キヌクリジニウム塩
【課題】電解液に用いられる有機溶媒に対する溶解性が良好であり、蓄電デバイスの電解質塩として有用なキヌクリジニウム塩を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表されることを特徴とするキヌクリジニウム塩。
〔式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)を表し、X-は、フッ素原子を含む1価アニオンを表す。〕
【解決手段】下記式(1)で表されることを特徴とするキヌクリジニウム塩。
〔式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)を表し、X-は、フッ素原子を含む1価アニオンを表す。〕
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キヌクリジニウム塩に関し、さらに詳述すると、フッ素原子を含有する1価アニオンを有するキヌクリジニウム塩に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液系電気二重層キャパシタは、大電流で充放電可能という特徴を有しているため、電気自動車、補助電源等のエネルギー貯蔵装置として有望である。
この非水電解液系電気二重層キャパシタは、活性炭などの炭素質材料を主体とする正、負一対の分極性電極および非水電解液などから構成されるが、キャパシタの耐電圧や、静電容量には非水電解液の組成が大きな影響を及ぼすことが知られている。
【0003】
上記非水電解液は、一般的に電解質塩と非水系有機溶媒とから構成され、これら電解質塩および非水系有機溶媒の組み合わせについては、現在まで種々検討されてきている。
電解質塩としては、第4級アンモニウム塩(特許文献1:特開昭61−32509号公報、特許文献2:特開昭63−173312号公報、特許文献3:特開平10−55717号公報等)や、第4級ホスホニウム塩(特許文献4:特開昭62−252927号公報等)等が、有機溶媒への溶解性および解離度、ならびに電気化学的安定域が広いことから汎用されている。
【0004】
しかしながら、現在用いられている非水電解液系電気二重層キャパシタでは、通常用いられている有機溶媒に対する電解質塩(4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩等)の溶解性が十分であるとはいえず、その添加量には限界がある。その結果、非水電解液のイオン電導度が低くなるとともに、電気二重層キャパシタの静電容量も低くなるという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開昭61−32509号公報
【特許文献2】特開昭63−173312号公報
【特許文献3】特開平10−55717号公報
【特許文献4】特開昭62−252927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、電解液に用いられる有機溶媒に対する溶解性が良好であり、蓄電デバイスの電解質塩として有用な新規なキヌクリジニウム塩を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、窒素原子上に所定のアルキル基またはアルコキシアルキル基を有するとともに、フッ素原子を含む1価アニオンを有するキヌクリジニウム塩が、有機溶媒に対する溶解性に優れるとともに、従来用いられている4級アンモニウム塩と同程度の電位窓を有しているため、蓄電デバイスの電解質塩として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
1. 下記式(1)で表されることを特徴とするキヌクリジニウム塩、
【化1】
〔式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)を表し、X-は、フッ素原子を含む1価アニオンを表す。〕
2. 前記Xが、BF4、BF3CF3、PF6、(CF3SO2)2N、(FSO2)2N、CF3CO2、CF3SO4、またはCF3SO3である1のキヌクリジニウム塩、
3. 前記Xが、BF4またはBF3CF3である2のキヌクリジニウム塩、
4. 前記Xが、(CF3SO2)2Nまたは(FSO2)2Nである2のキヌクリジニウム塩、
5. 前記Rが、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)である1〜4のいずれかのキヌクリジニウム塩
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電解質に用いられる各種有機溶媒に対する溶解性に優れるとともに、従来の4級アンモニウム塩と同等の電位窓を有し、電気化学的安定性が良好であるため、蓄電デバイスの電解質塩として有用な新規キヌクリジニウム塩を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係るキヌクリジニウム塩は、下記式(1)で表される。
【0011】
【化2】
〔式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)を表し、X-は、フッ素原子を含む1価アニオンを表す。〕
【0012】
式(1)において、炭素数1〜4のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
本発明のキヌクリジニウム塩におけるRとしては、上記範囲の基であれば特に限定されるものではないが、比較的融点の低いキヌクリジニウム塩が得られることから、メチル基、エチル基、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)が好ましく、特にCH2CH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)がより好ましい。
【0013】
フッ素原子を含む1価のアニオンは特に限定されるものではなく、上記Xとしては、例えば、BF4、BF3CF3、PF6、(CF3SO2)2N、(FSO2)2N、CF3CO2、CF3SO4、CF3SO3、(C2F5SO2)2N、(C2F5SO2)(CF3SO2)N、PF3(C2F5)3等が挙げられる。
これらの中でも、電気二重層キャパシタ等の電解質塩として用いる場合などを考慮すると、BF4、BF3CF3、(CF3SO2)2N、(FSO2)2N、が好ましく、特に、BF4、BF3CF3がより好ましい。
【0014】
なお、BF3CF3アニオンを有する塩は、R.D.Chambers et al.,J.Am.Chem.Soc.,82,5298(1960)、M.Ue et al.,J.Fluorine Chem.,127−131,123(2003),G.A.Molander and B.P.Hoag,Organometallics,3313−3315,22(2003)等の文献記載の方法によって合成することができる。
【0015】
本発明のキヌクリジニウム塩の合成法は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができるが、例として下記のような一般的な合成法を挙げることができる。
まず、キヌクリジンと、アルキルハライド等とを混合し、必要に応じて加熱や加圧を行うことでアルキル置換キヌクリジニウムハライド塩とする。得られたアルキル置換キヌクリジニウムハライド塩を有機溶媒中に溶解し、テトラフルオロホウ酸銀等の前述したアニオンの金属塩を混合するか、もしくはアルキル置換キヌクリジニウムハライド塩を水に溶解し、ホウフッ化水素酸等の前述のアニオンの水素化物を混合することにより、塩交換反応を行い、本発明のキヌクリジニウム塩を得ることができる。
【0016】
具体例として、メチルキヌクリジニウムテトラフルオロボレートの合成法を挙げると、キヌクリジンをテトラヒドロフランに溶解し、氷冷下でよう化メチルを加え、終夜反応させてN−メチルキヌクリジニウムアイオダイドを得、これをアセトニトリルに溶解し、攪拌下、テトラフルオロほう酸銀を加え、終夜反応させて目的物へと変換させることができる。
【0017】
以上説明した本発明のキヌクリジニウム塩は、リチウムイオン電池等の二次電池、電気二重層キャパシタ、電解コンデンサ等の蓄電デバイス用の電解質塩として好適に用いることができる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例および参考例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例における化合物の構造確認は、1H−NMRおよび19F−NMR(日本電子(株)製、AL−400)を用いて行った。
【0019】
[1]キヌクリジニウム塩の合成
[実施例1]化合物1(MeQ BF4)の合成
【化3】
【0020】
キヌクリジン(シグマアルドリッチジャパン(株)品)5.0g(45mmol)をテトラヒドロフラン(以下THF、和光純薬工業(株)品)50mlに溶解した後に氷冷し、攪拌下、よう化メチル(シグマアルドリッチジャパン(株)品)3.36ml(54mmol)を加えた。終夜攪拌し、減圧濾過で生成した固体分を回収し、アセトニトリル(和光純薬工業(株)品)−THF系で再結晶を行い、N−メチルキヌクリジニウムアイオダイドの白色結晶を得た。
得られたN−メチルキヌクリジニウムアイオダイド3.41g(13.5mmol)をアセトニトリル50mlに溶解し、攪拌下、50mlのアセトニトリルに溶解したテトラフルオロほう酸銀(東京化成工業(株)品)2.62g(13.5mmol)を加え、終夜攪拌した。反応液中に生じた黄色結晶を減圧濾過し、濾液をエバポレーターで濃縮した。残留分にアセトニトリル−THF混合液を少量加え、溶解しない新たに析出した固体をPTFEメンブレンフィルターろ過にて除去した。その後、アセトニトリル−THF系で再結晶を行い、濾別、減圧乾燥を行い、1.56g(収率54%)の化合物1を得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図1および図2に示す。
【0021】
[実施例2]化合物2(MeQ TFSI)の合成
【化4】
【0022】
実施例1記載の方法で合成したN−メチルキヌクリジニウムアイオダイド4.00g(16mmol)を超純水16mlに溶解した。攪拌下、この溶液にリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニウム)イミド(関東化学(株)品)5.00g(17mmol)を超純水20mlに溶かした溶液を加え、終夜反応させた。析出した白色結晶を濾別し、超純水で洗浄した後に減圧乾燥を行い、5.53g(収率86%)の化合物2を得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図3および図4に示す。
【0023】
[実施例3]化合物3(EtQ BF4)の合成
【化5】
【0024】
よう化メチルをよう化エチル(和光純薬工業(株)品)に変更し、これをキヌクリジンに対して3当量加えた以外は、実施例1と同様にしてN−エチルキヌクリジニウムアイオダイドを収率90%で、化合物3をN−エチルキヌクリジニウムアイオダイドから収率73%で得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図5および図6に示す。
【0025】
[実施例4]化合物4(EtQ TFSI)の合成
【化6】
【0026】
実施例3記載の方法で得たN−エチルキヌクリジニウムアイオダイドから実施例2と同様の方法で化合物4を収率87%で得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図7および図8に示す。
【0027】
[実施例5]化合物5(EtQ BF3CF3)の合成
【化7】
【0028】
実施例3記載の方法で得たN−エチルキヌクリジニウムアイオダイド4.58g(17.1mmol)を超純水15mlに溶解した。攪拌下、この溶液にカリウムトリフルオロメチルトリフルオロボレート(三菱化学(株)品)3.32g(18.9mmol)を超純水15mlに溶解した溶液を100分間反応させた。析出した白色結晶を濾別し、超純水で洗浄した後に減圧乾燥を行い、1.43g(収率30%)の化合物5を得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図9および図10に示す。
【0029】
[実施例6]化合物6(MOEQ BF4)の合成
【化8】
【0030】
キヌクリジン20.6g(186mmol)をTHF200mlに溶解した後に、塩化2−メトキシエチル(東京化成工業(株)品)を加え、還流下で14時間反応させた。放冷し、室温に戻した後、2層に分離した粘性の高い下層をデカンテーションにより上層と分離し、下層をアセトニトリル−THF系で再結晶を行い、N−2−メトキシエチルキヌクリジニウムクロライドを25.6g(収率67%)で得た。
得られたN−2−メトキシエチルキヌクリジニウムクロライド21.9g(112mmol)をアセトニトリル200mlに溶解し、攪拌下、100mlのアセトニトリルに溶解したテトラフルオロほう酸銀23.1g(112mmol)を加え、終夜攪拌した。反応液中に生じた黄色結晶を減圧濾過し、濾液をエバポレーターで濃縮した。残留分にアセトニトリル−THF混合液を少量加え、溶解しない新たに析出した固体をPTFEメンブレンフィルターろ過にて除去した。その後、アセトニトリル−THF系で再結晶を行い、析出した結晶を濾別して減圧乾燥し、19.1g(収率66%)の化合物6を得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図11および図12に示す。
【0031】
[実施例7]化合物7(MOEQ TFSI)の合成
【化9】
【0032】
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニウム)イミド1.88g(6.6mmol)を超純水5mlに溶解した。攪拌下、この溶液に実施例6記載の方法で合成したN−2−メトキシエチルキヌクリジニウムクロライド1.13g(5.5mmol)を超純水5mlに溶かした溶液を加えて10分間反応させたところ2層に分離した。反応液にクロロホルム(和光純薬工業(株)品)を加えて下層を分液し、超純水で洗浄した後に溶媒留去、減圧乾燥を行い、1.94g(収率78%)で化合物7を得た。なおこの化合物7は室温で液体(イオン液体)であった。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重クロロホルム、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図13および図14に示す。
【0033】
[実施例8]化合物8(MOEQ BF3CF3)の合成
【化10】
【0034】
カリウムトリフルオロメチルトリフルオロボレート2.61g(14.8mmol)を超純水5mlに溶解した。攪拌下、この溶液に実施例6記載の方法で合成したN−2−メトキシエチルキヌクリジニウムクロライド2.54g(12.3mmol)を超純水5mlに溶かした溶液を加えて15分間反応させたところ2層に分離した。反応液にクロロホルム(和光純薬工業(株)品)を加えて下層を分液し、超純水で洗浄した後に溶媒留去、減圧乾燥を行い、2.28g(収率49%)で化合物8を得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図15および図16に示す。
【0035】
[融点測定]
上記各実施例で得られた化合物1〜8について、室温固体のもの(化合物1〜6,8)については融点測定器(MP−500V、(株)ヤナコ製)を、室温液体のもの(化合物7)については示差走査熱量計(DSC−6200、セイコーインスツル(株)製)を用いて融点を測定した。結果を表1に示す。
[溶解性試験]
上記各実施例で得られた化合物1〜8、比較例としてテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(以下TEA BF4、関東化学(株)品)、およびトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート(以下TEMA BF4、キシダ化学(株)品)を、各々0.5gサンプル瓶にとり、0.1ml刻みでプロピレンカーボネート(以下PC、キシダ化学(株)品)を加え、溶解性を確認した。得られた結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
[サイクリックボルタンメトリー測定]
実施例1〜8で得られた化合物1〜8、および比較としてTEA BF4の0.1M PC溶液を調製し、サイクリックボルタンメトリー測定を行った(測定装置:北斗電工(株)製 HSV−100)。結果を図17および図18に示す。
【0038】
表1に示されるように、実施例1〜8で得られたキヌクリジニウム塩は、TEA BF4やTEMA BF4に比べてPCに対する溶解性に優れている。
また、図17に示されるように、キヌクリジニウム塩は、同一のアニオンを有するTEA BF4と同等の広さの電位窓を有していることがわかる。
【0039】
[2]電気二重層キャパシタ
[参考例1]
(1)正の電極構造体の作製
活性炭マックスソーブMSP20(関西熱化学(株)製、BET比表面積:2,300m2/g、細孔容積:1.07ml/g、50%粒径:9.5μm)と、導電剤(HS−100、電気化学工業(株)製)と、バインダであるPVDF(アルドリッチ社製、重量平均分子量:534,000)とを85:8:7の質量組成になるように、塗工溶媒であるN−メチルピロリドン(以下NMP)中で混合し、正の分極性電極用塗工液を調製した。
得られた塗工液をエッチドアルミ箔(30CB、日本蓄電器工業(株)製)の両面に塗工した後、ロールプレスで圧延し、さらにNMPを乾燥除去して、集電体上に分極性電極を形成した正の分極性電極構造体を得た。
(2)負の電極構造体の作製
活性炭LPY039(日本エンバイロケミカルズ(株)製、MP法におけるピーク細孔半径:4.1×10-10m、比表面積:1,900m2/g、細孔容積:0.90ml/g、50%:粒径10.3μm)と、導電剤(HS−100、電気化学工業(株)製)と、バインダであるPVDF(アルドリッチ社製、重量平均分子量:534,000)とを85:7:8の質量組成になるように、塗工溶媒であるNMP中で混合し、負の分極性電極用塗工液を調製した。
得られた塗工液を、エッチドアルミ箔(30CB、日本蓄電器工業(株)製)の両面に塗工した後、ロールプレスで圧延し、さらにNMPを乾燥除去して、集電体上に分極性電極を形成した負の分極性電極構造体を得た。
(3)電気二重層キャパシタの作製
正の分極性電極構造体と負の分極性電極構造体とを、セパレータ(TF40−35、日本高度紙工業(株)製)を介して交互に積層し、正負ごとにまとめてアルミ製の電流取出し端子と溶接して電極群を得た。
次に電極群をアルミラミネート(大日本印刷(株)製)からなる外装容器に挿入し、電解液を注入して電極群に含浸させた後、外装容器を封止部にて熱融着して電気二重層キャパシタを得た。電解液として、実施例3で得られた化合物3(EtQ BF4)を、PCで1Mになるように溶解したものを用いた。
【0040】
[参考例2]
有機系電解液として、実施例6で得られた化合物6(MOEQ BF4)を、PCで1Mになるように溶解したものを用いた以外は、参考例1と同様にして電気二重層キャパシタを得た。
【0041】
[参考例3]
有機系電解液として、TEA BF4を、PCで1Mになるように溶解したものを用いた以外は、参考例1と同様にして電気二重層キャパシタを得た。
【0042】
参考例の電気二重層キャパシタについて、静電容量を測定した結果を表2に示す。本発明の化合物を電解質に用いた電気二重層キャパシタは、TEA BF4に比べて同等かそれ以上の静電容量を有することがわかる。
【0043】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1で得られた化合物1の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図2】実施例1で得られた化合物1の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図3】実施例2で得られた化合物2の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図4】実施例2で得られた化合物2の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図5】実施例3で得られた化合物3の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図6】実施例3で得られた化合物3の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図7】実施例4で得られた化合物4の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図8】実施例4で得られた化合物4の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図9】実施例5で得られた化合物5の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図10】実施例5で得られた化合物5の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図11】実施例6で得られた化合物6の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図12】実施例6で得られた化合物6の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図13】実施例7で得られた化合物7の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図14】実施例7で得られた化合物7の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図15】実施例8で得られた化合物8の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図16】実施例8で得られた化合物8の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図17】実施例1,3,6で得られた化合物およびTEAのサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【図18】実施例2,4,5,7および8で得られた化合物のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、キヌクリジニウム塩に関し、さらに詳述すると、フッ素原子を含有する1価アニオンを有するキヌクリジニウム塩に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液系電気二重層キャパシタは、大電流で充放電可能という特徴を有しているため、電気自動車、補助電源等のエネルギー貯蔵装置として有望である。
この非水電解液系電気二重層キャパシタは、活性炭などの炭素質材料を主体とする正、負一対の分極性電極および非水電解液などから構成されるが、キャパシタの耐電圧や、静電容量には非水電解液の組成が大きな影響を及ぼすことが知られている。
【0003】
上記非水電解液は、一般的に電解質塩と非水系有機溶媒とから構成され、これら電解質塩および非水系有機溶媒の組み合わせについては、現在まで種々検討されてきている。
電解質塩としては、第4級アンモニウム塩(特許文献1:特開昭61−32509号公報、特許文献2:特開昭63−173312号公報、特許文献3:特開平10−55717号公報等)や、第4級ホスホニウム塩(特許文献4:特開昭62−252927号公報等)等が、有機溶媒への溶解性および解離度、ならびに電気化学的安定域が広いことから汎用されている。
【0004】
しかしながら、現在用いられている非水電解液系電気二重層キャパシタでは、通常用いられている有機溶媒に対する電解質塩(4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩等)の溶解性が十分であるとはいえず、その添加量には限界がある。その結果、非水電解液のイオン電導度が低くなるとともに、電気二重層キャパシタの静電容量も低くなるという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開昭61−32509号公報
【特許文献2】特開昭63−173312号公報
【特許文献3】特開平10−55717号公報
【特許文献4】特開昭62−252927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、電解液に用いられる有機溶媒に対する溶解性が良好であり、蓄電デバイスの電解質塩として有用な新規なキヌクリジニウム塩を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、窒素原子上に所定のアルキル基またはアルコキシアルキル基を有するとともに、フッ素原子を含む1価アニオンを有するキヌクリジニウム塩が、有機溶媒に対する溶解性に優れるとともに、従来用いられている4級アンモニウム塩と同程度の電位窓を有しているため、蓄電デバイスの電解質塩として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
1. 下記式(1)で表されることを特徴とするキヌクリジニウム塩、
【化1】
〔式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)を表し、X-は、フッ素原子を含む1価アニオンを表す。〕
2. 前記Xが、BF4、BF3CF3、PF6、(CF3SO2)2N、(FSO2)2N、CF3CO2、CF3SO4、またはCF3SO3である1のキヌクリジニウム塩、
3. 前記Xが、BF4またはBF3CF3である2のキヌクリジニウム塩、
4. 前記Xが、(CF3SO2)2Nまたは(FSO2)2Nである2のキヌクリジニウム塩、
5. 前記Rが、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)である1〜4のいずれかのキヌクリジニウム塩
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電解質に用いられる各種有機溶媒に対する溶解性に優れるとともに、従来の4級アンモニウム塩と同等の電位窓を有し、電気化学的安定性が良好であるため、蓄電デバイスの電解質塩として有用な新規キヌクリジニウム塩を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係るキヌクリジニウム塩は、下記式(1)で表される。
【0011】
【化2】
〔式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)を表し、X-は、フッ素原子を含む1価アニオンを表す。〕
【0012】
式(1)において、炭素数1〜4のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
本発明のキヌクリジニウム塩におけるRとしては、上記範囲の基であれば特に限定されるものではないが、比較的融点の低いキヌクリジニウム塩が得られることから、メチル基、エチル基、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)が好ましく、特にCH2CH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)がより好ましい。
【0013】
フッ素原子を含む1価のアニオンは特に限定されるものではなく、上記Xとしては、例えば、BF4、BF3CF3、PF6、(CF3SO2)2N、(FSO2)2N、CF3CO2、CF3SO4、CF3SO3、(C2F5SO2)2N、(C2F5SO2)(CF3SO2)N、PF3(C2F5)3等が挙げられる。
これらの中でも、電気二重層キャパシタ等の電解質塩として用いる場合などを考慮すると、BF4、BF3CF3、(CF3SO2)2N、(FSO2)2N、が好ましく、特に、BF4、BF3CF3がより好ましい。
【0014】
なお、BF3CF3アニオンを有する塩は、R.D.Chambers et al.,J.Am.Chem.Soc.,82,5298(1960)、M.Ue et al.,J.Fluorine Chem.,127−131,123(2003),G.A.Molander and B.P.Hoag,Organometallics,3313−3315,22(2003)等の文献記載の方法によって合成することができる。
【0015】
本発明のキヌクリジニウム塩の合成法は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができるが、例として下記のような一般的な合成法を挙げることができる。
まず、キヌクリジンと、アルキルハライド等とを混合し、必要に応じて加熱や加圧を行うことでアルキル置換キヌクリジニウムハライド塩とする。得られたアルキル置換キヌクリジニウムハライド塩を有機溶媒中に溶解し、テトラフルオロホウ酸銀等の前述したアニオンの金属塩を混合するか、もしくはアルキル置換キヌクリジニウムハライド塩を水に溶解し、ホウフッ化水素酸等の前述のアニオンの水素化物を混合することにより、塩交換反応を行い、本発明のキヌクリジニウム塩を得ることができる。
【0016】
具体例として、メチルキヌクリジニウムテトラフルオロボレートの合成法を挙げると、キヌクリジンをテトラヒドロフランに溶解し、氷冷下でよう化メチルを加え、終夜反応させてN−メチルキヌクリジニウムアイオダイドを得、これをアセトニトリルに溶解し、攪拌下、テトラフルオロほう酸銀を加え、終夜反応させて目的物へと変換させることができる。
【0017】
以上説明した本発明のキヌクリジニウム塩は、リチウムイオン電池等の二次電池、電気二重層キャパシタ、電解コンデンサ等の蓄電デバイス用の電解質塩として好適に用いることができる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例および参考例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例における化合物の構造確認は、1H−NMRおよび19F−NMR(日本電子(株)製、AL−400)を用いて行った。
【0019】
[1]キヌクリジニウム塩の合成
[実施例1]化合物1(MeQ BF4)の合成
【化3】
【0020】
キヌクリジン(シグマアルドリッチジャパン(株)品)5.0g(45mmol)をテトラヒドロフラン(以下THF、和光純薬工業(株)品)50mlに溶解した後に氷冷し、攪拌下、よう化メチル(シグマアルドリッチジャパン(株)品)3.36ml(54mmol)を加えた。終夜攪拌し、減圧濾過で生成した固体分を回収し、アセトニトリル(和光純薬工業(株)品)−THF系で再結晶を行い、N−メチルキヌクリジニウムアイオダイドの白色結晶を得た。
得られたN−メチルキヌクリジニウムアイオダイド3.41g(13.5mmol)をアセトニトリル50mlに溶解し、攪拌下、50mlのアセトニトリルに溶解したテトラフルオロほう酸銀(東京化成工業(株)品)2.62g(13.5mmol)を加え、終夜攪拌した。反応液中に生じた黄色結晶を減圧濾過し、濾液をエバポレーターで濃縮した。残留分にアセトニトリル−THF混合液を少量加え、溶解しない新たに析出した固体をPTFEメンブレンフィルターろ過にて除去した。その後、アセトニトリル−THF系で再結晶を行い、濾別、減圧乾燥を行い、1.56g(収率54%)の化合物1を得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図1および図2に示す。
【0021】
[実施例2]化合物2(MeQ TFSI)の合成
【化4】
【0022】
実施例1記載の方法で合成したN−メチルキヌクリジニウムアイオダイド4.00g(16mmol)を超純水16mlに溶解した。攪拌下、この溶液にリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニウム)イミド(関東化学(株)品)5.00g(17mmol)を超純水20mlに溶かした溶液を加え、終夜反応させた。析出した白色結晶を濾別し、超純水で洗浄した後に減圧乾燥を行い、5.53g(収率86%)の化合物2を得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図3および図4に示す。
【0023】
[実施例3]化合物3(EtQ BF4)の合成
【化5】
【0024】
よう化メチルをよう化エチル(和光純薬工業(株)品)に変更し、これをキヌクリジンに対して3当量加えた以外は、実施例1と同様にしてN−エチルキヌクリジニウムアイオダイドを収率90%で、化合物3をN−エチルキヌクリジニウムアイオダイドから収率73%で得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図5および図6に示す。
【0025】
[実施例4]化合物4(EtQ TFSI)の合成
【化6】
【0026】
実施例3記載の方法で得たN−エチルキヌクリジニウムアイオダイドから実施例2と同様の方法で化合物4を収率87%で得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図7および図8に示す。
【0027】
[実施例5]化合物5(EtQ BF3CF3)の合成
【化7】
【0028】
実施例3記載の方法で得たN−エチルキヌクリジニウムアイオダイド4.58g(17.1mmol)を超純水15mlに溶解した。攪拌下、この溶液にカリウムトリフルオロメチルトリフルオロボレート(三菱化学(株)品)3.32g(18.9mmol)を超純水15mlに溶解した溶液を100分間反応させた。析出した白色結晶を濾別し、超純水で洗浄した後に減圧乾燥を行い、1.43g(収率30%)の化合物5を得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図9および図10に示す。
【0029】
[実施例6]化合物6(MOEQ BF4)の合成
【化8】
【0030】
キヌクリジン20.6g(186mmol)をTHF200mlに溶解した後に、塩化2−メトキシエチル(東京化成工業(株)品)を加え、還流下で14時間反応させた。放冷し、室温に戻した後、2層に分離した粘性の高い下層をデカンテーションにより上層と分離し、下層をアセトニトリル−THF系で再結晶を行い、N−2−メトキシエチルキヌクリジニウムクロライドを25.6g(収率67%)で得た。
得られたN−2−メトキシエチルキヌクリジニウムクロライド21.9g(112mmol)をアセトニトリル200mlに溶解し、攪拌下、100mlのアセトニトリルに溶解したテトラフルオロほう酸銀23.1g(112mmol)を加え、終夜攪拌した。反応液中に生じた黄色結晶を減圧濾過し、濾液をエバポレーターで濃縮した。残留分にアセトニトリル−THF混合液を少量加え、溶解しない新たに析出した固体をPTFEメンブレンフィルターろ過にて除去した。その後、アセトニトリル−THF系で再結晶を行い、析出した結晶を濾別して減圧乾燥し、19.1g(収率66%)の化合物6を得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図11および図12に示す。
【0031】
[実施例7]化合物7(MOEQ TFSI)の合成
【化9】
【0032】
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニウム)イミド1.88g(6.6mmol)を超純水5mlに溶解した。攪拌下、この溶液に実施例6記載の方法で合成したN−2−メトキシエチルキヌクリジニウムクロライド1.13g(5.5mmol)を超純水5mlに溶かした溶液を加えて10分間反応させたところ2層に分離した。反応液にクロロホルム(和光純薬工業(株)品)を加えて下層を分液し、超純水で洗浄した後に溶媒留去、減圧乾燥を行い、1.94g(収率78%)で化合物7を得た。なおこの化合物7は室温で液体(イオン液体)であった。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重クロロホルム、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図13および図14に示す。
【0033】
[実施例8]化合物8(MOEQ BF3CF3)の合成
【化10】
【0034】
カリウムトリフルオロメチルトリフルオロボレート2.61g(14.8mmol)を超純水5mlに溶解した。攪拌下、この溶液に実施例6記載の方法で合成したN−2−メトキシエチルキヌクリジニウムクロライド2.54g(12.3mmol)を超純水5mlに溶かした溶液を加えて15分間反応させたところ2層に分離した。反応液にクロロホルム(和光純薬工業(株)品)を加えて下層を分液し、超純水で洗浄した後に溶媒留去、減圧乾燥を行い、2.28g(収率49%)で化合物8を得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図15および図16に示す。
【0035】
[融点測定]
上記各実施例で得られた化合物1〜8について、室温固体のもの(化合物1〜6,8)については融点測定器(MP−500V、(株)ヤナコ製)を、室温液体のもの(化合物7)については示差走査熱量計(DSC−6200、セイコーインスツル(株)製)を用いて融点を測定した。結果を表1に示す。
[溶解性試験]
上記各実施例で得られた化合物1〜8、比較例としてテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(以下TEA BF4、関東化学(株)品)、およびトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート(以下TEMA BF4、キシダ化学(株)品)を、各々0.5gサンプル瓶にとり、0.1ml刻みでプロピレンカーボネート(以下PC、キシダ化学(株)品)を加え、溶解性を確認した。得られた結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
[サイクリックボルタンメトリー測定]
実施例1〜8で得られた化合物1〜8、および比較としてTEA BF4の0.1M PC溶液を調製し、サイクリックボルタンメトリー測定を行った(測定装置:北斗電工(株)製 HSV−100)。結果を図17および図18に示す。
【0038】
表1に示されるように、実施例1〜8で得られたキヌクリジニウム塩は、TEA BF4やTEMA BF4に比べてPCに対する溶解性に優れている。
また、図17に示されるように、キヌクリジニウム塩は、同一のアニオンを有するTEA BF4と同等の広さの電位窓を有していることがわかる。
【0039】
[2]電気二重層キャパシタ
[参考例1]
(1)正の電極構造体の作製
活性炭マックスソーブMSP20(関西熱化学(株)製、BET比表面積:2,300m2/g、細孔容積:1.07ml/g、50%粒径:9.5μm)と、導電剤(HS−100、電気化学工業(株)製)と、バインダであるPVDF(アルドリッチ社製、重量平均分子量:534,000)とを85:8:7の質量組成になるように、塗工溶媒であるN−メチルピロリドン(以下NMP)中で混合し、正の分極性電極用塗工液を調製した。
得られた塗工液をエッチドアルミ箔(30CB、日本蓄電器工業(株)製)の両面に塗工した後、ロールプレスで圧延し、さらにNMPを乾燥除去して、集電体上に分極性電極を形成した正の分極性電極構造体を得た。
(2)負の電極構造体の作製
活性炭LPY039(日本エンバイロケミカルズ(株)製、MP法におけるピーク細孔半径:4.1×10-10m、比表面積:1,900m2/g、細孔容積:0.90ml/g、50%:粒径10.3μm)と、導電剤(HS−100、電気化学工業(株)製)と、バインダであるPVDF(アルドリッチ社製、重量平均分子量:534,000)とを85:7:8の質量組成になるように、塗工溶媒であるNMP中で混合し、負の分極性電極用塗工液を調製した。
得られた塗工液を、エッチドアルミ箔(30CB、日本蓄電器工業(株)製)の両面に塗工した後、ロールプレスで圧延し、さらにNMPを乾燥除去して、集電体上に分極性電極を形成した負の分極性電極構造体を得た。
(3)電気二重層キャパシタの作製
正の分極性電極構造体と負の分極性電極構造体とを、セパレータ(TF40−35、日本高度紙工業(株)製)を介して交互に積層し、正負ごとにまとめてアルミ製の電流取出し端子と溶接して電極群を得た。
次に電極群をアルミラミネート(大日本印刷(株)製)からなる外装容器に挿入し、電解液を注入して電極群に含浸させた後、外装容器を封止部にて熱融着して電気二重層キャパシタを得た。電解液として、実施例3で得られた化合物3(EtQ BF4)を、PCで1Mになるように溶解したものを用いた。
【0040】
[参考例2]
有機系電解液として、実施例6で得られた化合物6(MOEQ BF4)を、PCで1Mになるように溶解したものを用いた以外は、参考例1と同様にして電気二重層キャパシタを得た。
【0041】
[参考例3]
有機系電解液として、TEA BF4を、PCで1Mになるように溶解したものを用いた以外は、参考例1と同様にして電気二重層キャパシタを得た。
【0042】
参考例の電気二重層キャパシタについて、静電容量を測定した結果を表2に示す。本発明の化合物を電解質に用いた電気二重層キャパシタは、TEA BF4に比べて同等かそれ以上の静電容量を有することがわかる。
【0043】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1で得られた化合物1の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図2】実施例1で得られた化合物1の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図3】実施例2で得られた化合物2の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図4】実施例2で得られた化合物2の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図5】実施例3で得られた化合物3の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図6】実施例3で得られた化合物3の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図7】実施例4で得られた化合物4の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図8】実施例4で得られた化合物4の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図9】実施例5で得られた化合物5の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図10】実施例5で得られた化合物5の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図11】実施例6で得られた化合物6の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図12】実施例6で得られた化合物6の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図13】実施例7で得られた化合物7の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図14】実施例7で得られた化合物7の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図15】実施例8で得られた化合物8の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図16】実施例8で得られた化合物8の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図17】実施例1,3,6で得られた化合物およびTEAのサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【図18】実施例2,4,5,7および8で得られた化合物のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されることを特徴とするキヌクリジニウム塩。
【化1】
〔式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)を表し、X-は、フッ素原子を含む1価アニオンを表す。〕
【請求項2】
前記Xが、BF4、BF3CF3、PF6、(CF3SO2)2N、(FSO2)2N、CF3CO2、CF3SO4、またはCF3SO3である請求項1記載のキヌクリジニウム塩。
【請求項3】
前記Xが、BF4またはBF3CF3である請求項2記載のキヌクリジニウム塩。
【請求項4】
前記Xが、(CF3SO2)2Nまたは(FSO2)2Nである請求項2記載のキヌクリジニウム塩。
【請求項5】
前記Rが、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)である請求項1〜4のいずれか1項記載のキヌクリジニウム塩。
【請求項1】
下記式(1)で表されることを特徴とするキヌクリジニウム塩。
【化1】
〔式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)を表し、X-は、フッ素原子を含む1価アニオンを表す。〕
【請求項2】
前記Xが、BF4、BF3CF3、PF6、(CF3SO2)2N、(FSO2)2N、CF3CO2、CF3SO4、またはCF3SO3である請求項1記載のキヌクリジニウム塩。
【請求項3】
前記Xが、BF4またはBF3CF3である請求項2記載のキヌクリジニウム塩。
【請求項4】
前記Xが、(CF3SO2)2Nまたは(FSO2)2Nである請求項2記載のキヌクリジニウム塩。
【請求項5】
前記Rが、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)である請求項1〜4のいずれか1項記載のキヌクリジニウム塩。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−105919(P2010−105919A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276626(P2008−276626)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2008年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 新エネルギー技術開発 系統連系円滑化蓄電システム技術開発/要素技術開発/高エネルギー密度を有する新型電気二重層キャパシタ及びその蓄電システムの研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2008年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 新エネルギー技術開発 系統連系円滑化蓄電システム技術開発/要素技術開発/高エネルギー密度を有する新型電気二重層キャパシタ及びその蓄電システムの研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】
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