説明

グロープラグ及びその製造方法

【課題】従来のFe−Cr−Al合金を発熱コイルに使用したグロープラグ同等の急速昇温性能を維持しつつ、低消費電力化を実現し、通電耐久性に優れたグロープラグを提供する。
【解決手段】
軸線方向に延びるとともに先端部が閉塞した筒状のシース管と、先端が前記シース管内に位置し、後端が前記シース管の後端側へ突出するリード部材と、抵抗発熱線からなり、前記シース管内に配設されるとともに、先端が前記シース管の先端と電気的に接続され、後端が前記リード部材と電気的に接続された発熱コイルと、を有するシースヒータを用いたグロープラグである。前記制御コイルは、[20℃における比抵抗/1000℃における比抵抗]にて示される温度抵抗係数が2以上4以下であり、前記発熱コイルは、ニッケル(Ni)を主成分とし、タングステン(W)を10〜37重量%含む合金からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンに使用されるグロープラグ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ディーゼルエンジンの始動補助等に使用されるグロープラグとして、先端部の閉じた金属製の筒状をなすシース管内に、鉄(Fe)−クロム(Cr)−アルミニウム(Al)合金等からなる発熱コイルを封入したシースヒータを用いるものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。そして、発熱コイルの後端側には発熱温度が目的の温度を超えて過昇温することよって断線等の故障を生じないように制御コイルが接続されている。この接続コイルは自己の温度上昇に伴い抵抗値が大きくなることで発熱コイルを流れる電流を抑制する効果をなす。例えば制御コイルを構成する材料の温度抵抗係数は[1000℃時の比抵抗/20℃時の比抵抗]が7以上となる材料が適用される(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−158431号公報
【特許文献2】特開2002−98333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなグロープラグでは、使用温度の高温化と急速昇温性が要求されている。これに対応すべく発熱コイルはFe−Cr−Al合金で構成されている。この合金が用いられていた背景として、Fe−Cr−Al合金は体積抵抗率が1.40μΩm程度と大きく、チューブの先端に発熱コイルを集中的に配置して先端部で集中的に発熱可能なシースヒータを構成することが容易であるためである。
【0005】
しかしながら、このFe−Cr−Al合金は含有されるAl成分がグロープラグの使用の最中に酸化して消費され、抵抗値が低下する変化を生じることが避けられないという問題点があった。発熱コイルの抵抗値が低下すると電流値は増加する。比較的に温度抵抗係数の大きい制御コイルが用いられていれば、温度上昇に伴って制御コイルの抵抗値は大きくなり、電流値の上昇を抑えることができる。これにより、発熱コイルの断線を抑制することは可能であった。したがって、制御コイルを構成する材料には上記したような温度抵抗係数の大きいものが必然的に用いられていた。逆説的には温度抵抗係数が例えば4以下のような小さい合金で制御コイルを構成し、発熱コイルにFe−Cr−Al合金を用いる組み合わせは実現されていなかった。
【0006】
ところで近年では環境への配慮から自動車には燃費の向上が所望され、これに寄与するグロープラグの省電力化が求められている。これを実現するにグロープラグが生ずる熱をエンジンの燃焼補助へ効率的に用い、無駄な発熱を抑制することが考えられる。その一手段としては、燃焼補助へ効率的には利用されない制御コイルにおける発熱を抑制することが考えられる。しかしながら、上述の如く、使用温度の高温化と急速昇温性能を実現するためにFe−Cr−Al合金を用いて発熱コイルを構成すると、温度抵抗係数の小さい制御コイルを用いることができないという背反する事情がある。なお、ここで言う「省電力化」とは、具体的にはエンジンに装着していないグロープラグ単体を通電加熱してその表面温度を1100℃に維持しているときの消費電力が45W以下を満足することである。
【0007】
そこで、Fe−Cr−Al合金に換わる発熱コイル材料が求められる。候補として例えば(ニッケル)Ni−Cr合金(例えばニクロム線:商標)がある。Ni−Cr合金はFe−Cr−Al合金に比べて抵抗値の経時劣化が少ないので温度抵抗係数の小さい制御コイルを用いることができると考えられる。しかしながら、1500℃の融点を持つFe−Cr−Al合金に比較するとNi−Cr合金の融点は1400℃程度と低く溶融断線するおそれがあるため、温度抵抗係数の小さい制御コイルを用いることはやはり困難である。
【0008】
本発明は、上記従来の事情に対処すべくしてなされたものである。本発明は、従来に比べて消費電力が少なく省電力化されたグロープラグを構成しつつも、従来同等の急速昇温性能を維持し、通電耐久性に優れたグロープラグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のグロープラグの一態様は、軸線方向に延びるとともに先端部が閉塞した筒状のシース管と、先端が前記シース管内に位置し、後端が前記シース管の後端側へ突出するリード部材と、抵抗発熱線からなり、前記シース管内に配設されるとともに、先端が前記シース管の先端と電気的に接続される発熱コイルと、当該発熱コイルの後端側に接続され、前記リード部材の先端と電気的に接続される制御コイルと、を有するシースヒータを用いたグロープラグであって、前記制御コイルは[20℃における比抵抗/1000℃における比抵抗]にて示される温度抵抗係数が2以上4以下であり、かつ、前記発熱コイルは、Ni主成分とし、Wを30〜37重量%含む合金からなることを特徴とする。
【0010】
本発明のグロープラグでは、制御コイルの温度抵抗係数を2〜4と規定している。制御コイルの温度抵抗係数の上限値を4としているので、制御コイルにおける余分な発熱を抑制し、グロープラグ表面温度が1100℃のとき45W以下の省電力化を達成することが可能となる。一方、制御コイルの温度抵抗係数の下限値を2としているので、急速昇温時のコイル過昇温を抑制しコイルが溶融断線することを防ぐことができる。このような低温度抵抗係数の制御コイルを用いつつも発熱コイルを構成する材料にNi主成分としWを30〜37重量%含む合金を用いているため、溶融断線に対する耐性を有する。さらにこの発熱コイル材料はAlが実質的に非含有である。このため、使用中に抵抗値が低下してしまうことが無く、結果、電流値も上昇しない。電流値が不慮の増加を生じないため、制御コイルが低温度抵抗係数であっても、断線等の故障を生じることのないグロープラグを実現することが可能である。
【0011】
ここで、Wの含有量を30〜37重量%としたのは、次のような理由による。すなわち、消費電力を低減するためには発熱コイルの抵抗値を大きくしたほうが有利である。コイル線径を細くすれば抵抗値は確保できるが、製造工程での断線が増えるため、適用することができない。よって材料の体積抵抗率は0.9μΩm以上必要でありWの含有量を少なくとも30重量%以上と規定している。さらに必要な加工性を得るためには、Wの含有量は37重量%以下とする必要があるからである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は発熱コイルをNiを主成分としWを30〜37重量%含む合金を用いることにより、制御コイルを温度抵抗係数が2〜4と比較的低い材料を用いて消費電力の低下を実現しても、急速昇温性能や耐久性に優れるグロープラグを実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は本発明にかかるグロープラグ1を示す図であり、(b)はその一部縦断面図を示すものである。
【図2】図1のグロープラグの断面概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1(a)は、本発明にかかるコイル部材を備えてなるグロープラグの一例を示す全体図であり、図1(b)はその縦断面図である。
【0015】
図1(a),(b)に示すように、グロープラグ1は、筒状の主体金具2と、主体金具2に装着されたシースヒータ3とを備えている。
【0016】
主体金具2は、軸線C1方向に貫通する軸孔4を有するとともに、その外周面にはディーゼルエンジンへの取付用のねじ部5と、トルクレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部6とが形成されている。
【0017】
シースヒータ3は、シース管7と給電用リード部材としての中軸8とが軸線C1方向に一体化されて構成されている。
【0018】
図2に示すように、シース管7は、先端部が閉じた金属製(特に、Ni又はFeを主成分とする金属製であり例えばSUS310やINC601(商標)などからなる)の筒状シース管であって、その内側には、シース管先端に溶融接合された発熱コイル9と、当該発熱コイル9の後端に直列接続された制御コイル10とがマグネシア(MgO)などの絶縁粉末11とともに封入されている。シース管7の後端は、中軸8との間で例えばフッ素ゴム製の環状ゴム17により封止されている。前述のように、発熱コイル9は、その先端においてシース管7と導通しているが、発熱コイル9及び制御コイル10の外周面とシース管7の内周面とは、絶縁粉末11の介在により絶縁された状態となっている。
【0019】
発熱コイル9は、ニッケル(Ni)−タングステン(W)系合金から形成されており、詳細については後述する。また、制御コイル10は発熱コイル9の材質よりも電気比抵抗の温度係数が大きい材質、例えばNiを主成分とする線材により構成されている。これにより、制御コイル10は、自身の発熱及び発熱コイル9からの発熱を受けることで電気抵抗値を増大させ、発熱コイル9に対する電力供給量を制御する。しかしながら、本発明においては制御コイル10の温度抵抗係数は2〜4とされており、制御コイルを備える従来のグロープラグに比較して、その制御の程度は小さい。
【0020】
なお、電力供給量の制御とは次のようになされる。グロープラグ1への通電初期においてはグロープラグ1全体が室温(20℃)程度に冷えた状態であり、制御コイル10の抵抗値も小さく、発熱コイル9には比較的大きな電力供給がなされるため発熱コイル9の温度は急速に上昇する。すると、その発熱により制御コイル10は例えば1000℃程度に加熱され電気抵抗値が増大し、発熱コイル9への電力供給が減少する。これにより、シースヒータ3の昇温特性は、通電初期に急速に昇温した後、以降は制御コイル10の働きにより電力供給が抑制されて温度が飽和する形となる。つまり、制御コイル10の存在により、急速昇温性を高めつつ発熱コイル9の温度の過昇(オーバーシュート)も生じにくくすることができるようになっている。
【0021】
また、シース管7には、スウェージング加工等によって、その先端側に発熱コイル9等を収容する小径部7aが形成されるとともに、その後端側において小径部7aより径の大きい大径部7bが形成されている。そして、この大径部7bが、主体金具2の軸孔4に形成された小径部4aに対し圧入接合されることにより、シース管7が主体金具2の先端より突出した状態で保持されている。
【0022】
中軸8は、自身の先端がシース管7内に挿入され、前記制御コイル10の後端と電気的に接続されるとともに、主体金具2の軸孔4に挿通されている。図1に戻り、中軸8の後端は主体金具2の後端から突出しており、この主体金具2の後端部の内側には、ゴム製等のOリング12、樹脂製等の絶縁ブッシュ13が中軸8の後端部を挿嵌しつつ配置されている。さらに、Oリング12や絶縁ブッシュ13の脱落を防止してグロープラグ1内部の気密を確保しつつ、バッテリ等の電源から電力の供給されるコネクタ付きケーブル(図示しない)が接続されるためのピン端子15が中軸8の後端部に加締め固定された構造となっている。
【0023】
次に上記のように構成されてなるグロープラグ1の製造方法について説明する。
まず、Niを主成分とし、Wを33重量%含むNi−33W合金製の発熱コイル9が製造される。一例ではあるが、コイルの線径dh(図2参照)は0.4mm、コイル外径Dh(図2参照)は2.8mm、コイルの軸方向長さLh(図2参照)は6mm、コイルピッチPh(図2参照)は0.5mmである。
【0024】
同様な製造方法により制御コイル10が製造される。制御コイル10はNiを主成分とし、副成分としてクロム(Cr)、マンガン(Mn)、珪素(Si)等が含有された合金から形成される。成分内訳はNiが95重量%であり残部はCrが2重量%であり、Mn,Si及び微量の不可避不純物が含まれたものである。この材料から形成される制御コイル10は、一例ではあるが、コイルの線径dc(図2参照)は0.4mm、コイルの外径Dc(図2参照)は2.8mm、コイルの軸方向長さLc(図2参照)は5mm、コイルピッチPc(図2参照)は0.6mmである。
【0025】
次いで発熱コイル9と制御コイル10とは互いの端部同士が溶接によって接合され一体コイル部材とされる。一体コイル部材のうち、制御コイル側が中軸8の先端部と溶接される。
【0026】
一方、シースヒータ3の外形をなすシース管7を製造する。前述のNi系或いはFe系の材料からなる金属鋼管を所定の寸法に減径し、円筒部材を得る。この円筒部材に対して塑性加工を行い、貫通孔を有し、先端のみ外径が小さくされた先窄まり状のシース管7を形成する。
【0027】
このようにして準備されたシース管7と一体コイル部材とが接合される。具体的には、シース管7の後端部から一体コイル部材の発熱コイル9側が挿入され、シース管7の先窄まり状の先端開口へ発熱コイル9の先端部が挿入される。これとともにアーク溶接によってシース管7の先端開口を溶融して発熱コイル9が溶接され、同時にシース管7の先端が閉塞され、内部に一体コイル部材が収容されたシースヒータ前駆体が形成される。
【0028】
次いで、シースヒータ前駆体のシース管7の内部にMgO粉末が充填される。更にフッ素ゴム製の環状ゴム17がシース管7の後端開口へ挿入されてシース管7は封止される。更に、シース管7は自身の外周面にスウェージング加工が行われ、小径部7a、大径部7b、大径部よりやや細径の封止部7cが形成される。なお、小径部7aには、発熱コイル9、制御コイル10及び制御コイル10と中軸8との接続箇所のみが収容され、大径部7bの内部は中軸8のみが位置している。こうしてシースヒータ3が製造される。完成されたシースヒータ3は、小径部が外径φ3.5mm、長さ12mmであり、大径部が外径φ4.4mm、長さ20mmである。
【0029】
本発明の特徴部分である発熱コイル9及び制御コイル10を有してなるシースヒータ3ではあるが、上述したように、製造方法そのものは従前公知の製造方法を流用することが可能である。なお、それぞれのコイルを構成する材料・組成により、出発原料の製造は溶解法や粉末焼結法など、適宜選択が可能である。
【0030】
上記のシースヒータ3は主体金具2やOリング12、絶縁ブッシュ13、ピン端子15等と組み付けられてグロープラグ1を構成する。上記構成においては、まず、主体金具2の軸孔4へ先端側からシースヒータ3が圧入され、主体金具2に固定される。シースヒータ3の圧入は、大径部7bが主体金具2の軸孔4の小径部4aに保持されて完了する。本実施の形態では、大径部7bの全てが主体金具2の内部に入り込んだ位置まで圧入を行っている。さらに、主体金具2の後端へ突出した中軸8の後端部に対してOリング12、絶縁ブッシュ13、ピン端子15が所定の位置に配置され、ピン端子15を先端方向へ押圧してOリング12による気密が確保されつつ、ピン端子15が中軸に対して加締め固定され、グロープラグ1は完成する。
【0031】
ここで、本発明の主たる特徴部分である発熱コイル9及び制御コイル10の構成について詳述するとともに、実施した試験及びその結果を説明する。
【0032】
〔作製サンプルについて〕
以下説明するそれぞれのサンプルについて、特に言及しない点は上述した寸法を採用した。すなわち、発熱コイル9は、コイルの線径dhが0.4mm、コイル外径Dhが2.8mm、コイルの軸方向長さLhが6mm、コイルピッチPhが0.5mmであり、制御コイル10は、コイルの線径dcが0.4mm、コイル外径Dcが2.8mm、コイルの軸方向長さLcが5mm、コイルピッチPcが0.6mmである。
【0033】
発熱コイル9の材料としてNiを主成分とし30〜37重量%のWを含有するNi−W合金を用い、且つ、制御コイル10として温度抵抗係数が2〜4となり実施例に相当する例を実施例1〜6に示す。一方、発熱コイル9の材料がNi−W合金であってもWの含有量が適正でなければ不具合を生じる例を比較例1,2に、制御コイル10の温度抵抗係数が適正であっても発熱コイル9の材料が適切ではなく組み合わせがグロープラグとして成立しない例を比較例3,4に、発熱コイル9のみが67Ni−33Wと最適なものであっても温度抵抗係数が適切ではなく課題を解決できない例を比較例5,6に、いわゆる従来のグロープラグ相当品を比較例7に、それぞれ示す。
【0034】
なお、それぞれのサンプルの材料は溶解法により合金を作製しており、合金の作製時に原料の配合比を異ならせそれぞれの材料を作製し、コイル形状に加工を行った後に、当該コイルの断面を、EPMAを用いて分析を行う(条件 ビーム径:10μm、電圧:20kV、電流2.5×10−8A)。次記する表1の組成はその分析値の小数点第1位を四捨五入した値を記載している。よって、実施例5の制御コイルには、Mn、Siが含まれているが、その含有量が0.5重量%未満であるため、表1では、0Mn、0Siと記載している。
【0035】
【表1】

【0036】
[評価試験:急速昇温性能]
急速昇温性能の評価については次の試験を行った。なお、急速昇温性に優れるとは、1000℃への到達時間が2秒以下であるか否かである。したがって本試験では、1000℃に2秒以内に到達できることを必須の基準としている。
【0037】
この試験は、グロープラグをエンジンブロックに見立てたアルミニウム製のブロック(外観約26mm×70mmの六角柱形状、内部にφ7mmの軸孔を有する。)に固定し、室温(20℃)の無風状態で上記試験を行う机上試験である。また、温度の測定は、シースヒータ3の先端から後端へ2mmの位置を放射温度計にて測定している。なお、印加電圧は電源として14Vの直流電源を用い、PWM制御によって各サンプルのグロープラグへの実効電圧を調整する方法を用いており、実効電圧を14〜5Vの範囲で調整して本評価試験を行っている。
【0038】
この結果、実施例1〜6のものは何れも1000℃に到達する時間が2秒以下であり従来品である比較例7と比べても同等以上の急速昇温性能を有していることが確認された。一方、比較例4のサンプルは1000℃への到達時間が2秒以内となるように高めの実効電圧を印加すると発熱コイルが溶断してしまう現象があった。これは急速昇温の特に開始時の突入電力が大きいことから、局所的に高温となっており、これによって溶断が生じてしまうことが考えられる。つまり、比較例4のサンプルは発熱コイルの融点が約1400℃と実施例1〜6のものに比べて低いことに起因する不具合であると考えられる。他方、この溶断が生じないよう、投入する電力(実効電圧)を低めにすると1000℃への到達時間が2秒以内という急速昇温性能を達成できない。この比較例4に対して従来公知であった融点の高い(約1500℃材料であるFe−Cr−Al合金を用いた比較例3では急速昇温中の溶断は発生しないが、連続使用するとAl成分の消費に伴い抵抗値が低下する。このために流れる電流が増大するにも拘わらず温度抵抗係数が2と小さめであるために電流の増大を抑制できず断線してしまっている。連続使用については次記する耐通電試験結果に基づく。
【0039】
[評価試験:耐通電試験]
通電に対する耐久性を判断する耐通電性能については次の試験にて評価した。試験を行うグロープラグの先端表面温度が2秒で1000℃となる電圧を印加し、1000℃に達した後、2秒間保持する。その後更に印加電圧を調整して1100℃とし、180秒間保持する。その後、通電をオフとして室温(20℃)に戻るまで放置する。この一連の作業を1サイクルとし、グロープラグの内部のコイル部材が断線するまで繰り返し、断線を生じたサイクル数を記録する。なお、表1に示した断線サイクル数は百の位を切り捨てて表記したものである。また、試験を行うグロープラグは上記の性能評価試験と同様に室温下で、同様な保持をしている。
【0040】
本耐通電試験は、7000サイクル以上に亘って断線が生じなければ通電耐久性に優れるとして「A」と評価し、4000サイクル以上7000サイクル未満で断線を生じれば「B」と評価し、4000サイクル未満で断線を生じたものは耐久性が劣るとして「C」と評価した。この試験によると、Ni主成分とし、Wを30〜37重量%含む実施例1〜6のグロープラグはいずれも7000サイクル以上の通電耐久性を有していた。
【0041】
Wが30重量%未満である比較例1では7000サイクル未満で断線してしまった。これは、発熱コイル中のWの含有量が少ないために材料としての体積抵抗率が低いことから、グロープラグが要する抵抗値を得るために発熱コイルの線径をφ0.35mmと細くしたためであると考えられる。Wが37重量%を超える比較例2では、コイルの細線加工が困難であり、量産性を考慮するグロープラグの発熱コイル材料としては不向きであり、本耐通電試験は行っていない。
【0042】
[評価試験:消費電力確認]
さらに各サンプルの消費電力を確認した。上記2つの試験と同様の環境下にて、供給する実効電圧を変化させて先端の表面温度が1100℃となる状態を保持し、印加した実効電圧と流れる電流の積から消費電力を算出した。この確認試験では、消費電力が45W以下であれば省電力化が実現できているものとして「A」と評価し、これを超えているものについては消費電力が大きく「B」と評価している。
【0043】
実施例1〜6のグロープラグはいずれも消費電力は45W以下であり、低消費電力を実現していることが確認された。これに対して比較例5のグロープラグは先の上述の耐通電試験では8000サイクルもの耐久性が果たされるものの消費電力は65Wと大きく、消費電力の低減を実現できなかった。これは、温度抵抗係数が4を超えていると、急速昇温中に抵抗値が大きくなり、急速昇温に必要な発熱が足らなくなるので、急速昇温に必要な電流値を確保できるところまで発熱コイルの抵抗値を下げた結果、消費電力が大きくなってしまったからである。一方、温度抵抗係数を小さくしすぎると、すなわち2未満とした比較例6では急速昇温時に溶融断線を生じてしまうことが多く、グロープラグとしての性能を満足できない。
【0044】
なお、本発明は、上述した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、各種の変形が可能であることは勿論である。例えば、上記実施例及び比較例では発熱コイル、制御コイルのいずれのコイル外径Dh,Dcもφ2.8mmとしているが、製造するグロープラグの仕様に応じて適宜変更が可能である。変更は可能であるが、本発明のような金属製シースヒータを用いるグロープラグ(所謂メタルグロープラグ)において、本発明の課題に記載する如く、急速昇温性能や通電耐久性とともに低消費電力が求められるグロープラグでは、その設計寸法の許容公差は大きくない。このため、コイル外径がφ2.8mmの1点しか開示せずとも、例えばコイル外径をφ2.5〜4.0mm程度に変更したものであっても、コイルの全長や線径を適宜修正して設計することで本発明を利用することは可能である。
【符号の説明】
【0045】
1……グロープラグ、2……主体金具、3……シースヒータ、7……シース管、9……発熱コイル、10……制御コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びるとともに先端部が閉塞した筒状のシース管と、
先端が前記シース管内に位置し、後端が前記シース管の後端側へ突出するリード部材と、
抵抗発熱線からなり、前記シース管内に配設されるとともに、先端が前記シース管の先端と電気的に接続される発熱コイルと、
当該発熱コイルの後端側に接続され、前記リード部材の先端と電気的に接続される制御コイルと、を有するシースヒータを用いたグロープラグであって、
前記制御コイルは[20℃における比抵抗/1000℃における比抵抗]にて示される温度抵抗係数が2以上4以下であり、
かつ、前記発熱コイルは、Ni主成分とし、Wを30〜37重量%含む合金からなることを特徴とするグロープラグ。

【図1】
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【図2】
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