説明

ガラス基板

【課題】半導体薄膜等に近い熱膨張係数と高い歪点とを有し、フロート法による連続生産に適したガラス基板を提供する。
【解決手段】質量%表示で、58.5〜69.5%SiO2、2.5〜9.9%Al23、0〜2.5%Li2O、0%以上6%未満Na2O、0%以上6%未満K2O、0%より多く5.2%以下MgO、3%より多く13%以下CaO、10〜27%SrO、0%以上5%未満BaO、0〜3%TiO2、0〜9.8%ZrO2を含有し、SiO2+Al2373%以下、Li2O+Na2O+K2O6%未満、3%<MgO+CaO≦16%、SrO+BaO10〜27%、MgO+CaO+SrO+BaO21〜33%、モル分率に基づくMgO/CaO0.2〜1.0、B23を実質的に含まず、ガラス転移点>555℃、液相温度≦1200℃、平均熱膨張係数≦75×10-7/℃であるガラス基板とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)などの基板としての使用に適したガラス基板に関する。本発明は、特に、CdTe薄膜やCIGS薄膜などの化合物半導体を用いた太陽電池に適したガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
CdTe薄膜やCIGS薄膜などの化合物半導体を用いた太陽電池は、環境にやさしいエネルギー源として需要が増しつつある。そのガラス基板には、従来フロート法で製造される安価なソーダライムガラスが使用されてきた。CdTe系太陽電池では、図1に示すように、ガラス基板1とこの上に形成された透明導電膜2とを備えた透明導電膜付きガラス基板10上にCdS薄膜3やCdTe薄膜4などの半導体薄膜が形成され、さらにその上に金属導電膜5や電極6が形成される。また、CIGS系太陽電池では、電極用のMo薄膜がガラス基板上に形成され、その上にCIGS半導体およびn型半導体(例えばZnO:Al膜)などが形成される。
【0003】
これらの薄膜化合物半導体太陽電池の製造工程では、高温での処理が必要となる。例えば、CdTe薄膜の形成には近接昇華法が用いられるが、この場合、基板温度は600℃付近に達することがある。また、薄膜の形成後にCdCl2処理を620℃で行えば半導体の高効率化が可能となる。CIGS系太陽電池では、半導体薄膜(p型光吸収層)を形成する工程でガラス基板が500〜600℃の高温を経験する。いずれの場合においても、500℃以上の高温処理により薄膜化合物半導体太陽電池の光電変換効率を向上させることができる。
【0004】
しかし、従来から使用されてきたソーダライムガラスの歪点は500℃付近であるため、それ以上の温度では基板が変形してしまう。このため、ソーダライムガラスを基板として用いると、高温処理工程において基板温度をせいぜい500℃付近までにしか上げることができず、半導体が本来有する光電変換効率を十分に発揮できないという問題が生じる。
【0005】
CdTe半導体およびMo電極の熱膨張係数が約50×10-7/℃であるのに対し、ソーダライムガラスの熱膨張係数は約90×10-7/℃である。500℃以上の高温で、ソーダライムガラスからなるガラス基板上に、この基板との熱膨張係数の差が大きな薄膜を形成すると、冷却後にガラスと薄膜との間に大きな残留応力が発生する。太陽電池製造プロセスでは、残留応力による不具合が発生しないように、基板の処理温度や冷却速度などの条件が選択される。このため、基板の熱膨張係数と薄膜の熱膨張係数とが近ければ、上記の残留応力を低減でき、選択可能な処理条件の幅が広がる。その結果、光電変換効率をさらに改善できる余地が生じる。
【0006】
上記のような事情から、ソーダライムガラスに比べて耐熱性に優れ(具体的には、歪点が500℃以上であり)、熱膨張係数が小さく(具体的には50〜350℃の平均熱膨張係数が75×10-7/℃以下であり)、安価で大面積の太陽電池用ガラス基板が望まれている。
【0007】
なお、近年、太陽電池パネルは大面積化が進んでいるが、取り扱いの観点からは、できるだけ軽い方が良い。このため、太陽電池用ガラス基板の密度はできるだけ小さい方が望ましい。
【0008】
大面積の板ガラスを製造する方法としては、ダウンドロー法、フュージョン法、フロート法などが挙げられる。フロート法は、他の板ガラス製造方法に比べ、大面積の板ガラスをより安価に量産できる点で優れている。また、フロート法による板ガラス製造装置は、建材用板ガラスの製造のために広く世界に普及している。このため、既存のフロート製造装置で量産可能なガラス基板には、そのガラス基板を広い地域に提供しやすいという利点がある。
【0009】
ソーダライムガラスの作業温度(成形に適した温度で、フロート法の場合、粘度が104dPa・sとなる温度)は約1000℃である。建材用板ガラスの製造のために普及しているフロート製造装置では、ガラスの作業温度が1000℃を超えて高温になるほど、熱やガラスによる侵食のため、錫バスの入り口のレンガの劣化が激しくなる。また、フロート法で製造するためには、作業温度よりもガラスの液相温度が低い必要がある。作業温度が1000℃を大きく上回るべきでないことを考慮すると、フロート製造装置で量産するガラスの液相温度は1200℃以下であることが好ましい。
【0010】
特許文献1には、従来のソーダライムガラスに比べて歪点が高く、約50×10-7/℃の熱膨張係数を有するガラスが開示されている。しかし、このガラスは、B23を1〜8質量%含むため、その多くが溶融時に揮発し、溶融窯の蓄熱室に使用されているレンガを激しく侵食する。このため、溶融窯の劣化が激しく、コストが上がるという問題が生じる。
【0011】
また、特許文献2には、CIGS系太陽電池用のガラス基板として、徐冷点が550℃以上のガラス基板が開示されている。しかし、このガラス基板は、アルカリ金属酸化物を合計量で7%以上含むため、現実には50〜350℃の平均熱膨張係数を75×10-7/℃以下にすることが困難である。
【0012】
一方、フィールドエミッションディスプレイ(FED)やプラズマディスプレイパネル(PDP)などのガラス基板にも高い歪点が求められている。このようなフラットパネルディスプレイ用基板として、特許文献3に、歪点が590℃以上のガラス基板が開示されている。しかし、特許文献3に開示されているガラス組成では、多量のSrOを含んだ上で、さらに、多量のBaOを必要とする(SrO:5〜12.5%、BaO:9〜14%;請求項2)。このため、ガラス基板の密度が大きくなり過ぎる(2.83g/cm3以上)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2003−525830号公報
【特許文献2】特開平11−135819号公報
【特許文献3】特開2007−308329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、500℃以上で熱処理をしても変形が抑制され、50〜350℃における平均熱膨張係数が75×10-7/℃以下であり、フロート法による連続生産に適した液相温度とガラス組成とを有するガラス基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、質量%で表示して、58.5〜69.5%のSiO2、2.5〜9.9%のAl23、0〜2.5%のLi2O、0%以上6%未満のNa2O、0%以上6%未満のK2O、0%より多く5.2%以下のMgO、3%より多く13%以下のCaO、10〜27%のSrO、0%以上5%未満のBaO、0〜3%のTiO2、0〜9.8%のZrO2を含有し、SiO2+Al23の値が73%以下であり、Li2O+Na2O+K2Oの値が6%未満であり、MgO+CaOの値が3%より多く16%以下であり、SrO+BaOの値が10〜27%であり、MgO+CaO+SrO+BaOの値が21〜33%であり、モル分率に基づく、MgO/CaOの値が0.2以上1.0以下であり、B23を実質的に含まず、ガラス転移点が555℃よりも高く、液相温度が1200℃以下であり、50〜350℃の範囲における平均熱膨張係数が75×10-7/℃以下であるガラス基板を提案する。本発明において、「実質的に含まない」とは、質量%で表示して、その成分(例えばB23)の含有率が0.5%未満、好ましくは0.1%未満であることをいう。
【発明の効果】
【0016】
少なくとも本発明のガラス基板が有する上述のガラス組成の範囲内では、歪点はガラス転移点よりも約55℃低いため、ガラス転移点が555℃を超えれば、歪点は500℃を上回る。したがって、本発明のガラス基板を用いれば、太陽電池製造プロセスの最高処理温度を500℃以上に高めることができ、太陽電池の光電変換効率をより向上させることができる。また、本発明のガラス基板の平均熱膨張係数は75×10-7/℃以下であるため、基板と薄膜との間の残留応力を低減できる。また、本発明のガラス基板は、液相温度が1200℃以下であり、B23を実質的に含まないため、フロート法による製造において溶融窯のレンガへの負荷を軽減することができる。さらに、本発明のガラス基板は、BaOの含有率が少ないため、比較的小さい密度を実現しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】CdTe系太陽電池の構造を説明するための断面図である。
【図2】本発明のガラス基板の、SrOの含有率と液相温度TLとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明においてガラスの組成成分の含有率を限定した理由は以下のとおりである。以下、特に断らない限り、ガラスの組成成分の含有率を示す%表示は質量%である。
【0019】
SiO2はガラスのネットワークフォーマーである。SiO2の含有率は58.5〜69.5%であり、好ましくは59%より多く66%以下、より好ましくは59%より多く63%以下、さらに好ましくは59%より多く62%以下である。SiO2の含有率が58.5%未満ではガラスの歪点が低くなる。SiO2の含有率が69.5%より多いと、熱膨張係数が小さくなり過ぎたり、ガラスの溶融や成形が難しくなったりすることがある。
【0020】
Al23は、ガラスの歪点を高め、液相温度を低下させる。Al23の含有率は2.5〜9.9%であり、好ましくは4.8〜9.9%、より好ましくは7〜8%である。Al23の含有率が9.9%より多いと、ガラスの液相温度が上昇するとともに、高温粘性が高くなり、ガラスの溶融性が悪化する傾向がある。Al23の含有率が2.5%より少ないと、液相温度が上昇する。
【0021】
Li2Oは、必須成分ではないが、溶解性を向上し、高温粘性を低下させ、液相温度を低下させる。Li2Oの含有率は0〜2.5%であり、好ましくは0%以上1%未満である。本発明のガラス基板はLi2Oを実質的に含まない組成を有していてもよい。Li2Oの含有率が2.5%より多いと、歪点が低下し、熱膨張係数が大きくなる。
【0022】
Na2Oは、溶解性を向上し、高温粘性を低下させ、液相温度を低下させる。Na2Oの含有率は0%以上6%未満、好ましくは0%以上5%未満、さらに好ましくは3%以上5%未満である。Na2Oの含有率が6%以上であると、歪点が低下し、熱膨張係数が大きくなる。
【0023】
2Oは、必須成分ではないが、溶解性を向上し、高温粘性を低下させ、液相温度を低下させるが、熱膨張係数を増大させる効果はNa2Oより大きい。K2Oの含有率は0%以上6%未満であり、好ましくは0%以上2%未満である。本発明のガラス基板はK2Oを実質的に含まない組成を有していてもよい。K2Oの含有率が6%以上であると、歪点が低下し、熱膨張係数が大きくなる。
【0024】
MgOは、溶解性を向上させ、歪点を高める。MgOの含有率は0%より多く5.2%以下であり、好ましくは2〜5.2%、より好ましくは2〜4%である。MgOの含有率が5.2%より多いと液相温度が上昇する。
【0025】
CaOは、MgOと同様に、溶解性を向上させ、歪点を高める。CaOの含有率は3%より多く13%以下であり、好ましくは4〜8%、より好ましくは4〜7%である。CaOの含有率が3%以下であると上記の効果を十分に得ることができない。CaOの含有率が13%より多いと液相温度が上昇する。
【0026】
SrOは、液相温度を上昇させることなく高温粘性を減少させる。SrOの含有率は10〜27%であり、好ましくは13〜27%、より好ましくは15%より多く18%以下、さらに好ましくは15.5〜18%である。SrOの含有率が27%より多いか、または、10%よりも少ないと、液相温度が上昇する。なお、密度を小さくするためには、SrOの含有率は、17.5%以下が好ましく、16.5%以下であることがより好ましい。
【0027】
BaOは、必須成分ではないが、液相温度を上昇させることなく高温粘性を減少させる。BaOの含有率は0%以上5%未満であり、好ましくは0%以上3%未満、より好ましくは0%以上2%未満である。本発明のガラス基板は、BaOを実質的に含まない組成を有していてもよい。BaOの含有率が5%以上であると密度が大きくなり過ぎる。
【0028】
TiO2は、必須成分ではないが、わずかながら失透温度を低下させる。TiO2の含有率は0〜3%であり、好ましくは0〜2%、より好ましくは0〜1%、さらに好ましくは含まないことである。TiO2の含有率が3%より多いと太陽光スペクトルの紫外域での吸収が大きくなる。
【0029】
ZrO2は、液相温度を低下させ、熱膨張係数を減少させる。ZrO2の含有率は0〜9.8%であり、好ましくは0.1〜5%、より好ましくは2〜4%、さらに好ましくは3〜4%である。ZrO2の含有率が9.8%より多いと液相温度が上昇する。
【0030】
SiO2+Al23の値は、73%以下であり、好ましくは72%以下である。SiO2+Al23の値が73%を超えると液相温度が上昇する。
【0031】
Li2O+Na2O+K2Oの値は、6%未満であり、好ましくは5%未満である。Li2O+Na2O+K2Oの値が6%以上であると熱膨張係数が大きくなる。
【0032】
MgO+CaOの値は、3%より多く16%以下であり、好ましくは6〜13%、より好ましくは6〜11%である。MgO+CaOの値が16%を超えると液相温度が上昇する。MgO+CaOの値が3%以下であるとガラスの溶融性が悪化する。
【0033】
SrO+BaOの値は、10〜27%であり、好ましくは10〜25%、より好ましくは10〜23%、さらに好ましくは15%より多く18%以下である。SrO+BaOの値が27%を超えるとガラスの密度が大きくなり過ぎる。SrO+BaOの値が10%未満であると失透温度が高くなる。
【0034】
MgO+CaO+SrO+BaOの値は、21〜33%であり、好ましくは21〜25%である。MgO+CaO+SrO+BaOの値が33%を超えると、ガラスの密度や熱膨張係数が大きくなり、液相温度が上昇する。MgO+CaO+SrO+BaOの値が21%未満であると、溶解性が悪化し、液相温度が上昇する。
【0035】
モル分率に基づくMgO/CaOの値は、0.2以上1.0以下であり、好ましくは0.3以上0.8以下である。モル分率に基づくMgO/CaOの値が1.0を超えるか、または、0.2未満であると、液相温度が高くなり、成形が困難となる。
【0036】
また、ガラス組成は、上記に列挙した成分のみから構成されていてもよいが、Fe23、CeO2、Bi23、ZnO、SnO、Sb23、Nb25、La23、Y23、As23、PbO等のその他の無機酸化物、SO3などの硫黄酸化物、塩化物、窒化物、フッ化物から選ばれる少なくとも一種の成分を、1成分当たり5%を上限として、好ましくは1%を上限として、より好ましくは0.1%を上限として、さらに含んでいてもよい。
【0037】
本発明の好ましいガラス組成の一例としては、上記で含有率を限定した組成において、4.8〜9.9%のAl23、0%以上5%未満のNa2O、0%以上2%未満のK2O、15%より多く18%以下のSrOを含み、Li2O+Na2O+K2Oの値が5%未満である組成が挙げられる。
【0038】
本発明のガラス基板は、ダウンドロー法、フュージョン法など種々の方法で製造することができるが、安価で大面積のガラス基板を連続生産するという観点からは、フロート法を用いて製造することが好ましい。本発明のガラス基板は、フロート法による製造に適したガラス組成および特性を有する。すなわち、本発明は、その別の側面から、本発明のガラス基板を、フロート法により原料を溶融し、成形することにより製造する、ガラス基板の製造方法を提供する。
【0039】
本発明のガラス基板は、その上に透明導電膜を形成し、透明導電膜付きガラス基板として用いることができる。透明導電膜としては、フッ素やアンチモンなどをドープしたSnO2膜、ITO膜などを用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
表1に示したガラス組成(質量%)となるように各成分の原料を調合した。このとき、Na2O原料の一部にボウ硝を用いた。なお、各成分の原料には特級試薬を用いた。原料を調合して得た混合物をるつぼに投入し、1550℃で4時間溶融した後、流し出して徐冷し、ガラス試料(ガラス基板)を得た。
【0042】
【表1】

【0043】
各ガラスの液相温度、平均熱膨張係数、ガラス転移点Tg、歪点、密度は、以下に示す方法により得られた。
【0044】
液相温度は以下のように測定した。まず、ガラス試料を粉砕したものを2830μmの篩にかけ、篩を通ったガラス粒を1000μmの篩にかけた。この篩上に残ったガラス粒を30g計り取り、幅10mm、長さ200mm、深さ10mmの白金製のボート内に敷き詰めた。これを、ボートの長さ方向に温度勾配を持つように温度設定された炉内で2時間保持した。白金製ボートを炉から取り出して自然放冷させた後、白金ボート上のガラス粒を顕微鏡により50倍の倍率で観察した。ガラス粒に結晶を発生させた最高温度を液相温度とした。
【0045】
平均熱膨張係数は以下のように測定した。まず、直径5mm、高さ18mmの円柱形状のガラス試料を作製した。これを25℃からガラス試料の降伏点まで加温し、各温度におけるガラス試料の伸びを測定することにより、熱膨張係数を算出した。50〜350℃の範囲の熱膨張係数の平均値を計算し、平均熱膨張係数を得た。
【0046】
ガラス転移点Tgは以下のように決定した。上記により得た熱膨張曲線において、室温より直線的に増大する低温側の膨張曲線と、屈曲部から降伏点までの膨張曲線との交点における温度を、ガラス転移点Tgとした。
【0047】
歪点は以下のように測定した。まず、縦3mm、横3mm、長さ50mmの直方体形状のガラス試料を作製した。このガラス試料の長辺側の両端を炉内に水平に固定し、長辺の中央部に荷重を加え、各温度におけるガラス試料のたわむ速度を測定することにより、歪点を算出した。なお、表1のNo.1以外のガラスの歪点は、前述の方法で求めたガラス転移点Tgより55℃低い温度として推定した。
【0048】
密度は、アルキメデス法により測定した。
【0049】
表1のNo.1〜14は本発明のガラス基板である。これらのガラスは、50〜350℃の平均熱膨張係数が75×10-7/℃以下であり(No.14を除けば70×10-7/℃以下)、液相温度が1200℃以下であるため(No.1,2,4〜8,11〜13においては1150℃以下、No.1,2においては1100℃以下)、既存のフロート製造装置による量産に適していることが分かる。また、これらのガラスは、600℃以上の、より具体的には650℃以上のガラス転移点Tgを有しているため、その歪点は、確実に500℃を上回っている。
【0050】
さらに、No.1〜5,7〜9,11〜13のガラス基板は、密度2.83g/cm3未満、具体的には2.82g/cm3以下(No.1,3〜5,7,8,11,12においては2.80g/cm3以下)であるため、大面積のガラス基板を製造した際、その取り扱いにおいて好都合である。
【0051】
表1のNo.15〜18は比較例であり、その液相温度は1200℃を超えている。
【0052】
図2は、上記で作製したガラス基板の、SrOの含有率と液相温度TLとの関係を示す図である。ただし、その組成において、Al23の含有率は7.4〜7.6%であり、モル分率に基づくMgO/CaOの値は0.25または0.67である。MgO/CaOの値が0.67であるガラスについての近似曲線11および、MgO/CaOの値が0.25であるガラスについての近似曲線12では、共に、SrOの含有率が16%付近において液相温度が最も低くなった。近似曲線11上のガラスは、MgO/CaOの値が0.3以上0.8以下の範囲に入り、近似曲線12上のガラスと比べて液相温度がより低くなった。近似曲線11上のガラスは、SrOの含有率が14〜18%の範囲内にあるとき、液相温度がほぼ1100℃以下となった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のガラス基板は、化合物半導体太陽電池用のガラス基板に限らず、アモルファス太陽電池用のガラス基板や、結晶シリコン太陽電池用のカバーガラスなどにも適用することができ、タンデム型太陽電池用のガラス基板としても使用可能である。また、フィールドエミッションディスプレイ(FED)やプラズマディスプレイパネル(PDP)など、ディスプレイ用のガラス基板としても使用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 ガラス基板
2 透明導電膜
3 CdS薄膜
4 CdTe薄膜
5 金属導電膜
6 電極
10 透明導電膜付きガラス基板
11 MgO/CaO=0.67のガラスにおけるSrOの含有率と液相温度TLとの関係を示す近似曲線
12 MgO/CaO=0.25のガラスにおけるSrOの含有率と液相温度TLとの関係を示す近似曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で表示して、
58.5〜69.5%のSiO2
2.5〜9.9%のAl23
0〜2.5%のLi2O、
0%以上6%未満のNa2O、
0%以上6%未満のK2O、
0%より多く5.2%以下のMgO、
3%より多く13%以下のCaO、
10〜27%のSrO、
0%以上5%未満のBaO、
0〜3%のTiO2
0〜9.8%のZrO2を含有し、
SiO2+Al23の値が73%以下であり、
Li2O+Na2O+K2Oの値が6%未満であり、
MgO+CaOの値が3%より多く16%以下であり、
SrO+BaOの値が10〜27%であり、
MgO+CaO+SrO+BaOの値が21〜33%であり、
モル分率に基づく、MgO/CaOの値が0.2以上1.0以下であり、
23を実質的に含まず、
ガラス転移点が555℃よりも高く、
液相温度が1200℃以下であり、
50〜350℃の範囲における平均熱膨張係数が75×10-7/℃以下であるガラス基板。
【請求項2】
液相温度が1150℃以下である請求項1に記載のガラス基板。
【請求項3】
SrOの含有率が13〜27%である、請求項1または2に記載のガラス基板。
【請求項4】
密度が2.83g/cm3未満である、請求項1〜3のいずれかに記載のガラス基板。
【請求項5】
密度が2.80g/cm3以下である、請求項4に記載のガラス基板。
【請求項6】
質量%で表示して、
4.8〜9.9%のAl23
0%以上5%未満のNa2O、
0%以上2%未満のK2O、
15%より多く18%以下のSrOを含み、
SrO+BaOの値が15%より多く18%以下であり、
Li2O+Na2O+K2Oの値が5%未満である、
請求項1〜5のいずれかに記載のガラス基板。
【請求項7】
モル分率に基づく、MgO/CaOの値が0.3以上0.8以下である請求項1〜6のいずれかに記載のガラス基板。
【請求項8】
液相温度が1100℃以下である請求項1〜7のいずれかに記載のガラス基板。
【請求項9】
50〜350℃の範囲における平均熱膨張係数が70×10-7/℃以下である請求項1〜8のいずれかに記載のガラス基板。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のガラス基板と、前記ガラス基板上に形成された透明導電膜とを備えた透明導電膜付きガラス基板。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載のガラス基板を、フロート法により原料を溶融し、成形することにより製造する、ガラス基板の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−37683(P2011−37683A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188011(P2009−188011)
【出願日】平成21年8月14日(2009.8.14)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】