説明

キャンセラー及び通信装置

【課題】送信アンテナから受信アンテナに回り込んだ回込信号を精度良く除去する。
【解決手段】利得制御器21は、振幅誤差検出信号S10が0となるように、送信信号S1の振幅を調節する。可変移相器22は、位相誤差検出信号S8が0となるように利得制御器21から出力された信号の位相を角度φ変化させる。第1遅延器23は、キャンセル信号S2の位相をπ/2遅らせて位相誤差検出部3に出力する。第2遅延器24は第1遅延信号S5の位相を更にπ/2遅らせて第2遅延信号S6を生成する。位相誤差検出部3は、キャンセル済受信信号S4及び第1遅延信号S5を基に、キャンセル済受信信号S4に残存する回込信号の振幅誤差成分を示す位相誤差検出信号S8を生成する。振幅誤差検出部4は、キャンセル済受信信号S4及び第2遅延信号S6を基に、キャンセル済受信信号S4に残存する回込信号の振幅誤差成分を示す振幅誤差検出信号S10を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信アンテナから受信アンテナに回り込んだ送信信号をキャンセルするキャンセラー及びそのキャンセラーを備える通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、送信部から受信部に回り込む妨害波をキャンセルする複信方式無線機が開示されている。具体的には、送信部は出力する電力の一部を可変増幅器及び可変移相器を介してキャンセル波としてキャンセル部に入力する。キャンセル部は、キャンセル作用の度合いに応じた強さの電力を有する残余波bを出力する。制御用受信部は、ピックアップを介して残余波の強さに逆比例した直流電圧をコントローラに出力するコントローラは、直流電圧の大きさを常時監視し、その直流電圧が最大となるように可変増幅器の増幅度及び可変移相器の位相を制御する。
【0003】
特許文献2には、I及びQ送信リーク信号成分を個別にフィードバックをかけて、受信機入力での送信リーク信号を減少させる通信装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−260932号公報
【特許文献2】特表2004−500743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、残余波から位相成分及び振幅成分を抽出し、それぞれを個別にモニタして、可変増幅器及び可変移相器がそれぞれ個別に制御されていないため、妨害波を精度良く除去することができないという問題がある。
【0006】
また、特許文献2の技術では、送信リーク信号の位相成分及び振幅成分をそれぞれ個別にモニタすることが行われていないため、送信リーク信号を精度良く除去することができないという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、送信アンテナから受信アンテナに回り込んだ回込信号を精度良く除去することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の一局面によるキャンセラーは、送信アンテナから受信アンテナに回り込んだ回込信号を除去するキャンセラーであって、前記送信アンテナに供給される送信信号からキャンセル信号を生成すると共に、前記キャンセル信号に対して位相がπ/2遅れた第1遅延信号及び前記キャンセル信号に対して位相がπ遅れた第2遅延信号を生成するキャンセル信号生成部と、前記キャンセル信号に前記受信アンテナにより受信された受信信号を加算して前記回込信号をキャンセルするキャンセル部と、前記キャンセル部から出力されたキャンセル済受信信号及び前記第1遅延信号を基に、前記キャンセル済受信信号に残存する前記回込信号の位相誤差成分を示す位相誤差検出信号を生成する位相誤差検出部と、前記キャンセル済受信信号及び第2遅延信号を基に、前記キャンセル済受信信号に残存する前記回込信号の振幅誤差成分を示す振幅誤差検出信号を生成する振幅誤差検出部とを備え、前記キャンセル信号生成部は、前記位相誤差検出信号及び前記振幅誤差検出信号が0となるように前記キャンセル信号を生成する。
【0009】
この構成によれば、送信アンテナに供給される送信信号からキャンセル信号が生成され、このキャンセル信号が受信信号に加算されて受信信号に含まれる回込信号が除去される。キャンセル部により除去されなかった回込信号はキャンセル済受信信号に含まれている。
【0010】
位相誤差検出部は、キャンセル信号に対して位相がπ/2遅れた第1遅延信号が入力され、この第1遅延信号を用いて、キャンセル済受信信号に残存する回込信号の位相誤差成分を示す位相誤差検出信号を生成する。振幅誤差検出部は、キャンセル信号に対して位相がπ遅れた第2遅延信号が入力され、この第2遅延信号を用いてキャンセル済受信信号に残存する回込信号の振幅誤差成分を含む振幅誤差検出信号を生成する。そして、キャンセル信号生成部は、位相誤差検出信号及び振幅誤差検出信号が0となるようにキャンセル信号を生成する。
【0011】
つまり、キャンセル済受信信号に残存する回込信号の位相誤差成分と振幅誤差成分とが個別にモニタされ、両成分が0となるようにキャンセル信号が生成されて、受信信号に加算されるため、受信信号から回込信号を精度良く除去することができる。
【0012】
(2)前記キャンセル信号生成部は、前記振幅誤差検出信号が0となるように前記送信信号の振幅を調節する利得制御器と、前記位相誤差検出信号が0となるように前記利得制御器から出力された信号の位相を調節する可変移相器とを備えることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、利得制御器及び可変移相器を用いてキャンセル信号が生成されるため、受信信号から回込信号を精度良く除去することができる。
【0014】
(3)前記キャンセル信号生成部は、前記キャンセル信号の位相をπ/2遅らせて前記第1遅延信号を生成する第1遅延器と、前記第1遅延信号の位相を更にπ/2遅らせて前記第2遅延信号を生成する第2遅延器とを備えることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、第1及び第2遅延器を共にπ/2移相器により構成することができ、回路構成が簡略化される。
【0016】
(4)前記キャンセル信号生成部は、前記可変移相器から出力された信号の位相をπ/2遅らせることで前記キャンセル信号を生成し、かつ、前記可変移相器から出力された信号の位相をπ遅らせることで前記第1遅延信号を生成する90°ハイブリッドカプラと、前記90°ハイブリッドカプラから出力された前記第1遅延信号の位相を更にπ/2遅らせることで前記第2遅延信号を生成する遅延部とを備えることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、可変移相器及びキャンセル部間に90°ハイブリッドカプラが配置されているため、加算器を介して位相誤差検出部側に受信信号が出力されることを防止することができる。
【0018】
(5)前記キャンセル信号生成部は、前記可変移相器から出力された信号の位相をφ1遅らせて前記第1遅延信号を生成する第1位相調整器と、前記可変移相器から出力された信号の位相をφ2遅らせて前記第2遅延信号を生成する第2位相調整器とを備え、前記可変移相器から前記キャンセル部までの配線による位相遅れをθ0、前記キャンセル部から前記位相誤差検出部までの配線による位相遅れをθ1、前記キャンセル部から前記振幅誤差検出部までの配線による位相遅れをθ2とすると、φ1=π/2+θ1+θ0に設定され、φ2=π+θ2+θ0に設定されていることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、可変移相器からキャンセル部までの配線による位相遅れ、キャンセル部から位相誤差検出部までの配線による位相遅れ、及びキャンセル部から振幅誤差検出部までの配線による位相遅れがあったとしても、位相誤差検出部に入力されるキャンセル済受信信号のキャンセル信号成分及び第1遅延信号の位相差がπ/2とされるため、位相遅れθ1により位相誤差検出信号に現れる誤差成分を抑制することができる。加えて、振幅誤差検出部に入力されるキャンセル済受信信号のキャンセル信号成分及び第2遅延信号の位相差がπとされるため、位相遅れθ2により振幅誤差検出信号に現れる誤差成分を抑制することができる。
【0020】
(6)送信アンテナと、前記送信アンテナに送信信号を供給する送信部と、受信アンテナと、上記のキャンセラーと、前記キャンセラーにより受信信号から前記回込信号が除去された信号を受信する受信部とを備える。
【0021】
この構成によれば、受信信号から回込信号を精度良く除去することができる通信装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、受信信号から回込信号を精度良く除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態1による通信装置のブロック図を示している。
【図2】本発明の実施の形態2による通信装置のブロック図を示している。
【図3】90°ハイブリッドカプラ25の回路図を示している。
【図4】本発明の実施の形態3による通信装置のブロック図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1による通信装置のブロック図を示している。図1に示す通信装置は、キャンセラー1、送信アンテナTA、送信部TX、受信アンテナRA、及び受信部RXを備えている。
【0025】
送信部TXは、送信対象の信号を周波数fcのキャリア信号Scで例えば振幅変調して送信信号S1を生成し、送信アンテナTAに供給する。送信アンテナTAは、送信信号S1によって励振され、送信信号S1を無線信号として出力する。
【0026】
受信アンテナRAは、無線信号を受信して受信信号S3としてキャンセラー1に出力する。受信部RXは、キャンセラー1により受信信号S3から回込信号が除去されたキャンセル済受信信号S4が供給され、キャンセル済受信信号S4をキャリア信号Scで復調し、他の通信装置から送信された送信信号から送信対象となる信号を抽出する。
【0027】
キャンセラー1は、キャンセル信号生成部2、位相誤差検出部3、振幅誤差検出部4、加算器5(キャンセル部の一例)を備え、送信アンテナTAから受信アンテナRAに回り込んだ回込信号を除去する。キャンセル信号生成部2は、利得制御器21、可変移相器22、第1遅延器23、及び第2遅延器24を備えている。
【0028】
利得制御器21は、振幅誤差検出信号S10が0となるように、送信信号S1の振幅を調節する。具体的には、利得制御器21は、振幅誤差検出信号S10がプラスの場合は、ゲインAを所定値増加させ、得られたゲインAで送信信号S1の振幅を制御し、振幅誤差検出信号S10がマイナスの場合は、ゲインAを所定値減少させ、得られたゲインAで送信信号S1の振幅を制御する処理を繰り返す。
【0029】
なお、利得制御器21は、振幅誤差検出信号S10が入力されていない場合は、デフォルトのゲインAで送信信号S1の振幅を制御する。ここで、デフォルトのゲインAとしては、予め想定される受信信号S3に含まれる回込信号の振幅を相殺するような所定の制御範囲の任意の値が採用されている。
【0030】
可変移相器22は、位相誤差検出信号S8が0となるように利得制御器21から出力された信号の位相を角度φ変化させ、キャンセル信号S2として加算器5に出力する。具体的には、可変移相器22は、位相誤差検出信号S8がプラスの場合は、角度φをマイナス方向に所定値変化させ、位相誤差検出信号S8がマイナスの場合は、角度φをプラス方向に所定値変化させる処理を繰り返す。
【0031】
なお、可変移相器22は、位相誤差検出信号S8が入力されていない場合は、デフォルトの角度φで送信信号S1の位相を遅らせる。ここで、デフォルトの角度φとしては、予め想定される受信信号S3に含まれる回込信号の位相の値が採用されている。また、角度φがマイナスになる場合は、利得制御器21から出力された信号の位相は角度φ進められる。
【0032】
第1遅延器23は、例えばπ/2移相器により構成され、キャンセル信号S2の位相をπ/2遅らせて第1遅延信号S5を生成し、位相誤差検出部3に出力する。つまり、第1遅延器23は、キャンセル信号S2に対して位相がπ/2遅れた信号を第1遅延信号S5として生成する。
【0033】
第2遅延器24は、例えばπ/2移相器により構成され、第1遅延信号S5の位相を更にπ/2遅らせて第2遅延信号S6を生成する。つまり、第2遅延器24は、キャンセル信号S2に対して位相がπ遅れた信号を第2遅延信号S6として生成する。
【0034】
位相誤差検出部3は、ミキサ31及びフィルタ32を備え、キャンセル済受信信号S4及び第1遅延信号S5を基に、キャンセル済受信信号S4に残存する回込信号の位相誤差成分を示す位相誤差検出信号S8を生成する。
【0035】
ミキサ31は、第1遅延信号S5とキャンセル済受信信号S4とを乗算し、第1乗算信号S7を生成する。フィルタ32は、例えば、ローパスフィルタにより構成され、第1乗算信号S7に含まれる高周波成分を除去し、得られた信号を位相誤差検出信号S8として可変移相器22に出力する。
【0036】
振幅誤差検出部4は、ミキサ41及びフィルタ42を備え、キャンセル済受信信号S4及び第2遅延信号S6を基に、キャンセル済受信信号S4に残存する回込信号の振幅誤差成分を示す振幅誤差検出信号S10を生成する。ミキサ41は、第2遅延信号S6とキャンセル済受信信号S4とを乗算し、第2乗算信号S9を生成する。フィルタ42は、例えばローパスフィルタにより構成され、第2乗算信号S9に含まれる高周波成分を除去し、得られた信号を振幅誤差検出信号S10として利得制御器21に出力する。
【0037】
加算器5は、受信アンテナRAにより受信された受信信号S3にキャンセル信号S2を加算し、得られた信号をキャンセル済受信信号S4として出力する。
【0038】
このように、構成されたキャンセラー1は、下記のように動作する。まず、送信信号S1が送信アンテナTAに供給されると、利得制御器21は送信信号S1を取り込み、ゲインAで送信信号S1の振幅を制御する。可変移相器22は、利得制御器21から出力された信号の位相を角度φ変化させ、キャンセル信号S2を出力する。
【0039】
キャンセル信号S2は、加算器5により受信信号S3に加算され、キャンセル済受信信号S4とされ、ミキサ31,41に入力される。また、キャンセル信号S2は、第1遅延器23により位相がπ/2遅れて、第1遅延信号S5としてミキサ31に入力される。また、第1遅延信号S5は、第2遅延器24により位相がπ/2遅れて第2遅延信号S6としてミキサ41に入力される。
【0040】
ここで、受信信号S3をsin(2π・fc・t)、キャンセル信号S2を、−A×sin(2π・fc・t+φ)とおく。すると、第1遅延信号S5は、−cos(2π・fc・t+φ)と表され、第2遅延信号S6は、sin(2π・fc・t+φ)と表される。
【0041】
したがって、第1乗算信号S7は、(1/2)・(sin(φ)−sin(4π・fc・t+φ)+A×sin(4π・fc・t+2φ))と表される。また、第2乗算信号S9は、(1/2)・(cos(φ)−cos(4π・fc・t+φ)−A(1−cos(4π・fc・t+2φ)))と表される。
【0042】
フィルタ32は、第1乗算信号S7の第2項と第3項とを除去するように遮断周波数が設定されているため、位相誤差検出信号S8は、(1/2)・sin(φ)となる。また、フィルタ42は、第2乗算信号S9のcos(4π・fc・t+φ)の項と、cos(4π・fc・t+2φ)の項とを除去するように遮断周波数が設定されているため、振幅誤差検出信号S10は、(1/2)・(cos(φ)−A)となる。
【0043】
可変移相器22より、位相の調節が完了された後は、角度φはφ=0となるため、振幅誤差検出信号S10は1−Aに比例した信号となり、利得制御器21には1−Aに比例した振幅誤差検出信号S10が入力される。したがって、利得制御器21は、振幅誤差検出信号S10がプラスの場合は、ゲインAを所定値増加させ、振幅誤差検出信号S10がマイナスの場合は、ゲインAを所定値減少させることを繰り返すことで、最終的に受信信号S3に含まれる回込信号を除去するキャンセル信号S2が得られる。
【0044】
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態2による通信装置のブロック図を示している。実施の形態2による通信装置は、はキャンセル信号生成部2の第1遅延器23に代えて90°ハイブリッドカプラ25を設けたことを特徴としている。つまり、キャンセル信号生成部2は、利得制御器21、可変移相器22、第2遅延器24、及び90°ハイブリッドカプラ25を備えている。なお、本実施の形態において実施の形態1と同一のものは同一の符号を付し、説明を省く。
【0045】
90°ハイブリッドカプラ25は、端子P1〜P4の4つの端子を備えている。端子P1は可変移相器22に接続され、端子P2は加算器5に接続され、端子P3はミキサ31に接続され、端子P4は終端器TRに接続されている。
【0046】
90°ハイブリッドカプラ25は、可変移相器22から出力された信号S2´が端子P1を介して入力され、端子P1に入力された信号S2´の位相をπ/2遅らせ、キャンセル信号S2として端子P2から出力させる。また、90°ハイブリッドカプラ25は、信号S2´の位相をπ遅らせ、第1遅延信号S5として端子P3を介してミキサ31に出力する。
【0047】
実施の形態1では、可変移相器22からの信号がキャンセル信号S2として、直接、加算器5に入力されていたが、実施の形態2では、可変移相器22からの信号S2´の位相が90°ハイブリッドカプラ25によりπ/2遅れた信号がキャンセル信号S2として、加算器5に入力されている。
【0048】
一方、位相誤差検出部3は、ミキサ31に、キャンセル信号S2に対して位相がπ/2遅れた信号が入力されれば、(1/2)・sin(φ)の位相誤差検出信号S8を生成することができる。また、振幅誤差検出部4は、ミキサ41に、キャンセル信号S2に対して位相がπ遅れた信号が入力されれば、(1/2)・(cos(φ)−A)の振幅誤差検出信号S10を生成することができる。
【0049】
90°ハイブリッドカプラ25は、信号S2´の位相をπ遅らされた信号を第1遅延信号S5として端子P3介して出力している。そのため、第1遅延信号S5は、キャンセル信号S2に対して位相がπ/2遅れることになり、位相誤差検出部3は、(1/2)・sin(φ)の位相誤差検出信号S8を生成することができる。
【0050】
また、第1遅延信号S5は第2遅延器24によって位相がπ/2遅れて第2遅延信号S6としてミキサ41に入力されている。そのため、第2遅延信号S6は、キャンセル信号S2に対して位相がπ遅れることになり、振幅誤差検出部4は、(1/2)・(cos(φ)−A)の振幅誤差検出信号S10を生成することができる。
【0051】
したがって、実施の形態2の通信装置は、実施の形態1と同様、受信信号S3に含まれる回込信号を精度良く除去することが可能となる。
【0052】
図3は、90°ハイブリッドカプラ25の回路図を示している。図3に示す90°ハイブリッドカプラ25は、マイクロストリップラインにより構成されており、4つの配線L1〜L4により構成されている。配線L1〜L4はそれぞれ、入力された信号の位相をπ/2遅らせる配線長を有している。
【0053】
配線L1は端子P1及び端子P2間を繋ぎ、配線L2は端子P3及び端子P4間を繋ぎ、配線L3は端子P1及び端子P4間を繋ぎ、配線L4は端子P2及び端子P3間を繋ぐ。
【0054】
また、配線L1,L2は特性インピーダンスがZo/2に設定され、配線L3,L4は特性インピーダンスがZoに設定されている。端子P1〜P4のインピーダンスをそれぞれZoとして、端子P1から信号を入力すると、端子P2からは、入力された信号に対して電力が半分で、位相がπ/2遅れた信号が出力され、端子P3からは、入力された信号に対して電力が半分で、位相がπ遅れた信号が出力され、端子P4からは、信号が出力されない。
【0055】
90°ハイブリッドカプラ25は対称な構成を有しているため、端子P2から信号を入力すると端子P1,P4から信号が出力され、端子P3から信号が出力されなくなる。
【0056】
本実施の形態では、端子P1に可変移相器22を接続し、端子P2に加算器5を接続し、端子P3にミキサ31及び第2遅延器24を接続し、端子P4に終端器TRを接続している。
【0057】
そのため、可変移相器22からの信号S2´は、端子P2,P3から出力されてミキサ31、加算器5に供給されるが、加算器5からの信号は端子P1,P4から出力されて可変移相器22と終端器TRに出力される。つまり、加算器5からの信号が、90°ハイブリッドカプラ25から漏れ出て、第1遅延信号S5及び第2遅延信号S6に含まれることが阻止される。そのため、位相誤差検出信号S8及び振幅誤差検出信号S10に誤差成分が含まれることを防止することができる。
【0058】
各端子P1〜P4のポートのインピーダンスが理想どおりZoとなっていれば信号は反射されず、受信信号S3はミキサ31及び第2遅延器24に入力されなくなる。実際にはインピーダンスのズレによりいくらか漏れるが、漏れが無視できるレベルになればよい。
【0059】
(実施の形態3)
図4は、本発明の実施の形態3による通信装置のブロック図を示している。実施の形態3による通信装置は、キャンセラー1を構成する回路素子を繋ぐ配線による位相遅れを考慮して、第1位相調整器26及び第2位相調整器27をキャンセル信号生成部2に設けたことを特徴とする。
【0060】
すなわち、本実施の形態では、キャンセル信号生成部2は、図1に示す第1遅延器23及び第2遅延器24に代えて、第1位相調整器26及び第2位相調整器27を備えている。
【0061】
第1位相調整器26は、例えば可変移相器により構成され、可変移相器22から出力された信号S2´の位相を角度φ1遅らせて第1遅延信号S5を生成し、ミキサ31に出力する。第2位相調整器27は、例えば可変移相器により構成され、信号S2´の位相を角度φ2遅らせて第2遅延信号S6を生成し、ミキサ41に出力する。
【0062】
図4の例では、可変移相器22から加算器5までの配線による位相遅れをθ0、加算器5からミキサ31までの配線による位相遅れをθ1、加算器5からミキサ41までの配線による位相遅れをθ2としている。また、図4の例では、可変移相器22が変化させる位相の角度をφ0で表している。
【0063】
そして、第1位相調整器26は、角度φ1を、φ1=π/2+θ1+θ0に設定し、第2位相調整器27は、角度φ2を、φ2=π+θ2+θ0に設定する。
【0064】
キャンセル信号S2は、−A×sin(2π・fc・t+φ0)と表されるため、可変移相器22及び加算器5間の配線による位相遅れθ0を考慮すると、可変移相器22から出力された直後の信号S2´は、−A×sin(2π・fc・t−θ0+φ0)と表される。
【0065】
また、加算器5及びミキサ31間の配線による位相遅れθ1を考慮すると、ミキサ31に入力される直前のキャンセル済受信信号S4_1は、sin(2π・fc・t+θ1)−A×sin(2π・fc・t+θ1+φ0)となる。また、加算器5及びミキサ41間の配線による位相遅れθ2を考慮すると、ミキサ41に入力される直前のキャンセル済受信信号S4_2は、sin(2π・fc・t+θ2)−A×sin(2π・fc・t+θ2+φ0)となる。
【0066】
したがって、φ1=π/2+θ1+θ0に設定すると、第1遅延信号S5は、−cos(2π・fc・t+θ1+φ0)となり、キャンセル済受信信号S4_1のキャンセル信号成分である−A×sin(2π・fc・t+θ1+φ0)に対して位相がπ/2ずれる。
【0067】
そのため、第1乗算信号S7は、(1/2)・(sin(φ0)−sin(4π・fc・t+2θ1+φ0)+A×sin(4π・fc・t+2θ1+2φ0))となる。
【0068】
第1乗算信号S7はフィルタ32により高周波成分が除去されるため、位相誤差検出部3は、(1/2)・sin(φ0)の位相誤差検出信号S8を生成することができる。
【0069】
また、φ2=π+θ2+θ0に設定すると、第2遅延信号S6は、sin(2π・fc・t+θ2+φ0)となり、キャンセル済受信信号S4_2のキャンセル信号成分である−A×sin(2π・fc・t+θ2+φ0)に対して位相がπずれる。
【0070】
そのため、第2乗算信号S9は、(1/2)・(cos(φ0)−cos(4π・fc・t+2θ2+φ0)−A(1−cos(4π・fc・t+2θ2+2φ0)))となる。
【0071】
第2乗算信号S9はフィルタ42により高周波成分が除去されるため、振幅誤差検出部4は、(1/2)・(cos(φ0)−A)の振幅誤差検出信号S10を生成することができる。
【0072】
よって、位相誤差検出信号S8及び振幅誤差検出信号S10に位相遅れθ0〜θ2が含まれなくなり、両信号に位相遅れθ0〜θ2による誤差成分が含まれることが阻止され、受信信号S3から精度良く回込信号を除去することができる。
【0073】
次に、図4の通信装置において、受信信号S3が加算器5を介して、第1位相調整器26及び第2位相調整器27に漏れ出た場合の位相遅れθ0〜θ2の影響について説明する。
【0074】
図4の構成において、受信信号S3が第1位相調整器26及び第2位相調整器27側にB(B<1)倍されて漏れ出たとする。この位相誤差検出信号S8は、(1/2)・sin(φ0)+(A×B/2)・sin(2θ0−φ0)−(B/2)・sin(2θ0)となる。受信信号S3が第1位相調整器26に漏れ出ることで、位相誤差検出信号S8の第2項と第3項とに位相遅れθ0に起因する誤差成分が現れている。位相誤差検出信号S8は、可変移相器22により0となるように制御されるため、第2項、第3項が大きい場合、φ0が0から離れるようにφ0が設定される。
【0075】
また、振幅誤差検出信号S10は、(1/2)・(cos(φ0)−A)+(B/2)・(A・cos(2θ0−φ0)−cos(2θ0)))となる。つまり、受信信号S3が加算器5を介して第2位相調整器27に漏れ出ることで、振幅誤差検出信号S10の第2項に位相遅れθ0に起因する誤差成分が現れている。そのため、振幅誤差検出信号S10の第2項が大きい場合、ゲインAが1から離れるように設定されてしまう。
【0076】
このように、加算器5を介して漏れ出た場合、漏れ出る受信信号S3の大きさに比例して、位相誤差検出信号S8及び振幅誤差検出信号S10の誤差成分が増大してしまう。
【0077】
そこで、θ0をπ/2+nπ(nは整数)に設定する。これにより、位相誤差検出信号S8は、(1/2)・sin(φ0)+(A×B/2)・sin(φ0)∝sin(φ0)となり、位相遅れθ0及び漏れ出る受信信号S3による誤差成分が除去される。
【0078】
また、θ0=π/2+nπ(nは整数)になると、振幅誤差検出信号S10は、(1/2)・(cos(φ0)−A)+(B/2)・(−A・cos(φ0)+1))となり、φ0=0となると、この信号は(1−A)に比例する信号となり、位相遅れθ0及び漏れ出る受信信号S3による誤差成分が除去される。よって、θ0=π/2+nπ(nは整数)に設定することが好ましいことが分かる。θ0=π/2+nπ(nは整数)を設定するには、可変移相器22及び加算器5間の配線の長さを調節することで実現することができる。実際には加算器5による遅延もθ0,θ1,θ2に含める必要があり、θ0の条件が十分に満足されない可能性もある。そこで、実施の形態2のように90°ハイブリッドカプラ25を設けて、可変移相器22及び加算器5間の配線の位相遅れをπ/2に設定してもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 キャンセラー
2 キャンセル信号生成部
3 位相誤差検出部
4 振幅誤差検出部
5 加算器
21 利得制御器
22 可変移相器
23 第1遅延器
24 第2遅延器
25 90°ハイブリッドカプラ
26 第1位相調整器
27 第2位相調整器
31,41ミキサ
32,42 フィルタ
RA 受信アンテナ
RX 受信部
S1 送信信号
S2 キャンセル信号
S3 受信信号
S4,S4_1,S4_2 キャンセル済受信信号
S5 第1遅延信号
S6 第2遅延信号
S7 第1乗算信号
S8 位相誤差検出信号
S9 第2乗算信号
S10 振幅誤差検出信号
TA 送信アンテナ
TX 送信部
θ0 位相遅れ
θ1 位相遅れ
θ2 位相遅れ
φ 角度
φ1 角度
φ2 角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信アンテナから受信アンテナに回り込んだ回込信号を除去するキャンセラーであって、
前記送信アンテナに供給される送信信号からキャンセル信号を生成すると共に、前記キャンセル信号に対して位相がπ/2遅れた第1遅延信号及び前記キャンセル信号に対して位相がπ遅れた第2遅延信号を生成するキャンセル信号生成部と、
前記キャンセル信号に前記受信アンテナにより受信された受信信号を加算して前記回込信号をキャンセルするキャンセル部と、
前記キャンセル部から出力されたキャンセル済受信信号及び前記第1遅延信号を基に、前記キャンセル済受信信号に残存する前記回込信号の位相誤差成分を示す位相誤差検出信号を生成する位相誤差検出部と、
前記キャンセル済受信信号及び第2遅延信号を基に、前記キャンセル済受信信号に残存する前記回込信号の振幅誤差成分を示す振幅誤差検出信号を生成する振幅誤差検出部とを備え、
前記キャンセル信号生成部は、前記位相誤差検出信号及び前記振幅誤差検出信号が0となるように前記キャンセル信号を生成するキャンセラー。
【請求項2】
前記キャンセル信号生成部は、
前記振幅誤差検出信号が0となるように前記送信信号の振幅を調節する利得制御器と、
前記位相誤差検出信号が0となるように前記利得制御器から出力された信号の位相を調節する可変移相器とを備える請求項1記載のキャンセラー。
【請求項3】
前記キャンセル信号生成部は、
前記キャンセル信号の位相をπ/2遅らせて前記第1遅延信号を生成する第1遅延器と、
前記第1遅延信号の位相を更にπ/2遅らせて前記第2遅延信号を生成する第2遅延器とを備える請求項1又は2記載のキャンセラー。
【請求項4】
前記キャンセル信号生成部は、
前記可変移相器から出力された信号の位相をπ/2遅らせることで前記キャンセル信号を生成し、かつ、前記可変移相器から出力された信号の位相をπ遅らせることで前記第1遅延信号を生成する90°ハイブリッドカプラと、
前記90°ハイブリッドカプラから出力された前記第1遅延信号の位相を更にπ/2遅らせることで前記第2遅延信号を生成する遅延部とを備える請求項2記載のキャンセラー。
【請求項5】
前記キャンセル信号生成部は、
前記可変移相器から出力された信号の位相をφ1遅らせて前記第1遅延信号を生成する第1位相調整器と、
前記可変移相器から出力された信号の位相をφ2遅らせて前記第2遅延信号を生成する第2位相調整器とを備え、
前記可変移相器から前記キャンセル部までの配線による位相遅れをθ0、前記キャンセル部から前記位相誤差検出部までの配線による位相遅れをθ1、前記キャンセル部から前記振幅誤差検出部までの配線による位相遅れをθ2とすると、φ1=π/2+θ1+θ0に設定され、φ2=π+θ2+θ0に設定されている請求項2記載のキャンセラー。
【請求項6】
送信アンテナと、
前記送信アンテナに送信信号を供給する送信部と、
受信アンテナと、
請求項1〜5のいずれかに記載のキャンセラーと、
前記キャンセラーにより受信信号から前記回込信号が除去された信号を受信する受信部とを備える通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−250072(P2011−250072A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120350(P2010−120350)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000100746)アイコム株式会社 (273)
【Fターム(参考)】