説明

シーム溶接機の電極整形方法及び装置

【課題】ハンチングの発生を防止し、整形ローラによって円板状電極を常時真円状態に整形して、溶接品質の確保ができるシーム溶接機の電極整形方法及び装置を提供する。
【解決手段】整形ローラ12を空圧シリンダー25を用いた押圧機構13によって円板状電極11に押し付ける第1工程と、ロック機構14を用いて空圧シリンダー25のロックを行って円板状電極11に当接した整形ローラ12の位置を保持した状態で、円板状電極11のドレッシングを行う第2工程とを有し、第2工程のドレッシング中に第1工程の整形ローラ12の押し付け動作を短時間入れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対となって回転駆動される円板状電極の間にワーク(被溶接物)を押圧挟持した状態で連続溶接を行うシーム溶接機の電極整形方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1、特許文献2にも記載されているように、シーム溶接を行う場合の上下の円板状電極の近傍には、周囲にローレット(刻み目)加工を施した断面逆円錐台状の溝を有し、回転駆動される整形ローラ(ナール)がそれぞれ配置され、この整形ローラを空圧シリンダーによって円板状電極に押し付けて、溶接後の円板状電極のドレッシングが行われていた。
【0003】
【特許文献1】特開2003−112268号公報
【特許文献2】特開平8−47782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、回転駆動される整形ローラを、回転駆動される円板状電極に空圧シリンダーによって押し付けてドレッシングを行うと、両者の回転速度によっては整形ローラが円板状電極から弾かれるというハンチング動作を起こすことがあり、整形後の円板状電極の真円度が保てないという問題があった。
そこで、このハンチングを防止するために、空圧シリンダーと油圧シリンダーを組み合わせたハイブリッド構造にし、空圧シリンダーの加圧を油圧シリンダーに伝え、油圧シリンダーによって整形ローラを押圧し、ハンチングが発生した場合の油の戻りを防止するために油の流路にチェッキ弁を設けたものを試作した。
【0005】
これによって、ハンチングはかなり解消され、ハンチングが発生した場合に、油が戻り、これによってチェッキ弁が閉じる。しかし、チェッキ弁が閉じるのにも多少の逆方向に流れる油を必要とし、この油によってハンチングが発生することが分かった。
ここで、空圧シリンダーの代わりに油圧シリンダーを使用することも考えられるが、油圧源を必要とし、装置が大型化するという問題がある。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、ハンチングの発生を防止し、整形ローラによって円板状電極を常時真円状態に整形して、溶接品質の確保が可能となるシーム溶接機の電極整形方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う第1の発明に係るシーム溶接機の電極整形方法は、第1の回転動力源によって回転駆動されるシーム溶接機の円板状電極に第2の回転動力源によって回転駆動される整形ローラを押し付け、前記円板状電極のドレッシングを行うシーム溶接機の電極整形方法において、前記整形ローラを空圧シリンダーを用いて前記円板状電極に押し付ける第1工程と、前記空圧シリンダーのロックを行って前記円板状電極に当接した前記整形ローラの位置を保持した状態で、前記円板状電極のドレッシングを行う第2工程とを有し、該第2工程のドレッシング中に前記第1工程の前記整形ローラの押し付け動作を短時間入れる。
【0007】
即ち、空圧シリンダーによって整形ローラを円板状電極に押し付け、その後に空圧シリンダーをロックするので、整形ローラは押し付け位置に固定され、整形時に円板状電極から整形ローラに押し返し反力がかかっても、整形ローラは動かず、ハンチングは発生しない。そして、ドレッシング中に空圧シリンダーを短時間解放して整形ローラの押し付けを行うと、整形ローラが押し付けられてその位置に固定される。ここで、短時間とは電気信号によって電磁弁が作動し、空圧シリンダーに供給されるエアを制御し、空圧シリンダーのロックが解放されて整形ローラが円板状電極への押し付けを完了するまでの時間であるから、例えば、0.2〜2秒(より好ましくは、上限は1.5秒又は1秒)程度であり、短すぎると整形ローラの円板状電極への押し付けが確実でなくなり、長すぎると整形ローラが円板状電極に押し付けられた後、ハンチングを起こす可能性がある。
【0008】
第1の発明に係るシーム溶接機の電極整形方法において、前記円板状電極の整形は、一つのワークの溶接が完了した後に行われ、一回の電極整形処理に前記第1工程と前記第2工程の処理が複数回行われるのが好ましい。これによって、円板状電極の整形中に整形ローラの位置調整が行われることになり、円板状電極がより真円に近い形で整形される。
【0009】
第2の発明に係るシーム溶接機の電極整形装置は、第1の回転動力源によって回転駆動されるシーム溶接機の円板状電極に第2の回転駆動源によって回転駆動される整形ローラを押し付け、前記円板状電極のドレッシングを行うシーム溶接機の電極整形装置において、前記整形ローラを前記円板状電極に押し付ける空圧シリンダーを用いた押圧機構と、
前記空圧シリンダーの押圧状態をロックするロック機構とを有し、前記ロック機構を定期的に解いて、前記円板状電極に対する前記整形ローラの位置を調整する。なお、ここで、定期的にとは、例えば、円板状電極が1回転する時間をtとすると、nt(ここで、1<n<4であって2、3の整数を除く)とするのがよく、実際の操業においては、1)ロック機構を解く時間(即ち、空圧シリンダーを作動させて整形ローラを円板状電極に押圧する時間)、及び2)空圧シリンダーの押圧状態を解く時間の頻度の調整はタイマー調整により行う。
【0010】
また、第2の発明に係るシーム溶接機の電極整形装置において、前記ロック機構は空圧操作であって、前記空圧シリンダーに前記ロック機構が内蔵されているのが好ましい。これによって、空圧シリンダーのロック及びロック解除の時間を短くすることができると共に、装置がコンパクト化する。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明に係るシーム溶接機の電極整形方法及び第2の発明に係るシーム溶接機の電極整形装置によって、整形ローラによって円板状電極がハンチングを起こすことなくドレッシングが行われ、これによって、真円度の高い円板状電極の維持が可能となり、製品に対する溶接品質も確保される。
更には、装置の回転動力源として、溶接機本体の加圧源として使用されているエア源を用いた場合は、装置自体の簡略化ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係るシーム溶接機の電極整形装置の背面図、図2は同装置の側面図、図3は同装置の部分断面図、図4は同装置の空圧回路の説明図である。
【0013】
シーム溶接機は一般に図示しない空圧シリンダーによって昇降する上部電極とこれと対となる下部電極とを有し、上部電極及び下部電極のそれぞれに本発明の一実施の形態に係るシーム溶接機の電極整形装置10が設けられているが、これらは実質的に同一構造であるので、以下、下部電極についてのみ説明する。
図1、図2に示すように、本発明の一実施の形態に係るシーム溶接機の電極整形装置10は、下部電極となる円板状電極11に整形ローラ12を押し付ける押圧機構13と、この押圧状態をロックするロック機構14とを有している。以下、これらについて詳しく説明する。
【0014】
円板状電極11は、ガイドロッド15に支持される台座17に絶縁部材を介して取付けられた軸受ハンジング18に回転自由に取付けられた水平軸19に固定され、減速機付きのエアモータ(第1の回転動力源の一例)によって回転駆動される図示しない駆動ローラが当接し、回転駆動されている(特許文献2参照)。
台座17に絶縁部材を介して固定支持架台20が取付けられ、固定支持架台20に回転自由に設けられたピン21を介して回動支持架台22が回動可能に取付けられている。回動支持架台22は背面視して「く」字状となってその一端部に整形ローラ12が固定された駆動軸23が、他端部には押圧機構13の一部を構成する空圧シリンダー25のピストンロッド24の先部に固着される先端金具26がピン27を介して取付けられ、その中央部に前記したピン21が固着されている。
【0015】
回動支持架台22の一端部にはハウジング28が形成され、図3に示すように、その一部に駆動軸23の両側を支持するベアリング29、30が設けられ、駆動軸23の他端部には歯車31が固着されている。駆動軸23の一端部に固定されている整形ローラ12は中央の平ローラ板32とその両側の側ローラ板33、34によって形成され、側ローラ板33、34の内側斜面に多数の刻み目が形成されて、円板状電極11のドレッシングを行うようになっている。
【0016】
また、ハウジング28には歯車31に噛合する歯車35と、これを回転自由に支持するベアリング36、37が設けられている。歯車35はハンジング28に固定される減速機付きエアモータ(第2の回転動力源の一例)38の出力軸39が連結され、減速機付きエアモータ38の回転によって歯車35、31が回転し、これによって、整形ローラ12が回転駆動される構造となっている。
【0017】
回動支持架台22の中央部を支持するピン21は、図2に示すように、その両端部が固定支持架台20の対となる側板部40、41にそれぞれ設けられたスラスト及びラジアルのベアリング42、43によって支持されている。回動支持架台22は下半分に前後対となる連結板部44、45を有し、連結板部44、45の端部、即ち回動支持架台22の他端部に軸受部46、47が設けられ、この軸受部46、47に先端金具26に固定されるピン27が軸着されている。このピン27は片側の連結板部45の外側に延長されて、空圧シリンダー25の元位置を検知するリミットスイッチ48の作動金物としての役割を果している。
【0018】
空圧シリンダー25はロッドトラニオンタイプのシリンダーであって、対となる取付けブラケット49によって台座17に固定されている。
空圧シリンダー25は、中間部に設けられているエア供給口50から圧縮エア(例えば、3〜5kg/cm2)を供給した状態で、シリンダーの一方のエア供給口51から圧縮エアを供給することによって、内部のピストンを作動させピストンロッド24を伸ばし、回動支持架台22を回動して、整形ローラ12を円板状電極11に押し付ける押圧機構13と、エア供給口50から供給されている圧縮エアを解放する(即ち、大気圧とする)ことによって、ピストンロッド24をその位置で固定する(即ち、ロックする)空圧操作型のロック機構14とを有している。なお、この実施の形態では、空圧シリンダー25はそのような押圧機構13及びロック機構14を備えた、市販のブレーキ付きの空圧シリンダーを使用しているが、押圧機構とロック機構を別々とすることもできる。
【0019】
この空圧シリンダー25には、図4に示すような空圧回路が形成され、第1の電磁弁52は一方のエア供給口51に減圧弁53及び流量調整弁53aを介して連結されるポートと、他方のエア供給口54に流量調整弁55を介して連結されるポートを有し、第1の電磁弁52がオフの状態ではピストンロッド24が後退し、第1の電磁弁52がオンの状態ではピストンロッド24が伸びるようになっている。また、空圧シリンダー25のエア供給口50には第2の電磁弁56を有し、第2の電磁弁56がオフの状態では空圧シリンダー25のピストンロッド24の移動がロックされ、第2の電磁弁56がオンの状態ではピストンロッド24の進退移動のロックが解除される構造となっている。
【0020】
続いて、シーム溶接機の電極整形装置10の動作を説明しながら、本発明の一実施の形態に係るシーム溶接機の電極整形方法についても説明する。
初期状態では、第1、第2の電磁弁52、56はオフにしておく。この状態では、空圧シリンダー25は縮んだ状態であって、しかもロック機構14はピストンロッド24の進退移動をロックしている状態となって、リミットスイッチ48によって初期状態(元位置状態)は検知されている。
【0021】
次に、円板状電極11のドレッシングを行う場合には、整形ローラ12及び円板状電極11を回転駆動させた状態で、第2の電磁弁56をオンにしてロック機構14を解除し、第1の電磁弁52をオンにする。これによって、空圧シリンダー25のピストンロッド24が前進し(即ち、空圧シリンダー25が伸びて)、回動支持架台22が回動し、整形ローラ12が円板状電極11に当接する。短時間のタイマーを作動させて第2の電磁弁56をオフにすると、ピストンロッド24がこの状態で保持され、整形ローラ12はその位置に固定され、円板状電極11から衝撃荷重を受けても整形ローラ12の位置はその位置保持を行い、結果として整形ローラ12にハンチング現象を起こすことなくドレッシングができる。
【0022】
この後、円板状電極11が1回を超えて回転した時点、例えば3.3回を回転したときに第2の電磁弁56を短時間(例えば、1秒又は1.5秒)オンにすると、空圧シリンダー25のピストンロッド24のロック状態が解除されて、整形ローラ12が再度円板状電極11に押し付けられてその位置で停止を行う。これによって、更に円板状電極11の整形が正確に行える。
この後、ワークの溶接を行って、ワーク(被溶接物)の溶接が完了すると、上部の電極(即ち、円板状電極)を上昇させるのでその信号と共に、あるいは少し遅れて第2の電磁弁56をオンにし、第1の電磁弁52をオフにする。これによって、整形ローラ12、及び回動支持架台22が元位置に復帰するので、リミットスイッチ48でこれを検知し、第2の電磁弁56をオフにする。なお、円板状電極12の整形はこの実施の形態ではワークの溶接前に行ったが、ワークの溶接後に行ってもよい。また、円板状電極の整形処理は一つのワークの溶接時に複数回行ってもよい。
【0023】
前記実施の形態においては、下部電極についてのみ説明したが、上部電極にも同じように本発明を適用できる。
また、円板状電極11及び整形ローラ12の回転駆動源としてエアモータを使用したが、電動モータを使用してもよい。
整形ローラ12の形状は、前記実施の形態に限定されず、円板状電極11の変形の整形及び汚れの除去を行うものであれば、他の構造のものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施の形態に係るシーム溶接機の電極整形装置の背面図である。
【図2】同装置の側面図である。
【図3】同装置の部分断面図である。
【図4】同装置の空圧回路の説明図である。
【符号の説明】
【0025】
10:シーム溶接機の電極整形装置、11:円板状電極、12:整形ローラ、13:押圧機構、14:ロック機構、15:ガイドロッド、17:台座、18:軸受ハウジング、19:水平軸、20:固定支持架台、21:ピン、22:回動支持架台、23:駆動軸、24:ピストンロッド、25:空圧シリンダー、26:先端金具、27:ピン、28:ハウジング、29、30:ベアリング、31:歯車、32:平ローラ板、33、34:側ローラ板、35:歯車、36、37:ベアリング、38:減速機付きエアモータ、39:出力軸、40、41:側板部、42:スラストベアリング、43:ラジアルベアリング、44、45:連結板部、46、47:軸受部、48:リミットスイッチ、49:取付けブラケット、50、51:エア供給口、52:第1の電磁弁、53:減圧弁、53a:流量調整弁、54:エア供給口、55:流量調整弁、56:第2の電磁弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の回転動力源によって回転駆動されるシーム溶接機の円板状電極に第2の回転動力源によって回転駆動される整形ローラを押し付け、前記円板状電極のドレッシングを行うシーム溶接機の電極整形方法において、
前記整形ローラを空圧シリンダーを用いて前記円板状電極に押し付ける第1工程と、前記空圧シリンダーのロックを行って前記円板状電極に当接した前記整形ローラの位置を保持した状態で、前記円板状電極のドレッシングを行う第2工程とを有し、該第2工程のドレッシング中に前記第1工程の前記整形ローラの押し付けを短時間入れることを特徴とするシーム溶接機の電極整形方法。
【請求項2】
請求項1記載のシーム溶接機の電極整形方法において、前記円板状電極の整形は、一つのワークの溶接が完了した後に行われ、一回の電極整形処理に前記第1工程と前記第2工程の処理を複数回含むことを特徴とするシーム溶接機の電極整形方法。
【請求項3】
第1の回転動力源によって回転駆動されるシーム溶接機の円板状電極に第2の回転駆動源によって回転駆動される整形ローラを押し付け、前記円板状電極のドレッシングを行うシーム溶接機の電極整形装置において、
前記整形ローラを前記円板状電極に押し付ける空圧シリンダーを用いた押圧機構と、
前記空圧シリンダーの押圧状態をロックするロック機構とを有し、
前記ロック機構を定期的に解いて、前記円板状電極に対する前記整形ローラの位置を調整することを特徴とするシーム溶接機の電極整形装置。
【請求項4】
請求項3記載のシーム溶接機の電極整形装置において、前記ロック機構は空圧操作であって、前記空圧シリンダーに前記ロック機構が内蔵されていることを特徴とするシーム溶接機の電極整形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−283312(P2007−283312A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−110053(P2006−110053)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(000110594)ナストーア株式会社 (9)