説明

スイッチング電源装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、整流素子の導通時の損失を少なくして電力変換効率を改善したスイッチング電源装置に関する。
【0002】
【従来の技術】交番する電流、電圧を直流変換するための整流素子としては、ダイオードが専ら用いられているが、ダイオードで整流を行うのに際しては、ダイオードに存在する順方向電圧VF と電流の積に相当する損失がダイオードに発生することを念頭に入れておかなければならない。これに対して整流素子の損失をなるべく小さくするという目的からすれば、オン状態にあるトランジスタのコレクタ、エミッタ間の飽和電圧は、ダイオードの順方向電圧VF よりも小さいため、発生する損失が少なくて済むことが知られている。そこで、スイッチング電源装置の電力変換効率を向上させる一手段として、整流素子にダイオードの代わりにトランジスタを使用することが考えられている。このようなトランジスタ整流素子を使用したスイッチング電源装置として、本発明者は特願平4−105807号において、図3に示すようなスイッチング電源装置を提案した。
【0003】図3に示す回路の構成と動作の詳細な説明は省略するが、トランジスタ整流素子としてのトランジスタQ2の動作は以下のようになっていた。すなわち、スイッチングトランジスタQ1がターンオフすると入力端子1、チョークコイルL1、スイッチングトランジスタQ1のコレクタ、エミッタの経路で流れていた電流が遮断される。これにより、チョークコイルL1にフライバック電圧が発生し、スイッチングトランジスタQ1のコレクタの電圧は、入力電圧VINにフライバック電圧が加わった電圧まで上昇する。このフライバック電圧と入力電圧VINが合わさった電圧がトランジスタQ2のエミッタに加わると、トランジスタQ2はエミッタ、ベース間が順バイアスされてオン状態となる。トランジスタQ2がオン状態となることで、前述したフライバック電圧と入力電圧VINが合わさった高い電圧がコンデンサC2を充電し、また出力端子2を介して負荷RLに供給される。
【0004】逆にスイッチングトランジスタQ1がターンオンすると、スイッチングトランジスタQ1のコレクタの電圧及びトランジスタQ2のエミッタの電圧が低くなり、トランジスタQ2はエミッタ、ベース間の順バイアスが解除されてオフ状態となる。このようにトランジスタQ2は、スイッチングトランジスタQ1がターンオフして、その出力であるコレクタの電圧が上昇することによりオン状態となり、逆に下がることによりオフ状態となる。つまり、図3に示す回路においては、スイッチングトランジスタQ1の出力がトランジスタQ2をオン、オフする信号となっていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】整流素子としてダイオードの代わりにトランジスタを使用することで、スイッチング電源装置の電力変換効率を向上させることが可能となるが、トランジスタはダイオードと異なり、オン、オフ制御を行う必要がある。ここで、トランジスタ整流素子にPNP型のトランジスタを使用すれば、トランジスタ整流素子のベースに特別な駆動回路を設けずとも、ベースとアース間に電流路を確保するだけで、スイッチングトランジスタの動作に応じてオン、オフ動作を行わせることができる。そのため回路構成が簡単であり、コストの上昇を抑えつつも高効率のスイッチング電源装置を実現することができた。
【0006】しかしPNP型のトランジスタは、そのPN接合の構造から、エミッタからベースの方向と、コレクタからベースの方向にダイオードを形成しているとも考えられる。そのため、スイッチングトランジスタがオン状態となり、トランジスタ整流素子のエミッタの電圧が低下してトランジスタ整流素子がオフ状態となろうとも、ベースとアース間に電流路を確保しただけの簡単な回路構成では、トランジスタ整流素子のコレクタの電圧がベースよりも高くなることによって、コレクタからベースに向かって漏洩する電流が発生する。この漏洩電流が流れることによりトランジスタ整流素子の損失が増加し、ダイオードを整流素子として使用したスイッチング電源よりは電力変換効率は高くとも、スイッチング電源装置の電力変換効率を低下させる結果となった。従って本発明は、PNP型のトランジスタ整流素子を用いたスイッチング電源装置において、トランジスタ整流素子に発生する損失をさらに減少させることにより、高い電力変換効率を実現したスイッチング電源装置を得ることを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、スイッチング素子がターンオフした時にインダクタンス要素にフライバック電圧を発生させ、フライバック電圧と入力電圧が合成された高い電圧を整流素子により整流し、さらに平滑して所定の直流電圧を得るスイッチング電源装置において、PNP型のバイポーラトランジスタよりなり、インダクタンス要素と出力端子との間に設けられ、整流作用を担うトランジスタ整流素子、NPN型のバイポーラトランジスタよりなり、トランジスタ整流素子のベースとアース等の低電位点との間に接続され、トランジスタ整流素子の動作を制御する駆動用トランジスタトランジスタ整流素子とインダクタンス要素の接続点と駆動用トランジスタのベースとの間に接続され、駆動用トランジスタのベースへオン、オフ制御信号を導くコンデンサ及び、駆動用トランジスタのベースとアース等の低電位点との間に接続され、コンデンサの放電路を形成する回路素子、を具備することを特徴とするスイッチング電源装置である。
【0008】
【実施例】トランジスタ整流素子の発生する損失を減少させることにより高い電力変換効率を実現した、本発明によるスイッチング電源装置の回路図を図1に示した。なお、図1における図3と同一の構成要素には同一の符号を付与してある。図1において、1、2はいずれも高電位側の入力端子と出力端子を示しており、低電位側の入、出力端子はアースと共通とした。入力端子1をチョークコイルL1を介してNPN型のスイッチングトランジスタQ1のコレクタに接続し、スイッチングトランジスタQ1のエミッタをアースと接続する。スイッチングトランジスタQ1のコレクタとトランジスタ整流素子としてのPNP型のトランジスタQ2のエミッタを接続し、トランジスタQ2のコレクタを出力端子2と接続する。入力端子1及び出力端子2とアースの間に、それぞれコンデンサC1及びコンデンサC2を接続し、出力端子2とアースの間には、さらに出力電圧分圧用の抵抗R1と抵抗R2の直列回路を接続する。
【0009】抵抗R1と抵抗R2の接続点を制御回路3の電圧検出端子(FB)に接続し、制御回路3のパルス出力端子(PO)をスイッチングトランジスタQ1のベースと接続する。トランジスタQ2のベースを抵抗R3とコンデンサC3の並列回路を介してNPN型トランジスタによる駆動用トランジスタQ3のコレクタに接続し、駆動用トランジスタQ3のエミッタをアースに接続する。トランジスタQ2のベースをさらにダイオードD2のカソードに接続し、ダイオードD2のアノードをアースに接続する。トランジスタQ2のエミッタと駆動用トランジスタQ3のベースの間に、抵抗R4とコンデンサC4によるR−C直列回路を接続し、駆動用トランジスタQ3のベース、エミッタ(アース)間に、ベースとカソードを接続するようにダイオードD3を接続する。
【0010】以上のような回路の構成は、いわゆるチョップアップ型のスイッチング電源装置を形成しているが、このスイッチング電源装置は特にコンデンサC4の作用により昇降圧型のコンバータとして機能する。この回路の動作を以下に説明する。先ず、必要とする出力電圧VO に対して入力電圧VINが低い場合の回路の動作は、以下のとおりである。制御回路3からの信号によってスイッチングトランジスタQ1がターンオフすると、チョークコイルL1にフライバック電圧が発生する。このフライバック電圧は入力電圧VINに重畳され、重畳されたことによる高い電圧がスイッチングトランジスタQ1のコレクタ、トランジスタQ2のエミッタ、及び抵抗R4とコンデンサC4の直列回路を介して駆動用トランジスタQ3のベースに加わることになる。これにより駆動用トランジスタQ3は、ベース、エミッタ間が正バイアスを受けることになり、ターンオンする。
【0011】駆動用トランジスタQ3がオン状態となることにより、トランジスタQ2もまたエミッタ、ベース間が正バイアスされてオン状態となり、入力電圧VINとフライバック電圧が合わさった高い電圧がコンデンサC2を充電し、そのエネルギーが負荷RLに供給されることになる。やがてスイッチングトランジスタQ1がターンオンすると、スイッチングトランジスタQ1のコレクタ、トランジスタQ2のエミッタの電圧が低下し、同時に駆動用トランジスタQ3のベースの電圧も低下する。これにより駆動用トランジスタQ3はターンオフすることになり、トランジスタQ2は駆動用トランジスタQ3のターンオフによって、エミッタ、ベース間の正バイアス状態が解除されてオフ状態となる。このように、必要とする出力電圧VO に対して入力電圧VINが低い場合には昇圧コンバータとして機能する。
【0012】次に必要とする出力電圧VO に対して入力電圧VINが高い場合の動作は、以下のとおりである。出力電圧VO が高くなれば、制御回路3はスイッチングトランジスタQ1のオン期間を短くすることになるが、スイッチング動作を停止することは無い。従って入力電圧VINが出力電圧VO より高い場合には、スイッチングトランジスタQ1はオン期間が非常に短いスイッチング動作を継続することになる。ここで、コンデンサC4の存在によって、駆動用トランジスタQ3のベースに直流成分の電圧が加わるのが防止されており、スイッチングトランジスタQ1のオン、オフ動作による脈動成分のみが駆動用トランジスタQ3のベースに印加されることになる。そのため、駆動用トランジスタQ3はスイッチングトランジスタQ1がオフ状態の間、そのスイッチング動作(:オンデューティあるいは出力電圧)に応じてトランジスタQ2のベース電流の流量を制御することになる。
【0013】これによりトランジスタQ2は非飽和領域で動作し、シリーズレギュレータに似た動作で出力電圧VO を一定に保つよう機能する。従って、必要とする出力電圧VO に対して入力電圧VINが高い場合には降圧コンバータとして機能し、全体としては昇降圧型のスイッチング電源となる。以上に述べたことから分かるように、図1に示す本発明の実施例では、必要とする出力電圧VO に対して入力電圧VINが低い場合、トランジスタQ2は駆動用トランジスタQ3によって動作が制御され、PNP型トランジスタのPN接合構造に基づく漏洩電流の発生が防止される。その結果、トランジスタQ2(整流素子)に発生する損失を減少させることができ、高い電力変換効率の昇圧型のスイッチング電源装置とすることができる。また、コンデンサC4の作用により昇圧型のスイッチング電源装置を降圧型のスイッチング電源装置として動作させることができ、簡単に、広い入力電圧に対応できる昇降圧型のスイッチング電源とすることができる。
【0014】ここで、トランジスタQ2のベースに接続される抵抗R3とコンデンサC3の並列回路は、トランジスタQ2のベース電流を制限する機能を果たし、トランジスタQ2のベースとアースの間に存在すれば、駆動用トランジスタQ3のコレクタ側でなくエミッタ側に設けても構わない。また、ダイオードD2は、トランジスタQ2がターンオフする時に、ベース領域に蓄積された電荷の放電路を形成するものである。図1に示す回路においては、ダイオードD2のカソードはトランジスタQ2のベースに直接接続しているが駆動用トランジスタQ3のコレクタに接続しても効果は同じであり、駆動用トランジスタQ3のコレクタ、エミッタ間に対して並列の電流路を構成するように設ければ良い。ただし、このダイオードD2は場合によっては回路から除かれることもある。
【0015】図2には、本発明の別の実施例を示した。図2の回路は、図1の回路におけるダイオードD2に代えて、コンデンサC5と抵抗R6の直列回路をトランジスタQ2のベースとアース間に設けている。その他の回路構成は図1の回路と同一である。周知のように、トランジスタ素子のターンオンにはわずかな遅れ時間が存在する。同様に、駆動用トランジスタQ3のターンオンに遅れ時間が存在するため、スイッチングトランジスタQ1がターンオフしてからトランジスタQ2がオン状態となるまでの時間差が大きくなってしまうことになる。この時間差が大きくなると、スイッチングトランジスタQ1のコレクタ、エミッタ間に入力電圧VINとフライバック電圧が合わさった高い電圧が加わるため、スイッチングトランジスタQ1の損失及び電圧負荷が大きくなる。
【0016】そこで、図2に示す回路ではトランジスタQ2のベースに、コンデンサC5と抵抗R6の直列回路を設けた。こうすることにより、トランジスタQ2のエミッタの電圧が上昇した時、駆動用トランジスタQ3がオフ状態であってもごく短い期間だけトランジスタQ2のベースが正バイアスされる。従って、スイッチングトランジスタQ1がターンオフしてからトランジスタQ2がオン状態になるまでの時間差を縮小し、スイッチングトランジスタQ1の損失を少なくしてスイッチング電源装置の電力変換効率を向上させることができる。図2に示す実施例において、コンデンサC5と抵抗R6の直列回路の一端をトランジスタQ2のベースに接続しているが、その一端を駆動用トランジスタQ3のコレクタに接続しても良い。
【0017】
【発明の効果】以上に述べたように本発明によるスイッチング電源装置は、整流素子にPNP型のトランジスタを使用し、そのトランジスタ整流素子は、トランジスタ整流素子とチョークコイルの接続点からコンデンサを介して制御信号を受け取る駆動用トランジスタによって、オン、オフ制御されることを特徴としている。これにより整流素子としてのトランジスタの損失を減少させることができ、高い電力変換効率のスイッチング電源装置を得ることができる。さらに回路構成としては昇圧チョッパ回路と同様でありながらも、容易に高効率の昇降圧型のスイッチング電源装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明によるスイッチング電源装置の実施例の回路図。
【図2】 本発明によるスイッチング電源装置の別の実施例の回路図。
【図3】 特願平4−105807号にて提案したスイッチング電源装置の回路図。
【符号の説明】
1 入力端子
2 出力端子
3 制御回路
Q1 スイッチングトランジスタ
Q2 整流素子としてのトランジスタ
Q3 駆動用トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 スイッチング素子がターンオフした時にインダクタンス要素にフライバック電圧を発生させ、該フライバック電圧と入力電圧が合成された高い電圧を整流素子により整流し、さらに平滑して所定の直流電圧を得るスイッチング電源装置において、PNP型のバイポーラトランジスタよりなり、該インダクタンス要素と出力端子との間に設けられ、整流作用を担うトランジスタ整流素子、NPN型のバイポーラトランジスタよりなり、該トランジスタ整流素子のベースとアース等の低電位点との間に接続され、該トランジスタ整流素子の動作を制御する駆動用トランジスタ該トランジスタ整流素子と前記インダクタンス要素の接続点と該駆動用トランジスタのベースとの間に接続され、該駆動用トランジスタのベースへオン、オフ制御信号を導くコンデンサ及び、該駆動用トランジスタのベースとアース等の低電位点との間に接続され、該コンデンサの放電路を形成する回路素子、を具備することを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項2】 前記回路素子が、アース等の低電位点から前記駆動用トランジスタのベースの方向を順方向としたダイオード素子であることを特徴とする、請求項1に記載したスイッチング電源装置。
【請求項3】 前記トランジスタ整流素子のベースに、抵抗とコンデンサの直列回路もしくはコンデンサによる、前記駆動用トランジスタの主電流路に並列する電流路を設けたことを特徴とする、請求項1あるいは請求項2に記載したスイッチング電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【特許番号】第2767782号
【登録日】平成10年(1998)4月10日
【発行日】平成10年(1998)6月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−307520
【出願日】平成5年(1993)11月12日
【公開番号】特開平7−143739
【公開日】平成7年(1995)6月2日
【審査請求日】平成7年(1995)12月25日
【出願人】(000003089)東光株式会社 (243)
【参考文献】
【文献】特開 平5−284734(JP,A)
【文献】特開 平1−270767(JP,A)
【文献】実開 平5−67190(JP,U)