説明

ゴム−金属複合体の製造方法、ゴム−金属複合体、タイヤ、免震用のゴム支承体、工業用ベルト、及びクローラー

【課題】ゴムと金属材料との初期接着性、耐湿熱接着性、及び接着耐久性に優れたゴム−金属複合体の製造方法、前記ゴム−金属複合体の製造方法により製造されたゴム−金属複合体、前記ゴム−金属複合体を備えたタイヤ及び免震用のゴム支承体、並びに前記ゴム−金属複合体を適用した工業用ベルト及びクローラーを提供する。
【解決手段】金属材料とpH5以上pH7.2以下の緩衝液とを接触させる工程と、前記接触後の金属材料とゴムとを接着させる工程と、を有するゴム−金属複合体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム−金属複合体の製造方法、ゴム−金属複合体、タイヤ、免震用のゴム支承体、工業用ベルト、及びクローラーに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムに金属材料を埋設する方法において、ゴムと金属材料との接着を強化する目的で、金属材料の表面を、酸性もしくはアルカリ性の溶液やアセトン等で処理し清浄化する技術が知られている。
例えば、特許文献1には、リン酸水溶液等の強酸でスチールワイヤの表面を洗浄する技術が開示されている。また、特許文献2には、鋼板の表面に金属イオン及び酸を含有する処理剤を接触させ被覆層を形成し、塩酸浴に浸漬して該被覆層を剥離する技術が開示されている。
ほかに、特許文献3には、ブラスメッキを施したスチールワイヤを、銅及び亜鉛以外の遷移金属塩を含む水溶液で洗浄する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−234371号公報
【特許文献2】特開2001−260235号公報
【特許文献3】特開2009−091691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1及び2に記載の各技術は、洗浄または剥離に強酸を用いており、強酸は腐食性が高いことから、金属表面に残存すると腐食が進行しやすかった。また、強酸が金属表面の性状に影響を及ぼし、ゴムとの接着耐久性や保存安定性(トリート放置後の接着性)が低下する場合があった。
一方、特許文献3に記載の技術は、洗浄に用いる水溶液において、銅及び亜鉛以外の遷移金属塩が必須成分であり、洗浄用溶液の供給安定性や環境負荷の観点から、銅及び亜鉛以外の遷移金属塩を必要とせずに、ゴムと金属材料との接着性を向上させる技術の開発が待たれていた。
【0005】
本発明の課題は、ゴムと金属材料との初期接着性、耐湿熱接着性、及び接着耐久性に優れたゴム−金属複合体の製造方法を提供することである。
また、本発明の課題は、ゴムと金属材料との初期接着性、耐湿熱接着性、及び接着耐久性に優れたゴム−金属複合体を提供することである。
更には、本発明の課題は、前記ゴム−金属複合体を備えたタイヤ及び免震用のゴム支承体、並びに前記ゴム−金属複合体を適用した工業用ベルト及びクローラーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段は、以下のとおりである。
<1> 金属材料とpH5以上pH7.2以下の緩衝液とを接触させる工程と、前記接触後の金属材料とゴムとを接着させる工程と、を有するゴム−金属複合体の製造方法。
<2> 前記緩衝液は、遷移金属を実質的に含まない液体である<1>に記載のゴム−金属複合体の製造方法。
<3> 前記緩衝液は、pH5.2以上7.0以下である<1>または<2>に記載のゴム−金属複合体の製造方法。
<4> 前記緩衝液は、酸解離定数pKaが4以上8以下である酸から選択される少なくとも1種の酸を含む<1>〜<3>のいずれか1つに記載のゴム−金属複合体の製造方法。
<5> <1>〜<4>のいずれか1つに記載のゴム−金属複合体の製造方法により製造されたゴム−金属複合体。
<6> <5>に記載のゴム−金属複合体を備えたタイヤ。
<7> <5>に記載のゴム−金属複合体を備えた免震用のゴム支承体。
<8> <5>に記載のゴム−金属複合体を適用した工業用ベルト。
<9> <5>に記載のゴム−金属複合体を適用したクローラー。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ゴムと金属材料との初期接着性、耐湿熱接着性、及び接着耐久性に優れたゴム−金属複合体の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、ゴムと金属材料との初期接着性、耐湿熱接着性、及び接着耐久性に優れたゴム−金属複合体を提供することができる。
更には、前記ゴム−金属複合体を備えたタイヤ及び免震用のゴム支承体、並びに前記ゴム−金属複合体を適用した工業用ベルト及びクローラーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<ゴム−金属複合体の製造方法>
本発明のゴム−金属複合体の製造方法は、金属材料とpH5以上pH7.2以下の緩衝液とを接触させる工程と、前記接触後の金属材料とゴムとを接着させる工程とを有する。
本発明のゴム−金属複合体の製造方法によれば、ゴムと金属材料との接着性を向上させることができ、初期接着性、耐湿熱接着性、及び接着耐久性に優れる。
また、本発明のゴム−金属複合体の製造方法によれば、金属材料が腐食されにくく、金属材料の耐久性がよい。
【0009】
本発明のゴム−金属複合体の製造方法において、ゴムと金属材料との接着性が向上するメカニズムは、特定の理論に拘束されるものではないが、以下のように推定される。
金属材料は、取り扱いの便宜上、また、金属を腐食から守るために、その表面に潤滑剤と防錆剤が付着していることがある。この潤滑剤および防錆剤が被膜となって、金属材料とゴムとの接着を妨げると考えられる。また、金属材料がその表面にメッキ層を有する場合、メッキ層を構成する銅や亜鉛等の金属の酸化物が金属材料の表面に被膜を形成し、金属材料とゴムとの接着を妨げると考えられる。したがって、金属材料とゴムとの接着性は、金属材料の表面に存在する上記のような被膜の少なくとも一部が除去されることで向上する。
本発明のゴム−金属複合体の製造方法においては、金属材料の表面をpH5以上pH7.2以下の緩衝液で前処理することにより、金属材料の表面に存在する被膜の少なくとも一部が除去され、かつ、金属材料の表面がゴムとの接着に適した状態に適度に活性化されるので、金属材料とゴムとの初期接着性が向上するものと考えられる。
また、本発明のゴム−金属複合体の製造方法においては、前記緩衝液が金属材料の表面に悪影響を及ぼしにくいので、耐湿熱接着性、及び接着耐久性も良好である。
【0010】
以下、金属材料と緩衝液とを接触させる工程(「表面処理工程」と称する。)、及び、前記接触後の金属材料とゴムとを接着させる工程(「接着工程」と称する。)の詳細を説明する。
【0011】
[表面処理工程]
表面処理工程は、金属材料の表面にpH5以上pH7.2以下の緩衝液を接触させる工程である。この工程により、金属材料の表面に存在する被膜の少なくとも一部が除去され、かつ、金属材料の表面がゴムとの接着に適した状態に適度に活性化するものと考えられる。
【0012】
金属材料の表面に、前記緩衝液を接触させる方法としては、例えば、金属材料に前記緩衝液を吹きかける方法、前記緩衝液に金属材料を浸漬する方法等が挙げられる。
表面処理工程は、複数回行なってもよい。例えば、金属材料に前記緩衝液を吹きかけることを複数回繰り返してもよく、金属材料を前記緩衝液に浸漬した後、水等で洗浄し、再度、前記緩衝液に浸漬してもよい。
【0013】
(緩衝液)
本発明おいては、pH5以上pH7.2以下の緩衝液を、金属材料の表面処理用の処理液として用いる。ゴム−金属複合体を連続的に製造する場合や、金属材料を処理液に浸漬した後、水等で洗浄し、再度、処理液に浸漬する場合、金属材料表面からの金属の溶出や水の混入により、処理液のpHが変動することがある。金属材料の表面処理用の処理液が前記緩衝液であると、pHが変動しにくく有利である。
【0014】
前記緩衝液は、pH5以上pH7.2以下である。緩衝液のpHが7.2超であると、金属材料の表面に存在する被膜の除去が困難となり、ゴムと金属材料との初期接着性がよくない。他方、緩衝液のpHが5未満であると、金属材料の表面に悪影響を及ぼし、耐湿熱接着性、及び接着耐久性が悪くなる。また、緩衝液のpHが5未満であると、金属材料が腐食しやすく、金属材料の耐久性が悪くなる。
前記緩衝液は、ゴムと金属材料との接着性および金属材料の耐久性の観点から、pH5.2〜7.0であることが好ましく、pH5.4〜6.8であることがより好ましく、pH6.0〜pH6.8であることが更に好ましい。前記緩衝液が、pH6.0〜pH6.8であると、保存安定性(トリート放置後の接着性)も良好である。
【0015】
前記緩衝液は、少なくとも1種の酸を含む。前記緩衝液に含まれる酸としては、特に制限されない。ゴムと金属材料との接着性および金属材料の耐久性の観点から、弱酸が好ましく、酸解離定数(pKa)が4以上8以下である酸が好ましく、例えば、酢酸、リン酸、フタル酸、コハク酸、クエン酸、炭酸などが挙げられる。中でも、酢酸、リン酸が好ましい。酸は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
前記緩衝液は、具体的には、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液、リン酸二水素ナトリウム−リン酸水素二ナトリウム緩衝液、フタル酸水素カリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、クエン酸ナトリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、コハク酸−四ホウ酸ナトリウム緩衝液などが挙げられる。中でも、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液、リン酸二水素ナトリウム−リン酸水素二ナトリウム緩衝液が好ましい。
【0017】
前記緩衝液に含まれる金属成分としては、ナトリウム又はカリウムが好ましい。それ以外の金属、特に遷移金属は、前記緩衝液のpH調整の容易性の観点、あるいは使用終了後の前記緩衝液の排水処理の容易性の観点などから、前記緩衝液中に実質的に含まれないことが好ましい。即ち、前記緩衝液は、遷移金属を実質的に含まないことが好ましい。
ここで、「実質的に含まない」とは、緩衝液中の遷移金属濃度が0.01mol/l未満であることを意味する。本発明においては、緩衝液中の遷移金属濃度は、0.005mol/l以下が好ましく、特には0mol/lが好ましい。
また、遷移金属とは、周期律表の第4周期のスカンジウム(Sc)から亜鉛(Zn)まで、第5周期のイットリウム(Y)からカドミウム(Cd)まで、第6周期のルテチウム(Lu)から水銀(Hg)までの金属元素を指す。この遷移金属としてはコバルトが典型例である。
【0018】
前記緩衝液は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない限度において、無機塩やアルコール等を添加して調製してもよい。
【0019】
金属材料と前記緩衝液とが接触している時間(「表面処理時間」と称する。)は、前記緩衝液のpHにより適宜変更すればよく、通常0.5秒〜20秒の範囲であり、1秒〜15秒が好ましい。
前記緩衝液のpHが小さい場合、表面処理時間は短くて済む。前記緩衝液のpHが大きい場合、表面処理時間は長くすることができる。換言すれば、前記緩衝液のpHが大きい場合、表面処理時間を調整することで、金属材料の表面処理の度合いの加減を変え易い。
また、前記緩衝液の温度は、10℃〜40℃であることが好ましく、15℃〜30℃がより好ましい。
【0020】
(金属材料)
本発明のゴム−金属複合体の製造方法に用いられる金属材料は、ゴムと接着するための金属材料であり、金属材料の表面にメッキ層を有する金属材料である。
本発明のゴム−金属複合体の製造方法においては、pH5以上pH7.2以下の緩衝液を用いて金属材料の表面を化学的に処理するので、メッキ層を摩耗する或いは削り取ることがなく、したがって、下地の金属が露出することに起因する金属の腐食が起こりにくい。
また、前記緩衝液はメッキ層に悪影響を及ぼしにくいため、ゴムと金属材料との接着性に悪影響を及ぼしにくい。
【0021】
前記金属材料は、具体的には、例えば、鉄、鋼(ステンレス鋼)、鉛、アルミニウム、銅、黄銅、青銅、モネル金属合金、ニッケル、亜鉛等の金属からなる金属材料の表面に、例えば、亜鉛メッキ、銅メッキ、ブロンズメッキ、真鍮メッキ等のメッキ層を有する金属材料が挙げられる。前記金属材料は、前記緩衝液により表面が適度に活性化されゴムとの接着性が向上する観点から、メッキ層として、ブロンズメッキ層または真鍮メッキ層を有するものが好ましく、特に真鍮メッキ層を有するものが好ましい。
前記金属材料の形態としては、例えば、金属鋼線、金属板、金属チェーンが挙げられる。
【0022】
−金属鋼線−
金属鋼線は、一般に、鋼、すなわち、鉄を主成分(金属鋼線の全質量に対する鉄の質量が50質量%を超える)とする線状の金属をいい、鉄のみで構成されていてもよいし、鉄以外の、例えば、亜鉛、銅、アルミニウム、スズ等の金属を含んでいてもよい。
金属鋼線の表面のメッキ層に関し、メッキ処理の種類としては、特に制限されず、例えば、亜鉛メッキ、銅メッキ、ブロンズメッキ、真鍮メッキ等が挙げられる。金属鋼線の表面がメッキ層であるとは、金属鋼線の表面に鉄が露出しているのではなく、鉄線(鉄100質量%)または鉄を含む金属線に対して、亜鉛メッキ、銅メッキ、ブロンズメッキ、真鍮メッキ等のメッキ処理が施されていることをいう。なお、鉄線に対してメッキが施されている場合、メッキ層の表面を有する鉄線を金属鋼線という。また、鉄を含む金属線に対してメッキが施されている場合、メッキ層の表面を有する当該金属線を金属鋼線という。
メッキは、上記の中でも真鍮メッキが好ましい。真鍮メッキを有する金属鋼線は、前記緩衝液と接触することで表面が適度に活性化され、ゴムとの接着性が向上する。
なお、真鍮メッキは、ブラスメッキとも称され、通常、銅と亜鉛との割合(銅:亜鉛)が、質量基準で60〜70:30〜40である。また、メッキ層の層厚は、一般に100nm〜300nmである。
【0023】
金属鋼線は、線径が0.1mm〜5.5mmであることが好ましい。ここで、金属鋼線の線径とは、金属鋼線の軸線に対して垂直の断面形状における最長の長さをいう。金属鋼線の軸線に対して垂直の断面形状は特に制限されず、楕円状、矩形状、三角形状、多角形状等であってもよいが、一般に、円状である。
タイヤのカーカスやベルトに用いられるスチールコードは、スチールコードを構成するフィラメントの素線の軸線に対して垂直の断面形状が、一般に円状であり、該断面形状の線径が0.1mm〜0.5mmである。また、ビードコアは、ビードコアの軸線に対して垂直の断面形状が、一般に円状であり、該断面形状の線径が1mm〜1.5mmである。
従って、本発明における金属鋼線の線径を上記範囲とすることで、本発明における金属鋼線をタイヤに適用しやすくなる。
金属鋼線の線径は、0.15mm〜5.26mmであることがより好ましい。
【0024】
[接着工程]
接着工程は、前記緩衝液と接触して表面処理された金属材料と、ゴムとを接着する工程である。通常、ゴムと金属材料とを、加圧加熱下で加硫接着する。
ゴムと金属材料とを加硫接着する際の圧力および温度は、通常の加硫接着時の圧力および温度でよい。例えば、圧力は、約2〜15MPaが好ましく、約2〜5MPaがより好ましい。温度は、約140〜200℃が好ましく、約150〜170℃がより好ましい。加圧加熱する時間は、ゴムの厚さによって適宜選択され、約3〜60分間が好ましい。
【0025】
(ゴム)
本明細書中ゴムとは、ゴム単体はもちろん、ゴムに硫黄、加硫剤等を添加したゴム組成物をも含む用語である。
ゴム単体およびゴム組成物に含有されるゴムとしては、例えば、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、ネオプレン(登録商標)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマーゴム、ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン等を含むオレフイン合成ゴムや、天然ゴムが挙げられる。
【0026】
ゴム組成物は、ゴムの他に、硫黄、亜鉛華等の加硫剤、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド等の加硫促進剤、ステアリン酸等の加硫助剤、N−フェニル- N’−( 1,3−ジメチル) −p−フェニレンジアミン等の老化防止剤、カーボンブラック等の充填剤等の添加剤を含有することができる。ゴムと上記添加剤とを、公知の方法、装置を用いて混練、適宜成形し、ゴム組成物を得る。
【0027】
ゴム組成物は、空気入りタイヤや工業用ベルトなどに適用する場合、ゴム成分100質量部に対して硫黄を1〜10質量部で配合したものが好ましい。硫黄が1質量部以上であると、硫黄とゴムとの加硫接着本来の接着力を十分に確保できる。一方、硫黄が10質量部以下であると、ゴム物性の耐熱老化性および耐熱接着特性が良好である。
【0028】
従来、ゴムと金属材料(特には、真鍮メッキ層を有する金属材料)との初期接着性を向上させるために、ゴムにコバルト塩を含有させる技術が知られていた。しかしながら、コバルト塩を配合したゴムの場合、コバルト塩を配合していないゴムに較べて、ゴムの耐劣化性および耐亀裂成長性が悪化する場合がある。
本発明のゴム−金属複合体の製造方法によれば、ゴムにコバルト塩を含有させなくてもゴムと金属材料との初期接着性が良好である。
【0029】
[その他の工程]
本発明のゴム−金属複合体の製造方法は、さらに、前記緩衝液と接触させた金属材料を水で洗浄する洗浄工程を有してもよい。
本発明においては、前記緩衝液が金属材料の腐食を起こしにくく、メッキ層に悪影響を及ぼしにくいので、さらに洗浄工程を設ける必要は特にはない。ただし、金属材料の表面に残存した前記緩衝液が、金属材料の腐食を起こしたり、メッキ層に悪影響を及ぼすことがある場合には、金属材料の耐久性等の観点から、洗浄工程を設けることが好ましい。
洗浄工程に用いる水は、イオン交換水であっても水道水であってもよいが、イオン交換水であることが好ましい。
【0030】
<ゴム−金属複合体>
本発明のゴム−金属複合体は、既述の本発明のゴム−金属複合体の製造方法により製造されたものである。即ち、本発明のゴム−金属複合体は、pH5以上pH7.2以下の緩衝液と接触させ表面を処理した金属材料と、ゴムとを接着させたものである。
本発明のゴム−金属複合体は、前記緩衝液により金属材料の表面が処理されることにより、ゴムと金属材料との初期接着性、耐湿熱接着性、及び接着耐久性に優れる。また、本発明のゴム−金属複合体は、前記緩衝液が金属材料を腐食させにくいことにより、金属材料の耐久性が損なわれにくい。
【0031】
本発明のゴム−金属複合体における、ゴム及び金属材料の詳細及び好ましい態様は、本発明のゴム−金属複合体の製造方法に関して、既述したとおりである。
【0032】
本発明のゴム−金属複合体は、ゴム−金属複合体である各種製品、または、ゴム−金属複合体を備えた各種製品の部品類として広く適用できる。
上記の各種製品や部品類としては、タイヤ、動伝達ベルトやコンベアベルト等の工業用ベルト、ブルドーザー等に使用される無限軌道駆動装置に装着されるゴム製のクローラー、免震用のゴム支承体、及びホース等が挙げられる。これら各種製品や部品類は、公知の構成をそのまま採用することができ、ゴムと金属材料との複合体の製造に、本発明のゴム−金属複合体の製造方法を適用する。
【0033】
工業用ベルトやクローラーは、通常、スチールケーブルまたは未加硫ゴムでコーティングされたスチールケーブルに未加硫ゴムを巻き付け、加硫して成形することで製造される。本発明のゴム−金属複合体は、上記のようにして製造される、スチールケーブルを埋設した工業用ベルトやクローラーとして好適である。
免震用のゴム支承体とは、一般に、ゴムシートと鋼板等の硬質板とを交互に積層した積層体であり、橋梁の支承やビルの基礎免震等に用いられる。通常、ゴムシートには、金属チェーン等の金属材料が埋設される。本発明のゴム−金属複合体は、例えば上記の用途に適用される免震用のゴム支承体におけるゴムシートとして好適である。
【0034】
<タイヤ>
本発明のゴム−金属複合体は、ゴムと金属材料との接着性に優れ、また、金属材料の耐久性も損なわれにくいため、空気入りゴムタイヤ(本明細書中、単に「タイヤ」とも称する。)の補強材として好適である。
自動車走行等でゴムと金属材料とに大きな負荷がかかるタイヤの製造に本発明のゴム−金属複合体を用いると、ゴムと金属材料(具体的には金属鋼線)との接着強度が大きく、接着耐久性もよいので、剥離しにくい。
【0035】
本発明のゴム−金属複合体を備えたタイヤは、公知のタイヤの構成をそのまま採用することができる。例えば、カーカスやベルトに用いられるスチールコード、ビードコア等の金属鋼線とゴムとの複合体の製造に、本発明のゴム−金属複合体の製造方法を採用することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り「部」は質量基準である。
【0037】
(材料の用意)
金属材料、及びゴム組成物として、次のものを用意した。
・金属材料
真鍮メッキスチールワイヤ(強力1124N、伸度3%、メッキ層の銅/亜鉛質量比=63/37、線径0.8mm)
【0038】
・ゴム組成物
天然ゴム100部、HAFカーボン60部、亜鉛華8部、老化防止剤(大内新興化学工業(株)製ノクラック6C)2部、加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製ノクセラーDZ)1部、及び硫黄5部を、常法により混練し、熱入れ及び押し出しして、ゴム組成物とした。
【0039】
(表面処理に用いる液体の調製)
・酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液
イオン交換水に酢酸ナトリウム(試薬特級)を0.1mol/lの濃度で溶解させ、そこに酢酸(試薬特級)を加えて下記表1記載のpHに調整して、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液を作製した。その際、この緩衝液中に実質的に他のイオンの混入がないように注意して作製した。
【0040】
・リン酸二水素ナトリウム−リン酸水素二ナトリウム緩衝液
イオン交換水にリン酸水素二ナトリウム(試薬特級)を0.2mol/lの濃度で溶解させた。別途、イオン交換水にリン酸二水素ナトリウム(試薬特級)を0.2mol/lの濃度で溶解させた。これらの液体を1:1の割合で混合し、pH6.6のリン酸二水素ナトリウム−リン酸水素二ナトリウム緩衝液を作製した。その際、この緩衝液中に実質的に他のイオンの混入がないように注意して作製した。
【0041】
・酢酸ナトリウム溶液
イオン交換水に酢酸ナトリウム(試薬特級)を0.1mol/lの濃度で溶解させ、pH7.9の酢酸ナトリウム溶液を作製した。その際、この溶液中に実質的に他のイオンの混入がないように注意して作製した。
【0042】
〔実施例1〜4及び比較例1〜4〕
(金属材料の表面処理)
実施例1〜4及び比較例1〜3は、下記表1に示す各液体を用いてスチールワイヤの表面処理を行った。具体的には、用意したスチールワイヤを、各液体中に浸漬した。浸漬時間は10秒、浸漬温度は室温(25℃)であった。その後、スチールワイヤをイオン交換水で洗浄し(洗浄時間10秒)、すぐにドライヤー(室温、25℃)で乾燥させた。
比較例4は、液体を用いたスチールワイヤの表面処理を行わなかった。
【0043】
(金属材料とゴムとの接着、並びに評価)
−初期接着性−
表面処理したスチールワイヤを、12.5mm間隔で平行に並べ、該スチールワイヤを上下からゴム組成物でコーティングし、160℃で5分間加硫して、ゴムとスチールワイヤとを接着させた。このようにして、幅12.5mmのゴム−スチールワイヤ複合体を得た。その後、ASTMD−2229に準拠して、加硫直後の各サンプルからスチールワイヤを引き抜き、スチールワイヤに付着しているゴムの被覆率を目視観察にて0〜100%で表示して、接着性の指標とした。数値が大きいほど接着性が高く、良好である。評価結果を下記表1に示した。
【0044】
−耐湿熱接着性−
表面処理したスチールワイヤを、12.5mm間隔で平行に並べ、該スチールワイヤを上下からゴム組成物でコーティングし、160℃で20分間加硫して、ゴムとスチールワイヤとを接着させた。このようにして、幅12.5mmのゴム−スチールワイヤ複合体を得た。このゴム−スチールワイヤ複合体を70℃、相対湿度95%で14日間劣化させた後、ASTMD−2229に準拠して、各サンプルからスチールワイヤを引き抜き、スチールワイヤに付着しているゴムの被覆率を目視観察にて0〜100%で表示して、接着性の指標とした。数値が大きいほど接着性が高く、良好である。評価結果を下記表1に示した。
【0045】
−接着耐久性−
表面処理したスチールワイヤを、12.5mm間隔で平行に並べ、該スチールワイヤを上下からゴム組成物でコーティングし、160℃で20分間加硫して、ゴムとスチールワイヤとを接着させた。このようにして、幅12.5mmのゴム−スチールワイヤ複合体を得た。このゴム−スチールワイヤ複合体を60℃、相対湿度80%、酸素雰囲気下で7日間放置後、ASTMD−2229に準拠して、各サンプルからスチールワイヤを引き抜き、スチールワイヤに付着しているゴムの被覆率を目視観察にて0〜100%で表示して、接着性の指標とした。数値が大きいほど接着性が高く、良好である。評価結果を下記表1に示した。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に明らかなように、本発明のゴム−金属複合体の製造方法により製造されたゴム−金属複合体は、比較例に比し、初期接着性、耐湿熱接着性、及び接着耐久性に優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料とpH5以上pH7.2以下の緩衝液とを接触させる工程と、
前記接触後の金属材料とゴムとを接着させる工程と、
を有するゴム−金属複合体の製造方法。
【請求項2】
前記緩衝液は、遷移金属を実質的に含まない液体である請求項1に記載のゴム−金属複合体の製造方法。
【請求項3】
前記緩衝液は、pH5.2以上7.0以下である請求項1または請求項2に記載のゴム−金属複合体の製造方法。
【請求項4】
前記緩衝液は、酸解離定数pKaが4以上8以下である酸から選択される少なくとも1種の酸を含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のゴム−金属複合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のゴム−金属複合体の製造方法により製造されたゴム−金属複合体。
【請求項6】
請求項5に記載のゴム−金属複合体を備えたタイヤ。
【請求項7】
請求項5に記載のゴム−金属複合体を備えた免震用のゴム支承体。
【請求項8】
請求項5に記載のゴム−金属複合体を適用した工業用ベルト。
【請求項9】
請求項5に記載のゴム−金属複合体を適用したクローラー。

【公開番号】特開2012−67421(P2012−67421A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214341(P2010−214341)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】