説明

コンバイン

【課題】扱室の上方を覆う上部枠体を下部枠体に対してアクチュエータを介して開閉するコンバインの脱穀装置において、上部枠体を開いて扱室内のメンテナンス等を行った後に上部枠体を閉じる際、誤って扱室内に工具や交換部品等を放置したままで上部枠体を閉じることがないようにする。
【解決手段】アクチュエータ31を介して開閉する上部枠体25の閉動作速度(角速度)を、この上部枠体25の開度が大きい時は速く、開度が小さい時は遅くなるように制御するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扱室の上方を覆う上部枠体をアクチュエータを介して開閉させることができるコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコンバインにおいては、扱室の上方を覆う上部枠体を、その一側部に沿う回動支点軸を支点として下部枠体に対して開閉自在に構成すると共に、当該上部枠体を油圧アクチェータを介して開閉させることによって、大型の機種であっても上部枠体を容易に開閉できるように構成したコンバインが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−222080号公報(第5−7頁、図2−図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そして、上述した油圧アクチェータを介して上部枠体の開閉操作を行う上昇操作スイッチと下降操作スイッチは、自動復帰型の開閉操作スイッチであり脱穀装置の外側面に配置されている。即ち、両操作スイッチは、入り(押し)操作している間だけ油圧アクチェータを伸作動または縮作動させることができ、その間の上部枠体の開閉動作速度は略一定に維持されるようになっている。
【0004】
ところが、上昇操作スイッチを入り操作して上部枠体を開いた状態で扱室内のメンテナンス等を行った後、下降操作スイッチを入り操作して上部枠体を閉じる際、扱室内や脱穀フィードチェン上に工具や交換部品等を放置したままで上部枠体を閉動作させてしまうことがあり、その場合注意を怠ると上部枠体と扱胴、或いは扱胴と受網との間に工具や交換部品等を挟み込んで、当該扱胴やその下方の受網及び交換部品等の変形や破損が生じる虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、扱室の上方を覆う上部枠体を下部枠体に対して開閉させるアクチュエータと、該アクチュエータを作動させる操作手段と、該操作手段の操作に基づいて前記アクチュエータに上部枠体の開閉動作指令を出力する制御部を備えたコンバインであって、前記アクチュエータによる上部枠体の閉動作速度を、該上部枠体の開度が大きい時は速く、開度が小さい時は遅くなるように制御することを第1の特徴としている。
そして、上部枠体の閉動作速度よりも上部枠体の開動作速度が速くなるように構成したことを第2の特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、扱室の上方を覆う上部枠体を下部枠体に対して開閉させるアクチュエータの閉動作速度を、上部枠体の開度が大きい時は速く、開度が小さい時は遅くなるように制御することによって、操作手段の操作に基づいてアクチュエータを介して上部枠体を開いた状態で扱室内のメンテナンス等を行った後、再び操作手段の操作に基づいてアクチュエータを介して上部枠体を閉じる際、扱室内に工具や交換部品等を放置したままで上部枠体を閉動作させてしまった場合でも、上部枠体の開度が小さくなるとその閉動作速度が遅くなることから、前記工具や交換部品を発見する余裕時間が増加すると共に、扱室内に工具や交換部品を発見した時は、上部枠体の閉動作の停止措置も余裕を持って行なえるようになり、従来の不具合である上部枠体と扱胴、或いは扱胴とその下方の受網との間に工具や交換部品等を挟み込んで、当該扱胴や受網及び交換部品等の変形や破損が生じるといった問題が起こり難くなる。また、上部枠体が完全に閉じる時の衝撃も緩和できる。
そして、請求項2の発明によれば、上部枠体の閉動作速度よりも上部枠体の開動作速度が速くなるように構成したことによって、操作手段の操作に基づいてアクチュエータを介して上部枠体を閉じる際、その閉動作中に扱室内に工具や交換部品を発見した時は、操作手段の操作に基づいてアクチュエータを介して速やかに上部枠体の開動作を実行することができ、作業能率の向上が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、コンバイン1の側面図であって、コンバイン1は、穀稈を刈取る前処理部2と、刈り取った穀稈から穀粒を脱穀し、この脱穀した穀粒を選別する脱穀装置3と、選別済みの穀粒を一時的に貯留する穀粒タンク4と、穀粒タンク4内の穀粒を機外へ搬出する穀粒排出オーガ5と、脱穀済みの排稈を機体後部まで搬送する排藁搬送部6と、機体後部において排稈を排出処理する後処理部7と、オペレータが着座する座席8や各種操作具を設けた操縦部9と、該操縦部9を覆うキャビン11と、左右一対のクローラ走行装置12等を備えている。
【0008】
そして、脱穀装置3は、図2に示すように、複数の扱歯13aを外周に植設した扱胴13と、この扱胴13と該扱胴13の下側外周に沿って設けた図示しない受網とを内装する扱室14と、該扱室14に沿って穀稈を搬送する脱穀フィードチェン15と、該脱穀フィードチェン15の上側に沿って配置される挟扼レール16と、脱穀された穀粒を選別する送風ファン17(図5参照)等の選別装置を備えた選別室18と、選別された穀粒を穀粒タンク4へ揚上搬送する揚穀筒19等を備えて機体の左側に搭載されている。更に詳しくは、揚穀筒19は、脱穀装置3の機体中心側の側面に沿って立設してあり、脱穀装置3の右側に搭載した穀粒タンク4に選別済みの穀粒を搬送することができる。
【0009】
また、穀粒タンク4の底部には、図示しない螺旋搬送体が内装してあり、その回転駆動により穀粒タンク4内の穀粒が穀粒排出オーガ5に送り出されるようになっている。尚、本実施形態の穀粒タンク4は、穀粒排出オーガ5の縦パイプ5aを支点として機体外側方へ退避回動可能であり、それによって当該穀粒タンク4の機体上の搭載位置を広く開放できるので機体中央部のメンテナンス作業が容易に行えるようになる。
【0010】
そして、穀粒排出オーガ5は、穀粒タンク4の底部に連通する縦パイプ5aと、この縦パイプ5aの上端部に旋回及び昇降自在に連結する横パイプ5bを備えており、両パイプ5a,5bに内装した図示しない螺旋搬送体の回転駆動により横パイプ5b先端の排出口5cまで穀粒が搬送される。尚、穀粒排出オーガ5により穀粒タンク4内の穀粒を機外へ搬出しない時は、横パイプ5bを機体上部に沿って収納可能であり、機体上部の略中央位置には、当該横パイプ5bを支持するためにY字状に形成したオーガ受け21を立設している。
【0011】
また、排藁搬送部6は、脱穀フィードチェン15の終端部で脱穀済みの排稈を受け取り、この排稈を上下に対設した排藁搬送チェン22と図示しない排藁レールとの間に挟持しながら、その後方の後処理部7まで搬送するように構成している。なお、図中符号23は、排藁搬送部6の上方を覆う開閉自在な排藁カバーである。
【0012】
そして、図2〜図5に示すように、扱室14の上方は上部枠体25によって覆われている。上部枠体25は、扱室14上部の機体中央側の前後方向に沿う回動支点軸Pに外嵌する筒軸26に開閉自在に支持してあり、扱室14内の清掃や点検等を行う際に開き操作される。更に詳しくは、筒軸26は、後述する扱胴13の回転軸27と平行な前記回動支点軸Pに回転自在に支承してあり、当該筒軸26に固設した複数の回動アーム28を介して上部枠体25は上下回動自在に支持されている。尚、本実施形態の上部枠体25は、扱胴13及び挟扼レール16を支持すると共に、上部枠体25の開閉動作に連係して排藁搬送チェン22と排藁カバー23も昇降(開閉)作動するように構成してあり、当該上部枠体25はかなりの重量物となっているが、本発明は、このような構成のものに限定されるものではない。
【0013】
また、上述した筒軸26には、作動アーム29が固設してあり、この作動アーム29に連結するアクチュエータ(本実施形態では、電動シリンダを採用)31の伸縮作動によって上部枠体25を開閉できるように構成すると共に、脱穀装置3を構成する上部枠体15と下部枠体32との間に上部枠体25を開放方向に付勢するガススプリング33を介装している。
【0014】
そして、扱室14の機体中央側を形成する扱室側方カバー34は、図4及び図5に示すように、その一部分の機体中央側が扱室14側に凹んだ凹陥部34aを有しており、この凹陥部34aにアクチュエータ31を配置することによって、該アクチュエータ31を穀粒タンク4側へ突出させることなく配置せしめる共に、扱室14の後部に連通する処理室35と、その下方の選別室18にも当該アクチュエータ31が干渉することなく配置できるように構成している。また、選別室18の穀粒タンク4側は、選別側板36により覆われており、この選別側板36には、送風ファン17に空気を送るための孔36aを設けている。
【0015】
ところで、扱胴13の回転軸27は、上部枠体25に一体形成した前後の側板38に軸支してあり、この側板38の外側に扱室14の上方を覆う上部枠体25の開放動作をロックする開放ロック機構41を設けている。この開放ロック機構41は、下部枠体32に設けたロックピン42に係脱する回動自在なフック43と、上部枠体25の先端部(機体外側部)側に支持した上下回動自在なロック解除レバー44と、該ロック解除レバー44とフック43とを連係させるリンク45a,45b等を備えている。
【0016】
即ち、上部枠体25が全閉状態にある時、フック43は、このフック43とリンク45bとの間に係止した引張スプリング46によってロックピン42へ係合する方向(図2において反時計回り方向)へ付勢されており、それにより上部枠体25の開き操作がロックされている。そしてこの状態で、ロック解除レバー44を上方へ回動操作すると、リンク45a,45bを介して連係するフック43が、引張スプリング46の付勢力に抗して図3において時計回り方向へ回転し、それに伴ってロックピン42とフック43の係合が解除されて上部枠体25の開き操作が可能になる。
【0017】
尚、ロック解除レバー44は、図4に示すように、上部枠体25に設けたL字状のガイド溝25aに沿って上方へ回動操作することによってロックを解除した状態を保持できるようになっており、上部枠体25の開閉動作をアクチュエータ31を介して容易に行えるものでありながら、上部枠体25のロック及びロック解除を手動で確実に行うことが可能である。
【0018】
また、アクチュエータ31を介して上部枠体25の開閉操作を行う操作手段である上昇操作スイッチ48と下降操作スイッチ49は、脱穀装置3の外側面部、即ちフィードチェン15を覆うサイドカバー51の中央部に上下に隣接して設けてある。両操作スイッチ48,49は、モーメンタリスイッチを採用すると共に、常時は透明なカバー体52によって覆ってあり、このカバー体52を持ち上げて開放した状態でスイッチ操作を行うことができる。
【0019】
そして、図6に示すブロック図のように、コンバイン1は、マイクロコンピュータ(CPU、ROM、RAM等を含む)を用いて構成した制御部61を備えている。この制御部61の入力側には、アクチュエータ31を作動させる操作手段である上昇操作スイッチ48と下降操作スイッチ49、上部枠体25の開度を検出する開度検出ポテンショメータ62を所定の入力インターフェイス回路を介して接続する一方、制御手段61の出力側には、上部枠体25を下部枠体32に対して開閉動作せしめるアクチュエータ31を所定の出力インターフェイス回路を介して接続している。尚、上部枠体25の開度を検出する開度検出ポテンショメータ62は、上部枠体25の回動支点軸P近傍の図示しない位置に設けている。
【0020】
次に、上述した制御部61による上部枠体25の開閉制御を図7に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0021】
先ず、ステップS1では、上部枠体25の開き操作を行う上昇操作スイッチ48が入り状態なっているか否かを判断し、入り状態になっていればステップS2に進み、切り状態であればステップS3に進む。
【0022】
ステップS2では、図8に模式的に示すように、上部枠体25の開度を検出する開度検出ポテンショメータ62の検出値(以下PT値とする)が、上部枠体25の最大開き位置におけるPT値=a3以下、即ち上部枠体25がその最大開き位置に達しているか否かを判断し、PT値がa3以下ならばステップS4に進み、PT値がa3以下でなければステップS5に進む。
【0023】
ステップS4では、電動シリンダ(アクチュエータ)31を縮作動させて元に戻る。この時、電動シリンダ31の作動速度をb3とする。そして、ステップS5では、電動シリンダ31の作動を停止して元に戻る。
【0024】
また、ステップS3では、上部枠体25の閉じ操作を行う下降操作スイッチ48が入り状態なっているか否かを判断し、入り状態になっていればステップS6に進み、切り状態であればステップS5に進む。
【0025】
ステップS6では、図8に示すように、上部枠体25の開度を検出する開度検出ポテンショメータ62のPT値が、上部枠体25の閉じ位置におけるPT値=a1以上、即ち上部枠体25がその閉じ位置に達しているか否かを判断し、PT値がa1以上ならばステップS7に進み、PT値がa1以上でなければステップS5に進む。
【0026】
ステップS7では、図8に示すように、上部枠体25の開度を検出する開度検出ポテンショメータ62のPT値が、上部枠体25の閉動作速度(角速度)変速ポイントにおけるPT値=a2以上、即ち上部枠体25がその閉動作速度を変更するポイントに達しているか否かを判断し、PT値がa2以上ならばステップS8に進み、PT値がa2以上でなければステップS9に進む。尚、上述した上部枠体25の開度を検出する開度検出ポテンショメータ62のPT値a1〜a2間の角度α1と、PT値a2〜a3間の角度α2の関係は、α1<α2(α2≒2×α1)となるように設定している。
【0027】
ステップS8では、電動シリンダ31を伸作動させて元に戻る。この時、電動シリンダ31の作動速度をb2とする。また、ステップS9では、電動シリンダ31を伸作動させて元に戻る。この時、電動シリンダ31の作動速度をb1とする。そして、上述した電動シリンダ31の作動速度b1,b2,b3は、|b1|<|b2|<|b3|、または|b1|<|b2|=|b3|となるように上部枠体25の開閉動作速度(角速度)を制御している。
【0028】
以上説明した上部枠体25の開閉制御によれば、扱室14の上方を覆う上部枠体25を下部枠体32に対して開閉させる電動シリンダ(アクチュエータ)31の閉動作速度(角速度)を、上部枠体25の開度が大きい時(図8に示すα2範囲)は速く(b2)、開度が小さい時(図8に示すα1範囲)は遅く(b1)なるように制御することによって、電動シリンダ31を縮作動させる操作手段である上昇操作スイッチ48の操作に基づいて、電動シリンダ31を介して上部枠体25を開いた状態で扱室14内のメンテナンス等を行った後、再び電動シリンダ31を伸作動させる操作手段である下降操作スイッチ49の操作に基づいて電動シリンダ31を介して上部枠体25を閉じる際、扱室14内に工具や交換部品等を放置したままで上部枠体25を閉動作させてしまった場合でも、上部枠体25の開度が小さくなるとその閉動作速度が遅くなることから、前記工具や交換部品を発見する余裕時間が増加すると共に、扱室14内に工具や交換部品を発見した時は、上部枠体25の閉動作の停止措置も余裕を持って行なえるようになり、従来の不具合である上部枠体25と扱胴13、或いは扱胴13とその下方の受網との間に工具や交換部品等を挟み込んで、当該扱胴やその下方の受網(不図示)及び交換部品等の変形や破損が生じるといった問題が起こり難くなる。また、上部枠体25が完全に閉じる時の衝撃も緩和できる。
【0029】
そして、上部枠体25の閉動作速度(角速度)よりも上部枠体の開動作速度(角速度)が速くなるように構成すべく、電動シリンダ31の作動速度b1,b2,b3を、上述の如く|b1|<|b2|<|b3|、または|b1|<|b2|=|b3|となるように制御することによって、電動シリンダ31を伸作動させる操作手段である下降操作スイッチ49の操作に基づいて電動シリンダ31を介して上部枠体25を閉じる際、その閉動作中に扱室14内に工具や交換部品を発見した時は、上昇操作スイッチ48の操作に基づいて電動シリンダ31を介して速やかに上部枠体25の開動作を実行することができ、作業能率の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】コンバインの側面図。
【図2】上部枠体を閉じた状態の脱穀装置の要部正面図。
【図3】上部枠体を開いた状態の脱穀装置の要部正面図。
【図4】脱穀装置と穀粒タンクの一部とを示す要部平面図。
【図5】脱穀装置を示す斜視図。
【図6】制御部のブロック図。
【図7】上部枠体の開閉制御を示すフローチャート。
【図8】上部枠体の開閉制御範囲を示す模式図。
【符号の説明】
【0031】
14 扱室
25 上部枠体
31 アクチュエータ
32 下部枠体
48 操作手段(上昇操作スイッチ)
49 操作手段(下降操作スイッチ)
61 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
扱室(14)の上方を覆う上部枠体(25)を下部枠体(32)に対して開閉させるアクチュエータ(31)と、該アクチュエータ(31)を作動させる操作手段(48,49)と、該操作手段(48,49)の操作に基づいて前記アクチュエータ(31)に上部枠体(25)の開閉動作指令を出力する制御部(61)を備えたコンバインであって、前記アクチュエータ(31)による上部枠体(25)の閉動作速度を、該上部枠体(25)の開度が大きい時は速く、開度が小さい時は遅くなるように制御することを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
上部枠体(25)の閉動作速度よりも上部枠体(25)の開動作速度が速くなるように構成した請求項1に記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−112241(P2009−112241A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288298(P2007−288298)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】