説明

サンゴ造礁用構造物の電流計測方法及びサンゴ造礁用構造物の電流計測装置

【課題】サンゴ養殖用構造物が備えるサンゴ活着部の周りの電流を計測すること。
【解決手段】照合電極21aは、他のエンドキャップとは異なる色として、他の照合電極と識別できるようにしてある。海中において、サンゴ造礁用構造物1の陰極である第1骨格部材6の周辺の電流を計測する際には、特定の照合電極を第1骨格部材6と対向するように電流計測装置20を配置する。そして、作業者は、照合電極21a、21b、21c、21dの順に、第1骨格部材6の径方向外側に並ぶように電流計測装置20を保持して第1骨格部材6の周りの電位を計測して、第1骨格部材6の周りの電流を計測する。これによって、第1骨格部材6の周りの電流は、計測位置A〜Dの順に計測される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンゴの人工増殖に関し、さらに詳しくは、サンゴが活着するサンゴ活着部を陰極にするとともに、サンゴ活着部に対応する陽極からサンゴ活着部へ電流を流すことによってサンゴを増殖させる手法に関する。
【0002】
近年、埋め立てや地球の温暖化に起因する海水温度の上昇等によって、サンゴ群集の白化やサンゴの死滅といったサンゴ礁の衰退が問題となっている。このため、近年においては、サンゴを人工的に養殖して、サンゴ礁を回復させる試みが提案されている。特許文献1には、海中の任意の深さに位置できる複数の浮体間に、サンゴの付着するサンゴ養生棚を備えるサンゴ養殖装置が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−32620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年においては、例えば、外部電源を用いて電流を流すことにより、サンゴの活着を促進する手法が提案されている。このような手法を用いる場合、陰極周辺に必要な電流が流れているかどうかを確認するために、海中において陰極周辺の電流を計測する要求があるが、適切な電流計測手法は提案されていない。
【0005】
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、サンゴが活着するサンゴ活着部を陰極にするとともに、前記陰極に対応する陽極から前記陰極へ電流を流すことによってサンゴを増殖させる手法において、前記陰極の周辺における電流を海中で計測することのできるサンゴ造礁用構造物の電流計測方法及びサンゴ造礁用構造物の電流計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るサンゴ造礁用構造物の電流計測方法は、サンゴが活着するサンゴ活着部を陰極にするとともに、前記陰極に対応する陽極から前記陰極へ電流を流す造礁用構造物の前記サンゴ活着部の周囲における電流を計測するにあたり、複数の照合電極を用いるとともに、前記複数の照合電極の配列方向における電流を、前記サンゴ活着部の周囲における複数の位置で計測することを特徴とする。
【0007】
サンゴが活着するサンゴ活着部を陰極にする手法において、海中において陰極の周りの電流を計測する際には、極めて小さい電位を検出する必要があるが、本発明によれば、複数の照合電極を用いるので、電位の検出精度を向上させることができる。これによって、海中において、陰極周辺における電流を計測できる。
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るサンゴ造礁用構造物の電流計測装置は、サンゴが活着するサンゴ活着部を陰極にするとともに、前記陰極に対応する陽極から前記陰極へ電流を流す造礁用構造物の前記サンゴ活着部の周囲における電流を計測する際に用いる電流計測装置であり、複数の照合電極と、前記複数の照合電極を所定の間隔で配列して支持する照合電極支持手段と、を含むことを特徴とする。
【0009】
サンゴが活着するサンゴ活着部を陰極にする手法において、海中において陰極の周りの電流を計測する際には、極めて小さい電位を検出する必要があるが、本発明によれば、複数の照合電極を用いるので、電位の検出精度を向上させることができる。これによって、海中において、陰極周辺における電流を計測できる。
【0010】
本発明の望ましい態様としては、前記サンゴ造礁用構造物の電流計測装置において、さらに、前記照合電極支持手段に取り付けられる把持部を備えることが好ましい。これによって、サンゴ造礁用構造物の電流計測装置の取り扱いが容易になるので、海中における電流計測の作業性が向上する。
【0011】
本発明の望ましい態様としては、前記サンゴ造礁用構造物の電流計測装置において、前記複数の照合電極のうち、計測対象に対向させる前記照合電極には、他の前記照合電極と識別する照合電極識別手段が設けられることが好ましい。これによって、計測対象に対向させる特定の照合電極を容易に判別できるので、海中における電流計測の作業性が向上する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るサンゴ造礁用構造物の電流計測方法及びサンゴ造礁用構造物の電流計測装置は、前記陰極に対応する陽極から前記陰極へ電流を流すことによってサンゴを増殖させる手法において、前記陰極の周辺における電流を海中で計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲に属するものが含まれる。以下においては、いわゆる流電陽極法を用いてサンゴの活着を促進する手法において、流電陽極法の陰極、すなわちサンゴが活着するサンゴ活着部の周りの電流を計測する手法を説明するが、本発明の適用対象は流電陽極法を用いた手法に限定されるものではない。例えば、サンゴが活着するサンゴ活着部を陰極とするとともに、外部電源を用いて海中に配置した陽極から陰極へ電流を流して、サンゴの活着を促進する手法に対しても本発明は適用できる。
【0014】
本実施形態は、サンゴが活着するサンゴ活着部を陰極にするとともに、前記陰極に対応する陽極から前記陰極へ電流を流す造礁用構造物の前記サンゴ活着部の周囲における電流を計測する場合に、複数の照合電極を用いて、前記複数の照合電極の配列方向における電流を、前記サンゴ活着部の周囲における複数の位置で計測する点に特徴がある。
【0015】
図1は、本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物で採用する流電陽極法を説明するための概念図である。この実施形態に係るサンゴ造礁用構造物1では、いわゆる流電陽極法を利用した電着により、サンゴを活着させるサンゴ活着部、すなわちサンゴ活着床を陰極として、サンゴ活着床11に電着鉱物を析出させて、サンゴ活着床11に着底したサンゴSの活着及び成長を促進する。次の説明においては、陰極をサンゴ活着床11とするため、サンゴ活着床11と陰極とは同義である。
【0016】
図1に示すように、サンゴSを着底させるサンゴ活着床11を陰極とするとともに、陰極(サンゴ活着床11)よりも自然電位が卑な金属を陽極(流電陽極)10として配置する。そして、陽極10と陰極(サンゴ活着床11)とを導体Lで接続し、陽極10、陰極(サンゴ活着床11)、及び陽極10と陰極(サンゴ活着床11)との間に介在する電解質(海水)の電池作用を利用して、陽極10−陰極(サンゴ活着床11)間に電流を流す。これによって、陰極(サンゴ活着床11)にはCaCO、Mg(OH)、MgCO等の石灰質(電着鉱物)を析出させるとともに、陰極(サンゴ活着床11)の周辺環境のアルカリ化を促進する。
【0017】
陰極(サンゴ活着床11)に析出した石灰質は、サンゴSが活着する基盤となる。また、陰極(サンゴ活着床11)の周辺環境のアルカリ化が促進される(すなわち陰極の周辺における海水のpHが上昇する)と、サンゴSの石灰化に必要なエネルギーが小さくなるため、サンゴSの成長速度及び耐性を向上させる。これらの作用によって、この実施形態に係るサンゴ養殖装置では、サンゴSの成長を促進させるとともに、サンゴ活着床11への活着をより確実なものとすることができる。
【0018】
流電陽極法を用いる場合において、陰極(サンゴ活着床11)への石灰質の析出及び陰極(サンゴ活着床11)周辺における環境のアルカリ化を促進させるためには、陽極(流電陽極)10の種類が重要になる。陰極電位が約−1000mV(飽和かんこう電極基準、以下省略)より貴側(電位が高い)であれば、陰極(サンゴ活着床11)における反応は、おおむね式(1)で表される酸素還元反応で、電流密度の大きさは100mA/m程度である。この反応に対応する陽極10は、アルミニウム系の材料で構成するが、上記電流値では石灰質の析出は遅くなる。一方、陽極10の消耗は比較的小さいため、陽極10の寿命は長くなる。
+HO+4e→4OH・・・(1)
【0019】
一方、陰極電位が−1100mVより卑側(電位が低い)であれば、陰極(サンゴ活着床11)における反応は、おおむね式(2)で表される水素発生反応で、電流密度の大きさは1000mA/m以上も可能となる。この反応に対応する陽極10は、マグネシウム系の材料で構成する。上記電流値では、石灰質の析出は早くなるが、流電陽極の消耗が大きく、陽極10の寿命は短くなる。
2HO+2e→H+2OH・・・(2)
この実施形態においては、石灰質の析出や陽極10の消耗、あるいは藻や貝類等の付着抑制等を考慮して、陽極10の材料を選択したり、陽極10の形状や配置等を変更したりする。例えば、初期においては陽極から陰極へ流れる電流を大きくして藻類や貝類の付着を抑制し、ある程度の期間が経過したら、前記電流を小さくして、サンゴの成長を促進する。
【0020】
サンゴSの成長を促進させるためには、少なくとも通常の電気防食における電流密度(100mA/m程度)よりも大きいことが好ましいが、2000mA/mを超えるとサンゴの成長速度よりも石灰質等の電着速度の方が速くなり、サンゴの成長を阻害するおそれがある。このため、サンゴが活着した後は、電流密度を2000mA/m以下にすることが好ましい。また、石灰藻がサンゴの活着を促進する可能性がある。このため、サンゴ造礁用構造物1を海中に設置してからサンゴが活着するまでの間は、サンゴが活着した後よりも大きい電流密度(例えば3000mA/m程度)として石灰質のような電着鉱物をサンゴ活着床11へ積極的に析出させる。これによって、石灰質へ石灰藻を定着させて、サンゴ活着床11への石灰藻の付着を促進する。その後、電流密度をサンゴの成長に適した値(例えば2000mA/m以下)として、サンゴの活着及び成長を促進する。上述した電流密度を実現するためには、陰極電位を−1100mV程度よりも低くすればよい。そして、サンゴSの成長を促進させるにあたっては、前記電流密度を実現できるような陽極10の材料や配置等を選択する。
【0021】
また、サンゴSの成長を促進させるにあたっては、サンゴSを育成する海域の流速に応じて、前記電流密度を変更することが好ましい。より具体的には、サンゴSを生育する海域の流速が大きくなるにしたがって前記電流を大きくする。これによって、より確実に陰極(サンゴ活着床11)への石灰質の析出及び陰極(サンゴ活着床11)周辺における環境のアルカリ化を促進させることができる。
【0022】
ここで、陰極(サンゴ活着床11)の材料は、自然電位が陽極10よりも貴側(電位が高い)の金属であればよいが、海水中で用いることを考慮して、ステンレス鋼、あるいはチタン(Ti)やチタン化合物等の耐食性が高い金属を用いることが好ましい。また、陽極10は、上述したように、陰極(サンゴ活着床11)よりも卑側(電位が低い)の金属を用いる。このような金属の中から、陽極10を構成する材料としては、適用される電流の大きさや寿命を考慮して、例えば、亜鉛、亜鉛合金(亜鉛系)、アルミニウム、アルミニウム合金(アルミニウム系)、マグネシウム、マグネシウム合金(マグネシウム系)の中から少なくとも一つを用いる。
【0023】
大きな電流を流すためには陽極10にマグネシウム系を用い、これよりも電流が小さくてよい場合には陽極10に亜鉛系又はアルミニウム系を適用する。ただし、電流の大きいマグネシウム系では寿命が短く、また、電流の小さな亜鉛系及びアルミニウム系では長寿命となるので、適宜使い分ける。初期に大電流、後半の中電流を維持する目的で、マグネシウム系と亜鉛系との組み合わせ、あるいはマグネシウム系とアルミニウム系の組み合わせとしてもよい。
【0024】
この実施形態に係るサンゴ造礁用構造物1では、陰極とサンゴ活着床11とを同一としているが、陰極とサンゴ活着床11とを別個に用意してもよい。例えば、鋼やステンレス鋼の陰極と陽極10とを用意するとともに、例えば、金属線や繊維等をセラミック粉で被覆したシートを、サンゴ活着床11として陰極の近傍に配置する。この場合、陽極10と陰極との間にサンゴ活着床11を配置すれば、より効率よく電着鉱物をサンゴ活着床11に堆積させることができるので、サンゴSの成長をより促進させることができ、好ましい。
【0025】
図2は、本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物の他の構成例を示す概念図である。図2に示すサンゴ造礁用構造物1aのように、陰極であるサンゴ活着床11と陽極10との間に、陽極10とサンゴ活着床11との間を流れる電流の大きさを制御可能な電流制御手段(例えばダイオードや抵抗)20を設けてもよい。例えば、陽極10とサンゴ活着床11とに対して直列にダイオードを挿入する。これによって、ポリプを養殖する海域の流速や塩分濃度等といった海象状況に応じて陽極10とサンゴ活着床11との間を流れる電流を調整できるので、海象状況に応じて陰極の周辺をポリプの育成に最適な環境とすることができる。また、電流制御手段2を用いれば、例えば、石灰藻をサンゴ活着床11へ定着させるために石灰質をサンゴ活着床11へ析出させる段階、サンゴがサンゴ活着床11へ定着して成長する段階等、サンゴの定着や成長段階に応じて、陽極10とサンゴ活着床11との間を流れる電流を容易に調整できる。
【0026】
この実施形態では、サンゴ活着床11に直接サンゴSを活着させるが、例えば、セラミックシート等にサンゴのプラヌラ幼生を捕獲し、着底させたものを、サンゴ活着床11上に配置して、プラヌラ幼生から変態したポリプの活着、成長を促進してもよい。このようにしても、電着による電着鉱物の析出、サンゴ活着床11の周辺環境のアルカリ化が促進されるので、サンゴSの成長が促進される。
【0027】
図3は、本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物の構成例を示す正面図である。図4は、本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物の構成例を示す平面図である。図5は、本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物の構成例を示す側部図である。本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物1は、網状のサンゴ活着床11を備えている。そして、サンゴ造礁用構造物1を海底Uに設置して、サンゴ活着床11やサンゴ造礁用構造物1の骨格に活着させた、あるいは自然に活着したサンゴSを育成する。このサンゴ造礁用構造物1では、上述したように流電陽極法を用いてサンゴの活着及び成長を促進させるものであり、サンゴ活着床11が流電陽極(以下陽極という)10に対する陰極となる。
【0028】
このサンゴ造礁用構造物1の骨格は、棒状の第1骨格部材6と、円弧状の第2骨格部材7とを組み合わせて構成される。この骨格に、サンゴ活着床11及び陽極10を取り付けてサンゴ造礁用構造物1が構成される。ここで、本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物1は、サンゴ活着床11を陽極10に対する陰極とするとともに、第1骨格部材6及び第2骨格部材7で構成される骨格も陽極10に対する陰極とする。すなわち、前記骨格も、サンゴが活着するサンゴ活着部となる。このため、第1骨格部材6及び第2骨格部材7は、サンゴ活着床11と同じ材料で製造される。これらは、例えばステンレス鋼や鋼で構成される。
【0029】
円弧状の第2骨格部材7の両端部には、それぞれ底板9が取り付けられている。第2骨格部材7と底板9とは、補強部材である連結板8によって連結されており、第2骨格部材7の取付部における強度を向上させている。網状のサンゴ活着床11は、隣接する第2骨格部材7の間に配置され、第1骨格部材6及び第2骨格部材7に固定される。また、陽極10は、陽極支持部材12を介して第2骨格部材7に固定される。第1骨格部材6及び第2骨格部材7及びサンゴ活着床11は流電陽極法における陰極となり、陽極10と電気的に接続される。
【0030】
このサンゴ造礁用構造物1を海底Uに設置する際には、例えば人工のライブロック4を底板9の上に載置して、サンゴ造礁用構造物1の錘とする。このサンゴ造礁用構造物1は、コンクリートの構造物を含まないため質量が小さいので、ライブロック4を用いてサンゴ造礁用構造物1を安定させることが好ましい。また、ライブロック4にもサンゴを活着させることができる。
【0031】
図6は、本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物の電流を計測する電流計測装置を示す説明図である。図7は、図6に示す電流計測装置のA−A矢視図である。本実施形態に係る電流計測装置20は、図3〜図5に示すサンゴ造礁用構造物1を海中に設置した後、流電陽極法における陽極に対する陰極である第1骨格部材6や第2骨格部材7、あるいはサンゴ活着床11に必要な電流が確保されているかどうかを確認するための計測に用いられる。電流計測装置20は、複数(本実施形態では4個)の照合電極21a、21b、21c、21dと、それぞれの照合電極21a、21b、21c、21dに取り付けられるエンドキャップ22a、22b、22c、22dと、複数の照合電極21a、21b、21c、21dを支持する照合電極支持手段であるブラケット23と、を備えて構成される。なお、照合電極の個数は4個に限定されるものではないが、特性の揃った照合電極を複数用意することを考慮すると、照合電極の個数は3個以上5個以下とすることが好ましい。
【0032】
照合電極21a、21b、21c、21dは円柱状の電極であり、4個の照合電極21a、21b、21c、21dが平行に配置される(図6、図7の矢印X方向)。本実施形態に係る電流計測装置20は、複数の照合電極21a、21b、21c、21dを用いるので、電流計測の精度を向上させることができる。なお、計測時において、エンドキャップ22a、22b、22c、22dは照合電極21a、21b、21c、21dから取り外され、保管あるいは移動時にエンドキャップ22a、22b、22c、22dが照合電極21a、21b、21c、21dへ取り付けられる。ブラケット23は、4本の照合電極21a、21b、21c、21dを取り付けて、それぞれの照合電極の間隔を所定の大きさに維持する。これによって、複数の照合電極21a、21b、21c、21dを用いてサンゴ造礁用構造物1を構成する第1骨格部材6や第2骨格部材7等の周囲における電流を計測する場合の精度を確保できる。
【0033】
ブラケット23には、作業者が電流計測装置20を把持する把持手段として、取っ手24が設けられている。ブラケット23及び取っ手24により、4個の照合電極21a、21b、21c、21dを同時に扱えるので、海中での作業性が向上する。4個の照合電極21a、21b、21c、21dは、配線26で電位差計25に接続されており、電流計測対象である第1骨格部材6や第2骨格部材7等の周囲の電位を計測して、電流に換算する。
【0034】
電流計測装置20が備える複数の照合電極21a、21b、21c、21dは、特性のばらつきを極めて小さくしてあるが、特性のわずかなばらつきは存在する。本実施形態に係る電流計測装置20は、電流計測時において、複数の照合電極21a、21b、21c、21dのうち特定の照合電極(本実施形態では照合電極21a)を電流計測対象である第1骨格部材6や第2骨格部材7等側に配置する。これによって、照合電極21a、21b、21c、21d間における特性のばらつきの影響は常に同様になるので、照合電極21a、21b、21c、21d間における特性のばらつきの影響を抑制することができる。
【0035】
本実施形態において、電流計測時に電流計測対象側へ配置する照合電極は、他の照合電極と識別できるようにしてある。本実施形態では、電流計測時に電流計測対象側へ配置する照合電極21aの端部21taを、他の照合電極21aの端部21tb、21tc、21tdとは異なる色とすることにより、照合電極識別手段として用いる。これによって、海中の作業時においても、電流計測時に電流計測対象側へ配置する照合電極21aを簡単に識別することができる。なお、電流計測時に電流計測対象側へ配置する照合電極21aを他の照合電極21b、21c、21dと識別できる手段であれば、照合電極21aの端部21taの色を変更すること以外にも、ブラケット23の電流計測対象側を他の部分とは異なる色にする構成としてもよい。次に、本実施形態に係る電流計測装置20を用いて図3〜図5に示すサンゴ造礁用構造物1の陰極の周囲における電流を計測する方法を説明する。
【0036】
図8、図9は、本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物の骨格を示す説明図である。図10は、本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物の電流を計測する位置を示す模式図である。図11は、図10のX−X矢視図である。図12、図13は、サンゴ造礁用構造物の電流を計測する際における電流計測装置の姿勢を示す説明図である。図8、図9に示すように、第1骨格部材6及び第2骨格部材7で構成されるサンゴ造礁用構造物1の骨格は、流電陽極法の陰極であるので、サンゴ造礁用構造物1の骨格の周囲における電流を計測する。
【0037】
第1骨格部材6の周りの電流を計測する場合、図10に示すように、第1骨格部材6の周方向に向かって複数の位置(本実施形態では4箇所)で電流を計測する。本実施形態では、第1骨格部材6の周方向に向かって90度毎に4箇所で電流を計測する。なお、電流を計測する位置は4箇所に限定されるものではない。第1骨格部材6の電流を計測する位置は、サンゴ造礁用構造物1が設置される海底Uに対向する位置を0度(計測位置A)とし、第1骨格部材6の一端部を正面に見て反時計回りに90度の位置を計測位置B、計測位置Bから反時計回りに90度の位置を計測位置C、計測位置Cから反時計回りに90度の位置を計測位置Dとする。すなわち、計測位置Bは、計測位置A(0度)を基準として反時計回りに90度の位置であり、計測位置Cは、計測位置A(0度)を基準として反時計回りに180度の位置であり、計測位置Dは、計測位置A(0度)を基準として反時計回りに270度の位置である。
【0038】
第2骨格部材7の周りの電流を計測する場合、図11に示すように、第2骨格部材7の周方向に向かって複数の位置(本実施形態では4箇所)で電流を計測する。本実施形態では、第2骨格部材7の周方向に向かって90度毎に4箇所で電流を計測する。なお、電流を計測する位置は4箇所に限定されるものではない。第2骨格部材7の電流を計測する位置は、円弧状に形成される第2骨格部材7の円弧の内側における位置を0度(計測位置a)とし、反時計回りに90度の位置を計測位置b、計測位置bから反時計回りに90度の位置を計測位置c、計測位置cから反時計回りに90度の位置を計測位置dとする。すなわち、計測位置bは、計測位置a(0度)を基準として反時計回りに90度の位置であり、計測位置cは、計測位置a(0度)を基準として反時計回りに180度の位置であり、計測位置dは、計測位置a(0度)を基準として反時計回りに270度の位置である。
【0039】
第1骨格部材6の周りの電流を計測する場合、図12に示すように、照合電極21aを第1骨格部材6と対向するように電流計測装置20を配置する。そして、作業者は、照合電極21a、21b、21c、21dの順に、第1骨格部材6の径方向外側に並ぶように電流計測装置20を保持して第1骨格部材6の周りの電流(本実施形態では電位)を計測する。上述したように、照合電極21aの端部21taは、他の照合電極の端部とは異なる色として、他のエンドキャップと識別できるようにしてあるので、海中における作業でも容易に照合電極21aを第1骨格部材6に対向させることができる。第1骨格部材6の周りの電流は、計測位置A〜Dの順に計測される。
【0040】
第2骨格部材7の周りの電流を計測する場合、図13に示すように、照合電極21aを第2骨格部材7と対向するように電流計測装置20を配置する。そして、作業者は、照合電極21a、21b、21c、21dの順に、第2骨格部材7の径方向外側に並ぶように電流計測装置20を保持して第2骨格部材7の周りの電流(本実施形態では電位)を計測する。上述したように、照合電極21aの端部21taは、他の照合電極の端部とは異なる色として、他の照合電極と識別できるようにしてあるので、海中における作業でも容易に照合電極21aを第2骨格部材7に対向させることができる。第2骨格部材7の周りの電流は、計測位置a〜dの順に計測される(図13の矢印R方向)。なお、電流計測装置20を第2骨格部材7の近傍に配置する場合、図13に示すような、直角を有する治具(例えば直角三角定規)27を用いて電流計測装置20と第2骨格部材7との位置関係を規定することが好ましい。これにより、電流計測装置20と第2骨格部材7との位置関係との再現性が高くなるので、電流の計測精度が向上する。
【0041】
次に、電流の計測結果の一例を説明する。図12に示す第1骨格部材6Cの周囲における電流の計測結果を表1に、図13に示す第2骨格部材7Dの周囲における電流の計測結果を表2に示す。計測は、電流密度を異ならせて行った。計測結果は、図12に示す第1骨格部材6Cの陽極10と対向する部分における電流の大きさを基準とし、基準の電流の値(基準電流値)に対する比で表してある。なお、基準電流値は、それぞれの電流密度に対する値を用いる。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

表1に示すように、サンゴ造礁用構造物1の第1骨格部材6Cの外側における電流は、基準電流値に対して0〜0.2であり、電流密度が小さいほど電流は弱くなる。第1骨格部材6Cの内側の電流は、基準電流値に対して0.3〜1.0であり、電流密度が大きくなるほど電流のばらつきが大きくなる。また、表1には明示していないが、陽極との距離が大きいほど電流は小さくなり、第1骨格部材6Cの内側では、陽極10との距離が小さいほど電流は大きくなるという結果が得られた。
【0044】
表2に示すように、サンゴ造礁用構造物1の第2骨格部材7Dの外側における電流は、基準電流値に対して0〜0.3であり、電流密度が小さいほど電流は弱くなる。また、第2骨格部材7Dの内側の電流は、基準電流値に対して0.5〜1.2である。また、第2骨格部材7Dの長手方向(円弧が形成される方向)における電流は、第2骨格部材7Dの内部における電流のおよそ半分であることがわかる。上記結果から、サンゴ造礁用構造物1の骨格の外側へは、ほとんど電流は流れないことがわかる。
【0045】
以上、本実施形態では、サンゴが活着するサンゴ活着部を陰極にするとともに、前記陰極に対応する陽極から前記陰極へ電流を流すサンゴ造礁用構造物の前記サンゴ活着部の周囲における電流を計測する場合に、複数の照合電極を用いて、前記複数の照合電極の配列方向における電流を、前記サンゴ活着部の周囲における複数の位置で計測する。陽極と陰極との間に電流を流すことによりサンゴを養殖する手法において、海中において陰極の周りの電流を計測する際には、極めて小さい電位を検出する必要があるが、本実施形態では、複数の照合電極を用いることにより、電位の検出精度を向上させることができる。これによって、海中において、陰極周辺における電流を計測できるとともに、計測精度が向上する。また、海中において、陰極周辺における電流を計測できることにより、サンゴ造礁用構造物の電流分布を把握できるので、陽極や陰極を配置する際の設計に有効な情報が得られる。さらに、海中において、陰極周辺における電流を計測できることにより、サンゴの活着や成長等に有効な電流密度を評価することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように、本発明に係るサンゴ造礁用構造物の電流計測方法及びサンゴ造礁用構造物の電流計測装置は、海中において陽極と陰極との間に電流を流し、陰極側でサンゴを人工的に増殖させることに有用であり、特に、海中において陰極周辺の電流を計測することに適している。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物で採用する流電陽極法を説明するための概念図である。
【図2】本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物の他の構成例を示す概念図である。
【図3】本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物の構成例を示す正面図である。
【図4】実施形態1に係るサンゴ造礁用構造物で採用する流電陽極法を説明するための概念図である。
【図5】本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物の構成例を示す側部図である。
【図6】本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物の電流を計測する電流計測装置を示す説明図である。
【図7】図6に示す電流計測装置のA−A矢視図である。
【図8】本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物の骨格を示す説明図である。
【図9】本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物の骨格を示す説明図である。
【図10】本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物の電流を計測する位置を示す模式図である。
【図11】図10のX−X矢視図である。
【図12】サンゴ造礁用構造物の電流を計測する際における電流計測装置の姿勢を示す説明図である。
【図13】サンゴ造礁用構造物の電流を計測する際における電流計測装置の姿勢を示す説明図である。
【符号の説明】
【0048】
1、1a サンゴ造礁用構造物
2 電流制御手段
4 ライブロック
6、6C 第1骨格部材
7、7D 第2骨格部材
8 連結板
9 底板
10 陽極
11 サンゴ活着床
12 陽極支持部材
20 電流計測装置
21a、21b、21c、21d 照合電極
22a、22b エンドキャップ
23 ブラケット
24 取っ手
25 電位差計
26 配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンゴが活着するサンゴ活着部を陰極にするとともに、前記陰極に対応する陽極から前記陰極へ電流を流す造礁用構造物の前記サンゴ活着部の周囲における電流を計測するにあたり、
複数の照合電極を用いるとともに、前記複数の照合電極の配列方向における電流を、前記サンゴ活着部の周囲における複数の位置で計測することを特徴とするサンゴ造礁用構造物の電流計測方法。
【請求項2】
サンゴが活着するサンゴ活着部を陰極にするとともに、前記陰極に対応する陽極から前記陰極へ電流を流す造礁用構造物の前記サンゴ活着部の周囲における電流を計測する際に用いる電流計測装置であり、
複数の照合電極と、
前記複数の照合電極を所定の間隔で配列して支持する照合電極支持手段と、
を含むことを特徴とするサンゴ造礁用構造物の電流計測装置。
【請求項3】
さらに、前記照合電極支持手段に取り付けられる把持部を備えることを特徴とする請求項2に記載のサンゴ造礁用構造物の電流計測装置。
【請求項4】
前記複数の照合電極のうち、計測対象に対向させる前記照合電極には、他の前記照合電極と識別する照合電極識別手段が設けられることを特徴とする請求項2又は3に記載のサンゴ造礁用構造物の電流計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−11169(P2009−11169A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173207(P2007−173207)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(506122246)三菱重工鉄構エンジニアリング株式会社 (111)
【出願人】(000232759)日本防蝕工業株式会社 (21)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(504089758)株式会社シーピーファーム (10)
【Fターム(参考)】