説明

サージアブソーバおよびその製造方法

【課題】 高温多湿の環境下でもAC耐電圧の低下を抑制することができるサージアブソーバおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 互いに間隔を空けて対向配置された一対の主放電電極部材5と、一対の主放電電極部材5の少なくとも互いの対向面を内部に放電制御ガスと共に封止するガラス製の絶縁性管7とを備え、絶縁性管7の外表面のうち少なくとも主放電電極部材5の周囲の面に、絶縁性容器のガラス材料よりもアルカリ金属の含有量が少ない又は含有しない金属酸化物膜9が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷等で発生するサージから様々な機器を保護し、事故を未然に防ぐのに使用するサージアブソーバおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電話機、ファクシミリ、モデム等の通信機器用の電子機器が通信線との接続する部分、電源線、アンテナ或いはCRT駆動回路等、雷サージや静電気等の異常電圧(サージ電圧)による電撃を受けやすい部分には、異常電圧によって電子機器やこの機器を搭載するプリント基板の熱的損傷又は発火等による破壊を防止するために、サージアブソーバが接続されている。
【0003】
従来、応答性の良好なサージアブソーバとして、例えば特許文献1に示すように、いわゆるマイクロギャップを有するサージ吸収素子を用いたサージアブソーバなどが提案されている。このサージアブソーバは、導電性皮膜で被包した円柱状の絶縁性部材であるセラミックス部材の周面に、マイクロギャップが形成され、セラミックス部材の両端に一対のキャップ電極を有するサージ吸収素子が放電制御ガスと共にガラス管内に収容され、円筒状のガラス管の両端にリード線を有する封止電極が高温加熱で封着された放電型サージアブソーバである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−188754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
電源ラインのライン−グランド(GND)間のサージ対策に使用されるサージアブソーバでは、JIS C 6065或いはIEC−60065により規定されたAC耐電圧に対して絶縁性を保持する必要がある。しかしながら、放電空間の小さい小型サージアブソーバにおいては、通常環境において十分なAC耐電圧を有しているが、放電部分とガラス製の絶縁性容器である支持筐体との距離が大きく取れないため、アルカリ成分の多いガラスが湿気にさらされるとアルカリ成分がガラスの外表面に出て、電界を生じさせ内部の放電電圧を低下させてしまう不都合があった。このため、湿気による絶縁抵抗の劣化に派生してAC耐電圧の低下が生じてしまうことから、AC耐電圧のさらなる向上が望まれている。特に、高温多湿の地理的環境にある地域及び季節の場合には、その影響が顕著に表れることがあり、規定を外れてしまうおそれがあるため、高温多湿環境下でも高いAC耐電圧が要求されている。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、高温多湿の環境下でもAC耐電圧の低下を抑制することができるサージアブソーバおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明のサージアブソーバは、互いに間隔を空けて対向配置された一対の放電電極と、前記一対の放電電極の少なくとも互いの対向面を内部に放電制御ガスと共に封止するガラス製の絶縁性容器とを備え、前記絶縁性容器の外表面のうち少なくとも前記放電電極の周囲の面に、前記絶縁性容器のガラス材料よりもアルカリ金属の含有量が少ない又はアルカリ金属を含有しない金属酸化物膜が形成されていることを特徴とする。
【0008】
このサージアブソーバでは、ガラス製の絶縁性容器の外表面のうち少なくとも放電電極の周囲の面に、絶縁性容器のガラス材料よりもアルカリ金属の含有量が少ない又はアルカリ金属を含有しない金属酸化物膜が形成されているので、耐湿度性を低下させるアルカリ金属の含有量が少ない又はアルカリ金属を含有しない金属酸化物膜が、絶縁性容器の外表面において保護膜として機能し、水分の侵入を防ぐことで、AC耐電圧の低下を抑制することができる。
従来のサージアブソーバにおける耐電圧の低下は、(1)ガラス表面が水と結合しやすく取り込みやすいこと、(2)ガラスに含有されているナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属元素が(1)を起因として増加した表面における水の層で荷電担体となり、(3)それがガラス表面に意図した構造とは異なる第三の電極として表れる、ことからサージアブソーバ内部の電界強度が増加することが生じると考えられる。これに対して本発明のサージアブソーバでは、金属酸化物膜が、アルカリ金属が少ない又は極力含有しない膜であるので、ガラス表面の荷電担体の層を無くす若しくは減少させることで、第三の電極としての役割を無くす若しくは減ずる効果を得ることができる。特に、放電電極の周囲に位置する絶縁性容器の外表面に少なくとも金属酸化物膜が形成されているので、放電電極の近傍で電界が生じ難く、放電電圧の低下を効果的に抑制することができる。
【0009】
第2の発明のサージアブソーバは、第1の発明のサージアブソーバにおいて、前記金属酸化物膜が、シリコン酸化膜であることを特徴とする。
すなわち、このサージアブソーバでは、金属酸化物膜が、シリコン酸化膜であるので、高い絶縁性及び耐湿度性を得ることができる。
【0010】
第3の発明のサージアブソーバは、第1又は第2の発明において、周面に中央の放電ギャップを介して導電性被膜が分割形成された柱状又は筒状の絶縁性部材と、該絶縁性部材の両端に直接又は他の導電部材を介して対向配置され前記導電性被膜に電気的に導通する一対の前記放電電極である主放電電極部材と、前記一対の主放電電極部材を両端に配して前記絶縁性部材を内部に前記放電制御ガスと共に封止する前記絶縁性容器である絶縁性管とを備えていることを特徴とする。
すなわち、このサージアブソーバでは、周面に中央の放電ギャップを介して導電性被膜が分割形成された柱状又は筒状の絶縁性部材を、絶縁性容器である絶縁性管の内部に放電制御ガスと共に封止した、いわゆるマイクロギャップタイプのサージアブソーバであるので、絶縁性管の外表面のうち少なくとも主放電電極部材の周囲の面に形成された金属酸化物膜により主放電電極部材間における放電電圧の低下を抑制することができる。
【0011】
第4の発明のサージアブソーバの製造方法は、第1から第3の発明のいずれかのサージアブソーバを製造する方法であって、前記絶縁性容器の外周面に金属アルコキシド及びその加水分解体を含有した液を塗布して塗布膜を形成する塗布工程と、前記塗布膜を加熱して前記金属酸化物膜を形成する焼成工程とを有していることを特徴とする。
すなわち、このサージアブソーバの製造方法では、絶縁性容器の外周面に金属アルコキシド及びその加水分解体を含有した液を塗布して塗布膜を形成する塗布工程と、塗布膜を加熱して前記金属酸化物膜を形成する焼成工程とを有しているので、塗布した金属アルコキシド及びその加水分解体から金属酸化物膜を容易に得ることができる。
【0012】
第5の発明のサージアブソーバの製造方法は、第4の発明において、前記金属アルコキシドが、シリコンアルコキシドであり、前記焼成工程で、前記塗布膜を加熱して前記シリコン酸化膜を形成することを特徴とする。
すなわち、このサージアブソーバの製造方法では、テトラエトキシシラン,テトラメトキシシラン又はメチルトリメトキシシランなどのシリコンアルコキシドを含有する塗布膜を加熱してシリコン酸化膜を形成するので、容易にシリコン酸化膜を得ることができる。
【0013】
第6の発明のサージアブソーバの製造方法は、第4又は第5の発明において、前記塗布工程が、前記絶縁性容器の外周面に金属アルコキシド及びその加水分解体を含有した液を液滴する工程と、前記液滴された状態の前記絶縁性容器を、中心軸を中心にして回転させ前記金属アルコキシド及びその加水分解体を含有した液を前記絶縁性容器の外周面全体に行き渡らせる工程とを有していることを特徴とする。
すなわち、このサージアブソーバの製造方法では、絶縁性容器の外周面に金属アルコキシド及びその加水分解体を含有した液を液滴し、液滴された状態の絶縁性容器を、中心軸を中心にして回転させ金属アルコキシド及びその加水分解体を含有した液を絶縁性容器の外周面全体に行き渡らせるので、金属アルコキシド及びその加水分解体を含有した液を絶縁性容器の外周面全体に均一に塗布でき、この状態で焼成することで、外表面全体に均一な金属酸化物膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るサージアブソーバによれば、ガラス製の絶縁性容器の外表面のうち少なくとも放電電極の周囲の面に、前記絶縁性容器のガラス材料よりもアルカリ金属の含有量が少ない又はアルカリ金属を含有しない金属酸化物膜が形成されているので、金属酸化物膜が水分の侵入を防ぐことで、AC耐電圧の低下を抑制することができ、特に高温多湿の環境においても安定した絶縁性を有することができる。特に、本発明に係るサージアブソーバの製造方法によれば、絶縁性容器の外周面に金属アルコキシド及びその加水分解体を含有した液を塗布し、この膜を焼成して金属酸化物膜を形成するので、金属アルコキシドを用いたゾルゲル法によって耐湿度性の高い金属酸化物の膜を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るサージアブソーバおよびその製造方法の一実施形態において、サージアブソーバの斜視図である。
【図2】本実施形態において、サージアブソーバの一部を破断して内部を示す正面図である。
【図3】本実施形態のサージアブソーバの製造方法を工程順に示す説明図である。
【図4】本発明に係るサージアブソーバおよびその製造方法の従来例において、低・高湿度環境でのAC耐電圧を測定した結果を示すヒストグラムである。
【図5】本発明に係るサージアブソーバおよびその製造方法の実施例1において、低・高湿度環境でのAC耐電圧を測定した結果を示すヒストグラムである。
【図6】本発明に係るサージアブソーバおよびその製造方法の実施例2において、低・高湿度環境でのAC耐電圧を測定した結果を示すヒストグラムである。
【図7】本発明に係るサージアブソーバおよびその製造方法の実施例3において、低・高湿度環境でのAC耐電圧を測定した結果を示すヒストグラムである。
【図8】本発明に係るサージアブソーバおよびその製造方法の実施例2において、焼成温度を変えた際の低・高湿度環境でのAC耐電圧を測定した結果を示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るサージアブソーバおよびその製造方法の一実施形態を、図1から図3を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0017】
本実施形態のサージアブソーバは、互いに間隔を空けて対向配置された一対の放電電極と、一対の放電電極の少なくとも互いの対向面を内部に放電制御ガスと共に封止するガラス製の絶縁性容器とを備えている。より具体的には、本実施形態のサージアブソーバ1は、図1および図2に示すように、周面に中央の放電ギャップ(マイクロギャップ)2aを介して導電性被膜2が分割形成された柱状又は筒状の絶縁性部材3と、この絶縁性部材3の両端に配置されて導電性被膜2に接触する一対の金属キャップ4と、これら金属キャップ4を介して絶縁性部材3の両端に対向配置され導電性被膜2に電気的に導通する一対の放電電極である主放電電極部材(放電電極)5と、一対の主放電電極部材5を両端に配して絶縁性部材3を内部に放電制御ガス(図示略)と共に封止する絶縁性容器である絶縁性管7とを備えたマイクロギャップタイプのサージアブソーバである。
【0018】
上記絶縁性部材3は、ムライト焼結体などのセラミックス材料からなり、表面に導電性被膜2として物理蒸着(PVD)法や化学蒸着(CVD)法などの薄膜形成技術によるTiN(窒化チタン)等が形成されている。
上記放電ギャップ2aは、導電性被膜2の中央に、絶縁性部材3の周面に沿ってYAGレーザからのレーザ光を照射し、導電性被膜2を分断することによって形成される。
【0019】
一対の金属キャップ4は、絶縁性部材3よりも硬度が低く、塑性変形できる、例えば、ステンレスなどの金属から形成されている。また、一対の金属キャップ4は、絶縁性部材3の両端にそれぞれ係合されており、互いに対向する面が主放電電極部材5の内面と共に主放電面となっている。なお、金属キャップ4を用いずに絶縁性部材3の両端に直接、主放電電極部材5を対向配置しても構わない。
【0020】
上記主放電電極部材5は、Fe(鉄)−Ni(ニッケル)合金の表面を酸化銅で被覆した金属で形成された封止電極であって、円板状となっている。そして、主放電電極部材5の一方の面が金属キャップ4と接触しており、他方の面にリード線8が溶接されている。このリード線8は、銅覆鋼線等で形成されている。
【0021】
上記絶縁性管7は、YAGレーザから出射されたレーザ光を透過する封止用ガラスあるいは鉛ガラスやソーダ石灰ガラスのような軟質ガラスで構成されており、円筒状となっている。また、絶縁性管7の両端近傍において主放電電極部材5の外周面が絶縁性管7の内周面と溶着されている。
【0022】
さらに、図2に示すように、絶縁性管7の外表面のうち少なくとも主放電電極部材5の周囲の面Aには、絶縁性管7のガラス材料よりもアルカリ金属の含有量が少ない又はアルカリ金属を含有しない金属酸化物膜9が形成されている。すなわち、絶縁性管7内の主放電電極部材5の外周面に対向する絶縁性管7の外表面部分である面Aには、少なくとも金属酸化物膜9が形成される。本実施形態では、金属酸化物膜9が絶縁性管7の外周面全体にわたって形成されている。なお、この金属酸化物膜9は、例えばシリコン酸化膜であり、100〜1000nmの膜厚で成膜される。
上記放電制御ガスは、放電開始電圧などの電気特性が所望の値となるように組成などを調整された封止ガスであって、He、Ar、Ne、Xe、SF、CO、C、C、CF、H及びこれらの混合ガス等の不活性ガスである。
【0023】
なお、本実施形態では、絶縁性管7がソーダガラスで形成され、その寸法が、例えば外径:3.5〜4.5mm、内径:2.5〜3.5mm、長さ:9.0〜11.0mmである。絶縁性部材3は、アルミナあるいはムライトで形成され、その寸法は、外径:1.0〜2.0mm、長さ:5.0〜6.0mmである。また、導電性被膜2は、例えばチタン、アルミニウム、錫、バリウム、またはそれらの酸化物、あるいはそれらの化合物で形成されている。さらに、金属キャップ4は、例えば鉄、銅、ニッケル、クロム、またはそれらの酸化物、あるいはステンレスで形成され、主放電電極部材5は、鉄、銅、ニッケル、クロム、またはそれらの酸化物、あるいはステンレスで形成されている。また、金属酸化物膜9は、例えば膜厚:100〜1000nmのシリコン酸化膜で成膜されている。
【0024】
次に、本実施形態のサージアブソーバの製造方法について、図3を参照して説明する。
【0025】
まず、予め放電ギャップ2aを作製しておいた絶縁性部材3の両端に一対の金属キャップ4を係合させ、さらにこの両端を一対の主放電電極部材5で挟んで保持する。次に、放電制御ガスの雰囲気内において、これらをこの状態で絶縁性管7内に投入し、絶縁性管7内の空気を所定の放電制御ガスで置換した後に、放電制御ガスの雰囲気内において、絶縁性管7の両端を加熱して溶かすことで主放電電極部材5と密着させて封止を行う。
【0026】
次に、絶縁性管7の外周面に金属アルコキシド及びその加水分解体を含有した液を塗布して塗布膜を形成する(塗布工程)。さらに、この塗布膜を加熱して金属酸化物膜を形成する(焼成工程)。例えば、絶縁性管7の外周面にテトラエトキシシラン(正珪酸四エチル(TEOS):Si(OC),テトラメトキシシラン((TMOS):Si(OCH)又はメチルトリメトキシシラン(Si(CH)(OCH)などのシリコンアルコキシド及びその加水分解体を含有した液を塗布して塗布膜を形成する(塗布工程)。さらに、この塗布膜を焼成してシリコン酸化膜を形成する(焼成工程)。
【0027】
上記塗布工程は、図3の(a)に示すように、絶縁性管7の外周面に金属アルコキシド及びその加水分解体を含有した液Lを液滴する工程と、図3の(b)に示すように、液滴された状態の絶縁性管7を回転台10に設置し、中心軸を中心にして回転させ上記液Lを絶縁性管7の外周面全体に行き渡らせる工程とを有している。該工程では、均一な膜の生成に余分な液滴も排除される。
【0028】
なお、図3の(a)に示すように、液Lを滴下する方法の他に、液Lをスプレーにより液噴霧する方法やダイコーティングする方法で、液Lを塗布しても構わない。また、図3の(b)に示すように、液Lを絶縁性管7の外周面全体に行き渡らせる方法の他に、両端のリード線8の端部に回転台あるいは回転機構を有した装置系で絶縁性管7を回転させることで、液Lを絶縁性管7の外周面全体に行き渡らせても構わない。
【0029】
上記金属アルコキシド及びその加水分解体を含有した液Lは、金属アルコキシドを原料とし、酸、塩基の少なくともいずれか一つを触媒としたゾルである。この液Lは、金属アルコキシドと水とアルコールと酸とを混合し加温する事前の調製を行って、金属アルコキシド及びその加水分解体(オリゴマー(数分子以上の縮合体))を含有したものである。
例えば、液Lとして、金属アルコキシド成分以外の1〜99重量部を、水;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;トルエン、キシレン、ヘキサンなどの炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;エチレングリコオールなどのグリコール類;エチルセロソルブなどのグリコールエーテル類などを含む。
【0030】
上記金属アルコキシドとしては、シリコンアルコキシドが好ましい。このシリコンアルコキシドとしては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランが挙げられるが、塗布膜形成性の容易さから、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン及びメチルトリメトキシシランが好ましい。
【0031】
上記テトラエトキシシラン及びその加水分解体を含有した液Lは、次のように製造した。すなわち、まず50cmのガラス製の4つ口フラスコを用い、140gのテトラエトキシシラン(Si(OC)(株式会社高純度化学研究所製等)と、140gのエチルアルコールを加え、攪拌しながら、1.7gの60%硝酸を120gのイオン交換水に溶解した溶液を一度に加え、その後50℃で3時間反応させた。さらに、塗布工程に適した粘度とするため、3600gのエチルアルコールを加えて攪拌し、テトラエトキシシラン及びその加水分解体を含有した液Lを得た。
【0032】
また、上記テトラメトキシシラン及びその加水分解体を含有した液Lは、次のように製造した。すなわち、まず50cmのガラス製の4つ口フラスコを用い80gのMシリケート51(Sin−1(OCH)2n+2)(多摩化学工業株式会社製)と、210gのエチルアルコールを加え、攪拌しながら、2.0gの60%硝酸を110gのイオン交換水に溶解した溶液を一度に加え、その後50℃で3時間反応させた。さらに、塗布工程に適した粘度とするため、3600gのエチルアルコールを加えて攪拌し、テトラメトキシシラン及びその加水分解体を含有した液Lを得た。
【0033】
上記回転台10は、例えばスピンコーター等の回転設備のものが使用される。このような回転設備により、例えば10〜2000rpm程度、好ましくは1000〜1500rpmの回転数を加えて、遠心力により不要な液量が除外され、液膜が絶縁性管7の外周面に均一になるように処理を施す。
【0034】
上記焼成工程は、成膜が安定する適度な焼成条件、例えばテトラエトキシシラン及びその加水分解体を含有した液L又はテトラエトキシシラン及びその加水分解体を含有した液Lを塗布した場合、空気中において焼成温度:150℃、焼成時間:1時間未満で行われる。これらの工程により、金属酸化物膜9として膜厚:100〜200nmのシリコン酸化物が絶縁性管7の外周面に形成される。このような金属酸化物膜9は、ソーダガラス等の絶縁性管7のガラス材料よりもナトリウムやカリウム等のアルカリ金属の含有量が少ない又はアルカリ金属を含有しない。
【0035】
このサージアブソーバ1では、過電圧又は過電流が侵入すると、まず放電ギャップ2aでトリガー放電が行われ、さらに放電が進展して金属キャップ4および主放電電極部材5で主放電が行われることでサージが吸収される。
【0036】
このように本実施形態のサージアブソーバ1では、ガラス製の絶縁性管7の外表面のうち少なくとも主放電電極部材5の周囲の面に、絶縁性管7のガラス材料よりもアルカリ金属の含有量が少ない又はアルカリ金属を含有しない金属酸化物膜9が形成されているので、耐湿度性を低下させるアルカリ金属の含有量が少ない又はアルカリ金属を含有しない金属酸化物膜9が、絶縁性管7の外表面において保護膜として機能し、水分の侵入を防ぐことで、AC耐電圧の低下を抑制することができる。特に、主放電電極部材5の周囲に位置する絶縁性管7の外表面に少なくとも金属酸化物膜9が形成されているので、主放電電極部材5の近傍で電界が生じ難く、放電電圧の低下を効果的に抑制することができる。
【0037】
また、このサージアブソーバ1の製造方法では、絶縁性管7の外周面に金属アルコキシド及びその加水分解体を含有とした液Lを塗布して塗布膜を形成する塗布工程と、この塗布膜をを加熱して金属酸化物膜9を形成する焼成工程とを有しているので、塗布した金属アルコキシド及びその加水分解体から金属酸化物膜9を容易に得ることができる。
特に、TEOS,TMOS又はメチルトリメトキシシランなどのシリコンアルコキシド及びその加水分解体を含む塗布膜を加熱してシリコン酸化膜を形成するので、容易に金属酸化物膜9としてシリコン酸化膜を得ることができる。
【0038】
さらに、絶縁性管7の外周面に金属アルコキシド及びその加水分解体を含有した液Lを液滴し、液滴された状態の絶縁性管7を、中心軸を中心にして回転させ金属アルコキシド及びその加水分解体を含有した液Lを絶縁性管7の外周面全体に行き渡らせるので、金属アルコキシド及びその加水分解体を含有した液Lを絶縁性管7の外周面全体に均一に塗布でき、この状態で焼成することで、外表面全体に均一な金属酸化物膜9を形成することができる。
【実施例】
【0039】
次に、本実施形態のサージアブソーバを、上記製造方法により作製した実施例について高湿度環境および低湿度環境を模した周囲環境におけるAC耐電圧評価を行った結果について説明する。
高湿度環境を模した周囲環境は、温度:35℃、湿度85%RHに設定し、低湿度環境を模した周囲環境は、温度:35℃、湿度40%RHに設定した。また、AC耐電圧は、放電しない最大電圧とした。
【0040】
なお、本発明の実施例では、絶縁性管7がソーダガラスで形成され、その寸法が、外径:3.5〜4.5mm、内径:2.5〜3.5mm、長さ:9.0〜11.0mmである。絶縁性部材3は、ムライトで形成され、その寸法は、外径:5〜6mm、長さ:1.0〜2.0mm(平均1.5mm)である。また、導電性被膜2は、錫酸化物で形成されている。さらに、金属キャップ4は、ステンレスで形成され、主放電電極部材5は、外周にCu酸化物を形成したFeとNiとの合金で形成されている。また、金属酸化物膜9は、膜厚:100〜1000nmで成膜されている。
さらに、金属アルコキシド及びその加水分解体を含有とした液として、金属アルコキシドとしてTEOSを使用した実施例を実施例1とし、TMOSを使用した実施例を実施例2とし、さらに、メチルトリメトキシシランを使用した実施例を実施例3とした。
また、比較例として、上記製法による金属酸化物膜9が形成されていない従来例についても同様に作製し、評価した。
【0041】
これら本発明の従来例および実施例1〜3の評価結果をヒストグラムにしたものを、図4から図7に示す。
これらの結果からわかるように、従来例では、低湿度環境下に対して高湿度環境下で大幅にAC耐電圧の分布が低くなっているのに対し、本発明の実施例1〜3では、低湿度環境下と高湿度環境下とでAC耐電圧の分布がほとんど変わらず、AC耐電圧(絶縁性)の劣化が抑制されている。
【0042】
次に、本発明の実施例2において、焼成温度を変えた場合の高湿度環境および低湿度環境を模した周囲環境におけるAC耐電圧評価を行った結果について図8に示す。
図8の(a)は、焼成温度110℃、焼成時間5minとした場合のヒストグラムであり、図8の(b)は、焼成温度130℃、焼成時間5minとした場合のヒストグラムであり、図8の(c)は、焼成温度150℃、焼成時間5minとした場合のヒストグラムである。
【0043】
これらの評価結果からわかるように、焼成温度が高いほど低湿度環境下に対して高湿度環境下でのAC耐電圧の分布が低湿度環境下の分布に近づいて変化量が小さくなっている。そして、焼成温度が150℃の場合は、低湿度環境下と高湿度環境下とでかなり近い分布を示している。すなわち、焼成温度が低いと荷電担体となるアルカリ金属の膜中濃度が、焼成温度が高い場合と比較して相対的に高いと考えられる。
【0044】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0045】
例えば、上記実施形態および実施例では、本発明をマイクロギャップタイプのサージアブソーバに適用したが、他の形態のサージアブソーバに採用しても構わない。例えば、放電制御ガスと、丸棒状の一対の放電電極と、一対の放電電極を支持する絶縁性材料で形成され一対の放電電極の間にトリガー放電用の導電性皮膜が形成されたトリガ放電部材と、これらを封入するガラスより成る気密容器とから構成されるガラス封止型の放電型サージ吸収素子において、気密容器の外周面のうち少なくとも放電電極の周囲の面に、シリコン酸化膜を形成しても構わない。
【0046】
また、上述したように、絶縁性管(絶縁性容器)の外周面にテトラエトキシシラン及びその加水分解体を含有した液を塗布した後、焼成してシリコン酸化膜を形成することが好ましいが、スパッタリングにより絶縁性管(絶縁性容器)の外周面にシリコン酸化膜を成膜しても構わない。
さらに、上記実施形態及び実施例では、金属酸化物膜としてSiの酸化膜を採用しているが、Ti,Al,Zr等の酸化物膜を用いても構わない。
【符号の説明】
【0047】
1…サージアブソーバ、2a…放電ギャップ、2…導電性被膜、3…絶縁性部材、4…金属キャップ、5…主放電電極部材(放電電極)、7…絶縁性管(絶縁性容器)、9…金属酸化物膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに間隔を空けて対向配置された一対の放電電極と、
前記一対の放電電極の少なくとも互いの対向面を内部に放電制御ガスと共に封止するガラス製の絶縁性容器とを備え、
前記絶縁性容器の外表面のうち少なくとも前記放電電極の周囲の面に、前記絶縁性容器のガラス材料よりもアルカリ金属の含有量が少ない又はアルカリ金属を含有しない金属酸化物膜が形成されていることを特徴とするサージアブソーバ。
【請求項2】
請求項1に記載のサージアブソーバにおいて、
前記金属酸化物膜が、シリコン酸化膜であることを特徴とするサージアブソーバ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のサージアブソーバにおいて、
周面に中央の放電ギャップを介して導電性被膜が分割形成された柱状又は筒状の絶縁性部材と、
該絶縁性部材の両端に直接又は他の導電部材を介して対向配置され前記導電性被膜に電気的に導通する一対の前記放電電極である主放電電極部材と、
前記一対の主放電電極部材を両端に配して前記絶縁性部材を内部に前記放電制御ガスと共に封止する前記絶縁性容器である絶縁性管とを備えていることを特徴とするサージアブソーバ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のサージアブソーバを製造する方法であって、
前記絶縁性容器の外周面に金属アルコキシド及びその加水分解体を含有した液を塗布して塗布膜を形成する塗布工程と、
前記塗布膜を加熱して前記金属酸化物膜を形成する焼成工程とを有していることを特徴とするサージアブソーバの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のサージアブソーバの製造方法において、
前記金属アルコキシドが、シリコンアルコキシドであり、
前記焼成工程で、前記塗布膜を加熱して前記シリコン酸化膜を形成することを特徴とするサージアブソーバの製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のサージアブソーバの製造方法において、
前記塗布工程が、前記絶縁性容器の外周面に金属アルコキシド及びその加水分解体を含有した液を液滴する工程と、
前記液滴された状態の前記絶縁性容器を、中心軸を中心にして回転させ前記金属アルコキシド及びその加水分解体を含有した液を前記絶縁性容器の外周面全体に行き渡らせる工程とを有していることを特徴とするサージアブソーバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−101839(P2013−101839A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245089(P2011−245089)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)