説明

グリース組成物の製造方法及び該方法により製造されるグリース組成物

【課題】増稠剤配合非フッ素系基油および増稠剤配合フッ素系基油を均質に且つ確実に分散することができるグリース組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】互いに相溶性のない増稠剤配合非フッ素系基油および増稠剤配合フッ素系基油の混合物をせん断速度150s−1以上で均一処理し、一方の基油が平均粒径25μm以下の粒子状で他方の基油中に均質に分散したモルホロジー構造を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物の製造方法及び該方法により製造されるグリース組成物に関し、特に、互いに相溶性のない2種類の増稠剤配合基油を均質に分散するグリース組成物の製造方法及び該方法により製造されるグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のフッ素系グリースは、パープルオロポリエーテルを基油として、テトラフルオロエチレン(TFE)の単独重合体(PTFE)またはTFEとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(FEP)、パーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体(PFA)、エチレンとの共重合体(ETFE)等を増稠剤として、これらに防錆剤等の各種添加剤を少量配合して構成されており、低温性、高温耐久性、酸化安定性、耐薬品性などが求められる過酷な条件下で使用されている。
【0003】
しかしながら、基油及び増稠剤が共に含フッ素重合体であるため、高価なだけではなく、被潤滑材料である樹脂、金属、ゴム等とのなじみが悪く、高荷重のような条件下では潤滑に必要な油膜が形成されず、摩耗が発生したり、摩擦係数が高くてトルクの伝達効率が悪く、また防錆性、耐腐食性に劣るなどの問題がみられる。
【0004】
こうした問題点を解決するために、フッ素系グリースに非フッ素系グリースを混合して用いることが提案されており、例えば、特許文献1には、水素添加した鉱油及び/または合成潤滑油、フルオロポリエーテル油及び有機または無機増粘剤を含んでなるグリースであって、潤滑油+フルオロポリエーテル抽:増粘剤重量比が97:3〜80:20であり、潤滑油:フルオロポリエーテル油重量比が95:5〜60:40であるグリースが記載されている。
【0005】
かかる基油混合物を用いたグリースを調製するための混合には、Manto Galvin型ホモジナイザーまたは3本シリンダーホモジナイザー(3本シリンダーは、3分割型シリンダーブロック型ホモジナイザーと考えられる)等のホモジナイザーを用い、ホモジナイザー処理の回数は、良好な均質性を得るために、通常の非フッ素系グリースに行う処理回数の2〜3倍にするのが好ましいとされている。しかるに、ホモジナイザーによる混合処理ではその処理回数を増やしても、均質なグリース混合物を得ることは困難である。
【0006】
また、本出願人の出願に係る特許文献2〜3には、非フッ素系グリース及びフッ素系グリースよりなる潤滑グリース組成物の製造に際して、3本ロールもしくは高圧ホモジナイザーで十分に混練する方法が記載されてはいるものの、均質なグリース混合物を得ることについての言及はみられない。
【0007】
グリース混合物はフッ素系グリース単体よりも廉価であるばかりではなく、相手材に対する耐摩耗性の点でも優れてはいるが、互いに相溶性のない基油同士を均質分散させる指標がなく、分散度合いによってはそれぞれのグリースの基油が離油してしまう場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−268370号公報
【特許文献2】特開2003−96480号公報
【特許文献3】特開2006−182923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、増稠剤配合非フッ素系基油および増稠剤配合フッ素系基油を均質に且つ確実に分散することができるグリース組成物の製造方法及び該方法により製造されるグリース組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1記載のグリース組成物の製造方法は、互いに相溶性のない増稠剤配合非フッ素系基油および増稠剤配合フッ素系基油の混合物をせん断速度150s−1以上で均一処理し、一方の基油が平均粒径25μm以下の粒子状で他方の基油中に均質に分散したモルホロジー構造を形成させることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載のグリース組成物の製造方法は、請求項1記載のグリース組成物の製造方法において、増稠剤配合非フッ素系基油5〜95容積%および増稠剤配合フッ素系基油95〜5容積%の混合物から成り、全増稠剤が組成物中10〜50容積%の割合で配合された混合物について前記均一処理を行うことを特徴とする。
【0012】
請求項3記載のグリース組成物の製造方法は、請求項1記載のグリース組成物の製造方法において、前記混合物をせん断速度1500s−1以上で均一処理し、一方の基油が平均粒径10μm以下の粒子状で他方の基油中に均質に分散したモルホロジー構造を形成させることを特徴とする。
【0013】
請求項4記載のグリース組成物の製造方法は、請求項1記載のグリース組成物の製造方法において、前記混合物をせん断速度25000s−1以上で均一処理し、一方の基油が平均粒径5μm以下の粒子状で他方の基油中に均質に分散したモルホロジー構造を形成させることを特徴とする。
【0014】
請求項5記載のグリース組成物は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたグリース組成物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載のグリース組成物の製造方法によれば、互いに相溶性のない増稠剤配合非フッ素系基油および増稠剤配合フッ素系基油の混合物をせん断速度150s−1以上で均一処理し、一方の基油が平均粒径25μm以下の粒子状で他方の基油中に均質に分散したモルホロジー構造を形成させる。これにより、(1)高温での油分離(離油度)が少ない、(2)摩擦係数が少なく安定している、といった効果を得ることができる。その結果、
(a)高温で長時間使用した場合でも基油の減少がみられない
(b)摩擦係数が低く安定しているため、機器の信頼性が向上する
(c)摩耗が少ないため、機器の長寿命化が達成される
といった実使用上での効果を確実に奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態に係るグリース組成物の実施例及び比較例を示す図であり、(a)は測定結果を示す図であり、(b)はグリース組成物の安定性を評価する方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、互いに相溶性のない増稠剤配合非フッ素系基油および増稠剤配合フッ素系基油の混合物をせん断速度150s−1以上で均一処理すると、一方の基油が平均粒径25μm以下の粒子状で他方の基油中に均質に分散したモルホロジー構造を形成させることができ、もって高温での油分離(離油度)が少なく且つ摩擦係数が少なく安定したグリース組成物を製造できることを見出した。また、上記混合物のせん断速度を、150s−1以上、好ましくは1500s−1以上、より好ましくは25000s−1以上で均一処理すると、分散粒子径の平均粒径が、夫々、20μm以下、10μm以下、及び5μm以下となり、グリースの離油度がより減少し、且つグリースをより安定化させることができることを見出した。
【0018】
本発明は、上記研究結果に基づいてなされたものである。
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
本実施の形態に係るグリース組成物は、互いに相溶性のない増稠剤配合非フッ素系基油および増稠剤配合フッ素系基油の混合物から成り、一方の基油が平均粒径25μm以下の粒子状で他方の基油中に均質に分散したモルホロジー構造が形成されている。また、グリース組成物は、好ましくは、増稠剤配合非フッ素系基油5〜95容積%および増稠剤配合フッ素系基油95〜5容積%の混合物から成る。
【0021】
増稠剤配合非フッ素系基油と増稠剤配合フッ素系基油との間で、互いに相溶性がないということは、これら両者を単純に混合したときに均質なグリース組成物を形成し得ないことを意味する。
【0022】
増稠剤配合非フッ素系基油は、非フッ素系基油にこの種の基油に配合される増稠剤を配合し、ベースグリースとして構成される。
【0023】
非フッ素系基油としては、例えばポリ−α−オレフィン、エチレン−α−オレフィンオリゴマー、ポリプテンまたはこれらの水素化物、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の合成炭化水素油、ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、アルキル置換ジフェニルエーテル等のエーテル系合成油、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステル、ネオペンチルグリコールエステル、トリメチロールプロパンエステル、ペンタエリスリトールエステル、ジペンタエリスリトールエステル等のエステル系合成油、ポリオールエステル、芳香族多価カルボン酸エステル、脂肪族二塩基酸エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル、炭酸エステル等の合成油、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油またはこれらを精製した鉱油等の少なくとも一種が用いられる。これらの基油は、40℃における動粘度(ASTM D445−86に対応するJIS K2283準拠)が約2〜1000mm/秒、好ましくは約10〜500mm/秒のものが一般に用いられる。
【0024】
これらの非フッ素系基油に配合される増稠剤としては、例えばリチウム石けん、ナトリウム石けん、カリウム石けん、カルシウム石けん、アルミニウム石けん、バリウム石けんの金属石けんまたは金属複合石けん、脂肪族、脂環状または芳香族のジウレア、トリウレア、テトラウレア、ポリウレア等の尿素系化合物、ベントナイト、シリカ等の無機系増稠剤が挙げられ、これらの増稠剤の少なくとも一種がベースグリース中約5〜50容積%、好ましくは約7〜40容積%を占めるような割合で用いられる。
【0025】
増稠剤配合フッ素系基油は、フッ素系基油にこの種の基油に配合される増稠剤を配合し、ベースグリースとして構成される。
【0026】
フッ素系基油としては、40℃における動粘度(JIS K2283準拠)が約10〜1500mm/秒、好ましくは約20〜500mm/秒のものが一般に用いられ、より具体的には一般式として、
RfO(CFO)(CO)(CO)Rf
で表わされるものが用いられる。具体的には、例えば下記一般式(1)〜(4)で表わされるようなものが用いられ、この他、一般式(5)で表わされるようなものも用いられる。なお、Rfはパープルオロメチル基、パープルオロエチル基、パープルオロプロピル基等の炭素数1〜5、好ましくは1〜3のパーフルオロ低級アルキル基である。
【0027】
(1)RfO(CFCFO)(CFO)Rf
ここで、m+n=3〜200、m:n=10〜90:90〜10であり、またCFCFO基およびCFO基は主鎖中にランダムに結合しているものであり、テトラフルオロエチレンの光酸化重合で生成した先駆体を完全にフッ素化することによって得られる。
【0028】
(2)RfO[(CF(CF)CFO)](CFO)Rf
ここで、m+n=3〜200、m:n=10〜90:90〜10であり、またCF(CF)CFO基およびCFO基は主鎖中にランダムに結合しているものであり、ヘキサフルオロプロピレンの光酸化重合で生成した先駆体を完全にフッ素化することによって得られる。
【0029】
(3)RfO[(CF(CF)CFO)](CFCFO)(CFO)Rf
ここで、p+q+r=3〜200でq及びrは0であり得、またCF(CF)CFO基、CFCFO基、およびCFO基は主鎖中にランダムに結合しているものであり、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンの光酸化重合で生成した先駆体を完全にフッ素化することによって得られる。
【0030】
(4)RfO[(CF(CF)CFO)](CFCFO)Rf
ここで、s+t=2〜200でtは0であり得、t/s=0〜2であり、またCF(CF)CFO基およびCFO基は主鎖中にランダムに結合しているものであり、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンの光酸化重合で生成した先駆体を完全にフッ素化することにより、あるいはフッ化セシウム触媒の存在下にヘキサフルオロプロピレンオキサイドまたはテトラフルオロエチレンオキサイドをアニオン重合させ、得られた末端−CF(CF)COF基を有する酸フロライド化合物をフッ素ガスで処理することによって得られる。
【0031】
(5)F(CFCFCFO)2〜100
これは、フッ化セシウム触媒の存在下に2,2,3,3テトラフルオロオキセタンをアニオン重合させ、得られた含フッ素ポリエーテル(CHCFCFO)を紫外線照射下に約160〜300℃でフッ素ガスで処理することによって得られる。
【0032】
これらのフッ素系基油に配合される増稠剤としては、一般にフッ素樹脂が用いられ、好適にはポリテトラフルオロコにチレン(PTFE)樹脂粉末、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロペン共重合体押(FEP)粉末、パープルオロアルキレン樹脂粉末等が、ベースグリース中約5〜50容積%、好ましくは約10〜40容積%を占めるような割合で用いられる。
【0033】
ポリテトラフルオロエチレンは、テトラフルオロエチレンの乳化重合、けん濁重合、溶液重合などの方法によってポリテトラフルオロエチレンを製造し、それを熱分解、電子線照射分解、物理的粉砕などの方法によって処理して数平均分子量Mnを約1000〜1000000程度としたものが用いられる。また、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロペンとの共重合反応および低分子量化処理も、ポリテトラフルオロエチレンの場合と同様にして行われ、数平均分子量を約1000〜6000000程度としたものが用いられる。なお、分子量の制御は、共重合反応時に連鎖移動剤を用いても行うことができる。
【0034】
グリースを形成させるために非フッ素系基油およびフッ素系基油にそれぞれ配合される増稠剤は、分散相となる粒子状基油平均粒径(光学顕微鏡観察によって測定された値の平均値)が好ましくは25μm以下と規定され、また後記モルホロジー構造を構築させるためにも、その平均粒径が25μm未満、好ましくは0.1〜20μmのものが用いられる。分散相となる一方の増稠剤配合基油の平均粒径が25μmを超えると、通常のグリース組成物の保存状態では該基油粒子が破損してしまい、基油粒子間の均質分散状態が保たれず、非フッ素系グリースの耐熱性の改善およびフッ素系グリースの潤滑性の改善のいずれをも達成することができない。また、せん断を受けると軟化してグリース状を保つことができない。さらにグリースが接触面に供給されず、摩擦係数および摩耗も大きくなる。
【0035】
また、全増稠率は、組成物中10〜50容積%を占めるような割合で配合される。全増稠剤率は、それが10容積%未満では、モルホロジー構造の有無に拘わらずグリースが軟くなり、機器からの漏れが生ずるなど、実用上使用することができなくなる。一方、全増稠剤率が50容積%を超えると、グリースは硬くなりすぎ、例えば転がり軸受等では回転しなくなり、使用することができなくなる。また、非フッ素系基油およびフッ素系基油それぞれに適した増稠剤の配合が必要であり、どちらか一方の増稠剤を配合した場合には均質に分散せず、時間の経過と共にどちらかの基油が離油したり、グリースにせん断を与えると急激に軟化し、グリース状を保持できなくなる。なお、増稠剤配合非フッ素系基油が5容積%未満では、耐摩耗性が悪化するようになる。
【0036】
組成物中にはさらに、酸化防止剤、防錆剤、腐食防止剤、極圧剤、油性剤、固体潤滑剤などの従来潤滑剤に使用されている添加剤を必要に応じて配合することができる。酸化防止剤としては、例えば2,6−ジ第3ブチル−4−メチルフェノール、4,4′−メチレンビス(2,6−ジ第3ブチルフェノール)等のフェノール系の酸化防止剤、C〜C20のアルキル基を有するアルキルジフェニルアミン、トリフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン、フェノチアジン、アルキル化フェノチアジン等のアミン系の酸化防止剤、さらにはリン酸系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが挙げられる。
【0037】
防錆剤としては、例えば脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミン、アルキルスルホン酸金属塩、アルキルスルホン酸アミン塩、酸化パラフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられ、また腐食防止剤としては、例えばペンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、チアジアゾール等が挙げられる。
【0038】
極圧剤としては、例えばリン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等のリン系化合物、スルフィド類、ジスルフィド類等のイオウ系化合物、ジアルキルジチオリン酸金属塩、ジアルキルジチオカルバミン酸金属塩等のイオウ系化合物金属塩、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニル等の塩素系化合物などが挙げられる。
【0039】
油性剤としては、例えば脂肪酸またはそのエステル、高級アルコール、多価アルコールまたはそのエステル、脂肪族エステル、脂肪族アミン、脂肪酸モノグリセライド、モンタンワックス、アミド系ワックス等が挙げられる。また、他の固体潤滑剤としては、例えば二硫化モリブデン、グラファイト、窒化ホウ素、窒化シラン、メラミンシアヌレート等が挙げられる。これらの他の固体潤滑剤についても、その平均一次粒径は、25μm以下、好ましくは0.1〜20μmのものが用いられる。
【0040】
本発明に係るグリース組成物の製造方法としては、次のような方法が挙げられる。
(1)非フッ素系基油中に石けん系、尿素系等の増稠剤を配合し、3本ロールミルまたは高圧ホモジナイザーで混練して、好ましくは2回の3本ロールミル処理をして非フッ素系グリースを作る。また、フッ素系基油とフッ素樹脂とを混合釜中で混ぜ、その後3本ロールミルまたは高圧ホモジナイザーで混練して、好ましくは2回の3本ロールミル処理をしてフッ素系グリースを作る。これら2種類のグリースを混合釜中で混ぜ、3本ロールミルで2回以上混練してグリース組成物を調製する。その際、せん断速度は150s−1以上とし、必要な分散粒子径が得られる値に設定される。
(2)上記の如くにして作った非フッ素系グリースに、フッ素系基油およびフッ素樹脂を加え混合釜中で混ぜた後、例えばロール締め圧10kgf/cm=0.98MPaの3本ロールミルで2回以上混練してグリース組成物を調製する。その際のせん断速度は150s−1以上とし、必要な分散粒子径が得られる値に設定される。
【0041】
混練に用いられる3本ロールミルとしては、一般に油圧式のものが用いられる。また、酸化防止剤その他の各種添加剤は、増稠剤配合非フッ素系基抽および増稠剤配合フッ素系基油の少なくとも一方を製造する段階もしくはこれらを混合釜中で混ぜる段階で添加が行われる。
【0042】
このようにして調製されたグリース組成物は、互いに相溶性のない増稠剤配合非フッ素系基抽および増稠剤配合フッ素系基油の混合物からなり、一方の増稠剤配合基油が他方の増稠剤配合基油中にモルホロジー構造を形成して粒子状で均質に分散している。
【0043】
ここで、モルホロジー構造とは、広い意味では非晶性高分子におけるポリマーブレンドやプロッタ共重合体等のポリマーアロイ中の分子の凝集状態なども対象に含まれるが、本発明においては、海島構造状態で一方の増稠剤配合基油が分散相を形成し、他方の連続相を形成する増稠剤配合基油中に粒子状で均質に分散している構造を指している。
【0044】
分散相として粒子状に分散している一方の増稠剤配合基油は、その平均粒径が25μm以下、好ましくは10μm以下、特に好ましくは5μm以下の粒子状となった配合基油が、分散相全粒子中50%以上、好ましくは75%以上、特に好ましくは90%以上の体積率で分散されている。体積率は、顕微鏡の写真上から観察される粒子の全面積を計測し、観察面内における面積率を計算し、これを3/2乗して体積率に換算することにより算出される。
【0045】
このような分散相の増稠剤配合基油が粒子状となって連続相の増稠剤配合基油中に均質に分散される状態、すなわちモルホロジー構造を形成して分散されている状態は、均一処理において加えるせん断速度の大きさによって変化する。例えば、後述する実施例で示すように、せん断速度が150s−1では分散粒子径の平均粒径は20μm以下となり、1500s−1では10μm以下、25000s−1以下では5μm以下となる。分散粒子径が小さくなるとグリースの離油度が減少し、グリースはより安定化するようになる。離油度はその実用性から0.1〜1.1重量%が望ましいため、せん断速度は150−1以上とし、平均粒径は25μm以下が望ましい。一方、せん断速度が高すぎてもグリース処理量が少なくなり、生産効率が低下するのみで平均粒径の減少は2μm付近で頭打ちとなるため、せん断速度は約60000s−1が上限となる。
【0046】
ここで、グリース組成物による潤滑作用はグリース組成物から浸み出すオイルによって生じ、離油度は、グリースが適用される機器(実機)におけるオイルの浸み出し量を評価するものである。離油度の値が大きい場合、オイルが必要以上に浸み出して機器(実機)寿命が短くなり、離油度の値が小さい場合は潤滑性が悪化する。
【0047】
一方、本実施の形態では、グリース組成物の保存安定性を評価するにじみ試験を行う。にじみ試験とは、グリース組成物をすりガラスに略円筒状に塗布し、所定時間経過後、円筒状のグリース組成物からにじみ出たオイルの外径に基づいてグリース組成物を評価するものである。オイルの外径が大きい場合、本来のオイル含量が減少し、保管後の機器寿命が短くなり、加えて、にじみ出たオイルが封入箇所の周囲を汚染したり、機器の外観を損ねることとなるからである。具体的には、グリース組成物からにじみ出たオイルの外径が小さい程、グリース組成物の保存安定性が良好であると判断される。
【0048】
上述したように、本実施の形態によれば、互いに相溶性のない非フッ素系グリースとフッ素系グリースとをせん断速度150s−1以上で均一処理し、一方の基油が平均粒径25μm以下の粒子状で他方の基油中に均質に分散したモルホロジー構造を形成させることにより、ミクロ的な部分までも確実に均質化され、加熱した場合の離油が非常に少なく、グリースがより安定化し、耐熱性に優れたものとなる。よって、グリースの長寿命化が実現でき、相手材に対する耐摩耗性に優れ、摩擦係数が低く且つ安定していることから、このグリースを使用する機器の省ネルギー化、高精度化を確実に実現することができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0050】
(実施例1〜5)
グリースA(非フッ素系グリース):2重量%のアミン系酸化防止剤を配合したトリメリット酸エステル油(40℃動粘度100mm/秒中に、増稠剤としてベースグリース中10容積%を占める脂肪族ジウレア化合物を添加し、3本ロールミルで2回混練して調製した。
【0051】
グリースB(フッ素系グリース):RfO[(CF(CF)CFO)]Rfで表わされる分子構造を有し、40℃動粘度230mm/秒の基油中に、増稠剤としてベースグリース中30容積%を占めるPTFE粉末(平均粒子径0.3μmを添加し、3本ロールミルで2回混練して調製した。
【0052】
上記非フッ素系グリース(グリースA)とフッ素系グリース(グリースB)とを所定の容積比で混合し、30℃の混合釜中で60分間十分に攪拌、混合した後、所定のせん断速度にて均一処理を行った。
【0053】
得られたグリース組成物について、次の各項目の評価または測定を行った。
【0054】
粒径:分散粒子の粒径を顕微鏡で観察し、撮影した写真上の粒子の直径を粒径とする
耐熱性(離油度):ASTM D6184−98に対応するJIS K2220.11に準拠し、180℃、24時間後の離油度(重量%)を測定(値が小さい程良い)
摩擦係数:平板上に直径5mm、高さ10mmの円柱を載せ、平板を温度、室温、回転速度1m/秒、荷重9.8N、材質SUS304、摺動形態 面接触の条件下で回転させて測定(値が小さい程良い)
摩擦特性(摩耗痕径):ASTM D2266に準拠し、シェル四球試験を温度75℃、回転数1200回/分、荷重392N、時間60分の条件下で回転させ、摩耗痕径を測定(値が小さい程良い)
保存安定性(にじみ試験):すりガラス上にグリース組成物を外径10mm、高さ3mmの円筒状に塗布し、80℃×24時間静置し、該円筒状のグリース組成物からにじみ出たオイルの広がり(にじみ出たオイルの外径を測定幅Aとする(図1(b)参照)を評価(測定幅Aの値が小さい程良い)
(比較例)
非フッ素系グリース(グリースA)とフッ素系グリース(グリースB)とを所定の容積比で混合し、30℃の混合釜中で60分間十分に攪拌、混合した後、せん断速度50s−1にて均一処理を行った。そして、得られたグリース組成物について、実施例と同様に、上記各項目の評価または測定を行った。
【0055】
以上の各実施例及び比較例で得られた結果を図1(a)に示す。
【0056】
図1(a)によれば、非フッ素系グリース(グリースA)とフッ素系グリース(グリースB)とをせん断速度150s−1以上で均一処理すると、一方の基油が平均粒径20μm以下の粒子状で他方の基油中に均質に分散したモルホロジー構造を形成させることが分かった。このとき、にじみ出たオイルの外径(測定幅A)は、グリース容積%(グリースA:グリースB)が75:25の場合に17.2mmとなり、良好な保存安定性を示すことが分かった。
【0057】
尚、上記実施例におけるにじみ試験では、グリース組成物からにじみ出たオイルの外径を用いてグリース組成物を評価しているが、これに限るものではない。すりガラスに塗布したときのグリース組成物の外径を初期値a、24時間静置後においてにじみ出たオイルの外径を測定幅Aとし、その比率α=A/aを用いてグリース組成物を評価してもよい。この場合、比率αが小さい程グリース組成物の保存安定性が良いと評価される。
【0058】
前記の如き特性を有する本発明のグリース組成物は、転がり軸受、すべり軸受、ギヤ、バルブ、コック、オイルシール、電気接点等の摺勤部個体間接触部の潤滑および保護を目的として、あるいは耐熱性はそれ程要求されないが、耐摩耗性やせん断安定性が要求される部分などに好適に用いられる。
【0059】
具体的には、次のような各種機器・機械・装置の各種部位に好適に適用される。
【0060】
・自動車では、電動ラジエータファンモータ、ファンカップリング、電制EGR、電子制御スロットルパルプ、オルターネータ、アイドラプーリ、電動ブレーキ、ハブユニット、ウォーターポンプ、パワーウィンドウ、ワイパ、電動パワーステアリング等の耐熱性、せん断安定性が要求される転がり軸受、すべり軸受またはギヤ部分自動変速機用コントロールスイッチ、レバーコントロールスイッチ、プッシュスイッチ等の耐熱性、せん断安定性、耐摩耗性が要求される電気接点部分
ビスカスカップリングのXリンダ部分、排気ブレーキのOリング等、耐熱性、せん断安定性が要求されるゴムシール部分
ヘッドライト、シート、ABS、ドアロック、ドアヒンジ、クラッチブースタ、2分割フライホイール、ウインドレギュレータ、ボールジョイント、クラッチブースタ等の転がり軸受、すべり軸受、ギヤ、摺動部等
・事務用機器では、複写機、レーザービームプリンタ等の定着ロール、定着ベルト等の耐熱性、耐摩耗性が要求される転がり軸受、すべり軸受、樹脂フイルムの摺動部またはギヤ部等
・樹脂製造装置では、フイルムテンタ一、フイルムラミネ一夕、バンバリーミキサの耐熱性、耐荷重性が要求される転がり軸受、すべり軸受、ピン、オイルシール、ギヤ等
・製紙装置ではコルゲートマシンで、耐熱性、耐摩耗性が要求される転がり軸受、すべり軸受、ピン、オイルシール、ギヤ等
・木材加工装置では、コンチプレス等での、耐熱性、耐摩耗性が要求される転がり軸受、すべり軸受、ピン、オイルシール、ギヤ等
・食品用機械では、パン焼器、オーブン等のリニアガイド、耐熱性、耐摩耗性が要求される転がり軸受等
・工作機械のスピンドル、サボモータ等での、低摩擦係数が要求される転がり軸受、すべり軸受等
・せん断安定性、耐摩耗性が要求される携帯電話のヒンジの摺動部等
・半導体製造装置、液晶製造装置、電子顕微鏡等の真空ポンプにおける転がり軸受、ギヤ、電子制御装置の遮断機の転がり軸受等
・家電・情報機器では、パソコンの冷却フアン、掃除機、洗濯機等の転がり軸受、すべり軸受、オイルシール等

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相溶性のない増稠剤配合非フッ素系基油および増稠剤配合フッ素系基油の混合物をせん断速度150s−1以上で均一処理し、一方の基油が平均粒径25μm以下の粒子状で他方の基油中に均質に分散したモルホロジー構造を形成させることを特徴とするグリース組成物の製造方法。
【請求項2】
増稠剤配合非フッ素系基油5〜95容積%および増稠剤配合フッ素系基油95〜5容積%の混合物から成り、全増稠剤が組成物中10〜50容積%の割合で配合された混合物について前記均一処理を行うことを特徴とする請求項1記載のグリース組成物の製造方法。
【請求項3】
前記混合物をせん断速度1500s−1以上で均一処理し、一方の基油が平均粒径10μm以下の粒子状で他方の基油中に均質に分散したモルホロジー構造を形成させることを特徴とする請求項1記載のグリース組成物の製造方法。
【請求項4】
前記混合物をせん断速度25000s−1以上で均一処理し、一方の基油が平均粒径5μm以下の粒子状で他方の基油中に均質に分散したモルホロジー構造を形成させることを特徴とする請求項1記載のグリース組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたグリース組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−174138(P2010−174138A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18437(P2009−18437)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000102670)NOKクリューバー株式会社 (36)
【Fターム(参考)】