説明

スクラバーのガスインレット部の構造

【課題】析出物の付着を抑制するスクラバーのガスインレット部の構造を提供する。
【解決手段】スクラバーのガスインレット部10は、環状の外円筒管12と、その内側に同心円状に配され内円筒管14と、さらにその内側に同心円状に配されたインレットデバイス16と、ガス導入本管18で構成されている。インレットデバイス16は上下が開口された筒状体であり、上部開口から処理対象ガスを下方のガス導入本管18に導入するガス流路20を形成している。インレットデバイス16と内円筒管14の間に形成された水流路30はインレットデバイス16の下端部32より下方の位置でガス流路20と連通し、内円筒管14と外円筒管12の間に形成されたアルカリ水溶液流路22は内円筒管14の下端部24より下方の位置でガス流路20と連通している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有害ガスの無害化処理に関し、特に半導体製造過程で排出される有害ガスの無害化処理に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造過程、特にエピタキシャルウェハの製造過程においては、モノシラン、ジシラン、トリクロロシラン等の水素化物系ガスが多用されている。これらの水素化物系ガスは、空気中に放出すると発火する自燃性ガスであるため、使用後に大気放出する前段階においてスクラバーによる無害化処理が行われている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−284631号公報
【特許文献2】特開2001−7034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、水素化物系ガスを無害化する手段として、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液と接触させることで水素化物系ガスを吸収分解させる湿式法が紹介されている。しかし、水素化物系ガスと高濃度のアルカリ水溶液が急速に接触すると、特許文献2に記載されているように析出物が発生し、ガスインレット部の先端に付着することがある。付着した析出物は徐々に堆積していき、最終的にはガス通路の閉塞にまで至ることもある。ガス通路が狭くなるとガス流量が低下するため、スクラバーの処理能力を最大限に発揮させることができなくなる。従って定期的にガスインレット部の分解清掃を行い、付着物を除去する必要があるが、その間はスクラバーの操業が停止するため、稼働率が低下する。何れにせよ析出物の発生に起因する処理能力の低下は従来のスクラバーの構造上の大きな問題であった。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、析出物の付着を抑制するスクラバーのガスインレット部の構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のスクラバーのガスインレット部の構造は、水素化物系ガスを含む処理対象ガスをスクラバーに導入するためのガス流路を形成する第一の環状壁と、前記第一の環状壁との間に水流路を形成する第二の環状壁と、前記第二の環状壁との間にアルカリ水溶液流路を形成する第三の環状壁、を備え、前記水流路が前記第一の環状壁の下端部より下方の位置で前記ガス流路と連通し、前記アルカリ水溶液流路が前記第二の環状壁の下端部より下方の位置で前記ガス流路と連通していることを特徴とする。
【0007】
水流路が第一の環状壁の下端部より下方の位置でガス流路と連通し、アルカリ水溶液流路が第二の環状壁の下端部より下方の位置でガス流路と連通していることから、ガス通路からスクラバーに導入された処理対象ガスは最初に水と接触し、次に水とアルカリ水溶液との混合液と接触する。従って、処理対象ガスはアルカリ水溶液と直に接触するのではなく、濃度が低下した混合液の状態で接触するので、析出物の発生は大幅に抑制される。
【0008】
水流路に水を供給する手段としては、第一の環状壁と第二の環状壁との間に形成された環状の水流路に対して円周方向に水を噴出する水供給ノズルで構成することができる。また、アルカリ水溶液流路にアルカリ水溶液を供給する手段としては、第二の環状壁と第三の環状壁との間に形成された環状のアルカリ水溶液流路に対して円周方向に水を噴出するアルカリ水溶液供給ノズルで構成することができる。
【0009】
水供給ノズルから供給された水は環状の水流路を螺旋状に旋回しながら下降する。旋回下降する水には、第一の環状壁の下端部近傍に付着しやすい析出物を強力に洗い流す作用がある。同様にアルカリ水溶液流路を螺旋状に旋回しながら下降するアルカリ水溶液には、内側を旋回下降する水と協働して析出物の付着や堆積の進行を阻止・抑制する作用がある。
【0010】
第一の環状壁を第二の環状壁の内側に挿入可能な筒状体で構成すれば、第一の環状壁に付着した析出物の除去の際には筒状体を抜き取るだけでよいので、定期清掃作業時の操業停止時間を短縮化することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、処理対象ガスは最初に水と接触し、次に水とアルカリ水溶液との混合液と接触するので、高い濃度のアルカリ水溶液と接触した場合に起きる析出物の発生を大幅に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態のスクラバーのガスインレット部の縦断面図
【図2】図1の2−2断面図
【図3】処理対象ガスと洗浄液の流れを模式的に示したガスインレット部の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について、添付した図面を参照して説明する。図1において、スクラバーのガスインレット部10(以下、ガスインレット部10という。)は、環状の外円筒管12と、その内側に同心円状に配され内円筒管14と、さらにその内側に同心円状に配されたインレットデバイス16と、ガス導入本管18で構成されている。インレットデバイス16は上下が開口された筒状体であり、上部開口から導入された水素化物系ガスを含む処理対象ガスを下方のガス導入本管18に導入するガス流路20を形成している。
【0014】
外円筒管12と内円筒管14の間には環状のアルカリ水溶液流路22が形成されている。アルカリ水溶液流路22は内円筒管14の下端部24より下方の位置でガス流路20に向けて開口している。外円筒管12の下端部26はガス流路20側に傾斜し、外円筒管12より小径のガス導入本管18と連続している。内円筒管14の下端部24は外円筒管12の下端部24より緩やかな傾斜角でガス流路20側に傾斜している。これによりアルカリ水溶液流路22の流路面積はガス流路20の近傍で漸減する。
【0015】
アルカリ水溶液流路22にはアルカリ水溶液を供給するためのノズル28(アルカリ水溶液供給ノズル28)が設けられている。アルカリ水溶液はアルカリ水溶液流路22に対して円周方向かつ水平方向に供給され、環状のアルカリ水溶液流路22を螺旋状に旋回しながら下降する。旋回下降するアルカリ水溶液は流路面積の漸減によりガス流路20の近傍で流速を増した状態でガス流路20に到達する。
【0016】
内円筒管14とインレットデバイス16の間には環状の水流路30が形成されている。水流路30はインレットデバイス16の下端部32より下方の位置でガス流路20に向けて開口している。インレットデバイス16の下端部32は表側と裏側の両方がそれぞれ反対方向に傾斜した先細り形状になっている。下端部32の表側の傾斜角は内円筒管14の下端部24の傾斜角よりさらに緩やかである。これにより水流路30の流路面積はガス流路20の近傍で漸減する。
【0017】
水流路30には水を供給するためのノズル34(水供給ノズル34)が設けられている。水は水流路30に対して円周方向かつ水平方向に供給され、環状の水流路30を螺旋状に旋回しながら下降する。旋回下降する水は流路面積の漸減によりガス流路20の近傍で流速を増した状態でガス流路20に到達する。
【0018】
次にガスインレット部10における処理対処ガスと洗浄液(水およびアルカリ水溶液)の接触のメカニズムについて説明する。図3に示すように、アルカリ水溶液流路22は螺旋状に旋回しながら下降するアルカリ水溶液36で満たされている。また水流路30は螺旋状に旋回しながら下降する水38で満たされている。インレットデバイス16の下端部32より下方の位置ではアルカリ水溶液36と水38との混合が生じるが、アルカリ水溶液36は水38より外側にあるため処理対象ガス40との直接的な接触は水38によって遮断される。従って、インレットデバイス16から導入された処理対象ガスは最初に水38と接触し、次に水38とアルカリ水溶液36との混合液42と接触する。このように処理対象ガスとアルカリ水溶液36は濃度が低下した混合液42の状態で接触するので、析出物の発生は大幅に抑制される。
【符号の説明】
【0019】
10 ガスインレット部
12 外円筒管
14 内円筒管
16 インレットデバイス
18 ガス導入本管
20 ガス流路
22 アルカリ水溶液流路
28 アルカリ水溶液供給ノズル
30 水流路
34 水供給ノズル
36 アルカリ水溶液
38 水
40 処理対象ガス
42 混合液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化物系ガスを含む処理対象ガスをスクラバーに導入するためのガス流路を形成する第一の環状壁と、
前記第一の環状壁との間に水流路を形成する第二の環状壁と、
前記第二の環状壁との間にアルカリ水溶液流路を形成する第三の環状壁を備え、
前記水流路が前記第一の環状壁の下端部より下方の位置で前記ガス流路と連通し、
前記アルカリ水溶液流路が前記第二の環状壁の下端部より下方の位置で前記ガス流路と連通していることを特徴とする、スクラバーのガスインレット部の構造。
【請求項2】
前記水流路に対して円周方向に水を供給する水供給ノズルと、
アルカリ水溶液流路に対して円周方向にアルカリ水溶液を供給するアルカリ水溶液供給ノズルを備えたことを特徴とする、請求項1に記載のスクラバーのガスインレット部の構造。
【請求項3】
前記第一の環状壁が前記第二の環状壁の内側に挿入可能な筒状体で構成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のスクラバーのガスインレット部の構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−91026(P2013−91026A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234443(P2011−234443)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(511164721)エヌ・ティ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】