説明

ショートアーク型放電ランプ

【課題】放電空間を形成する発光管と、該発光管内に対向配置された一対の上方電極と下方電極と、該電極に圧入固着された電極軸とよりなる垂直点灯のショートアーク型放電ランプにおいて、上方電極が電極軸から離脱しても、該電極が発光管内で落下することがないようにした構造を提供することである。
【解決手段】前記上方電極とその電極軸に、それぞれ落下防止片と、該落下防止片が挿入される落下防止開口を設け、前記落下防止片が落下防止開口に挿入される挿入長さが、前記一対の電極の電極間距離よりも大きいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体や液晶の製造分野などの露光用光源や映写機のバックライト用光源に適用されるショートアーク型放電ランプに関するものであり、特に、垂直点灯されるショートアーク型放電ランプに係わるものである。
【背景技術】
【0002】
ショートアーク型放電ランプは、発光管内に対向配置された一対の電極の先端距離が短く点光源に近いことから、光学系と組み合わせることによって露光装置用若しくは映写機のバックライト用の光源として利用されている。
【0003】
特許文献1に、上記技術分野に使用される従来のショートアーク型放電ランプが開示されていて、図8にその概略構造が示されている。
同図に示すように、垂直点灯されるショートアーク型放電ランプ100において、発光管101の両端には外方に伸びる封止管102,102が連設されている。発光管103の内部には、一対の上下電極103,104が所定の間隔を隔てて互いに対向するよう配置されていて、これらの電極103,104は、それぞれ電極軸105,106に固定されて支持されている。
なお、このショートアーク型放電ランプ100は、各技術分野のうち、特に各種素子の露光用に使用されるものにおいては、通常、陽極103が上方、陰極104が下方になるように、垂直姿勢に保持されて、適宜の光学系と共に使用される。
【0004】
図9に示されるように、このようなショートアーク型放電ランプ100においては、通常は、電極軸105は電極103の後端に圧入されて固着される取り付け構造となっている。具体的には、電極103の後端に形成された圧入孔107に電極軸105が金属箔108を介して圧入されている。通常、圧入を容易にするために、電極軸105の先端はテーパ状に形成され、電極103の圧入孔107も該電極軸105のテーパ形状に即したテーパ状の孔に形成されている。
このように電極103と電極軸105とは、圧入の摩擦力によって固着支持されており、上記構造では、その両者間に金属箔108を介在させて、その固着支持力を増強させているものである。
【0005】
しかしながら、このような構造においても、電極103の圧入孔107と電極軸105の直径寸法の間にどうしても一定の寸法誤差が生じるため、少ない機会ではあるものの、電極103が電極軸105から外れてしまうことがある。
図10に示されるように、万一、電極103が電極軸105から離脱して、発光管101内を落下した場合、該落下した電極103が発光管101に当たって、該発光管101が損傷し破裂を引き起こしてしまうことがある。特に、点灯中にこの電極103の脱落が起こって発光管101が破裂すると、点灯によって高圧状態にある放電ガスが周囲に噴出し、また、発光管101の破裂破片が飛散して、周囲の作業者に重大な事故を発生するに至ることもある。
とりわけ、陽極が上方に位置するように垂直点灯されるショートアーク型放電ランプにおいては、通常陽極は陰極よりも体積・重量が大きいので、脱落による影響は大である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−311300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明が解決しようとする課題は、発光管内に電極が上下に対向配置され、電極軸が該電極に圧入されて固着されてなるショートアーク型放電ランプにおいて、前記上方電極が電極軸から離脱するようなことがあっても、発光管内で脱落して該発光管に損傷を与えることがないようにした構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明に係るショートアーク型放電ランプは、対向配置された一対の上下電極における上方電極とその電極軸に、それぞれ落下防止片と、該落下防止片が挿入される落下防止開口を設け、前記落下防止片が落下防止開口に挿入される挿入長さが、前記一対の電極の電極間距離よりも大きいことを特徴とする。
【0009】
また、前記落下防止片が電極側に設けられ、前記落下防止開口が電極軸側に設けられていることを特徴とする。
更には、前記落下防止片が電極とは別体で、これに対して固着されていないことを特徴とする。
また、前記落下防止片が電極軸側に設けられ、前記落下防止開口が電極側に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明のショートアーク型放電ランプによれば、電極と電極軸に落下防止片と落下防止開口設け、落下防止片が落花防止開口に挿入される挿入長さが、一対の上下電極の電極間距離よりも大きくなっているので、仮に上方電極が電極軸から離脱するようなことがあっても、その電極が上方の電極軸と下方電極の間に止まって、発光管内を落下することがなく、該発光管を損傷することがないという効果を奏するものである。これによって、発光管の破裂に伴う高圧放電ガスの噴出や発光管の破裂片の飛散といった最悪の事態が回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のショートアーク型放電ランプの電極支持構造の断面図。
【図2】他の実施例の電極支持構造の断面図。
【図3】更に他の実施例の電極支持構造の断面図。
【図4】従来の垂直点灯ショートアーク型放電ランプの全体図。
【図5】図4の電極支持構造の断面図。
【図6】図5の電極が落下したときの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、電極支持構造の断面図であり、図1(A)は電極が電極軸に圧入固着されて支持されている状態を表し、図1(B)は電極が電極軸から離脱した状態を表す。
陽極1と陰極2は上下方向で所定の電極間距離Xを介して対向配置されている。陽極1には取り付け孔4が形成されており、電極軸3が該取り付け孔4に圧入されて固着されている。なお、ここでは図示されていないが、上記従来例と同様に、電極軸3と取り付け孔4の間に金属箔を介在させることもできる。
前記陽極1の取り付け孔4の底部4aから棒状の落下防止片5が突設されており、一方、電極軸3にはその先端3aから落下防止開口6が穿設されている。そして、前記落下防止片5はこの落下防止開口6内に周囲に若干の間隙を有して挿入されている。
このとき、前記落下防止片5が落下防止開口6に挿入される挿入長さ、即ち、電極軸3の先端3aから落下防止片5の先端5aまでの距離Yは、前記電極間距離Xよりも大きく(Y>X)されている。
【0013】
上記構成において、図1(B)に示すように、万一、陽極1が電極軸3から離脱した場合でも、陽極1は下方の陰極2の先端まで落下するものの、この状態でも、両者はZ=Y−Xの分だけ係合していて、前記落下防止片5は落下防止開口6から外れるまでに至らず、その係合状態は保たれたままであり、陽極1が陰極2と電極軸3の間から外れて発光管内を落下することがない。
【0014】
図2には他の実施例が示されていて、図2(A)は電極が電極軸に圧入固着されて支持されている状態を表し、図2(B)は電極が電極軸から離脱した状態を表す。
上記図1の実施例が、落下防止片が陽極1の取り付け孔4から突設された一体構造であるのに対して、この実施例では、落下防止片が陽極とは別体構造である点で異なる。
即ち、図2(A)に示されるように、落下防止片7は陽極1とは別体であって、しかも、これに固着されておらず、電極軸3に形成した落下防止開口6内に挿入されている。そして、この場合にも、該落下防止片7が落下防止開口6に挿入される挿入長さYは、電極間距離Xより大きい。なお、他の構成は図1の実施例と同様である。
【0015】
上記構成においても、図2(B)に示されるように、陽極1が電極軸3から離脱するようなことがあっても、陽極1は下方の陰極2の先端までは落下するが、その状態でも落下防止片7と落下防止開口6の係合状態は保たれ、陽極1が陰極2と電極軸3の間から外れて発光管内を落下することがない。
【0016】
上記図1、2の実施例は陽極側に落下防止片を、電極軸側に落下防止開口を形成したものを示したが、逆の構造であってもよい。
図3にその構造が示されており、上記と同様に、図3(A)は電極が電極軸に圧入固着されて支持されている状態を表し、図3(B)は電極が電極軸から離脱した状態を表す。
図3(A)に示されるように、この実施例では電極軸3の先端に落下防止片8が形成されている。一方、陽極1には、取り付け孔4の底面から落下防止補助孔9が形成されていて、該補助孔9内に前記落下防止片8が挿入されている。なお、該落下防止片8は電極軸3から切削加工により削り出されたものであっても、あるいは、棒状部材を電極軸3に圧入固着したものであってもよい。
【0017】
そして、この実施例の場合、取り付け孔4と落下防止補助孔9が協同して落下防止開口10として機能するものである。この場合、陽極1の後端1aから落下防止片8の先端8aまでの距離が、落下防止片8の落下防止開口10に挿入される挿入長さYとなり、これが電極間距離Xよりも大きい。
図3(B)に示されるように、陽極1が電極軸3から離脱しても、下方の陰極2の先端に当接した状態では、落下防止片8は、取り付け孔4、即ち落下防止開口10との係合状態は保たれていて、図のZ=Y−Xの分だけ落下防止開口10内に位置する。
この構造により、陽極1が陰極2と電極軸3の間から外れて発光管内に落下することがない。
【0018】
上記実施例において、電極が電極軸から離脱した場合に落下防止片と落下防止開口との係合状態を保つための上記Z(「落下防止片の落下防止開口への挿入長さY」と「電極間距離X」との差)の大きさは、落下防止片の直径と落下防止開口の直径に応じて適正に選択されるものである。
なお、上記いずれの実施例においても、上方の電極が陽極、下方の電極が陰極として説明したが、これに限られず、上方が陰極で、下方が陽極の場合にも上方の陰極に前記構造を採用することができる。
【0019】
以上説明したように、本発明に係るショートアーク型放電ランプは、対向配置された一対の上下電極における上方電極とその電極軸に、それぞれ落下防止片と、該落下防止片が挿入される落下防止開口を設け、前記落下防止片が落下防止開口に挿入される挿入長さを、前記一対の電極の電極間距離よりも大きくしたので、万一、電極が電極軸から離脱するようなことがあっても、下方電極と電極軸との間に保持されて、発光管内で落下することがなく、該発光管を損傷・破裂させるようなことがないという効果を奏するものである。
【符号の説明】
【0020】
1 陽極
2 陰極
3 電極軸
4 (電極軸)取り付け孔
5、6、8 落下防止片
6、10 落下防止開口
9 落下防止補助孔




【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電空間を形成する発光管と、該発光管内に対向配置された一対の上方電極と下方電極と、該電極に圧入固着された電極軸とよりなる垂直点灯のショートアーク型放電ランプにおいて、
前記上方電極とその電極軸に、それぞれ落下防止片と、該落下防止片が挿入される落下防止開口を設け、前記落下防止片が落下防止開口に挿入される挿入長さが、前記一対の電極の電極間距離よりも大きいことを特徴とするショートアーク型放電ランプ。
【請求項2】
前記落下防止片が電極側に設けられ、前記落下防止開口が電極軸側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項3】
前記落下防止片が電極とは別体で、これに対して固着されていないことを特徴とする請求項2に記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項4】
前記落下防止片が電極軸側に設けられ、前記落下防止開口が電極側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のショートアーク型放電ランプ。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−187256(P2011−187256A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50029(P2010−50029)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】