説明

ステアリングコラムのロック構造

【課題】ステアリングホイールの位置を無断階でロック可能とする。
【解決手段】本ロック構造33は、固定部材としての第1の部材45と、可動部材としての第2の部材46と、締め付け方向F1に第1および第2の部材45,46を互いに押圧するための締め付け機構38と、ピニオン47と、第1の部材45に設けられピニオン47に噛み合う第1ラック48と、ピニオン47と同行回転する回転体49と、第2の部材46に設けられピニオン47を回転可能に支持する支持部としての第2ラック51および軌道形成部53とを有している。第1ラック48は、チルト方向Y1に並ぶラック歯54を含む。軌道形成部53は、締め付け機構38による締め付け時にピニオン47の回転を規制可能な締付時回転規制部としての軌道52を形成する。軌道52に回転体49の外周面55を押し付けて、ピニオン47の回転を規制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングコラムのロック構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリングコラムのロック構造は、ステアリングホイールの位置を調整可能な車両用ステアリング装置において、位置調整後のステアリングホイールの位置をロックするために設けられている。
ロック構造には、車両衝突時のステアリングホイールの跳ね上がりを防止するための、いわゆるポジティブロックタイプがある。このタイプのロック構造は、車体に固定された固定部材に形成されたロック歯と、ステアリングホイールと連動して位置調整される可動部材に形成されたロック歯とを有している。両ロック歯が噛み合うことにより、ステアリングホイールの位置がロックされるようになっている。
【0003】
一方、特許文献1には、衝撃吸収するときのステアリングホイールの突き上げを防止するために、ステアリングコラムに設けたラックと、ステアリングシャフトに設けたラックとを、互いに対向して配置し、これら一対のラックの間にピニオンを介在させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−132836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のポジティブロックタイプでは、固定部材および可動部材に固定された一対のロック歯が互いに噛み合う限られた位置で、ロックが達成される。換言すれば、ステアリングホイールは、段階的に定められた位置でしかロックできない。
そこで、この発明の目的は、ステアリングホイールの位置を無断階でロック可能なステアリングコラムのロック構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、車体側部材(17)に固定された固定部材(45)と、チルト調整またはテレスコピック調整のときに、ステアリングホイール(2)とともに変位する可動部材(46,60)と、操作レバー(37)の回転操作に応じて締め付け方向(F1)に沿って、上記可動部材を上記固定部材に押圧するための締め付け機構(38)と、上記固定部材および上記可動部材の何れか一方に設けられた支持部(51,53,603)と、上記支持部によって回転可能に支持されたピニオン(47)と、上記固定部材および上記可動部材の他方に設けられ上記ピニオンに噛み合うラック(48)とを備え、上記ラックは、上記締め付け方向とは直交する方向(Z1,Y1)に並ぶラック歯(54)を含み、上記支持部は、上記締め付け機構による締め付け時に上記ピニオンの回転を規制可能な締付時回転規制部(52,604)を含むことを特徴とするステアリングコラム(19)のロック構造(33)である。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1において、上記ピニオンと同軸に同行回転可能に設けられた回転体(49)を備え、上記回転体は、円筒面からなる外周面(55)を含み、上記支持部(51,53)は、上記ラックとしての第1ラックと上記ピニオンを挟んで対向し上記ピニオンに噛み合う第2ラック(51)と、上記回転体の上記外周面が転動する上記締付時回転規制部としての軌道(52)を形成した軌道形成部(53)と、を含み、上記締め付け機構による締め付け時に、上記回転体の上記外周面が、上記軌道に押し付けられ、その結果、上記外周面と上記軌道との摩擦力によって、上記ピニオンの回転が規制されるようにしてあることを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1において、上記支持部(603)は、上記ピニオンの支軸(61)を回転可能に支持し、上記ラック側に向かって拡がるV字形をなす支持溝 (603)を含み、上記締め付け機構による締め付け時に、上記支軸の外周面(62)が、上記支持溝の上記締付時回転規制部としての内面(604)に押し付けられ、その結果、上記支軸の上記外周面と上記支持溝の上記内面との摩擦力によって、上記ピニオンの回転が規制されるようにしてあることを特徴とする。
【0009】
なお、上記括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素の参照符号を示すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、締め付け機構による締め付けが解除されたときには、ピニオンが回転できるので、ピニオンをラックの所望の位置に噛み合わせることができる。一方、締め付け機構による締め付け時には、ピニオンの回転が規制されるので、ピニオンをラックの所望の位置に規制できる。従って、ステアリングホイールの位置を無断階でロックすることができる。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、締め付け機構による締め付け時に、軌道と、この軌道に押し付けられた回転体の外周面との間に、摩擦力が発生する。従って、締め付け力に応じた高い摩擦力を発生させることができる。
請求項3記載の発明によれば、締め付け機構による締め付け時には、支持溝の内面と支軸の外周面との摩擦力により、ピニオンの回転を規制できる。また、支持溝はV字形なので、その楔作用により、締め付け時の支持溝の内面と支軸の外周面との摩擦力が大きくなる。その結果、支軸の回転を、ひいてはピニオンの回転をより一層確実に規制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態のステアリングコラムのロック構造が適用されたステアリング装置の概略構成の模式図である。
【図2】図1のII−II断面の断面図である。
【図3】図2のロック構造の分解斜視図である。
【図4】図2のロック構造の要部のロック解除状態の下面図である。
【図5】図2のロック構造の要部のロック状態の下面図である。
【図6】図4のVI−VI断面のロック構造の断面図であり、ステアリングホイールが位置調整範囲の中央位置にある状態を示す。
【図7】ロック構造の断面図であり、ステアリングホイールが位置調整範囲の上端位置にある状態を図6と同じ断面で示す。
【図8】本発明の第2の実施形態のロック構造の要部の後面図であり、ロック解除状態を示す。
【図9】図8に示すロック構造がロック状態になったときの後面図である。
【図10】図8のロック構造の要部の下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、この発明の一実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。本実施形態では、ステアリングコラムのロック構造が、マニュアル操舵のステアリング装置に適用された場合に則して説明するが、操舵補助力を得られるパワーステアリング装置に適用されてもよい。
図1は、本発明の第1の実施形態のステアリングコラムのロック構造が適用されたステアリング装置1の概略構成の模式図である。図1を参照して、ステアリング装置1は、ステアリングホイール2に連結しているステアリングシャフト3と、ステアリングシャフト3に自在継手4を介して連結された中間軸5と、中間軸5に自在継手6を介して連結されたピニオン軸7と、ピニオン軸7の端部近傍に設けられたピニオン8に噛み合うラック9を有して自動車の左右方向(図1の紙面垂直方向に相当)に延びる転舵軸としてのラック軸10とを有している。
【0014】
ピニオン軸7およびラック軸10によりラックアンドピニオン機構によって、ステアリングギヤ11が構成されている。ラック軸10は、車体に固定されるラックハウジング13内に図示しない複数の軸受を介して直線往復可能に支持されている。ラック軸10には、図示しないが、一対のタイロッドが結合されている。各タイロッドは対応するナックルアームを介して対応する転舵輪に連結されている。
【0015】
ステアリングホイール2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、この回転がピニオン8およびラック9によって、自動車の左右方向に沿ってのラック軸10の直線運動に変換される。これにより、転舵輪の転舵が達成される。
ステアリングシャフト3は、例えばスプライン結合を用いて、同行回転可能に且つ当該ステアリングシャフト3の軸方向A1(以下、単に軸方向A1ともいう。)に相対移動可能に互いに連結されたアッパーシャフト15およびロアーシャフト16を有している。
【0016】
ステアリングホイール2が上側となるように、ステアリングシャフト3の中心軸線が車両の前後方向X1に対して斜めに配置されている。この状態で、ステアリングシャフト3は、車体側部材17,18に固定されたステアリングコラム19によって、図示しない軸受を介して回転可能に支持されている。ここで、車体側部材17,18は、車体の一部であってもよいし、この車体の一部に固定された部材であってもよい。
【0017】
ステアリング装置1は、後述するチルト中心軸32の回りにステアリングコラム19を揺動させることによりステアリングホイール2の高さ位置をチルト方向Y1に調整(チルト調整)するためのチルト調整機能と、テレスコピック方向Z1にステアリングホイール2の前後位置を調整(テレスコピック調整)するためのテレスコピック調整機能とを有している。
【0018】
ここで、チルト方向Y1は、ステアリングシャフト3の軸方向A1および後述する締め付け方向F1の双方に直交する方向であり、チルト中心軸32の中心軸線を中心とする円弧の接線方向に相当する。また、テレスコピック方向Z1は、軸方向A1に一致した方向か、またはこの方向に平行な方向である。
ステアリングコラム19は、軸方向A1に相対移動可能に互いに嵌め合わされた筒状のアッパージャケット20および筒状のロアージャケット21を有している。軸方向A1に関するアッパージャケット20の下端部の内周に、軸方向A1に関するロアージャケット21の上端部の外周が嵌合している。また、アッパージャケット20およびロアージャケット21は、軸方向A1に相対摺動可能とされている。これにより、ステアリングコラム19を伸縮させて、ステアリングホイール2をテレスコピック調整することができる。
【0019】
アッパージャケット20は、アッパーシャフト15の一部を収容するとともに、軸方向A1に関するアッパーシャフト15とアッパージャケット20との相対移動を規制した状態で、アッパーシャフト15を回転可能に支持している。
ロアージャケット21は、ロアーシャフト16の一部を収容するとともに、軸方向A1に関するロアーシャフト16とロアージャケット21との相対移動を規制した状態で、ロアーシャフト16を回転可能に支持している。
【0020】
ステアリング装置1は、ステアリングコラム19のアッパージャケット20を車体に支持する上部支持部26と、チルト中心軸32を含みステアリングコラム19のロアージャケット21をチルト調整可能に車体に支持する下部支持部27と、を有している。
下部支持部27は、車体側部材18に固定状態で支持された下部固定ブラケット30と、下部固定ブラケット30に支持されたチルト中心軸32と、チルト中心軸32を介して下部固定ブラケット30に支持された下部可動ブラケット31とを有している。下部可動ブラケット31は、ロアージャケット21を支持している。チルト中心軸32は、当該チルト中心軸32の軸線の回りに下部固定ブラケット30と下部可動ブラケット31とを相対回転可能に連結する。また、下部支持部27は、軸方向A1に関するロアージャケット21の軸方向移動を規制した状態でロアージャケット21を支持している。
【0021】
図2は、図1のII−II断面の断面図である。図1と図2を参照して、上部支持部26は、車体側部材17に固定された上部固定ブラケット35と、チルト調整またはテレスコピック調整のときにステアリングホイール2とともに変位する上部可動ブラケット36とを有している。また、上部支持部26は、チルト調整およびテレスコピック調整されたアッパージャケット20の位置を車体に対して解除可能にロックするロック構造33を有している。このロック構造33は、あとで詳しく説明するが、操作レバー37の回転操作に応じて上部固定ブラケット35および上部可動ブラケット36の相対変位を規制するための締め付け機構38を有している。
【0022】
締め付け機構38は、車体の左右方向に延びる締め付け軸としての支軸41と、操作レバー37と、カム機構42とを含んでいる。カム機構42は、互いに係合するカム43とカムフォロワ44とを有している。締め付け方向F1は、支軸41の軸方向A2に平行である。
図3は、図2のロック構造33の分解斜視図である。図2および図3を参照して、上部固定ブラケット35は、支軸41の軸方向A2に相対向する一対の側板351,352と、一対の側板351,352の端部同士をつなぐ板状の接続板353と、車体に固定するために側板351,352の上端部から車体の幅方向に延びる板状の一対の取付部354とを有している。
【0023】
上部固定ブラケット35の各側板351,352には、支軸41が挿通される挿通孔355,356がそれぞれ形成されている。各挿通孔355,356は、ステアリングシャフト3の軸方向A1に互いに対向した一対の縁部を有している。これらの一対の縁部は、チルト調整時に支軸41をチルト方向Y1に案内するために、チルト方向Y1に略真っ直ぐに延びているが、チルト中心軸32の中心軸線を中心とする円弧形形状に形成されていてもよい。
【0024】
上部可動ブラケット36は、アッパージャケット20の軸方向下部に固定され支軸41の軸方向A2に相対向する一対の側板361,362と、一対の側板361,362の端縁を互いに接続する接続板363とを有している。各側板361,362には、支軸41が挿通される挿通孔365,366がそれぞれ形成されている。各挿通孔365,366は、上下方向に相対向する一対の縁部を有している。これら一対の縁部は、テレスコピック調整するときに支軸41を案内するために、テレスコピック方向Z1に略真っ直ぐに延びている。
【0025】
上部可動ブラケット36の一方の側板361の外側面は、上部固定ブラケット35の一方の側板351の対応する内側面に当接している。一方で、上部可動ブラケット36の他方の側板362の外側面は、上部固定ブラケット35の他方の側板352の対応する内側面とは離隔して対向している。
上部固定ブラケット35と上部可動ブラケット36とは、締め付け機構38を介して互いに位置調整可能に連結されている。すなわち、上部固定ブラケット35と可動ブラケット36とは、ロック状態では、互いに相対移動不能に連結されており、一方で、ロック解除状態では、チルト方向Y1およびテレスコピック方向Z1について互いに相対移動できるようになっている。ロック状態は、ロック構造33により達成される。
【0026】
ロック構造33は、チルト調整用の部分331と、テレスコピック調整用の部分332とを有している。これらの両部分331,332は、互いに一部同士が共用されるとともに、互いに同様の機能を有している。以下、チルト調整用の部分331に則して説明する。テレスコピック調整用の部分332については、チルト調整用の部分331との相違点を中心に説明する。また、上述の両部分331,332の同じ機能を有する構成には、同じ符号を付し、テレスコピック調整用の部分332についての説明を省略する。
【0027】
ロック構造33は、チルト調整用の部分331として、車体側部材17に固定された固定部材としての第1の部材45と、チルト調整のときにステアリングホイール2とともに変位する可動部材としての第2の部材46と、操作レバー37の回転操作に応じて締め付け方向F1に沿って上述の可動部材を上述の固定部材に押圧するための上述の締め付け機構38と、第1および第2の部材45,46の間に介在する一対のピニオン47と、一対のピニオン47と噛み合う第1ラック48と、各ピニオン47と同軸に同行回転可能に設けられた一対の回転体49と、第1ラック48と対向し一対のピニオン47と噛み合う第2ラック51と、回転体49が転動可能な軌道52と、軌道52を形成する軌道形成部53とを有している。
【0028】
ピニオン47、回転体49、第1ラック48、第2ラック51、および軌道形成部53は、金属により形成されているが、これらのうちの少なくともひとつを、金属に代えて樹脂材料により形成してもよい。
支軸41は、六角ボルトと略同様の形状に形成されている。支軸41は、軸方向A2の一方の端部に設けられた太径部としての頭部411と、中間部に設けられた細径部としての軸部412とを有している。軸部412の端部に雄ねじが形成されている。この雄ねじに、操作レバー37に設けられた雌ねじ部材371がねじ嵌合されている。支軸41と操作レバー37とは、支軸41の中心軸線の周りに互いに同行回転できるとともに、支軸41の軸方向A2に同行移動できるように、互いに連結されている。
【0029】
支軸41の頭部411と操作レバー37との間に、カム43と、カムフォロワ44と、ロック構造33のチルト調整用の第2の部材46と、チルト調整用のピニオン47、チルト調整用の第1の部材45と、上部固定ブラケット35の側板352と、ロック構造33のテレスコピック調整用の第2の部材46と、テレスコピック調整用のピニオン47、テレスコピック調整用の第1の部材45と、上部可動ブラケット36の一対の側板362,361と、上部固定ブラケット35の側板351とが、この記載の順に、支軸41の軸方向A2に沿って並んでいる。
【0030】
チルト調整するときには、ステアリングホイール2、ステアリングシャフト3、アッパージャケット20、上部可動ブラケット36、締め付け機構38、および可動部材としての第2の部材46が一体的に、上部固定ブラケット35および固定部材としての第1の部材45に対してチルト方向Y1に移動可能とされている。
カム機構42は、支軸41の軸方向A2に位置規制されつつ操作レバー37と同行回転するカム43と、このカム43と係合するカムフォロワ44とを有する。カム43は上部固定ブラケット35の側板352に対して支軸41の軸線回りに相対回転可能とされている。カムフォロワ44は上部固定ブラケット35の側板352に対して支軸41の軸線回りに相対回転を規制されている。カムフォロワ44は、カム43に接触しながら、支軸41の軸線回りにカム43に対して回転することにより、支軸41の軸方向A2に変位するようになっている。
【0031】
カム機構42により、ロック状態では、支軸41の頭部411とカムフォロワ44とが、軸方向A2に関して相対的に近接し、上部固定ブラケット35の対応する側板351,352を押圧する。ロック解除状態では、支軸41の頭部411とカムフォロワ44とが、軸方向A2に関して相対的に遠ざかり、上部固定ブラケット35の対応する側板351,352への押圧を解除する。
【0032】
締め付け機構38は、ピニオン47および回転体49を介して可動部材としての第2の部材46を、固定部材としての第1の部材45に押圧するようになっている。
固定部材としての第1の部材45は、上部固定ブラケット35とは別体で形成され、上部固定ブラケット35に固定されており、上部固定ブラケット35を介して車体側部材17に固定されている。なお、第1の部材45と上部固定ブラケット35とを、単一の材料により一体に形成してもよい。
【0033】
第1の部材45は、上述の第1ラック48を有している。第1の部材45は、板状をなし、その一方の面に、第1ラック48が配置されている。
第2の部材46は、ピニオン47を回転可能に支持する支持部としての上述の第2ラック51と、上述の支持部としての上述の軌道形成部53とを有している。第2ラック51と、軌道形成部53とは、単一の材料により一体に形成されているが、互いに別体で形成し、互いに固定されてもよい。
【0034】
第2の部材46は、カムフォロワ44とは別体で形成されて、これに固定されており、これと一体的に移動できるようになっている。なお、第2の部材46とカムフォロワ46とは、単一の材料により一体に形成されてもよい。
第1の部材45と第2の部材46とは、締め付け方向F1に互いに対向している。また、第1ラック48と第2ラック51とは、締め付け方向F1(支軸41の軸方向A2でもよい。)に互いに対向して配置されている。第1および第2ラック48,51の間に、一対のピニオン47が配置されている。一対のピニオン47は、第1および第2ラック48,51にともに噛み合っている。第2ラック51は、第1ラック48との間に、一対のピニオン47を回転可能に支持している。
【0035】
第1および第2ラック48,51はそれぞれ、締め付け方向F1とは直交する方向としてのチルト方向Y1に並ぶ複数のラック歯54を含んでいる。
第1ラック48は、支軸41が挿通する挿通孔482を有している。この挿通孔482は、上部固定ブラケット35の側板352の挿通孔356と平行に延びている。第1ラック48の複数のラック歯54は、チルト方向Y1に平行な歯整列方向に等間隔で並んでいる。第1ラック48は、挿通孔482を挟み、且つ歯整列方向に直交する方向としての軸方向A1の両側に配置された一対の部分を有している。これら一対の部分は、互いに同じに構成されており、それぞれ、複数のラック歯54を有している。
【0036】
第2ラック51は、支軸41が挿通する挿通孔512を有している。第2ラック51の複数のラック歯54は、チルト方向Y1に平行な歯整列方向に等間隔で並んでいる。第2ラック51は、挿通孔512を挟み、且つ歯整列方向に直交する方向としての軸方向A1の両側に配置された一対の部分を有している。これら一対の部分は、互いに同じに構成されており、それぞれ、複数のラック歯54を有している。
【0037】
ピニオン47は、チルト調整のときの可動部材としての第2の部材46に設けられた支持部としての第2ラック51および軌道形成部53によって、回転可能に支持されている。ピニオン47は、上述の第2ラック51と噛み合うとともに、チルト調整のときの固定部材としての第1の部材45に設けられた第1ラック48に噛み合っている。
ピニオン47および回転体49のそれぞれは、一対で設けられているが、それぞれについて少なくともひとつがあればよい。本実施形態では、一対の場合に則して説明する。また、ピニオン47と回転体49とは、同行回転するように、互いに固定されている。ピニオン47と回転体49とは、、例えば単一の材料により一体に形成されていてもよいし、ピニオン47と回転体49とを、互いに別体に形成し、互いに固定してもよい。
【0038】
一対のピニオン47は、チルト方向Y1に並んでおり、支軸41を挟んだ両側に配置されている。一対のピニオン47は、互いに同じに構成されている。各ピニオン47は、平歯車からなる。各ピニオン47の中心軸線は、チルト方向Y1に直交し且つ締め付け方向F1に直交している。各ピニオン47の外周は、複数のギヤ歯を有している。各ピニオン47は、第1ラック48の上述の一対の部分のラック歯54に共に噛み合っており、これとともに、第2ラック51の上述の一対の部分のラック歯54に共に噛み合っている。これにより、締め付け機構38を安定して動作させることができる。
【0039】
図4は、図2のロック構造33の要部のロック解除状態の下面図である。図5は、図2のロック構造33の要部のロック状態の下面図である。図6は、図4のVI−VI断面のロック構造33の断面図であり、ステアリングホイール2が位置調整範囲の中央位置にある状態を示す。図7は、ロック構造33の断面図であり、ステアリングホイール2が位置調整範囲の上端位置にある状態を図6と同じ断面で示す。
【0040】
図3および図4を参照して、回転体49は、円筒面からなる外周面55を含んでいる。回転体49の外周面55は、ピニオン47の外周よりも大径に形成されている。回転体49は、ピニオン47の軸方向に、ピニオン47とは隣接し、ピニオン47よりも上方に配置されている。これにより、回転体49の側面が、第1および第2ラック48,51の少なくとも一方の縁部に上方から当接して係合できるので、回転体49はピニオン47の抜け止めとして機能する。
【0041】
図5および図6を参照して、軌道52は、平面をなしており、チルト方向Y1に平行とされるとともに、締め付け方向F1に直交している。軌道52と第2ラック51のピッチ面との距離L1は、回転体49の外周面55とピニオン47のピッチ円との径方向の距離L2と等しいか、この距離L2よりも、小さくされている(L1≦L2)。
図2および図5を参照して、軌道52は、締め付け機構38による締め付け時にピニオン47の回転を規制可能な締付時回転規制部として機能する。すなわち、締め付け機構38による締め付け時に、回転体49の外周面55が、軌道52に当接し、軌道52に回転体49の径方向に押し付けられる。その結果、外周面55と軌道52との摩擦力によって、回転体49およびピニオン47の回転が規制されるようにしてある。このとき、第1ラック48とピニオン47とは、互いのバックラッシュがない状態で、互いに噛み合っている。第2ラック51とピニオン47とは、互いのバックラッシュがない状態かまたはわずかな状態で、互いに噛み合っている。
【0042】
軌道52と回転体49とを互いに押圧することによりステアリングコラム19をロックするための保持力Fを確保するためには、ピニオン47のピッチ円直径D1と回転体49の外周面55の外径D2との比(D1/D2)は、小さく設定するのが、好ましい。例えば、回転体49の外周面55と軌道52との間の摩擦係数μが0.15(金属接触の標準的な値)のときには、比(D1/D2)は、2.5分の1より小さく設定するのが、好ましい。
【0043】
また、上述の保持力Fは、軸方向A2の締め付け力T、摩擦係数μ、回転体49の外径D2、ピニオン47のピッチ円直径D1としたときに、次式:F=T×μ×D2/D1、により得ることができる。保持力Fの目標値として2KNを得るには、D2=20mm、D1=8mm、摩擦係数μ=0.15のときに、T=5340Nとなる。
図2および図4を参照して、締め付け機構38による締め付けが解除されたときには、軌道52への回転体49の押圧が解除される。これにより、回転体49が軌道52を転動できるようになるとともに、ピニオン47の回転が許容される。このとき、第1ラック48とピニオン47とが、互いの間のバックラッシュが大きな状態で、互いに噛み合っている。これとともに、第2ラック51とピニオン47とが、互いの間のバックラッシュが大きな状態で、互いに噛み合っている。従って、チルト調整に伴う第1および第2ラック48,51の相対移動に伴って、ピニオン47は、第1および第2ラック48,51と噛み合った状態で、スムーズに回転することができる。
【0044】
このように、第1および第2ラック48,51と、ピニオン47とは、常に噛み合っているので、ロックしようとするときに、歯先同士が互いに対向して当接するハーフロック状態が発生する虞はない。
図6および図7を参照して、第1ラック48に対して、第2ラック51がチルト方向Y1に沿って相対移動するときに、第1および第2ラック48,51の相対移動量の半分の移動量で、ピニオン47と第1ラック48とが相対移動する。上側のピニオン47は、第1および第2ラック48,51の中央部と上端部との間で噛み合い、下側のピニオン47は、第1および第2ラック48,51の中央部と下端部との間で噛み合っている。
【0045】
図2および図3を参照して、ロック構造33は、テレスコピック調整用の部分332として、第1の部材45と、第2の部材46と、締め付け機構38と、一対のピニオン47と、第1ラック48と、一対の回転体49と、第2ラック51と、回転体49が転動可能な軌道52と、軌道形成部53とを有している。
テレスコピック調整用の部分332について、第2の部材46は、上述の固定部材と同様に機能し、テレスコピック調整のときにステアリングホイール2に対する変位を規制され、上部固定ブラケット35に接している。また、第1の部材45は、テレスコピック調整のときに、ステアリングホイール2とともに変位する可動部材として機能し、上部可動ブラケット36に固定されている。なお、第2の部材46が可動部材として機能し、且つ第1の部材45が固定部材と同様に機能するように、第1の部材45と第2の部材46との配置を互いに入れ換えてもよい。
【0046】
また、上述のチルト調整用の部分331においてチルト方向Y1に関して規定された構成は、テレスコピック調整用の部分332においては、テレスコピック方向Z1に関して同様に規定される。
図1と図3を参照して、以上説明したように、本実施形態では、ロック構造33の締め付け機構38が、可動部材としての第2の部材46を固定部材としての第1の部材45にピニオン47を介して押圧するようにされる。これとともに、第2の部材46の支持部としての軌道形成部53が、締め付け機構38による締め付け時にピニオン47の回転を規制可能な締付時回転規制部としての軌道52を含んでいる。
【0047】
これにより、締め付け機構38による締め付けが解除されたときには、ピニオン47が回転できるので、ピニオン47をラック48の所望の位置に噛み合わせることができる。一方、締め付け機構38による締め付け時には、ピニオン47の回転が規制されるので、ピニオン47を第1ラック48の所望の位置に規制できる。従って、ステアリングホイール2の位置を無断階でロックすることができる。
【0048】
また、車両が衝突したときには、ステアリングホイール2が、車両前方に向けて移動しつつ、ドライバーに対向する状態を確実に維持できる。従って、エアバッグ等の衝撃吸収装置を効果的に動作させることができる。
また、支持部は、第1ラック48とピニオン47を挟んで対向しこのピニオン47に噛み合う第2ラック51と、回転体49の外周面55が転動する締付時回転規制部としての軌道52を形成した軌道形成部53と、を含んでいる。締め付け機構38による締め付け時に、回転体49の外周面55が、軌道52に押し付けられ、その結果、外周面55と軌道52との摩擦力によって、ピニオン47の回転が規制されるようにしてある。締め付け機構38による締め付け時に、軌道52と、この軌道52に押し付けられた回転体49の外周面55との間に、摩擦力が発生する。従って、締め付け力に応じた高い摩擦力を発生させることができる。
【0049】
また、本実施形態について、以下のような変形例を考えることができる。以下の説明では、上述の実施形態と異なる点を中心に説明する。他の構成については、上述の実施形態と同様である。
例えば、図8は、本発明の第2の実施形態のロック構造33の要部の後面図であり、ロック解除状態を示す。図9は、図8に示すロック構造33のロック状態の後面図である。図10は、図8のロック構造33の要部の下面図である。
【0050】
図8の第2の実施形態のロック構造33の可動部材としての第2の部材60は、図6の第1の実施形態の可動部材としての第2の部材46に代えて用いられており、これとは、以下の点で異なり、他の構成については同じとされている。また、図8の本実施形態では、ピニオン47には支軸61が設けられている。また、本実施形態では、第1ラック48を単にラック48ともいう。また、図3の回転体49と軌道形成部53とは、廃止されている。
【0051】
図8および図10を参照して、ピニオン47には、同行回転する一対の支軸61が固定されている。一対の支軸61は、ピニオン47と同心に配置されており、ピニオン47の軸方向に沿って両側に突出して延びている。各支軸61は、円筒面により形成された外周面62を有している。
第2の部材60は、断面溝形をなしており、溝内にピニオン47を配置している。第2の部材60は、底板としてのウェブ601と、ウェブ601の両端から互いに同側に延設された一対の側板602とを有している。各側板602は、ピニオン47に設けられた支軸61を受ける支持部としての支持溝603を有している。支持溝603は、一対のピニオン47の両側の支軸61に対応して、4箇所に配置されている。
【0052】
各支持溝603は、対応する支軸61を回転可能に支持し、ラック48側に向かって拡がるV字形をなしている。各支持溝603は、内面として、支軸61の外周面62に当接し支軸61を挟んで互いに対向する一対の当接面604を含んでいる。これら一対の当接面604が、上述のV字形をなしており、上述の締付時回転規制部として機能する。支持溝603に支軸61を介して受けられた一対のピニオン47は、互いに平行に配置されている。
【0053】
図8を参照して、ロック解除状態では、各支持溝603内で、支軸61は移動可能とされ、各支持溝603の一対の当接面604の何れか一方が、支軸61の外周面62に当接している。このとき、ピニオン47とラック48との間のバックラッシュは十分な量で確保されている。従って、ピニオン47は、ラック48に噛み合いつつスムーズに回転することができる。
【0054】
図9を参照して、ロック状態では、各支持溝603の一対の当接面604が、支軸61の外周面62にともに当接して外周面62を押圧している。これとともに、ピニオン47がラック48に押圧されており、ピニオン47とラック48との間のバックラッシュは無くされている。
以上説明したように、本実施形態では、ロック構造33の締め付け機構38が、可動部材としての第2の部材60を固定部材としての第1の部材45にピニオン47を介して押圧するようにされる。これとともに、第2の部材60の支持部としての支持溝603が、締め付け機構38による締め付け時にピニオン47の回転を規制可能な締付時回転規制部としての当接部604を含んでいる。
【0055】
これにより、締め付け機構38による締め付けが解除されたときには、ピニオン47が回転できるので、ピニオン47をラック48の所望の位置に噛み合わせることができる。一方、締め付け機構38による締め付け時には、ピニオン47の回転が規制されるので、ピニオン47をラック48の所望の位置に規制できる。従って、ステアリングホイール2の位置を無断階でロックすることができる。
【0056】
また、締め付け機構38による締め付け時に、支軸61の外周面62が、支持溝603の締付時回転規制部としての当接部604に押し付けられ、その結果、支軸61の外周面62と支持溝603の内面としての当接部604との摩擦力によって、ピニオン47の回転が規制されるようにしてある。
これにより、締め付け機構38による締め付け時には、支持溝603の当接部604と支軸61の外周面62との摩擦力により、ピニオン47の回転を規制できる。また、支持溝603はV字形なので、その楔作用により、締め付け時の支持溝603の当接部604と支軸61の外周面62との摩擦力が大きくなる。その結果、支軸61の回転を、ひいてはピニオン47の回転をより一層確実に規制できる。
【0057】
なお、第1の実施形態において、第1の部材45が可動部材として機能し、且つ第2の部材46が固定部材として機能するように、第1の部材45と第2の部材46との配置が、支軸41の軸方向A2に関して逆にされてもよい。
また、第2の実施形態において、第1の部材45が可動部材として機能し、且つ第2の部材60が固定部材として機能するように、第1の部材45と第2の部材60との配置が、支軸41の軸方向A2に関して逆にされてもよい。
【0058】
また、チルト調整機能およびテレスコピック調整機能のいずれか一方が廃止される場合も考えられる。例えば、テレスコピック調整機能が廃止される場合には、上部固定ブラケット35と上部可動ブラケット36の一対の側板同士を互いに接するようにする。また、チルト調整機能が廃止される場合には、カムフォロワ44を上部固定ブラケット35の側板に接するようにしてもよい。この場合、上述の実施形態のロック構造33のテレスコピック調整用の部分332の第2の部材46は、固定部材として機能する。
【0059】
このように、ロック構造33は、チルト調整またはテレスコピック調整のときの固定部材および可動部材の何れか一方としての第2の部材46,60に設けられた支持部と、支持部46によって回転可能に支持されたピニオン47と、固定部材および可動部材の他方としての第1の部材45に設けられピニオン47に噛み合うラック48とを備えていればよい。
【0060】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0061】
2…ステアリングホイール、17,18…車体側部材、19…ステアリングコラム、33…ロック構造、37…操作レバー、38…締め付け機構、45…第1の部材(固定部材)、46,60…第2の部材(可動部材)、47…ピニオン、48…第1ラック(ラック)、49…回転体、51…第2ラック(支持部)、52…軌道(締付時回転規制部)、53…軌道形成部(支持部)、54…ラック歯、55…回転体の外周面、61…支軸、62…支軸の外周面、603…支持溝(支持部)、604…当接面(支持溝の内面,締付時回転規制部)、F1…締め付け方向、Y1…チルト方向(締め付け方向とは直交する方向)、Z1…テレスコピック方向(締め付け方向とは直交する方向)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側部材に固定された固定部材と、
チルト調整またはテレスコピック調整のときに、ステアリングホイールとともに変位する可動部材と、
操作レバーの回転操作に応じて締め付け方向に沿って、上記可動部材を上記固定部材に押圧するための締め付け機構と、
上記固定部材および上記可動部材の何れか一方に設けられた支持部と、
上記支持部によって回転可能に支持されたピニオンと、
上記固定部材および上記可動部材の他方に設けられ上記ピニオンに噛み合うラックとを備え、
上記ラックは、上記締め付け方向とは直交する方向に並ぶラック歯を含み、
上記支持部は、上記締め付け機構による締め付け時に上記ピニオンの回転を規制可能な締付時回転規制部を含むことを特徴とするステアリングコラムのロック構造。
【請求項2】
請求項1において、
上記ピニオンと同軸に同行回転可能に設けられた回転体を備え、上記回転体は、円筒面からなる外周面を含み、
上記支持部は、上記ラックとしての第1ラックと上記ピニオンを挟んで対向し上記ピニオンに噛み合う第2ラックと、上記回転体の上記外周面が転動する上記締付時回転規制部としての軌道を形成した軌道形成部と、を含み、
上記締め付け機構による締め付け時に、上記回転体の上記外周面が、上記軌道に押し付けられ、その結果、上記外周面と上記軌道との摩擦力によって、上記ピニオンの回転が規制されるようにしてあることを特徴とするステアリングコラムのロック構造。
【請求項3】
請求項1において、
上記支持部は、上記ピニオンの支軸を回転可能に支持し、上記ラック側に向かって拡がるV字形をなす支持溝を含み、
上記締め付け機構による締め付け時に、上記支軸の外周面が、上記支持溝の上記締付時回転規制部としての内面に押し付けられ、その結果、上記支軸の上記外周面と上記支持溝の上記内面との摩擦力によって、上記ピニオンの回転が規制されるようにしてあることを特徴とするステアリングコラムのロック構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−254026(P2010−254026A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104058(P2009−104058)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000112082)ヒルタ工業株式会社 (37)
【Fターム(参考)】