説明

シーム溶接機

【課題】第1電極と第2電極の直径を正確に測定し、第1電極及び第2電極を正確な速度で回転駆動できるシーム溶接機を提供する。
【解決手段】第2電極13の高さを測定する距離計42と、第1電極12を回転駆動させる第1の回転駆動手段14と、第2電極13をクラッチ34を介して回転駆動する第2の回転駆動手段15と、第2電極13の単位時間当たりの回転数Nを測定する回転計38と、距離計42の出力、第1の回転駆動手段14で正回転駆動された第1電極12の単位時間当たりの回転数n、第1電極12で従動駆動された第2電極13の回転数Nから、第1電極12及び第2電極13の直径を測定する制御手段とを有し、第1電極12及び第2電極13を、第1電極12及び第2電極13の間を通過する被溶接物の溶接速度に合わせて駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転駆動されるそれぞれ円板状の第1電極(例えば、下部電極)と第2電極(例えば、上部電極)との間に被溶接物(例えば、燃料タンク等)を挟んでその周囲を連続的に溶接するシーム溶接機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、燃料タンクの周縁部を溶接する場合にはシーム溶接が用いられている。そして、特許文献1、2に開示されるように燃料タンクの周縁部が外部に露出しており、上部電極と下部電極に大径の同一直径(半径であっても同様、以下同じ)のものを使用して、溶接が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−47557号公報
【特許文献2】特開平9−314351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、自動二輪車等の燃料タンクのように、複雑な形状の場合、下部電極の直径が大きいと溶接ができないので、上部電極はそのままにして下部電極に小直径のものを使用し、場合によっては、下部電極の水冷は行っていない場合もある。
このように、上部電極と下部電極の直径の差があると、直径の小さい下部電極は損耗が激しく、その周速は上部電極に対して遅れ傾向にあり、従って、上部電極と下部電極の周速の差が大きくなって良好な溶接ができない。
【0005】
このような問題を解決するために、1)下部電極と上部電極を差動減速機を用いて駆動し、上部電極にローラを押し付けてエンコーダで回転数を測定し、この測定値から操作盤上の表示器に速度を表示し、デジスイッチにより必要とする溶接速度を調整する方法A、2)下部電極の駆動をパウダークラッチを介して行い、上部電極にローラを押し付けてエンコーダで回転数を測定し、この測定値から操作盤上の表示器に速度を表示し、デジスイッチにより必要とする溶接速度を調整する方法B、3)上部電極の上側に上部電極の上端までの距離を測定する測長器Xを、下部電極の下側に下部電極の下端までの距離を測定する測長器Yをそれぞれ設け、これらの測定値から上部電極と下部電極の直径を求め、設定した速度で上部電極と下部電極を別々に駆動する方法C、等が提案されていた。
【0006】
しかしながら、差動減速機を用いる方法Aの場合、電極回転のトルクが差動減速機のフリクション以上にかけられないため、スリップを起こし易いという問題がある。
また、パウダークラッチを用いる方法Bはパウダークラッチの調整が難しく、仮にバランス良く調整ができたとしても、下部電極の摩耗によってバランス調整が狂い易いという問題がある。
そして、上下の電極を別々に駆動する方法Cにおいては、電極の摩耗等些細な径変動で回転同期が崩れやすく、更には、測長器が電極の上下に付くため、自動二輪車の燃料タンクの溶接には適さないという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、第1電極(例えば、下部電極)と第2電極(例えば、上部電極)の直径を正確に測定し、第1電極及び第2電極を正確な速度で回転駆動できるシーム溶接機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的に沿う第1の発明に係るシーム溶接機は、所定位置に固定配置されて回転駆動される第1電極と、該第1電極に対し昇降して回転駆動される第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に被溶接物を介して溶接電流を流す電源部とを有するシーム溶接機において、
前記第2電極の位置を測定する距離計と、
前記第1電極を回転駆動させる第1の回転駆動手段と、
前記第2電極をクラッチを介して回転駆動する第2の回転駆動手段と、
前記第2電極の単位時間当たりの回転数Nを測定する回転計と、
前記距離計の出力、前記第1の回転駆動手段で正回転駆動された前記第1電極の単位時間当たりの回転数n、前記第1電極で従動駆動された前記第2電極の回転数Nから、前記第1電極及び前記第2電極の直径を測定する制御手段とを有し、
前記第1電極及び前記第2電極を、該第1電極及び該第2電極の間を通過する前記被溶接物の溶接速度に合わせて駆動する。
【0009】
なお、第1電極を回転する第1の回転駆動手段は、予め設定された速度で回転するサーボモータ又はパルスモータであってもよいし、ロータリエンコーダを内部又は外部に備えた通常のモータであってもよい。
【0010】
即ち、例えば、固定配置された第1電極の中心高さ位置をSとし、第1電極及び第2電極の半径をそれぞれr1、r2とし、中心位置Sからdの高さ位置に取付けられた距離計で測定された第2電極の高さh(即ち、距離計から第2電極の中心までの距離)は、r1+r2+h=dとなる。従って、r1+r2=d−h(=L)となる。この関係と、第1電極を回転駆動した場合の第1電極及び第2電極の単位時間当たりの回転数n、Nから、第1電極及び第2電極の正確な径を演算でき、次に、第1、第2の回転駆動手段を適正な回転数で回転することによって、第1電極及び第2電極の周速を一定(又は一定範囲)にすることができる。
なお、当然のことながら、距離計の目盛りを直接(r1+r2)の値とする場合も本発明は適用される。
【0011】
第2の発明に係るシーム溶接機は、第1の発明に係るシーム溶接機において、前記距離計で前記第2電極の半径r2と前記第1電極の半径r1の和Lを求め、前記第1電極及び前記第2電極の単位時間当たりの回転数n、Nから、r1=L・N/(N+n)、r2=L・n/(N+n)として該第1電極及び該第2電極の直径を求める。
これによって、第1電極及び第2電極の直径が求まるので、それぞれ第1の回転駆動手段及び第2の回転駆動手段を用いて、第1電極及び第2電極の電極の周速が一定になるように駆動できる。なお、第1電極及び第2電極の回転数n、Nは、これらの回転計やパルスエンコーダ等からの出力であってもよい。
【0012】
第3の発明に係るシーム溶接機は、第1、第2の発明に係るシーム溶接機において、前記クラッチは一方向クラッチであって、前記第2の回転駆動手段の正回転駆動に対して前記第2電極に動力が伝わる。従って、第1電極を駆動して第2電極を正回転駆動する場合には第2電極の回転は第2の回転駆動手段から切り離される。また、溶接中には、第1電極の周速を第2電極の周速より速くすることもできる。
【0013】
なお、第3の発明に係るシーム溶接機において、前記第1電極の周速に対して前記第2電極の周速を88%以上100%未満の間に設定することもできる。これによって、第1電極の回転がそのまま第2電極に伝わっても、第2電極は第2の回転駆動手段とは独立して回転できるので、第2電極のスリップが生じにくい。
【0014】
そして、第1〜第3の発明に係るシーム溶接機において、前記第1電極の直径は35〜65mmの範囲にあり、前記第2電極の直径は150〜230mmの範囲にあるのが好ましいが、本発明はこの寸法に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0015】
第1〜第3の発明に係るシーム溶接機においては、第1電極及び第2電極の直径を予め正確に測定し、その後、第1電極及び第2電極を第1、第2の回転駆動手段で駆動するので、第1電極及び第2電極を決めた速度で回転させることができる。
【0016】
特に、第3の発明に係るシーム溶接機において、クラッチとして一方向クラッチを用いると、第1電極の回転によって第2電極を正方向に従動回転させることができ、更には、第1電極の回転を第2電極より速めることができるので、消耗の激しい第1電極の状況に応じて第1電極の回転速度を設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態に係るシーム溶接機の側面図である。
【図2】同シーム溶接機の駆動部分の周りの説明図である。
【図3】同シーム溶接機の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1〜図3に示すように、本発明の一実施の形態に係るシーム溶接機10は、架台11の所定高さ位置に設けられた第1電極の一例である下部電極12と、下部電極12の上部に昇降可能に配置された第2電極の一例である上部電極13と、これらを回転駆動する第1、第2の回転駆動手段14、15と、下部電極12及び上部電極13との間に被溶接物を介して溶接電流を通電する周知の電源部16と、これらを制御する制御装置17とを有している。以下、これらについて詳しく説明する。
【0019】
銅材からなる円板状の下部電極12及び上部電極13は、それぞれ軸受ハウジンク18、19、20によって回動可能に支持される回転軸21、22の先部に交換可能に取り付けられている。回転軸21には第1の歯車24が設けられ、第1の歯車21には、第1の回転駆動手段14に減速機25、自在継手26、中間回転軸27を介して第2の歯車28が噛合している。なお、第1の回転駆動手段14はサーボモータからなって、制御装置17によって設定される単位時間当たりの回転数で回転駆動となっている。
【0020】
一方、上側の回転軸22には、第3の歯車30が取付けられ、この第3の歯車30は、中間回転軸31に装着される第4の歯車32が噛合し、中間回転軸31は、自在継手33、一方向クラッチ34(クラッチの一例)、減速機35を介して第2の回転駆動手段15に連結されている。第4の歯車32と同じ回転をする一方向クラッチ34の外側ケースには、第5の歯車37が設けられ、ロータリエンコーダ38の出力軸に取り付けられた第6の歯車39に噛合している。なお、この実施の形態では、第2の回転駆動手段15もサーボモータからなって、制御装置17によって設定される単位時間当たりの回転数で回転駆動となっている。
【0021】
なお、一方向クラッチ34は第2の回転駆動手段15からの正回転(通常、時計回り方向)の回転動力が減速機35を介して伝わると、その回転動力を上部電極13に伝達でき、第2の回転駆動手段15からの逆回転の回転動力は、上部電極13に伝達しないようになっている。また、上部電極13が下部電極12に従動して正回転する場合は、一方向クラッチ34で外側ケースが空転し、減速機35及び第2の回転駆動手段15に動力を伝えないようになっている。
【0022】
上部電極13を支持する軸受ハウジング20は昇降ロッド40の下端に取付けられ、上部にあるエアシリンダー41で昇降駆動される昇降ロッド40には、この昇降ロッド40の上下動距離を測定する距離計42が設けられている。この距離計42によって、上部電極13の移動距離(即ち、上部電極13の高さ)を測定できる。下部電極12の上下方向高さ位置(S)は一定であり、距離計42の取付け位置は、下部電極12から一定高さ位置(d)にあるので、下降した上部電極13の高さ位置が測定できれば、下部電極12と上部電極13の軸心間距離(r1+r2=L)は測定できることになる。但し、r1は下部電極12の半径、r2は上部電極13の半径である。なお、この距離計42としては、周知のレーザー距離計、リニアスケール、マグネスケール等が使用できる。
【0023】
一方、上部電極13を下降させて下部電極12と当接させた状態で、第1の回転駆動手段14を、上部電極13が正回転するように下部電極12を回転駆動する。この場合、一方向クラッチ34があるので、上部電極13の回転は減速機35には伝わらないが、回転計の一例であるロータリエンコーダー38には伝わるので、上部電極13の単位時間当たりの回転数Nが計測できる。また、下部電極12の単位時間当たりの回転数nは、予め入力された回転数であるので既知であることになる。
【0024】
一方、図3に示すように、下部電極12と上部電極13が当接した場合の半径(r1、r2)と回転数(n、N)の関係は、n・r1=N・r2となる。また、r1+r2=L(既知)であるので、r1=L・N/(N+n)、r2=L・n/(N+n)となってそれぞれの直径が正確に測定できる。従って、距離計42の出力(h)、下部電極12の単位時間当たりの回転数n、上部電極13の単位時間当たりの回転数N、及び既知の下部電極12の高さ(S)、距離計42の下部電極12からの高さ(d)を入力して、制御装置17内に予め入力されているプログラムを備えた制御手段によって演算し、下部電極12及び上部電極13の直径を表示する。なお、図3におけるLは被溶接物の板厚を加えて表示している。
【0025】
次に、下部電極12及び上部電極13の半径r1、r2が既知となるので、被溶接物にあった溶接速度を制御手段に入力すると、第1、第2の回転駆動手段14、15の回転数、又は回転駆動される下部電極12及び上部電極13の単位時間当たりの回転数(n1、N1)を決めて、第1、第2の回転駆動手段14、15を回転駆動する。
【0026】
この場合、下部電極12の周速は(2π・r1・n1)となり、上部電極13の周速は、(2π・r2・N1)となる。この速度が溶接速度となるので、被溶接物に合わせて溶接条件から選定する(例えば、1〜3m/min)。ここで、下部電極12及び上部電極13の周速が一定となるようにするには、r1・n1=r2・N1となるように設定する。
【0027】
ここで、上部電極13の周速を下部電極12の周速の88%以上100%未満との範囲に設定することもできる。この場合、下部電極12の回転によって上部電極13が従動回転される回転速度の方が速いことになるので、一方向クラッチ34による第2の回転駆動手段15からの動力は伝わらないことになり、円滑に上部電極13は従動駆動される。そして、溶接時に外乱等によって、上部電極13の周速が下部電極12の周速より遅れようとすると、一方向クラッチ34を介して第2の回転駆動手段15から回転動力が伝わり、上部電極13が円滑に回転する。
【0028】
ここで、上部電極13の周速が下部電極14の周速の88%未満である場合には、上部電極13の回転駆動がない場合に近づき、被溶接物の送りが均一でなくなり、溶接速度が遅くなった箇所に溶接電流が集中し、溶接品質にバラツキが生じる。上部電極13の周速が下部電極12の周速の88%以上である場合、上部電極13の回転が被溶接物の搬送に加わるので、例えば、屈曲した被溶接物を溶接する場合のバラツキを小さくできる。
【0029】
前記実施の形態においては、第1、第2の回転駆動手段として回転数を正確に制御できるサーボモータを用いたが、通常の交流又は直流モータをロータリエンコーダと組み合わせて使用し、一定の回転数とする制御を行う場合や、パルスモータを使って回転数を正確に制御する場合も本発明は適用される。
更には、前記実施の形態においては、上部電極13を支持する昇降ロッド40の移動距離を測定して、下部電極12の半径r1と上部電極13半径r2の和を求めているが、上部電極13の頂部高さを距離センサーで測定して(r1+r2)を求める場合も本発明は適用される。
【0030】
前記実施の形態においては、被溶接物が二輪車の燃料タンクであったので、下部電極12の直径は35〜65mmの範囲にあり、上部電極13の直径は150〜230mmの範囲にあるものを使用したが、四輪車用の燃料タンクは、例えば、上下の電極に同一径のものを使用でき、この場合も本発明は適用される。
また、前記実施の形態においては、第1電極として下部電極を、第2電極として上部電極としているが、第1電極として上部電極を、第2電極として下部電極とすることもできる。
更に、前記実施の形態においては、第1電極及び第2電極は垂直配置したが、これらを水平配置又は斜めに配置する場合も本発明は適用される。
【符号の説明】
【0031】
10:シーム溶接機、11:架台、12:下部電極、13:上部電極、14:第1の回転駆動手段、15:第2の回転駆動手段、16:電源部、17:制御装置、18〜20:軸受ハウジング、21、22:回転軸、24:第1の歯車、25:減速機、26:自在継手、27:中間回転軸、28:第2の歯車、30:第3の歯車、31:中間回転軸、32:第4の歯車、33:自在継手、34:一方向クラッチ、35:減速機、37:第5の歯車、38:ロータリエンコーダ、39:第6の歯車、40:昇降ロッド、41:エアシリンダー、42:距離計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定位置に固定配置されて回転駆動される第1電極と、該第1電極に対し昇降して回転駆動される第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に被溶接物を介して溶接電流を流す電源部とを有するシーム溶接機において、
前記第2電極の位置を測定する距離計と、
前記第1電極を回転駆動させる第1の回転駆動手段と、
前記第2電極をクラッチを介して回転駆動する第2の回転駆動手段と、
前記第2電極の単位時間当たりの回転数Nを測定する回転計と、
前記距離計の出力、前記第1の回転駆動手段で正回転駆動された前記第1電極の単位時間当たりの回転数n、前記第1電極で従動駆動された前記第2電極の回転数Nから、前記第1電極及び前記第2電極の直径を測定する制御手段とを有し、
前記第1電極及び前記第2電極を、該第1電極及び該第2電極の間を通過する前記被溶接物の溶接速度に合わせて駆動することを特徴とするシーム溶接機。
【請求項2】
請求項1記載のシーム溶接機において、前記距離計で前記第2電極の半径r2と前記第1電極の半径r1の和Lを求め、前記第1電極及び前記第2電極の単位時間当たりの回転数n、Nから、r1=L・N/(N+n)、r2=L・n/(N+n)として該第1電極及び該第2電極の直径を求めることを特徴とするシーム溶接機。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1記載のシーム溶接機において、前記クラッチは一方向クラッチであって、前記第2の回転駆動手段の正回転駆動に対して前記第2電極に動力が伝わることを特徴とするシーム溶接機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−269332(P2010−269332A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122268(P2009−122268)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000110594)ナストーア株式会社 (9)