説明

ガラス基板の製造方法

【課題】生産効率の向上を図ることができ、かつ、均一な形状であってガラスの強度が強化され、ケースへの組み込みが容易なガラス基板の製造方法を提供する。
【解決手段】マザー基板6に化学強化処理を施すことにより、表面に15〜50μmの厚さの圧縮応力層を形成し、前記マザー基板6の少なくとも一方の面に所望の加工処理を行った後、前記マザー基板6を仮想の切断線10に沿って個片のガラス基板1に切断することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学強化処理が施されるとともに電極が形成されたガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タッチスイッチなどの入力装置は、液晶表示パネルなどの表示装置と一体化されたタッチパネルとして、携帯電話、PDA、ノートPC、産業用ディスプレイなどに用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
前記タッチスイッチの一例として、静電容量方式のタッチスイッチは、ガラス基板などの透明基板の表面に電極となる導電膜パターン層が形成されており、指などが接触した位置座標を静電容量の変化により検出するものである。
【0004】
一般に、このようなタッチスイッチに用いられるガラス基板には、イオン交換法などを用いた化学強化処理が施され、ガラスの強度が強化されている。前記イオン交換法は、ガラスをガラス転移点以下の温度域でアルカリ溶融塩に浸漬することにより、ガラス表面においてイオン半径の小さいアルカリイオン(例えば、LiイオンやNaイオン)をイオン半径の大きなイオン(例えば、Kイオン)に交換するものである。その結果、ガラス表面に所定の厚さの圧縮応力層を形成して、ガラス表面に存在する引張応力を圧縮応力に替えることにより、ガラスの強度を強化することができる。
【0005】
また、従来の前記ガラス基板の製造工程においては、通常、一枚の大きいガラス基板(以下、マザー基板という。)を切断して複数の個片のガラス基板を形成する。
【0006】
ここで、一枚の大きいマザー基板から、化学強化処理が施されるとともに導電膜のパターン層が形成されたガラス基板を一連の工程により製造する場合、従来においては、まず、マザー基板を個片のガラス基板に切断した後、各ガラス基板について、それぞれ化学強化処理を施し、導電膜パターン層の形成を行うという手順がとられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−192240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記手順の場合、各ガラス基板について、それぞれ個別に化学強化処理を施し、導電膜のパターン層の形成を行う必要があるため、生産効率が悪いという問題があった。
【0009】
そこで、生産効率を上げるためには、一枚の大きいマザー基板のままで、化学強化処理を施し、導電膜のパターン層の形成を行った後、個片のガラス基板に切断するという手順が考えられる。しかし、化学強化処理が施されたマザー基板を切断するには、ガラス表面の圧縮応力を取り除く力も必要となるため、切断が困難である。そのため、ガラス基板の切断面に傷や欠けが生じ、その傷や欠けが生じた部分をきっかけにガラスの破壊が生じやすくなり、結果的に、化学強化処理を施していないガラスよりも強度が低下してしまったり、ガラス基板の周縁部の直線性が得られず、均一な形状のガラス基板が形成されず、品質が低下してしまうなどの新たな問題が生じるおそれがある。
【0010】
また、ガラス基板は、最終的には装置のケースへ組み込まれて使用されるが、その組み込みについては位置合わせも確実かつ容易にできることが望まれている。
【0011】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、生産効率の向上を図ることができ、かつ、均一な形状であってガラスの強度が強化されたガラス基板を製造することが可能なガラス基板の製造方法を提供することを第1の目的とし、さらには、ケースへの組み込みが容易なガラス基板の製造方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を解決するため、本発明の請求項1に記載のガラス基板の製造方法は、マザー基板に化学強化処理を施すことにより、表面に15〜50μmの厚さの圧縮応力層を形成し、前記マザー基板の少なくとも一方の面に所望の加工処理を行った後、前記マザー基板を仮想の切断線に沿って個片のガラス基板に切断することを特徴とする。
【0013】
本発明のガラス基板の製造方法によれば、ガラス表面に化学強化処理を所定の程度で施し、ガラス表面に付与する圧縮応力を適当な大きさにすることにより、化学強化処理後のマザー基板であっても、切断が容易となる。そのため、一枚の大きいマザー基板のままで、化学強化処理を施し、所望の加工処理を行った後、個片のガラス基板に切断するという手順をとることが可能となり、生産効率の向上を図ることができる。
【0014】
また、ガラス基板の切断面には欠けや傷が発生することなく、滑らかな切断面が得られるため、従来のように、切断面に発生した欠けや傷によってガラスが割れやすくなることがなく、化学強化処理により強化されたガラスの強度を保つことができる。さらに、ガラス基板の周縁部の直線性が得られるため、均一な形状であって、ガラスの強度が強化されたガラス基板を製造することが可能である。
【0015】
また、請求項2に記載のガラス基板の製造方法は、請求項1に記載のガラス基板の製造方法において、前記圧縮応力層を15〜25μmに形成し、前記マザー基板をレーザーを用いて個片のガラス基板に切断することを特徴とする。
【0016】
特に、マザー基板をレーザーを用いて個片のガラス基板に切断する場合には、前記圧縮応力層の厚さを15〜25μmとすることが好ましい。
【0017】
さらに、請求項3に記載のガラス基板の製造方法は、請求項1または2に記載のガラス基板の製造方法において、前記マザー基板に化学強化処理を施す前に、マザー基板の少なくとも一方の面に、前記仮想の切断線を位置させる溝部を形成することを特徴とする。
【0018】
マザー基板に前記溝部を形成することで、その部分の板厚は薄くなる。したがって、前記溝部から切断することで、マザー基板をより容易に切断することができる。
【0019】
さらに、請求項4に記載のガラス基板の製造方法は、請求項3に記載のガラス基板の製造方法において、前記溝部は断面を矩形状に形成されており、その平底部の幅方向中央を前記仮想の切断線として切断されることを特徴とする。
【0020】
後述するように、マザー基板の表面上に形成された前記溝部の中央に沿って切断することにより、得られたガラス基板の外周部には、厚さ方向の段差部を形成することができる。このように段差部が形成されたガラス基板は、このガラス基板を配設する凹部が形成された装置のケースに、前記段差部を係止させることにより、ガラス基板をきちんと位置決めして配置させることができるため、ケースへの組み込みが容易となる。
【0021】
また、請求項5に記載のガラス基板の製造方法は、請求項3または4に記載のガラス基板の製造方法において、前記所望の加工処理が前記マザー基板の一方の面に形成される透明導電膜のパターニングであり、前記マザー基板の他方の面に前記溝部が形成されることを特徴とする。装置のケースに段差部を係止させてガラス基板を組み込むとともに、ガラス基板に形成される透明電極を適切に保護することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のガラス基板の製造方法によれば、一枚の大きいマザー基板のままで、化学強化処理を施し、所望の加工処理を行うことができるため、従来のように、各ガラス基板について、それぞれ個別に処理する必要がなく、生産効率を向上させることができる。
【0023】
また、ガラス基板の切断面には欠けや傷が発生することなく、滑らかな切断面が得られるため、従来のように、切断面に発生した欠けや傷によってガラスが割れやすくなることがなく、化学強化処理により強化されたガラスの強度を保つことができる。さらに、ガラス基板の周縁部の直線性が得られるため、均一な形状であって、ガラスの強度が強化されたガラス基板を形成することが可能である。
【0024】
さらに、本発明のガラス基板の製造方法によれば、外周部に厚さ方向の段差部が形成された複数の個片のガラス基板が得られる。このように段差部が形成されたガラス基板は、このガラス基板を配設する凹部が形成された装置のケースに、段差部を係止させることにより、ガラス基板をきちんと位置決めして配置させることができるため、ケースへの組み込みが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のガラス基板の製造方法により製造されたガラス基板を備えたタッチスイッチの一例を示す断面図
【図2】本発明のガラス基板の製造方法の実施形態を示す工程図
【図3】マザー基板に形成された溝部のパターンを示す平面図
【図4】マザー基板の仮想切断線およびケースとの係止状態を示す断面図
【図5】(a)はマザー基板に形成されたレジストのパターンを示す平面図、(b)は断面図とその拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のガラス基板の製造方法について、図面に示す実施形態により説明する。
【0027】
本発明の製造方法により製造されるガラス基板1は、静電容量方式のタッチスイッチ2を構成し、例えば、図1に示すように、開口となる凸部3aが形成された入力装置のケース3の最上面に面一となるように配設されている。具体的には、ガラス基板1の上面における4辺には、タッチスイッチ2として用いられる面内よりも肉薄とされたフランジ状の段差部4が形成されている。そして、ガラス基板1は、前記タッチスイッチ2として用いられる上面(図1における上面)を凸部3aに嵌合させるとともに、前記段差部4をケース3に係止することにより、ケース3の最上面と面一に位置決めして配置されるようになっている。また、ガラス基板1の背面(図1における下面)には、指などが接触した位置座標を静電容量の変化により検出するための電極となる導電膜パターン層5が形成されている。また、必要に応じて、ケース3内に液晶パネルやバックライトユニットなどを収容し、タッチパネルとして用いてもよい。
【0028】
なお、本発明の製造方法により製造されるガラス基板1としては、上記のようなタッチスイッチ2に限らず、例えば、ガラス基板1の両面に導電膜からなる複数本のX電極およびY電極が設けられ、指と導電膜との間の静電容量の変化を捉えて位置を検出するものや、その他、抵抗膜方式のタッチスイッチ2などにも使用することができる。
【0029】
以下、本実施形態のガラス基板1の製造方法について、図2の工程図を用いて説明する。
【0030】
まず、マザー基板6の一方の面に、外周部に段差部4が形成された個片のガラス基板1を複数枚切り出すための溝部7を形成する(ステップST1)。なお、本実施形態においては、マザー基板6上に各ガラス基板1の導電膜のパターン層5を一括して形成し、その後、図3に示すように、格子状とされた縦横4本の仮想切断線10に沿ってマザー基板6を分断することで、一枚の大きいマザー基板6から縦横3×3に配列された計9枚のガラス基板1を分断することを想定している。
【0031】
前記溝部7の断面は、図4に示すように、所定の幅を有する矩形状となっている。また、溝部7の幅は、最終的なガラス基板1の外周部に形成される段差部4の幅の2倍となっている。すなわち、溝部7の断面形状は、後述するマザー基板6の仮想切断線10を対称軸として、左右対称形となっている。また、溝部7の深さは、マザー基板6自体の板厚の1/2以下となっている。本実施形態においては、例えば、板厚が0.3〜1.1mmのマザー基板6を用いており、溝部7の深さは0.1〜0.5mmとなっている。したがって、溝部7が形成された部分の板厚は、マザー基板6自体の板厚の1/2以上となっているため、ガラスの強度を確保することができる。また、溝部7の板厚はケース3の凸部3aの厚さ寸法より大きな数値とすることが好ましい。ケース3の凸部3aより小さな値とすると、ケース3の最上面とガラス基板1の上面とが面一の関係とならないことがある。
【0032】
このような溝部7の形成方法としては、研削ブレードやレーザーなどを用いた研削法、フォトリソグラフィー法によりマスキングを施した後に化学エッチングを行う方法、またはこれらの組み合わせを用いることができる。化学エッチングを用いる場合には、後述するように、マスキング手段を組み合わせて行う。
【0033】
また、溝部7の板厚はケース3の凸部3aの厚さ寸法より大きな数値とすることが好ましい。ケース3の凸部3aより小さな値とすると、ケース3の最上面とガラス基板の上面とが面一の関係とならないことがある。
【0034】
なお、溝部7の断面形状は、上記のような矩形に限定されず、例えば、化学エッチングを行った場合、等方性のエッチングにより、矩形の角部分が面取りされたような略U字状となるが、このような形状も本発明の一態様に含まれる。
【0035】
次に、溝部7を形成したマザー基板6にイオン交換法を用いた化学強化処理を施す(ステップST2)。具体的には、前記マザー基板6を所定の温度域でアルカリ溶融塩に浸漬することにより、ガラス表面に所定の厚さの圧縮応力層を形成する。これにより、ガラス表面に存在する引張応力を圧縮応力に替えることにより、ガラスの強度を強化することができる。このとき、本実施形態においては、アルカリ溶融塩の温度や浸漬させる時間を調整することで、圧縮応力層の厚さが15〜50μmとなるように処理する。また、特に、後述するマザー基板6の切断をレーザーを用いて行う場合には、圧縮応力層の厚さが15〜25μmとなるように処理する。この処理によって、溝部7を含め、マザー基板6の表・裏面が化学強化される。
【0036】
次いで、化学強化処理を行ったマザー基板6を洗浄後、マザー基板6の溝部7が形成されている反対の面に、指などの接触位置を静電容量の変化により検出するための電極となる導電膜パターン層5を形成する。具体的には、まず、マザー基板6の表面にスパッタ法、真空蒸着法、CVD法などを用いて、例えば、ITO(酸化インジウム錫)、ZnO(酸化亜鉛)などからなる透明導電膜を成膜する。その後、透明導電膜の表面にフォトレジストで所定のパターンを形成し、その露出部分に対して透明導電膜のエッチングを行うことで、パターニングを行う(ステップST3)。
【0037】
次に、マザー基板6の溝部7が形成された面と反対側の面(図4における下面)から、溝部7の平底部の幅方向中央である仮想切断線10に超硬ホイールカッターを挿入し、格子状とされた縦横4本の仮想切断線10に沿ってマザー基板6を分断する(ステップST4)。なお、切断方法としては、超硬ホイールカッターの他、レーザーなどを用いることができる。これにより、その外周部に厚さ方向の段差部4が形成された、所望の形状のガラス基板1が複数枚得られる。なお、レーザー切断はエキシマレーザ、COレーザー等を挙げられる。
【0038】
なお、マザー基板6の切断処理の後に、必要に応じて、得られたガラス基板1の面取り加工を行ってもよい。
【0039】
以上の工程により、化学強化処理によりガラス表面に所定の厚さの圧縮応力層が形成され、一方の面に電極となる導電膜パターン層5が形成されるとともに、外周部に厚さ方向の段差部4が形成された、所望の形状のガラス基板1を得ることができる。このガラス基板1を入力装置のケース3に組み込んで使用する場合には、図1に示すように、ガラス基板1のタッチスイッチ2として用いられる上面(図1における上面)をケース3の凸部3aに嵌合させるとともに、段差部4をケース3に係止することにより、ケース3の最上面と面一に位置決めして配置する。
【0040】
本実施形態のガラス基板1の製造方法においては、化学強化処理により形成する圧縮応力層の厚さを15〜50μmとし、特に、マザー基板6の切断処理をレーザーを用いて行う場合には15〜25μmとして、ガラス表面に付与する圧縮応力を適当な大きさにすることにより、化学強化処理後のマザー基板6であっても、切断が容易となる。そのため、一枚の大きいマザー基板6のままで、化学強化処理を施し、導電膜パターン層5の形成を行うことが可能となり、従来のように、各ガラス基板1について、それぞれ個別に処理する必要がなく、生産効率を向上させることができる。
【0041】
また、ガラス基板1の切断面には欠けや傷が発生することなく、滑らかな切断面が得られるため、従来のように、切断面に発生した欠けや傷によってガラスが割れやすくなることがなく、化学強化処理により強化されたガラスの強度を保つことができる。さらに、ガラス基板1の周縁部の直線性が得られるため、均一な形状であって、ガラスの強度が強化されたガラス基板1を製造することが可能である。
【0042】
また、本実施形態のガラス基板1の製造方法によれば、その上面における4辺に、厚さ方向においてタッチスイッチ2として用いられる面内よりも肉薄とされたフランジ状の段差部4が形成された個片のガラス基板1を得ることができる。したがって、ガラス基板1は、この段差部4を凸部3aが形成された入力装置のケース3の係止部に係止させることにより、入力装置のケース3の最上面に面一に位置決めして配置させることができるため、組み立てが容易となる。
【実施例1】
【0043】
まず、1.1mmの厚さのソーダライムガラスからなるマザー基板6上に、外周部に段差部4が形成された個片のガラス基板1を複数枚切り出すための溝部7を化学エッチングによって形成する。これに先だって、各ガラス基板1のタッチスイッチ2として用いる面内を保護するため、マザー基板6上にレジスト8のパターンを形成する。なお、本実施例においては、図5(a)に示すように、格子状とされた縦横4本の仮想切断線10に沿ってマザー基板6を分断することで、一枚の大きいマザー基板6から縦横3×3に配列された計9枚のガラス基板1を分断することを想定している。
【0044】
前記レジスト8には、図5(b)に示すように、断面視において開口部9が形成されている。ここで、本実施例においては、最終的なガラス基板1の外周部に形成する段差部4の幅をL、深さを0.5mmに設定する。したがって、前記開口部9の幅は、前記段差部4の幅Lの2倍(2L)よりも、段差部4の深さ0.5mmの2倍(1.0mm)だけ短い長さ、すなわち(L−1.0)mmとなっている。
【0045】
このようにレジスト8のパターンを形成した後、フッ酸エッチング液を用いてその深さが0.5mmとなるまで化学エッチングを行い、溝部7を形成する。その後、マザー基板6からレジスト8を剥離し、洗浄する。
【0046】
次に、マザー基板6を所定の温度域で硝酸カリウムの溶融塩に浸漬し、ガラス表面においてソーダライムガラスに含まれるNaイオンを溶融塩中のKイオンに交換することにより、ガラス表面に圧縮応力層を形成する。このとき、硝酸カリウムの溶融塩の温度と、マザー基板6を浸漬する時間を調整することにより、前記圧縮応力層の厚さが30μmとなるように処理する。
【0047】
次に、公知の方法にて、マザー基板6の溝部7が形成された面と反対の面に、ITOからなる透明導電膜を成膜し、フォトリソ法にて電極となる導電膜パターン層5をパターニングする。
【0048】
その後、マザー基板6の溝部7が形成された面と反対の面から、溝部7の幅方向の中央に超硬ホイールカッターを挿入し、マザー基板6の平面視における仮想切断線10のパターン形状に沿って切断する。これにより、外周部に段差部4が形成された、所望の形状の個片のガラス基板1を複数枚得る。
【0049】
次に、このガラス基板1の強度を測定した。具体的には、ガラス基板1を下方から四辺のみを支持するような台の上に載せ、ガラス基板1の中央の一点を押え付け、ガラス基板1が割れたときに加えた荷重を測定した。
【0050】
その際、比較例(以下、「比較例1」という。)として、上記のような化学強化処理を行わず、それ以外の処理については実施例1と同様に行ったものを用意し、このガラス基板1の強度を基準として相対値を求めた。
【0051】
その結果、表1に示すように、実施例1のガラス基板1の強度は、化学強化処理を行っていないガラス基板1(比較例1)と比べて2倍の強度となった。これにより、マザー基板6のままで、化学強化処理を施し、導電膜パターン層5の形成を行った後、個片のガラス基板1に切断した場合であっても、化学強化処理を行っていないガラス基板1よりも、ガラスの強度の向上させることができることが分かった。
【実施例2】
【0052】
溝部7の加工方法として、実施例1のような化学エッチングの代わりに、必要な幅を持った研削ブレードを用いた研削法により行い、それ以外の処理については実施例1と同様に行った。その結果、マザー基板6を容易に切断することができ、各ガラス基板1の周縁部には直線性が得られた。また、複数のガラス基板1について再現性が得られた。
【実施例3】
【0053】
溝部7の加工方法として、実施例1のような化学エッチングの代わりに、まず、必要な幅を持った研磨ブレードを用いた研削法により深さが0.4mmの溝部7を形成した後、さらに、レジスト形成および化学エッチングを行い、最終的に深さが0.5mmの溝部7を形成した。その結果、マザー基板6を容易に切断することができ、各ガラス基板1の周縁部の直線性が得られた。また、複数のガラス基板1について再現性が得られた。
【0054】
また、他の実施例として、前述した実施例1と同様の処理において、圧縮応力層の厚さを変更したもの(実施例4:50μm、実施例5:20μm)や、マザー基板6の切断処理を超硬ホイールカッターの代わりにレーザーを用いて行い、圧縮応力層の厚さを変更したもの(実施例6:25μm、実施例7:15μm)を形成し、実施例1と同様にガラスの強度を測定した。表1にこれらの結果をまとめる。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示すように、化学強化処理により形成する圧縮応力層の厚さを15〜50μmとした場合については、ガラス基板1の周縁部の直線性が得られ、複数のガラス基板1について再現性が得られた。また、レーザーを用いてマザー基板6の切断を行った場合については、圧縮応力層の厚さを15〜25μmとしたときには、ガラス基板1の周縁部の直線性が得られ、複数のガラス基板1について再現性が得られた。また、これらのガラス基板は、化学強化処理を行わないもの(比較例1)と比べて、ガラスの強度が強化された。
【0057】
なお、レーザーを用いて切断処理を行った場合の比較例(以下、「比較例2」という。)として、圧縮応力層の厚さを30μmとしてガラス基板1を形成した。この場合、マザー基板6を切断することは可能であるが、ガラス基板1の外周面の直線性は得られず、再現性も得られなかった。
【0058】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて変更することができる。
【0059】
例えば、上記実施形態においては、上面における4辺に段差部4が形成されたガラス基板1を複数枚得るようにしたが、図2のステップST1において、マザー基板1の一方の面に形成する溝部7のパターン形状を縦方向(横方向に)並列した複数のライン状とすることで、上面における2辺に段差部4が形成されたガラス基板1を複数枚得るようにしてもよい。この場合、ガラス基板1は、ガラス基板1のタッチスイッチ2として用いられる上面をケース3の凸部3aに嵌合させるとともに、背面における2辺に形成された段差部4をケース3に係止することにより、ケース3の最上面に面一に位置決めして配置させる。
【0060】
また、マザー基板6の一方または両方の面に形成する電極としては、上述したような導電膜のパターン層5に限定されない。さらに、図2のステップST3において、導電膜の成膜およびパターニングを行い、導電膜のパターン層5を形成する代わりに、別の処理を行ってもよい。
【0061】
また、前記溝部7は、マザー基板6を切断するためのいわゆるスクライブ溝として利用してもよい。すなわち、溝部7を形成することで、その部分のマザー基板6の板厚を薄くし、切断を容易にすることができる。この場合には、溝部7の断面形状は、前述したような矩形の代わりに、例えば、V字状であってもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 ガラス基板
2 タッチスイッチ
3 ケース
3a 凹部
4 段差部
5 導電膜パターン層
6 マザー基板
7 溝部
8 レジスト
9 開口部
10 仮想切断線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マザー基板に化学強化処理を施すことにより、表面に15〜50μmの厚さの圧縮応力層を形成し、前記マザー基板の少なくとも一方の面に所望の加工処理を行った後、前記マザー基板を仮想の切断線に沿って個片のガラス基板に切断することを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記圧縮応力層を15〜25μmに形成し、前記マザー基板をレーザーを用いて個片のガラス基板に切断することを特徴とする請求項1に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記マザー基板に化学強化処理を施す前に、マザー基板の少なくとも一方の面に、前記仮想の切断線を位置させる溝部を形成することを特徴とする請求項1または2に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記溝部は断面を矩形状に形成されており、その平底部の幅方向中央を前記仮想の切断線として切断されることを特徴とする請求項3に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記所望の加工処理が前記マザー基板の一方の面に形成される透明導電膜のパターニングであり、前記マザー基板の他方の面に前記溝部が形成されることを特徴とする請求項3または4に記載のガラス基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−136855(P2011−136855A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296810(P2009−296810)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000103747)オプトレックス株式会社 (843)
【Fターム(参考)】