説明

シアン含有水の処理方法及び処理装置

【課題】安全性の高い薬剤を用いて、煩雑な薬注管理や高価な設備を必要とすることなく、シアン含有水中の遊離シアンのみならず難分解性のシアノ錯体をも効率的に酸化分解除去する。
【解決手段】シアン含有水に、鉄塩、酸化剤及びアルカリを混合して合成した鉄酸塩を含む混合液と、リン酸成分、更に必要に応じてカルシウム成分を添加する。シアン含有水にリン酸カルシウムの存在下に鉄酸塩を添加することにより、酸化力がより一層高められ、遊離シアンのみならず、鉄酸塩のみでは酸化分解が困難であった難分解性のシアノ錯体をも酸化分解除去できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアン含有水の処理方法及び処理装置に関するものであり、詳しくは、シアン含有水中の遊離シアンのみならず、鉄シアノ錯体等の各種のシアノ錯体をも効率的に酸化分解することができるシアン含有水の処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
銑鉄製造に用いられる高炉から排出されるガス(高炉ガス)は、多量の粉塵と炉内での反応により生じた各種反応ガスを含むことから、湿式集塵器を通して除塵した後、有用なガスをガスホルダーに回収して再利用する方式が一般に採用されている。
【0003】
湿式集塵器で除塵に用いられた水、すなわち高炉集塵水には、鉄鉱石、コークス及び石灰石などの製銑原料に由来する微粉(ダスト)やカルシウム、鉄、亜鉛及びマグネシウムなどの塩類が溶解・懸濁している。
【0004】
高炉集塵水に含まれる溶解・懸濁物のうち、水に溶解しないダストについては、凝集剤添加により凝集処理され、シックナーなどの沈殿槽で沈殿除去されることが多い。また、水に溶解している塩類については、高炉集塵水のpHをアルカリ性に調整して水酸化物として析出させ、ダストと共に凝集沈殿処理されることがある。通常、このような凝集沈殿処理水は、その一部又は全部がガス洗浄水として湿式集塵器に循環されるが、高炉集塵水中には、休風時および炉内温度が大きく変化する際等に、ガス中にシアンが発生してこれが水中に取り込まれ、シアン含有水となる。
【0005】
一方、化学工場、メッキ工場、コークス製造工場、金属表面処理工場等からも、シアンを含有する廃水が排出されるため、これを処理する必要がある。
【0006】
シアン含有廃水の処理方法としては、従来、次のような方法があるが、いずれも以下のような欠点がある(特許文献1)。
【0007】
(1) ホルムアルデヒド法:ホルムアルデヒドと亜硫酸水素ナトリウムを添加してシアンを加水分解する方法。
ホルムアルデヒドは発がん性物質であるため、ホルムアルデヒドを用いる処理は好ましくない。しかも、ホルムアルデヒドを用いた場合、遊離シアン(シアン化物イオン)の加水分解にはある程度の効果がみられるものの、シアノ錯体を加水分解することはできないものと考えられている。更に、JIS K0102に記載されるように、全シアンの分析において、負の誤差を与える場合があり、シアンの分解効果について不明な部分もある。
【0008】
(2) アルカリ塩素法:シアンにアルカリ及び遊離塩素を反応させることにより酸化分解する方法。
この方法は、遊離シアン主体の廃水の処理には有効であるが、鉄シアノ錯体のような難分解性のシアノ錯体については処理することができない。また、2段階に分けてpHと酸化還元電位を設定値に調整する必要があり、水質管理、薬注管理が煩雑である。
(3) 紺青法:Fe、Ni、Co等の安定なシアノ錯体と鉄塩との反応により難溶性の塩を生成させる方法。
この方法は遊離シアンについては処理することができず、また、pH調整が必要で薬注管理が煩雑な上に、シアン含有汚泥が発生するため、沈殿分離のためのスペースと費用を要する。
【0009】
(4) 上記アルカリ塩素法と紺青法との組み合わせ。
殆どのシアン化合物に有効であるが、pH、酸化還元電位の調整など薬注設備費が嵩み、また、水質管理、薬注管理が煩雑である上に、シアン含有汚泥が発生するため、沈殿分離のためのスペースと費用を要する。
【0010】
(5) 全シアン法(還元銅塩法):還元剤の存在下に銅塩を添加して、各種シアン化合物との難溶性塩を析出させて沈殿分離する方法(例えば特許文献2)。
この方法は、全てのシアン化合物の処理に有効であるが、薬注管理に手間を要し、薬注設備費が嵩み、また、シアン含有汚泥が発生するため、沈殿分離のためのスペースと費用を要する。
【0011】
(6) アルカリ紺青法:2価銅イオンとフェロシアンとの反応により難溶性塩を生成させる方法。この際に、第一鉄塩で溶存酸素を分解してフェリシアンへの酸化を防止する。
この方法は、殆どのシアン化合物に有効であるが、薬注管理が煩雑であり、薬注設備費が嵩む上に、シアン含有汚泥が発生するため、沈殿分離のためのスペースと費用を要する。
【0012】
(7) 熱加水分解法:圧力容器で加熱保持することによりシアン化合物をアンモニアとギ酸塩に加水分解する方法。
この方法は殆どのシアン化合物に有効であるが、加熱加圧設備費用が高くつき、また第1種圧力容器の適用を受けるため、実用上制約も大きい。
【0013】
(8) 鉄酸塩法:強い酸化剤である鉄酸塩をシアンの酸化分解に用いることが提案されており、鉄酸塩の製造技術についての提案もなされている(特許文献3,4)。
鉄酸塩は、第二鉄塩等の鉄塩と次亜塩素酸塩等の酸化剤とアルカリとの反応で、以下の反応式に従って合成される。
2Fe3++3OCl+10OH → 2FeO2−+3Cl+5H
この方法は、難分解性のシアノ錯体を酸化分解できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006−26496号公報
【特許文献2】特公平2−48315号公報
【特許文献3】特表2007−502768号公報
【特許文献4】特許第4121368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来、シアン含有廃水の処理方法としては、多種多様な方法が提案されているが、いずれも、ホルムアルデヒドのように有害物質を必要とする;複数の薬剤タンクや混合タンク、注入設備等を必要とし、薬注設備費や処理設備費が高くつく;pH調整等、薬注管理や水質管理に煩雑な手間を必要とする;全シアン成分(全てのシアン化合物、即ち、遊離シアンであるシアン化物イオンとシアノ錯体の双方)を分解除去する技術がない;全シアンを処理できる技術では、シアン含有汚泥が発生するため、沈殿分離のための設備に広いスペースと、そのための莫大な費用と手間が必要となる;といった問題がある。
【0016】
本発明は上記従来の問題点を解決し、シアン含有水中の全シアン成分を、
・ 有害な物質を必要とすることなく、安全性の高い薬剤を用いて、
・ pH調整等、煩雑な水質管理を必要とすることなく、
・ 煩雑な薬注管理や高価な薬注設備を必要とすることなく、
・ 遊離シアンのみならず難分解性のシアノ錯体をも酸化分解することにより、
シアン含有汚泥を発生させず、従って沈殿分離のための設備と費用を必要とす
ることなく、
効率的に処理する方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、シアン含有水にリン酸カルシウムの存在下に鉄酸塩混合液を添加することにより、鉄酸塩の酸化力がより一層高められ、遊離シアンのみならず、鉄酸塩のみでは酸化分解が困難であった難分解性のシアノ錯体をも酸化分解して除去することができるようになることを見出した。なお、リン酸カルシウム存在下とは、水中で、リン酸イオン、カルシウムイオンが存在する場合も含んでいる。
【0018】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0019】
[1] シアン含有水に含まれるシアン成分を酸化分解する方法において、シアン含有水に、鉄塩、酸化剤及びアルカリを混合して合成した鉄酸塩を含む混合液と、リン酸成分とを添加することを特徴とするシアン含有水の処理方法。
【0020】
[2] [1]において、前記シアン含有水に更にカルシウム成分を添加することを特徴とするシアン含有水の処理方法。
【0021】
[3] [1]又は[2]において、前記鉄酸塩を含む混合液を、pH10以上の鉄酸塩含有液として添加することを特徴とするシアン含有水の処理方法。
【0022】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記鉄酸塩を含む混合液の添加量が前記シアン含有水中の全シアンに対して1〜10000重量倍であることを特徴とするシアン含有水の処理方法。
【0023】
[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、前記リン酸成分の添加で、前記シアン含有水中にリン酸カルシウムが生成することを特徴とするシアン含有水の処理方法。
【0024】
[6] [5]において、前記シアン含有水中のリン酸カルシウムの生成量が1〜1000mg/Lであることを特徴とするシアン含有水の処理方法。
【0025】
[7] [1]ないし[6]のいずれかにおいて、前記シアン含有水が高炉集塵水であることを特徴とするシアン含有水のシアン処理方法。
【0026】
[8] シアン含有水に含まれるシアン成分を酸化分解する装置において、鉄塩、酸化剤及びアルカリを混合して鉄酸塩を合成する手段と、合成された鉄酸塩を含む混合液をシアン含有水に添加する手段と、シアン含有水にリン酸成分を添加する手段とを備えることを特徴とするシアン含有水の処理装置。
【0027】
[9] [8]において、更に、前記シアン含有水にカルシウム成分を添加する手段を備えることを特徴とするシアン含有水の処理装置。
【0028】
[10] [8]又は[9]において、前記シアン含有水が高炉集塵水であることを特徴とするシアン含有水のシアン処理装置。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、シアン含有水に、鉄塩、酸化剤及びアルカリを混合して合成した鉄酸塩を含む混合液とリン酸成分、更に必要に応じてカルシウム成分を添加するのみで、シアン含有水中の全シアン成分、即ち、遊離シアンとシアノ錯体を効率的に酸化分解して除去することができる。
この方法は、
(1) 有害な物質を必要とすることなく、安全性の高い薬剤を用いて処理することが
できる。
(2) 処理水系のpHは7以上であればよく、pH調整等、煩雑な水質管理が不要で、
鉄塩、酸化剤、アルカリ、リン酸成分、更に必要に応じてカルシウム成分の各薬剤タ
ンクと、鉄塩、酸化剤及びアルカリの混合タンク、注入設備のみを設ければよく、煩
雑な薬注管理や高価な薬注設備が不要である。
(3) 全シアン成分を酸化分解することができ、シアン含有汚泥の発生がないため、沈
殿分離のための設備と費用が不要である。
といった優れた効果を奏し、工業的に極めて有利である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のシアン含有水の処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図2】本発明のシアン含有水の処理装置の別の実施の形態を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0032】
図1は、本発明のシアン含有水の処理装置の実施の形態の一例を示すものであって、図中、1は反応槽、2はアルカリ貯槽、3は酸化剤貯槽、4は混合槽、5は鉄塩貯槽、6は鉄酸塩合成槽であり、Pはポンプを示す。
この装置では、アルカリ貯槽2からのアルカリ水溶液と酸化剤貯槽3からの酸化剤水溶液が混合槽4で混合され、得られた混合液が鉄酸塩合成槽6に送給される。鉄酸塩合成槽6では、鉄塩貯槽5からの鉄塩水溶液が添加混合され、鉄塩が酸化剤とアルカリと反応することにより鉄酸塩が合成される。
鉄酸塩合成槽6からの鉄酸塩混合液が反応槽1内のシアン含有水に添加されると共に、この反応槽1にリン酸成分、必要に応じて更にカルシウム成分が添加され、所定時間撹拌混合されることにより、シアン含有水中の全シアン成分がリン酸カルシウムの共存下に鉄酸塩により酸化分解される。
【0033】
本発明で処理対象とするシアン含有水としては、高炉集塵水の他、例えば次のようなものが挙げられる。
化学工場排水、石油工場排水、ガス工場排水、都市ガス製造工場排水、金属精錬工場排水、
メッキ工場排水、
クロメート処理などを行う金属表面処理工場排水、
コークス工場排水(コークスガス工場の石炭乾留時のガス液)、
石油・石炭熱分解プロセス排水、
写真工場排水、医薬品工場排水、貴金属鉱業排水
鍍金排水、鍍金用治具洗浄排水、エッチング排水、
鉄鋼排水、
金属表面処理工場排水、アンモニア合成工場排水等。
以下、シアン含有水のうち、高炉集塵水以外の上記のようなシアン含有水を「一般シアン含有排水」と称す場合がある。
【0034】
上記のような一般シアン含有排水中には、通常、遊離シアン、Ni、Ag、Fe、Cu、Zu、Cd等の金属のシアノ錯体が含有されている。
【0035】
一方、高炉集塵水は、製鉄所の高炉ガスの湿式集塵器においてガス洗浄に用いられた高炉ガス洗浄廃水であり、通常、この廃水は、凝集沈殿処理された後、その一部又は全部がガス洗浄水として湿式集塵器に循環される。高炉集塵水中には、休風時および炉内温度が大きく変化する際等に、ガス中にシアンが発生し、集塵水中に取り込まれるため、遊離シアン、Fe、Zn等の金属のシアノ錯体が、全シアン濃度として、0.1〜100mg/L程度含有されている。
本発明による高炉集塵水中のシアン成分の酸化分解処理は、好ましくは、湿式集塵器から排出され、凝集沈殿処理槽に供される前の高炉集塵水に対して施される。
【0036】
本発明において、一般シアン含有排水、高炉集塵水等のシアン含有水に添加する鉄酸塩は、酸化力が高いために不安定で、酸化対象物が存在しない水中でも還元されて酸化力を失ってしまうことから、鉄酸塩は、シアン含有水に添加する直前で合成されることが好ましい。従って、シアン含有水に鉄酸塩を添加混合する設備の近傍に、鉄酸塩合成のための設備を設けることが好ましい。
【0037】
鉄酸塩は、鉄塩と酸化剤とアルカリとを混合することにより合成される。
【0038】
鉄酸塩は、一般に酸化数がVIの鉄酸イオンFeO2−を含む塩の総称であるが、本発明において、「鉄酸塩」は、酸化数がIV、V、VI、VII、VIIIである鉄を含む塩を意味する。「鉄酸塩」は、酸素を含有するが、更に、他の原子を含んでもよく、含まなくてもよい。さらに、「鉄酸塩」は、種々の酸化数の鉄を夫々含む複数種のイオンの混合物であってもよい(ただし、該複数種のイオンは、少なくとも酸化数がIV又はそれより大きな酸化数の鉄を含むものである。)。従って、例えば、FeO2−を含む鉄酸塩溶液は、酸化数がVの鉄又は他の任意の酸化数の鉄を含むイオンを含有してもよい。同様に、鉄酸塩溶液は、酸化数がVIでない鉄を含有するイオンたとえば、酸化数がV又はIVの鉄を含むイオンを含有してもよい。このように、酸化数がIV又はそれより大きな酸化数の鉄と少なくとも一つの酸素を含む任意のイオンからなる塩を「鉄酸塩」とみなす。また、鉄酸塩イオンは、カチオン又はアニオンのいずれであってもよい。
【0039】
鉄酸塩イオンの対イオンは、鉄酸塩イオンを含む混合物の電荷全体を中性とするいかなるイオンであってもよい。鉄酸塩イオンがアニオンの場合、対イオンは任意のカチオンとすることができる。鉄酸塩の最も一般的な形態は、NaFeO又はKFeOであり、この場合、鉄の酸化数はVIであり、鉄酸塩イオンはアニオンであり、対イオンはナトリウムイオン又はカリウムイオンである。他の任意の対イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、銀イオン等を含むものであってもよい。
【0040】
鉄酸塩の合成に用いる鉄塩としては、2価以上の鉄塩が好ましく、硝酸第二鉄、硝酸第一鉄、塩化第二鉄、塩化第一鉄、臭化第二鉄、臭化第一鉄、硫酸第二鉄、硫酸第一鉄、リン酸第二鉄、リン酸第一鉄、水酸化第二鉄、水酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化第一鉄、炭酸水素第二鉄、炭酸水素第一鉄、炭酸第二鉄、炭酸第一鉄等の無機第一鉄塩又は無機第二鉄塩、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、又は重合体と錯体形成された有機第一鉄又は第二鉄化合物等を用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
酸化剤としては、上記鉄塩を鉄酸塩に酸化する力を有するものであればよく、特に制限はないが、次亜塩素酸塩、次亜臭素塩酸、次亜ヨウ素酸塩等の次亜ハロゲン酸塩、亜塩素酸塩、亜臭素塩酸、亜ヨウ素酸塩等の亜ハロゲン酸塩、塩素酸塩、臭素塩酸、ヨウ素酸塩等のハロゲン酸塩、過塩素酸塩、過臭素塩酸、過ヨウ素酸塩等の過ハロゲン酸塩、オゾン、ハロゲン、過酸化物及びその塩、過酸及びその塩などが挙げられる。なお、「塩」の形態としては、通常、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が用いられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらのうち、入手しやすく、取り扱いが簡便であることから次亜塩素酸ナトリウム等の次亜塩素酸塩が好ましい。
【0042】
アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等を用いることができるが、特に強アルカリ性の水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
鉄塩、酸化剤及びアルカリの混合割合としては、鉄酸塩が合成されればよく、特に制限はなく、用いる鉄塩、酸化剤及びアルカリの種類に応じて適宜決定されるが、酸化剤は、鉄塩を鉄酸塩に酸化するための必要量、例えば鉄塩を鉄酸塩に酸化するための理論量の0.1〜100倍程度用いられる。また、アルカリは、混合液のpHが中性以上となるように用いられるが、後述の如く、一般シアン含有排水、高炉集塵水等のシアン含有水に添加する鉄酸塩を含む混合液は、pH10以上、特にpH12〜14で優れたシアンの酸化分解効果を示すため、アルカリは、このような高pHの鉄酸塩含有液(混合液)が得られるように添加することが好ましい。
【0044】
鉄塩、酸化剤及びアルカリの混合方法には特に制限はないが、塩素系の酸化剤を使用する場合、pHが下がると塩素ガスが発生する可能性があることから、酸化剤水溶液とアルカリ水溶液との混合液に鉄塩水溶液を添加混合することが好ましい。
この場合、鉄塩は10〜50重量%程度の水溶液として、酸化剤は10〜20重量%程度の水溶液として、アルカリは25〜48重量%程度の水溶液として用いられる。
【0045】
一般シアン含有排水、高炉集塵水等のシアン含有水に添加するリン酸成分は、シアン含有水中にリン酸カルシウムを生成させるために添加するものであり、シアン含有水中のカルシウム成分或いは別途添加されたカルシウム成分と反応してリン酸カルシウムを生成させ得るものであればよい。或いは、リン酸カルシウムであってもよい。リン酸成分としては、オルソリン酸、ポリリン酸等のリン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸塩等を用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらのリン酸成分は、通常10〜75重量%程度の水溶液として用いられる。
【0046】
一般シアン含有排水、高炉集塵水等のシアン含有水中に十分量のカルシウム成分を含み、リン酸成分の添加でシアン含有水中に十分量のリン酸カルシウムを生成させることができる場合には、更にカルシウム成分を添加する必要はないが、シアン含有水中にカルシウム成分が含まれない場合、或いは必要量のリン酸カルシウムの生成にカルシウム成分が不足する場合は、別途カルシウム成分を添加する。
【0047】
このカルシウム成分としては、塩化カルシウム、生石灰、消石灰等を用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらのカルシウム成分は、通常10〜50重量%程度の水溶液として用いられる。
【0048】
一般シアン含有排水、高炉集塵水等のシアン含有水への鉄酸塩を含む混合液の添加量は、シアン含有水中の全シアン成分を十分に酸化分解除去できる程度の量であればよく、通常、シアン含有水中の全シアン(CN)濃度に対して鉄酸塩混合液の添加量として1〜10000重量倍、特に1〜1000重量倍とすることが好ましい。鉄酸塩混合液の添加量が少な過ぎるとシアン含有水中の全シアン成分を十分に酸化分解除去することができず、多過ぎると鉄酸塩添加のための費用が嵩み、また、沈降物も増加するため、好ましくない。
【0049】
また、リン酸成分及び必要に応じて添加するカルシウム成分の添加量は、シアン含有水中に鉄酸塩の酸化力を十分に高めることができる程度のリン酸カルシウムが生成するような量であればよい。この十分量のリン酸カルシウム量とは、通常、シアン含有水中の濃度として1mg/L以上であり、好ましくは1〜1000mg/L、より好ましくは10〜1000mg/L、特に好ましくは50〜200mg/L程度である。シアン含有水中のリン酸カルシウムの生成量が少な過ぎるとリン酸カルシウムを共存させることによる鉄酸塩の酸化力の向上で難分解性のシアノ錯体をも十分に酸化分解することができず、過度に多くしてもそれ以上の効果の向上はみられず、徒に薬剤費が嵩み、また、配管等へのリン酸カルシウムスケールの付着が問題となり、好ましくない。
【0050】
鉄酸塩、リン酸成分及び必要に応じて用いられるカルシウム成分は、いずれを先にシアン含有水に添加してもよく、同時に添加してもよく、鉄酸塩を含む混合液によるシアン含有水中の全シアン成分の酸化分解の際にリン酸カルシウムが共存していればよい。
【0051】
一般シアン含有排水、高炉集塵水等のシアン含有水に鉄酸塩を含む混合液及びリン酸成分、更に必要に応じてカルシウム成分を添加した後は、好ましくは10〜180分程度、より好ましくは30〜120分程度混合して、シアン含有水中の全シアン成分と鉄酸塩混合液とを十分に反応させて全シアン成分を酸化分解して除去する。シアン含有水中の全シアン成分は、鉄酸塩混合液による酸化で、シアン酸イオン(CNO)を経て重炭酸イオン(HCO)と窒素(N)に分解される。
【0052】
なお、本発明による処理に供されるシアン含有水のpH値には特に制限はない。通常、一般シアン含有排水のpHは3〜9程度、高炉集塵水のpHは7〜9程度であり、このようなpH値のシアン含有水であれば、特にpH調整を行なうことなく、pHアルカリ性、好ましくはpH10〜14、より好ましくはpH12〜14の鉄酸塩混合液を添加して、全シアン成分の効率的な酸化分解を行うことができる。
【0053】
また、本発明による処理に供されるシアン含有水の温度についても特に制限はなく、本発明による全シアン成分の酸化分解は温度による大きな影響を受けることなく実施することができる。
【0054】
このようなことから、本発明によれば、pH調整等の水質管理や温度管理などの煩雑な条件管理を必要とすることなく、全シアン成分の酸化分解が可能である。
【0055】
本発明によれば、一般シアン含有排水、高炉集塵水等のシアン含有水中の全シアン成分は、酸化分解により除去されるため、その後の沈殿分離等の処理は不要である。ただし、酸化分解処理後の処理水を凝集沈殿槽に送給して凝集沈殿処理してもよく、このようにすることにより、シアン含有水中で生成したリン酸カルシウムや、残留する鉄酸塩や全シアン成分の酸化分解で生成した鉄塩を除去することができ、好ましい。
【0056】
また、シアン含有水が高炉集塵水である場合、前述の如く、湿式集塵器からの高炉集塵水の循環処理系において、凝集沈殿槽や沈殿槽(シックナー)に送給される前の高炉集塵水に本発明に従って全シアン成分の酸化分解工程を設けることにより、その処理水を凝集沈殿槽に送給して凝集沈殿処理することができ、これにより、高炉集塵水中で生成したリン酸カルシウムや、残留する鉄酸塩や全シアン成分の酸化分解で生成した鉄塩を除去することができ、好ましい。
【0057】
図2は、このような高炉集塵水のシアン処理の実施に好適なシアン処理装置の一例を示すものであって、湿式集塵器からの高炉集塵水は、受け入れピット11から、凝集沈殿槽12、集水ピット13を経て湿式集塵器に循環されるが、その際、受け入れピット11において、全シアン成分の酸化分解が行われる。図中、Pは薬注ポンプを示す。
即ち、アルカリタンク14からのアルカリ水溶液と酸化剤タンク15からの酸化剤水溶液が混合タンク16で混合され、得られた混合液が鉄酸塩合成タンク18に送給される。鉄酸塩合成タンク18では、鉄塩タンク17からの鉄塩水溶液が添加混合され、鉄塩が酸化剤とアルカリと反応することにより鉄酸塩が合成される。
鉄酸塩合成タンク18からの鉄酸塩混合液が受け入れピット11に添加されると共に、この受け入れピット11にリン酸成分、必要に応じて更にカルシウム成分が添加され、所定時間撹拌混合されることにより、高炉集塵水中の全シアン成分がリン酸カルシウムの共存下に鉄酸塩混合液により酸化分解される。
【実施例】
【0058】
以下に実験例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0059】
なお、以下において、水中の全シアン(CN)及び遊離シアン(CN)濃度の測定は、JIS K 0102に準拠した4−ピリジンピラゾロン吸光光度法により行った。その際、次亜塩素酸ナトリウムによる残留塩素の前処理は、JIS K 0102に従い、L(+)−アスコルビン酸溶液(100g/L)(JIS K 9502)を添加して行った。また、ホルムアルデヒドの前処理は約pH12の試料にテトラヒドロホウ酸ナトリウムを約0.3g添加後30分間放置して行った。即ち、JIS中には、ホルムアルデヒドの前処理方法はないため、文献:ホルムアルデヒドシアンヒドリン中のシアン化物の定量 Vol.41 No.10 Page.T131−T134(1992.10)を参照して行った。
また、測定に先立ち、試料はガラスフィルター濾紙を用いて濾過した。
【0060】
鉄酸塩の合成には、鉄塩として硝酸第二鉄(Fe(NO・9HO)水溶液(40重量%水溶液)を用い、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウム水溶液(12重量%水溶液)、アルカリとして水酸化ナトリウム水溶液(48重量%水溶液)を用い、硝酸第二鉄水溶液:次亜塩素酸ナトリウム水溶液:水酸化ナトリウム水溶液=1.5:4:1(重量比)の割合で混合した。この混合割合は、硝酸第二鉄:次亜塩素酸ナトリウム:水酸化ナトリウム(純分)=1:0.8:0.8(重量比)となる。
得られた鉄酸塩含有液(混合液)のpHは13であり、酸化数がVIの鉄酸塩濃度は0.1重量%である。この鉄酸塩含有液を「鉄酸塩合成品」と称す。
【0061】
[実験例1]
高炉集塵水(休風時にシアンが発生し、発生したシアンを含む水,pH8〜9,水温30℃)に、表1に示す薬剤を表1に示す量添加して(ただし、No.6では薬剤添加せず。)60分撹拌混合した後、ガラスフィルター濾紙で濾過し、濾液について全シアンと遊離シアン(シアン化物イオン)濃度の測定を行った。結果を表1に示す。
なお、No.7〜9において、次亜塩素酸ナトリウムは有効塩素濃度12重量%水溶液として添加した。表中の薬剤濃度に記載した数値は上記水溶液としての添加量である。
【0062】
表1より、鉄酸塩混合液を添加することにより、高炉集塵水中のシアン成分、特に遊離シアン成分(No.6のブランクの結果から明らかなように処理前の全シアン濃度は58.6mg/Lで、遊離シアン濃度は45.0mg/Lである。)を効率的に分解除去することができることが分かる。一方、次亜塩素酸ナトリウムではシアンが残留する。
【0063】
【表1】

【0064】
[実験例2]
鉄酸塩含有液のpHによる影響を調べるために、前述の鉄酸塩合成品の合成の際にアルカリ添加量を減らし、表2に示すpHの鉄酸塩含有液を調整し、実験例1のNo.4と同様に鉄酸塩合成品添加量2400mg/Lで処理を行い、結果をNo.4の結果と共に表2に示した。
【0065】
表2より、鉄酸塩含有液のpHが高い程シアン成分の酸化分解効果が高いことが分かる。
【0066】
【表2】

【0067】
[実施例1〜3、比較例1〜4]
コークス製造設備から排出されるシアン含有排水(休風時にシアンが発生し、発生したシアンを含み、カルシウム成分を35mg−Ca/L含む水、pH8.5,水温30℃)に、表3に示す薬剤を表3に示す量添加して(ただし、比較例1では薬剤添加せず。)60分撹拌混合した後、ガラスフィルター濾紙で濾過し、濾液について全シアン濃度の測定を行った。結果を表3に示す。
なお、実施例1〜3において、オルソリン酸は75重量%水溶液として添加し、表3中の薬剤濃度に記載した数値はオルソリン酸(純分)としての添加量である。また、比較例3において、次亜塩素酸ナトリウムは有効塩素濃度12重量%水溶液として添加した。表3中の薬剤濃度に記載した数値は上記水溶液としての添加量である。また、比較例4において、ホルムアルデヒド及び亜硫酸水素ナトリウムは、これらをそれぞれ19重量%、21重量%の濃度で含有する水溶液として添加した。表3中の薬剤濃度に記載した数値は上記水溶液としての添加量である。
表3には、オルソリン酸の添加で水中に生成するリン酸カルシウム量の計算値を併記した。
【0068】
【表3】

【0069】
[実施例4〜9、比較例5〜14]
純水にシアノ錯体として試薬のヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムを約10mg/L添加して調製したサンプル水(温度60℃,pH8〜9)に、表4に示す薬剤を表4に示す量添加して(ただし、比較例5では薬剤添加せず。)60分撹拌混合した後、ガラスフィルター濾紙で濾過し、濾液について全シアン濃度の測定を行い、全シアン除去率を求め、結果を表4に示した。
【0070】
なお、ホルムアルデヒド及び亜硫酸水素ナトリウムの添加濃度の記載については、比較例4の表3におけると同様である。
オルソリン酸は75重量%水溶液として添加し、塩化カルシウムはカルシウム硬度(CaCO換算)として10重量%水溶液として添加した。表4中の添加濃度の数値は、オルソリン酸は純分の添加量、塩化カルシウムは上記水溶液としての添加量であり、オルソリン酸と塩化カルシウムの添加で生成するリン酸カルシウム量は、表4に示す通りである。
【0071】
【表4】

【0072】
[実施例10〜15、比較例15〜24]
純水にシアノ錯体として試薬のヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムを約10mg/L添加して調製したサンプル水(温度60℃,pH8〜9)に、表5に示す薬剤を表5に示す量添加して(ただし、比較例15では薬剤添加せず。)60分撹拌混合した後、ガラスフィルター濾紙で濾過し、濾液について全シアン濃度の測定を行い、全シアン除去率を求め、結果を表5に示した。
【0073】
なお、ホルムアルデヒド及び亜硫酸水素ナトリウムの添加濃度の記載については、比較例4の表3におけると同様である。
オルソリン酸は75重量%水溶液として添加し、塩化カルシウムはカルシウム硬度(CaCO換算)として10重量%水溶液として添加した。表5中の添加濃度の数値は、オルソリン酸は純分の添加量、塩化カルシウムは上記水溶液としての添加量であり、オルソリン酸と塩化カルシウムの添加で生成するリン酸カルシウム量は、表5に示す通りである。
【0074】
【表5】

【0075】
表1〜5より、本発明によれば、従来のホルムアルデヒド法や、鉄酸塩のみでは分解し得ない難分解性のシアノ錯体をも効率的に酸化分解して除去することができることが分かる。
【符号の説明】
【0076】
1 反応槽
2 アルカリ貯槽
3 酸化剤貯槽
4 混合槽
5 鉄塩貯槽
6 鉄酸塩合成槽
11 受け入れピット
12 凝集沈殿槽
13 集水ピット
14 アルカリタンク
15 酸化剤タンク
16 混合タンク
17 鉄塩タンク
18 鉄酸塩合成タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン含有水に含まれるシアン成分を酸化分解する方法において、シアン含有水に、鉄塩、酸化剤及びアルカリを混合して合成した鉄酸塩を含む混合液と、リン酸成分とを添加することを特徴とするシアン含有水の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記シアン含有水に更にカルシウム成分を添加することを特徴とするシアン含有水の処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記鉄酸塩を含む混合液を、pH10以上の鉄酸塩含有液として添加することを特徴とするシアン含有水の処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記鉄酸塩を含む混合液の添加量が前記シアン含有水中の全シアンに対して1〜10000重量倍であることを特徴とするシアン含有水の処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記リン酸成分の添加で、前記シアン含有水中にリン酸カルシウムが生成することを特徴とするシアン含有水の処理方法。
【請求項6】
請求項5において、前記シアン含有水中のリン酸カルシウムの生成量が1〜1000mg/Lであることを特徴とするシアン含有水の処理方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記シアン含有水が高炉集塵水であることを特徴とするシアン含有水のシアン処理方法。
【請求項8】
シアン含有水に含まれるシアン成分を酸化分解する装置において、鉄塩、酸化剤及びアルカリを混合して鉄酸塩を含む混合液を合成する手段と、合成された鉄酸塩をシアン含有水に添加する手段と、シアン含有水にリン酸成分を添加する手段とを備えることを特徴とするシアン含有水の処理装置。
【請求項9】
請求項8において、更に、前記シアン含有水にカルシウム成分を添加する手段を備えることを特徴とするシアン含有水の処理装置。
【請求項10】
請求項8又は9において、前記シアン含有水が高炉集塵水であることを特徴とするシアン含有水のシアン処理装置。

【図1】
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【図2】
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