ガス拡散電極用基材の製造方法およびそれに用いるガス拡散電極用基材形成用粉体状材料
【課題】導電性およびガス透過性が共に高く且つフッ素を用いなくとも撥水性の高いガス拡散電極用基材を、量産性が高く低コストで製造可能な製造方法を提供する。
【解決手段】炭素繊維、導電性微粒子、アクリルシリコン系樹脂が混合されたスラリーを乾燥して、その炭素繊維に炭素微粒子およびアクリルシリコン系樹脂が付着した粉体状材料を生成する粉体材料生成工程(乾燥工程S3、造粒工程S4)と、その粉体状材料を下型ダイス内に充填してアクリルシリコン系樹脂の軟化温度よりも高い温度で加熱圧縮することで、炭素繊維が導電性微粒子を介在させた状態でアクリルシリコン系樹脂により結合されたガス拡散電極用基材を成形するホットプレス工程S5とにより、比較的単純な工程でガス拡散電極用基材が製造される。
【解決手段】炭素繊維、導電性微粒子、アクリルシリコン系樹脂が混合されたスラリーを乾燥して、その炭素繊維に炭素微粒子およびアクリルシリコン系樹脂が付着した粉体状材料を生成する粉体材料生成工程(乾燥工程S3、造粒工程S4)と、その粉体状材料を下型ダイス内に充填してアクリルシリコン系樹脂の軟化温度よりも高い温度で加熱圧縮することで、炭素繊維が導電性微粒子を介在させた状態でアクリルシリコン系樹脂により結合されたガス拡散電極用基材を成形するホットプレス工程S5とにより、比較的単純な工程でガス拡散電極用基材が製造される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池を構成するためのガス拡散電極用基材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料として水素、メタノール、化石燃料からの改質水素等の還元剤を用い、空気や酸素を酸化剤として、電池内で燃料を電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換して取り出すものである。そのため、内燃機関に比較して効率が高く、静粛性に優れると共に、大気汚染の原因となるNOx 、SOx 、粒子状物質(PM)等の排出量が少ないことから、近年、クリーンな電気エネルギー供給源として注目されている。例えば、電動機の駆動電源、住宅用等の分散型電源や熱電供給システムとしての利用が期待されている。
【0003】
このような燃料電池は、用いる電解質の種類によって、アルカリ形、リン酸形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形、固体高分子形等に分類される。これらのうちプロトン伝導性の電解質を用いるリン酸形および固体高分子形は、熱力学におけるカルノーサイクルの制限を受けることなく高い効率で運転できるものであり、その理論効率は、25( ℃) において83( %) にも達する。特に、固体高分子形燃料電池は、近年電解質膜や触媒技術の発展により性能の向上が著しくなり、低公害自動車用電源や高効率発電方法として注目を集めている。
【0004】
ところで、固体高分子形燃料電池は、一般に、水素イオン(プロトン)を選択的に伝導する薄い高分子電解質層の両面を一対のガス拡散電極で挟んだ構造を備えるものであり、通常は、このような膜−電極接合体(Membrane Electrode Assembly:以下、MEA) をセパレータを介して積層したスタック構造で用いられる。ガス拡散電極は触媒層およびガス拡散層から構成されており、これら触媒層およびガス拡散層は、一体化或いは複層化されたものもある。
【0005】
上記ガス拡散電極は、触媒層および電解質層表面に燃料ガスや空気を導くと共に、発生した電流を取り出すために、高いガス拡散性能と高い導電性とが共に要求される。また、加湿燃料中の水蒸気や反応により発生した水によるガス流路の閉塞を抑制するために優れた撥水性能を有することも要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3547013号公報
【特許文献2】特開2009−37932号公報
【特許文献3】特開2004−79406号公報
【特許文献4】特開2005−149745号公報
【特許文献5】特開2007−109624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したようなガス拡散電極及びガス拡散電極用基材は、導電性、ガス拡散性(ガス透過性)、撥水性が高いレベルで要求されるので、それに対し、種々のものが提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1に記載されたものは、フッ素樹脂によりガス拡散電極に撥水性を付与したものであり、具体的には、炭素繊維から成る炭素紙(カーボンペーパー)の上にフッ素樹脂で撥水処理された触媒担持炭素粉末を散布し、高温で加圧溶着固着させてガス拡散電極を製造するものである。しかしながら、カーボンペーパー製造時には炭素繊維を高温(1800℃〜)で焼成する焼成設備を必要とするため、MEAに適用する際には構造的な制限やコスト面で問題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載されたものも、フッ素樹脂によりガス拡散電極に撥水性を付与したものであるが、具体的には、ポリアリレート繊維などから得られた不織布と、多孔質フッ素樹脂と、ポリテトラフルオロエチレン粒子と、カーボンブラックなどの炭素材料とからガス拡散電極を構成するものである。しかしながら、特許文献2のMEAの製造工程ではフッ素樹脂を溶着する350℃程度の高温処理工程が必要であり、フッ素樹脂の溶着によってガス拡散電極のガス透過性が低下し、製造コストが高くなり、また、電解質層の耐熱性が低いためMEAの連続製造が困難であるという問題点があった。
【0010】
また、特許文献3に記載されたものは、膨張黒鉛等の導電性粉末、炭素繊維、有機繊維、および樹脂を含むスラリーを抄紙し、乾燥処理を施すものである。しかしながら、カーボンファイバー同士の接触面において導電性を付与するために入れるカーボン粒子の粒径が大きく、ガス透過性を阻害するため、接触点が低いために導電性も低くなるという問題があった。また、用いられる上記樹脂が親水性である場合には十分な撥水性が得られないので、実使用時(発電時)には加湿燃料ガスが効果的に触媒層に到達できず、また、生成水がMEA外に効果的に排出されないという問題点があった。
【0011】
また、特許文献4に記載されたものは、樹脂等とカーボンナノファイバーまたはカーボンナノホーンとを含むスラリーを抄紙し、乾燥処理を施すものである。しかしながら、カーボンナノファイバー等の接触点に導電成分が無いため導電性が低く、成形体の機械的強度も低いという問題点があった。また、カーボンナノファイバーやカーボンナノホーンは高価であるので製造コストが比較的高く量産性が低いという問題点があった。すなわち、ガス拡散電極の性能として満足できるものではなかった。更に、上記樹脂等が十分な撥水性を有していない場合には、実使用時(発電時)には加湿燃料ガスが効果的に触媒層に到達できず、また、生成水がMEA外に効果的に排出されないという問題点があった。
【0012】
また、前記特許文献1,2においては、撥水材料としてフッ素樹脂が採用されているが、近年、フッ素および一部のフッ素化合物が環境配慮の観点から規制対象となっている問題もある。例えば、環境基本法第16条に基づく環境省告示「水質汚濁に係る環境基準」では、1999年2月の改訂において「人の健康の保護に関する環境基準」別表1の項目にフッ素、硼素、硝酸性窒素および亜硝酸性窒素が追加された。その後、水質汚濁防止法においても、2001年7月の改正で排水基準にフッ素およびその化合物、硼素およびその化合物、アンモニア、アンモニア化合物、亜硝酸化合物および硝酸化合物が追加され、排出規制の対象物質になっている( 水質汚濁防止法第2条第2項第1号、同法第3条第1項、水質汚濁防止法施行令第2条、排水基準を定める省令第1項) 。
【0013】
また、大気汚染防止法では、煤煙、揮発性有機化合物、粉塵、有害大気汚染物質、自動車排出ガスの5種類を規制しているが、これらのうち煤煙は、「物の燃焼、合成、分解その他の処理に伴い発生する物質のうち、カドミウム及びその化合物、塩素及び塩化水素、フッ素、フッ化水素及びフッ化珪素、鉛及びその化合物、窒素酸化物」等と定められている( 大気汚染防止法第2条第1項第3号、大気汚染防止法施行令第1条) 。すなわち、フッ素およびフッ素化合物は排出規制の対象物質である。これら水質および大気に係る規制は、全てのフッ素樹脂に当てはまるものではないが、製造、使用、廃棄の過程においてフッ素或いは有害なフッ素化合物が生成する可能性を考慮して使用を避けるべきとの要求がある。
【0014】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、導電性およびガス透過性が共に高く且つフッ素を用いなくとも撥水性の高いガス拡散電極用基材を、量産性が高く低コストで製造可能な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
斯かる目的を達成するため、請求項1に係る発明の要旨とするところは、固体高分子形燃料電池のガス拡散電極を構成するために固体高分子電解質膜の一面に気体を導き得る状態で設けられる多孔質のガス拡散電極用基材の製造方法であって、炭素繊維と導電性微粒子と加熱によって軟化する結合剤樹脂とを混合および乾燥して、その炭素繊維にその導電性微粒子および結合剤樹脂が付着した粉体状材料を生成する粉体材料生成工程と、その粉体材料生成工程において生成された粉体状材料を成形金型内に充填して前記結合剤樹脂の軟化温度よりも高い温度で加熱圧縮することで、前記炭素繊維が前記炭素粒子を介在させた状態で前記結合剤樹脂により結合された所定厚みの前記ガス拡散電極用基材を成形するホットプレス工程とを、含むことにあります。
【0016】
また、請求項2に係る発明の要旨とするところは、前記結合剤樹脂はアクリルシリコン系樹脂であることにあります。
【0017】
また、請求項3に係る発明の要旨とするところは、前記導電性微粒子は炭素微粒子であることにあります。
【0018】
また、請求項4に係る発明の要旨とするところは、前記ホットプレス工程は、60〜150℃の温度下で0.1〜10MPaの圧力で加圧するものであることにあります。
【0019】
また、請求項5に係る発明の要旨とするところは、前記ホットプレス工程は、前記成形金型内において前記固体高分子電解質膜と共に前記粉体状材料を加熱圧縮することにより、固体高分子電解質膜の一面又は両面に板状の前記ガス拡散電極用基材を固着させて前記ガス拡散電極を構成するものであることにあります。
【0020】
また、請求項6に係る発明の要旨とするところは、前記粉体材料生成工程は、乾燥した後の粉体状材料を乾式粉砕し、所定範囲の粒度に整粒する造粒工程を含むことにあります。
【0021】
また、請求項7に係る発明の要旨とするところは、請求項1乃至6のいずれか1の前記ホットプレス工程において用いられる粉体状材料が、ガス拡散電極用基材形成用粉体状材料であることにあります。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に係る発明のガス拡散電極用基材の製造方法によれば、炭素繊維と導電性微粒子と加熱によって軟化する結合剤樹脂とを混合および乾燥して、その炭素繊維にその導電性微粒子および結合剤樹脂が付着した粉体状材料を生成する粉体材料生成工程と、その粉体材料生成工程において生成された粉体状材料を成形金型内に充填して前記結合剤樹脂の軟化温度よりも高い温度で加熱圧縮することで、前記炭素繊維が前記炭素粒子を介在させた状態で前記結合剤樹脂により結合された所定厚みの前記ガス拡散電極用基材を成形するホットプレス工程とにより、比較的単純な工程でガス拡散電極用基材が製造されるので、量産性に優れ、低コストの製造方法が得られる。
【0023】
請求項2に係る発明のガス拡散電極用基材の製造方法によれば、前記結合剤樹脂はアクリルシリコン系樹脂であることから、ガス拡散電極用基材は、そのアクリルシリコン系樹脂の撥水機能により、フッ素を含むこと無く高い撥水性を有するという利点がある。例えば、レゾール系樹脂を用いたものと比較して高い撥水性を有する。そのため、ガス拡散電極用基材に撥水皮膜を付加する等の後工程が必要とされない。また、そのガス拡散電極用基材は、多孔質であり炭素繊維および導電性微粒子により構成されているので高いガス拡散性を有するとともに、その導電性微粒子が含まれていることにより炭素繊維相互間の導電性を高め、それが無いものと比較して高い導電性をも有することができる。従って、導電性およびガス拡散性が共に高く且つフッ素を用いなくとも撥水性の高いガス拡散電極用基材が得られる。
【0024】
請求項3に係る発明のガス拡散電極用基材の製造方法によれば、前記導電性微粒子は炭素微粒子であることから、鉄粉や銅粉等の金属微粒子である場合と比較して、ガス拡散電極用基材の耐酸性がより高くなるという利点がある。すなわち、耐酸性、耐熱性、導電性の何れもが高い導電性微粒子をガス拡散電極用基材に用いることが可能である。
【0025】
請求項4に係る発明のガス拡散電極用基材の製造方法によれば、前記ホットプレス工程は、60〜150℃の温度下で0.1〜10MPaの圧力で加圧するものであることから、炭素繊維が破壊されず且つ炭素繊維同士が導電性微粒子および結合剤樹脂を介して相互に導電性を維持しつつ相互に結合されるので、比較的簡単な工程で炭素繊維が導電性微粒子および結合剤樹脂によって結合されるので、ガス拡散電極用基材が低コストで製造される。
【0026】
請求項5に係る発明のガス拡散電極用基材の製造方法によれば、前記ホットプレス工程は、前記成形金型内において前記固体高分子電解質膜と共に前記粉体状材料を加熱圧縮することにより、固体高分子電解質膜の一面又は両面に板状の前記ガス拡散電極用基材を固着させてガス拡散電極を構成するものであることから、固体高分子電解質膜の一面又は両面に別工程で製造した板状のガス拡散電極用基材を固着させる工程が不要となって、ガス拡散電極用基材と固体高分子電解質膜との複数層構造の膜−電極接合体が一挙に得られるので、膜−電極接合体が、低コストで製造される。
【0027】
請求項6に係る発明のガス拡散電極用基材の製造方法によれば、前記粉体材料生成工程は、乾燥した後の粉体状材料を乾式粉砕し、所定範囲の粒度に整粒する造粒工程を含むことから、ホットプレス用の金型内への粉体状材料の充填が均一となり、高品質のガス拡散電極用基材が得られる。
【0028】
請求項7に係る発明のガス拡散電極用基材形成用粉体状材料は、請求項1乃至6のいずれか1のガス拡散電極用基材の製造方法における、前記ホットプレス工程において用いられる粉体状材料であることから、このガス拡散電極用基材形成用粉体状材料をガス拡散電極用基材の製造に用いることにより、低コストでガス拡散電極用基材の製造ができる。
【0029】
ここで、前記結合剤樹脂は、たとえば80℃以上の温度による加熱によって軟化或いは溶融する樹脂であればアクリルシリコン系樹脂以外の熱可塑性樹脂や、その熱可塑性樹脂に限らず、少なくとも一旦は加熱によって軟化或いは塑性変形するような熱可塑的な挙動を示す樹脂であれば、熱硬化性樹脂であってもよいし、有機溶媒に溶解する樹脂、水に溶解する樹脂のいずれであってもよい。本明細書において、熱可塑性樹脂とは、上記のように、少なくとも一旦は熱可塑的な挙動を示す樹脂という意味で用いられる。
【0030】
また、前記各々の炭素繊維の相互間の全てに導電性微粒子が介在して相互に導通状態で結合されていることが理想的ではあるが、炭素繊維相互が直接に接している部分が存在しても差し支えない。また、炭素繊維相互間に樹脂が介在する部分が存在しても差し支えない。
【0031】
また、導電性微粒子は、前記鉄粉、銅粉、銀粉、金粉等の金属微粒子であってもよいが、炭素微粒子が好適に用いられる。
【0032】
また、好適には、前記導電性微粒子の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合は0.5〜20(%)の範囲内であり、前記アクリルシリコン系樹脂の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合は0.5〜20(%)の範囲内であり、且つ、前記炭素繊維の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合は60〜99(%)の範囲内である。このようにすれば、上記の重量割合の範囲から何れかが外れているものと比較して、導電性およびガス拡散性が共に高いガス拡散電極用基材を得ることができる。前記導電性微粒子の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合が0.5(%)未満のもの、または、前記アクリルシリコン系樹脂の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合が20(%)を超えるものでは、ガス拡散電極用基材の導電性が不足する可能性がある。また、前記炭素繊維の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合が60(%)を下回るものでは、ガス拡散電極用基材のガス透過性が不足する可能性がある。また、前記導電性微粒子の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合が20(%)を超えるもの、前記アクリルシリコン系樹脂の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合が0.5(%)を下回るもの、または、前記炭素繊維の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合が99(%)を超えるものでは、アクリルシリコン系樹脂が炭素繊維相互間の接合剤として十分に機能し得ず、ガス拡散電極用基材の機械的強度が不足する可能性がある。また、前記導電性微粒子の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合は6〜20(%)の範囲内であり、前記アクリルシリコン系樹脂の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合は0.5〜5(%)の範囲内であり、且つ、前記炭素繊維の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合は75〜93(%)の範囲内であることが更に望ましい。そのようにすれば、機械的強度を十分に確保しつつ、一層導電性およびガス拡散性が共に高いガス拡散電極用基材を得ることができる。
【0033】
また、好適には、重量比で、炭素微粒子が0.1〜1、アクリルシリコン系樹脂( 固形分50%を含む)が0.1〜3、炭素繊維が2〜10、水および/またはアルコール系混合溶剤が10〜30の割合で混合され、乾燥された後、粉砕され且つ所定のメッシュで分級されて所定の粒度に造粒されることにより、ホットプレスの金型内に充填される粉体状材料が生成される。
【0034】
また、好適には、前記炭素繊維のアスペクト比(=繊維長/繊維径)は4.5〜25の範囲内である。このようにすれば、炭素繊維が比較的太く且つ短いため、炭素繊維相互に導電性微粒子を介して或いは直接的に接触し易く、しかも、炭素繊維相互の隙間が適度な大きさになるので、高い導電性および高いガス透過性が得られる。アスペクト比が4.5未満では、炭素繊維が短いので密度が高くなり延いてはガス透過性が低くなる。また、アスペクト比が25を超えると、炭素繊維が長いのでガス拡散電極用基材の面に沿った横向きになるため、厚み方向における導電性が低下すると共に、炭素繊維相互間に空隙の多い組織になる。
【0035】
また、好適には、前記炭素微粒子は平均一次粒子径は10〜100(nm)である。このようにすれば、炭素繊維相互の接点で導電経路が十分に確保されることから、一層高い導電性が得られる。また、上記炭素微粒子の一次粒子径が十分に小さいので、ガス拡散電極用基材のガス透過性が高いという利点がある。上記平均一次粒子径が10(nm)未満では、多数の炭素微粒子が相互に凝集し易くなるため、ガス拡散電極用基材の製造の際に炭素微粒子の分散が不均一になり易くなる。また、上記平均一次粒子径が100(nm)を超えると、炭素微粒子による炭素繊維相互の接点での導電性を高める効果が十分に得られずガス拡散電極用基材の導電性が低下する。
【0036】
また、好適には、前記炭素微粒子はクラスター構造を成すものである。このようにすれば、複数本の炭素繊維は、クラスター構造の炭素微粒子との間の無数の接点を通して相互に接触させられるため、前記ガス拡散電極用基材は高い導電性を得ることができる。
【0037】
また、好適には、前記アクリルシリコン系樹脂は、アクリルモノマーが重合して形成する主鎖に対しケイ素を含む側鎖が結合した構造を有する。また、そのアクリルシリコン系樹脂の分子量は数十万程度と非常に大きい。そのため、樹脂分子群同士の間に水が入り難く耐水性が高い。
【0038】
また、前記固体高分子形燃料電池には反応の生じる三相界面に触媒(例えば、貴金属系触媒)が備えられていることが望ましい。例えば、ガス拡散電極が、上記触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒層と前記ガス拡散電極用基材とを層状に備えており、固体高分子形燃料電池は、一対を成す上記ガス拡散電極が触媒層を内側にして前記固体高分子電解質膜(層)の両面に接合された構造になっている。また、上記触媒は、ガス拡散電極用基材中に炭素繊維や導電性微粒子に担持された状態で備えられていてもよい。ガス拡散電極用基材中に備えられている態様は、例えば、ガス拡散電極用基材の形成後に触媒を含むスラリーを含浸させる方法や、ガス拡散電極用基材のもととなるスラリー中に触媒を混合してガス拡散電極用基材を形成すると同時に触媒を担持させる方法等で実施し得る。
【0039】
また、前記炭素繊維は特に限定されず、ポリアクリロニトリル系(PAN系)炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維等の適宜のものを用い得る。ポリアクリロニトリル系炭素繊維を用いた場合には、炭素繊維の強度が高いため機械的強度の特に高いガス拡散電極が得られる。また、ピッチ系炭素繊維を用いた場合には、電気伝導性の特に高いガス拡散電極が得られる。
【0040】
また、前記炭素繊維は、平均径が1〜30( μm)の範囲内のものが好ましい。更に、平均径が5( μm)以上であれば、繊維が十分に太く、折れ難いことから十分に高い機械的強度が得られる。また、平均径が20( μm)以下であれば、炭素微粒子、アクリルシリコン系樹脂や溶剤との混合が容易である。
【0041】
また、前記炭素繊維は、平均繊維長が50〜250( μm)の範囲内のものが好ましい。平均繊維長が50( μm)以上であれば、炭素繊維相互の絡み合いが十分に多くなって機械的強度が十分に高くなる。また、平均繊維長が250( μm)以下であれば、炭素繊維の分散性が十分に高められ、ガス拡散電極用基材の組織の均質性が十分に高くなる。
【0042】
また、固体高分子形燃料電池には、燃料極側および空気極側のそれぞれにガス拡散電極が備えられるが、本発明は、それら燃料極側および空気極側の何れの電極にも適用され得る。但し、両極で同一構成の電極が設けられることが必須ではなく、所望する特性や製造上の都合等に応じて、適宜の電極構成を採用することができ、本発明を適用されるのが両極のうちの一方のみであってもよい。
【0043】
また、本発明は、種々の固体高分子電解質膜が用いられた固体高分子形燃料電池に適用され、固体高分子電解質膜の材質は特に限定されない。例えば、イオン交換基(-SO3H 基等)を有するモノマーの単独重合体または共重合体、イオン交換基を有するモノマーとそのモノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、加水分解等の後処理によりイオン交換基に転換し得る官能基(すなわちイオン交換基の前駆的官能基)を有するモノマーの単独重合体、または共重合体(プロトン伝導性高分子前駆体)に同様な後処理を施したもの等が挙げられる。
【0044】
上記高分子電解質膜の具体例としては、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂等のパーフルオロ型のプロトン伝導性高分子、パーフルオロカーボンカルボン酸樹脂膜、スルホン酸型ポリスチレン−グラフト−エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)共重合体膜、スルホン酸型ポリ(トリフルオロスチレン)−グラフト−ETFE共重合体膜、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)スルホン酸膜、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(ATBS)膜、炭化水素系膜等が例示される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施例である平板型のMEAを示す図である。
【図2】図1のMEAに備えられたガス拡散電極用基材の構成を模式的に示す図である。
【図3】図2のガス拡散電極用基材における炭素繊維相互の接合状態の一例を説明するための模式図である。
【図4】図2のガス拡散電極用基材、およびその試験サンプルである乾式GDLテストピースの製造方法を説明する工程図である。
【図5】図4のホットプレス工程において、ガス拡散電極用粉体状材料が金型内に充填される状態を説明する図である。
【図6】図4のホットプレス工程において、金型内に充填されたガス拡散電極用粉体状材料を加熱且つ押圧する状態を説明する図である。
【図7】図4のホットプレス工程において、ホットプレスされることにより硬化した板状のガス拡散電極用粉体状材料が金型内から取り出される状態を説明する図である。
【図8】スラリー状のガス拡散電極用材料を用いて製膜することを特徴とするスラリー式GDLテストピースの製造方法を説明する工程図である。
【図9】図4の工程で製造した乾式GDLテストピース、図8の工程で製造したスラリー式GDLテストピース、および市販のフッ素樹脂コートカーボンペーパの断面加圧抵抗値を、相互に対比可能に示す棒グラフを示す図である。
【図10】図4の工程で製造した乾式GDLテストピース、図8の工程で製造したスラリー式GDLテストピース、および市販のフッ素樹脂コートカーボンペーパのガス透過率を、相互に対比可能に示す棒グラフを示す図である。
【図11】図4の工程で製造した乾式GDLテストピース、図8の工程で製造したスラリー式GDLテストピース、および市販のフッ素樹脂コートカーボンペーパの接触角を、相互に対比可能に示す棒グラフを示す図である。
【図12】図4のホットプレス工程において異なるプレス圧で製造した5種類の乾式GDLテストピースの断面加圧抵抗を、相互に対比可能に示す棒グラフを示す図である。
【図13】図4のホットプレス工程において異なるプレス温度で製造した5種類の乾式GDLテストピースの断面加圧抵抗を、相互に対比可能に示す棒グラフを示す図である。
【図14】図4のホットプレス工程において異なる結合剤樹脂で製造した3種類の乾式GDLテストピースの断面加圧抵抗を、相互に対比可能に示す棒グラフを示す図である。
【図15】図4のホットプレス工程において異なる結合剤樹脂で製造した3種類の乾式GDLテストピースのガス透過率を、相互に対比可能に示す棒グラフを示す図である。
【図16】図4のホットプレス工程において異なる結合剤樹脂で製造した3種類の乾式GDLテストピースの接触角を、相互に対比可能に示す棒グラフを示す図である。
【図17】本発明の他の実施例におけるホットプレス工程における第1充填工程を説明する図である。
【図18】図17の実施例のホットプレス工程における電解質膜挿入工程を説明する図である。
【図19】図17の実施例のホットプレス工程における第2充填工程を説明する図である。
【図20】図17の実施例のホットプレス工程における加熱押圧工程を説明する図である。
【図21】図17の実施例のホットプレス工程における型開き工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0047】
図1は、本発明の一実施例である平板型の膜−電極接合体10(以下、「MEA10」という)の断面構造を示す図である。MEA10は、固体高分子形燃料電池の単電池の中心部を構成する部材であり、図1に示すように、薄い平板層状の電解質膜12と、この電解質膜12を挟むように一体的に貼り合わされた一対のガス拡散電極22,24とから構成されている。そして、その一対のガス拡散電極22,24は、触媒層14,16とガス拡散電極用基材18,20とを層状に有し、触媒層14,16を内側にして、すなわち、触媒層14,16を電解質膜12側にして、その電解質膜12の一面および他面にそれぞれ接合されている。
【0048】
上記の電解質膜12は、本発明の固体高分子電解質層に対応し、例えばNafion( デュポン社の登録商標)DE520等のプロトン導電性電解質から成るもので、例えば50( μm)程度の厚さ寸法を備えている。
【0049】
また、上記の触媒層14,16は、例えば球状の炭素粉末に白金等の貴金属系触媒を担持させたPt担持カーボンブラックから成るものである。これは、例えば田中貴金属工業( 株) から市販されているもの(例えばTEC10E70TPM 等)を用い得る。触媒層14,16の厚さ寸法は、例えば50( μm)程度である。
【0050】
また、上記のガス拡散電極用基材18,20は、その厚み(膜厚)に限定は無いがそれぞれ200( μm)程度の厚さ寸法を備え、その表面と裏面(すなわち触媒層14,16側の一面)との間で容易に気体が流通し得るように構成された多孔質層である。
【0051】
上記のガス拡散電極用基材18,20は、例えば、多数の炭素繊維26と、多数の導電性炭素微粒子28(以下、「炭素微粒子28」という)と、樹脂自体が撥水性を有するアクリルシリコン系樹脂30とから構成されている。そして、それらの炭素繊維26、炭素微粒子28、アクリルシリコン系樹脂30の各構成割合は限定されるわけでは無いが、例えば、炭素微粒子28のガス拡散電極用基材18,20に対する重量割合は0.5〜20(%)の範囲内であり、アクリルシリコン系樹脂30のガス拡散電極用基材18,20に対する重量割合は0.5〜20(%)の範囲内であり、且つ、炭素繊維26のガス拡散電極用基材18,20に対する重量割合は60〜99(%)の範囲内である。更に好適には、炭素微粒子28のガス拡散電極用基材18,20に対する重量割合は6〜20(%)の範囲内であり、アクリルシリコン系樹脂30のガス拡散電極用基材18,20に対する重量割合は0.5〜5(%)の範囲内であり、且つ、炭素繊維26のガス拡散電極用基材18,20に対する重量割合は75〜93(%)の範囲内である。
【0052】
炭素繊維26は、ピッチを原料とするピッチ系カーボンファイバーであり、その平均直径が1〜30( μm)程度である。また、炭素繊維26の平均繊維長が50〜250( μm)程度の範囲内であって、且つ、ガス拡散電極用基材18,20の膜厚に対する上記平均繊維長の比(=平均繊維長/膜厚)が0.1〜1の範囲内であることが望ましい。例えば、ガス拡散電極用基材18,20の膜厚が200( μm)程度であるので、炭素繊維26の平均繊維長が50〜200( μm)程度の範囲内であることが望ましい。具体的に本実施例で採用される炭素繊維26は、平均直径が8〜10( μm)程度であって平均繊維長が50( μm)程度のピッチ系カーボンファイバーである。炭素繊維26のアスペクト比(=繊維長/繊維直径)は、ガス拡散電極用基材18,20の高い導電性と高いガス透過性とを確保するため、4.5〜25の範囲内であることが望ましい。上記炭素繊維26の平均直径、平均繊維長、およびアスペクト比は、電子顕微鏡による観察から求められる。例えば、SEM(走査型電子顕微鏡)測定を行い、その画像から炭素繊維26の直径および長手方向の長さを直接測定する。
【0053】
炭素微粒子28は、その平均一次粒子径が10〜100(nm)程度の極めて微小な微粒子である。具体的に本実施例で採用される炭素微粒子28の平均一次粒子径は30(nm)程度である。本実施例において、上記平均一次粒子径とは一次粒子径の平均値であり、その一次粒子径は、電子顕微鏡による観察から求められる定方向径である。なお、炭素微粒子28は、本発明の導電性微粒子に対応する。
【0054】
また、アクリルシリコン系樹脂30は、具体的には、アクリルモノマーが重合して形成する主鎖に対しケイ素を含む側鎖が3次元的に結合した構造を有する撥水性樹脂であり、そのアクリルシリコン系樹脂30の分子量は数十万程度である。詳細には、上記主鎖は、下記の化1に示す構造式のモノマーが重合して形成されており、アクリルシリコン系樹脂30は、その主鎖のR(化1参照)が下記の化2に示す構造式のモノマーが重合して形成された上記側鎖である高分子化合物である。
【0055】
【化1】
【0056】
【化2】
【0057】
また、ガス拡散電極用基材18,20は、その炭素繊維26が上記のように膜厚(基材厚)よりも小さい繊維長を有していることから、図2に模式的に示すように、炭素繊維26は、ガス拡散電極用基材18,20の厚み方向或いはこれに傾斜した方向に伸びる向きでそのガス拡散電極用基材18,20内に多数存在する。また、各炭素繊維26は相互に絡み合い、それらの接触点において、図3に模式的に示すように、各々の炭素繊維26は直接的に或いはそれらの相互間に多数の炭素微粒子28を介在させた状態でアクリルシリコン系樹脂30により接合されている。炭素微粒子28は、多数個が凝集してクラスター構造を成しており、無数の接点を通して炭素繊維26相互を接触させている。このような構造を備えていることから、ガス拡散電極用基材18,20は、十分に高い導電性と高いガス透過性とを有している。
【0058】
なお、上記図3は、本実施例のガス拡散電極用基材18,20における典型的な構造例を模式的に示したもので、この図3に示されるような構造は必ずしも炭素繊維26の全ての接触点で形成されていない。すなわち、炭素繊維26が相互に直に接していたり、炭素微粒子28が介在させられずアクリルシリコン系樹脂30のみで接合されている部分も存在する。
【0059】
平板型のガス拡散電極用基材18,20は、例えば以下のようにして製造される。以下、図4を参照して製造方法を説明する。図4は、後述する断面加圧抵抗値測定、ガス透過率測定の試験サンプルの製造方法を示した工程図であるが、最後の評価工程を除けば、以下に述べるガス拡散電極用基材18,20の製造方法を説明するための工程図でもある。
【0060】
まず、炭素繊維26と炭素微粒子28とアクリルシリコン系樹脂30と、溶媒としての溶剤SLV および水とを、予め設定された割合で用意する。これらの混合割合は適宜定められるが、例えば、ガス拡散電極用基材18,20の製造工程完了後において、炭素繊維26、炭素微粒子28、および、アクリルシリコン系樹脂30のガス拡散電極用基材18,20に対する各重量割合が所定の目標範囲内となるように混合される。なお、用意される上記アクリルシリコン系樹脂30は、乾燥硬化後にも残留する樹脂の固形分と乾燥により揮発する溶剤分( 水分)とから構成されている。
【0061】
図4において、先ず、予備混合工程S1では、予め設定された割合となるように秤量された炭素繊維26、炭素微粒子28、溶剤SLV が、順次に適当な混合容器に入れつつそれらを混合する混合処理が実行される。このとき、炭素繊維26は、電極基材用スラリーSLR 中で均一に分散するように混合される。この混合処理では、例えば300(rpm) 程度の回転速度で5分程度の時間をかけて攪拌される。この予備混合工程S1では、炭素繊維26や炭素微粒子28の分散のために、必要に応じて超音波による10分程度の攪拌が行われる。次いで、スラリー製造工程( 混合工程) S2では、重量比で50%程度の固形分を含む水溶性のアクリルシリコン系樹脂30と、重量比で50%程度の水分を含む溶剤SLV が、上記混合容器内に追加的に投入されつつそれらを混合する混合処理が実行される。この混合処理では、例えば300(rpm) 程度の回転速度で270分程度の時間をかけて攪拌される。これにより、電極基材用スラリーSLR が得られる。なお、ガス拡散電極用基材18,20は、上記電極基材用スラリーSLR から溶剤が揮発し或いは水分が蒸散して残ったアクリルシリコン系樹脂30と炭素繊維26と炭素微粒子28とから構成されることになる。このアクリルシリコン系樹脂30は、加熱によって軟化し且つ硬化することで炭素繊維26同士を相互に導電状態に維持しつつ炭素繊維26および炭素微粒子28を相互に結合する結合剤樹脂として機能するものである。
【0062】
次いで、乾燥工程S3においては、上記電極基材用スラリーSLR から溶剤を揮発させ且つ水分を蒸散させて乾燥状態とするために、面積の大きい平坦な底面を有する浅い容器内に収容した上記電極基材用スラリーSLR に、例えば50〜70( ℃) 程度の温度で60乃至120分程度の乾燥処理を施す。この乾燥温度は、アクリルシリコン系樹脂30を硬化させない範囲で速やかに溶剤を揮発させ且つ水分を蒸散させるために設定されている。
【0063】
次に、造粒工程S4においては、電極基材用スラリーSLR に上記乾燥処理を施することにより得られたガス拡散電極用乾燥材料に、例えば樹脂製ボールを有するボールミルを用いて粉砕処理を施し、且つ所定の目開き例えば850μm程度の目開きを有する篩を通すことにより、炭素繊維26に導電性微粒子28とアクリルシリコン系樹脂30が付着した粉体であって比較的粒度が揃ったガス拡散電極用粉体状材料を生成する。上記粉砕処理は、炭素繊維26を折損或いは破壊しない程度に上記ガス拡散電極用乾燥材料をほぐして細粒化するための処理である。乾燥工程S3および造粒工程S4は、炭素繊維26と導電性微粒子28とアクリルシリコン系樹脂30とを溶剤SLV および水と共に混合してスラリー状とした後、それを乾燥して、炭素繊維26に導電性微粒子28およびアクリルシリコン系樹脂30が付着した粉体状材料PWD を生成する粉体材料生成工程に対応している。
【0064】
続く、ホットプレス工程S5においては、上記造粒工程S4において所定の粒度に造粒されたガス拡散電極用粉体状材料PWD を、粉体成形用プレス金型の一方の下型の成形キャビティK内に充填し、アクリルシリコン系樹脂30の軟化温度よりも高い温度で他方の金型を用いて所定時間の間加熱圧縮し、次いで冷却してアクリルシリコン系樹脂30が硬化した後で型開きすることで、炭素繊維26が炭素粒子28を介在させた状態でアクリルシリコン系樹脂30により結合された所定厚みのガス拡散電極用基材18、20を成形する。このホットプレス工程S5では、たとえば60〜150℃の温度下で0.1〜10MPaの圧力で上記ガス拡散電極用粉体状材料PWD を加圧する。このホットプレス工程S5の過程で、ガス拡散電極用粉体状材料PWD に残存する水や溶剤SLV が除去され、炭素繊維26が相互に絡み合い且つクラスター構造の炭素微粒子28を介して相互に導通した状態でアクリルシリコン系樹脂30で接合された、例えば200( μm)程度の厚さ寸法のシート状の乾式GDL、すなわち、MEA10のガス拡散電極22,24を構成するためのガス拡散電極用基材18,20が得られる。
【0065】
図5、図6、図7は、上記ホットプレス工程S5におけるホットプレスの過程を順次説明する図である。位置固定の下型ダイス40において上面に開口するように設けられた穴42内には、エジェクタ型44が突き出し可能に設けられており、そのエジェクタ型44の上面と下型ダイス40の穴42の内周面とで成形キャビティKが形成されている。上型ポンチ46は、その下型ダイス40の穴42内に突き入れ可能に、下型ダイス40に対して接近離隔方向に駆動されるように設けられている。図5に示す状態すなわち粉体充填工程では、上型ポンチ46が下型ダイス40から離隔させられる一方、エジェクタ型44が下型ダイス40の穴42内に引き込まれた状態とされることで開口させられている成形キャビティK内に、ガス拡散電極用基材18或いは20の1個分すなわち1枚分のいガス拡散電極用粉体状材料PWD が充填される。この状態で上型ポンチ46が下降させられることで、ガス拡散電極用粉体状材料PWD が押圧され、且つ図示しないヒータが内蔵された下型ダイス40、エジェクタ型44、上型ポンチ46によって加熱される。図6はこの状態すなわち加熱押圧工程を示している。所定の加熱時間が経過すると、図7の型開き工程に示すように、上型ポンチ46が上昇させられると共に、エジェクタ型44が下型ダイス40の上面と面一となるまで上昇させられ、成形後のガス拡散電極用基材18或いは20が横方向へ押されて移送されることで、取り出される。
【0066】
そして、図示しない後工程においては、上記のようにして製造されたガス拡散電極用基材18、20の片面に触媒スラリーを塗布して触媒層14,16が形成されたガス拡散電極(電極シート)22,24を作製し、シート状の電解質膜12を触媒層14,16が内側になるように2枚のガス拡散電極22,24で挟み、ホットプレスを施すことで、図1に示すMEA10が得られる。なお、触媒スラリーおよび電解質膜12を構成する電解質の詳細については、本実施例を理解するために必要ではないので省略する。
【0067】
以下において、上記プレス法により得られたガス拡散電極用基材(乾式GDL)と、スラリー法によるガス拡散電極用基材(スラリー式GDL)との性能差を確認するために本発明者が行った実験例を以下に説明する。
【0068】
先ず、図4に示す乾式GDL製造工程を用いて、25mm×35mm×250μmtの板状の乾式GDLテストピースを作成した。また、図8に示すスラリー式GDL製造工程を用いて、10mm×10mm×250μmtの板状のスラリー式GDLテストピースを作成した。図8に示すスラリー式GDL工程は、図4に示す乾式GDL工程に対して、スラリー製造工程S2までは共通であるが、乾燥工程S3、造粒工程S4、ホットプレス工程S5に替えて、成形工程S13、乾燥工程S14、熱処理工程S15を備えている。成形工程S13では、電極基材用スラリーSLR を、スリップキャスティング等のシート成型法、或いは、プレート上にメタルマスクを通して塗布することで250( μm)程度に厚みを制御したシート状成形体SHが成形される。乾燥工程S14では、そのシート状成形体SHが50〜80( ℃) 程度の温度で3時間程度の間オーブン内で乾燥される。熱処理工程S15では、上記乾燥処理を施されたシート状成形体SHが、例えば150( ℃) で3時間程度の熱処理により、硬化させられる。これにより、シート状成形体SHから溶剤(溶剤SLV +樹脂の溶剤分)が除去され、炭素繊維26が相互に絡み合い且つクラスター構造の炭素微粒子28を介してアクリルシリコン系樹脂30で接合されたシート状のスラリー式GDLが得られる。
【0069】
ここで、具体的に、上記乾式GDLテストピースおよびスラリー式GDLテストピースの製造に用いられた、固形分50wt%且つ溶剤分50wt%のアクリルシリコン系樹脂30はDIC( 株) のボンコートシリーズであり、炭素繊維26は平均直径が8〜10( μm)程度で平均繊維長が50( μm)程度のピッチ系カーボンファイバーである三菱樹脂( 株) のK6371Mであり、炭素微粒子28は平均一次粒子径が30(nm)程度であるcabot 社のVulcan XC-72(Vulcan はcabot 社の登録商標) であり、溶剤SLV はエタノールを主剤とする日本アルコール販売( 株) のソルミックスAP-7である。また、比較例として用いられた市販品のGDL用フッ素樹脂コートカーボンペーパTGPは、Electro Chem Inc. 社のEC-TP1-060T である。
【0070】
図4に示す測定工程および図8に示す測定工程では、上記乾式GDLテストピースおよびスラリー式GDLと比較対象である市販品のGDL用フッ素樹脂コートカーボンペーパTGPの、断面加圧抵抗値およびガス透過率が測定された。断面加圧抵抗は、厚み方向に加圧した状態で測定した表面と裏面との間の面積抵抗値(mΩcm2)であり、例えばアズワン( 株) 製の小型熱プレス機AH−2003を用いて前記テストピースを一対の金メッキ銅板で挟み2(MPa) で加圧し、50(mA)を通電したときの上記一対の金メッキ銅板間の電圧を測定することにより求めた。また、ガス透過性( mlmm/cm2/min)は、例えばPMI社製のキャピラリーフローポロメータ1200AELを用いて、ガス圧が30(kPa) の空気を前記テストピースの片面に与えることにより測定した。また、接触角は、例えば協和界面科学( 株) 製のFACE接触角計CA−DTを用いて、水滴の拡大画像をθ/ 2法で測定した。また、これらの断面加圧抵抗、ガス透過性、及び、接触角の測定は例えば5〜35( ℃) 程度の室温にてそれぞれ行った。
【0071】
図9は、乾式GDLテストピース、スラリー式GDLテストピース、および比較対象である市販品のGDL用フッ素樹脂コートカーボンペーパTGPについて測定した断面加圧抵抗値を対比して示す棒グラフである。断面加圧抵抗値は、低い値ほど良く、一般には、30(mΩcm2)以下であれば実用可能とされているところ、上記乾式GDLテストピース、スラリー式GDLテストピース、およびGDL用フッ素樹脂コートカーボンペーパTGPはいずれも9(mΩcm2)以下の値を示している。特に、乾式GDLテストピースは、スラリー式GDLテストピースでは得られなかった低い値が得られている。
【0072】
図10は、乾式GDLテストピース、スラリー式GDLテストピース、およびGDL用フッ素樹脂コートカーボンペーパTGPについて測定したガス透過率( mlmm/cm2/min)を対比して示す棒グラフである。ガス透過性は、高い値ほど良く、一般には、3000〜20000の範囲内であれば実用可能とされているところ、上記乾式GDLテストピース、スラリー式GDLテストピース、およびGDL用フッ素樹脂コートカーボンペーパTGPはいずれも8000〜16000の範囲内の値を示している。乾式GDLテストピースは、スラリー式GDLテストピースほどの値が得られなかったが、十分に実用可能な値を示している。
【0073】
図11は、乾式GDLテストピース、スラリー式GDLテストピース、およびGDL用フッ素樹脂コートカーボンペーパTGPについて測定した接触角( °)を対比して示す棒グラフである。接触角は、一般には、高い値ほど排水性或いは撥水性が良く、132°以上であれば実用可能とされているところ、上記乾式GDLテストピース、スラリー式GDLテストピース、およびGDL用フッ素樹脂コートカーボンペーパTGPはいずれも135°以上の値を示している。乾式GDLテストピースは、スラリー式GDLテストピースと共に、GDL用フッ素樹脂コートカーボンペーパTGPほどの値は得られなかったが、十分に実用可能な値を共に示している。
【0074】
上記図9、図10、図11に示されるデータから、乾式で実用可能なガス拡散電極用基材(GDL)を製造できることが確認できた。特に、断面加圧抵抗値については、乾式GDLはスラリー式GDLよりも低い値が得られた。これは、ホットプレスによってシート化する際に、炭素繊維26相互の接点が増加したためであると考えられる。
【0075】
次に、プレス圧力範囲および温度範囲や、結合剤樹脂の範囲を確認するために本発明者が行った実験例を以下に説明する。
【0076】
先ず、図4に示す乾式GDL製造工程内のホットプレス工程S5において一定の130℃の加熱温度( 金型温度) 下において、5種類のプレス圧力、すなわち0.1MPa、1MPa、3MPa、5MPa、10MPaを用いた以外は、前述と同様に図4に示す製造条件にしたがって板状(25mm×35mm×250μmt)の5種類の乾式GDLテストピースを製造し、次いで、それら5種類の乾式GDLテストピースの断面加圧抵抗( mΩcm2)をそれぞれ測定した。図12は、それら5種類の乾式GDLテストピースの断面加圧抵抗を対比可能に示す棒グラフである。これによれば、いずれも30(mΩcm2)以下の実用可能範囲内の値を示しているが、プレス圧力が低くなるほど炭素繊維26間の距離が大きなってそれらの間に介在する結合剤樹脂が多くなって断面加圧抵抗が高くなる傾向となり、0.1MPaを下まわると、断面加圧抵抗が大きくばらついて不安定となる。反対に、プレス圧力が高くなるほど炭素繊維26の折れが発生して電気的な導通が妨げられる傾向となり、10MPaを超えると、断面加圧抵抗が大きくばらついて不安定となる。
【0077】
次いで、図4に示す乾式GDL製造工程内のホットプレス工程S5において一定のプレス圧力すなわち1MPaにおいて、5種類の加熱温度( 金型温度) 、すなわち60℃、80℃、100℃、130℃、150℃を用いた以外は、前述と同様に図4に示す製造条件にしたがって板状(25mm×35mm×250μmt)の5種類の乾式GDLテストピースを製造し、次いで、それら5種類の乾式GDLテストピースの断面加圧抵抗( mΩcm2)をそれぞれ測定した。図13は、それら5種類の乾式GDLテストピースの断面加圧抵抗を対比可能に示す棒グラフである。これによれば、いずれも30(mΩcm2)以下の実用可能範囲内の値を示しているが、加熱温度が低くなるほど結合剤樹脂の軟化が未だ不十分で炭素繊維26間の距離が大きなりそれらの間に介在する結合剤樹脂が多くなって断面加圧抵抗が高くなる傾向となり、60℃を下まわると、断面加圧抵抗が大きくばらついて不安定となる。反対に、加熱温度が高くなるほど炭素繊維26間の接触点が多くなって断面加圧抵抗が低くなる傾向となるが、150℃を超えると結合剤樹脂の変質の発生や、結合剤樹脂が流れて偏在し、強度がばらついて不安定となる可能性がある。
【0078】
次に、結合剤樹脂の種類毎の性能を比較するために、ガス拡散電極用基材に必要な耐久性( 耐酸性および耐熱性) があり且つホットプレス可能な加熱により軟化する性質を有する3種類の結合剤樹類、すなわちアクリルシリコン系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、エポキシ系樹脂を用い、図4に示す乾式GDL製造工程にしたがって板状(25mm×35mm×250μmt)の3種類の乾式GDLテストピースを製造し、次いで、それら3種類の乾式GDLテストピースの断面加圧抵抗( mΩcm2)、ガス透過率( mlmm/cm2/min)、接触角( °) をそれぞれ測定した。図14、図15、および図16は、それら3種類の乾式GDLテストピースの断面加圧抵抗、ガス透過率、および接触角をそれぞれ対比可能に示す棒グラフである。図14、図15、および図16から明らかなように、上記3種類のアクリルシリコン系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、エポキシ系樹脂を用いた乾式GDLテストピースは、断面加圧抵抗、ガス透過率、および接触角においていずれも実用可能範囲内の値を示しており、相互に格別の差は存在しない。上記エポキシ系樹脂は熱硬化性樹脂の範疇にあるものの、上記の熱可塑性樹脂と同様に炭素繊維26に浸透してそれらを相互に接触状態で結合する程度に加熱により軟化する熱可塑的性質を有するので、それを結合剤樹脂として用いた乾式GDLテストピースは、ホットプレス可能であった。
【0079】
上述したように、本実施例によれば、ガス拡散電極用基材18、20では、たとえば図3のように、各々の炭素繊維26がそれらの相互間で直接に或いは導電性微粒子( 炭素微粒子28) を介在させた状態でアクリルシリコン系樹脂30により接合されているので、ガス拡散電極用基材18、20は、アクリルシリコン系樹脂30自体の撥水機能により、フッ素を含むこと無く高い撥水性を有するため、ガス拡散電極用基材18、20に撥水皮膜を付加する等の後工程が必要とされない。また、ガス拡散電極用基材18、20は、多孔質であり炭素繊維26および炭素微粒子28により構成されているので高いガス透過性を有するとともに、その炭素微粒子28が含まれていることにより炭素繊維26相互間の導電性を高め、炭素微粒子28が無いものと比較して高い導電性をも有することができるので、導電性およびガス透過性が共に高く且つフッ素を用いなくとも撥水性の高いガス拡散電極用基材18,20が得られる。
【0080】
また、本実施例のガス拡散電極用基材18、20の製造方法によれば、炭素繊維26と導電性微粒子28と加熱によって軟化する結合剤樹脂( アクリルシリコン系樹脂30) とを混合および乾燥して、その炭素繊維26に導電性微粒子( 炭素微粒子28) および結合剤樹脂が付着した粉体状材料を生成する粉体材料生成工程( 乾燥工程S3、造粒工程S4)と、その粉体材料生成工程において生成された粉体状材料を成形金型( 下型ダイス40) 内に充填して結合剤樹脂の軟化温度よりも高い温度で加熱圧縮することで、炭素繊維26が導電性微粒子を介在させた状態で結合剤樹脂により結合された所定厚みのガス拡散電極用基材18,20を成形するホットプレス工程S5とにより、比較的単純な工程でガス拡散電極用基材18,20が製造されるので、量産性に優れ且つ低コストの製造方法が得られる。
【0081】
また、本実施例のガス拡散電極用基材18、20の製造方法によれば、結合剤樹脂としてアクリルシリコン系樹脂30が用いられることから、ガス拡散電極用基材18,20は、そのアクリルシリコン系樹脂30の撥水機能により、フッ素を含むこと無く高い撥水性を有するという利点がある。例えば、レゾール系樹脂を用いたものと比較して高い撥水性を有する。そのため、ガス拡散電極用基材18、20に撥水皮膜を付加する等の後工程が必要とされない。また、そのガス拡散電極用基材18、20は、多孔質であり炭素繊維26および導電性微粒子により構成されているので高いガス拡散性を有するとともに、その導電性微粒子が含まれていることにより炭素繊維26相互間の導電性を高め、それが無いものと比較して高い導電性をも有することができる。従って、導電性およびガス拡散性が共に高く且つフッ素を用いなくとも撥水性の高いガス拡散電極用基材18、20が得られる。
【0082】
また、本実施例のガス拡散電極用基材18、20の製造方法によれば、導電性微粒子は炭素微粒子28であることから、鉄粉や銅粉等の金属微粒子である場合と比較して、比重が小さいために分散性が良く、ガス拡散電極用基材18、20の耐酸性がより高くなるという利点がある。すなわち、耐酸性、耐熱性、導電性の何れもが高い導電性微粒子をガス拡散電極用基材18、20に用いることが可能である。
【0083】
また、本実施例のガス拡散電極用基材18、20の製造方法によれば、ホットプレス工程S5は、60〜150℃の温度下で0.1〜10MPaの圧力で加圧するものであることから、炭素繊維26が破壊されず且つ炭素繊維26同士が炭素微粒子28およびアクリルシリコン系樹脂30を介して相互に導電性を維持しつつ相互に結合されるので、比較的簡単な工程で炭素繊維26が炭素微粒子28およびアクリルシリコン系樹脂30によって結合されるので、ガス拡散電極用基材18、20が低コストで製造される。
【0084】
また、本実施例のガス拡散電極用基材18、20の製造方法によれば、粉体材料生成工程( 乾燥工程S3、造粒工程S4)は、乾燥した後の粉体状材料を乾式粉砕し、所定範囲の粒度に整粒する造粒工程S4を含むことから、ホットプレス用の金型( 下型ダイス40) 内への粉体状材料の充填が均一となり、高品質のガス拡散電極用基材18、20が得られる。
【0085】
また、本実施例のガス拡散電極用基材18、20の形成用の粉体状材料は、図4に示す工程内のホットプレス工程S5において用いられる粉体状材料であることから、このガス拡散電極用基材形成用粉体状材料をガス拡散電極用基材18、20の製造に用いることにより、低コストでガス拡散電極用基材18、20を製造できる。
【実施例2】
【0086】
次に、ガス拡散電極用基材18、20の製造方法の他の実施例を以下に説明する。本実施例の製造方法は、前述の図4に示す製造工程のホットプレス工程S5に替えて、ガス拡散電極用基材18、20の成形硬化と、固体高分子電解質膜12の一面または両面に対するそのガス拡散電極用基材18、20の固着とを同時に行うホットプレス工程S5’が設けられている点で相違し、他の工程は同様である。詳しくは、このホットプレス工程S5’は、図5の粉体充填工程、図6の加熱押圧工程、図7の型開き工程から成るホットプレス工程S5に対して、加熱押圧工程および型開き工程において同様であるが、その前に、第1粉体充填工程、固体高分子電解質膜12の挿入工程、第2粉体充填工程から成る点で、相違している。
【0087】
以下において、本実施例のホットプレス工程S5’を、図17乃至図21を用いて説明する。先ず、図17に示される第1粉体充填工程では、上型ポンチ46が下型ダイス40から離隔させられる一方で、エジェクタ型44が下型ダイス40の穴42内に引き込まれた状態とされることで開口させられている成形キャビティK内に、ガス拡散電極用基材18用の1個分のガス拡散電極用粉体状材料PWD が充填される。次いで、図18に示される電解質膜挿入工程では、エジェクタ型44が下型ダイス40の穴42内にさらに引き込まれた状態とされることで空間が増加させられた成形キャビティK内に、予めシート状に成膜された触媒層14,16により両面が覆われたシート状の電解質膜12、或いは、触媒スラリーを塗布して触媒層14,16が両面に形成されたシート状の電解質膜12が挿入される。さらに、図19に示される第2粉体充填工程では、成形キャビティK内の電解質膜12の上に、ガス拡散電極用基材20用の1個分のガス拡散電極用粉体状材料PWD が充填される。次いで、図20に示される加熱押圧工程では、上型ポンチ46が下降させられ且つエジェクタ型44が押し上げられることで、ガス拡散電極用粉体状材料PWD が所定のプレス圧で押圧され、且つ図示しないヒータが内蔵された下型ダイス40、エジェクタ型44、上型ポンチ46によって加熱される。そして、所定の加熱時間が経過すると、図21の型開き工程に示すように、上型ポンチ46が上昇させられると共に、エジェクタ型44が下型ダイス40の上面と面一となるまで上昇させられ、電解質膜12の両面に、触媒層14、16を介してガス拡散電極用基材18、20が固着された、図1に示す成形後のMEA( 膜−電極接合体) 10が、横方向へ押されて移送されることで、取り出される。
【0088】
本実施例の製造方法のホットプレス工程S5’は、金型内において固体高分子電解質膜12と共に粉体状材料PWD を加熱圧縮することで、固体高分子電解質膜12の両面に触媒層14、16を介してガス拡散電極用基材18、20を固着させてガス拡散電極を構成するものであることから、固体高分子電解質膜12の両面に別工程で製造した板状のガス拡散電極用基材18、20を固着させる工程が不要となって、ガス拡散電極用基材18、20および触媒層14、16と固体高分子電解質膜12との複数層構造のMEA( 膜−電極接合体) 10が一挙に得られるので、MEA10が、低コストで製造される。
【0089】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【0090】
例えば、前述の図17乃至図21に示される実施例において、図18の電解質膜挿入工程は、第1充填工程において充填されたガス拡散電極用粉体状材料PWD が上片パンチ46によって仮押しされた後で成形キャビティK内に挿入されてもよい。
【0091】
また、前述の実施例の図4において、乾燥工程S3の次に造粒工程S4が実施されるが、たとえばスラリーを乾燥室内に噴霧して直ちに細粒化するスプレードライヤー装置を用いることで、乾燥工程S3と造粒工程S4とが一工程に統合されており、スラリーからの溶剤SLV および水の除去と、細粒化とが並行して進行させられても差し支えない。このようにすれば、粉体状材料PWD は球形状粒子となるので、一層、充填が容易となる利点がある。
【0092】
また、前述の実施例のガス拡散電極用基材18,20は炭素微粒子28を備えているが、この炭素微粒子28はガス拡散電極用基材18,20の導電性を高めるために配合されているものであるのでその微粒子の材質は炭素に限定されるわけではなく、炭素微粒子28に替えて或いはそれと共に金属微粒子を備えたガス拡散電極用基材18,20も考え得る。
【0093】
また、前述の実施例において、炭素繊維26は、ピッチ系カーボンファイバーであるが、ポリアクリルニトリル繊維を炭化したPAN系カーボンファイバーなどの他のカーボンファイバーであっても差し支えない。例えば、炭素繊維26がPAN系カーボンファイバーであれば、ピッチ系カーボンファイバー等である場合と比較して、PAN系カーボンファイバーは高強度であるので、ガス拡散電極用基材18,20の機械的強度が高くなるという利点がある。
【0094】
また、前述の実施例において、炭素繊維26はその平均直径が1〜30( μm)程度であるが、その平均直径が5〜20( μm)程度であればより好ましい。その平均直径が5( μm)以上であれば、繊維が十分に太く、折れ難いことから十分に高い機械的強度が得られ、一方、その平均直径が20( μm)以下であれば、炭素微粒子28、アクリルシリコン系樹脂30や溶剤SLV との混合が容易となるからである。
【0095】
また、前述の実施例において、ガス拡散電極用基材18,20は、多数の炭素繊維26と、多数の炭素微粒子28と、アクリルシリコン系樹脂30とから構成されているが、その他の構成材料を含んでいても差し支えない。
【符号の説明】
【0096】
10:MEA(膜−電極接合体)
12:電解質膜(固体高分子電解質層)
18,20:ガス拡散電極用基材
22,24:ガス拡散電極
26:炭素繊維
28:炭素微粒子(導電性微粒子)
30:アクリルシリコン系樹脂(結合剤樹脂)
S2:スラリー製造工程(混合工程)
S3:乾燥工程(粉体材料生成工程)
S4:造粒工程(粉体材料生成工程)
S5、S5’:ホットプレス工程
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池を構成するためのガス拡散電極用基材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料として水素、メタノール、化石燃料からの改質水素等の還元剤を用い、空気や酸素を酸化剤として、電池内で燃料を電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換して取り出すものである。そのため、内燃機関に比較して効率が高く、静粛性に優れると共に、大気汚染の原因となるNOx 、SOx 、粒子状物質(PM)等の排出量が少ないことから、近年、クリーンな電気エネルギー供給源として注目されている。例えば、電動機の駆動電源、住宅用等の分散型電源や熱電供給システムとしての利用が期待されている。
【0003】
このような燃料電池は、用いる電解質の種類によって、アルカリ形、リン酸形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形、固体高分子形等に分類される。これらのうちプロトン伝導性の電解質を用いるリン酸形および固体高分子形は、熱力学におけるカルノーサイクルの制限を受けることなく高い効率で運転できるものであり、その理論効率は、25( ℃) において83( %) にも達する。特に、固体高分子形燃料電池は、近年電解質膜や触媒技術の発展により性能の向上が著しくなり、低公害自動車用電源や高効率発電方法として注目を集めている。
【0004】
ところで、固体高分子形燃料電池は、一般に、水素イオン(プロトン)を選択的に伝導する薄い高分子電解質層の両面を一対のガス拡散電極で挟んだ構造を備えるものであり、通常は、このような膜−電極接合体(Membrane Electrode Assembly:以下、MEA) をセパレータを介して積層したスタック構造で用いられる。ガス拡散電極は触媒層およびガス拡散層から構成されており、これら触媒層およびガス拡散層は、一体化或いは複層化されたものもある。
【0005】
上記ガス拡散電極は、触媒層および電解質層表面に燃料ガスや空気を導くと共に、発生した電流を取り出すために、高いガス拡散性能と高い導電性とが共に要求される。また、加湿燃料中の水蒸気や反応により発生した水によるガス流路の閉塞を抑制するために優れた撥水性能を有することも要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3547013号公報
【特許文献2】特開2009−37932号公報
【特許文献3】特開2004−79406号公報
【特許文献4】特開2005−149745号公報
【特許文献5】特開2007−109624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したようなガス拡散電極及びガス拡散電極用基材は、導電性、ガス拡散性(ガス透過性)、撥水性が高いレベルで要求されるので、それに対し、種々のものが提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1に記載されたものは、フッ素樹脂によりガス拡散電極に撥水性を付与したものであり、具体的には、炭素繊維から成る炭素紙(カーボンペーパー)の上にフッ素樹脂で撥水処理された触媒担持炭素粉末を散布し、高温で加圧溶着固着させてガス拡散電極を製造するものである。しかしながら、カーボンペーパー製造時には炭素繊維を高温(1800℃〜)で焼成する焼成設備を必要とするため、MEAに適用する際には構造的な制限やコスト面で問題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載されたものも、フッ素樹脂によりガス拡散電極に撥水性を付与したものであるが、具体的には、ポリアリレート繊維などから得られた不織布と、多孔質フッ素樹脂と、ポリテトラフルオロエチレン粒子と、カーボンブラックなどの炭素材料とからガス拡散電極を構成するものである。しかしながら、特許文献2のMEAの製造工程ではフッ素樹脂を溶着する350℃程度の高温処理工程が必要であり、フッ素樹脂の溶着によってガス拡散電極のガス透過性が低下し、製造コストが高くなり、また、電解質層の耐熱性が低いためMEAの連続製造が困難であるという問題点があった。
【0010】
また、特許文献3に記載されたものは、膨張黒鉛等の導電性粉末、炭素繊維、有機繊維、および樹脂を含むスラリーを抄紙し、乾燥処理を施すものである。しかしながら、カーボンファイバー同士の接触面において導電性を付与するために入れるカーボン粒子の粒径が大きく、ガス透過性を阻害するため、接触点が低いために導電性も低くなるという問題があった。また、用いられる上記樹脂が親水性である場合には十分な撥水性が得られないので、実使用時(発電時)には加湿燃料ガスが効果的に触媒層に到達できず、また、生成水がMEA外に効果的に排出されないという問題点があった。
【0011】
また、特許文献4に記載されたものは、樹脂等とカーボンナノファイバーまたはカーボンナノホーンとを含むスラリーを抄紙し、乾燥処理を施すものである。しかしながら、カーボンナノファイバー等の接触点に導電成分が無いため導電性が低く、成形体の機械的強度も低いという問題点があった。また、カーボンナノファイバーやカーボンナノホーンは高価であるので製造コストが比較的高く量産性が低いという問題点があった。すなわち、ガス拡散電極の性能として満足できるものではなかった。更に、上記樹脂等が十分な撥水性を有していない場合には、実使用時(発電時)には加湿燃料ガスが効果的に触媒層に到達できず、また、生成水がMEA外に効果的に排出されないという問題点があった。
【0012】
また、前記特許文献1,2においては、撥水材料としてフッ素樹脂が採用されているが、近年、フッ素および一部のフッ素化合物が環境配慮の観点から規制対象となっている問題もある。例えば、環境基本法第16条に基づく環境省告示「水質汚濁に係る環境基準」では、1999年2月の改訂において「人の健康の保護に関する環境基準」別表1の項目にフッ素、硼素、硝酸性窒素および亜硝酸性窒素が追加された。その後、水質汚濁防止法においても、2001年7月の改正で排水基準にフッ素およびその化合物、硼素およびその化合物、アンモニア、アンモニア化合物、亜硝酸化合物および硝酸化合物が追加され、排出規制の対象物質になっている( 水質汚濁防止法第2条第2項第1号、同法第3条第1項、水質汚濁防止法施行令第2条、排水基準を定める省令第1項) 。
【0013】
また、大気汚染防止法では、煤煙、揮発性有機化合物、粉塵、有害大気汚染物質、自動車排出ガスの5種類を規制しているが、これらのうち煤煙は、「物の燃焼、合成、分解その他の処理に伴い発生する物質のうち、カドミウム及びその化合物、塩素及び塩化水素、フッ素、フッ化水素及びフッ化珪素、鉛及びその化合物、窒素酸化物」等と定められている( 大気汚染防止法第2条第1項第3号、大気汚染防止法施行令第1条) 。すなわち、フッ素およびフッ素化合物は排出規制の対象物質である。これら水質および大気に係る規制は、全てのフッ素樹脂に当てはまるものではないが、製造、使用、廃棄の過程においてフッ素或いは有害なフッ素化合物が生成する可能性を考慮して使用を避けるべきとの要求がある。
【0014】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、導電性およびガス透過性が共に高く且つフッ素を用いなくとも撥水性の高いガス拡散電極用基材を、量産性が高く低コストで製造可能な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
斯かる目的を達成するため、請求項1に係る発明の要旨とするところは、固体高分子形燃料電池のガス拡散電極を構成するために固体高分子電解質膜の一面に気体を導き得る状態で設けられる多孔質のガス拡散電極用基材の製造方法であって、炭素繊維と導電性微粒子と加熱によって軟化する結合剤樹脂とを混合および乾燥して、その炭素繊維にその導電性微粒子および結合剤樹脂が付着した粉体状材料を生成する粉体材料生成工程と、その粉体材料生成工程において生成された粉体状材料を成形金型内に充填して前記結合剤樹脂の軟化温度よりも高い温度で加熱圧縮することで、前記炭素繊維が前記炭素粒子を介在させた状態で前記結合剤樹脂により結合された所定厚みの前記ガス拡散電極用基材を成形するホットプレス工程とを、含むことにあります。
【0016】
また、請求項2に係る発明の要旨とするところは、前記結合剤樹脂はアクリルシリコン系樹脂であることにあります。
【0017】
また、請求項3に係る発明の要旨とするところは、前記導電性微粒子は炭素微粒子であることにあります。
【0018】
また、請求項4に係る発明の要旨とするところは、前記ホットプレス工程は、60〜150℃の温度下で0.1〜10MPaの圧力で加圧するものであることにあります。
【0019】
また、請求項5に係る発明の要旨とするところは、前記ホットプレス工程は、前記成形金型内において前記固体高分子電解質膜と共に前記粉体状材料を加熱圧縮することにより、固体高分子電解質膜の一面又は両面に板状の前記ガス拡散電極用基材を固着させて前記ガス拡散電極を構成するものであることにあります。
【0020】
また、請求項6に係る発明の要旨とするところは、前記粉体材料生成工程は、乾燥した後の粉体状材料を乾式粉砕し、所定範囲の粒度に整粒する造粒工程を含むことにあります。
【0021】
また、請求項7に係る発明の要旨とするところは、請求項1乃至6のいずれか1の前記ホットプレス工程において用いられる粉体状材料が、ガス拡散電極用基材形成用粉体状材料であることにあります。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に係る発明のガス拡散電極用基材の製造方法によれば、炭素繊維と導電性微粒子と加熱によって軟化する結合剤樹脂とを混合および乾燥して、その炭素繊維にその導電性微粒子および結合剤樹脂が付着した粉体状材料を生成する粉体材料生成工程と、その粉体材料生成工程において生成された粉体状材料を成形金型内に充填して前記結合剤樹脂の軟化温度よりも高い温度で加熱圧縮することで、前記炭素繊維が前記炭素粒子を介在させた状態で前記結合剤樹脂により結合された所定厚みの前記ガス拡散電極用基材を成形するホットプレス工程とにより、比較的単純な工程でガス拡散電極用基材が製造されるので、量産性に優れ、低コストの製造方法が得られる。
【0023】
請求項2に係る発明のガス拡散電極用基材の製造方法によれば、前記結合剤樹脂はアクリルシリコン系樹脂であることから、ガス拡散電極用基材は、そのアクリルシリコン系樹脂の撥水機能により、フッ素を含むこと無く高い撥水性を有するという利点がある。例えば、レゾール系樹脂を用いたものと比較して高い撥水性を有する。そのため、ガス拡散電極用基材に撥水皮膜を付加する等の後工程が必要とされない。また、そのガス拡散電極用基材は、多孔質であり炭素繊維および導電性微粒子により構成されているので高いガス拡散性を有するとともに、その導電性微粒子が含まれていることにより炭素繊維相互間の導電性を高め、それが無いものと比較して高い導電性をも有することができる。従って、導電性およびガス拡散性が共に高く且つフッ素を用いなくとも撥水性の高いガス拡散電極用基材が得られる。
【0024】
請求項3に係る発明のガス拡散電極用基材の製造方法によれば、前記導電性微粒子は炭素微粒子であることから、鉄粉や銅粉等の金属微粒子である場合と比較して、ガス拡散電極用基材の耐酸性がより高くなるという利点がある。すなわち、耐酸性、耐熱性、導電性の何れもが高い導電性微粒子をガス拡散電極用基材に用いることが可能である。
【0025】
請求項4に係る発明のガス拡散電極用基材の製造方法によれば、前記ホットプレス工程は、60〜150℃の温度下で0.1〜10MPaの圧力で加圧するものであることから、炭素繊維が破壊されず且つ炭素繊維同士が導電性微粒子および結合剤樹脂を介して相互に導電性を維持しつつ相互に結合されるので、比較的簡単な工程で炭素繊維が導電性微粒子および結合剤樹脂によって結合されるので、ガス拡散電極用基材が低コストで製造される。
【0026】
請求項5に係る発明のガス拡散電極用基材の製造方法によれば、前記ホットプレス工程は、前記成形金型内において前記固体高分子電解質膜と共に前記粉体状材料を加熱圧縮することにより、固体高分子電解質膜の一面又は両面に板状の前記ガス拡散電極用基材を固着させてガス拡散電極を構成するものであることから、固体高分子電解質膜の一面又は両面に別工程で製造した板状のガス拡散電極用基材を固着させる工程が不要となって、ガス拡散電極用基材と固体高分子電解質膜との複数層構造の膜−電極接合体が一挙に得られるので、膜−電極接合体が、低コストで製造される。
【0027】
請求項6に係る発明のガス拡散電極用基材の製造方法によれば、前記粉体材料生成工程は、乾燥した後の粉体状材料を乾式粉砕し、所定範囲の粒度に整粒する造粒工程を含むことから、ホットプレス用の金型内への粉体状材料の充填が均一となり、高品質のガス拡散電極用基材が得られる。
【0028】
請求項7に係る発明のガス拡散電極用基材形成用粉体状材料は、請求項1乃至6のいずれか1のガス拡散電極用基材の製造方法における、前記ホットプレス工程において用いられる粉体状材料であることから、このガス拡散電極用基材形成用粉体状材料をガス拡散電極用基材の製造に用いることにより、低コストでガス拡散電極用基材の製造ができる。
【0029】
ここで、前記結合剤樹脂は、たとえば80℃以上の温度による加熱によって軟化或いは溶融する樹脂であればアクリルシリコン系樹脂以外の熱可塑性樹脂や、その熱可塑性樹脂に限らず、少なくとも一旦は加熱によって軟化或いは塑性変形するような熱可塑的な挙動を示す樹脂であれば、熱硬化性樹脂であってもよいし、有機溶媒に溶解する樹脂、水に溶解する樹脂のいずれであってもよい。本明細書において、熱可塑性樹脂とは、上記のように、少なくとも一旦は熱可塑的な挙動を示す樹脂という意味で用いられる。
【0030】
また、前記各々の炭素繊維の相互間の全てに導電性微粒子が介在して相互に導通状態で結合されていることが理想的ではあるが、炭素繊維相互が直接に接している部分が存在しても差し支えない。また、炭素繊維相互間に樹脂が介在する部分が存在しても差し支えない。
【0031】
また、導電性微粒子は、前記鉄粉、銅粉、銀粉、金粉等の金属微粒子であってもよいが、炭素微粒子が好適に用いられる。
【0032】
また、好適には、前記導電性微粒子の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合は0.5〜20(%)の範囲内であり、前記アクリルシリコン系樹脂の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合は0.5〜20(%)の範囲内であり、且つ、前記炭素繊維の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合は60〜99(%)の範囲内である。このようにすれば、上記の重量割合の範囲から何れかが外れているものと比較して、導電性およびガス拡散性が共に高いガス拡散電極用基材を得ることができる。前記導電性微粒子の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合が0.5(%)未満のもの、または、前記アクリルシリコン系樹脂の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合が20(%)を超えるものでは、ガス拡散電極用基材の導電性が不足する可能性がある。また、前記炭素繊維の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合が60(%)を下回るものでは、ガス拡散電極用基材のガス透過性が不足する可能性がある。また、前記導電性微粒子の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合が20(%)を超えるもの、前記アクリルシリコン系樹脂の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合が0.5(%)を下回るもの、または、前記炭素繊維の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合が99(%)を超えるものでは、アクリルシリコン系樹脂が炭素繊維相互間の接合剤として十分に機能し得ず、ガス拡散電極用基材の機械的強度が不足する可能性がある。また、前記導電性微粒子の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合は6〜20(%)の範囲内であり、前記アクリルシリコン系樹脂の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合は0.5〜5(%)の範囲内であり、且つ、前記炭素繊維の前記ガス拡散電極用基材に対する重量割合は75〜93(%)の範囲内であることが更に望ましい。そのようにすれば、機械的強度を十分に確保しつつ、一層導電性およびガス拡散性が共に高いガス拡散電極用基材を得ることができる。
【0033】
また、好適には、重量比で、炭素微粒子が0.1〜1、アクリルシリコン系樹脂( 固形分50%を含む)が0.1〜3、炭素繊維が2〜10、水および/またはアルコール系混合溶剤が10〜30の割合で混合され、乾燥された後、粉砕され且つ所定のメッシュで分級されて所定の粒度に造粒されることにより、ホットプレスの金型内に充填される粉体状材料が生成される。
【0034】
また、好適には、前記炭素繊維のアスペクト比(=繊維長/繊維径)は4.5〜25の範囲内である。このようにすれば、炭素繊維が比較的太く且つ短いため、炭素繊維相互に導電性微粒子を介して或いは直接的に接触し易く、しかも、炭素繊維相互の隙間が適度な大きさになるので、高い導電性および高いガス透過性が得られる。アスペクト比が4.5未満では、炭素繊維が短いので密度が高くなり延いてはガス透過性が低くなる。また、アスペクト比が25を超えると、炭素繊維が長いのでガス拡散電極用基材の面に沿った横向きになるため、厚み方向における導電性が低下すると共に、炭素繊維相互間に空隙の多い組織になる。
【0035】
また、好適には、前記炭素微粒子は平均一次粒子径は10〜100(nm)である。このようにすれば、炭素繊維相互の接点で導電経路が十分に確保されることから、一層高い導電性が得られる。また、上記炭素微粒子の一次粒子径が十分に小さいので、ガス拡散電極用基材のガス透過性が高いという利点がある。上記平均一次粒子径が10(nm)未満では、多数の炭素微粒子が相互に凝集し易くなるため、ガス拡散電極用基材の製造の際に炭素微粒子の分散が不均一になり易くなる。また、上記平均一次粒子径が100(nm)を超えると、炭素微粒子による炭素繊維相互の接点での導電性を高める効果が十分に得られずガス拡散電極用基材の導電性が低下する。
【0036】
また、好適には、前記炭素微粒子はクラスター構造を成すものである。このようにすれば、複数本の炭素繊維は、クラスター構造の炭素微粒子との間の無数の接点を通して相互に接触させられるため、前記ガス拡散電極用基材は高い導電性を得ることができる。
【0037】
また、好適には、前記アクリルシリコン系樹脂は、アクリルモノマーが重合して形成する主鎖に対しケイ素を含む側鎖が結合した構造を有する。また、そのアクリルシリコン系樹脂の分子量は数十万程度と非常に大きい。そのため、樹脂分子群同士の間に水が入り難く耐水性が高い。
【0038】
また、前記固体高分子形燃料電池には反応の生じる三相界面に触媒(例えば、貴金属系触媒)が備えられていることが望ましい。例えば、ガス拡散電極が、上記触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒層と前記ガス拡散電極用基材とを層状に備えており、固体高分子形燃料電池は、一対を成す上記ガス拡散電極が触媒層を内側にして前記固体高分子電解質膜(層)の両面に接合された構造になっている。また、上記触媒は、ガス拡散電極用基材中に炭素繊維や導電性微粒子に担持された状態で備えられていてもよい。ガス拡散電極用基材中に備えられている態様は、例えば、ガス拡散電極用基材の形成後に触媒を含むスラリーを含浸させる方法や、ガス拡散電極用基材のもととなるスラリー中に触媒を混合してガス拡散電極用基材を形成すると同時に触媒を担持させる方法等で実施し得る。
【0039】
また、前記炭素繊維は特に限定されず、ポリアクリロニトリル系(PAN系)炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維等の適宜のものを用い得る。ポリアクリロニトリル系炭素繊維を用いた場合には、炭素繊維の強度が高いため機械的強度の特に高いガス拡散電極が得られる。また、ピッチ系炭素繊維を用いた場合には、電気伝導性の特に高いガス拡散電極が得られる。
【0040】
また、前記炭素繊維は、平均径が1〜30( μm)の範囲内のものが好ましい。更に、平均径が5( μm)以上であれば、繊維が十分に太く、折れ難いことから十分に高い機械的強度が得られる。また、平均径が20( μm)以下であれば、炭素微粒子、アクリルシリコン系樹脂や溶剤との混合が容易である。
【0041】
また、前記炭素繊維は、平均繊維長が50〜250( μm)の範囲内のものが好ましい。平均繊維長が50( μm)以上であれば、炭素繊維相互の絡み合いが十分に多くなって機械的強度が十分に高くなる。また、平均繊維長が250( μm)以下であれば、炭素繊維の分散性が十分に高められ、ガス拡散電極用基材の組織の均質性が十分に高くなる。
【0042】
また、固体高分子形燃料電池には、燃料極側および空気極側のそれぞれにガス拡散電極が備えられるが、本発明は、それら燃料極側および空気極側の何れの電極にも適用され得る。但し、両極で同一構成の電極が設けられることが必須ではなく、所望する特性や製造上の都合等に応じて、適宜の電極構成を採用することができ、本発明を適用されるのが両極のうちの一方のみであってもよい。
【0043】
また、本発明は、種々の固体高分子電解質膜が用いられた固体高分子形燃料電池に適用され、固体高分子電解質膜の材質は特に限定されない。例えば、イオン交換基(-SO3H 基等)を有するモノマーの単独重合体または共重合体、イオン交換基を有するモノマーとそのモノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、加水分解等の後処理によりイオン交換基に転換し得る官能基(すなわちイオン交換基の前駆的官能基)を有するモノマーの単独重合体、または共重合体(プロトン伝導性高分子前駆体)に同様な後処理を施したもの等が挙げられる。
【0044】
上記高分子電解質膜の具体例としては、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂等のパーフルオロ型のプロトン伝導性高分子、パーフルオロカーボンカルボン酸樹脂膜、スルホン酸型ポリスチレン−グラフト−エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)共重合体膜、スルホン酸型ポリ(トリフルオロスチレン)−グラフト−ETFE共重合体膜、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)スルホン酸膜、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(ATBS)膜、炭化水素系膜等が例示される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施例である平板型のMEAを示す図である。
【図2】図1のMEAに備えられたガス拡散電極用基材の構成を模式的に示す図である。
【図3】図2のガス拡散電極用基材における炭素繊維相互の接合状態の一例を説明するための模式図である。
【図4】図2のガス拡散電極用基材、およびその試験サンプルである乾式GDLテストピースの製造方法を説明する工程図である。
【図5】図4のホットプレス工程において、ガス拡散電極用粉体状材料が金型内に充填される状態を説明する図である。
【図6】図4のホットプレス工程において、金型内に充填されたガス拡散電極用粉体状材料を加熱且つ押圧する状態を説明する図である。
【図7】図4のホットプレス工程において、ホットプレスされることにより硬化した板状のガス拡散電極用粉体状材料が金型内から取り出される状態を説明する図である。
【図8】スラリー状のガス拡散電極用材料を用いて製膜することを特徴とするスラリー式GDLテストピースの製造方法を説明する工程図である。
【図9】図4の工程で製造した乾式GDLテストピース、図8の工程で製造したスラリー式GDLテストピース、および市販のフッ素樹脂コートカーボンペーパの断面加圧抵抗値を、相互に対比可能に示す棒グラフを示す図である。
【図10】図4の工程で製造した乾式GDLテストピース、図8の工程で製造したスラリー式GDLテストピース、および市販のフッ素樹脂コートカーボンペーパのガス透過率を、相互に対比可能に示す棒グラフを示す図である。
【図11】図4の工程で製造した乾式GDLテストピース、図8の工程で製造したスラリー式GDLテストピース、および市販のフッ素樹脂コートカーボンペーパの接触角を、相互に対比可能に示す棒グラフを示す図である。
【図12】図4のホットプレス工程において異なるプレス圧で製造した5種類の乾式GDLテストピースの断面加圧抵抗を、相互に対比可能に示す棒グラフを示す図である。
【図13】図4のホットプレス工程において異なるプレス温度で製造した5種類の乾式GDLテストピースの断面加圧抵抗を、相互に対比可能に示す棒グラフを示す図である。
【図14】図4のホットプレス工程において異なる結合剤樹脂で製造した3種類の乾式GDLテストピースの断面加圧抵抗を、相互に対比可能に示す棒グラフを示す図である。
【図15】図4のホットプレス工程において異なる結合剤樹脂で製造した3種類の乾式GDLテストピースのガス透過率を、相互に対比可能に示す棒グラフを示す図である。
【図16】図4のホットプレス工程において異なる結合剤樹脂で製造した3種類の乾式GDLテストピースの接触角を、相互に対比可能に示す棒グラフを示す図である。
【図17】本発明の他の実施例におけるホットプレス工程における第1充填工程を説明する図である。
【図18】図17の実施例のホットプレス工程における電解質膜挿入工程を説明する図である。
【図19】図17の実施例のホットプレス工程における第2充填工程を説明する図である。
【図20】図17の実施例のホットプレス工程における加熱押圧工程を説明する図である。
【図21】図17の実施例のホットプレス工程における型開き工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0047】
図1は、本発明の一実施例である平板型の膜−電極接合体10(以下、「MEA10」という)の断面構造を示す図である。MEA10は、固体高分子形燃料電池の単電池の中心部を構成する部材であり、図1に示すように、薄い平板層状の電解質膜12と、この電解質膜12を挟むように一体的に貼り合わされた一対のガス拡散電極22,24とから構成されている。そして、その一対のガス拡散電極22,24は、触媒層14,16とガス拡散電極用基材18,20とを層状に有し、触媒層14,16を内側にして、すなわち、触媒層14,16を電解質膜12側にして、その電解質膜12の一面および他面にそれぞれ接合されている。
【0048】
上記の電解質膜12は、本発明の固体高分子電解質層に対応し、例えばNafion( デュポン社の登録商標)DE520等のプロトン導電性電解質から成るもので、例えば50( μm)程度の厚さ寸法を備えている。
【0049】
また、上記の触媒層14,16は、例えば球状の炭素粉末に白金等の貴金属系触媒を担持させたPt担持カーボンブラックから成るものである。これは、例えば田中貴金属工業( 株) から市販されているもの(例えばTEC10E70TPM 等)を用い得る。触媒層14,16の厚さ寸法は、例えば50( μm)程度である。
【0050】
また、上記のガス拡散電極用基材18,20は、その厚み(膜厚)に限定は無いがそれぞれ200( μm)程度の厚さ寸法を備え、その表面と裏面(すなわち触媒層14,16側の一面)との間で容易に気体が流通し得るように構成された多孔質層である。
【0051】
上記のガス拡散電極用基材18,20は、例えば、多数の炭素繊維26と、多数の導電性炭素微粒子28(以下、「炭素微粒子28」という)と、樹脂自体が撥水性を有するアクリルシリコン系樹脂30とから構成されている。そして、それらの炭素繊維26、炭素微粒子28、アクリルシリコン系樹脂30の各構成割合は限定されるわけでは無いが、例えば、炭素微粒子28のガス拡散電極用基材18,20に対する重量割合は0.5〜20(%)の範囲内であり、アクリルシリコン系樹脂30のガス拡散電極用基材18,20に対する重量割合は0.5〜20(%)の範囲内であり、且つ、炭素繊維26のガス拡散電極用基材18,20に対する重量割合は60〜99(%)の範囲内である。更に好適には、炭素微粒子28のガス拡散電極用基材18,20に対する重量割合は6〜20(%)の範囲内であり、アクリルシリコン系樹脂30のガス拡散電極用基材18,20に対する重量割合は0.5〜5(%)の範囲内であり、且つ、炭素繊維26のガス拡散電極用基材18,20に対する重量割合は75〜93(%)の範囲内である。
【0052】
炭素繊維26は、ピッチを原料とするピッチ系カーボンファイバーであり、その平均直径が1〜30( μm)程度である。また、炭素繊維26の平均繊維長が50〜250( μm)程度の範囲内であって、且つ、ガス拡散電極用基材18,20の膜厚に対する上記平均繊維長の比(=平均繊維長/膜厚)が0.1〜1の範囲内であることが望ましい。例えば、ガス拡散電極用基材18,20の膜厚が200( μm)程度であるので、炭素繊維26の平均繊維長が50〜200( μm)程度の範囲内であることが望ましい。具体的に本実施例で採用される炭素繊維26は、平均直径が8〜10( μm)程度であって平均繊維長が50( μm)程度のピッチ系カーボンファイバーである。炭素繊維26のアスペクト比(=繊維長/繊維直径)は、ガス拡散電極用基材18,20の高い導電性と高いガス透過性とを確保するため、4.5〜25の範囲内であることが望ましい。上記炭素繊維26の平均直径、平均繊維長、およびアスペクト比は、電子顕微鏡による観察から求められる。例えば、SEM(走査型電子顕微鏡)測定を行い、その画像から炭素繊維26の直径および長手方向の長さを直接測定する。
【0053】
炭素微粒子28は、その平均一次粒子径が10〜100(nm)程度の極めて微小な微粒子である。具体的に本実施例で採用される炭素微粒子28の平均一次粒子径は30(nm)程度である。本実施例において、上記平均一次粒子径とは一次粒子径の平均値であり、その一次粒子径は、電子顕微鏡による観察から求められる定方向径である。なお、炭素微粒子28は、本発明の導電性微粒子に対応する。
【0054】
また、アクリルシリコン系樹脂30は、具体的には、アクリルモノマーが重合して形成する主鎖に対しケイ素を含む側鎖が3次元的に結合した構造を有する撥水性樹脂であり、そのアクリルシリコン系樹脂30の分子量は数十万程度である。詳細には、上記主鎖は、下記の化1に示す構造式のモノマーが重合して形成されており、アクリルシリコン系樹脂30は、その主鎖のR(化1参照)が下記の化2に示す構造式のモノマーが重合して形成された上記側鎖である高分子化合物である。
【0055】
【化1】
【0056】
【化2】
【0057】
また、ガス拡散電極用基材18,20は、その炭素繊維26が上記のように膜厚(基材厚)よりも小さい繊維長を有していることから、図2に模式的に示すように、炭素繊維26は、ガス拡散電極用基材18,20の厚み方向或いはこれに傾斜した方向に伸びる向きでそのガス拡散電極用基材18,20内に多数存在する。また、各炭素繊維26は相互に絡み合い、それらの接触点において、図3に模式的に示すように、各々の炭素繊維26は直接的に或いはそれらの相互間に多数の炭素微粒子28を介在させた状態でアクリルシリコン系樹脂30により接合されている。炭素微粒子28は、多数個が凝集してクラスター構造を成しており、無数の接点を通して炭素繊維26相互を接触させている。このような構造を備えていることから、ガス拡散電極用基材18,20は、十分に高い導電性と高いガス透過性とを有している。
【0058】
なお、上記図3は、本実施例のガス拡散電極用基材18,20における典型的な構造例を模式的に示したもので、この図3に示されるような構造は必ずしも炭素繊維26の全ての接触点で形成されていない。すなわち、炭素繊維26が相互に直に接していたり、炭素微粒子28が介在させられずアクリルシリコン系樹脂30のみで接合されている部分も存在する。
【0059】
平板型のガス拡散電極用基材18,20は、例えば以下のようにして製造される。以下、図4を参照して製造方法を説明する。図4は、後述する断面加圧抵抗値測定、ガス透過率測定の試験サンプルの製造方法を示した工程図であるが、最後の評価工程を除けば、以下に述べるガス拡散電極用基材18,20の製造方法を説明するための工程図でもある。
【0060】
まず、炭素繊維26と炭素微粒子28とアクリルシリコン系樹脂30と、溶媒としての溶剤SLV および水とを、予め設定された割合で用意する。これらの混合割合は適宜定められるが、例えば、ガス拡散電極用基材18,20の製造工程完了後において、炭素繊維26、炭素微粒子28、および、アクリルシリコン系樹脂30のガス拡散電極用基材18,20に対する各重量割合が所定の目標範囲内となるように混合される。なお、用意される上記アクリルシリコン系樹脂30は、乾燥硬化後にも残留する樹脂の固形分と乾燥により揮発する溶剤分( 水分)とから構成されている。
【0061】
図4において、先ず、予備混合工程S1では、予め設定された割合となるように秤量された炭素繊維26、炭素微粒子28、溶剤SLV が、順次に適当な混合容器に入れつつそれらを混合する混合処理が実行される。このとき、炭素繊維26は、電極基材用スラリーSLR 中で均一に分散するように混合される。この混合処理では、例えば300(rpm) 程度の回転速度で5分程度の時間をかけて攪拌される。この予備混合工程S1では、炭素繊維26や炭素微粒子28の分散のために、必要に応じて超音波による10分程度の攪拌が行われる。次いで、スラリー製造工程( 混合工程) S2では、重量比で50%程度の固形分を含む水溶性のアクリルシリコン系樹脂30と、重量比で50%程度の水分を含む溶剤SLV が、上記混合容器内に追加的に投入されつつそれらを混合する混合処理が実行される。この混合処理では、例えば300(rpm) 程度の回転速度で270分程度の時間をかけて攪拌される。これにより、電極基材用スラリーSLR が得られる。なお、ガス拡散電極用基材18,20は、上記電極基材用スラリーSLR から溶剤が揮発し或いは水分が蒸散して残ったアクリルシリコン系樹脂30と炭素繊維26と炭素微粒子28とから構成されることになる。このアクリルシリコン系樹脂30は、加熱によって軟化し且つ硬化することで炭素繊維26同士を相互に導電状態に維持しつつ炭素繊維26および炭素微粒子28を相互に結合する結合剤樹脂として機能するものである。
【0062】
次いで、乾燥工程S3においては、上記電極基材用スラリーSLR から溶剤を揮発させ且つ水分を蒸散させて乾燥状態とするために、面積の大きい平坦な底面を有する浅い容器内に収容した上記電極基材用スラリーSLR に、例えば50〜70( ℃) 程度の温度で60乃至120分程度の乾燥処理を施す。この乾燥温度は、アクリルシリコン系樹脂30を硬化させない範囲で速やかに溶剤を揮発させ且つ水分を蒸散させるために設定されている。
【0063】
次に、造粒工程S4においては、電極基材用スラリーSLR に上記乾燥処理を施することにより得られたガス拡散電極用乾燥材料に、例えば樹脂製ボールを有するボールミルを用いて粉砕処理を施し、且つ所定の目開き例えば850μm程度の目開きを有する篩を通すことにより、炭素繊維26に導電性微粒子28とアクリルシリコン系樹脂30が付着した粉体であって比較的粒度が揃ったガス拡散電極用粉体状材料を生成する。上記粉砕処理は、炭素繊維26を折損或いは破壊しない程度に上記ガス拡散電極用乾燥材料をほぐして細粒化するための処理である。乾燥工程S3および造粒工程S4は、炭素繊維26と導電性微粒子28とアクリルシリコン系樹脂30とを溶剤SLV および水と共に混合してスラリー状とした後、それを乾燥して、炭素繊維26に導電性微粒子28およびアクリルシリコン系樹脂30が付着した粉体状材料PWD を生成する粉体材料生成工程に対応している。
【0064】
続く、ホットプレス工程S5においては、上記造粒工程S4において所定の粒度に造粒されたガス拡散電極用粉体状材料PWD を、粉体成形用プレス金型の一方の下型の成形キャビティK内に充填し、アクリルシリコン系樹脂30の軟化温度よりも高い温度で他方の金型を用いて所定時間の間加熱圧縮し、次いで冷却してアクリルシリコン系樹脂30が硬化した後で型開きすることで、炭素繊維26が炭素粒子28を介在させた状態でアクリルシリコン系樹脂30により結合された所定厚みのガス拡散電極用基材18、20を成形する。このホットプレス工程S5では、たとえば60〜150℃の温度下で0.1〜10MPaの圧力で上記ガス拡散電極用粉体状材料PWD を加圧する。このホットプレス工程S5の過程で、ガス拡散電極用粉体状材料PWD に残存する水や溶剤SLV が除去され、炭素繊維26が相互に絡み合い且つクラスター構造の炭素微粒子28を介して相互に導通した状態でアクリルシリコン系樹脂30で接合された、例えば200( μm)程度の厚さ寸法のシート状の乾式GDL、すなわち、MEA10のガス拡散電極22,24を構成するためのガス拡散電極用基材18,20が得られる。
【0065】
図5、図6、図7は、上記ホットプレス工程S5におけるホットプレスの過程を順次説明する図である。位置固定の下型ダイス40において上面に開口するように設けられた穴42内には、エジェクタ型44が突き出し可能に設けられており、そのエジェクタ型44の上面と下型ダイス40の穴42の内周面とで成形キャビティKが形成されている。上型ポンチ46は、その下型ダイス40の穴42内に突き入れ可能に、下型ダイス40に対して接近離隔方向に駆動されるように設けられている。図5に示す状態すなわち粉体充填工程では、上型ポンチ46が下型ダイス40から離隔させられる一方、エジェクタ型44が下型ダイス40の穴42内に引き込まれた状態とされることで開口させられている成形キャビティK内に、ガス拡散電極用基材18或いは20の1個分すなわち1枚分のいガス拡散電極用粉体状材料PWD が充填される。この状態で上型ポンチ46が下降させられることで、ガス拡散電極用粉体状材料PWD が押圧され、且つ図示しないヒータが内蔵された下型ダイス40、エジェクタ型44、上型ポンチ46によって加熱される。図6はこの状態すなわち加熱押圧工程を示している。所定の加熱時間が経過すると、図7の型開き工程に示すように、上型ポンチ46が上昇させられると共に、エジェクタ型44が下型ダイス40の上面と面一となるまで上昇させられ、成形後のガス拡散電極用基材18或いは20が横方向へ押されて移送されることで、取り出される。
【0066】
そして、図示しない後工程においては、上記のようにして製造されたガス拡散電極用基材18、20の片面に触媒スラリーを塗布して触媒層14,16が形成されたガス拡散電極(電極シート)22,24を作製し、シート状の電解質膜12を触媒層14,16が内側になるように2枚のガス拡散電極22,24で挟み、ホットプレスを施すことで、図1に示すMEA10が得られる。なお、触媒スラリーおよび電解質膜12を構成する電解質の詳細については、本実施例を理解するために必要ではないので省略する。
【0067】
以下において、上記プレス法により得られたガス拡散電極用基材(乾式GDL)と、スラリー法によるガス拡散電極用基材(スラリー式GDL)との性能差を確認するために本発明者が行った実験例を以下に説明する。
【0068】
先ず、図4に示す乾式GDL製造工程を用いて、25mm×35mm×250μmtの板状の乾式GDLテストピースを作成した。また、図8に示すスラリー式GDL製造工程を用いて、10mm×10mm×250μmtの板状のスラリー式GDLテストピースを作成した。図8に示すスラリー式GDL工程は、図4に示す乾式GDL工程に対して、スラリー製造工程S2までは共通であるが、乾燥工程S3、造粒工程S4、ホットプレス工程S5に替えて、成形工程S13、乾燥工程S14、熱処理工程S15を備えている。成形工程S13では、電極基材用スラリーSLR を、スリップキャスティング等のシート成型法、或いは、プレート上にメタルマスクを通して塗布することで250( μm)程度に厚みを制御したシート状成形体SHが成形される。乾燥工程S14では、そのシート状成形体SHが50〜80( ℃) 程度の温度で3時間程度の間オーブン内で乾燥される。熱処理工程S15では、上記乾燥処理を施されたシート状成形体SHが、例えば150( ℃) で3時間程度の熱処理により、硬化させられる。これにより、シート状成形体SHから溶剤(溶剤SLV +樹脂の溶剤分)が除去され、炭素繊維26が相互に絡み合い且つクラスター構造の炭素微粒子28を介してアクリルシリコン系樹脂30で接合されたシート状のスラリー式GDLが得られる。
【0069】
ここで、具体的に、上記乾式GDLテストピースおよびスラリー式GDLテストピースの製造に用いられた、固形分50wt%且つ溶剤分50wt%のアクリルシリコン系樹脂30はDIC( 株) のボンコートシリーズであり、炭素繊維26は平均直径が8〜10( μm)程度で平均繊維長が50( μm)程度のピッチ系カーボンファイバーである三菱樹脂( 株) のK6371Mであり、炭素微粒子28は平均一次粒子径が30(nm)程度であるcabot 社のVulcan XC-72(Vulcan はcabot 社の登録商標) であり、溶剤SLV はエタノールを主剤とする日本アルコール販売( 株) のソルミックスAP-7である。また、比較例として用いられた市販品のGDL用フッ素樹脂コートカーボンペーパTGPは、Electro Chem Inc. 社のEC-TP1-060T である。
【0070】
図4に示す測定工程および図8に示す測定工程では、上記乾式GDLテストピースおよびスラリー式GDLと比較対象である市販品のGDL用フッ素樹脂コートカーボンペーパTGPの、断面加圧抵抗値およびガス透過率が測定された。断面加圧抵抗は、厚み方向に加圧した状態で測定した表面と裏面との間の面積抵抗値(mΩcm2)であり、例えばアズワン( 株) 製の小型熱プレス機AH−2003を用いて前記テストピースを一対の金メッキ銅板で挟み2(MPa) で加圧し、50(mA)を通電したときの上記一対の金メッキ銅板間の電圧を測定することにより求めた。また、ガス透過性( mlmm/cm2/min)は、例えばPMI社製のキャピラリーフローポロメータ1200AELを用いて、ガス圧が30(kPa) の空気を前記テストピースの片面に与えることにより測定した。また、接触角は、例えば協和界面科学( 株) 製のFACE接触角計CA−DTを用いて、水滴の拡大画像をθ/ 2法で測定した。また、これらの断面加圧抵抗、ガス透過性、及び、接触角の測定は例えば5〜35( ℃) 程度の室温にてそれぞれ行った。
【0071】
図9は、乾式GDLテストピース、スラリー式GDLテストピース、および比較対象である市販品のGDL用フッ素樹脂コートカーボンペーパTGPについて測定した断面加圧抵抗値を対比して示す棒グラフである。断面加圧抵抗値は、低い値ほど良く、一般には、30(mΩcm2)以下であれば実用可能とされているところ、上記乾式GDLテストピース、スラリー式GDLテストピース、およびGDL用フッ素樹脂コートカーボンペーパTGPはいずれも9(mΩcm2)以下の値を示している。特に、乾式GDLテストピースは、スラリー式GDLテストピースでは得られなかった低い値が得られている。
【0072】
図10は、乾式GDLテストピース、スラリー式GDLテストピース、およびGDL用フッ素樹脂コートカーボンペーパTGPについて測定したガス透過率( mlmm/cm2/min)を対比して示す棒グラフである。ガス透過性は、高い値ほど良く、一般には、3000〜20000の範囲内であれば実用可能とされているところ、上記乾式GDLテストピース、スラリー式GDLテストピース、およびGDL用フッ素樹脂コートカーボンペーパTGPはいずれも8000〜16000の範囲内の値を示している。乾式GDLテストピースは、スラリー式GDLテストピースほどの値が得られなかったが、十分に実用可能な値を示している。
【0073】
図11は、乾式GDLテストピース、スラリー式GDLテストピース、およびGDL用フッ素樹脂コートカーボンペーパTGPについて測定した接触角( °)を対比して示す棒グラフである。接触角は、一般には、高い値ほど排水性或いは撥水性が良く、132°以上であれば実用可能とされているところ、上記乾式GDLテストピース、スラリー式GDLテストピース、およびGDL用フッ素樹脂コートカーボンペーパTGPはいずれも135°以上の値を示している。乾式GDLテストピースは、スラリー式GDLテストピースと共に、GDL用フッ素樹脂コートカーボンペーパTGPほどの値は得られなかったが、十分に実用可能な値を共に示している。
【0074】
上記図9、図10、図11に示されるデータから、乾式で実用可能なガス拡散電極用基材(GDL)を製造できることが確認できた。特に、断面加圧抵抗値については、乾式GDLはスラリー式GDLよりも低い値が得られた。これは、ホットプレスによってシート化する際に、炭素繊維26相互の接点が増加したためであると考えられる。
【0075】
次に、プレス圧力範囲および温度範囲や、結合剤樹脂の範囲を確認するために本発明者が行った実験例を以下に説明する。
【0076】
先ず、図4に示す乾式GDL製造工程内のホットプレス工程S5において一定の130℃の加熱温度( 金型温度) 下において、5種類のプレス圧力、すなわち0.1MPa、1MPa、3MPa、5MPa、10MPaを用いた以外は、前述と同様に図4に示す製造条件にしたがって板状(25mm×35mm×250μmt)の5種類の乾式GDLテストピースを製造し、次いで、それら5種類の乾式GDLテストピースの断面加圧抵抗( mΩcm2)をそれぞれ測定した。図12は、それら5種類の乾式GDLテストピースの断面加圧抵抗を対比可能に示す棒グラフである。これによれば、いずれも30(mΩcm2)以下の実用可能範囲内の値を示しているが、プレス圧力が低くなるほど炭素繊維26間の距離が大きなってそれらの間に介在する結合剤樹脂が多くなって断面加圧抵抗が高くなる傾向となり、0.1MPaを下まわると、断面加圧抵抗が大きくばらついて不安定となる。反対に、プレス圧力が高くなるほど炭素繊維26の折れが発生して電気的な導通が妨げられる傾向となり、10MPaを超えると、断面加圧抵抗が大きくばらついて不安定となる。
【0077】
次いで、図4に示す乾式GDL製造工程内のホットプレス工程S5において一定のプレス圧力すなわち1MPaにおいて、5種類の加熱温度( 金型温度) 、すなわち60℃、80℃、100℃、130℃、150℃を用いた以外は、前述と同様に図4に示す製造条件にしたがって板状(25mm×35mm×250μmt)の5種類の乾式GDLテストピースを製造し、次いで、それら5種類の乾式GDLテストピースの断面加圧抵抗( mΩcm2)をそれぞれ測定した。図13は、それら5種類の乾式GDLテストピースの断面加圧抵抗を対比可能に示す棒グラフである。これによれば、いずれも30(mΩcm2)以下の実用可能範囲内の値を示しているが、加熱温度が低くなるほど結合剤樹脂の軟化が未だ不十分で炭素繊維26間の距離が大きなりそれらの間に介在する結合剤樹脂が多くなって断面加圧抵抗が高くなる傾向となり、60℃を下まわると、断面加圧抵抗が大きくばらついて不安定となる。反対に、加熱温度が高くなるほど炭素繊維26間の接触点が多くなって断面加圧抵抗が低くなる傾向となるが、150℃を超えると結合剤樹脂の変質の発生や、結合剤樹脂が流れて偏在し、強度がばらついて不安定となる可能性がある。
【0078】
次に、結合剤樹脂の種類毎の性能を比較するために、ガス拡散電極用基材に必要な耐久性( 耐酸性および耐熱性) があり且つホットプレス可能な加熱により軟化する性質を有する3種類の結合剤樹類、すなわちアクリルシリコン系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、エポキシ系樹脂を用い、図4に示す乾式GDL製造工程にしたがって板状(25mm×35mm×250μmt)の3種類の乾式GDLテストピースを製造し、次いで、それら3種類の乾式GDLテストピースの断面加圧抵抗( mΩcm2)、ガス透過率( mlmm/cm2/min)、接触角( °) をそれぞれ測定した。図14、図15、および図16は、それら3種類の乾式GDLテストピースの断面加圧抵抗、ガス透過率、および接触角をそれぞれ対比可能に示す棒グラフである。図14、図15、および図16から明らかなように、上記3種類のアクリルシリコン系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、エポキシ系樹脂を用いた乾式GDLテストピースは、断面加圧抵抗、ガス透過率、および接触角においていずれも実用可能範囲内の値を示しており、相互に格別の差は存在しない。上記エポキシ系樹脂は熱硬化性樹脂の範疇にあるものの、上記の熱可塑性樹脂と同様に炭素繊維26に浸透してそれらを相互に接触状態で結合する程度に加熱により軟化する熱可塑的性質を有するので、それを結合剤樹脂として用いた乾式GDLテストピースは、ホットプレス可能であった。
【0079】
上述したように、本実施例によれば、ガス拡散電極用基材18、20では、たとえば図3のように、各々の炭素繊維26がそれらの相互間で直接に或いは導電性微粒子( 炭素微粒子28) を介在させた状態でアクリルシリコン系樹脂30により接合されているので、ガス拡散電極用基材18、20は、アクリルシリコン系樹脂30自体の撥水機能により、フッ素を含むこと無く高い撥水性を有するため、ガス拡散電極用基材18、20に撥水皮膜を付加する等の後工程が必要とされない。また、ガス拡散電極用基材18、20は、多孔質であり炭素繊維26および炭素微粒子28により構成されているので高いガス透過性を有するとともに、その炭素微粒子28が含まれていることにより炭素繊維26相互間の導電性を高め、炭素微粒子28が無いものと比較して高い導電性をも有することができるので、導電性およびガス透過性が共に高く且つフッ素を用いなくとも撥水性の高いガス拡散電極用基材18,20が得られる。
【0080】
また、本実施例のガス拡散電極用基材18、20の製造方法によれば、炭素繊維26と導電性微粒子28と加熱によって軟化する結合剤樹脂( アクリルシリコン系樹脂30) とを混合および乾燥して、その炭素繊維26に導電性微粒子( 炭素微粒子28) および結合剤樹脂が付着した粉体状材料を生成する粉体材料生成工程( 乾燥工程S3、造粒工程S4)と、その粉体材料生成工程において生成された粉体状材料を成形金型( 下型ダイス40) 内に充填して結合剤樹脂の軟化温度よりも高い温度で加熱圧縮することで、炭素繊維26が導電性微粒子を介在させた状態で結合剤樹脂により結合された所定厚みのガス拡散電極用基材18,20を成形するホットプレス工程S5とにより、比較的単純な工程でガス拡散電極用基材18,20が製造されるので、量産性に優れ且つ低コストの製造方法が得られる。
【0081】
また、本実施例のガス拡散電極用基材18、20の製造方法によれば、結合剤樹脂としてアクリルシリコン系樹脂30が用いられることから、ガス拡散電極用基材18,20は、そのアクリルシリコン系樹脂30の撥水機能により、フッ素を含むこと無く高い撥水性を有するという利点がある。例えば、レゾール系樹脂を用いたものと比較して高い撥水性を有する。そのため、ガス拡散電極用基材18、20に撥水皮膜を付加する等の後工程が必要とされない。また、そのガス拡散電極用基材18、20は、多孔質であり炭素繊維26および導電性微粒子により構成されているので高いガス拡散性を有するとともに、その導電性微粒子が含まれていることにより炭素繊維26相互間の導電性を高め、それが無いものと比較して高い導電性をも有することができる。従って、導電性およびガス拡散性が共に高く且つフッ素を用いなくとも撥水性の高いガス拡散電極用基材18、20が得られる。
【0082】
また、本実施例のガス拡散電極用基材18、20の製造方法によれば、導電性微粒子は炭素微粒子28であることから、鉄粉や銅粉等の金属微粒子である場合と比較して、比重が小さいために分散性が良く、ガス拡散電極用基材18、20の耐酸性がより高くなるという利点がある。すなわち、耐酸性、耐熱性、導電性の何れもが高い導電性微粒子をガス拡散電極用基材18、20に用いることが可能である。
【0083】
また、本実施例のガス拡散電極用基材18、20の製造方法によれば、ホットプレス工程S5は、60〜150℃の温度下で0.1〜10MPaの圧力で加圧するものであることから、炭素繊維26が破壊されず且つ炭素繊維26同士が炭素微粒子28およびアクリルシリコン系樹脂30を介して相互に導電性を維持しつつ相互に結合されるので、比較的簡単な工程で炭素繊維26が炭素微粒子28およびアクリルシリコン系樹脂30によって結合されるので、ガス拡散電極用基材18、20が低コストで製造される。
【0084】
また、本実施例のガス拡散電極用基材18、20の製造方法によれば、粉体材料生成工程( 乾燥工程S3、造粒工程S4)は、乾燥した後の粉体状材料を乾式粉砕し、所定範囲の粒度に整粒する造粒工程S4を含むことから、ホットプレス用の金型( 下型ダイス40) 内への粉体状材料の充填が均一となり、高品質のガス拡散電極用基材18、20が得られる。
【0085】
また、本実施例のガス拡散電極用基材18、20の形成用の粉体状材料は、図4に示す工程内のホットプレス工程S5において用いられる粉体状材料であることから、このガス拡散電極用基材形成用粉体状材料をガス拡散電極用基材18、20の製造に用いることにより、低コストでガス拡散電極用基材18、20を製造できる。
【実施例2】
【0086】
次に、ガス拡散電極用基材18、20の製造方法の他の実施例を以下に説明する。本実施例の製造方法は、前述の図4に示す製造工程のホットプレス工程S5に替えて、ガス拡散電極用基材18、20の成形硬化と、固体高分子電解質膜12の一面または両面に対するそのガス拡散電極用基材18、20の固着とを同時に行うホットプレス工程S5’が設けられている点で相違し、他の工程は同様である。詳しくは、このホットプレス工程S5’は、図5の粉体充填工程、図6の加熱押圧工程、図7の型開き工程から成るホットプレス工程S5に対して、加熱押圧工程および型開き工程において同様であるが、その前に、第1粉体充填工程、固体高分子電解質膜12の挿入工程、第2粉体充填工程から成る点で、相違している。
【0087】
以下において、本実施例のホットプレス工程S5’を、図17乃至図21を用いて説明する。先ず、図17に示される第1粉体充填工程では、上型ポンチ46が下型ダイス40から離隔させられる一方で、エジェクタ型44が下型ダイス40の穴42内に引き込まれた状態とされることで開口させられている成形キャビティK内に、ガス拡散電極用基材18用の1個分のガス拡散電極用粉体状材料PWD が充填される。次いで、図18に示される電解質膜挿入工程では、エジェクタ型44が下型ダイス40の穴42内にさらに引き込まれた状態とされることで空間が増加させられた成形キャビティK内に、予めシート状に成膜された触媒層14,16により両面が覆われたシート状の電解質膜12、或いは、触媒スラリーを塗布して触媒層14,16が両面に形成されたシート状の電解質膜12が挿入される。さらに、図19に示される第2粉体充填工程では、成形キャビティK内の電解質膜12の上に、ガス拡散電極用基材20用の1個分のガス拡散電極用粉体状材料PWD が充填される。次いで、図20に示される加熱押圧工程では、上型ポンチ46が下降させられ且つエジェクタ型44が押し上げられることで、ガス拡散電極用粉体状材料PWD が所定のプレス圧で押圧され、且つ図示しないヒータが内蔵された下型ダイス40、エジェクタ型44、上型ポンチ46によって加熱される。そして、所定の加熱時間が経過すると、図21の型開き工程に示すように、上型ポンチ46が上昇させられると共に、エジェクタ型44が下型ダイス40の上面と面一となるまで上昇させられ、電解質膜12の両面に、触媒層14、16を介してガス拡散電極用基材18、20が固着された、図1に示す成形後のMEA( 膜−電極接合体) 10が、横方向へ押されて移送されることで、取り出される。
【0088】
本実施例の製造方法のホットプレス工程S5’は、金型内において固体高分子電解質膜12と共に粉体状材料PWD を加熱圧縮することで、固体高分子電解質膜12の両面に触媒層14、16を介してガス拡散電極用基材18、20を固着させてガス拡散電極を構成するものであることから、固体高分子電解質膜12の両面に別工程で製造した板状のガス拡散電極用基材18、20を固着させる工程が不要となって、ガス拡散電極用基材18、20および触媒層14、16と固体高分子電解質膜12との複数層構造のMEA( 膜−電極接合体) 10が一挙に得られるので、MEA10が、低コストで製造される。
【0089】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【0090】
例えば、前述の図17乃至図21に示される実施例において、図18の電解質膜挿入工程は、第1充填工程において充填されたガス拡散電極用粉体状材料PWD が上片パンチ46によって仮押しされた後で成形キャビティK内に挿入されてもよい。
【0091】
また、前述の実施例の図4において、乾燥工程S3の次に造粒工程S4が実施されるが、たとえばスラリーを乾燥室内に噴霧して直ちに細粒化するスプレードライヤー装置を用いることで、乾燥工程S3と造粒工程S4とが一工程に統合されており、スラリーからの溶剤SLV および水の除去と、細粒化とが並行して進行させられても差し支えない。このようにすれば、粉体状材料PWD は球形状粒子となるので、一層、充填が容易となる利点がある。
【0092】
また、前述の実施例のガス拡散電極用基材18,20は炭素微粒子28を備えているが、この炭素微粒子28はガス拡散電極用基材18,20の導電性を高めるために配合されているものであるのでその微粒子の材質は炭素に限定されるわけではなく、炭素微粒子28に替えて或いはそれと共に金属微粒子を備えたガス拡散電極用基材18,20も考え得る。
【0093】
また、前述の実施例において、炭素繊維26は、ピッチ系カーボンファイバーであるが、ポリアクリルニトリル繊維を炭化したPAN系カーボンファイバーなどの他のカーボンファイバーであっても差し支えない。例えば、炭素繊維26がPAN系カーボンファイバーであれば、ピッチ系カーボンファイバー等である場合と比較して、PAN系カーボンファイバーは高強度であるので、ガス拡散電極用基材18,20の機械的強度が高くなるという利点がある。
【0094】
また、前述の実施例において、炭素繊維26はその平均直径が1〜30( μm)程度であるが、その平均直径が5〜20( μm)程度であればより好ましい。その平均直径が5( μm)以上であれば、繊維が十分に太く、折れ難いことから十分に高い機械的強度が得られ、一方、その平均直径が20( μm)以下であれば、炭素微粒子28、アクリルシリコン系樹脂30や溶剤SLV との混合が容易となるからである。
【0095】
また、前述の実施例において、ガス拡散電極用基材18,20は、多数の炭素繊維26と、多数の炭素微粒子28と、アクリルシリコン系樹脂30とから構成されているが、その他の構成材料を含んでいても差し支えない。
【符号の説明】
【0096】
10:MEA(膜−電極接合体)
12:電解質膜(固体高分子電解質層)
18,20:ガス拡散電極用基材
22,24:ガス拡散電極
26:炭素繊維
28:炭素微粒子(導電性微粒子)
30:アクリルシリコン系樹脂(結合剤樹脂)
S2:スラリー製造工程(混合工程)
S3:乾燥工程(粉体材料生成工程)
S4:造粒工程(粉体材料生成工程)
S5、S5’:ホットプレス工程
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子形燃料電池のガス拡散電極を構成するために固体高分子電解質膜の一面に気体を導き得る状態で設けられる多孔質のガス拡散電極用基材の製造方法であって、
炭素繊維と導電性微粒子と加熱によって軟化する結合剤樹脂とを混合および乾燥して、該炭素繊維に該導電性微粒子および結合剤樹脂が付着した粉体状材料を生成する粉体材料生成工程と、
該粉体材料生成工程において生成された粉体状材料を成形金型内に充填して前記結合剤樹脂の軟化温度よりも高い温度で加熱圧縮することで、前記炭素繊維が前記炭素粒子を介在させた状態で前記結合剤樹脂により結合された所定厚みの前記ガス拡散電極用基材を成形するホットプレス工程と
を、含むことを特徴とするガス拡散電極用基材の製造方法。
【請求項2】
前記結合剤樹脂はアクリルシリコン系樹脂である
ことを特徴とする請求項1のガス拡散電極用基材の製造方法。
【請求項3】
前記導電性微粒子は炭素微粒子である
ことを特徴とする請求項1または2のガス拡散電極用基材の製造方法。
【請求項4】
前記ホットプレス工程は、60〜150℃の温度下で0.1〜10MPaの圧力で加圧するものである
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1のガス拡散電極用基材の製造方法。
【請求項5】
前記ホットプレス工程は、前記成形金型内において前記固体高分子電解質膜と共に前記粉体状材料を加熱圧縮することにより、固体高分子電解質膜の一面又は両面に板状の前記ガス拡散電極用基材を固着させて前記ガス拡散電極を構成するものである
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1のガス拡散電極用基材の製造方法。
【請求項6】
前記粉体材料生成工程は、乾燥した後の粉体状材料を乾式粉砕し、所定範囲の粒度に整粒する造粒工程を含む
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1のガス拡散電極用基材の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1において、前記ホットプレス工程に用いられるガス拡散電極用基材形成用粉体状材料。
【請求項1】
固体高分子形燃料電池のガス拡散電極を構成するために固体高分子電解質膜の一面に気体を導き得る状態で設けられる多孔質のガス拡散電極用基材の製造方法であって、
炭素繊維と導電性微粒子と加熱によって軟化する結合剤樹脂とを混合および乾燥して、該炭素繊維に該導電性微粒子および結合剤樹脂が付着した粉体状材料を生成する粉体材料生成工程と、
該粉体材料生成工程において生成された粉体状材料を成形金型内に充填して前記結合剤樹脂の軟化温度よりも高い温度で加熱圧縮することで、前記炭素繊維が前記炭素粒子を介在させた状態で前記結合剤樹脂により結合された所定厚みの前記ガス拡散電極用基材を成形するホットプレス工程と
を、含むことを特徴とするガス拡散電極用基材の製造方法。
【請求項2】
前記結合剤樹脂はアクリルシリコン系樹脂である
ことを特徴とする請求項1のガス拡散電極用基材の製造方法。
【請求項3】
前記導電性微粒子は炭素微粒子である
ことを特徴とする請求項1または2のガス拡散電極用基材の製造方法。
【請求項4】
前記ホットプレス工程は、60〜150℃の温度下で0.1〜10MPaの圧力で加圧するものである
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1のガス拡散電極用基材の製造方法。
【請求項5】
前記ホットプレス工程は、前記成形金型内において前記固体高分子電解質膜と共に前記粉体状材料を加熱圧縮することにより、固体高分子電解質膜の一面又は両面に板状の前記ガス拡散電極用基材を固着させて前記ガス拡散電極を構成するものである
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1のガス拡散電極用基材の製造方法。
【請求項6】
前記粉体材料生成工程は、乾燥した後の粉体状材料を乾式粉砕し、所定範囲の粒度に整粒する造粒工程を含む
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1のガス拡散電極用基材の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1において、前記ホットプレス工程に用いられるガス拡散電極用基材形成用粉体状材料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2011−165525(P2011−165525A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28270(P2010−28270)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】
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