説明

グリッパ

【課題】ワークの把持を迅速に行うことを可能にしたグリッパを提供する。
【解決手段】一端に受圧面11aを有する固定部材11と、受圧面11aに密着して取り付けられ、内部に粒体12bを充填させた可撓性かつ気密性の中空バッグ12aを有する把持部12と、把持部12内の圧力を所定負圧に減圧し、かつ大気圧に戻すことができる減圧装置9と、把持部12と減圧装置9を、固定部材11の内部を経由して接続するチューブ13とを有し、把持部12は、把持部12と固定部材11との間に位置し、粒体12bがチューブ13に入り込むことを防ぐためのフィルタ15を有し、フィルタ15は、減圧装置9による把持部12内の減圧時又は加圧時において空気を透過可能であって、かつ、把持部12内部に突き出している形状であり、形状の空気透過部分の面積は、チューブ13の断面積よりも大きい面積を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送ロボットのグリッパに関する。
【0002】
搬送ロボットは、取出位置にあるワークを別の位置まで搬送する産業用ロボットであり、ワークを把持するためのロボットハンドを有する。この場合、ワークの形状が不定である場合、既存の爪では対応ができない場合が存在した。
【0003】
そこで、ワークの形状によらずにワークを把持して移動するロボットハンドについて、例えば特許文献1〜2が既に提案されている。
【0004】
特許文献1は、凹凸を有する不規則形状な部品にも適用できる吸着式ロボットハンドを提供することを目的とする。
そのために、ロボットハンドに接続された複数の吸盤を用いてワーク上部から支える形で把持させてワークが移動可能な構成を有するものである。
【0005】
一方で特許文献2は、使用時の形状が、任意の所望の形状に成形固定できる形状自在のエアバッグを提供することを目的とする。
そのためには、気密袋体内に発泡スチロール粒を充填すると共に、上記袋体内を減圧しつつ発泡スチロール粒を互いに係合及び固化させるものである。
【0006】
また、非特許文献1では気密袋内に各種の粒体を充填し、この袋体を減圧することで粒体を固化させ、各種ワークを把持する例について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−283884号公報「吸着式ロボットハンド」
【特許文献2】特開平2−177909号公報「形状自在エアバッグ」
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(米科学アカデミー紀要電子版)論文“Universal Robotic Gripper based on the Jamming of Granular Material”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献2や非特許文献1に記載されているような内部に粒体(発泡スチロール等)を充填した形状自在エアバッグを、ロボットハンドにおける把持部分に使用した場合、把持対象のワークに押し付けながらエアバッグ内を減圧させることによって、エアバックを固形化させてワークの把持を行うことが可能になる。
【0010】
この場合において、エアバッグ内を減圧させるための減圧装置をエアバッグ外部に設ける必要があるが、かかる装置によって減圧を行う際に、エアバッグ内部に充填されている粒体が減圧装置方向に流れ出てしまう可能性がある。
【0011】
そのため、エアバッグと減圧装置の間にフィルタを設けて、上記のような粒体の流出を避ける必要がある。
【0012】
しかし、エアバッグと減圧装置の間に設けられたチューブ内等、透過面積を十分に確保できない位置に上記フィルタを設けた場合、目詰まりを起こすことによる圧力損失が発生するという問題点があった。
かかる問題点によって、減圧装置によるエアバッグ内の減圧に時間を要し、ロボットハンドによる迅速な把持が行えないことがあった。
【0013】
そこで、本発明の目的は、ワークの把持を迅速に行うことを可能にしたグリッパを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するため、本発明によると、一端に受圧面を有する固定部材と、
前記受圧面に密着して取り付けられ、内部に粒体を充填させた可撓性かつ気密性の中空バッグを有する把持部と、
前記把持部内の圧力を所定負圧に減圧し、かつ大気圧に戻すことができる減圧装置と、
前記把持部と前記減圧装置を、前記固定部材の内部を経由して接続するチューブとを有し、
前記把持部は、該把持部と前記固定部材との間に位置し、前記粒体が前記チューブに入り込むことを防ぐためのフィルタを有し、
前記フィルタは、前記減圧装置による前記把持部内の減圧時又は加圧時において空気を透過可能であって、かつ、前記把持部内部に突き出している形状であり、
前記形状の空気透過部分の面積は、前記チューブの断面積よりも大きい面積を有している、ことを特徴とするグリッパが提供される。
【0015】
また、本発明によると、前記フィルタは、半球形、円筒形、円錐台形、円筒形と円錐台形の結合、又は半球形と円錐台形の結合のいずれかである。
【0016】
また、本発明によると、前記フィルタは、減圧時においても、前記把持部内部に突き出した形状が保たれる。
【0017】
また、本発明によると、前記フィルタは、多孔質体、不織布又は織布等によって製造されている。
例えば、多孔質体としてはアルミナ、コージライトなどのセラミックス、または不織布としてはセラミックス系、樹脂系、または金属系の繊維からなるもの等がある。織布としては、縦糸と横糸の交差部を樹脂で固めたナイロンメッシュ、または突き出した形状に模った型フレームにメッシュを張ったナイロンメッシュ等がある。
さらに、前記フィルタのメッシュのピッチは、前記粒体の粒径の整数分の1に一致しないようになっている。
【発明の効果】
【0018】
上述した本発明によると、把持部内に突き出した形状であって、チューブの断面積よりも大きい面積を有しているフィルタを用いることによって、粒体によるフィルタの目詰まりを防止し、ワークの把持を迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のグリッパを備えたロボットの構成図である。
【図2】本発明のグリッパの構成図である。
【図3】本発明のグリッパの断面図である。
【図4】本発明のグリッパ内に充填する粒体の構成図である。
【図5】本発明の中空形状の粒体を充填した場合の中空バッグにおける減縮時の模式図である。
【図6】本発明のグリッパにおいて粒体がフィルタに対して目詰まりした場合における拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を実施するための最良の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0021】
図1は、本発明のグリッパを備えたロボットの構成図である。
この図において、1はロボット、2a〜2cはロボットアーム、3はロボットの手先部、4はロボット支持台、5はグリッパ、6はワーク、7はワーク用容器、8a〜8cは関節、9は減圧装置、10は接続部、11は固定部材、12は把持部である。
【0022】
ロボット1は、この例ではロボット支持台4の上面に固定された垂直多関節ロボットであるが、本発明はこれに限定されず、その他のロボット(スカラロボットや直交ロボット)であってもよい。
【0023】
グリッパ5は、ロボットの手先部3に搭載され、ロボットアーム2a〜2c及び関節8a〜8cを有するロボット1により、所定の作動範囲で3次元的に移動され、かつ自由な姿勢をとることができるようになっている。
【0024】
ワーク6は、形状が不定である。この例では、把持対象であるワーク6はワーク用容器7の中に格納されているが、ワーク6が直接的にテーブル等に置かれているものを把持する形であってもよい。
【0025】
関節8a〜8cは、ロボットアーム2a〜2c及びロボットの手先部3を連結しており、それぞれ回転軸C1〜C3(図2の紙面と垂直な軸)、C4(ロボットアーム2aの長手方向に延びる軸)周りに回転が可能である。
【0026】
減圧装置9は、後述する把持部12と後述するチューブ13によって接続されており、把持部12内の圧力を減圧することでワーク6の把持を行い、また把持部12内の圧力を大気圧まで戻すことによってワーク6の把持を解消する。
接続部10は、グリッパ5とロボットの手先部3を接続するものである。
この例では、減圧装置9は接続部10内に設置されているが、これらの機能を損なわなければ他の場所でもよい。
【0027】
図2は本発明によるグリッパの構成図である。
また、図3は本発明によるグリッパの断面図である。
この図において、11は固定部材、11aは受圧面、12は把持部、12aは中空バッグ、12bは粒体、13はチューブ、14はチューブ接続部、15はフィルタ、16は突き出し空間である。
【0028】
固定部材11は、把持部12と密接に接続されている。
この例では円形状になっており、チューブ13を通すために空洞になっている部分を有する。
【0029】
把持部12は、中空バッグ12a及び粒体12bからなり、チューブ13を介して減圧装置9による加圧、減圧を受ける。
【0030】
粒体12bは、グリッパをワークの形状に倣わせる際に、流動しやすくするため、図4(A)のように球状であることが好ましい。
そして、粒体12bは減圧したときに中空バッグ12aの内部で固形化させる必要があるため、例えば発泡スチロールやガラスビーズ、炒った豆や乾燥した木片等を砕いたもの等のような表面摩擦の大きい物質であることが好ましい。
また、表面摩擦を大きくするためには、粒体12bは表面に起伏のある形状や多角面体の形状であってもよい。各粒体12bの寸法は発泡スチロールであれば500μm程度、ガラスビーズであれば100μm程度の大きさであることが好ましい。炒った豆や乾燥した木片等を砕いたものであれば、その大きさが100〜500μmの間に収まることが好ましい。
【0031】
粒体12bは、図4(B)〜図4(D)のように粒状物質として中空樹脂ビーズを用いてもよい。
この例において、図4(B)は、内部において円柱形状の空洞を有する粒体12bであり、図4(C)は、球形状の空洞を有する粒体12bになっている。また、図4(D)は、円柱形状の粒体12bにおいて、内径を空洞にしたものになっている。
【0032】
内部に空洞を有する粒体12bを用いることによって、粒体12b自体も変形することが可能になるため、図5のように中空バッグ12aの減圧時において変形量を多くすることが可能になる。(図5(A)が減縮前、図5(B)が減縮後の例についての図である。)
これによって、ワークに対する把持部12の把持力を大きくすることができるという有利な効果を有する。
また、内部に空洞を有する粒体12bを用いることによって、把持部12全体を軽量化させることも可能になるという効果がある。
【0033】
また、かかる粒体12bに中空樹脂ビーズを使用することによって、ある程度の弾性力を維持することができる。そのため、減圧時に粒体12b同士が押し付け合っても、これによる力によって必要以上に形状を変化させることがなく、かつ、長期間に渡ってその機能を維持することが可能になる。
さらに、粒体12bに使用する材質だけでなく、粒体12bの全体の剛性を調整することによって、粒体12bの変形量を調整することができるため、例えば、ワークが果物等の強く握った場合に痛めてしまう可能性があるものであっても、ワークに合わせた調整を行うことができるという効果を有している。
【0034】
なお、この例において、粒体12bは中空形状であるが、減圧時に形態を変形することができるものであれば、単純な中空形状に限らず複数の隙間を有する発泡体等からなるものであってもよい。
【0035】
中空バッグ12aは、いかなる形状のワーク6を把持する際にも、ワーク6の表面形状に沿って形状を変化させることが可能であって、また気体の通気を許さない気密性を有する素材である必要がある。また、摩擦によってもワーク6を把持することが可能である素材である必要がある。例えば、天然ゴムやラテックスゴム等が望ましい。
【0036】
本実施例における減圧は、減圧装置9によって、チューブ13を介して把持部12における中空バッグ12a内で行われる。
【0037】
フィルタ15は、図3(A)に示すように、把持部内部に突き出している構成になっている。
かかる形状は、半球形、円筒形、円錐台形、円筒形と円錐台形の結合、又は半球形と円錐台形の結合等からなる。
【0038】
図3(B)に示すように、フィルタ15がチューブ13内に設けられた場合には、フィルタ15の大きさは、チューブ13の断面積に相当する大きさになり、空気の透過可能な面積を十分に確保できない。
その結果、減圧時に中空バッグ12a内に充填された粒体12bによって目詰まりを起こし、圧力損失が発生することによって減圧に時間を要するという事象が発生する可能性がある。
【0039】
これに対し、図3(A)に示す本発明における構成では、フィルタ15は、把持部12内部に突き出している形状を有しているため、空気の透過面積を十分に確保することが可能になり、粒体12bによる目詰まりが発生する可能性を低減させることができる。
なお、フィルタ15の形状は多角錐形でもよいが、かかる場合には、粒状物質の動きを阻害しない場合に限られる。
【0040】
フィルタ15は、減圧時に粒体12bからの押し付けられるため、かかる場合にも変形しない程度の剛性が必要である。そのため、フィルタ15を多孔質体、不織布又は職布によるものもしくは、これらを含むものにすることが望ましい。
例えば、多孔質体としてはアルミナ、コージライトなどのセラミックスからなるもの、または不織布としてはセラミックス系、樹脂系、または金属系の繊維からなるもの等がある。織布としては、縦糸と横糸の交差部を樹脂で固めたナイロンメッシュ、または突き出した形状に模った型フレームにメッシュを張ったナイロンメッシュ等がある。
【0041】
フィルタ15の直径は固定部材11の断面積に対して1/3以下にし、突き出し空間16の体積は、中空バッグ12a全体に対して10%程度になるように設計することが好ましい。
かかる設計にすることによって、突き出し空間16を設けても、把持部12の把持能力を減少させることなく維持することができる。
【0042】
図6は、本発明のグリッパにおいて粒体がフィルタに対して目詰まりした場合における拡大図である。
図6(A)のように、粒体12bの粒径dとフィルタ15のメッシュのピッチpが同じ長さである場合、粒体12b同士の中心間の距離とピッチの長さが同じ長さになるために、フィルタ15に接している粒体12bがフィルタ15のメッシュの一部を塞いでしまう可能性がある。
同様に、図6(B)のように、フィルタ15のメッシュのピッチpが粒体12bの粒径dと比較して2倍の長さである場合、この図における両端の粒体12bの中心を結んだ距離がピッチの長さと比較して2倍の長さになるために、フィルタ15に接している粒体12bの一部(この図においては両端の粒体12b)がフィルタ15のメッシュの一部を塞いでしまう可能性がある。
よって、フィルタ15のメッシュのピッチは、目詰まりを起こりにくくするために、粒体12bの粒径の整数分の1に一致しないように設計することが好ましい。
【0043】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0044】
1 ロボット、2a〜2c ロボットアーム、3 ロボットの手先部、
4 ロボット支持台、5 グリッパ、6 ワーク、7 ワーク用容器、
8a〜8c 関節、9 減圧装置、10 接続部、11 固定部材、
11a 受圧面、12 把持部、12a 中空バッグ、12b 粒体、
13 チューブ、14 チューブ接続部、15 フィルタ、
16 突き出し空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に受圧面を有する固定部材と、
前記受圧面に密着して取り付けられ、内部に粒体を充填させた可撓性かつ気密性の中空バッグを有する把持部と、
前記把持部内の圧力を所定負圧に減圧し、かつ大気圧に戻すことができる減圧装置と、
前記把持部と前記減圧装置を、前記固定部材の内部を経由して接続するチューブとを有し、
前記把持部は、該把持部と前記固定部材との間に位置し、前記粒体が前記チューブに入り込むことを防ぐためのフィルタを有し、
前記フィルタは、前記減圧装置による前記把持部内の減圧時又は加圧時において空気を透過可能であって、かつ、前記把持部内部に突き出している形状であり、
前記形状の空気透過部分の面積は、前記チューブの断面積よりも大きい面積を有している、ことを特徴とするグリッパ。
【請求項2】
前記フィルタは、半球形、円筒形、円錐台形、円筒形と円錐台形の結合、又は半球形と円錐台形の結合のいずれかである、ことを特徴とする請求項1に記載のグリッパ。
【請求項3】
前記フィルタは、減圧時においても、前記把持部内部に突き出した形状が保たれる、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のグリッパ。
【請求項4】
前記フィルタは、多孔質体、不織布または織布によって製造されている、ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のグリッパ。
【請求項5】
前記フィルタのメッシュのピッチは、前記粒体の粒径の整数分の1に一致しないようになっている、ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のグリッパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−218108(P2012−218108A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86343(P2011−86343)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】