粘性の高い油を塗布して使用するようにしている。
【特許文献1】特開2003−211311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ガイドパッド付きドリル工具を用いると、特に穴出口傾斜面の抜け際でガイドパッドと穴内面のかじりが発生する場合がある。このかじり防止策としてガイドパッド部分に粘性の高い油を塗布する作業は手作業であるので、特に加工穴数が多い場合には、多大な時間を要する。このため、作業性や生産性が大幅に低下する。
【0005】
また、穴の抜け際でドリル工具の送り速度を下げるためには、その都度、NCプログラムまたは人手によるオーバライド調整が必要であり、特に加工穴数が多いケースでは生産性が大幅に低下する。さらに、送り速度を下げたとしても、穴の抜け際でのドリル工具の振れを十分に抑制できない場合もある。このように、工程数が増えるために加工時間が増加して生産性が大幅に低下する。
【0006】
本発明の目的は、穴出口面が傾斜面のために穴の抜け際でドリル工具の振れ回り等が生じても加工精度の劣化やドリル工具の刃先欠損が生じることのないガイドパッド付きドリル工具および穴加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のガイドパッド付きドリル工具は、穴加工用の切刃を先端部に有するとともに側面部にガイドパットを有するドリル工具本体と、前記ガイドパットに設けられ穴加工の際に加工穴の壁面に向かってエアーを吹き出すエアーノズルと、このエアーノズルのエアー圧力の振幅値が所定値を越えた場合にガイドパットと加工穴との間で生じるかじりを防止するかじり防止機構とを備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明の穴加工方法は、穴加工の際にガイドパッド付きドリル工具本体の側面部に設けられたガイドパットからエアーを吹き出し、エアー圧力の振幅値が所定値を越えた場合にガイドパットと加工穴との間で生じるかじりを防止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加工担当者の力量に左右されることなく、特に穴出口面が傾斜面の場合でも、良好な穴加工精度が得られる。また、穴加工途中で、ガイドパッド部分に粘性の高い油を塗布する手作業、穴の抜け際でドリル工具の送り速度を下げる人手作業が不要となる。このため、特に加工穴数が多い場合は、長時間のNC無人運転加工が可能となり生産性が大幅に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は本発明の第1の実施の形態に係わるガイドパッド付きドリル工具の正面図、図2は側面図、図3は底面図である。ドリル工具本体11の先端部には穴加工用の切刃12が設けられ、ドリル工具本体11の側面部にはガイドパット13が設けられている。また、2個のガイドパット13のいずれかには穴加工の際に加工穴の壁面に向かってエアーを吹き出すエアーノズル14が設けられ、エアーノズル14のエアー圧力はエアー圧力センサ15で検出され監視装置16に入力される。そして、監視装置16はエアー圧力センサ15で検出されたエアーノズル14のエアー圧力を監視し、エアーノズル14のエアー圧力の振幅値が所定値を越えた場合には、かじり防止機構17を動作させる。かじり防止機構17はガイドパット13と加工穴との間で生じるかじりを防止するものである。図1では、かじり防止機構17として、ガイドパット13に設けた油供給穴18からかじり防止用の粘性の高い油、例えば、コスモ耐熱ブリースNo.2M(コスモ石油ブリカンツ株式会社製)を供給する場合を示している。
【0011】
図4は監視装置16の処理内容を示すフローチャートである。穴加工の開始とともに、ガイドパット13に具備したエアーノズル14からエアーを吹き出す(S1)。これにより、ガイドパット13によりドリル工具本体11が穴の壁面に沿って真っ直ぐに移動できるようにする。監視装置16は、ドリル工具回転中のエアー圧力の振幅値をモニタリングする(S2)。
【0012】
そして、エアーノズル14のエアー圧力の振幅値が所定値を越えたか否かを判定し(S3)、エアーノズル14のエアー圧力の振幅値が所定値を越えたときはかじり防止機構17を働かせ(S4)、穴加工が終了したか否かを判定する(S5)。ステップS3の判定でエアーノズル14のエアー圧力の振幅値が所定値を越えていないときは、かじり防止機構17を働かせることなく、穴加工が終了したか否かを判定する(S5)。
【0013】
そして、穴加工が終了していないときは、ステップS2に戻りステップS5までの処理を繰り返し行う。穴加工が終了したときはエアーノズル14からのエアーの供給を停止する(S6)。
【0014】
ここで、かじり防止機構17は、エアーノズル14のエアー圧力の振幅値が所定値を越えた場合に、ガイドパット13に設けた油供給穴18からかじり防止用の粘性の高い油を供給する。また、かじり防止用の粘性の高い油を供給することに代えて、ドリル工具本体の動作設定値、例えば、送り速度や回転数などを所定値以下に下げるようにしてもよい。
【0015】
また、エアーノズル14に代えてガイドパット13を加工穴の壁面に押圧する弾性体を設け、この弾性体の支持圧力値が所定値を越えた場合にかじり防止機構17を駆動するようにしてもよい。
【0016】
図5はエアーノズル14に代えてガイドパット13を加工穴の壁面に押圧する弾性体19を設けた場合のガイドパッド付きドリル工具の正面図である。ガイドパット13をバネ等の弾性体19によりドリル工具本体11により支持し、この弾性体19の支持圧力値が所定値を越えたか否かで、かじり防止機構17を働かせる。つまり、弾性体19の支持圧力値が所定値を越えた場合にかじり防止機構17をONし、弾性体19の支持圧力値が所定値を未満のときはかじり防止機構17をOFFする。
【0017】
図6は本発明の第1の実施の形態に係わるガイドパッド付きドリル工具の別の他の一例の正面図である。図6に示したものは、図1に示したものに対し、2個のガイドパット13の各々にエアーノズル14を具備したものである。2個のエアーノズル14のエアー圧力差が所定値を越えた場合には、かじり防止機構17を働かせ、ガイドパット13と加工穴との間で生じるかじりを防止する。
【0018】
各々のガイドパット13にエアーノズル14を具備することによって、かじり防止機構17のON/OFF制御時間を約半分に短縮することが可能となる。また、エアー圧力差の振幅値をモニタリングすることにより、ON/OFF制御の分解能を約2倍にすることが可能となる。
【0019】
図7は本発明の第1の実施の形態に係わるガイドパッド付きドリル工具のさらに別の他の一例の正面図である。図7に示したものは、図6に示したものに対し、2個のガイドパット13の各々に複数個のエアーノズル14を軸方向に配置したものである。これにより、加工穴に対するドリル工具の倒れ具合をモニタリングすることが可能となり、かじり防止機構17をより木目細かく働かせることができる。
【0020】
本発明の実施の形態によれば、穴出口面が傾斜面のために穴の抜け際でドリル工具の振れ回り等が生じても、かじり防止機構17が働きかじりを防止するので、加工担当者の力量に左右されることなく、加工精度の劣化やドリル工具の刃先の欠損や折損が生じることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係わるガイドパッド付きドリル工具の正面図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係わるガイドパッド付きドリル工具の側面図。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係わるガイドパッド付きドリル工具の底面図。
【図4】本発明の第1の実施の形態における監視装置の処理内容を示すフローチャート。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係わるガイドパッド付きドリル工具の他の一例の正面図。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係わるガイドパッド付きドリル工具の別の他の一例の正面図。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係わるガイドパッド付きドリル工具のさらに別の他の一例の正面図。
【符号の説明】
【0022】
11…ドリル工具本体、12…切刃、13…ガイドパット、14…エアーノズル、15…エアー圧力センサ、16…監視装置、17…かじり防止機構、18…油供給穴、19…弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穴加工用の切刃を先端部に有するとともに側面部にガイドパットを有するドリル工具本体と、前記ガイドパットに設けられ穴加工の際に加工穴の壁面に向かってエアーを吹き出すエアーノズルと、このエアーノズルのエアー圧力の振幅値が所定値を越えた場合にガイドパットと加工穴との間で生じるかじりを防止するかじり防止機構とを備えたことを特徴とするガイドパッド付きドリル工具。
【請求項2】
前記かじり防止機構は、前記エアーノズルのエアー圧力の振幅値が所定値を越えた場合に、前記ガイドパットに設けた油供給穴からかじり防止用の粘性の高い油を供給することを特徴とする請求項1記載のガイドパッド付きドリル工具。
【請求項3】
前記かじり防止機構は、前記エアーノズルのエアー圧力の振幅値が所定値を越えた場合に、ドリル工具本体の動作設定値を所定値以下に下げることを特徴とする請求項1記載のガイドパッド付きドリル工具。
【請求項4】
前記エアーノズルに代えて前記ガイドパットを加工穴の壁面に押圧する弾性体を設け、この弾性体の支持圧力値が所定値を越えた場合に前記かじり防止機構を駆動するようにしたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一記載のガイドパッド付きドリル工具。
【請求項5】
穴加工の際にガイドパッド付きドリル工具本体の側面部に設けられたガイドパットからエアーを吹き出し、エアー圧力の振幅値が所定値を越えた場合にガイドパットと加工穴との間で生じるかじりを防止することを特徴とする穴加工方法。
【請求項6】
前記エアー圧力の振幅値が所定値を越えた場合に、かじり防止用の粘性の高い油を供給することを特徴とする請求項5記載の穴加工方法。
【請求項7】
前記エアー圧力の振幅値が所定値を越えた場合に、ドリル工具本体の動作設定値を所定値以下に下げることを特徴とする請求項5の穴加工方法。
【請求項8】
穴加工の際にガイドパッド付きドリル工具本体の側面部に設けられたガイドパットを弾性体で加工穴の壁面に押圧し、前記弾性体の支持圧力値が所定値を越えた場合にガイドパットと加工穴との間で生じるかじりを防止することを特徴とする穴加工方法。
【請求項9】
前記弾性体の支持圧力値が所定値を越えた場合に、かじり防止用の粘性の高い油を供給することを特徴とする請求項8記載の穴加工方法。
【請求項10】
前記弾性体の支持圧力値が所定値を越えた場合に、ドリル工具本体の動作設定値を所定値以下に下げることを特徴とする請求項8の穴加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−34775(P2009−34775A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201748(P2007−201748)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】