説明

ゴルフボール用樹脂組成物およびゴルフボール

【課題】反発性に優れた軟質なゴルフボール用樹脂組成物、並びに、打球感および反発性に優れるゴルフボールを提供する。
【解決手段】ゴルフボール用樹脂組成物は、(A)(a−1)オレフィンと、炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体、(a−2)二元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂、(a−3)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体、および、(a−4)三元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂より成る群から選択される少なくとも一種の樹脂成分100質量部に対して、(B)リン酸エステルおよび/またはその塩1質量部〜25質量部と(C)塩基性無機金属化合物0質量部〜200質量部とを含有する。ゴルフボールは、前記ゴルフボール用樹脂組成物から形成された構成部材を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボール用樹脂組成物およびこれを用いたゴルフボールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールの構造としては、例えば、ゴルフボール本体からなるワンピースゴルフボール、コアとカバーとを有するツーピースゴルフボール、センターと前記センターを被覆する一層の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するカバーとを有するスリーピースゴルフボール、センターと前記センターを被覆する少なくとも二以上の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するカバーとを有するマルチピースゴルフボールが挙げられる。ゴルフボールの各層を構成する材料として、アイオノマー樹脂が使用されている。アイオノマー樹脂は、剛性が高く、ゴルフボールの構成部材として使用すると、飛距離の大きいゴルフボールが得られる。そのため、アイオノマー樹脂は、ゴルフボールの中間層やカバーの材料として広く使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アイオノマー樹脂成分として(a)酸含量12重量%以下のオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル共重合体の金属イオン中和物からなる3元アイオノマー樹脂と(b)酸含量15重量%以下のオレフィン−不飽和カルボン酸共重合体の金属イオン中和物からなる2元アイオノマー樹脂とを重量比40:60〜100:0の割合で含むアイオノマー樹脂成分と、(c)オレフィン及び不飽和カルボン酸をモノマーとする未中和のランダム共重合体とを重量比75:25〜100:0の割合で含有するベース樹脂に、(d)炭素原子数が29以下の有機酸を1〜3価金属イオンで中和した金属せっけんを重量比95:5〜80:20の割合で配合した混合物を主成分とし、かつメルトインデックス(MI)が1dg/秒以上であることを特徴とするゴルフボールカバー材が開示されている。
【0004】
特許文献2には、コアとカバーとを有し、前記カバーは、実質的に少なくとも一種のアイオノマー樹脂100質量部と、25質量部超、約100質量部までのステアリン酸金属塩を含み、前記アイオノマー樹脂は、炭素数が2〜8のオレフィンと、炭素数が3〜8の不飽和モノカルボン酸との反応生成物からなることを特徴とするゴルフボールが開示されている。
【0005】
特許文献3には、コアとカバーとを有し、前記カバーは、実質的に少なくとも一種のアイオノマー樹脂100質量部と、25質量部超、約100質量部までの脂肪酸金属塩を含み、前記アイオノマー樹脂は、炭素数が2〜8のオレフィンと、炭素数が3〜8の不飽和モノカルボン酸との反応生成物からなることを特徴とするゴルフボールが開示されている。
【0006】
特許文献4には、不飽和カルボン酸含有量が10〜30重量%のエチレン・不飽和カルボン酸二元共重合体の中和度が25モル%以上の金属塩(A)15〜90重量部及び(メタ)アクリル酸エステル含有量が12〜45重量%、不飽和カルボン酸含有量が0.5〜5重量%のエチレン・(メタ)アクリル酸エステル・不飽和カルボン酸三元共重合体(B)85〜10重量部を配合してなるゴルフボール表皮材用組成物が開示されている。
【0007】
特許文献5には、ソリッドコアと、該ソリッドコアに被覆形成される中間層と、該中間層に被覆形成されるカバーとを具備してなるマルチピースゴルフボールにおいて、上記中間層及び/又はカバーが(a)オレフィン−不飽和カルボン酸ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステルランダム共重合体 100質量部、(b)分子量が280以上の脂肪酸又はその誘導体 5〜80質量部、(c)上記(a)、(b)成分中の酸基を中和することができる塩基性無機金属化合物 0.1〜10質量部を含有してなり、メルトインデックスが1.0dg/min以上である加熱混合物にて形成されると共に、上記中間層のショアD硬度が40〜63であり、上記カバーのショアD硬度が45〜68であると共に、上記ソリッドコアの中心、中間層及びカバーの各ショアD硬度がソリッドコア中心の硬度≦中間層の硬度≦カバーの硬度の関係を満たすことを特徴とするマルチピースゴルフボールが開示されている。
【0008】
特許文献6には、(a)オレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、(b)オレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0〜25:75になるように配合したベース樹脂と、(e)非アイオノマー熱可塑性エラストマーとを質量比で100:0〜50:50になるように配合した樹脂成分100質量部に対して、(c)分子量が280〜1500の脂肪酸及び/又はその誘導体5〜80質量部と、(d)上記ベース樹脂及び(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性無機金属化合物 0.1〜10質量部とを必須成分として配合してなる混合物であることを特徴とするゴルフボール用材料が開示されている。
【0009】
特許文献7には、軟質で弾性のあるゴルフボール用エチレンコポリマーが開示されている。前記エチレンコポリマーは、E/X/Yコポリマー(ここで、Eはエチレンであり、XはC3〜C8のα,βエチレン性不飽和カルボン酸であり、Yは、アルキル基が1〜8個の炭素原子を有するアルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレートから選択される軟化コモノマーである)を含む熱可塑性組成物であって、a.前記E/X/Yコポリマーは、ASTM D−1238、条件Eにしたがって、190℃で、2160グラムの重量を用いて測定して、10分あたり少なくとも75グラムのメルトインデックスを有し、
b.Xは、前記E/X/Yコポリマーの約2〜30wt%であり、Yは、前記E/X/Yコポリマーの約17〜40wt%であり、かつ、c.Xの少なくとも55%は、1つ以上のアルカリ金属、遷移金属、またはアルカリ土類金属のカチオンによって中和されることを特徴とする。
【0010】
特許文献8には、カバーを有するゴルフボールであって、前記カバーを構成するカバー用組成物が、結晶性熱可塑性樹脂と融点が250℃以上の有機系造核材とを含有することを特徴とするゴルフボールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−157646号公報
【特許文献2】米国特許第5306760号公報
【特許文献3】米国特許第5312857号公報
【特許文献4】特開平6−292740号公報
【特許文献5】特開2001−218873号公報
【特許文献6】特開2002−219195号公報
【特許文献7】特表2004−524418号公報
【特許文献8】特開2005−230454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
剛性の高いアイオノマー樹脂を用いたゴルフボールは、反発性に優れるが、打球感が低くなる傾向がある。打球感を向上するために、軟質な三元系アイオノマー樹脂をカバーに採用することが検討されている。しかしながら、軟質な三元系アイオノマー樹脂を用いると、得られるゴルフボールの反発性が低下する。すなわち、アイオノマー樹脂を用いたゴルフボール用樹脂組成物について、反発性と打球感とを両立することは、極めて難しい課題である。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、反発性に優れた軟質なゴルフボール用樹脂組成物を提供することを目的とする。本発明は、さらに、打球感および反発性に優れるゴルフボールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決することのできた本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、(A)(a−1)オレフィンと、炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体、(a−2)オレフィンと、炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂、(a−3)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体、および、(a−4)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂より成る群から選択される少なくとも一種の樹脂成分100質量部に対して、(B)リン酸エステルおよび/またはその塩 1質量部〜25質量部と(C)塩基性無機金属化合物 0質量部〜200質量部とを含有することを特徴とする。本発明のゴルフボール用樹脂組成物が、軟質であり、反発性に優れる理由は、以下のように考えられる。アイオノマー樹脂にリン酸エステルおよび/またはその塩を添加すれば、リン酸エステルおよび/またはその塩がアイオノマー樹脂のイオン会合体に取り込まれて、(I)イオン会合体を微分散化してエチレン鎖の結晶化を阻害し、(II)イオン会合体による主鎖の拘束を弱めるものと考えられる。これらの作用により、アイオノマー樹脂の分子鎖の運動性が高くなり、柔軟性を維持したまま反発性が高くなる。また、イオン会合体による主鎖の拘束が弱くなることから、流動性も向上する。なお、(C)塩基性無機金属化合物は、(A)樹脂成分の未中和のカルボキシル基を中和するため、必要に応じて使用される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、反発性に優れた軟質なゴルフボール用樹脂組成物が得られる。本発明のゴルフボール用樹脂組成物を用いたゴルフボールは、打球感および反発性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】反発係数と固体高分解能炭素核磁気共鳴法(NMR法)によって観測される13C核のスピン−格子緩和時間(T1)との関係を示すグラフ。
【図2】反発係数とlog(E’/E”)との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、(A)(a−1)オレフィンと、炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体、(a−2)オレフィンと、炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂、(a−3)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体、および、(a−4)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂より成る群から選択される少なくとも一種の樹脂成分100質量部に対して、(B)リン酸エステルおよび/またはその塩 1質量部〜25質量部と(C)塩基性無機金属化合物 0質量部〜200質量部とを含有することを特徴とする。
【0018】
まず、本発明で使用する(A)(a−1)オレフィンと、炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体、(a−2)オレフィンと、炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂、(a−3)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体、および、(a−4)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂より成る群から選択される少なくとも一種の樹脂成分
について説明する。
【0019】
前記(a−1)成分は、オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体であって、そのカルボキシル基が中和されていない非イオン性のものである。また、前記(a−2)成分としては、オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したアイオノマー樹脂を挙げることができる。
【0020】
前記(a−3)成分は、オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体であって、そのカルボキシル基が中和されていない非イオン性のものである。前記(a−4)成分としては、オレフィンと、炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸と、α,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したアイオノマー樹脂を挙げることができる。
【0021】
なお、本発明において、「(a−1)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体」を単に「二元共重合体」と称し、「(a−2)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂」を「二元系アイオノマー樹脂」と称し、「(a−3)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体」を単に「三元共重合体」と称し、「(a−4)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂」を「三元系アイオノマー樹脂」と称する場合がある。
【0022】
前記オレフィンとしては、炭素数が2〜8個のオレフィンが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等を挙げることができ、特にエチレンであることが好ましい。前記炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられ、特にアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。また、α,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸等のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチルエステル等が用いられ、特にアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが好ましい。
【0023】
前記(a−1)二元共重合体としては、エチレンと(メタ)アクリル酸との二元共重合体が好ましく、前記(a−2)二元系アイオノマー樹脂としては、エチレン−(メタ)アクリル酸二元共重合体の金属イオン中和物が好ましい。前記(a−3)三元共重合体としては、エチレンと(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとの三元共重合体が好ましい。前記(a−4)三元系アイオノマー樹脂としては、エチレンと(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物が好ましい。ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸を意味する。
【0024】
前記(a−1)二元共重合体または(a−3)三元共重合体中の炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸成分の含有率は、4質量%以上が好ましく、より好ましくは5質量%以上であり、30質量%以下が好ましく、より好ましくは25質量%以下である。
【0025】
前記(a−1)二元共重合体または(a−3)三元共重合体のメルトフローレイト(190℃、2.16kg荷重)は、5g/10min以上が好ましく、より好ましくは10g/10min以上、さらに好ましくは15g/10min以上であり、1700g/10min以下が好ましく、より好ましくは1500g/10min以下、さらに好ましくは1300g/10min以下である。前記(a−1)二元共重合体または(a−3)三元共重合体のメルトフローレイト(190℃、2.16kg荷重)が5g/10min以上であれば、ゴルフボール用樹脂組成物の流動性が良好となり、構成部材の成形が容易になる。また、前記(a−1)二元共重合体または(a−3)三元共重合体のメルトフローレイト(190℃、2.16kg荷重)が1700g/10min以下であれば、得られるゴルフボールの耐久性がより良好となる。
【0026】
前記(a−1)二元共重合体の具体例を商品名で例示すると、例えば、三井デュポンポリケミカル社から商品名「ニュクレル(NUCREL)(登録商標)(例えば、「ニュクレルN1050H」、「ニュクレルN2050H」、「ニュクレルN1110H」、「ニュクレルN0200H」)」で市販されているエチレン−メタクリル酸共重合体、ダウケミカル社から商品名「プライマコア(PRIMACOR)(登録商標)5980I」で市販されているエチレン−アクリル酸共重合体などを挙げることができる。
【0027】
前記(a−3)三元共重合体の具体例を商品名で例示すると、三井デュポンポリケミカル社から市販されている商品名「ニュクレル(NUCREL)(登録商標)(例えば、「ニュクレルAN4318」「ニュクレルAN4319」)」、デュポン社から市販されている商品名「ニュクレル(NUCREL)(登録商標)(例えば、「ニュクレルAE」)」、ダウケミカル社から市販されている商品名「プライマコア(PRIMACOR)(登録商標)(例えば、「PRIMACOR AT310」、「PRIMACOR AT320」)」などを挙げることができる。前記(a−1)二元共重合体または(a−3)三元共重合体は、単独または二種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0028】
前記(a−2)二元系アイオノマー樹脂中の炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸成分の含有率は、15質量%以上が好ましく、16質量%以上がより好ましく、17質量%以上がさらに好ましく、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸成分の含有率が、15質量%以上であれば、得られる構成部材を所望の硬度にしやすくなるからである。また、炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸成分の含有率が、30質量%以下であれば、得られる構成部材の硬度が高くなり過ぎず、耐久性と打球感が良好になるからである。
【0029】
前記(a−2)二元系アイオノマー樹脂のカルボキシル基の少なくとも一部を中和する金属イオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの1価の金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属イオン;アルミニウムなどの3価の金属イオン;錫、ジルコニウムなどのその他のイオンが挙げられる。
【0030】
前記(a−2)二元系アイオノマー樹脂の具体例を商品名で例示すると、三井・デュポンポリケミカル(株)から市販されている「ハイミラン(Himilan)(登録商標)(例えば、ハイミラン1555(Na)、ハイミラン1557(Zn)、ハイミラン1605(Na)、ハイミラン1706(Zn)、ハイミラン1707(Na)、ハイミランAM7311(Mg)、ハイミランAM7329(Zn)など」が挙げられる。
【0031】
さらにデュポン社から市販されている「サーリン(Surlyn)(登録商標)(例えば、サーリン8945(Na)、サーリン9945(Zn)、サーリン8140(Na)、サーリン8150(Na)、サーリン9120(Zn)、サーリン9150(Zn)、サーリン6910(Mg)、サーリン6120(Mg)、サーリン7930(Li)、サーリン7940(Li)、サーリンAD8546(Li))」などが挙げられる。
【0032】
またエクソンモービル化学(株)から市販されているアイオノマー樹脂としては、「アイオテック(Iotek)(登録商標)(例えば、アイオテック8000(Na)、アイオテック8030(Na)、アイオテック7010(Zn)、アイオテック7030(Zn))」などが挙げられる。
【0033】
前記(a−2)二元系アイオノマー樹脂は、例示のものをそれぞれ単独または2種以上の混合物として用いてもよい。前記商品名の後の括弧内に記載したNa、Zn、Li、Mgなどは、これらの中和金属イオンの金属種を示している。
【0034】
前記(a−2)二元系アイオノマー樹脂の曲げ剛性率は、140KPa以上が好ましく、より好ましくは150KPa以上、さらに好ましくは160KPa以上であり、550MPa以下が好ましく、より好ましくは500MPa以下、さらに好ましくは450MPa以下である。前記(a−2)二元系アイオノマー樹脂の曲げ剛性率が低すぎると、ゴルフボールのスピン量が増加して飛距離が低下する傾向があり、曲げ剛性率が高すぎると、ゴルフボールの耐久性が低下する場合がある。
【0035】
前記(a−2)二元系アイオノマー樹脂のメルトフローレイト(190℃、2.16kg荷重)は、0.1g/10min以上が好ましく、より好ましくは0.5g/10min以上、さらに好ましくは1.0g/10min以上であり、30g/10min以下が好ましく、より好ましくは20g/10min以下、さらに好ましくは15g/10min以下である。前記(a−2)二元系アイオノマー樹脂のメルトフローレイト(190℃、2.16kg荷重)が0.1g/10min以上であれば、ゴルフボール用樹脂組成物の流動性が良好となり、例えば、薄い層の成形が可能となる。また、前記(a−2)二元系アイオノマー樹脂のメルトフローレイト(190℃、2.16kg荷重)が30g/10min以下であれば、得られるゴルフボールの耐久性がより良好となる。
【0036】
前記(a−2)二元系アイオノマー樹脂のスラブ硬度は、ショアD硬度で10以上が好ましく、より好ましくは15以上、さらに好ましくは20以上であり、75以下が好ましく、より好ましくは73以下、さらに好ましくは70以下である。前記スラブ硬度が、ショアD硬度で10以上であれば、得られる構成部材が高硬度となる。また、前記スラブ硬度が、ショアD硬度で75以下であれば、得られる構成部材が硬くなりすぎず、ゴルフボールの耐久性がより良好となる。
【0037】
前記(a−4)三元系アイオノマー樹脂中の炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸成分の含有率は、2質量%以上が好ましく、より好ましくは3質量%以上であり、30質量%以下が好ましく、より好ましくは25質量%以下である。
【0038】
前記(a−4)三元系アイオノマー樹脂のカルボキシル基の少なくとも一部を中和する金属イオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの1価の金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属イオン;アルミニウムなどの3価の金属イオン;錫、ジルコニウムなどのその他のイオンが挙げられる。前記(a−4)三元系アイオノマー樹脂としては、マグネシウムイオンで中和されているものが好ましい。マグネシウムイオンで中和されることにより、反発弾性が高くなる。
【0039】
前記(a−4)三元系アイオノマー樹脂の具体例を商品名で例示すると、三井デュポンポリケミカル(株)から市販されている「ハイミラン(Himilan)(登録商標)(例えば、ハイミランAM7327(Zn)、ハイミラン1855(Zn)、ハイミラン1856(Na)、ハイミランAM7331(Na)など)」が挙げられる。さらにデュポン社から市販されている三元系アイオノマー樹脂としては、「サーリン6320(Mg)、サーリン8120(Na)、サーリン8320(Na)、サーリン9320(Zn)、サーリン9320W(Zn)など)」が挙げられる。またエクソンモービル化学(株)から市販されている三元系アイオノマー樹脂としては、「アイオテック7510(Zn)、アイオテック7520(Zn)など)」が挙げられる。なお、商品名の後の括弧内に記載したNa、Zn、Mgなどは、中和金属イオンの種類を示している。前記(a−4)三元系アイオノマー樹脂は、単独または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
前記(a−4)三元系アイオノマー樹脂の曲げ剛性率は、10KPa以上が好ましく、より好ましくは11KPa以上、さらに好ましくは12KPa以上であり、100MPa以下が好ましく、より好ましくは97MPa以下、さらに好ましくは95MPa以下である。前記(a−4)三元系アイオノマー樹脂の曲げ剛性率が低すぎると、ゴルフボールのスピン量が増加して飛距離が低下する傾向があり、曲げ剛性率が高すぎると、ゴルフボールの耐久性が低下する場合がある。
【0041】
前記(a−4)三元系アイオノマー樹脂のメルトフローレイト(190℃、2.16kg荷重)は、0.1g/10min以上が好ましく、より好ましくは0.3g/10min以上、さらに好ましくは0.5g/10min以上であり、20g/10min以下が好ましく、より好ましくは15g/10min以下、さらに好ましくは10g/10min以下である。前記(a−4)三元系アイオノマー樹脂のメルトフローレイト(190℃、2.16kg荷重)が0.1g/10min以上であれば、ゴルフボール用樹脂組成物の流動性が良好となり、薄い層の成形が容易になる。また、前記(a−4)三元系アイオノマー樹脂のメルトフローレイト(190℃、2.16kg荷重)が20g/10min以下であれば、得られるゴルフボールの耐久性がより良好となる。
【0042】
前記(a−4)三元系アイオノマー樹脂のスラブ硬度は、ショアD硬度で1以上が好ましく、より好ましくは3以上、さらに好ましくは5以上であり、70以下が好ましく、より好ましくは65以下、さらに好ましくは60以下である。前記スラブ硬度が、ショアD硬度で1以上であれば、得られる構成部材が柔らなく成り過ぎず、ゴルフボールの反発性が良好になる。また、前記スラブ硬度が、ショアD硬度で70以下であれば、得られる構成部材が硬くなりすぎず、ゴルフボールの耐久性がより良好となる。
【0043】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、(A)樹脂成分として、(a−3)三元共重合体、または、(a−4)三元系アイオノマー樹脂を含有することが好ましい。得られる構成部材が硬くなり過ぎず、反発性が高くなるからである。
【0044】
次に、本発明で使用する(B)リン酸エステルおよび/またはその塩について説明する。リン酸エステルとしては、リン酸(HPO)のエステルであれば特に限定されず、例えば、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、リン酸トリエステルなどを挙げることができる。リン酸エステルの塩としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の塩、マグネシウム、カルシウムなどの2価の金属塩、アンモニア、トリエタノールアミンなどのアンモニウム塩が挙げられる。また、リン酸エステルの分子内で塩を形成していてもよい。
【0045】
本発明で使用する(B)リン酸エステルおよび/またはその塩としては、リン脂質および/またはその誘導体が好ましく、グリセロリン脂質および/またはその誘導体がより好ましい。グリセロリン脂質としては、例えば、リン酸モノアシルグリセロール、リン酸ジアシルグリセロール、または、これらの誘導体を挙げることができる。グリセロリン脂質は、脂肪酸よりもイオン性の強いリン酸エステルまたはリン酸エステルの分子内塩を部分構造として持つことにより、アイオノマー樹脂のイオン会合体に取り込まれやすく、かつ、1又は2個の長鎖アルキル基をもつことにより、アイオノマー樹脂への相溶性にも優れている。リン酸モノアシルグリセロールおよび/またはその誘導体としては、下記一般式(1)で表わされるリゾホスファチジン酸および/またはその誘導体を挙げることができる。リン酸ジアシルグリセロールおよび/またはその誘導体としては、下記一般式(2)で表わされるホスファチジン酸および/またはその誘導体が好ましい。
【0046】
【化1】

(式中、R’は、脂肪酸の炭化水素部分を示す)。
【0047】
【化2】

(式中、R’とR”は、同一または異なっていてもよく、脂肪酸の炭化水素部分を示す。)
【0048】
リゾホスファチジン酸は、上記一般式(1)で表わされるグリセリンのC1位に脂肪酸が結合し、C3位にリン酸が結合した構造を有している。ホスファチジン酸は、上記一般式(2)で表わされるグリセリンのC1位とC2位に脂肪酸が結合し、C3位にリン酸が結合した構造を有している。式中、R’とR”は、脂肪酸の炭化水素部分を表わし、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。前記脂肪酸の具体例としては、例えば、酪酸(C4)、吉草酸(C5)、カプロン酸(C6)、エナント酸(C7)、カプリル酸(C8)、ペラルゴン酸(C9)、カプリン酸(デカン酸)(C10)、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、ミリストレイン酸(C14)、ペンタデシル酸(C15)、パルミチン酸(C16)、パルミトレイン酸(C16)、マルガリン酸(C17)、ステアリン酸(C18)、エライジン酸(C18)、バクセン酸(C18)、オレイン酸(C18)、リノール酸(C18)、リノレン酸(C18)、12−ヒドロキシステアリン酸(C18)、アラキジン酸(C20)、ガドレイン酸(C20)、アラキドン酸(C20)、エイコセン酸(C20)、べヘニン酸(C22)、エルカ酸(C22)、リグノセリン酸(C24)、ネルボン酸(C24)、セロチン酸(C26)、モンタン酸(C28)、メリシン酸(C30)などを挙げることができる。
【0049】
リゾホスファチジン酸の誘導体としては、リゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルセリン、リゾホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルグリセロールなどを挙げることができる。
【0050】
ホスファチジン酸の誘導体としては、例えば、下記一般式(3)で表わされるホスファチジルコリン、下記一般式(4)で表わされるホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、下記一般式(5)で表わされるホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、または、ジホスファチジルグリセロールなどのホスファチジン酸のエステルを挙げることができる。
【0051】
【化3】

【化4】

【化5】

(式(3)〜(5)中、R’とR”は、同一または異なっていてもよく、脂肪酸の炭化水素部分を示す。)
【0052】
本発明では、ホスファチジン酸および/またはその誘導体として、レシチンを使用することが好ましい。レシチンは、狭義では、ホスファチジルコリンを意味するが、広義では、ホスファチジン酸および/またはその誘導体の混合物である。本発明では、広義のレシチンを使用することが好ましく、大豆レシチンを使用することがより好ましい。大豆レシチンは、大豆油精製工程中の脱ガム工程より得られた油滓を乾燥、精製することにより製造される。また、レシチンは、分別処理、カラムクロマトグラフィー処理、もしくは、吸着剤処理などにより、リン脂質の組成を変化させてもよい。本発明では、前記レシチンとして、ホスファチジン酸、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、および、リゾホスファチジルコリンの混合物を用いることが好ましい。
【0053】
本発明で使用する(B)リン酸エステルおよび/またはその塩の具体例としては、例えば、辻製油株式会社製「SLP−ホワイト(高純度粉末レシチン)」、「SLP−PC70(固形状PC(ホスファチジルコリン)分別レシチン)」、「SLP−PIパウダー(粉末PE(ホフファチジルエタノールアミン,PI(ホフファチジルイノシトール)分別レシチン)」、「SLP−ペーストリゾ(液状リゾレシチン)」、「SLP−ホワイトリゾ(高純度粉末リゾレシチン)」「SLP−LPC70(LPC濃縮リゾレシチン)」などを挙げることができる。リン脂質の各成分組成については、表1に示した。
【0054】
【表1】

【0055】
(B)リン酸エステルおよび/またはその塩の含有量は、(A)樹脂成分100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましく、25質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。(B)リン酸エステルおよび/またはその塩の含有量が、上記範囲内であれば、(B)リン酸エステルおよび/またはその塩がアイオノマー樹脂のイオン会合体に取り込まれやすくなり、アイオノマー樹脂の分子鎖の運動性が高くなり、柔軟性を維持したまま反発性が高くなるからである。
【0056】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、さらに(C)塩基性無機金属化合物を含有してもよい。(C)塩基性無機金属化合物は、(A)樹脂成分の未中和のカルボキシル基を中和するために必要に応じて添加される。特に、(A)樹脂成分として、(a−1)オレフィンと、炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体、および/または、(a−3)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体のみを含有する場合には、(C)塩基性無機金属化合物は、(A)樹脂成分中の未中和のカルボキシル基を中和するための必須成分である。一方、(A)樹脂成分として、(a−2)オレフィンと、炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂、および/または、(a−4)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂を含有する場合には、未中和のカルボキシル基を中和するために、必要に応じて添加されればよい。
【0057】
(C)前記塩基性無機金属化合物としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの金属単体、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化銅などの金属水酸化物;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化銅などの金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウムなどの金属炭酸化物が挙げられる。これらの(C)塩基性無機金属化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、(C)塩基性無機金属化合物としては、塩基性マグネシウム化合物が好ましい。塩基性マグネシウム化合物を用いることにより、得られるゴルフボール用樹脂組成物の反発弾性が高くなる。
【0058】
(C)前記塩基性無機金属化合物の含有量は、(A)樹脂成分100質量部に対して、0質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、200質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましく、70質量部以下がさらに好ましい。(C)塩基性無機金属化合物の含有量が少なすぎるとイオン会合体の量が少なく低反発となり、一方、含有量が多すぎると、イオン会合体が微分散化せず低反発となる場合があるからである。
【0059】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、下記式で表わされる総中和度が53%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、1000%以下が好ましく、700%以下がより好ましく、400%以下がさらに好ましい。総中和度が53%以上であれば、イオン会合体の量が多く高反発となり、400%以下であれば、塩基性無機金属化合物が均一に分散して、耐久性が向上するからである。総中和度は、下記式で定義される。
総中和度(%)=100×[(A)樹脂成分の陽イオン成分のモル数×陽イオン成分の価数+(B)リン酸エステルおよび/またはその塩の陽イオン成分のモル数×陽イオン成分の価数+(C)塩基性無機金属化合物の金属成分のモル数×金属成分の価数]/[(A)樹脂成分のカルボキシル基のモル数+(B)リン酸エステルおよび/またはその塩の陰イオン形成基のモル数×陰イオン形成基の価数]
なお、陽イオン成分、金属成分、カルボキシル基、および、陰イオン形成基には、イオン化していない前駆体のモル数を含めるものとする。陽イオン成分量および陰イオン成分量は、例えば、中和滴定により求めてもよい。
【0060】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、基材樹脂成分として、(A)樹脂成分のみを含有することが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で、他の熱可塑性エラストマーや熱可塑性樹脂を含有しても良い。
【0061】
前記他の熱可塑性エラストマーの具体例としては、例えばアルケマ(株)から商品名「ペバックス(例えば、「ペバックス2533」)」で市販されている熱可塑性ポリアミドエラストマー、BASFジャパン(株)から商品名「エラストラン(例えば、「エラストランXNY85A」)」で市販されている熱可塑性ポリウレタンエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(例えば、「ハイトレル3548」、「ハイトレル4047」)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー、三菱化学(株)から商品名「ラバロン(例えば、「ラバロンT3221C」)」で市販されている熱可塑性スチレンエラストマー等が挙げられる。
【0062】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、さらに、白色顔料(例えば、酸化チタン)、青色顔料などの顔料成分、重量調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料または蛍光増白剤などを、ゴルフボールの性能を損なわない範囲で含有してもよい。
【0063】
前記白色顔料(例えば、酸化チタン)の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましい。白色顔料の含有量を0.5質量部以上とすることによって、得られるゴルフボール構成部材に隠蔽性を付与することができる。また、白色顔料の含有量が10質量部超になると、得られるゴルフボールの耐久性が低下する場合があるからである。
【0064】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、例えば、(A)成分と(B)成分と、必要に応じて(C)成分とをドライブレンドすることにより得られる。また、ドライブレンドした混合物を、押出してペレット化してもよい。ドライブレンドには、例えば、ペレット状の原料を配合できる混合機を用いるのが好ましく、より好ましくはタンブラー型混合機を用いる。押出は、一軸押出機、二軸押出機、二軸一軸押出機など公知の押出機を使用することができる。
【0065】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、固体高分解能炭素核磁気共鳴法(NMR法)によって観測される13C核のスピン−格子緩和時間(T1)が、9.5秒以下が好ましく、8秒以下がより好ましく、7秒以下がより一層好ましく、6秒以下がさらに好ましい。アイオノマー樹脂について、固体高分解能炭素核磁気共鳴法(NMR法)によって観測される13C核のスピン−格子緩和時間(T1)により磁化率の減衰を測定したとき、この緩和時間(T1)は、エチレン鎖のトランスコンホメーションに由来すると考えられている。そして、本発明者らは、トランスコンホメーションをとる可能性がある部位には、エチレン結晶とイオン会合体周りのエチレン鎖拘束層とがあり、磁化率の減衰測定における緩和成分も短時間成分と長時間成分とに分離できると考えた。そして、本発明者らは、エチレン鎖拘束層が反発性と相関があることを見出した。すなわち、緩和時間(T1)が短くなると、エチレン拘束層の運動性が高くなり、反発性が向上する。そのため、本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、固体高分解能炭素核磁気共鳴法(NMR法)によって観測される13C核のスピン−格子緩和時間(T1)が、9.5秒以下が好ましく、8秒以下がより好ましく、7秒以下がより好ましく、6秒以下がさらに好ましい。
【0066】
また、本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、動的粘弾性装置を用いて、加振周波数10Hz、温度12℃、測定ひずみ0.05%の条件で、引張モードで測定したときに、貯蔵弾性率E’(Pa)と損失弾性率E”(Pa)とが、下記式を満足することが好ましい。下記式を満足することにより、ゴルフボール用樹脂組成物が、高いレベルで軟質を維持しながらも反発性が高くなる。なお、下記式においてlogは常用対数である。
log(E’/E”)≧−6.23
前記貯蔵弾性率E’(Pa)が大きくなるほど、また、損失弾性率E”(Pa)が小さくなるほど反発性は高くなると考えられる。また、貯蔵弾性率E’(Pa)が大きくなると、硬度も高くなる。上記式は、分子が貯蔵弾性率E’の1乗であるのに対し、分母が損失弾性率E”の2乗となっていることから、貯蔵弾性率E’を大きくして硬さを増すより、損失弾性率E”を小さくする方が、反発性に対する向上効果が大きいこと意味している。前記log(E’/E”)は、−6.02以上が好ましく、−5.93以上がより好ましく、−5.89以上がさらに好ましい。また、前記log(E’/E”)は、特に限定されないが、−5.25以下が好ましく、−5.40以下がより好ましい。前記log(E’/E”)が−5.25になると、反発係数が最大値である1に近づくからである。動的粘弾性の測定条件として、加振周波数:10Hz、温度:12℃の測定条件を採用しているのは、以下の理由に基づく。40m/sでの反発係数測定におけるゴルフボールと衝突棒(金属製円筒物)との接触時間は、500μ秒であり、これを一周期の変形と考えると、数1000Hzの周波数の変形に対応する。一般的なアイオノマー樹脂の周波数・温度換算則から、温度:室温、加振周波数:数1000Hzの測定条件で測定する動的粘弾性は、温度:12℃、加振周波数:10Hzの測定条件で測定する動的粘弾性に相当する。
【0067】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物のメルトフローレイト(190℃×2.16kg)は、0.01g/10min以上が好ましく、0.05g/10min以上がより好ましく、0.1g/10min以上がさらに好ましく、100g/10min以下が好ましく、80g/10min以下がより好ましく、50g/10min以下がさらに好ましい。ゴルフボール用樹脂組成物のメルトフローレイトが、上記範囲内であれば、ゴルフボール構成部材への成形性が良好である。
【0068】
前記ゴルフボール用樹脂組成物の曲げ剛性率は、10KPa以上が好ましく、15KPa以上がより好ましく、20KPa以上がさらに好ましく、450MPa以下が好ましく、400MPa以下がより好ましく、350MPa以下がさらに好ましい。曲げ剛性率が10KPa以上のゴルフボール用樹脂組成物を用いることにより、反発性(飛距離)に優れるゴルフボールが得られる。また、曲げ剛性率が450MPa以下であれば、得られるゴルフボールが適度に柔らかくなって、打球感が良好となる。
【0069】
前記ゴルフボール用樹脂組成物の反発弾性は、40%以上が好ましく、43%以上がより好ましく、46%以上がさらに好ましい。反発弾性が、40%以上のゴルフボール用樹脂組成物を用いることにより、反発性(飛距離)に優れるゴルフボールが得られる。前記曲げ剛性率と反発弾性は、ゴルフボール用樹脂組成物をシート状に成形して測定した曲げ剛性率および反発弾性であり、後述する測定方法により測定する。
【0070】
前記ゴルフボール用樹脂組成物のスラブ硬度は、ショアD硬度で1以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上がさらに好ましく、70以下が好ましく、65以下がより好ましく、60以下がさらに好ましく、50以下が最も好ましい。スラブ硬度がショアD硬度で1以上のゴルフボール用樹脂組成物を用いることにより、反発性(飛距離)に優れるゴルフボールが得られる。一方、スラブ硬度がショアD硬度で70以下のゴルフボール用樹脂組成物を用いることにより、耐久性に優れるゴルフボールが得られる。ここで、ゴルフボール用樹脂組成物のスラブ硬度とは、ゴルフボール用樹脂組成物をシート状に成形して測定した硬度であり、後述する測定方法により測定する。
【0071】
本発明のゴルフボールは、本発明のゴルフボール用樹脂組成物から形成された構成部材を有するものであれば、特に限定されない。例えば、ワンピースゴルフボール;単層コアと、前記単層コアを被覆するように配設されたカバーとを有するツーピースゴルフボール;センターと前記センターを被覆するように配設された単層の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するように配設されたカバーとを有するスリーピースゴルフボール;または、センターと前記センターを被覆するように配設された一以上の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するように配設されたカバーを有するマルチピースゴルフボール(前記スリーピースゴルフボールを含む)を構成するいずれかの構成部材が本発明のゴルフボール用樹脂組成物から形成されているゴルフボールを挙げることができる。これらの中でも、少なくとも一層以上のコアと前記コアを被覆するカバーとを有するゴルフボールであって、前記コアの少なくとも一層が、本発明のゴルフボール用樹脂組成物から形成されている態様、または、ワンピースゴルフボールのゴルフボール本体が本発明のゴルフボール用樹脂組成物から形成されている態様が好ましい。特に、単層コアと、前記単層コアを被覆するように配設されたカバーとを有するツーピースゴルフボールであって、前記単層コアが本発明のゴルフボール用樹脂組成物から形成されている態様、または、センターと前記センターを被覆するように配設された一以上の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するように配設されたカバーを有するマルチピースゴルフボールであって、前記センターが、本発明のゴルフボール用樹脂組成物から形成されている態様が好ましい。
【0072】
以下、本発明のゴルフボールを、コアと前記コアを被覆するように配設されたカバーとを有するツーピースゴルフボールであって、前記コアが、本発明のゴルフボール用樹脂組成物から形成されている態様に基づいて詳述するが、本発明は斯かる態様に限定されない。
【0073】
前記コアは、例えば、本発明のゴルフボール用樹脂組成物を射出成形することにより成形される。具体的には、1MPa〜100MPaの圧力で型締めした金型内に、160℃〜260℃に加熱溶融したゴルフボール用樹脂組成物を1秒〜100秒で注入し、30秒〜300秒間冷却して型開きすることにより行うことが好ましい。
【0074】
前記コアの形状としては、球状であることが好ましい。コアの形状が球状でない場合には、カバーの厚みが不均一になる。その結果、部分的にカバー性能が低下する箇所が生じるからである。
【0075】
前記コアの直径は、39.00mm以上が好ましく、39.25mm以上がより好ましく、39.50mm以上がさらに好ましく、42.37mm以下が好ましく、42.22mm以下がより好ましく、42.07mm以下がさらに好ましい。前記コアの直径が39.00mm以上であれば、カバー層の厚みが厚くなり過ぎず、その結果、反発性が良好となる。一方、コアの直径が42.37mm以下であれば、カバー層が薄くなり過ぎず、カバーの保護機能が十分に発揮される。
【0076】
前記コアは、直径39.00mm〜42.37mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮変形量(圧縮方向にセンターが縮む量)が、1.00mm以上が好ましく、1.10mm以上がより好ましく、5.00mm以下が好ましく、4.90mm以下がより好ましく、4.80mm以下がさらに好ましい。前記圧縮変形量が、1.00mm以上であれば打球感が良好となり、5.00mm以下であれば、反発性が良好となる。
【0077】
前記コアの表面硬度は、ショアD硬度で20以上が好ましく、25以上がより好ましく、30以上がさらに好ましく、70以下が好ましく、69以下がより好ましい。コアの表面硬度を、ショアD硬度で20以上とすることにより、コアが軟らかくなり過ぎることがなく、良好な反発性が得られる。また、コアの表面硬度をショアD硬度で70以下とすることにより、コアが硬くなり過ぎず、良好な打球感が得られる。
【0078】
前記コアの中心硬度は、ショアD硬度で20以上であることが好ましく、22以上がより好ましく、24以上がさらに好ましい。コアの中心硬度がショアD硬度で20未満であると、軟らかくなりすぎて反発性が低下する場合がある。また、コアの中心硬度は、ショアD硬度で50以下であることが好ましく、48以下がより好ましく、46以下がさらに好ましい。中心硬度がショアD硬度で50を超えると、硬くなり過ぎて、打球感が低下する傾向があるからである。本発明において、コアの中心硬度とは、コアを2等分に切断して、その切断面の中心点についてスプリング式硬度計ショアD型で測定した硬度を意味する。
【0079】
前記コアが、充填剤を含有することも好ましい。充填剤は、主として最終製品として得られるゴルフボールの密度を1.0〜1.5の範囲に調整するための重量調整剤として配合されるものであり、必要に応じて配合すれば良い。前記充填剤としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タングステン粉末、モリブデン粉末などの無機充填剤を挙げることができる。前記充填剤の配合量は、樹脂成分100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。充填剤の配合量が0.5質量部未満では、重量調整が難しくなり、30質量部を超えると樹脂成分の重量分率が小さくなり反発性が低下する傾向があるからである。
【0080】
本発明のゴルフボールのカバーは、樹脂成分を含有するカバー用組成物から形成されることが好ましい。前記樹脂成分としては、例えば、アイオノマー樹脂、ポリエステル樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂若しくは2液硬化型ウレタン樹脂などのウレタン樹脂、ポリアミド樹脂などの各種樹脂、アルケマ(株)から商品名「ペバックス(登録商標)(例えば、「ペバックス2533」)」で市販されている熱可塑性ポリアミドエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)(例えば、「ハイトレル3548」、「ハイトレル4047」)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー、BASFジャパン(株)から商品名「エラストラン(登録商標)(例えば、「エラストランXNY97A」)」で市販されている熱可塑性ポリウレタンエラストマー、三菱化学(株)から商品名「ラバロン(登録商標)」で市販されている熱可塑性スチレンエラストマーなどを挙げることができる。前記樹脂成分は、単独であるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0081】
前記アイオノマー樹脂としては、(a−2)成分、または、(a−4)成分として例示したものを使用することが好ましい。
【0082】
ゴルフボールのカバーを構成するカバー用組成物は、樹脂成分として、ポリウレタン樹脂(ポリウレタンエラストマーを含む)またはアイオノマー樹脂を含有することがより好ましい。カバー用組成物の樹脂成分中のポリウレタン樹脂またはアイオノマー樹脂の含有率は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
【0083】
カバー用組成物は、上述した樹脂成分のほか、白色顔料(例えば、酸化チタン)、青色顔料、赤色顔料などの顔料成分、酸化亜鉛、炭酸カルシウムや硫酸バリウムなどの重量調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料または蛍光増白剤などを、カバーの性能を損なわない範囲で含有してもよい。
【0084】
白色顔料(例えば、酸化チタン)の含有量は、カバーを構成する樹脂成分100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましい。白色顔料の含有量を0.5質量部以上とすることによって、カバーに隠蔽性を付与することができる。また、白色顔料の含有量が10質量部超になると、得られるカバーの耐久性が低下する場合があるからである。
【0085】
本発明のゴルフボールのカバーを成形する方法としては、例えば、カバー用組成物から中空殻状のシェルを成形し、コアを複数のシェルで被覆して圧縮成形する圧縮成形法(好ましくは、カバー用組成物から中空殻状のハーフシェルを成形し、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法)、あるいは、カバー用組成物をコア上に直接射出成形する射出成形法を挙げることができる。
【0086】
カバー用組成物を射出成形してカバーを成形する場合、あらかじめ押出して得られたペレット状のカバー用組成物を用いて射出成形しても良いし、あるいは、基材樹脂成分や顔料などのカバー用材料をドライブレンドして直接射出成形してもよい。カバー成形用上下金型としては、半球状キャビティを有し、ピンプル付きで、ピンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねているものを使用することが好ましい。射出成形によるカバーの成形は、上記ホールドピンを突き出し、コアを投入してホールドさせた後、カバー用組成物を注入して、冷却することによりカバーを成形することができる。具体的には、9MPa〜15MPaの圧力で型締めした金型内に、200℃〜250℃に加熱したカバー用組成物を0.5秒〜5秒で注入し、10秒〜60秒間冷却して型開きすることにより行うことが好ましい。
【0087】
カバーを成形する際には、通常、表面にディンプルと呼ばれるくぼみが形成される。カバーに形成されるディンプルの総数は、200個以上500個以下が好ましい。ディンプルの総数が200個未満では、ディンプルの効果が得られにくい。また、ディンプルの総数が500個を超えると、個々のディンプルのサイズが小さくなり、ディンプルの効果が得られにくい。形成されるディンプルの形状(平面視形状)は、特に限定されるものではなく、円形;略三角形、略四角形、略五角形、略六角形などの多角形;その他不定形状;を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0088】
カバーの厚みは、2.0mm以下が好ましく、1.6mm以下がより好ましく、1.2mm以下がさらに好ましく、1.0mm以下が特に好ましい。カバーの厚みが2.0mm以下であれば、得られるゴルフボールの反発性や打球感がより良好となる。前記カバーの厚みは、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.3mm以上がさらに好ましい。カバーの厚みが0.1mm未満では、カバーの成形が困難になるおそれがあり、また、カバーの耐久性や耐摩耗性が低下する場合もある。
【0089】
カバーが成形されたゴルフボール本体は、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、塗膜やマークを形成することもできる。塗膜の膜厚は、特に限定されないが、5μm以上が好ましく、7μm以上がより好ましく、25μm以下が好ましく、18μm以下がより好ましい。膜厚が5μm未満になると継続的な使用により塗膜が摩耗消失しやすくなり、膜厚が25μmを超えるとディンプルの効果が低下してゴルフボールの飛行性能が低下するからである。
【0090】
本発明のゴルフボールは、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときの圧縮変形量(圧縮方向に縮む量)は、2.0mm以上であることが好ましく、2.2mm以上がより好ましく、4.0mm以下であることが好ましく、3.5mm以下がより好ましい。前記圧縮変形量が2.0mm以上のゴルフボールは、硬くなり過ぎず、打球感が良い。一方、圧縮変形量を4.0mm以下にすることにより、反発性が高くなる。
【0091】
以上、本発明のゴルフボール用樹脂組成物をコアに用いる態様について説明したが、本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、センター、中間層、あるいは、カバーにも用いることもできる。センターが本発明のゴルフボール用樹脂組成物から形成される場合、中間層を形成する材料としては、例えば、カバー材料として例示した樹脂成分を用いることができる。
【実施例】
【0092】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0093】
[評価方法]
(1)スラブ硬度(ショアD硬度)
ゴルフボール用樹脂組成物を用いて、熱プレス成形により、厚み約2mmのシートを作製し、23℃で2週間保存した。このシートを、測定基板などの影響が出ないように、3枚以上重ねた状態で、ASTM−D2240に規定するスプリング式硬度計ショアD型を備えた高分子計器社製自動ゴム硬度計P1型を用いて測定した。
【0094】
(2)メルトフローレイト(MFR)(g/10min)
MFRは、フローテスター(島津製作所社製、島津フローテスターCFT−100C)を用いて、JIS K7210に準じて測定した。なお、測定は、測定温度190℃、荷重2.16kgの条件で行った。
【0095】
(3)反発弾性(%)
ゴルフボール用樹脂組成物を用いて、熱プレス成形にて厚み約2mmのシートを作製し、当該シートから直径28mmの円形状に打抜いたものを6枚重ねることにより、厚さ約12mm、直径28mmの円柱状試験片を作製した。この試験片についてリュプケ式反発弾性試験(試験温湿度23℃、50RH%)を行った。なお、試験片の作製および試験方法は、JIS K6255に準じて行った。
【0096】
(4)圧縮変形量(mm)
球形体に初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮方向の変形量(圧縮方向に球形体が縮む量)を測定した。圧縮変形量は、球形体No.19の圧縮変形量を1.00として指数化した値で示した。
【0097】
(5)反発係数
各球形体に198.4gの金属製円筒物を40m/秒の速度で衝突させ、衝突前後の円筒物およびゴルフボールの速度を測定し、それぞれの速度および重量から各ゴルフボールの反発係数を算出した。測定は、各球形体について12個ずつ行って、その平均値を各球形体の反発係数とした。
【0098】
(6)打球感
アマチュアゴルファー(上級者)10人により、ドライバーを用いた実打テストを行って、各人の打撃時のフィーリングを下記基準で評価させた。10人の評価のうち、最も多い評価をそのゴルフボールの打球感とした。
評価基準
優:衝撃が少なくてフィーリングが良い。
良:普通。
不良:衝撃が大きくてフィーリングが悪い。
【0099】
(7)固体高分解能炭素核磁気共鳴法(NMR法)によって観測される13C核のスピン−格子緩和時間(T1)の測定方法
装置:Bruker Avance 400
測定方法:Torcha法によるT1緩和時間測定
測定周波数:100.6256207MHz
測定温度:室温
基準物質:アダマンタン
マジック角回転の回転数:5000Hz
パルス幅:4.80μsec
コンタクトタイム:2000μsec
パルスの間隔:1μsec,100msec、500msec、1sec、2sec、3sec、4sec、6sec、8sec、10sec、12sec、15sec、20sec、40sec、80sec、120sec
磁場強度:9.4T
【0100】
(8)貯蔵弾性率E’(Pa)および損失弾性率E”(Pa)の測定
ゴルフボール用樹脂組成物の貯蔵弾性率E’(Pa)および損失弾性率E”(Pa)を以下の条件で測定した。
装置:ユービーエム社製動的粘弾性測定装置Rheogel−E4000
測定サンプル:ゴルフボール用樹脂組成物から、プレス成形により厚み2mmのシートを作製し、このシートから、幅4mm、クランプ間距離20mmになるように試料片を切り出した。
測定モード:引張
測定温度:12℃
加振周波数:10Hz
測定ひずみ:0.05%
【0101】
[球形体(コア)の作製]
表2〜表4に示すように、配合材料をドライブレンドし、二軸混練型押出機によりミキシングして、ストランド状に冷水中に押し出した。押出されたストランドをペレタイザーにより切断してペレット状のゴルフボール用樹脂組成物を調製した。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は、押出機のダイの位置で160〜230℃に加熱された。得られたペレット状のゴルフボール用樹脂組成物を220℃にて射出成形し、直径40mmの球形体(コア)を得た。
【0102】
【表2】

【0103】
【表3】

【0104】
【表4】

【0105】
表2〜表4で使用した原料は以下の通りである。
ニュクレルAN4319:三井・デュポンポリケミカル社製、エチレン・メタクリル酸・アクリル酸ブチル共重合体(メルトフローレイト(190℃×2.16kg):55g/10min、曲げ剛性率:21MPa、メタクリル酸含量8質量%)
サーリン6320:三井・デュポンポリケミカル社製、マグネシウムイオン中和エチレン・メタクリル酸・アクリル酸ブチル共重合体(メルトフローレイト(190℃×2.16kg):1g/10min、曲げ剛性率:53MPa)
水酸化マグネシウム:和光純薬工業社製
レシチン1:辻製油社製SLP−ホワイト(精製大豆レシチン)
レシチン2:辻製油社製SLP−PC70(ホスファチジルコリン濃縮大豆レシチン)
ホスファチジン酸:長瀬産業(株)製PAナガセ
ステアリン酸:日油社製「粉末ステアリン酸つばき」
【0106】
表2〜表4から明らかなように、(A)(a−1)オレフィンと、炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体、(a−2)オレフィンと、炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂、(a−3)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体、および、(a−4)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂より成る群から選択される少なくとも一種の樹脂成分100質量部に対して、(B)リン酸エステルおよび/またはその塩 1質量部〜25質量部と(C)塩基性無機金属化合物 0質量部〜200質量部とを含有することを特徴とするゴルフボール用樹脂組成物は、ショアD硬度で50以下であり、反発弾性は58%以上であった。この結果より、本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、軟質であり、反発性に優れることが分かる。
【0107】
図1は、反発係数と緩和時間(T1)との関係を示すグラフであり、緩和時間(T1)が短くなるほど、反発係数が高くなることが分かる。特に緩和時間が9.5秒以下であれば、反発係数が大きいコアが得られる。図2は、反発性とlog(E’/E”)との関係を示すグラフである。log(E’/E”)が大きくなるに従って、反発係数も大きくなることが分かる。特に、log(E’/E”)が−6.23以上であれば、反発係数が大きいコアが得られる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明によれば、反発性および打球感に優れるゴルフボールが得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a−1)オレフィンと、炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体、(a−2)オレフィンと、炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂、(a−3)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体、および、(a−4)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂より成る群から選択される少なくとも一種の樹脂成分100質量部に対して、
(B)リン酸エステルおよび/またはその塩 1質量部〜25質量部と
(C)塩基性無機金属化合物 0質量部〜200質量部とを含有することを特徴とするゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項2】
(B)リン酸エステルおよび/またはその塩は、リン脂質および/またはその誘導体である請求項1に記載のゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項3】
(B)リン酸エステルおよび/またはその塩は、ホスファチジン酸、リゾホスファチジン酸、および/または、それらの誘導体である請求項1に記載のゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項4】
(B)リン酸エステルおよび/またはその塩は、レシチンである請求項1に記載のゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項5】
(C)塩基性無機金属化合物は、塩基性マグネシウム化合物である請求項1〜4のいずれか一項に記載のゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項6】
(A)樹脂成分として、マグネシウムイオンで中和されている(a−4)アイオノマー樹脂を用いる請求項1〜5のいずれか一項に記載のゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項7】
下記式で表わされる総中和度が、53%以上、1000%以下である請求項1〜6のいずれか一項に記載のゴルフボール用樹脂組成物。
総中和度(%)=100×[(A)樹脂成分の陽イオン成分のモル数×陽イオン成分の価数+(B)リン酸エステルおよび/またはその塩の陽イオン成分のモル数×陽イオン成分の価数+(C)塩基性無機金属化合物の金属成分のモル数×金属成分の価数]/[(A)樹脂成分のカルボキシル基のモル数+(B)リン酸エステルおよび/またはその塩の陰イオン形成基のモル数×前記陰イオン形成基の価数]
【請求項8】
スラブ硬度が、ショアD硬度で1〜99である請求項1〜7のいずれか一項に記載のゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のゴルフボール用樹脂組成物から形成された構成部材を有することを特徴とするゴルフボール。
【請求項10】
少なくとも一層以上のコアと前記コアを被覆するカバーとを有するゴルフボールであって、前記コアの少なくとも一層が請求項1〜8のいずれか一項に記載のゴルフボール用樹脂組成物から形成されていることを特徴とするゴルフボール。
【請求項11】
ゴルフボール本体が請求項1〜8のいずれか一項に記載のゴルフボール用樹脂組成物から形成されていることを特徴とするワンピースゴルフボール。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−34829(P2013−34829A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−265617(P2011−265617)
【出願日】平成23年12月5日(2011.12.5)
【出願人】(504017809)ダンロップスポーツ株式会社 (701)