説明

シール材の検査システムおよび検査方法

【課題】シール材に含まれる気泡を検査する技術を提供する。
【解決手段】耐圧容器10内に検査対象となるOリング100を収容する。耐圧容器10を恒温槽20内に収めた状態で恒温槽20の扉が閉じられ、耐圧容器10内に高圧ガスが充填される。そして、高圧ガスが充填された状態で、例えば数時間程度放置して、Oリング100内の気泡に高圧ガスを浸透させる。なお、高圧ガスを浸透させる際、恒温槽20によって耐圧容器10を加熱して耐圧容器10内の温度を上げることが望ましい。こうして、耐圧容器10内に高圧ガスが充填された状態でOリング100が放置された後、高圧ガスを排出して耐圧容器10内を減圧し、Oリング100に含まれる気泡を膨張させることによってOリング100の膨れや亀裂を確認する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール材の検査に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスや液体などの流体を封止するためのシール材が知られている。例えば、Oリングなどの弾性を備えたシール材は、様々な用途の密閉構造に利用されている。そして、シール材そのものの検査、あるいは、シール材によって構成された密閉構造の検査に関する技術も提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、雄型管体と雌型管体の接続部をOリングによってシールする接続管の検査方法が開示されている。つまり、雌型管体の内周に設けた収納溝にOリングを埋め込んだ後、外周の少なくとも一部に検査溝を設けた雄型検査具を雌型管体の検査位置まで挿入して圧力を作用させ、検査溝からの流体の漏出の有無を確認する検査方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−138384号公報
【特許文献2】特開2001−155853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、Oリングなどのシール材は様々な用途の密閉構造に利用されており、高圧力の流体を封止するためのシール構造にシール材が利用される場面もある。例えば、高圧力の燃料ガスを内部に充填する高圧タンクのシール構造にOリングなどのシール材が利用される。
【0006】
高圧力の流体を封止する用途では、シール材に高圧力の流体が接するため、これに伴う新たな問題が懸念される。つまり、シール材に含まれる気泡内に高圧流体が浸透し、それに伴いシール材の耐久性などに悪影響を及ぼす可能性がある。
【0007】
ところが、上述した特許文献1に記載の技術では、シール材に含まれる気泡までは検知することができない。
【0008】
また、例えば、特許文献2には、硬化過程の接着剤に混入している気泡を破裂させて封止不良の発生を防止する技術が開示されている。しかし、特許文献2の技術は、Oリングなどのシール材に含まれる気泡を検査する技術ではない。
【0009】
本発明は、このような背景において成されたものであり、その目的は、シール材に含まれる気泡を検査する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の好適な態様であるシール材の検査システムは、シール材を収容する耐圧容器を有し、耐圧容器内を減圧することによって耐圧容器内のシール材を減圧環境下におき、これにより、シール材に含まれる気泡を検査することを特徴とする。
【0011】
上記態様において、検査対象となるシール材は、例えば、Oリングなどの弾性を備えたシール材である。上記態様により、シール材に含まれる気泡を検査することができる。気泡の検査とは、例えば、シール材に気泡が含まれるか否か、あるいは、シール材に含まれる気泡のうちシール材の耐久性などに悪影響を及ぼす大きな気泡が存在するか否か、などである。シール材に含まれる気泡は、例えば、シール材を減圧環境下におく前後のシール材の変形などに基づいて検査される。シール材の変形は、検査者が目視によって判定してもよいし本検査システムが判定してもよい。
【0012】
なお、上記態様では、既に成形(硬化)されたシール材を検査することができる。この点において、上述した特許文献2に記載された、硬化過程の接着剤の気泡を破裂させて封止不良の発生を防止する技術とは明らかに異なる。
【0013】
望ましい態様において、前記検査システムは、前記耐圧容器内に流体を充填することによって当該耐圧容器内のシール材に含まれる気泡に流体を浸透させてから、当該耐圧容器内を減圧することを特徴とする。この態様において、耐圧容器内に充填される流体は、検査対象となるシール材によってシールされる流体などである。例えば、検査対象となるシール材が、検査後に高圧タンクに設けられて水素ガスをシールする目的で利用される場合、検査において耐圧容器内に充填される流体として水素ガスが利用される。但し、耐圧容器内に充填される流体は、検査対象となるシール材によってシールされる流体に限定されず、他の流体が利用されてもよい。
【0014】
望ましい態様において、前記検査システムは、前記耐圧容器内に流体を充填して当該耐圧容器内を加圧し、当該耐圧容器内のシール材に含まれる気泡に流体を浸透させてから、当該耐圧容器内を減圧することにより、シール材の気泡に浸透した流体を膨張させることを特徴とする。望ましい態様において、前記検査システムは、前記耐圧容器内の温度を制御する恒温層をさらに有し、前記耐圧容器内に流体を充填して当該耐圧容器内を加圧する際、前記恒温層によって前記耐圧容器を加熱することを特徴とする。前記耐圧容器を加熱することにより、例えば、シール材に含まれる気泡に流体が浸透する際の浸透時間を短縮することができる。
【0015】
また上記目的を達成するために、本発明の好適な態様であるシール材の検査方法は、シール材を減圧環境下におき、シール材に含まれる気泡を膨張させることによって、シール材に含まれる気泡を検査することを特徴とする。望ましい態様において、前記検査方法は、シール材を減圧環境下におく前後のシール材の変形に基づいてシール材に含まれる気泡を検査することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、シール材に含まれる気泡を検査することができる。これにより、例えば、シール材に含まれる微小な気泡をも検知して耐久性の優れたシール材を選定することなどが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1には、本発明の好適な実施形態が示されており、図1は、本実施形態の検査システムの全体構成図である。本実施形態の検査システムは、シール材であるOリング100を検査するシステムであり、耐圧容器10と恒温槽20とバルブ30A,30Bとガス配管40を備えている。
【0019】
耐圧容器10は、容器本体12と蓋14によって構成される。容器本体12は、容器状に形成され、その周壁の一部に設けられた開口から検査対象となるOリング100が容器本体12内に収められる。そして、ボルト状の蓋14が容器本体12の開口に螺子止めされ、これにより、耐圧容器10内に検査対象となるOリング100が密閉される。
【0020】
後に説明するように、耐圧容器10の容器内は、Oリング100を密閉した状態で、例えば数百気圧程度の高圧力状態となる。そのため、耐圧容器10の容器本体12と蓋14は、高圧力状態に耐えることができる剛性を備えた部材で形成される。例えば、容器本体12と蓋14は、共に金属で形成される。
【0021】
また、耐圧容器10の容器内が高圧力状態となるため、容器本体12と蓋14との間のシール性を確保する必要がある。そのため、容器本体12と蓋14との間に、図示しない容器用Oリングなどが設けられてもよい。
【0022】
恒温槽20は、耐圧容器10内の温度を制御する。恒温槽20は、例えば略直方体形状の断熱周壁で形成され、外表面のうちの一面に扉が設けられ、内部に耐圧容器10を収容する。つまり、恒温槽20は、例えば冷蔵庫に似た外観である。図1では、恒温槽20の内部に耐圧容器10が収められた状態を示している。
【0023】
さらに、恒温槽20に設けられた配管孔を通って、ガス配管40が耐圧容器10に接続されている。そして、ガス配管40を介して、耐圧容器10内へ高圧ガスが供給され、また、ガス配管40を介して耐圧容器10内から高圧ガスが排出される。高圧ガスの供給排出は、バルブ30A,30Bの開閉によって制御される。
【0024】
次に、図1の検査システムを利用したOリング100の検査方法について説明する。
【0025】
まず、耐圧容器10内に検査対象となるOリング100を収容する。つまり、容器本体12の開口から検査対象のOリング100を容器本体12内に入れ、そして、蓋14を容器本体12の開口に螺子止めして、Oリング100を耐圧容器10内に収容する。なお、耐圧容器10内に収容するOリング100は、一つでもよいし複数でもよい。さらに、耐圧容器10を恒温槽20内に収めた状態で恒温槽20の扉が閉じられる。
【0026】
耐圧容器10が恒温槽20内に収められると、耐圧容器10内に高圧ガスが充填される。つまり、バルブ30Bを閉じた状態でバルブ30Aを開けることにより、高圧ガスが高圧ラインからガス配管40を介して耐圧容器10内に充填される。
【0027】
耐圧容器10内に充填される高圧ガスは、検査対象となるOリング100がシールの対象とするガスであることが望ましい。例えば、検査対象となるOリング100が、検査後に高圧タンクに設けられて水素ガスをシールする目的で利用される場合、検査において利用される高圧ガスは水素ガスが望ましい。但し、水素ガスをシールする目的で利用されるOリング100に対して、水素ガス以外のガスを利用して検査を行ってもよい。
【0028】
また、耐圧容器10内に充填される高圧ガスの圧力は、検査対象となるOリング100がシールの対象とするガスの圧力と同じ程度か又はそれよりも高いことが望ましい。例えば、検査対象となるOリング100が、検査後に高圧タンクに設けられて水素ガスをシールする目的で利用される場合、検査において利用される高圧ガスは、高圧タンク内における水素ガスの圧力と同じ程度か又はそれ以上の高い圧力(例えば、数百気圧程度)であることが望ましい。
【0029】
耐圧容器10内に高圧ガスが充填されると、高圧ガスが充填された状態で、例えば数時間程度放置される。つまり、Oリング100が数時間程度、高圧ガスによる加圧環境下におかれる。
【0030】
本実施形態において検査対象となるOリング100は、例えば、ゴムなどの弾性を備えた材料で形成される。そのため、高圧ガスをシールする環境下でOリング100が利用されると、高圧ガスによりゴム(高分子)内にガスが浸透し、Oリング100内に気泡などの欠陥が含まれるとその気泡内に高圧ガスが蓄積する。本実施形態では、耐圧容器10内に高圧ガスを充填した状態で数時間程度放置することにより、Oリング100内の気泡に高圧ガスが浸透する現象を再現している。
【0031】
なお、Oリング100内の気泡に高圧ガスを浸透させる際、恒温槽20によって耐圧容器10を加熱して耐圧容器10内の温度を上げることが望ましい。これにより、高圧ガスの浸透時間を大幅に短縮することができる。例えば、常温での浸透時間(放置時間)を1時間から5時間程度とすると、耐圧容器10内の温度を80℃程度とすることにより、浸透時間を半減することができる。
【0032】
こうして、耐圧容器10内に高圧ガスが充填された状態でOリング100が放置された後、耐圧容器10内の高圧ガスが排出される。つまり、バルブ30Aを閉じて、バルブ30Bを開けることにより、耐圧容器10内の高圧ガスがガス配管40を介して低圧ラインへ排出され、耐圧容器10内が減圧される。
【0033】
図2は、減圧後のOリング100を説明するための図であり、内部に気泡102が存在するOリング100の部分断面図である。Oリング100内に気泡102が存在し、高圧ガスが充填された加圧環境下で数時間程度放置されると、気泡102内に高圧ガスが蓄積する。そして、高圧ガスが蓄積された状態で耐圧容器内が減圧されると、Oリング100内の気泡102に蓄積していた高圧ガスが膨張し、その結果、Oリング100の表面に膨れ104が発生する。また、例えば気泡102が比較的大きく高圧ガスの蓄積量が多い場合などには、気泡102が大きく膨張して膨れ104の部分が破裂し、Oリング100の表面に亀裂が発生する可能性もある。
【0034】
そこで、図1の検査システムにより、耐圧容器10内の高圧ガスを排出した後、直ちに耐圧容器10内から検査対象のOリング100を取り出し、Oリング100の表面に膨れや亀裂がないかどうかを確認する。そして、膨れや亀裂が存在するOリング100は、高圧ガスをシールする環境下における耐久性の面で好ましくないと判断し、一方、膨れや亀裂が存在しないOリング100は、高圧ガスをシールする環境下における耐久性に優れていると判断する。
【0035】
こうして、本実施形態の検査システムを利用して複数のOリング100を検査することにより、高圧ガスをシールする環境下における耐久性に優れたOリング100を選定することが可能になる。そして、選定されたOリング100を高圧タンクなどの製品のシール構造に利用することで、その製品のシール部分の信頼性や耐久性を向上させることが可能になる。
【0036】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0037】
例えば、図1および図2に示した実施形態では検査対象としてOリング100を例に挙げたが、本発明に係る検査システムや検査方法は、内部に気泡を伴うOリング100以外のシール材にも適用できる。Oリング100以外のシール材に本発明に係る検査を適用する際には、検査対象となるシール材に応じて、高圧ガスの種類、高圧ガスの圧力、高圧ガスの浸透時間、耐圧容器10内の温度などが決定される。
【0038】
また、図1に示した実施形態では、耐圧容器10を恒温槽20内に収容する検査システムを示したが、耐圧容器10内に加熱機能を設けることにより、耐圧容器10と恒温槽20とを一体化した検査システムを形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る検査システムの全体構成図である。
【図2】内部に気泡が存在するOリングの部分断面図である。
【符号の説明】
【0040】
10 耐圧容器、20 恒温槽、30A,30B バルブ、40 ガス配管、100 Oリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シール材の検査システムであって、
シール材を収容する耐圧容器を有し、
耐圧容器内を減圧することによって耐圧容器内のシール材を減圧環境下におき、
これにより、シール材に含まれる気泡を検査する、
ことを特徴とするシール材の検査システム。
【請求項2】
請求項1に記載の検査システムにおいて、
前記耐圧容器内に流体を充填することによって当該耐圧容器内のシール材に含まれる気泡に流体を浸透させてから、当該耐圧容器内を減圧する、
ことを特徴とするシール材の検査システム。
【請求項3】
請求項2に記載の検査システムにおいて、
前記耐圧容器内に流体を充填して当該耐圧容器内を加圧し、当該耐圧容器内のシール材に含まれる気泡に流体を浸透させてから、当該耐圧容器内を減圧することにより、シール材の気泡に浸透した流体を膨張させる、
ことを特徴とするシール材の検査システム。
【請求項4】
請求項3に記載の検査システムにおいて、
前記耐圧容器内の温度を制御する恒温層をさらに有し、
前記耐圧容器内に流体を充填して当該耐圧容器内を加圧する際、前記恒温層によって前記耐圧容器を加熱する、
ことを特徴とするシール材の検査システム。
【請求項5】
シール材の検査方法であって、
シール材を減圧環境下におき、シール材に含まれる気泡を膨張させることによって、シール材に含まれる気泡を検査する、
ことを特徴とするシール材の検査方法。
【請求項6】
請求項5に記載の検査方法において、
シール材を減圧環境下におく前後のシール材の変形に基づいてシール材に含まれる気泡を検査する、
ことを特徴とするシール材の検査方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate