説明

ゴルフクラブヘッド

【課題】アドレス時にヘッドのセッティング状態が容易に確認でき、打点ズレをした場合にも、ボールにスピンをかけて飛距離を伸ばしたり飛距離を調整することができるヘッドを提供する。
【解決手段】ヘッドのフェース部27の略中央に複数本のスコアライン33をソール部13に沿って略平行に設けたヘッド3に於て、スコアライン33の端部をヘッド3のトップ,ソール方向に揃えると共に、スコアライン33が形成されたスコアライン形成領域35、スコアライン33より小さな開口幅と深さを有する複数本の小溝37を設ける。そして、スコアライン形成領域35を除く、ヘッド本体のフェース部15に、スコアライン33より小さな開口幅と深さを有する複数本の小溝37を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴルフクラブヘッドに係り、詳しくは打球面たるフェース部に複数本のスコアラインを設けたゴルフクラブヘッドの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばアイアンのゴルフクラブヘッド(以下、「ヘッド」という)は、番手に応じたロフト角が設定され、このロフト角は番手が上がるに従い順次大きく設定されている。
そして、アドレス時のヘッドのセッティング状態を確認し易くし、また、打球時にボールにスピンを付与するため、打球面たるフェース部の略中央に複数本のスコアラインがソール部に沿って略平行且つ等間隔に設けられており、ボールをこのスコアライン形成領域で打球すると、ロフト角とスコアラインとの相乗効果でボールにスピンがかかって、番手に応じた打出し角とスピンによる浮力で番手毎の飛距離が調整できるようになっている。
【0003】
ところで、特許文献1には、アドレス時に目標とするボールの飛球ラインに対するヘッドのセッティング状態をより確認し易くするため、スコアラインの凹溝の上側内面を外側上方に向け拡開傾斜状態に面取りしたヘッドが開示されている。
また、特許文献2には、ボールに更に良好なスピンをかけることができるように、スコアライン形成領域内に、スコアラインより断面の小さい複数本の小溝を設けたヘッドが開示されている。
【0004】
而して、特許文献1のヘッドによれば、アドレス時に上方からヘッドを目視すると、スコアラインが目立つため飛球ラインに対するヘッドのセッティング状態の確認が容易となり、また、特許文献2のヘッドによれば、打球時にスコアラインと小溝とによって、従来に比しボールに更に大きなスピンをかけることが可能となった。
【特許文献1】実開平6−66729号公報
【特許文献2】特開平9−253250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし乍ら、特許文献1及び特許文献2のヘッドは、いずれも打点ズレをした場合、また、様々な状況下でフェース部中央以外で打球をすることを強いられたような場合に、スコアライン形成領域を外して打球すると、ボールにスピンをかけることができない欠点があった。
本発明は斯かる実情に鑑み案出されたもので、アドレス時にヘッドのセッティング状態が容易に確認でき、また、例えば打点ズレをした場合にも、ボールにスピンをかけて飛距離を伸ばしたり飛距離を調整することができるヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するため、請求項1に係る発明は、フェース部の略中央に複数本のスコアラインをソール部に沿って略平行に設けたヘッドに於て、前記スコアラインの端部をヘッドのトップ,ソール方向に揃えると共に、当該スコアラインが形成されたスコアライン形成領域とその周辺のフェース部に、スコアラインより小さな開口幅と深さを有する複数本の小溝を設けたことを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に係る発明は、フェース部の略中央に複数本のスコアラインをソール部に沿って略平行に設けたヘッドに於て、前記スコアラインの端部をヘッドのトップ,ソール方向に揃えると共に、当該スコアラインが形成されたスコアライン形成領域を除くフェース部の周辺部に、スコアラインより小さな開口幅と深さを有する複数本の小溝を設けたことを特徴とし、請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載のヘッドに於て、隣接する小溝の間隔は、当該小溝の幅より幅狭であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1乃至請求項3に係る発明によれば、小溝がスコアラインより小さな開口幅と深さで形成されているため、アドレス時にスコアライン形成領域が良好に視認でき、目標とするボールの飛球ラインに対するヘッドのセッティング状態が容易に確認できる利点を有する。
そして、打点ズレをした場合に、小溝によってボールにスピンをかけることができるため、確実に飛距離を伸ばしたり飛距離を調整することができる。
【0009】
また、請求項2に係る発明によれば、スコアライン形成領域での打球とスコアライン形成領域外での打球のスピン量の差を小さくでき、安定した打球をすることができる。
更にまた、請求項3に係る発明によれば、隣接する小溝の間隔を小溝の幅より幅狭としたことで、ボールとの摩擦力が高まってボールに大きなスピンをかかることができる利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1乃至図6は請求項1及び請求項3の発明をアイアンのヘッドに適用した第一実施形態を示し、図1に示すように繊維強化樹脂または金属で形成されたシャフト1の先端にヘッド3が取り付き、シャフト1の後端側にグリップ5が取り付いてアイアンのゴルフクラブ7が形成されている。そして、周知のようにゴルフクラブ7のライ角αはシャフト軸線Sにより定められ、ヘッド3が規定のライ角,ロフト角で設定されたときに、ソールに接する基準水平面Lが設定される。
【0011】
図2はヘッド3の正面図を示し、図中、9はホーゼル部11やソール部13,フェース部15等がチタン合金やステンレス合金等で一体に鋳造されたヘッド本体で、図3に示すように打球時の慣性モーメントを大きくするため、ヘッド本体9のバック部17側には、ヘッド本体9の周辺部を残してキャビティ19が設けられており、斯かる構成によりヘッド本体9の重量が周辺部に分散されて、打球の方向性が安定するようになっている。
【0012】
尚、図示しないが、更にソール部13にウエイト部材を配する等して低重心化を図ってもよい。
而して、図4及び図5に示すようにキャビティ19は、ヘッド本体9の周辺部を残して、そのフェース部15からバック部17に亘って透孔21を設けると共に、当該透孔21のフェース側開口部に設けた受け部(段部)23に、チタン合金やステンレス合金等を鍛造した薄肉な平板状のフェース部材25を係合させてその周縁部と受け部23の周壁との接合部をレーザー溶接して形成されており、フェース部材25はヘッド本体9のフェース部15と面一となって、当該フェース部15と共にヘッド3のフェース部(打球面)27を構成する。
【0013】
尚、フェース部材25は2mm程の均一な肉厚で形成されている。また、ヘッド本体9とフェース部材25の取付けは、溶接の他、周知のろう付けやカシメ等の方法を用いてもよい。
また、図2,図4乃至図6に示すようにフェース部材25の表面には、当該フェース部材25の表面に対し上側内面29と下側内面31が垂直に形成された複数本(本実施形態では7本)の直線状のスコアライン(幅0.5〜0.9mm、深さ0.3〜0.5mm)33が、均一な間隔A(A≧2mm)を空けて形成されている。そして、上述の如くフェース部材25を受け部23に係合させてヘッド本体9に取り付けると、図2に示すように各スコアライン33はソール部13に沿って略平行に、即ち、各スコアライン33は前記基準水平面Lと略平行(±2°)にヘッド3のトゥ,ヒール方向に延び、そして、全てのスコアライン33のトゥ側端部は、基準水平面Lに対して垂直にヘッド3のトップ,ソール方向に連続して揃い、また、スコアライン33のヒール側端部は、フェース部材25の外形形状の制約から、少なくとも最下部のスコアライン33とこの近傍の複数本がヘッド3のトップ,ソール方向に揃えられている。
【0014】
そして、図2に示すように複数本のスコアライン33が形成されたスコアライン形成領域35は、トゥ,ヒール方向に50〜60mmの幅Bをもってフェース部27の周辺を残し、スイートスポットを含む略中央に位置している。
尚、既述したように本実施形態は、全てのスコアライン33のトゥ側端部を連続して揃えたが、その一部を揃える等、必ずしも連続的に揃える必要はなく、アドレス時にスコアライン形成領域が視認できればよい。
【0015】
このように本実施形態に係るヘッド3は、フェース部27の略中央に複数本のスコアライン33からなるスコアライン形成領域35が形成されているが、本実施形態は斯かる構成に加え、更にスコアライン形成領域35とその周辺のフェース部27に多数の小溝37を設けたことを特徴とする。
図2,図4及び図5に示すように小溝37は、フェース部材25とヘッド本体9のフェース部15に亘って、スコアライン形成領域35を含むヘッド3のフェース部27全面に、スコアライン33に沿ってトゥ,ヒール方向にエンドミル等の鋭利な切削具によって多数切削されている。
【0016】
そして、図6に示すように小溝37は、スコアライン33より小さな開口幅(0.05〜0.1mm)と深さ(0.05〜0.2mm)をもって形成されると共に、フェース部材25の表面に対し上側内面39が垂直で、下側内面41がフェース部材25の表面に対し開く方向に傾斜した断面鋸歯形状に形成されており、隣接する小溝37の間隔Cは小溝37の開口幅Dより幅狭(C<D)とされている。
【0017】
本実施形態に係るヘッド3はこのように構成され、スコアライン形成領域35を含むヘッド3のフェース部27全面に多数の小溝37がスコアライン33に沿って設けられているが、小溝37はスコアライン33より小さな開口幅で細く形成されているため、斯かるヘッド3を装着したゴルフクラブ7のアドレス時にヘッド3を上方から目視すると、スコアライン形成領域35が容易に視認できる。
【0018】
そして、スコアライン形成領域35でボールを打球すると、スコアライン33と小溝37との相乗作用で、スコアラインのみが形成された従来のヘッドに比しボールに大きなスピンがかかるが、小溝37の上側内面39をフェース部材25の表面に対し垂直に設け、下側内面41を開く方向に傾斜させた構造上、ボールにバックスピンがかけ易く、また、隣接する小溝37の間隔Cを小溝37の開口幅Dより幅狭としたことで、打球時にボールとの摩擦力が高まってボールに大きなスピンがかかることとなる。
【0019】
また、スコアライン形成領域35を外してボールを打球しても、小溝37がボールにスピンをかける。そして、この場合も、小溝37の上側内面39をフェース部材25の表面に対し垂直に設け、下側内面41を開く方向に傾斜させた構造上、ボールにバックスピンがかけ易く、隣接する小溝37の間隔Cを小溝37の開口幅Dより幅狭としたことで、ボールとの摩擦力が高まってボールに大きなスピンがかかることとなる。
【0020】
以上述べたように、本実施形態によれば、アドレス時にスコアライン形成領域35が良好に視認できるため、目標とするボールの飛球ラインに対するヘッド3のセッティング状態が容易に確認でき、また、特許文献1,2の従来例と異なり、打点ズレをした場合にも、小溝37によってボールにスピンをかけることができ、小溝37の上側内面39をフェース部材25の表面に対し垂直に設け、下側内面41を開く方向に傾斜させた構造上、ボールにバックスピンがかけ易く、また、隣接する小溝37の間隔Cを小溝37の開口幅Dより幅狭としたことで、打球時にボールとの摩擦力が高まってボールに大きなスピンをかかることができ、この結果、確実に飛距離を伸ばしたり飛距離を調整することができる利点を有する。
【0021】
而も、小溝37の開口幅を底より大きくしたことで、小溝37に土や草が入っても簡単に除去することができる。
そして、上述したように本実施形態は、小溝37の上側内面39をフェース部材25の表面に対し垂直に設け、下側内面41を開く方向に傾斜させたが、アイアンのゴルフクラブセットに於て、上側内面39の角度を大きい番手(ショートアイアン)ほど下向きに傾斜させ、小さい番手(ロングアイアン)ほど上向きに傾斜させることで、セット全体としてスピン量の調整が可能となる。
【0022】
また、隣接する小溝37の間隔Cを小溝37の開口幅Dより幅狭とすることで、打球時にボールとの摩擦力を高めてスピンを大きくすることが可能となったが、ゴルフクラブセットに於て、大きい番手ほど間隔Cを狭くし、小さい番手ほど間隔Cを広くすることで、同じくセット全体としてスピン量の調整が可能となる利点を有する。
尚、図2に示すように本実施形態は、フェース部材25とヘッド本体9のフェース部15に亘ってヘッド3のフェース部27全面に小溝37を形成したが、ヘッド本体9のフェース部15領域でボールを打球することは殆どないため、必ずしもこのフェース部15部分に小溝37を設ける必要はない。
【0023】
図7は請求項1及び請求項3に係る発明をアイアンのヘッドに適用した第二実施形態を示し、本実施形態は、フェース部材25とヘッド本体9のフェース部15に亘ってヘッド3-1のフェース部27全面に、小溝37-1をヘッド3-1のトゥ側上方に中心Pを有する同心円で形成したものである。
そして、前記小溝37と同様、小溝37-1は、スコアライン33より小さな開口幅(0.05〜0.1mm)と深さ(0.05〜0.2mm)をもって形成されると共に、フェース部材25の表面に対し上側内面が垂直で、下側内面がフェース部材25の表面に対し開く方向に傾斜した断面鋸歯形状に形成されており、隣接する小溝37-1の間隔は小溝37-1の開口幅より幅狭とされている。
【0024】
尚、その他の構成は図1の実施形態と同様であるので、同一のものには同一符号を付してそれらの説明は省略する。
本実施形態に係るヘッド3-1はこのように構成されているから、図2のヘッド3と同様、打点ズレをした場合にも小溝37-1によってボールにスピンをかけることができるが、小溝37-1が曲線で形成されているため、前記ヘッド3に比し、アドレス時にスコアライン形成領域35が更に確認し易い利点を有する。
【0025】
また、ヘッド3-1のトゥ側上方に中心Pを有する同心円で小溝37-1を形成した結果、スコアライン形成領域35よりもトゥ側のフェース部27では、小溝37-1が基準水平面Lに沿う方向で形成されるのに対し、スコアライン形成領域35では小溝37-1がスコアライン33に対して略縦方向に形成されるため、フェース部27のトゥ側と中央(スコアライン形成領域33)でのスピン量の差を小さくすることが可能となった。
【0026】
図8は請求項1及び請求項2に係る発明をアイアンのヘッドに適用した一実施形態を示し、本実施形態に係るヘッド3-2は、図2の構成に代え、スコアライン形成領域35を除くフェース部27のトゥ側に、前記小溝37と同一断面形状,同一開口幅寸法の小溝37-2を設けたもので、図示しないが、スコアライン形成領域35を除くフェース部27のトップ側やソール側,ヒール側にも小溝37-2を設けてもよい。
【0027】
而して、本実施形態によっても、打点ズレをした場合に小溝37-2によってボールにスピンをかけることができ、また、アドレス時にスコアライン形成領域35が視認し易いことは勿論、フェース部27のトゥ側と中央(スコアライン形成領域33)でのスピン量の差を小さくでき、この結果、安定した打球をすることができる。
尚、上述した各実施形態のアイアンのヘッドに代え、キャビティをバック部で覆った中空構造のアイアンのヘッドに本発明を適用できることは勿論、フェース部に複数本のスコアラインを設けたウッドのヘッドにも本発明を適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】請求項1及び請求項3の第一実施形態に係るヘッドを用いたアイアンのゴルフクラブの全体正面図である。
【図2】請求項1及び請求項3の第一実施形態に係るアイアンのヘッドの正面図である。
【図3】図2に示すヘッドの背面図である。
【図4】図2のIV−IV線断面図である。
【図5】図2のV−V線断面図である。
【図6】フェース部の要部拡大断面図である。
【図7】請求項1及び請求項3の第二実施形態に係るアイアンのヘッドの正面図である。
【図8】請求項1及び請求項2の一実施形態に係るアイアンのヘッドの正面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 シャフト
3,3-1,3-2 ヘッド
7 ゴルフクラブ
9 ヘッド本体
13 ソール部
15 ヘッド本体のフェース部
17 バック部
19 キャビティ
25 フェース部材
27 ヘッドのフェース部
33 スコアライン
35 スコアライン形成領域
37,37-1,37-2 小溝


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェース部の略中央に複数本のスコアラインをソール部に沿って略平行に設けたゴルフクラブヘッドに於て、
前記スコアラインの端部をゴルフクラブヘッドのトップ,ソール方向に揃えると共に、
当該スコアラインが形成されたスコアライン形成領域とその周辺のフェース部に、スコアラインより小さな開口幅と深さを有する複数本の小溝を設けたことを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
フェース部の略中央に複数本のスコアラインをソール部に沿って略平行に設けたゴルフクラブヘッドに於て、
前記スコアラインの端部をゴルフクラブヘッドのトップ,ソール方向に揃えると共に、
当該スコアラインが形成されたスコアライン形成領域を除くフェース部の周辺部に、スコアラインより小さな開口幅と深さを有する複数本の小溝を設けたことを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
隣接する小溝の間隔は、当該小溝の開口幅より幅狭であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のゴルフクラブヘッド。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−202633(P2007−202633A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22080(P2006−22080)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000002495)ダイワ精工株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】