説明

コンクリートの冷却方法

【課題】必要な設備を簡易にし、冷却効率を得ると共に、冷却中のコンクリートの乾燥を抑制することができるコンクリートの冷却方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の冷却方法は、コンクリートを打設後に冷却するコンクリートの冷却方法であって、打設されたコンクリート体1の上面1aに、コンクリート体1の表面を内側面5aに露出させた状態の有底の鉛直孔5を形成する冷却孔形成工程と、冷却孔形成工程で形成された鉛直孔5の底部に水を溜めて溜水部7を形成し、溜水部7の水の中に挿入した送風管9を通じて水の中に冷却用空気を送り込む送気工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートを打設後に冷却するコンクリートの冷却方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、打設されたコンクリート体は、打設後の水和発熱に起因して温度応力が発生するので、温度応力によるひび割れ等を防止すべく冷却する必要がある。従来、コンクリートの打設後の冷却方法として、下記の特許文献1の技術が知られている。この冷却方法では、鉛直なスパイラル管を配設してコンクリートを打設した後、スパイラル管内に給水管を挿入して給水を行うことにより、コンクリート体を冷却するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−303159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の冷却方法では、スパイラル管から溢れる使用済みの冷却水が発生する。コンクリート体を冷却した後の使用済み冷却水は強アルカリ性であるので、使用済み冷却水の廃棄に際しては所定の処理が必要であり、大掛かりな処理設備を必要としてしまう。また、冷却水を循環させるとしても、同様に大型で高コストのチラー等の装置を必要としてしまう。ここで、上記のような水処理や水の循環を省略するためには、上記スパイラル管に冷却用空気を送り込む方法も考えられる。ところが、空気を冷媒とすると、水を冷媒とする場合に比べて冷却効率が劣る。これに対し、冷却効率を向上させるためには、スパイラル管を除去した後の鉛直孔に冷却用空気を送り込むことも考えられる。しかしながらこの場合、鉛直孔の内側面に冷却用空気が直接に接触するので、内側面からコンクリート体が乾燥し易く、当該コンクリート体の品質が劣化するおそれがある。
【0005】
上記のような事情に鑑み、本発明は、必要な設備を簡易にし、冷却効率を得ると共に、冷却中のコンクリートの乾燥を抑制することができるコンクリートの冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の冷却方法は、コンクリートを打設後に冷却するコンクリートの冷却方法であって、打設されたコンクリート体の上面に、コンクリート体の表面を内側面に露出させた状態の有底の冷却孔を形成する冷却孔形成工程と、冷却孔形成工程で形成された冷却孔の底部に水を溜め、水の中に挿入した送風管を通じて水の中に冷却用空気を送り込む送気工程と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明の冷却方法によれば、コンクリート体の冷却孔内で冷却用空気が流動することで、コンクリート体が冷却される。このように、冷媒として空気を用いるので、使用済み冷媒を処理する必要がなく、設備を簡易化することができる。また、冷却孔の内側面にコンクリート体自体の表面が露出しており、当該コンクリート体の表面に冷却用空気が接触する。よって、冷却空気がコンクリート体から直接熱を奪い、冷却効率を高めることができる。また、冷却用空気が冷却孔の底部に溜められた水中を通過することで、冷却用空気の湿度が上昇する。よって、湿度が高い冷却用空気が、冷媒として冷却孔内を流動することになる。従って、本発明の冷却方法がコンクリート体自体の表面に冷却用空気を直接接触させる方式であっても、コンクリート体の乾燥を抑制することができる。
【0008】
また、送気工程では、冷却用空気に霧を含ませることとしてもよい。この構成によれば、冷却孔で流動する空気の湿度が更に高まることで、コンクリート体の乾燥抑制効果が更に高められる。
【0009】
また、送気工程で水中に挿入される送風管の先端部には、冷却用空気の排気口が複数設けられていることが好ましい。この構成によれば、送風管の先端部から水中に排出される気泡が細かくなるので、冷却用空気の湿度を高める効果が高くなり、その結果、コンクリート体の乾燥抑制効果が高まる。
【0010】
また、送風管の先端部は、冷却用空気が通過する複数の管体を束ねて形成されており、各管体の端部の開口が上記の排気口を構成していることとしてもよい。この構成によれば、簡易な構造によって複数の排気口を先端部に設けた送風管が実現される。
【0011】
また、送気工程では、冷却孔に給水管が更に挿入され、当該給水管を通じて外部からの水を冷却孔の底部に補充することとしてもよい。この構成によれば、冷却孔の底部から蒸散で減少する水を外部から補充することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のコンクリートの冷却方法によれば、必要な設備を簡易にし、冷却効率を得ると共に、冷却中のコンクリートの乾燥を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の冷却方法に係るコンクリートの打設工程を示す断面図である。
【図2】本発明の冷却方法における冷却孔形成工程を示す断面図である。
【図3】本発明の冷却方法における送気工程を示す断面図である。
【図4】送風管の一例を示す正面図である。
【図5】図4の送風管の先端部を示す底面図である。
【図6】送風管の他の例を示す正面図である。
【図7】本発明者らが行った試験結果を示すグラフである。
【図8】本発明者らが行った他の試験結果を示すグラフである。
【図9】本発明者らが行った更に他の試験結果を示すグラフである。
【図10】本発明者らが行った更に他の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るコンクリートの冷却方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0015】
図1〜図3に、本実施形態の冷却方法が対象とするコンクリート体1を示す。コンクリート体1は、例えば鉄筋コンクリート構造物の一部をなし、いわゆる「マスコンクリート」と呼ばれる大断面の鉄筋コンクリート体である。コンクリート体1は、大断面であるゆえに、打設後の硬化時の内外の温度差が大きくなる傾向にあり、打設後に特に冷却を必要とするものである。
【0016】
図1に示すように、コンクリート体1は、複数の円筒形のスパイラルチューブ3を鉛直に埋め込んだ状態で打設される。このとき、複数のスパイラルチューブ3は、例えば上から見て格子状の配置でコンクリート体1に規則的に配列される。打設から所定の時間が経過した時点(例えば、打設の翌日)で、コンクリート体1がある程度硬化すると、図2に示すように、スパイラルチューブ3が取り除かれる。スパイラルチューブ3を取り除いた跡として、コンクリート体1の上面1aから鉛直下方に延びる有底の鉛直孔(冷却孔)5が形成される(冷却孔形成工程)。鉛直孔5の内側面5aには、コンクリート体1の地肌が剥き出しになり、コンクリート体1自体の表面が直接露出する。なお、図2以降では、複数形成される鉛直孔5のうちの1つのみを図示している。
【0017】
続いて、図3に示すように、上記鉛直孔5の底部に水が溜められて溜水部7が形成されると共に、鉛直孔5内に送風管9が挿入される。送風管9の先端ノズル9aは、溜水部7の水中に挿入される。この状態から、送風管9を通じて溜水部7の水中に冷却用空気が送り込まれる(送気工程)。そうすると、冷却用空気は、送風管9の先端ノズル9aから水中に排出され、気泡として溜水部7を上昇する。更に冷却用空気は、溜水部7の水面上方において鉛直孔5内を上向きに流動し、最終的に、鉛直孔5の上端開口から外部に排出される。このとき、溜水部7の水面より上の部分で、冷却用空気が内側面5aに接触しながらコンクリート体1から熱を奪うので、コンクリート体1の冷却が実現される。
【0018】
溜水部7の水は蒸散により徐々に失われるので、適切に補充する必要がある。そこで、鉛直孔5内には、給水部21からの水を溜水部7に適宜送り込むための給水管23が挿入される。給水管23の上流端は給水部21に接続され、給水管23の下流端は溜水部7の水中に挿入される。給水管23による給水速度は、給水管23による給水量と溜水部7の水の蒸散量とが均衡するように、例えば1時間当たり100〜500mLに設定すればよい。例えば、鉛直孔5の孔径が3cmの場合には給水速度は100mL/時とされ、鉛直孔5の孔径が10cmの場合には給水速度は500mL/時とされる。給水管23による給水は、常時行われてもよく、所定の間隔で定期的に1回ずつ行われてもよい。また、給水管23の管径は例えば0.5〜3cmであり、給水管23としては例えば塩化ビニール製のビニールホース等を用いることができる。
【0019】
なお、給水管23の寸法は、水が流通可能であり、かつ、送風管9と一緒に鉛直孔5に挿入可能であれば適宜変更が可能である。また、溜水部7に水を補充できればよいので、給水管23の下流端を溜水部7の水中に挿入することは必須ではなく、給水管23の下流端は溜水部7の水面の上方にあってもよい。
【0020】
以上のような給水部21及び給水管23の存在により、溜水部7から蒸散して失われる水を外部から補うことができる。また、溜水部7の水が適当に入れ替わることにより、水の温度上昇が抑えられ、コンクリート体1冷却における冷却効率低下を抑えることができる。
【0021】
上述の冷却方法で冷却しながらコンクリート体1を硬化させ、その後、一般的なモルタル注入工法を用いて補修用モルタルで鉛直孔5を埋めるか、又は一般的なコンクリート充填工法を用いてコンクリートで鉛直孔5を埋める(埋め戻し工程)。なお、鉛直孔5の孔径が70mm未満の場合にはモルタル充填工法を用い、鉛直孔5の孔径が70mm以上の場合にはコンクリート充填工法を用いることが好ましい。
【0022】
次に、上記の冷却用空気を送出する送風部の構成について具体的に説明する。送風部は、前述の送風管9と、送風管9の上流端部に冷却用空気を吹き込むミスト扇風機13と、を備えている。ミスト扇風機13は、コンクリートの加湿養生に用いられる市販のものであり、霧を含んだ風を送り出す扇風機である。ミスト扇風機13は、分送風部15及び送風ホース17を介して送風管9の後端部に接続されている。送風管9の直径は例えば、2〜8cmである。なお、分送風部15には、複数の送風ホース17を接続することができるので、1つのミスト扇風機13からの風を複数の鉛直孔5に分けて送ることができる。
【0023】
図4に示すように、送風管9の後端部にはミスト扇風機13からの冷却用空気を集める集風部9bが設けられている。前述の送風ホース17の先端は、当該集風部9bに接続されている。そして、図4及び図5に示すように、集風部9bの下流側には、複数の管体9cが束ねられ形成された通風部9dが設けられている。そして、通風部9dの先端が前述の先端ノズル9aとして機能する。すなわち、先端ノズル9aは複数(ここでは4本)の管体9cが束ねられ形成されたものであり、管体9cの先端部の開口が、冷却用空気を溜水部7の水中に排出する排気口9fとして機能する。なお、管体9cの本数は4本には限られず、通風部9dは更に多数の管体9cが束ねられたものでもよい。
【0024】
なお、送風管9に代えて、図6に示す送風管109を用いてもよい。送風管109は、通風部9dに代えて、1本の管体からなる通風部109dを有している。そして、通風部109dの下流端には、多数の排気口を備えたノズル部品109aが取り付けられている。ノズル部品109aとしては、多数の排気口を備えるタイプの市販の金属ノズル等を適宜用いればよいので、ノズル部品109aの詳細な説明及び図示は省略する。
【0025】
このような複数の排気口9fを備えた先端ノズル9a,109aによれば、溜水部7の水中に排出される気泡を細かくすることができる。
【0026】
なお、図3の例では、ミスト扇風機13及び給水部21をコンクリート体1の上面1aに設置しているが、ミスト扇風機13及び給水部21はコンクリート体1の上面1a以外に設置してもよい。ミスト扇風機13及び給水部21はコンクリート体1の上面1a以外に設置すれば、ミスト扇風機13及び給水部21の設置で上面1aが傷付くことが避けられる。一方、ミスト扇風機13及び給水部21をコンクリート体1の上面1aに設置すれば、配管等の手間が低減され作業の効率化が図られる。例えば打設の翌日にこの冷却作業を行うとすれば、上面1aは既にある程度硬化しているので、ミスト扇風機13及び給水部21を上面1aに設置することが可能である。この場合、上面1aを養生シート等で養生することが好ましい。
【0027】
次に、上述した冷却方法による作用効果について説明する。
【0028】
上述の冷却方法によれば、コンクリート体1に設けた鉛直孔5内で冷却用空気が流動することで、コンクリート体1が冷却される。このように、冷媒として空気を用いるので、使用済み冷媒を処理する必要がなく、設備を簡易化することができる。また、鉛直孔5の内側面5aにコンクリート体1自体の表面が露出しており、当該コンクリート体1の表面に冷却用空気が接触する。よって、冷却空気がコンクリート体1から直接熱を奪い、その結果、冷却効率を高めることができる。また、冷却用空気が溜水部7の水中を通過することで、冷却用空気の湿度が上昇する。よって、湿度が高い冷却用空気が、冷媒として鉛直孔5内を流動することになる。従って、上述の冷却方法がコンクリート体1自体の表面に冷却用空気を直接接触させる方式であっても、コンクリート体1の乾燥を抑制することができる。
【0029】
以上のように、上述の冷却方法によれば、必要な設備を簡易にし、冷却効率を得ると共に、冷却中のコンクリート体1の乾燥を抑制することができる。
【0030】
また、送気工程では、ミスト扇風機13を用いることにより冷却用空気に霧を含ませることとしている。この構成により、鉛直孔5内で流動する空気の湿度が更に高まり、コンクリート体1の乾燥抑制効果が更に高められる。
【0031】
また、送風管9の先端ノズル9aには、複数の排気口9fが存在し、同様に送風管109のノズル部品109aにも多数の排気口が存在するので、水中に排出される冷却用空気の気泡が細かくなる。よって、溜水部7を通過する際に冷却用空気と水との接触面積が大きくなり、冷却用空気の湿度を高める効果が高くなり、その結果、コンクリート体の乾燥抑制効果を更に高めることができる。また、送風管9のように複数の管を束ねて先端ノズル9aを形成すると、簡単な構造により複数の排気口9fを送風管の先端部に設けることができる。
【0032】
鉛直孔5の深さは、コンクリート体1の厚さ(上下幅)の50〜90%であることが好ましい。鉛直孔5の深さが、上記の下限よりも浅い場合には十分な冷却効率が得られず、上記の上限よりも深い場合には埋戻し工程の手間が大きい。また、この観点から、鉛直孔5の深さはコンクリート体1の厚さの70〜80%であることが更に好ましい。
【0033】
また、鉛直孔5の孔径は、コンクリート体1の配筋条件に応じて設定される。具体的には、鉛直孔5の孔径は、コンクリート体1に含まれる鉄筋の最大あきの1/5〜4/5であることが好ましい。鉛直孔5の孔径が、上記の下限よりも小さい場合には十分な冷却効率が得られず、上記の上限よりも大きい場合には、鉄筋を避けて鉛直孔5を形成することが困難になる。また、この観点から、鉛直孔5の孔径は、コンクリート体1に含まれる鉄筋の最大あきの1/2〜3/4であることが更に好ましい。
【0034】
鉛直孔5の配置密度は、冷却効率に鑑み、孔径に応じて設定される。具体的には、下式(1)の関係を満足するように設定されることが好ましい。
α=901×lnφ+830 …(1)
但し、αは、コンクリート体1を上から見た場合の鉛直孔5の配置密度の逆数〔cm/本〕である。すなわち、αの値は、鉛直孔5の1本当たりで冷却を負担すべきコンクリート体1の面積(上から見た面積)を意味する。また、φは、鉛直孔5の孔径〔cm〕である。
【0035】
以下、上式(1)の根拠となった試験について説明する。本発明者らは、上述の冷却方法を用いてコンクリート体1を冷却する試験を行った。具体的には、3通りの鉛直孔5の孔径φ(30mm、50mm、100mm)と、2通りの上記αの値(500cm/本、2800cm/本)と、をそれぞれ組み合わせて合計6通りのコンクリート体1の試験体を作製し、各試験体を上述の冷却方法で冷却した。そして、センサーを各試験体の中心の位置にセットして、冷却中における各試験体の中心の温度の最高値(以下「最高中心温度」という)を測定し、図7に示すようにグラフにプロットして各パラメータ同士の相関関係を得た。すなわち、図7に示すように、αの値と最高中心温度との関係は、孔径φ=30mmのときにグラフL30で表され、孔径φ=50mmのときにグラフL50で表され、孔径φ=100mmのときにグラフL100で表されることが判明した。
【0036】
ここで、試験体の最高中心温度を60℃とすることを条件とすれば、図7のグラフL30,L50,L100より、孔径φとαの値との関係が図8のように求められる。すなわち、図7の各グラフL30,L50,L100と、試験体の最高中心温度=60℃を示す直線と、の各交点を求め、当該各交点におけるφとαの値をプロットしたものが図8のグラフである。なお、上記条件の「60℃」とは、試験体の温度ひび割れの発生確率が低く抑えられるための最高中心温度の上限値である。そして、図8にプロットされた3点で示される相関関係は、上式(1)に近似される。すなわち、式(1)の関係を満足するように孔径φとαの値とを設定することにより、冷却中のコンクリート体1の最高中心温度を60℃に抑えることができ、その結果、コンクリート体1の温度ひび割れの発生確率を低く抑えることができる。
【0037】
なお、鉛直孔5の配置密度について、上式(1)に従えば、鉛直孔5の孔径が30mmであるときには鉛直孔5を1m当たり5.7本設け、鉛直孔5の孔径が50mmであるときには鉛直孔5を1m当たり4.2本設け、鉛直孔5の孔径が100mmであるときには鉛直孔5を1m当たり3.5本設けることになる。
【0038】
また、溜水部7の深さは、80mm以上であることが好ましい。溜水部7の深さが80mm未満であれば冷却用空気を湿潤する効果が十分に得られない。更には、溜水部7の深さは、鉛直孔5の深さの1/3以下であることが好ましい。また、溜水部7の深さが鉛直孔5の深さの1/3よりも深い場合には、冷却用空気に接触する分の内側面5aの面積が小さくなり十分な冷却効率が得られない。
【0039】
以下、溜水部7の好ましい深さを80mm以上とする根拠となった試験について説明する。まず、本発明者らは、コンクリートを打設しコンクリート体1に鉛直孔5を設けた。その後、溜水等は行わず鉛直孔5内を空にしたままで、鉛直孔5内に種々の湿度の空気を流入させてコンクリート体1を冷却し、冷却が完了したコンクリート体1の含水率を測定した。流入させた空気(すなわち鉛直孔5の内側面5aに接触する空気;以下「接触空気湿度」)の湿度(%)と、コンクリート体1の含水率と、の相関関係が図9のように得られた。
【0040】
一般に、十分に養生されたコンクリートの含水率は10〜15%であることが必要である。よって、図9の相関関係から、接触空気湿度は80〜100%が必要であることが判明した。
【0041】
その一方、本発明者らは、上述した冷却方法において、溜水部7の深さと、集風部9bから送り込む冷却用空気の湿度(流入空気湿度)と、を変えながら、鉛直孔5の内側面5aに接触する冷却用空気の湿度(接触空気湿度)を測定する試験を行った。試験の結果、溜水部7の深さと接触空気湿度との相関関係は、図10に示す通りであった。図10によれば、溜水部7の深さを80mm以上とすれば、流入空気湿度に関わらず、接触空気湿度が80〜100%になることが判明した。よって、溜水部7の深さを80mm以上にすることで、接触空気湿度が80〜100%になり、その結果、コンクリートの含水率が10〜15%と良好な値になる。
【0042】
なお、溜水部7の深さを100mm以上とすると更に好ましい。すなわち、図10に示されるとおり、溜水部7の深さを100mm以上とすれば、流入空気湿度に関わらず、接触空気湿度を100%近くにすることができる。よって、溜水部7の深さを100mm以上とすることにより、上記の良好なコンクリートの含水率を、余裕をもって実現することができる。
【0043】
以上、本発明の好適な一実施形態について説明したが、本発明は、この実施形態に限定されるものではない。例えば、実施形態の冷却方法で用いたミスト扇風機13に代えて、通常の送風機を用いてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1…コンクリート体、1a…上面、5…鉛直孔(冷却孔)、5a…内側面、7…溜水部、9,109…送風管、9a…先端ノズル(送風管の先端部)、9c…管体、9f…排気口、23…給水管、109a…ノズル部品(送風管の先端部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートを打設後に冷却するコンクリートの冷却方法であって、
打設されたコンクリート体の上面に、前記コンクリート体の表面を内側面に露出させた状態の有底の冷却孔を形成する冷却孔形成工程と、
前記冷却孔形成工程で形成された前記冷却孔の底部に水を溜め、前記水の中に挿入した送風管を通じて前記水の中に冷却用空気を送り込む送気工程と、
を備えたことを特徴とするコンクリートの冷却方法。
【請求項2】
前記送気工程では、
前記冷却用空気に霧を含ませることを特徴とする請求項1に記載のコンクリートの冷却方法。
【請求項3】
前記送気工程で前記水中に挿入される前記送風管の先端部には、前記冷却用空気の排気口が複数設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のコンクリートの冷却方法。
【請求項4】
前記送風管の先端部は、前記冷却用空気が通過する複数の管体を束ねて形成されており、
各前記管体の端部の開口が前記排気口を構成していることを特徴とする請求項3に記載のコンクリートの冷却方法。
【請求項5】
前記送気工程では、
前記冷却孔に給水管が更に挿入され、当該給水管を通じて外部からの水を前記冷却孔の底部に補充することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のコンクリートの冷却方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−237152(P2012−237152A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107303(P2011−107303)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】