説明

ガラス基板の表面を防眩化するための表面処理液

【課題】ソーダガラス基板、無アルカリガラス基板、又はアルミノケイ酸ガラス基板の表面を防眩化(アンチグレア化)するための表面処理液及び当該表面処理液を用いた防眩化ガラス基板の製造方法の提供。
【解決手段】表面処理液は、ソーダガラス基板、無アルカリガラス基板、又はアルミノケイ酸ガラス基板の表面を防眩化するために用いられ、下記式(a)〜(d)で示される直線によって囲まれる濃度割合でHFとHSOとを含有する。(a)X=0.5(b)X=12(c)Y=75(d)Y=2X+87上記式(a)〜(d)において、XはHFの濃度(重量%)であり、YはHSOの濃度(重量%)である。ただし、上記式(a)〜(d)で示される直線によって囲まれる濃度割合のうち、X+Y≧100となる濃度割合を除く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソーダガラス基板、無アルカリガラス基板、又はアルミノケイ酸ガラス基板の表面を防眩化(アンチグレア化)するための表面処理液及び当該表面処理液を用いた防眩化ガラス基板の製造方法に関する。本発明の表面処理液は、特にタッチパネル用の前記ガラス基板の表面を防眩化するために好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
液晶テレビに代表される薄型テレビ及びパーソナルコンピュータのモニタなどの画像表示装置には、外光や屋内照明による反射の影響で視認性が低下することを防止するために反射防止膜が設けられている。
【0003】
また近年、高機能携帯電話(スマートフォン)やタブレット型携帯端末に代表されるタッチパネルを搭載した電子デバイスがめざましい勢いで普及している。これらの携帯端末は、屋外での使用頻度が高いなどの理由により、反射防止性に優れることが求められる。
【0004】
従来、ガラス基板表面の反射率を下げて、かつ光透過率を向上させる方法としては、ガラス基板表面にガラスよりも低い屈折率を有する反射防止膜を設ける方法が採用されている。しかし、タッチパネルを搭載した電子デバイスの場合、頻繁に指やペンでディスプレイ表面に触れるため、反射防止膜の劣化や剥がれが起こりやすいという問題があった。
【0005】
ガラスの光反射を防止することを目的として、特許文献1では、弗化水素酸溶液に腐蝕されない物質の薄層で板ガラス片面を被覆し、該板ガラスを弗化水素酸と酢酸アンモニウムの混合溶液に常温で浸漬し、次に弗化水素酸の単独溶液または弗化水素酸の溶液と硫酸との混合溶液に常温で浸漬することを特徴とする透明性良好な無反射性ガラスの製造方法が提案されている。
【0006】
しかし、当該製造方法は2回の処理工程が必要であるため製造効率に劣る。また、2段階目の処理において、弗化水素酸の単独溶液を用いるとガラス成分に起因するカルシウムやアルミニウムの弗化物がガラス表面に堆積し、均一性が損なわれる。また、弗化水素酸と硫酸の混合溶液を用いた場合には、弗化物の発生は少ないが、ガラス表面に大きなうねりが生じることがある。
【0007】
また、特許文献2では、二酸化珪素を過飽和状態とした珪弗化水素酸溶液よりなる処理液に基板を接触させて、該基板表面に二酸化珪素被膜を成膜することにより、基板表面に反射防止層を形成して低反射基板を製造する方法において、該二酸化珪素被膜の成膜速度を20〜100nm/時とすることにより該二酸化珪素被膜中の弗素含有量を調整し、屈折率1.435以下の反射防止層を形成することを特徴とする低反射基板の製造方法が提案されている。
【0008】
しかし、上記で述べたように、当該低反射基板をタッチパネルに用いると、反射防止層の劣化や剥がれが起こりやすくなる。
【0009】
また、非特許文献1には、ガラス基板のアンチグレア化(防眩化)処理は、フッ化水素とフッ化アンモニウムの混合液を用いて実施されることが記載されている。しかし、当該混合液を用いた場合には、処理後のガラス基板表面に白色のフッ化物結晶が残存したり、均一性が損なわれるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭49−1609号公報
【特許文献2】特開2002−139603号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】ガラスハンドブック((株)朝倉書店)1991年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、ソーダガラス基板、無アルカリガラス基板、又はアルミノケイ酸ガラス基板の表面を防眩化(アンチグレア化)するための表面処理液及び当該表面処理液を用いた防眩化ガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記従来の問題点を解決すべく表面処理液について検討した。その結果、HFとHSOとを特定濃度で含有する混合溶液を用いることにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、ガラス基板の表面を防眩化するための表面処理液において、
前記ガラス基板は、ソーダガラス基板、無アルカリガラス基板、又はアルミノケイ酸ガラス基板であり、
前記表面処理液は、下記式(a)〜(d)で示される直線によって囲まれる濃度割合でHFとHSOとを含有することを特徴とする表面処理液、に関する。
(a)X=0.5
(b)X=12
(c)Y=75
(d)Y=2X+87
上記式(a)〜(d)において、XはHFの濃度(重量%)であり、YはHSOの濃度(重量%)である。ただし、上記式(a)〜(d)で示される直線によって囲まれる濃度割合のうち、X+Y≧100となる濃度割合を除く。
【0015】
表面処理液中に硫酸を加えることにより、ガラスに含まれるカルシウム、アルミニウムなどの金属のフッ化物が溶液中に溶けやすくなり、前記ガラス基板上にフッ化物結晶が残存し難くなるため、均一なエッチングが可能になる。
【0016】
また、本発明者らは、上記式(a)〜(d)で示される直線によって囲まれる濃度割合でHFとHSOとを含有する表面処理液を用いることにより、エッチング時に前記ガラス基板表面から気泡が発生し、この気泡がエッチングを一部阻害するマスク代わりとなり、前記ガラス基板表面に均一な凹凸が形成されることを見出した。
【0017】
表面処理液中のHFとHSOとの濃度割合が、上記式(a)〜(d)で示される直線によって囲まれる濃度割合の範囲外の場合には、前記ガラス基板表面から気泡が発生せず、エッチングが均一に進行するため凹凸が十分に形成されない。そのため、前記ガラス基板に防眩性を付与することができない。
【0018】
ガラス基板は、ソーダガラス基板、無アルカリガラス基板、又はアルミノケイ酸ガラス基板であることが必要である。SiO成分以外の元素が多く含まれるガラス基板を用いることにより、エッチング時に気泡が多く発生し、均一な微細凹凸が形成され、ガラス基板に十分な防眩性を付与することができる。石英ガラスのようにSiO成分しか含まないガラス基板、又はホウケイ酸ガラスのようにSiO成分の比率が高いガラス基板を用いると、エッチング時に気泡が発生し難くなるため、エッチングが均一に進行して凹凸が形成され難くなる。そのため、ガラス基板に防眩性を付与することができない。
【0019】
また本発明は、前記表面処理液をソーダガラス基板、無アルカリガラス基板、又はアルミノケイ酸ガラス基板の表面に接触させて、当該表面を防眩処理する工程を含む防眩化ガラス基板の製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、画像表示装置用の特定のガラス基板に簡易な方法で効果的に防眩処理を施すことができ、反射による景色の映り込み等を抑制することでディスプレイの視認性を向上させることができる。また、本発明の防眩化ガラス基板は、ガラス基板上に反射防止膜を設けておらず、ガラス基板に直接防眩処理を施しているため、タッチパネル用途に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例及び比較例におけるHF濃度及びHSO濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る表面処理液の実施の形態について、以下に説明する。
【0023】
本発明の表面処理液は、下記式(a)〜(d)で示される直線によって囲まれる濃度割合でHFとHSOとを含有する。
(a)X=0.5
(b)X=12
(c)Y=75
(d)Y=2X+87
上記式(a)〜(d)において、XはHFの濃度(重量%)であり、YはHSOの濃度(重量%)である。ただし、上記式(a)〜(d)で示される直線によって囲まれる濃度割合のうち、X+Y≧100となる濃度割合を除く。好ましくはX+Y>99となる濃度割合を除く。より好ましくはX+Y>97となる濃度割合を除く。特に好ましくはX+Y>95となる濃度割合を除く。
【0024】
前記表面処理液を調製する際には、通常60%フッ化水素酸と98%硫酸とが用いられるが、他の濃度のフッ化水素酸と硫酸とを混合して調製してもよい。
【0025】
前記表面処理液は、HFを3〜6重量%、かつHSOを84〜87重量%含むことが好ましい。それにより、ガラス基板表面により均一な微細凹凸を形成でき、防眩性をより向上させることができる。
【0026】
前記表面処理液は、必須成分であるHF及びHSO以外に任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、例えば、界面活性剤、過酸化水素、キレート剤などが挙げられる。
【0027】
界面活性剤は特に制限されないが、強酸性水溶液中でも安定なポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテル、及びポリエチレングリコール脂肪酸エステル等の非イオン系界面活性剤が好ましい。
【0028】
界面活性剤の含有量は、表面処理液中に0.001〜0.1重量%であることが好ましく、0.003〜0.05重量%であることがより好ましい。界面活性剤を添加することにより、エッチング時にガラス基板表面から発生する気泡の大きさをコントロールしやすくなる。界面活性剤の含有量が0.001重量%未満の場合には、気泡の大きさをコントロールし難くなり、一方0.1重量%を超えると気泡が消えやすくなる。
【0029】
以下、前記表面処理液を用いた防眩化ガラス基板の製造方法にについて説明する。
【0030】
ガラス基板としては、ソーダガラス基板、無アルカリガラス基板、又はアルミノケイ酸ガラス基板を用いる。
【0031】
前記ガラス基板の防眩処理(エッチング処理)としては、種々のウエットエッチング法が採用でき、具体的には前記表面処理液をガラス基板の表面に接触させることにより行う。エッチング処理はガラス基板の全面に行ってもよく、一部分のみに行ってもよい。また、ガラス基板の一方の面のみをエッチング処理するために、他面に保護シートを設けておいてもよい。
【0032】
前記表面処理液をガラス基板の表面に接触させる方法は特に制限されず、例えば、浸漬式、塗布式、及びスプレー式などが挙げられる。浸漬式は、エッチング時にガラス基板表面から発生する気泡を安定化させることができるため好適である。浸漬式の場合、表面処理液の循環を行ったり、ガラス基板を揺動させながらエッチング処理を行ってもよい。
【0033】
前記表面処理液の温度は特に制限されないが、10〜40℃であることが好ましく、より好ましくは20〜30℃である。前記温度範囲の場合、表面処理液中の成分の蒸発を抑制することができ、組成変化を防止することができる。温度が高すぎると表面処理液中の成分の蒸発により処理時間の制御が困難になり、温度が低すぎるとガラス基板の溶解によって生成するフッ化物が結晶化しやすくなる。
【0034】
エッチング時間は、使用するガラス基板の種類等に応じて適宜調整する必要があるが、通常10秒〜10分程度であり、好ましくは30秒〜2分である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
[測定、評価方法]
(反射率の測定)
エッチング処理したガラス基板の反射率は、光干渉式膜厚測定装置(ナノメトリクス社製、Nanospec6100UV)を用いて測定した。なお、測定波長は550nm、入射角は0度として正反射率を測定した。
【0037】
(透過率の測定方法)
エッチング処理したガラス基板の透過率は、分光光度計(日立ハイテク社製、U−2000)を用いて測定した。なお、測定波長は550nm、入射角は0度として正透過率を測定した。
【0038】
(防眩化状態の評価方法)
ガラス基板の防眩化状態を目視にて観察し、下記基準で評価した。
◎:約2m上方にある蛍光灯をガラス基板に映した時、蛍光灯の輪郭がぼやけ、かつガラス基板を通して10cm先の文字が読み取れる。
○:約2m上方にある蛍光灯をガラス基板に映した時、蛍光灯の輪郭がぼやけ、かつガラス基板を通して10cm先の文字が読み取れるが、ガラス基板表面の凹凸が不均一である。
×:約2m上方にある蛍光灯をガラス基板に映した時、蛍光灯の輪郭がはっきり視認でき、かつガラス基板を通して10cm先の文字が読み取れる。あるいは、約2m上方にある蛍光灯をガラス基板に映した時、蛍光灯の輪郭がぼやけ、かつガラス基板を通して10cm先の文字が読み取れない。
【0039】
実施例1
(ガラス基板の前処理)
ソーダガラス基板(厚さ0.55mm)を40mm×40mmにカットし、その片面に耐酸性テープを貼付した。基板表面の汚染を除去するために、0.5%のフッ化水素酸で30秒間エッチング処理し、その後、超純水で5分間リンスを行い、窒素ブローにて乾燥させた。
【0040】
(表面処理液の調製)
容器にフッ化水素酸(ステラケミファ(株)製、濃度60重量%)17重量部、及び超純水167重量部を加えて混合し、さらに硫酸(三菱化学(株)製、濃度98重量%)816重量部を加えて混合した。その後、当該容器を25℃に設定した高温槽に浸漬して1時間放置し、HFを1重量%及びHSOを80重量%含む表面処理液を調製した。図1のグラフ中に当該表面処理液のHF濃度及びHSO濃度を示す。
【0041】
(ガラス基板のエッチング処理)
前処理したソーダガラス基板を前記表面処理液に10分間浸漬した後、超純水で5分間リンスを行い、窒素ブローにて乾燥させた。なお、エッチング処理時には、ソーダガラス基板の表面から気泡が多く発生していた。片面の耐酸性テープを剥離し、ガラス面に残存したテープの粘着剤残渣を除去するため、0.5%のフッ化水素酸で30秒間エッチング処理し、その後、超純水で5分間リンスを行い、窒素ブローにて乾燥させた。
【0042】
実施例2〜10、比較例1〜5
表1に示す表面処理液を用い、エッチング時間を変更した以外は実施例1と同様の方法でソーダガラス基板をエッチング処理した。図1のグラフ中にこれら表面処理液のHF濃度及びHSO濃度を示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1及び図1からわかるように、(a)X=0.5、(b)X=12、(c)Y=75、及び(d)Y=2X+87で示される直線によって囲まれる濃度割合でHFとHSOとを含有する表面処理液を用いた実施例1〜10においては、エッチング処理中にガラス基板表面から気泡が発生することで均一な凹凸が形成されており、適度な防眩化処理ができている。一方、HFとHSOとの濃度割合が、前記直線(a)〜(d)によって囲まれる濃度割合の範囲外である表面処理液を用いた比較例1〜5においては、エッチング処理中にガラス基板表面から気泡が発生せず、ガラス基板表面が均一にエッチングされたため凹凸が形成されなかった。そのため、防眩化表面を得ることはできなかった。
【0045】
実施例11〜14、比較例6〜9
表2に示すガラス基板及び表面処理液を用い、エッチング時間を変更した以外は実施例1と同様の方法でガラス基板をエッチング処理した。
【0046】
【表2】

【0047】
表2からわかるように、無アルカリガラス基板又はアルミノケイ酸ガラス基板を用いた実施例11〜14においては、エッチング処理中にガラス基板表面から気泡が発生することで均一な凹凸が形成されており、適度な防眩化処理ができている。一方、石英ガラス基板又はホウケイ酸ガラス基板を用いた比較例6〜9においては、エッチング処理中にガラス基板表面から気泡がほとんど発生せず、ガラス基板表面が均一にエッチングされたため凹凸がほとんど形成されなかった。そのため、防眩化表面を得ることはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の表面処理液は、画像表示装置用のガラス基板の表面を防眩化(アンチグレア化)するために用いられる。本発明の表面処理液は、特にタッチパネル用のガラス基板の表面を防眩化するために好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の表面を防眩化するための表面処理液において、
前記ガラス基板は、ソーダガラス基板、無アルカリガラス基板、又はアルミノケイ酸ガラス基板であり、
前記表面処理液は、下記式(a)〜(d)で示される直線によって囲まれる濃度割合でHFとHSOとを含有することを特徴とする表面処理液。
(a)X=0.5
(b)X=12
(c)Y=75
(d)Y=2X+87
上記式(a)〜(d)において、XはHFの濃度(重量%)であり、YはHSOの濃度(重量%)である。ただし、上記式(a)〜(d)で示される直線によって囲まれる濃度割合のうち、X+Y≧100となる濃度割合を除く。
【請求項2】
請求項1記載の表面処理液をソーダガラス基板、無アルカリガラス基板、又はアルミノケイ酸ガラス基板の表面に接触させて、当該表面を防眩処理する工程を含む防眩化ガラス基板の製造方法。



【図1】
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【公開番号】特開2013−14459(P2013−14459A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147366(P2011−147366)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【Fターム(参考)】