説明

コンバインの走行伝動装置

【課題】静油圧式無段変速装置と、静油圧式無段変速装置の出力を左右一対の走行装置に伝達する走行ミッション部と、静油圧式無段変速装置及び走行ミッション部を収容するミッションケースとを備え、静油圧式無段変速装置のポンプ軸によってミッションケースの入力軸を構成しているコンバインの走行伝動装置において、走行伝動装置の配設を行いやすくしながらチャージポンプと油圧ポンプとを備えさせる。
【解決手段】静油圧式無段変速装置23に作動油を供給するチャージポンプ72と、走行ミッション部30を切り換え操作する圧油を供給する油圧ポンプ71とを、ポンプ軸21の静油圧式無段変速装置23の本体23aよりも一端側と他端側とに振り分けてポンプ軸21に付設してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静油圧式無段変速装置と、前記静油圧式無段変速装置の出力を左右一対の走行装置に伝達するとともに前記静油圧式無段変速装置よりも走行機体下方側に位置する走行ミッション部と、前記静油圧式無段変速装置及び前記走行ミッション部を収容するミッションケースとを備え、前記静油圧式無段変速装置のポンプ軸によって前記ミッションケースの入力軸を構成しているコンバインの走行伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記したコンバインの走行伝動装置として、従来、たとえば特許文献1に記載されたものがあった。
特許文献1に記載されたものでは、ミッションケース8、入力軸35がミッションケース8の入力軸となっている静油圧式無段変速装置9、静油圧式無段変速装置9の出力軸48による出力を左右のクローラ走行装置1における駆動軸19に伝達する走行用の伝動系11(走行ミッション部に相当)を備えている。
伝動系11は、静油圧式無段変速装置9からの動力が伝達されるギヤ式変速装置12、左右のクローラ式走行装置1の作動状態を切り換えて走行機体2を操向する油圧式の操向装置13などを備えている。
特許文献1に記載されたものでは、静油圧式無段変速装置9の入力軸35の一端部に設けた油圧ポンプ21と油圧ポンプ41とを備えている。油圧ポンプ21は、操向装置13の爪クラッチ14と多板ブレーキ15の操作を行う油圧シリンダ17の作動油を供給する。油圧ポンプ41は、静油圧式無段変速装置9に対するチャージ用の油路40に介装されている。(各符号は、公報に記載されたものである。)
【0003】
【特許文献1】特開2003−94968号公報(段落〔0013〕―〔0015〕、〔0021〕、〔0025〕、図3,4,5〕
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の走行伝動装置において、静油圧式無段変速装置のためのチャージポンプと、走行ミッション部の切り換え操作の圧油を供給するための油圧ポンプとを設けるのに、特許文献1に記載された技術に基づいて設けると、走行伝動装置の配置面の問題が発生しがちであった。
つまり、特許文献1に記載された技術に基づいてチャージポンプと油圧ポンプとを設けると、チャージポンプと油圧ポンプとの両方が、入力軸の静油圧式無段変速装置のポンプ本体よりも一端側に位置し、伝動装置の静油圧式無段変速装置が位置する部位での走行機体横方向での大きさが大になる。コンバインの場合、走行伝動装置の入力軸をエンジンに連動させる連動構造の関係から走行伝動装置の走行機体に対する横方向での配置を大幅に変更できないことから、走行伝動装置の静油圧式無段変速装置が位置する部位での走行機体横方向での大きさが大になると、走行伝動装置とこれの付近に位置する装置との間隔が著しく狭くなるか、走行伝動装置とこれの付近に位置する装置とが干渉しがちであった。
【0005】
本発明の目的は、上記した問題発生を回避しやすくしながらチャージポンプと油圧ポンプとを備えさせることができる走行伝動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本第1発明は、静油圧式無段変速装置と、前記静油圧式無段変速装置の出力を左右一対の走行装置に伝達するとともに前記静油圧式無段変速装置よりも走行機体下方側に位置する走行ミッション部と、前記静油圧式無段変速装置及び前記走行ミッション部を収容するミッションケースとを備え、前記静油圧式無段変速装置のポンプ軸によって前記ミッションケースの入力軸を構成しているコンバインの走行伝動装置において、
前記静油圧式無段変速装置に作動油を供給するチャージポンプと、前記走行ミッション部を切り換え操作する圧油を供給する油圧ポンプとを、前記ポンプ軸の前記静油圧式無段変速装置の本体よりも一端側と他端側とに振り分けて前記ポンプ軸に付設してある。
【0007】
本第1発明の構成によると、入力軸の静油圧式無段変速装置の本体が位置する部位と、ベルトプーリなどの入力輪体が位置する部位との間に位置する部位を付設箇所に利用してチャージポンプと油圧ポンプとの一方を付設し、ミッションケースの静油圧式無段変速装置が位置する部位での走行機体横方向での大きさがチャージポンプや油圧ポンプのために増大することを回避したり抑制したりすることができる。
【0008】
したがって、チャージポンプと油圧ポンプとを入力軸によって駆動自在に備えるものでありながら、走行伝動装置の静油圧式無段変速装置が位置する部位での走行機体横方向での大きさを小に済ませ、走行伝動装置とこれの付近の装置との干渉を回避した配置が容易となる走行伝動装置を得ることができる。
【0009】
本第2発明では、前記ミッションケースを、前記静油圧式無段変速装置の本体、前記走行ミッション部の走行機体横方向での一端側、前記チャージポンプと前記油圧ポンプの一方を収容する第1分割ケース部と、前記第1分割ケース部の下端側に連結されるとともに前記走行ミッション部の走行機体横方向での他端側を収容する第2分割ケース部と、前記第1分割ケース部の上端側に連結されるとともに前記チャージポンプと前記油圧ポンプの他方を収容する第3分割ケース部とを備えて構成してある。
【0010】
本第2発明の構成によると、本第1発明の構成による作用、効果を有する加え、次の作用、効果を有する。
本第2発明の構成によると、シール精度が良いミッションケースを安価に得ることができる。
つまり、入力軸がミッションケースから横外側に突出するにもかかわらず、走行伝動装置の配置や入力軸に対する伝動などを行ないやすいように走行伝動装置全体から見た状態での入力軸の横外側への突出を無くすとか少なくすると、ミッションケースを走行機体横方向に分割した左側の分割ケース部と右側の分割ケース部のうちの静油圧式無段変速装置の本体を収容する側とは異なる側の分割ケース部の入力軸が位置する部位における走行機体横方向での大きさが、その他の部位での走行機体横方向での大きさよりも小になる。
このため、ミッションケースを、左側の分割ケース部と右側の分割ケース部との二つの分割ケース部のみで構成すると、静油圧式無段変速装置の本体を収容する側とは反対側の分割ケース部を全体にわたって一体鋳造することになるから、この分割ケース部の入力軸が位置する部位や、入力軸が位置する部位とその他の部位とが連なる箇所における鋳造歪みが発生しやすく、分割ケース部の接合間に鋳造歪みによるシール不良が発生しやすくなる。このシール不良の発生を回避するには、分割ケース部に仕上げ加工を行なう必要がある。
【0011】
これに対し、本第2発明の構成によると、静油圧式無段変速装置の本体を収容する分割ケース部とは異なる分割ケース部としての第2分割ケース部と第3分割ケース部とを別部に構成したものだから、静油圧式無段変速装置の本体を収容する分割ケース部とは異なる分割ケース部としての第2分割ケース部と第3分割ケース部とを、これらを一体鋳造するに比して鋳造歪みを発生しにくくして得ることができ、鋳造歪みを解消するための特別な仕上げ加工を行なわずに第1、第2、第3分割ケース部を良好なシール状態にして組み合わせて、分割ケース部間からの油漏れが無いコンバインの走行伝動装置を安価に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施例に係る走行伝動装置20を装備されたコンバインの全体側面図である。この図に示すように、このコンバインは、左右一対のクローラ式の走行装置1,1、および運転座席2を有した走行機体と、この走行機体の機体フレーム3の前部に連結された刈取り前処理部10とを備え、前記機体フレーム3の後部側に走行機体横方向に並べて設けた脱穀装置4と穀粒タンク5とを備えている。
【0013】
このコンバインは、稲、麦などの収穫作業を行う。
すなわち、走行機体は、前記運転座席2の下方に設けたエンジン6(図2参照)と、前記機体フレーム3の前端部に設けた前記走行伝動装置20とを備え、前記エンジン6から出力された駆動力を前記走行伝動装置20によって変速して前記左右一対の走行装置1,1に伝達し、これによって前記左右一対の走行装置1,1を駆動して走行する。
【0014】
前記刈取り前処理部10は、前処理部フレーム11(図1参照)が油圧シリンダ12(図1参照)によって機体フレーム3に対して上下に揺動操作されることにより、刈取り前処理部10の前端部に位置する分草具13が地面近くに下降した下降作業状態と、前記分草具13が地面から高く上昇した上昇非作業状態とに昇降する。
【0015】
刈取り前処理部10を下降作業状態にして走行機体を走行させると、刈取り部前処理部10は、前記分草具13によって植立穀稈を引起し装置14に導入し、引起し装置14によって引起し処理される植立穀稈をバリカン形の刈取り装置15によって刈取り処理し、刈取り穀稈を供給装置16によって機体後方側に搬送して脱穀装置4の脱穀フィードチェーン4aの始端部に供給する。脱穀装置4は、脱穀フィードチェーン4aによって刈取り穀稈の株元側を挟持して自走機体後方向きに搬送し、これによって刈取り穀稈の穂先側を扱室に供給して脱穀処理する。穀粒タンク5は、脱穀装置4からの脱穀粒を回収して貯留していく。
【0016】
図2は、前記走行伝動装置20の線図である。図3は、前記走行伝動装置20の縦断正面図である。図4は、前記走行伝動装置20の縦断側面図である。これらの図に示すように、前記走行伝動装置20は、入力軸21を上端部に回転自在に有し、下端部に前記左右一対の走行駆動軸1a,1aを回転自在に有したミッションケース22と、このミッションケース22の上端部に収容された走行主変速部としての静油圧式無段変速装置23(以下、HST23と呼称する。)と、このHST23よりも走行機体下方側に位置させて前記ミッションケース22に収容された走行ミッション部30とを備えている。
【0017】
図5は、前記走行伝動装置20の上端側の縦断正面図である。この図と図2,3,4に示すように、前記HST23は、アキシャルプランジャ形で、かつ可変容量形の油圧ポンプ24と、この油圧ポンプ24からの圧油によって駆動されるアキシャルプランジャ形の油圧モータ25とを備えている。前記油圧ポンプ24は、前記入力軸21をポンプ軸として備えている。以下、前記入力軸21をポンプ軸21と呼称する。
【0018】
図6は、前記走行伝動装置20の下端側の縦断正面図である。この図と図2,3,4,5とに示すように、前記走行ミッション部30は、前記HST23のモータ軸26に一体回転自在に設けたモータ軸ギヤ27に入力ギヤ31が噛み合っている走行副変速部32と、この走行副変速部32の出力ギヤ33に噛み合ったセンタギヤ50とを備え、前記センタギヤ50と前記左右一対の走行駆動軸1a,1aとにわたって設けた操向機構51とを備えている。
【0019】
つまり、走行伝動装置20は、前記エンジン6の出力軸6aの駆動力を、ベルト伝動機構7を構成するようにポンプ軸21に一体回転自在に設けたベルトプーリ76によってポンプ軸21に伝達することにより、エンジン6の駆動力を、ミッションケース22に入力するとともに静油圧式無段変速装置23に入力してこの静油圧式無段変速装置23によって前進駆動力と後進駆動力とに変換し、かつ前進側においても後進側においても無段階に変速し、静油圧式無段変速装置23のモータ軸26からの出力を走行ミッション部30の入力ギヤ31に入力し、入力ギヤ31の駆動力を走行副変速部32によって変速してセンタギヤ50に伝達し、このセンタギヤ50の駆動力を操向機構51によって左右一対の走行駆動軸1a,1aに伝達することによって左右一対の走行装置1,1に伝達する。
【0020】
この走行伝動装置20は、左右一対の走行駆動軸1a,1aに対する伝動を前記操向機構51によって各別に切ったり変速したりして左右一対の走行装置1,1を直進状態と旋回状態とに切り換える。
【0021】
すなわち、前記走行副変速部32は、前記入力ギヤ31を一体回転自在に有した入力軸34に一体回転およびシフト操作自在に設けたシフトギヤ35が、シフト操作されて高速ギヤ36と中速ギヤ37とに噛み合い変更され、中間伝動軸38に相対回転および摺動自在に支持されたクラッチギヤ39が、これに一体形成された油圧ピストン39aによって摺動操作されて中間軸第1ギヤ40の横側部に係脱操作され、前記中間伝動軸38の一端部に相対回転自在に支持された低速ギヤ41と前記中間伝動軸38とにわたって設けた低速クラッチ42が、油圧ピストン42aによって入り状態と切り状態とに切り換え操作されることにより、前記入力ギヤ31の駆動力を高、中、低速の3段階に変速して出力ギヤ33からセンタギヤ50に伝達する。
【0022】
つまり、走行副変速部32は、シフトギヤ35が高速ギヤ36に噛み合い操作され、クラッチギヤ39が中間軸第1ギヤ40の横側部に係合操作され、低速クラッチ42が切り状態に切り換え操作されると、高速状態になり、入力ギヤ31の駆動力を、入力軸34、シフトギヤ35、高速ギヤ36、中間軸第2ギヤ43、中間伝動軸38、中間軸第1ギヤ40、クラッチギヤ39、出力軸第1ギヤ44、出力軸45を介して出力ギヤ33に伝達する。
【0023】
走行副変速部32は、シフトギヤ35が中速ギヤ37に噛み合い操作され、クラッチギヤ39が中間軸第1ギヤ40の横側部に係合操作され、低速クラッチ42が切り状態に切り換え操作されると、中速状態になり、入力ギヤ31の駆動力を、入力軸34、シフトギヤ35、中速ギヤ37、中間軸第1ギヤ40、クラッチギヤ39、出力軸第1ギヤ44、出力軸45を介して出力ギヤ33に伝達する。
【0024】
走行副変速部32は、シフトギヤ35が中速ギヤ37に噛み合い操作され、クラッチギヤ39が中間軸第1ギヤ40の横側部から離脱操作され、低速クラッチ42が入り状態に切り換え操作されると、低速状態になり、入力ギヤ31の駆動力を、入力軸34、シフトギヤ35、中速ギヤ37、中間軸第1ギヤ40、中間伝動軸38、低速クラッチ42、低速ギヤ41、出力軸第2ギヤ46、出力軸45を介して出力ギヤ33に伝達する。
【0025】
前記操向機構51は、左右一対の操向クラッチギヤ52,52が、これに一体成形された油圧ピストン52aによって摺動操作されて前記センタギヤ50の内歯部に係脱操作され、前記左側の操向クラッチギヤ52と左伝動ギヤ53とにわたって設けた左伝動クラッチ54が油圧ピストン54aによって入り状態と切り状態とに切り換え操作され、前記右側の操向クラッチギヤ52と右伝動ギヤ55とにわたって設けた右伝動クラッチ56が油圧ピストン56aによって入り状態と切り状態とに切り換え操作され、前記センタギヤ50の小径ギヤ部に噛み合った減速ギヤ57と中間伝動軸58とにわたって設けた減速伝動クラッチ59が油圧ピストン59aによって入り状態と切り状態とに切り換え操作されることにより、左右一対の走行装置1,1を直進状態と大半径旋回状態と小半径旋回状態とに切り換える。
【0026】
つまり、操向機構51は、左右一対の操向クラッチギヤ52,52が、これの一端部をセンタギヤ50の内歯部に噛み合せた状態に切り換え操作され、左伝動クラッチ54および右伝動クラッチ56が切り状態に切り換え操作されると、センタギヤ50の駆動力を左側の操向クラッチギヤ52と左走行駆動ギヤ60とを介して左側の走行駆動軸1aに伝達し、センタギヤ50の駆動力を右側の操向クラッチギヤ52と右走行駆動ギヤ61とを介して右側の走行駆動軸1aに伝達する。
これにより、操向機構51は、左右一対の走行駆動軸1a,1aを同一の駆動速度で駆動し、左右一対の走行装置1,1を同じ駆動方向に同じ駆動速度で駆動して走行機体を直進走行させる。
【0027】
操向機構51は、左右一対の操向クラッチギヤ52,52の一方がセンタギヤ50の内歯部に噛み合った状態に切り換え操作され、他方の操向クラッチギヤ52がセンタギヤ50の内歯部から離脱した状態に切り換え操作され、左伝動クラッチ54および右伝動クラッチ56が切り状態に切り換え操作されると、センタギヤ50の駆動力をこれの内歯部に噛み合った操向クラッチギヤ52を介してこの操向クラッチギヤ52に対応した走行駆動軸1aに伝達し、センタギヤ50の内歯部から離脱した操向クラッチギヤ52に対応した走行駆動軸1aを遊転状態にする。
これにより、操向機構51は、左右一対の走行駆動軸1a,1aの一方を駆動し、他方走行駆動軸1aを遊転状態にし、左右一対の走行装置1,1の一方のみを駆動して走行機体を大旋回半径で旋回走行させる。
【0028】
操向機構51は、左右一対の操向クラッチギヤ52,52の一方がセンタギヤ50の内歯部に噛み合った状態に切り換え操作され、他方の操向クラッチギヤ52がセンタギヤ50の内歯部から離脱した状態に切り換え操作され、減速伝動クラッチ59が入り状態に切り換え操作され、センタギヤ50の内歯部に噛み合った操向クラッチギヤ52に対応した左伝動クラッチ54または右伝動クラッチ56が切り状態に切り換え操作され、センタギヤ50の内歯部から離脱した操向クラッチギヤ52に対応した左伝動クラッチ54または右伝動クラッチ56が入り状態に切り換え操作されると、センタギヤ50の駆動力をこれの内歯部に噛み合った操向クラッチギヤ52を介してこの操向クラッチギヤ52に対応した走行駆動軸1aに伝達し、センタギヤ50の駆動力を減速ギヤ57、減速伝動クラッチ59を介して中間伝動軸58に伝達し、この中間伝動軸58の駆動力を、センタギヤ50の内歯部から離脱したクラッチギヤ52に対応した左中間軸ギヤ62または右中間軸ギヤ63、減速ギヤ53または55、左伝動クラッチ54または右伝動クラッチ56を介してセンタギヤ50の内歯から離脱している操向クラッチギヤ52に伝達し、この操向クラッチギヤ52をセンタギヤ50の内歯にかみ合っている操向クラッチギヤ52よりも低速で駆動し、この操向クラッチギヤ52の駆動力を対応する走行駆動軸1aに伝達する。
これにより、操向機構51は、左右一対の走行駆動軸1a,1aの一方を直進走行時と同じ駆動速度で駆動し、他方の走行駆動軸1aを直進走行時よりも低速で駆動し、左右一対の走行装置1,1を同じ駆動方向に異なる駆動速度で駆動して走行機体を小旋回半径で旋回走行させる。
【0029】
図2,3,5,6に示すように、前記操向機構51は、前記中間伝動軸58の一端部に設けた油圧操作式の操向ブレーキ64を備えており、この操向ブレーキ64によって中間伝動軸58に摩擦ブレーキを掛けることにより、センタギヤ50から離脱操作されて操向クラッチギヤ52に対応する走行装置1(旋回内側の走行装置)にブレーキを掛け、走行機体の旋回半径を、旋回内側の走行装置1を減速駆動した場合の旋回半径よりも小にする。
【0030】
図2,3,4に示すように、前記走行伝動装置20は、前記入力軸34のミッションケース22から横外側の突出した端部に一体回転自在に設けた出力プーリ70を備え、前記入力軸34の駆動力を前記出力プーリ70から刈取り前処理部10に伝達する。
【0031】
図5に示すように、前記走行伝動装置20は、前記HST23の前記油圧ポンプ24および前記油圧モータ25を有した本体23aよりも走行機体左横側に配置して前記ミッションケース22に組み付けた油圧ポンプ71と、前記前記HST23の前記本体23aよりも走行機体右横側に配置して前記ミッションケース22に組み付けたチャージポンプ72とを備えている。
【0032】
前記油圧ポンプ71は、前記ポンプ軸21に付設されたポンプ歯車を備えたトロコイドポンプによって構成してある。この油圧ポンプ71は、前記ミッションケース22の上端部に設けたサクションフィルタ73(図4参照)と、前記ミッションケース22に穿設された吸い込み油路と有した油圧回路によって前記ミッションケース22の内部の油貯留部、および前記走行ミッション部30が備える前記各油圧ピストン52a,54a,56a,59aの操作弁に接続されている。
つまり、前記油圧ポンプ71は、前記ポンプ軸21によって駆動され、前記ミッションケース22の内部に貯留されている潤滑油を吸引して圧油を吐出し、吐出した圧油を前記各油圧ピストン52a,54a,56a,59aに供給して走行ミッション部30の切り換え操作を行わせる。
【0033】
前記チャージポンプ72は、前記ポンプ軸21に付設されたポンプ歯車を備えたトロコイドポンプによって構成してある。このチャージポンプ72は、前記油圧ポンプ71の油圧回路と共用の吸い込み油路と、前記ミッションケース22の上端部の横側に設けたオイルフィルタ74(図3参照)とを有した油圧回路によって前記ミッションケース22の内部の油貯留部、および前記HST23の駆動油路に接続されている。
つまり、前記チャージポンプ72は、前記ポンプ軸21によって駆動され、前記ミッションケース22の内部に貯留されている潤滑油を吸引して圧油を吐出し、吐出した圧油を前記HST23に作動油として補給する。
【0034】
図3,5,6に示すように、前記ミッションケース22は、ミッションケース22の走行機体上下方向での全体と走行機体前後方向での全体とにわたる分割面Fと、前記ポンプ軸21と前記モータ軸26との間に設けた分割溝Sとによってミッションケース22を分割することによって得られるよりも第1分割ケース部22aと第2分割ケース部22bと第3分割ケース部22cとを組み合わせて構成してある。
【0035】
前記第1分割ケース部22aは、前記HST23の前記油圧ポンプ24と前記油圧モータ本体25とを有する本体23aと、前記チャージポンプ72と、前記走行ミッション部30の走行機体右側部分とを収容している。
【0036】
この第1分割ケース部22aは、前記HST23の前記本体23aが入り込む凹入部と、前記走行ミッション部30の走行機体右側部分が入り込む凹入部とを有した第1分割ケース部本体と、この第1分割ケース部本体とは別部品に形成して第1分割ケース部本体の上端側に連結ボルトによって連結されたポートブロック28とを備えて構成してある。前記ポートブロック28は、HST23の油圧ポンプ24と油圧モータ25とを接続する駆動油路を穿設されているとともに前記チャージポンプ72を収容している。
【0037】
前記第2分割ケース部22bは、前記第1分割ケース部22aの下端側に連結されており、前記走行ミッション部30の走行機体左側部分を収容している。
【0038】
この第2分割ケース部22bは、これの横外側面に連結された油路プレート75を備えている。この油路プレート75は、前記油圧ピストン52a,54a,56a,57aを前記油圧ポンプ71に接続する油路を穿設されて備えている。
【0039】
前記第3分割ケース部22cは、前記第1分割ケース部22aの上端側に連結されており、前記ポンプ軸21の一端側をベアリングを介して支持するとともに前記油圧ポンプ71を収容している。
【0040】
図5に示すように、前記第3分割ケース部22cの走行機体横方向での大きさW1を、前記第2分割ケース部22bの走行機体横方向での大きさW2よりも小に設定してある。
すなわち、第3分割ケース部22cは、第2分割ケース部22bの上方にプーリスペースを形成し、ポンプ軸21に支持される入力プーリ76を第1分割ケース部22aに近づけて、走行伝動装置20のポンプ軸21が位置する部位での走行機体横方向での大きさをその他の部位でのその大きさに近づけている。
【0041】
〔別実施例〕
前記チャージポンプ72と前記油圧ポンプ71とを設けるのに、上記した実施例に替え、チャージポンプ72をHST23の本体23aよりも走行機体左横側に設け、油圧ポンプ71をHST23の本体23aよりも走行機体右横側に設ける構成を採用してもよい。この場合も、本発明の目的を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】コンバインの全体側面図
【図2】走行伝動装置の線図
【図3】走行伝動装置の縦断正面図
【図4】走行伝動装置の縦断側面図
【図5】走行伝動装置の上端側の縦断正面図
【図6】走行伝動装置の下端側の縦断正面図
【符号の説明】
【0043】
1 走行装置
21 ポンプ軸
22 ミッションケース
22a 第1分割ケース部
22b 第2分割ケース部
22c 第3分割ケース部
23 静油圧式無段変速装置
23a 静油圧式無段変速装置の本体
30 走行ミッション部
71 油圧ポンプ
72 チャージポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静油圧式無段変速装置と、前記静油圧式無段変速装置の出力を左右一対の走行装置に伝達するとともに前記静油圧式無段変速装置よりも走行機体下方側に位置する走行ミッション部と、前記静油圧式無段変速装置及び前記走行ミッション部を収容するミッションケースとを備え、
前記静油圧式無段変速装置のポンプ軸によって前記ミッションケースの入力軸を構成しているコンバインの走行伝動装置であって、
前記静油圧式無段変速装置に作動油を供給するチャージポンプと、前記走行ミッション部を切り換え操作する圧油を供給する油圧ポンプとを、前記ポンプ軸の前記静油圧式無段変速装置の本体よりも一端側と他端側とに振り分けて前記ポンプ軸に付設してあるコンバインの走行伝動装置。
【請求項2】
前記ミッションケースを、前記静油圧式無段変速装置の本体、前記走行ミッション部の走行機体横方向での一端側、前記チャージポンプと前記油圧ポンプの一方を収容する第1分割ケース部と、前記第1分割ケース部の下端側に連結されるとともに前記走行ミッション部の走行機体横方向での他端側を収容する第2分割ケース部と、前記第1分割ケース部の上端側に連結されるとともに前記チャージポンプと前記油圧ポンプの他方を収容する第3分割ケース部とを備えて構成してある請求項1記載のコンバインの走行伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−53951(P2010−53951A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219442(P2008−219442)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】