説明

コンクリート基礎における傾斜孔形成具及び傾斜孔形成方法

【課題】型枠を用いて構築される建築物のコンクリート基礎に、排水管等の各種配管を挿通するための直管状の傾斜孔を、鉛直方向においてコンクリート基礎の外側方向が下方となるように所定角度で傾斜させて貫通形成するためのコンクリート基礎における傾斜孔形成具及び傾斜孔形成方法を提供することを目的とする。
【解決手段】基材シート5を拡径・縮径可能に中空筒状に巻形成したスリーブ2と、有蓋筒状体であって、一端に楕円状の蓋面3a,4aを斜設してなる一対の保形具3,4とからなり、一対の保形具3,4をスリーブ2の両端開口部2a,2bに、蓋面3a,4aが相互に平行となるように装着してなるコンクリート基礎における傾斜孔形成具1と、この傾斜孔形成具1を使用した傾斜孔形成方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は型枠を用いて構築される建築物のコンクリート基礎に、排水管等の各種配管を挿通するための直管状の傾斜孔を、鉛直方向においてコンクリート基礎の外側方向が下方となるように所定角度で傾斜させて貫通形成するためのコンクリート基礎における傾斜孔形成具及び傾斜孔形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から住宅等の建築物のコンクリート基礎には、給水管,排水管,ガス管,電気配線管,換気管その他の各種配管を挿通するために貫通孔が穿設されている。換気管用等の貫通孔は勾配を取る必要がなく、設置場所にも比較的制約は少ない。一方、排水管用の貫通孔は、建築物外面の美観、配管の破損のおそれ、敷地の有効利用等の観点から地中に埋設することが望ましく、又何より排水のための勾配を取る必要があるため、コンクリート基礎の外側方向が下方となるように所定角度で傾斜させて貫通形成する必要がある。換言すれば、コンクリート基礎の内側における開口部を外側方向における開口部よりも鉛直方向において高い位置に形成する必要がある。
【0003】
従来は、基礎コンクリートを打設する前に、基礎用鉄筋内の所定の箇所に排水管を設置した後に生コンクリートを打設して排水管を埋設していた。或いはピット工法といって、コンクリート基礎の内側水平面における排水管を設置する部分の基礎用配筋内に直方体状の箱を設置した状態でコンクリートを打設し、コンクリート固化後に箱を取り除くことによって形成されるコンクリートが打設されていない直方体状のスペースを排水管を設置するスペースとしていた。その後このスペースに連結できるようにコンクリート基礎の外側垂直面に予め穿設しておいた孔を使用して所定角度で屈曲するように排水管を設置し、スペース内に砂又はモルタルを充填していた。
【0004】
更に、近時は基礎用のコンクリートを打設する前に、基礎用鉄筋内の所定の箇所に、さや管を設置した後にコンクリートを打設してさや管を埋設し、コンクリート固化後に、さや管内に排水管を挿通するさや管が提供されている(特許文献1)。また、さや管に挿通する排水管を可撓管とし、基礎コンクリートの外側面に露出したさや管の一端の開口部に環状の防水パッキンを取付けて、防水パッキンの内周縁を可撓管の一端の硬質直管部に弾接させ、可撓管の両端の硬質直管部に屋外排水管と屋内排水管をそれぞれ管継手を介して接続した配管構造とすることにより、水密性が良好で、基礎貫通部材の可撓管の上端の位置を低く設定しても水密性を損なう心配がない、施工性に優れた排水管の配管構造も提供されている(特許文献2)。
【0005】
また、本願出願人は先にコンクリート構造物に配管,配線用その他の用途に用いられる直管部材を敷設するに際して、スリーブでなる孔形成具をスリーブ取付具に固定した永久磁石の磁力によってコンクリート構造物内の配管部材を敷設すべき箇所にあるコンクリート打設用型枠に固定し、コンクリートの固化後に型枠を除去してから孔形成具を取り除くことによって、コンクリート壁等の構造物に配管用の孔を形成し、その後にこの孔に直管部材を挿通する方法を提案している(特許文献3)。かかる方法によれば、孔形成具のスリーブ取付具が磁力によって型枠に密着するため、取り付けるべき位置に孔形成具を精確に取り付けることができるとともに孔形成具の取り外しも容易であり、スリーブ取付具が型枠に密着しているため、コンクリートに覆われることもなく、孔形成具の取り付け取り外し時間も短縮可能であって工期の短縮をはかることができる。
【0006】
更に本願出願人は、特許文献3の構成を利用して、基材シートを拡径・縮径可能に中空筒状に巻形成し、一端に楕円状開口部を形成した一対のスリーブと、スリーブの他端の開口部に装着されたスリーブ開口保形具とからなり、スリーブの楕円状開口部を相互に密接させて固定することにより、一対のスリーブを所定角度に屈曲するように連接した屈曲孔形成具を提案している(特許文献4)。かかる構成によれば各種配管を挿通するための貫通孔を所定角度で屈曲する屈曲孔として簡単に形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−54203号公報
【特許文献2】特開2004−44170号公報
【特許文献3】特開2006−307447号公報
【特許文献4】特開2009−35982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の排水管を直接基礎コンクリート内に埋設する方法では、排水管に破損や水漏れ等の障害が生じる等してメンテナンス作業が必要となった場合には、基礎コンクリートや基礎コンクリート内の鉄筋を破壊しなければならず、作業が繁雑であるばかりか、建築物の強度に重大な影響を与えかねず、採用することはできない。また、ピット工法はメンテナンスのためには箱抜き部分のモルタルを除去するのみでよいが、モルタル除去の煩雑な作業を必要とし、砂又はモルタル部分は基礎コンクリートと一体化しておらず、強度的に劣っている。更にピット工法そのものが箱の取り付けに時間を要し、取り外しは箱を破壊しなければならず煩雑な手間や資材,労力を必要とするが、長期優良住宅の認定制度が始まり、多くのハウスメーカーで採用されている。
【0009】
特許文献1,2に示すさや管は、前記した従来工法の問題点を解決することができ、平成12年6月に施行された「住宅の品質確保促進法」が示す基準を充足している。しかしながら、さや管そのものは基礎コンクリート内に埋設放置されるものであり、再利用することができず、又さや管内に挿通する排水管としての可撓管は特殊な構造であり、通常の塩化ビニール製の排水管に比べて著しく高価となる。更に、排水管とさや管との間に空間部が形成されるため、排水管に結露が生じた場合等は水滴はさや管内に貯留されることとなり、衛生上の問題も生じる。
【0010】
また、特許文献4に示す屈曲管は、貫通孔が屈曲した形状を有しているため、屈曲している分だけ、直管状の貫通孔に比べて容積が増大し、その分だけコンクリートの欠損の部分が増加してしまう。このことは特許文献1,2においても同様である。よって、近時強く求められているコンクリート基礎部分におけるコンクリートの欠損を最小限とするために、貫通孔の容積を最小限とするとの要求を満たすことができない。
【0011】
「住宅の品質確保促進法」においては、「構造躯体に影響を及ぼすことなく専用配管の点検及び補修を行うことができること」、即ち、「排水管等の地中埋設管が、建物の構造体,コンクリート基礎内に埋め込まれていないこと」を充足する必要がある。そこで、近時は次のような事項が強く要請されている。先ず、(1)「住宅の品質確保促進法」の要求を充足することのできる配管設置用の貫通孔をコンクリート基礎構築時に貫通形成すること。(2)コンクリート基礎におけるコンクリートの欠損をできるだけ少なくすること。(3)貫通孔形成時にコンクリート基礎内に配筋される鉄筋を損傷しないこと。(4)貫通孔を精確に設置すること。(5)設置作業が容易に、かつ、短時間で行えることである。
【0012】
そこで本発明は上記従来の排水管形成方法が有している課題を解消して、さや管を使用することなく、又基礎部分におけるコンクリートの欠損を最小限とするために、貫通孔を直管状の傾斜孔として形成することにより、「住宅の品質確保促進法」が示す基準を充足するとともに、再利用可能で施工に時間と労力を要しないコンクリート基礎における傾斜孔形成具及び傾斜孔形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記目的を達成するために、基材シートを拡径・縮径可能に中空筒状に巻形成したスリーブと、有蓋筒状体であって、一端に楕円状の蓋面を斜設してなる一対の保形具とからなり、一対の保形具をスリーブの両端開口部に、蓋面が相互に平行となるように装着してなるコンクリート基礎における傾斜孔形成具を基本として提供する。また、基材シートを拡径・縮径可能に中空筒状に巻形成したスリーブと、有蓋筒状体であって、一端に楕円状の蓋面を斜設し、他端に挿入縁部を突設してなる一対の保形具とからなり、一対の保形具の挿入縁部をスリーブの両端開口部に、蓋面が相互に平行となるように挿入し、該一対の保形具をスリーブによって緊締してなるコンクリート基礎における傾斜孔形成具を提供する。
【0014】
そして、保形具の蓋面に、断面円形の胴部を連設し、該胴部の開放端部に挿入縁部を突設した構成、一対の保形具の蓋面をスリーブ方向に40度〜50度傾斜させてなる構成、一対の保形具によってスリーブの巻状態を保持する構成を提供する。また、一対の保形具の少なくとも一方に永久磁石を装備し、該永久磁石により生コンクリート打設用の型枠に傾斜孔形成具を磁着可能とした構成、一対の保形具を取り外すことにより、スリーブが縮径する構成と、スリーブ及び/又は保形具の材質として、ポリアミド,PBT,AES・ABS樹脂,ナイロン,ポリプロピレン等の合成樹脂を用いた構成を提供する。
【0015】
更に、上記した構成のコンクリート基礎における傾斜孔形成具の一対の保形具を、コンクリート基礎の生コンクリート打設用の外側型枠と内側型枠に、外側型枠方向が垂直方向において下方となるように設置した後、生コンクリートを外側型枠と内側型枠間に打設し、打設した生コンクリートの固化後に外側型枠と内側型枠及び傾斜孔形成具を順次取り除くことによって、建築物のコンクリート基礎に配管を挿通するための直管状の傾斜孔を形成するコンクリート基礎における傾斜孔形成方法を提供する。
【0016】
また、一方の保形具を、コンクリート基礎の外側垂直面を形成すべき箇所にある生コンクリート打設用の外側型枠に、外側型枠方向が垂直方向において下方となるように設置した後、内側水平面まで生コンクリートを打設して固化させ、その後に、内側垂直面を形成すべき箇所に生コンクリート打設用の内側型枠を設置し、外側型枠と内側型枠間に生コンクリートを打設して固化させた後に、外側型枠と内側型枠及び傾斜孔形成具を順次取り除くことによって、建築物のコンクリート基礎に配管を挿通するための直管状の傾斜孔を形成するコンクリート基礎における傾斜孔形成方法を提供し、傾斜孔形成具の取り除きに際して、外側型枠と内側型枠を取り外した後に、一対の保形具を取り除くことにより、スリーブを縮径させて取り出し可能とした。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかるコンクリート基礎における傾斜孔形成具及び傾斜孔形成方法によれば、一対の保形具に斜設した楕円状の蓋面の斜設角度を選択することによって、施工する傾斜孔の角度を自由に設定することができ、設定された斜設角度を有する貫通孔を直管状の傾斜孔として形成することができる。そのため、コンクリート内に放置されるさや管を使用することなく、排水管用等の貫通孔をコンクリートの欠損を最小限として形成することができる。
【0018】
そして、一対の保形具を、コンクリート基礎の生コンクリート打設用の外側型枠と内側型枠に、外側型枠方向が垂直方向において下方となるように設置した後、生コンクリートを外側型枠と内側型枠間に打設し、打設した生コンクリートの固化後に外側型枠と内側型枠を取り外した後に、一対の保形具を取り除くことにより、スリーブを縮径させて取り除くことによって、傾斜孔内に傾斜孔形成具を残すことなく、傾斜孔を形成することができる。
【0019】
一方の保形具に装備した永久磁石を用いて傾斜孔形成具を設置するため、その作業が簡単、かつ、精確に行えるとともに、作業時においても前もって組み立てておいた傾斜孔形成具を取り付け位置に磁着させるだけでよく、取り付け作業そのものは極めて短時間で行うことができ、取り外し作業もほとんど労力を費やすことがないので、作業時間と作業コストを大幅に低減することができる。更にスリーブや保形具からなる傾斜孔形成具の全ての部材を繰り返して利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明にかかる傾斜孔形成具の全体正面図。
【図2】図1のA−A断面図。
【図3】傾斜孔形成具の組付状態を示す説明図。
【図4】スリーブの全体斜視図。
【図5】スリーブの側面図。
【図6】図5のB−B断面図。
【図7】第1保形具の全体斜視図。
【図8】第1保形具の正面図。
【図9】第1保形具の蓋面側の側面図。
【図10】第1保形具の挿入縁部側の側面図。
【図11】図10のC−C断面図。
【図12】図9のD−D断面図。
【図13】第2保形具の全体斜視図。
【図14】第2保形具の正面図。
【図15】第2保形具の蓋面側の側面図。
【図16】第2保形具の挿入縁部側の側面図。
【図17】図15のE−E断面図。
【図18】傾斜孔形成具を外側型枠に設置した状況を示す説明図。
【図19】スラブ面まで生コンクリートを打設した状況を示す説明図。
【図20】内側型枠を設置した状態を示す説明図。
【図21】生コンクリートの打設を完了した状態を示す説明図。
【図22】傾斜孔形成具の取り外し方法の説明図。
【図23】完成した傾斜孔を示す説明図。
【図24】傾斜管の施工状況を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下図面に基づいて本発明にかかるコンクリート基礎における傾斜孔形成具及び傾斜孔形成方法の実施形態を説明する。図1は本発明にかかる傾斜孔形成具1の全体正面図であり、図2は図1のA−A断面図、図3は傾斜孔形成具1の組付状態を示す説明図である。傾斜孔形成具1は、拡径・縮径可能に中空筒状に巻形成され、両端に開口部2a,2bを形成したスリーブ2と、スリーブ2の一方の開口部2aに装着された第1保形具3と、スリーブ2の他方の開口部2bに装着された第2保形具4とからなる。
【0022】
図4はスリーブ2の全体斜視図、図5はスリーブ2の側面図、図6は図5のB−B断面図であり、スリーブ2は矩形状の基材シート5を、形成する傾斜孔の径長と同一のサイズの径長を含んで拡径・縮径可能となるように巻いて熱処理することにより、中空筒状に巻形成して製作される。図に示すように、スリーブ2は基材シート5を所定回数(図示例では2周を超えるように)巻形成してなり、外側端部2c及び内側端部2dが移動自在な自由端部となっているため、自在に拡径・縮径可能であり、スリーブ2の径長は使用目的に応じて適宜に設定することが可能である。なお、常時は縮径方向に付勢されて縮径状態にあり、外側端部2c及び内側端部2dの位置を変化させることによって拡径することができる。そして、スリーブ2の両端部には円形の開口部2a,2bが形成されている。
【0023】
スリーブ2は外圧に弱く、又外側端部2c及び内側端部2dがともに自由端部となっているため、そのままでは形成する傾斜孔に合った所定の径長及び形態を保つことができない。そこで、スリーブ2の一方の開口部2aには第1保形具3を、スリーブ2の他方の開口部2bには第2保形具4をそれぞれ装着することによって、スリーブ2の巻状態を形成する傾斜孔に合った所定の径長及び形態に保持するようにしている。即ち、一対の保形具としての第1保形具3と第2保形具4の挿入縁部3d,4dをスリーブ2の両端開口部2a,2bに、蓋面3a,4aが相互に平行となるように挿入し、一対の保形具としての第1保形具3と第2保形具4をスリーブ2で緊締することによって傾斜孔形成具1が構成される。
【0024】
図7は第1保形具3の全体斜視図、図8はその正面図である。第1保形具3は中空の有蓋筒状体であって、一端に楕円状の蓋面3aをスリーブ2方向に角度α(図示例では45度)だけ傾斜させて斜設するとともに、この蓋面3aに断面円形の胴部3bを連設している。胴部3bは、蓋面3aが角度αだけスリーブ2方向に傾斜しているため、図8に示すように正面視において三角形状を呈している。この胴部3bの開放端部3cに開放端部3cより径小の挿入縁部3dを突設している。挿入縁部3dを、図3に示すようにスリーブ2の開口部2aをやや拡径させて挿入してからスリーブ2を縮径させ、スリーブ2の内周面に密接するように装着する。この挿入縁部3dによって、縮径しようとするスリーブ2を規制して、スリーブ2を所定の径長に保形する。図示例では、挿入縁部3dを中空筒状に形成して、開放端部3cの全周に突設したが、スリーブ2の開口部2aを保形できればどのような形状であってもよい。
【0025】
第1保形具3の蓋面3aには2つの開口部3eが穿設され、この開口部3eに、図12に示すように中空リング状の周壁6aと該周壁6aの端部に直交して外方に形成された鍔部6bとからなる断面鈎型のリング状ヨーク6が嵌合されている。リング状ヨーク6の鍔部6bは第1保形具3の蓋面3aからその厚み分だけ突出しており、このリング状ヨーク6の周壁6a内に開口部3eより径大の円盤状バックヨーク7に固着された永久磁石8が嵌合されて第1保形具3に装着されている。永久磁石8の厚さは第1保形具3の蓋面3aと略同一の厚さか、リング状ヨークの周壁6aよりもやや薄く形成されており、リング状ヨーク6の鍔部6bよりやや内側に位置している。3fは第1保形具3の蓋面3aに穿設された操作用孔であり、第1保形具3を取り外す際に適宜の工具を挿入して使用する。
【0026】
永久磁石8は裏面に配備した円盤状バックヨーク7と、外面方向から配備したリング状ヨーク6によって壺ヨークと同様の形状となって磁力が高められ、永久磁石8を生コンクリート打設用の外側型枠10の内側に安定して固着することができる。また、円盤状バックヨーク7が固着された永久磁石8とリング状ヨーク6,第1保形具3はそれぞれ別体の部材であって分離可能であり、個別に補充や再利用することができる。また、磁石の他の固定手段を採用すればリング状ヨーク6と円盤状バックヨーク7は省略することもできる。
【0027】
永久磁石8の取付けは第1保形具3の蓋面3aに穿設した開口部3eの外面側からリング状ヨーク6の周壁6aを差し込み、次に内面側から円盤状バックヨーク7を固着した永久磁石8をリング状ヨーク6の周壁6a内に挿入して固定する。図示例では2個の永久磁石8を用いているが、第1保形具3の径長が大きいケースでは3個以上の永久磁石8を固着してもよいし、或いは第1保形具3の径長が小さいケースでは1個の永久磁石8を固着してもよい。
【0028】
永久磁石8単体に比較して、円盤状バックヨーク7を装着した永久磁石8は大きく磁力が向上する。永久磁石8そのものは脆くて割れやすいものであるが、円盤状バックヨーク7を固着することによって取扱いが容易となり、リング状ヨーク6によって永久磁石8が直接生コンクリート打設用の外側型枠10に触れないようにしているため永久磁石8が保護される。
【0029】
図13は第2保形具4の全体斜視図、図14はその正面図である。第2保形具4は中空の有蓋筒状体であって、一端に楕円状の蓋面4aをスリーブ2方向に角度β(図示例では45度)だけ傾斜させて斜設するとともに、この蓋面4aに断面円形の胴部4bを連設している。胴部4bは、蓋面4aが角度βだけスリーブ2方向に傾斜しているため、図14に示すように正面視において三角形状を呈している。この胴部4bの開放端部4cに開放端部4cより径小の挿入縁部4dを突設している。この挿入縁部4dを、図3に示すようにスリーブ2の開口部2bをやや拡径させて挿入してからスリーブ2を縮径させ、スリーブ2の内周面に密接するように装着する。この挿入縁部4dによって、縮径しようとするスリーブ2を規制して、スリーブ2を所定の径長に保形する。図示例では、挿入縁部4dを中空筒状に形成して、開放端部4cの全周に突設したが、スリーブ2の開口部2bを保形できればどのような形状であってもよい。4eは第2保形具4の蓋面4aに穿設された操作用孔であり、第2保形具4を取り外す際に適宜の工具を挿入して使用する。よって、第2保形具4は、永久磁石8に関する構成以外は、第1保形具3と対称の形状である。
【0030】
第1保形具3の蓋面3aを斜設する角度α、及び第2保形具4の蓋面4aを斜設する角度βは任意の角度に設定することができるが、角度αとβは同一角度に設定する必要がある。これは蓋面3a,4aが相互に平行となるようにスリーブ2に装着する必要があるためである。なお、角度αとβの好ましい設定角度としては40度〜50度の範囲が適当である。
【0031】
上記したスリーブ2、第1保形具3、第2保形具4の材質としては生コンクリートの打設圧力に耐え、コンクリート固化後に取り外すことができるものであれば特に限定はなく、厚さ1mm程度のポリアミド,PBT,塩化ビニール,AES・ABS樹脂,ナイロン,ポリプロピレン等の合成樹脂が適当であるが、他の紙その他の素材であってもよい。スリーブ2の径長は使用目的に応じて適宜に設定することが可能である。
【0032】
そして、図1,図3に示すように、スリーブ2の開口部2aに装着する第1保形具3の蓋面3aと、開口部2bに装着する第2保形具4の蓋面4aとが相互に平行となるように、スリーブ2に第1保形具3と第2保形具4を装着して、傾斜孔形成具1を組み立てる。よって、傾斜孔形成具1は、蓋面3a,4aを鉛直方向に垂下させた場合に所定の角度で傾斜した状態に位置する。
【0033】
次に、この傾斜孔形成具1を使用して、建築物のコンクリート基礎における傾斜孔を形成する方法を説明する。図18は基礎コンクリート内に排水管用の傾斜孔を形成するために、傾斜孔形成具1を生コンクリート打設前の外側型枠10に設置した状況を示す説明図、図19は基礎コンクリートの内側水平面12(スラブ面)まで生コンクリートを打設した状況を示す説明図、図20は内側型枠11を設置した状態を示す説明図、図21は生コンクリートの打設を完了した状態を示す説明図である。図において、14は填圧した砕石であり、この砕石14の上に基礎の垂直部13の外側垂直面13a(図23参照)を形成する外側型枠10を立設し、主筋15,スターラップ筋16(あばら筋),スラブ桁方向筋17、スラブ妻方向筋18を配筋する。なお、19はスターラップ筋16を受けるための受け筋である。
【0034】
そして、基礎コンクリートの傾斜孔を形成する箇所における各種配筋に対して必要なコンクリートの被りがとれない配筋を切断し、傾斜孔形成具1を挿入するスペースを確保するとともに、必要に応じて切断した配筋を補強筋で補強する。このようにして確保したスペースに、第1保形具3の蓋面3aを鉛直方向となるように、かつ、鉛直方向において第2保形具4より下方に位置するように、第1保形具3の蓋面3aに装備した永久磁石8を、生コンクリート打設用の外側型枠10の内側に磁着させて所定の位置に固定する。即ち、傾斜孔形成具1は外側型枠10方向が垂直方向において下方となるように傾斜して、外側型枠10に固定される。なお、外側型枠10の材質としては、永久磁石8が磁着できる材質を使用する。
【0035】
打設される生コンクリート20の圧力や浮力は永久磁石8に対して梃子の原理で作用するので、永久磁石8による第1保形具3の固定だけでは傾斜孔形成具1の設置位置を精確に確保できないことが考えられる。そこで、スリーブ2を公知のスリーブホルダ9で近傍の鉄筋に固着する。なお、スリーブホルダ9の構成は特に限定はなく、近傍の鉄筋に固定できるものであれば、どのようなものでもよい。また、針金等の適宜材質の結線具で結線するだけでもよい。永久磁石8による固定とスリーブホルダ9による固定を併用することによって生コンクリート20の打設時の圧力や振動に充分耐えることができる。
【0036】
このように永久磁石8を用いたことによって傾斜孔形成具1を容易に所望の位置に、かつ、水平線に対して所定角度(図示例では45度)で傾斜させて配置することが可能であり、傾斜孔形成具1の取り付け位置が決まれば、各種配筋との距離を計って永久磁石8を外側型枠10にワンタッチで磁着させるだけでよく、取り付け作業そのものは極めて短時間で、かつ、精確に行うことができる。
【0037】
次に図19に示すように、外側型枠10とスラブコンクリートの位置する内側水平面12(スラブ面)まで生コンクリート20を打設し、所定期間養生させて固化させる。その後、図20に示すように垂直部13の内側垂直面13b(図23参照)を形成すべき箇所に設置した生コンクリート打設用の内側型枠11の内面に、第2保形具4の蓋面4aが当接するように設置する。このとき、傾斜孔形成具1は第1保形具3,スリーブホルダ9及び固化済みの内側水平面12まで生コンクリートによって支持されて固定されているため、改めて内側型枠11に第2保形具4を固定する必要はない。
【0038】
そして、図20に示す外側型枠10と内側型枠11との間に生コンクリート20を打設して、図21に示す状態に保持して打設した生コンクリートを固化させて所定期間養生させる。
【0039】
次に、生コンクリート20の固化後における傾斜孔形成具1の取り外し方法を図22に基づいて説明する。先ず、図21に示す外側型枠10と内側型枠11との間への生コンクリートの打設及び養生が終了した状態から、図22(A)に示すように、外側型枠10及び内側型枠11を順次取り外して、傾斜孔形成具1を露出させる。次に、図22(B)に示すように、第1保形具3の操作用孔3fにフック状の金具その他の工具を挿入して、第1保形具3をスリーブ2から離脱させて取り外す。同様に第2保形具4の操作用孔4eにフック状の金具その他の工具を挿入して第2保形具4をスリーブ2から離脱させて取り外す。
【0040】
図22(C)に示す状態において、スリーブ2は支えとなる第1保形具3及び第2保形具4が存在しないため、内側端部2dから内側に縮径するように付勢される。そこで、スリーブ2を内側に巻き込むように、即ち縮径する方向に回転させながら引き抜けば、図22(D)に示すように、建築物のコンクリート基礎に配管を挿通するための直管状の傾斜孔30を鉛直方向においてコンクリート基礎の外側方向が下方となるように形成することができる。取り出したスリーブ2、第1保形具3、第2保形具4は全て繰り返しての再利用が可能である。
【0041】
上記実施形態では、傾斜孔30の鉛直方向において上方に位置する開口部30bをコンクリート基礎の垂直部13に開口したが、内側水平面12や、垂直部13と内側水平面12に跨がるように開口してもよい。また、内側水平面12にもスラブ桁方向筋17やスラブ妻方向筋18を配筋したベタ基礎としたが、内側水平面12への配筋をせずに打設した防湿コンクリートを土間コンクリートとする構成とすることもできる。
【0042】
このようにして形成した傾斜孔30の外側垂直面13a側の開口部30a又は内側垂直面13b側の開口部30bから所定長さの直管21を差し込んで、傾斜孔30の中央部に位置させ、直管21の両端部にそれぞれ所定角度(図示例では45度)のエルボ管22,23を挿入固定して、排水管等として使用する傾斜管31を直管状の傾斜孔30内に設置することができる。垂直部13の外側垂直面13aから露出したエルボ管22には配管状況に応じて直管24を連結して建物外の排水桝へ配管する。一方、垂直部13の内側垂直面13bから露出したエルボ管23には配管状況に応じて直管25を連結して建物内の排水設備からの配管に連結する。なお、エルボ管22,23を使用することなく、フレキシブルに屈曲可能なフレキシブル管を挿通することも可能である。
【0043】
傾斜孔30と傾斜管31との間の隙間には砂等の充填物を充填し、開口部30a及び開口部30bにおける隙間をモルタル等で充填することにより施工が完了する。これにより、傾斜孔30と傾斜管31との間の隙間が閉塞されるため、防蟻上の問題もなく、また、傾斜管31の交換等の必要が生じた場合でも基礎コンクリートに影響を与えることなく、容易に交換或いは補修・点検することができる。
【0044】
傾斜孔30は傾斜管31を構成する直管21が挿通できる直径のサイズであればよく、しかも直管状であるため、その容積を必要最小限とすることができる。これによりコンクリート構造物への強度の影響、傾斜孔30から各種配筋へのコンクリートの被り、グランドレベルとの兼ね合い等施工上の困難を最小限とすることができ、高い実用性を有する。即ち、基礎部分におけるコンクリートの欠損を最小限とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明にかかるコンクリート基礎における傾斜孔形成具及び傾斜孔形成方法によれば、一対の保形具に斜設した楕円状の蓋面の斜設角度を選択することによって、施工する傾斜孔の角度を自由に設定することができ、設定された斜設角度を有する貫通孔を直管状の傾斜孔として形成することができる。即ち、施工する傾斜孔の角度は第1保形及び第2保形具の蓋面の傾斜角度を選択することにより自由に設定することができ、容易に所定角度に傾斜した直管状の傾斜孔を形成できる。そのため、コンクリート内に放置されるさや管を使用することなく、排水管等の貫通孔をコンクリートの欠損を最小限として形成することができる。
【0046】
そして、一対の保形具を、コンクリート基礎の生コンクリート打設用の外側型枠と内側型枠に、外側型枠方向が垂直方向において下方となるように設置した後、生コンクリートを外側型枠と内側型枠間に打設し、打設した生コンクリートの固化後に外側型枠と内側型枠を取り外した後に、一対の保形具を取り除くことにより、スリーブを縮径させて取り除くことによって、傾斜孔内に傾斜孔形成具を残すことなく、傾斜孔を形成することができる。
【0047】
一方の保形具に装備した永久磁石を用いて傾斜孔形成具を設置するため、その作業が簡単、かつ、精確に行えるとともに、作業時においても前もって組み立てておいた傾斜孔形成具を取り付け位置に磁着させるだけでよく、取り付け作業そのものは極めて短時間で行うことができ、取り外し作業もほとんど労力を費やすことがないので、作業時間と作業コストを大幅に低減することができる。更にスリーブや保形具からなる傾斜孔形成具の全ての部材を繰り返して利用することが可能である。
【0048】
そして、形成された傾斜孔に既存の直管を挿入して、直管の両端にエルボ管を連結すれば、所定角度で傾斜する排水管等の配管を施工することができる。なお、排水管と傾斜孔との間隙には砂等を充填し、開放端部にモルタルを充填しておけばよい。かかる構成であれば、メンテナンス時にコンクリート基礎にダメージを与えることなく、傾斜孔内の排水管等の配管のメンテナンスが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1…傾斜孔形成具
2…スリーブ
2a,2b…開口部
2c…外側端部
2d…内側端部
3…第1保形具
4…第2保形具
3a,4a…蓋面
3b,4b…胴部
3c,4c…開放端部
3d,4d…挿入縁部
3e…開口部
3f,4e…操作用孔
5…基材シート
6…リング状ヨーク
7…円盤状バックヨーク
8…永久磁石
9…スリーブホルダ
10…外側型枠
11…内側型枠
12…内側水平面
13…垂直部
14…砕石
15…主筋
16…スターラップ筋
17…スラブ桁方向筋
18…スラブ妻方向筋
19…受け筋
20…生コンクリート
21,24,25…直管
22,23…エルボ管
30…傾斜孔
31…傾斜管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートを拡径・縮径可能に中空筒状に巻形成したスリーブと、有蓋筒状体であって、一端に楕円状の蓋面を斜設してなる一対の保形具とからなり、一対の保形具をスリーブの両端開口部に、蓋面が相互に平行となるように装着してなることを特徴とするコンクリート基礎における傾斜孔形成具。
【請求項2】
基材シートを拡径・縮径可能に中空筒状に巻形成したスリーブと、有蓋筒状体であって、一端に楕円状の蓋面を斜設し、他端に挿入縁部を突設してなる一対の保形具とからなり、一対の保形具の挿入縁部をスリーブの両端開口部に、蓋面が相互に平行となるように挿入し、該一対の保形具をスリーブによって緊締してなることを特徴とするコンクリート基礎における傾斜孔形成具。
【請求項3】
保形具の蓋面に、断面円形の胴部を連設し、該胴部の開放端部に挿入縁部を突設した請求項2記載のコンクリート基礎における傾斜孔形成具。
【請求項4】
一対の保形具の蓋面をスリーブ方向に40度〜50度傾斜させてなる請求項1,2又は3記載のコンクリート基礎における傾斜孔形成具。
【請求項5】
一対の保形具によってスリーブの巻状態を保持する請求項1,2,3又は4記載のコンクリート基礎における傾斜孔形成具。
【請求項6】
一対の保形具の少なくとも一方に永久磁石を装備し、該永久磁石により生コンクリート打設用の型枠に傾斜孔形成具を磁着可能とした請求項1,2,3,4又は5記載のコンクリート基礎における傾斜孔形成具。
【請求項7】
一対の保形具を取り外すことにより、スリーブが縮径する請求項1,2,3,4,5又は6記載のコンクリート基礎における傾斜孔形成具。
【請求項8】
スリーブ及び/又は保形具の材質として、ポリアミド,PBT,AES・ABS樹脂,ナイロン,ポリプロピレン等の合成樹脂を用いた請求項1,2,3,4,5,6又は7記載のコンクリート基礎における傾斜孔形成具。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれかに記載のコンクリート基礎における傾斜孔形成具の一対の保形具を、コンクリート基礎の生コンクリート打設用の外側型枠と内側型枠に、外側型枠方向が垂直方向において下方となるように設置した後、生コンクリートを外側型枠と内側型枠間に打設し、打設した生コンクリートの固化後に外側型枠と内側型枠及び傾斜孔形成具を順次取り除くことによって、建築物のコンクリート基礎に配管を挿通するための直管状の傾斜孔を形成することを特徴とするコンクリート基礎における傾斜孔形成方法。
【請求項10】
請求項1〜請求項8のいずれかに記載のコンクリート基礎における傾斜孔形成具の一方の保形具を、コンクリート基礎の外側垂直面を形成すべき箇所にある生コンクリート打設用の外側型枠に、外側型枠方向が垂直方向において下方となるように設置した後、内側水平面まで生コンクリートを打設して固化させ、その後に、内側垂直面を形成すべき箇所に生コンクリート打設用の内側型枠を設置し、外側型枠と内側型枠間に生コンクリートを打設して固化させた後に、外側型枠と内側型枠及び傾斜孔形成具を順次取り除くことによって、建築物のコンクリート基礎に配管を挿通するための直管状の傾斜孔を形成することを特徴とするコンクリート基礎における傾斜孔形成方法。
【請求項11】
傾斜孔形成具の取り除きに際して、外側型枠と内側型枠を取り外した後に、一対の保形具を取り除くことにより、スリーブを縮径させて取り出し可能とした請求項9又は10記載のコンクリート基礎における傾斜孔形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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