説明

シートバック

【課題】車両の衝突でサイドエアバッグが膨張展開した際に、前記被破断部が必要以上に上下に大きく破断開口することを回避でき、前記被破断部の上記のような破断開口に起因するサイドエアバッグの着座者への到達時間の遅れを抑制でき、工数を少なくすることができ、縫製糸の管理を簡単にできるシートバックを提供する。
【解決手段】表皮材の一対の端末11A,12A同士を縫製して成る縫製部5が側面に設けられ、縫製部5に被破断部6が設けられ、被破断部6を破断して膨張展開するサイドエアバッグを内蔵しているシートバックであって、被破断部6の長手方向の端部では、表皮材の一対の端末11A,12Aのうちいずれか一方の端末11Aに形成された突出片13が他方の端末12Aを巻き込んで縫製されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
表皮材の一対の端末同士を縫製して成る縫製部が側面に設けられ、
前記縫製部に被破断部が設けられ、
前記被破断部を破断して膨張展開するサイドエアバッグを内蔵しているシートバックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上記のシートバックでは、車両の衝突時にサイドエアバッグが前記被破断部を円滑に破断して瞬時に膨張展開できるように、被破断部の表皮材の一対の端末のみを引張強度の低い縫製糸で縫製してあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−129394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の構造では、前記被破断部の長手方向の両端部の縫製強度が十分ではなく、車両の衝突でサイドエアバッグが膨張展開した際に、被破断部の上側や下側の被破断部以外の部分まで開口が広がり、エアバッグが上下方向に広がる虞があった。
また、縫製工程で被破断部と被破断部以外の部分との縫製糸を変えなければならないために工数が増え、さらに、縫製糸の種類が複数になるために縫製糸の管理が煩雑になっていた。
本発明は上記実状に鑑みて成されたもので、その目的は、車両の衝突でサイドエアバッグが膨張展開した際に、前記被破断部が必要以上に上下に大きく破断開口することを回避でき、前記被破断部の上記のような破断開口に起因するサイドエアバッグの着座者への到達時間の遅れを抑制でき、工数を少なくすることができ、縫製糸の管理を簡単にできるシートバックを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の特徴は、
表皮材の一対の端末同士を縫製して成る縫製部が側面に設けられ、
前記縫製部に被破断部が設けられ、
前記被破断部を破断して膨張展開するサイドエアバッグを内蔵しているシートバックであって、
前記被破断部の長手方向の端部では、前記表皮材の一対の端末のうちいずれか一方の端末に形成された突出片が他方の端末を巻き込んで縫製されている点にある。(請求項1)
【0006】
上記の構成により、前記被破断部の長手方向の端部では、縫い代が3枚重なった重なり部が縫製されることから縫製強度が高まる。
また、前記突出片が他方の端末を巻き込んで縫製されていることで、互いに重なった各縫い代が開く方向に荷重がかかっても、縫製糸の破断、又は被破断部の表皮材の破断が前記突出片で止まり、被破断部の安定した開口長さを確保できる。
その結果、車両の衝突でサイドエアバッグが膨張展開した際に、前記被破断部が必要以上に上下に大きく破断開口することを回避でき、前記被破断部のこのような破断開口に起因するサイドエアバッグの着座者への到達時間の遅れを抑制できる。
そして、前記突出片を、表皮材の一対の端末を縫い合わせる際の位置決めとしても活用できる。例えば、他方の端末の前記突出片に対応する位置にノッチ(三角形状の切欠き)などを形成することにより、ノッチと突出片を合わせて位置決めを行なう様にすることができる。これにより、縫製作業の作業性を向上させることができる。
サイドエアバック有無の設定がある機種において、サイドエアバックの有無の仕様により表皮材を変えている場合は、前記突出片がエアバック有りの目印となる事で、誤組み付けの防止になる。(サイドエアバッグ有りの表皮材の場合、表皮材の表側にエアバッグを表示するタグが付けられている場合が多いが、表皮材をシートバックパッドに被せる時は、表皮材が裏返しになっていることが多い為、このタグが確認できない。)
そして、縫製工程で被破断部と被破断部以外の部分との縫製糸を変える必要がないことから工数を少なくすることができる。
さらに、縫製糸の種類を増加させる必要がなくて縫製糸の管理を簡単にすることができる。(請求項1)
【0007】
本発明において、
前記表皮材は、着座者の背中を受け止めるセンターサポート部を覆うメイン材と、着座者を幅方向で保持するサイドサポート部を覆うサイド材と、前記センターサポート部とサイドサポート部を側方から覆うマチ材とを備え、
前記いずれか一方の端末は、前記側面の長手方向に沿う前記マチ材の端末であり、他方の端末は、前記側面の長手方向に沿う前記サイド材の端末であると、次の作用を奏することができる。(請求項2)
【0008】
一例として、図5に示すように、マチ材11は複数枚が一枚の素材20から裁断される。この場合、前記突出片13を表皮材の端材部に収まるように設ける事で表皮材の歩留まりを悪化させる事なく性能を確保できる。
すなわち、図1に示すように、前記サイドエアバッグ30の膨張展開位置(被破断部6の位置)より上側と下側のシートバック1の上端部と下端部は、シート後方側(図5において紙面下側)に傾斜したり湾曲したりすることが多い。
そのために、マチ材11の前記端末11Aの上下両端部(図5において端末11Aの紙面左側の端部と右側の端部)が上下方向中間部よりもシート後方側に位置するデザインになる。
これにより、廃棄される端材となる個所(前記端末11Aの上下両端部のシート前方側の部分)に前記突出片13を形成することができて、歩留まりを悪くすることなく、マチ材11に前記突出片13を形成することができる。(請求項2)
【0009】
本発明において、
前記突出片は前記マチ材の端末に設けられていると、次の作用を奏することができる。(請求項3)
【0010】
一例として、図5に示すように、マチ材11は複数枚が一枚の素材20から裁断される。この場合、前記突出片13を表皮材の端材部に収まるように設ける事で表皮材の歩留まりを悪化させる事なく性能を確保できる。
すなわち、図1に示すように、前記サイドエアバッグ30の膨張展開位置(被破断部6の位置)より上側と下側のシートバック1の上端部と下端部は、シート後方側(図5において紙面下側)に傾斜したり湾曲したりすることが多い。
そのために、マチ材11の前記端末11Aの上下両端部(図5において端末11Aの紙面左側の端部と右側の端部)が上下方向中間部よりもシート後方側に位置するデザインになる。
これにより、廃棄される端材となる個所(前記端末11Aの上下両端部のシート前方側の部分)に前記突出片13を形成することができて、歩留まりを悪くすることなく、マチ材11に前記突出片13を形成することができる。(請求項3)
【0011】
本発明において、
前記突出片は前記表皮材の他方の端末に返し縫いされていると、次の作用を奏することができる。(請求項4)
【0012】
さらに縫製強度を高めることができる。その結果、車両の衝突でサイドエアバッグが膨張展開した際に、前記被破断部が必要以上に上下に大きく破断開口することをより確実に回避でき、前記被破断部のこのような破断開口に起因するサイドエアバッグの着座者への到達時間の遅れをより確実に抑制できる。また、前記突出片は返し縫いする位置の目印になる。(請求項4)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、
車両の衝突でサイドエアバッグが膨張展開した際に、前記被破断部が必要以上に上下に大きく破断開口することを回避でき、前記被破断部のこのような破断開口に起因するサイドエアバッグの着座者への到達時間の遅れを抑制でき、縫製作業の作業性を向上させることができ、誤組み付けを防止でき、工数を少なくすることができ、縫製糸の管理を簡単にすることができるシートバックを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】シートバックの斜視図
【図2】図1のA−A断面図
【図3】表皮材のパーツ展開図(マチ材とサイド材を示す図)
【図4】表皮材の一対の端末同士を縫製して成る縫製部を示す斜視図
【図5】表皮材の裁断レイアウト図
【図6】別実施形態の縫製部の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
図1に、サイドエアバッグ30を内蔵する車両のシートバック1を示してある。シートバック1はシートクッション(図示せず)と共に車両用シートを構成する。このシートバック1は、着座者の背中を受け止めるセンターサポート部2と、センターサポート部2の両側部からシート前方側に隆起し、着座者の上半身を幅方向で保持する左右一対のサイドサポート部3とを備え、センターサポート部2の上端部に、着座者の頭部を支持するヘッドレスト4が連結している。
【0016】
シートバック1の表皮材は、前記センターサポート部2を覆うメイン材と、サイドサポート部3を覆うサイド材12(図3参照)と、センターサポート部2とサイドサポート部3(シートバック本体)を側方から覆うマチ材11(図3参照)とを備えて袋状に形成され、シートバックパッドに被せられる。表皮材はレザーで形成されている。表皮材が布材で形成されていてもよく、レザーや布材以外の部材で形成されていてもよい。
【0017】
図1,図3,図4に示すように、側面1S(シートバック側面)の長手方向に沿うマチ材11の端末11Aと、前記側面1Sの長手方向に沿うサイド材12の端末12Aとを縫製して成る縫製部5が前記側面1Sに設けられている。図2,図4の符号Lは縫着ラインである。
【0018】
また、車両が衝突した際に前記サイドエアバック30の膨張展開により破断する被破断部6(図1に太線の破線で示してある)が、縫製部5の上端部側から下端部側にわたって、サイドエアバッグ30の上下方向の長さよりも上下方向に長く設けられている。
【0019】
図2〜図4に示すように、前記被破断部6の長手方向の両端部(上端部6Jと下端部6K、図1参照)では、マチ材11の端末11Aの上下両端部に形成された四角形の突出片13がサイド材12の端末12Aを巻き込んで縫製されている。
一般的な縫い代の幅は7mm程度である為、充分に縫い代を覆って縫製するために、突出片13の大きさは縦横略15mmに設定されている。突出片13の大きさが前記数値以外の数値に設定されていてもよい。
【0020】
膨張展開するサイドエアバッグ30で縫製糸を破断することにより被破断部6を破断する場合は、縫製ピッチを大きくすれば縫製糸が破断しやすくなることから、本実施形態では、被破断部6の縫製ピッチを被破断部6以外の縫製部5の部分の縫製ピッチよりも大きく設定してある。
【0021】
また、縫製ピッチを小さくすると表皮材に開けられるミシン穴が多くなり、このミシン穴を起点として表皮材が破れやすくなることから、被破断部6の縫製ピッチを被破断部6以外の縫製部5の部分の縫製ピッチよりも小さくしてあってもよい。
【0022】
被破断部6の縫製ピッチと被破断部6以外の縫製部5の部分の縫製ピッチとを異ならせる場合、前記突出片13を目印として縫製ピッチの変化点としても活用する事ができ、縫製作業の作業性を向上させることができる。
【0023】
前記サイドエアバッグ30は縫製部5の上下方向の中心から縫製糸を破り、上下方向に破れを進展させて被破断部6に開口を形成し、この開口から着座者側に向かって膨張展開する。
【0024】
図5に示すように、マチ材11は複数枚(本実施形態では8枚)が一枚の素材20から裁断される。この場合、前記突出片13を表皮材の端材部に収まるように設ける事で表皮材の歩留まりを悪化させる事なく性能を確保できる。
【0025】
すなわち、前記サイドエアバッグ30の膨張展開位置(被破断部6の位置)より上側と下側のシートバック1の上端部と下端部は、シート後方側(図5において紙面下側)に傾斜するとともに湾曲している。
そのために、マチ材11の前記端末11Aの上下両端部(図5において端末11Aの紙面左側の端部と右側の端部)が上下方向中間部よりもシート後方側に位置するデザインになる。
これにより、廃棄される端材となる個所(前記端末11Aの上下両端部のシート前方側の部分)に前記突出片13を形成することができて、歩留まりを悪くすることなく、マチ材11に前記突出片13を形成することができる。
【0026】
上記の構成により、
前記被破断部6の上下両端部では、縫い代が3枚重なった重なり部が縫製されることから(図2参照)縫製強度が高まる。
【0027】
また、マチ材11の端末11Aの上下両端部に形成された四角形の突出片13がサイド材12の端末12Aを巻き込んで縫製されていることで、互いに重なった各縫い代が開く方向に荷重がかかっても、縫製糸の破断、又は被破断部6の表皮材の破断が前記突出片13で止まり、被破断部6の安定した開口長さを確保できる。
【0028】
その結果、車両の衝突でサイドエアバッグ30が膨張展開した際に、前記被破断部6が必要以上に上下に大きく破断開口することを回避でき、前記被破断部6のこのような破断開口に起因するサイドエアバッグ30の着座者への到達時間の遅れを抑制できる。
【0029】
そして、前記突出片13を、表皮材の一対の端末(マチ材11の端末11Aとサイド材12の端末12A)を縫い合わせる際の位置決めとしても活用できる。例えば、他方の端末(サイド材12の端末12A)の前記突出片13に対応する位置にノッチ(三角形状の切欠き)などを形成することにより、ノッチと突出片13を合わせて位置決めを行なう様にすることができる。これにより、縫製作業の作業性を向上させることができる。
【0030】
サイドエアバック30の有無の設定がある機種において、サイドエアバック30の有無の仕様により表皮材を変えている場合は、前記突出片13がサイドエアバック30有りの目印となる事で、誤組み付けの防止になる。(サイドエアバッグ30有りの表皮材の場合、表皮材の表側にサイドエアバック30を表示するタグが付けられている場合が多いが、表皮材をシートバックパッドに被せる時は、表皮材が裏返しになっていることが多い為、このタグが確認できない。)
【0031】
そして、縫製工程で被破断部6と被破断部6以外の部分との縫製糸を変える必要がないことから工数を少なくすることができる。さらに、縫製糸の種類を増加させる必要がなくて縫製糸の管理を簡単にすることができる。
【0032】
[別実施形態]
(1) 図6に示すように、前記突出片13はサイド材12の端末12Aに返し縫いされていてもよい。表皮材の一対の端末(マチ材11の端末11Aとサイド材12の端末12A)を縫い合わせる際に突出片13の箇所だけ返し縫いする。符号7は返し縫いされた部分である。このように突出片13を返し縫いすることで、部分的に縫製強度を高める事ができる。
その結果、車両の衝突でサイドエアバッグ30が膨張展開した際に、被破断部6が必要以上に上下に大きく破断開口することをより確実に回避でき、被破断部6のこのような破断開口に起因するサイドエアバッグ30の着座者への到達時間の遅れをより確実に抑制できる。
前記突出片13は返し縫いする位置の目印になる。
【0033】
(2) 前記突出片13は、被破断部6の上端部6Jで一方の表皮材の端末に設けられ、被破断部6の下端部6Kで他方の表皮材の端末に設けられていてもよい。
【0034】
(3) 前記表皮材の端末はマチ材やサイド材以外の部材の端末であってもよい。
【符号の説明】
【0035】
1S 側面
2 センターサポート部
3 サイドサポート部
5 縫製部
6 被破断部
11 マチ材
11A 端末(マチ材の端末、一方の端末)
12 サイド材
12A 端末(サイド材の端末、他方の端末)
13 突出片
30 サイドエアバッグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮材の一対の端末同士を縫製して成る縫製部が側面に設けられ、
前記縫製部に被破断部が設けられ、
前記被破断部を破断して膨張展開するサイドエアバッグを内蔵しているシートバックであって、
前記被破断部の長手方向の端部では、前記表皮材の一対の端末のうちいずれか一方の端末に形成された突出片が他方の端末を巻き込んで縫製されているシートバック。
【請求項2】
前記表皮材は、着座者の背中を受け止めるセンターサポート部を覆うメイン材と、着座者を幅方向で保持するサイドサポート部を覆うサイド材と、前記センターサポート部とサイドサポート部を側方から覆うマチ材とを備え、
前記いずれか一方の端末は、前記側面の長手方向に沿う前記マチ材の端末であり、他方の端末は、前記側面の長手方向に沿う前記サイド材の端末である請求項1記載のシートバック。
【請求項3】
前記突出片は前記マチ材の端末に設けられている請求項2記載のシートバック。
【請求項4】
前記突出片は前記表皮材の他方の端末に返し縫いされている請求項1から3のいずれか一つに記載のシートバック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−100066(P2013−100066A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246117(P2011−246117)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】