説明

ガスセンサ及びガス検出器

【課題】ガス感知膜と電気絶縁層との界面の剥離やクラックの発生を防止し、長期的な安定性、信頼性を大幅に向上させると共に、ガス感知膜の熱応答性及び均熱性を改善したガスセンサと、このガスセンサを備えたガス検出器を提供する。
【解決手段】例えば、電気絶縁層8と、この電気絶縁層8の上面に形成された一対の感知膜電極9と、この感知膜電極9により抵抗が測定される酸化物半導体からなるガス感知膜10と、を備えた薄膜ガスセンサにおいて、電気絶縁層8及び感知膜電極9とガス感知膜10との界面近傍のガス感知膜10側に、ガス感知膜10よりも高密度の緻密部(緻密膜10aまたは10a,10b、あるいは緻密層10c)を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物半導体からなるガス感知膜を備えたガスセンサ、詳しくは、電池駆動を念頭においた低消費電力型のガスセンサと、前記ガスセンサを備えたガス検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的にガスセンサは、ガス漏れ警報器等の用途に用いられ、ある特定ガス、例えば、CO,CH,C,COH等の還元性ガスに選択的に感応するデバイスであり、その性格上、高感度、高選択性、高応答性、高信頼性、低消費電力が必要不可欠である。
ところで、家庭用として普及しているガス漏れ警報器には、都市ガス用やプロパンガス用の可燃性ガスの検知を目的としたものと、燃焼機器の不完全燃焼ガスの検知を目的としたもの、または、これら両方の機能を併せ持ったもの等があるが、何れもコストや設置性の問題から普及率はそれほど高くない。
このため、ガス漏れ警報器の普及率を向上させる観点から、設置性の改善、具体的には、ガス漏れ警報器を電池駆動としてコードレス化することが望まれている。
【0003】
電池駆動を実現するためには低消費電力化が最も重要であるが、接触燃焼式や半導体式のガスセンサでは、100℃〜450℃の高温に加熱して検知する必要がある。このため、ガス感知膜としてSnO等の粉体を焼結する従来の方法では、スクリーン印刷等の方法を用いても厚みを薄くするには限界があり、電池駆動に用いるには熱容量が大き過ぎるという問題があった。そこで、微細加工プロセスを用いてダイアフラム構造等により超低熱容量構造とした薄膜ガスセンサの実現が待たれている。
【0004】
ダイアフラム構造のように超低熱容量構造とした低消費電力型の薄膜ガスセンサを適用したガス漏れ警報器においても、電池交換無しで5年以上の寿命を持たすためには、薄膜ガスセンサのパルス駆動が必須となる。通常、ガス漏れ警報器は30〜150秒の一定周期に一回の検知が必要であり、この周期に合わせて検知部を室温から100℃〜450℃の高温に加熱する。上述したように電池交換無しで5年以上の寿命という要請に応えるため、この加熱時間は数100ms以下が目標となる。
【0005】
パルス駆動の薄膜ガスセンサにおいても、低消費電力化のためには、検出温度の低温化、検出時間の短縮、検出サイクルの長期化(通電をoffする時間を長くする)が重要である。薄膜ガスセンサにおける検出温度は、検出対象のガス種に対する検出感度等から、COセンサでは100℃以下、CHセンサでは450℃以下とされ、検出時間はセンサの応答性から500ms以下、検出サイクルは、COセンサでは150秒、CHセンサでは30秒とされている。
また、off時間にセンサ表面に付着する水分その他の吸着物を脱離させ、SnO表面をクリーニングすることが、電池駆動及びパルス駆動の薄膜ガスセンサの経時安定性を向上させる上で重要であり、検出前に、100ms以下の時間をかけてセンサを一旦、450℃程度まで加熱し、その直後に、それぞれのガスの検出温度でガスを検知している。
【0006】
これらの条件を満たすように作製されたガスセンサの従来技術としては、特許文献1,2に記載されたダイアフラム構造の薄膜ガスセンサがある。
ここで、図14は、例えば特許文献2に記載された薄膜ガスセンサとほぼ同様の、一般的なダイアフラム構造の薄膜ガスセンサを示す断面図である。
【0007】
図14において、1は両面にSiOの熱酸化膜2,3が付いたSi基板、4,5は熱酸化膜3上に順次、プラズマCVD法により形成されたSi膜、SiO膜であり、これらの熱酸化膜3、CVD−Si膜4、CVD−SiO膜5によってダイアフラム構造の支持層及び熱絶縁層6が形成されている。
また、7は、PtW(PtにWをドープした材料)と上下酸化膜に対する中間層のTaとからなる一対のヒータ層、8はSiOからなる電気絶縁層、9はPtと下地酸化膜に対する中間層のTaとからなる一対の感知膜電極、10はSnOからなるガス感知膜、11は選択燃焼層を示している。
【0008】
この薄膜ガスセンサでは、ダイアフラム構造を形成した後にヒータ層7をパルス駆動し、室温から450℃まで昇温時間50〜100ms、降温時間も数百msという短時間で駆動すると、ガス感知膜10であるSnOの表面から、ごく短時間で水分及び水に起因していると考えられる−OH基が離脱及び再吸着する。この動作を繰り返すと、ガス感知膜10と電気絶縁層8とのSnO/SiO界面や感知膜電極9との界面が剥離してくる。
【0009】
上記の剥離のメカニズムについて、その詳細は明らかでないものの、昇降温のサイクルだけでは生じないことから、SnO及びSiO、更には感知膜電極9の熱膨張係数の差だけによるものではないことが分かっている。更に、高湿下で駆動すると剥離が極端に生じ易くなるため、前述のように、水分及び水に起因していると思われる−OH基が、剥離に関与しているものと考えられる。
【0010】
前述した特許文献1,2のようにダイアフラム構造を持つ薄膜ガスセンサでは、この点に対する対策が何もなされておらず、このままの状態で長時間、具体的には半年程度使用すると、SnO/SiO界面等の剥離が進行する可能性が非常に高い。この剥離は、その後にガス感知膜10のクラックへ波及する可能性が非常に高く、クラックが生じるとガス感知膜10の抵抗が上昇するため、大気中でもメタン中でも全体的に抵抗が増大し、ガスセンサとして意味をなさなくなる。
よって、ガス感知膜10と電気絶縁層8及び感知膜電極9との界面の剥離は、非常に大きな問題となっている。
【0011】
上記の問題に対し、ガス感知部やコンタクト端子の剥離やクラックの発生を防止するようにした従来技術が、特許文献3,4に記載されている。
例えば、特許文献3に記載されたガスセンサでは、ガス検知部以外の部分を覆うように結晶化ガラスからなる緻密なコーティング層を設けることによってガス検知部と絶縁基板との熱膨張係数の差を小さくし、これによってガス検知部等が剥離したりクラックが発生するのを防いでいる。
また、特許文献4に記載されたガスセンサでは、セラミック基体の表面に接合されるコンタクト端子が、上記セラミック端子の表面に接合される基部と、この基部の表面に接合された表面部とを備え、この表面部を基部より緻密に形成することにより、熱膨張や熱収縮等によって基部とセラミック基体の表面との間に空隙が発生したり両者の間に剥離が生じるのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−292395号公報(段落[0007],[0008]、図1等)
【特許文献2】特開2005−3472号公報(段落[0004],[0005]、図1等)
【特許文献3】特開2003−107048号公報(段落[0018],[0020],[0041]、図1,図2等)
【特許文献4】特開2003−156468号公報(段落[0012]〜[0015]、図2等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、先に述べたように、ここで問題にしているガス感知膜10と電気絶縁層8との界面等における剥離現象は、単に、上記特許文献3,4にて指摘されている熱膨張係数の差だけによるものではないと考えられる。
すなわち、特許文献3,4に記載された従来技術では、水分等に起因する−OH基が上記界面まで侵入して発生すると推測される剥離や、その後のクラックの発生防止を意図したものではない。
【0014】
そこで、本発明の解決課題は、ガス感知膜の表面から離脱及び再吸着する−OH基に起因すると思われるガス感知膜と電気絶縁層や感知膜電極との界面の剥離やガス感知膜のクラックの発生を防止し、長期的な安定性、信頼性を大幅に向上させたガスセンサと、このガスセンサを備えたガス検出器を提供することにある。
更に本発明は、ガス感知膜の熱応答性及び均熱性を改善したガスセンサ及びガス検出器を提供することも解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、請求項1に記載した発明は、電気絶縁層と、酸化物半導体からなるガス感知膜と、このガス感知膜の抵抗を測定するための感知膜電極と、を備えたガスセンサにおいて、
前記電気絶縁層と前記ガス感知膜との界面近傍のガス感知膜側に、ガス感知膜よりも高密度の緻密部を形成したものである。
【0016】
請求項2に記載した発明は、電気絶縁層と、酸化物半導体からなるガス感知膜と、このガス感知膜の抵抗を測定するための感知膜電極と、を備え、かつ、前記電気絶縁層の上面に前記感知膜電極が形成されたガスセンサにおいて、
前記電気絶縁層及び感知膜電極と前記ガス感知膜との界面近傍のガス感知膜側に、ガス感知膜よりも高密度の緻密部を形成したものである。
【0017】
請求項3に記載した発明は、電気絶縁層と、酸化物半導体からなるガス感知膜と、このガス感知膜の抵抗を測定するための感知膜電極と、ガス感知膜を覆う触媒層と、を備えたガスセンサにおいて、
前記電気絶縁層及び感知膜電極と前記ガス感知膜との界面近傍のガス感知膜側に、ガス感知膜よりも高密度の緻密部を形成したものである。
そして、請求項4に記載するように、この触媒層はPtをドープしたSnO膜であることが好ましく、さらに請求項5に記載するようにSnO膜はPt濃度を6〜14at%とし、また請求項6に記載するようにSnO膜は膜厚を20〜160nmとすると良い。
【0018】
ここで、前記緻密部は、請求項7または8に記載するように、一層または複数層の緻密膜により形成すると良い。
【0019】
また、請求項9または10に記載するように、前記緻密部を、前記電気絶縁層または感知膜電極に近付くにつれて徐々に高密度となる緻密層により形成しても良い。
【0020】
前記緻密部の密度としては、請求項11に記載するように、理論密度(空隙や不純物がない場合の、結晶構造、格子定数、化学組成から算出される物質の密度)を基準にした場合の85%以上であることが望ましい。
【0021】
また、請求項12に記載するように、前記緻密部の厚さを1nm〜200nmとし、前記ガス感知膜の厚さを100nm〜1000nmとすることが望ましい。
【0022】
更に、請求項13に記載する如く、前記緻密部とガス感知膜との化学組成を同一にすれば、成膜時のガス圧力等の成膜条件を変更するだけで緻密部及びガス感知膜を形成することが可能である。
【0023】
また、請求項14に記載するように、ガス感知膜を外界から覆うように形成される選択燃焼層を備えるようにすると良い。
【0024】
また、請求項15に記載したガス検出器は、請求項1〜14の何れか1項に記載したガスセンサと、前記ガスセンサの抵抗値の変化を電気的出力として検出する検出手段と、前記検出手段により検出される前記電気的出力に基づいて、検出対象ガスに関係したガス情報を出力する出力手段と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ガス感知膜の電気絶縁層との界面近傍や感知膜電極との界面近傍に、ガス感知膜よりも高密度の緻密部を形成することにより、ガスセンサをパルス駆動により繰り返し昇降温させた場合にも、水分及び水に起因していると考えられる−OH基がガス感知膜の表面から離脱して再吸着するのを防ぎ、前記界面における剥離やガス感知膜のクラック発生を防止することができる。ここで、ガス感知膜と前記緻密部との化学組成は、同一であっても、異なっていても良い。
これにより、ガスセンサの長期的な安定性、信頼性を従来よりも向上させることができる。
また、上記緻密部はガス感知膜よりも高密度であるため、ガス感知膜に比べて熱伝導度が大きい。従って、緻密部を設けることにより、電気絶縁層等の下地とガス感知膜との間の熱伝導性を向上させてガス感知膜の熱応答性及び均熱性を改善できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態を示す薄膜ガスセンサの断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態を示す薄膜ガスセンサの断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態を示す薄膜ガスセンサの断面図である。
【図4】本発明の第4実施形態を示す薄膜ガスセンサの断面図である。
【図5】Pt濃度とメタン反応性との関係を示す図である。
【図6】膜厚とメタン感度との関係を示す図である。
【図7】膜厚と抵抗との関係を示す図である。
【図8】本発明の第5実施形態を示す薄膜ガスセンサの断面図である。
【図9】本発明の実施形態及び比較例におけるガスセンサの抵抗変化を示す図である。
【図10】緻密層の膜厚とメタン感度との関係を示す図である。
【図11】本発明の実施形態に係るガス検出器の構成図である。
【図12】薄膜ガスセンサのH,COに対する応答性の説明図であり、図12(a)は、触媒層(PtドープSnO膜)を導入した場合の特性図、図12(b)は触媒層(PtドープSnO膜)なしの場合の特性図である。
【図13】薄膜ガスセンサをシロキサン(オクタメチルシクロテトラシロキサン:D4)およびVOC(デカン)中で連続暴露させた場合の触媒層(PtドープSnO膜)12の有無によるメタン抵抗値推移図である。
【図14】ダイアフラム構造の薄膜ガスセンサの一般的な構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係るガスセンサ、詳しくはガス感知膜を薄膜構造とした薄膜ガスセンサの断面図であり、図14と同一の構成要素には同一の番号を付してある。この図1を参照しながら、本実施形態の構成を製造方法と共に説明する。
なお、以下の各実施形態では、図14と同様に一対の感知膜電極9をヒータ層7とは別個に形成した構造の薄膜ガスセンサと、この薄膜ガスセンサを用いたガス検出器について説明するが、本発明は、ガス感知膜としての金属酸化物半導体に白金等からなるヒータが貫通または接触し、その両端の抵抗値変化でガスを検出する熱線型半導体式ガスセンサ、及び、この熱線型半導体式ガスセンサを用いたガス検出器にも適用可能である。
【0028】
まず、両面にSiOの熱酸化膜2,3が付いたSi基板1の上に、ダイアフラム構造の支持層及び熱絶縁層6を構成するSi膜4及びSiO膜5を順次、プラズマCVD法にて形成する。
次に、CVD−SiO膜5の表面に、PtWからなる一対のヒータ層7とSiOからなる電気絶縁層8を順次、スパッタリング法にて形成し、電気絶縁層8の上にPtからなる一対の感知膜電極9を形成する。これらの成膜は、RFマグネトロンスパッタリング装置を用い、通常のスパッタリング法によって行う。
【0029】
なお、ヒータ層7を成膜する際には、下地酸化膜及び上部酸化膜との密着性を向上させ、感知膜電極9を成膜する際には、下地酸化膜との密着性を向上させるため、それぞれ中間層として50nm厚のTa層が成膜されている。成膜条件はPt,PtW,Taとも同じであり、Arガス圧力0.4Pa、基板温度200℃、RFパワー2W/cmとした。また、膜厚は感知膜電極9を構成するPtが200nm、ヒータ層7を構成するPtWが400nmであり、電気絶縁層8であるSiOは1400nmである。
【0030】
さて、本実施形態では、一対の感知膜電極9とその間の電気絶縁層8の表面を覆うように、緻密膜10a及びガス感知膜10を成膜する。これらの成膜は、RFマグネトロンスパッタリング装置を用い、反応性スパッタリング法によって行う。緻密膜10a及びガス感知膜10を含むSnO膜全体としては、Sbを0.5wt%含有する400nm厚のSnO膜(Sb−SnO膜)を成膜する。
このSb−SnO膜の成膜条件は、緻密膜10aでは、Ar+Oガス圧力0.3Pa、基板温度150〜300℃、RFパワー2〜4W/cmとし、ガス感知膜10では、Ar+Oガス圧力2.0Pa、基板温度150〜300℃、RFパワー2W/cmとした。
【0031】
次いで、Si基板1の裏面よりエッチングによりSiを除去し、ダイアフラム構造を形成する。
その後、Pd/Al触媒粉末をスクリーン印刷等によりガス感知膜10を完全に被覆するように形成・焼成(厚み20〜30μm)して選択燃焼層11を形成し、CHセンサチップとしてパッケージに組み込むことによりCHセンサを作製した。
【0032】
なお、ガス感知膜10及び緻密膜10aの膜密度をX線反射率法にて測定したところ、ガス感知膜10では79.7%、緻密膜10aでは96.7%であった。また、緻密膜10aにおける理論密度が85%以上であれば、剥離防止効果は変わらないことを確認した。ここで、理論密度とは、前述した如く、空隙や不純物がない場合の、結晶構造、格子定数、化学組成から算出される物質の密度をいう。
但し、膜密度を変える場合には、上述した緻密膜10aの成膜条件を変更する必要がある。
また、緻密膜10aの厚さを1nm〜200nm、ガス感知膜10の厚さを100nm〜1000nmの範囲にすれば、所期の剥離防止効果が得られることが確認されている。
【0033】
次に、この実施形態について行った剥離防止効果の確認試験及び薄膜ガスセンサの特性について説明する。
まず、剥離防止効果を確認するために、40℃80%という高温高湿下において、3秒周期でヒータ層7による昇降温を繰り返した。1周期中で昇温されている時間は100msである。実用上の平均的な温湿度は20℃65%であり、通常時の動作周期を60秒として考えているので、上記の40℃80%,3秒周期の昇降温という条件は、水分及び水に起因していると思われる−OH基がガス感知膜10と電気絶縁層8とのSnO/SiO界面まで侵入して剥離・クラックを引き起こす、という故障モードに対して、加速試験を行っていることに相当する。
【0034】
上記の加速試験に相当する試験を半年間行った後にガスセンサの表面・断面観察を行ったが、剥離やクラックは存在しなかった。よって、本実施形態におけるSnOの緻密膜10aが、水分及び水に起因していると考えられる−OH基のSnO/SiO界面への侵入を防いでいると考えられ、上記界面の剥離やガス感知膜10のクラック発生の防止に有効であることが確認された。
次に、ガスセンサの典型的な感度特性を、以下の表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1の「感度」において、Rairは大気中でのガスセンサの抵抗値、Rメタン2000はCHが2000ppm混入した大気中でのガスセンサの抵抗値であり、他の「勾配」、「CO選択比」、「水素選択比」についても、同様にそれぞれのガスが所定量、大気中に混入した場合の抵抗値の比を示している。
この表1を見て分かるように、本実施形態に係る薄膜ガスセンサは十分にガスセンサとして機能している。
【0037】
なお、上述したSnOの緻密膜を2層以上の複数層にしても剥離・クラックに対する効果は変わらず、ガス感度特性が若干変わるだけである。
図2は、本発明の第2実施形態として、緻密膜を2層にした薄膜ガスセンサの断面図であり、10a,10bは互いに密度が異なるSnOの緻密膜を示している。この場合、電気絶縁層8側の緻密膜10aの密度を他方の緻密膜10bの密度より高くすることが望ましい。
【0038】
更に、本発明は、第1,第2実施形態のようにガス感知膜10と緻密膜10a(10a,10b)とを明確に区分して形成するばかりでなく、成膜時における圧力を例えば0.3Paから連続的に2.0Paに変化させることにより、図3に示す第3実施形態のように、一対の感知膜電極9及びその間の電気絶縁層8とガス感知膜10との界面に、感知膜電極9及び電気絶縁層8側に近付くにつれて徐々に高密度となるような密度傾斜のある緻密層10cを成膜しても良い。
このような密度傾斜のある緻密層10cを備えたガス感知膜10を持つ薄膜ガスセンサにおいても剥離やクラックは生じず、ガス感度特性が変わるだけである。
【0039】
また、本発明は、図4に示す第4実施形態のように、一対の感知膜電極9が電気絶縁層8の上面に形成されるような構造において、電気絶縁層8および感知膜電極9と、ガス感知膜10と、の界面近傍に、ガス感知膜10よりも高密度の緻密膜10aを形成し、さらにガス感知膜10と選択燃焼層11との界面に触媒層12を形成する場合も含むものである。この触媒層12はPtをドープしたSnO膜である。
なお、本形態では図4に示したように緻密膜10aを1層としているが、先に説明したように、図4の緻密膜10aに代えて、図2に示した緻密膜10a,10bのように2層以上の複数層を形成したり、また、図4の緻密膜10aに代えて、図3に示した緻密層10cのように電気絶縁層8側に近付くにつれて徐々に高密度となるような密度傾斜のある緻密層を形成しても良い。
【0040】
触媒層12は酸化触媒であるPtをドープしたSnO膜であり、このPtに接触するとメタンガス以外のガスは酸化分解され、感知膜電極9まで到達するガス量が減少する。メタンガスは安定なため酸化分解されるよりも、反応活性な中間反応体を形成しているため、ガス感度が向上すると考えられる。
【0041】
そして、フィルター効果が高い触媒層12とする第一の方策として、まず、Pt濃度を高くすることが考えられる。そこで、Pt濃度とメタン反応性との関係を調査した。図5にPtをドープしたSnO膜のPt濃度とメタン反応性との関係を表すグラフを示す。この図5のグラフからも明らかなように、Pt濃度が10at%という数値まではメタン反応性も上昇するが14at%を超えると逆にメタン反応性が減少することが判明している。このようにメタン反応性は6〜14at%という数値において高い値を示している。触媒層12の酸化SnO膜は、SnOに対してドープするPtの添加量であるPt濃度を6〜14at%とすることが好ましい。
【0042】
続いて、フィルター効果が高い触媒層12とする第二の方策として、膜厚の調整が必要である。膜厚を厚くすればPtへの接触量も増えるが、電池駆動型として使用する場合は、できるだけ薄い方が望ましく、また、感度の問題もある。そこで、常温常圧下にあって、PtをドープしたSnO膜の膜厚とメタン感度との関係を調査した。PtをドープしたSnO膜の膜厚とメタン感度との関係を表すグラフを図6に示す。なお、メタン感度は、大気中におけるガスセンサの抵抗値:Rairと、CHが2000ppm混入した大気中におけるガスセンサの抵抗値:Rメタン2000との比:Rair/Rメタン2000と定義している。この図6のグラフからも明らかなように、SnO膜の膜厚によってメタン感度が変化し、膜厚が大きいほど低下するというものであり、膜厚が160nm以下であれば、実用上必要な感度5以上が得られる。しかしながら、膜厚があまりに薄いとフィルター効果も期待できず、また、安定しないという問題もある。
【0043】
そこで、膜厚の下限について調査する。加速耐久試験前後でのセンサ抵抗値(水素1000ppm中)の変化を図7に示す。センサ抵抗値を安定させる(抵抗の変化を1.0程度にする)には、膜厚が20nm以上あれば十分な安定性が得られる。これにより、膜厚は特に20〜160nmという数値において、十分な安定性とともに良好なメタン感度を確保できる。
【0044】
これら調査から触媒層12の酸化SnO膜は、SnOに対してドープするPtの添加量であるPt濃度を6〜14at%とし、かつ膜厚を20〜160nmとすることが好ましい点が知見された。本形態では、例えば具体的数値として、SnO膜のPt濃度を10at%とし、かつ、膜厚を100nmを選択する。
【0045】
このような触媒層12の成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、反応性スパッタリング方法によって行う。ターゲットにはPtを10at%を有するSnOを用いる。成膜条件はAr+Oガス圧力2Pa、基板温度150〜300℃、RFパワー 2W/cm、膜厚0.10μmである。このように構成しても良い。
【0046】
また、本発明は、図8に示す第5実施形態のように、一対の感知膜電極9がガス感知膜10の上面に形成され、ガス感知膜10の下面全体が電気絶縁層8に接するような構造において、ガス感知膜10の電気絶縁層8との界面近傍に、ガス感知膜10よりも高密度の緻密膜10dを形成する場合も含むものである。この場合、図2に示したように緻密膜10dを2層以上の複数層にしたり、図3に示したごとく、電気絶縁層8側に近付くにつれて徐々に高密度となるような密度傾斜のある緻密層を形成しても良い。
【0047】
また、ガス感知膜10や緻密膜10a,10b,10d及び緻密層10cの化学組成を何れも同一にする場合、Sbドープを行わないSnOにしても、Si,Cu,In等のSb以外の物質をドープしたSnOにしても、TiOやZnO,WO,In等のSnO以外の組成にしても良い。
更には、ガス感知膜、緻密膜、緻密層の組成が異なる場合にはガスセンサ特性が変わるだけであり、緻密膜や緻密層を設けることにより剥離・クラックの発生防止効果があることが確認されている。
【0048】
なお、本実施形態における緻密部(緻密膜10a,10b,10dまたは緻密層10c)は、ガス感知膜10に比べて高密度であるため、ガス感知膜10よりも熱伝導度が高い。これにより、電気絶縁層8や感知膜電極9等の下地とガス感知膜10との熱伝導性を向上させることができ、ガス感知膜10の熱応答性及び均熱性を従来よりも改善することができる。
以下、緻密部によるガス感知膜10の熱応答性及び均熱性の改善作用について説明する。
【0049】
図9は薄膜ガスセンサの応答性を示す図であり、図9(a)は本発明の実施形態(緻密層あり)、図9(b)は比較例(緻密層なし)である。これらの図では、ヒータ層に電圧を印加した瞬間を0とし、CHが2000ppm混入した大気中におけるガスセンサの抵抗値:Rメタン2000の時間変化を示している。なお、100msにおける抵抗値を1として規格化している。
図9(a)に示す実施形態(緻密層の膜厚=10nm)では、50msでほぼ平衡に達しているのに対し、図9(b)の比較例(緻密層なし)では平衡に達するまでに100ms近くかかっている。この結果は、緻密層により、ガス感知膜の熱応答性が改善されることを示唆している。なお、図9のデータは、実使用を考慮して、ガスセンサに5年相当の負荷を与えた後に取得したものである。
【0050】
また、図10は、メタン感度と緻密層膜厚との関係を示している。上記したが、メタン感度は、大気中におけるガスセンサの抵抗値:Rairと、CHが2000ppm混入した大気中におけるガスセンサの抵抗値:Rメタン2000との比:Rair/Rメタン2000と定義している。また、ガスセンサ抵抗値は、ヒータ層へ電圧を印加後、200ms時点の値である。
メタン感度には温度依存性があり、ガス感知膜10の均熱性が悪いとそれだけ感度が低下することになるが、図10によれば、所定の膜厚の緻密層を設けることによってガス感知膜10の均熱性が改善され、その結果、メタン感度が高い値に維持されることがわかる。
【0051】
さて、これまで説明してきた薄膜ガスセンサを用いてガス検出器を構成する場合は、図11に示すような構成を採用することができる。この機能ブロック図においては、これまで説明してきた薄膜ガスセンサを可変抵抗Rとして示している。
図11の構成は、定電圧源20を使用する場合のものであり、この定電圧源20に、可変抵抗Rとしての薄膜ガスセンサと固定抵抗Rとを直列に接続し(可変抵抗Rの端子は、前述した一対の感知膜電極9,9を使用する)、この固定抵抗Rの両端の端子21,21間の出力電圧Voutを検出する構造を採用する。このような回路を請求項15における検出手段と称する。
【0052】
さて、出力電圧VoutはA/D変換器22によりディジタルデータに変換され、このディジタルデータに基づいて、採用されている薄膜ガスセンサの感度特性(抵抗値またはこれに基づく電圧と検出対象ガスのガス濃度との関係を示す感度特性)から、ガス濃度を求める。
一方、ガス濃度または抵抗値は、予め設定された閾値と比較され、ガス濃度または抵抗値が閾値を越えた場合に、対象ガスが検出された等の警報を発生するものとする。
これらの操作は、マイクロプロセッサー23によって行われる。
【0053】
更に、マイクロプロセッサー23によって処理された情報は、濃度表示手段24、警報発生・表示手段25等に送られ、外部に出力される。
これらのマイクロプロセッサー23、表示手段24,25等を纏めて、請求項15における出力手段と称する。
また、この例では、検出対象ガスの濃度、警報が、請求項15におけるガス情報となる。なお、ガス情報としては、ガスの有無のみを示す情報も含まれる。
以上のようにして、薄膜ガスセンサを備えたガス検出器を構成することができる。
【0054】
このように、薄膜ガスセンサにおける検出対象ガスとの接触による抵抗値の変化を電気的出力として取り出す構成としては、公知の任意の構成を採用でき、例えば、ブリッジ回路の一片に薄膜ガスセンサの抵抗を用いる構成や、定電流源を利用して電圧を検出する構成等も採用することができる。
なお、図11ではA/D変換器22を用いた回路を示したが、オペアンプ等を用いたアナログデータに基づいて濃度表示手段24、警報発生・表示手段25等により外部出力してもよい。
【実施例1】
【0055】
続いて実施例1について説明する。この実施例1は、第4形態として説明した薄膜ガスセンサの触媒層(PtドープSnO膜)12による加熱応答性向上の実施例である。
触媒層(PtドープSnO膜)12は選択燃焼層11よりもヒータ層7に近く存在するため、加熱応答が速く、H,COを酸化させる時間を短縮でき、より短時間でメタン選択性を発現させることができると期待される。図12は薄膜ガスセンサのH,COに対する応答性の説明図であり、図12(a)は、触媒層(PtドープSnO膜)を導入した場合の特性図、図12(b)は触媒層(PtドープSnO膜)なしの場合の特性図である。これらの図12(a),(b)では、ヒータ層7に電圧を引加した瞬間を0とし、大気中、H(1000ppm)を混入した大気中、または、CO(300ppm)を混入した大気中におけるガスセンサの抵抗値をそれぞれRAir、R水素,RCOとし、これらRAir、R水素,RCOの時間変化を示している。触媒層(PtドープSnO膜)を導入した場合は、図12(a)で示すように、およそ100msでR水素、RCOがRAirと同レベルとなっているが、触媒層(PtドープSnO膜)がない場合には、図12(b)で示すように、200ms時点でもR水素、RCOはRAirレベルまで到達していない。この結果は、触媒層(PtドープSnO膜)12によりH,COを酸化させる時間が短縮されることを示唆している。
【実施例2】
【0056】
続いて実施例2について説明する。この実施例2は、第4形態として説明した薄膜ガスセンサの触媒層(PtドープSnO膜)12によるシロキサン、VOC等の被毒成分に対する影響改善の実施例である。
触媒層(PtドープSnO膜)12はガス感知膜10の表面に存在するため、ガス感知膜10の表面を被毒ガス成分から保護する働きをすることが期待される。図13に薄膜ガスセンサを一般家庭環境中に存在すると考えられるシロキサン(オクタメチルシクロテトラシロキサン:D4)およびVOC(デカン)中で連続暴露させた場合の、触媒層(PtドープSnO膜)12の有無によるメタン抵抗値推移図を示す。この図13は、シロキサンおよびVOC中での暴露開始時点を0とし、一定の暴露時間ごとにメタン4000ppmを混入した大気中におけるガスセンサの抵抗値Rメタンの時間変化を示している。なお、暴露開始前の抵抗値を1として規格化している。触媒層(PtドープSnO膜)12を導入したものではRメタンは1付近で安定しているのに対し、触媒層(PtドープSnO膜)12なしのものではRメタンの変動が大きい。この結果は、触媒層(PtドープSnO膜)12により、ガス感知膜10の表面が被毒ガスと接触するのを防止して、ガス感知膜10の表面状態を良好に維持する効果が得られていることを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のガスセンサ及びガス検出器は、特にガス漏れ警報器等の用途に適用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1:Si基板
2,3:熱酸化膜
4:CVD−Si
5:CVD−SiO
6:支持層及び熱絶縁層
7:ヒータ層
8:電気絶縁層
9:感知膜電極
10:ガス感知膜
10a,10b,10d:緻密膜
10c:緻密層
11:選択燃焼層
12:触媒層
20:定電圧源
21:端子
22:A/D変換器
23:マイクロプロセッサー
24:濃度表示手段
25:警報発生・表示手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁層と、酸化物半導体からなるガス感知膜と、このガス感知膜の抵抗を測定するための感知膜電極と、を備えたガスセンサにおいて、
前記電気絶縁層と前記ガス感知膜との界面近傍のガス感知膜側に、ガス感知膜よりも高密度の緻密部を形成したことを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
電気絶縁層と、酸化物半導体からなるガス感知膜と、このガス感知膜の抵抗を測定するための感知膜電極と、を備え、かつ、前記電気絶縁層の上面に前記感知膜電極が形成されたガスセンサにおいて、
前記電気絶縁層及び感知膜電極と前記ガス感知膜との界面近傍のガス感知膜側に、ガス感知膜よりも高密度の緻密部を形成したことを特徴とするガスセンサ。
【請求項3】
電気絶縁層と、酸化物半導体からなるガス感知膜と、このガス感知膜の抵抗を測定するための感知膜電極と、ガス感知膜を覆う触媒層と、を備えたガスセンサにおいて、
前記電気絶縁層及び感知膜電極と前記ガス感知膜との界面近傍のガス感知膜側に、ガス感知膜よりも高密度の緻密部を形成したことを特徴とするガスセンサ。
【請求項4】
請求項3に記載したガスセンサにおいて、
前記触媒層は、PtをドープしたSnO膜であることを特徴とするガスセンサ。
【請求項5】
請求項4に記載したガスセンサにおいて、
前記SnO膜は、Pt濃度を6〜14at%とすることを特徴とするガスセンサ。
【請求項6】
請求項4または5に記載したガスセンサにおいて、
前記SnO膜は、膜厚を20〜160nmとすることを特徴とするガスセンサ。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載したガスセンサにおいて、
前記緻密部を、一層の緻密膜により形成したことを特徴とするガスセンサ。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか一項に記載したガスセンサにおいて、
前記緻密部を、互いに密度が異なる複数層の緻密膜により形成したことを特徴とするガスセンサ。
【請求項9】
請求項1に記載したガスセンサにおいて、
前記緻密部を、前記電気絶縁層に近付くにつれて徐々に高密度となる緻密層により形成したことを特徴とするガスセンサ。
【請求項10】
請求項2〜6の何れか一項に記載したガスセンサにおいて、
前記緻密部を、前記電気絶縁層及び感知膜電極に近付くにつれて徐々に高密度となる緻密層により形成したことを特徴とするガスセンサ。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載したガスセンサにおいて、
前記緻密部の密度が、理論密度を基準にした場合の85%以上であることを特徴とするガスセンサ。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか1項に記載したガスセンサにおいて、
前記緻密部の厚さが1nm〜200nmであり、前記ガス感知膜の厚さが100nm〜1000nmであることを特徴とするガスセンサ。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか1項に記載したガスセンサにおいて、
前記緻密部と前記ガス感知膜との化学組成が同一であることを特徴とするガスセンサ。
【請求項14】
請求項1〜13の何れか1項に記載したガスセンサにおいて、
前記ガス感知膜を外界から覆うように形成される選択燃焼層を備えることを特徴とするガスセンサ。
【請求項15】
請求項1〜14の何れか1項に記載したガスセンサと、
前記薄膜ガスセンサの抵抗値の変化を電気的出力として検出する検出手段と、
前記検出手段により検出される前記電気的出力に基づいて、検出対象ガスに関係したガス情報を出力する出力手段と、
を備えたことを特徴とするガス検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−282024(P2009−282024A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105140(P2009−105140)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(508296738)富士電機機器制御株式会社 (299)
【Fターム(参考)】