説明

システムキッチン評価方法

【課題】 本発明はメイン作業区域で作業する割合などの動作状態を比較し、取得した使用者の動作データからシステムキッチンを比較評価する手法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明では、設備機器スペースと、調理部スペースと、を備えるシステムキッチンを使用する使用者の位置を随時測定し、使用者の位置を示す2次元座標データを得る工程と、前記使用者の作業領域を区分し、区分領域を作成する工程と、前記区分領域毎に前記2次元座標データ数を積算する工程と、前記積算された2次元座標データ数を評価する工程、からなるシステムキッチンの評価方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、システムキッチンの評価方法に関し、特に使用者の動作に基づいて比較するシステムキッチンの評価方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
作業効率の良いシステムキッチンであるかを評価する為には、使用者の動作を評価する必要性があり、従来、キッチン作業をビデオカメラで撮影し、その画像から調理作業時間、歩数、調理時の総移動距離等を観察評価する手法が用いられてきた。
一方でこのようなシステムキッチンでの動作を撮影し、そこで得られた動作の3次元座標データをコンピューターグラフィックス等に用いることはあった。(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−316855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、使用者のメイン作業区域に着目した詳細な評価は確立されていなかった。よって、本発明はメイン作業区域で作業する割合などの動作状態を比較し、取得した使用者の動作データに基づいてシステムキッチンを比較評価する手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一態様によれば、
設備機器スペースと、調理部スペースと、を備えるシステムキッチンを使用する使用者の位置を随時測定し、使用者の位置を示す2次元座標データを得る工程と、前記使用者の作業領域を区分し、区分領域を作成する工程と、前記区分領域毎に前記2次元座標データ数を積算する工程と、前記積算された2次元座標データ数を評価する工程、
とからなるシステムキッチンの評価方法が提供される。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、使用者のメイン作業区域に着目することで、各種システムキッチンでの作業効率を比較評価できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
本発明では使用者の位置を随時測定する。次に測定結果を後で詳細に説明する方法で、使用者の作業領域を区分し、区分領域を作成する。次に区分領域毎に2次元座標データ数を積算し、積算された2次元座標データ数を比較する評価方法である。
【0007】
まず使用者の位置を測定する工程について説明する。測定では、使用者に反射マーカをつけて、後で説明するシステムキッチンで調理作業している時の動作をモーションキャプチャで撮影する。
【0008】
なお、モーションキャプチャとは動作解析システムであり、測定空間内での反射マーカの3次元座標データを、所望のサンプリング周波数で測定できるシステムである。なお、本実施例では周波数10ヘルツで測定した。すなわち、1秒間に10組の3次元座標データを取得している。
【0009】
この測定では、システムキッチンの周囲に複数のカメラを測定空間内に死角ができないように配置する。これらのカメラが赤外線を発し、それが使用者に貼付けている反射マーカによって反射され、その反射光をカメラで捕らえることで、1つ1つの反射マーカの3次元座標データを認識する。これによって調理中の使用者の位置を随時測定可能である。本実施例ではカメラをシステムキッチンの周囲、上部に計12台配置した。
【0010】
調理時には、図1の模式図に示すように使用者は右の股関節点Aと左の股関節点Bに反射マーカを貼られた状態で調理動作を行う。また点A、点Bから中点Pを算出し、使用者の体の中点とする。すなわち3次元座標データから得られる両股関節点の中点は立位での人の重心点に近似できると一般的に考えられており、調理中の作業動線を算出するのに適している。
【0011】
この測定の結果、調理時に使用者がどの位置で作業しているかといった3次元座標データを得る。この点Pをシステムキッチンが置かれている床面に平行なXY平面に投影し、映し出された点を点Qとする。なおこの点Qは使用者の位置を示す2次元座標データである。
【0012】
次に本実施例で調理に用いたシステムキッチンについて説明する。本実施例における測定では、図2、図3に示すように2種類のシステムキッチンを使用した。
【0013】
2種類のシステムキッチンは、図2に示すようにL字形状に形成されてなるシステムキッチンカウンタの接続部において、前記キッチンカウンタの天板がせり出した略三角形状の延出部1を備えたことを特徴とするシステムキッチンと、図3に示すようなL字形状のキッチンカウンタで形成されるシステムキッチンである。
【0014】
また、図2のシステムキッチンの延出部1の前縁部11とシンク側の前縁部12、コンロ側の前縁部13とが成す両側コーナー角度θ1、θ2は、それぞれ135度程度の角度を有する。
【0015】
なお、それぞれのシステムキッチンには図2、図3に示すように紙面の左側にシンク2、上側にコンロ3の設備機器スペースを備えると共に、シンクとコンロ間に調理部スペース4を備える。なお、特に図2は延出部1を含んで調理部スペースとする。
【0016】
図2のシステムキッチンでは、前記キッチンカウンタのコーナー部の上に使用者のアイレベルにあるコーナーキャビネット21が設けられており、前記コーナーキャビネット21は使用者が立ったまま物の出し入れができるように延出部1側に開口部22をもつ。
【0017】
次に各システムキッチンの調味料、調理道具の配置について説明する。使用する物は適所に収納されており、本実施例での配置を詳しく示すと、図2のシステムキッチンでは、前記コーナーキャビネット21には使用頻度の高いざる、ボウルや調味料が収納される。一方、図3のシステムキッチンではざるやボウルはシンク下、調味料はコンロ周辺のシステムキッチンの抽斗に収納される。
【0018】
次に使用者について説明する。本実施例の使用者は身長162センチメートルの女性、調理内容はほうれん草の胡麻和えとした。2種類のシステムキッチンでの調理の際には、同工程で作業を実施した。
【0019】
なお、本実施例での調理手順は、鍋を火にかけ、ほうれん草を洗い、ほうれん草を鍋に入れ、調味料を出して並べ、調味料をボールに入れて混ぜ、ほうれん草をゆでこぼし、ほうれん草の水をきってほうれん草を切り、味付けるという順で作業を実施した。
【0020】
それぞれの調理において、鍋を火にかける、ほうれん草を鍋に入れる工程はコンロ3の前で行った。ほうれん草を洗う、ほうれん草をゆでこぼす、ほうれん草の水をきる工程はシンク2の前で行った。調味料を出して並べる、調味料をボールに入れて混ぜる、ほうれん草を切る、味付ける工程は調理部スペース4の前で行った。
【0021】
この測定から調理中の使用者の3次元座標データを得られた。これらの調理中に測定した3次元座標データから点Pを算出し、XY平面に投影した2次元座標データである点Qをプロットし、時系列に沿って線でつなぐと使用者が作業中に動いた作業動線が分かる。
【0022】
次に区分領域について説明する。区分領域とは、図4に示すように使用者が立つ作業領域である床面15を、区分領域a1、a2、a3のように分けたものである。
【0023】
なお後で詳述するように2次元座標データを区分領域に当てはめるので、区分領域と2次元座標データの座標軸の整合性をとった。本実施例では区分領域を設定する際の原点はL字形状のシステムキッチンではコーナー部カウンターの前縁部の角50とした。一方、延出部を備えたシステムキッチンにおいては前記前縁部角に延出部があるが、L字形状のシステムキッチンと同様の場所である図2の仮想線の交差部51を原点とした。なお、カウンター部分に原点を置いた場合、カウンター内にも区分領域が設けられるが、点Qが延出部内に入ることはないので問題はない。
【0024】
なお、原点からコンロ方向をX軸、シンク方向をY軸とし、紙面の上方向、左方向を正とする。本実施例では10cmピッチで区分領域を設定している為、区分領域a1はXが0cm以上10cm未満かつYが0cm以上10cm未満の範囲、区分領域a2はXが0cm以上10cm未満かつYが10cm以上20cm未満の範囲である。
【0025】
次にこの区分領域の設定方法について説明する。本発明はメイン作業区域に着目している為、使用者が移動せずに作業しているか、移動して作業しているかを区別する必要がある。この区別の際に使用者の腰幅に着目すると、使用者が調理中に足位置を変えずに作業する時、点Qは腰幅の範囲内での動きになる。なぜなら腰幅の範囲を超えて点Qが移動すると使用者の重心が支持基底面から外れて不安定となり、その結果足位置を変えてしまうからである。したがって、使用者の移動を認識する為には腰幅以下のピッチで区分領域を分けなければならない。また、より詳細に動きを抽出する為には腰幅を複数区画に分けることが必要となる。よって本実施例では、使用者の腰幅は約30cmであり、それを3区画に分けた10cmピッチに区分領域を設定した。
【0026】
次に区分領域毎に2次元座標データ数を積算する工程について説明する。ここでは調理作業中に移動した位置の2次元座標データである点Qが、どの区分領域に存在するかを選別し、区分領域毎の2次元座標データの数を積算した。この調理作業中に移動した位置は先程の測定工程で詳細に説明したようにモーションキャプチャで得られた点Qの2次元座標データを用いる。
【0027】
次にメイン作業区域の抽出について説明する。図5にL字形状のシステムキッチンでの前記区分領域毎の2次元座標データ数を示す。この結果から、調理の全体を通してデータ数が最も高い区分領域を抽出する。つまり、使用者は調理中にこの場所に最もいたことになる。本実施例のL字形状のシステムキッチンでは調理スペース4の前縁部14の前が最も高い区分領域71となった。
【0028】
なお、この結果から最も高い区分領域71を含む領域をメイン作業区域として設定した。これを本実施例でのL字形状のシステムキッチンの結果を用いて説明すると、メイン作業区域は図5の太枠部70に示すように最も高い区分領域とそれを取り囲む領域とした。これは、本実施例での使用者の腰幅が約30cmであり、その幅から点Qが出ない範囲が移動せずに作業できている範囲と仮定した為、30cmの範囲内にある9つの区画を選択した。なおこれは区分のピッチや使用者の腰幅によって設定を変える必要がある。
【0029】
図5の太枠部70を拡大したものを図6に示す。この太枠部70内の2次元座標データ数を積算すると本実施例では23、28、63、89、318、47と1の合計値、すなわち569となる。よって、L字形状のシステムキッチンにおいては、メイン作業区域のデータ数は569個、メイン作業区域以外は742個であった。
【0030】
一方、延出部を備えたシステムキッチンでの結果を図7に示す。図中のキッチンはL字形状と同じ形の表記となっているが、実際には延出部が設けられている。延出部を備えたシステムキッチンでは、調理部スペース4の前縁部11の前が最も高い区分領域となった。この区分領域を含む太枠部内のメイン作業区域に820個、メイン作業区域以外は639個であった。
【0031】
これらの結果から、延出部を備えたシステムキッチンの方がメイン作業区域で作業する機会が多く、作業効率の良いシステムキッチンだということが分かる。また各システムキッチン間での比較を容易にする為に、この抽出した2次元座標データ数を用いて各区分領域毎の使用者の存在割合を算出した。つまり、それぞれのシステムキッチンでの全データ数に対する、各区分領域での割合を調べた。なお、区分領域毎に存在する割合を積み上げグラフで表示する。図8はL字形状のシステムキッチンでの結果、図9は延出部を備えたシステムキッチンでの結果を示す。
【0032】
メイン作業区域の存在割合は、L字形状のシステムキッチンのメイン作業区域の割合はメイン作業区域でのデータ数569個を総データ数の1311個で割り、割合表示すると約43%である。一方、延出部を備えたシステムキッチンは約56%である。
【0033】
この結果を比較すると、延出部を備えたシステムキッチンの方がL字形状のシステムキッチンよりメイン作業区域にいる割合が13%も多い。したがって、延出部を備えたシステムキッチンの方が同じ場所で作業し続けることができる。つまり、作業が様々な場所に分散されず、1箇所に集約されおり、作業効率の良いシステムキッチンと言える。よってこの評価により、調理中の作業効率を比較することができる。
【0034】
なお、今回この延出部を備えたシステムキッチンとL字形状のシステムキッチンで差が生じたのは延出部を備えたシステムキッチンに設けられたコーナーキャビネット21と延出部1が特徴である。つまりコーナーキャビネット21によって使用者がボールを取り出す際にメイン作業区域から移動せずに作業できるようになる。また、延出部1によって作業空間が広くなり、調理中に使用するボウルやまな板、調味料などの物を置く場が確保できるためと考えられる。
【0035】
以上本実施例ではこのようなシステムキッチンの特徴をデータに反映することが出来、キッチンでの作業効率を比較評価することが出来る。
【0036】
よって、本発明はこれまでのシステムキッチンの評価法とは異なり、調理中にはキッチン毎でメイン作業区域が存在し、その場所にどれくらいいるかを評価することで、使用者視点から見たキッチンの作業性を比較することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】測定中に使用者に貼る反射マーカ位置を模式的に表した図である。
【図2】延出部を備えたシステムキッチンでの調理動作をモーションキャプチャを用いて測定した図である。
【図3】L字形状のシステムキッチンでの調理動作をモーションキャプチャを用いて測定した図である。
【図4】使用者の作業領域をを区分領域に分けた模式図である。
【図5】L字形上のシステムキッチンで区分領域毎の2次元座標データの数を記入したグラフ図である。
【図6】図5の太枠部70を拡大表示したグラフ図である。
【図7】延出部を備えたシステムキッチンで区分領域毎の2次元座標データの数を記入したグラフ図である。
【図8】L字形状のシステムキッチンでの調理中の存在割合を示したグラフ図である。
【図9】延出部を備えたシステムキッチンでの調理中の存在割合を示したグラフ図である。
【符号の説明】
【0038】
1 延出部、2 シンク、3 コンロ、4 調理部スペース、15 作業領域、21 コーナーキャビネット、22 開口部、50 原点、70 メイン作業区域、A 右の股関節点、B 左の股関節点、P 中点、a1、a2、a3 区分領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備機器スペースと、調理部スペースと、を備えるシステムキッチンを使用する使用者の位置を随時測定し、使用者の位置を示す2次元座標データを得る工程と、前記使用者の作業領域を区分し、区分領域を作成する工程と、前記区分領域毎に前記2次元座標データの数を積算する工程と、前記積算された2次元座標データ数を評価する工程とからなるシステムキッチン評価方法。
【請求項2】
設備機器スペースと、調理部スペースと、を備えるシステムキッチンを使用する使用者の位置を随時測定し、使用者の位置を示す2次元座標データを得る工程と、前記使用者の作業領域を区分し、区分領域を作成する工程と、前記区分領域毎に前記2次元座標データの数を積算する工程と、前記積算された2次元座標データ数の最大値である区分領域を抽出する工程と、前記抽出された区分領域を含むメイン作業区域を抽出する工程と、全データ数における前記メイン作業区域での2次元座標データ数の割合を算出する工程と、前記算出結果を評価する工程とからなるシステムキッチン評価方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−23231(P2008−23231A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−201767(P2006−201767)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】