説明

スイッチング電源装置

【課題】低コストで遅れ時間が比較的大きなコンパレータを制御回路に使用しても、出力電圧安定性が高く、スイッチング周波数を高周波化することが可能となり、低コストのスイッチング電源装置を提供する。
【解決手段】直流入力電源10にトランス18の1次巻線N1とスイッチング素子Q1が直列に接続され、スイッチング素子Q1にスイッチング素子駆動回路16が接続されている。直流入力電源10の電圧信号が積分回路32へ入力され、積分回路32の出力電圧とフィードバック制御回路24からの出力電圧制御信号をスイッチング素子駆動回路16に入力して比較し、スイッチング素子駆動回路16のスイッチング素子駆動パルス幅を制御して、整流平滑回路23の出力を所定の値に制御する。積分回路32の出力電圧は、入力電源10の電圧信号を積分した電圧に、直流入力電源10の電圧信号に比例した電圧を発生する入力比例電圧発生回路30の電圧を重畳させた値である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電圧を所望の電圧に変換し電子機器に供給するための、入力電圧フィードフォワード制御方式のスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スイッチング電源装置の入力電源電圧が急激に変動した際における、スイッチング電源装置の出力電圧安定性を改善する方法として、スイッチング電源装置の入力電源電圧に対して、スイッチング素子のパルス幅を調整する制御方法である入力電圧フィードフォワード制御が知られている。例えば、特許文献1に開示された降圧チョッパ回路は、入力電圧フィードフォワード制御を適用した例を開示している。
【0003】
ここで、図5に従来の入力電圧フィードフォワード制御を、絶縁型フォワードコンバータに適用したスイッチング電源装置の一例を示す。また、図6は、図5のスイッチング電源装置の動作波形を示し、入力電圧が低い場合(A)と、高い場合(B)の2つの波形を示す。
【0004】
このスイッチング電源装置は、直流入力電源10の出力端子と並列に抵抗11とコンデンサ13の直列回路からなる積分回路12が設けられ、抵抗11の一方の端子が直流電源10の+側端子に接続され、コンデンサ13の一方の端子が直流入力電源10の−側端子に接続されている。抵抗11とコンデンサ13の中点が、リセット回路14に接続されているとともに、スイッチング素子駆動回路16のコンパレータ17の反転入力端子に接続されている。リセット回路14の他方の端子は、コンデンサ13の一方の端子および直流入力電源10の−側端子に接続されている。
【0005】
さらに、直流入力電源10の+側端子は、トランス18の1次巻線N1のドットを付した側の端子に接続され、ドットの無い方がMOS−FETであるスイッチング素子Q1のドレインに接続されている。また、スイッチング素子Q1のソースは、直流入力電源10の−側端子に接続され、ゲートがスイッチング素子駆動回路16のコンパレータ17の出力に接続されている。
【0006】
トランス18の2次巻線N2は、ドットを付した方の端子が電源装置の出力端子20に接続され、ドットの無い方の端子は、MOS−FETであるフォワード側同期整流素子Tr1のドレインに接続されている。さらに、フォワード側同期整流素子Tr1のソースは、フライホイール側同期整流素子Tr2のソースに接続され、チョークコイルL1を介して、電源装置の出力端子21に接続されている。MOS−FETであるフライホイール側同期整流素子Tr2のドレインは、トランス18の2次巻線N2のドットを付した方の端子に接続されている。そして、フライホイール側同期整流素子Tr2のドレインとチョークコイルL1の出力21側の端子との間に出力コンデンサC1が設けられている。フォワード側同期整流素子Tr1とフライホイール側同期整流素子Tr2のゲートには、各々別々に同期整流素子駆動回路22の各出力が接続され、相補的にオンするように形成されている。そして、トランス18の2次側に接続された回路が整流平滑回路23を構成している。
【0007】
さらに、出力端子20は、スイッチング電源装置の出力電圧Voを制御するため、フィードバック制御回路24の誤差アンプ25の反転入力端子に接続されている。誤差アンプ25の非反転入力端子には、基準電圧26が接続され、誤差アンプ25の出力が、コンパレータ17の非反転入力端子に接続されている。
【0008】
次に、従来のスイッチング電源装置の動作について説明する。まず、リセット回路14は、所定の周期Tで積分回路12内のコンデンサ13をリセットする(図6(a)のタイミング)。リセット回路14の所定の周期Tが、このスイッチング電源装置のスイッチング周波数となる。そして、積分回路12内のコンデンサ13がリセットされると、スイッチング素子駆動回路16は、スイッチング素子Q1をオンさせる(図6(a)のタイミング)。
この後、積分回路12内のコンデンサ13は、直流入力電源10から積分回路12内の抵抗11を通して充電される。積分回路12内のコンデンサ13の充電電圧は、積分回路出力電圧Viとして、スイッチング素子制御回路16に出力される。
【0009】
積分回路12の出力電圧Viと、フィードバック制御回路24の誤差アンプ25の出力電圧制御信号電圧Vsは、スイッチング素子駆動回路16内のコンパレータ17で比較され、コンデンサ13の充電電圧が出力電圧制御信号電圧Vsと等しくなったときに、スイッチング素子Q1がオフされる。
【0010】
ここで、直流入力電源10の電圧Vinが低い場合は、積分回路12内のコンデンサ13の充電電圧Vcの上昇速度が遅いため、スイッチング素子Q1がオフするタイミングは、周期T内で比較的遅いタイミングとなる(図6(A)の(b)のタイミング)。一方、直流入力電源10の電圧が高い場合は、積分回路12内のコンデンサ13の電圧Vcの上昇速度が速いため、スイッチング素子Q1がオフするタイミングは相対的に速くなる(図6(B)の(c)のタイミング)。
【0011】
上記動作が繰り返されることで、トランス18の1次側にパルス状の電圧が印加され、2次側に伝送される。トランス18の2次側に発生したパルス状の電圧は、整流平滑回路23により直流に変換され、スイッチング電源装置の出力電圧Voとなる。
【0012】
スイッチング素子駆動回路16は、積分回路12の出力電圧Viと、出力電圧制御信号電圧Vsにより、電圧パルス幅Tonを制御することで、スイッチング電源装置の出力電圧Voを制御している。なお、出力電圧制御信号電圧Vsは、フィードバック制御回路24内の基準電圧26の基準電圧Vrefとスイッチング電源装置の出力電圧Voが、フィードバック制御回路24内の誤差アンプ25に入力され、スイッチング電源装置の出力電圧Voがフィードバック制御回路24内の基準電圧26の電圧Vrefと等しくなるように、フィードバック制御回路24内の誤差アンプ25によって決定される。
【0013】
次に、図5のスイッチング電源装置が理想的に動作した場合に、スイッチング電源装置の出力電圧がどのように制御されるかを説明する。
【0014】
図5のスイッチング電源装置の出力電圧は、理想的な動作をした場合、式(1)のように決定される。式(1)から、直流入力電源10の電圧Vinが低い場合は、スイッチング素子Q1のオン時間Tonを長くし、直流入力電源10の電圧が高い場合は、スイッチング素子Q1のオン時間Tonを短くする制御を行うことで、スイッチング電源装置の出力電圧Voを一定に制御する。
【0015】
【数1】

【0016】
ここで、Vo:スイッチング電源装置の出力電圧 Vin:入力電源電圧、N1:トランス18の1次側の巻数、N2:トランスの2次側の巻数、T:スイッチング周期、Ton:スイッチング素子のオン時間、である。
【0017】
図5のスイッチング電源装置は、積分回路12のコンデンサ13がリセットされるとスイッチング素子Q1がオンされる。リセット後、直流入力電源10から積分回路12内の抵抗11を通して充電電流Icが流れ、コンデンサ13の電圧が上昇する。充電電流Icは、コンデンサ13の充電電圧Vcが入力電源電圧Vinに対して十分に小さいとき、式(2)で表すことができる。また、コンデンサ13の充電電圧Vcは、式(3)で表される。式(3)から、コンデンサ13の充電電圧Vcは、直流入力電源10の電圧Vinと充電時間tに比例することが分かる。
【0018】
【数2】

【0019】
【数3】

【0020】
ここで、Ic:積分回路12のコンデンサ13の充電電流、Vc:積分回路12のコンデンサ13の電圧、Ci:積分回路のコンデンサ13の容量、Ri:積分回路12の抵抗11の抵抗値、t:積分回路12のコンデンサ13の充電時間である。
【0021】
図5のスイッチング電源装置は、コンデンサ13の電圧Vcが出力電圧制御信号電圧Vsの電圧と等しくなったときに、スイッチング素子Q1がオフされる。つまり、図5のスイッチング電源装置では、以下の関係が成り立つ。
【0022】
コンデンサ13の充電時間t=スイッチング素子Q1のオン時間Ton (4)
積分回路12のコンデンサ13の電圧Vc=出力電圧制御信号電圧Vs (5)
以上から、スイッチング電源装置の出力電圧Voと出力電圧制御信号電圧Vsは以下の関係が得られる。
【0023】
【数4】

【0024】
式(6)から、理想的に動作する図5のスイッチング電源装置は、出力電圧制御信号電圧Vsが一定の値となるように制御を行なうことで、入力電圧が変動しても出力電圧Voを一定とすることができることが分かる。
【0025】
ここで、図5のスイッチング電源装置を、実在の部品で構成した場合の問題点を、図7を基に説明する。スイッチング素子駆動回路16内のコンパレータ17は理想的には、遅れ時間ゼロであるが、実在の部品の場合、比較判断に遅れ時間Tdを持つ。スイッチング素子駆動回路16内のコンパレータ17が遅れ時間Tdを持つと、積分回路12内のコンデンサ13の電圧Vc=出力電圧制御信号電圧Vsとなってから、実際にスイッチング素子Q1がオフするまでのタイミングが遅れることになる。
【0026】
スイッチング素子駆動回路16内のコンパレータ17の遅れ時間Tdは、スイッチング素子Q1がオフするまでのタイミングを遅らせてしまうため、スイッチング素子Q1のオン時間Tonが長くなり、結果として、スイッチング電源装置の出力電圧Voを上昇させてしまう。そこで、フィードバック制御回路24によって、スイッチング電源装置の出力電圧Voが基準電圧Vrefと等しくなるように、出力電圧制御信号電圧Vsを低下させる制御が行なわれる。
【0027】
即ち、図5のスイッチング電源装置は、入力電源電圧Vinが高いと、スイッチング素子Q1のオン時間Tonを短くし、入力電源電圧Vinが低いと、スイッチング素子Q1のオン時間Tonを長くすることで、スイッチング電源装置の出力電圧Voが一定となるように制御を行なっている。
【0028】
ここで、スイッチング素子Q1のオン時間Tonは、積分回路12の出力電圧Vi(積分回路12内のコンデンサ13の電圧Vc)が出力電圧制御信号電圧Vsに達するまでの時間とコンパレータ17の遅れ時間Tdの和である。コンパレータ17の遅れ時間Tdは、入力電源電圧Vinによらず一定であるので、入力電圧が高いとき(スイッチング素子のオン時間Tonが短くなるように制御されるとき)ほど、スイッチング素子Q1のオン時間Tonに占めるコンパレータ17の遅れ時間Td割合が大きくなる。従って、フィードバック制御回路24は、入力電圧Vinが高い場合は、低い場合に比べて、出力電圧制御信号電圧VsをδV低下させるように制御を行なうことで、スイッチング電源装置の出力電圧Voが所定の値となるようにしている。
【特許文献1】特開平3−183357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
しかし、フィードフォワード制御に遅れ時間の有るコンパレータ17を使用した、図5のスイッチング電源装置では、スイッチング電源装置の入力電源電圧Vinが急激に変動した場合、即ちフィードバック制御回路24の応答速度よりも急激な変動に際しては、フィードバック制御回路24が出力電圧制御信号電圧Vsを変化させるまでの時間、スイッチング電源装置の出力電圧Voが入力電源電圧Vinの変化による影響を受けて変動し、所定の値とはならない。
【0030】
即ち、入力電圧により出力電圧をフィードフォワード制御するスイッチング電源装置では、スイッチング周期Tに対して、コンパレータ17の遅れ時間Tdが十分に小さくないと、入力電源電圧が急激に変動した際のスイッチング電源装置の出力電圧安定性が悪化してしまう問題点があった。
【0031】
一方、スイッチング電源装置の小型・高性能化には、スイッチング周波数を高周波化する必要があり、入力電圧フィードフォワード制御のスイッチング電源装置を高周波化する場合、コンパレータの遅れ時間Tdの小さな制御回路を用いなければならず、制御回路の高コスト化を招いていた。
【0032】
本発明は、上記従来の技術に鑑みて成されたもので、低コストで遅れ時間が比較的大きなコンパレータを制御回路に使用しても、入力電源電圧の急変に際してスイッチング電源装置の出力電圧安定性を高め、スイッチング周波数を高周波化することが可能となり、低コストで電源装置の高性能化を実現することが可能なスイッチング電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
この発明は、直流入力電源にトランスの1次巻線とスイッチング素子が直列に接続され、前記スイッチング素子にスイッチング素子駆動回路が接続され、前記トランスの2次巻線に接続された整流平滑回路の出力電圧を前記スイッチング素子駆動回路へフィードバックするフィードバック制御回路を有し、前記入力電源の電圧信号が積分回路へ入力され、この積分回路の出力電圧と前記フィードバック制御回路からの出力電圧制御信号を前記スイッチング素子駆動回路に入力して比較し、前記スイッチング素子駆動回路のスイッチング素子駆動パルス幅を制御して、前記整流平滑回路の出力を所定の値に制御するフィードフォワード制御を行うスイッチング電源装置であって、前記積分回路の出力電圧は、前記入力電源の電圧信号を積分した電圧に、前記直流入力電源の電圧信号に比例した電圧を発生する入力比例電圧発生回路の電圧を重畳させた値としたスイッチング電源装置である。
【0034】
前記入力比例電圧発生回路は、前記積分回路内のコンデンサに直列接続された抵抗素子である。
【0035】
また、前記トランスに3次巻線を設け、前記積分回路への入力を前記直流入力電源の電圧信号に代えて、前記3次巻線の出力を前記積分回路に入力したスイッチング電源装置である。
【0036】
さらに、前記入力比例電圧発生回路により発生する電圧は、前記スイッチング素子駆動回路の応答遅れ時間による前記積分回路の電圧上昇分にほぼ等しいものである。
【発明の効果】
【0037】
この発明は、入力電圧により出力電圧をフィードフォワード制御するスイッチング電源装置において、入力電源電圧の変動に伴う出力電圧制御信号の変化を打ち消し、入力電源電圧が急激に変動した際にも、スイッチング電源装置の出力電圧安定性を向上させることが可能となるものである。これにより、遅れ時間が比較的大きな安価なコンパレータを用いて、スイッチング周波数を上げることも可能であり、低コストで小型の高性能なスイッチング電源装置を提供することができる。
【0038】
さらに、請求項2記載の発明によれば、簡単な回路構成で上記効果を得ることができる。
【0039】
また請求項3記載の発明によれば、入力電圧の値にかかわらず、高効率の制御や高精度の制御を可能にするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、この発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。図1は、この発明の第一実施形態のスイッチング電源装置を示すもので、図5に示す回路と同様の部材は同一符号を付して説明する。このスイッチング電源装置は、直流入力電源10の出力端子と並列に抵抗11とコンデンサ13の直列回路からなる積分回路32が設けられ、抵抗11の一方の端子が直流電源10の+側端子に接続され、コンデンサ13の一方の端子が直流入力電源10の−側端子に接続されている。抵抗11とコンデンサ13の間には、コンデンサ13の発生電圧に、直流入力電源10に比例した電圧を発生する入力比例電圧発生回路30が接続されている。そして、コンデンサ13の電圧に入力比例電圧発生回路30による電圧を重畳させた電圧が、積分回路32の出力電圧として、スイッチング素子駆動回路16に入力している。また、コンデンサ13はリセット回路14に接続され、リセット回路14の他方の端子は、コンデンサ13の一方の端子および直流入力電源10の−側端子に接続されている。
【0041】
スイッチング素子駆動回路16はコンパレータ17から成り、入力比例電圧発生回路30の電圧を重畳させた積分回路32の出力電圧が、コンパレータ17の反転入力端子接続されている。コンパレータ17の非反転入力端子には、後述する誤差アンプ25の出力が接続されている。
【0042】
さらに、直流入力電源10の+側端子は、トランス18の1次巻線N1のドットを付した側の端子に接続され、ドットの無い方がMOS−FETであるスイッチング素子Q1のドレインに接続されている。また、スイッチング素子Q1のソースは、直流入力電源10の−側端子に接続され、ゲートがスイッチング素子駆動回路16のコンパレータ17の出力に接続されている。
【0043】
トランス18の2次巻線N2は、ドットを付した方の端子が出力端子20に接続され、ドットの無い方の端子は、MOS−FETであるフォワード側同期整流素子Tr1のドレインに接続されている。さらに、フォワード側同期整流素子Tr1のソースは、MOS−FETであるフライホイール側同期整流素子Tr2のソースに接続され、チョークコイルL1を介して、出力端子21に接続されている。フライホイール側同期整流素子Tr2のドレインは、トランス18の2次巻線N2のドットを付した方の端子に接続されている。そして、フライホイール側同期整流素子Tr2のドレインとチョークコイルL1の出力21側の端子との間に出力コンデンサC1が設けられている。フォワード側同期整流素子Tr1とフライホイール側同期整流素子Tr2のゲートには、各々別々に同期整流素子駆動回路22の各出力が接続され、相補的にオンするように形成されている。そして、トランス18の2次側に接続された回路が整流平滑回路23を構成している。
【0044】
さらに、出力端子20は、スイッチング電源装置の出力電圧Voを制御するため、フィードバック制御回路24の誤差アンプ25の反転入力端子に接続されている。誤差アンプ25の非反転入力端子には、基準電圧26が接続され、誤差アンプ25の出力が、コンパレータ17の非反転入力端子に接続されている。
【0045】
図2は、図1のスイッチング電源装置の入力比例電圧発生回路30の例を示す。ここでは、直流入力電源10に比例した電圧を発生する回路として、抵抗素子34を用いている。抵抗素子34は、積分回路32内の抵抗11に対して、十分に小さな値となるように設定する。このとき、抵抗素子34を流れる電流は、上記の式(2)のIcとなる。従って、直流入力電源10に比例した電圧を発生する回路の電圧、つまり、抵抗素子34に発生する補正電圧Vaは、以下の式で求められる。
【0046】
【数5】

【0047】
Va:入力電源に比例した電圧を発生する回路の補正電圧
Ra:入力電源に比例した電圧を発生する回路を構成する抵抗素子の値
Vin:直流入力電源電圧
Ic:積分回路のコンデンサの充電電流
Ri:積分回路の抵抗の値
式(7)より、Ri、Raは定数であるので、直流入力電源10に比例した電圧を発生する回路の補正電圧Vaは、入力電源電圧Vinに比例していることが分かる。
【0048】
次に、図3を基に図2のスイッチング電源装置の動作を示す。図1のスイッチング電源装置における積分回路32の出力電圧Viは、積分回路内のコンデンサ13の電圧Vcに、直流入力電源10の入力電圧Vinに比例した電圧を発生する回路の補正電圧Vaを重畳させた値となっている。直流入力電源10に比例した電圧を発生する回路の補正電圧Vaは、直流入力電源電圧Vinが低い場合は小さく、直流入力電源電圧Vinが高い場合は大きい。
【0049】
スイッチング素子駆動回路16のコンパレータ17に遅れ時間がある場合において、図5のスイッチング電源装置では、図7に示すように、入力電源電圧Vinが低いときは、出力電圧制御信号電圧Vsが高く設定されたようになり、入力電源電圧Vinが高いときは、出力電圧制御信号電圧Vsが低く設定されたようになる。しかし、図1のスイッチング電源装置では、このようなコンパレータ17を備えた電源装置であっても、積分回路出力電圧Viに補正電圧Vaが加算されて補正されることで、入力電源電圧Vinの変動に対して、入力電源電圧Vinの変動に比例した補正電圧Vaを加えることにより、出力電圧制御信号電圧Vsを常にほぼ等しくなるように制御することができる。
【0050】
この実施形態のスイッチング電源装置によれば、積分回路32に抵抗素子34等の簡単な回路を加えるだけで、出力電圧制御信号電圧Vsを一定とした制御をすることができ、出力電圧制御を、安価な回路構成で正確に行うことができ、フィードフォワード制御によるスイッチング電源装置における入力電源電圧の急変に際して、スイッチング電源装置の出力電圧安定性を高めることができる。
【0051】
次に、この発明の第二実施形態について図4を基に説明する。ここで、上記実施形態と同様の部材は同一の符号を付して説明を省略する。図4に示すスイッチング電源装置は、トランス18に3次巻線N3を設け、3次巻線N3の出力電圧を積分回路32へ入力している点が上記実施形態と異なる。これにより、このスイッチング電源装置は、高電圧入力のスイッチング電源装置では、電源装置の変換効率を改善することができる。また、低入力電圧のスイッチング電源装置では、スイッチング電源装置の出力電圧の制御精度を改善することができる。
【0052】
即ち、直流入力電源10が高電圧の場合、上記実施形態のように入力電圧Vinを積分回路32に直接入力すると、積分回路32に高入力電圧が印加されることとなり、積分回路32内の抵抗11による損失が大きくなる。この抵抗11による損失は、入力電圧Vinの2乗に比例して大きくなる。そこで、この実施形態の電源装置では、トランス18に3次巻線N3を設け、入力電圧Vinと比較して低い電圧にした3次巻線N3の出力電圧を積分回路32へ入力している。このため、入力電圧Vinが高くても、3次巻線N3の出力電圧を低く設定することにより、積分回路32の抵抗11での損失を小さくすることができる。
【0053】
また、低電圧入力のスイッチング電源装置においては、上記実施形態の回路構成とした場合では、入力電圧Vinを積分回路32に直接入力していたため、積分回路32に低電圧が印加されることとなり、積分回路32内のコンデンサ13の電圧Vcの振幅を大きく設定することができない。従って、積分回路32の出力電圧Viも大きく設定することができず、積分回路出力電圧Viとフィードバック制御回路24から出力される出力電圧制御信号電圧Vsをコンパレータ17で比較する際にも、積分回路出力電圧Viおよび出力電圧制御信号電圧Vsが小さいのでコンパレータ17による制御精度が相対的に低くなるものである。また、制御精度を上げるには、コンパレータ17の高精度で高価なものを用いなければならい。
【0054】
これに対して、この実施形態のスイッチング電源装置では、トランス18に3次巻線N3を設け、3次巻線N3の出力電圧を積分回路32へ入力しているので、入力電圧Vinが低い場合、3次巻線N3の出力電圧を高く設定することで、積分回路32へ印加する電圧を高くすることが可能となり、積分回路出力電圧Viや出力電圧制御信号電圧Vsを高く設定することができ、スイッチング電源装置の出力電圧の制御精度を向上させることができる。
【0055】
なお、この発明のスイッチング電源装置は上記実施形態に限定されるものではなく、入力比例電圧発生回路の構成は抵抗の他、適宜の回路を設定することができるものであり、入力電圧に比例した出力が可能な回路であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】この発明の第一実施形態のスイッチング電源装置の概略回路図である。
【図2】この発明の第一実施形態のスイッチング電源装置の入力比例電圧発生回路の例を示す回路図である。
【図3】この発明の第一実施形態のスイッチング電源装置の動作を示すタイミングチャートである。
【図4】この発明の第二実施形態のスイッチング電源装置の概略回路図である。
【図5】従来のフィードフォワード制御のスイッチング電源装置を示す概略回路図である。
【図6】従来のスイッチング電源装置が理想的に制御された場合を示すタイミングチャートである。
【図7】従来のスイッチング電源装置の実際の制御を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0057】
10 直流入力電源
11 抵抗
12,32 積分回路
13 コンデンサ
14 リセット回路
16 スイッチング素子駆動回路
17 コンパレータ
18 トランス
20,21 出力端子
22 同期整流素子駆動回路
23 整流平滑回路
24フィードバック制御回路
25 誤差アンプ
26 基準電圧
30 入力比例電圧発生回路
Q1 スイッチング素子
TR1 フォワード側同期整流素子
TR2 フライホイール側同期整流素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流入力電源にトランスの1次巻線とスイッチング素子が直列に接続され、前記スイッチング素子にスイッチング素子駆動回路が接続され、前記トランスの2次巻線に接続された整流平滑回路の出力電圧を前記スイッチング素子駆動回路へフィードバックするフィードバック制御回路を有し、前記入力電源の電圧信号が積分回路へ入力され、この積分回路の出力電圧と前記フィードバック制御回路からの出力電圧制御信号を前記スイッチング素子駆動回路に入力して比較し、前記スイッチング素子駆動回路のスイッチング素子駆動パルス幅を制御して、前記整流平滑回路の出力を所定の値に制御するフィードフォワード制御を行うスイッチング電源装置において、
前記積分回路の出力電圧は、前記入力電源の電圧信号を積分した電圧に、前記直流入力電源の電圧信号に比例した電圧を発生する入力比例電圧発生回路の電圧を重畳させた値としたことを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項2】
前記入力比例電圧発生回路は、前記積分回路内のコンデンサに直列接続された抵抗素子であることを特徴とする請求項1記載のスイッチング電源装置。
【請求項3】
前記トランスに3次巻線を設け、前記積分回路への入力を前記直流入力電源の電圧信号に代えて、前記3次巻線の出力を前記積分回路に入力したことを特徴とする請求項1または2記載のスイッチング電源装置。
【請求項4】
前記入力比例電圧発生回路により発生する電圧は、前記スイッチング素子駆動回路の応答遅れ時間による前記積分回路の電圧上昇分にほぼ等しいことを特徴とする請求項1,2または3記載のスイッチング電源装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−131721(P2008−131721A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313089(P2006−313089)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000103208)コーセル株式会社 (80)
【Fターム(参考)】