説明

コンデンサ式溶接方法及び溶接装置

【課題】簡単な回路構成で、励磁電流が流れている溶接電極間を開放するときにアフターフラッシュが発生したり、1次巻線に大きなサージ電圧が発生したりするのを防止すること。
【解決手段】本発明に係るコンデンサ式溶接方法は、溶接用コンデンサに充電された充電電荷を放電して、放電用スイッチを通して放電電流が実質的に流れない状態になると、溶接トランスの1次巻線を流れていた励磁電流は2次巻線に転流し、励磁電流が2次巻線を流れている状態で第1の溶接電極と第2の溶接電極との間を開放するときには、放電用スイッチに駆動信号を与えてオンできる状態にし、第1の溶接電極と前記第2の溶接電極との間を開放するときに溶接トランスの1次巻線に生じるサージ電圧を放電用スイッチを通して溶接用コンデンサにサージ電流として流す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、充電回路により溶接用コンデンサに蓄えたエネルギーを溶接トランスを介して短時間で溶接電極間に放電することによって被溶接物を溶接するコンデンサ式溶接方法及び溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサ式溶接装置は、放電時間に比べて長い時間をかけて溶接用コンデンサに溶接電力を蓄え、それを短時間で一気に放電するので、一般的な交流溶接装置に比べて、受電設備が大容量化しないという設備面での利点がある。また、被溶接物が加熱される度合いが小さいので、溶接箇所の溶接痕(焼け)がほとんど無く、また歪なども小さいという利点を有することから小型から大型までの産業設備で採用されている。
【0003】
コンデンサ式溶接装置は、一般的に多数の電解コンデンサを並列接続してなるコンデンサバンクを溶接用コンデンサとして用いている(例えば、特許文献1参照)。コンデンサ式溶接装置による溶接方法は広く知られているので詳しく説明しないが、溶接電極間に被溶接物を配置した後、溶接電極間の間隔を狭め、溶接電極で被溶接物に所定の加圧力(鍛圧)を与える。このような機械的動作を行いながら、並行して溶接用コンデンサを充電し、溶接用コンデンサの充電電圧が所定値まで上昇すると、充電回路をオフにし、溶接電極が被溶接物に加圧力を与えた状態で、放電用スイッチをオンさせる。このようにすることによって、溶接トランスの1次巻線には急峻に増大するパルス状の電流が流れる。溶接トランスの2次巻線は1ターン程度であって、1次巻線の巻数よりも大幅に少ないので、2次巻線には1次側電流よりも大幅に大きなパルス状の溶接電流が被溶接物に流れて溶接を行い、溶接物品を短時間で得ることができる。
【0004】
従来のコンデンサ式溶接装置にあっては、溶接用コンデンサの放電回路における回路定数などによって放電電流、つまり溶接電流の波尾が長くなるものがある。このように波尾の長い溶接電流が流れるコンデンサ式溶接装置を用いて短い周期で溶接を行う場合、溶接電極の機械的な動作時間を考慮すると、溶接結果に影響を及ぼさない溶接電流の波尾をカットする。つまり、減少した溶接電流が溶接電極間をまだ流れているときに、溶接電極間が開く方向に溶接電極を移動させ始め、出来るだけ溶接周期を短くすることが行われている。
【0005】
この場合、溶接トランスの2次巻線に溶接電流の波尾部分が流れているときにその2次巻線間を開放するので、その1次巻線間に大きな電圧が誘起されると同時に、溶接電極と被溶接物との間にアフターフラッシュと称されるスパークが発生し、被溶接物に傷をつけてしまうという問題がある。このアフターフラッシュの問題を解決する考案が既に提案されている(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2では、アフターフラッシュを防止するために、溶接トランスの1次巻線間に、ダイオードとインピーダンスとを直列接続してなる一方向インピーダンス回路を備えている。この一方向インピーダンス回路は溶接電流の波尾部分が溶接電極間を流れている状態で、溶接電極間を開放する際に発生するアフターフラッシュを防止するには有効な手段である。
【0006】
しかしながら、本発明が適用されるコンデンサ式溶接方法及び溶接装置にあっては、回路内のインダクタンス成分と溶接用コンデンサなどのキャパシタ成分との振動(共振)を利用している。このため、溶接用コンデンサの放電電流波形はインダクタンス成分とキャパシタ成分との振動動作によって正弦波状に近い波形となるので、溶接周期に影響を与えるような長い波尾は生じない。したがって、本発明では、溶接周期を短くする場合において、溶接電流の波尾は特に考慮する必要がないが、溶接トランスの励磁電流が問題となることが分かったので、この励磁電流に起因する問題を解決する。
【0007】
溶接用コンデンサが放電される際の溶接トランスの励磁電流については後に詳述するので、ここでは簡単に述べる。放電用スイッチがオンし、溶接用コンデンサの充電電圧が溶接トランスの1次巻線に加わるとき、1次巻線に励磁電流が流れる。この状態で、放電用スイッチがオフすると、1次巻線を流れていた励磁電流は溶接トランスの2次巻線に転流し、2次巻線及び溶接電極を通して還流する。なお、このとき、溶接用コンデンサの充電電荷の放電に伴う溶接電流は既に消滅しており、2次巻線を流れていない。一般的に、溶接が終わった後の溶接電極間のインピーダンスは非常に小さく、溶接トランスの2次側の回路の抵抗成分も小さくなるように製作されているので、溶接電流が消滅してから数秒以内に、励磁電流が溶接トランスの2次側の回路内による消費によって消滅されることはほとんど無い。
【0008】
したがって、インダクタンス成分と溶接用コンデンサなどのキャパシタ成分との振動を利用するコンデンサ式溶接にあっては、溶接周期をかなり長くしない限り、励磁電流が2次巻線から溶接電極間を流れている状態で、溶接電極間を開放することになる。このような状態で溶接電極間を開放すると、励磁電流によるアフターフラッシュが生じると共に、溶接トランスの1次巻線にかなり大きなサージ電圧が発生する。よって、アフターフラッシュによる傷が無い高品質の溶接物品を得るのは難しく、また、耐圧の大きなサイリスタなどの放電用スイッチを用いなければならないためコストアップの原因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−356230号公報
【特許文献2】実公平7−56137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1には、コンデンサ式溶接機が記載されているが、溶接トランスの2次巻線から溶接電極間に電流が流れているときに溶接電極間を開放することは勿論のこと、そのときの問題点などについても記述されていない。このため、特許文献1に記載される発明の場合、溶接トランスの2次巻線から溶接電極間に電流が流れているときに溶接電極間を開放するとアフターフラッシュが生じると共に、1次巻線に大きなサージ電圧が発生するので、耐圧の大きな放電用スイッチや充電回路などを用いなければならない。
【0011】
特許文献2に記載される考案は、充電電流の波尾が長い場合において、溶接周期を短縮するときに発生するアフターフラッシュを防止するためのものであり、ダイオードとインピーダンスとを直列接続してなる一方向インピーダンス回路を新たに備えている。しかし、特許文献2には、溶接トランスの1次巻線に流れていた励磁電流が2次巻線に転流して流れる動作や、励磁電流が2次巻線に流れているときに溶接電極間を開放した場合の問題及びその問題を解決する方法や手段については記述されていない。
【0012】
本発明は、上述した従来の課題を解決することを目的とする。本発明は、励磁電流が流れている状態で溶接電極間を開放するときには、溶接用コンデンサの充電電荷を放電するための放電用スイッチがオン状態にあるように設定することで、励磁電流が流れている溶接電極間を開放するときにアフターフラッシュが発生したり、1次巻線にサージ電圧が発生したりするのを防止することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の発明は、充電回路から給電される電力によって溶接用コンデンサを充電し、放電用スイッチをオンして前記溶接用コンデンサに充電された充電電荷を溶接トランスの1次巻線に放電し、前記溶接トランスの2次巻線及び該2次巻線に接続された第1の溶接電極と第2の溶接電極とを通して溶接電流を被溶接物に通電して該被溶接物を溶接するコンデンサ式溶接方法であって、前記溶接用コンデンサに充電された前記充電電荷を放電して、放電電流が前記放電用スイッチを通して実質的に流れない状態になると、前記溶接トランスの前記1次巻線を流れていた励磁電流は前記2次巻線に転流し、前記2次巻線に前記励磁電流が流れている状態で前記第1の溶接電極と前記第2の溶接電極との間を開放するときには、駆動信号を与えて前記放電用スイッチをオンできる状態にし、前記第1の溶接電極と前記第2の溶接電極との間を開放するときに前記溶接トランスの前記1次巻線に生じるサージ電圧を前記放電用スイッチを通して前記溶接用コンデンサにサージ電流として流すことを特徴とするコンデンサ式溶接方法を提案する。
【0014】
第2の発明は、前記第1の発明において、前記駆動信号は連続する信号又は高周波で断続する信号であり、前記駆動信号は、前記溶接用コンデンサに充電された充電電荷を放電するときに前記半導体スイッチに与えられ、その後、前記第1の溶接電極と前記第2の溶接電極との間を開放するときまで少なくとも前記半導体スイッチに与えられていることを特徴とするコンデンサ式溶接方法を提案する。
【0015】
第3の発明は、前記第1の発明において、前記駆動信号は連続する信号又は高周波で断続する信号であり、前記駆動信号は、前記溶接用コンデンサに充電された充電電荷を放電するときに前記半導体スイッチに与えられた後、前記駆動信号は前記半導体スイッチから除去され、前記第1の溶接電極と前記第2の溶接電極との間を開放する直前には少なくとも前記半導体スイッチに再び与えられることを特徴とするコンデンサ式溶接方法を提案する。
【0016】
第4の発明は、前記第1の発明ないし前記第3の発明のいずれかにおいて、前記放電用スイッチの再度のオンによって前記溶接用コンデンサに充電される前記サージ電流による電荷は前記充電電荷の極性と逆の逆極性電荷であり、その逆極性電荷は前記充電電荷と同極性の電荷として前記溶接用コンデンサに還流されて充電され、次の周期の前記充電電荷の一部分になることを特徴とするコンデンサ式溶接方法を提案する。
【0017】
第5の発明は、逆阻止機能を有する充電回路と、その充電回路から給電される電力によって充電される溶接用コンデンサと、前記溶接用コンデンサの充電電荷を放電する放電用スイッチと、1次巻線と2次巻線とを有する溶接トランスと、前記2次巻線に接続された第1の溶接電極と第2の溶接電極とを備え、前記放電用スイッチがオンするとき前記溶接用コンデンサの前記充電電荷を前記1次巻線に放電し、前記2次巻線及び前記第1の電極と前記第2の電極とを介して溶接電流を被溶接物に通電して、該被溶接物を溶接するコンデンサ式溶接装置であって、前記溶接トランスの前記2次巻線に励磁電流が流れている状態で前記第1の溶接電極と前記第2の溶接電極との間を開放するときに、前記放電用スイッチをオンできる状態にするための駆動信号を前記放電用スイッチに与えるコントローラを備え、前記第1の溶接電極と前記第2の溶接電極との間を開放するときに、前記溶接トランスの前記1次巻線に生じるサージ電圧を前記放電用スイッチを通して前記溶接用コンデンサにサージ電流として流すことを特徴とするコンデンサ式溶接装置を提案する。
【0018】
第6の発明は、前記第5の発明において、前記放電用スイッチの再度のオンによって前記溶接用コンデンサに充電される前記サージ電流による電荷は前記充電電荷の極性と逆の逆極性電荷であり、該逆極性電荷を前記充電電荷と同極性の電荷として前記溶接用コンデンサに流すエネルギー回収用スイッチが、前記放電用スイッチと逆の極性で並列に接続されることを特徴とするコンデンサ式溶接装置を提案する。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、簡単な回路構成で、励磁電流が流れている溶接電極間を開放するときにアフターフラッシュが発生するのを防止でき、1次巻線に大きなサージ電圧が発生するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態1に係るコンデンサ式溶接方法及び溶接装置を説明するための図である。
【図2】本発明の実施形態1に係るコンデンサ式溶接方法及び溶接装置を説明するための図であり、放電用スイッチ6がオンした直後の状態を説明する図である。
【図3】本発明の実施形態1に係るコンデンサ式溶接方法及び溶接装置を説明するための図であり、放電用スイッチ6がオフした直後の状態を説明する図である。
【図4】本発明の実施形態1に係るコンデンサ式溶接方法及び溶接装置を説明するための図であり、溶接電極間が開放された直後の状態を説明する図である。
【図5】本発明の実施形態1に係るコンデンサ式溶接方法を説明するための図であり、溶接電極間が開放されるときに放電用スイッチ6がオンする状態を説明する図である。
【図6】本発明の実施形態1に係るコンデンサ式溶接方法及び溶接装置を説明するための電圧波形、電流波形、駆動信号波形を示す図である。
【図7】本発明の実施形態2に係るコンデンサ式溶接方法及び溶接装置を説明するための図である。
【図8】本発明の実施形態2に係るコンデンサ式溶接方法及び溶接装置を説明するための電圧波形、電流波形、駆動信号波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係るコンデンサ式溶接方法及び溶接装置は、溶接用コンデンサに充電された充電電荷を溶接トランスの1次巻線を通して放電するために必要不可欠な放電用スイッチを、溶接トランスの2次巻線から溶接電極間に励磁電流が流れている状態で溶接用電極間を開放するときに、オン状態にあるように設定する。これにより、溶接トランスの励磁電流が流れている溶接電極間を開放するときにアフターフラッシュが発生したり、1次巻線にサージ電圧が発生したりするのを防止することを特徴としている。
【0022】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に示す実施形態によって、本発明は限定されるものではなく、本発明の技術思想から逸脱しない限り、本発明に含まれるものとする。また、本発明で用いる溶接という用語は、溶接箇所の発熱により双方の金属が溶融してナゲットを形成する溶接だけではなく、溶接箇所の発熱により双方の金属が塑性流動化して接合する拡散接合も含む。なお、本明細書及び図面において、符号が同じ構成要素は同一の名称の部材を示すものとする。第1の溶接電極7と第2の溶接電極8との間に溶接電流を流すために加圧力(鍛圧)を与える加圧機構や第1の溶接電極7又は第2の溶接電極8を駆動する駆動機構、各種の検出回路など、本発明の動作を説明する上で特に必要とならない機構については図示を省略する。
【0023】
[実施形態1]
図1〜図6によって本発明に係る実施形態1の溶接方法及びコンデンサ式溶接装置について説明する。図1に示すコンデンサ式溶接装置は、充電回路1、充電回路1の直流出力端子2と3、1次巻線4aと2次巻線4bとを有する溶接トランス4、溶接用コンデンサ5、放電用スイッチ6、2次巻線4bに接続されている第1の溶接電極7と第2の溶接電極8、放電用スイッチ6に絶縁駆動回路9を介してオン信号を与えるコントローラ10で構成される。なお、本実施形態1の説明においては、図1〜図6を適宜参照することとする。
【0024】
W1とW2とは、第1の溶接電極7と第2の溶接電極8との間に配置され、加圧された状態で溶接電流が通電されることにより溶接される被溶接物であり、ここでは溶接電流が通電して溶接が行われた後の被溶接物を溶接物品という。図1に示すコンデンサ式溶接装置は、溶接用コンデンサ5の充電電流と放電電流とが溶接トランス4の1次巻線4aを互いに逆方向に流れるので、溶接トランス4が偏励磁され難いという利点がある。
【0025】
充電回路1は、溶接用コンデンサ5を充電するための回路であり、回路構成は特に限定されない。充電回路1について具体的な回路を図示しないが、幾つかの例を簡単に述べる。入力電源としては、単相もしくは三相の商用交流電源、又は発電機などが用いられる。入力電源が単相交流電力である場合には、整流用ダイオードをブリッジ構成に接続した単相全波整流回路とその直流出力側に直列接続されたサイリスタのような半導体スイッチとからなる開閉機能を有する充電回路、又は整流用ダイオードとサイリスタとをブリッジ構成に接続した開閉機能を有する単相の混合ブリッジ形全波整流回路などを充電回路1として用いてもよい。また、入力電源が三相交流電力である場合には、整流用ダイオードを三相ブリッジ構成に接続した三相全波整流回路とその直流出力側に直列接続された半導体スイッチとを備えた開閉機能を有する充電回路、又は整流用ダイオードとサイリスタとを三相ブリッジ構成に接続した開閉機能を有する三相の混合ブリッジ形全波整流回路などを充電回路1として用いてもよい。
【0026】
また、充電回路1は、溶接用コンデンサ5が放電した後、溶接トランス4の漏れインダクタンスや回路のインダクタンス分を有する合成のインダクタンスLと溶接用コンデンサ5のキャパシタCとからなる振動(共振)による充電電圧とは逆極性の電圧、すなわち、反転電圧ではオンしないようにする。この動作を実現するために、反転電圧を阻止する開閉機能を有する回路構成のものを用いる。具体的には、充電用の整流回路の正極側または負極側の整流素子にサイリスタを用い、充電終了後にゲート信号を与えないようにする。
【0027】
溶接トランス4の1次巻線4aと溶接用コンデンサ5との直列回路は、充電回路1の直流出力端子2、3間に並列に接続される。溶接トランス4は、1ターン程度の2次巻線4bとこれに比べて巻数の大きな1次巻線4aとを有する一般的なものでよい。溶接トランス4の2次巻線4bの両端には、第1、第2の溶接電極7、8が接続される。第1、第2の溶接電極7、8は一般的なものでもよいので説明を省略する。溶接用コンデンサ5は、例えば、複数の有極性の電解コンデンサを並列に接続したブロックやこれらのブロックを複数個並列に接続したコンデンサバンク、又は無極性(両極性)の、例えばポリプロピレンフィルムコンデンサを複数個並列に接続したブロックやこれらのブロックを複数個並列に接続したコンデンサバンクなどである。
【0028】
放電用スイッチ6は、溶接トランス4の1次巻線4aと溶接用コンデンサ5との直列回路に並列に接続され、放電用スイッチ6がオンすると溶接用コンデンサ5からの放電回路が形成される。実施形態1では、放電用スイッチ6としてサイリスタを用いるので、実施形態1の以下の説明では、放電用スイッチ6を放電用サイリスタ6として説明する。また、放電用サイリスタ6は、アノード側が充電回路1の直流出力端子2に、カソード側が直流出力端子3にそれぞれ接続され、充電回路1がコンデンサ5を充電する期間では放電用サイリスタ6はオフ状態である。
【0029】
コントローラ10は、絶縁駆動回路9を介して放電用スイッチ6に駆動信号を与える。絶縁駆動回路9は、例えば、ホトカプラを用いて、コントローラ10からのゲート信号を絶縁伝達し、図示しないゲートアンプでサイリスタのゲート信号を発生する。ホトカプラとゲートアンプは一般的なものでもよいので、詳細な説明を省略する。実施形態1では、コントローラ10は、図6(C)に示すような時刻t1から時刻t2の後まで連続する駆動信号を絶縁駆動回路9を通して放電用サイリスタ6のゲート−カソード間に与える。
【0030】
次に、実施形態1にかかるコンデンサ式溶接方法及び装置の動作を説明する。図2は放電用サイリスタ6がオンして溶接用コンデンサ5の充電電荷を放電する状態を説明するための図、図3は溶接用コンデンサ5の充電電荷を放電して放電用サイリスタ6がオフした状態を説明するための図、図4は放電用サイリスタ6がオフした状態で第1の溶接電極7と第2の溶接電極8との間が開放された状態を説明するための図、図5は第1の溶接電極7と第2の溶接電極8との間が開放されるときに放電用サイリスタ6がオンする状態を説明するための図、図6は各部の電流波形と電圧波形、駆動信号波形を示す図である。
【0031】
図1において、充電回路1が充電動作を開始すると、直流電流が直流出力端子2から溶接トランス4の1次巻線4a、溶接用コンデンサ5を通して直流出力端子3に流れ、溶接用コンデンサ5は図2に示す極性で充電される。このような充電を、例えば交流電源の周波数で、所要のサイクル行うことによって、溶接用コンデンサ5の充電電圧は、段階的に上昇し、図2に示す所定の電圧(+V1)まで充電される。充電制御方法については、例えば、溶接用コンデンサ5が設定電圧になるまでは、溶接用コンデンサ5にほぼ一定の充電電流を流す定電流制御が行われる。
【0032】
溶接用コンデンサ5が所定の電圧(+V1)まで充電されると、開閉機能を有する充電回路1は、直流出力端子2、3から電気的に遮断される。溶接用コンデンサ5の充電中は、放電用サイリスタ6がオフ状態にある。この後、図6(C)に示すように、時刻t1でコントローラ10から絶縁駆動回路9を通して放電用サイリスタ6のゲート−カソード間に駆動信号が印加される。その駆動信号によって放電用サイリスタ6がターンオンすると、図2に示すように、溶接トランス4の1次巻線4aには溶接用コンデンサ5の充電電荷による放電電流I1が流れる。放電電流I1は、主に溶接電流I2として溶接トランス4の2次巻線4bに流れ、一部は励磁電流I3として溶接トランス4の1次巻線4aに流れる。溶接トランス4の1次巻線4aと2次巻線4bの巻数比nとすると、放電電流I1=I2/n+I3となる。
【0033】
放電用サイリスタ6のターンオンに伴い、1次巻線4aと2次巻線4bとの巻数比に相応する大きい急峻な溶接電流I2が第1の溶接電極7、被溶接物W1とW2、第2の溶接電極8を流れ、被溶接物W1とW2との溶接が行われる。この実施形態1では、放電用サイリスタ6がターンオンすると、放電電流I1の電流波形は図6(B)に示すように、溶接トランス4の漏れインダクタンスや回路のインダクタンス分からなる合成のインダクタンスLと溶接用コンデンサ5のキャパシタCとによる振動(共振)によって正弦波状の波形となる。したがって、図6(B)に示す放電電流I1の電流波形のパルス幅は、実際上、数百ミリ秒以上とはならず、第1、第2の溶接電極7、8の機械的動作に要する時間に比べて短いので、本発明では放電電流I1の波尾の問題を考慮する必要は無い。
【0034】
放電用サイリスタ6のオンによって、インダクタンスLとキャパシタCとの振動によりコンデンサ5の電圧が逆極性に反転する。放電用サイリスタ6を通して放電電流I1が実質的に流れない状態になると、すなわち、放電電流I1が放電用サイリスタ6の保持電流よりも小さくなると、放電用サイリスタ6は自然消弧でオフする。オフの時点では、溶接用コンデンサ5は上記充電電荷とは逆極性に充電されるので、溶接用コンデンサ5の電圧は図6(A)及び図3に示す逆極性の電圧(−V2)となる。開閉機能を有する充電回路1はオフしているので、この逆極性の電圧(−V2)は放電されずに保持される。この逆極性の電圧(−V2)は、充電電荷による所定の充電電圧(+V1)に比べて小さい値である。放電用サイリスタ6がオンして溶接用コンデンサ5の充電電荷を放電した後、放電用サイリスタ6がオフすると、図2に示す1次巻線4aを流れていた1次側の励磁電流I3は、そのまま1次巻線4aを流れ続けることができなくなるために、2次巻線4bに転流して図3に示す2次側の励磁電流I4となる。この励磁電流I4は溶接電流I2の向きと逆方向に流れ、2次巻線4bの極性を示す黒点側から第1の溶接電極7と被溶接物W1とW2と第2の溶接電極8からなる2次側回路を通して非黒点側に流れる。
【0035】
この状態では、被溶接物W1とW2とは既に溶接されて溶接物品となっているので、溶接される前よりも抵抗値は小さく、かつ溶接トランス4の2次側の回路内の抵抗成分も小さくなるように製作されているので、励磁電流I4は短時間では消滅しない。溶接速度を向上させるためには、溶接周期を短くし、励磁電流I4が消滅せずに未だ2次側回路を流れている期間に、第1の溶接電極7と第2の溶接電極8との間を離す方向に機械的動作をさせ、第1の溶接電極7と第2の溶接電極8との間を開放する。ここでは、第1の溶接電極7と第2の溶接電極8との間を開放するとは、第1の溶接電極7と第2の溶接電極8とのいずれかが溶接物品(W1、W2)から離れ、電気的に非接続になることを言う。図6(C)の時刻t2で、第1の溶接電極7と第2の溶接電極8との間を開放するものとする。
【0036】
図4に示すように、時刻t2で第1の溶接電極7と第2の溶接電極8との間を開放すると、図3に示される励磁電流I4は2次側回路を流れることができなくなるので、溶接トランス4の1次巻線4aと2次巻線4bとには図4の極性で理論的には無限大のサージ電圧(+Vs1、+Vs2)が発生する。ここでは、1次巻線4aに発生するサージ電圧Vs1は、溶接用コンデンサ5の充電電圧(+V1)と同じ極性である。したがって、サージ電圧Vs1が発生するときに放電用サイリスタ6がオンできる状態になければ、1次巻線4aに生じる大きなサージ電圧Vs1は放電用サイリスタ6のアノード−カソード間に印加されるので、順方向阻止特性の大きなサイリスタを用いなければならない。なお、溶接トランス4の1次巻線4aに発生するサージ電圧Vs1は、2次巻線4bに発生するサージ電圧Vs2よりも1次巻線と2次巻線との巻数比n分大きくなる(Vs1=n×Vs2)。
【0037】
しかし、実施形態1にあっては、第1の溶接電極7と第2の溶接電極8との間を開放する時刻t2では、放電用サイリスタ6のゲートに駆動信号が印加されている。このため、1次巻線4aに発生するサージ電圧(+Vs1)が溶接用コンデンサ5の逆極性の電圧(−V2)の絶対値を越えると同時に、放電用サイリスタ6は再度ターンオンし、放電用サイリスタ6を通して図6に示すサージ電流I5を溶接用コンデンサ5に流し、溶接用コンデンサ5を電圧(−V3)に充電する。つまり、1次巻線4aに発生するサージエネルギーを放電用サイリスタ6を通して溶接用コンデンサ5で吸収する。なお、実施形態1では溶接用コンデンサ5の容量が大きいので、電圧(−V3)は電圧(−V2)とほとんど同じである。
【0038】
したがって、この実施形態1にあっては、溶接トランス4の励磁電流I4が第1、第2の溶接電極7、8及び溶接物品を流れているときに第1、第2の溶接電極7、8間を開放しても、放電用サイリスタ6に大きな値のサージ電圧(+Vs1)は発生しない。溶接用コンデンサ5の電圧を−V2とすると、放電用サイリスタ6の電圧は、溶接用コンデンサ5の電圧(−V2)に制限される。このため、放電用サイリスタ6の耐圧を決める際に、サージ電圧Vs1は問題とはならない。また、溶接トランス4の巻数比をnとすれば、励磁電流I4が流れている状態で第1、第2の溶接電極7、8間を開放する場合に、放電用サイリスタ6のオンにより、第1、第2の溶接電極7、8間に発生するサージ電圧はV2/nに低下するので、アフターフラッシュは生じ難い。したがって、実施形態1によれば、励磁電流I4が溶接電極間を流れている状態で溶接電極間を開放する場合に、特別な回路部品を付加する必要はなく、また、放電用サイリスタ6の耐圧を増大させること無く、サージ電圧を十分に小さな値に抑制できるので、アフターフラッシュを防止することができる。なお、溶接用コンデンサ5の電圧(−V2)や電圧(−V3)の値は、回路の損失などによって、充電電圧(+V1)値よりも当然小さい値になる。
【0039】
[実施形態2]
次に、図7及び図8を用いて、本発明の実施形態2に係る溶接方法及びコンデンサ式溶接装置を説明する。実施形態2では、直流出力端子2、3間に並列に溶接用コンデンサ5が接続され、溶接トランス4の1次巻線4aと放電用スイッチ6との直列回路は溶接用コンデンサ5に対して並列に接続される。充電回路1は、溶接用コンデンサ5の直流出力端子2側が正、直流出力端子3側が負となる極性で溶接用コンデンサ5を充電する。充電回路1から溶接用コンデンサ5に供給される充電電流は、溶接トランス4の1次巻線4aを流れない。充電回路1が溶接用コンデンサ5を充電する期間は、放電用スイッチ6をオフ状態にする。また、実施形態2では、放電用サイリスタ6と並列に逆極性で接続されたエネルギー回収用スイッチ11を用いる。ここでは、放電用スイッチ6として逆方向阻止特性を有するサイリスタを用い、エネルギー回収用スイッチ11としてサイリスタを用いるので、実施形態2の以下の説明では、放電用スイッチ6を放電用サイリスタ6、エネルギー回収用スイッチ11をエネルギー回収用サイリスタ11として説明する。第1の溶接電極7と第2の溶接電極8は、図1と同様に溶接トランス4の2次巻線に並列に接続され、第1の溶接電極7と第2の溶接電極8とで挟んだ被溶接物W1、W2に溶接電流を流して溶接を行う。
【0040】
コントローラ10は、絶縁駆動回路9を通して図8(C)に示すような二つの駆動信号Sa、Sbを放電用サイリスタ6に与え、時刻t2の後の時刻t3には破線で示す駆動信号Ssをエネルギー回収用サイリスタ11に与える。充電回路1によって溶接用コンデンサ5が設定電圧V1まで充電された後、時刻t1で放電用サイリスタ6がオンする。コントローラ10は、絶縁駆動回路9を通して、図8(C)に示すように、時刻t1に駆動信号Saを放電用サイリスタ6のゲート−カソード間に印加する。
【0041】
これに伴い、放電用サイリスタ6はターンオンして、溶接用コンデンサ5の充電電荷を放電し、溶接トランス4の1次巻線4aを通して図8(B)に示すような放電電流I1を流す。実施形態2においても、実施形態1と同様に、放電電流I1の電流波形は図8(B)に示すように、溶接トランス4のインダクタンスや回路のインダクタンス分を有するインダクタンスLと溶接用コンデンサ5のキャパシタCとからなる振動(共振)による正弦波状の波形となる。実施形態1と同様に、1次巻線4aには放電電流と励磁電流が流れ、溶接電流は2次巻線4bの黒点側から第1の溶接電極7、被溶接物W1とW2、第2の溶接電極8を通して2次巻線4bの非黒点側に流れて溶接が行われる。
【0042】
また、放電用サイリスタ6のオンによって、インダクタンスLとキャパシタCとの振動が生じると、放電用サイリスタ6のオフの時点では、溶接用コンデンサ5は充電電荷とは逆極性の電圧(−V2)に充電される。この逆極性の電圧は充電電荷による充電電圧(+V1)に比べて小さい値である。次に放電用サイリスタ6がオフすると、実施形態1と同様に、1次巻線4aを流れていた励磁電流は2次巻線4bに転流して、2次巻線4bの非黒点側から第2の溶接電極8、被溶接物W2とW1、第1の溶接電極7を通して2次巻線4bの黒点側に流れ、励磁電流は短時間では消滅せずに2次側回路を流れる。
【0043】
時刻t2の直前に、コントローラ10から絶縁駆動回路9を通して駆動信号Sbが放電用サイリスタ6のゲート−カソード間に印加され、放電用サイリスタ6はカソード側の電圧に比べてアノード側の電圧が大きくなるといつでもターンオンできる状態にある。時刻t2で、第1、第2の溶接電極7と8の少なくとも一方が動いて、第1の溶接電極7又は第2の溶接電極8が被溶接物W1又はW2から離れて電気的に非接続状態になる。時刻t2の直前まで第1、第2の溶接電極7、8を通じて流れていた励磁電流は、時刻t2後に2次側回路を流れることができなくなるから、1次巻線4aにサージ電圧が発生する。このサージ電圧は溶接用コンデンサ5を介して放電用サイリスタ6のアノードに印加される。したがって、サージ電圧が溶接用コンデンサ5の電圧(−V2)の値を越えると、放電用サイリスタ6はターンオンして、1次巻線4aに発生したサージ電圧をサージ電流I5として溶接用コンデンサ5で吸収させる。したがって、上記電圧(−V2)を実質上越えるサージ電圧が放電用サイリスタ6のアノードーカソード間に印加されることはなく、また、溶接電極間の開放時にアフターフラッシュの発生を防止することができる。
【0044】
時刻t2で放電用サイリスタ6がオンし、サージエネルギーを溶接用コンデンサ5に吸収した後に放電用サイリスタ6がオフすると、時刻t3で、コントローラ10は絶縁駆動回路9を通してエネルギー回収用サイリスタ11に駆動信号Ssを与えてターンオンさせる。前述したように、このとき溶接用コンデンサ5は直流出力端子3が直流出力端子2に対して正極である電圧に充電されているから、その電荷はエネルギー回収用サイリスタ11を通して回路インダクタンスと振動し、直流出力端子2が直流出力端子3に対して正の極性で溶接用コンデンサ5を充電する。この充電は充電回路1によって充電される充電電荷の極性(正極性)と同じであり、サージエネルギーも重畳されているので、その分だけ次の充電時間をより短縮でき、かつ節電もできる。また、その電圧分だけ次の充電開始時に突入電流が流れ難くなるので、充電回路1の負担を軽減できる。
【0045】
特に、被溶接物W1とW2が銅又はアルミニウムなどのように抵抗率の小さい高導電性の金属材料からなるときは、急峻に増大するパルス状の溶接電流を用いると共に、被溶接物W1とW2に対する加圧力の応答性を高速とする溶接方法を用いることが有効であるので、溶接用コンデンサ5に逆極性で充電される電圧(−V2)のエネルギーは大きくなる傾向がある。この場合には、溶接用コンデンサ5として有極性の電解コンデンサを用いる場合よりも、ポリプロピレンフィルムなどを誘電体として用いる無極性のフィルムコンデンサを用いた方が好ましい。このようにすることによって、溶接用コンデンサ5に何らのダメージを与えることなく、大きなエネルギーをより安全に回収することができる。
【0046】
前述した実施形態1では、放電用サイリスタ6に与えられる駆動信号は、図6(C)に示すように、溶接用コンデンサ5に充電された充電電荷を放電する時刻t1のときに与えられ、その後、第1の溶接電極7と第2の溶接電極8との間を開放する時刻t2のときまで少なくとも与えられる。つまり放電用サイリスタ6には、連続する駆動信号が与えられている。また、実施形態2では、放電用サイリスタ6に与えられる駆動信号は、図8(C)に示すように、溶接用コンデンサ5に充電された充電電荷を放電する時刻t1のときに駆動信号Saが与えられた後、駆動信号は放電用サイリスタ6に与えられなくなり、第1の溶接電極7と第2の溶接電極8との間を開放する時刻t2の直前には少なくとも放電用サイリスタ6に駆動信号Sbが与えられる。つまり放電用サイリスタ6には、途中で遮断される駆動信号が与えられている。しかし、これらは一例であって、これに限定されるものではない。例えば、実施形態1において、実施形態2と同様の駆動信号が放電用サイリスタ6に与えられてもよく、実施形態2において、実施形態1と同様の駆動信号が放電用サイリスタ6に与えられてもよい。
【0047】
前述した実施形態1のコンデンサ式溶接装置における放電用スイッチ6と逆極性にして並列にエネルギー回収用サイリスタ11を接続しても、前述と同様な効果を得ることができる。前述した実施形態1、2の放電用スイッチ6、エネルギー回収用サイリスタ11としては、サイリスタの他に逆方向阻止特性を有するバイポーラトランジスタ、あるいはIGBTやMOSFETなどの半導体スイッチを用いてもよい。また、放電用スイッチ6として双方向のオンオフ機能を有する双方向半導体スイッチを用い、この双方向半導体スイッチに放電用スイッチ6とエネルギー回収用サイリスタ11の両者の働きをさせてもよい。また、前述の実施形態1、2では絶縁駆動回路9をホトカプラとして説明したが、これに限定されず、例えば、絶縁トランスなどを用いてもよい。
【0048】
図示しないが、上述の実施形態1、2等において、抵抗手段とダイオードとを直列接続した回路を溶接用コンデンサ5に並列に接続して、溶接用コンデンサ5の上記逆極性の電圧(−V2)を呈する逆極性電荷を抵抗手段とダイオードとの直列回路を通して放電させてことができる。つまり、抵抗手段とダイオードとの直列回路によって逆極性のエネルギーを消費させるので、逆極性の電圧(−V2)を下げることができる。例えば、この逆極性の電圧(−V2)をほぼゼロボルトにすることができる。この結果、第1の溶接電極7と第2の溶接電極8との間を開放するときに、溶接トランス4の励磁電流に起因して生じるサージ電圧を例えばほぼゼロボルトまで抑制でき、アフターフラッシュをより確実に防止することができる。なお、上述の抵抗手段とダイオードとの直列回路において、ダイオードに替えてサイリスタや半導体スイッチを用いることもできる。
【0049】
さらに、上述した実施形態1の放電用スイッチ6を第1の放電用サイリスタとし、この第1の放電用サイリスタと逆並列に第2の放電用サイリスタを接続し、第1の放電用サイリスタと第2の放電用サイリスタとを用いて溶接用コンデンサ5に蓄積される電荷を放電する場合について簡単に述べる。前述した実施形態1と同様に、第1の放電用サイリスタ6をオンさせて、溶接用コンデンサ5の正極性の電圧、すなわち図2に示される溶接用コンデンサ5の電圧(+V1)によって正極性の電荷を放電させる。この正極性の電荷による放電が終わると、次に、第2の放電用サイリスタをオンさせて、正極性の電荷の放電によって溶接用コンデンサ5に充電される逆極性の電圧、すなわち図3に示される溶接用コンデンサ5の極性の電圧(−V2)を呈する電荷を放電させる。この溶接用コンデンサ5の極性の電圧(−V2)の放電によって、溶接用コンデンサ5は再び正極性の電圧、すなわち図2の電圧(+V1)と同じ極性の電圧で、V1、V2よりも絶対値が低い電圧に充電される。
【0050】
第1の放電用サイリスタを通じて流れていた溶接用コンデンサの放電電流が、第1の放電用サイリスタが自然消弧により実質的に流れない状態になったときに、第2の放電用サイリスタはオンしないものとする。この場合は、実施形態1と同様に、図2のI3の方向で流れていた溶接トランス4の1次巻線の励磁電流は、図3のI4の向きで2次巻線の励磁電流として転流する。このI4の向きで2次巻線の励磁電流が流れている状態で第1の溶接電極7と第2の溶接電極8との間を開放するときに発生するサージ電圧は、図4に示したVs1、Vs2と同様の極性となる。よって、実施形態1と同様に、第1の放電用サイリスタをオンさせて、溶接トランス4の励磁電流に起因するサージ電圧を溶接用コンデンサ5によって吸収することができる。なお、この場合は、放電スイッチとして用いられる第2の放電用サイリスタの替わりに半導体スイッチを用いてもよい。
【0051】
一方、第1の放電用サイリスタがオフした後、第2の放電用サイリスタを通じて流れていた溶接用コンデンサの放電電流が第2の放電用サイリスタが自然消弧により実質的に流れない状態になったとき、第1の放電用サイリスタは再度オンしないものとする。この場合は、実施形態1とは異なり、図2のI3と逆方向に流れていた溶接トランスの1次巻線の励磁電流は、図3のI4と逆向きで2次巻線の励磁電流として転流する。このため、2次巻線の励磁電流が図3のI4と逆向きの流れている状態で第1の溶接電極7と第2の溶接電極8との間を開放するときに発生するサージ電圧は、図4に示したVs1、Vs2とは逆の極性、つまり、溶接トランスの1次巻線及び2次巻線の黒点がマイナスの極性となる。よって、第2の放電用サイリスタをオン状態にさせて、1次巻線に生じるサージ電圧を第2の放電用サイリスタを通して溶接用コンデンサ5にサージ電流として流すことにより、溶接トランス4の励磁電流に起因するサージ電圧を溶接用コンデンサ5によって吸収することができる。なお、この場合は、放電スイッチとして用いられる第2の放電用サイリスタの替わりにダイオードや半導体スイッチを用いてもよい。
【0052】
よって、第1の放電用サイリスタと逆並列に第2の放電用サイリスタを接続した場合も、励磁電流に起因して生じるサージ電圧の極性に応じた第1又は第2の放電用サイリスタをオンさせることによって、励磁電流が流れている溶接電極間を開放するときにアフターフラッシュが発生するのを防止でき、1次巻線に大きなサージ電圧が発生するのを防止することができるという本発明の効果を奏する。なお、実施形態2の回路構成で、図7に示す放電用スイッチ6に逆並列に接続されるエネルギー回収用サイリスタ11を上述の第2の放電用サイリスタとして作用させることもできる。この場合は、エネルギー回収用サイリスタ11も放電用スイッチに含まれるものとする。
【符号の説明】
【0053】
1・・・充電回路
2、3・・・充電回路の直流出力端子
4・・・溶接トランス
4a・・・溶接トランス4の1次巻線
4b・・・溶接トランス4の2次巻線
5・・・溶接用コンデンサ
6・・・放電用スイッチ(放電用サイリスタ)
7・・・第1の溶接電極
8・・・第2の溶接電極
9・・・絶縁駆動回路
10・・・コントローラ
11・・・エネルギー回収用スイッチ11(エネルギー回収用サイリスタ)
W1、W2・・・被溶接物
L・・・合成のインダクタンス
C・・・溶接用コンデンサ5のキャパシタンス
V1・・・溶接用コンデンサ5の設定充電電圧
V2・・・溶接用コンデンサ5の逆極性の電圧
V3・・・放電用スイッチ6が2度目にオンした後の溶接用コンデンサ5の逆極性の電圧
Vs1・・・溶接トランス4の1次巻線4aに生じるサージ電圧
Vs2・・・溶接トランス4の2次巻線4bに生じるサージ電圧
I1・・・溶接用コンデンサ5の放電電流
I2・・・溶接電流
I3・・・溶接トランス4の1次巻線4aを流れる励磁電流
I4・・・溶接トランス4の2次巻線4bを流れる励磁電流
I5・・・1次巻線4aに生じるサージ電圧Vs1によるサージ電流
Sa、Sb・・・放電用スイッチ6の駆動信号
Ss・・・エネルギー回収用スイッチ11の駆動信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電回路から給電される電力によって溶接用コンデンサを充電し、放電用スイッチをオンして前記溶接用コンデンサに充電された充電電荷を溶接トランスの1次巻線に放電し、前記溶接トランスの2次巻線及び該2次巻線に接続された第1の溶接電極と第2の溶接電極とを通して溶接電流を被溶接物に通電して該被溶接物を溶接するコンデンサ式溶接方法であって、
前記溶接用コンデンサに充電された前記充電電荷を放電して、放電電流が前記放電用スイッチを通して実質的に流れない状態になると、前記溶接トランスの前記1次巻線を流れていた励磁電流は前記2次巻線に転流し、前記2次巻線に前記励磁電流が流れている状態で前記第1の溶接電極と前記第2の溶接電極との間を開放するときには、駆動信号を与えて前記放電用スイッチをオンできる状態にし、
前記第1の溶接電極と前記第2の溶接電極との間を開放するときに前記溶接トランスの前記1次巻線に生じるサージ電圧を前記放電用スイッチを通して前記溶接用コンデンサにサージ電流として流すことを特徴とするコンデンサ式溶接方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記駆動信号は、前記溶接用コンデンサに充電された充電電荷を放電するときに前記放電用スイッチに与えられ、その後、前記第1の溶接電極と前記第2の溶接電極との間を開放するときまで少なくとも前記放電用スイッチに与えられていることを特徴とするコンデンサ式溶接方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記駆動信号は、前記溶接用コンデンサに充電された充電電荷を放電するときに前記放電用スイッチに与えられた後、前記駆動信号は前記放電用スイッチに与えられなくなり、前記第1の溶接電極と前記第2の溶接電極との間を開放する直前には少なくとも前記放電用スイッチに与えられることを特徴とするコンデンサ式溶接方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかにおいて、
前記第1の溶接電極と前記第2の溶接電極との間を開放するときに前記放電用スイッチがオンすることによって前記溶接用コンデンサに充電される前記サージ電流による電荷は、前記放電用スイッチと逆並列に接続されたエネルギー回収用スイッチを通じて前記溶接用コンデンサに蓄積され、次の周期の前記充電電荷の一部分になることを特徴とするコンデンサ式溶接方法。
【請求項5】
開閉機能を有する充電回路と、該充電回路から給電される電力によって充電される溶接用コンデンサと、前記溶接用コンデンサの充電電荷を放電する放電用スイッチと、1次巻線と2次巻線とを有する溶接トランスと、前記2次巻線に接続された第1の溶接電極と第2の溶接電極とを備え、前記放電用スイッチがオンするとき前記溶接用コンデンサの前記充電電荷を前記1次巻線に放電し、前記2次巻線及び前記第1の電極と前記第2の電極とを介して溶接電流を被溶接物に通電して、該被溶接物を溶接するコンデンサ式溶接装置であって、
前記溶接トランスの前記2次巻線に励磁電流が流れている状態で前記第1の溶接電極と前記第2の溶接電極との間を開放するときに、前記放電用スイッチをオンできる状態にするための駆動信号を前記放電用スイッチに与えるコントローラを備え、
前記第1の溶接電極と前記第2の溶接電極との間を開放するときに、前記溶接トランスの前記1次巻線に生じるサージ電圧を前記放電用スイッチを通して前記溶接用コンデンサにサージ電流として流すことを特徴とするコンデンサ式溶接装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記放電用スイッチと逆並列にエネルギー回収用スイッチが接続され、
前記第1の溶接電極と前記第2の溶接電極との間を開放するときに前記放電用スイッチがオンすることによって前記溶接用コンデンサに充電される前記サージ電流による電荷は、前記サージ電流とは逆向きの電流を流す前記エネルギー回収用スイッチを通じて前記溶接用コンデンサに回収されることを特徴とするコンデンサ式溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−52402(P2013−52402A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190824(P2011−190824)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000103976)オリジン電気株式会社 (223)