説明

ケミカルタンカーの波形隔壁構造

【課題】船幅方向のカーゴタンクの数(タンクの列数)が船長方法で変化するタンク配置を持つケミカルタンカーにおいて、波形隔壁の表面積を最小にすることが可能で、かつ、波形隔壁の剛性を高くすることが可能な波形隔壁構造を提供する。
【解決手段】船幅方向のカーゴタンクの数(タンクの列数)が船長方法で変化するタンク配置を持つケミカルタンカーにおいて、中央に位置する波形縦隔壁1aの任意の位置に接合止まり部04を位置せしめ、当該接合止まり部から両端に位置する接合止まり部01,03まで波形斜隔壁2c,2bで接合した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケミカルタンカーの波形隔壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のケミカルタンカーの波形隔壁構造に関しては、本願出願人が既に提案している特開2004−314741号公報に開示のものがある。
図3は、当該特開2004−314741号公報に開示の第1の実施の形態の液体カーゴ積載船のカーゴ隔壁構造の概略を示す図(同公報の図1)であり、図3において、符号FOREは、船首方向、AFTは、船尾方向、A〜Dは、カーゴタンク、101は、波形縦隔壁、102は、波形横隔壁、111 、112は、波形縦隔壁端部、121 、122は、波形横隔壁端部、101a、102aは、山部、101b、102bは、谷部、113、114、123、124は、波形端部、103、131、132、133、134は、交差部、104、104b、143は、アクセストランクである。
【0003】
図3に示されるように、当該特開2004−314741号公報に開示の「液体カーゴ積載船波形隔壁交差構造」は、「液体カーゴ積載船のカーゴタンクを構成する縦横の隔壁の交差部において、波形隔壁の交差部を1点に集中させることなく、4点に分散させることによって、当該交差部に働く応力集中を緩和し、かつ、前記溶接止端部に高い引っ張り応力が作用することのなく、したがって、クラックによるカーゴの漏洩が防止でき、また、いかなる積み付けでもカーゴ同士を線接触させることがなく、積み付け上の制限がない液体カーゴ積載船のカーゴ隔壁構造を提供すること」の解決課題において(同公報明細書段落番号0008参照)、「船首側および船尾側から延設される波形縦隔壁の山部と谷部が対向配置され、かつ、右舷側および左舷側から延設される波形横隔壁の山部と谷部が対向配置され、これら各山部と谷部の端部に断面方形状のアクセストランク構造の四隅が接合されたこと」の構成により(同公報特許請求の範囲請求項1の記載参照)、「(1)交差部における応力集中を低減させ、この部分でのクラックの発生によるカーゴの漏洩が防止でき、カーゴの安全性を確保できるという効果を有する。(2)積み付け上の制限をなくし、荷役効率を向上させ、従来より、実質的に多くの荷物を積載することを可能とするという効果を有する。」等の効果を奏するものである(同公報段落番号0029参照)。
【0004】
図3に示される特開2004−314741号公報に開示の「液体カーゴ積載船波形隔壁交差構造」は、上述するように、液体カーゴ積載船のカーゴタンクを構成する縦横の波形隔壁が1点で交差する構造のものであるが、船幅方向のカーゴタンクの数(タンクの列数)が船長方法で変化するタンク配置を持つ液体カーゴ積載船もある。つまり、船幅方向のカーゴタンクの数(タンクの列数)が船長方法で変化するタンク配置を持つ液体カーゴ積載船では、波形縦隔壁とその止まり部の波形横隔壁の配置は、上方から見てT字型構造(T字の横棒が波形横隔壁、縦棒が波形縦隔壁)となるものがある。
【0005】
図2は、このような波形縦隔壁とその止まり部の波形横隔壁配置が、上方から見てT字型構造となるタンク配置を持つケミカルタンカーの波形隔壁構造の概略を示す図であり、図2において、符号FOREは、船首方向、AFTは、船尾方向、No.1 Tank(p)は、左舷側カーゴタンク、No.1 Tank(S)は、右舷側カーゴタンク、No.1 Tank(C)は、中央カーゴタンク、No.2 Tank(P)は、左舷側カーゴタンク、No.2 Tank(S)は、右舷側カーゴタンク、符号201a、201b、201cは、これらの各カーゴタンクNo.1 Tank(p)、No.1 Tank(S)、No.1 Tank(C)、No.2 Tank(P)、No.2 Tank(S)間の波形縦隔壁、202は、同波形横隔壁であり、O1、O2、O3は、それぞれ前記波形縦隔壁201a、201b、201cと前記波形横隔壁202との接合止まり部、203,203は船側外板、204は、アクセストランクである。
【0006】
図2に示すように、上記各カーゴタンクNo.1 Tank(p)、No.1 Tank(S)、No.1 Tank(C)は、横方向に対して3つのタンクが配置され、さらに、これらのタンクに接して前記タンクNo.2 Tank(P)、No.2 Tank(S)が配置される。そして、図2から明らかなように、このケミカルタンカーの波形隔壁構造は、船幅方向のカーゴタンクの数(タンクの列数)が船長方法で変化するタンク配置構造であり、タンクの列数が変化する箇所では、前記波形縦隔壁201a、201b、201cが前記波形横隔壁202の位置の位置で止めて接合される。つまり、図2に示すように、波形縦隔壁201a、201b、201cとその接合止まり部O1、O2、O3での波形横隔壁202の配置は、上方から見てT字型(T字の横棒が波形横隔壁202、縦棒が波形縦隔壁201a、201b、201c)となっている。
【0007】
通常、図3に示すような前記波形縦隔壁101と前記波形横隔壁102の交差部は、十字型の配置となるため、その十字型の交差部は、4方から拘束されて自由に変形できないようになっており、波形隔壁101、102に荷重が作用して波形隔壁101、102が面外に変形しようとしたときに、該波形隔壁101、102の変形を抑える働きを有していた。これにより波形隔壁101、102の脚部に発生する応力も、ある程度抑えられていた。
【0008】
これに対し、図2に示されるような前記波形縦隔壁201a、201b、201cと前記波形横隔壁202の接合止まり部O1、O2、O3の配置が上方から見てT字型の場合、拘束が弱い方向があり、波形隔壁201、202の変形を抑えるのに剛性が十分ではない。そのため、これらの接合止まり部O2の反対側にアクセストランク204のような付加構造を設置したり、波形隔壁201a、201b、201c、202の板厚を厚くすることによって一定以上の剛性を確保する必要があり、前記波形隔壁201a、201b、201c、202の板厚を厚くすると、その分、必要な鋼材重量が多くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−314741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
船幅方向のカーゴタンクの数(タンクの列数)が船長方法で変化するタンク配置を持つケミカルタンカーにおいて、波形隔壁の表面積を最小にすることが可能で、かつ、波形隔壁の剛性を高くすることが可能な波形隔壁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願請求項1に係る発明は、船幅方向のカーゴタンクの数(タンクの列数)が船長方法で変化するタンク配置を持つケミカルタンカーにおいて、中央に位置する波形縦隔壁の任意の位置に接合止まり部を位置せしめ、当該接合止まり部から両端に位置する接合止まり部まで波形斜隔壁で接合したことを特徴とする。
また、本願請求項2に係る発明は。前記請求項1に係るケミカルタンカーの波形隔壁構造において、前記接合止まり部は、上方から見て平面視Y字型構造またはM字型構造としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、上述のとおり構成されているので、次に記載する効果を奏する。
(1)波形隔壁をY字型に配置することにより、波形隔壁の長さを短く(表面積を小さく)することが可能となり、波形隔壁に必要な鋼材重量を減少することが可能という効果を有する。
(2)また、従来のT字型の配置よりもY字型の配置の方が、波形隔壁交差部の剛性が高いため、交差部の剛性を上げるための補強に要する鋼材重量も少なくすることができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明に係るケミカルタンカーの波形隔壁構造を実施するための形態の一実施例であるケミカルタンカーの波形隔壁構造の実施例1を示す図、
【図2】図2は、波形縦隔壁とその止まり部の波形横隔壁配置が、上方から見てT字型構造となるタンク配置を持つケミカルタンカーの波形隔壁構造の概略を示す図、
【図3】図3は、特開2004−314741号公報に開示の第1の実施の形態の液体カーゴ積載船のカーゴ隔壁構造の概略を示す図(同公報の図1)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るケミカルタンカーの波形隔壁構造を実施するための最良の形態である一実施例を図面に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明に係るケミカルタンカーの波形隔壁構造を実施するための形態の一実施例であるケミカルタンカーの波形隔壁構造の実施例1を示す図であり、各カーゴタンクの波形縦隔壁及び波形横隔壁を線図で示している。
【0016】
すなわち、図1において、符号FOREは、船首方向、AFTは、船尾方向、No.1 Tank(p)は、左舷側カーゴタンク、No.1 Tank(S)は、右舷側カーゴタンク、No.1 Tank(C)は、中央カーゴタンク、No.2 Tank(P)は、左舷側カーゴタンク、No.2 Tank(S)は、右舷側カーゴタンク、1a、1b、1cは、波形縦隔壁、2a、2dは、波形横隔壁、2b、2cは、波形斜隔壁、O4は、本実施例1に係るケミカルタンカーの波形隔壁構造における新たな接合止まり部であり、図3に示すと同様に、従来の波形縦隔壁1及び波形横隔壁2を破線で示している。図1の破線2b、2cで示されるように、従来は、前記波形横隔壁2が直線状であって、その間にそれぞれの波形縦隔壁1a、1b、1cとの接合止まり部O1、O2、O3で接合される隔壁構造を呈していた。
【0017】
本実施例1に係るケミカルタンカーの波形隔壁構造は、前記波形縦隔壁1aを接合止まり部O2で接合することなく、それより短い位置に位置する任意の接合止まり部O4から前記波形斜隔壁2b、2cをそれぞれ前記波形縦隔壁1b、1cの接合止まり部O1、O3までを接合して、図1に示すように、波形縦隔壁1a、1b、1cとその接合止まり部O4、O1、O3の波形横隔壁(波形斜隔壁2b、2c)に配置し上方から見て平面視Y字型としたものである。すなわち、船幅方向のカーゴタンクの数(タンクの列数)が船長方法で変化するタンク配置を持つケミカルタンカーにおいて、中央に位置する波形縦隔壁1aを任意の短い位置(例えば、接合角度がそれぞれを120度となるよう)に前記接合止まり部O4を位置せしめ、当該接合止まり部O4から前記接合止まり部O1、O3の位置まで前記波形斜隔壁2b、2cで接合するようにしたものである。
【0018】
本実施例1に係るケミカルタンカーの波形隔壁構造では、前記接合止まり部O4を前記波形縦隔壁1aの短めの位置に配置したが、これは、長めの位置(例えば、接合止まり部O5の位置)であっても良く、また、本実施例1に係るケミカルタンカーの波形隔壁構造では、前記波形横隔壁2a、2d位置を従来の波形横隔壁位置2と変更せずに、前記波形縦隔壁1aの長さを変更したが、これは、前記波形縦隔壁1aの長さを従来のものと変更せずに前記波形横隔壁2a、2dの位置をFORE方向またはAFT方向に変更しても良く、要は、船幅方向のカーゴタンクの数(タンクの列数)が船長方法で変化するタンク配置を持つケミカルタンカーの隔壁構造において、中央に位置する波形縦隔壁1aとその両端に位置する波形縦隔壁1b、1c間に前記波形斜隔壁2b、2cを接合し、接合止まり部O4、O5において平面視Y字型構造またはM字型構造とすれば良いものである。
【0019】
図1において、二点鎖線は、中央に位置する波形縦隔壁1aの延長上のNo.1 Tank(C)内に前記接合止まり部O5を設け、当該O5からその両端に位置する前記波形縦隔壁1b、1cの前記接合止まり部O1、O3までの間を前記波形斜隔壁2b、2cを接合した変形例を示すものである。
このようにY字型構造とすることにより、従来の波形横隔壁(図1の破線で示す波形横隔壁)の長さ及び欠損する波形縦隔壁1aの長さ(同様に、図1の破線で示す波形縦隔壁1a)の合計より短い前記波形斜隔壁2b、2cで接合することができ、全体としての波形隔壁の長さを短く(表面積を小さく)することが可能となり、波形隔壁に必要な鋼材重量を減少することができる。また、従来のT字型の配置よりもY字型の配置の方が、波形隔壁交差部の剛性が高いため、交差部の剛性を上げるための補強に要する鋼材重量も少なくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、ケミカルタンカーの波形隔壁構造に利用されうる。
【符号の説明】
【0021】
1a、1b、1c 波形縦隔壁
2a、2d 波形横隔壁
2b、2c 波形斜隔壁
No.1 Tank(P)、No.1 Tank(C)、N0.1 Tank(S)、No.2 Tank(P)、No.2 Tank(S) カーゴタンク
101 波形隔壁
102 前記波形横隔壁
101a、102a 山部
101b、102b 谷部
111 、112 波形縦隔壁端部]
121 、122 波形横隔壁端部
113、114、123、124 波形端部
103、131、132、133、134 交差部
104、104b、143 アクセストランク
201、201a、201b、201c 波形隔壁
202 波形横隔壁
203 船側外板
204 アクセストランク
FORE 船首方向
AFT 船尾方向
O1、O2、O3、O4、O5 接合止まり部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
船幅方向のカーゴタンクの数(タンクの列数)が船長方法で変化するタンク配置を持つケミカルタンカーにおいて、中央に位置する波形縦隔壁の任意の位置に接合止まり部を位置せしめ、当該接合止まり部から両端に位置する接合止まり部まで波形斜隔壁で接合したことを特徴とするケミカルタンカーの波形隔壁構造。
【請求項2】
前記接合止まり部は、上方から見て平面視Y字型構造またはM字型構造としたことを特徴とする請求項1に記載のケミカルタンカーの波形隔壁構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−56644(P2013−56644A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197120(P2011−197120)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000146814)株式会社新来島どっく (101)