説明

サファイア単結晶の製造方法

【課題】 CZ法によりc軸サファイア単結晶を引き上げる際に、該単結晶の肩部及び直胴上部に泡群が生じない製造方法を提供する。
【解決手段】 直胴部直径Dのc軸サファイア単結晶の製造方法において、拡径部(肩部)の形成時における拡径部結晶直径をd[mm]、結晶引き上げ速度をL[mm/h]、拡径部半径増加速度をφ[mm/h]としたとき、0.6≦d/D<1.0にある間は、φ<7.0mm/h、かつL×φが55以下の範囲を維持するよう、結晶引き上げ速度及び拡径部半径増加速度を調整し、結晶直径Dに到達後は、所望の直胴長の単結晶体を継続して引き上げることにより、c軸方位のサファイア単結晶体を得る。該製造方法により得られるサファイア単結晶体の肩部及び直胴上部には泡群が形成される確立が極めて低く、該サファイア単結晶体からのLED用サファイア単結晶基板の取得率を向上させることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法によるサファイア単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サファイア(酸化アルミニウム)単結晶体は、青色LEDや白色LEDを作製する際のエピタキシャル成長基板として広く利用されている。近年、これらのLEDは省エネルギーの観点からLEDテレビやLED照明などとして需要が急激な拡大傾向にあり、サファイア基板の需要も拡大が予想されている。
【0003】
LEDチップは、c軸面サファイア基板上にMOCVD装置を用いてGaN、InGaN、AlN等の窒化物系化合物半導体発光体層を形成した後、チップに分割して作製する方法が一般的である(例えば、特許文献1参照)。よって、安価かつ大面積のc軸面を表面に有するサファイア基板を提供することは、LEDチップの生産の高効率化、低コスト化を達成するために重要な課題である。
【0004】
酸化物単結晶体の育成方法はさまざまあるが、その優れた結晶特性や大口径の単結晶体が得られることから大部分が溶融固化法で育成されている。溶融固化法の中でも特に、チョクラルスキー法やキロポーラス法などの引き上げ法が一般的に広く用いられている。チョクラルスキー法とは、坩堝中の原料溶融液面に種結晶体を接触させ、次いで、その種結晶体を坩堝の加熱域から徐々に引上げて冷却することにより、該種結晶体の下方に単結晶体を成長させる方法である。キロポーラス法はチョクラルスキー法に類似しているが、原料溶融液面に接触させた種結晶体は引上げず、或いはチョクラルスキー法と比較して極端に遅い速度で引上げつつ、ヒーター出力を徐々に下げて坩堝を冷却することにより、原料溶融液面下で単結晶体を成長させる点がチョクラルスキー法と異なる方法である。一般に、チョクラルスキー法はキロポーラス法に比べて育成速度が速く生産性が高い利点がある。
【0005】
チョクラルスキー法やキロポーラス法などの引き上げ法によりサファイア単結晶体を育成する場合の単結晶体引き上げ方位は、a軸或いはc軸が一般的であるが、LED用途としてはc軸面のサファイア基板が使用されるため、c軸引き上げにより得られた単結晶体インゴットからc軸面基板を取得する方が、生産性(加工性、基板収率)に優れており、サファイア基板の低コスト化に期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−82676号
【特許文献2】特開2010−59031号
【特許文献3】特開2008−207992号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、サファイアの優先成長方位はa軸方位でありc軸方位には成長しにくいため、c軸引き上げにより成長させると結晶中に微小な気泡が密に集合した泡群が発生しやすいという問題があった。
【0008】
結晶中の泡群発生を抑えるには結晶の引き上げ速度を遅くすることが一般的だが、引き上げ速度を遅くすることは、単結晶体製造に長時間を要することになり、チョクラルスキー法の利点を損なうため、好ましくない手段である。
【0009】
そこで本発明者らは、耐火物の構造や炉内雰囲気を工夫することにより、引き上げ方位をc軸かつ引き上げ速度を2〜4mm/hとしたチョクラルスキー法を用いて、泡群を有しない直径150mm以上の直胴部を持つサファイア単結晶体を再現よく得る方法を確立することに成功した。
【0010】
しかしながら、上記方法によりサファイア単結晶体を製造した場合においても、該単結晶体の肩部及び直胴上部に限っては、なおも泡群が頻繁に発生し、直胴上部からのサファイア基板収率を向上させることができなかった。
【0011】
従って本発明は、引き上げ方位をc軸としたチョクラルスキー法を用いて、肩部及び直胴上部に泡群を有しないサファイア単結晶体を短時間で効率よく製造できる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題に鑑み、本発明者らは鋭意検討を行った。そして、結晶中の泡群の生じやすさは、引き上げ速度のみでなく、肩育成時における結晶径の拡大速度とも関係していることを発見し、さらに、肩育成時の結晶引き上げ速度と結晶半径増加速度をパラメータとして、結晶中に泡群が発生し難い肩育成条件を規定できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
即ち本発明は、原料溶融液に対してc軸方位のサファイア種結晶を接触させた後に引き上げ、該種結晶下に拡径部及び直径Dの直胴部を有する単結晶体を成長させるチョクラルスキー法によるc軸サファイア単結晶の製造方法において、前記拡径部の形成時における拡径部結晶直径をd[mm]、結晶引き上げ速度をL[mm/h]、拡径部半径増加速度をφ[mm/h]としたとき、0.6≦d/D<1.0にある間は、φ<7.0mm/h、かつL×φが55以下の範囲を維持するよう、結晶引き上げ速度及び結晶半径増加速度を調整することを特徴とするサファイア単結晶体の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、肩部及び直胴上部に泡群を有しないサファイア単結晶体を製造することができ、直胴上部からのサファイア基板収率を向上させることができる。
【0015】
また、サファイア単結晶体中に泡群が発生した場合、該泡群を起点としたサブグレインが発生することがあるため、本発明によれば、結晶中のサブグレインの発生を抑えることもできる。
【0016】
さらに、拡径部結晶半径増加速度φを3.0mm/h以上に大きく(ただし、φ<7.0mm/hかつL×φが55以下の範囲であること)すれば、肩部育成工程にかかる時間を短くでき、また、肩角度θを60°以上に大きく(ただし、θ≦80°が好ましい)すれば、肩部で消費する原料溶融液を少なくでき、よって、より高効率に、肩部及び直胴上部に泡群を有しないサファイア単結晶体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】CZ法サファイア単結晶製造装置の模式図。
【図2】拡径部(肩部)育成途中を示す模式図。
【図3】0.6≦d/D<1.0にある間に、φ及びL×φが充足すべき範囲。
【図4】育成プログラム例におけるL及びφの推移。
【図5】育成プログラム例におけるd/DとL×φの関係。
【図6】実施例1の育成プログラムにおけるL及びφの推移。
【図7】実施例1の育成プログラムにおけるd/DとL×φの関係。
【図8】実施例2の育成プログラムにおけるL及びφの推移。
【図9】実施例2の育成プログラムにおけるd/DとL×φの関係。
【図10】比較例1の育成プログラムにおけるL及びφの推移。
【図11】比較例1の育成プログラムにおけるd/DとL×φの関係。
【図12】比較例1で得られたサファイア単結晶の形状と結晶中に見られる泡群の分布を示す模式図。
【図13】比較例2の育成プログラムにおけるL及びφの推移。
【図14】比較例2の育成プログラムにおけるd/DとL×φの関係。
【図15】比較例2で得られたサファイア単結晶の形状と結晶中に見られる泡群の分布を示す模式図。
【図16】比較例3の育成プログラムにおけるL及びφの推移。
【図17】比較例3の育成プログラムにおけるd/DとL×φの関係。
【図18】比較例3で得られたサファイア単結晶の形状と結晶中に見られる泡群の分布を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、結晶成長炉内で、原料溶融液に対してc軸方位の種結晶を接触させた後に引き上げ、該種結晶下に拡径部及び直径Dの直胴部を有する単結晶体を成長させるチョクラルスキー法によるc軸サファイア単結晶の製造方法であれば、特に制限なく適用できる。
【0019】
まず始めに、本発明が適用されるチョクラルスキー法によるc軸サファイア単結晶の製造方法全般について説明する。なお、本発明において「c軸サファイア単結晶」とは、引き上げにより成長する成長方向(引き上げ方向)がc軸方向であることを意味する。
【0020】
図1は本発明の製造方法に用いられるチョクラルスキー法の結晶育成装置の一例(模式図)である。
【0021】
この単結晶引上げ装置は、結晶成長炉を構成するチャンバー1を備えており、このチャンバー上壁には、開口部を介して、図示しない駆動機構によって上下動および回転可能な単結晶引上げ棒2が吊設されている。この単結晶引上げ棒の先端には、保持具3を介して種結晶体4が取り付けられており、種結晶体が坩堝5の中心軸上に位置するように配置されている。また、この単結晶引上げ棒の上端には、結晶重量を測定するロードセル6を備えている。
【0022】
坩堝5は、チョクラルスキー法に用いられる坩堝として公知の形状の坩堝を使用することができる。一般には、上部から見た開口部が円形状であり、円柱状の胴部を持ち、底面の形状が平面状又は碗状又は逆円錐状のものが用いられる。また、坩堝の材質としては、原料溶融液である酸化アルミニウムの融点に耐え、また酸化アルミニウムとの反応性が低いものが適しており、イリジウム、モリブデン、タングステン、レニウムまたはこれらの混合物が一般的に用いられる。とりわけ、耐熱性に優れたイリジウム、または安価で経済性の良いモリブデンを使用することが好ましい。
【0023】
坩堝の周囲には坩堝の底部及び外周を取り囲むように、断熱壁7aが設置されている。また、坩堝上方の単結晶引上げ域の側周部を環囲する断熱壁7bが設置されている。該断熱壁7a,7bは、公知の断熱性素材で形成されていれば制限なく利用できるが、酸素を含む雰囲気下で育成を行う場合には、特にイットリウム、カルシウム、マグネシウム等を添加して安定化したものを含むジルコニア系およびハフニア系の素材、またはアルミナ系の素材が好適に利用できる。ここで用いられる断熱壁は、内面と外面の温度差が非常に大きい環境下で使用されるため、加熱、冷却の繰り返しによって素材が著しく変形、割れを生じやすく、このような断熱壁の変形や割れによって結晶成長域の温度勾配が刻々と変化し、安定的な結晶製造を困難にする。そこで、断熱壁は全体を一体の素材で構成するのではなく、いくつかに分割された断熱材の組み合わせで構成することにより、このような変形や応力による断熱壁の割れやそれに伴う温度環境の変化を低減するのが好ましい。
【0024】
単結晶引上げ域を環囲する断熱壁の上端の開口部は、単結晶引上げ棒の挿入孔が少なくとも穿孔された天井板8により閉塞される。これにより、単結晶引上げ域は、上記断熱壁7a,7bと天井板8とにより形成される単結晶引上げ室内に収まるため、その保熱性が大きく向上する。該天井板は断熱壁と同様、公知の断熱性素材で形成されていればよく、特にイットリウム、カルシウム、マグネシウム等を添加して安定化したものを含むジルコニア系およびハフニア系の素材、またはアルミナ系の素材が好適である。
【0025】
また、該天井板は、必ずしも平板状である必要はなく、断熱壁の環囲体の上端開口部を前述の穿孔部分を除いて閉塞するものであれば如何なる形状であっても良い。例えば。円錐台状、逆円錐台状、笠状、逆笠状、ドーム状、逆ドーム状等であっても良い。
【0026】
断熱壁の外周、おおよそ坩堝の高さの位置を環囲して、高周波コイル9が設置されている。該高周波コイルには、図示しない高周波電源が接続される。高周波電源は、一般のコンピュータからなる制御装置に接続され、出力を適宜調節される。該制御装置は、前記ロードセルの重量変化を解析して高周波電源の出力を調整するほかに、結晶引上げ軸や坩堝の回転数、引上げ速度、ガスの流入出のためのバルブ操作なども併せて制御するのが一般的である。
【0027】
LED用サファイア基板用の単結晶サファイア製造の原料としては、通常、純度4N(99.99%)以上の純度を有する酸化アルミニウム(アルミナ)が用いられる。不純物はサファイア単結晶の格子間又は格子内に混入して結晶欠陥の起点となることから、純度の低い原料を用いるとサブグレインが発生しやすく、また結晶が濃く着色する傾向がある。結晶の着色の原因は不純物によって形成された結晶欠陥に起因する色中心(カラーセンター)であり、結晶欠陥の多さを間接的に示している。特に不純物としてのクロムは着色に顕著な影響を及ぼすことから、クロムの含有量が100ppm未満の原料を使用することが好ましい。また、該原料の嵩密度はなるべく高いものが坩堝に多くの原料を充填することができ、また炉内での原料の飛散を抑制できるため適している。好ましい原料の嵩密度は1.0g/ml以上、さらに好ましくは2.0g/ml以上である。このような性状の原料としては、酸化アルミニウム粉末をローラープレス等で造粒したものや、破砕サファイア(クラックル、クラッシュサファイア等)が知られている。
【0028】
該原料を前記結晶成長炉内に設置された前記坩堝内に装入し、加熱により原料溶融液とする。原料が溶融状態に到達するまでの昇温速度は特に限定されないが、50〜200℃/時間であることが好ましい。
【0029】
結晶引上げ軸先端の種結晶保持具に装着された種結晶を該原料溶融液面に接触させ、ついで徐々に引上げて単結晶体を成長させる。単結晶引上げを実施する際の原料溶融液の温度は、結晶が異常成長を起こさず安定的に成長するためには、必然的に融点よりも僅かに低い温度(過冷却温度)となることが知られている。サファイア単結晶の場合は2000〜2050℃の温度で実施することが好ましい。
【0030】
引き上げに用いる種結晶は、サファイア単結晶であり、溶融液と接する先端鉛直方向をc軸とする必要がある。
【0031】
c軸を該種結晶の先端鉛直方向とする場合の融液に接触する先端の形状は特に限定されず、不特定面で構成されていても良いが、好ましくはc軸の平面、または、n面、r面、R面、S面の任意の組み合わせで構成された多角錐形が好ましい。また、該種結晶の側面は特に限定されず任意の形状を選択できるが、円柱状、あるいはm面もしくはa面によって構成される三角柱状、六角柱状、あるいはm面とa面によって構成される四角柱状、十二角柱状などが好ましい。
【0032】
また、該種結晶の上方には、保持具で保持するための拡大部及び/又はくびれ部及び/又は貫通孔を有するのが一般的である。
【0033】
成長させる単結晶の品質は、該種結晶の品質に大きく依存するため、その選定には特に注意を要する。種結晶としては、結晶欠陥や転移と呼ばれる結晶構造の不完全部分が極力少ないものが望ましい。結晶構造の良否は、種結晶の先端面又はその近傍をエッチピット密度測定、AFM、X線トポグラフィ等の方法を用いて評価することができる。また、結晶欠陥は残留応力が大きいほど多くなる傾向があることから、クロスニコル観察や応力複屈折などで応力の程度が小さいものを選定することも効果的である。一般に、種結晶としては、キロポーラス法で製造されたサファイア単結晶が特に適している。
【0034】
該種結晶を原料溶融液に接触させた後、種結晶および/又は坩堝の回転数、引上げ速度、高周波コイルの出力等を制御して肩部(拡径部)を形成し、所望の結晶径まで拡径させた後、当該結晶径を維持するように直胴部の引き上げを行う。
【0035】
単結晶体引上げ中の炉内圧力は、加圧下、常圧下、減圧下のいずれでもよいが、常圧下で行うことが好ましい。雰囲気としては窒素、アルゴン等の不活性ガスに、0〜10体積%の任意の量の酸素を含む雰囲気が好ましい。
【0036】
所望の直胴部径と長さを有する、c軸を鉛直方向に持つサファイア単結晶体を引上げた後、該単結晶体を原料溶融液から切り離す。単結晶体を原料溶融液から切り離す方法は特に限定されず、ヒーター出力の増大(原料溶融液の温度の上昇)により切り離す方法、結晶引上げ軸上昇速度の増加により切り離す方法、坩堝の降下により切り離す方法など、いずれの方法を採用しても良い。なお、単結晶体が原料溶融液から切り離れる瞬間の温度変動(ヒートショック)を小さくするために、ヒーター出力を徐々に上げる、もしくは結晶引上げ軸上昇速度を徐々に速くすることによって結晶径を徐々に減少させるテール処理を行うことは効果的である。
【0037】
原料溶融液から切り離された単結晶体は、炉内から取り出せる程度の温度まで冷却される。冷却速度は速いほうが結晶育成炉を占有する時間が短く、育成工程の生産性を上げることができるが、速すぎると単結晶体の内部に残留する応力歪みが大きくなり、冷却時や後の加工時に破砕やひび割れが発生したり、最終的に得られる基板に異常な反りが発生するおそれがある。逆に、冷却速度が遅すぎると結晶育成炉を占有する時間が長くなり、育成工程の生産性が低下する。これらを勘案し、冷却速度としては、10〜200℃/時間が好ましい。
【0038】
本発明の製造方法は上述の如きチョクラルスキー法によるc軸サファイア単結晶の製造方法における肩部(=拡径部)の形成方法に係わるものである。
【0039】
ここで、本発明における各係数符号について図2を参照して説明する。Dは上述の直胴部の直径をmm単位で示すものである。なお直胴部形成中にも何らかの外濫要因により数mm程度直胴部の直径が変化する場合がある。本発明における直胴部の直径Dは、この変化を含む相加平均値である。
【0040】
dは拡径部形成時のある時点(t)での該拡径部結晶直径をmm単位で示すものである。
【0041】
Lは上記時間tにおける結晶引き上げ軸上昇速度p[mm/h]と原料溶融液面の減少速度m[mm/h]の和(L=p+m)であり、結晶引き上げ方向の結晶成長速度をmm/h単位で示すものである。原料溶融液面の減少速度は、結晶直径が大きいほど速くなる。そのため、ある一定範囲の時間内において結晶引き上げ速度Lを一定にしようとする場合には、結晶直径によって変化する原料溶融液面の減少速度を考慮する必要がある。例えばt→tの間は拡径時の結晶引き上げ速度Lを所望の速度に保つ場合には、原料溶融液面の減少速度が加速する分だけ、結晶引き上げ軸上昇速度をt→tにかけて減速させる必要がある。またmは坩堝の内径にも依存するのでその点、留意する必要がある。
【0042】
φは前記時間tにおける拡径時の拡径部半径増加速度をmm/h単位で示すものである。
【0043】
本発明によれば、0.6≦d/D<1.0にある間は、φ<7.0mm/h、かつL×φが55以下の範囲を維持するよう、結晶引き上げ速度及び結晶半径増加速度を調整することにより、肩部及び/又は直胴上部に生じやすい泡群の発生を抑えることができる。
【0044】
結晶中に泡群が形成された場合、該泡群は、当該結晶を目視観察するだけで容易に確認することができる。目視観察の方法は、明るい場所であれば特に限定されず、蛍光灯や太陽等の光で十分に観察可能であり、結晶中の泡群の形成されている部分は、透明感が無く白濁して見え、よく観察すると、微小な泡が密集していることが目視でも確認できる。
【0045】
泡群が単結晶の肩部及び/又は直胴上部に生じやすいことは、上述しているが、このような単結晶の肩部及び/又は直胴上部に生じやすい泡群は、単結晶引き上げの際の結晶回転軸上を含めたその近辺(結晶中心部)に生じることが多い。これは即ち、原料融液面下で坩堝底へ向かって下凸状(逆円錐状)に成長する結晶界面の下端部(先端部)に泡群が生じやすいことを示している(通常、下凸に成長した結晶界面の先端部は、結晶中心部に位置する)。
【0046】
単結晶育成中の結晶界面は、炉内構成や炉内雰囲気などの育成条件によって、上凸状、フラット状、下凸状になったりするが、サファイア育成における結晶界面は、凡そ円錐形状の下凸になることが通常である。また、サファイア単結晶育成中における、原料溶融液面の高さから結晶界面(下凸)下端部までの鉛直方向長さ(下凸長さ)は結晶直径の大きさに依存しやすく、通常、0.2d〜0.4d(d:拡径部結晶直径[mm])程度の範囲で拡径時の結晶直径dに伴って大きく成長する(図2)。
【0047】
直胴部結晶直径D[mm]に到達したところを直胴長さ0mmとすると、これまでに本発明者らが製造したサファイア単結晶の中心部に生じる泡群は、直胴長さ0.4Dの位置よりも上部に見られることが殆どであった。従って、肩部及び/又は直胴上部に生じやすい泡群は、肩育成時に形成されているものと判定した。
【0048】
肩部及び/又は直胴上部以外には、坩堝内の原料溶融液の残量が少なくなる直胴終盤部に泡群が生じやすい。しかし、これらを除く直胴中盤部では、連続して泡群を有しない単結晶が再現よく得られる。なお、直胴終盤部に泡群が生じやすいのは、坩堝内の原料溶融液が少なくなることにより、溶融液中の温度勾配が著しく小さくなってしまい、結晶界面における結晶成長が不安定化してしまうためと考えられる。また、このような直胴終盤部に形成される泡群は、単結晶引き上げの際の結晶回転軸上を中心にして広範囲に分布しているため、肩部及び/又は直胴上部の結晶中心部近辺のみに生じやすい泡群とは明らかに発生原因が異なるものと考えられる。
【0049】
肩育成時の結晶界面(下凸)下端部に泡群が生じやすく、直胴育成時の下凸下端部に泡群が生じないことは、泡群の生じやすさが、結晶の引き上げ速度のみでなく、結晶の拡径速度とも関係していることを示していると考えられる。以下に結晶径の拡大速度が泡群の生じやすさと関係する原因を考察する。
【0050】
まず、結晶中に見られる泡群は、組成的過冷却が生じた結果、結晶界面が不安定化してセル成長することにより形成されたものと考えられる。このセル成長(組成的過冷却)は、結晶界面における結晶成長速度が速過ぎる場合に起こりやすいことが一般的に知られており、チョクラルスキー法によるサファイア単結晶育成においても、引き上げ速度が速過ぎる場合や、結晶成長が不安定化する何らかの要因が発生して急成長した場合に、結晶中に泡群が生じる傾向が顕著である。なお、セル成長(組成的過冷却)は、温度勾配が緩すぎる場合にも起こりやすいことが一般的に知られており、直胴終盤部に泡群が生じやすい原因は温度勾配起因であると考えられる。
【0051】
肩育成時には、任意の速度で単結晶を引き上げながら拡径させていくが、前述の通り、この拡径に伴って結晶界面は下凸状に大きく成長し、該下凸の長さは、0.2d〜0.4d(d:拡径部結晶直径[mm])程度である。この拡径による下凸の成長速度は、最も下方へ長く成長する結晶中心部で最も速いと言え、任意の拡径部直径増加速度φ[mm/h]で拡径させた場合、下凸は0.2φ〜0.4φ程度の速度で成長すると考えられる。例えば、肩育成時の単結晶引き上げ速度を2mm/h、拡径部直径増加速度φを14mm/hとした場合、拡径による下凸の下方への成長速度は、2.8mm/h〜5.6mm/h程度であると予想され、単結晶引き上げ速度と併せて考えると、下凸の先端部では4.8mm/h〜7.6mm/h相当の速度で結晶成長していると捉えることができ、拡径による下凸の成長速度が、単結晶の成長速度に大きく影響することが理解できる。
【0052】
以上の考察のように、肩育成時の拡径速度が速過ぎる場合には、下凸、特に下凸先端部の、結晶成長速度が速まり過ぎるために、下凸先端部でセル成長を起こし、その結果、単結晶の肩部及び/又は直胴上部の結晶中心部に泡群が形成されるものと推察した。そして各実験結果及び上記考察に鑑み、本発明者らは、肩育成時の結晶引き上げ速度Lおよび拡径部半径増加速度φをパラメータとして結晶中に泡群が生じ難い条件を規定することが可能か検討し、その結果、前記関係、即ち、0.6≦d/D<1.0にある間は、φ<7.0mm/h、かつL×φが55以下となる条件で拡径させた場合、肩部及び/又は直胴上部の泡群が著しく形成され難くなることを見出したものである。
【0053】
上述の通り、チョクラルスキー法によりサファイア単結晶体を育成した場合、結晶界面は坩堝底へ向かって下凸状に成長し、結晶直径の増大に伴って該下凸(結晶界面)も大きく成長する。そして、肩部(拡径部)の形成時における拡径部結晶直径dが0.6D(即ち、直胴部結晶直径Dの0.6倍)まで成長した場合、その時点で形成されている下凸の下端部は、直胴部を形成させた際の直胴上部に位置する可能性が高い。
【0054】
ここで拡径部半径増加速度φが大きくなりすぎると結晶引き上げ速度Lと無関係に泡群が発生しやすくなるため、以下に述べるL×φを制御する意味がなくなってしまう。従って、dが0.6D以上となった時点以降はφ<7.0mm/hとする必要がある。好ましくはφ<6.0mm/hである。
【0055】
結晶引き上げ速度Lは、上記φに比べてさらに泡群の形成に与える。前述した通り、直胴部に泡群がはいるのは拡径部結晶直径dが0.6Dに到達した以降となるため、これ以降は該Lも制御する必要があり、かつ本発明者等の検討によれば、Lは3乗のオーダーで考慮する必要がある。そして本発明者等の更なる検討によれば、L×φを55以下とすれば泡群が形成され難く、少なくともd/Dが0.6となった以降ではL×φを55以下に維持することによって泡群が直胴部に形成される可能性を著しく低減できる。
【0056】
×φが大きいほど短時間で拡径部(肩部)の製造ができるが、一方で何らかの外攪要因により55を超えてしまう可能性も大きくなる。さらに、L×φを小さくするほど、肩部及び/又は直胴上部の泡群を生じ難くできるが、L×φを小さくするためにφを小さくし過ぎた場合には、肩部の育成時間が長くなり過ぎて製造効率を低下させてしまい、また、Lを小さくし過ぎた場合には、肩部の長さが短くなり過ぎてしまい、即ち、肩角度(θ:図2参照)が大きくなり過ぎてしまい、このような場合には拡径時の結晶直径制御が不安定になりやすい。
【0057】
従ってφは1.0mm/h以上が好ましく、2.0mm/h以上がより好ましく、3.0mm/h以上が特に好ましい。そして1.0mm/h≦φである間はL×φは3以上とすることが好ましい。さらにL×φは10以上、50以下の範囲とすることが好ましく、20以上、45以下の範囲とすることがより好ましい。
【0058】
但しLが10mm/hを超える引き上げ速度は現実的ではなく、一般的には5.0mm/h以下である。換言すればL×φが55以下であっても、Lは好ましくは10mm/h以下、より好ましくは5.0mm/h以下とする。
【0059】
ところで、形成させる肩角度を大きくするほど、肩部の長さは短くなってしまう。そのため、下凸の先端部が直胴上部の位置に到達するのは、肩部の角度が大きく長さが短いほど、肩部育成の早い段階となってしまう。
【0060】
また、サファイア単結晶中に泡群が形成された場合、該泡群の下部(テール側)にサブグレインが発生していることがあり、泡群がサブグレインの発生要因である懸念がある。結晶育成中、一度発生したサブグレインは、結晶下部(テール側)へと伝播してしまうため、サブグレインを誘発する可能性がある泡群は、肩部全体においても発生しないことが望ましい。従って、肩部の角度が小さい場合においても、拡径部結晶直径dが0.6Dに到達するよりも前の時点から、L×φが55以下を維持するよう、結晶引き上げ速度及び結晶半径増加速度を調整することが望ましい。具体的には、dが好ましくは0.4D以上、特に好ましくは0.2D以上となった以降、最も好ましくは拡径部形成開始時点からである。
【0061】
また肩角度(θ)はL及びφにより定まるが、肩形状によらず、肩角度が大きすぎる場合には、結晶の直径制御が不安定になりやすく、小さすぎる場合には、肩部の育成時間が長く、また、肩部で消費する原料溶融液量が多くなり、単結晶体の製造効率が低下してしまうため、30°≦θ≦80°の範囲となるように肩部を形成させることが好ましく、60°≦θ≦75°の範囲となるように肩部を形成させることが特に好ましい。
【0062】
なお直胴部直径Dが大きくなるほど泡が入りやすくなる傾向があるため、本発明の製造方法は、D≧140mm以上、特に150mm以上のc軸サファイア単結晶の製造に適用するとより効果的である。
【0063】
図3に、結晶引き上げ速度Lを横軸に、拡径部半径増加速度φを縦軸にとり、L×φ=55となるLとφの関係を示す。本発明においては、0.6≦d/D<1.0にある間は、図中に示すφが7.0mm/h及びL×φが55のラインよりも原点よりの条件で肩部を拡径させれば良い。
【0064】
本発明の製造方法において、上記拡径部の形成時にL及びφを制御する方法としては、通常、前述した高周波電源の出力を調整する制御装置によって行う。該制御装置には、単結晶育成時の目標結晶直径を設定可能な育成プログラムが組み込まれているのが一般的である。結晶引き上げ時、該制御装置は、ロードセル重量変化から計算される測定結晶直径が、該育成プログラムに設定された目標結晶直径に収束するよう、高周波電源の出力を制御する。さらに該育成プログラムは、結晶引き上げ軸上昇速度や結晶引き上げ軸回転速度等も併せて設定可能になっており、出力と併せて制御されることが通常である。
【0065】
本発明の方法に従って肩部を育成した後、続けて直胴部の引き上げを行う際の結晶引き上げ速度は、通常、0.1〜20mm/hとすることができる。ただし、引き上げ速度が遅すぎると生産性が低下し、引き上げ速度が速すぎると育成環境の変動が大きくなりサブグレインや泡群が発生しやすくなることから、直胴部における結晶引き上げ速度は、0.5〜10mm/hが好ましく、1〜5mm/hが特に好ましい。
【0066】
結晶引き上げの際には(拡径部形成時も含め)、結晶引き上げ軸を回転させることにより、結晶を回転させることが一般的である。回転速度は、通常、0.5rpm〜50rpmとすることができるが、回転速度が速すぎる場合には、結晶直径の制御が困難になったり、原料溶融液が激しく攪拌され溶融液が飛散したりするため、回転速度は0.5〜20rpmが好ましい。なお、回転速度が速いほど溶融液が強く攪拌され、下凸状の結晶界面が小さくなる傾向はあるが、回転速度0.5〜20rpmの範囲内で拡径させる場合には、結晶界面の成長速度は、回転速度よりも拡径速度への依存度が高く、肩育成時の泡群の生じやすさと回転速度には関係性が認められない。
【0067】
直胴部形成完了後、通常は、育成される結晶を縮径してテール部を形成し、その後、融液から切り離してc軸サファイア単結晶体を得ることができる。
【0068】
前述の育成プログラムについて、以下の表1に示す育成プログラムを例に挙げて説明する。なお、育成プログラムの実行方法は使用する制御装置により異なる場合もあり、当該育成プログラムの実行方法は以下に示す例に限定されるものではない。下記育成プログラムにおいてはDが160mmであるから、0.6dは96mmとなる。
【0069】
【表1】

【0070】
表1に示す育成プログラムは、直径10mmの種結晶を保持した結晶引き上げ軸を、ステップ1の間に1分間引き上げた後、ステップ2(拡径部(肩部)育成工程1)の間に10時間かけて結晶引き上げ軸を引き上げながら目標結晶直径を10mmから110mmまで一定割合で増加させて該ステップ完了後の結晶直径を110mmまで拡径、ステップ3(拡径部(肩部)育成工程2)の間に引き上げを継続しつつ10時間かけて目標結晶直径を110mmから160mmまで一定割合で増加させて該ステップ完了後の結晶直径を160mmまでさらに拡径させ、ステップ4(直胴部育成工程)の間に50時間かけて結晶直径160mmを保つように引き上げを継続し、最後にステップ5(テール部育成工程)の間に引き上げを継続しつつ3時間かけて目標結晶直径を160mmから100mmまで一定割合で減少させ該ステップ完了後の結晶直径を100mmまで縮径させることにより、目的とする単結晶を育成するプログラムである。なお、プログラムが入力されているステップ5まで終了した後は、通常、得られた単結晶体を原料溶融液から切り離す操作を行った後、炉内温度を室温まで徐々に冷却させる。
【0071】
結晶引き上げ軸上昇速度については、ステップ1の間は2.00mm/hを保ち、ステップ2の間に10時間かけて2.00mm/hから1.45mm/hへ一定割合で減速、ステップ3の間に10時間かけて1.45mm/hから0.83mm/hへ一定割合でさらに減速させた後、ステップ4の間は0.83mm/hを保ち、ステップ5の間に3時間かけて0.83mm/hから1.55mm/hへ一定割合で加速させている。本育成プログラムにおける結晶引き上げ軸上昇速度は、内径220mmの坩堝を使用した場合に、各ステップの開始時点及び終了時点の結晶引き上げ速度が2.0mm/hとなるように設定している。
【0072】
表1に示す育成プログラムを実行した際に拡径部結晶直径dが直胴部直径Dに到達するまで(ステップ2及びステップ3の間)の、結晶引き上げ速度L及びφの連続的な変化を図4に、L×φの連続的な変化を図5に示す。
【0073】
図5から判る通り、表1に示す育成プログラムは、0.6≦d/D<1.0の間、L×φがいずれの時点でも55以下の範囲内にある。
【0074】
表1に示す育成プログラムでは、肩部育成工程において目標結晶直径及び結晶引き上げ軸上昇速度を一定割合で変化させる際の変化量が、ステップ2とステップ3で異なるように目標結晶直径及び結晶引き上げ軸上昇速度を設定している。これにより、ステップ2では約68°の肩角度がステップ3では約51°に変化する。このように肩部育成工程の途中で肩角度を変化させれば(例えば、肩上部では肩角度が大きくなるように拡径させ、肩中部、肩下部へと徐々に肩角度が小さくなるように育成プログラムを設定することにより)ドーム形状の肩を形成させることも可能である。このようなドーム形状の肩を形成させる場合、肩部育成工程終盤の肩角度が小さい部分においては、拡径部半径増加速度φが1mm/h未満になりやすいが、前述のとおりL×φが55以下を維持すると共に、結晶引き上げ速度Lを10mm/h以下(好ましくは5.0mm/h以下)に調整することが好ましい。
【0075】
上記のようにして得られたサファイア単結晶は、直胴上部に泡群がなく、よって、該単結晶を公知の方法によって切断、研削、研磨等の加工を行うことにより得られる、GaN膜、InGaN膜、AlN膜などのエピタキシャル成長に使用するサファイア基板の収率を高くすることができる。
【実施例】
【0076】
以下、具体的な実験例を挙げて本発明の実施態様をより詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0077】
実施例1
最初に、内径が220mm、深さが225mmのイリジウム製坩堝に、出発原料として純度が4N(99.99%)の高純度アルミナ(AKX−5 住友化学製)を26kg投入した。原料を投入した前記坩堝を、図1に示すような炉内構造をした高周波誘導加熱方式のチョクラルスキー型結晶引上げ炉に設置し、炉内を100Pa以下まで真空排気した後に窒素ガスを40L/minで大気圧まで導入した。大気圧到達後は、酸素を1.0体積%含む窒素ガスを2.0L/minで炉内に導入しながら、炉内圧力が大気圧を維持するよう排気を行った。坩堝の加熱を開始し、坩堝内の酸化アルミニウム原料が溶融する温度に到達するまで16時間かけて徐々に加熱した。原料溶融液表面の対流の様子(スポークパターン)を参考にヒーター出力を適宜調整した後、キロポーラス法で製造され、サファイア単結晶からなる、先端がc軸面、直径10mmの種結晶を、18回転/minの速度で回転させながら徐々に降下させ、種結晶の先端を原料溶融液に接触させた。種結晶が溶けず、かつ融液表面に結晶が成長しないようヒーター出力をさらに微調整した後、引き上げ軸上昇速度2mm/hの速度で種結晶の引き上げを開始した。
【0078】
引き上げを開始した後は、表2に示す育成プログラム(実施例1)を実行させ、結晶直径、結晶引き上げ軸上昇速度、結晶回転数を、当該育成プログラムに示した目標値となるよう制御させながら結晶育成を行った。
【0079】
【表2】

【0080】
表2に示す育成プログラム(実施例1)を実行した際に拡径部結晶直径dが直胴部直径Dに到達するまで(ステップ2〜8の間)の、結晶引き上げ速度L及びφの連続的な変化を図6に、L×φの連続的な変化を図7に示す。なお、当該育成プログラムでは、肩角度がステップ2では約40°、ステップ3では約68°、ステップ4では約72°、ステップ5では約65°、ステップ6では約56°、ステップ7では約47°、ステップ8では約40°となるように変化させ、ドーム形状の肩が形成されるようになっている。
【0081】
図7から判る通り、表2に示す育成プログラムは、0.6≦d/D<1.0を含む拡径の間、L×φがいずれの時点でも55以下の範囲内にある。
【0082】
当該育成プログラム終了後、引き上げ軸上昇速度10mm/minで単結晶を原料溶融液から切り離した。切り離した単結晶は20時間かけて室温まで冷却した。その結果、鉛直方向にc軸を有する、直径160mm、直胴部の長さが150mmのサファイア単結晶体を得た。この単結晶の肩部及び/又は直胴上部には泡群が見られなかった。
【0083】
実施例2
表3に示す育成プログラムを用いた以外は、実施例1と同様にして結晶育成を行った。
【0084】
【表3】

【0085】
表3に示す育成プログラム(実施例2)を実行した際に拡径部結晶直径dが直胴部直径Dに到達するまで(ステップ2〜8の間)の、結晶引き上げ速度L及びφの連続的な変化を図8に、L×φの連続的な変化を図9に示す。なお、当該育成プログラムでは、肩角度がステップ2では約40°、ステップ3では約68°、ステップ4では約72°、ステップ5では約65°、ステップ6では約56°、ステップ7では約47°、ステップ8では約29°となるように変化させ、ドーム形状の肩が形成されるようになっている。
【0086】
図9から判る通り、表3に示す育成プログラムは、0.6≦d/D<1.0を含む拡径の間、L×φがいずれの時点でも55以下の範囲内にある。
【0087】
当該育成プログラム終了後、実施例1と同様にして単結晶を原料溶融液から切り離した後、該単結晶を室温まで冷却した。その結果、鉛直方向にc軸を有する、直径160mm、直胴部の長さが150mmのサファイア単結晶体を得た。この単結晶の肩部及び/又は直胴上部には泡群が見られなかった。
【0088】
比較例1
表4に示す育成プログラムを用いた以外は、実施例1と同様にして結晶育成を行った。
【0089】
【表4】

【0090】
表4に示す育成プログラム(比較例1)を実行した際に拡径部結晶直径dが直胴部直径Dに到達するまで(ステップ2〜8の間)の、結晶引き上げ速度L及びφの連続的な変化を図10に、L×φの連続的な変化を図11に示す。なお、当該育成プログラムでは、肩角度がステップ2では約40°、ステップ3では約68°、ステップ4では約72°、ステップ5では約65°、ステップ6では約56°、ステップ7では約47°、ステップ8では約23°となるように変化させ、ドーム形状の肩が形成されるようになっている。
【0091】
図11から判る通り、表3に示す育成プログラムは、0.95≦d/D<1.0の間、L×φが55を超えている。
【0092】
当該育成プログラム終了後、実施例1と同様にして単結晶を原料溶融液から切り離した後、該単結晶を室温まで冷却した。その結果、鉛直方向にc軸を有する、直径160mm、直胴部の長さが150mmのサファイア単結晶体を得た。この単結晶の肩部には泡群が見られないものの、直胴上部の結晶中心部に連続した泡群が見られた。
【0093】
図12に得られた単結晶の形状と該単結晶中に見られる泡群の分布を示す。
【0094】
ところで、該単結晶の育成では、直胴部の育成終了後に目標直径を100mmとしたテール処理を実施しているが、実際に得られた単結晶のテール処理完了部と思われる位置(直胴下端部より約6mm下部)の結晶直径は140mm程度であった。このように、テール処理が育成プログラム通りに遂行されなかったのは、直胴終了時点で形成されていたテールが大きく、該テールを直径100mmまで縮径させるには、縮径速度が速すぎたためと言える。
【0095】
また、該テール処理においては、前記の通り縮径速度が速すぎたため、直胴終了時点で形成されていたテールは殆ど再溶融しなかったと考えられ、従って、冷却して得られた単結晶のテール形状は、直胴終了時点で形成されていたテール形状とほぼ同一であると判定した。
【0096】
さらに、テール(下凸状の結晶界面)の大きさは、上述の通り結晶直径の大きさに比例して大きくなるため、得られた単結晶のテール形状(大きさ)は、直胴部に到達した時点におけるテール形状とほぼ同一であると推察した。また、例えば肩育成時の拡径部結晶直径dが0.6D(即ち、直胴部結晶直径Dの0.6倍)の時点におけるテール形状(大きさ)は、得られた単結晶のテール形状を60%に縮小した形状とほぼ同一であると推察した。
【0097】
上記のような推察に従って、比較例1の育成時の拡径部結晶直径dが0.95D(=152mm)の時点及び直胴部直径D(=160mm)到達時点における結晶界面の予測位置を、図12に点線で示している。該点線と点線の間は、L×φが55を超えて結晶成長した部分と考えられ、得られた単結晶中に見られる泡群の位置とほぼ一致している。
【0098】
比較例2
最初の引き上げ軸上昇速度を3mm/hとして、表5に示す育成プログラムを用いた以外は、実施例1と同様にして結晶育成を行った。
【0099】
【表5】

【0100】
表5に示す育成プログラム(比較例2)を実行した際に拡径部結晶直径dが直胴部直径Dに到達するまで(ステップ2〜8の間)の、結晶引き上げ速度L及びφの連続的な変化を図13に、L×φの連続的な変化を図14に示す。なお、当該育成プログラムでは、肩角度がステップ2では約40°、ステップ3では約68°、ステップ4では約73°、ステップ5では約65°、ステップ6では約55°、ステップ7では約45°、ステップ8では約29°となるように変化させ、ドーム形状の肩が形成されるようになっている。
【0101】
図14から判る通り、表3に示す育成プログラムは、0.06≦d/D≦0.84の間、L×φが55を超えている。
【0102】
当該育成プログラム終了後、実施例1と同様にして単結晶を原料溶融液から切り離した後、該単結晶を室温まで冷却した。その結果、鉛直方向にc軸を有する、直径160mm、直胴部の長さが150mmのサファイア単結晶体を得た。この単結晶の肩上部から直胴上部にかけて結晶中心部に連続した泡群が見られた。
【0103】
図15に得られた単結晶の形状と該単結晶中に見られる泡群の分布を示す。また、比較例1の場合と同様に、本育成により得られた単結晶のテール形状は、直胴部に到達した時点におけるテール形状とほぼ同一であると推察し、育成時の拡径部結晶直径dが0.84D(=134.4mm)の時点及び直胴部直径D(=160mm)到達時点における結晶界面の予測位置を、図15に点線で示している。本育成においてL×φが55を超えていたのは肩部の拡径開始直後から0.84Dまでの間であるため、当該区間と得られた単結晶中に見られる泡群の位置はほぼ一致している。
【0104】
比較例3
表6に示す育成プログラムを用いた以外は、実施例1と同様にして結晶育成を行った。
【0105】
【表6】

【0106】
表6に示す育成プログラム(比較例3)を実行した際に拡径部結晶直径dが直胴部直径Dに到達するまで(ステップ2〜9の間)の、結晶引き上げ速度L及びφの連続的な変化を図16に、L×φの連続的な変化を図17に示す。なお、当該育成プログラムでは、肩角度がステップ2では約43°、ステップ3〜8では約70°、ステップ9では約56°となるように変化させており、肩部の大半が肩角度70°となる円錐形状の肩が形成されるようになっている。
【0107】
図17から判る通り、表3に示す育成プログラムは、0.93≦d/D<1.0の間、L×φが55を超えている。
【0108】
当該育成プログラム終了後、実施例1と同様にして単結晶を原料溶融液から切り離した後、該単結晶を室温まで冷却した。その結果、鉛直方向にc軸を有する、直径160mm、直胴部の長さが150mmのサファイア単結晶体を得た。この単結晶の肩部には泡群が見られないものの、直胴上部の結晶中心部に連続した泡群が見られた。
【0109】
図18に得られた単結晶の形状と該単結晶中に見られる泡群の分布を示す。また、比較例1の場合と同様に、本育成により得られた単結晶のテール形状は、直胴部に到達した時点におけるテール形状とほぼ同一であると推察し、育成時の拡径部結晶直径dが0.93D(=148.8mm)の時点及び直胴部直径D(=160mm)到達時点における結晶界面の予測位置を、図18に点線で示している。本育成においてL×φが55を超えていたのは0.93Dから直胴到達までの間であるため、当該区間と得られた単結晶中に見られる泡群の位置はほぼ一致している。
【符号の説明】
【0110】
1:チャンバー
2:単結晶引上げ棒
3:種結晶体保持具
4:種結晶体
5:坩堝
6:ロードセル
7a,7b:断熱壁
8:天井板
9:高周波コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料溶融液に対してc軸方位のサファイア種結晶を接触させた後に引き上げ、該種結晶下に拡径部及び直径D[mm]の直胴部を有する単結晶体を成長させるチョクラルスキー法によるc軸サファイア単結晶の製造方法において、
前記拡径部の形成時における拡径部結晶直径をd[mm]、結晶引き上げ速度をL[mm/h]、拡径部半径増加速度をφ[mm/h]としたとき、
0.6≦d/D<1.0にある間は、φ<7.0mm/h、かつL×φが55以下の範囲を維持するよう、結晶引き上げ速度及び拡径部半径増加速度を調整することを特徴とするサファイア単結晶体の製造方法。
【請求項2】
D≧150mmである請求項1記載のサファイア単結晶体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法によりサファイア単結晶体を得た後、該単結晶体から平行な二つのc軸平面を有する基板を切り出し、GaN、InGaN又はAlNのエピタキシャル成長用の基板とする、サファイア単結晶基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−49607(P2013−49607A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189455(P2011−189455)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(502209796)株式会社福田結晶技術研究所 (17)
【Fターム(参考)】