説明

シリカ粒子およびこれを含有する樹脂組成物

【課題】フィラーとしてのシリカ粒子を充填してなる樹脂混合物において、フィラー充填率を高くしても高流動性を有する樹脂混合物、およびそのためのフィラーとしてのシリカ粒子を提供すること。
【解決手段】粒径範囲500nm〜75μmのシリカ粒子(X)を90質量%以上含有し、かつ粒径50nm〜300nmの範囲に粒度分布の極大値をもち、かつその95質量%以上が粒径範囲30nm〜500nmのシリカ超微粒子(Y)を0.5〜10質量%含有するシリカ粒子を提供する。また、それを樹脂と混合した樹脂組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリカ粒子、およびこれを含有する半導体封止材料に用いられる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ICやCPUなどの半導体パッケージの小型化、薄型化が進んでおり、これに伴いボンディングワイヤの細径化、狭ピッチ化へのニーズが高まっている。一方、半導体素子の高性能化に伴う発熱量の増大により、半導体パッケージの放熱性の向上がより重要となっている。半導体パッケージに用いられる封止材料に対するニーズも、狭小部への充填性を高めるため、より高流動の封止材が求められるとともに、高熱伝導化が要求されている。半導体パッケージの封止材として、エポキシ樹脂にシリカ粒子をフィラーとして充填した樹脂組成物が用いられているが、近年高流動へのニーズが高まったことから、フィラーとして用いられるシリカ粒子に球状粒子が多く用いられている。この球状のシリカ粒子を用いることにより、従来の破砕状のシリカに比べて、封止材の流動性を著しく向上することが可能となった。
【0003】
しかしながら、封止材の高熱伝導化のニーズが高まるに伴い、樹脂に比べて熱伝導率が高いフィラーの充填率を高くして、封止材の熱伝導率を高くすることが必要となっている。また、封止材の強度を高めるとともに熱膨張率を低くすることを目的とした場合もフィラーの充填率を上げることが必要となる。しかしながら、フィラーの充填率を上げると流動性が低下してしまうため、粒度分布を最適化するなどの試みがなされている。また、フィラー粒子の空間充填率を上げるために数種類の粒度分布をもつ粒子を配合する方法が一般に用いられている。
【0004】
特許文献1には、3種類の粒度の粒子を配合する方法が開示されている。この方法は、平均粒径30〜60μmの粗粒子粉末と、平均粒径1〜2μmの微粒子粉末に加えて、平均粒径0.1μm以上で1μm未満の超微粒子粉末を5〜20質量%含ませることで、フィラーの充填率を上げている。しかしながら、超微粒子粉末を多く添加すると、超微粒子粉末の樹脂への均一分散が難しくなるため、封止材の流動性を著しく損なう原因となる。
【0005】
特許文献2には、超微粒子粉末を分散させる方法として、平均粒径0.1〜3μmの微粉末シリカに、平均粒径0.1μm未満の微粉末シリカを1〜30重量%混合する方法が開示されている。しかしながら、より微細な0.1μm未満の粒子、特にアエロジルに代表される不定形の粒子を多く添加すると、封止材の流動性を大きく低下させてしまう問題がある。
【0006】
このようにフィラーの充填率を上げるためには、1μm未満の超微粒子を添加することが必要となるが、これにより封止材の流動性を低下させてしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−153969号公報
【特許文献2】特開平6−1605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、従来の技術では、樹脂に充填するフィラーの充填率を高くすると、流動性が低下してしまう等の問題があった。本発明は、樹脂組成物における充填率が高くても、樹脂組成物の高流動性を維持できるフィラーとしてのシリカ粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)粒径範囲500nm〜75μmのシリカ粒子(X)を90質量%以上含有し;かつ粒径50nm〜300nmの範囲に粒度分布の極大値をもち、かつその95質量%以上が粒径範囲30nm〜500nmのシリカ超微粒子(Y)を0.5〜10質量%含有することを特徴とするシリカ粒子。
(2)前記シリカ超微粒子(Y)の粒子の形状が球状であることを特徴とする、(1)に記載のシリカ粒子。
(3)前記シリカ粒子(X)が、粒径15μm〜70μmの範囲に粒度分布の極大値をもつ球状シリカ粒子(X1)と、粒径2μm〜10μmの範囲に粒度分布の極大値をもつ球状シリカ粒子(X2)とを含有することを特徴とする、(1)または(2)に記載のシリカ粒子。
(4)前記シリカ粒子(X)が、粒径500nm超〜1μmの範囲に粒度分布の極大値をもつ球状シリカ粒子(X3)をさらに含有することを特徴とする(3)に記載のシリカ粒子。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載のシリカ粒子を、樹脂中に50〜96質量%混合して構成される樹脂組成物であって、かつ前記シリカ超微粒子(Y)が、前記樹脂に対して2〜30体積%含まれることを特徴とする樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、樹脂組成物の流動性を損なうことなく、フィラーとしてのシリカ粒子の充填率を高めることができる。このようなフィラーを含む樹脂組成物は、特に、半導体封止材等で有用であり;つまり、狭小部まで欠陥がなく充填可能であり、高熱伝導性、高強度、低熱膨張率を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のシリカ粒子および樹脂組成物を詳細に説明する。本発明のシリカ粒子は、粒径範囲500nm〜75μmのシリカ粒子(本発明において「シリカ粒子(X)」と称する)と、粒径50nm〜300nmの範囲に粒度分布の極大値をもち、かつその95質量%以上が粒径範囲30nm〜500nmのシリカ超微粒子(本発明において「シリカ超微粒子(Y)」と称する)とを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明者らは実験を通して、粒径50nm〜300nmの範囲に粒度分布の極大値をもつシリカ超微粒子(Y)は、樹脂に添加されると樹脂と一体化して流動することができること、特に樹脂中に均一に混合されているシリカ超微粒子(Y)は、樹脂と一体化して流動すること;したがって、このようなシリカ超微粒子(Y)を用いれば、樹脂組成物の流動性を損なうことなく、シリカ粒子の樹脂への充填率を上げることが可能であることを見だした。一方、粒径300nm超に粒度分布の極大値をもつシリカ粒子は、樹脂と一体化して流動できないため、粒子表面と樹脂との間に剪断応力が働き、全体の流動性を損ねる原因となることもわかった。
【0013】
シリカ超微粒子(Y)の粒度分布は、50nm〜300nmの範囲に極大値をもつことが必要である。粒度分布の極大値が50nmより小さいシリカ超微粒子は凝集しやすく、樹脂中に均一に分散して混合することが困難となるため、流動性を低下させてしまう。また、粒度分布の極大値が300nmより大きいシリカ粒子は、樹脂と一体化しないため、高流動性の樹脂組成物を得ることができない。
【0014】
さらに、シリカ超微粒子(Y)のうちの95質量%以上が粒径30nm〜500nmの粒子であると、より本発明の効果が得られる。
【0015】
本発明のシリカ粒子における、シリカ超微粒子(Y)の含有割合は、0.5〜10質量%であることが必要である。シリカ超微粒子(Y)の含有割合が0.5質量%より少ないと、本発明のシリカ粒子の樹脂組成物への充填率を上げたときに、樹脂に高流動性を付与することができない。一方、シリカ超微粒子(Y)の含有割合が10質量%より多いと、超微粒子(Y)が凝集しやすくなるため、本発明のシリカ粒子を樹脂中に均一に分散することが困難となり、樹脂の流動性が低下する原因となる。また、シリカ超微粒子(Y)の含有割合が多くなると、超微粒子(Y)と樹脂との混合により樹脂組成物の粘度が著しく上昇したりすることがあるため、全体の流動性を低下させてしまう。
【0016】
流動性のより高い樹脂組成物を得るため、シリカ超微粒子(Y)の粒度分布は、100nm〜200nmの範囲に極大値をもつことが望ましい。粒径100nm〜200nmの範囲に粒度分布の極大値をもつ超微粒子(Y)は、粒度分布の極大値が100nmより小さい超微粒子に比べて凝集しにくいため、樹脂中に均一に分散または混合させることができ;また、粒度分布の極大値が200nmより大きい粒子に比べて、樹脂と一体化して流動しやすいため、樹脂と混合した場合の粘度が低く抑えられ、樹脂組成物の流動性を高めることができる。
【0017】
シリカ超微粒子(Y)の粒径が過剰に均一に揃っていると、樹脂組成物における充填効率が低下する。そのため、樹脂と超微粒子が一体化した混合部分の粘度が高くなり、流動性を低下させてしまうため、シリカ超微粒子(Y)の粒度分布の範囲は、ある程度広いことが望ましい。具体的に、シリカ超微粒子(Y)の粒度分布は、粒度分布の両端である30nm〜50nmの範囲および300nm〜500nmの範囲にある粒子の個数割合が0.5〜10%となるような、広い粒度分布であることが望ましい。
【0018】
粒径50nm〜300nmの範囲に粒度分布の極大値をもつシリカ超微粒子(Y)の粒径は、一般的な赤色レーザーを用いたレーザー回折散乱法などの方法では測定できない。そこで超微粒子(Y)の粒度分布は、電気移動度分級装置(DMA)により超微粒子を分級し、分級された粒子の数を凝縮粒子カウンターで計測する方法により求める。具体的な測定手順は、まず超微粒子を水などの溶媒中に均一分散させ;この分散液をアトマイザーで飛散させ;気流中で粒子を乾燥、帯電させて捕集する。粒子の帯電量は、粒子サイズによって異なるため、捕集器の電圧を変えて捕集することにより、粒子を分級することができる。捕集した粒子数を粒子カウンターで計測して、粒度分布を求める。この方法により、超微粒子を単一粒子に分散して粒径を測定できるため、正確な粒度分布を測定することが可能である。
【0019】
シリカ超微粒子(Y)の粒度分布は、電気移動度分級装置による測定方法以外に、従来の赤外レーザーの代わりに短波長の青色LED等を用いた回折散乱式粒度分布測定方法によって測定することも可能である。レーザー回折散乱法で測定する場合には、超微粒子を溶媒中で均一に分離・分散させることが重要である。500nm以下の超微粒子は凝集性が高く溶媒中で分散させにくいが、十分に分散されていないと、凝集粒子の粒径を単一粒子の粒径として測定してしまうため、正確な粒度分布を測定することができない。凝集粒子を完全に分散させるために、ヘキサメタリン酸塩等の分散剤を使用して、かつ超音波照射を十分に行い、正確な粒度分布を測定する必要がある。
【0020】
また、シリカ超微粒子(Y)の粒度分布は、高分解能走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡を用いた直接観察により、粒径および個数を計測して測定することもできる。この方法を用いる場合には、正確に粒度分布を測定するために、測定する粒子の個数を100個以上、望ましくは500個以上とする。
【0021】
本発明のシリカ粒子におけるシリカ超微粒子(Y)の含有割合は、以下の方法でシリカ粒子からシリカ超微粒子(Y)を分離して求める。まず本発明のシリカ粒子を水中で超音波照射して、シリカ超微粒子(Y)と他の粒子とを分離して、かつ分散させる。分散液を一定時間静置した後、上澄みに残った超微粒子と、沈降した他の粒子とを分離回収し、それぞれ乾燥する。乾燥後の、上澄みに残った超微粒子の重量を測定して、超微粒子(Y)の量とする。この分離方法は、粒子の水中での沈降速度が、粒径によって異なる性質を利用している。粒子の沈降速度(v)は、以下のStokesの式により計算することができる。
【0022】
【数1】

ただし、ρs:固体粒子の密度、ρ:水の密度、η:水の粘度、g:重力の加速度、d:ストークス径
【0023】
この式から、粒径500nm以下のシリカ超微粒子は、水中に24時間静置しても、ほとんど沈降せず上澄みに残ることがわかる。そのため前述の通り、粒径500nm以下のシリカ超微粒子が残っている上澄みと、粒径500nmより大きい沈降したシリカ粒子を分離回収することができる。具体的には、粒径500nmのシリカ超微粒子の沈降距離は、24時間で16mmと計算される。そこで、シリカ超微粒子を含むシリカ粒子と水の混合物を、容器の16.8mmの深さにまで入れて24時間静置すると、超微粒子の95%以上が上澄みに残る。上澄みに残った粒子の乾燥重量を測定することで、シリカ粒子中の粒径500nm以下の超微粒子の量を求めることができる。
【0024】
この測定手法により求めたシリカ超微粒子(Y)の含有割合と、電気移動度分級および粒子カウンター計測により求めたシリカ超微粒子(Y)の粒度分布から、本発明のシリカ粒子に含まれるシリカ超微粒子(Y)の状態を確認することができる。
【0025】
また、粒径50nm〜300nmの範囲に粒度分布の極大値をもつシリカ超微粒子(Y)は、球状粒子であることが望ましい。球状の超微粒子は、不定形の超微粒子と比べて樹脂と混合しやすいため、樹脂中に均一に分散することが可能である。また、球状の超微粒子を混合した樹脂の粘性は低く抑えることができ、流動性の高い樹脂混合物を得ることができる。
【0026】
シリカ超微粒子(Y)は、その製造方法は特に限定されるものではないが、例えば溶射法によれば低コストで製造可能である。封止材用の樹脂組成物等に用いられる球状シリカ粒子は、シリカ原料を2000℃以上の高温で溶射する方法により製造されうる。2000℃以上の高温でシリカ原料を溶射するとシリカの一部が蒸発し、かつ蒸発したシリカが冷却されて凝固し、50nm〜300nmの範囲に極大値をもつシリカ超微粒子(Y)が得られる。得られるシリカ超微粒子の量は、シリカ原料となるシリカ粒子の粒径や、溶射温度等の溶射条件により変化するが、他の超微粒子の製造方法に比べて安価な原料から製造可能であり、低コストで超微粒子を得ることができる。
【0027】
溶射法により得られるシリカ超微粒子は、バグフィルターなどを用いて捕集する。所望の粒径とは異なる粒径のシリカ粒子も含まれているため、超微粒子を分級して捕集することが望ましい。分級方法としては、風力分級、水ひ分級などを用いることができる。生産性、コストの点から風力分級を用いることが望ましい。
【0028】
本発明のシリカ粒子は、粒径50nm〜300nmの範囲に粒度分布の極大値をもつシリカ超微粒子(Y)とともに;粒径範囲500nm〜75μmのシリカ粒子(X)を含む。シリカ粒子(X)は、粒径15μm〜70μmの範囲に粒度分布の極大値をもつシリカ粒子(本発明において「シリカ粒子(X1)」と称する)と、粒径2μm〜10μmの範囲に粒度分布の極大値をもつシリカ粒子(本発明において「シリカ粒子(X2)」と称する)とを含むことが好ましく、それにより樹脂の高い流動性を得ることが可能となる。つまり、粒径15〜70μmの範囲に粒度分布の極大値をもつシリカ粒子(X1)同士の間隙に、粒径2〜10μmの範囲に粒度分布の極大値をもつシリカ粒子(X2)が配置されるので、樹脂組成物におけるシリカの充填率を上げても、シリカ粒子同士の接触による流動性の低下を抑制することができる。そのため、高充填率で流動性の高い樹脂混合物を得ることが可能となる。
【0029】
また、シリカ粒子(X1)およびシリカ粒子(X2)は、いずれも球状であることが望ましく;それにより、樹脂の流動性をより高くすることができる。
【0030】
前記の通り本発明のシリカ粒子は、粒径15μm〜70μmの範囲に粒度分布の極大値をもつ球状シリカ粒子(X1)を含有することが望ましい。粒径15μm未満に粒度分布の極大値をもつ球状シリカ粒子は、粒径が小さすぎるために樹脂と混合したときに粒子同士の接触が多くなり、樹脂組成物の流動性を低下させてしまう。また、粒径70μm超に粒度分布の極大値をもつ球状シリカ粒子を含む樹脂組成物を、半導体封止材として用いると、半導体素子の狭小部に樹脂組成物が侵入しにくくなるとともに、ボンディングワイヤ間を通過する際にワイヤに接触して、ワイヤを屈曲させる原因となる。
【0031】
また、前記の通り本発明のシリカ粒子は、粒径が2μm〜10μmに粒度分布の極大値をもつ球状シリカ粒子(X2)を含有することが望ましい。粒径2μm未満に粒度分布の極大値をもつ球状シリカ粒子は、粒径が小さすぎるために、充填率を上げるために添加する粒子の個数を多くする必要がある。粒子の個数を過剰に多くすると、粒子同士の接触が起こりやすくなるので、樹脂と混合した際に樹脂組成物の流動性を低下させてしまう。粒径2μm〜10μmの範囲に粒度分布の極大値をもつ球状シリカ粒子(X2)が、粒径15μm〜70μmの範囲粒度分布の極大値をもつ球状シリカ粒子(X1)同士の間隙に位置することにより、充填率を上げることが可能となる。しかし、粒径10μm超に粒度分布の極大値をもつ球状シリカ粒子は、球状シリカ粒子(X1)同士の間隙に対して粒径が大きすぎるため、球状シリカ粒子(X1)同士の間隙に位置したときに他の粒子と接触してしまい、高充填としたときに樹脂組成物の流動性低下の原因となる。
【0032】
粒径2μm〜10μmの範囲に粒度分布の極大値をもつ球状シリカ粒子(X2)の粒径は、粒径15μm〜70μmの範囲に粒度分布の極大値をもつ球状シリカ粒子(X1)の粒径に対して、1/2以下であることが更に望ましい。前記比率が1/2より大きいと、球状シリカ粒子(X1)同士の間隙に対して、球状シリカ粒子(X2)の粒径が大きく、粒子同士の接触が生じて流動性を低下させてしまう。球状シリカ粒子(X1)および(X2)の粒径とは、それぞれの粒度分布の極大値に対応する粒径をいう。
【0033】
本発明のシリカ粒子の0.5〜10質量%が、粒径50nm〜300nmの範囲に粒度分布の極大値をもつシリカ超微粒子(Y)であり;本発明のシリカ粒子の90質量%以上が、球状シリカ粒子(X1)と球状シリカ粒子(X2)とを含むシリカ粒子(X)とする。それにより本発明のシリカ粒子は、樹脂中に高充填されても樹脂組成物の高流動性を損なわないフィラーとなる。
【0034】
粒径50nm〜300nmに極大値をもつシリカ超微粒子(Y)とともに、本発明のシリカ粒子に含まれるシリカ粒子(X)は、球状シリカ粒子(X1)と、球状シリカ粒子(X2)と、さらに粒径0.5μm〜1μmの範囲に粒度分布の極大値をもつ球状シリカ粒子(本発明において「シリカ粒子(X3)」と称する)を含んでいてもよい。それにより、本発明のシリカ粒子は、樹脂組成物により高い流動性を付与することができる。また、球状シリカ粒子(X3)を添加した本発明のシリカ粒子を含む樹脂組成物を用いて半導体封止をすると、金型の隙間で発生するバリを低減する効果も得られる。
【0035】
球状シリカ粒子(X3)は、粒径15μm〜70μmの範囲に粒度分布の極大値をもつ球状シリカ粒子(X1)と、粒径2μm〜10μmの範囲に粒度分布の極大値をもつ球状シリカ粒子(X2)との間隙に位置することで、同種の粒子同士の接触を抑制する。それにより、本発明のシリカ粒子を含む樹脂組成物は、高流動性が得られる。
【0036】
粒径0.5μm未満に粒度分布の極大値をもつシリカ粒子は、粒径50nm〜300nmの範囲に粒度分布の極大値をもつシリカ超微粒子(Y)とともに、樹脂と一体化して流動する。そのため、球状シリカ粒子(X1)と球状シリカ粒子(X2)との間隙に位置して粒子充填率を高めるという利点が得られず、また樹脂組成物の粘度を上昇させて高流動性が得られない。また、粒径1μm超に粒度分布の極大値をもつシリカ粒子は、球状シリカ粒子(X1)と球状シリカ粒子(X2)との間隙に対して大きいため、粒子同士の接触が起こりやすくなり、流動性が低下してしまうとともに、バリを低減する効果も十分に得ることができない。
【0037】
本発明のシリカ粒子は、フィラーとして樹脂組成物に含有されてもよい。樹脂組成物を封止材として用いる場合、樹脂はo'−クレゾールノボラック樹脂、ビフェニル樹脂などを用いることができるが、樹脂の種類は特にこれらに限定されるものではない。
【0038】
本発明のシリカ粒子の、樹脂組成物における含有量は、50質量%〜96質量%であることが好ましい。シリカ粒子の含有量が50質量%より少ない樹脂組成物は、例えば封止材として使用する際、熱伝導性、強度、熱膨張率等の、フィラーとしてのシリカ粒子に求められる特性が十分に得られない。一方、シリカ粒子の含有量が96質量%より多くなると、シリカ粒子同士が接触してしまうために、著しく流動性が低下してしまう。
【0039】
さらに、樹脂組成物におけるシリカ超微粒子(Y)の含有量も重要である。具体的に、本発明のシリカ粒子に含まれるシリカ超微粒子(Y)の、樹脂組成物における含有量は、樹脂に対して2〜30体積%であることが好ましい。前述したように、シリカ超微粒子(Y)は樹脂と一体となって流動することができる。シリカ超微粒子(Y)の樹脂に対する含有量が2体積%より少ないと、シリカ粒子の充填率を上げるために、他の粒径のシリカ粒子(例えば、シリカ粒子(X))の添加量を上げなければいけないため、シリカ粒子の充填率を上げた樹脂組成物に高い流動性を付与することができない。一方、シリカ超微粒子(Y)の樹脂に対する含有量が30体積%より多いと、樹脂との混合により急激に樹脂組成物の粘度が上昇するために、流動性が著しく低下してしまう。
【0040】
樹脂組成物における樹脂に対するシリカ超微粒子(Y)の含有量(体積%)は、「シリカ超微粒子(Y)の体積/(シリカ超微粒子(Y)の体積+樹脂の体積)」で求めればよい。シリカ超微粒子(Y)の含有量(体積%)は、樹脂と超微粒子(Y)が一体化した混合物とみなし、この混合物中の超微粒子(Y)の体積%を規定したものである。具体的には、樹脂組成物全体に対する樹脂の質量%およびシリカ超微粒子(Y)の質量%と、それぞれの比重から算出することができる。
【0041】
以上述べたように、本発明のシリカ粒子は、樹脂組成物に高流動性を付与するフィラーとして用いることができる。つまり、本発明のシリカ粒子を樹脂と混合することにより、高流動性、高熱伝導率、低熱膨張率の樹脂混合物を得ることが可能となる。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の実施例および比較例を示す。本発明の範囲は、これらの実施例または比較例によって限定して解釈されることはない。
【0043】
(実施例1)
表1に示すサンプルNo.1〜9の樹脂組成物を得た。
まず、粒度分布の極大値が30μmである球状シリカ粒子Aと、粒度分布の極大値が9μmである球状シリカ粒子Bと、粒度分布の極大値が0.8μmである球状シリカ粒子Cと、粒度分布の極大値が150nmの不定形シリカ超微粒子Dとを、表1に示す割合で混合してシリカ粒子を得た。
【0044】
次に、o’−クレゾールノボラック樹脂に対して、硬化剤(ノボラックフェノール樹脂)32.5質量%、硬化促進剤(トリフェニルホスフィン)1.3質量%、カルナバワックス1.3質量%、カーボンブラック0.3質量%を加えた樹脂混合物に、前記シリカ粒子を混合して、シリカ粒子の充填率を85質量%として、サンプルNo.1〜9の樹脂組成物を得た。
【0045】
樹脂に対する超微粒子Dの含有量(体積%)は、樹脂組成物における樹脂の質量%(15質量%)と樹脂の比重とから樹脂の体積を算出し;一方、樹脂組成物における超微粒子Dの質量%(「シリカ粒子における超微粒子Dの質量%×0.85」である)と、シリカの比重とから超微粒子Dの体積を算出した。算出した体積から、樹脂に対する超微粒子Dの含有量(体積%)を求めた(表1)。
【0046】
サンプルNo.1〜9の樹脂組成物をそれぞれ、二軸押出混練機で100℃の温度で加熱して溶融させながら混練した。得られた混練物を冷却ロールで圧延、冷却した後、粉砕して樹脂材料を得た。得られた樹脂材料のスパイラルフロー値を測定し、流動性を評価した結果を表1に示す。スパイラルフロー値は、EIMS(電気機能材料工業会規格)T−901に準拠したスパイラルフロー測定用金型を取り付けたトランスファー成形機を用いて、温度175℃、成形圧力6.9MPa、保圧時間180秒の条件で測定した。
【0047】
表1に示されるように、シリカ粒子全体における不定形シリカ超微粒子Dの含有量が、0.5〜10質量%の範囲内にある実施例(サンプルNo.1,2,5および6)では、スパイラルフロー値が95cm以上であり、高い流動性が得られた。一方、シリカ粒子全体における超微粒子Dの含有量が10質量%を超えるか、あるいは超微粒子Dを含まない比較例(サンプルNo.3,4,7,8および9)では、実施例に比べて相対的に流動性が低かった。
【0048】
また、粒度分布の極大値が0.8μmの球状シリカ粒子Cを含む例(サンプルNo.5〜9)では、球状シリカ粒子Cを含まない例(サンプルNo.1〜4)と比較して流動性が高い。特に、サンプルNo.5および6では、適当量のシリカ超微粒子Dを含み、かつ球状シリカ粒子Cを含むため、極めて高い流動性が得られた。
【0049】
さらに表中に示されてはいないが、粒度分布の極大値が150nmの不定形シリカ超微粒子Dの代わりに、粒度分布の極大値が40nmの不定形シリカ超微粒子を用いたこと以外は、サンプルNo.1およびサンプルNo.2と同様の樹脂組成物を製造し、スパイラルフロー値を求めた。それぞれのスパイラルフロー値は87cm、65cmとなり、サンプルNo.1およびサンプルNo.2と比較して、著しく流動性が低下した。
【0050】
【表1】

【0051】
(実施例2)
表2に示すサンプルNo.10〜18の樹脂組成物を得た。
まず、粒度分布の極大値が30μmである球状シリカ粒子Aと、粒度分布の極大値が9μmである球状シリカ粒子Bと、粒度分布の極大値が0.8μmである球状シリカ粒子Cと、粒度分布の極大値が150nmの球状シリカ超微粒子D'を、表2に示す割合で混合してシリカ粒子を得た。
【0052】
次に、o'−クレゾールノボラック樹脂に対して、硬化剤(ノボラックフェノール樹脂)32.5質量%、硬化促進剤(トリフェニルホスフィン)1.3質量%、カルナバワックス1.3質量%、カーボンブラック0.3質量%を加えた樹脂混合物に、前記シリカ粒子を混合して、シリカ粒子の充填率を85質量%として、サンプルNo.10〜18の樹脂組成物を得た。
【0053】
サンプルNo.10〜18の樹脂組成物をそれぞれ、二軸押出混練機で100℃の温度で加熱して溶融させながら混練した。得られた混練物を冷却ロールで圧延、冷却した後、粉砕して樹脂材料を得た。得られた樹脂材料のスパイラルフロー値を測定し、流動性を評価した結果を表2に示す。スパイラルフロー値は、実施例1と同様の条件で測定した。
【0054】
表2に示されるように、シリカ粒子全体における超微粒子D'の含有量が、0.5〜10質量%の範囲内にある実施例(サンプルNo.10,11,14および15)では、スパイラルフロー値が100cmを超え、高流動性が得られた。一方、シリカ粒子全体における超微粒子D'の含有量が10質量%を超えるか、あるいは超微粒子D'を含まない比較例(サンプルNo.12,13,16,17および18)では、実施例に比べて相対的に流動性が低かった。
【0055】
また、粒度分布の極大値が0.8μmの球状シリカ粒子Cを含む例(サンプルNo.14〜18)は、球状シリカ粒子Cを含まない例(サンプルNo.10〜13)と比較して流動性が高い。特に、サンプルNo14および15では、適当量のシリカ超微粒子D’を含み、かつシリカ粒子Cを含むため、極めて高い流動性が得られた。
【0056】
【表2】

【0057】
(実施例3)
表3に示すサンプルNo.19〜26の樹脂組成物を得た。
まず、粒度分布の極大値が30μmである球状シリカ粒子Aと、粒度分布の極大値が9μmである球状シリカ粒子Bと、粒度分布の極大値が0.8μmである球状シリカ粒子Cと、粒度分布の極大値が150nmのシリカ超微粒子D''を、表3に示す割合で混合してシリカ粒子を得た。
【0058】
次に、o'−クレゾールノボラック樹脂に対して、硬化剤(ノボラックフェノール樹脂)34.1質量%、硬化促進剤(トリフェニルホスフィン)1.3質量%、カルナバワックス1.3質量%、カーボンブラック0.3質量%を加えた樹脂混合物に、前記シリカ粒子を混合して、シリカ粒子の充填率を90質量%として、サンプルNo.19〜26の樹脂組成物を得た。
【0059】
サンプルNo.19〜26の樹脂組成物をそれぞれ、実施例1と同様の方法で混合、冷却、粉砕して樹脂材料を得た。得られた樹脂材料のスパイラルフロー値を実施例1と同様の方法で測定した結果を表3に示す。
【0060】
表3に示されるように、実施例1および2の場合と同様に、シリカ粒子全体における超微粒子D’’の含有量が、0.5〜10質量%の範囲内にある実施例(サンプルNo.19,20,23および24)では、いずれもスパイラルフロー値が110cmを超え、高流動性が得られた。一方、シリカ粒子全体における超微粒子D’’の含有量が10質量%を超えるか、あるいは超微粒子D'を含まない比較例(サンプルNo.21,22,25,26)では、実施例に比べて流動性が低い。
【0061】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のシリカ粒子は、樹脂組成物に高充填率に添加されても、樹脂組成物の流動性を低下させにくい。よって本発明のシリカ粒子を含む樹脂組成物は、高熱伝導性、高強度、低熱膨張率を有し、半導体封止用などの樹脂組成物として有効に用いられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径範囲500nm〜75μmのシリカ粒子(X)を90質量%以上含有し、かつ
粒径50nm〜300nmの範囲に粒度分布の極大値をもち、かつその95質量%以上が粒径範囲30nm〜500nmのシリカ超微粒子(Y)を0.5〜10質量%含有することを特徴とするシリカ粒子。
【請求項2】
前記シリカ超微粒子(Y)の粒子の形状が球状であることを特徴とする、請求項1に記載のシリカ粒子。
【請求項3】
前記シリカ粒子(X)が、粒径15μm〜70μmの範囲に粒度分布の極大値をもつ球状シリカ粒子(X1)と、粒径2μm〜10μmの範囲に粒度分布の極大値をもつ球状シリカ粒子(X2)とを含有することを特徴とする、請求項1または2に記載のシリカ粒子。
【請求項4】
前記シリカ粒子(X)が、粒径500nm超〜1μmの範囲に粒度分布の極大値をもつ球状シリカ粒子(X3)をさらに含有することを特徴とする請求項3に記載のシリカ粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のシリカ粒子を、樹脂中に50〜96質量%混合して構成される樹脂組成物であって、かつ
前記シリカ超微粒子(Y)が、前記樹脂に対して2〜30体積%含まれることを特徴とする樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−275138(P2010−275138A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127805(P2009−127805)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【出願人】(397080173)株式会社マイクロン (7)
【Fターム(参考)】