説明

ガスセンサ素子およびガスセンサ

【課題】外側電極や保護層の密着性を確保するとともに被水耐熱性を向上することができるガスセンサ素子およびガスセンサを提供する。
【解決手段】検出電極62および保護層67の密着性を確保する密着層101は、以下の(1)〜(3)の規定を満たす。(1)基部103の表面において、1mm当たりに形成された凸部102の個数Nとしたとき、10≦N≦50[個]である。(2)基部103の表面と直交する方向において、凸部102が基部103の表面から突出する高さの平均をHとしたとき、55≦H≦75[μm]である。(3)凸部102の外径をDとしたとき、45<D<90[μm]である凸部102の数が凸部102全体数の70%以上ある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象ガスに含まれる特定ガス成分を検出するガスセンサ素子およびガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンなどの内燃機関から排出される排気ガス中の特定ガス成分の濃度に応じて出力が変化するガスセンサ素子が知られている。例えば、酸素濃度に応じて出力の変化するガスセンサ素子は、有底筒状に形成された固体電解質体の外表面と内表面とに一対の電極(外側電極および内側電極)を設けた構造を有する。そして、外表面に設けられた外側電極が晒される排気ガスと、内表面に設けられた内側電極が晒される基準ガス(例えば大気)との間の酸素濃度差に応じて両電極間に生ずる起電力が、ガスセンサ素子の出力として取り出される。
【0003】
ガスセンサ素子には、外側電極を排気ガスによる被毒から保護するための保護層が設けられる。そして、外側電極や保護層の密着性を高めるため、固体電解質体の外表面に凹凸形状を持たせることが知られている(例えば特許文献1,2参照。)。この凹凸形状は、固体電解質体と同じ材料を用いて形成される。具体的に、凹凸形状のもととなる径の大きな造粒粒子(大粒子)と、造粒粒子の固着性を高める微細粒子(小粒子)とが含まれるペーストを固体電解質体の外表面に塗布し、固体電解質体と同時焼成することにより、微細粒子の層から造粒粒子が突出する形態となって一体に形成される。
【0004】
造粒粒子による凸部が形成された固体電解質体の外表面を厚み方向の断面で見たときに、微細粒子の層から突出する凸部には、微細粒子の層の表面との間においてくびれた凹部状の部分(以下、「クビレ」とよぶ。)が形成される。このクビレに外側電極や保護層が掛かって生ずるアンカー効果によって、外側電極や保護層の密着性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−230930号公報
【特許文献2】特開2002−323474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2では造粒粒子の粒径を規定しているが、ばらつきにより、下限に近い粒径の造粒粒子が多く含まれる箇所が形成される場合がある。このような箇所では造粒粒子が微細粒子の層に埋もれて凸部にクビレが形成されず、アンカー効果が低くなり、外側電極や保護層の密着性が低下する虞があった。
【0007】
また、クビレが形成される凸部と形成されない凸部とが混在する状態では、単位面積当たりの凸部の数が多ければ外側電極や保護層の密着性を確保できるが、隣り合う凸部同士が接触し、凸部同士の間に空洞や凹みを生ずる場合がある。その空洞や凹みに水蒸気が入り込み、水蒸気の膨張による熱衝撃を受けた場合に、固体電解質体にクラックが生ずる虞がある。特許文献1では凸部間距離を規定しているが、密着性を確保するためには凸部同士が接触する部分を完全にはなくすことができず、被水耐熱性の更なる向上が望まれていた。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、外側電極や保護層の密着性を確保するとともに被水耐熱性を向上することができるガスセンサ素子およびガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1態様によれば、先端が閉じられた有底筒状をなす固体電解質体と、前記固体電解質体の内表面および外表面にそれぞれ設けられた内側電極および外側電極と、前記外側電極を覆って保護する保護層と、前記固体電解質体の前記外表面のうち、前記保護層が設けられる部位の少なくとも一部に、前記固体電解質体の表層をなし、複数の凸部が形成されてなる密着層とを備え、測定対象ガス中の特定ガス成分を検出するガスセンサ素子において、前記密着層は、前記凸部と、自身の表面から前記凸部が突出される基部とを有し、前記基部の表面において、1mm当たりに形成された前記凸部の個数をNとしたとき、10≦N≦50[個]であり、前記基部の表面と直交する方向において、前記凸部が前記基部の表面から突出する高さの平均をHとしたとき、55≦H≦75[μm]であり、且つ、前記凸部の外径をDとしたとき、45<D<90[μm]である前記凸部の数が前記凸部全体数の70%以上あることを特徴とするガスセンサ素子が提供される。
【0010】
まず、密着層を構成する凸部の1mm当たりの個数Nを10≦N≦50[個]に規定することにより、密着層上に形成される外側電極および保護層の密着性、ひいては冷熱耐久性を確保すると共に、ガスセンサ素子の被水耐熱性を高めることができる。
【0011】
密着層を構成する凸部の1mm当りの個数Nが10個未満の場合、アンカー効果を生ずるクビレ部分(凸部が基部から突出するその根元付近において、基部の表面との境目付近へ向けて径方向内向きに凹部状にくびれた部分)の単位面積当たりの数が、相対的に少なくなる。つまり、固体電解質体の先端部において、外側電極や保護層を密着状態に維持するアンカー効果を得られる部位が、相対的に少なくなる。外側電極や保護層の密着性を確保できずに剥がれや浮きが生ずると、冷熱耐久性を確保することが難しくなる。
【0012】
一方、1mm当たりの凸部の個数Nが50個より多い場合、基部上で凸部が十分に分散して配置されずに密集する部位を生ずる虞がある。密集によって隣り合う凸部同士が接触すると、凸部同士の間に空洞や凹みを生ずる場合がある。そのような空洞や凹みに水滴が進入すると、冷熱サイクルにおいて水蒸気の膨張による熱衝撃によって固体電解質体にクラックを生ずる虞があり、被水耐熱性が低下する場合がある。
【0013】
また、凸部同士の間に空洞や凹みを生ずることによって、密着層上に形成した保護層において、密な部分と疎な部分との疎密の差が大きくなる場合がある。保護層は溶射によって形成されるため、空洞や凹みがあると、その部分は疎に形成されやすい。保護層の疎・密の差が大きくなると、センサの応答性にバラツキを生じてしまう虞がある。
【0014】
次に、密着層を構成する凸部が基部の表面から突出する高さの平均(平均高さH)を55≦H≦75[μm]に規定することにより、外側電極および保護層の密着性、ひいては冷熱耐久性を確保すると共に、センサの応答性を確保することができる。
【0015】
凸部の平均高さHが55μm未満の場合、凸部のもととなる造粒子は、全体的に、粒径の小さなものが多くなってしまう。粒径の小さな造粒子は、粒径の大きなものと比べ、凸部を形成した際にクビレ部の凹みが小さくなる傾向がある。すると外側電極や保護層を密着状態に維持するアンカー効果を得られにくくなって、外側電極や保護層の密着性を確保できず、冷熱耐久性を確保することが難しくなる。
【0016】
一方、凸部の平均高さHが75μmより大きい場合、密着層上に形成した保護層において、密な部分と疎な部分との疎密の差が大きくなる。保護層は溶射によって形成されるため、クビレ部のある凸部の根元側(基部に近い側)では、疎に形成されやすい。凸部の高さが高くなるほどクビレ部の凹みが深くなるので、凸部の根元側に形成される保護層は、より疎になりやすい。保護層の疎・密の差が大きくなると、センサの応答性にバラツキを生じてしまう虞がある。
【0017】
また、凸部の平均高さHが55μm以上75μm以下の範囲に含まれないことは、言い換えると、凸部の高さにおけるバラツキが大きいということを意味する。ここで、外側電極をめっき浴において形成した場合、高さの高い凸部と、高さの低い凸部とが混在すると、高さの高い凸部のめっき層が形成されるまで間に、高さの低い凸部はめっき層の全体への形成がなされた後、さらにその厚みが厚く形成される。このため、凸部の高さのバラツキが大きいほど、外側電極の材料の使用量が多くなってしまう場合がある。
【0018】
次に、密着層を構成する凸部の外径Dが45<D<90[μm]である凸部の数を全体数の70%以上に規定することにより、外側電極および保護層の密着性、ひいては冷熱耐久性を確保し、センサの応答性を確保すると共に、被水耐熱性を高めることができる。
【0019】
凸部の外径Dが45〜90μmのものが全体数の70%未満である場合、凸部の外径Dのバラツキが大きくなる。凸部の外径Dは、凸部のもととなる造粒子の粒径に相当する。粒径で45μm以下のものが比較的多くなり、造粒子が粒径の小さい側に偏ると、上記のように、凸部を形成した際にクビレ部の凹みが小さくなってアンカー効果を得られにくくなり、外側電極や保護層の密着性を確保できず、冷熱耐久性を確保することが難しくなる。一方、粒径で90μm以上のものが比較的多くなり、造粒子が粒径の大きい側に偏ると、上記のように、密着層上に形成した保護層において、密な部分と疎な部分との疎密の差が大きくなって、センサの応答性にバラツキを生じてしまう虞がある。
【0020】
また、密着層の形成の際に、造粒子の大きさのバラツキが大きいと、造粒子同士が重なり合う部分が多く発生する虞がある。そのまま密着層が形成されると、凸部同士が接触した状態になる部分が多く発生する虞がある。上記したように、凸部同士の間に空洞や凹みを生ずると、ガスセンサ素子の被水耐熱性が低下する場合がある。
【0021】
第2態様によれば、請求項1に記載のガスセンサ素子と、前記ガスセンサ素子の径方向周囲を取り囲んで保持する主体金具と、先端側が前記主体金具に固定され、前記ガスセンサ素子の後端側の径方向周囲を取り囲む筒状の外筒と、前記外筒内で、一対の前記電極にそれぞれ接続され、前記ガスセンサ素子の出力を外部に取り出す一対のリード線と、を備えるガスセンサが提供される。
【0022】
第1態様に係るガスセンサ素子を備えることで、ガスセンサは、外側電極および保護層の密着性、ひいては冷熱耐久性を確保し、センサの応答性を確保すると共に、被水耐熱性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ガスセンサ1の断面図である。
【図2】センサ素子6の先端部64における先端付近の断面図である。
【図3】センサ素子6の先端部64の表面付近を拡大した断面図である。
【図4】溢流塗り装置170を用いて母体161にペースト154を塗布する過程を概略的に示す図である。
【図5】母体161の表面付近に形成された密着層101の焼成前の様子を示す図である。
【図6】母体161の表面付近に形成された密着層101の焼成後の様子を示す図である。
【図7】被水耐熱性の評価試験を行う方法について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を具体化したガスセンサ素子およびガスセンサの一実施の形態について、図面を参照して説明する。まず、図1、図2を参照し、一例として、センサ素子6を備えるガスセンサ1の構造について説明する。図1に示すガスセンサ1は自動車等の内燃機関のエンジンから排出される排気ガスの排気管(図示外)に取り付けられて使用されるものである。以下では、ガスセンサ1の軸線O方向において、排気管内に挿入されるセンサ素子6の先端に向かう側(閉じている側であり図中下側)を先端側とし、これと反対方向に向かう側(図中上側)を後端側として説明する。
【0025】
図1に示すガスセンサ1は、排気管内を流通する排気ガス中の酸素の有無を検出するためのセンサである。ガスセンサ1は、細長で先が閉じられた筒状のセンサ素子6を主体金具5で取り囲んで保持した構造を有する。図1,図2に示すセンサ素子6は、ジルコニアを主成分とする固体電解質体61を軸線O方向に延びる有底筒状に形成したものを基体として構成したものである。
【0026】
固体電解質体61の軸線O方向略中央の位置には、径方向外側に向かって突出する鍔状のフランジ部65が設けられている。フランジ部65よりも先端側の先端部64は、先端へ向けて徐々に縮径し、先端部分が球面状に閉じている。先端部64の外表面には、PtまたはPt合金からなる多孔質状の検出電極62が、そのほぼ全面を覆うように形成されている。また、固体電解質体61の筒穴69の内表面にも同様に、PtまたはPt合金からなる多孔質状の基準電極63が、そのほぼ全面を覆うように形成されている。すなわち、検出電極62と基準電極63とは、先端部64において固体電解質体61を挟んで対向する。この部分がセンサ素子6において、酸素濃度の検出を行う検出部として機能する。ガスセンサ1が自動車の排気管(図示外)に取り付けられたとき、先端部64は排気管内を流通する排気ガス中に晒される。ゆえに検出電極62は多孔質状のスピネルの保護層67に覆われ、排気ガスによる被毒から保護されている。なお、検出電極62が、本発明における「外側電極」に相当し、基準電極63が、本発明における「内側電極」に相当する。
【0027】
図1に示すように、センサ素子6の検出電極62(図2参照)は、センサ素子6の後端部66に外嵌めされる接続端子75を介し、図示外の外部回路(例えば自動車の電子制御装置(ECU))との電気的な接続を行うリード線18に接続される。同様に、センサ素子6の基準電極63は、センサ素子6の筒穴69内に挿入される接続端子70を介し、他のリード線18に接続されている。また、センサ素子6の筒穴69内には固体電解質体61を加熱して活性化させるための棒状のヒータ7が挿入されている。ヒータ7は、内部に設けられた発熱抵抗体(図示外)への通電のため自身の後端に露出する電極に接合された一対の電極端子74を介し、外部回路と電気的な接続を行う一対のリード線19(図1では一方のリード線19のみを示す。)に接続されている。
【0028】
センサ素子6は、ガスセンサ1を排気管(図示外)に取り付けるための金具である筒状の主体金具5に保持される。具体的に、主体金具5は、筒孔55内の先端側に設けた段部59と、後端に設けた加締部57との間に、アルミナからなる支持部材13、滑石粉末からなる充填部材15、およびアルミナ製のスリーブ16を、パッキン17を介して支持する。そして、センサ素子6のフランジ部65を、支持部材13と充填部材15との間に挟むことによって、筒孔55内にセンサ素子6を保持するとともに、充填部材15によって、筒孔55内の気密性を確保する。
【0029】
主体金具5は、外周に、ガスセンサ1を排気管に取り付けるためのねじ山が形成された雄ねじ部52を有する。雄ねじ部52の先端側には、後述するプロテクタ4を取り付ける先端取付部56が形成されている。雄ねじ部52の後端側には、排気管への取り付けの際に使用される工具が係合される工具係合部53が設けられている。工具係合部53と雄ねじ部52との間には、排気管の取付部を介したガス抜けを防止するための環状のガスケット11が嵌挿されている。工具係合部53の後端側には、後述する外筒3と取り付ける後端取付部58が形成されている。後端取付部58の後端側に、上記の加締部57が設けられている。
【0030】
センサ素子6の先端部64の先端側は主体金具5の先端取付部56から突出され、先端取付部56に溶接されるプロテクタ4に覆われる。プロテクタ4は、排気管内に突き出されるセンサ素子6の先端部64を、排気ガス中に含まれる水滴や異物等の衝突から保護する。プロテクタ4は、外側プロテクタ41と内側プロテクタ45とからなる2重構造を有する。外側プロテクタ41および内側プロテクタ45の外周面には、内部に排気ガスを導入し、センサ素子6の先端部64(検出部)へと導く導入口42が、それぞれ開口されている(内側プロテクタ45のガス導入口は図示せず。)。外側プロテクタ41および内側プロテクタ45の底面には、内部に入り込んだ水滴や排気ガスを排出するための排出口43,48が、それぞれ開口されている。
【0031】
センサ素子6の後端部66は、主体金具5の後端(加締部57)から突出され、後端取付部58に溶接にされる外筒3に覆われる。外筒3は、SUS304等のステンレス鋼を軸線O方向に沿って延びる筒状に形成し、さらに略中央より先端側(図1において下側)を、後端側よりも大径に形成したものである。外筒3内には、上記のセンサ素子6の後端部66、セパレータ8、グロメット9等が配置される。
【0032】
センサ素子6の後端部66よりも軸線O方向の後端側には、絶縁性セラミックスからなる筒状のセパレータ8が配置されている。セパレータ8は、センサ素子6の接続端子70,75、およびヒータ7の電極端子74が互いに接触しないように、それぞれ独立に内部に収容する。また、接続端子70,75や電極端子74と内周面との隙間を介し、セパレータ8の先端側と後端側との間で大気連通が可能となっている。外筒3のセパレータ8が配置された部分の外周が加締められ、セパレータ8は、保持金具85を介して外筒3内に保持される。
【0033】
セパレータ8の後端側にはフッ素系ゴムからなるグロメット9が配置されている。グロメット9は、外筒3の後端側の開口に嵌められて、開口付近の外周が加締められることにより、外筒3に保持されている。グロメット9には、外筒3内に大気を導入するための連通孔91が形成されている。連通孔91内には、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂から形成された薄膜状のフィルタ部材87およびその留め金具88が挿入されており、水滴等の進入が防止されている。また、セパレータ8内で接続端子70,75に接続されるリード線18、および電極端子74に接続されるリード線19が、グロメット9を介して外部に引き出されている。
【0034】
このようなガスセンサ1に用いるセンサ素子6は、固体電解質体61からなる基体の先端部64における外表面上に、検出電極62および保護層67の密着性を確保するための凹凸形状を有する。図3に示すように、固体電解質体61は、先端部64(図2参照)の外表面に、固体電解質体61の表層をなす密着層101を備える。密着層101は、表面から突出する複数の凸部102と、凸部102が突出される基部103を有する。凸部102は半球状をなしている。凸部102が基部103から突出するその根元付近は、基部103の表面との境目付近へ向けて径方向内向きに凹部状にくびれた部位(以下「クビレ部」104という。)が形成されている。
【0035】
上記したように、検出電極62は、固体電解質体61の表層を構成する密着層101の表面、すなわち凸部102および基部103の表面を、PtまたはPt合金で覆って形成したものである。検出電極62は、クビレ部104においては凹みの中に入り込んで、凸部102と基部103の境目を含めて密着層101の表面を覆う。このため検出電極62は、基部103の表面から遠ざかる向きに応力を受けても、クビレ部104に引っ掛かることによって抗力(いわゆるアンカー効果)を生ずる。このように固体電解質体61は、表層に密着層101として基部103から突出する凸部102を有することで、検出電極62との密着性を確保することができる。
【0036】
また、固体電解質体61の先端部64の周囲には、検出電極62を覆って保護層67が設けられる。検出電極62の厚みは例えば1μmであり、詳細は後述するが、クビレ部104の凹みは検出電極62の厚みよりも深く形成され易く、クビレ部104には検出電極62が形成されてもなお凹みが残る場合が多い。ゆえに保護層67は、検出電極62と同様にクビレ部104の凹みに入り込み、検出電極62ごと密着層101の表面を覆う。したがって、クビレ部104によるアンカー効果は保護層67に対しても有効に作用し、固体電解質体61は保護層67との密着性も確保することができる。
【0037】
後述するが、密着層101は、2種類の粒子(造粒子151、微粒子152(図5参照))を含むペーストを未焼成の固体電解質体61の外表面に塗布し、固体電解質体61と同時焼成することにより形成される。本実施の形態では、密着層101上に形成する検出電極62および保護層67の密着性を確保し、また、密着層101において隣り合う凸部102同士の接触に起因する被水耐熱性の低下を抑制するため、以下の(1)〜(3)の規定を設けている。
(1)密着層101の基部103の表面において、1mm当りに形成された凸部102の個数をN[個]としたとき、10≦N≦50であることを規定している。
(2)基部103の表面と直交する方向(言い換えると有底筒状である固体電解質体61の厚み方向であり、以下では便宜上「突出方向」と呼ぶ。)において、基部103から突出する凸部102の平均高さをH[μm]としたとき、55≦H≦75であることを規定している。
(3)凸部102の外径をD[μm]としたとき、45<D<90である凸部102の数が、凸部102の全体数の70%以上存在することを規定している。なお、凸部102の外径Dは、凸部102の突出方向と直交する方向における凸部102の最大外径とする。
【0038】
(1)の規定について、後述する実施例1によれば、凸部102の個数Nが10個未満の場合、アンカー効果を生ずるクビレ部104の単位面積当たりの数が、相対的に少なくなる。つまり、固体電解質体61の先端部64において、検出電極62や保護層67を密着状態に維持するアンカー効果を得られる部位が、相対的に少なくなる。検出電極62や保護層67の密着性を確保できずに剥がれや浮きが生ずると、冷熱耐久性を確保することが難しくなる。
【0039】
一方、凸部102の個数Nが50個より多い場合、基部103上で凸部102が十分に分散して配置されずに密集する部位を生ずる虞がある。密集によって隣り合う凸部102同士が接触すると、凸部102同士の間に空洞や凹みを生ずる場合がある。そのような空洞や凹みに水滴が進入すると、冷熱サイクルにおいて水蒸気の膨張による熱衝撃によって固体電解質体61にクラックを生ずる虞があり、被水耐熱性が低下する場合がある。
【0040】
また、凸部102同士の間に空洞や凹みを生ずることによって、密着層101上に形成した保護層67において、密な部分と疎な部分との疎密の差が大きくなる場合がある。後述するが、保護層67は溶射によって形成されるため、空洞や凹みがあると、その部分は疎に形成されやすい。保護層67の疎・密の差が大きくなると、センサの応答性にバラツキを生じてしまう虞がある。
【0041】
(2)の規定について、後述する実施例2によれば、凸部102の平均高さHが55μm未満の場合、凸部102のもととなる造粒子151(図5参照)は、全体的に、粒径の小さなものが多くなってしまう。粒径の小さな造粒子151は、粒径の大きなものと比べ、凸部102を形成した際にクビレ部の凹みが小さくなる傾向がある。すると検出電極62や保護層67を密着状態に維持するアンカー効果を得られにくくなって、検出電極62や保護層67の密着性を確保できず、冷熱耐久性を確保することが難しくなる。
【0042】
一方、凸部102の平均高さHが75μmより大きい場合、密着層101上に形成した保護層67において、密な部分と疎な部分との疎密の差が大きくなる。保護層67は溶射によって形成されるため、クビレ部104のある凸部102の根元側(基部103に近い側)では、疎に形成されやすい。凸部102の高さが高くなるほどクビレ部104の凹みが深くなるので、凸部102の根元側に形成される保護層67は、より疎になりやすい。保護層67の疎・密の差が大きくなると、センサの応答性にバラツキを生じてしまう虞がある。
【0043】
また、凸部102の平均高さHが55μm以上75μm以下の範囲に含まれないことは、言い換えると、凸部102の高さにおけるバラツキが大きいということを意味する。ここで、PtまたはPt合金からなる検出電極62は、めっき浴において形成される。高さの高い凸部102と、高さの低い凸部102とが混在すると、高さの高い凸部102のめっき層が形成されるまで間に、高さの低い凸部102はめっき層の全体への形成がなされた後、さらにその厚みが厚く形成される。このため、凸部102の高さのバラツキが大きいほど、Ptの使用量が多くなってしまう場合がある。
【0044】
(3)の規定について、後述する実施例3、4によれば、凸部102の外径Dが45〜90μmのものが全体数の70%未満である場合、凸部102の外径Dのバラツキが大きくなる。後述するが、凸部102の外径Dは、凸部102のもととなる造粒子151(図5参照)の粒径に相当する。粒径で45μm以下のものが比較的多くなり、造粒子151が粒径の小さい側に偏ると、上記のように、凸部102を形成した際にクビレ部104の凹みが小さくなってアンカー効果を得られにくくなり、検出電極62や保護層67の密着性を確保できず、冷熱耐久性を確保することが難しくなる。一方、粒径で90μm以上のものが比較的多くなり、造粒子151が粒径の大きい側に偏ると、上記のように、密着層101上に形成した保護層67において、密な部分と疎な部分との疎密の差が大きくなって、センサの応答性にバラツキを生じてしまう虞がある。
【0045】
また、密着層101の形成の際に、造粒子151の大きさのバラツキが大きいと、造粒子151同士が重なり合う部分が多く発生する虞がある。そのまま密着層101が形成されると、凸部102同士が接触した状態になる部分が多く発生する虞がある。上記したように、凸部102同士の間に空洞や凹みを生ずると、センサ素子6の被水耐熱性が低下する場合がある。
【0046】
次に、上記の構成のセンサ素子6を備えるガスセンサ1の製造方法について説明する。まず、センサ素子6は、以下のように製造した。
【0047】
固体電解質体61の材料としては、各種のセラミックス、例えば安定化または部分安定化ジルコニア質を主体とし、必要に応じ、Al23、SiO2、Fe23を含有する材料が挙げられる。製造法としては、通常、ZrO2にY23、CaO、MgOなどの2〜3価の金属酸化物を所望の割合で混合して粉砕後、電気炉中で仮焼成し、再び微粉砕することにより安定化または部分安定化されたジルコニア質の原料粉末を得る。次いで、例えばラバープレス法等の加圧成形法、厚膜法等の積層法などによってこれを略筒状、例えば、一方の先端が閉じた筒状体に成形することにより得ることができる。
【0048】
詳細には、酸化ジルコニウムに6モル%の酸化イットリウムを添加した混合物を70時間湿式粉砕したのち乾燥し、20メッシュの篩に通した。これを電気炉で1300℃、1時間の仮焼を行い、20メッシュの篩に通した。そして、湿式で50時間ボールミル粉砕を行って、2.5μm以下の大きさのものが90%含まれる微粉砕原料粉末を得た。この原料粉末に有機バインダとしてアラビアゴムを加えて得た泥漿をスプレードライヤにかけて、平均粒径60μm程度の粒子を得た。この粒子を水分が1%になるように調整し、50Paのラバープレス成形を行って、一方が閉じた有底筒状の固体電解質体61のもととなる母体161(図4参照)を得た。この母体161は、先端部64(後述の保護層67で被覆される部分)の平均外径が6.5mm、外表面積が約5.7cmであった。
【0049】
また、造粒子151、微粒子152は、母体161と実質的に同種の材質よりなることが好ましい。この造粒子151、微粒子152の材質は、母体161とまったく同じものである必要はないが、基本的にその性状が同様なものでないと、後の焼成処理によって母体161に造粒子151、微粒子152が安定して強固に一体固着しにくいので好ましくない。
【0050】
詳細には、上記同様にスプレードライヤによって得た粒子を1200〜1300℃の温度で1時間仮焼する。仮焼した粒子を篩いにかけて分級し、70%以上の粒子が粒径45〜90μm(90μmを超えるものが5%以下、45μm未満のものが25%以下)の造粒子151(図5参照)を得る。
【0051】
なお、造粒子151の粒径(すなわち密着層101の形成後における凸部102の外径D)が45μm未満のものが25%より多く含まれる場合、密着層101の形成過程では、母体161の表面に耐熱性が良好な多数の凸部102を形成させることが難しい。すると、母体161の表面に多孔質層を形成させたような状態になる傾向があり、好ましくない。また、造粒子151の粒径が90μmを超えるものが5%より多く含まれる場合、密着層101の形成過程では、母体161の表面に十分な数の凸部102を形成させることが難しい。すると密着層101上に形成する検出電極62や保護層67の密着性を確保できず、冷熱耐久性を十分に確保できない虞がある。このような造粒子151を得るための造粒方法としては、特に限定されるものではないが、上記のスプレードライヤによって製造した場合、粒子形状が安定しやすい。しかもより緻密な粒子として形成されやすく、母体161と造粒子151との結合力が高くなり、好ましい。
【0052】
同様に、分級により、粒子の殆どが10μm以下、好ましくは80%以上の粒子が2.5μm以下の微粒子152(図5参照)を得る。微粒子152は、母体161と造粒子151との結合を助けるための焼結補助剤として用いられる。ゆえに、粒径が大きい場合(粒径が2.5μmより大きな微粒子152が20%以上含まれる場合)には、その役目を十分果たすことができない。
【0053】
このように分級して得た造粒子151と微粒子152とを、混合重量比が、造粒子:微粒子で30:70〜20:80となるように、水と水溶性バインダNH−CMCの混合溶媒153(図5参照)に加え、粘度が600〜1700CPSの範囲内のペースト154(図4参照)を調製した。ここで、混合溶媒153は、水と有機バインダを100:1〜40:1となるように混合したものが好ましい。有機バインダとしては、例えば、Na−CMC(繊維素グリコール酸ナトリウム)、NH4−CMC(繊維素グリコール酸アンモニウム)、PVA(ポリビニルアルコール)などが挙げられる。水と有機バインダの混合比率はペースト154の粘度に大きく影響を与える場合がある。例えば、NH4−CMCを用いた場合、水の割合が100:1を越えると粘度が小さくなり、ペースト154中の造粒子151がすぐに沈殿するため、母体161の表面全面に均一に凸部102を形成することが難しくなる虞がある。水の割合が40:1未満になると粘度が大きくなり、凸部102が母体161上で積層しやすくなる場合がある。すると水分乾燥後において、バインダ層の結合力により母体161より造粒子151と微粒子152が剥がれる虞がある。
【0054】
なお、微粒子152に対する造粒子151の割合が30%よりも多くなると、造粒子151が母体161の表面で重なりあう部分が多くなる。すると造粒子151間にできる空洞や凹みが多くなり、上記のように、焼成後に形成される固体電解質体61の被水耐熱性が低下する場合がある。また、溶射によって凸部102を覆って形成される保護層67の密度バラツキが増える傾向にあり、好ましくない。一方、微粒子152に対する造粒子151の割合が20%よりも少なくなると、母体161の表面に十分な数の凸部102を形成させることが難しい。すると密着層101上に形成する検出電極62や保護層67の密着性を確保できず、冷熱耐久性を十分に確保できない虞がある。
【0055】
上記のように調製したペースト154を、上記未焼成の母体161の外表面のうち、後述の保護層67で被覆される先端部64の外表面に、溢流塗り装置170を用いて塗布した。図4に示すように、溢流塗り装置170は、回転ドラム171(ドラム径90mm)と、ペースト供給部材172と、供給板173と、カキ板174と、母体回転支持部材(図示外)とを備える。回転ドラム171は、ペースト154を未焼成の母体161の外表面に付与(塗布)する。ペースト供給部材172は、回転ドラム171の斜め上方位置から回転ドラム171の外周面上にペースト154を供給する。供給板173は、ペースト供給部材172によって供給されるペースト154の供給量を調整すると共に、ペースト154が回転ドラム171の外周面上に広がるように塗布する。カキ板174は、回転ドラム171の外周面上のペースト154の厚さが一定(例えば250μm)になるようにペースト154を掻き落とす。母体回転支持部材(図示外)は、未焼成の母体161を軸回転可能に支持し、母体161の先端部64の外表面が回転ドラム171の外周面上のペースト154と接触した状態に保持する。なお、母体161の先端部64は、回転ドラム171に付与されたペースト154がせり上がってくることにより塗布される。
【0056】
なお、ペースト154の母体161への付着重量は、3.0〜12.0mg/cmであることが好ましい。付着重量が3.0mg/cm未満になると、母体161の表面に十分な数の凸部102を形成させることが難しく、冷熱耐久性を十分に確保できない虞がある。一方、付着重量が12.0mg/cmを超えると、造粒子151同士が重なり合う部分が多く発生する虞があり、被水耐熱性が低下する場合がある。
【0057】
母体161にペースト154を塗布したのち、これを1600℃で1時間、酸化雰囲気下で焼成した。図6に示すように、母体161(図5参照)を焼成して形成された固体電解質体61は、表層をなす密着層101を構成する造粒子151および微粒子152(図5参照)が、母体161と一体となった。
【0058】
焼成後は、この固体電解質体61の内側および外側に検出電極62および基準電極63を被着させる。この検出電極62および基準電極63としては、具体的には、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウムおよびこれらの合金などが挙げられる。この電極を被着させる方法としては、例えば、真空蒸着法、化学蒸着法、無電解メッキ法、電気メッキ法あるいは、分解する金属の塩を塗布したのち加熱して金属を分解付着させる方法などが挙げられる。さらに、検出電極62を覆うスピネルの保護層67を、周知のプラズマ溶射法により形成した。これにより、図2に示すセンサ素子6を得た。
【0059】
次に、ガスセンサ1の組み立てについて説明する。主体金具5は、SUS430等のステンレス鋼からなるパイプ状の鋼材に鍛造加工を施し、次いで切削加工を施して、工具係合部53や後端取付部58、雄ねじ部52、筒孔55等の形状を成形した後、雄ねじ部52にねじ山を転造して作製される。別過程で作製したプロテクタ4を溶接により主体金具5に接合し、その主体金具5の筒孔55内にセンサ素子6を加締め保持することにより、ガスセンサ1の先端側の組立中間体を作製する。
【0060】
一方、導電性の板材から作製した接続端子70,75にそれぞれリード線18の芯線を加締めて接合する。また、ヒータ7の2つの電極端子74にリード線19の芯線それぞれ加締めて接合する。接続端子70,75とヒータ7をセパレータ8内に収容する。フィルタ部材87等を組み付けたグロメット9にリード線18,19を挿通し、セパレータ8と共にグロメット9を外筒3内の所定の位置に配置する。外筒3の外周を加締めてセパレータ8およびグロメット9を保持することにより、ガスセンサ1の後端側の組立中間体を作製する。
【0061】
先端側の組立中間体と後端側の組立中間体とを互いに組み合わせ、主体金具5の後端取付部58に係合した外筒3の先端部の周囲を加締める。さらに外筒3の先端部の周囲にレーザ溶接を施して、両組立中間体を一体にする。4本のリード線18,19を束ね、被覆(図示外)を被せ、ガスセンサ1が完成する。
【0062】
以上説明したように、本実施の形態のガスセンサ1は、センサ素子6の先端部64の表層に凹凸形状を有する密着層101を形成し、検出電極62および保護層67の密着性を確保したものである。より詳細に、密着層101は基部103から突出する複数の凸部102を有するが、凸部102を形成する上で、上記(1)〜(3)の規定を設けた。具体的に、(1)、(3)の規定によって、1mm当りの凸部102の個数を従来よりも減らし、外径Dのバラツキを小さくすることで、センサ素子6の被水耐熱性を向上することができた。そのトレードオフとして、検出電極62および保護層67の密着性、ひいては冷熱耐久性を確保できなくなる虞があるが、(2)の規定によって凸部102のアンカー効果を確実に得られるようにすることで、密着性を確保することができた。また、Ptの使用量も削減することができた。
【実施例1】
【0063】
センサ素子6の固体電解質体61の外表面を凹凸形状に形成する上で上記の(1)〜(3)の規定を設けたことに対する効果を確認するため、評価試験を行った。まず、(1)の規定について効果を確認するため、被水耐熱性および保護層67の密着性(冷熱耐久性)を確認する試験を行った。上記したセンサ素子6の製造過程において、造粒子151と微粒子152の混合比を様々な比率に異ならせたペースト154を調製し、母体161に塗布して焼成し、固体電解質体61のサンプルを得た。
【0064】
次に、超深度顕微鏡(レーザ顕微鏡)を用い、各サンプルの先端部64の表面を、1mm幅で軸線O方向に沿って14mmの長さ分、撮影し、表面の状態を観察した。超深度顕微鏡は、レンズ倍率を200倍、ピッチを5μm、光学ズーム倍率を1倍に設定した。この1mm×14mmの範囲内に含まれる凸部102の個数を撮影画像から数え、1mm当りの凸部102の個数Nが5個、10個、30個、50個、70個であったサンプルをそれぞれ複数本ずつ抽出し、順にサンプル1A〜1Eとした。
【0065】
さらに、上記抽出したサンプル1A〜1Eについて、上記の1mm×14mmの範囲内において、100μm×100μmの四角い領域を表示し、その領域内に丁度納まる凸部102を任意に10個選ぶ。すなわち、隣り合う凸部102に近接したり接触したりすることなく、100μm×100μmの四角い領域で区切っても独立に存在する凸部102を任意に10個選ぶ。そして、選んだ10個の凸部102の超深度顕微鏡による撮影画像を3D合成し、個々の凸部102が基部103から突出する高さを測定して平均値(平均高さH)を求めた。
【0066】
なお、密着層101の形成において、上記の製造過程で母体161にペースト154を塗布した際に、凸部102のもととなる造粒子151が、基部103のもととなる微粒子152およびバインダの層に、粒径(すなわち凸部102の外径D)の半分以上、埋もれてしまうことはない。しかし、造粒子151がバインダの層の上に浮いて配置される場合がある。本実施の形態では、凸部102が基部103から突出する高さを測定する上で、個々の凸部102について、突出高さがその凸部102の外径Dに対して75%以上である場合、その凸部102は基部103と一体になっていないと判断して、突出高さの測定対象から除外している。
【0067】
凸部102の平均高さHが60μmであったものを抽出してサンプル1A〜1Eにそれぞれ残し、平均高さHが60μmでないものをサンプルから除外した。そして、サンプル1A〜1Eに検出電極62および保護層67を形成し、センサ素子6としてそれぞれ完成させた。
【0068】
凸部102の個数Nが異なる各サンプル1A〜1Eに対し、被水耐熱性を評価する試験を行った。図7に示すように、各サンプル1A〜1Eについて、用意した複数本の中から1本を取り出し、筒穴69内にヒータ7を挿入し、直流電源110に繋いでヒータ7に通電し、センサ素子6を所定温度(例えば500℃)に昇温した。センサ素子6の先端部64の表面をサーモトレーサ(赤外線カメラ)111で撮影し、モニタ112に映して表面温度の状態を観察した。表面温度が最高温度の部分115にマイクロシリンジ113で2μlの水滴を滴下した。滴下によって下がった温度が所定温度に昇温したら再度2μlの水滴114を滴下し、これを5回繰返したのち、レッドチェックによって、滴下部分の付近にクラックが発生していないか確認した。クラックがなければ、所定温度より25℃高い温度を設定し、上記同様に各サンプル1A〜1Eの複数本の中から未評価の別の1本を取り出し、水滴114の滴下を5回行ったのち、クラックの有無を確認した。このように、ヒータの温度を25℃ずつ高め、クラックの発生を確認できた際の温度を、各サンプル1A〜1Eについて特定した。575℃以下でクラックが発生したサンプルは、被水耐熱性が確保できないとして「×」と評価した。600℃でクラックが発生したサンプルは、被水耐熱性が十分でないとして「△」と評価した。625℃以上でクラックが発生したサンプルは、十分な被水耐熱性が得られたとして「○」と評価した。
【0069】
次に、上記の各サンプル1A〜1Eから未評価の1本を取り出し、保護層67の密着性(冷熱耐久性)を評価する試験を行った。各サンプル1A〜1Eの先端部64をバーナーで1000℃に加熱し、5分間の室温冷却を行う処理を1サイクルとし、サイクルを繰り返した。1サイクル終了の都度、保護層67に剥離が生じていないか、目視により確認した。そして、剥離を生ずるまで繰り返したサイクル数を、各サンプル1A〜1Eについて特定した。300サイクル以下で剥離を生じたサンプルは、密着性を確保できないとして「×」と評価した。301〜499サイクルで剥離を生じたサンプルは、密着性が十分でないとして「△」と評価した。500サイクル以上で剥離を生じたサンプルは、十分な密着性が得られたとして「○」と評価した。上記被水耐熱性および密着性の評価試験の結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示すように、1mm当りの凸部102の個数Nが5個〜50個のサンプル1A〜1Dは、基部103上で個々の凸部102が密集することなく分散して配置され、十分な被水耐熱性を確保できた。しかし、1mm当りの凸部102の個数Nが70個のサンプル1Eでは、凸部102が密集して空洞や凹みを生じ、被水耐熱性が低下した。また、1mm当りの凸部102の個数Nが10個〜70個のサンプル1B〜1Eは、冷熱サイクルが500サイクル以上繰り返されても保護層67に剥離を生ずることがなく、十分な密着性(冷熱耐久性)を確保でき、従来と同程度のアンカー効果を得られたことが確認できた。しかし、1mm当りの凸部102の個数Nが5個のサンプル1Aでは、300サイクル以下の冷熱サイクルで保護層67に剥離を生じてしまい、密着性を確保することができず、従来と同程度のアンカー効果を得られなかった。この評価試験の結果より、1mm当りの凸部102の個数Nが10個〜50個となるように規定することで、被水耐熱性を高めつつ、保護層67の密着性も確保できることが確認できた。
【実施例2】
【0072】
次に、(2)の規定について効果を確認するため、保護層67の密着性(冷熱耐久性)およびセンサ応答性を確認する試験を行った。センサ素子6の製造過程において、造粒子151と微粒子152の混合比を所定の比率にしたペースト154を調製し、母体161に塗布して焼成し、固体電解質体61のサンプルを得た。実施例1と同様に超深度顕微鏡を用い、各サンプルの先端部64の表面において1mm×14mmの範囲内に含まれる凸部102の個数を数え、1mm当りの凸部102の個数Nが30個であったサンプルを抽出した。
【0073】
さらに実施例1と同様に、上記抽出したサンプルそれぞれについて、凸部102が基部103から突出する高さを測定して平均高さHを求めた。本実施例では、凸部102の平均高さHが40μm、55μm、60μm、75μm、105μmであったものを、順にサンプル2A〜2Eとして用意できた。そして、用意できた各サンプル2A〜2Eに検出電極62および保護層67を形成し、センサ素子6としてそれぞれ完成させた。
【0074】
そして、各サンプル2A〜2Eをガスセンサ1として完成させ、プロパンガスを含む雰囲気が供給されるチャンバー内に設置したブッシュに組み付けた。ガスセンサ1に通電し、センサ素子6の出力値(λ値)を取得し、λ値が0.9〜1.1の間で変化するようにチャンバー内にプロパンガスを周期的に打ち込み、雰囲気の空燃比をリッチ・リーンの間で周期的に変動させた。そして、プロパンガスを打ち込んでから、それに応じてλ値が変化するまでの経過時間を、各サンプル2A〜2Eについて測定した。経過時間のバラツキが21ms以上かかったサンプルは、センサの応答性がよくないとして「×」と評価した。経過時間のバラツキが15ms〜20msであったサンプルは、センサの応答性が望ましくないとして「△」と評価した。経過時間のバラツキが14ms以下であったサンプルは、センサの応答性が良好であるとして「○」と評価した。
【0075】
さらに、各サンプル2A〜2Eについて、センサ素子6を上記組み立てたガスセンサ1から取り外し、実施例1と同様のバーナーによる加熱と室温冷却を繰り返す、保護層67の密着性(冷熱耐久性)を評価する試験を行った。上記の密着性(冷熱耐久性)およびセンサ応答性の評価試験の結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表2に示すように、凸部102の平均高さHが55μm〜105μmのサンプル2B〜2Eは、冷熱サイクルが500サイクル以上繰り返されても保護層67に剥離を生ずることがなかった。サンプル2B〜2Eは、十分な密着性(冷熱耐久性)を確保でき、従来と同程度のアンカー効果を得られたことが確認できた。しかし、凸部102の平均高さHが40μmのサンプル2Aでは、300サイクル以下の冷熱サイクルで保護層67に剥離を生じてしまい、密着性を確保することができず、従来と同程度のアンカー効果を得られなかった。また、凸部102の平均高さHが40μm〜75μmのサンプル2A〜2Dは、空燃比の変化から14ms以下でλ値が変化し、十分なセンサ応答性を確保できることが確認できた。しかし、凸部102の平均高さHが105μmのサンプル2Eは、空燃比の変化からλ値が変化するまで21ms以上かかり、センサ応答性として十分な速度が得られなかった。この評価試験の結果より、凸部102の平均高さHが55μm〜75μmとなるように規定することで、保護層67の密着性とセンサ応答性を確保できることが確認できた。
【実施例3】
【0078】
次に、(3)の規定について効果を確認するため、保護層67の密着性(冷熱耐久性)およびセンサ応答性を確認する試験を行った。センサ素子6の製造過程において、さまざまな目の篩いを用いて造粒子151の分級を行い、実施例1と同様に造粒子151と微粒子152の混合比を様々な比率に異ならせたペースト154を調製した。このペースト154を母体161に塗布して焼成し、固体電解質体61のサンプルを得た。実施例1と同様に超深度顕微鏡を用い、各サンプルの先端部64の表面において1mm×14mmの範囲内に含まれる凸部102の個数を数え、1mm当りの凸部102の個数Nが30個であったサンプルを抽出した。
【0079】
さらに実施例1と同様に、上記抽出したサンプルそれぞれについて、凸部102が基部103から突出する高さを測定して平均高さHを求めた。凸部102の平均高さHが60μmであったサンプルをさらに抽出した。そして、抽出した固体電解質体61の各サンプルに検出電極62および保護層67を形成し、センサ素子6のサンプルをそれぞれ完成させた。
【0080】
完成したサンプルから任意の9本を選び、サンプル3A〜3Hとした。サンプル3A〜3Hそれぞれについて、上記の超深度顕微鏡による1mm×14mmの範囲の撮影画像を再度表示し、目視により凸部102の観察を行った。サンプル3A,3B,3F〜3Hは、その範囲内に含まれる凸部102のうち、隣り合う凸部102同士が接触あるいは重なりを生じている箇所が200箇所以上あり、凸部102の分布においてバラツキがあると評価した。サンプル3C〜3Eは、隣り合う凸部102同士が接触あるいは重なりを生じている箇所が200箇所未満であり、凸部102は分散して配置され、分布におけるバラツキはないと評価した。
【0081】
さらに、各サンプル3A〜3Hについて、上記範囲内の凸部102の外径D(突出方向と直交する方向における最大外径)が90μm以上のもの、45μm〜90μmのもの、45μm以下のものに分別し、それぞれ個数を数えて全体数に対する割合を求めた。
【0082】
次に、各サンプル3A〜3Hをガスセンサ1として完成させ、実施例2と同様に、プロパンガスを打ち込んでから、それに応じてλ値が変化するまでの経過時間を測定する、センサ応答性を評価する試験を行った。さらに、各サンプル3A〜3Hについて、センサ素子6を上記組み立てたガスセンサ1から取り外し、実施例1と同様のバーナーによる加熱と室温冷却を繰り返す、保護層67の密着性(冷熱耐久性)を評価する試験を行った。上記の密着性(冷熱耐久性)およびセンサ応答性の評価試験の結果を表3に示す。
【0083】
【表3】

【0084】
表3に示すように、凸部102の分布におけるバラツキがないと評価されたサンプル3C〜3Eは、いずれも、凸部102の外径Dが45μm〜90μmのものが、70%以上含まれていた。すなわち、密着性に大きく寄与しながらも外径Dのバラツキの要因となる90μm以上の凸部102と、バラツキを抑えつつも密着性低下の要因となる45μm以下の凸部102の全体に占める割合が30%未満であり、少なかった。凸部102の外径Dの分布が全体として45μm〜90μmの範囲に集中するサンプル3C〜3Eは、いずれも、十分な密着性(冷熱耐久性)を確保でき、且つ、十分なセンサ応答性を確保できることが確認できた。
【0085】
サンプル3Aは、凸部102の外径Dが90μm以上の凸部102は無かったが、45μm〜90μmの凸部102が50%あり、また、45μm以下のものも50%あった。すなわち、凸部102が90μm未満のものだけで全体として一様な分布となっており、センサ応答性は確保できた。しかし、密着性の面で不利な45μm以下の凸部102が50%であったことから、密着性を確保できなかった。サンプル3Hは、サンプル3Aよりも外径Dが45μm以下の凸部102が少なく40%であった。すなわち、外径Dが45μmより大きな凸部102が60%あり、そのうち、密着性に大きく寄与する90μmより大きなものが15%もあり、密着性を確保することができた。しかし、サンプル3Hは、外径Dが45μm〜90μmの凸部102が45%しかなく、さらに残りの55%が45μm以下のものから90μm以上のものまで大きさ範囲の全体に広く分散してしまい、センサ応答性が低下してしまった。サンプル3Gもサンプル3Hと同様であり、凸部102の外径Dが90μm以上のものが多く、45μm以下のものが少ないため密着性は確保できるものの、凸部102の外径Dが大きさ範囲の全体に広く分散したことによって、センサ応答性は確保できなかった。
【0086】
サンプル3Fは、密着性の面で不利な45μm以下の凸部102がサンプル3Gとほぼ同等の30%である一方、密着性に寄与する90μm以上のものがサンプル3Hよりも少なく8%であったが、密着性を確保することができた。しかし、バラツキの要因となる90μm以上の凸部102が8%と少なくなったものの、外径Dが45μm〜90μmの凸部102が62%すなわち70%未満であり、なお外径Dの分散が大きく、センサ応答性として十分な早さを得られなかった。サンプル3Bは、凸部102の外径Dが90μm以上のものが2%と少なく、つまり98%のものが90μm未満の外径Dを有するため、外径Dの分散が抑えられて、センサ応答性が向上した。しかし、外径Dが45〜90μmのものが74%すなわち70%以上あるサンプルCと比べると63%と少なく、45μm以下のものが多い。このため、十分なアンカー効果を得られず、密着性としては不十分であった。この評価試験の結果より、凸部102の外径Dが90μm〜45μmのものを70%以上含むように規定することで、保護層67の密着性とセンサ応答性を確保できることが確認できた。
【実施例4】
【0087】
さらに、(3)の規定について、センサ素子の従来品との比較試験を行った。(1)〜(3)の規定をすべて満たす、センサ素子6のサンプル4A〜4Hと、少なくとも(3)の規定を満たさないサンプル4I〜4K(従来品)とに対し、実施例1において説明した被水耐熱性の評価試験を行った。この試験の結果を表4に示す。
【0088】
【表4】

【0089】
表4に示すように、サンプル4A〜4Hは、凸部102の平均高さHが、いずれも55μm〜75μmの範囲に含まれ、(2)の規定を満たす。また、サンプル4A〜4Hは、1mm当りの凸部102の個数Nが、いずれも10個〜50個の範囲に含まれ、(1)の規定を満たす。さらに、サンプル4A〜4Hは、外径をDが45μm<D<90μmである凸部102の数が、いずれも全体数の70%以上存在し、(3)の規定を満たす。これらサンプル4A〜4Hは、いずれも625℃以上、特にサンプル4A〜4Fは675℃以上でクラックが発生し、十分な被水耐熱性を得られることが確認できた。
【0090】
一方、(3)の規定を満たさないサンプル4Iと、(1),(3)の規定を満たさないサンプル4J,4Kは、いずれも、575℃においてクラックが発生し、十分な被水耐熱性が得られなかった。特にサンプル4Jは、525℃においてクラックが発生してしまった。
【符号の説明】
【0091】
1 ガスセンサ
3 外筒
5 主体金具
6 センサ素子
18 リード線
61 固体電解質体
62 検出電極
63 基準電極
67 保護層
101 密着層
102 凸部
103 基部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端が閉じられた有底筒状をなす固体電解質体と、前記固体電解質体の内表面および外表面にそれぞれ設けられた内側電極および外側電極と、前記外側電極を覆って保護する保護層と、前記固体電解質体の前記外表面のうち、前記保護層が設けられる部位の少なくとも一部に、前記固体電解質体の表層をなし、複数の凸部が形成されてなる密着層とを備え、測定対象ガス中の特定ガス成分を検出するガスセンサ素子において、
前記密着層は、前記凸部と、自身の表面から前記凸部が突出される基部とを有し、
前記基部の表面において、1mm当たりに形成された前記凸部の個数をNとしたとき、10≦N≦50[個]であり、
前記基部の表面と直交する方向において、前記凸部が前記基部の表面から突出する高さの平均をHとしたとき、55≦H≦75[μm]であり、且つ、
前記凸部の外径をDとしたとき、45<D<90[μm]である前記凸部の数が前記凸部全体数の70%以上あること
を特徴とするガスセンサ素子。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサ素子と、
前記ガスセンサ素子の径方向周囲を取り囲んで保持する主体金具と、
先端側が前記主体金具に固定され、前記ガスセンサ素子の後端側の径方向周囲を取り囲む筒状の外筒と、
前記外筒内で、一対の前記電極にそれぞれ接続され、前記ガスセンサ素子の出力を外部に取り出す一対のリード線と、
を備えることを特徴とするガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−101021(P2013−101021A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244252(P2011−244252)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】